はじめに

『絶句類選評本』は、唐代から清代にわたる七言絶句の名詩三千首を、２１の類に分けて編集し、欄外に簡単な批評文を添えた書である。

 

　はじめ、津藩の儒者・津阪東陽（名は孝綽。1744-1825）が、類別の書「絶句類選」を編集した。序文によれば、文政７（1824）年に完成したらしいが、生前には刊行に至らなかったようである。子息の津阪有功らの手によって刊行されたのは、その死から３年後の文政１１（1828）年のことであった。

　その後、同じ津藩の儒者・斎藤拙堂（名は正謙。1797-1865）が、この「絶句類選」中の主な詩に批評を書き加えた。この批評文を加えた書は、「絶句類選評本」として文久２（1862）年に刊行された。

　２１の分類は

節序（季節）、禁省（宮中へのつとめ）、宴会、閑適、尋訪（人を訪ねて）、遊覧、贈答（詩のやりとり）、送別、客旅（旅にあって）、感慨、悼傷（人の死をいたむ）、　仙釈（道教や仏教）、憑弔（昔をしのぶ）、征戊（国境守備）、宮掖（奥御殿）、閨閤（妻の思い）、歌曲、詠古（歴史をうたう）、農桑（農家のくらし）、 図画（絵画にちなんで）、詠物（身のまわり）

となっている。

（以上、ブログhttps://userweb.pep.ne.jp/c6v00030/r006.htmlから引用、詳細はこのブログ参照）

 

　上記ブログにあるように、江戸時代には初心者用の漢詩製作の手本として用いられ、賴山陽も愛読したようである。

　その他、一般的に知られていない「元詩～明詩」に亘る多くの詩を，同じ分類に｢唐詩｣｢宋詩｣と並べて採録したところに特徴がある。

　明治十四年に小型本として翻刻されているが、非常に字が細かく実用に耐えるかどうか疑問である。その後、一九七八年に復刻されているが、原本を写真に撮って印刷したものであり、訓点、送り仮名が不鮮明であるという問題があった。

　このたび、「人文学オープンデータ共同利用センター」から、原本の鮮明な写真画像が公開されているのを見つけ、ＰＤＦ化し、｢捜韻｣を利用して翻刻して電子データとすると共に、簡単な語釈を付け加えた。

 

　三千首というと「過ぎたるは、なお、及ばざるが如し」の感じを受けるが、幸いに電子データは場所を取らないし索引が可能であるから、ダウンロードして、今後の研究に使用していただきたい。

 

　ワードデータは、２段階に折り畳んであるので、適宜、展開して使用されたい。

 

　なお、本作業は，｢捜韻｣が無ければ、八万四千字の手入力を必要とし、しかも俗字との戦いなることから、実質的に不可能であった。実際に、約５％が「捜韻」になく、これらの扱いに非常に時間を要した。

　｢捜韻｣の出現は、「産業革命」に等しい物があり、漢詩検索の他、作詩においても、用例検索、膨大な｢詩語集｣として非常に有効であり、「韻別分類」「対句詩語集」を殆ど不要にしてしまっていると思われる。

　それと共に、｢捜韻｣に付属する「漢語大詩典」は｢大漢和辞典｣に比して収録語彙数が圧倒的に豊富であり、本作業の語釈付けにおいても、約9割は「漢語大詩典」によった。また、｢大漢和辞典｣もディジタル版を使用することによって、紙の物の数十倍の速度で引くことができ、作業の効率化に役立った（最近、バージョンアップされ，文書から、コピー・アンド・ペーストで、熟語の直接検索が出来るようになったようである。）。

　新しいツールを使いこなすことが、今後、必須になると思われる。

 

 

 

使用参考文献

★唐詩選　　　『唐詩選』（岩波文庫）。『唐詩選詳説』（明治書院）。

★唐詩三百首　『唐詩三百首』（東洋文庫）。『唐詩三百首詳解』（大修館）。

★『三体詩』（朝日新聞社）。国会図書館ディジタルコレクション。

★『和漢名詩選類評釈』（明治書院）

★『漢詩大系』（集英社）

★『中国詩人選集』（岩波書店）

★『新釈漢文大系』（明治書院）

★『柳宗元詩選』（岩波書店）

★『宋詩選注』（東洋文庫）

 

参照ブログ

★「詩詞世界」

★「Web漢文大系」

★「漢詩の朗読」

 

 

 

絶句類選標本　一

絶句類選　巻之一　　　節序類

 

★    立春　　　　　　　　　立春　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　栻

律回歳晚冰霜少　　　　律 回(かえ)りて 歳 晚(く)れ 氷霜 少(まれ)なり　　　　

春到人間草木知　　　　春 人間(じんかん)に到らば　草木 知る

便覺眼前生意滿　　　　便(すなわ)ち覚ゆ 眼前に 生意の満つるを

東風吹水綠差差　　　　東風 水を吹いて 緑 差々たり

 

【語釈】

○律…始。立春の意。○人間…人間世界。○東風…春風。○差差…斉しくないさま。

（参考文献）　　『中国名詩集』（岩波書店）

 

★    立春　　　　　　　　　立春　　　　　　　　　　　　  　　　宋　　朱淑真

自折梅花插鬢端　　　　自ら梅花を折りて 鬢端(びんたん)に插(さ)す

韭黄蘭茁簇春盤　　　　韭(ひ)黄(こう) 蘭茁(らんし) 春盤に簇(むらが)る　

潑醅酒軟渾無力　　　　潑醅(はつばい)酒(しゅ) 軟にして 渾(にご)りて力無く　

作惡東風特地寒　　　　悪を作(な)し 東風　特に地に寒し

【語釈】

○韭黄…韮の根、最も美味な所。○蘭茁…共に香草。○春盤…立春の日に作った春餅、生菜。○潑醅…酒を醸す。　

★    立春　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  金    党懷英

 

水結東溪凍未漪　　　　水は東溪に結びて 凍けて 未だ漪(い)あらず

風凌枯木怒猶威　　　　風は枯木を凌(しの)ぎて 怒りて 猶お威(い)あり　　　　　　

不知春力來多少　　　　知らず 春力の来(きた)ること 多少なるを　

便有靑蠅負暖飛　　　　便(すなわ)ち 靑(せい)蝿(よう)の 暖を負いて 飛ぶ有り

 

【語釈】

○漪…さざなみ。○靑蠅…蠅の一種。アオバエ。

 

 

★    人日立春　　　　　　　人(じん)日(じつ)立春(りっしゅん)　　　　　　　　　　　　　  唐　　盧　仝

 

春度春歸無限春　　　　春度り 春帰り 限り無き春　

今朝方始覺成人　　　　今朝(こんちょう) 方(まさ)に 始めて人と成るを覚ゆ　

從今克己應猶及　　　　今從(よ)り 己に克(か)ち 応(まさ)に猶お及ぶべし　　

願與梅花俱自新　　　　願わくは梅花と俱(とも)に 自(おのずか)ら新たにせん

 

【語釈】

○人日…陰暦正月七日。○春歸…春が過ぎ去る。

 

★    迎春　　　　　　　　　 迎春　　　　　　　　　　　　　　  清　　盧道悅

 

律轉鴻鈞佳氣同　　　　律(りつ)は転じて 鴻鈞(こうきん) 佳気同じ　

肩摩轂擊樂融融　　　　肩摩轂撃(けんまこくげき) 楽(らく) 融々(ゆうゆう)　

不須更向東郊去　　　　須(もちい)ず 更に 東郊に向い去るを　　

春在千門萬戶中　　　　春は 千門万戶の中(うち)に在り　

 

【語釈】鴻轂擊

○律…立春。○鴻鈞…天。大自然。○佳気…良い天気、風景。○肩摩轂擊…往来の込み合う律形容。○融融…草樹が生い茂っているさま。○東郊…春の郊外の野原。

 

 

★    早春　　　　　　　　早春　  　　　　　　　　　　　　　　　唐　　韓　愈

 

天街小雨潤如酥　　　　天街の小雨 潤(うるお)いて酥(そ)の如し　

草色遙看近却無　　　　草色 遙かに看るも 近づけば却って無し　　　　　

最是一年春好處　　　　最も是れ 一年春の好き処　

絕勝煙柳滿皇都　　　　絕(はなは)だ 煙(えん)柳(りゅう)の皇都に満つるに勝(まさ)れり

 

【語釈】

○天街…都大路。○酥…乳製品。○好處…素晴らしい時。○煙柳…霞で煙って見える柳。○皇都…長安。

（参考文献）『漢詩鑑賞辞典』

★    早春　　　　　　　　　早春　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　戎　昱

 

陰雲萬里晝漫漫　　　　陰雲 万里 昼に 漫々(まんまん) 　　　　　

愁坐關心事幾般　　　　愁坐 心に関する事 幾般(いくはん)ぞ　

爲報春風休下雪　　　　爲に報ず 東風 雪を下すを休(や)めよと　　　　　

柳條初放不禁寒　　　　柳條 初めて放てども 寒を禁ぜず

 

【語釈】

○陰雲…雨雲。○漫漫…広く遙かな様。○愁坐…愁いて坐す。○幾般…いくたび。

 

 

★    早春　　　　　　　　　早春　　　　　　　　　　　　　　　  清　　李　浹

 

華格琴床柳外亭　　　　華(か)格(かく) 琴(きん)床(しょう) 柳外の亭　

案頭一巻太玄經　　　　案頭 一巻 太(たい)玄(げん)経(きょう)

夜來暗過催花雨　　　　夜来 暗に過ぎて 花 雨を催(うなが)し　

添得苔痕滿徑青　　　　添い得たり 苔痕 満径の青

 

【語釈】

○華格…美しく長い木の枝。○琴床…琴をおく机。○案頭…机の上。○太玄經…中国の術数書。西漢の揚雄撰。宇宙本体の万物への展開を象徴的な符号と辞句で表現。○夜来…夜になってから。

 

★    春早　　　　　　　　　春早　　　　　　　　　　　　　　　 金　　段繼昌

 

斷氷銷盡荻芽尖　　　　断氷 銷尽(しょうじん)して 荻(てき)芽(が) 尖(とが)る　

凍壠蘇來白薺添　　　　凍壠(とうろう) 蘇(そ)し来りて 白薺(はくせい)添う　

幾片野雲飛不去　　　　幾片の野雲 飛びて去らず　

晚風吹作雨纎纎　　　　晚風 吹き作(な)す 雨 纎々(せんせん)

 

【語釈】

○銷盡…融け尽くす。○凍壠…畝、畔。○蘇來…よみがえる。○白薺…白いなずな。纎纎…細くなよなよししたさま。

 

 

★    正月十五日　　　　　　正月十五日　　　　　　　　　　　　  唐　　熊孺登

 

漢家遺事今宵見　　　　漢家の遺事 今宵(こんしょう) 見る　

楚郭明燈幾處張　　　　楚(そかく)郭 明燈 幾処(いくところ)か張る　

深夜行歌聲絕後　　　　深夜 行歌 声絕える後　

紫姑神下月蒼蒼　　　　紫(し)姑(こ)神下(しんか) 月 蒼々(そうそう)

 

【語釈】

○正月十五日…上弦、元夕。この夜、「張燈、観燈」の儀式が行われ、長安の城門は開け放たれて、松明を灯して観る習慣があった。その様子を詠ったもの。○漢家遺事…唐の習慣。○紫姑神…厠の神。生前は人の妾婦であったが、正妻に疎まれて厠の掃除をさせられ、正月十五日に死んだ。その命日に厠の辺りに酒、餅などを供えて吉・凶を卜う。○蒼蒼…月光が青白いさま。

★    元夕　　　　　　　　　元夕　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　林季謙

 

焼燈城市又新年　　　　焼灯 城市 又た新年　

壁月樓臺萬管絃　　　　壁月 楼台 万(よろ)ず管絃　

獨有廣文窮相眼　　　　独り 広文の窮相(きゅうそう)眼(がん)有りて　

一篝燈火照殘編　　　　一篝(いっこう)の燈火 残編を照らす

 

【語釈】

○元夕…正月十五日、上弦。この夜、「張燈、観燈」の儀式が行われ、長安の城門は開け放たれて、松明を灯して観る習慣があった。その様子を詠ったもの。○焼燈…灯火をともす。○壁…星の名、なまめ。○廣文…博士の異称。○窮相眼…窮した様相と眼。○篝…かがり火。○殘編…散佚した残りの書編。

 

★    元夕　　　　　　　　　元夕　　  　　　　　　　　　　　　　明　　湯　珍

 

火樹銀花巧鬥明　　　　火樹 銀花 巧(こう)明(めい)を鬥(あらそ)う　

笙歌聲沸滿春城　　　　笙歌 声 沸きて 春城に満つ　

月華西轉星河澹　　　　月華 西転し 星河 澹(たん)なり　

猶有香車取次行　　　　猶(な)お 香車の 取次(しゅじ)に行く有り

 

【語釈】

○元夕…正月十五日、上弦。この夜、「張燈、観燈」の儀式が行われ、長安の城門は開け放たれて、松明を灯して観る習慣があった。その様子を詠ったもの。○火樹…灯火の盛んなさま。○銀花…灯火の形容。○月華…美しい月。○澹…光が淡い。○取次…次第に。

★    元宵　　　　　　　　　元宵(げんしょう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　陶　姫

 

滿城無處不張燈　　　　満城 処として 灯を張(ちょう)ぜざるは無く

笙韻元宵響沸騰　　　　笙(しょう)韻(いん) 元宵(げんしょう)に響きて 沸騰す　

惟有學吟人愛静　　　　惟だ 吟を学ぶ人の 静を愛する有りて　

小樓坐看月高升　　　　小楼に坐して 月の高升(こうしょう)を看る

 

【語釈】

○元宵…正月十五日、上弦。この夜、「張燈、観燈」の儀式が行われ、長安の城門は開け放たれて、松明を灯して観る習慣があった。その様子を詠ったもの。○笙韻…笙の音。○高升…高く昇る。

 

 

★    春寒     　　　　　 春寒(しゅんかん)                                  宋　　胡　仔

 

小院春寒閉寂寥　　　小院の春寒(しゅんかん) 寂寥(せきりょう)を閉ざし　

杏花枝上雨瀟瀟　　　杏(きょう)花(か)枝上(しじょう) 雨 瀟々(しょうしょう)　

午窗歸夢無人喚　　　午窓の帰夢 人の喚(よ)ぶ無く　

銀葉龍涎香漸銷　　　銀(ぎん)葉(よう)の龍(りゅう)涎(えん) 香(かおり) 漸銷(ぜんしょう)

 

【語釈】

○春寒…春のまだ浅い頃の寒さ。余寒。○ひっそりとして物寂しいさま。瀟瀟…雨（風）の寂しく降る（吹く）さま。○歸夢…故郷へ帰る夢。○銀葉…銀製の容器（香を焚く）。○龍涎…龍涎香。鯨の胃の分泌物から取った抹香。○漸銷…だんだん消えて行く。

★　春寒　　　　　　　　　春寒(しゅんかん)　　　　　　　　　　　　　　   元　　黃　庚

 

春寒料峭透窗紗　　　　春寒(しゅんかん)の料峭(りょうしょう) 窓紗(そうしゃ)を透(とお)す　

睡起晴蜂恰報衙　　　　睡起(すいき)の晴(せい)蜂(ほう) 恰(あたか)も衙(が)を報ず　　

怪得曉來風力勁　　　　怪しみ得たり 曉来 風力の勁(つよ)きを　

滿階香雪落梨花　　　　満階の香雪 梨花に落つ

 

【語釈】

○春寒…春のまだ浅い頃の寒さ。余寒。○料峭…春風の肌触りの冷たい形容。○窗紗…窓の薄絹のカーテン。○睡起…眠りより起きる。○報衙…役所に出勤する時刻を知らせる。○曉来…明け方から。○香雪…雪の美称。

 

 

★    春寒　　　　　　　　　春寒(しゅんかん)　　　　　　　　　　　　　　　 明　　楊守陳

 

二月燕城暖漸迴　　　　二月 燕(えん)城(じょう) 暖 漸く迴(かえ)る　

北風吹雪遍樓臺　　　　北風　雪を吹いて 楼台に遍(あまね)し

春寒畢竟無多日　　　　春寒 畢竟(ひっきょう) 多日無し　

桃李何須怨未開　　　　桃李 何ぞ須(もち)いん 未だ開ざるを怨むを

 

【語釈】　

○春寒…春のまだ浅い頃の寒さ。余寒。○燕城…河北省の町○漸…次第次第に。

 

★    春寒　　　　　　　　　春寒　　   　　　　　　　　　　　　明　　郯　韶

 

春寒時節病頭風　　　　春寒の時節 頭風(とうふう)を病む    　

惆悵年華逝水同　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 年(ねん)華(か)の逝(ゆ)くこと水と同じきを　

世事總如春夢裏　　　　世事(せじ) 総て 春夢の裏(うち)の如し　

雨聲渾在杏花中　　　　雨声 渾(すべ)て 杏(きょう)花(か)の中に在り

 

【語釈】

○春寒…春のまだ浅い頃の寒さ。余寒。○頭風…頭痛。○惆悵…嘆き悲しむ。○年華…年月、月日。若い年頃。○世事…世の中の事。

 

 

★    寒食　　　　　　　　　寒食　　　   　　　　　　　　　　　唐　　韓　翃

 

春城無處不飛花　　　　春城 処として 花の飛ばさるは無く　　

寒食東風御柳斜　　　　寒食 東風 御柳(ぎょりゅう)斜めなり　

日暮漢宮傳蠟燭　　　　日暮 漢宮 蠟燭を伝え　

青煙散入五侯家　　　　青煙 散じて 五侯の家に入る　

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○春城…春の町。○御柳…宮城の柳。○漢宮…唐の宮殿を漢にたとえていう。青煙…蝋燭からたつ青い煙。五侯…高官。公侯伯子男爵。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    寒食　　　　　　　　　寒食　　　　　　　　　　　　　　　  金　　侯　冊

 

交游零落葉辭枝　　　　交游の零落(れいらく)するは　葉の枝を辞す　

嵗月崢嶸馬注坡　　　　歳月の崢嶸(じょうこう)たるは　馬の坡(は)に注す　

燕子不來寒食過　　　　燕子(えんし) 来(きた)らず 寒食過ぐ　

滿城風雨落紅多　　　　満城の風雨 落紅 多し

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○交游…交際。○零落…草樹が枯れ落ちる。落ちぶれる。崢嶸…平凡でないこと。○落紅…落花。

 

 

★    寒食　　　　　　　　　 寒食　　　　　　　　　　　　　　  金　　馬定國

 

燕泥半落烏衣巷　　　　燕(えん)泥(でい) 半ば落つ 烏(う)衣(い)巷(こう)　

栁色全添緑綺窗　　　　栁色 全て添う 緑綺(りょくき)の窓　

且伴丁香過寒食　　　　且つ丁(てい)香(こう)に伴い 寒食 過ぎ　

弄晴蝴蝶一雙雙　　　　晴を弄ぶ蝴(こ)蝶(ちょう) 一(いつ)に雙々(そうそう)

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目と前後、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○烏衣巷…金陵（今の江蘇省南京市の古称。六朝時代には建康と呼ばれた）の秦淮しんわい河がの南にあった町の名。劉禹錫詩、烏衣巷 に「舊時王謝堂前燕，飛入尋常百姓家」とある。○緑綺窗…緑の綾絹のカーテンで蔽った窓。○丁香…香木の名。フトモモ科の常緑高樹。実を丁子といい、香料・薬用に用いる。○雙雙…つがいのさま。

 

★    寒食　　　　　　　　　寒食　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王碧瑩　

 

芳草青青柳放芽　　　　芳草 青々 柳 芽を放つ　

東風揺曳幾枝花　　　　東風 揺曳(ようえい)す 幾枝の花　

宵燈不丐隣家火　　　　宵(しょう)燈(とう) 丐(こ)わず 隣家の火　

春月如波浸碧紗　　　　春月 波の如く 碧紗を浸す

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○東風…春風。○揺曳…飜り飛ぶ。○丐…こう。求める。○碧紗…緑色の窓のカーテン。

 

 

★    鄜州遇寒食城外醉吟　　鄜州(ふしゅう)にて寒食に遇い城外にて酔吟す　　唐　　韋 莊 

 

滿街楊柳綠絲煙　　　　満街の楊柳 緑糸の煙　

畫出清明二月天　　　　画き出(いだ)す 清明 二月の天　

好是隔簾花樹動　　　　好し是れ 簾(すだれ)を隔てて花樹動き　

女郎撩亂送鞦韆　　　　女郎 撩乱(りょうらん)して 鞦韆(しゅうせん)を送る

 

【語釈】

○鄜州…陝西省延安市南部。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○醉吟…酒に酔った状態で詩を作ること。○清明…淸明節。二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○女郎…若い女性。○撩亂…入り乱れる。○鞦韆…ぶらんこ。

 

 

★    襄陽寒食          　　襄陽の寒食　　　　　　　　　　　　  唐　　于　鵠

 

烟水初銷見萬家　　　　煙水 初めて銷(しょう)して 万家を見る　

東風吹柳萬條斜　　　　東風 柳を吹いて 万條(まんじょう) 斜めなり　

大堤欲上誰相伴　　　　大堤に上らんと欲して 誰を相い伴わん　

馬踏春泥半是花　　　　馬 春泥(しゅんでい)を踏まば 半ば 是れ 花

 

【語釈】

○襄陽…湖北省襄陽市。○烟水…水上の靄。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○東風…春風。○萬條…数多くの柳の枝。○春泥…春のぬかるみ。

 

 

★    寒食山中　　　　　　寒食山中　　　　　　　　　　　　　   明　　謝肇淛

 

白雲流水浄含沙　　　白雲 流水 沙(さ)を含みて浄(きよ)し　

傍水斜陽三兩家　　　水に傍(そ)う斜陽 三両家　

一夜山中寒食雨　　　一夜 山中 寒食の雨　

杜鵑啼落刺桐花　　　杜鵑(とけん) 啼き落とす 刺(し)桐(どう)の花

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○杜鵑…ホトトギス。○刺桐…樹木の名。桐に似て、とげがある。

 

 

 

★    寒食夜　　　　　　　　寒食の夜　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

惻惻輕寒翦翦風　　　　惻々(そくそく)たる軽寒 翦々(せんせん)たる風　

杏花飄雪小桃紅　　　　杏花は雪を飄えし 小桃は紅なり　

夜深斜搭鞦韆索　　　　夜深くして 斜搭 鞦韆(しゅうせん)の索(つな)　

樓閣朦朧煙雨中　　　　楼閣 朦朧(もうろう)として 煙雨の中(うち)

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○惻惻…寒く冷ややかなさま。○輕寒…薄ら寒さ。○翦翦…風の薄ら寒いさま。○鞦韆…ブランコ。○朦朧…ぼんやりとしているさま。○煙雨…きりさめ。

 

 

★    寒食夜　　　　　　　　寒食の夜　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

漏聲透入碧窗紗　　　　漏声(ろうせい) 透(とお)りて入る 碧窓紗(へきそうしゃ)　

人靜鞦韆影半斜　　　　人 静かにして 鞦韆(しゅうせん) 影 半ば斜めなり

沈麝不燒金鴨冷　　　　沈麝(ちんじゃ) 焼(た)かず 金(きむ)鴨(よう) 冷かなり　

淡雲籠月照梨花　　　　淡雲 月を籠(こ)めて 梨花を照らす

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○漏聲…水時計の音。○窗紗…薄絹の窓のカーテン。○鞦韆…ぶらんこ。○沈麝…沈香、乱麝、共に香木。○金鴨…金の香炉。

(参考文献)　　『和漢名詞選類評釈』

 

★    清明前一日雨中作　　　清明前一日 雨中の作　　　　　　　　　  元　　劉　渙

 

小窗新綠著枝輕　　　　小窓(しょうそう)の新緑 枝に著いて軽(かろ)し　

寒逐東風陣陣生　　　　寒は東風を逐(お)いて 陣々(じんじん)として生ず　

燕子不來花落盡　　　　燕子(えんし) 来たらず 花 落ち尽き　

一簾疏雨又清明　　　　一(いち)簾(れん)の疏(そ)雨(う) 又 清明

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○東風…春風。○陣陣…とぎれとぎれに続くさま。○燕子…燕。

 

 

★    淸明　　　　　　　　　 淸明　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

淸明時節雨紛紛　　　　淸明の時節 雨 紛々

路上行人欲斷魂　　　　路上の行人 魂(こん)を断たんと欲す

借問酒家何處有　　　　借問(しゃもん)す 酒家　何れの処にか有る

牧童遙指杏花村　　　　牧童 遙かに指さす 杏(きょう)花(か)の村

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○雨紛紛 … こぬか雨が降りしきる様子。○行人 … 旅人。杜牧を指す。○欲断魂 … 気が滅入ってしまう。○借問 … 試しに尋ねてみること。

 

★    清明　　　　　　　　　清明　　　　　　　　　 　  宋　　王禹偁〔魏野〕

 

無花無酒過清明　　　　花無く 酒無く 清明を過ごす　

興味都來似野僧　　　　興味 都(すべ)て来たりて 野僧に似たり　

昨夜鄰家乞新火　　　　昨夜 鄰家 新火を乞う　

曉窗分與讀書燈　　　　曉窓より分与す 読書の灯

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○野僧…田舎の僧。○新火…寒食が終わった後の新しい火。

 

 

★    清明                   清明 　　　　　　　　　　　　　　　明　　瞿　佑

     

經年蹭蹬在京華　　　　年を経(へ)て蹭蹬(そうとう)して 京華に在り

又見東風禦柳斜　　　　又た見る 東風 御柳の斜めなるを

客裏不甘佳節過　　　　客(かく)裏(り)　甘んぜず　佳節の過ぎるを

借人亭館看梨花　　　　人の亭館(ていかん)を借りて 梨花を看る

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○蹭蹬…足場を失うさま。○京華…都。○東風…春風。○御柳…宮城の柳。○客裏…旅の中、異郷。○佳節…ここでは淸明節。

 

★    清明日次弋陽　　　　　清明の日 弋(よく)陽(よう)に次(やど)る　　　　　　　  唐　　權德輿

 

自歎清明在遠鄉　　　　自(みずか)ら歎く 清明に 遠鄉に在るを　

桐花覆水葛溪長　　　　桐花 水を覆い 葛(かつ)溪(けい)長し　　　

家人定是持新火　　　　家人 定めて是れ 新火を持ち　　　　

點作孤燈照洞房　　　　転じて孤灯と作(な)し 洞房を照らしならん

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○弋陽…江西省上饒市弋暘縣。○次…宿泊する、留まる（多くは舟）。○葛溪…渓の名称。○定是…きっと。○新火…寒食が終わった後で新たに起こした火。○洞房…婦人の寝室。

 

 

★    清明感傷　　　　　　　清明の感傷　　　　　　　　　　　　　宋    戴復古

 

客中今日最傷心　　　　客中(かくちゅう) 今日 最も心を傷ましむ　

憶著家山松樹林　　　　憶(おく)著(ちゃく)す 家山の松樹の林　

白石岡頭聞杜宇　　　　白(はく)石岡頭(せきこうとう) 杜宇(とう)を聞き　

對他人墓亦沾巾　　　　他人の墓に対して 亦(ま)た 巾(きん)を沾(うるお)おす

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○客中…旅の途中。○憶著…憶う。着は助詞で動詞の後におき、動作の進行や完成をあらわす。○白石岡…白い石の岡。固有名詞？○頭…ほとり。○杜宇…ホトトギス。故郷に帰れと鳴く。○巾…ハンカチ。

 

 

★    清明日舟次呉門        清明の日 舟 呉門に次(やど)る　　　　　　　宋    方　岳

 

篷窗恰受夕陽明　　　　篷(ほう)窓(そう) 恰(あたか)も 夕陽(せきよう)を受けて 明かなり　

楊柳梨花半月程　　　　楊柳 梨花 半月の程(てい)　

老去不知寒食近　　　　老去りて知らず 寒食の近きを　

一篙烟水載春行　　　　一篙(いっこう)の煙水 春を載せて行く　

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○次…宿泊する、留まる（多くは舟）。○呉門…甘粛省甘谷県。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○一篙…一棹ほどの深さ。○烟水…靄を含んだ水。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    清明日偶成　　　　　　清明の日　偶成　　　　　　　　　　  明　　袁　宗

 

窗下脩書寄遠人　　　　窓下　書を脩めて　遠人に寄す　

燕泥時復涴衣巾　　　　燕(えん)泥(でい) 時に復(ま)た 衣巾を涴(けが)す　

東風催下清明雨　　　　東風 催(さい)下(か)す 清明の雨　

鶯老花殘又一春　　　　鶯 老い　花は残り 又一春

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○燕泥…燕が巣作りの為に銜えて運ぶ泥。○衣巾…衣とハンカチ。○東風…春風。○催下…うながすように下す。

 

★    清明山遊　　　　　　　清明 山に遊ぶ 　　　　　　　　　　 清　　畢海珖

 

路折村橋一徑賖　　　　路折れて 村橋 一経を賖(あま)す　

綠楊 烟外 酒帘斜　　　緑楊 煙外 酒帘(しゅれん) 斜めなり　　

暖風細雨催寒食　　　　暖風 細雨 寒食を催(うなが)し　

開遍青山郁李花　　　　開遍(かいへん)す 青山 郁(いく)李(り)花(か)

 

【語釈】

○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○煙外…靄の外。○酒帘…酒屋の目印の旗。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○開遍…遍く開かせる。○郁李花…かぐわしい杏の花。

 

 

★    雒口淸明　　　雒口(らくこう)の淸明　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　王士禛

 

楊柳依依碧映沙　　　　楊柳 依々として 碧沙(へき)に映ず　

毎逢佳節惜年華　　　　佳節(かせつ)に逢う毎に 年華(ねんか)を惜しむ　

好春欲暮無人見　　　　好春 暮んと欲して 人の見る無く

閑看東風落杏花　　　　閑かに看る 東風の 杏花を落とすを

 

【語釈】

○雒口…地名、不祥。○依依…細くなよなよしているさま。○佳節…吉日。○佳節…年月、月日。○東風…春風。

 

★    上巳　　　　　　　　　上巳(じょうし)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

正是春光最盛時　　　　正に是れ 春光 最も盛んなる時　

桃花枝映李花枝　　　　桃花の枝は 李花の枝に映ず　

鞦韆日暮人歸盡　　　　鞦韆(しゅうせん) 日暮くれて 人帰り尽き　

只有春風弄彩旗　　　　只だ 春風の 彩旗を弄(ろう)する有り

 

【語釈】

○上巳…旧暦三月三日。この日、流水の畔でみそぎをして、一年の厄を払う習慣があった。○鞦韆…ブランコ。○彩旗…彩られた旗。美しい旗。

 

 

★    上巳看花　　　　　　　上巳(じょうし)に花を看る　　　　　　　　　　　　  明　　楊　基

 

東湖東畔柳枝長　　　　東湖東畔　柳(りゅう)枝(し)長し　

滿苑飛花亂夕陽　　　　満苑の飛花 夕陽(せきよう)に乱る　

何處祓除兒女散　　　　何れの処か 祓除(ふつじょ) 兒女散じ　

過來流水鬱金香　　　　過ぎ来る流水 鬱(うつ)金(こん)香(こう)

 

【語釈】

○上巳…旧暦三月三日。この日、流水の畔でみそぎをして、一年の厄を払う習慣があった。○飛花…飛ぶ柳絮。○祓除…汚れを祓い除く。○鬱金…香草の一種。

 

★    春日　　　　　　　　　春日　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　晁沖之

 

陰陰溪曲綠交加　　　　陰々たる溪曲 緑 交加す　

小雨翻萍上淺沙　　　　小雨　萍(ひょう)を翻して 浅沙(せんさ)に上らす　

鵝鴨不知春去盡　　　　鵞(が)鴨(おう)は知らず 春の去り尽くすを　

爭隨流水趁桃花　　　　争いて 流水に隨って 桃花を趁(お)う

 

【語釈】

○陰陰…木が茂って暗いさま。○溪曲…谷のくま。○交加…入り交じる。○萍…うきくさ。○淺沙…浅い砂浜。○鵝鴨…あひるとカモメ。○趁…追いかける。

 

 

★    春日　　　　　　　　　春日　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

鳴鳩乳燕寂無聲　　　　鳴(めい)鳩(きゅう) 乳(にゅう)燕(えん) 寂(せき)として声無し

日射西窗潑眼明　　　　日は西窓を射して 眼に溌(そそ)ぎて明らかなり　

午醉醒來無一事　　　　午酔より醒め来りて　一事無し　

只將春睡賞春晴　　　　只だ 春睡(しゅんすい)を将(も)って 春晴を賞す

 

【語釈】

○鳴鳩…いかるが。鳩の一種。○乳燕…燕のひな。○午醉…昼に酒を飲んで酔うこと。○西窗…寝室の窓。○潑…そそぐ。○春睡…春のうたたね。

 

★    春日                  春日                                宋　　呂祖謙

 

短短菰蒲緑未齊　　　　短々たる菰(こ)蒲(ばく) 緑 未だ斉(ひとし)からず

汀州水暖雁行低　　　　汀州(ていしゅう) 水暖かにして 雁行低し　

柳陰小艇無人管　　　　柳陰の小艇 人の管する無く　

自送流花下別渓        自(おのずか)ら流花を送りて 別渓を下る

 

【語釈】菰蒲

○短短…短いさま。○菰蒲…マコモとガマ。○汀州…中州。なぎさと中州。○管…つかさどる。　

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    春日　　　　　　　　　春日　　　　　　　　　　　　　　   宋　　張　栻

 

花柳芳州十日晴　　　　花柳 芳州 十日の晴　

五更風雨送殘春　　　　五更の風雨 残春を送る　

莫嫌紅紫都吹盡　　　　嫌う莫かれ 紅紫の都(すべ)て吹き尽くすを　

新綠滿園還可人　　　　新緑 満園　還(ま)た人に可なり

 

【語釈】

○花柳…赤い花と緑の柳。紅花緑柳。○芳州…美しい花の咲いている中州。○

五更…午前四時頃。○紅紫…色とりどりの花。

 

★    春日　　　　　　　　　 春日　　　　　　　　　　　　　　  宋　　僧法具

 

焼燈過了客思家　　　　焼灯 過了(かりょう)して 客(かく) 家を思う　

獨立衡門數暝鴉　　　　独り 衡門(こうもん)に立ちて 暝(めい)鴉(あ)を数う　

燕子未來梅落盡　　　　燕子(えんし) 未だ来らざるに 梅 落ち尽くし

小窓明月属梨花　　　　小窓の明月 梨花に属(しょく)す　

 

【語釈】

○焼燈…灯火。○衡門…木を横たえて作った粗末な門。隠者の家、又はその門。○暝鴉…夜の烏（の声）。○梅…梅花。○属…ちょうど～にあたる。今ちょうどそのときである。

 

 

★    春日　　　　　　　　　 春日　　　　　　　　　　　　　　  金　　劉　鐸

 

翠微深處幾人家　　　　翠微(すいび) 深き処 幾人家　

風颺輕烟雨壓沙　　　　風は軽煙を颺(あ)げ 雨は沙(すな)を圧す　

寒勒野桃開較晚　　　　寒は野桃を勒(ろく)して 開くこと較(や)や晚(おそ)し　

向陽纔有兩三花　　　　陽(ひ)に向って纔(わずか)に有り 両三花

 

【語釈】

○翠微…薄緑色のもや。○輕烟…軽やかな霞。○勒…制御する。

 

★    春日偶成　　　　　　　 春日偶成　　　　　　　　　　　　  明    樊  阜

 

硯池香沁墨雲乾　　　　硯(けん)池(ち)の香 沁(しっ)して 墨(ぼく)雲(うん)乾く　　　　　

酒醒無情懶著冠　　　　酒醒むるも 情無く 冠を著くるに懶(ものう)し　

燕子歸遲春欲盡　　　　燕子(えんし) 帰ること遅く 春 尽きんと欲し　

落花吹雨小樓寒　　　　落花 雨を吹いて 小楼寒し

 

【語釈】

○硯池…硯の墨が溜まる凹部、ここでは、そこに溜まった墨汁。○沁…紙にしみこむ。○墨雲…詩を書いた墨の痕。○燕子…つばめ。

 

 

★    春日雜興　　　　　　　春日雜興　　　　　　　　　　　　　  宋    釋道潜

 

雨闋中庭暖日浮　　　　雨闋(うけつ)の中庭 暖(だん)日(じつ)浮かぶ　

春禽百種聚喧啾　　　　春禽(しゅんきん) 百種 聚(あつま)りて喧啾(けんしゅう)　

粉腰蜂子尤無頼　　　　粉(ふん)腰(よう)の蜂子(ほうし) 尤も無頼(ぶらい)　

撓遍花鬚未肯休　　　　花(か)鬚(びん)を撓(ぎょう)遍(へん)して 未だ肯えて休せず

 

【語釈】

○雨闋…雨でしまった門。○喧啾…鳴き声が騒がしいさま。○蜂子…蜂。○無頼…無頼漢。○撓遍…あまねく繞る。

 

★    絶句　　　　　　　　　 絶句　　　　　　　　　　　　　　   宋　　王　雱

 

一雙燕子語簾前　　　　一双の燕子(えんし) 簾前(れんぜん)に語る　

病客無憀盡日眠　　　　病客(びょうかく) 無憀(むりょう) 尽日(じんじつ)眠る　

開遍杏花人不見　　　　遍(あまね)く杏花を開きて 人 見ず　　　　　

滿庭輕雨綠如煙　　　　満庭の軽雨 緑 煙の如し

 

【語釈】

○一雙…ひとつがい。○簾前…簾の前。○病客…病気の旅人。○無憀…気分がさわやかでないさま。○盡日…一日中。

 

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　   宋　　吳　濤

 

遊子春衫已試單　　　　遊子 春衫(しゅんさん) 已に単(いとえ)を試む　

桃花飛盡野梅酸　　　　桃花 飛び尽くし 野(や)梅(ばい) 酸なり

怪來一夜蛙聲歇　　　　怪しみ来たる 一夜 蛙声(けいせい)の歇(や)むを　

又作東風十日寒　　　　又た作(な)す 東風 十日の寒

 

【語釈】

○遊子…旅人。○春衫…春の着物。○單…薄着。○怪來…怪しむ、來は助字。○東風…春風。

 

★    春景　　　　　　　　　春景　　　　　　　　　　　　　　　  元　　劉　因

 

病餘身世淡無情　　　　病余(びょうよ)の身世 淡の情 無し　

但覺春來暖漸生　　　　但だ覚ゆ 春来たりて 暖 漸く生ずるを　

送客出門花已謝　　　　客(かく)を送りて 門を出(いず)れば 花 已に謝す　　

問知昨日是清明　　　　問いて知る 昨日 是れ 清明

 

【語釈】

○病余…病気あがり。○身世…この世とこの身。○謝…散り去る。終わる。○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。

 

 

★    　春曉偶成　　　　　　　春曉偶成　　　　　　　　　　　　　  明　　金　涓

 

清晨睡起覺衣單　　　　清晨(せいしん)に睡(すい)起(き)し 衣(い)単(たん)を覚ゆ　

亭館東風怕倚欄　　　　亭館の東風 欄に倚(よ)りて怕(しずか)なり　

一夜好春吹作恨　　　　一夜 好春 吹いて恨(うらみ)を作(な)す　

棃花寂寞雨鳩寒　　　　棃(り)花(か) 寂寞(せきばく)として 雨(う)鳩(きゅう) 寒し

 

【語釈】

○清晨…清い曙。○衣單…薄い着物。○東風…春風。○怕…しずか。恐れる。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○雨鳩…雨の中で鳴く鳩。

 

★    春晝　　　　　　　　春昼　　　　　　　　　　　　　　　　  明    居　節

 

泥香江暖燕來時　　　　泥 香り 江 暖(あたたか)にして 燕 来たる時　

紅白花深桃李枝　　　　紅白 花は深し 桃李の枝　

草色一簾門半掩　　　　草色 一簾 門 半ば掩(と)ざし　

臥看雙蝶趁遊絲　　　　臥して看る 双蝶の遊糸を趁(お)うを

 

【語釈】

○双蝶…つがいの蝶。○遊絲…ゆらゆらする蜘蛛の糸。○趁…追いかける。

 

 

★    春日漫興　　　　　　　春日漫(しゅんじつまん)興(きょう)　　　　　　　　　　　　　  明　　薛　蕙

 

草芽半吐參差碧　　　　草芽 半ば吐(は)き 參差(しんし)の碧(みどり)　

花蕊初開淺淡紅　　　　花(か)蕊(ずい) 初めて開きて 浅淡(せんたん)の紅　

安得黄金髙北斗　　　　安(いずくん)ぞ得ん 黄金の北斗より高きを　

盡輸青帝買東風　　　　青帝に尽輸(じんゆ)して 東風を買わん

 

【語釈】

○漫興…なんとなく催した感興。○吐…現れる。○參差…疎らに散らばっているさま。○花蕊…花のしん。○青帝…五天帝の一つ、春を司る。○盡輸…贈る、盡は前置詞で、～し尽くすの意。○東風…春風。

 

★    春日雜詩　　　　　　　春日雜詩　　　　　　　　　　　　　  清　　袁　枚

 

千枝紅雨萬重煙　　　　千枝の紅雨 万重の煙　

畫出詩人得意天　　　　画き出(いだ)す 詩人 得意の天　

山上春雲如我懶　　　　山上の春雲　我が懶(らん)の如く　

日高猶宿翠微巔　　　　日 高くして 猶お宿(しゅく)す 翠微の巔(てん)

 

【語釈】

○雜詩…今日のおもむくままに作った形にとらわれない詩。○紅雨…紅色の花が落ちるさまのたとえ。煙…もや。○懶…朝寝坊。○翠微巔…山の八合目あたり。碧色の山気のただよう山の頂。

（参考文献）　　『漢詩大系』第２２巻

 

 

★    春夜　　　　　　　　　春夜　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

春宵一刻値千金　　　　春宵(しゅんしょう) 一刻 値千金　

花有清香月有陰　　　　花に清(せい)香(こう)有り 月に陰(かげ)有り　

歌管樓臺聲細細　　　　歌管 楼台 声 細々　

鞦韆院落夜沈沈　　　　鞦韆(しゅうせん) 院落(いんらく) 夜 沈々(ちんちん)

【語釈】

○歌管…歌声と管弦の音。○細細…か細いさま。○鞦韆…ぶらんこ。○院落…中庭。○沈沈…夜が静かにふけていくさま。

（参考文献）　　『漢詩鑑賞辞典』

 

★    春夜                  春夜                             　宋　　王安石

 

金爐香盡漏聲殘　　　　金炉香尽きて 漏声残(ざん)す　

翦翦輕風陣陣寒　　　　翦々(せんせん)たる軽風 陣々(じんじん)として寒し

春色惱人眠不得　　　　春色 人を悩ませて 眠り得ず　

月移花影上欄干　　　　月は花影を移して  欄干に上(のぼ)らしむ

 

【語釈】

○金爐…金属製の炉の美称。○漏聲…水時計の音。○殘…崩れる。消えて行く。○翦翦…そよそよとしたさま。○陣陣…とぎれとぎれに続くさま。○春色…春景色。春の様子。

（参考文献）　　『漢詩鑑賞辞典』

 

 

★    春夜　　 　　　　　　　春夜　　　　　　　　　　　　　　　宋　　僧斯植

 

玉樓臺畔柳生煙　　　　玉(ぎょく)楼台(ろうだい)畔(はん) 柳 煙を生ず　

况是春風杜宇天　　　　况(いわん)や是れ 春風 杜宇(とう)の天なるをや　　　　

一片月光凉似水　　　　一片の月光 凉 水の似(ごと)し　

半扶花影上鞦韆　　　　半ばは 花影を扶(たす)けて 鞦韆(しゅうせん)に上らしむ

 

【語釈】

○玉樓臺…玉で飾った楼台。○煙…もや。霞。○杜宇天…ホトトギスが無き躑躅（杜鵑花）が咲く頃の爽やかな空。○鞦韆…ブランコ。

 

★    春夜　　　　　　　　　春夜　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王同祖

 

迢迢清夜靜無譁　　　　迢々たる清夜 静にして 譁(か) 無く　

月色千門噪亂鴉　　　　月色 江城 乱鴉 噪(さわ)ぐ

醒酒忽驚寒轍骨　　　　酒 醒めて忽ち驚く 寒の骨に徹するを　

不知殘雪在梅花　　　　知らず 残雪の 梅花に在るを

 

【語釈】

○迢迢…遙かなさま。遠いさま。○譁…喧しいこと。○江城…江辺の街。

 

 

★    春夜　　　　　　　　　春夜　　　　　　　　　　　　　　　  明　　丘　吉

 

銀瓶澆茗漱春酲　　　　銀(ぎん)瓶(ぺい)は茗(めい)を澆(そそ)ぎ 春は酲(てい)を漱(すす)ぐ　

倚遍彫闌睡未成　　　　遍(あまね)く 彫闌(ちょうらん)に倚りて 睡(ねむり) 未だ成らず　

燈火誰家庭院裏　　　　灯火 誰が家の庭院の裏(うち)　　

櫻桃花下尚吹笙　　　　桜桃(おうとう)花下(かか) 尚お笙を吹く

 

【語釈】

○銀瓶…銀でできた瓶。○茗…茶。○酲…酒に酔った状態。○彫闌…彫刻のある欄干。○庭院…やしき。門、塀の中の空き地。

 

★    晚春　　　　　　　　　晚春　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

睡足高簷春日斜　　　　睡(ねむり)足りて 高簷(こうたん) 春日斜なり　

碾聲初破小龍茶　　　　碾声(てんせい) 初めて破る 小龍茶　

樓邊綠樹飛紅盡　　　　桜辺の緑樹 飛紅尽き　

春色牆陰老薺花　　　　春色 牆(しょう)陰(いん) 薺(せい)花(はな)老ゆ

 

【語釈】

○高簷…高い簷。○碾聲…挽き臼の音。○小龍茶…茶の銘柄？○飛紅…落花。○春色…春景色、春の気配。○牆陰…垣根の影。○薺花…なずなの花。

 

 

★    晩春　　　　　　　　　晩春　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　謝　逸

 

門前楊柳暗沙汀　　　　門前の楊柳 沙(さ)汀(てい)に暗し　

雨濕東風未放晴　　　　雨 湿(しめ)りて 東風 未だ晴(せい)を放たず　

點點落花春事晚　　　　点々たる落花 春事晚れ

青青芳草暮愁生　　　　青々たる芳草 暮(ぼ)愁(しゅう)生ず

 

【語釈】

○沙汀…水辺の砂浜。○東風…春風。○春事…春の農作業。春の楽しいこと。○暮愁…夕方の愁。

 

★    晚春　　　　　　　　　晚春 　　　　　　　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

池塘渴雨蛙聲少　　　　池塘  雨に渴(かわ)きて 蛙声(けいせい)少(まれ)なり　

庭院無人燕語長　　　　庭院 人無く 燕(えん)語(ご)長し　

午枕不成春草夢　　　　午(ご)枕(ちん) 成らず 春草の夢　

落花風靜煮茶香　　　　落花 風 静かにして 煮(しゃ)茶(ちゃ)の香(かおり)

 

【語釈】

○池塘…池。○庭院…門、塀の中の空き地。○午枕…昼寝。

 

 

★    春暮　　　　　　　　春暮 　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

卷中未有好詩看　　　巻中(かんちゅう) 未だ 好詩を看る 有らず　

草滿池塘夢已闌　　　草は池塘に満ち 夢 已に闌(たけなわ)なり　

客又不來春又暮　　　客(かく) 又た来らず 春 又た暮る　

一簾新雨杏花殘　　　一簾の新雨 杏花 残(ざん)す

 

【語釈】

○卷中…書物の中。池塘…池の土手。○殘…散り落ちる．損なわれる。

 

★    春晚　　　　　　　　　春晚　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

夕陽槐影上簾鈎　　　　夕陽(せきよう)の槐(かい)影(えい) 簾(れん)鈎(こう)に上る　

一枕清風夢昔遊　　　　一枕の清風 昔遊(せきゆう)を夢む　

夢見錢塘春盡處　　　　夢に見る 銭塘(せんとう) 春 尽くる処　

碧桃花謝水西流　　　　碧(へき)桃(とう) 花 謝(しゃ)して 水 西に流る

 

【語釈】

○槐影…えんじゅの木の影。○簾鈎…簾を掛ける鈎。○銭塘…浙江省杭州市にあった県。○花謝…はなが散り終わる。

 

 

★    春晚　　　　　　　　　春晚　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

寂寥春事冷於秋　　　　寂寥(せきりょう)たる春事 秋よりも冷(ひやや)かなり　

雨打風吹斷送休　　　　雨打ち 風吹きて 断送し休(きゅう)す　

點檢梨花成一夢　　　　点検すれば 梨花 一夢と成る　

蘸紅新綠滿枝頭　　　　蘸(さん)紅(こう) 新緑 枝頭(しとう)に満つ

 

【語釈】

○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○春事…春の楽しいこと。○断送…すて送る。うちやる。○蘸紅…水に浸したような紅。

 

★    春晚　　　　　　　　　春晩　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

青梅如豆带烟垂　　　　青梅 豆の如く 煙を带びて垂る　

紫蕨成拳著雨肥　　　　紫(し)蕨(び) 拳(けん)を成して 雨に著(つ)きて肥(こえ)たり　

只有小橋楊柳外　　　　只だ 小橋 楊柳の外(ほか)に有り　

杏花未肯放春歸　　　　杏花 未だ 肯えて 春を放ちて帰らず

 

【語釈】

○烟…霞、靄。○紫蕨…わらび。

 

 

★    春晚　　　　　　　　　 春晚　　　　　　　　　　　　　　  宋　　僧道潜

 

曉風池沼水瀾翻　　　　曉風 池沼(ちしょう) 水 瀾翻(らんほん)　

春盡淮南麥秀寒　　　　春尽き 淮(わい)南(なん) 麦秀 寒し　

院落無人日亭午　　　　院落(いんらく) 人無く 日 亭(てい)午(ご)　

柳花如雪滿闌干　　　　柳花 雪の如く 闌干に満つ

 

【語釈】

○瀾翻…水や波が飜るさま。○淮南…安徽省淮南市。○麥秀…麦が良く生長し、まだ実らない状態。○麥秀…延びた麦。○院落…門や塀で囲った屋敷の中の中庭。○亭午…正午。○柳花…柳絮。

 

★    暮春　　　　　　　　　暮春　　　　　　　　　　　　　　　  元　　貢性之

 

吴娃二八正嬌容　　　　吴娃(ごあい) 二八(にはち) 正に嬌(きょう)容(よう)　

鬥草尋花趁暖風　　　　草と鬥(たたか)い 花を尋ねて 暖風を趁(お)う　

日暮歸來春困重　　　　日暮れて 帰り来れば 春困(しゅんこん) 重し　

鞦韆閒在月明中　　　　鞦韆(しゅうせん) 閑かに 月明の中(うち)に在り

 

【語釈】

○吴娃…呉の地方の美女。呉姫。○二八…十六歳。○嬌容…美しい容姿。○鬥草…草花を採る。○趁…おいかける。後に付いていく。○春困…春の日のけだるさ。○鞦韆…ぶらんこ。

 

 

★    暮春　　　　　　　　暮春　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　貢性之

 

惜花公子愛春晴　　　花を惜しむ公子 春(しゅん)晴(せい)を愛す　

駿馬驕嘶曉出城　　　駿馬(しゅんめ) 驕嘶(きょうせい)して 暁に城を出ず　

半醉歸來人共看　　　半ば酔いて 帰り来たれば　人 共に看る

笑將金彈打流鶯　　　笑って 金弾を将(も)って 流(りゅう)鶯(おう)を打つ

 

【語釈】

○公子…諸侯の諸子。○驕嘶…おごり高ぶって嘶く。○金彈…黄金の弾。○流鶯…飛んでいる鶯。

 

★    暮春　　　　　　　　　暮春　　　　　　　　　　　　　　　  元　　趙　雍

 

綠陰庭院碧窗紗　　　　緑陰の庭院 碧窓の紗

半卷珠簾映晚霞　　　　半ば珠(しゅ)簾(れん)を卷けば 晚(ばん)霞(か)に映ず

芳草萋萋春寂寂　　　　芳草 萋々(せいせい) 春 寂々(せきせき)

東風吹墮落殘花　　　　東風 吹き墮(おと)す 落残(らくざん)の花

 

【語釈】

○庭院…やしき。門や塀の中の空き地。○碧窗紗…緑色の窓のカーテン。○珠簾…珠すだれ。○晚霞…夕焼け。○萋萋…草が盛んに茂っているさま。○寂寂…寂しく静かなさま。○東風…春風。○落殘…散り残り。

 

 

★    暮春　　　　　　　　　暮春　　　　　　　　　　　　　　　  清　　朮翼宗

 

江城春色暮萋萋　　　　江城の春色 暮に萋々(せいせい)　

畫閣春風鳥亂啼　　　　画閣(がかく) 春風 鳥 乱れ啼く　

幾片殘紅留不得　　　　幾片の残(ざん)紅(こう) 留まるを得ず　

又随流水過橋西　　　　又た流水に随って 橋(きょう)西(せい)を過ぐ

 

【語釈】

○江城…川辺の町。○春色…春景色。春の気配。○萋萋…草が盛んに生い茂っているさま。○畫閣…絵で彩られた楼閣。○殘紅…散り残りの赤い花。

 

★    暮春即事　　　　　　　暮春即事　　　　　　　　　　　 　　 宋    楊萬里

 

花時追賞夜將朝　　　　花時 追賞(ついしょう)すれば 夜 将(まさ)に朝ならんとす　

花過遅眠日儘高　　　　花過ぎて遅眠(ちみん)すれば 日 已に高し　

又與山禽爭口腹　　　　又た 山禽(さんきん)と 口腹(こうふく)を争い　

執竿挾彈守櫻桃　　　　竿(さお)を執(と)って 弾を挾み 桜桃を守らん

 

【語釈】

○花時…花の咲く時節。○追賞…賞を追い求めること。○遅眠…遅く寝る。○山禽…山に棲む鳥。○口腹…飲食。

 

 

★    暮春雜興　　　　暮春雜興　　　　　　　　　　　　　　　　  宋    葛起耕

 

燕子聲中日正長　　　　燕子声中(えんしせいちゅう) 日 正(まさ)に長し　

讀殘書卷亂堆牀　　　　読残(どくざん)の書卷 乱れて牀(ゆか)に堆(うずたか)し　

夢回却愛西窗寂　　　　夢 回りて 却って愛す 西窓の寂(せき)なるを　

閑看松花帯夕陽　　　　閑(しずか)に看る 松(しょう)花(か)の夕陽(せきよう)を帯ぶを

 

【語釈】

○讀殘…読み残し．○書卷…書物。○夢回…夢から覚め来たる。○西窓…寝室の窓。○寂…静か。

 

★    晚春即事              晚春即事                           宋　　高　翥

 

輕煙終日鎖樓臺　　　　軽煙(けいえん) 終日 楼台を鎖ざす　

細雨絲絲半濕苔　　　　細雨 糸(し)々(し)として 半ば苔を湿らす　

杜宇一聲青嶂外　　　　杜宇(とう) 一声 青嶂(せいしょう)の外

谿流時送落花來　　　　谿流(けいりゅう) 時に 落花を送りて来る

 

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○輕煙…軽やかな靄、霞。○細雨…小雨。○絲絲…細いさま。微弱なさま。○杜宇…ホトトギス。○青嶂…屏風のような青山。

 

 

★    暮春即事　　　　　　　暮春即事　　　　　　　　　　　　   宋　　曹　豳

 

門外無人問落花　　　　門外 人無く 落花を問う　

綠陰冉冉遍天涯　　　　綠陰 冉々(ぜんぜん) 天涯に遍(あまね)し　

林鶯啼到無聲處　　　　林(りん)鶯(おう) 啼きて 無声に到る処

春草池塘獨聽蛙　　　　春草の池塘 独(ひと)り蛙を聽く

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○冉冉…次第に進み行くさま。むくむくと動くさま。○天涯…天の果て。ごく遠いところ。○池塘…池の土手。

 

★    暮春雜興　　　　　　　暮春雜興　　　　　　　　　　　　  　元　　善　住

 

雨入孤城草木新　　　　雨は孤城に入りて 草木新なり　

香紅半逐馬蹄塵　　　　香(こう)紅(こう)は 半ば 馬蹄の塵を逐(お)う　

卻憐杜宇無情甚　　　　卻って憐れむ 杜宇(とう)の無情の甚(はなはだ)しきを　

不解迎春祇送春　　　　春を迎うを解せず 祇(た)だ春を送る　

 

【語釈】

○孤城…ぽつんとある街。○香紅…花。○逐…追いかける。○杜宇…ホトトギス。○無情…心情がない。○祇…ただ～だけである。

 

 

★    暮春雜興　　　　　　　暮春雜興　　　　　　　  　　　　　　元　　善　住

 

紅藥花開春欲歸　　　　紅薬 花開きて 春 帰らんと欲す　

綠楊陰暗燕爭飛　　　　緑楊 陰(かげ)暗くして　燕 争いて飛ぶ　

晚來一陣東風雨　　　　晚来(ばんらい) 一陣 東風の雨　

又送餘寒上客衣　　　　又た 余寒(よかん)を送りて 客(かく)衣(い)に上る

 

【語釈】

○紅藥…芍薬。○晚來…日暮れ時、來は助字。○東風…春風。○餘寒…春先の寒さ。○客衣…旅の衣。

 

★    暮春吟　　　　　　　　暮春吟　　　　　　　　　　　　　　  宋　　邵　雍

 

林下居常睡起遲　　　　林下の居(きょ) 常に 睡起(すいき) 遅し　

那堪車馬近來稀　　　　那(な)んぞ堪えん　車馬の近く来(きた)ること稀なるに　

春深晝永簾垂地　　　　春深く 昼永く 簾(すだれ) 地に垂る　

庭院無風花自飛　　　　庭院 風 無く 花 自(おのずか)ら飛ぶ

 

○睡起…睡りから醒めること。○庭院…やしき、門や塀の内側の空地。

 

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　　  明　　蘇　濂

 

新筍抽林與屋齊　　　　新筍 林を抽(ぬ)きて屋と斉(ひと)し　

亂紅飛過畫欄西　　　　乱紅 飛び過ぐ 画欄(がらん)の西　

流鶯不管春来去　　　　流鶯は管せず 春の来りて去るに　

坐向綠陰深處啼　　　　坐して 緑陰深き処に向(お)いて啼く

 

【語釈】

○亂紅…乱れ飛ぶ赤い花。○画欄…彩られた欄干。○流鶯…ウグイス。○不管…関わりない。意に介しない。

 

 

 

 

 

★    春感　　　　　　　　　春感　　　　　　　　　　　　　　　  明　　潘　高

 

江水悠悠泛畫橈　　　　江水 悠々(ゆうゆう) 画橈(がとう)を泛(うか)ぶ　

東風何處不魂銷　　　　東風 何れの処か 魂銷(しょうこん)せざる

春歸萬里無消息　　　　春帰り 万里 消息無し　

又過垂楊舊板橋　　　　又た過ぐ 垂楊の旧板橋(きゅうはんきょう)

 

【語釈】

○悠悠…ゆったりしたさま。○畫橈…画船、いろどられた船。○東風…春風。○魂銷…魂が消える。○春歸…春が過ぎ去る。○消息…音信。便り。○板橋…木で作った橋。

 

★    春殘　　　　　　　　　春 残る                            清　　張　藻

 

棐几熏爐百衲琴　　　　棐几(ひき) 熏炉(くんろ) 百衲(ひゃくのう)琴(きん)　

綠陰門巷晝沈沈　　　　綠陰の門(もん)巷(こう) 昼 沈々　

春來小苑無人掃　　　　春来(しゅんらい) 小苑 人の掃(はら)う無く　

花落窓前一寸深　　　　花落ちて 窓前 一寸の深(しん)

 

【語釈】

○棐几…かやの木で作った机。○熏爐…香を焚く炉。○百衲琴…桐を膠で繋いで作った琴。○門巷…家の門とちまた。○沈々…静寂なさま。○春來…春のうち、來は助字。

 

 

★    送春　　　　　　　　　春を送る　　　　　　　　　　　　　  唐　　羅　鄴

 

欲別東風剩黯然　　　　東風に別れんと欲して 剰(あま)つさえ 黯(あん)然(ぜん)たり　

亦知春去有明年　　　　亦(ま)た知る 春去りて 明年有るを　

世間爭那人先老　　　　世間 争那(いかん)せん 人 先に老ゆるを　

更對殘花一醉眠　　　　更に 残花に対して 一酔眠る

 

【語釈】　

○東風…春風。○剩…あまつさえ。○黯然…気が晴れないさま。○世間…世の中。○爭那…どうしようか。どうしようもない。○殘花…散り残りの花。

 

惜春　　　　　　　　春を惜しむ　　　　　　　　　　　　　   元　　黃　庚

 

新綠園林雨過時　　　新緑の園林 雨 過ぐる時　

黃鸝無語恨春歸　　　黃鸝(こうり) 語無く春の帰るを恨む　

楊花怕逐東風去　　　楊花 東風を逐(お)いて去ることを怕(おそ)れ　

搭住欄干不肯飛　　　欄干に搭住(とうじゅう)して 肯えて飛ばず

 

【語釈】

○黃鸝…高麗ウグイス。○春歸…春が過ぎ去る。○楊花…柳絮。○逐…追う。従う。○搭住…懸かり留まる。

 

 

★    三月盡日　　　　　　　三月尽日(じんじつ)　　　　　　　　　　　　　  唐　　李昌符

 

江頭從此管弦稀　　　　江頭 此(こ)れ従(よ)り 管弦 稀(まれ)なり

散盡遊人獨未歸　　　　遊人 散じ尽くして 独り未だ帰らず

落日已將春色去　　　　落日 已に春色を将(も)って去り

殘花應逐夜風飛　　　　残花 応(まさ)に夜風を逐(お)いて飛ぶべし

 

【語釈】

○盡日…月の終わりの日。○江頭…川のほとり。○遊人…遊び楽しむ人。○遊人…春景色、春の気配。○殘花…散り残りの花。○應…「まさに～すべし」と読み、この場合推量（きっと～に違いない）を示す。○逐…追う、従う。

 

★    憶春　　　　　　　　　春を憶(おも)う　　　　　　　　　　　　　  元　　馬　臻

 

斷畦零落薺花明　　　　断(だん)畦(けい) 零落(れいらく)して 薺(せい)花(か) 明(めい)なり　

雨過平湖水漸生　　　　雨は平湖を過ぎ 水 漸(ようや)く生ず　

坐久忽思春去遠　　　　坐すこと久しくて　忽(たちま)ち春去(しゅんきょ)の遠きを思う　

綠陰濃淡隱啼鶯　　　　綠陰 濃淡 啼(てい)鶯(おう)を隠す

 

【語釈】

○斷畦…切り立ったあぜ。○零落…草樹が枯れ落ちこと。落ちぶれること。○薺花…なずなの花。○平湖…平らな湖。○春去…春が過ぎ去ること。○啼鶯…鳴いている鶯。

 

★    立夏日作　　　　　　　立夏の日の作　　　　　　　　　　   宋　　謝　薖

 

小簟含風六尺牀　　　　小簟(しょうてん) 風を含む 六尺の牀　　

竹奴從此合專房　　　　竹(ちく)奴(ど) 此こ従(よ)り 房を専(もっぱ)らにせしむ　　　　

吾身瓠落都無用　　　　吾が身 瓠落(かくらく) 都(すべ)て無用　

占得山間一味凉　　　　占め得たり 山間 一味の凉

 

【語釈】

○簟…竹で編んだ筵。○竹奴…涼を取るために牀席に置く竹籠、竹夫人、竹姫。○合…「まさに～せしむべし」と読み、「そうあるべき、そうあるはずだ。」と訳す。○瓠落…浅く平らで物を入れられないさま。入り用のものなど全くないこと。

 

 

★    初夏　　　　　　　　　初夏　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　司馬光

 

四月清和雨乍晴　　　　四月 清和 雨 乍(たちま)ち晴れ　

南山當戶轉分明　　　　南山 戶に当って 転(うた)た分明(ぶんめい)　

更無柳絮隨風起　　　　更に 柳絮(りゅうじょ)の 風に因(よ)って起る無く　

惟有葵花向日傾　　　　惟(た)だ 葵(き)花(か)の日に向って傾く 有るのみ

 

【語釈】

○清和…天候の調子がとれて爽やかなこと。○當戶…部屋の入り口のすぐ間近な処まで。○葵花…ひまわり。

（参考文献）『漢詩鑑賞辞典』

 

★    初夏　　　　　　　　　初夏　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　曾　鞏

 

雨過橫塘水滿堤　　　　雨は橫塘(おうとう)を過ぎて 水は堤に満つ

亂山高下路東西　　　　乱山(らんざん)高下(こうげ) 路の東西　

一番桃李花開後　　　　一番の桃李 花開く後　

惟有青青草色齊　　　　惟だ 青々 草色の斉(ひと)しき有るのみ

 

【語釈】

○橫塘…江蘇省南京市の西南にある堤。

（参考文献）　『和漢名詩選類評釈』

 

初夏　　　　　　　　　　初夏　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝五娘

 

啼鳥聲中午夢回　　　　啼(てい)鳥声中(ちょうせいちゅう) 午夢回(かえ)る　

篆香重撥已成灰　　　　篆(でん)香(こう) 重ねて撥(はね)て 已に灰と成る　

東風似恨春歸去　　　　東風 春の帰り去るを恨むに似て　

吹送楊花入戸來　　　　楊花を吹き送り 戸に入りて来(きた)る

 

【語釈】

○夢回…夢が覚める。○篆香…香の一種。○東風…春風。○楊花…柳絮。

 

 

★    初夏　　　　　　　　　初夏　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝五娘

 

庭院薰風枕簟清　　　　庭院の薫風 枕(ちん)簟(てん)清し　

海榴初發雨初晴　　　　海榴(かいりゅう) 初めて発(ひら)き 雨 初めて晴る　

香銷夢斷人無那　　　　香 銷(き)え 夢 絶えて 人 那(いかん)ともする無し　

聽得新蟬第一聲　　　　聴き得たり 新蝉の第一声

 

【語釈】

○庭院…やしき、門や塀の内側の空地。○枕簟…枕とたかむしろ。寝具。○海榴…ざくろ、石榴。○無那…どうしようもない。

 

 

★    初夏即事　　　　　初夏即事　　　 　　　　　　　　　　　　 宋　　王安石

 

石梁茅屋有彎碕　　　　石(せき)梁(りょう) 茅屋(ぼうおく) 彎碕(わんき)あり　

流水濺濺度兩陂　　　　流水 濺々(せんせん)として 両陂(りょうひ)を度(わた)る　

晴日暖風生麥氣　　　　晴日 暖風 麦(ばく)気(き)を生じ　

綠陰幽草勝花時　　　　緑陰 幽草 花(か)時(じ)に勝(まさ)れり

 

【語釈】

○石梁…石橋。○茅屋…茅葺きの家。○彎碕…曲がった岸。○濺濺…水が勢いよく流れるさま。○兩陂…両岸の土手。○麥氣…麦の穂を渡る風の香り。麦の伸びる陰暦四月頃の気候。○花時…花が咲き誇る頃。

（参考文献）　　『漢詩鑑賞辞典』

 

★    早夏　　　　　　　　　早夏　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳　造

 

安石榴花猩血鮮　　　　安石(あんせき)榴(りゅう)花(か) 猩(しょう)血(けつ) 鮮なり

凉荷高葉碧田田　　　　凉(りょう)荷(か) 高葉 碧 田々(でんでん)　

鰣魚入市河豚罷　　　　鰣(じ)魚(ぎょ) 市に入りて 河豚(かとん) 罷(や)む　

已破江南打麥天　　　　已に破る 江南 打(だ)麦(ばく)の天

 

【語釈】○安石榴…ザクロの一種。○猩血…真っ赤な色。○凉荷…涼しい蓮の葉。○田田…蓮など水草がの広い葉が水に浮かんでいるさま。○鰣魚…このしろ。○河豚…ふぐ。○打麥…麦を刈り入れる。麦を打つ。

 

★    山居首夏　　　　　　　山居の首(しゅ)夏(か)　　　　　　　　　　　　  元　　李　祁

 

東風滿意綠週遭　　　　東風 満意 緑 週遭(しゅうそう)　

乍著單衣脫敝袍　　　　乍(たちま)ち 単衣(たんい)を着(ちゃく)し 敝袍(へいほう)を脱す　

最愛晚涼新浴罷　　　　最も愛す 晚(ばん)涼(りょう) 新たに浴を罷(や)めて　

坐看春筍過林高　　　　坐して看る 春(しゅん)筍(じゅん)の林を過ぎて高きを

 

【語釈】

○首夏…夏の初め、初夏、孟夏。○東風…春風。○週遭…あたり一面。○滿意…意に満ちる。心から満足する。○単衣…ひとえの着物。○敝袍…破れどてら。○春筍…春の筍

 

 

★    即事　　　　　　　　　即事　　　　　　　　　　　　　　   元　　趙孟頫

 

湘簾踈織浪紋稀　　　　湘(しょう)簾(れん) 踈(まばら)に織りて 浪(ろう)紋(もん) 稀(まれ)なり　

白苧新裁暑氣微　　　　白苧(はくちょ) 新たに裁えて 暑気 微(び)なり　

庭院日長賓客退　　　　庭院 日長くして 賓客(ひんかく) 退(かえ)り　

繞池芳草燕交飛　　　　池を繞る芳草 燕 交飛す

 

【語釈】

○即事…事に触れて､その場のことを題材にして詩を作る。○湘簾…湘妃竹を用いて織ったすだれ。○浪紋…波の模様。○白苧…白いからむし。○庭院…やしき。門や塀の内側の空地。○賓客…おきゃく。

 

★    夏意  　　　　　　　　夏意　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇舜欽

 

別院深深夏簟清　　　　別院 深々として 夏簟(かてん) 清し　

石榴開遍透簾明　　　　石榴 開くこと遍(あまね)く 簾(すだれ)に透りて明(あきらか)なり　

樹陰滿地日亭午　　　　樹陰 地に満ち 日は亭午　

夢覺流鶯時一聲　　　　夢 覚(さ)むれば 流鶯 時に一声

 

【語釈】

○別院…別の建物。○夏簟…夏に用いる竹製のむしろ。○石榴…ざくろ。○亭午…正午。○流鶯…枝を繞る鶯。

 

 

★    揚州端午呈趙帥　　　　揚州(ようしゅう)にて端午(たんご)に趙(ちょう)帥(し)に呈す　　　　  宋　　戴復古

 

榴花角黍鬭時新　　　　榴(りゅう)花(か) 角(かく)黍(しょ) 時(じ)新(しん)を闘わせ　

今日誰家不酒樽　　　　今日 誰(た)が家か 酒樽(しゅそん)あらず

堪笑江湖阻風客　　　　笑うに堪えたり 江湖 風に阻(はば)まる客(かく)　

却隨蒿艾上朱門　　　　却って 蒿(こう)艾(がい)に隨って 朱門に上る

 

【語釈】

○揚州…江蘇省揚州市。○端午…陰暦五月五日の節句。○趙帥…趙という姓の師、不祥。○榴花…ザクロの花。○黍鬭…ちまき。○時新…そのとき新しく出た品、はしり。○蒿艾…よもぎ。○朱門…高位高官のやしき。

 

 

★    夏景　　　　　　　　　夏景　　　　　　　　　　　　　　　  明　　宣　宗

 

暑雨初過爽氣清　　　　暑雨 初めて過ぎて 爽(そう)気(き) 清し　

玉波蕩漾畫橋平　　　　玉波 蕩漾(とうよう)として 画橋 平かなり　

穿簾小燕雙雙好　　　　簾(れん)を穿(うが)つ小燕(しょうえん) 双々 好し　

泛水閑鷗箇箇輕　　　　水に泛かぶ閑鷗(かんおう) 箇々軽ろし

 

【語釈】

○爽氣…さわやかな気分。○玉波…波の美称。○蕩漾…ただようさま。揺らぐさま。○畫橋…彩られた橋。○雙雙…二羽ずつ。○閑鷗…のんびりしたかもめ。○箇箇…おのおの。

 

★    夏日　　　　　　　　　夏日　　　　　　　　　　　　　　　  明　　蘭廷瑞

 

終日憑欄對水鷗　　　　終日 欄に憑(よ)り 水鷗(すいおう)に対す　

園林長夏似深秋　　　　園林の長夏(ちょうか) 深秋に似たり　

槐龍細灑鵝黃雪　　　　槐(かい)龍(りゅう) 細(こまか)に洒(あら)う 鵝黃(がこう)の雪　

涼意蕭蕭風滿樓　　　　涼(りょう)意(い) 蕭々(しょうしょう)　風 楼に満つ　

 

【語釈】

○憑…寄りかかる。○長夏…昼の長い夏の日。陰暦六月。○槐龍…龍のような老木の槐樹。○鵝黃…ここでは柳のこと？鵝黃雪は柳絮？○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。

 

★    夏日雜題　　　　　　夏日雜題　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

午夢初回理舊琴　　　午夢(ごむ) 初めて回(かえ)り 旧琴を理(おさ)む　

竹爐重炷海南沈　　　竹炉 重ねて炷(た)く 海南沈　

茅簷三日蕭蕭雨　　　茅簷(ぼうえん) 三日 蕭々の雨　

又展芭蕉數尺陰　　　又た展(の)ぶ 芭蕉 数尺の陰

 

【語釈】　

○午夢…昼寝の夢。○回…夢が覚める。○炷…香などを焚く。○海南沈…沈香の一種。○茅簷…茅葺きのノキ。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○展…伸びる。

 

 

★    夏日雜題　　　　　　　夏日雜題　　　　　　　　　　　　　  明　　唐　寅

 

長夏山村詩興幽　　　　長夏の山村 詩興(しきょう) 幽なり

趁涼多在碧泉頭　　　　涼を趁(お)い 多くは 碧泉の頭(ほとり)に在り

松陰滿地凝空翠　　　　松陰 地に満ち 空翠を凝(ぎ)す

肯逐朱門褦襶流　　　　肯えて逐わんや  朱門褦襶(しゅもんだいたい)の流れ

 

【語釈】

○長夏…昼の長い夏の日。陰暦六月。○碧泉…清い泉。○空翠…滴るような碧色を呈すること。高い木の緑色。○朱門褦襶…暑い日に盛服を着て高位高官の家を訪れるような愚か者。

 

★    夏日偶題　　　　　　　夏日偶題　　　　　　　　　　　　　  明　　豐　坊

 

金鴨香銷夏日長　　　　金(きん)鴨(こう) 香 銷(き)えて 夏日(かじつ) 長し　

抛書高卧北窗涼　　　　書を抛(なげう)ちて高卧(こうが)す 北窓(ほくそう)の涼(りょう)　

曉来驟雨山頭過　　　　曉来(ぎょうらい)の驟雨(しゅうう) 山頭を過ぐ

梔子花開滿院香　　　　梔子(しし) 花開いて 満院 香(かんば)し

 

【語釈】

○金鴨…鴨の形をした金属(銅)製の香炉。○高卧…枕を高くして横になる。○曉来…明け方から。○驟雨…にわか雨。○梔子…くちなし。○満院…中庭一杯。

 

 

★    己未夏日雜興　　　　　己(き)未(び)夏日雜興　　　　　　　　　　　  元　　善　住

 

纖纖碧草與階齊　　　　纖々(せんせん)たる碧草 階と斉(ひと)し　

濃綠陰中杜宇啼　　　　濃緑(のうりょく)陰中(いんちゅう) 杜宇(とう) 啼く　

花院晝長聽正好　　　　花院 昼長くして 聽くこと正(まさ)に好し　

帶聲飛過粉牆西　　　　声を帯びて 飛び過ぐ 粉牆(ふんしょう)の西

 

【語釈】

○己未…干支の一つで、つちのとひつじの年。○纖纖…細いさま。か細いさま。○階…きざはし。○杜宇…ホトトギス。○花院…花木を育成する園。○粉牆…白く塗った塀。

 

★    山亭夏日　　　　　　　山亭の夏日(かじつ)　　　　　　　　　　　　  唐　　高　駢

 

綠樹陰濃夏日長　　　　緑樹 陰(かげ) 濃(こまやか)にして 夏日(かじつ) 長し　

樓臺倒影入池塘　　　　楼台 影を倒(さかしま)にして 池塘(ちとう)に入る

水晶簾動微風起　　　　水晶の簾(れん) 動いて 微風 起り

一架薔薇滿院香　　　　一架(いっか)の薔薇(しょうび) 満院 香し

 

【語釈】

○山亭…山の別荘。○陰濃…木々の葉が生い茂って暗くなっていること。○池塘…大きな池。○一架…棚一杯の。○薔薇…バラ。○滿院…中庭一杯。

 

★    夏夜追凉　　　　　　　夏夜(かや) 凉を追う       　　　　　　　　宋　　楊萬里

 

夜熱依然午熱同　　　　夜熱 依然として 午熱に同じ　

開門小立月明中　　　　門を開いて小立す 月明の中(うち)　

竹深樹密蟲鳴處　　　　竹深く 樹 密なり 虫の鳴く処

時有微涼不是風　　　　時に微(び)涼(りょう)有り 是れ 風ならず

 

【語釈】

○追凉…涼しさを求める。○夜熱…夜の暑さ。○午熱…正午頃の暑さ。○小立…しばらくの間、立ったままでいる。○月明…月明かり。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』『漢詩大系』

 

★    夏夜　　　　　　　　　夏夜　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

河漢微明星乍稀　　　　河漢(かかん) 微(かす)かに明るく 星 乍(たちま)ち稀なり

碧蓮香濕襲人衣　　　　碧(へき)蓮(れん) 香 湿(しめ)りて 人衣を襲う

夜凉如水琉璃滑　　　　夜凉(やりょう) 水の如く 琉璃(るり) 滑(ぬめらか)なり

自起開窗放月歸　　　　自(みずか)ら起き 窓を開いて 月を放(ほしいまま)にして帰る

 

【語釈】

○河漢…銀河。○碧蓮…緑色の蓮。

 

 

★    大暑　　　　　　　　　大暑　　　　　　　　　　　　　　　  金　　趙　元

 

旱雲飛火燎長空　　　　旱(かん)雲(うん) 火を飛ばし 長空を燎(や)く　

白日渾如墮甑中　　　　白日 渾(すべ)て 甑中(そうちゅう)に堕つるが如し　

不到廣寒氷雪窟　　　　広寒の氷雪の窟(いわや)に到らずんば　

扇頭能有幾多風　　　　扇頭(せんとう) 能く 幾多の風 有らんや

 

【語釈】

○大暑…二十四節季の一つ。新暦七月二十三日頃。夏のひどい暑さ。○旱雲…ひでり雲。○長空…大空。○白日…耀く太陽。○甑中…こしきの中。○廣寒…尽きにあるとされる広寒府という宮殿。○氷雪窟…ひむしろ。○扇頭…扇の面の上。

(参考文献)　　『和漢名詞選類評釈』

 

★    暑夜　　　　　　　　　暑夜　　　   　　　　　　　　　　　明　　釋宗泐

 

此夜炎蒸不可當　　　　此の夜 炎(えん)蒸(じょう) 当たるべからず

開門高樹月蒼蒼　　　　門を開けば 高樹 月 蒼々(そうそう)

天河只在南樓上　　　　天河は 只だ南楼の上に在り

不借人間一滴涼　　　　借さず 人間(じんかん) 一滴の涼

 

【語釈】

○炎蒸…蒸し暑さ。○不可當…耐えられない。敵わない。○蒼蒼…月の青白い色の形容。○天河…天の川。○人間…人間社会。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

 

★    夏興　　　　　　　　　夏興　　　　　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

梧桐月影上紗窓　　　　梧桐(ごとう)の月影 紗(しゃ)窓(そう)に上る　

涼露微侵暑氣峰　　　　涼(りょう)露(ろ) 微(かす)かに侵す 暑気峰　

草際蛩聲纔喞卿　　　　草(そう)際(さい)の蛩声(きょうせい) 纔(わずか)に喞(しょく)卿(きょう)　

林間螢火故雙雙　　　　林間の螢(けい)火(か) 故(ことさら)に双々(そうそう)

 

【語釈】

○梧桐…桐とあおぎり。○紗窓…薄絹を張った窓。○暑氣…夏の暑さ。○蛩聲…コオロギの声。○喞卿…かすかな声。○雙雙…二つずつ。

 

★    六月念三日立秋　　　　六月念三日 立秋                    宋　　楊萬里

 

暑中剩喜立秋初　　　　暑中 剰喜(じょうき)す 立秋の初(はじめ)　

特地西風半點無　　　　特地 西風 半点も無し　

旋汲井華澆睡眼　　　　旋(ほしいまま)に井華を汲んで 睡(すい)眼(がん)に澆(そそ)ぎ　

灑將荷葉看跳珠　　　　荷葉に灑将(れいしょう)して跳(ちょう)珠(じゅ)を看ん

 

【語釈】

○念三日…二十三日。念は二十。剰喜…盛んに喜ぶ。○立秋初…立秋は二十四節季の一つで、新暦八月八日頃を言うが、次の処暑までの期間を言うこともあり、ここでは、その始め、即ち立秋の日を言う。○特地…特に、ことさら。地は助字。○半點…少しばかり。○井華…朝最初に汲んだ井戸水。この水を用いれば顔色が良くなると言う。○灑將…そそぐ。將は助字。○跳珠…おどる水滴。

 

 

★    立秋　　　　　　　　立秋　　　　　　　　　　　　　　    明　　龔　朂

 

煙雲暗澹仲宣樓　　　　煙雲 暗澹(あんたん)たり 仲宣(ちゅうせん)楼(ろう)　

荏苒年華逝水流　　　　荏苒(じんぜん)たる年(ねん)華(か) 逝水流る　

白首鄉山千里外　　　　白首の鄉山 千里の外(ほか)　

滿城風雨又新秋　　　　満城の風雨 又た新秋

 

【語釈】

○煙雲…霞と雲。かすかに煙った景色。○暗澹…暗くてはっきりしないさま。暗くて静かなさま。○仲宣樓…楼の名。湖北省当陽県の東南にある。王粲が「登楼賦」を作った。○荏苒…歳月の長引くさま。○年華…年月。○逝水…流れ去る川の水。再び帰らない物のたとえ。○白首…白髪頭の老人。鄉山…郷土の山。

 

 

★    早秋　　　　　　　　　早秋　　　　　　　　　　　　　　　  元　　劉　因

 

昨朝一葉見秋生　　　　昨朝 一葉(いちよう) 秋の生ずるを見る　

今日千巖萬壑清　　　　今日 千巌万壑(せんがんばんがく) 清し　

欲借西風蘇病骨　　　　西風を借りて 病骨を蘇(よみがえ)らせんと欲し　

暫來石上聽松聲　　　　暫(しばら)く石上に来たりて松声(しょうせい)を聽く

 

【語釈】

○千巖萬壑…多くの山々。○西風…秋風。○病骨…病気の身。

 

 

★    新秋　　　　　　　　　新秋　　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　泰

 

暑退新涼透碧紗　　　　暑(しょ) 退いて 新涼 碧紗(へきさ)に透る　

砧聲不斷是誰家　　　　砧声(ちんせい) 絶えざるは 是れ 誰が家ぞ　

酒醒小立殘陽裏　　　　酒 醒(さ)めて 小立す 残(ざん)陽(よう)の裏(うち)　

閒數籬邊紫豆花　　　　閑かに数う 籬(り)辺(へん)の紫(し)豆(とう)花(か)

 

【語釈】

○新涼…秋の初めの涼しさ。初秋の涼風。○碧紗…緑色の薄絹のカーテン。○砧聲…衣を打つ砧の音。○小立…ちょっと立ち止まる。○小立…しばしたたずむ。○殘陽…沈みかけの夕陽。○籬邊…垣根のあたり。○紫豆花…ベニバナインゲン。

 

★    初秋　　　　　　　　　初秋　　　　　　　　　　　　　　　  清　　張實居

 

颯颯西風吹薜蘿　　　　颯颯たる西風 薜蘿(へいら)を吹く　

炎天伏枕一時過　　　　炎天(えんてん) 枕に伏し 一時に過ぐ

山中事事秋來好　　　　山中 事々 秋来好し　

只恐浮雲變態多　　　　只だ恐る 浮雲の 変態の多きを

 

【語釈】

○颯颯…風がさっと吹く形容。○西風…秋風。○薜蘿…華面、蔓草の一種。隠者の衣服、住居。○事事…その時その時に。○秋來…秋になってから。○変態…いろいろに形を変えること。

 

 

 

★    七夕　　　　　　　　　七夕(ひちせき)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　郢

 

烏鵲橋頭雙扇開　　　　烏鵲(うじゃく)橋頭(きょうとう) 双扇(そうせん) 開く　

年年一度過河來　　　　年々 一度 河を過って来たる　

莫嫌天上稀相見　　　　嫌う莫かれ 天上 相い見ること稀なるを　

猶勝人間去不回　　　　猶お勝(まさ)る 人間(じんかん) 去りて 回(かえ)らざるに

 

【語釈】

○烏鵲橋…かささぎの橋。七夕の夜に、牽牛と織女が天の川で出会うとき、かささぎがその翼で橋をかけるという。○雙扇…牽牛と織女の扇。○人間…人間社会。

 

★    七夕　　　　　　　　　七夕(ひちせき)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

天上銀蟾曲似釣　　　　天上の銀蟾(ぎんせん) 曲りて釣(こう)に似たり　

萬家簫鼓響新秋　　　　万家の簫(しょう)鼓(こ) 新秋に響く　

従來世事皆児戯　　　　従来 世事(せじ) 皆 児戯　

不獨人間乞功樓　　　　独り 人間(じんかん)の乞(きっ)功(こう)楼(ろう)のみならず

 

【語釈】

○銀蟾…月の異称。月にはヒキガエルがいるということから。○釣…つりばり。○簫鼓…管弦。音楽。○従來…かねてより。○世事…世の中の事。○乞功樓…七夕の日に庭に建てる彩飾を施した櫓。

 

 

★    七夕　　　　　　　　　 七夕　　　　　　　　　　　　　　  金　　邊元勲

 

髙樓人散酒罇空　　　　髙楼 人は散じ 酒罇(しゅそん)空し　

漫擬新文送五窮　　　　漫(まん)に擬す 新文の五窮(ごきゅう)を送るを　

獨倚南窗夜岑寂　　　　独り 南窓に倚(よ)りて 夜 岑(しん)寂(せき)　

一鈎涼月下疎桐　　　　一(いっ)鈎(こう)の涼(りょう)月(げつ) 疎(そ)桐(とう)を下る

 

【語釈】

○酒罇空…酒樽は空っぽ。○新文…新たに作った文。○五窮…智窮、學窮、文窮、命窮、交窮。○岑寂…ひっそりとして寂しい。○一鈎涼月…一つの釣り針のような涼しい月。○疎桐…まばらな桐の林。

 

★    和人七夕　　　　　　　人の七夕に和す　　　　　　　　　  宋　　胡　仔

 

乞巧筵開玉露秋　　　　乞(きっ)巧(こう) 筵(えん)を開く 玉露の秋　

一鈎凉月掛西樓　　　　一(いっ)鈎(こう)の凉月 西楼に掛かる　

人間百巧方無奈　　　　人間(じんかん) 百巧 方(まさ)に 奈(いかん)ともする無し　

寄語天孫好罷休　　　　語を寄す 天孫 好みて罷休(ひきゅう)せよと

 

【語釈】

○乞巧…七夕に、人家の女が、綵縷を結び、七孔の鍼をち、几・酒脯・果を中に陳(つら)ねて、以て巧を乞う祭り。○筵…宴席。○一鈎凉月…一つの釣り針のような涼しい月。○方…まさしく。○無奈…どうしようもない。○天孫…織女星。○罷休…仕事を休む。

 

 

★    中元弄月　　　　　　　中元 月を弄(もてあそ)ぶ　　　　　　　　　  清　　張光啓

 

小臺露坐月東生　　　　小台に露坐(ろざ)すれば 月 東に生ず　

松影參差酒數行　　　　松影 參差(しんし)として 酒 数行(すうこう)　

且向今宵邀一醉　　　　且って 今宵(こんしょう)に向(お)いて 一酔を邀(むか)う　

中秋未可定陰晴　　　　中秋 未だ 陰晴(いんせい)を定むべからず

 

【語釈】

○中元…陰暦七月十五日。○露坐…屋根のない所に座る。○參差…ふぞろい。○向…於に相当し場所や対象を示す。述語に後置された場合は､置き字として訓読しない。○邀…迎え入れる。○中秋…陰暦八月。○陰晴…曇りと晴れ。

 

 

★    早秋月夜　　　　　　　 　早秋月夜　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

身閑伴月夜深行　　　　身は閑(しずか)にして 月に伴いて 夜 深くして行く　

風觸衣裳四體輕　　　　風は衣裳に触れて 四体軽し　

爲見近來天氣好　　　　近来 天気の好きを見る為に　

幾篇詩興入秋成　　　　幾篇の詩興 秋に入りて成る

 

【語釈】

○近來…このごろ。ちかごろ。○詩興…詩の面白み。風流の楽しみ。ここでは詩。

 

★    社日                  社日                                唐    王  駕

 

鵝湖山下稻粱肥　　　　鵝(が)湖(こ)山下(さんか) 稲粱(とうりょう)肥ゆ　

豚柵雞塒半掩扉　　　　豚(とん)柵(さく) 雞(けい)塒(じ) 半ば扉を掩(と)ざす　

桑柘影斜秋社散　　　　桑(そう)柘(しゃ) 影 斜めにして 秋社散じ　　

家家扶得醉人歸　　　　家々 酔人を扶(たす)け得て帰る

 

【語釈】

○社日…土地神を祀る日。立春後第五の戌の日を春社、立秋後第五の戌の日を秋社という。○鵝湖山…荷湖山ともいう。信州鉛山県、現在の江西省鉛山県にある山。○稻梁肥…晩秋の豊作をいう。梁は穀物。○豚穽…豚を飼っているところ。穽は、穴。豚は坑(あな)で飼われていた。○鷄塒…鶏を飼っているところ。塒は、鳥のねぐら。○桑柘…桑の木。やまぐわ。○影斜…夕暮れをいう語。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    秋思　　　　　　　　　秋思　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　涯

 

網軒涼吹動輕衣　　　　網(もう)軒(けん)の涼吹(りょうすい) 軽衣を動かし　

夜聽更長玉漏稀　　　　夜に聴く 更に長き玉漏(ぎょくろう)の稀(まれ)なるを　

月度天河光轉濕　　　　月は天河を度りて 光 転(うた)た湿(うるお)う　

鵲驚秋樹葉頻飛　　　　鵲(かささぎ)は秋樹を驚かせ 葉 頻(しき)りに飛ぶ

 

【語釈】

○網軒…網で飾られている軒。○涼吹…涼しい風。○玉漏…水時計（美称）の音。○天河…天の川。

 

★    秋思　　　　　　　　　秋思　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　涯

 

宮連太液見蒼波　　　　宮は太(たい)液(えき)に連なり 蒼波(そうは)を見る　

暑氣微消秋意多　　　　暑気 微消(びしょう)して 秋意多し　

一夜輕風蘋末起　　　　一夜 軽風 蘋(ひん)末(まつ)に起き　

露珠翻盡滿池荷　　　　露(ろ)珠(しゅ) 翻(ほん)尽(じん)す 満池の荷(か)

 

【語釈】

○太液…太液池。唐では大明宮の中にあった。○蘋末…てんじそう（うきくさの一種の葉末。○露珠…露の玉。○翻盡…飜る。○荷…蓮の葉

 

 

★    秋思                　秋思　　                            唐　　劉禹錫

 

自古逢秋悲寂寥　　　　古(いにしえ)自(よ)り 秋に逢いて 寂寥(せきりょう)を悲しむ　

我言秋日勝春朝　　　　我は言う　秋日は春朝に勝(まさ)れりと　

晴空一鶴排雲上　　　　晴(せい)空(くう) 一(いっ)鶴(かく) 雲を排して上り　

便引詩情到碧霄　　　　便(すなわ)ち 詩情を引いて碧霄(へきしょう)に到る

 

【語釈】

○秋思…樂府題。普通は旅情、別離の意を含むが、ここでは、秋についての感想という意味。○自古…昔から。○便…たちまち。○碧霄…青空。

（参考文献）『漢詩鑑賞辞典』

 

 

★    秋思　　　　　　　　　秋思　　　　　　　　　　　　　　   唐　　劉禹錫

 

山明水淨夜來霜　　　　山(さん)明(めい) 水(すい)浄(じょう) 夜来の霜

數樹深紅出淺黃　　　　数樹の深紅 浅黃(せんおう)に出ず

試上高樓清入骨　　　　試(こころみ)に高楼に上れば 清(せい) 骨に入る

豈如春色嗾人狂　　　　豈(あ)に人を嗾(そそのか)して 狂せしむ如からんや

 

【語釈】

○秋思…樂府題。普通は旅情、別離の意を含むが、ここでは、秋についての感想という意味。○夜来…昨夜からの。○深紅…濃い紅色。○春色…春景色。春の気配。○豈…どうして～であろうか。反語。

 

★    秋暁　　　　　　　　　秋(しゅう)暁(ぎょう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉　翰

 

亂鴉啼散玉屏空　　　　乱(らん)鴉(あ) 啼き散じ 玉(ぎょく)屏(へい)空し　

一枕新凉一扇風　　　　一枕の新凉 一扇の風　　　　

睡起秋聲無覓處　　　　睡起(すいき)すれば秋声 覓(もと)むる処無く　

滿階梧葉月明中　　　　満階の梧葉 月明の中(うち)

 

【語釈】

○玉屏…美しい屏風。○一枕…一眠り。○新凉…秋に入って始めて感じる涼しさ。○睡起…眠りより起きる。○秋聲…秋の気配を感じさせる風や物の音。○無覓處…どこから起こるのか分からない。○梧葉…アオギリの葉。

 

 

★    秋夕　　　　　　　　　 秋夕(しゅうせき)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　竇　鞏

 

護霜雲破月朦朧　　　　護(ご)霜(そう) 雲 破れて 月 朦朧(もうろう)　

烏鵲爭飛井上桐　　　　烏鵲(うじゃく) 争い飛ぶ 井上(せいじょう)の桐　

半夜酒醒人不覺　　　　半夜 酒 醒(さ)むれば 人 覚えず　

滿池荷葉動秋風　　　　満池の荷(か)葉(よう) 秋風に動く

 

【語釈】　

○護霜…方言で露を結ぶこと。○朦朧…おぼろげなさま。○烏鵲…カササギ。○井上…井戸の上。○人不覺…人影がない。○荷葉…蓮の葉。

 

★    秋夕　　　　　　　　　 秋夕(しゅうせき)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

一雨生凉杜若洲　　　　一雨 凉は生ず 杜若(とじゃく)洲(しゅう)　

月波微漾綠溪流　　　　月波 微(かす)かに漾(うご)く 緑溪(りょくけい)の流(ながれ)　

茅簷歸去無塵土　　　　茅簷(ちえん) 帰り去りて 塵土(じんど)無く　

淡薄閑花遶舍秋　　　　淡(たん)薄(はく)の閑(かん)花(か) 舍を繞(めぐ)りて秋なり

 

【語釈】

○杜若洲…ヤブメウガの生えている中州。○月波…月影の映っている波。○茅簷…茅で葺いたのき。○淡薄…あっさりしている。○閑花…閑雅に咲いた花。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

 

秋夜　　　　　　　　　　秋夜　  　　　　　　　　　　　　　宋　　陳與義

 

中庭淡月照三更　　　　中庭の淡(たん)月(げつ) 三更を照らし　

白露横空河漢明　　　　白露 空に横たわりて 河漢 明(あきら)なり　

莫遣西風吹葉盡　　　　西風をして 葉を吹いて 尽さしむる莫れ

却愁無處著秋聲　　　　却って愁う 秋声を著(あらわ)す処無きを

 

【語釈】

○淡月…おぼろ月。○三庚…午前零時頃。○白露…白露、白い靄、ここでは後者。○河漢…銀河。○西風…秋風。○秋聲…秋の気配を感じさせる物音。○著…あらわす。

〔参考文献〕　『漢詩大系　１６』

 

★    秋夜　　　　　　　　　秋夜　　　　　　　　　　　　　　　  元　　曹之謙

 

寂寂江城夜向闌　　　　寂々(せきせき)たる 江城 夜 闌(たけなわ)に向う　

西風吹雁叫雲端　　　　西風 雁(かり)を吹き 雲端(うんたん)に叫ぶ　

一聲遠過南樓去　　　　一声 遠く過ぎ 南楼に去り　

月滿碧天秋水寒　　　　月は碧天(へきてん)に満ち 秋水寒し

 

【語釈】

○寂寂…ひっそりして物寂しいさま。○江城…川の畔の町。○西風…秋風。

 

 

★    秋夜　　　　　　　　　秋夜　　　　　　　　　　　　　　　  明　　黄姫水

 

蟬歇還驚絡緯鳴　　　　蝉 歇(や)んで 還(ま)た驚く 絡緯(らくい)の鳴くを　

秋風忽已動江城　　　　秋風 忽(たちま)ち已に 江城に動く　

山窓寂寂無眠夜　　　　山窓 寂々(せきせき) 眠る無き夜　

梧葉芭蕉聴雨聲　　　　梧(ご)葉(よう) 芭蕉に 雨声を聴く

 

【語釈】

○絡緯…コオロギ。○江城…川の畔にある町。○江城…川辺の街。○寂寂…ひっそりとして物寂しいさま。○梧葉…あお桐の葉。

 

★    江上秋夜　　　　　　　江上の秋夜　　　　　　　　　　　　  宋　　僧道潜

 

雨暗蒼江晚未晴　　　　雨 暗く 蒼(そう)江(こう) 晚(く)れて未だ晴れず　

井梧翻葉動秋聲　　　　井梧(せいご) 葉を翻えして 秋声動く　

樓頭夜半風吹斷　　　　楼頭 夜半 風 吹断(すいだん)す 　

月在浮雲淺處明　　　　月は 浮雲の浅き処に在りて 明(あきら)かなり

 

【語釈】

○井梧…井戸の傍にあるアオギリ。○秋聲…秋の気配を感じさせる風や物の音。

 

 

★    江亭秋晚　　　　　　　江亭秋晚　　　　　　　　　　　　　  元　　本　誠

 

獨倚清江秋思長　　　　独り 清江に倚(よ)り 秋思長し　

晚潮初上水亭涼　　　　晚潮 初めて上りて 水亭涼し　

海門風起雙巒暝　　　　海門 風起りて 双巒(そうらん)暝(くら)く　

一抹銀花湧夕陽　　　　一抹の銀花 夕陽(せきよう)に湧く

 

【語釈】

○江亭…川に臨む亭。○清江…清い川。○秋思…樂府題。普通は旅情、別離の意を含むが、ここでは、秋についての感想という意味。○水亭…川に臨んだ亭。○海門…川が海に入るところ。○雙巒…二つの峰。○銀花…灯火の形容。

 

★    九日　　　　　　　　　 九日(きゅうじつ)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋應物

 

今朝把酒復惆悵　　　　今朝(こんちょう) 酒を把(と)りて 復(ま)た惆悵(ちゅうちょう)す　

憶在杜陵田舍時　　　　憶いは 杜(と)陵(りょう) 田舍(でんしゃ)の時に在り　

明年九日知何處　　　　明年九日 知んぬ何れの処ぞ　

世難還家未有期　　　　世難 家に還(かえ)りて 未だ期 有らず

 

【語釈】

○九日…九月九日。○惆悵…嘆き悲しむ。○杜陵…長安の南にあった県名，作者の出身地。○田舍…田舎の家。○世難…世の乱れ。

 

★    九日　　　　　　　九日(きゅうじつ)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　諤

 

秋葉風吹黃颯颯　　　秋葉 風吹きて 黃 颯々(さつさつ)　

晴雲日照白鱗鱗　　　晴雲 日照して 白 鱗々(りんりん)

歸來得問茱萸女　　　帰来(きらい) 問い得たり 茱萸(しゅゆ)の女(じょ)　

今日登高醉幾人　　　今日の登高 幾人を酔せわしと

 

【語釈】

○九日宴…陰暦九月九日、重陽の節句。この節句のならわしとして、小高い丘に登り、茱萸を髪にかざし、菊の花を浮かべた酒を飲むなどして一年の厄払いをする習慣があった。○黄 … 黄ばんだ葉。○颯颯 … 風がさっと吹く音。○晴雲 … 秋晴れの空に浮かぶ雲。○日照 … （雲が）日に照らされて。○白 … 白く。○帰来 … 帰り道で。来は助辞。○得問 … 尋ねてみた。得は「～する機会を得た」の意。○茱萸女 … 茱萸を髪にさした女たち。酒宴の席で客の相手をする商売女を指す。○茱萸 … 呉ご茱しゅ萸ゆ。和名カワハジカミ。（参考資料）　　『唐詩選』

 

 

★    九日　　　　　　　　　九日　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

醉來風帽半欹斜　　　　酔来(すいらい) 風帽(ふうぼう) 半ば欹(き)斜(しゃ)す

幾度他鄉對菊花　　　　幾度か 他鄉にて 菊花に対す

最苦酒徒星散後　　　　最も苦なるは 酒(しゅ)徒(と) 星散(せいさん)の後

見人兒女倍思家　　　　人の兒女を見て倍(ますま)す家を思う

 

【語釈】

○九日…九月九日、重陽の節句。○欹斜…そばだち斜めになること。○星散…星の如く四方に散らばる。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

 

★    九日　　　　　　　　　九日(きゅうじつ)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

黄花白髪病中新　　　　黄花(こうか) 白髪 病中に新たなり　

壁上常懸漉酒巾　　　　壁上 常に懸かる 漉酒の巾　

九日空齋似寒食　　　　九日(きゅうじつ) 空(くう)斎(さい) 寒食に似て　

更無風雨亦愁人　　　　更に 風雨無く 亦(ま)た 人を愁えしむ

 

【語釈】

○九日…九月九日。○黄花…ここでは菊をいう。○漉酒巾…酒を漉す布。ここでは陶潜が頭巾で酒を漉した故事に基づき,頭巾をいう。○空齋…空室。○寒食…冬至から一○五日目、この日を挟んで前後の計三日間は火を使うことを禁じた。

 

 

★    九月九日憶山中兄弟　　九月九日 山中の兄弟を憶う　　　　  唐　　王　維

 

獨在異鄉爲異客　　　　独り 異鄉に在って 異客(いかく)となり

每逢佳節倍思親　　　　佳節(かせつ)に逢う毎(ごと)に 倍(ますま)す 親を思う

遙知兄弟登高處　　　　遙かに知る 兄弟(けいてい) 高きに登る処

遍插茱萸少一人　　　　遍(あまね)く 茱萸(しゅゆ)を插(さ)んで一人(いちにん)を少(か)くを

 

【語釈】

○異郷 … よその土地。見知らぬ土地。他郷。ここでは都長安を指す。○異客 … 旅に出て他郷にいる人。作者自身を指す。○佳節 … めでたい日。節句や祝日。ここでは重陽の節句を指す。○倍 … ますます。ふだんの日よりいっそう。

○親 …血のつながりのある人。身内。○遥知 … 遠く離れていてもはっきり知っている。登高 … （重陽の節句の行事で）山に登る。処 … ここでは「～する時」の意。遍 … みんな。○茱萸 … 呉茱萸。和名カワハジカミ。

【参考文献】　『漢詩鑑賞辞典』『唐詩選』

★    九日感懷　　　　　　　九日(きゅうじつ)の感懐 　　　　　　　　　　　   宋　　黃　庚

 

新橙初試蟹螯肥　　　　新橙 初めて試み 蟹螯(かいごう)肥ゆ　

一曲清歌酒一巵　　　　一曲の清歌 酒 一巵(いっし)　

料得故園秋正好　　　　料り得たり 故園の秋 正(まさ)に 好きを　

黃花應怪客歸遲　　　　黃花 応に客帰(かくき)の遅きを 怪しむべし

 

【語釈】

○九日…九月九日。○新橙…実ったばかりの橙。○蟹螯…蟹のはさみ。○巵…さかずき。○故園…故郷。○黃花…この場合は菊。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～であるに違いない。」の意。○客歸…旅人が家に帰る。

 

★    九日示殿卿　　　　　　九日(きゅうじつ) 殿(でん)卿(けい)に示す　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

床頭濁酒浸黄花　　　　床頭(しょうとう)の濁酒 黄花を浸し　

門外蕭條五柳斜　　　　門外 蕭條(しょうじょう)として 五柳斜なり　

此日登高人盡醉　　　　此の日 登高の人 尽(ことごと)く酔い

不知秋色在陶家　　　　知らず 秋色の陶家(とうか)に在るを

 

【語釈】

○九日…九月九日。○殿卿…殿方。○黄花…この場合は菊。○蕭條…物静かなさま。○五柳…五本の柳。陶淵明の庭には五本の柳があった。○秋色…秋景色、秋の気配。○陶家…陶淵明の家。

 

★    九日同于鱗賦　　　　　九日(きゅうじつ) 于(う)鱗(りん)と同に賦(ふ)す　　　　　　　  明　　呉國倫

 

秋深木落雁南飛　　　　秋深く 木落ちて 雁(がん) 南に飛ぶ　

客裏風光欲授衣　　　　客(かく)裏(り) 風光 授(じゅ)衣(い)ならんと欲す　

燕市酒酣聊供賦　　　　燕市 酒 酣(たけなわ)にして聊(いささ)か供に賦す　

龍山家在未能歸　　　　龍山に家在れども 未だ帰る能わず

 

【語釈】

○九日…九月九日。○于鱗…李攀龍。嘉靖23年（1544年）進士となる。その後、陝西提学副使など地方官を歴任し、河南按察使となる。後七子と称された明代詩壇の古文辞派の筆頭に挙げられる。○客裏…旅の中。○風光…景色、眺め。○授衣…陰暦九月。○燕市…戦国時代の燕の都城（現在の北京）。○龍山…林省遼源市。

 

 

★    九日憶家　　　　　　　九日 家を憶う                      清　　萬夔輔

 

尋詩繞遍一籬花　　　　詩を尋ねて繞(めぐ)ぐること遍(あまね)く 一籬(いちり)の花　

落葉聲中日易斜　　　　落葉声中(らくようせいちゅう) 日 斜めなり易し　

憶得高堂臨別語　　　　憶い得たり 高堂 臨別の語　

授衣時節望還家　　　　授(じゅ)衣(い)の時節 家に還(かえ)るを望む

 

【語釈】

○九日…九月九日。○尋詩…詩句を尋ね求める。○一籬花…籬にある一つの花。菊。○高堂…父母。○授衣…陰暦九月。

 

★    重陽日寄韋舍人　　　　重陽の日 韋舍人(いしゃじん)に寄す　　　　　　   唐　　趙　嘏

 

節過重陽菊委塵　　　　節は重陽を過ぎ 菊 塵に委(すて)られ　

江邊病起杖扶身　　　　江辺 病より起きて 杖に扶(たすけ)らるる身　

不知此日龍山會　　　　知らず 此の日 龍山の会　

誰是風流落帽人　　　　誰か是れ 風流 落帽の人

 

○韋舍人…不祥。○節…季節。○委…投げ捨てる。○龍山落帽人…他者の嘲りの的になった時、鷹揚とした態度で応じ、度量の広さで逆に周囲の人望を得ることを言う。『晉書』卷九十八《桓溫列傳·孟嘉》『世説新語』（韋舍人を指すか？）か。

 

 

★    重陽阻雨　　　　　　　重陽 雨に阻(はば)まる　　　　　　　　　  唐　　司空圖

 

重陽阻雨獨銜杯　　　　重陽 雨に阻まれ 独(ひと)り杯を銜(ふく)む　

移得山家菊未開　　　　山家を移し得たるも 菊 未だ開かず　

猶勝登高閑望斷　　　　猶お勝る 登高して 閑かに望断するに　

孤雲殘照馬嘶回　　　　孤雲 残照 馬嘶(いなな)きて回(かえ)る　　　

 

【語釈】

○重陽…旧暦九月九日。この日、高所に登って菊酒を飲み、厄を祓う習慣があった。○望斷…去って行く物を見えなくなるまで見送る。○残照…夕陽の光。入り日の余光。

 

 

★    秋懷　　　　　　　　　秋懐  　　　　　　　　　　　　　　　宋　　劉　宰

 

一抹紅綃日脚霞　　　　一抹の紅(こう)は綃(き)ゆ 日脚(にっきゃく)の霞　

千林暮靄納歸鴉　　　　千林の暮(ぼ)靄(あい) 帰(き)鴉(あ)を納む　

西風捲盡梧桐葉　　　　西風 捲(ま)き尽くす 梧桐(ごとう)の葉　

乞與中庭散月華　　　　中庭に乞与(きつよ)して 月(げっ)華(か)を散ず

 

【語釈】

○日脚…雲の隙間から漏れてきた日光。○暮靄…夕もや。○西風…秋風。○梧桐…あおぎり。○乞與…与える。○月華…月の光。

 

★    立冬　　　　　　　　　立冬　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王稚登

 

秋風吹盡舊庭柯　　　　秋風　吹き尽す 旧庭の柯(か)　

黃葉丹楓客裏過　　　　黃(こう)葉(よう) 丹(たん)楓(ふう) 客(かく)裏(り)に過ぐ　

一點禪燈半輪月　　　　一点の禅灯 半輪の月　

今宵寒較昨宵多　　　　今宵(こんしょう)の寒(かん)は 昨(さく)宵(しょう)に較(くらぶ)れば多し

 

【語釈】

○柯…木の枝。○丹楓…紅葉した楓。○客裏…旅の中。○禅灯…寺廟の灯火。

 

★    初冬作贈劉景文　　　　初冬の作 劉景(りゅうけい)文(ぶん)に贈る　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

荷盡已無擎雨蓋　　　　荷(か)は尽きて 已に 雨を擎(ささ)ぐる蓋(がい)無く　

菊殘猶有傲霜枝　　　　菊は残(ざん)して 猶お 霜に傲(おご)る枝有り　

一年好景君須記　　　　一年の好景 君 須(すべから)く記すべし　

正是橙黄橘綠時　　　　正に是れ 橙(とう)黄橘(こうきつ)緑(りょく)の時

 

【語釈】

○劉景文…名は季孫、景文は字。タングート族の西夏と戦った将軍劉平の子で、このとき、杭州で民兵を率いていた。○荷盡…蓮の葉がすっかり枯れてしまった。○擎…高く差し上げること。○蓋…かさ。○菊殘…菊が盛りを過ぎて咲き衰えたこと。○傲霜…霜に負けない。○須…すべからく～すべしと読み、当然～すべきであるの意。○橙…ユズ。○橘…ミカンの類。

（参考文献）『漢詩鑑賞辞典』『漢詩大系１７』

 

 

★    冬日即事　　　　　　　冬日(とうじつ)即事　　　　　　　　　　　　   宋　　高　翥

 

江上凝冰約水痕　　　　江上の凝(ぎょう)氷(ひょう)　水(すい)痕(こん)を約す　

門前殘雪綴谿雲　　　　門前の残雪　谿(けい)雲(うん)を綴(つづ)る　

杖藜獨立梅梢月　　　　藜(あかざ)を杖つき 独り立つ 梅(ばい)梢(しょう)の月　

成就清寒到十分　　　　清寒を成就して 十分に到る

 

【語釈】

○即事…事に触れて、その場のことを題材にして作った詩。○水痕…さざなみ。

○約…制限する。○綴…とどめる。○藜…軽いので老人、隠者の杖として用いられる。○梅梢…梅の梢。○清寒…晴朗な寒さ。

 

★    都中冬日              都中の冬日                           宋　　戴復古

 

脫却鸘裘付酒家　　　　鸘裘(そうきゅう)を脫却して 酒家に付く　

忍寒圖得醉京華　　　　寒を忍んで 図(はか)き得たり 京(けい)華(か)に酔うを　

一冬天氣如春暖　　　　一冬の天気 春の如く暖(あたた)かなり　

昨日街頭賣杏花　　　　昨日 街頭 杏(きょう)花(か)を売る

 

【語釈】

○鸘裘…鷫鷞（首長く緑色の鳥。形は雁に似，皮を裘に作る）の皮で作った冬の衣。○酒家…酒屋。○京華…花の都。

 

 

★    冬夜　　　　　　　　　冬夜　　　　　　　　　　　　　　  明　　蘭廷瑞

 

枕上詩成夜思澄　　　　枕上(ちんじょう) 詩成りて 夜思澄む　　　

起尋筆硯旋呼燈　　　　起きて筆硯(ひっけん)を尋ね 旋(す)ぐ燈を呼ぶ　

銀瓶取浸梅花水　　　　銀(ぎん)瓶(ぺい)に梅花を浸(ひた)して 水を取れば　

已被霜風凍作冰　　　　已に霜風を被(こうむ)りて 凍りて氷と作(な)る

 

【語釈】

○枕上…目が覚めてまだ起き上がらない状態。○夜思…夜の思い。○旋…すぐに。○銀瓶…銀の瓶。○霜風…骨を刺す寒さの風。

 

 

★    冬夜　　　　　　　　　冬夜　　　　　　　　　　　　　　　  明　　毛鈺龍

 

玉井無聲戶已扃　　　　玉井(ぎょくせい) 声無く 戶 已に扃(とざ)す　

一庭霜月冷如凝　　　　一庭の霜月 冷(ひやや)かなること凝(こ)るが如し　

誰憐寂寞書窗下　　　　誰か憐む 寂寞(せきばく)たる 書窓の下(もと)　

凍影梅花伴夜燈　　　　凍(とう)影(えい)の梅花 夜燈に伴うを

 

【語釈】

○玉井…井戸の美称。○扃…閉ざす。○霜月…霜の夜の寒い月。○寂寞…ひっそりとして寂しいこと。○書窗…書斎の窓。

 

 

★    至節即事　　　　　　　 至(し)節(せつ)即事(そくじ)　　　　　　　　　　　　  元　　馬　臻

 

店舍喧譁徹夜開　　　　店舍の喧譁 夜を徹して開く

熒煌燈火映樓臺　　　　熒煌の燈火　楼台に映ず

歡遊未曉不歸去　　　　歓遊 未だ曉に帰り去らず

早有元宵氣象來　　　　早(つと)に元宵(げんしょう)の気象の来る有り

 

【語釈】

○至節…夏至又は冬至。この場合は冬至。冬至は一陽来復の日として祝われ、徹夜をする習慣があった。○即事…事に触れて、その場のことを題材にして作った詩。○喧譁…かまびすしさ。○熒煌…光輝く。○歡遊…歓び遊ぶ人々。○元宵…正月十五日、上元節。この夜灯火をともして騒いだ。○氣象…景色。

 

★    雪晴　　　　　　　　　雪晴る　　　　　　　　　　　　　   宋　　鄭　獬

 

天外丹霞一抹紅　　　　天外の丹(たん)霞(か) 一抹の紅　　　

瓦溝已見雪花溶　　　　瓦(が)溝(こう) 已に見る 雪花の溶けるを　

前山未放曉寒散　　　　前山 未だ曉(ぎょう)寒(かん)を放ちて散ぜず　

猶鎖白雲三兩峰　　　　猶お鎖ざす 白雲 三両峰

 

【語釈】

○丹霞…日が照って赤く耀く霞。○瓦溝…屋根の雨水を集めて流すところ。○曉寒…暁の寒さ。○三兩峰…二、三の峰。

 

 

★    歲晚書事　　　　　　　　　　歲晚(さいばん)事を書す　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

書生元不信禨祥　　　　書生 元 禨(き)祥(しょう)を信ぜず

老去無端慮事詳　　　　老去りて 端無(はしな)くも事を慮(おもんばか)ること詳(つまびらか)なり

白髮社巫來報吉　　　　白髮の社巫(しゃふ) 来りて吉を報ず

明朝渫井更苫牆　　　　明朝 井を渫(さら)い 更に牆を苫(おお)う　

 

【語釈】

○歲晚…大晦日。○禨祥…占いによる吉凶。○無端…これといったきっかけもなく。思いがけず。○社巫…神社の巫女。

 

★    歲晚書事　　　　　　歲晚(さいばん)事を書す　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

門冷如冰儘不妨　　　　門 冷やかなること氷の如きも 侭(まか)せて妨がず　

由來富貴屬蒼蒼　　　　由来 富貴 蒼々に屬す　

誰能却學癡兒女　　　　誰か能く　却って 癡兒女(ぎじじょ)に学びて　

深夜潜燒祭竈香　　　　深夜　潜(ひそ)に竈(そう)を祭る香を燒かんや

 

【語釈】

○歲晚…大晦日。○儘…そのままにしておく。○由来…もともと。○蒼蒼…青い天。ここでは天の思し召し。○竈…かまど。

 

 

★    歲晚書事　　　　　　歲晚(さいばん) 事を書す　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

歲晚郊居苦寂寥　　　歲晚の郊居 苦(はなは)だ寂寥(せきりょう)　

日高鹽酪去城遥　　　日高くして 塩酪(えんらく) 城を去りて遥かなり　

深深榕逕苔牆裏　　　深々たる榕径(ようけい) 苔牆(たいしょう)の裏(うち)　

忽有銀釵叫賣樵　　　忽ち 銀釵(ぎんさ)の 売(ばい)樵(しょう)を叫ぶ有り

【語釈】　

○歲晚…大晦日。○郊居…郊外の住まい。○寂寥…しずかで物寂しいさま。○鹽酪…塩と乳漿。○榕逕…榕の木の下の路。○苔牆…苔が生えた牆。○銀釵…銀のかんざし（を挿した娘）。○樵…たきぎ。

 

★    歲晚書事　　　　　　　歲晚 事を書す　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

主公晚節治家寬　　　　主公の晚節 家を治むること 寛(かん)なり　

婢慣奴驕號令難　　　　婢(ひ) 慣れ　奴(ど) 驕(おご)り 号令 難(かた)し　

圃在屋邊慵種菜　　　　圃(ほ)は屋(おく)辺(へん)に在れども 菜(さい)を種うるに慵(ものう)く

井臨砌畔怕澆蘭　　　　井は砌(せつ)畔(はん)に臨めども 蘭を澆(そそ)ぐを怕(おそ)る

 

【語釈】

○歲晚…大晦日。。○主公…主人。○晚節…大晦日。○寬…人に対して厳しくないさま。○圃…畑。○砌畔…階段の直ぐそば。○澆…洗う。○蘭…家畜などを囲い込む柵。

 

 

★    歲晚書事　　　　　　　歲晚(さいばん) 事を書す　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

日日抄書懶出門　　　　日々 書を抄(そう)して 門を出ずるに懶(ものう)し　

小窗弄筆到黄昏　　　　小窓に筆を弄(ろう)して黄昏(こうこん)に到る　

丫頭婢子忙勻粉　　　　丫頭(あとう)の婢子 忙しく粉を勻(ととの)え　　

不管先生硯水渾　　　　管せず 先生の硯(けん)水(すい)の渾(にご)るを

 

【語釈】

○歲晚…大晦日。○抄…書き写す。○黄昏…たそがれ。○丫頭…あげまき頭。○婢子…召使い少女。○不管…気にしない。

 

★    歲晚書事　　　　　　　歲晚 事を書す　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

丐客鶉衣立戶前　　　　丐客(かいかく) 鶉(しゅん)衣(い) 戶前に立つ　

豈知儂自殘年窘　　　　豈に知らんや 儂(われ) 自(みずか)ら 残年に窘(くるし)むを

染人酒媼逋猶緩　　　　染人(せんじん) 酒媼(しゅおう)は 逋(ほ)して 猶お緩(おだやか)かに

且送添丁上學錢　　　　且つ送る 添丁(てんてい)に 学に上る銭を

 

【語釈】

○歲晚…大晦日。○丐客…乞食。○鶉衣…破れ衣。○染人…染め物工。○酒媼…酒を売る老婆。○逋…租税を滞納する。○添丁…男の子。○上學…学問を修めるための金。

 

 

★    除夜作　　　　除夜作　　  唐　　高　適　　

 

旅館寒燈獨不眠　　　　旅館の寒燈 独り眠らず　

客心何事轉悽然　　　　客(かく)心(しん)何事ぞ 転(うたた)た悽(せい)然(ぜん)　

故郷今夜思千里　　　　故郷 今夜 千里を思う　

霜鬢明朝又一年　　　　霜(そう)鬢(びん) 明朝 又た一年

 

【語釈】

○寒灯 … 薄暗く、寒々とした灯。○客心 … 旅人の心。○何事 … どうしたことか。○転 … いよいよ。ますます。○悽然 … 物寂しいさま。痛ましいさま。○霜鬢 … 霜のような白い鬢。○又一年 …一つ年をとる。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』『唐詩選』

 

★    除夕 　  　　　　　　 除夕(じょせき)　　　　　　　　　　　　　　　　明　　汪道昆

 

沈水香焼寶鴨空　　　　沈(ちん)水(すい) 香 焼きて 宝(ほう)鴨(おう)空し　

長筵酒煖臘燈紅　　　　長筵(ちょうえん) 酒暖かにして 臘(ろう)灯(とう)紅なり　

可憐萬戸千門裏　　　　憐む可し 万戸 千門の裏　

斷送年華是暁鐘　　　　年(ねｎ)華(か)を断送するは 是れ 暁鐘

 

【語釈】

○除夕…大晦日の夜。○沈水…沈香（香木の一種）の別名。○寶鴨…鴨の形をした香炉。○空…空になる。○長筵…長い宴会。○臘燈…蝋燭の灯火。○可憐…感嘆詞、ああ。○斷送…捨て送る。○年華…年月。

 

★    除夕　　　　　　　　　除夕(じょせき)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　程嘉燧

　

久客懷人百事慵　　　　久客(きゅうかく) 人を懐い 百事慵(ものう)し　

春歸幾日是殘冬　　　　春帰ること 幾日ぞ 是れ残冬　

長安雪後無來往　　　　長安　雪後 来往無し　

報國門前獨看松　　　　報国門前 独り松を看る

 

【語釈】

○除夕…大晦日の夜。○久客…長く逗留する旅人。○春歸…春が過ぎ去る。○殘冬…冬の終わり。○來往…人の行き来。○報國門…長安の城門の一つ、不祥。

 

絶句類選　巻之二　　　禁省類

 

★    苑中遇雪應制　　　　苑中(えんちゅう) 雪に遇う 応制　　　　　　　　　  唐　　劉　憲

 

龍驂曉入望春宮　　　　龍驂(りゅうさん) 曉に入る望(ぼう)春宮(しゅんぐう)　

正逢春雪舞東風　　　　正に逢う 春雪の東風に舞うに　

花光倂灑天文上　　　　花光は 倂せて灑(そそ)ぐ天文の上　

寒氣行消御酒中　　　　寒気は行消す 御酒の中(うち)　　

 

【語釈】

○應制…皇帝の明によって作った詩。○龍驂…優れた形をしたそえ馬。○望春宮…宮殿の名。○東風…春風。○花光…花の色彩。○天文…天の模様。○行消…行って消える。

 

★    苑中遇雪應制　　　　　苑中(えんちゅう) 雪に遇う 応制　　　　　　　　  唐    除彦伯

 

千鍾聖酒御筵開　　　　千(せん)鐘(しょう)の聖酒 御筵(ぎょえん)に開く　

六出祥英亂繞枝　　　　六(りく)出(しゅつ)の祥(しょう)英(えい) 乱れて枝を繞(めぐ)る　

即此仙遊對瓊圃　　　　即ち此れ 仙遊 瓊圃(けいほ)に対す　

何煩轍迹到瑤池　　　　何ぞ煩わさん 轍迹(てっせき)の瑤(よう)池(ち)に到るを

 

【語釈】　　　

○千鍾…鍾は一升の６４０倍。沢山の意味。○聖酒…皇帝から賜った酒。○御筵…朝廷の宴会。○六出…雪、ここでは六瓣。○祥英…雪の異称。○仙遊…地上に現れた仙人。○瓊圃…神仙の園。○轍迹…車の轍。○瑤池…仙人の居る所。崑崙山にある。

 

 

★    十五夜御前踏歌詞　　　十五夜 御前 踏歌の詞　　　　　　　  唐　　張　說　　　

 

華蕚樓前雨露新　　　　華蕚楼前(かがくろうぜん) 雨露 新たなり　

長安城裏太平人　　　　長安城(ちょうあんじょう)裏(り) 太平の人　

龍銜火樹千燈艶　　　　龍は火樹を銜(くわ)えて 千燈の艶(えん)　

雞上蓮花萬歲春　　　　雞は蓮花(れんか)に上りて 万歲の春

 

【語釈】

○十五夜…正月十五日、上元節の夜。この夜、長安では灯籠を灯した夜祭りが行われた。○踏歌…足踏みで調子を取りながら唱う歌。○華蕚樓…楼の名。○火樹…光輝く灯火。○蓮花…ここでは蓮の葉をかたどった飾り。○転句、結句は夜祭りの様子を詠ったものであり、龍も雞も飾りと思われる。

 

★    上皇西巡南京歌　　　　上皇 南京に西巡する歌　　　　　　  唐　　李　白

 

華陽春樹號新豐　　　　華(か)陽(よう)の春樹 新(しん)豊(ぽう)と号す

行入新都若舊宮　　　　行きて新都に入れば旧宮の若し　

柳色未饒秦地綠　　　　柳色は 未だ秦地の緑より饒(ゆた)かならざるも　

花光不減上陽紅　　　　花光は 上陽(じょうよう)の紅(くれない)を減(げん)ぜず

 

【語釈】

○上皇…玄宗。○南京…ここでは四川省成都。○西巡…西の地方を視察する。

○華陽…蜀の池。○新豐…漢の髙祖が上太后のために築いた町の名。○新都…成都。○舊宮…長安の宮殿。○秦地…関中、長安地方。○花光…花の輝き。○上陽…宮殿の名、上陽宮。○不減…同等である。

 

★    上皇西巡南京歌　　　　上皇 南京に西巡する歌　　　　　　  唐　　李　白

 

誰道君王行路難　　　　誰(たれ)か道(い)う 君王 行路難しと　

六龍西幸萬人歡　　　　六(りく)龍(りゅう) 西幸(せいこう)して 万人歓ぶ　

地轉錦江成渭水　　　　地は転じて 錦江(きんこう)は渭(い)水(すい)と成り　

天迴玉壘作長安　　　　天は迴(めぐ)りて 玉(ぎょく)塁(るい)は長安と作(な)る

 

【語釈】

○上皇…玄宗。○南京…ここでは四川省成都。○西巡…西の地方を視察する。○誰道 … 誰が言うであろうか。誰も言わない。反語。○君王 … わが君。玄宗皇帝を指す。○行路難 … 蜀へ行く道が困難であると。ここでは楽府の曲名「行路難」及び「蜀道難」に基づく。○六竜 … 天子の車につける六頭立ての馬車。○西 … 蜀を指す。○幸 … 天子が出かけることをいう敬語。○六竜 … 天子の車につける六頭立ての馬車。○西 … 蜀を指す。○幸 … 天子が出かけることをいう敬語。○錦江 … 四川省成都市の中心部を流れる川。○転 … 天地を回転させる。○渭水 … 黄河最大の支流。

（参考文献）　『唐詩選』上皇西巡南京歌　　　　

★      上皇西巡南京歌　　　　上皇 南京に西巡する歌　　　　　　  唐　　李　白 

 

劒閣重關蜀北門　　　　剣閣(けんかく)の重関(ちょうかん) 蜀の北門　

上皇歸馬若雲屯　　　　上皇の帰(き)馬(ば) 雲の若く屯(たむろ)す　

少帝長安開紫極　　　　少帝 長安に 紫極(しきょく)を開き　

雙懸日月照乾坤　　　　日月を双(ならべ)懸(か)けて 乾坤(けんこん)を照らす

 

【語釈】

○上皇…玄宗。○南京…ここでは四川省成都。○西巡…西の地方を視察する。○剣閣 … 桟道の名。○重関 … 幾重にも重なった関所。○蜀北門 … 蜀の北門をなしている。○上皇 … 玄宗を指す。○若雲屯 … 雲が集まるように群がっている。○少帝 … 若い天子。粛宗皇帝を指す。○紫極 … 天子のいる所。帝座。朝廷を指す。○双懸日月 … 太陽と月が空に並び懸かる。○乾坤 … 天と地。この世界を指す。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    省中題新植雙松　　　　省中 新植(あらたしょく)の双松(そうしょう)に題す　　　　　  唐　　裴夷直

 

端坐高宮起遠心　　　　端坐(たんざ)の高宮 遠心を起こし

雲高水闊共幽沈　　　　雲高く 水闊(ひろ)くして 共に幽沈(ゆうちん)　

更堂寓直將誰語　　　　更堂に寓直(ぐうちょく)して 将(まさ)に誰にか語らんとす　

自種雙松伴夜吟　　　　自(みずか)ら双松(そうしょう)を種え 夜吟(やぎん)を伴(とも)にす

 

【語釈】

○省中…宮中。○題…書き付ける。題として詩を作る。○端坐…正座。○遠心…遠いことまで感じる心。○幽沈…閑かに世の中から隠れる。○更堂…宮中の堂の一つ。○寓直…順番の宿直。○雙松…二本の松。

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

金殿當頭紫閤重　　　　金殿(きんでん)の当頭(とうとう) 紫閤(しかく)重なり　

仙人掌上玉芙蓉　　　　仙人掌上(せんにんしょうじょう) 玉(ぎょく)芙蓉(ふよう)　

太平天子朝元日　　　　太平の天子 朝元(ちょうげん)の日　

五色雲車駕六龍　　　　五色の雲車 六(りく)龍(りゅう)を駕(が)す

 

【語釈】

○宮詞…宮中の瓊事を詠った詩。○金殿…黄金色の宮殿。○當頭…頭の上に来る。○紫閤…紫色の楼閣。○仙人掌…承露盤（飲むと不老長寿とされた露を受ける盤）を捧げる仙人の像の掌（仙掌ともいう）。○玉芙蓉…承露盤が蓮の花の形をしている。○朝元日…元旦に朝見の儀が行われる。○雲車…非常に高さの高い車（皇帝の御車）。○六龍…天子の車に駕する六頭の馬。

（参考文献）　『三体詩』

 

 

★    獻壽詞　　　　　　　　献(けん)寿(じゅ)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　涯

 

宮殿參差列九重　　　　宮殿 參差(しんし)として九重に列す　

祥雲瑞氣捧堦濃　　　　祥(しょう)雲(うん) 瑞気(ずいき) 堦(かい)に捧(ささ)げて濃(こまやか)なり　

微臣欲獻唐堯壽　　　　微臣 献ぜんと欲す 唐堯(とうぎょう)の寿　

遙指南山對衮龍　　　　遙かに南山を指さし 衮(こん)龍(りゅう)に対す

 

【語釈】

○獻壽詞…長寿を祈る詩。○參差…不揃いなさま。○九重…宮中。○祥雲…めでたい雲。○瑞氣…めでたい雲気。○堦…きざはし。○唐堯壽…古の皇帝の長寿。○南山…終南山。○衮龍…皇帝の衣服、転じて皇帝。

 

★      宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  唐    王  涯

 

瞳瞳日出大明宮　　　　瞳(どう)々(どう) 日は出ず 大明宮(たいめいきゅう)　

天樂遙聞在碧空　　　　天(てん)楽(がく) 遙かに聞こえ 碧空に在り　

禁樹無風正和暖　　　　禁樹 風無くして 正和(せいわ) 暖かに　

玉樓金殿曉光中　　　　玉楼 金殿 曉光の中(うち)

 

【語釈】

○宮詞…宮中の瓊事を詠った詩。○瞳瞳…童童。盛んなさま。○大明宮…長安宮の北にある宮殿で皇帝の住居があり、朝見儀が行われるところ。○天樂…宮中の音楽。○禁樹…宮中の樹木。○正和…唐代の雅楽の名。○玉樓…美しい宮殿。○金殿…黄金色の宮殿。

 

 

★    長安秋夜　　　　　　　長安の秋夜　　　　　　　　　　　　  唐    李德裕

 

內官傳詔問戎期　　　　内官 詔(みことのり)を伝え 戎期(じゅうき)を問う　

載筆金鑾夜始歸　　　　筆を載せ 金鑾(きんらん) 夜 始めて帰る　

萬戶千門皆寂寂　　　　万戶千門 皆な寂々(せきせき)　

月中清露點朝衣　　　　月中の清(せい)露(ろ) 朝衣に点ず

 

【語釈】

○內官…宮中に在勤している役人。○戎期…戦を始めるのに良い時。○金鑾…翰林学士。○萬戶千門…千門万戸。多くの家々。○寂寂…寂しく静かなさま。○月中…月明かりの中。○朝衣…朝廷に出る時に着る衣服。朝に着た衣服。

 

★    秋日池上　　　　　　　秋日の池上　　　　　　　　　　　　  唐　　徳　宗

 

禁苑秋來爽氣多　　　　禁(きん)苑(えん) 秋来たりて 爽(そう)気(き)多し　

昆明風動起滄波　　　　昆(こん)明(めい) 風動きて 滄波起こる　

中流簫鼓誠堪賞　　　　中流の簫鼓 誠に賞するに堪えたり　

詎假橫汾發櫂歌　　　　詎(なん)ぞ仮(こ)わん 汾(ふん)に橫たわりて櫂歌(とうか)を発するを

 

【語釈】

○禁苑…宮中の庭園。○爽氣…爽やかな気。○昆明…昆明池（漢の武帝が長安城の西に掘らせた池）。唐にも在ったと思われるが所在不明。○滄波…あおあおとした波。○簫鼓…音楽。○詎…どうして。○假…こう。○橫汾發櫂歌…漢の武帝の秋風辭「汎樓舡兮汾河，橫中流兮揚素波。簫鼓吹，發櫂歌，極歡樂兮哀情多。」

 

 

★    洛陽秋夕　　　　　　　洛陽の秋夕(しゅうせき)　　　　　　　　　　　　 唐　　杜　牧

 

泠泠寒水帶霜風　　　　泠々(れいれい)たる寒水 霜風を帶ぶ　

更在天橋夜景中　　　　更に 天橋は 夜景の中(うち)に在り　

清禁漏閑煙樹寂　　　　清禁(せいきん)の漏(ろう)は閑かに 煙樹は寂(せき)たり　

月輪移在上陽宮　　　　月輪は移りて 上陽宮(じょうようきゅう)に在り

 

【語釈】

○泠泠…水や風の音の清らかなさま。○霜風…しもの気を帯びた風。冷たい風。○天橋…洛陽の天津橋？。○清禁漏…宮中の水時計。○煙樹…靄にけむる樹木。○上陽宮…洛陽の宮殿の名。

 

★    初秋寓直夜景　　　　　初秋寓(しょしゅうぐう)直(ちょく)夜景(やけい)　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　畋

 

鈴絛無響閉珠宮　　　　鈴絛(れいじょう) 響き無く 珠宮を閉ざす　　　　　　

小閣涼添玉蘂風　　　　小閣 涼は添う 玉(ぎょく)蘂(ずい)の風　

枕簟滿牀明月影　　　　枕簟(ちんたん) 満牀(まんしょう) 明月の影　

自疑身在五雲中　　　　自ら疑う 身は五雲の中(うち)に在るかと

 

【語釈】

○寓直…輪番制の宿直。○鈴絛…鈴を鳴らすために付けた紐。翰林院に入る人が鳴らした。○珠宮…玉で飾った宮殿。○小閣…小さな楼閣。ここでは翰林院。○玉蘂…花の名。玉蘂花。○枕簟…枕とたかむしろ。寝具をいう。○滿牀…床に満ちる。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　和　凝

 

鳳池冰泮岸莎勻　　　　鳳(ほう)池(ち) 氷泮いて 岸(がん)莎(さ)勻(ひと)し　

柳眼花心雪裏新　　　　柳(りゅう)眼(がん)の花心 雪(せつ)裏(り)に新なり　

都是九重和暖地　　　　都(すべ)て是れ 九重(きゅうちょう) 和暖(わだん)の地　

東風先報禁園春　　　　東風 先に報ず 禁園の春

 

【語釈】

○宮詞…宮中の瓊事を詠った詩。○鳳池…宮中の中書省の前にある池の名。○岸莎…池の岸に生えているはまなすけ。○勻…均しく生えそろっている。○柳眼…柳の芽。○九重…宮城。○和暖…やわらぎ揺るぐこと。○東風…春風。○禁園…宮中の庭園。

 

★    題館壁　　　　　　　　 館壁に題す　　　　　　　　　　　 北宋　　劉　攽

 

壁門金闕倚天開　　　　壁門(へきもん) 金闕(きんけつ) 天に倚りて開く　

五見宮花落古槐　　　　五たび見る 宮花の古槐に落つるを　

明日扁舟江海去　　　　明日(みょうじつ) 扁舟 江海に去り　

却從雲氣望蓬萊　　　　却って 雲気に從って 蓬萊(ほうらい)を望まん

 

【語釈】

○金闕…宮城。○宮花…宮廷に咲く花。○古槐…古いエンジュの樹。○雲氣…雲のように空中に現れる気。雲をいう。○蓬萊…東海の東にあって仙人が住んでいるという仙山。

 

★    晚出左掖門　　　　　　　晚に左掖門(さえきもん)を出ず　　　　　　　　　　　宋　　秦　觀

 

金爵觚稜轉夕暉　　　　金爵(きんしゃく)の觚稜(こりょう) 夕暉(せきき)に転ず　

飄飄宮葉墮秋衣　　　　飄々(ひょうひょう)として 宮(きゅう)葉(よう)　秋衣に墮(お)つ　

出門塵漲如黄霧　　　　門を出ずれば 塵 漲(みなぎ)って黄霧(こうむ)の如く　

始覺身從天上歸　　　　始めて覚ゆ 身の 天上從(よ)り帰るを

 

【語釈】

○左掖門…宮城の正門の左側の小さい門。○金爵…屋根に飾る銅鳳。○觚稜…とがった角。○飄飄…風に飜るさま。○天上…宮中。

 

★    館中直宿書事　　　　　館中に直宿して事を書す　　　　　　  宋　　韓　駒

 

十載名山慣杖藜　　　　十載 名山 杖(じょう)藜(れい)に慣れたり　

清都直宿夢魂疑　　　　清都に直宿(ちょくしょく)して 夢魂疑う　

卧聞長樂鐘聲近　　　　卧(ふ)して聞く 長楽(ちょうがく)の鐘声の近きを　

尚憶寒山半夜時　　　　尚お憶ゆ 寒山 半夜の時

 

【語釈】

○直宿…宿直。○十載…十年。○杖藜…藜(あかざ)の杖をつくこと。○清都…宮城。○夢魂…夢を見ている魂。○疑…迷う。混乱する。○長樂…宮殿の名。長楽宮。○寒山…寒山寺と思われる。張継「楓橋夜泊」。

 

 

★    入直召對選德殿賜茶而退　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　周必大　　

                 入(にゅう)直(ちょく) 選德殿(せんとくでん)に召(しょう)対(たい)し 茶を賜り而して退す                      

 

綠槐夾道集昏鴉　　　　緑槐(りょくかい) 道を夾(さしはさ)みて 昏(こん)鴉(あ)集まる　

勅使傳宣坐賜茶　　　　勅使 伝宣(でんせん)して 坐して茶を賜わる　

歸到玉堂清不寐　　　　帰りて 玉堂に到りて 清くして寐(i)ず　

月鈎初上紫薇花　　　　月(げっ)鈎(こう) 初めて紫(し)薇(び)花(か)に上る

 

【語釈】

○入直…宮殿に入って宿直する。○召對…皇帝が臣下を召して政治についての意見を聞くこと。○選德殿…宮殿の名。○緑槐…緑のえんじゅ。○昏鴉…日暮れに飛ぶ烏。○傳宣…旨を伝え述べる。○玉堂…翰林院。○月鈎…釣り針のような月。○紫薇花…あじさい。

 

★    直宿玉堂懷舊　　　　　玉堂に直宿して旧を懷う　　　　　　  宋　　范成大

 

雪山刁斗不停撾　　　　雪山の刁斗(ちょうと) 撾(う)つを停(と)めず　

夜把軍書敢顧家　　　　夜 軍書を把(と)りて 敢えて家を顧(かえりみ)んや

珍重玉堂今夜夢　　　　珍重す 玉堂 今夜の夢　

靜聞宮漏隔宮花　　　　静かに聞く 宮漏(きゅうろう) 宮花を隔つを

 

【語釈】

○刁斗…どら。○撾…太鼓を敲く。○玉堂…翰林院。○宮漏…宮中の水時計の音。○宮花…宮中の花。

 

 

★    早赴北宮　　　　　　　早に北宮に赴(おもむ)く　　　　　　　  　　 金　　趙　攄

 

蒼龍雙闕鬱層雲　　　　蒼(そう)龍(りゅう) 双闕(そうけつ) 層雲鬱(うっ)たり　

湖水鱗鱗栁色新　　　　湖水 鱗々(りんりん) 栁色新(あらた)なり　

絶似江行看清曉　　　　絶えて似たり 江行 清曉(せいぎょう)を看るに　

不知身是趁朝人　　　　知らず 身は是これ 朝に趁(おもむ)く人なるを

 

【語釈】

○早…朝早く。○北宮…宮殿の名。○蒼龍…東方の七宿の星。○双闕…二つの宮門。○層雲…重なり合った雲。○鬱…鬱蒼としている。○鱗鱗…麗しくて鮮やかな様。○絶…非常に。○清曉…清らかな暁。○朝…朝廷。

 

 

★    赴閣雑賦　　　　　　　閣に赴(おもむ)く 雑賦　　　　　　　　　　  元　　虞　集

 

日出風生太液波　　　　日出で 風生じて 太(たい)液(えき) 波だつ　

畫橋影裏彩船過　　　　画(が)橋(きょう)影(えい)裏(り) 彩(さい)船(せん) 過ぐ　

橋頭柳色深如許　　　　橋頭の柳色 深きこと許(こ)の如し　

應是偏承雨露多　　　　応(まさ)に是れ 偏(ひとえ)に雨を承(う)けて 露 多かるべし

 

【語釈】

○太液…太液池。宮中に有る池の名前。○畫橋…彩られた橋。○彩船…彩られた船。○橋頭…橋のほとり。○偏…あまねく。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～であるに違いない。」の意。

 

 

★    玉堂讀卷雜賦次韻      玉堂読卷雜賦(ぎょくどうどっかんざっぷ) 次韻　　　　　　　　  元　　虞　集

 

千花覆檻柳垂絲　　　　千花は檻(かん)を覆い 柳は糸を垂(た)る　

晝刻傳呼淑景遲　　　　昼刻の伝呼(でんこ) 淑景(しゅくけい)遅し　

聖主自觀新進策　　　　聖主 自(みずか)ら観(かん)ず 新進の策　

侍臣簪筆立多時　　　　侍臣　筆を簪(かんざ)し 立つこと多き時

 

【語釈】

○玉堂…宮廷。○讀卷…書を読む。○次韻…他の詩と同じ韻字を同じ順で使って詩を作ること。○檻…おばしま。○傳呼…伝えて呼ぶこと。○淑景…春の景色。○聖主…皇帝の尊称。○觀…目を通す。

 

 

★    夏日閣中入直　　　　　夏日(かじつ) 閣中(かくちゅう) 入(にゅう)直(ちょく)                   元　　周伯琦

 

氷盤堆果進流霞　　　　氷盤 果(か) 堆(うずたか)く 流(りゅう)霞(か)進み　

中秘繙餘夕景斜　　　　中秘(ちゅうひつ) 繙余(はんよ) 夕景斜なり　

畫舫竟従圜殿過　　　　画舫(がぼう) 竟(つい)に圜(えん)殿(でん)に従って過ぎ　

鳯麟洲上數荷花　　　　鳯麟(ほうりん)洲上(しゅうじょう) 荷(か)花(か)を数う

 

【語釈】

○閣中…宮殿の中。○入直…宿直する。○氷盤…氷を盛った盤。○流霞…流れるもや。○中秘…宮中の奥深いところ。○繙餘…本を紐解いた後。○画舫…彩られた船。○圜殿…丸い宮殿。○鳯麟洲…州の名。○荷花…蓮の花。

 

 

★    早朝口占　　　　　　　早(つと)に朝す 口(こう)占(せん)　　　　　　　　　　  明　　錢　宰

 

四鼓鼕鼕起着衣　　　　四鼓 鼕々(とうとう) 起きて衣を着す　

午門朝見猶嫌遅　　　　午門に朝見して 猶お遅きを嫌う　

何時得逐田園樂　　　　何れの時か 田園(でんえん)楽(らく)を逐(お)い得て

睡到人間飯熟時　　　　睡りて 人間(じんかん) 飯(はん) 熟する時に到らん

 

【語釈】

○早朝…朝早く参内すること。○口占…書かないで作った即興の詩。○鼕鼕…太鼓の音の形容。○午門…北京紫禁城の正門。○田園樂…王維の田園楽其六を指すか？「桃紅復含宿雨，柳綠更帶朝煙。花落家童未埽，鶯啼山客猶眠。」○人間…民間の世界。○飯熟…朝飯が炊きあがる。

 

★    春日應制　　　　　　　春日(しゅんじつ) 応制(おうせい)　　　　　　　　　　　　  明　　呉伯宗

 

鍾阜嵯峨暁日紅　　　　鍾阜(しょうふ) 嵯峨(さが)にして 暁(ぎょう)日(じつ)紅なり　

萬年佳氣欝葱葱　　　　万年 佳(か)気(き) 欝(うつ)として葱(そう)々(そう)　

蒼松翠竹知多少　　　　蒼(そう)松(しょう) 翠(すい)竹(ちく) 知んぬ多少ぞ　

総在祥雲五色中　　　　総(すべ)て祥雲 五色の中(うち)に在り　

 

【語釈】

○應制…皇帝の命令により作った詩。○鍾阜…鍾山のこと、南京の東南にある山。○嵯峨…高く聳え立つさま。○佳氣…瑞兆の気。○欝…雲や水蒸気が濃密になるさま。○葱葱…優れて気配のよいさま。○蒼松…あおみどりの松。○翠竹…緑の竹。○祥雲…めでたい雲。

 

 

★    風雨早朝              風雨 早(つと)に朝(ちょう)す　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

漏屋雞鳴起濕烟　　　　漏屋(ろうおく) 雞 鳴いて 湿(しつ)煙(えん)起こる　

蹇驢難借强朝天　　　　蹇驢(けんろ) 借り難けれども 強いて天に朝す　

却思春水江南岸　　　　却って思う 春水 江南の岸　

閒聽篷聲卧釣船　　　　閑かに篷声(ほうせい)を聽き 釣船(ちょうせん)に卧(が)せしを

 

【語釈】蹇驢

○早朝…朝早く参内する。○漏屋…雨漏りのする家。○濕烟…湿った靄。○蹇驢…びっこの驢馬。○朝天…宮中に参内する。○却…振り返って。○江南…長江中下流の南岸地方。○篷聲…船の篷窓にかかる雨音。

 

★    早至闕下候朝　　　　　早(つと)に闕(けつ)下(か)に至り朝(ちょう)に候(こう)す　　　　　  明　　髙　啓

 

月明立傍御溝橋　　　　月明に立(りつ)傍(ぼう)す 御溝(ぎょこう)橋(きょう)　

半啓宫門未放朝　　　　半ば宫門を啓(ひら)きて 未だ放朝(ほうちょう)せず　

騶吏忽傳丞相至　　　　騶吏(すうり) 忽(たちま)ち伝う 丞相至ると　

火城如晝曉寒銷　　　　火城 画の如く 曉寒銷(しょう)す

 

【語釈】

○早…朝早く。○闕下…京城。○候朝…参内。○御溝橋…お堀の橋。○放朝…群臣が許されて参内すること。○騶吏…騎馬の従者。○火城…元日、冬至等の朝会に、数百の松明を灯した物。○銷…消える。

 

 

★    望闕口號　　　　　　　闕(けつ)を望む 口号　　　　　　　　　　  明　　劉仔肩

 

閶闔排雲玉殿開　　　　閶闔(しょうかく) 雲を排して 玉殿開く　

千官鵷鷺早朝迴　　　　千官 鷺(えん)鷺(ろ) 早朝(そうちょう)して迴(かえ)る　

不知誰獻王褒頌　　　　知らず 誰か献ず 王褒(おうほう)の頌(しょう)　

得奉君王萬壽杯　　　　奉じ得たり 君王 万寿の杯

 

【語釈】

○闔…宮城の門。○口號…書かないで作った即興の詩。○閶闔…宮城の正門。○玉殿…玉をちりばめた宮殿。○鹓鷺…秩序正しいことのたとえ。○早朝…朝早く参内する。○王褒頌…漢の蜀の刺史であった王褒が作った「洞簫賦」のような天子の功徳を褒め称える賦。○君王…皇帝。○萬壽杯…長寿を願う酒。

 

★    書事                  事を書す　　　　　　　　　　　　　  明　　方孝孺

 

伏枕三旬不整冠　　　　枕に伏し 三旬 冠を整えず　

夢魂時復對金鑾　　　　夢魂 時に復(ま)た 金鑾(きんらん)に対す　

忽聞盛事披衣坐　　　　忽ち聞く 盛事(せいじ) 衣を披(ひら)いて坐すも　

今日朝廷立諫官　　　　今日 朝廷 諫官(かんかん)を立つと

 

【語釈】

○三旬…三十日。○夢魂…夢の中でのせつない気持。○金鑾…金鑾宮。翰林院のこと。○盛事…大事なこと。○披衣…衣を着る。○諫官…皇帝の行動を諫める官。

 

 

★    夏日出文明門　　　　夏日 文明門を出ず　　　　　　　　　   明　　薛　瑄

 

文明門外柳陰陰　　　文明(ぶんめい)門外(もんがい) 柳 陰々(いんいん)　

百囀黃鸝送好音　　　百囀(ひゃくてん)の黃鸝(こうり) 好音(こういん)を送る　

行過禦溝迴望處　　　禦(ぎょ)溝(こう)を行き過ぎ 迴望(かいぼう)する処　

鳳凰樓閣五雲深　　　鳳凰(ほうおう)楼閣(ろうかく) 五雲深し

 

【語釈】

○文明門…宮門の一つとおもわれるが不祥。○陰陰…木が茂って暗いさま。○百囀…さかんに囀るさま。○黃鸝…高麗ウグイス。○禦溝…宮苑の流れに沿った路。○迴望…振り返って見る。○鳳凰樓…宮殿の楼の一つ、不祥。○五雲…五色の雲。

 

★    被詔直内閣即事　　　　詔(みことのり)を被(こうむ)り内閣に直す 即事　　　  明　　胡　儼

 

清曉朝囘祕閣重　　　　清曉(せいぎょう) 朝(ちょう)より回(かえ)りて 秘閣(ひかく)重なる　

坐看宫樹露華濃　　　　坐して看る 宫樹 露華の濃(こまやか)なるを　

緑窗朱户圖書滿　　　　緑(りょく)窓(そう) 朱(しゅ)戸(と) 画(が)書(しょ)満ち　

人在蓬萊第一峰　　　　人は蓬萊(ほうらい)　第一峰に在り

 

【語釈】

○内閣…宰相の官署。○直…宿直する。○即事…事に触れてその場のことを題材として作る詩。○朝…朝廷。○祕閣…天子の蔵書を入れた倉庫。○宮樹…宮城の樹木。○露華…美しい露。○蓬萊…東海の東にあり仙人が住んでいるという伝説上の山。ここでは、そのたとえ。

 

 

★    被詔直内閣即事　　　　詔(みことのり)を被(こうむ)り内閣に直(ちょく)す 即事　　　  明　　胡　儼

 

浩蕩春風雨散絲　　　　浩蕩(こうとう)たる春風 雨 糸を散ず　

暗移春色上花枝　　　　暗(あん)は春色を移し 花枝に上る　

雲隂半捲龍樓晚　　　　雲隂 半ば捲き 龍楼 晚(く)る　

正是詞臣退直時　　　　正に是れ　詞臣　退直の時

 

【語釈】

○内閣…宰相の官署。○直…宿直する。○即事…事に触れてその場のことを題材として作る詩。○浩蕩…広く大きいこと。○暗…夜。○春色…春景色。○雲隂…雲のようにおおう。雲の影。○龍楼…太子の宮殿。○詞臣…文学侍従の臣。○退直…宿直明けで退出する。

 

★    迎鑾曲　　　　　　　　迎鑾(げいらん)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

自采民風問老農　　　　自(みずか)ら民風を采(と)りて 老農に問う　

微行不遣近官從　　　　微行 近官をして從わしめず　

那知天子關天象　　　　那(な)んぞ知らん 天子の天象に関するを

到處雲成五色龍　　　　到る処 雲は五色の龍と成る

 

【語釈】

○迎鑾…天子の車駕を奉迎すること。○民風…民の風俗、習わし。○微行…おしのび。○天象…天気。

 

 

★    迎鑾曲　　　　　　　　迎鑾(げいらん)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

羽盖霓旌曉出遊　　　　羽盖(うがい) 霓旌(げいせい) 曉に出遊(しゅつゆう)す　

紺霞紅日抱江流　　　　紺霞 紅日 江を抱きて流る　

雲中帝子三千闕　　　　雲中の帝子 三千闕　

海上仙人十二樓　　　　海上の仙人 十二楼

 

【語釈】

○迎鑾…天子の車駕を奉迎すること。○羽盖…王侯の車を被う物。○霓旌…儀仗の一つ。羽毛を五色に染めて作った旗。○出遊…外に出る。○紺霞…紺色の霞。○闕…宮殿。

 

★    迎鑾曲　　　　　　　　迎鑾(げいらん)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

弓如滿月向江開　　　　弓は満月の如く 江に向って開く　

箭揷寒潮捲浪迴　　　　箭(や)は寒潮を揷(さ)して 浪を捲(ま)いて迴(めぐ)る

水上黿鼉莫深避　　　　水上の黿鼉(げんだ) 深く避くこと莫かれ

我皇元為射蛟来　　　　我が皇 元 蛟(こう)を射る為に来たる

 

【語釈】

○迎鑾…天子の車駕を奉迎すること。○黿鼉…アオウミガメとワニ。○蛟…みずち。伝説上の龍の一種。

 

 

★    迎鑾曲　　　　　　　　迎鑾(げいらん)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

揚子江頭駐六師　　　　揚子(ようす)江頭(こうとう) 六師(りくし)を駐む　

太平天子賞功時　　　　太平の天子 功を賞する時　

紅雲影亂黄龍艦　　　　紅雲 影は乱る 黄龍(こうりゅう)の艦(かん)　

白日光揺繡虎旗　　　　白日 光は揺らぐ 繡(しゅう)虎(こ)の旗

 

【語釈】

○迎鑾…天子の車駕を奉迎すること。○六師…皇帝の軍。六軍。○黄龍艦…皇帝の威厳を示す戦艦。○繡虎旗…虎を刺繍した旗。

 

★    迎鑾曲　　　　　　　　迎鑾(げいらん)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢 

 

潮落江門煙水秋　　　　潮は江門に落つ 煙水の秋　

雲帆八月過揚州　　　　雲(うん)帆(ぱん) 八月 揚州(ようしゅう)を過ぐ

兩京馳道三千里　　　　両京の馳(ち)道(どう) 三千里　

夾岸垂楊接御溝　　　　岸を夾(さしはさ)む垂(すい)楊(よう) 御溝(ぎょこう)に接す

 

【語釈】

○迎鑾…天子の車駕を奉迎すること。○煙水…靄霞と水。靄が立った川。○雲帆…雲のように大きな帆（を持った船）。○兩京…北京と南京。○馳道…天子や貴人の通る道。おなりみち。○御溝…禁中の堀。

 

★    諸將入朝歌　　　　　　諸将入朝歌　　　　　　　　　　　　  明　　何景明

 

大將龍旗朝帝京　　　　大将の龍旗 帝京に朝す　

至尊親遣貴臣迎　　　　至尊 親しく 貴臣をして迎えしむ　

侍中獨領嫖姚部　　　　侍中 独り領す 嫖姚の部　

戰馬皆歸龍虎營　　　　戦馬 皆な帰る 龍虎の営

 

【語釈】

○入朝…来朝して天子に謁見すること。○龍旗…龍の旗印。○帝京…帝都。○朝…参内する。○至尊…天子。○侍中…門下省の長官。○嫖姚…霍去病。○部…軍隊。○龍虎營…帝京の軍営。

 

★    諸將入朝歌　　　　　　諸将入朝歌　　　　　　　　　　　　  明　　何景明 

 

群公陪宴柏梁臺　　　　群公 宴に陪(ばい)す 柏(はく)梁(りょう)台(だい)　

殿上傳呼萬壽杯　　　　殿上 伝呼(でんこ)す 万寿の杯　

元戎節鉞來江上　　　　元戎(げんい) 節(せつ)鉞(ふ) 江上に来(きた)り　

使者樓船泛海迴　　　　使者の楼船 海に泛(うか)びて迴(めぐ)る

 

【語釈】

○入朝…来朝して天子に謁見すること。○陪宴…貴人の宴会に陪席する。○柏梁臺…漢の武帝が築いた台で、ここではそれを真似た楼台。○萬壽杯…長寿の酒を入れた盃。○元戎…軍の総帥。○節鉞…皇帝から将軍に与えられた鉞。○楼船…櫓を持った船。

 

 

★    諸將入朝歌　　　　　　諸将入朝歌　　　　　　　　　　　　  明　　何景明   

 

戰士歸來盡武冠　　　　戦士 帰り来りて　尽く武冠　

紫纓騮馬跨金鞍　　　　紫纓(しえい) 騮(りゅう)馬(ば) 金(きん)鞍(あん)に跨(こ)す　

可憐萬國城頭月　　　　憐れむべし 万国 城頭の月　

照見沙場白骨寒　　　　照し見る 沙場(さじょう) 白骨の寒きを

 

【語釈】

○入朝…来朝して天子に謁見すること。○紫纓…紫色の冠のひも。○騮馬…よく軍を率いる者。○金鞍…金の鞍。○可憐…感嘆の言葉。ああ。○沙場…砂漠。

 

★    山曉望大内作　　　　　山曉(さんぎょう) 大内(だいない)を望みて作る　　　　　　  明　　湯　珍

 

龍樓佳氣繞鐘山　　　　龍楼(りゅうろう)の佳(か)気(き) 鐘山を繞(めぐ)り　

鳳瓦參差苑樹閑　　　　鳳(ほう)瓦(が) 參(しん)差(し)として 苑樹(えんじゅ)閑(しずか)なり　

一片日華凌曉霽　　　　一片の日華 曉(あかつき)を凌(しの)ぎて霽(は)れ

金光浮動翠微間　　　　金光 浮動す 翠微(すいび)の間(かん)

 

【語釈】

○山曉…山の曙。○大内…天子の寝所。○龍樓…太子の宮殿。○佳氣…めでたい気。○鐘山…南京の東南にある山。○鳳瓦…鳳をかたどった瓦。○苑樹…御苑の樹。○日華…太陽の光。○翠微…薄緑のもや。

 

 

★    萬壽節　　　　　　　　万(まん)寿(じゅ)節(せつ)　　　　　　　　　　　　　　  明　　石　星

 

憶昔聯班覲壽闈　　　　憶う 昔 連班して寿闈(じゅい)に覲(まみ)え　

御鑪香焰靄金扉　　　　御鈩の香焰(こうえん) 金扉に靄(かす)むを　

逢時欲上千秋鏡　　　　時に逢いて 上らんと欲す 千秋鏡　

雲水蒼茫隔京畿　　　　雲水 蒼茫として 京畿を隔つ

 

【語釈】

○萬壽節…天子の誕生日。○聨班…次位を連ねる。○壽闈…？○闈…天子に謁見する。○御鈩…宮中の香炉。○香焔…香木の日。○千秋鏡…？○蒼茫…水などの青々として果てしないさま。○京畿…都。

 

★    苑中寓直　　　　　　　苑中寓(えんちゅうぐう)直(ちょく)　　　　　　　　　　　　  明　　夏　言

 

湧玉亭前放夜舟　　　　湧(ゆう)玉亭前(ぎょくていぜん) 夜 舟を放つ　

碧荷香静雨初收　　　　碧(へき)荷(か) 香 静かにして 雨 初めて收まる

遥看北岸紅煙裏　　　　遥かに看る 北岸 紅煙の裏(うち)　　　　　

水殿珠簾盡上鈎　　　　水殿の珠(しゅ)簾(れん) 尽(ことごと)く鈎(こう)に上(じょう)せらるを

 

【語釈】

○苑中…御苑の中。○寓直…順番の宿直。○湧玉亭…亭の名。不祥。○碧荷…

緑の蓮の葉。○紅煙…赤い靄。○水殿…水中又は水辺の殿堂。○珠簾…たますだれ。○鈎…簾をまきあげて掛ける鈎。

 

 

★    夏日應制　　　　　　　夏日 応制　　　　　　　　　　　　  明　　張　昇

 

荷亭翠柳晝絪縕　　　　荷亭の翠柳 昼 絪縕(いんうん)　

柳外何妨逗火雲　　　　柳外 何ぞ妨げん 火(か)雲(うん)を逗(とど)むるを　

太液風來涼似水　　　　太液 風来たりて涼水に似たり

瑤琴一曲奏南薫　　　　瑤(よう)琴(きん) 一曲 南薫を奏す

 

【語釈】

○應制…皇帝の命令で作った詩。○荷亭…蓮で囲まれた亭。○翠柳…緑色の柳。○絪縕…天地の気が入り交じって盛んなさま。○火雲…夏の雲。雷雲。○太液…太液池。この時代北京の宮城の西苑にあった。○瑤琴…玉で飾った琴。○南薫…曲名？

 

★    瀛臺賜宴恭紀　　　　　瀛(えん)台(だい)に宴を賜わり恭(きょう)紀(き)す　　　　　 　清　　王士禛

 

朝來勅賜宴淋池　　　　朝来(ちょうらい) 勅賜(ちょくし)して 淋(りん)池(ち)に宴す　

桂檝蘭舟待水嬉　　　　桂檝(けいしゅう) 蘭(らん)舟(しゅう)水を待ちて嬉ぶ　

渡盡雲沙囘首望　　　　雲沙(うんさ)を渡(と)尽(じん)して首(こうべ)を回(めぐ)らして望めば　

緑楊風外颭黄旗　　　　緑楊 風外 黄旗颭(そよ)ぐ

 

【語釈】

○瀛臺…太液池の側にあった楼台。○恭紀…敬って記す。○朝來…朝から。○勅賜…詔勅を賜ること。○淋池…陕西省西安市付近にあった池の名。○桂檝…桂の木で作った梶。○蘭舟…木蘭の木で作った舟。○雲沙…雲と沙。○渡盡…渡る。盡は助字。○黄旗…黄色い旗。皇帝の儀仗の一つ。

 

 

★    瀛臺賜宴恭紀　　　　　瀛(えん)台(だい)に宴を賜わり恭(きょうき)紀(き)す　　　　  　清　　王士禛

 

越羅呉錦尚方來　　　　越(えつ)羅(ら) 呉錦 尚お方来(ほうらい)

黄紙書名繡作堆　　　　黄紙(こうし) 名を書して 繡(しゅう) 堆(たい)を作(な)す　

次第鵷行齊拜賜　　　　次第 鵷行(えんこう) 斉(ひとし)く賜(し)を拝(はい)し　

凉蟬聲裏謝恩廻　　　　凉(りょう)蝉声(せんせい)裏(り) 恩を謝して廻(かえ)る

 

【語釈】

○瀛臺…太液池の側にあった楼台。○恭紀…敬って記す。○越羅…越の地方で産する目が細くてやわらな絹織物。○呉錦…吴の地方で産する美しい錦。○方來…まさに来る。○黄紙…詔書。○繡…ぬいとり、えぎぬ。○次第…順に従って。○鵷行…朝廷に並ぶ官吏の行列。○賜…皇帝から賜ったもの。

 

 

★    雪中直南書房          雪中　南書房に直す　　　　　　　　  清　　張　英

 

爐煙暖散墨池氷　　　　炉煙　暖は散ず 墨(ぼく)池(ち)の氷　

滿苑瑶華夜色澄　　　　満苑の瑶華(ようか) 夜色澄む　

秘閣小臣沾聖澤　　　　秘閣の小臣 聖沢(せいたく)に沾(うるお)う

梅花香裡讀書燈　　　　梅花(ばいか)香(こう)裏(り) 読書の灯

 

○南書房…南にある書室。○直…宿直する。○爐煙…香炉の煙。○墨池…硯の墨の溜まる凹部。○瑶華…玉のように美しい花。○夜色…夜の景色。夜の気配。○秘閣…天子の蔵書を収める館。○聖澤…天子のめぐみ。

 

 

★    行宫後苑賜宴恭賦　　行宫の後苑にて宴を賜わり恭(うやま)いて賦す 　　清　　查愼行

 

華貂環座盡公侯　　　　華貂に環座するは 尽(ことごと)く公侯

特許詞臣與宴遊　　　　特に許す 詞臣 宴遊を与(とも)にするを　

滿引金樽歌旣醉　　　　金樽を満引して 歌 既に酔う　

謝恩齊上木蘭舟　　　　恩を謝し 斉(ひと)しく上る 木(もく)蘭(らん)の舟

 

【語釈】

○華貂…貂の皮で作った美しい敷物。○環座…丸くなって座る。○公侯…貴族。○詞臣…文学侍従の臣。○金樽…黄金の酒樽。酒樽の美称。○満引…飲み干す。

 

★    圓暝園泛舟恭賦　　　　円暝(えんめい)園(えん)に舟を泛(うか)べ 恭(うやま)いて賦(ふ)す　　　  清　　張延玉

 

煙波清廻泛軽航　　　　煙波 清廻(せいかい)し 軽航(けいこう)を泛(うか)ぶ　

蘋末風生六月涼　　　　蘋(ひん)末(まつ) 風は生ず 六月の涼　

此景秖應圖畫見　　　　此の景 秖(た)だ 応(まさ)に図画(とが)に見るべし　

十州二島水中央　　　　十州 二島 水の中央

 

【語釈】

○圓暝園…不祥。○煙波…水面のもや。○軽航…軽い舟。早い舟。○蘋末…うきくさ、水草の上。○秖…ただ。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～だろう、きっと～に違いない」の意。

 

 

★    共送回鑾　　　　　　　回鑾を共送す　　　　　　　　　　　  清　　除　倬

 

龍帆除颺彩雲飄　　　　龍(りゅう)帆(はん) 除(そぞろ)に颺(あ)がり 彩雲飄(ひるがえ)える　

拜送霓旌望斗杓　　　　霓旌(げいせい)を拝送(はいそう)し 斗(と)杓(しゃく)を望む　

白髪雖甘青嶂老　　　　白髪 青嶂(せいしょう)に老(おい)を甘すと雖(いえど)も　

丹心猶戀紫宸朝　　　　丹心 猶お恋ゆ 紫宸(ししん)朝(ちょう)

 

【語釈】

○回鑾…帰る天子の船。○龍帆…天子の船の帆。○彩雲…朝日や夕陽に照らされて彩られた雲。○霓旌…五色の羽毛の旗。皇帝の儀仗の一つ。○斗杓…北斗七保星。○拝送…拝み見送る。○青嶂…切り立った青山。○丹心…真心。○紫宸朝…北京の紫禁城。

 

★    試院即事　　　　　　　 試院(しいん)即事(そくじ)　　　　　　　　　　　　  清    陳沂震

 

畫戟森嚴晝漏遲　　　　画戟(がげき) 森厳(しんげん) 画(が)漏(ろう)遲し　

凝香燕寢日斜時　　　　香を凝す燕寢(えんしん) 日 斜なる時　

柝聲繞院人聲寂　　　　柝声(たくせい) 院を繞(めぐ)ぐり人声 寂たり　

滿箔春蠶正吐絲　　　　満箔(まんぱく)の春(しゅん)蚕(さん) 正に糸を吐(は)く

 

【語釈】

○試院…試験場。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○畫戟…色彩や模様を施した鉾。○森嚴…おごそかなさま。○晝漏…色彩や模様を施した水時計。○燕寢…帝王の居室。○柝聲…拍子木の音。○滿箔…まぶし（糸を吐くようになった蚕を移して繭を作らせるためのすだれ）一杯の。○春蠶…春の蚕。

 

 

★    放内苑諸禽　　　　　　内苑(ないえん)に諸禽(しょきん)を放つ　　　　　　　　　  明    陳  沂

 

多年調養在雕籠　　　　多年 調(ちょう)養(よう) 雕(ちょう)籠(ろう)に在り　

放出初飛失舊叢　　　　放出 初めて飛び 旧叢(きゅうそう)を失う

祗為恩深未能去　　　　祗(まさ)に 恩深きが為に 去る能(あた)わず　

朝來還繞上陽宮　　　　朝來(ちょうらい) 還(かえ)り繞(めぐ)る 上陽宮(じょうようきゅう)

 

【語釈】

○内苑…宮中の庭園。○調養…養育する。○雕籠…精密にできた鳥かご。○舊叢…古い住処？○祗…まさに。○朝來…明け方から。○上陽宮…宮殿の名。洛陽の東南にあった。

 

絶句類選　巻之三　　　宴會類

 

 

★    宴春源　　　　　　　　春源に宴す　　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

源向春城花幾重　　　　源(みなもと)は春(しゅん)城(じょう)に向い 花は幾重(いくちょう)　

江明深翠引諸峯　　　　江 明かにして 深(しん)翠(すい) 諸峯を引く　

與君醉失松溪路　　　　君と酔いて失す 松溪(しょうけい)の路　

山館寥寥傳暝鐘　　　　山館 寥々(りょうりょう) 暝(めい)鐘(しょう)を伝う

 

【語釈】　

○春城…春の街。○深翠…濃いみどり。○山館…山の旅館。○寥寥…しんとして静かなさま。○暝鐘…晩鐘。

 

 

★    龍標野宴　　　　　　　龍標(りゅうひょう)野(や)宴(えん)　　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

沅溪夏晚足涼風　　　　沅溪(げんけい) 夏晚 涼風足る　

春酒相攜就竹叢　　　　春酒 相携(あいたずさ)えて竹(ちく)叢(そう)に就(つ)く　

莫道絃歌愁遠謫　　　　道(い)う莫(なか)れ 絃歌(げんか) 遠謫(えんたく)を愁うと　

青山明月不曾空　　　　青山 明月 曽(かつ)て空しからず

 

【語釈】

○龍標…湖南省黔阳県。王昌齢が謫されたところ。○沅溪…川の名、沅水ともいう。○春酒…春に醸した酒。○竹叢…たけやぶ。○絃歌…音楽と歌。○遠謫…遠くに左遷されること。

 

 

★    李四倉曹宅夜飲　　　　李四倉曹(りしそうそう)宅にて夜飲す　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

霜天留飲故情歡　　　　霜天(そうてん)に留飲(りゅういん)すれば 故情(こじょう)歓(よろこ)ぶ

銀燭金爐夜不寒　　　　銀燭 金炉 夜 寒からず　

欲問呉江別來意　　　　問わんと欲す 呉江 別来(べつらい)の意　

青山明月夢中看　　　　青山 明月 夢中に看る

 

【語釈】

○李四倉曹…不祥。四は排行。倉曹は官職名。○霜天…霜が降りる日の空。○留飲…留まって飲む。○故情…旧情。○銀燭…銀の燭台。○金爐…金の香炉。○呉江…吴淞江の別名。江蘇省の県名。○別來…別れてから。

 

★    洛陽客舍逢祖詠留宴　　洛陽の客舍(かく)にて祖(そ)詠(えい)に逢いて留(りゅう)宴(えん)す　 唐　　蔡希寂

 

綿綿漏鼓洛陽城　　　　綿々(めんめん)たる漏鼓(ろうこ) 洛陽城　

客舍貧居絕送迎　　　　客舍(かくしゃ) 貧(ひん)居(きょ) 送迎を絶つ

逢君買酒因成醉　　　　君に逢いて酒を買い 因(よ)りて酔を成す　

醉後焉知世上情　　　　酔後 焉(いずく)んぞ知らん 世上の情

 

【語釈】

○客舎 … 旅館。○祖詠 …盛唐の詩人。洛陽の人。王維とは幼友達。○留宴 … 人を引きとどめて、酒を酌み交わすこと。○綿綿 … 長く続いて絶えないさま。○漏鼓 …水時計の時刻を知らせるために鳴らす太鼓。○客舍…旅館。○絶送迎 … 客を送り迎えすることがない。○焉 … 「いずくんぞ～ん（や）」と読む。「どうして～であろうか、いや～でない」と訳す。反語の形。○世上情 … 俗世間のつまらぬ義理人情。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    山行留客　　　　　　　 山行 客(かく)を留む　　　　　　　　　　  唐　　張　旭

 

山光物態弄春輝　　　　山光 物態 春輝を弄(ろう)す

莫爲輕陰便擬歸　　　　軽陰の爲に 便(すなわ)ち帰(き)を擬すること莫かれ　

縱使晴明無雨色　　　　縱使(たとい) 晴明 雨色無くも

入雲深處亦沾衣　　　　入雲　深き処 亦(ま)た 衣を沾(うるお)す

 

【語釈】

○山光…山の輝き。○物態…物のありさま。○春輝…春の日光。陽春の和気。○弄…めでる。○輕陰…薄曇り。○便…ただちに。○擬…図る。○縱使…たとえ。○清明…淸明節。二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○雨色…雨の気配。

 

★    酒泉太守席上醉後作　　酒(しゅ)泉(せん)の太守 席上 酔後(すいご)の作　　　　　  唐　　岑　參

 

酒泉太守能劒舞　　　　酒(しゅ)泉(せん)の太守　能(よ)く剣舞す　

高堂置酒夜擊鼓　　　　高堂に置酒(ちしゅ)して 夜 鼓を撃つ

胡笳一曲斷人腸　　　　胡笳(こか) 一曲 人の腸(はらわた)を断つ

座上相看淚如雨　　　　座上 相(あい)看(み)て 淚 雨の如し

 

【語釈】

○酒泉…郡名。今の甘粛省酒泉市。○能…上手に。○高堂 … 大広間。○置酒…酒宴を開くこと。○胡笳…北方民族の胡人が吹く葦あしの葉の笛。物悲しい音色を出す。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    書堂飲既夜復邀李尚書下馬月下賦　　　　　　　　　　　　　　唐　　杜　甫

書堂にて飲む 既に夜 復(ま)た李(り)尚書(しょうしょ)を邀(むか)え 下馬して月下に賦す

 

湖月林風相與清　　　　湖月 林風 相(あい)与(とも)に清し　

殘尊下馬復同傾　　　　残尊 下馬して 復(ま)た同(とも)に傾く　

久拌野鶴如霜鬢　　　　久しく拌(す)つ 野鶴如(やかくじょ)たる霜(そう」」)鬢(びん)　

遮莫鄰雞下五更　　　　遮莫(さもあらばあれ)　鄰雞(りんけい)の五更を下(つ)ぐるを

 

【語釈】

○書堂…胡侍御の書斎を指す。○李尚書…李之芳。○残尊…残った酒。○拌…うっちゃらかす。○野鶴如…如野鶴の倒置法。○双鬢…左右の鬢の毛。○遮莫 …ままよ。○隣雞…隣りの鶏。○五更…今の午前四時。○下ぐる … 鶏が時を告げること。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    宴詞                  宴詞                               唐　　王之渙

 

長堤春水綠悠悠　　　　長堤 春水 緑(みどり)悠々(ゆうゆう)　

畎入漳河一道流　　　　畎(けん)は漳河に入りて 一道流る　

莫聽聲聲催去櫂　　　　聽く莫れ 声々去(きょ)櫂(とう)を催(うなが)すを　

桃溪淺處不勝舟　　　　桃溪(とうけい) 浅き処 舟に勝えず

【語釈】

○悠悠…他と変わりなくゆったりしたさま。○畎…谷。○漳河…湖北省を流れる川。○聲聲…此処では櫂の音。○去櫂…船が離れていく。○桃溪…桃の花が咲いている渓。○勝舟…（旅愁の重みで）舟が進まない。

 

 

★    宴城東莊              城東の荘に宴す　　　　　　　　　　　唐　　崔敏童

 

一年始有一年春　　　　一年 始めて 一年の春有り

百歲曾無百歲人　　　　百歲 曽て 百歲の人無し

能向花前幾回醉        能(よ)く 花前に向(お)いて 幾回か酔わん

十千沽酒莫辭貧　　　　十千 酒を沽(か)って 貧を辞する莫れ

 

【語釈】

○城東莊…長安の東郊にある庵の玉山草堂。○一年…一年経つ。○始…やっと。はじめて。○能…～できる。～が可能である。○向：…に。…にて。…に於いて。○花前…（春の）花の咲く所で。○十千：一万錢。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    奉和家兄宴城東莊     　家兄の「城東の荘に宴す」に和し奉る　　　唐　　崔惠童     

一月主人笑幾回　　　　一月 主人笑うこと 幾回ぞ

相逢相識且銜杯　　　　相逢(あいあ)い 相識(あいし)り 且(しばら)く杯を銜(ふく)まん

眼看春色如流水　　　　眼に看る 春色 流水の如し

今日殘花昨日開　　　　今日の残花は 昨日開きし

 

【語釈】

○城東莊…長安の東郊にある庵の玉山草堂。○一月 … 一月のうちで。値 … 思いがけなく出会うこと。且 …ひとまず。ともかく。銜杯 … 酒を飲む。○春色 … 春の景色。○殘花 … 枝に散り残っている花。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    對月荅元明府　　　　 月に対して元明府に荅(こた)う　　　唐　　戴叔倫        

 

山下孤城月上遲　　　　山下の孤城 月の上ること遲し

相留一醉本無期　　　　相(あい)留(とど)めて一酔 本(もと) 期無し

明年此夕遊何處　　　　明年 此の夕(ゆう) 何れの処にか遊ばん

縱有清光好對誰　　　　縱(たと)い 清光有りとも　好く誰にか対せん

 

【語釈】

○元明府…不祥。○孤城…ぽつりとある街。○明府…太守。県令。○期…機会。約束。○縱…たとえ。○清光…清らかな月の光。

 

★    楚州韋中丞箜篌　　　　楚州 韋中丞(いちゅうじょう)の箜篌(くご)　　　　　　　   唐　　張　祜

 

千重鉤鎖撼金鈴　　　　千重(せんちょう)の鉤(こう)鎖(さ) 金鈴を撼(ゆす)り

萬顆真珠瀉玉瓶　　　　万顆(か)の真珠 玉(ぎょく)瓶(へい)に瀉(そそ)ぐ　

恰值滿堂人欲醉　　　　恰(あたか)も值(あ)う 満堂の人 酔わんと欲す

甲光纔觸一時醒　　　　甲光 纔(わずか)かに触(ふれ)て 一時に醒(さ)む

 

【語釈】

○楚州…江蘇省淮安市。○韋中丞…不祥。中丞は官職で監察官。○箜篌…楽器の一首。○千重…いくえにも重なった。○鉤鎖…彎曲した鎖。○撼…揺する。動かす。○萬顆…多くの粒。○玉瓶…玉でできた瓶。○恰…ちょうど。○恰…ちょうど。○値…でくわす。○甲光…？。○觸…ふれる。さわる。

 

 

★    花下醉　　　　　　　　 花下に酔う　　　　　　　　　　　  唐　　李商隱

 

尋芳不覺醉流霞　　　　芳(はな)を尋ねて覚えず 流(りゅう)霞(か)に酔うを　

倚樹沈眠日已斜　　　　樹に倚(よ)りて 沈眠(ちんみん)すれば 日は已に斜めなり　

客散酒醒深夜後　　　　客散じ 酒は醒(さ)む 深夜の後　

更將紅燭賞殘花　　　　更に紅燭(こうしょく)を将(も)って 残(ざん)花(か)を賞せん

 

【語釈】

○流霞…たなび動くもや。○沈眠…深く眠り込む。○紅燭…赤い灯火。○殘花…散り残りの花。

 

★    三月晦日贈劉評事　　　三月(さんがつ)晦日(かいじつ)　劉評事(りゅうひょうじ)に贈る　　　　　　　唐　　賈　島　

 

三月正當三十日　　　　三月 正(まさ)に当(あ)たる 三十日　

風光別我苦吟身　　　　風光(ふうこう) 我が苦吟(くぎん)の身に 別る　

共君今夜不須睡　　　　君と共に 今夜 睡(ねむ)るを須(もち)いず　

未到曉鐘猶是春　　　　未だ 曉(ぎょう)鐘(しょう)に到らざれば 猶(な)お是(こ)れ 春　

 

【語釈】

○晦日…一ヶ月の月末の日、三月晦日は春の最後の日。○評事…大理寺（最高裁判所）に属する下級の裁判官。○正當…ちょうど～になる。○風光…美しい自然のながめ。○苦吟…苦心して詩歌を作ること。○不須…～に及ばない。もちいず。○睡…ねむる。○曉鐘…黎明を告げる鐘の音。○猶是…なおまだ～だ。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    貴侯園 　　　　　　　貴(き)侯(こう)園(えん) 　　　　　　　　　　　　　　  宋　　穆　脩

 

名園雖自屬侯家　　　　名園 自(おのずか)ら 侯家に屬すと雖(いえど)も　

任客閒遊到日斜　　　　客(かく)の閑遊(かんゆう)に任せて　日の斜めなるに到る　

富貴位高無暇出　　　　富貴 位高 出ずる暇無し　

主人空看折來花　　　　主人空しく看る　折来(せつらい)の花　　　

 

【語釈】

○貴侯園…貴人公侯の庭園。○侯家…貴人の家。○閒遊…静かにのんびりと遊ぶ。○位高…位の高い人。○折來…人が折ってしまったあと。來は助字。

 

 

 

★    謝寇相公見訪　　　　　寇相公の訪れらるに謝す　　　　　　  宋　　魏　野

 

晝睡方濃向竹齋　　　　昼睡(ちゅうすい) 方(まさ)に濃く 竹斎に向う　

柴門日午尚慵開　　　　柴門 日午 尚お開くに慵(ものう)し　

驚迴一覺遊仙夢　　　　驚迴(きょうかい)す 一覚 遊仙の夢　

村巷傳呼宰相來　　　　村(そん)巷(こう) 伝呼す 宰相来たると

 

【語釈】

○寇相公…不祥。相公は宰相のこと。○昼睡…昼寝。○竹齋…竹を植えた書室。○向…場所、対象を示す前置詞。○柴門…芝で作った粗末な門。謙遜して使う。○日午…正午。○驚迴…驚く？○一覺…夢が覚めること。○遊仙夢…仙界に遊ぶ夢。○村巷…村里。

 

 

★    過外弟飲               外弟に過(よ)ぎりて飲す　　　　　　　  宋　　王安石

 

一自君家把酒杯　　　　一たび 君が家にて 酒杯を把(と)りて自(よ)り

六年波浪與塵埃　　　　六年 波浪と塵埃と

不知烏石岡邊路　　　　知らず 烏(う)石(せき)岡辺(こうへん)の路　　

至老相尋得幾回　　　　老い至りて 相尋ぬること 幾回を得ん

 

【語釈】

○外弟…義理の弟。○過…「によぎる」と読み訪れる。○波浪…波乱の人生。○塵埃…俗世間の生活。○烏石岡…岡の名。所在地不定。

 

★    示公佐　　　　　　　　　公(こう)佐(さ)に示す　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

殘生傷性老躭書　　　　生を残(ざん)し 性を傷つけ 老いて書に躭(ふ)ける　

年少東來復起予　　　　年少 東来 復(ま)た予を起す　

各據槁梧同不寐　　　　各(おの)ゝ(おの)の槁梧に拠(よ)り 同(とも)に寐(いね)ず　

偶然聞雨落階除　　　　偶然 雨の 階除(かいじょ)に落つるを聞く

 

【語釈】

○公佐…蘇宷（？～一○七九），磁州滏陽（今河北磁縣）人。○殘…損なう。○

年少…若いとき。○東来…東方にやってくる。○起予…自分の心を開き明らかにする。○槁梧…琴。○據…寄りかかる。○階除…階段。

 

 

★    答師厚夜過見詒　　　　師厚が夜過ぎて詒(よ)せらるるに答う　　  宋　　韓　維

 

幽居直欲學忘言　　　　幽(ゆう)居(きょ) 直だ　言を忘るを学ばんと欲す　

忍對賢豪遂默然　　　　忍びて 賢(けん)豪(ごう)に対して 遂(つい)に默(もく)然(ぜん)　

談到精微夜寥闃　　　　談じて 精微に到り 夜 寥闃(りょうせき)　

秋風時下竹窗前　　　　秋風時下 竹窓の前

 

【語釈】

○師厚…不祥。○幽居…僻地の静かな住まい。○賢豪…賢く優れた者。○默然…黙っているさま。○寥闃…しずかで物寂しいさま。○竹窗…竹林に面した窓。

 

★    贈孫莘老           　孫莘(そんしん)老(ろう)に贈る     　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

嗟予與子久離群　　　　嗟(さ)す　予と子 久しく離群(りぐん)たるを　

耳冷心灰百不聞　　　　耳(じ)冷(れい) 心(しん)灰(かい)にして　百たび聞かず　

若對青山談世事　　　　若(も)し 青山に対し 世事を談ずれば　

當須舉白便浮君　　　　当(まさ)に須(すべか)く 白を挙げ 便ち君を浮すべし

 

【語釈】

○孫莘老…孫覺。○離群…友達から離れていること。○耳冷…耳が聞こえないこと。○心灰…灰のような心。○青山…青青と木の茂っている山。○世事…俗世間のこと。○當…まさに。ほんとうに。○須…すべからく～すべしと読み、当然～すべきであるの意。○白…盃。○浮…罰杯を飲ませる。

（参考文献）　『漢詩体系』

 

 

★    吉祥寺賞牡丹　　　　　吉祥寺(きっしょうじ)にて牡丹を賞す　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

人老簪花不自羞　　　　人は老いて花を簪(かんざ)し 自(みずか)は羞(は)じず　

花應羞上老人頭　　　　花は応(まさ)に羞(は)ずべし 老人の頭に上るを　

醉歸扶路人應笑　　　　酔いて帰り 路人に扶けらる 応(まさ)に笑うべし

十里珠簾半上鉤　　　　十里の珠(しゅ)簾(れん) 半ば鉤(こう)に上(しょう)せらる

 

【語釈】

吉祥寺…杭州にあった寺院名、ボタンの名所。賞…見て楽しむ。簪…かんざしをさす。不自-…別に～とは思わない。醉歸…酔って帰ること。扶…支える。応…応(まさ)に～すべし、当然…であろう。珠簾…玉スダレ。鉤…簾をとめるかぎ。

（参考文献）　　『中国詩人選集二―５』

 

★    集于昌齡之舍　　　　　于(う)昌(しょう)齢(れい)の舍(しゃ)に集う　　　　　　　　  宋    孔平仲

 

一醉昏昏萬不知　　　　一たび酔いて 昏々(こんこん) 万(よろず) 知らず

黄昏促席夜深歸　　　　黄昏(こうこん) 席を促(うなが)して 夜深くして帰る

明朝惟見家人說　　　　明朝 惟(た)だ見る 家人の説くを

昨夜歸時雪滿衣　　　　昨夜 帰る時 雪 衣に満つと

 

【語釈】

○于昌齡…不祥。○昏昏…うつらうつらしているさま。○黄昏…たそがれどき。

 

 

★      和微之飲む楊路分家聴琵琶　　　　　　　　　　　　　　　　　宋     韓 維

 　　　　　　 微之(びし)の「楊(よう)路(ろ)分家(ぶんけ)に飲(いん)して琵琶を聴く」に和す

 

朱弦四十昔嘗聞　　　　朱弦 四十 昔 甞(かつ)て聞く　

藝不論多貴絕倫　　　　芸は 多を論ぜず 絶倫を貴ぶ　

少損新聲放平淡　　　　少し 新声を損い 平淡を放ち　

免教醉殺白頭人　　　　白頭人(はくとうじん)を 酔殺(すいさつ)せしむことを免れしめよ

 

【語釈】　

○微之…不祥。○楊路分家…不祥。○嘗…曽て。常に。○絶倫…同類からかけ離れていること。○新聲…新しい曲。○平淡…あっさりしていること。○白頭人…白髪頭の老人。○醉殺…ひどく酔わせる。

 

★    小酌元衛弟聽雨　　　　元衛(げんえい)弟(てい)と小酌して雨を聴く　　　　　  宋　　樓　鑰

 

小閣臨流暑氣清　　　　小閣 流れに臨みて 暑気 清く　

藕花的的照人明　　　　藕(ぐ)花(か) 的々(てきてき) 人を照らして明(あきら)かなり　

移牀更近欄邊坐　　　　牀(しょう)を移して　更に　欄(らん)辺(ぺん)に近く坐せば　

要聽棋聲雜雨聲　　　　要(かなら)ず 棋声(きせい)の雨声に雜じるを聴かん

 

【語釈】

○元衛弟…不祥。○小酌…軽く酒を飲む。○藕花…蓮の花。○的的…明らかなさま。○欄邊…手すりのほとり。○要…必ず。きっと。○棋聲…碁を打つ音。

 

 

★    春日同社會飲張園小樓得飛字　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　史彌寧

 　　　春日 同社 張園小楼に会飲して 飛の字を得たり

 

殘紅委地水平池　　　　残(ざん)紅(こう) 地に委(みすて)られて 水 池に平かなり　

楊柳陰陰鶯亂飛　　　　楊柳 陰々(いんいん) 鶯 乱れ飛ぶ　

山色滿樓新雨後　　　　山色 楼に満つ 新雨の後　

一簾風絮卷春歸　　　　一簾の風絮(ふうじょ) 春を巻いて帰る

【語釈】

○同社…仲間。同学の者。○張園小楼…楼の名。不祥。○得飛字…くじ引きで韻字を決めるときに「飛」の字が当たったこと。○殘紅…散り残りの花。○委…見捨てる。捨てる。○陰陰…葉が茂ったさま。○山色…山の景色。○一簾…連なって下るさま。○風絮…風に飛ぶ柳絮。

 

★    次韵李端叔題孔方平書齋壁　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　釋道潜

  　　　　　李端叔(りたんしゅく)の「孔方(こうほう)平(へい)の書斎の壁(へき)に題す」に次韻す

 

端居終日少逢迎　　　　端居(たんきょ) 終日 逢(ほう)迎(げい)少(まれ)なり

佳客時來一座傾　　　　佳客(けいかく) 時に来たりて 一座 傾むく

不見諸郎事弦管　　　　見ず 諸郎 弦管を事とすを

幽窗唯有讀書聲　　　　幽(ゆう)窓(そう) 唯だ有り 読書の声

 

【語釈】

○李端叔…李之儀。北宋の官僚で詩人。○孔方平…孔夷。北宋の隠者。○題…詩を壁に書き付けること。○次韵…同じ韻字を同じ順所で用いて詩を作ること。○端居…ふだん。○逢迎…人を迎え接待する。○佳客…良い客。○一座…同じ席に座せる者。○傾…酒を飲む。○諸郎…もろもろの男児。○幽窗…静かな窓。

 

 

★    飲歸　　　　　　　　　 飲みて帰る　　　　　　　　　　　  元　　方　回

 

瀲灧紅深百盞澆　　　　瀲灧(れんえん) 紅(こう) 深くして 百盞(せん)澆(そそ)ぐ　

醉歸不覺路迢迢　　　　酔帰し覚えず 路の迢々(ちょうちょう)たるを　

臨分情味殷勤甚　　　　分(わかれ)に臨みて 情味(じょうみ) 殷(いん)勤(ぎん)なること甚(はなはだ)し　

暗遣人扶過畫橋　　　　暗(あん)に 人をして 扶(たす)けて画橋を過(よぎ)らしむ

 

【語釈】

○瀲灧…水面が月や日の光に映じてきらめくさま。○百盞澆…沢山の酒を頂いた。○迢迢…遙かに遠いさま。○分…別れ？○情味…心のおもむき。○暗…ひそかに。○畫橋…模様や色彩で色どられた橋。

 

★    寒食逢杜賢良飲　　　　寒食 杜賢良に逢いて飲む　　　　　  明　　髙　啓

 

楊栁無煙江水長　　　　楊栁 煙無く 江水長し

鄰家風雨杏餳香　　　　鄰家の風雨 杏(きょう)餳(とう)香(かんば)し　

逢君共把金陵酒　　　　君に逢い 共に把(と)る 金陵の酒　

忘却今朝在異鄉　　　　忘却す 今朝(こんちょう) 異鄉に在るを

 

【語釈】

○寒食…冬至から一○五日目、この日を挟んで前後の計三日間は火を使うことを禁じた。○杜賢良…杜という徳と才能のある人。○煙…靄、霞。○杏餳…杏で作った飴。寒食には火が使えないので，飴が好まれた。○金陵…南京。

 

 

★    趙待製席上　　　　　　趙待製(ちょうたいせい)の席上　　　　　　　　　　  明　　沈梦麟

 

春城飛絮日顚狂　　　　春城の飛絮 日に顛狂(てんきょう)　

簾幕風微燕子忙　　　　簾幕(れんばく) 風 微(かす)かにして 燕子(えんし)忙し　

醉後不知羅袖薄　　　　酔後(すいご)知らず 羅(ら)袖(しゅう)の薄きを　

牡丹花上月如霜　　　　牡丹(ぼたん)花上(かじょう) 月 霜の如し

 

【語釈】

○趙待製…不祥。○飛絮…飛ぶ柳絮。○顚狂…挙動が落ち着かないさま。○簾幕…簾と幕。○羅袖…薄絹の袖。

 

★    贈瀋介軒　　　　　　　瀋(しん)介(かい)軒(けん)に贈る　　　　　　　　　　　  明　　瀋　翊

 

錦繡湖山罨畫樓　　　　錦繡(きんしゅう) 湖山(こざん) 罨画楼(あんがろう)　

君家住在小瀛洲　　　　君が家に住(じゅう)して 小瀛(しょうえい)洲(しゅう)に在り

洞簫吹上花間月　　　　洞簫(どうしょう) 吹き上ぐ 花間の月　

十二珠簾不下鉤　　　　十二の珠(しゅ)簾(れん) 鉤(こう)を下(くだ)らず

 

【語釈】

○瀋介軒…不祥。○錦繡…錦と縫い取りのある着物。美しい物のたとえ。○罨畫樓…彩色した檜の楼。○瀛洲…東海中にあって仙人が住むと伝えられる山。○洞簫…尺八に似た竹製の管楽器。○珠簾…玉すだれ。○鉤…簾を捲き上げた紐をかける金具。

 

 

★    席上偶成               席上偶成                           明　　孫一元

 

楊花燕子弄春柔　　　　楊(よう)花(か) 燕子(えんし) 春(しゅん)柔(じゅう)を弄(ろう)す　

醉倚箜篌笑未休　　　　酔いて箜篌(くご)に倚(よ)り 笑い 未(いま)だ休(や)まず　

依舊清風明月好　　　　旧に依(よ)り 清風 明月好し　

買船吹笛過滄洲　　　　船を買い 笛を吹きて 滄(そう)洲(しゅう)を過ぐ

 

【語釈】

○楊花…柳絮。○燕子…つばめ。○春柔…春の和らぎ。○弄…めでる。○箜篌…楽器の一種。○依…従う。○滄洲…河北省滄県の東南地方。隠棲の地とされた。

 

★    招張少坤　　　　　　　張少坤(ちょうしょうこん)を招く　　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

蕭蕭落木下江干　　　　蕭々(しょうしょう)たる落木 江(こう)干(かん)を下る　

秋老東林白露寒　　　　秋老いて 東林 白露寒し　

爲報陶家新酒熟　　　　為に報ず 陶家(とうか) 新酒熟すと　

黄花三徑待君看　　　　黄花 三径 君を待ちて看る

 

【語釈】

○張少坤…不祥。○蕭蕭…物寂しい様子や音の形容。○江干…江のふち。○秋老…秋がふけて過ぎ去ろうとする。○陶家…陶淵明の家。○黄花…ここでは菊。○三徑…隠者の庭門。

 

 

★    郭壽郷園亭醉賦        郭寿の郷園亭にて酔いて賦す　　　　  明　　謝　榛

 

郭家亭子夾松篁　　　　郭家亭子(かくけていし) 松篁(しょうこう)を夾(さしはさ)む

把酒臨池幽興長　　　　酒を把(と)り 池に臨めば 幽(ゆう)興(きょう)長し　　　

人在千山秋色裏　　　　人は 千山秋色の裏(うち)に在り　　

不知雲氣滿衣裳　　　　知らず 雲気の衣裳に満つるを

 

【語釈】

○郭壽郷園亭…不祥。○郭家亭…不祥。○松篁…松と竹。○幽興…奥ゆかしいおもむき。○雲氣…雲のような気配。雲。

 

★    留鄒訏士　　　　　　　鄒訏士(すうきょし)を留む　　　　　　　　　　　  清　　元　鼎

 

新開蘭蕙正芳菲　　　　新開の蘭蕙(らんけい) 正に芳菲(ほうひ)　

初到鰣魚居饌肥　　　　初めて到る鰣魚(じぎょ) 饌(せん)に入りて肥ゆ　

正是風光好三月　　　　正に是れ 風光 好三月　

如何抛却渡江歸　　　　如何(いかん)ぞ 抛却(ほうきゃく)して 江を渡りて帰らん

 

【語釈】

○鄒祗謨…鄒訏士。清初の人。○蘭蕙…蘭と蕙、かおりぐさ。○芳菲…花の良いにおい。○鰣魚…このしろ。○饌…ごちそう。○風光…景色。○如何…どうして～か。反語。○抛却…なげうつ。却は強調の助字。

 

 

★    春除日洪慶之過飲　　　　春除の日 洪慶(こうけい)と過飲(かいん)す　　　　　　　　清　　高承埏

 

憐君臥病已経旬　　　　憐む 君が病に臥して 已に旬を経(へ)たるを

出郭尋春却送春　　　　郭(かく)を出で 春を尋ね 却って春を送る

歸路只應乗醉眼　　　　帰路 只だ応(まさ)に酔眼に乗ずべし

柳花如雪倍愁人　　　　柳花 雪の如く 倍(ます)ゝ(ます)人を愁えしむ

 

【語釈】

○春除日…旧暦三月三十日。○洪慶…不祥。○應…「まさに～すべし」と読み「～するのがよい」の意。○乗醉眼…酔った眼で見る。「乗」は利用するの意。○柳花…柳絮。

 

★    江上期汪松研不至　　　江上 汪松研を期すも 至らず         清　　王元勲

 

相期江上采芙蓉　　　　相(あい)期(き)す 江上に芙蓉を采(と)るを　　　

行盡前灘尚未逢　　　　前灘(ぜんだん)を行き尽すも 尚(な)お未だ逢わず　

空見林梢明月出　　　　空しく見る 林(りん)梢(しょう) 明月の出ずるを　

淡烟城郭起疎鐘　　　　淡煙 城郭 疎(そ)鐘(しょう)起る

 

【語釈】

○汪松研…不祥。○前灘…前の灘。○林梢…林の樹のこずえ。○淡煙…淡い靄、霞。○疎鐘…疎らな鐘の音。

 

絶句類選標本　二

絶句類選　巻之四　閑適類

 

 

★    山中荅俗人　　　　　　山中にて俗人に答う　　　　　　　　  唐　　李　白

 

問余何意栖碧山　　　　余に問う 何の意あって 碧山(へきざん)に栖(す)むと　

笑而不荅心自閑　　　　笑って答えず 心 自(おのずか)ら閑(かん)なり　

桃花流水窅然去　　　　桃花 流水 窅(よう)然(ぜん)として去る　

別有天地非人間　　　　別に 天地の 人間(じんかん)に非(あら)ざる有り

 

【語釈】

○何意 … どんな考えで。どういうわけで。○碧山 … 青々とした奥深い山。○閑 … のどか。○桃花流水 …桃の花びらが水の上を流れていく。○窅然 … はるか遠いさま。○天地 … 世界。○人間 …俗世間。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    山中與幽人對酌    　　山中にて幽人(ゆうじん)と対酌(たいしゃく)す　　　　　　　唐　　李　白

 

兩人對酌山花開　　　　両人 対酌(たいしゃく)して 山花開く　　　　

一杯一杯復一杯　　　　一杯 一杯 復(ま)た一杯　

我醉欲眠卿且去　　　　我 酔いて眠らんと欲す 卿(きみ) 且(しばら)く去れ　

明朝有意抱琴來　　　　明朝 意有らば 琴を抱きて来たれ

 

【語釈】

○幽人…隠者。○対酌 … 差しむかいで酒をくみかわすこと。○卿 … 親しい間柄の相手を呼ぶ語。君。○且 … 「しばらく」と訓読し、ひとまず。まあちょっと。○有意 … 気が向いたなら。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    山房春事　　　　　　　山房春事　　　　　　　　　　　　　       唐　　岑　参       

 

風恬日暖蕩春光　　　　風恬(しず)かに 日暖かく 春光を蕩(うごか)す

戲蝶遊蜂亂入房　　　　戯(ぎ)蝶(ちょう) 遊(ゆう)蜂(ほう) 乱れて房に入る

數枝門柳低衣桁　　　　数枝の門柳 衣桁(いこう)に低く

一片山花落筆牀　　　　一片の山花 筆(ひつ)床(しょう)に落つ

 

【語釈】

○恬…静か。やすらか。○戲蝶…戯れるような蝶。○遊蜂…遊ぶような蜂。○衣桁…布かけ。○筆牀…筆かけ。

 

★    江上所居　　　　　　　江上の所居　　　　　　　　　　　　 　　 唐　　顧　況

 

家在雙峰蘭若邊　　　　家は 双峰(そうほう)蘭(らん)若(にゃ)の辺(へん)に在り　

一聲秋磬發孤煙　　　　一声の秋磬(しゅうけい) 孤煙を発す

山連極浦鳥飛盡　　　　山は極(きょく)浦(ほ)に連なり 鳥 飛び尽き　

月上青林人未眠　　　　月は青(せい)林(りん)に上りて 人 未だ眠らず

 

【語釈】

○江上…江のほとり。○雙峰…二つの峰。○蘭若…寺。○秋磬…磬はへの字型の金属、石でできた楽器で主に寺院で合図に使われた。○孤煙…一筋の靄、霞。○極浦…遠方の浦。○青林…清浄な青青とした山林。

 

★    山中　　　　　　　　　山中　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　顧　況

 

幽人自愛山中宿　　　　幽人自(おのずか)ら愛す 山中の宿　

況在葛洪丹井西　　　　況(いわん)や　葛(かつ)洪(こう)が丹(たん)井(せい)の西に在るをや　

窗中有箇長松樹　　　　窓中 箇(こ)れ 長松樹有り　

半夜子規來上啼　　　　半夜 子規来たりて 上りて啼く

 

○幽人…隠者。○葛洪…晉の人。神仙の術を好み、練丹術を伝えた。○丹沙を掘った井戸。○半夜…真夜中。○子規…ホトトギス。

 

江村即事　　　　　　　江村即事　　　　　　　　　　　　　  唐　　司空曙

 

罷釣歸來不繫船　　　　釣りを罷(や)め 帰り来りて 船を繫(つな)がず　

江村月落正堪眠　　　　江村 月落ちて 正に眠るに堪えたり

縱然一夜風吹去　　　　縱(たと)然(い) 一夜 風吹き去るとも　

只在蘆花淺水邊　　　　只だ 蘆花(ろか) 浅水の水辺に在らん

 

【語釈】

○江村…川辺の村。○即事…事に触れてその場のことを題材として作る詩。○繫船…舟を係留しないで流れに任せる。○堪…ふさわしい。○縱然…たとえ～であっても。○蘆花…あしの花、秋に咲く。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』

 

★    山居　　　　　　　　　山居　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　武元衡

 

身依泉壑將時背　　　　身は 泉壑(せんがく)に依り 将(まさ)に時に背かんとす　

路入煙蘿得地深　　　　路は 煙蘿(えんら)に入り 地の深きを得　　　　

終歲不知城郭事　　　　終歲 知らず 城郭の事　　　

手栽松竹盡成陰　　　　手栽(てうえ)の松竹 尽(ことごと)く陰(いん)を成す

 

【語釈】

○泉壑…泉の湧き出る渓。○將…「まさに～せんとす」と読み「今も～しようとする」の意。○煙蘿…靄の立ちこめた蔦。○地深…人里離れている地。○終歲…一生。

 

★    夏晝偶作             夏昼の偶作　　　　　　　　　　　　  唐　　柳宗元

 

南州溽暑醉如酒　　　　南州の溽暑(じょくしょ) 酔うこと酒の如し　

隱几熟眠開北牖　　　　几(き)に隱(よ)って熟眠(じゅくみん)し 北牖(ほくゆう)を開く　

日午獨覺無餘聲　　　　日(にち)午(ご) 独り覚め 余声無し　

山童隔竹敲茶臼　　　　山童 竹を隔て 茶臼を敲く

 

【語釈】

○夏晝偶作…夏の昼に、たまたま作った詩。○南州…南国の永州、作者が左遷された先の地。○溽暑…蒸し暑いこと。○隠…よりかかる。○几…机。○北牖…北側の窓。○牖…れんじ窓。○日午…正午。○餘声…ほかの物音。丸う茶臼…茶の葉をひいて抹茶にするのに用いるひき臼。

（参考文献）　　『三体詩』

 

 

★    憶事　　　　　　　　　 事を憶う　　　　　　　　　　　　   唐　　元　稹

 

夜深閑到戟門邊　　　　夜深く 閑かに 戟門(げきもん)の辺(ほとり)に到る　

却繞行廊又獨眠　　　　却って 行廊(こうろう)を繞(め)ぐり 又 独り眠る　

明月滿庭池水淥　　　　明月 庭に満ち 池水淥(す)む　

桐花垂在翠簾前　　　　桐(とう)花(か) 垂れて 翠(すい)簾(れん)の前に在り

 

【語釈】

○戟門…ほこで作った門。○行廊…屋根のある道。○淥…澄む。○翠簾…緑色のすだれ。

 

★    宿竇使君莊水亭        竇使(ほうし)君(くん)の荘水亭に宿す　              唐　　白居易

 

使君何在在江東　　　　使(し)君(くん) 何(いずく)にか在る 江東に在り　

池柳初黃杏欲紅　　　　池(ち)柳(りゅう) 初めて黃(き)にして 杏 紅(くれない)ならんと欲す　

有興即來閑便宿　　　　興有れば即ち来たり　閑(かん)なれば便(すなわ)ち宿(しゅく)す

不知誰是主人翁　　　　知らず 誰か是れ 主人の翁

 

【語釈】

○竇使君…不祥。使君は刺史のこと。○荘水亭…不祥。○江東…長江下流の南の地方。○池柳…池の畔の柳。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集九』

 

 

★    夜涼                  夜涼                               唐　　白居易

 

露白風清庭戸涼　　　　露白く 風清らかにして 庭戸涼し　

老人先著夾衣裳　　　　老人 先ず著(つ)く 夾(けん)衣裳(いしょう)　

舞腰歌袖拋何處　　　　舞(ぶ)腰(よう) 歌(か)袖(しゅう) 拋(なげう)ちて何れの処ぞ

唯對無弦琴一張　　　　唯だ対す 無弦の琴一張

 

【語釈】

○庭戸…庭。○著…着る。○夾衣裳…裏地付きの着物。○舞腰歌袖…舞を能くする妓女と歌を良くする妓女。○拋…解放する。○無弦琴…陶淵明が愛したような弦の無い琴。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集十二（上）』

 

★    晚秋閑居　　　　　　　晚秋の閑居(かんきょ)　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

地僻門深少送迎　　　　地は僻(へき)に 門は深くして 送迎少(まれ)なり　　　　　

披衣閑坐養幽情　　　　衣を披(はお)り 閑坐(かんざ)して幽(ゆう)情(じょう)を養う　

秋庭不埽攜藤杖　　　　秋庭 埽(はら)わず 藤(とう)杖(じょう)を携え

閑蹋梧桐黃葉行　　　　閑(しず)かに 梧桐(ごとう)の黃(こう)葉(よう)を蹋(ふ)みて行く

 

【語釈】

○閑居…世間との交わりをやめ、煩わされることなく、心静かに住むこと。○地僻…その場所が辺鄙である。○閑坐…静かに坐る。○幽情…心の奥底に潜んでいる気持ち。○藤杖…フジの木で作られたつえ。○梧桐…あおぎり。○黄葉…もみじ葉。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　白氏文集（三）』

 

 

★    　青溪村居　　　　　　　青溪の村居　　　　　　　　　　　  唐　　熊孺登

 

深樹黃鸝曉一聲　　　　深樹の黃鸝(こうり) 曉に一声　

林西江上月猶明　　　　林西 江上 月 猶お明(あきらか)なり　

野人早起無他事　　　　野人(やじん) 早起し 他事無し　

貪繞沙泉看笋生　　　　沙(さ)泉(せん)を繞(めぐ)り 笋生(しゅんせい)を看るを貪(むさぼ)る

 

【語釈】

○青溪…青色を帯びた谷川。○黃鸝…高麗うぐいす。○野人…うわべを飾らない誠意の在る人。田舎者（自分を謙遜して使う）。○沙泉…砂地に湧く泉。○笋生…出てきた筍。

 

★    葺夷陵幽居　　　　　　夷陵の幽居の葺(しゅう)　　　　　　　　　   唐　　李　涉

 

負郭依山一徑深　　　　郭(かく)に負(そむ)き 山に依(よ)りて 一(いっ)径(けい)深し　

萬竿如朿翠沈沈　　　　万(ばん)竿(かん) 朿(とげ)の如く 翠(みどり)沈々(ちんちん)　

從來愛物多成癖　　　　從來 物を愛し 多く癖と成る　

辛苦移家爲竹林　　　　辛苦(しんく)して家を移すは 竹林(ちくりん)の爲なり

 

【語釈】

○夷陵…湖北省宜昌市夷陵区。○幽居…隠者の住まい。○葺…かやぶき屋根。○郭…城外の町。○萬竿…多くの竹。○沈沈…草樹の茂っているさま。○從來…かねてから。

 

★    疾愈步庭　　　　　　　疾(やま)い愈(いえ)えて庭を步す　　　　　　　　  唐　　陸　暢

 

桃紅李白覺春歸　　　　桃(とう)紅(こう)李(り)白(はく) 春の帰るを覚ゆ

強步閑庭力尚微　　　　強いて 閑庭(かんてい)に步すれば 力尚(な)お微(かすか)なり　　

從困不扶靈壽杖　　　　困(こん)に從(よ)りて扶(たす)けず 靈(れい)寿(じゅ)の杖　

恐驚花裏早鶯飛　　　　恐驚(きょうきょう)す花(か)裏(り)に早(そう)鶯(おう)の飛ぶに

 

【語釈】

○春歸…春が過ぎ去る。○閑庭…物静かな庭。○靈壽杖…エギの木で作った杖。

 

★    初醒　　　　　　　　　 初めて醒む　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

心事得勝暫拋愁　　　　心事(しんじ) 勝ち得たり 暫(しばら)く愁(うれい)を拋(なげう)つを　

醉臥涼風拂簟秋　　　　酔いて 涼風に臥し 簟(たん)を払うの秋　

半夜覺來新酒醒　　　　半夜　覚え来たれば 新たに酒醒む　

一條斜月到牀頭　　　　一條の斜月 牀頭(しょうとう)に到る

 

【語釈】

○心事…心に思うことがら。○得勝～…～を勝ち取る。○簟…たかむしろ。○覺來…目覚める。來は助字。○牀頭…枕元。

 

 

★    老圃堂　　　　　　　　老圃堂(ろうほどう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　薛　能

 

邵平瓜地接吾廬　　　　邵(しょう)平(へい)の瓜地(かち) 吾が廬(ろ)に接し

穀雨乾時偶自鋤　　　　穀雨(こくう) 乾く時 偶(たまた)ま自(みずか)ら鋤(す)く　

昨日春風欺不在　　　　昨日 春風 不在を欺き

就牀吹落讀殘書　　　　牀に就き 吹き落とす 読残(どくざん)の書

 

【語釈】

○老圃堂…作者の書斎の名。老圃は、畑作りによくなれた農夫のこと。老農に同じ。○邵平瓜地…邵平の瓜畑。邵平の故事あり。○接吾廬…廬は家。○穀雨…二十四節気のひとつで、穀物を育てる雨の意。○偶自鋤…鋤は、田畑を耕すこと。○就床吹落…床に置いていた書物が吹き落とされた。○讀殘書…読みかけの書物。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    鄠杜郊居　　　　　　　　鄠杜郊(こしゃこう)居(きょ)　　　　　　　　　　　　　　    唐　　溫庭筠

 

槿籬芳杜近樵家　　　　槿籬(きんり) 芳(ほう)杜(と) 樵家に近く　

壠麥青青一逕斜　　　　壠麦(ろうばく) 青々(せいせい) 一径斜めなり　

寂寞遊人寒食後　　　　寂寞たる遊人 寒食の後　

夜來風雨送梨花　　　　夜来の風雨 梨花を送る

 

【語釈】

○鄠杜…杜陵。長安の西の地名で、西漢の宣帝の陵墓があるところ。○槿籬…むくげの生け垣。○芳杜…美しい森。○樵家…樵の家。○壠麥…畑の麦。○青青…青青として茂っているさま。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○遊人…旅人。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○夜来…昨夜からの。

 

 

★    小樓　　　　　　　　　 小楼　　　　　　　　　　　　　　  唐　　儲嗣宗

 

松杉風外亂山青　　　　松(しょう)杉風外(さんふうがい) 乱山青し　

曲几焚香對石屏　　　　曲几(きょくき) 焚(ふん)香(こう) 石屏(せきへい)に対す

記得去年春雨後　　　　記し得たり 去年 春雨の後　

燕泥時汚太玄經　　　　燕(えん)泥(でい) 時に太(たい)玄(げん)経(きょう)を汚(けが)すを

 

【語釈】

○松杉風…松や杉の林を吹く風。○曲几…脇息。○焚香…燃やした香。○石屏…屏風のように切り立った石。○記得…覚えている。○燕泥…燕が巣作りのために加える泥。○太玄經…書の名前。

 

★    即事　　　　　　　　　 即事　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

小院無人雨長苔　　　　小院 人無く 雨 苔を長ず　

滿庭修竹間疎槐　　　　庭に満つる修竹(しゅうちく)　疎槐(そかい)に間(まじ)わる　

春愁兀兀成幽夢　　　　春愁 兀々(こつこつ)として幽夢(ゆうむ)を成し　

又被流鶯喚醒來　　　　又た流(りゅう)鶯(おう)に喚び醒(さ)まされ来る

 

【語釈】

○即事…その場の事柄や様子、風景をよんだ詩歌。○小院…小さな奥庭。修竹…長い竹。○間…まじわる。○疏…まばらな。○槐…エンジュ。兀兀…動かないさま。○幽夢…ぼんやりしたゆめ。○被…（…のために）…れる。○流鴬…木から木へと飛び移って鳴くウグイス。

 

 

★    春夕酒醒　　　　　　　春夕 酒醒む　　　　　　　　　  　  唐　　陸龜蒙

 

幾年無事傍江湖　　　　幾年か無事 江湖の傍(ほとり)　

醉倒黃公舊酒壚　　　　酔(すい)倒(とう)す 黃公の旧酒壚(きゅうしゅろ)　

覺後不知明月上　　　　覚めて後 明月の上るを知らず　

滿身花影倩人扶　　　　満身の花影に 人の扶(たす)けを倩(こ)う

 

【語釈】

○江湖…川と湖。田舎。隠棲地。○醉倒…酔いつぶれる。○黃公舊酒壚…黃公酒壚。黄公が酒を飲んだ酒屋、竹林の七賢の行きつけの酒屋。『世說新語·傷逝』

 

★    自遣　　　　　　　　　自(みずか)ら遣(や)る　　　　　　　　　　　　  唐　　陸龜蒙

 

無多藥圃近南榮　　　　多無く 薬圃(やくほ) 南営に近し　

合有新苗次第生　　　　新苗(しんびょう)の 次第に生ずを 合有す　

稚子不知名品上　　　　稚子は知らず 名品の上　

恐隨春草闘輸贏　　　　恐らくは春草に隨って 輸贏(ゆえい)を闘わさん

 

【語釈】

○自遣…自ら自分の心を慰める。○無多…少しばかり。○藥圃…薬草畑。○南榮…南向きの軒。○合有…合わせて有する。○稚子…おさなご。○輸贏…負けと勝ち。

 

 

★    曛黑　　　　　　　　　 曛(くん)黒(こく)　　　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

古木侵天日已沈　　　　古木 天を侵(おか)し 日 已に沈み　

露華涼冷潤衣襟　　　　露(ろ)華(か) 涼(りょう)冷(れい)として衣(い)襟(きん)を潤(うるお)す　

江城曛黑人行絶　　　　江城 曛黒(くんこく)にして 人(じん)行(こう)絶え　

唯有啼烏伴夜砧　　　　唯(た)だ 啼(てい)烏(あ)の夜(や)砧(ちん)に伴う 有るのみ

 

【語釈】

○曛黑…日暮れの暗さ。○露華…美しい露。○衣襟…衣と襟。○江城…川辺の町。○曛黑…日が暮れて天が暗くなるありさま。○人行…人通り。○夜砧…夜打つ砧の音。

 

★    醉著                  酔著(すいちゃく)                              唐　　韓　偓

 

萬里清江萬里天　　　　万里の清江 万里の天　

一村桑柘一村煙　　　　一村の桑(そう)柘(たく) 一村の煙

漁翁醉著無人喚　　　　漁翁 酔著(すいちゃく)して 人の喚ぶ無く

過午醒來雪滿船        午を過ぎて 醒め来れば 雪 船に満つ

 

【語釈】

○醉著…酔っ払ってしまうこと。著は、動詞の後におき、動作の完了、進行を示す助字。○清江…清い川。○桑柘…桑と山桑。○煙…靄、霞。○過午…昼過ぎ。

 

 

★    涼思　　　　　　　　　涼思(りょうし)　                             唐　　呉　融

 

松間小檻接波平　　　　松間(しょうかん)の小檻(しょうかん) 波に接して平かなり　

月澹煙沈暑氣清　　　　月澹(あわ)く 煙沈みて 暑気清し　

半夜水禽棲不定　　　　半夜 水禽 棲(せい) 定らず　

綠荷風動露珠傾　　　　緑(りょく)荷(か) 風動(ふうどう)して 露(ろ)珠(じゅ)傾く

 

【語釈】

○涼思…涼しさの思い。○小檻…小さなおばしま。○煙…水面に立つ靄。○半夜…まよなか。○水禽…水鳥。○棲…ねぐら。○綠荷…緑の蓮の葉。○風動…風で揺れ動く。○露珠…露の玉。

 

★    山居即事　　　　　　　山居即事　　　　　　　　　　　　　  唐　　呉　融

 

萬事翛然只有棊　　　　万事 翛(ゆう)然(ぜん)として 只(た)だ 棊(き)有り　

小軒高淨簟涼時　　　　小軒 高浄にして 簟(たん) 涼(りょう)なる時　

闌珊半局和微醉　　　　闌珊(らんさん) 半局 微酔に和し　

花落中庭樹影移　　　　花落ち 中庭 樹影移る

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○翛然…物事にとらわれない様。○棊…碁。○簟…たかむしろ。○闌珊…散り乱れるさま。○半局…碁一極の半ば。

 

★    閿郷寓居　　　　　　　閿(ぶん)郷(きょう) 寓居(ぐうきょ)　　　　　　　　　　　  唐　　呉　融

 

六載抽毫侍禁闈　　　　六載(りくさい) 毫(ごう)に抽(ちゅう)して　禁闈(きんい)に侍す

不堪多病決然歸　　　　多病に堪えず　決然として帰る

五陵年少如相問　　　　五陵の年少 如(も)し 相問わば

阿對泉頭(たいついせんとう)一布衣　　　　阿対泉頭の一布衣(いちほい)　

 

【語釈】

○閿郷…河南省にある県名。○寓居…仮の宿。○六載…六年。○抽毫…人々から抜きんでる？○禁闈…朝廷。○五陵…漢の高帝以下五帝の陵があったところで，富豪の人が住んでいた。李白｢少年行｣。○年少…若者。○阿對泉…河南省靈宝県の泉。○布衣…位の無い人。

 

★    晴景　　　　　　　　　晴景　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　駕

 

雨前初見花間葉　　　　雨前 初めて見る 花間の葉　　　　　

雨後兼無葉底花　　　　雨後 兼ねて 葉底(ようてい)の花無し

蛺蝶飛來過墻去　　　　蛺(きょう)蝶(ちょう) 飛来たりて 墻(かき)を過ぎて去る　

應疑春色在鄰家　　　　応(まさ)に 春色の鄰家に在るを疑うべし

 

【語釈】

○ 兼…すべて。一括して。○蛺蝶…蝶々。○應…「まさに～すべし」と読み、「当然～すべきだ、当然～で有るはずだ」の意。○春色…春景色。

 

 

★    溪興 　　　　　　　　 溪(けい)興(きょう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜荀鶴

 

山雨溪風卷釣絲　　　　山雨 溪風 釣糸(ちょうし)を卷く

瓦甌篷底獨斟時　　　　瓦甌(がほう) 篷底(ほうてい) 独斟(どくしん)の時

醉來睡着無人喚　　　　酔い来りて 睡着(すいちゃく)し 人の喚(よ)ぶ無く

流下前灘也不知　　　　流れて前灘(ぜんたん)を下るも也(ま)た知らず

 

【語釈】

○瓦甌…瓦で出来小盆。○篷底…小舟の中。○獨斟…独りで堪える。○睡着…ぐっすり眠る。着は強め、完了を示す助字。○前灘…前の早瀬。

 

★    春日晏起　　　　　　　春日晏起(しゅんじつあんき)　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋　莊

 

近來中酒起常遲　　　　近来 酒に中(あた)りて 起くこと常に遅し　

臥看南山改舊詩　　　　臥(が)して南山を看て 旧詩を改む

開戶日高春寂寂　　　　戶を開ければ 日高くして 春寂々(せきせき)　

數聲啼鳥上花枝　　　　数声の啼鳥 花(か)枝(し)に上る

 

【語釈】

晏起…朝おそく起きること。近來…このごろ。中酒…酒を飲み過ぎて、気分が悪くなる。南山…終南山のこと、長安の南方にある山。寂寂…さびしいさま、静かなさま。啼鳥…鳴く鳥、さえずる鳥。

(参考文献)　　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    書齋謾興　　　　書斎(しょさい)謾(まん)興(きょう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　翁承贊

 

官事歸來衣雪埋　　　　官事より帰り来たれば 夜 雪埋(うず)まる

兒童燈火小茅齋　　　　兒童の燈火 小茅(しょうぼう)斎(さい)　　　　　　

人家不必論貧富　　　　人家 必ずしも 貧富を論ぜず　　　　　

惟有讀書聲最佳　　　　惟(た)だ 読書の声の 最も佳(よ)き有り

 

【語釈】

○書齋…書房。○謾興…そぞろな興。○官事…役所つとめ。○茅齋…茅葺きの質素な部屋。

 

★    間吟　　　　　　　　　閑吟　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　賈　至　

 

湘中老人讀黃老　　　　湘中(しょうちゅう)老人(ろうじん) 黃(こう)老(ろう)を読む

手援紫藟坐碧草　　　　手に紫藟(しるい)を援(ひ)きて 碧草に坐す

春至不知湖水深　　　　春至りて 知らず 湖水の深きを

日暮忘却巴陵道　　　　日暮 忘却す 巴陵(はりょう)の道　

 

【語釈】

○君山…洞庭湖中にある山。○湘中…湖南省の別名。○黃老…黄子と老子。○紫藟…紫色の藤。○援…手に取る。○巴陵…湖南省岳暘県。

 

 

★    題隱霧亭　　　　　　　隱霧亭に題す　　　　　　　　　　  唐　　魚玄機

 

春花秋月入詩篇　　　　春花 秋月 詩篇に入る

白日清宵是散仙　　　　白日 清宵 是れ散仙

空捲珠簾不曾下　　　　空しく珠(しゅ)簾(れん)を捲いて 曾って下(くだ)さず

長移一榻對山眠　　　　長く一榻(いっとう)を移して 山に対して眠る

 

【語釈】

○隱霧亭…陕西省西安市にあった亭。○入詩篇…作った詩の中に書き込む。○白日…耀く太陽。○散仙…未だ仙職に就けない仙人。○珠簾…珠簾。○榻…椅子。

 

★      絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　　 中　　呂　巖

 

莫道幽人一事無　　　　道(い)う莫かれ 幽人 一事無しと　

閑中儘有靜工夫　　　　閑中 尽(ことごと)く 静工夫有り　

閉門清晝讀書罷　　　　門を閉じ 清昼 書を読むを罷(や)め　

掃地焚香到日晡　　　　地を掃(はら)い 香を焚(た)き 日晡(ひちほ)に到る

 

【語釈】

○道…言。○幽人…隠者。○閑中…暇な中。○靜工夫…静かに心の修養・意思の鍛錬などに心を用いること。○清昼…清く晴れた昼。○日晡…日暮れ。

 

 

★    夏日城中作　　　　　　夏日 城中の作                      唐　　僧齊己

 

竹低莎淺雨濛濛　　　　竹低く 莎(さ)浅くして雨 濛々(もうもう)　

水檻幽窗暑月中　　　　水(すい)檻(かん) 幽窓 暑月の中(うち)　

有境牽懷人不會　　　　境有り 懐(おもい)を牽(ひ)き 人 会(かい)せず

東林門外翠橫空　　　　東林門外 翠(みどり) 空(くう)に橫わる

 

【語釈】

○莎…はますげ。○濛濛…煙るようにもやっとしているさま。○水檻…水のほとりの手すり。○幽窗…静かな窓。○東林…東辺の林。東林寺を指すこともある。○空…大空。

 

★    山中作　　　　　　　　山中の作　　　　　　　　　　　　　　唐　　處　默　

 

席簾高捲枕高攲　　　　席(せき)簾(れん) 高捲(こうけん) 枕 高く攲(そばだ)だつ　

門掩垂蘿蘸碧溪　　　　門は 垂蘿(すいら)に掩(おお)われ 碧溪に蘸(ひた)さる　

閑把史書眠一覺　　　　閑(しずか)に史書を把(と)り 眠(ねむり)一(いっ)覚(かく)

起來山日過松西　　　　起き来たれば 山(さん)日(じつ) 松(しょう)西(せい)に過(す)ぐ

 

【語釈】

○席簾…席の簾。○高捲…高く巻くの意味で、智を現さずに世を逃れること。○攲…傾ける。○垂蘿…垂れ下がったカズラ。○碧溪…緑色の谷川の水。○蘸…ひたす。○眠一覺…一眠り。

 

 

★    春居雜興　　　　　　　春居雜(しゅんきょざっ)興(きょう)　　　　　　　　　　　   宋　　王禹偁

 

兩株桃杏映籬斜　　　　両株の桃(とう)杏(きょう) 籬(かき)に映じて斜なり　

粧點商山副使家　　　　粧(しょう)点(てん)す 商山(しょうざん) 副使(ふくし)の家　

何事春風容不得　　　　何事ぞ 春風 容(ゆるし)し得ざる　

和鶯吹折數枝花　　　　鶯に和して 吹き折る 数枝の花

 

【語釈】

○雜興…さまざまな感興。○兩株…二株。○粧點…化粧する。○商山…陜西省商県の東にある山。○副使…正使の幕僚。○容…ゆるす。

〔参考文献〕　『漢詩大系　１６』

 

★    春晝偶書　　　　　　　春昼偶(たまた)ま書す　　　　　　　　　　  宋　　寇　準

 

白晝偶成芳草夢　　　　白昼 偶(たまた)ま成る 芳草の夢　

起來幽興有誰知　　　　起来(きらい)の幽(ゆう)興(きょう)　誰 有ってか知る　

風簾不動黄鸝語　　　　風(ふう)簾(れん) 動かず 黄鸝(こうり)の語　

坐見庭花日影移　　　　坐して見る 庭花 日影(にちえい)の移るを

 

【語釈】

○偶書…たまたま作った詩。○芳草…かおりぐさ。忠貞・賢徳の人の喩え。○起來…起床してから。○幽興…奥ゆかしいおもむき。○有誰知…反語、誰も知らない。○風簾…風に吹かれている簾。○黄鸝…高麗ウグイス。

 

★    自作壽堂因書一絕以誌之   　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　林　逋

自(みずか)ら寿堂(じゅどう)を作る 因(よ)りて一絕を書し 以って之(これ)を誌(しる)す

 

湖上青山對結廬　　　　湖上の青山 結廬(けつろ)に対す　

墳頭秋色亦蕭疏　　　　墳頭(ふんとう)の秋色(しゅうしょく) 亦(ま)た蕭疏(しょうそ)　

茂陵他日求遺稿　　　　茂(も)陵(りょう) 他日 遺稿(いこう)を求むとも　

猶喜曾無封禪書　　　　猶(な)お喜ぶ 曽(かつ)て封(ふう)禅(ぜん)の書 無きを

 

【語釈】

○壽堂…生前に作る墓。○結廬…結んだ廬。○修竹…長い竹。○秋色…秋景色。○蕭疏…寂しくまばらなこと。○茂陵…漢の武帝の墓。○封禪…皇帝が天と地を祭る儀式。

（参考文献）　『漢詩大系　１６　宋詩選』　司馬相如の故事

 

★    暑中閑詠　　　　　　　 暑中(しょちゅう)閑(かん)詠(えい)　　　　　　　　　　　　  宋    蘇舜欽

 

嘉果浮沈酒半醺　　　　嘉果(かか) 浮沈して 酒 半(なか)ば醺(くん)ず　

床頭書冊亂紛紛　　　　床頭(しょうとう)の書冊(しょさつ) 乱れて紛々(ふんぷん)　

北軒涼吹開疎竹　　　　北軒(ほくけん) 涼吹きて 疎(そ)竹(ちく)を開き　

卧看青天行白雲　　　　卧(が)して看る 青天に白雲の行くを

 

【語釈】

○嘉果…美味な果実。○醺…ほろ酔い。○書冊…書籍。○紛紛…混じり、乱れ合うさま。○北軒…北側ののき。○疎竹…疎らに生えた竹。

 

 

★    冬日偶書　　　　　　　冬日 偶(たまた)ま書す　　　　　　　　　　  宋    蘇舜欽

 

謾走聲名三十年　　　　謾(ばん)に 声名に走ること 三十年　

亦曾文采動君前　　　　亦(ま)た曽(かつ)て 文(ぶん)采(さい) 君前を動かす

玉顔皓齒他人樂　　　　玉(ぎょく)顔(がん) 皓齒(こうし) 他人の楽しみ　

獨守殘燈理斷編　　　　独り残(ざん)灯(とう)を守りて 断編(だんぺん)を理(り)す

 

【語釈】

○偶書…たまたま作った詩。○謾…軽率なさま。○聲名…名声。○文采…文章著述の立派なもの。○君前…主君の前。○玉顔皓齒…美しい顔と白い歯、美人の形容。明眸皓歯。○殘燈…消え残りの灯火。○斷編…切れ切れの本。文章。○理…直して治める。

 

★    夏日西齋即事　　　　　夏日西斎即事　　　　　　　　　　　  宋　　司馬光

 

榴花映葉未全開　　　　榴(りゅう)花(か) 葉に映じ 未だ全くは開かず　

槐影沈沈雨勢來　　　　槐(かい)影(えい) 沈々(ちんちん) 雨勢(うせい)来(きた)る　

小院地偏人不到　　　　小院 地は偏(へん)にして 人到らず　

滿庭鳥迹印蒼苔　　　　満庭の鳥迹(ちょうせき) 蒼(そう)苔(たい)に印(いん)す

 

【語釈】

○西斎…西側の書斎。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○榴花…ザクロの花。○槐影…エンジュの木の影。○沈沈…草樹の茂っているさま。○雨勢…あまけ。○地偏…市街から離れていること。○鳥迹…鳥の足跡。○蒼苔…青い苔。○印…印を押したように標す。

 

 

★    静夜　　　　　　　　　 静夜　　　　　　　　　　　　　　  宋　　司馬光

 

午夜空齋四悄然　　　　午夜 空(くう)斎(さい) 四(よも) 悄然(しょうぜん)　

清寒透骨不成眠　　　　清(せい)寒(かん) 骨に透(とお)り 眠(ねむり)を成さず　

秋風故掲疏簾起　　　　秋風 故(ことさら)に 疏(そ)簾(れん)を掲(かかげ)て起り　

正漏月華來枕前　　　　正(まさ)に月(げつ)華(か)を漏(ろう)して 枕前(ちんぜん)に来(きた)る

【語釈】

○午夜…真夜中。午後十二時頃。○空齋…人気の無い書斎。○四…四方。○悄然…物寂しいさま。○清寒…清い寒さ。○故…ことさらに。故意に。○疏簾…まばらな簾。○正…ちょうど、ぴったりと。○月華…華やか月明かり。○枕前…枕元。

 

★    溪陰堂　　　　　　　　溪(けい)陰堂(いんどう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

白水滿時雙鷺下　　　　白水(はくすい)満(みつ)る時　双鷺(そうろ)下る　

綠槐高處一蝉吟　　　　緑槐(りょくかい)高き処　一(いっ)蝉(せん)吟ず　

酒醒門外三竿日　　　　酒は醒(さ)む門外(もんがい)三(さん)竿(かん)の日　

臥看溪南十畝陰　　　　臥(ふ)して看る渓(けい)南(なん)十(じゅっ)畝(ぽ)の陰　

 

【語釈】

渓陰堂…『渓前堂』ともする、揚州儀真県の東、范氏の園の堂の名。・白水…清らかな水。きれいな水。双鷺…つがいになっているサギ。緑槐…青々としたくわい。吟…（セミが）鳴く。酒醒…酒が醒める意。三竿日…日が竹竿を三本つぎ合わせたほどの高さに上（のぼ）る。臥看…寝転んでみる。渓南…谷の南側。　・十畝…１０畝（ほ（ぽ））。約６０アール。畝…１畝は約１．８２アール。十畝陰…谷一帯の日陰の地を指す。

（参考文献）　『漢詩大系１７』

 

 

★    溪光亭　　　　　　　　渓光亭(けいこうてい)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

決去湖波尚有情　　　　決去するに 湖波 尚(な)お情有り　　　　

卻隨初日動簷楹　　　　却って 初日に随い 簷楹(えんえい)に動く　　　　

溪光自古無人畫　　　　渓光 古自(いにしえよ)り 人の画く無く　　　　

憑仗新詩與寫成　　　　新詩に 憑仗(ひょうじょう)して 与(とも)に写(しゃ)成(せい)す

 

【語釈】

○決去…辞して去る。長く結別する。○初日…朝日。○簷楹…家の軒下の梁柱。○渓光…渓の風景。○憑仗…依頼。○寫成…写して（画くことを）為す

 

★    南堂　　　　　　　　南堂　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

掃地焼香閉閣眠　　　地を掃(はら)い 香を焼(た)き 閣(かく)を閉じて眠る

簟紋如水帳如煙　　　簟(てん)紋(もん)は 水の如く 帳(とばり)は 煙の如し　　

客來夢覺知何處　　　客(かく) 来たりて 夢は覚む 知る 何れの処ぞ

挂起西窗浪接天　　　西窓を挂(か)け起こせば 浪 天に接す

 

【語釈】

南堂…黃州左遷時に蘇軾が住んでいた臨皋亭の小堂。閣…部屋を仕切る板。簟紋…敷物の模様。煙…霞み、もや。挂…しとみ戸のような窓を上に懸けあげる。

（中国詩人選集二―５）

 

★    秋意題邢敦夫扇　　　　秋意 邢(けい)敦夫(とんふ)の扇に題す　　　　　　　　　　 宋　　秦　觀

 

月團新碾瀹花瓷　　　　月団(げつだん) 新たに碾(てん)して 花瓷(かじ)に瀹(に)る　

飲罷呼兒課楚詞　　　　飲み罷(や)んで 兒を呼び 楚(そ)詞(し)を課(か)す　

風定小軒無落葉　　　　風 定りて 小軒 落葉無く　

青蟲相對吐秋絲　　　　青虫(せいちゅう) 相対(あいたい)して 秋糸を吐く

 

【語釈】

○月團…団茶。茶を固めて丸い餅の形にした物。○碾…挽きつぶす。○花瓷…花模様の磁器のポット。○瀹…煮る。○課…勉強をさせてみてやる。○風定…風がおさまる。○青蟲…蜘蛛。

（参考文献）　　『漢詩大系　１６』

 

★　春日作　　　　　　　　春日の作　　　　　　　　　　　　　  宋　　秦　觀

 

春禽葉底引圓吭　　　　春禽(しゅんきん) 葉底(ようてい)に 円吭(えんこう)を引く　

臨罷黄庭日正長　　　　黄庭を臨(りん)し罷わるも　日正(まさ)に長し　

滿院柳花寒食後　　　　満院の柳花　寒食の後　

旋鑽新火爇爐香　　　　旋(たちま)ち 新火を鑽(き)りて 炉香を爇(や)く

 

【語釈】

○春禽…春の小鳥。○引圓吭…つぶらな声で鳴いている。○黄庭…道教の黄庭経のこと。養生を説く。○臨…臨書。○満院…問や塀で囲まれた庭一杯。○寒食…冬至から一○五日目、この日を挟んで前後の計三日間は火を使うことを禁じた。○鑽…火打ち石で火をおこすこと。○新火…寒食後に起こす新しい火。○炉香…香炉の香。○爇…焼く。

 

 

★　春雨中偶成　　　　　　春雨中偶成　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

春陰只與睡相宜　　　　春(しゅん)陰(いん) 只だ睡(ねむり)を与えて 相宜(あいよろ)し

卧聽鳴禽語復飛　　　　卧(が)して聽く 鳴禽(めいきん)の語りて復(ま)た飛ぶを　

一縷斷香浮不散　　　　一縷(いちる)の断(だん)香(こう) 浮きて散ぜず　

何人深院晝熏衣　　　　何人か深院(しんいん) 昼 衣を熏(くん)ず

 

【語釈】

○春陰…春の曇り。花曇り。○鳴禽…囀る小鳥。○一縷…一筋の。○斷香…連なった香煙。○深院…奥深くにある中庭。奥まった寺院。○熏衣…衣に香を炊き込める。

 

★　春睡                  春睡(しゅんすい)                                宋　　張　耒

 

東風冷峭著衣寒　　　　東風 冷峭(れいしょう) 衣に著(つ)きて寒し　

雲影深沈美睡天　　　　雲(うん)影(えい) 深く沈む 美睡(びすい)の天　

青杏園林花盡落　　　　青(せい)杏(きょう)園(えん)林(りん) 花 落ち尽き　

晚風吹雨濕鞦韆　　　　晚風 雨を吹いて 鞦韆(しゅうせん)を湿(うるお)す

 

【語釈】

○東風…春風。○冷峭…寒さが身にしみるさま。○美睡…気持ちよい睡り。○鞦韆…ブランコ。

 

"福昌官舍後四絶句　　　（宋詩選注　２－１１５）

  宋　　張　耒

無客門闌盡日扃　

兩行喬木擁寒廳　

吏胥借問官何在　

流水聲中看竹行

 

 

 

 

★    水亭　　　　　　　　　水亭　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　游　酢

 

清溪一曲繞朱樓　　　　清溪(せいけい) 一曲 朱楼(しゅろう)を繞(めぐ)る　

荷密風稠咽斷流　　　　荷は密に 風は稠(ととの)い 断流に咽(むせ)ぶ　

夾岸垂楊烟細細　　　　岸を夾(さしはさ)む垂楊 煙(けむり)細々(さいさい)　

小橋流水即滄洲　　　　小橋 流水 即ち滄(そう)洲(しゅう)

 

【語釈】

○清溪…清い谷川。○一曲…一曲がり。○荷…蓮の葉。○稠…ととのう。○斷流…流れを断つこと。○烟…靄、霞。○細細…細やかでかすかなさま。○滄洲…水の青い州。隠者のいるところ。

 

 

★    庚子年還朝飲酒作　　庚子(こうし)の年 朝に還りて 飲酒するの作　　　　宋　　韓　駒

 

三年逐客卧江臯　　　　三年 逐客(ちくかく) 江臯(こうこう)に卧(が)す　

自與田翁酌小槽　　　　自(みずか)らと田(でん)翁(おう)と 小槽(しょうそう)に酌(しゃく)す　

飲慣茆柴諳苦硬　　　　茆(ぼう)柴(さい)を飲み慣れ 苦硬(くこう)を諳(そら)んず　

不知如蜜有香醪　　　　知らず蜜の如き 香醪(こうろう)有るを

 

【語釈】

○朝…朝廷。○逐客…中央より追放された人。○江臯…江岸、江辺の地。○田翁年取った農夫。○茆柴…江南地方の酒の一種。味わいの薄い濁り酒で酸味が強い。　　。○諳苦硬…苦みとえぐみを嫌というほど味わう。ここでは「人生の苦難を嫌というほど味わう」の意も込められ、一種、掛詞的になっている。○小槽…酒を絞る時の木の台。転じて、自家製の酒。○香醪…美酒。

 

★    弈棋絶句　　　　　　　弈棋(えきき) 絶句　　　　　　　　　　　　  宋　　洪　炎

 

新秋遣悶只圍棋　　　　新秋 悶(もん)を遣(や)るは　只(た)だ圍棋(いき)　

病不銜杯亦廢詩　　　　病により 杯を銜えず 亦(ま)た詩を廃す

對局蕭然兩無語　　　　対局 蕭然(しょうぜん) 両(ふた)りながら語無し　

箇中君子有爭時　　　　箇(こ)の中に 君子の争う時有り

 

【語釈】

○弈棋…碁を打つこと。○遣…　気を紛らわす。○悶…もだえ。心身の逃れがたい苦痛。○圍棋…碁を囲む。○蕭然…物寂しいさま。

 

 

★    宿北巖院　　　　　　　北巌院(ほくがんいん)に宿す　　　　　　　　　　　  宋　　王觀國

 

雲巖亂石漱寒泉　　　　雲巌(うんがん) 乱石 寒泉に漱(くちすす)ぐ　

通夕泉聲到枕邊　　　　通夕(つうせき) 泉声 枕辺(ちんぺん)に到る　

宛似昔年嚴瀨口　　　　宛(あたか)も似たり 昔年(せきねん) 厳瀨(げんせ)口(こう)　

五更風雨宿溪船　　　　五更の風雨 溪(けい)船(せん)に宿るに

 

【語釈】

○北巖院四川省達県の西北、鳳凰山にある寺院 。○雲巖…雲のかかっている巌。○通夕…夜通し。○宛似…まるで～のようである。○嚴瀨口…浙江省桐廬県の南にあり。 東漢の嚴光が隠居して釣りをしていたところ。○五更…夜明け前。○溪船…渓を行く船。

 

★    西樓　　　　　　　　　西楼　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　呂本中

 

小院無人日自長　　　　小院 人無く 日 自(おのずか)ら長し　

隔簾時有芰荷香　　　　簾(れん)を隔てて 時に 芰(き)荷(か)の香(かおり)有り　　　　

客游未作安居計　　　　客(かく)は游びて 未だ 安居の計を作さず　

更借西樓一夜涼　　　　更に借(か)る 西楼 一夜の涼

 

【語釈】

○芰荷…ヒシとハスの葉。○客…故郷を離れている人。○安居…安らかな生活。

 

 

★    正月末雪中小酌　　　　正月末 雪中に小酌す　　　　　　　  宋　　呂本中

 

柳着河冰雪着船　　　　柳は河氷に着(つ)き 雪は船に着(つ)く　

小桃應誤取春憐　　　　小桃 応(まさ)に誤って 春憐(しゅんりん)を取るべし　

牀頭有酒須君醉　　　　牀頭(しょうとう) 酒有り 須(すべから)く 君 酔うべし　

又廢蒲團一夜禪　　　　又た廃す 蒲團(ほたん) 一夜の禅

 

【語釈】

○河冰…川に張っている氷。○小桃…桃の一種で初春に開花する。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～に違いない」の意。推量。○春憐…？○蒲團…僧侶が座禅用に使う敷物。

 

★    婆娑園　　　　　　　　 婆娑(ばさ)園(えん)　　　　　　　　　　　　　   宋　　崔　鷗

 

晚禽噪竹百千翅　　　　晚禽(ばんきん) 竹に噪(さわ)ぎ 百千翅　

殘菊橫枝三兩花　　　　残菊 枝を橫たえ 三両花　

好在山園養衰疾　　　　好し 山園に在りて 衰疾(すいしつ)を養わん　　　　

風波不到野人家　　　　風波(ふうは) 到らず 野人の家

 

【語釈】

○婆娑園…園の名。不祥。○晚禽…夕方の小鳥。○翅…鳥の翼。羽ばたく。○残菊…損なわれた菊。○三両…二三。○衰疾…衰え病むこと。○風波…ごたごたしたこと。世間のわずらい。○野人…田舎に住んでいる人。

 

 

★    江樾軒書事　　　　　　江樾(こうえつ)軒書事(けんしょじ)　　　　　　　　　　　　  宋　　曾　紆

 

臥聽灘聲㶁㶁流　　　　臥(ふ)して聽く灘(たん)声(せい) 㶁㶁(かくかく)として流るるを　

冷風凄雨似深秋　　　　冷風 凄雨 深秋に似たり　

江邊石上烏臼樹　　　　江辺の石上 烏臼樹　

一夜水長到梢頭　　　　一夜 水長くして 梢頭(しょうとう)に到る

 

【語釈】

○江樾軒…家の名、不祥。○灘聲…渓の音。○㶁㶁…激しい水の音。○凄雨…物寂しく冷たい雨音。○烏臼樹…木の名。ナンキハゼ。○江辺…川辺。○梢頭…梢の上。

　

 

★    江樾軒書事　　　　　　江樾(こうえつ)軒書事(けんしょじ)　　　　　　　　　　　　  宋　　曾　紆

 

竹間嘉樹密扶疏　　　　竹間の嘉樹(かじゅ) 密にして扶疏(ふそ)たり　

異鄉物色似吾廬　　　　異鄉の物色 吾が廬(いおり)に似たり　

清曉開門出負水　　　　清曉(せいぎょう)に門を開きて 出(いで)て水を負(お)えば　

已有小舟來賣魚　　　　已に 小舟(しょうしゅう)の来(きた)りて 魚を売る有り

 

【語釈】

○清樾軒…家の名、不祥。○嘉樹…立派な木。○扶疏…木の枝が広がるさま。○物色…ありさま。○負…背中に担う。

 

 

★    絶句              絶句                                 　 宋　　呂希哲

 

老讀文書興易闌　　　　老いて 文書を読みて 興 闌(たけなわ)なり易し　

須知養病不如閑　　　　須く知るべし 病(びょう)養(よう)は閑(かん)にしかざるを　

竹牀瓦枕虛堂上　　　　竹牀(ちくしょう) 瓦(が)枕(ちん) 虚堂(きょどう)の上　

卧看江南雨後山　　　　卧(ふ)して看る 江南 雨後の山

 

【語釈】

○闌…尽き果てようとする。終わりに向かう。○須…「すべからく～すべし」と読み「当然～すべきである」の意。○養病…病気の養生をする。○竹牀…竹製のベッド。○瓦枕…瓦製の枕。○虛堂…人気の無い堂。○江南…長江流下流の南岸地方。

 

★    雨夜不寐　　　　　　　 雨夜 寐(いね)ず　　　　　　　　　　　　  宋　　趙　鼎

 

西風吹雨夜瀟瀟　　　　西風 雨を吹いて 夜 瀟々(しょうしょう)

冷爐殘香共寂寥　　　　冷炉 残香 共に寂寥(せきりょう)　　　　　

要作秋江篷底睡　　　　秋江の篷底(ほうてい) 睡(ねむり)を作(な)すを要せず

正宜窗外有芭蕉　　　　正(まさ)に宜(よろ)し 窓外に 芭蕉有るは

 

【語釈】

○西風…秋風。○瀟瀟…風雨の寂しく降る（吹く）音のさま。○冷爐…冷えた香炉。○殘香…残っている香のかおり。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○篷底…舟の底。舟の中。

 

 

★    晩醉口占　　　　　　　晩酔(ばんすい)口(こう)占(せん)　　　　　　　　　　　　　  宋　　呉　可

 

晩醉扶筇過竹村　　　　晩酔 筇(つえ)に扶(たす)けられて 竹村(ちくそん)を過ぐ　

數家殘雪擁籬根　　　　数家の残雪 籬(り)根(こん)を擁(よう)す　

風前有恨梅千點　　　　風前 恨み有り 梅千点　

沙上無人月一痕　　　　沙上(さじょう) 人無く 月一(つきいっ)痕(こん)

 

【語釈】

○口占…紙に書かずに作った即興の詩。○扶筇…杖をつく。○竹村…竹林のある村。○擁籬根…垣根の根元を被う。○沙上…砂の上。

 

★    春日作　　　　　　　　 春日の作　　　　　　　　　　　　  宋　　陳與義

 

朝來庭樹有鳴禽　　　　朝来(ちょうらい) 庭樹 鳴禽(めいきん)有り　

紅綠扶春上遠林　　　　紅緑(こうりょく) 春を扶(たす)けて 遠林(えんりん)に上る　

忽有好詩生眼底　　　　忽ち 好詩の 眼底に生ずる有り　　

安排句法已難尋　　　　句法を安排(あんぱい)して 已に尋ぬること難(かた)し

 

【語釈】

○朝來…朝から。○鳴禽…さえずる小鳥。○安排…程よく加減する。

 

 

★    雨過　　　　　　　　　 雨過ぐ　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳與義

 

水堂長日清鷗沙　　　　水堂の長日(ちょうじつ) 鷗沙(おうさ)を清む

便覺京塵隔鬢華　　　　便(すなわ)ち 覚ゆ 京(けい)塵(じん) 鬢(びん)華(か)を隔つを　

夢裏不知凉是雨　　　　夢(む)裏(り) 知らず 凉は是れ 雨なるを　

卷簾微溼在荷花　　　　簾を卷けば 微溼(びしゅう) 荷(か)花(か)に在り

 

【語釈】

○水堂…水に臨む堂。○鷗沙…かもめが棲息する砂洲。○便…たちまち。○京塵…京洛（都会）の塵。○鬢華…花のように白い鬢。○夢裏…夢の中。○微溼…かすかな水気。うるおい。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

★    次韻傅子文絶句　　　傅子(はく)文(ぶん)の絶句に次韻す　　　　　　　  宋　　陳與義

 

風雨門前十日泥　　　風雨 門前 十日の泥　

荒街相伴只筇枝　　　荒街 相伴(あいともない)いて 只だ 筇(きょう)枝(し)　

從今老子都無事　　　今從(いまよ)り 老子 都(すべ)て無事　

落盡園花不賦詩　　　園花を落とし尽くして 詩を賦(ふ)せず

 

【語釈】

○次韻…他の詩と同じ韻字を同じ順序で使って詩を作ること。○傅子文…不祥。○荒街…荒れた町。○筇枝…筇竹で作った杖。○從今…これから。○老子…老人の自称。○都…全て。○無事…やることが無い。

 

 

★    石限病起　　　　　　　石限病起　　　　　　　　　　　　  　宋　　陳與義

 

幽人病起山深處　　　　幽人 病(びょう)起(き)す 山深き処　

小院鴉鳴日午時　　　　小院 鴉鳴く 日午の時　

六尺屏風遮宴坐　　　　六尺の屏風 宴坐を遮り　

一簾細雨獨題詩　　　　一簾の細雨 独り詩を題す

 

【語釈】

○石限…水利上の水流を調節する閘門。○病起…病が治る。○幽人…隠者。○小院…小さな門や壁で仕切られた庭。○日午…正午。○宴坐…宴会の場所。○一簾…連なって下るさま。

 

★    偶作　　　　　　　　　偶作　　　　　　　　　　　　　　   宋　　程　俱

 

薫風習習動林光　　　　薫風(くんぷう) 習々(しゅうしゅう) 林光を動かし　

紫翠陰中草木香　　　　紫(し)翠(すい)陰中(いんちゅう) 草木香ばし　

山鳥一聲清晝永　　　　山鳥 一声 清昼永く　

白雲深處北窗凉　　　　白雲 深き処　北窓凉し

 

【語釈】

○薫風…おだやかな初夏の風。○習習…風がそよそよと吹くさま。○林光…林を透過する陽光。○紫翠…青紫の山色。○清晝…清らかな昼。

 

 

★    夜　　　　　　　　　　夜　　　　　　　　　　　　  　　　　　　宋　　朱　熹

 

獨宿山房夜氣清　　　　独り山房に宿して 夜気清し　　　　　

一窗凉月共虛明　　　　一窓の凉(りょう)月(げつ) 共に虛(きょ)明(めい)　

鄰雞未作人聲絕　　　　鄰雞(りんけい) 未だ作(な)さず 人声絕ゆ　

時聽高梧滴露鳴　　　　時に聽く 高梧(こうご)の滴露に鳴くを　

 

【語釈】

○山房…山の寺院、家。○夜氣…夜の空気。○虛明…空しいあかり。○鄰雞…となりの家の雞。○高梧…高いアオギリの木。

 

★    失題                  失題                               宋　　朱　熹

 

短棹長簑九曲灘　　　　短棹(たんとう) 長簑(ちょうさ) 九曲の灘(なだ)　

晚來閑弄釣魚竿　　　　晚来(ばんらい) 閑(しずか)に弄(ろう)す 釣魚(ちょうぎょ)の竿(さお)　

幾回欲過前灣去　　　　幾回か 前湾を去り過(すぎ)んと欲して　

却怕斜風特地寒　　　　却って怕(おそ)る 斜風の特地(とくち)に寒きを

 

【語釈】

○失題…特に題を付けなかった詩。題が分からない詩。○短棹…短い釣り竿。○長簑…長い蓑。○九曲灘…福建省武夷山の九曲溪。朱熹の学舎のあった処。○晚來…夕方になってから。○特地…突然。忽然。

 

 

★    昨夕不知有雪而晨起四望遠峰皆已變色再用元韻作兩絶句　　　  宋　　朱　熹　　　

昨夕雪有るを知らず 而(しこう)して晨(あした)に起きて四望(しぼう)すれば遠峰皆已に色を変ず 再び元韻を用いて両絶句を作る　

 

朔風吹盡暮雲平　　　　朔風(さくふう) 吹き尽きて　暮(ぼ)雲(うん)平かなり   　

室暖爐紅睡達明　　　　室暖かく 炉紅(くれない)にして 睡(ねむり) 明(めい)に達(いた)る　

但怪朝來滿山白　　　　但だ怪しむ 朝来(ちょうらい) 満山の白きを　　　

不知昨夜打窗聲　　　　知らず 昨夜 窓を打つ声

 

【語釈】

○四望…四方を眺める。○朔風…北風。○明…夜明け。○朝來…朝から。朝になって。

 

★    絶句二首　　　　　　　　絶句二首　　　　　　　　　　　   宋　　歐陽鈇

 

桑麻得雨更青葱　　　　桑(そう)麻(ま) 雨を得て 更に青(せい)葱(そう)

芍藥留春結晚紅　　　　芍藥(しゃくやく) 春を留めて 晚(ばん)紅(こう)を結ぶ

怪得鳥聲如許好　　　　怪しみ得たり 鳥声 許(かく)の如く好きを

此身還在亂山中　　　　此の身は 還(ま)た 乱山の中に在り

 

【語釈】

○桑麻…桑と麻。○青葱…翆緑色。○晚紅…盛りを過ぎた花の色。○許…このように。

 

 

★    絶句二首              絶句二首                           宋　　歐陽鈇

 

爲憐紅杏亞枝斜　　　　爲に憐む 紅(こう)杏(きょう)の枝に亜(よ)りて斜なるを　

看到斜陽送亂鴉　　　　看る 斜陽の 乱(らん)鴉(あ)を送るに到るを　

又是一春窮不死　　　　又た是(こ)れ 一春 窮まりて死せず　

天教留眼看鶯花　　　　天は 眼を留めて 鶯花を看せしむ

 

【語釈】

○爲…よって～する。○憐…かわいがる。○紅杏…紅色の杏。○亞…寄り集まる。○斜陽…夕陽。○亂鴉…乱れた烏の群。○又是…またも。その上。○鶯花…鶯の鳴く花。

 

★    玉山觀                玉山觀                              宋　　謝　諤

 

微明燈火夜堂幽　　　　微(び)明(めい)なる灯火 夜堂幽(ゆう)なり　

聽徹絲桐萬慮休　　　　糸(し)桐(とう)を聽徹(ちょうてつ)すれば 万慮(ばんりょ)休す　

骨冷魂清眠不得　　　　骨冷え 魂(こん)清くして 眠り得ず　

竹風蕭瑟滿庭秋　　　　竹風 蕭瑟(しょうしつ)たり 満庭の秋

 

【語釈】

○玉山觀…古代伝説中の仙山。長安蓝田県の東南にある山。○幽…奥深い。物静か。○聽徹…聴いてその奥まで理解する。○萬慮…全てのおもんばかり。○蕭瑟…（秋風が）物寂しいさま。

 

 

★    寓郡城客舍熱不可寐與程彦舉坐語達旦　　　　　　　　　　   宋　　呉　儆

　　　郡城の客舍に寓して 熱して寐(い)ぬべからず 程彦挙(ていげんきょ)と坐して語り 旦(たん)に達す

 

淡月微雲對倚樓　　　　淡(たん)月(げつ) 微(び)雲(うん)　対して楼に倚(よ)る　

無聲河漢自西流　　　　声無き河漢 自(おのずか)から西に流る　

高城忽起梅花弄　　　　高城 忽(たちま)ち起る 梅花弄(ばいかろう)　

散作晴空萬里秋　　　　散じて 晴空 万里の秋と作(な)る

 

【語釈】

○郡城…群の中心の街。○客舍…旅館。○程彦挙…宋の徽州休寧の人。高宗紹興十七年の進士。鄱陽主簿となる。○旦…朝。夜明け。○淡月…光の薄い月。○微雲…かすかな雲。○倚…寄りかかる。○河漢…銀河。○梅花弄…笛の曲名。

 

★    偶成　　　　　　　　　偶成　　　　　　　　　　　　　　   宋　　呉　儆

 

晚來一雨破炎蒸　　　　晚来(ばんらい) 一雨 炎(えん)蒸(じょう)を破る　

蕉葉葵花照眼明        蕉(しょう)葉(よう) 葵(き)花(か) 眼を照らして明(あきら)かなり　

稍與燈花尋舊約　　　　稍(や)や 燈花と 旧約を尋ぬるも

却嫌庭樹作秋聲　　　　却って嫌(きら)う 庭樹の 秋声を作(な)すを　

 

【語釈】

○晚來…夕方からの。○炎蒸…蒸し暑さ。○蕉葉…芭蕉の葉。○葵花…ひまわり。○燈花…燃え残りの灯心が花の形になったもの。○舊約…古い約束事。

 

 

★    宴坐菴　　　　　　　　宴坐菴(えんざあん)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

五更風竹鬧軒窗　　　　五更の風竹 軒窓閙(さわ)がし

聽作江船浪動牀　　　　聽く 江船の浪 牀(しょう)を動と作(な)すを　

枕上翻身尋斷夢　　　　枕上 身を翻えして 断夢を尋ぬれば　

故人待漏滿鞾霜　　　　故人 漏(ろう)を待ち 満鞾(まんか)の霜

 

【語釈】

○宴坐菴…不祥。宴坐は座禅、安坐。○五更…夜明け前。○鬧…騒がしい。○枕上…床の上。○斷夢…中断した夢。○漏…水時計。僅かな時間。○滿鞾…履一杯。

 

 

★    寒夜獨步中庭          寒夜中庭に独步す　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

忍寒索句踏霜行　　　　寒を忍び 句を索(もとめ)て 霜を踏みて行く　

刮面風來鬚結冰　　　　面を刮(けず)り 風来たりて 鬚(ひげ) 氷を結ぶ　　

倦僕觸屏呼不應　　　　倦(けん)僕(ぼく) 屏(へい)に触れて 呼べども応(こた)えず　

梅花影下一窗燈　　　　梅花(ばいか)影下(えいか) 一窓の灯

 

【語釈】

○刮…削る。風が吹く。○倦僕…眠っている召使い。○屏…ついたて。

 

 

★    睡覺　　　　　　　　　睡(ねむり)覚(さ)む 　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

尋思斷夢半瞢騰　　　　断夢(だんむ)を尋(じん)思(し)して 半ば瞢騰(ぼうとう)　

漸見天窗紙瓦明　　　　漸(ようや)く見る 天窓(てんそう) 紙(し)瓦(が)の明(あきらか)なるを　

宿鳥噪羣穿竹去　　　　宿(しゅく)鳥(ちょう) 噪(さわ)ぎ群れ 竹を穿(うが)ちて去る　

縣前猶自打殘更　　　　県前 猶(いま)自(だ) 残(ざん)更(こう)に打(だ)す

 

【語釈】

○尋思…心を静めて考慮する。○斷夢…中断した夢。消えた夢。○瞢騰…うっとりする。ふらふらする。○漸…だんだんと。○天窗…屋上に設けた光と風を通す窓。○紙瓦…紙で出来た瓦。○宿鳥…巣に宿っている鳥。○縣前…役所の前。○猶自…いまだ。○殘更…五更のこと、夜明け前。

 

★    緩带軒獨坐　　　　　　 带を緩(ゆる)め軒に独坐す　　　　　　　  宋　　范成大

 

午日烘開豆蔻苞　　　　午日 烘(こう)開き 豆蔻(ずこう)苞(しげ)る　

檐塵飛動雀爭巢　　　　檐(たん)塵(じん) 飛動して 雀(すずめ) 巣を争う　

蒙蒙困眼無安處　　　　蒙(もう)々(もう)たる 困(こん)眼(がん) 安んずる処無く　

閒送爐煙到竹梢　　　　閑かに炉(ろ)煙(えん)を送り 竹(ちく)梢(しょう)に到る

 

【語釈】

○午日…五月五日、端午の節句。○烘…かがり火。○豆蔻…薬草の名。○苞…草樹が密生する。○檐塵…軒先の塵。○蒙蒙…おぼろげなさま。○困眼…眠そうな目つき。寝ぼけまなこ。○竹梢…竹のこずえ。

 

 

★    聽雨　　　　 　　　　雨を聽く　　　　　　  　　　　　　　　宋　　楊萬里

 

歸舟昔歳宿嚴陵　　　　帰(き)舟(しゅう) 昔(せき)歳(さい) 厳(げん)陵(りょう)に宿(しゅく)す　

雨打疎篷聽到明　　　　雨は疎篷(そほう)を打ち 聽くこと明(めい)に到る　

昨夜茅簷疎雨作　　　　昨夜 茅簷(ちえん) 疎(そ)雨(う)を作(な)し　

夢中喚作打篷聲　　　　夢中(むちゅう) 喚(さけ)びて 篷(とま)を打つ声と作(な)る

 

【語釈】

○昔歳…去年。○嚴陵…嚴陵瀬。浙江省桐廬県の南にある瀬，東漢の嚴光が隱居して釣りをした処。○疎篷…まばらな篷の舟窓。○明…あかつき。○茅簷…茅葺きののき。○疎雨…まばらな雨。○夢中…夢の中。

 

★    春暖郡圃散策　　　　春暖(しゅんだん)郡圃(ぐんぽ)散策(さんさく)　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

已覺朝來退裌衣　　　　已に覚ゆ 朝来(ちょうらい) 裌衣を退くるを　

日光風力軟如癡　　　　日光 風力 軟きこと痴(ち)の如し　

倩誰留許春寒著　　　　誰を倩(こ)いて 春寒を留許し著(つ)け　

更放梅花住少時　　　　更に梅花をして 住むこと少時なら放(し)めん

 

【語釈】

○郡圃…江西省宜春市郡圃。○朝來…夜明け以降。○裌衣…あわせ。冬の衣。○春寒…春の初めの寒さ。○留許…留める。「許」は意味の無い助字。○著…「つける」が原義で、〈動詞＋「著」〉で「～し続ける」という持続形となる。

 

 

★    閑居初夏午睡起　　　　閑居(かんきょ)初夏(しょか) 午睡より起く               宋　　楊萬里

 

梅子留酸軟齒牙　　　　梅子は酸を留めて 歯牙(しが)を軟(やわら)ぐ

芭蕉分綠與窗紗　　　　芭蕉は綠を分けて 窓紗(そうしゃ)に与(あた)う　

日長睡起無情思　　　　日長くして 睡起(すいき)し情思(じょうし)無し　

閑看兒童捉柳花　　　　閑(しずか)に看る 兒童の柳(りゅう)花(か)を捉(とら)うを

 

【語釈】

○閑居…静かな生活。○梅子 … 梅の実。○留酸 … 酸っぱさが口に残る。○軟歯牙 … 歯が浮いたように感じる。○窗紗… 窓に張った薄い紗のカーテン。睡起…昼寝より起きる。○無情思…何も思うことがない、何となく物憂い様子。○閑看 … のんびりと眺めている。

（参考文献）　　『漢詩大系　１６』

 

★    閑居初夏午睡起　　　　閑居(かんきょ)初夏(しょか) 午睡より起く               宋　　楊萬里

 

松陰一架半弓苔　　　　松陰一架(しょういんいっか) 半弓(はんきゅう)の苔　

偶欲看書又嬾開　　　　偶(たまた)ま書を看(み)んと欲するも 又た開くに嬾(ものう)し　

戲掬清泉灑蕉葉　　　　戲(たわむれ)れに清泉を掬(すく)い 蕉葉に灑(そそ)げば　

兒童誤認雨聲來　　　　兒童誤って認む 雨声(うせい) 来(きた)るかと

 

【語釈】

○閑居…静かな生活。○松陰…松の影。○一架…柱と柱の間。○半弓…弓形。○蕉葉…芭蕉の葉。○灑…水などを注ぎかける。○雨聲…雨の音。雨。

 

 

★    夏月頻雨　　　　　　　夏月 頻(しき)りに雨ふる　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

一番暑雨一番涼　　　　一番の暑雨 一番の涼　

真箇令人愛日長　　　　真箇 人をして 日の長きを愛さしむ　　　　　

隔水風來知有意       水を隔てて風来(きた)りて 意有るを知る　

爲吹十里稻花香        爲に吹く 十里 稻(とう)花(か)の香

 

【語釈】

○一番…一回。○真箇…まことに。真実で偽りなく。

 

 

★    山居秋日睡起　　　山居 秋日睡(すい)起(き)す　　　　　　 　　　　 宋　　楊萬里

 

客至從嗔不著冠　　　　客(かく)至りて 嗔(いか)りに從(よ)りて 冠を著せず　　

起來信手攬書看　　　　起き来たりて 手に信(まか)せ 書を攬(と)りて看る　

小蜂得計欺儂睡　　　　小蜂 計り得たり 儂(われ)の睡(ねむり)を欺くを　

偷飲晴窗硯滴乾　　　　偸(ぬす)み飲む 晴窓 硯(けん)滴(てき)乾く

 

【語釈】

○睡起…眠りより起きる。○信…何かの力に任せる。○攬…持つ。○儂…わし（俗語）。○硯滴…硯のみずさし。

 

 

★    山居雪後　　　　  　　山居雪後　　　　　　　　　　　　　宋　　楊萬里

 

一點紅塵未敢生　　　　一点の紅(こう)塵(じん) 未だ敢(あえ)て生ぜず　

松間雪後政堪行　　　　松間(しょうかん) 雪後(せつご) 政(まさ)に行(こう)に堪えたり　

日光半破風微度　　　　日光 半ば破れ 風 微(かすか)に度(わた)り　

時作高林落果聲　　　　時に 高林(こうりん)落果(らっか)の声を作(な)す

 

【語釈】

○紅塵…車馬が引き起こす粉塵。○堪行…出かけるのに相応しい。

 

 

★    偶題　　　　　　　　　偶(ぐう)題(だい)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　徐似道

 

老去功名不掛懷　　　　老去(おいさ)りて功名  懐(おもい)を掛(かけ)ず　　

高眠之外只清齋　　　　高眠の外(ほか) 只だ清(せい)斎(さい)　

偶因種竹便多事　　　　偶ゝ(たまたま) 竹を種(う)えるに因(よ)りて 便(すなわ)ち多事　

風葉掃餘還滿階　　　　風葉 掃(はら)い余りて 還(ま)た 階に満つ

 

【語釈】

○偶題…たまたま作った詩。○掛懷…思いを残す。思いをかける。○清齋…心を清らかにして物忌みすること。○因…～によって。○便…すぐに。

 

 

★    秋日郊居　　　　　　　秋(しゅう)日郊(じつこう)居(きょ)　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

行歌曳杖到新塘　　　　行歌(こうか)し 杖を曳(ひ)きて 新塘(しんとう)に到る　

銀闕瑤臺無此涼　　　　銀闕(ぎんけつ) 　瑤(よう)台(だい) 此の涼無し　

萬里秋風菰菜老　　　　万里の秋風 菰(こ)菜(さい)老(た)け　

一川明月稻花香　　　　一川(いっせん)の明月 稲(とう)花(か)香(かんば)し

 

【語釈】

○郊居…郊外、田舎の家。○行歌…歩きながら唱う。○新塘…新しい堤。○銀闕…白銀で作った宮城の門。○瑤臺…立派な宮殿。○菰菜…河原のまこも。○老…熟しているさま。

 

 

★    戲答野人　　　　　　　戯れに野人に答う　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

日飲雲根一脈泉　　　　日に飲む 雲(うん)根(こん) 一脈の泉　

知君骨相自應仙　　　　知る 君の骨相 自(おのずか)ら応(まさ)に仙なるべきを　

曲肱閑卧茅簷下　　　　肱を曲げ 閑かに卧(が)す 茅簷(ぼうおく)の下　

買斷南山不用錢　　　　南山を買断(ばいだん)して銭(ぜに)を用いず

 

【語釈】

○野人…隠者。○雲根…深い山で雲の生ずる処。○骨相…骨格。相貌。○應…「まさに～べし」と読み「きっと～に違いない」の意。○仙…仙人。○茅簷…萱葺きののき。○南山…終南山。君山などがあるが、特定出来ないので、南の山とする。隠棲の地とされる終南山が近いか？○買斷…買い切って独占する。

 

 

★    記夢　　　　　　　　　夢に記す　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

信命從來不問天　　　　命に信(まか)せて従來 天を問わず　

經旬無酒亦陶然　　　　旬を経て 酒無く 亦(ま)た陶然　

夢爲估客揚州去　　　　夢は估客(こかく)と為りて揚(よう)州(しゅう)に去り　

水調聲中月滿船　　　　水調声中(すいちょうせいちゅう) 月 船に満つ

 

【語釈】

○旬…十日間。○陶然…うっとりするさま。○估客…行商人。○揚州…江蘇省揚州市。○水調…曲の名。○月…ここでは月光。

 

★    雨夜　　　　　　　　　雨夜　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

庭院蕭條秋意深　　　　庭院(ていいん) 蕭條(しょうじょう)として 秋意深し　

銅爐一炷海南沈　　　　銅炉 一炷(いちしゅ) 海南に沈む　

幽人聽盡芭蕉雨　　　　幽人 聽き尽す 芭蕉の雨　

獨與青燈話此心　　　　独り 青灯と 此の心を話(わ)す

 

【語釈】

○庭院…門塀内の建物の内空地。○蕭條…物静かなさま。○秋意…秋の趣き。秋の気配。○炷…灯心。○海南…南部の浜海の地。○幽人…隠者。○青燈…青い光の灯火。

 

 

★    小軒　　　　　　　　　小軒　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

砧杵聲中歳月流　　　　砧(ちん)杵声中(きんせいちゅう) 歳月流る　

小軒風露一簾秋　　　　小軒の風露 一簾の秋　

人間走遍心如石　　　　人間(じんかん) 走ること遍(あまね)くして 心 石の如し　

分付寒螿替説愁　　　　寒螿(かんしょう)に分付(ぶんよ)して 愁を説くに替ゆ

 

【語釈】

○砧杵…衣を打つ砧。○寒螿…寒蝉。秋の終わりの蝉。○分付…分け与える。

 

 

★    夏日雜題　　　　　　　夏日雜題　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

東吳五月黄梅雨　　　　東吳(とうご) 五月 黄梅(こうばい)の雨　

南浦孤舟白髮翁　　　　南浦(なんぽ)の孤舟 白髮の翁　

貂插朝冠金絡馬　　　　貂插(てんそう) 朝冠(ちょうかん) 金絡馬(きんらくば)　

多年不入夢魂中　　　　多年入らず 夢魂の中

 

【語釈】

○東吳…古代の呉の地。○黄梅雨…梅雨。○南浦…南方の水辺に面した地方。送別の地の意味に使われる。江西省南昌県の西南。○貂插…？○朝冠…朝廷に出るときの冠。○金絡馬…良馬を指す。○夢魂…夢。

 

★    晚凉　　　　　　　　　晚凉　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

竹簟平鋪八尺床　　　　竹簟(ちくたん) 平に鋪(し)く 八尺の床　　　　　

脫巾高卧對疏篁　　　　巾(きん)を脱し 高卧(こうが)し 疎篁(そこう)に対す　

近村得雨知何處　　　　近村 雨を得 知んぬ何れの処ぞ　

此地無風亦自凉　　　　此の地 風無く 亦(ま)た 自(おのずか)ら凉し

 

【語釈】

○竹簟…竹製のたかむしろ。○巾…頭巾。○高卧…世間を脱して暮らす。高眠。○疏篁…疎らな竹林。

 

 

★    秋興　　　　　　　　　秋興　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

村酒甜酸市酒渾　　　　村酒は甜(てん)酸(さん) 市酒は渾(にご)る　

猶勝終日對空樽　　　　猶お勝(まさ)る終日 空樽に対するに　

茅齋不奈秋蕭瑟　　　　茅(ぼう)斎(さい) 奈(いかん)ともせず 秋 蕭瑟(しょうひつ)　

踏雨來敲野店門　　　　雨を踏み 来りて敲(たた)く 野店の門

 

【語釈】

○村酒…村で作った酒。○甜酸…（発酵しすぎて）甘酸っぱい。○空樽…空の酒樽。○茅齋…萱葺きの部屋。○蕭瑟…秋風の音。○野店…田舎の店。野原の茶店。

 

 

★    東窓　　　　　　　　　東窓　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

寂寂東窗午夢殘　　　　寂々(せきせき)たる東窓 午夢残る　

更堪春雨作春寒　　　　更に春雨に堪え 春寒を作(な)す　

蠻童未報煎茶熟　　　　蛮(ばん)童(どう) 未だ報ぜず 煎茶の熟すを　

一卷南華枕上看　　　　一卷の南華(なんか) 枕上に看る

 

【語釈】

○寂寂…寂しく静かなさま。○午夢…午睡の夢。○春寒…春先の寒さ。○蠻童…南方からきた男兒の召使い。○熟…煮る。煎じ終わる。○南華…「南華真經」のこと｢荘子｣の別名。

 

 

★    小園　　　　　　　　　小園　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

小園烟草接鄰家　　　　小園の烟(えん)草(そう) 鄰家(りんそう)に接す　

桑柘陰陰一徑斜　　　　桑(そう)柘(たく)陰々(いんいん) 一経斜めなり　

卧讀陶詩未終卷　　　　卧(が)して陶詩を読み　未だ卷(かん)を終えず　

又乘微雨去鋤瓜　　　　又た　微雨に乗じて　去(ゆ)きて瓜を鋤(す)く

 

【語釈】

○小園…小さな畑。○煙草…かすみに包まれた草原。○桑柘…クワやヤマグワ。陰陰…薄暗く、もの寂しいさま。○陶詩…陶淵明の詩。○乗…～を利用して。○微雨…こさめ。○去…出かける。○鋤…すきで耕す。

（参考文献）　『中国詩人撰集二－８』

 

 

★    冬夜聽雨戲作　　　　　冬夜雨を聴き戯れに作る　　　　　　  宋　　陸　游

 

繞簷點滴如琴筑　　　　簷(のき)を繞(めぐ)ぐる点滴 琴(きん)筑(ちく)の如し　

支枕幽齋聽始奇　　　　枕を支えて 幽(ゆう)斎(さい)  聽いて始めて奇(き)なり　

憶在錦城歌吹海　　　　憶う 錦(きん)城(じょう)の歌吹(かすい)海(かい)に在りて　

七年夜雨不曾知　　　　七年の夜雨　曽(かつ)て知らず

 

【語釈】

○點滴…雨だれの音。○琴筑…琴と筑（楽器で十三弦あり竹で鼓す）。○錦城…錦官城(成都)。○歌吹海…歌舞音曲の盛んである場所。

 

 

★    枕流軒　　　　　　　　枕流(ちんりゅう)軒(けん)　　　　　　　　　　　　　  宋　　郭　綽

 

招提避雨寄孤眠　　　　招提(しょうだい) 雨を避け 孤眠(こみん)に寄る　

夜靜溪聲到枕邊　　　　夜静かにして 溪声(けいせい) 枕辺(ちんぺん)に到る　

引得五湖清入夢　　　　五湖を引き得て 清(せい) 夢に入り　

拍天波浪一漁船　　　　天を拍(う)つ波浪 一漁船

 

【語釈】

○枕流軒…安吉県（浙江省湖州市の県）の嚴真觀にある。○招提…寺院。○孤眠…独り寝。○枕邊…枕元。○五湖…古代の五つの湖。初説あり。一般に太湖を中心とする湖。

 

 

★    次松風閣韻　　　　　　松風閣(しょうふうかく)韻(いん)に次す　　　　　　　　　  宋　　裘萬頃

 

白雲殊不作俗態　　　　白雲 殊に 俗態(ぞくたい)を作(な)さず　

流水更似知人心　　　　流水 更に 人心を知るに似たり　

溪邊濯足溪上坐　　　　渓(けい)辺(へん)に 足を濯(あら)い 渓上(けいじょう)に坐す　

樵唱一聲秋滿林　　　　樵(しょう)唱(しょう) 一声 秋 林に満つ

 

【語釈】

○松風閣…広東省中山市にある西山寺にある閣。○俗態…いやしい姿。○樵唱…きこりの歌。

 

 

★    初夏偶書　　　　　　　 初夏偶(たまた)ま書す　　　　　　　　　   宋　　張　栻

 

江潭四月熟梅天　　　　江潭(こうたん) 四月 熟(じゅく)梅(ばい)の天　

頃刻陰晴遞變遷　　　　頃刻(けいこく) 陰晴(いんせい) 逓(たがい)に変遷　

掃地焚香清畫水　　　　地を掃(はら)う焚(ふん)香(こう) 清画(せいが)水(すい)　

一窗修竹正森然　　　　一窓の修(しゅう)竹(ちく) 正(まさ)に森(しん)然(ぜん)

 

【語釈】

○江潭…江の深い淵。○熟梅天…晩春初夏の梅が熟するころの天気。○頃刻…非常に短い時間。○陰晴…曇りと晴れ。○焚香…焼香。○修竹…長く高い竹。○森然…樹木のこんもりと茂るさま。

 

 

★　夜景                  夜景                 　　　　　　宋　　魏了翁

 

遠鐘入枕雪初晴　　　　遠鐘 枕に入り 雪 初めて晴れ　

衾鐵稜稜夢不成　　　　衾(きん)鉄(てつ) 稜々(りょうりょう)として 夢 成らず  

起傍梅花讀周易　　　　起きて 梅花に傍(そ)いて 周(しゅう)易(えき)を読む　

一窗明月四簷聲　　　　一窓の明月 四簷(しえん)の声

 

【語釈】

○遠鐘…遠くから聞こえて来る鐘の音。○衾鐵…寒さで凍り付き鉄のように硬く冷たくなった布団。○稜稜…寒さの厳しいさま。○周易…『易経』、五経の一つで占いの書。○四簷聲…四方ののきから滴る音。ここでは、屋根に積もった雪が解けて滴があちこちから滴る音。

 

★    讀書　　　　　　　　　読書　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　盧祖皋

 

細字燈前老不便　　　　細字 灯前 老(おい)て 便ならず

小齋新冷夜無眠　　　　小斎(しょうさい)の新冷 夜 眠る無し　

數聲牆竹蕭蕭雨　　　　数声の墻(しょう)竹(ちく) 蕭々(しょうしょう)の雨　

一縷銅爐淡淡煙　　　　一縷(いちる)の銅炉 淡々の煙

 

【語釈】

○細字…細かい字。○不便…（細かい字を見るのに）不便である。○小齋…小さな書斎。○牆竹…垣根に植えてある竹。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○一縷…絶えようとして僅かに繋がっているさま。○淡淡…薄くかすかなさま。

 

 

★    次韻南軒喜雨　　　　　「南軒 雨を喜ぶ」に次韻す　　　　  宋　　張孝祥

 

北風吹雲如裂絲　　　　北風 雲を吹いて 糸を裂く如し

赤龍卷水尾倒垂　　　　赤竜 水を巻いて 尾 倒(さかしま)に垂(た)る　

雷轟電激不敢駐　　　　雷(らい)轟(こう) 電激(でんげき)　敢(あえ)て駐(ととまら)ず　

驅入吾家喜雨詩　　　　駆(か)けて 吾が家の 雨を喜ぶ詩に入る

 

【語釈】

○南軒…江蘇省南京市南軒。○赤竜…赤い竜。ここでは稲妻の形容。○雷轟…雷のとどろき。○電激…稲妻。

 

 

★    夏日西湖閑居　　　　　夏日西湖閑居　　　　　　　　　　   宋　　汪　莘

 

十里湖山苦見招　　　　十里の湖山 苦(ねんごろ)に招き見る

柳堤荷蕩赤欄橋　　　　柳堤 荷蕩(かとう) 赤欄の橋

待他朝市人歸後　　　　他の朝 市人の帰るの後を待ち　

獨泛扁舟吹玉簫　　　　独(ひと)り 扁舟を泛(うか)べ 玉簫(ぎょくしょう)を吹く

 

【語釈】

○閑居…静かにのんびりと暮らすこと。○荷蕩…ハスの花が一面に咲いた湖。○赤欄…赤い欄干。○扁舟…小舟。○玉簫…玉で出来た縦笛。

 

 

★    夏日閒坐　　　　　　　 夏日閑坐(かじつかんざ)　　　　　　　　　　　   宋　　徐　璣

 

無數山蟬噪夕陽　　　　無数の山蟬(さんせん) 夕陽(せきよう)に噪(さわ)ぐ　

高峰影裏坐陰涼　　　　高峰(こうほう)影(えい)裏(り) 陰(いん)涼(りょう)に坐す　

石邊偶看清泉滴　　　　石辺 偶ゝ(たまたま)看る 清泉の滴(したた)るを　

風過微聞松葉香　　　　風過ぎ 微(かす)かに聞く 松葉の香(かんば)しきを

 

【語釈】

○閒坐…閑かに坐る。○陰涼…物陰で涼しくて爽やかなところ。○聞…臭いをかぐ。

　

 

★    新涼　　　　　　　　　 新涼　　　　　　　　　　　　　　   宋　　徐　璣

 

水滿田疇稻葉齊　　　　水満ちて田疇(でんちゅう) 稲葉(とうよう)斉(ととの)う　

日光穿樹曉煙低　　　　日光 樹(じゅ)を穿(うが)ち 暁(ぎょう)煙(えん)低し　

黄鶯也愛新涼好　　　　黄鶯(こうおう) 也(ま)た愛す 新涼の好(よろ)しきを　

飛過青山影裏啼　　　　飛んで 青(せい)山影(ざんえい)裏(り)に過(よぎ)りて啼く

 

【語釈】

○田疇…田、田畑。○曉煙…朝靄。○黄鶯…黃鸝。コウライ鶯。○也…また。○青山…青々した山。○過…「～によぎる」と読み、訪れるの意。「～をよぎる」と読むときは通過するの意。

 

 

★    湖上寓居雜咏　　　　　湖上寓居雜咏(こじょうぐうきょざつえい)　　　　　　　　　   　宋　　姜　夔

 

湖上風恬月澹時　　　　湖上 風恬(おだや)に 月澹(あわ)き時　

卧看雲影入玻瓈　　　　卧(が)して看る 雲(うん)影(えい)の玻瓈(はり)に入るを　

輕舟忽向窗邊過　　　　軽舟 忽ち(たちま) 窓辺(そうへん)に向って過ぎ　

摇動青蘆一兩枝　　　　摇動(ようどう)す 青蘆(せいろ)の一両枝

 

【語釈】

○寓居…仮住まい。○雜咏…（主題を決めずに）色々な事物を詠じた詩。○恬…穏やか。静か。○玻瓈…ガラス。ここではガラスのように透き通った水面を言う？○輕舟…小舟。○青蘆…青い蘆。

 

 

★    梁家渡　　　　　　　　 梁家の渡(わたし)　　　　　　　　　　　　  宋　　蕭彦毓

 

遠水環沙翠作灣　　　　遠水 沙を環(めぐ)りて 翠(みどり) 湾を作(な)す

紅塵飛不入青山　　　　紅塵 飛べども 青山に入らず　

凉風一枕秋宵夢　　　　凉風(りょうふう) 一枕 秋(しゅう)宵(しょう)の夢　

夢繞千巖萬壑間　　　　夢は繞(めぐ)る 千(せん)巖(がん) 万(ばん)壑(がく)の間

 

【語釈】

○梁家渡…不祥。○遠水…遠く離れた場所にある川。○紅塵…車馬の起こす塵。○千巖萬壑…多くの山と谷。

 

 

★    山居二首　　　　　　　山居二首　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱繼芳

 

空山薇蕨供清齋　　　　空山の薇(び)蕨(けつ) 清斎に供す　

世事悠悠不挂懷　　　　世事 悠々(ゆうゆう) 懐(おもい)に挂(か)けず　

梅溽得風醒午枕　　　　梅溽(ばいじょく) 風を得て 午枕(ごちん)醒(さ)む　

竹陰轉影上南階　　　　竹(ちく)陰(いん)　影を転じて 南階に上る

 

【語釈】

○空山…人気の無いひっそりとした山。○薇蕨…ゼンマイとワラビ。○清齋…心を清らかにして物忌みすること。○世事…俗世間のこと。○悠悠…のんびりしたさま。○懷…おもい。○梅溽…陰暦四月。梅が熟する頃の蒸し暑さ。○午枕…昼寝。

　

　

 

★    山居二首　　　　　　山居二首　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱繼芳

 

宿雨初乾一杖藜　　　宿(しゅく)雨(う) 初めて乾き 一杖の藜(あかざ)　

欲呼漁艇訪前溪　　　漁艇を呼ばんと欲して 前渓(ぜんけい)を訪(おとな)う　

碧桃花落無尋處　　　碧(へき)桃(とう) 花落ちて 尋ぬる処無し　

惆悵人間日又西　　　惆悵(ちゅうちょう)す 人間(にんげん) 日又西す

 

【語釈】

○宿雨…長い雨。○藜…木の一種。軽いので老人、隠者の杖として用いられる。○碧桃…緑色の桃の花。○惆悵…嘆き悲しむ。

 

 

★    雜興　　　　　　　　　雜興　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

是非不到野溪邊　　　　是非 到らず 野渓の辺(ほとり)　

只就梧桐聽雨眠　　　　只だ 梧桐(ごとう)に就(つ)いて 雨を聴いて眠る　

睡熟不知溪水長　　　　睡(ねむり) 熟して知らず 渓(けい)水(すい)の長きを　

鷺鷥飛上釣魚船　　　　鷺鷥(ろし) 飛び上る 釣魚(ちょうぎょ)の船

 

【語釈】

○是非…善悪共に。○梧桐…あおぎり。○溪水…谷川の水。○鷺鷥…サギ。

　

 

★    山眠　　　　　　　　　山眠　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

借得松風一覺眠　　　　松風を借り得えて 一覚の眠

旋燒枯葉煮山泉　　　　旋(かえ)って枯葉(こよう)を焼きて 山泉を煮る　

人間蟻蛭王侯夢　　　　人間(にんげん) 蟻蛭王侯(ぎしおうこう)の夢　

不到梅花紙帳邊　　　　到らず梅花紙帳の辺に

 

【語釈】

○一覺眠…一眠り。覺は眠りの単位。○旋…また。○蟻蛭王侯夢…南柯の夢（南柯太守伝）。はかないことのたとえ。○梅花紙帳…いろいろな模様を組み合わせた寝具。

 

 

★    夜深　　　　　　　　　 夜深　　　　　　　　　　　　　　  宋　　周　弼

 

虛堂人靜不聞更　　　　虚堂(きょどう) 人静かにして更(こう)を聞かず　

獨坐書床對夜燈　　　　書(しょ)床(しょう)に独坐(どくざ)して 夜灯に対す　　　　　　　

門外不知春雪霽　　　　門外 知らず 春雪の霽(は)るるを　

半峰殘月一溪冰　　　　半峰の残月 一渓の氷

 

【語釈】

○虛堂…高堂。うつろな堂。○更…時間の単位。時間を知らせる物。○書床…書斎の床。○霽…晴れる。

　

　

 

★    數日                  数日　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　趙師秀

 

數日秋風欺病夫　　　　数日の秋風 病夫を欺(あざむ)く

盡吹黄葉下庭蕪　　　　尽(ことごと)く 黄葉(こうよう)を吹いて 庭(てい)蕪(ぶ)に下る　

林疎放得遥山出　　　　林 疎(まばら)にして 遥山(ようざん)を放ち得て出だすも　

又被雲遮一半無　　　　又 雲に遮(さえぎ)られて 一半無し

 

【語釈】

○庭蕪…庭に叢がっている草。○遥山…遙か遠くの山。○一半…半分。

 

 

★    絶句　　　　　　　　　 絶句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　趙師秀

 

黄梅時節家家雨　　　　黄梅(こうばい)の時節 家々(かか)の雨

青草池塘處處蛙　　　　青草 池塘 処々の蛙

約客不來過夜半　　　　客を約(やく)して 来(きた)らず 夜半を過ぐ

閑敲棋子落燈花　　　　閑(しずか)に棋子(きし)を敲けば 灯花落つ

 

【語釈】

○黄梅時節…梅が熟して黄色になる頃。黄梅雨はさみだれ、梅雨のこと。○約…招く。○夜半…まよなか。○棋子…碁石。○燈花…焼け残った灯心が花のようになったもの。

 

★    寒夜　　　　　　　　　 寒夜　　　　　　　　　　　　　　  宋　　杜　耒

 

寒夜客來茶當酒　　　　寒夜 客(かく)来りて 茶 酒に当つ

竹爐湯沸火初紅　　　　竹(ちく)炉(ろ) 湯 沸きて 火 初めて紅なり　

尋常一樣窗前月　　　　尋常 一様 窓前(そうぜん)の月　

纔有梅花便不同　　　　纔(わずか)に梅有りて 花 便(すなわ)ち同じからず

 

【語釈】

○當…～の代わりにする。○竹爐…竹の籠の中に小鉢を入れた道具の一種で、炭を入れて暖をとるのに使う。○尋常…普通。

 

 

★    賞茶　　　　　　　　　 茶を賞す　　　　　　　　　　　　　　   宋　　戴　昺

 

自汲香泉带落花　　　　自(みずか)ら香泉を汲みて 落花を帯ぶ　

漫燒石鼎試新茶　　　　漫(そぞ)ろに石(いし)鼎(てい)を焼き 新茶を試す　　

綠陰天氣閑庭院　　　　緑陰の天気 閑(しずか)なる庭院

卧聽黄蜂報晚衙　　　　卧(が)して聴く 黄蜂(こうほう)の 晩衙(ばんが)を報ずるを

 

【語釈】

○香泉…香りの有る泉（固有名詞とは採らない）。○漫…なんとなく。○石鼎…石でできた鼎。○晚衙…夕方に官吏退出の時刻を報ずる合図。

　　

　

 

★    春日五絶              春日五絶     　　　　　　　　　　　宋　　劉克莊

 

歸到城門欲發更　　　　帰りて城門に到れば 発(はつ)更(こう)ならんと欲す　

馬頭惟有暮鴉迎　　　　馬頭(ばとう) 惟(た)だ 暮(ぼ)鴉(あ)の迎う有り　

小窗了却觀書課　　　　小窓 了却(りょうきゃく)す 観書(かんしょ)の課　

幾首殘詩旋補成　　　　幾首の残詩 旋(つ)いで補成す

 

【語釈】

○發更…初更。夜の初め。○了却…完了する。閉める。却は完成･完了を示す助字。○旋…ついで、すぐさま。○補成…補完。

 

 

★    出關　　　　　　　　　関を出ず　　　　　　　　　　　　　  宋　　葉紹翁

 

脫衣命僕洗塵埃　　　　衣を脱し 僕に命じて 塵埃(じんあい)を洗う　

籬落人家未見梅　　　　籬落(りらく)の人家 未だ梅を見ず　

出得城門能幾步　　　　城門を出で得ること 能(よ)く幾歩ぞ　

船頭便有白鷗來　　　　船頭 便じて 白鴎の来たる有り

 

【語釈】

○關…南宋の首都臨安城の北門。○僕…召使い。○籬落…かきね、まがき。○便…熟練する。

 

 

★    題葉靖逸東庵          葉靖逸の東庵に題す　　　　　　　　　  宋　　周端臣

 

一庵自隠古城邊　　　　一庵 自ら隠す 古城の辺(へん)　

不是山林不市廛　　　　是れ 山林ならず 市廛(してん)ならず

落月半窗霜滿屋　　　　落月 半窓 霜 屋(おく)に満つ　

卧聽宰相去朝天　　　　卧(が)して聴く 宰相去りて 天に朝すと

 

○葉靖逸…宋の處州龍泉の人。○市廛…店舗の集中する市街。○宰相…中書、尚書、門下の三省の長官。○朝天…朝廷に参内する。

 

 

★    春日江居　　　　　　　春日江居　　　　　　　　　　　　　  宋　　葉元素

 

家住夕陽江上村　　　　家は住(じゅう)す 夕陽(せきよう) 江上の村　

一灣流水護柴門　　　　一湾の流水 柴門(さいもん)を護る　

種來松樹高於屋　　　　種え来る松樹(しょうじゅ) 屋よりも高し　

借與春禽養子孫　　　　春禽(しゅんきん)に借与(しゃくよ)して 子孫を養わん

 

【語釈】

○家住～…家が～にある。○江上…江の畔。○柴門…柴で作った粗末な門。○借與…貸し与える。○春禽…春の鳥。

　

　

 

★    晚凉　　　　　　　　　 晚凉　　　　　　　　　　　　　　   宋　　毛　珝

 

窓前灑地著胡床　　　　窓前の灑地(れいち) 胡床を著(た)つ

浴罷閑來坐晚凉　　　　浴 罷(や)みて 閑(かん) 来(きた)り 晩涼に坐す　

更取壁燈移暗處　　　　更に 壁(へき)灯(とう)を取りて 暗処(あんしょ)に移し　

待他月上竹邊牆　　　　他を待てば 月は 竹(ちく)辺(へん)の牆(かき)に上る

 

【語釈】

○灑地…水をそそいだ地。○胡床…折りたたみ式の背もたれのある腰掛け。○著…設ける。○晩涼…夕方の涼しさ。

 

 

★    偶題　　　　　　　　　偶題　　　　　　　　　　　　　　　 宋　　杜　範

 

雲外亂山才約略　　　　雲外の乱山 才(わずか)に約(やく)略(りゃく)　

雨中平野更凄迷　　　　雨中の平野 更に凄迷(せいめい)　

有人支枕篷窗底　　　　人有りて 枕を支う 篷(ほう)窓(そう)の底　

卧看羣牛渡野溪　　　　卧(ふ)して看る 群牛の野渓(やけい)を渡るを

 

【語釈】

○偶題…たまたま作った詩。○才…わずかに。○約略…ぼんやりとしている。○凄迷…さびしくすさまじい。○篷窗…舟の窓。転じて舟。

 

 

★    溪居冬夜　　　　　　　 溪(けい)居(きょ)冬(とう)夜(や)　　　　　　　　　　　　  宋　　何　洪

 

茅屋瀕溪只數椽　　　　茅屋 渓に瀕(せま)りて只だ数椽(すうてん)　

護籬黄犬枕莎眠　　　　籬(かき)を護る黄犬 莎(さ)に枕して眠る　

柴扉不掩松梢月　　　　柴(さい)扉(ひ) 掩(おお)わず 松(しょう)梢(しょう)の月　

恐有山陰泛雪船　　　　恐らくは 山陰に 雪に泛(うか)ぶ船有らん

 

【語釈】

○茅屋…萱葺きの粗末な家。○瀕…すぐ側にある。○數椽…数軒。椽は家を数える単位。○莎…はまなすげ。○柴扉…柴で作った粗末な扉。○掩…閉ざす。○松梢…松の梢。

 

 

★    山間秋夜　　　　　　　 山間の秋夜　　　　　　　　　　　  宋　　真山民

 

夜色秋光共一闌　　　　夜色 秋光 共に一闌　

飽收風露入脾肝　　　　飽くまで 風露を収めて 脾肝に入る　

虛簷立盡梧桐影　　　　虚簷 立ち尽す　梧桐の影　

絡緯數聲山月寒　　　　絡緯 数声 山月寒し

 

【語釈】

○夜色…夜の気配。○秋光…秋の月の光。○一闌…一つの欄干。闌は欄に同じ。○風露…秋の風と露。○虚檐…誰もいない軒、縁側。○梧桐…青桐。○絡緯…こおろぎ、くつわむし。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』

 

★    春晴　　　　　　　　　 春晴　　　　　　　　　　　　　　  宋　　周　氏

 

瞥然飛過誰家燕　　　　瞥(べつ)然(ぜん) 飛び過く 誰が家の燕　

驀地香來甚處花　　　　驀地(ばくち) 香(かおり)来たる 甚(なに)の処の花　

深院日長無個事　　　　深院 日長くして 個事無し　

一瓶春水自煎茶　　　　一瓶(へい)の春水 自(みずか)ら茶を煎(に)る

 

【語釈】

○瞥然…ちらりとひらめくさま。○驀地…まっしぐらに。○深院…奥まった庭。○個事…箇々の些細なこと。

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　除守信

 

汲汲光陰似水流　　　　汲々(きゅうきゅう)たる光陰(こういん) 水流に似たり　

随時得過便須休　　　　時に随い過ぐことを得て 便(すなわ)ち休すを須(もと)む　

兒孫自有兒孫計　　　　児孫(じそん) 自(おのずか)ら有り 児孫(じそん)の計　

莫與兒孫作馬牛　　　　児孫(じそん)の与(ため)に 馬牛と作(な)ること莫(なか)れ

　

【語釈】

○汲汲…いそがしいさま。○光陰…年月。時間。○便…ただちに。

　

　

 

★    山居雜頌　　　　　　　山居雜頌(さんきょきょぞうしょう)　　　　　　　　　　　  宋　　饒　節

 

禪堂茶罷卷殘經　　　　禅堂 茶を罷(や)めて 残(ざん)経(けい)を巻く　　　

竹杖芒鞋信脚行　　　　竹(ちく)杖(じょう) 芒鞋(ぼうあい) 脚に信(まか)せて行く

山盡路回人跡絕　　　　山尽き 路(みち)回(めぐ)りて 人(じん)跡(せき)絶ゆ

竹雞時作兩三聲　　　　竹雞(ちくけい) 時に作(な)す 両三声

 

【語釈】

○雜頌…とりとめもなく作った詩。○殘經…読み残した経典。○竹杖…竹の杖。○芒鞋…ススキのわらじ。○竹雞…鳥の名、鷓鴣に似た小さな鳥。

 

 

★    次韻　　　　　　　　　次韻　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　饒　節

 

楊柳池塘表裏青　　　　楊柳 池塘(ちとう) 表裏の青　

魚兒偸眼畏蜻蜓　　　　魚児 偸眼(ちゅうがん)して 蜻蜓(せいてい)を畏る　

夜來雨過菖蒲靜　　　　夜来 雨過ぎて 菖蒲静かに　

倒浸中天四五星　　　　倒(とう)浸(しん)す 中天の四五星

 

【語釈】

○池塘…池の堤。池。○偸眼…ぬすみ見をする。○蜻蜓…とんぼ。○夜来…昨夜から。○倒浸…池の水に逆さまに写っている。○中天…天の真ん中。

 

 

★    次韻蔡堅老秋日　　　　蔡堅老の「秋日」に次韻す　　　　　  宋　　釋正宗

 

秋容淡薄晚煙孤　　　　秋(しゅう)容(よう) 淡(たん)薄(ぱく)にして 晩煙(ばんえん)孤なり　

千里誰開水墨圖　　　　千里 誰か開く 水墨の図　

欲借扁舟乘興去　　　　扁舟を借り 興に乗じて去り

臥看月影弄風蒲　　　　臥(が)して 月影(げつえい)の風(ふう)蒲(ほ)を弄(ろう)すを 看(み)んと欲す　

 

【語釈】

○蔡堅老…蔡柟。宋の建昌南城の人。○次韻…同じ韻字を同じ順序で使って詩を作ること。○秋容…秋景色。○淡薄…あっさりしていること。○晚煙…夕もや。夕食を作るかまどの煙。○扁舟…小舟。○乘興…興味に乗ずる。○風蒲…風に吹かれる蒲。

 

★    廬山雜興二首　　　　　廬山雜興二首　　　　　　　　　　　  宋　　釋德洪

 

幽花疏竹冷梢雲　　　　幽(ゆう)花(か) 疏(そ)竹(ちく) 梢(しょう)雲(うん)冷やかなり

江北江南正小春　　　　江北 江南 正(まさ)に小春(しょうしゅん)

但得青山常在眼　　　　但(た)だ 青山(せいざん)の 常に眼に在るを得(う)

不妨白髪暗随人　　　　妨げず 白髪の暗(あん)に人に随うを

 

【語釈】

○廬山…江西省九江市の南にある山。陶淵明隠棲の地として名高い。○雜興…さまざまな趣。○幽花…人知れずに咲く花。○梢雲…高い雲。○小春…小春日和。○青山…あおあおと木の茂った山。○白髪…白髪の老人。

 

 

★    廬山雜興二首　　　　　廬山雜興二首　　　　　　　　　　　  宋　　釋德洪

 

別開小徑入松關　　　　別に 小径を開き 松関に入る　

半在雲間半雨間　　　　半(なかば)は 雲間に在り 半(なかば)は雨間　

紅葉滿庭人倚檻　　　　紅葉 庭に満ち 人は檻(かん)に倚(よ)る　

一池寒水動秋山　　　　一池の寒水 秋山を動かす

 

【語釈】

○廬山…江西省九江市の南にある山。陶淵明隠棲の地として名高い。○雜興…さまざまな趣。○松關…自然の松をそのまま門としたもの。○檻…おばしま。

 

 

★    秋興　　　　　　　　　 秋興　　　　　　　　　　　　　　  金　　呉　激

 

後園雜樹入雲高　　　　後園の雑樹 雲に入りて高し　

萬里長風夜怒號　　　　万里の長風 夜 怒号す　

憶在錢塘江上寺　　　　憶いて 銭塘(せんとう)江上(こうじょう)の寺に在り　

松窗竹閣瞰秋濤　　　　松窓の竹閣 秋濤(しゅうとう)を瞰(み)る

 

【語釈】

○錢塘江…浙江省を流れる河川、海嘯で有名。○松窗…松に臨んだ窓。書斎。○竹閣…竹で組んだ楼閣。○秋濤…秋の大波。秋に起こる錢塘江の海嘯。

 

 

★    宿湖城簿廳　　　　　　湖城の簿庁(ぼちょう)に宿す　　　　　　　　　 金　　呉　激

 

日遲風暖燕飛飛　　　　日 遅く 風 暖(あたたか)にして 燕 飛々　

古柳高槐面翠微　　　　古柳 高槐 翠微(すいび)に面す　

卷上疏簾無一事　　　　疏(そ)簾(れん)を巻き上げて 一事無し　

滿池春水照薔薇　　　　満池の春水 薔薇(しょうび)を照らす

 

【語釈】

○湖城…湖に面した街。○簿廳…主簿の官舎。○飛飛…飛ぶさま。○高槐…高いエンジュの樹。○翠微…薄緑色の靄。山の緑深いひっそりした中腹のあたり。○疏簾…疏らな簾。○春水…春の川を豊かに流れる水。○薔薇…ばら。

 

 

★    不出　　　　　　　　　出でず　　　　　　　　　　　　　　  金　　劉仲尹

 

好詩讀罷倚團蒲　　　　好詩 読み罷(や)みて 団(だん)蒲(ぽ)に倚(よ)る　

喞喞銅缾沸地爐　　　　喞々(しょくしょく)として 銅缾(どうへい) 地(ち)炉(ろ)に沸く　

天氣稍寒吾不出　　　　天気 稍(や)や寒く 吾 出です

氍毺分坐與狸奴　　　　氍毺(くゆ)分坐して 狸(り)奴(こ)に与う

 

【語釈】

○團蒲…蒲の穂で作った円形の座布団。○喞喞…嘆息する声、虫の声の形容。○銅缾…銅で作ったつるべ。○地爐…地下に設けた暖炉。○氍毺…毛織りの敷物。○分坐…座を分ける。○狸奴…狸。

 

 

★    一室　　　　　　　　　 一室　　　　　　　　　　　　　　  金　　劉仲尹

 

老來湖海媿陳登　　　　老来(ろうらい) 湖(こ)海(かい) 陳(ちん)登(とう)に媿(は)ず　

只有頭鬚未是僧　　　　只(た)だ頭(とう)鬚(はつ)の 未だ是れ僧ならざる有り　

坐對黄昏鐘鼓定　　　　坐して黄昏(こうこん)に対せば 鐘(しょう)鼓(こ)定まる　

竹根吹火上吟燈　　　　竹(ちく)根(こん) 火を吹き 吟灯に上(のぼ)る

 

【語釈】

○老來…年をとってから。○湖海…世の中。いなか。○陳登…魏の人で呂布の討伐に功績があった。○黄昏…たそがれ。○竹根…竹製の酒器。○吟灯…詩人の照明。

 

 

★    野堂　　　　　　　　　 野堂　　　　　　　　　　　　　　   金　　王庭筠

 

雲自知歸鳥自還　　　　雲自(おのずか)ら帰るを知り鳥自(おのずか)ら還(かえ)る　

一堂足了一生閑　　　　一堂 了するに足り 一生閑(かん)なり　

門前剝啄定佳客　　　　門前 剝啄(はくたく)するは 定めて佳客(かかく)　

簷外孱顏皆好山　　　　簷外(れんがい) 孱顏(せんがん) 皆 好山

 

【語釈】

○了…（一生）を全うする。○剝啄…（門を）敲く。○簷外…軒のそと。○孱顏…高くそびえる。

 

 

★    所見　　　　　　　　　所見　　　　　　　　　　　　　　　  金　　劉　鐸

 

綸竿老子緑蓑衣　　　　綸(りん)竿(かん)の老子 緑(りょく)蓑(さ)の衣　

細雨斜風一釣磯　　　　細雨 斜風 一(いっ)釣(ちょう)磯(き)　

正是鄰家社醅熟　　　　正(まさ)に是れ 隣家 社(しゃ)醅(ばい)熟し　

栁條穿得錦鱗歸　　　　柳(りゅう)条(じょう)に 錦(きん)鱗(りん)を 穿(うが)ち得て帰る

 

【語釈】

○綸竿…釣り竿（を持った）。○緑蓑…緑色の蓑。○釣磯…魚を釣るときに坐る石。○社醅…祭りのための酒。○栁條…柳の枝。○錦鱗…魚の美称。

 

 

★    雨晴二首　　　　　　　雨晴る 二首　　　　　　　　　　　　  金　　趙秉文

 

東風時送瓦溝聲　　　　東風 時に送る 瓦(が)溝(こう)の声

欹枕幽窗夢自驚　　　　枕を欹(そばだ)てて 幽(ゆう)窓(そう) 夢自(おのずか)ら驚く

睡起不知雲已散　　　　睡起(すいき)して知らず　雲の已に散ずるを

夕陽偏掛挂柳梢明　　　夕陽(せきよう) 偏(ひとえ)に柳(りゅう)梢(しょう)を挂(か)けて 明(あきらか)なり

 

【語釈】

○東風…春風。○瓦溝…瓦屋根の排水溝。○欹枕…枕を傾ける。枕に欹(よ)るという読み方もある。○幽窗…閑かなまど。○夢驚…夢が覚める。目が覚める。○睡起…眠りから起きる。○偏…特に。ただ。○挂…ひっかける。○柳梢…柳の梢。

 

 

★    雨晴二首　　　　　　　雨晴る二首　　　　　　　　　　　　  金　　趙秉文

 

一抹平林媚夕暉　　　　一抹の平林(へいりん) 夕暉(せきき)に媚(こ)ぶ　

山烟漠漠燕飛飛　　　　山煙 漠々(ばくばく) 燕 飛々(ひひ)　

倚欄遙認天邊電　　　　欄(らん)に倚(よ)りて 遥かに認む 天辺(てんぺん)の電(でん)　

何處行人帶雨歸　　　　何れの処の行人(こうじん)か 雨を帯びて帰る

 

【語釈】

○夕暉…ゆうやけ。○山烟…山にかかっている靄。○漠漠…一面に続いているさま。ひろびろとして果てしないさま。○飛飛…とんでいるさま。○欄…欄干。○天邊…空の果て。○電…いなずま。○行人…旅人。

 

 

★    雜詩　　　　　　　　　　雜詩　　　　　　　　　　　　　   金　　王　磵

 

瓦爐柏子細煙消　　　　瓦(が)炉(ろ) 柏子(はくし) 細煙(さいえん)消ゆ

閒讀禪經破寂寥　　　　閑かに禅(ぜん)経(きょう)を読めば 寂寥(せきりょう)を破る　

風細月髙人巳静　　　　風細く 月高く 人巳に静なり　

隔窗疎竹夜蕭蕭　　　　窓を隔つ 疎(そ)竹(ちく) 夜蕭々(しょうしょう)

 

【語釈】

○雜詩…心の趣くままに作った自由でとらわれない詩。○瓦爐…瓦で作った炉。○柏子…柏子香、香木の一つ。○寂寥…ひっそりしてもの寂しいさま。○蕭蕭…物寂しい様子や物音などの形容。

 

 

★    山寒　　　　　　　　　 山寒し　　　　　　　　　　　　　  金　　辛　愿

 

山寒春静早關門　　　　山寒く 春静かにして 早く門を關(と)ざす　

新月微光照短垣　　　　新月の微光 短垣(たんえん)を照らす　

可恨暮雲欺落景　　　　恨むべし 暮雲の落景に欺(まさ)くを　

却將殘靄助黄昏　　　　却って残(ざん)靄(か)を将(も)って 黄昏(こうこん)を助く

 

【語釈】

○落景…夕陽。○欺…圧倒する。○殘靄…夕焼け。○黄昏…たそがれ。

 

 

★    睡起　　　　　　　　　 睡起　　　　　　　　　　　　　　  金　　髙士談

 

平生心性樂疎慵　　　　平生の心性 疎慵(そゆう)を楽しむ　

多病追歡興亦空　　　　多病 歓(かん)を追いて 興(きょう) 亦(ま)た空(むな)し　

睡起不知春巳老　　　　睡起して知らず 春の巳に老ゆるを　

一簾紅雨杏花風　　　　一簾の紅雨 杏花の風

 

【語釈】

○睡起…眠り醒めて起き上がる。○平生…平素、通常。○心性…性格。○疎慵…無精なこと。○春老…晩春になる。○一簾…雨の降るさま。○紅雨…赤い落花の雨。

 

 

★    雜詩　　　　　　　　　雜詩　　　　　　　　　　　　　　　  金　　劉　豫

 

竹塢人家傍小溪　　　　竹塢(ちくお)の人家 小渓に傍(そ)う　

數枝紅杏出疏籬　　　　数枝の紅(こう)杏(きょう) 疏籬(そり)に出ず　

門前山色带煙重　　　　門前の山色 煙を带びて重く

幽鳥一聲春日遲　　　　幽(ゆう)鳥(ちょう) 一声 春日遅し

 

【語釈】

○雜詩…心の趣くままに作った自由でとらわれない詩。○竹塢…竹が盛んに茂っている曲。○紅杏…赤い杏の花。○疏籬…まばらな垣根。○幽鳥…隠れ住む鳥。

 

 

★    雜詩　　　　　　　　　雜詩　　　　　　　　　　　　　　　  金　　劉　豫

 

風荷柄柄弄清香　　　　風(ふう)荷(か) 柄々(へいへい) 清香を弄(ろう)す　

輕薄沙禽落又翔　　　　軽薄なる 沙禽(さきん) 落ち又翔ぶ　

紅日轉西漁艇散　　　　紅日 西に転じて 漁艇散ず　

一川山影暮天涼　　　　一川の山影 暮天涼し

 

【語釈】

○雜詩…心の趣くままに作った自由でとらわれない詩。○風荷…風に揺れる蓮の葉。○柄柄…明るくかがやくさま。○輕薄…薄く軽い。○沙禽…砂浜にいる鳥。

 

 

★    西城道中　　　　　　　西城道中　　　　　　　　　　　　　  金　　周　昂

 

草露幽香不動塵　　　　草(そう)露(ろ)の幽香 塵を動かさず　

細蟬初向葉間聞　　　　細(さい)蝉(せん) 初めて 葉間(ようかん)に向(お)いて聞く　

溟濛小雨來無際　　　　溟濛(めいもう)たる小雨 来たりて際(かぎり)無し　

雲與靑山淡不分　　　　雲と青山と 淡くして分たず

 

【語釈】

○西城…廣東省陽江市陽春市。○幽香…ほのかな淡い香り。○細蟬…細い蝉の声。○溟濛…薄暗い。

 

 

★    即事　　　　　　　　　即事　　　　　　　　　　　　　　　  金　　周　昂

 

一牀安置似僧居　　　　一床 安置し 僧居に似たり　

白髪忘梳動月餘　　　　白髪 梳(くしけず)るを忘れ 動(やや)もすれば月余　

懶性漸成愁把筆　　　　懶(らん)性(せい) 漸(ようや)く成りて 筆を把(と)るを愁う　

小詩常擬倩人書　　　　小詩 常に 人を倩いて書せんと擬(ぎ)す

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○動…いつも。ともすれば。○月餘…一月余り。○懶性…怠惰な性格。○漸…だんだんと。○倩…代わりに仕事をするように頼む。○擬…定める。

 

 

★    山居 　　　　　　　　山居　　　　　　　　　　　　　　　  金　　元好問

 

詩腸搜苦怯茶甌　　　　詩(し)腸(ちょう) 捜(そう)苦(く) 茶甌(さおう)を怯(おび)ゆ　

信手拈書卻枕頭　　　　手に信(まか)せて 書を拈(ひね)って 却(かえ)って 頭に枕す　

簷溜滴殘山院靜　　　　簷溜(えんりゅう) 滴(しずく)残り 山院静なり　

碧花紅穗媚涼秋　　　　碧(へき)花(か) 紅(こう)穂(すい) 涼秋(りょうしゅう)に媚(こ)ぶ

 

【語釈】

○詩腸…詩を作ろうとする心。○搜苦…好い詩句を捜して苦吟する。○茶甌…茶をわかす小さな釜。○簷溜…軒からしたたり落ちる水。○山院…山にある寺院。○媚…美しい。

 

 

★    山中秋夜　　　　　　　山中の秋夜 　　　　　　　　　　　   元　　黃　庚

 

石床彈月鶴聽琴　　　　石(せき)床(しょう) 月に弾じて 鶴 琴を聴く　

玉宇凝秋絕點塵　　　　玉宇 秋を凝(こ)らして 点(てん)塵(じん)を絶つ　

萬里無雲銀漢淡　　　　万里 雲無く 銀漢淡し　

一天風露溼星辰　　　　一天の風露 星辰(せいしん)を溼(うるお)す

【語釈】

○石床…坐ったり寝たりするときに使う石製の用具。○彈月…月明かりの下で琴を弾く。○玉宇…佳麗な宮殿。大空。○凝…完全なものにする。形作る。○點塵…小さな埃。○銀漢…天の川。○風露…雨と霧。○星辰…星。

 

 

★    楓塘别業　　　　　　　楓塘別業(ふうとうべつぎょう)　　　　　　　　　　　　  元　　尹廷高

 

白雲缺處露簷牙　　　　白雲 欠く処 簷(えん)牙(が)を露(あらわ)す　

雞犬相聞僅數家　　　　雞(けい)犬(けん) 相聞こゆ 僅(わず)かに数家　

幽鳥不啼林寂寂　　　　幽鳥 啼かず 林寂々(せきせき)　

滿山黄霧落松花　　　　満山の黄霧(こうむ) 松(しょう)花(か)に落つ

 

【語釈】

○楓塘…楓が植えてある堤。○别業…別荘。○簷牙…軒のきばのように突き出た部分。○幽鳥…隠れている鳥。○寂寂…寂しく静かなさま。○黄霧…黄色い霧。

 

 

★    喜晴　　　　　　　　　晴るるを喜ぶ　　　　　　　　　　　 元　　趙孟頫

 

久雨厭厭愁殺人　　　　久(きゅう)雨(う) 厭(えん)々(えん) 人を愁(しゅう)殺(さつ)す　

晚晴猶得見青春　　　　晩晴 猶(な)お 青春を見るを得たり　

急須走馬西湖路　　　　急ぎ 須(すべか)らく 馬を西湖の路に走らすべし　

楊柳淡黄如麹塵　　　　楊(よう)柳(りゅう) 淡(たん)黄(こう)にして 麹(きく)塵(じん)の如し

 

【語釈】

○久雨…長雨。○厭厭…安らかで静かなさま。○愁殺…ひどく愁わせる、殺は程度の激しいことを示す助字。○晚晴…夕方に晴れること。晩年になって俗世間から優越することの比喩。○須…「すべからく～すべし」と読み、「～するのが当然である」の意。○西湖…浙江省杭州市の西にある風光明媚な湖。○楊柳…やなぎとねこやなぎ。○麹塵…青に黄色を加えたような色。

 

★    即事                   即事　　　　　　　　　　　　　　   元　　趙孟頫

 

庭槐風静緑隂多　　　　庭槐(ていかい) 風 静かにして 緑(りょく)隂(いん)多し　

睡起茶餘日影過　　　　睡起(すいき)し 茶余(ちゃよ) 日影(にちえい)過ぐ　

自笑老来無復夢　　　　自(みずか)ら笑う 老来 復夢無きを　

閒看行蟻上南柯　　　　閑(しずか)に看る 行(ぎょう)蟻(ぎ)の南柯(なんあ)に上(のぼ)るを

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○庭槐…庭に植えてあるエンジュ。○睡起…眠りから覚める。○茶餘…茶を飲んだ後。○老来…年取ってから。○復夢…再び夢を見る。○行蟻…蟻の行列。○柯…反りあがっている屋根のひさし。

 

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　   元　　趙孟頫

 

春寒惻惻掩重門　　　　春寒 惻々(そくそく) 重門を掩(おお)う　

金鴨香殘火尚温　　　　金(きん)鴨(こう) 香(こう)残(ざん)して 火 尚お温(あたた)かし　

燕子不来花又落　　　　燕子(えんし) 来らず 花 又た落つ　

一庭風雨自黄昬　　　　一庭の風雨 自(おのずか)ら黄昬(こうこん)

 

【語釈】

○春寒…春の初めの寒さ。○惻惻…ねんごろなさま。○重門…重なった門。○金鴨…金属で作った鴨型の香炉。○殘…燃え尽きる。○燕子…つばめ。○黄昬…たそがれ。

 

 

★    靜芳亭　　　　　　　　 靜芳亭　　　　　　　　　　　　　  元　　袁　桷

 

簾外群山當畫屏　　　　簾外(れんがい)の群山 画屏(がへい)に当たる　

白雲如水度中庭　　　　白雲 水の如く 中庭を度(わた)る　

松花落徑無人掃　　　　松花 径に落ち 人の掃(はら)う無く　

失卻莓苔一半青　　　　失却(しつきゃく)す 莓(ばい)苔(たい) 一半の青(せい)

 

【語釈】

○靜芳亭…不祥。○簾外…簾の外。○畫屏…画で装飾した屏風。○失卻…失う、却は完了を示す助字。○莓苔…青苔。○一半…１／２。約半分。

 

 

★    秋夜                  秋夜   　　　　　　　　　　　　　  元　　貢　奎

 

空牀坐對一燈青　　　　空(くう)床(しょう)に坐して対す 一灯 青し　

手擊蒲團醉欲醒　　　　手 蒲団を撃ちて 酔を醒(さま)さんと欲す　

夜半竹風如雨過　　　　夜半 竹風 雨の如く過(す)ぐ　

起看明月步中庭　　　　起きて明月を看て 中庭(ちゅうてい)を歩す

 

【語釈】

○空牀…独り寝の寝台。○竹風…竹林を通り過ぎた風。

 

　

 

★    醉起                  酔起　　　　　　　　　　　　　　　  元　　薩都剌

 

楊柳樓心月滿床　　　　楊(よう)柳(りゅう)楼(ろう)心(しん) 月 床に満つ　

錦屏繡褥夜生香　　　　錦屏(きんぺい) 繡(しゅう)褥(しん) 夜 香(かおり)を生ず

不知門外春多少　　　　知らず 門外 春 多少なるを　

自起移燈照海棠　　　　自(みずか)ら起き 灯を移し 海棠(かいどう)を照らす

 

【語釈】

○楊柳樓…妓楼。○錦屏…錦で刺繍をした屏風。○繡褥…刺繍をしたしとね。

 

 

★    山中　　　　　　　　　山中　　　　　　　　　　　　　　　  元　　薩都剌

 

夕陽欲下行人少　　　　夕陽(せきよう) 下らんと欲して 行人(こうじん)少(まれ)なり　

落葉蕭蕭路不分　　　　落葉 蕭々(しょうしょう)として　路 分かたず　

脩竹萬竿秋影亂　　　　脩(しゅう)竹(ちく) 万(ばん)竿(かん) 秋影乱れ　

山風吹作滿窓雲　　　　山風 吹き作(な)す 満窓(まんそう)の雲

 

【語釈】

○行人…旅人。道行く人。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○脩竹…長い竹。○萬竿…多くの竹。○萬竿…秋の日光。秋の趣のある景色。

 

 

★    露坐                   露坐                              元　　張　翥

 

官街人靜鼓鼕鼕　　　　官街 人静かにして 鼓 鼕々(とうとう)　

獨坐中庭滿扇風　　　　独坐す中庭 満扇(まんせん)の風　

墮地一絲和露溼　　　　地に堕(お)つる一糸 露を和(やわら)げて溼(うるお)い　

青蟲懸在月明中　　　　青虫 懸(か)かりて 月明の中に在り

 

【語釈】

○露坐…屋外に坐る。○官街…官舎。○鼕鼕…太鼓の音の形容。○懸…ぶら下がる。

 

 

★    偶成　　　　　　　　　偶成　　　　　　　　　　　　　　   元　　倪　瓚

 

坐看青苔欲上衣　　　　坐して 青(せい)苔(たい)の 衣に上らんと欲するを看る　　　　

一池春水靄餘暉　　　　一池の春水 余暉(よき)に靄(かす)む　　　　

荒村盡日無車馬　　　　荒村 尽日 車馬無し　　　　　

時有殘雲伴鶴歸　　　　時に 残雲の 鶴を伴いて帰る有り

 

【語釈】　　　　

○偶成…たまたま作った詩。○餘暉…夕焼け。○盡日…一日中。○殘雲…残った雲。

　　　　

 

★    用前韻序山家幽寂之趣  前韻(ぜんいん)を用い山家(さんか)幽寂(ゆうせき)の趣(おもむき)に序す　　 元　　葉　顒

 

夕陽香徑逐東風　　　　夕陽(せきよう) 香径(こうけい) 東風を逐う　

瘦策輕扶數落紅　　　　痩(そう)策(さく) 軽扶(けいふ) 落(らく)紅(こう)を数う　

信步偶隨流水去　　　　歩に信(まか)せ 偶ゝ(たまたま)流水に随って去り　

不知身到白雲中　　　　知らず 身は白雲の中に到るを

 

【語釈】

○香徑…花の咲く道。落花で埋もれた道。○東風…春風。○瘦策…細い杖。○輕扶…軽い杖。○落紅…散り落ちる赤い花。

 

 

★    閑居　　　　　　　　　閑居(かんきょ)　　　　　　　　　　　　　　　  元　　仇　遠

 

鳥雀喧秋未肯棲　　　　鳥(ちょう)雀(じゃく) 秋に喧(かまびす)しく 未だ肯えて棲(す)まず　

狂風吹樹影離披　　　　狂風 樹を吹き 影 離れて披(ひら)く　

屋邊尚有斜陽在　　　　屋(おく)辺(へん) 尚お 斜陽(しゃよう)の在る有り　

更看山人一局棋　　　　更に看る 山人 一局の棋(き)

 

【語釈】

○閑居…心閑にくらすこと。○鳥雀…雀などの小鳥。○山人…世を離れて山中に住んでいる人。○棋…囲碁。

 

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　   元　　吴景奎

 

蘆花方褥竹方床　　　　蘆花(ろか) 方(ほう)褥(じょく) 竹方(ちくほう)床(しょう)　

葛帳含風薤簟涼　　　　葛帳(かつちょう) 風を含み 薤(かい)簟(たん)涼し　

夜半起來山月白　　　　夜半 起き来たれば 山月白く　

滿天清露灑衣裳　　　　満天の清露 衣裳に灑(そそ)ぐ

 

【語釈】

○方褥…四角なしとね。○竹方床…竹で出来た寝台。○葛帳…葛布のとばり。○薤簟…にらで作ったむしろ。

 

 

 

★    即事　　　　　　　　　即事　　　　　　　　　　　　　　　  元　　滕　斌

 

美人閑倚曲闌干　　　　美人 閑(しずか)かに倚(よ)る 曲闌(きょくらん)干(かん)　

酒醒香銷午夢殘　　　　酒醒め 香(こう)銷(しょう)して 午夢残る　

燕子不來春社去　　　　燕子(えんし) 来らず 春社去る　

一簾疏雨杏花寒　　　　一(いち)簾(れん)の疏雨 杏花寒し

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○倚…もたれる。○曲闌干…曲がった欄干。○銷…消え尽きる。○春社…豊作を祈る春の祭。○一簾…一つのすだれ。○疏雨…まばらな雨。

　

 

★    小園即事　　　　　　　小園即事　　　　　　　　　　　　　  元　　陳　深

 

淡黄楊柳著烟輕　　　　淡(たん)黄(こう)の楊柳 煙に著(つ)いて軽(かろ)し　

細草茸茸襯屐行　　　　細草 茸(じょう)々(じょう) 屐(けき)に襯(しん)して行く　

行到水邊心會處　　　　行きて 水辺に到り 心の会する処　

夕陽一樹杏花明　　　　夕陽 一樹 杏花明(あきらか)なり

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○淡黄楊柳…淡黄色の芽がでたしだれ柳。○烟…靄、霞。○茸茸…草の盛んに茂ったさま。○襯…ぴったりくっつく。○屐…履き物。

 

 

★    春日閒居雜興　　　　　春日閑居雜興　　　　　　　　　　　  元　　馬　臻

 

花底飛觴酒浪翻　　　　花底 觴(しょう)を飛ばして 酒浪(しゅろう) 翻(ひるがえ)る　

纔迎春至又春殘　　　　纔(わずか)かに 春(しゅん)至(し)を迎かえ 又た春(しゅん)残(ざん)　

日斜客散鑪煙盡　　　　日 斜にして 客(かく)散じ 鈩(ろ)煙(えん)尽く　

自洗窑瓶插牡丹　　　　自ら窑(よう)瓶(びん)を洗い 牡丹を挿(さ)す

 

【語釈】

○閒居…心閑にくらすこと。○花底…花の下。○飛觴…盃をあげる。○酒浪…酒の波。○春至…春分。○春殘…春まさに終わろうとしている時期。○鑪煙…香炉の煙。○窑瓶…釜と瓶。

　

 

★    水軒夏日　　　　　　　 水(すい)軒(けん)の夏日　　　　　　　　　　　  元　　馬　臻

 

碧窗晝寂幽意長　　　　碧(へき)窓(そう) 昼 寂(せき)として 幽(ゆう)意(い)長し　

竹陰滿地琴尊涼　　　　竹陰(ちくいん) 満地 琴(きん)尊(そん)涼し　

輕雷送雨遠不到　　　　軽雷 雨を送りて 遠くして到らず　

雪白水花生晚香　　　　雪白(せつはく)の水花 晩(ばん)香(こう)を生ず

 

【語釈】

○水軒…水辺の家屋。○寂…静かでひっそりしたさま。○幽意…物静かな思。○満地…地面一杯。○琴尊…琴と酒樽、文士が悠閑の生活を送る道具。○輕雷…大きくない雷の音。○雪白…雪のように白い。○晚香…寺院で夕方に焚く香のようなかおり。

 

 

★    即景　　　　　　　　　即景(そくけい)　   　　　　　　　　　　　　　　　  元　　鄧彧之

 

樹影禽声門半開　　　　樹影 禽声(きんせい) 門 半ば開き　

墻東一逕没蒿萊　　　　墻(しょう)東(とう)の一径 蒿莱(こうらい)を没す　　　　

池塘通得官溝水　　　　池塘(ちとう)は 官(かん)溝(こう)の水を通し得て

時送青萍幾點來　　　　時に 青萍(せいひょう)の幾点(いくてん)を送り来(きた)る

 

【語釈】

○即景…目の前の景色をそのまま詠った詩。○墻東…垣の東。○蒿萊…よもぎとあかざ。○池塘…池。○官溝…公的な溝。○青萍…浮き草。

 

 

★    靜軒                  静軒　　　　　　　　　　　　　　　　元　　行　端

 

六戸虛凝湛不搖　　　　六戸(りくこ) 虚凝(きょぎょう) 湛えて揺れず　

從教塵世自喧囂　　　　従(さもあ)教(らばあ)れ 塵(じん)世(せ)  自(おのずか)ら喧囂(けんきょう)なるを　

階前盡日無人到　　　　階前 尽日(じんじつ) 人の到る無く　

只有閒雲伴寂寥　　　　只だ 閑雲(かんうん)の 寂寥(せきりょう)に伴う有るのみ

 

【語釈】

○虛凝…？○從教…さもあらばあれ、ままよ。○塵世…けがれた世の中。○喧囂…かまびすしく騒がしい。○盡日…一日中。○閒雲…閑かでのんびりとした雲。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。

 

 

★    絶句三首　　　　　　　絶句三首　　　　　　　　　　　　   元　　清　珙

 

茅屋低低三兩間　　　　茅屋(ぼうおく) 低々(ていてい) 三両間　

團團環繞盡青山　　　　団々(だんだん) 環繞(かんぎょう) 尽(ことごと)く青山

竹床不許閒雲宿　　　　竹(ちく)床(しょう) 許さず 閑雲(かんうん)の宿(しゅく)するを　

日未斜時便掩關　　　　日 未だ斜めならざる時 便(すなわ)ち関を掩(おお)う

 

【語釈】

○茅屋…萱葺きの粗末な家。○低低…低いさま。○三兩間…二三間（間隔の単位）。○團團…丸いさま。　○環繞…ぐるりと取り囲む。○竹床…竹製の寝台。○閒雲…しずかでのんびりした雲。○掩關…門を閉ざす。

 

★    絶句三首　　　　　　　絶句三首　　　　　　　　　　　　   元　　清　珙

 

深秋時節雨霏霏　　　　深秋の時節 雨 霏々(ひひ)　

蘚葉層層印虎蹄　　　　蘚(せん)葉(よう) 層々(そうそう) 虎(こ)蹄(てい)を印す　

一夜西風吹不住　　　　一夜 西風 吹いて住(や)まず　

曉來黃葉與階齊　　　　暁来(ぎょうらい) 黄葉(こうよう) 階と斉(ひと)し

 

【語釈】

○霏霏…雨や雪がしきりに降るさま。○蘚葉…苔の葉。○層層…層になって重なっているさま。○虎蹄…虎の足跡。○西風…秋風。○曉來…明け方から。

 

 

★    絶句三首　　　　　　　絶句三首　　　　　　　　　　　　   元　　清　珙

 

山舍無聊夜卧遲　　　　山舎(さんしゃ) 無聊(ぶりょう) 夜(や)卧(が)遅し　

因君記得去年時　　　　君に因(よ)りて 記し得たり 去年の時　

豆花棚下曾分榻　　　　豆(とう)花(か)棚下(ほうか) 曽(かつ)て榻(とう)を分かち　

月落松梢尚詠詩　　　　月は松(しょう)梢(しょう)に落ちて 尚お詩を詠ぜしを

 

【語釈】

○山舎…山の家。○無聊…心配事があって楽しまないこと。○夜卧…夜寝ること。○記得…覚えている。○榻…寝台。○松梢…松の梢。

　

　

 

★    睡起　　　　　　　　　睡起　　　　　　　　　　　　　　　  元　　僧本誠

 

花下拋書枕石眠　　　　花下 書を拋(なげう)ちて 石を枕に眠る

起來閒漱竹間泉　　　　起き来たりて 閑かに漱(くちすす)ぐ 竹間の泉　

紙窗石鼎灰猶煖　　　　紙(し)窓(そう) 石(せき)鼎(てい) 灰 猶お煖(あたたか)く　

殘燼時飄一縷煙　　　　残燼(ざんじん) 時に飄(ただよ)わす 一縷(いちる)の煙

 

【語釈】

○紙窗…紙を貼った窓。○石鼎…石製のかなえ。○殘燼…燃え残り。○一縷…一筋の糸。

 

 

★    湖村菴即事　　　　　　 湖村の菴 即事　　　　　　　　　　　  元　　惟　則

 

竹根吠犬隔溪西　　　　竹根(ちくこん) 吠(はい)犬(けん) 渓(けい)西(せい)を隔て　

湖雁聲高木葉飛　　　　湖雁 声高くして 木葉(もくよう)飛ぶ　

近聽始知雙櫓響　　　　近く聴き 始めて知る 双櫓(そうろ)の響　

一燈浮水夜船歸　　　　一灯 水に浮んで 夜船帰る

 

【語釈】

○湖村…湖に面した村。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○吠犬…犬のほえる声。○湖雁…湖に住む雁。○雙櫓…二つの大きなカイ。

 

★    晩晴     　　　　　　 晩晴     　　　　　　　　　　　　  明　　韓　奕

 

水國秋来少見晴　　　　水国 秋来りて 晴を見ること少(まれ)なり

夕陽忽映小窗明　　　　夕陽(せきよう) 忽(こつ)として 小窓に映じて明なり　

西風颯颯林間葉　　　　西風 颯々(さつさつ) 林間の葉　

乍聽猶疑是雨聲　　　　乍(たちま)ち聴き 猶お疑う 是れ雨声なるかと

 

【語釈】

○水國…水の豊富な地方。○忽…ぼんやりとして捉え難いほど遙かなさま。○西風…秋風。○颯颯…風がサッと吹くさま。

 

 

★    漫興                  漫興　　　　　　　　　　　　　　  明　　史　遷

 

瀼東煙樹杜陵家　　　　瀼(じょう)東(とう)の煙樹 杜(と)陵(りょう)の家　

百尺深潭似浣花　　　　百尺の深潭(しんたん) 浣(かん)花(か)に似たり　

布袖龍鐘笻竹杖　　　　布(ふ)袖(しゅう) 竜(りょう)鐘(しょう)として 笻(きょう)竹(ちく)の杖　

也勝裘馬在天涯　　　　也(ま)た勝る 裘(きゅう)馬(ば)の天涯に在るに

 

【語釈】

○漫興…一時の感興に乗じて作った詩。○瀼東…瀼水(四川省奉節県にある川)の東。○杜陵…地名、陕西省西安市東南、杜甫が住んでいたところ。○深潭…深い淵。○浣花…浣花溪，成都で杜甫草堂があったところ。○布袖…布衣の袖。○龍鐘…老いてやつれ悩むさま。○笻竹…杖に適する竹の名。○裘馬…軽裘肥馬、生活が豪奢であることの形容。

 

★    偶睡　　　　　　　　　偶睡(ぐうすい)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

竹間門掩似僧居　　　　竹間 門を掩(おお)いて 僧居に似たり　

白豆花疎片雨餘　　　　白豆 花 疎(まばら)なり 片雨の余(よ)　

一榻茶煙成偶睡　　　　一榻(いっとう)の茶煙 偶睡(ぐうすい)成り　

覺來猶把讀殘書　　　　覚え来たりて 猶お把(と)る 読残(どくざん)の書

 

【語釈】

○偶睡…いねむり。○片雨餘…一方だけに降る雨の雨上がり。○榻…こしかけ。○覺來…目が覚める。來は助字。○把…手に取る。

(参考文献)　　『中国詩人撰集二―１０』

 

 

★    春日懷江上　　　　　　春日 江上を懷(おも)う                    明　　髙　啓

 

一川流水半村花　　　　一川の流水 半村の花　

舊屋南鄰是釣家　　　　旧屋の南隣(なんりん)は 是れ釣家(ちょうか)　

長記歸篷載春醉　　　　長(ちょう)記(き)す帰篷(きほう) 春酔(しゅんすい)を載せ　

雲籠殘照雨鳴沙　　　　雲は残照を籠め 雨は沙(すな)に鳴るを

 

【語釈】

○釣家…釣り人の家。○長記…長い間記憶している。○歸篷…帰り舟。○残照…夕焼け。

 

★    故山春日　　　　　　　故山春日　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　基

 

梨花兩枝春可憐　　　　梨花 両枝 春 憐われむべし　

下馬折花山徑邊　　　　馬を下(お)り 花を折る 山径(さんけい)の辺(ほとり)　　　　　

山中人家改新火　　　　山中の人家 新火を改ため　

隔樹吹來楡柳煙　　　　樹を隔てて 吹き来たる 楡(ゆ)柳(りゅう)の煙

 

【語釈】

○可憐…感嘆のことば。ああ。○故山…ふるさとの山。○新火…寒食の後で、改めて着けた火。○楡柳…にれと柳。

 

 

★    春暮西園雑興　　　　　春暮西園雑興　　　　　　　　　　  明　　楊　基

 

疎疎簾影漾微波　　　　疎疎たる 簾(れん)影(かげ) 微波に漾(ただよ)う　

庭戸無人鳥自過　　　　庭戸 人無く 鳥 自(おのずか)ら過ぐ　

一樹楊花三日雨　　　　一樹の楊(よう)花(か) 三日の雨　

池塘春水綠萍多　　　　池塘の春水 緑(りょく)萍(ひょう)多し

 

【語釈】

○雑興…さまざまな趣き。○疎疎…まばらな。○簾影…すだれのかげ。○楊花…柳絮。○綠萍…緑の浮き草。

 

 

★    題靜樂軒二首          静楽軒に題す二首　　　　　　　　   明　　王　紱

 

前溪氷泮緑生波　　　　前渓(ぜんけい) 氷 泮(と)けて 緑波(りょくは)を生ず　

好雨催花向曉過　　　　好雨 花を催(うなが)して 暁に向って過ぐ　

宿酒未醒眠未起　　　　宿(しゅく)酒(しゅ) 未だ醒(さ)めず 眠(ねむり) 未だ起きず　

半窓紅日鳥聲多　　　　半窓の紅日 鳥声多し

 

【語釈】

○靜樂軒…山西省忻州市静楽県にあるようだが不祥。○宿酒…前の日に飲んだ酒。○紅日…赤く耀く朝日。

 

 

★    題靜樂軒二首          静楽軒に題す二首　　　　　　　　   明　　王　紱  

 

秋聲早已到梧桐　　　　秋声 早(は)や已に 梧桐(ごとう)に到る　

露氣生凉湛碧空　　　　露気 涼を生じ 碧空に湛えたり　

獨倚闌干待明月　　　　独り 闌干に倚り 明月を待てば　

紫簫吹散木樨風　　　　紫簫(ししょう) 吹き散ず 木樨(もくせい)の風　　　　

 

【語釈】

○秋聲…秋の気配を感じさせる風や葉の音。○梧桐…あおぎり。○露気…露の気。○紫簫…紫色の簫。

 

 

★    曉立                   曉(あかつき)に立つ　　　　　　　　　　　　　  明　　呉與弼

 

靈臺清曉玉無瑕　　　　霊(れい)台(だい)　清(せい)暁(せいぎょう) 玉に瑕(きず)無し　

獨立東風玩物華　　　　独り東風に立ちて物華を玩(もてあそ)ぶ　

春氣夜來深幾許　　　　春気 夜来 深きこと幾許(いくばく)ぞ　

小桃又發兩三花　　　　小桃 又た発(ひら)く 両三花

 

【語釈】

○靈臺…帝王が天文を見るために使った楼台。○清曉…清らかな暁。○東風…春風。○物華…景色。風景。玩…もてあそぶ。めでて楽しむ。○幾許…どのくらいか。○両三花…に三の花。

 

 

★    午睡起　　　　　　　　午睡より起く　　　　　　　　　　　　　  明　　陳獻章

 

道人本自畏炎炎　　　　道人 本自(もとよ)り 炎々(えんえん)を畏(おそ)る　

一榻清風捲晝簾　　　　一榻(いっとう)の清風 昼 簾(れん)を捲く　

無奈華胥留不得　　　　無奈(いかんともするなし)華胥(かしょ)を留め得ざるを　

起凭香几讀楞嚴　　　　起きて 香几(こうき)に凭(よ)り 楞(ろう)厳(げん)を読む

 

【語釈】

○道人…道を求める人。○本自…もとから。本来。○炎炎…灼熱のさま。○榻…寝台。こしかけ。○無奈…どうしようもない。○華胥…安樂平安な境地。○香几…香りのある机。○楞嚴…楞嚴経、仏教の経典の一つ。

 

★    幽居　　　　　　　　　幽(ゆう)居(きょ)　　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　萬　節

 

數里莓苔一逕斜　　　　数里の莓(ばい)苔(たい) 一径斜めなり　

洞門深處有人家　　　　洞門 深き処　人家有り　

東風昨夜知多少　　　　東風　昨夜 知んぬ多少ぞ　

吹落庭前滿樹花　　　　吹き落す庭前 満樹の花

 

【語釈】

○幽居…人目を避けて静かに暮らす家。○莓苔…青苔。○洞門…洞穴の入り口。○洞門…洞穴の入り口。○東風…春風。○知多少…多少が分からない。

 

 

★      春園即事　　　　　　　春園即事　　　　　　　　　　　　　　   明　　佘　翔

 

睡起西窻日欲斜　　　　睡起(すいき)すれば 西窓 日斜めならんと欲す　

溪邉汲水自烹茶　　　　渓辺に水を汲んで 自(みずか)ら茶を烹(に)る　

捲簾坐看雙飛燕　　　　簾を捲き　坐して看る　双飛の燕　

衝落櫻桃幾片花　　　　衝(つ)き落とす　桜桃 幾片の花

 

【語釈】

○睡起…眠りから覚める。○溪邉…谷のほとり。○双飛…つがいで飛ぶ。　

 

 

★    山中懶睡　　　　　　　山中懶睡(さんちゅうらんすい)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王守仁

 

掃石焚香任意眠　　　　石を掃(はら)い 香を焚いて 意に任せて眠る　

醒來時有客談玄　　　　醒め来れば 時に 客の談玄(だんげん)する有り　

松風不用蒲葵扇　　　　松風 用いず 蒲(ほ)葵(き)の扇　

坐對靑崖百丈泉　　　　坐して対す 青(せい)崖(がい) 百丈の泉

 

【語釈】

○懶睡…懶けて眠ること。○談玄…道を談ずる。○蒲葵扇…蒲と葵で作った扇。

 

 

★    春日書院　　　　　　　 春日(しゅんじつ)書院(しょいん)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　魯　鐸

 

門巷青苔隔路溪　　　　門(もん)巷(こう) 青(せい)苔(たい) 路を隔つる溪　

小桃開滿磬池西　　　　小桃 開きて 満磬(まんけい) 池の西　

枕書眠著無人喚　　　　書を枕に 眠りに著き 人の喚ぶ無し　

花裏東風百舌啼　　　　花(か)裏(り) 東風 百舌(もず)啼く

 

【語釈】

○門巷…門庭の裏にある街。○磬…への字型をした楽器。○花裏…花の中。○東風…春風。

 

 

★　桃溪　　　　　　　　　　 桃溪(とうけい)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　魯　鐸

 

世路悠悠已倦遊　　　　　世路(せろ) 悠々(ゆうゆう) 已に倦遊(けんゆう)　

桃溪深處草堂幽　　　　　桃溪(とうけい) 深き処 草堂幽なり　

東風自解幽人意　　　　　東風 自(おのずか)ら幽人の意を解し

不遣飛花逐水流不　　　　飛花をして 水を逐(お)いて流れしめず

 

【語釈】

○桃溪…桃の花が咲いている渓。○世路…世の中。世渡りの道○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○倦遊…官職を求めることに飽きる。○草堂…草葺きの粗末な家。○幽…ものしずか。奥ゆかしい。○東風…春風。○幽人…世を避けて隠れ住む人。

 

 

★    醉着　　　　　　　　　 酔(すい)着(ちゃく)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　孫一元

 

瓦瓶倒盡醉難醒　　　　瓦(が)瓶(へい) 倒れ尽き 酔 醒め難し　

獨抱漁竿臥晩汀　　　　独り 漁(りょう)竿(かん)を抱きて 晩(ばん)汀(てい)に臥(が)す　

風露滿身呼不起　　　　風露 身に満ち 呼べども起きず　

一江流水夢中聽　　　　一江の流水 夢中に聴く

 

【語釈】

○醉着…酔っ払う、着は動作の進行や完了を現す助字。○漁竿…釣り竿。○晩汀…夕方のなぎさ。○風露…風と霧。

 

★    山窓晝睡　　　　　　　 山窓昼睡　　　　　　　　　　　　  明　　祝允明

 

身在雲房夢亦閒　　　　身は雲房(うんぼう)に在りて 夢 亦た閑(かん)　

松頭鶴影枕屏間　　　　松頭の鶴影 枕屏(ちんへい)の間　

一聲隔谷鳴華雉　　　　一声 谷を隔てて 華(か)雉(ち)鳴き　

信手推窓滿眼山　　　　手に信(まか)せて 窓を推(お)せば 満眼の山

 

【語釈】

○雲房…隠者や僧侶の家の部屋。○枕屏…枕の前の屏風。○華雉…雉の美称。

 

 

★    山居　　　　　　　　　 山居　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　傅汝舟

 

竹下焚香對玉屏　　　　竹下に香を焚き 玉屏(ぎょくへい)に対す　

春風池上酒初醒　　　　春風 池上 酒初めて醒む　

閑箋一捲長生訣　　　　閑(しずか)に箋(せん)す 一捲(いっかん)長生(ちょうせい)の訣(けつ)　

解與溪南白鶴聽　　　　渓(けい)南(なん)の白鶴(はくかく)に解(かい)与(よ)して 聴かしむ

 

【語釈】

○玉屏…玉で飾った屏風、屏風の美称。○箋…注釈を付ける。○一捲…一巻。○長生訣…長生きをする秘法を書いた道教の書。○溪南…渓の南側。○解與…解き明かして与える。

 

 

★    雨中漫興　　　　　　　雨中漫興　　　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

風裊芭蕉羽扇斜　　　　風 芭蕉に裊(しなやか)にして 羽(う)扇(せん)斜めなり　

雲峯苔壁對簷牙　　　　雲(うん)峰(ぽう) 苔壁(たいへき) 簷(えん)牙(が)に対す　

滿城連日黃梅雨　　　　満城 連日 黄梅の雨　

開遍金釵石斛花　　　　開くこと遍(あまね)ねし 金釵 石斛の花

 

【語釈】

○漫興…なんとなく催した感興。○裊…しなやか。○羽扇…鳥の羽で作った扇。○雲峯…雲まで届くような高い峯。○苔壁…苔の生えた壁。○簷牙…軒のとがったところ。○黃梅雨…さみだれ。○金釵…黄金で作った簪（石斛）の別名。○石斛…多年生植物。バルブ。

 

 

★    山館 　　　　　　　　　山館　　　　　　　　　　　　　　　  明　　薛　蕙

 

山館蕭條客到稀　　　　山館 蕭(しょう)条(じょう)として 客の到ること稀(まれ)なり　

幽人閒暇坐披衣　　　　幽人 間(かん)暇(か) 坐して衣を披(おお)う　

日長燕子丁寜語　　　　日 長くして 燕子(えんし) 丁寜に語る　

風静楊花自在飛　　　　風 静かにして 楊(よう)花(か) 自在に飛ぶ

 

【語釈】

○山館…山中の家。○蕭條…物静かなさま。○幽人…世間から離れて一人住む人。○閒暇…ひま。○披衣…衣を着る。○楊花…柳絮。

　

 

★    閒興 　　　　　　　　閑(かん)興(きょう)　　　　　　　　　　　　　　　　　   明　　文徵明

 

酒䦨客散小堂空　　　　酒 䦨(たけなわ)にして 客 散じ 小堂空し　

旋巻疎簾受晩風　　　　疎(そ)簾(れん)を旋(せん)巻(けん)して 晩風を受く　

坐久忽驚涼影動　　　　坐ること久くして 忽(たちま)ち驚く 涼(りょう)影(えい)の動くに

一痕新月在梧桐　　　　一痕の新月 梧桐(ごとう)に在り

 

【語釈】

○旋巻…捲き上げる。○疎簾…まばらなすだれ。○一痕…欠けた月（三日月）の形容。○新月…月令の若い月。○梧桐…あおぎり。

 

 

★    後園　　　　　　　　　 後園　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　羅洪先

 

南村雲雨北村晴　　　　南村は雲(うん)雨(う) 北村は晴　

晴鳩雨鳩更互鳴　　　　晴(せい)鳩(きゅう) 雨(う)鳩(きゅう) 更(こもご)も互いに鳴く　

東風吹雨衣不濕　　　　東風 雨を吹けども 衣(ころも)湿(しめ)らず　

我在桃花深處行　　　　我は 桃花深き処に在りて 行く

 

【語釈】

○雲雨…雲と雨。○晴鳩…晴れた時に鳴く鳩。○雨鳩…雨の日に鳴く鳩。○東風…春風。

 

 

★    客窗雜興　　　　　　　客窓雜(かくそうざっ)興(きょう)　　　　　　　　　　　　　   明　　鬍　安

 

酒渴呼童伋井華　　　　酒渇(しゅかつ) 童を呼びて 井(せい)華(か)を伋(く)ましむ　

眠來苔徑月初斜　　　　眠り来たれば 苔径(たいけい) 月 初めて斜なり　

小窗紅葉時飛下　　　　小窓の紅葉 時に飛び下る　

誤作春風送落花　　　　誤って 春風の 落花を送ると作(な)す

 

【語釈】

○客窗…旅館の窓。○雜興…様々なおもむき。○酒渴…酒に酔ってのどが渇いた状態。○井華…井戸の清らかな水。○苔徑…苔の生えた径。

 

★    省中 　　　　　　　　省中　　　　　　　　　　 　　　　　　 明　　高　岱

 

蕭蕭竹徑暝煙浮　　　　蕭々たる竹径 暝(めい)煙(えん)浮ぶ　

散帙鳴琴事事幽　　　　散帙 鳴琴 事事幽なり　

若比瀟湘漁父隱　　　　若(も)し 瀟湘(しょうしょう)の漁父の隠(いん)に比せば　

門前只少木蘭舟　　　　門前 只だ　木蘭の舟少(まれ)なり

 

【語釈】

○省中…宮中。○蕭蕭…物寂しいさま。○竹徑…竹林の中の道。○暝煙…暗い靄。○散帙…読書。○事事…ことごとに。○幽…もの静かで奥ゆかしいさま。○瀟湘…瀟水と湘水が合流して洞庭湖に濯ぐあたりの地方。

 

 

★    春日睡起　　　　　　　春日睡起(しゅんじつすいき)　　　　　　　　　　　　　   明　　盧　澐

 

深巷無人靜掩扉　　　　深(しん)巷(こう) 人無く 静かに扉を掩ざす　

桃花香暖午風微　　　　桃花 香 暖かにして 午風微(かす)かなり　　　　　　　

小窓睡起支頤坐　　　　小窓に睡起(すいき)して 頤(あご)を支(ささ)えて坐す　

閒看營巢燕子飛　　　　閑(しずか)に看る 巣を営(えい)して 燕子飛ぶを

 

【語釈】

○睡起…眠りから起きる。○深巷…奥まった道。○睡起…眠りから覚めて起き上がる。

 

 

★    山居雑興　　　　　　　山居雑興　　　　　　　　　　　　　　  明　　屠　隆

 

傍山結屋借烟霞　　　　山に傍(そ)いて 屋(おく)を結びて 煙霞(えんか)を借る　

松裏藤蘿映月華　　　　松裏の藤蘿(とうら) 月に映じて華なり　

暁起不知風露冷　　　　暁に起きて 知らず 風露の冷なるを　

提壺汲水自澆花　　　　壺を提(さ)げて 水を汲み 自(みずか)ら花に澆(そそ)ぐ

 

【語釈】

○雑興…さまざまなおもむき。○烟霞…靄と霞。○藤蘿…ふじつる。○風露…風と霧。

 

　

 

★    山居雑興　　　　　　　山居雑興　　　　　　　　　　　　　　  明　　屠　隆 

 

琳宮翠獻宿氤氳　　　　琳宮(りんきゅう) 翠献(すいけん) 氤氳(いんうん)に宿す

鶴涙天風只自聞　　　　鶴(かく)涙(るい) 天風 只だ自(おのずから)ら聞く　

昨夜石樓窓不鎖　　　　昨夜 石楼 窓 鎖さず　

暁來飛入滿床雲　　　　暁来(ぎょうらい) 飛び入る 満床(まんしょう)の雲

 

【語釈】

○雑興…さまざまなおもむき。○琳宮…道教の寺。○翠獻…翡翠で飾った酒樽。○氤氳…気の和らぐさま。○石樓…石造りの楼閣。○暁來…暁から。

 

★    山中即事　　　　　　　山中即事　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳益祥

 

釣罷歸來萬事懶　　　　釣を罷め 帰り来たりて 万事懶(ものう)し　

松梢一半夕陽舂　　　　松(しょう)梢(しょう) 一半 夕陽(せきよう)の舂　

竹窓読罷楞嚴偈　　　　竹(ちく)窓(そう) 読み罷む 楞(ろう)厳(げん)の偈(げ)　

月上東山第幾峯　　　　月上 東山 第幾(だいいく)峰(ほう)

 

【語釈】

○即事…事に触れて、その場のことを題材にして作った詩。○一半…半分。○竹窓…竹林に面した窓。○楞嚴…楞嚴経，仏教の経典のひとつ。○偈…仏徳を讃えた韻文。○第幾峯…多くの峰。

　

 

★    貞溪初夏　　　　　　　貞溪初夏　　　　　　　　　　　　　  明　　邵亨貞

 

巡簷燕子掠晴絲　　　　簷(のき)を巡る 燕子 晴(せい)糸(し)を掠(かす)む　

隔水茶煙出院遲　　　　水を隔てる茶煙 院を出(いで)て遅し　

草色入簾人不到　　　　草色 簾(れん)に入り 人 到らず 　

午風吹暖夢迴時　　　　午風 吹きて暖かなり 夢 迴(めぐる)る時

 

【語釈】

○貞溪…不祥。○晴絲…虫類が吐いて空中に浮遊する糸。○院…住居の中にある庭。○簾…垂れ幕。

 

 

★    客散　　　　　　　　　客(かく)散ず　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　方太古

 

客散書堂秋日涼　　　　客(かく)散じ 書堂 秋日涼し　

山風吹雨葛花香　　　　山風 雨を吹いて 葛(かつ)花(か)香し

竹床籐簟茶初熟　　　　竹床 籐簟(とうたん) 茶 初めて熟し　

消受山人午睡長　　　　消受(しょうじゅ)す 山人 午睡の長きを

 

【語釈】

○書堂…書斎。○葛花…くずの花。○籐簟…籐で作ったたかむしろ。○消受…享受する。受ける。　

　

 

★    題張原琛蓬窗          張原琛の蓬窓に題す　　　　　　　　　  明　　葉子奇

 

銀絲魚鱠碧芹羹　　　　銀糸(ぎんし)の魚(ぎょ)鱠(かい) 碧(へき)芹(きん)の羹(あつもの)　　　　　　

曾記扁舟越上行　　　　曽(かつ)て記す 扁舟 越上に行くを　

今日小軒風味似　　　　今日の小軒の風味に似たり　

滿川風雨看雲生　　　　満川の風雨 雲の生ずるを看る

 

【語釈】

○張原琛…不祥。○蓬窗…苫をかけた舟の窓。○銀絲…細作り。○魚鱠…魚の刺身。○碧芹…緑色の芹。○羹…スープ。○記…記憶する。○扁舟…小舟。○越上…越の地方。○小軒…小さな家。

 

★    水榭　　　　　　　　　水榭(すいしゃ)　　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　史　鑑

 

溪聲到枕驚春夢　　　　渓声(けいせい) 枕に到り 春夢(しゅんむ)を驚かす　

露氣入簾生夜寒　　　　露気 簾(すだれ)に入り 夜寒を生ず　

自起開門看明月　　　　自(みずか)ら起きて 門を開き 明月を看る　

和花移過曲闌干　　　　花に和し 移(い)過(か)す 曲闌(きょくらん)干(かん)

 

【語釈】

○水榭…水のうえにある家。○驚…夢から覚める。○移過…通り過ぎる。○曲闌干…曲がった欄干。

 

★    看梅偶成　　　　　　　看(かん)梅(ばい)偶成(ぐうせい)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　林　俊

 

消息東風兩月前　　　　消息の東風 両月の前　

西湖索莫老逋仙　　　　西湖 索莫(さくばく)たり 老逋仙(ろうほせん)　

雪蓬昨夜還扶醉　　　　雪蓬(せっぽう) 昨夜 還(ま)た酔を扶(たす)け　

移近梅花一處眠　　　　移りて 梅花に近く 一処(ひとところ)に眠る

 

【語釈】

○偶成…偶々作った詩。○消息…吹いたり止んだりする。○東風…春風。○兩月…二月。○索莫…もの寂しいさま。○逋仙…宋の詩人林逋、西湖の孤山に隠棲した。○雪蓬…明の時代の詩人、譙謨（明湖廣華容の人，号は雪蓬）。

 

★    夏景　　　　　　　　　 夏景　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　張宇初

 

深院碁聲日正長　　　　深院の碁声 日 正に長し　

博山添火試沈香　　　　博山 火を添えて 沈香を試す　

道人鞭起龍行雨　　　　道人 鞭を起こし 竜 雨を行う　

帶得東潭水氣凉　　　　東潭(とうたん)の水気を 帯び得て涼し　とうたん

 

【語釈】

○深院…寺院の奥深いところ。○碁声…碁を打つときの碁石の音。○博山…博山香、香炉の一種。○沈香…香木の一種。○道人…道を得た人。僧侶。○龍行雨…龍神が雨を降らせる。○東潭…東側にある淵。

 

　

★    吹笛　　　　　　　　　 笛を吹く　　　　　　　　　　　　　  明　　豐越人

 

空林醉卧不知秋　　　　空林に酔卧(すいが)し 秋を知らず

手採芙蓉下小舟　　　　手に芙蓉を採(と)りて 小舟に下す　

明月滿天涼似水　　　　明月 満天 涼しきこと水に似たり　

閒吹短笛過滄洲　　　　閑かに短笛を吹いて 滄(そう)洲(しゅう)を過ぐ

 

【語釈】

○空林…人気の無い林。○醉卧…酔って臥せる。○滄洲…水の蒼い浜辺、隠者のいるところ。

 

 

★    　聞笛　　　　　　　　　笛を聞く　　　　　　　　　　　　   明　　張　煒

 

雨後閑庭暑氣収　　　　雨後の閑庭(かんてい) 暑気収る　

倚欄花竹暗香浮　　　　欄に倚(よ)れば 花竹 暗香浮ぶ　

誰家玉笛凌雲起　　　　誰が家の玉笛か 雲を凌(しの)いで起る　

吹動長安萬戸秋　　　　長安に吹動(すいどう)す 万戸の秋　

 

【語釈】

○閑庭…静かな庭。○暗香…どこからともなく漂って来る香。○玉笛…笛の美称。

 

 

★    春日閑居　　　　　　　春日閑居　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王虞鳳

 

濃陰栁色罩窗紗　　　　濃陰の栁色 窓紗(そうさ)を䈇(こ)む　

風送爐煙一縷斜　　　　風は炉煙を送り一縷斜なり　

庭草黃昬随意綠　　　　庭草 黄昬(こうこん) 随意に緑なり　

子規啼上木蘭花　　　　子規 啼き上る 木蘭の花

 

【語釈】

○濃陰…濃い黒さ。○罩…包み込む。○窗紗…窓にかけた薄絹のカーテン。○一縷…ひとすじ。○黄昬…たそがれ。○子規…ほととぎす。

 

 

★    夏日偶成　　　　　　　夏日偶成 　　　　　　　　　　　　　　  清　　黄幼藻      　　　

 

深院塵消散午炎　　　　深院 塵 消え 午炎を散ず　

篆煙如夢晝淹淹　　　　篆(てん)煙(えん) 夢の如く 昼 淹々(えんえん)　

輕風似與荷花約　　　　軽風 荷(か)花(か)と約するに似て　

為送香來自捲簾　　　　為に 香を送り来(きた)りて 自(みずか)ら簾(れん)を捲く

 

【語釈】

○偶成…たまたま作った詩。○深院…奥まったところにある中庭。○午炎…昼の暑さ。○篆煙…篆字のように曲がって細く立つ香煙。○淹淹…気力のないさま。○簾…すだれ。

 

 

★    夏日書懐　　　　　　　夏日 懐(おもい)を書す　　　　　　　　　　　　  明　　僧明秀

 

緑遍庭前雨乍晴　　　　緑 庭前に遍(あまね)く 雨 乍(たちま)ち晴れ　

南風一枕篆烟軽　　　　南風 一(いっ)枕(ちん) 篆(てん)烟(えん)軽(かろ)し　

起來散歩槐陰下　　　　起き来たり 散歩す 槐(かい)陰(いん)の下　

閑聴幽禽三兩聲　　　　閑(しずか)に聴く 幽禽(ゆうきん)の三両声

 

【語釈】

○篆煙…篆字のように曲がって細く立つ香煙。○槐陰…エンジュの木陰。○幽禽…山に隠れ住む鳥。

 

 

★    漁村夜歸　　　　　　　漁村夜帰　　　　　　　　　　　　　　  明　　宗　衍

 

月落蘋汀宿霧凝　　　　月は蘋汀に落ち 宿(しゅく)霧(む) 凝(こ)る

小橋霜冷挂漁罾　　　　小橋 霜 冷やかに 漁罾(ぎょそう)を挂(か)く

歸來已是三更後　　　　帰り来たれば 已に是れ 三更の後

水際人家尚有燈　　　　水際の人家 尚お灯有り

 

【語釈】

○蘋汀…浮き草がある渚。○宿霧…夜霧。○凝…形成される。止まる。○漁罾…漁網の一種。○挂…掛ける。○三更…午前零時前後。

 

 

★    山居　　　　　　　　　 山居　　　　　　　　　　　　　　　  明　　僧德清

 

平湖秋水浸寒空　　　　平(へい)湖(こ)の秋水 寒空を浸し

古木霜餘落葉紅　　　　古木 霜余(そうよ) 落葉 紅なり　

石逕小橋人迹斷　　　　石径(せきけい) 小橋 人迹(じんせき) 断え　

一菴深鎻白雲中　　　　一菴 深く鎻(とざす)す 白雲の中(うち)

 

【語釈】

○平湖…平らな水面の湖。○霜餘…霜が消えた後。

 

 

★    秦淮夏日詞　　　　　　秦淮(しんわい)夏日詞　　　　　　　　　　　　　　  清　　紀映鐘

 

六月秦淮氣自涼　　　　六月 秦淮(しんわい) 気 自(おのずか)ら涼し　

八窗敞受午風長　　　　八窓(はっそう)敞受(しょうじゅ) 午風長し　

楸枰畫静無人語　　　　楸枰(しゅうへい) 昼 静にして 人語無く　

堂背罘罳緑樹光　　　　堂(どう)背(はい)の罘罳(ふし) 緑樹の光

 

【語釈】

○秦淮…南京市内を通る河の名、その両岸は歓楽街であった。○八窗敞受…仏教の用語。八つの感覚器官（眼、耳、鼻、舌、身、意）とそれらに対応する八つの感覚境（色、声、香、味、触、法）との間に生じる八つの接触（眼接、耳接など）によって生じる八つの受（眼受、耳受など）のこと。○午風…昼頃吹く風。○楸枰…碁盤。○堂背…堂を背にする。○罘罳…宮廷の門。

 

★    夏日雜興　　　　　　　夏日雜興　　　　　　　　　　　　　　   清　　朱彞尊

 

桐陰細細白花攢　　　　桐陰 細々(さいさい) 白花攅(あつ)まる　

吾愛吾廬暑亦寒　　　　吾は愛す 吾が廬(ろ) 暑亦た寒なるを　

縱少圍棊消永日　　　　縦(たと)い 囲棊(いご)の 永日を消すること少なしとも　

也應騎馬勝麁官　　　　也(ま)た 応(まさ)に 馬に騎(の)りて 麁官(そかん)に勝(まさ)るべし

 

【語釈】

○桐陰…桐の木陰。○細細…細やかなさま。ほそぼそとしたさま。○縱…たとい～でも。○圍棊…囲碁。○永日…長い日。○麁官…武官。

 

 

★    春日南垞雜詩　　　　　春日南垞(なんた)雜詩　　　　　　　　　　　   清　　朱彞尊

 

社公小雨不黏沙　　　　社公(しゃこう)の小雨 沙(すな)に粘(ねん)ぜず　

瞥見迎風燕子斜　　　　瞥見(べっけん)す 風を迎えて 燕子(えんし)斜めなるを

料是東家巢已定　　　　料るは 是れ 東家 巣 已に定まり　

但來花厎啄芹芽　　　　但だ 花厎(かてい)に来りて 芹(きん)芽(が)を啄(ついば)むかと

 

【語釈】

○南垞…南の丘。○雜詩…心の趣くままに作った自由でとらわれない詩。○社公…土地の神。国土を保護する神。○黏…表面にへばりつく。○瞥見…ちらりと見る。○料…推量する。○東家…不特定の家を指す常用語。○芹芽…芹の芽。

 

★    春日南垞雜詩　　　　　春日南垞(なんだ)雜詩　　　　　　　　　　　　　　   清　　朱彞尊

 

移種盆松六尺強　　　　移(い)種(しゅ) 盆(ぼん)松(しょう) 六尺強　

欲充車蓋蔽斜陽　　　　車(しゃ)蓋(がい)に充(み)ち 斜陽を蔽(おお)わんと欲す　

不知黛色成陰日　　　　知らず 黛(たい)色(しょく) 陰を成す日　

此地何人結草堂　　　　此の地 何人か 草堂を結ぶかを

 

【語釈】

○南垞…南の丘。○雜詩…心の趣くままに作った自由でとらわれない詩。○移種…移植する。○車蓋…車を蔽う傘。○斜陽…夕陽。○黛色…青黒色。○草堂…草葺きの家。

 

★    臨漪園　　　　　　　　 臨漪(りんい)園(えん)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　湯　準

 

閑園隨意採芳蓀　　　　閑(かん)園(えん) 随意に芳蓀(ほうそん)を採る　

興到常攜酒一尊　　　　興(きょう) 到り 常に携(たずさ)う 酒一尊　

却笑平泉太多事　　　　却(かえ)って笑う 平泉 太(はなは)だ多事なるを　

苦將木石戒兒孫　　　　苦(ねんごろ)に 木石を将(も)って 児孫を戒(いま)しむ

 

【語釈】

○臨漪園…不祥。○閑園…静かな庭園。○芳蓀…香草の一種。○平泉…河北省承德市平泉県。○太…はなはだ。○苦…ねんごろに。

 

★    雑詠                     雑詠       　　　　　　　　　　　　  清　　先　著

 

移植甘蕉為綠陰　　　　移植せし甘蕉(かんしょう) 緑陰(りょくいん)を為す　

經年長大已成林　　　　経年 長大 已に林を成す　

天寒霜落休輕剪　　　　天寒く 霜落ち 軽剪(けいせん)することを休(や)む　

恐有秋來未死心　　　　恐らくは 秋来りて 未死(みし)の心有らん

 

【語釈】

○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○甘蕉…バナナの樹。○輕剪…軽く鋏で切る。○未死心…まだ死んでいないという心。

 

 

★    秦淮雑詠　　　　　　　秦淮(しんわい)雑(ざつ)詠(えい)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

柳花飛盡緑陰濃　　　　柳花 飛び尽き 緑陰濃(こまやか)なり　

雨到煙雲濕不飛　　　　雨到りて 煙雲 湿りて飛ばず　

村酒正香茅舎静　　　　村酒 正に香(かんばし)くして 茅舎(ぼうしゃ)静かなり　

漁翁閑却釣魚磯　　　　漁翁 閑却(かんきゃく)す 釣魚(ちょうぎょ)の磯

 

【語釈】

○秦淮…南京市内を通る河の名、その両岸は歓楽街であった。○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○柳花…柳絮。○緑陰…木の影。○煙雲…靄と雲。○村酒…いなか作りの酒。○茅舎…萱葺きの粗末な家。○閑却…なおざりにする。

 

 

★    題李百藥湖草堂         李(り)百薬(ひゃくやく)の湖の草堂に題す　　　　　　　　  清　　謝芳連

 

罷釣歸來解釣筒　　　　釣を罷(や)め 帰り来たりて 釣(ちょう)筒(とう)を解く　

題詩燈火夜深紅　　　　詩を題して 灯火 夜深くして 紅なり　

湖村犬吠人眠盡　　　　湖村 犬は吠え 人眠り尽くし　

商女棹歌煙月中　　　　商女の棹歌(とうか) 煙月の中(うち)

 

【語釈】

○李百藥…李必恒、清江蘇高郵の人、『三十六湖草堂集』がある。○草堂…草葺きの家。○釣筒…釣った魚を入れる筒。○題詩…詩を書き付ける。○商女…妓女。○棹歌…舟歌。○煙月…おぼろ月。

 

 

★    月夜獨步　　　　　　　 月夜独步　　　　　　　　　　　　　  清　　趙唸曾

 

涼夜泠泠露氣清　　　　涼(りょう)夜(や) 泠々(れいれい) 露(ろ)気(き)清し　

疏簾竹簟月三更　　　　疏(そ)簾(れん) 竹簟(ちくたん) 月 三更　

滿庭樹影無人語　　　　満庭の樹影 人語無く　

惟有蟲聲草際鳴　　　　惟(た)だ 虫声の 草(そう)際(さい)に鳴く有るのみ

 

【語釈】

○泠泠…清くすがすがしいさま。○疏簾…まばらな簾。○竹簟…竹製のたかむしろ。○三更…午前零時ごろ。

 

　

 

★    睡起　　　　　　　　　睡起(すいき)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　趙唸曾

 

門雖近市静無誮　　　　門は市に近しと雖(いえど)も 静かにして 誮(やさ)しきこと無し　

風味居然隠士家　　　　風味 居(きょ)然(ぜん)たり 隠士の家　

一枕夢回日亭午　　　　一枕 夢は回(かえ)りて 日は亭(てい)午(ご)　

晴窓坐對水仙花　　　　晴窓に坐して対す 水仙の花

 

【語釈】

○睡起…眠り醒めて起き上がること。○誮…やさしい。○風味…奥ゆかしい趣。○居然…安らかなさま。○隠士…隠者。○一枕…一眠り。○夢回…夢から覚める。○亭午…正午。

 

★    讀書東皋　　　　　　　読書東皋(とうこう)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　黄有源

 

江村四月棟花香　　　　江村 四月 棟(とう)花(か)香(かんば)し

乳燕低飛送夕陽　　　　乳(にゅう)燕(えん) 低く飛んで 夕陽(せきよう)を送る　

独坐攤書無箇事　　　　独坐 書を攤(ひら)きて 箇事(こじ)無く　

石爐茶沸篆烟涼　　　　石炉 茶沸いて 篆(てん)煙(えん)涼(すず)し

 

【語釈】

○東皋…東の丘。○江村…水辺の村。○棟花…おうちの花。○乳燕…子持ちの燕。○攤…開く。○箇事…猶一事。○篆烟…篆字のように曲がって細長い煙。

　

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　　　　  清    趙執賁

 

窮愁暮暮復朝朝　　　　窮愁 暮(ぼ)々(ぼ) 復(ま)た 朝(ちょう)々(ちょう)　

幸有圖書慰寂寥　　　　幸(さいわい)に 図書の 寂寥(せきりょう)を慰むる有り　

一枕北窗回午夢　　　　一枕　北窓　午夢回(かえ)り　

桃花滿地兩蕭蕭　　　　桃花地に満ち　両(ふた)つながら蕭々(しょうしょう)

 

【語釈】

○窮愁…激しい愁い。○寂寥…ひっそりとしてもの寂しいさま。○一枕…一眠り。○午夢…昼寝の夢。○蕭蕭…閑なさま。

 

 

★    春日雑詠　　　　　　　春日雑詠　　　　　　　　　　　　　　   清　　高　珩

 

靑山如黛遠村東　　　　青山(せいざん) 黛(まゆずみ)の如く 村の東に遠し　

嫩緑長渓柳絮風　　　　嫩(どん)緑(りょく) 長渓 柳絮(りゅうじょ)の風　

鳥雀不知郊野好　　　　鳥(ちょう)雀(じゃく)は知らず 郊(こう)野(や) 好きを　

穿花翻戀小庭中　　　　花を穿(う)がち 翻(ひるがえ)えりて恋う 小庭の中(うち)

 

【語釈】

○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○靑山…青青とした山。○嫩緑…新緑。○鳥雀…雀などの小鳥。○郊野…街の外の野原。     

　

 

★    即興　　　　　　　　　即興　　　　　　　　　　　　　　　　   清　　高　珩

 

夜合花前夜漏遅　　　　夜合(よるごう)花前(かぜん) 夜(や)漏(ろう)遅し　

微風白紵正相宜　　　　微風 白紵(はくちょ) 正に相宜(あいよろ)し　

瑶臺不在重霽上　　　　瑶(よう)台(だい) 重霽(じゅうせい)の上に在らず　

高枕空庭月滿時　　　　枕を高うす 空庭 月 満つる時

 

【語釈】

○夜合花…ときわれんげ。○夜漏…夜の水時計。○白紵…麻布の目が細かくて真っ白なもの。○瑶臺…玉をちりばめた立派なうてな。○重霽…？○空庭…人気の無い庭。

　

 

★    雑言　　　　　　　　　雑言　　　　　　　　　　　   　　　　清　　田　霡

 

花飛両眼苦昏朦　　　　花飛び 両眼 昏朦(こんもう)に苦しむ　

把巻唯宜坐日中　　　　巻を把(と)り 唯(た)だ宜(よろ)しく 日中に坐す　

靉靆一雙新上額　　　　靉靆(あいたい) 一双 新たに額に上る　

燈挑猶作蠧書蟲　　　　灯を挑(かか)げ 猶お 蠧書(としょ)虫(ちゅう)と作る

 

【語釈】

○昏朦…目がくらむ。○把…手に取る。○巻…書物。○靉靆…雲のたなびくさま。○一双…二つ共に。○額…門や壁の高い所に字や絵を書いて掲げたもの。○蠧書蟲…書を食う虫。

 

★    夏日雑賦　　　　　　　夏日雑賦          　　　　　　　　　　　　　清　　蔡忠立       

 

閑身衹合住林泉　　　　閑(かん)身(しん) 衹(た)だ合(まさ)に 林泉に住すべし

山史茶經手一編　　　　山史(さんし) 茶(ちゃ)経(きょう) 手 一編

向晩磯頭看不盡　　　　晩に向う 磯頭 看尽さず

白鷗飛破緑渓烟　　　　白鴎 飛び破る 緑渓の煙

 

【語釈】

○閑身…暇な身分。○衹…ただ。○合…「まさに～すべし」と読み、「きっと～しなければならない、～すべきである」の意。○山史…人名、王宏撰の号。○　茶經…茶を示した書の名称。○磯頭…磯のほとり。○烟…もや、霞。

 

 

★    夏日雑賦　　　　　　　夏日雑賦          　　　　　　　　　　　　　清　　蔡忠立　       

隴上農歌新月白　　　　隴上(りょうじょう)の農歌 新月白し　

澗邊鳥亂夕烟濃　　　　澗(かん)辺(ぺん) 鳥乱れて 夕煙(せきえん) 濃(こ)し

小樓好對寒山寺　　　　小楼 好く 寒山寺に対し

睡醒時聞夜半鐘　　　　睡(ねむり) 醒めて 時に聞く 夜半の鐘

 

【語釈】

○隴上…丘の上。○農歌…農作業で歌う歌。○澗邊…渓のほとり。○夕烟…夕もや。○寒山寺…江蘇省蘇州市姑蘇区にある寺院。張継の「風橋夜泊」で有名。

 

 

 

★    事　　　　　　　　　 即事　　　　　　　　　　　　　　　  清　　孫寶仁

 

野浦山溪一徑通　　　　野(や)浦(ほ) 山渓 一径通ず　

柴門茅屋繞丹楓　　　　柴門(さいもん) 茅屋(ぼうおく) 丹(たん)楓(ふう)を繞(めぐ)る　

朝看雁鶩清波裏　　　　朝(あした)に雁鶩(がんろ)を看る　清波の裏(うち)　

夕下牛羊落葉中　　　　夕(ゆうべ)に牛羊を下す  落葉の中(うち)

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○野浦…野原の川のほとり。○柴門…柴で作った粗末な門。○茅屋…茅吹きの家。○丹楓…赤い楓。

 

 

★    即景　　　　　　　　　即景　　　　　　　　　　　　　　　  清　　劉正遠

 

江上秋原落木深　　　　江上 秋原 落木深し　

蕭蕭竹樹鳥聲沈　　　　蕭々(しょうしょう)たる竹樹 鳥声沈む　

夕陽雨歇殘霞歛　　　　夕陽(せきよう) 雨 歇(や)んで 残霞歛(おさ)まり　

草際惟聞蟋蟀吟　　　　草(そう)際(さい) 惟(た)だ聞く 蟋蟀(ちゅうそつ)の吟

 

【語釈】

○即景…目の当たりの景色。○落木…秋になって葉の落ちた木。○蕭蕭…物寂しい様子や音の形容。○殘霞…残った夕映え。○蟋蟀…コオロギ。

 

 

★    山居遣興　　　　　　　山居興を遣る　　　　　　　　　　　   明　　張永瑗

 

六扇疎櫺畫未開　　　　六扇 疎櫺(それい) 画 未だ開かず　

高居逈自絶塵埃　　　　高居 逈(はるか)に 自(おのずか)ら 塵埃を絶つ　

鈎簾偶為看山色　　　　鈎(こう)簾(れん) 偶(たまた)ま 山色を看るを為す　

恰放雙飛燕子來　　　　恰(あたか)も 双飛(そうひ)の燕子を放ち来る

 

【語釈】

○遣興…楽しむ。○疎櫺…まばらな飾り模様のついた格子。○鈎簾…簾を捲き上げて鈎にかける。○雙飛…対に為って飛ぶ。

 

 

★    山塘雑詩　　　　　　　山塘(さんとう)雑(ざっ)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　  明　　趙文哲

 

欄干曲彔枕迴渓　　　　欄干 曲彔(きょくろく) 迴渓(かいけい)に枕(のぞ)む　

芳樹重重月影低　　　　芳樹 重々(ちょうちょう) 月影低し　

深掩銀屏人未睡　　　　深く銀屏を掩(おお)いて 人 未だ睡らず　

玉簫聲在畫樓西　　　　玉簫の声 画楼の西に在り

 

【語釈】

○山塘…山の堤。○雜詩…心の趣くままに作った自由でとらわれない詩。○曲彔…僧などが用いる背もたれの曲がった椅子。○枕…臨む。○重重…重なり合うさま。○銀屏…銀で装飾した屏風。○玉簫…簫の美称。○畫樓…絵の書いてある楼。

 

 

★　自雑蔵園圖          自(みずか)ら雑蔵園の図に題す　　　　　　　　　　明　　蔣士銓

 

換却春衣試晩涼　　　　春衣を換却(かんきゃく)して　晩涼を試む　

破雲片月點新光　　　　雲を破る片月　新光を点ず　

蛙聲漸起棲鴉睡　　　　蛙声(けいせい)　漸(ようや)く起こり 棲(せい)鴉(あ) 睡る　

風弄一池荷葉香　　　　風は弄す  一池 荷葉の香

 

【語釈】

○雑蔵園圖…不祥。○換却…換える、却は動作の完了を示す助字。○棲鴉…住み着いている烏。○弄…楽しむ。

 

 

★    山居絶句     　　　山居絶句　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　袁　枚     

 

穿林繞磴問桑麻　　　　林を穿(うが)ち 磴(とう)を繞(めぐ)ぐり 桑(そう)麻(ま)を問う

空翠無聲染素紗　　　　空(くう)翠(すい) 声無く 素紗(そさ)を染む

笑撲衣裳似胡蝶　　　　笑って衣裳を撲(う)てば 胡蝶(こちょう)に似たり

半粘竹粉半松花　　　　半ばは竹(ちく)粉(ふん)に粘り 半ばは松花

 

【語釈】

○穿…通り抜ける。○磴…石を敷き詰めた道。○桑麻…桑と麻。農事。○空翠…高い木などの緑色。○素紗…白い砂。○胡蝶…蝶々。

 

 

★    消夏詩　　　　　　　　 消夏(しょうか)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　  清　　袁　枚

 

不著衣冠近半年　　　　衣冠を著(つ)けざること 近半年　

水雲深處抱花眠　　　　水雲 深き処 花を抱いて眠る　

平生自想無官樂　　　　平生 自(おのずか)ら想う 無官の楽しみを　

第一驕人六月天　　　　第一の驕人(きょうじん) 六月の天

 

【語釈】

○消夏…避暑。○著衣冠…官職に就く。○平生…常日頃。○驕人…驕ってほしいままの人。

 

 

★    山居雑興　　　　　　　山居雑興　　　　　　　　　　　　　　　  清　　馮　班

 

秋氣清寒病骨知　　　　秋気 清寒 病骨知る　

亂蛋聲裏欲眠遅　　　　乱蛩声(らんきょうせい)裏(り) 眠らんと欲すること遅し　

月明半夜誰敲戸　　　　月明 半夜 誰か戸を敲く　

應是山人得好詩　　　　応(これ)に是れ 山人 好詩(こうし)を得たるなるべし

 

【語釈】

○雑興…さまざまなおもむき。○亂蛋聲裏…乱れ鳴くコオロギの声の中。○半夜…真夜中。○應…「まさに～すべし」とよみ「きっと～であるに違いない」の意。○山人…山に住む隠者。

 

 

★    孫園剪牡丹歸　　　　　孫園に牡丹を剪りて帰える　　　　　　　  清　　王陸禔

 

尋春閑訪野人家　　　　春を尋ねて 閑(しずか)に訪ぬ 野人の家　

扶醉帰來日未斜　　　　酔を扶(たす)けて 帰り来たれば 日 未だ斜めならず

買得扁舟小於葉　　　　買い得たる扁舟 葉よりも小なり　

半容人坐半容花　　　　半ば人を容(い)れて坐し 半ば花を容(い)る

 

【語釈】

○孫園…不祥。○野人…田舎に住んでいる人。○扁舟…小舟。○扶醉…酔っているのに敢えて。

 

絶句類選　巻之五　訪尋類 

 

 

 

★    崔處士林亭過　　　　　崔処士(さいしょし)の林亭に過(よ)ぎる　　　　　　　　　　唐　　　王　維

 

綠樹重陰蓋四鄰　　　　緑樹 重陰 四隣を蓋う　

青苔日厚自無塵　　　　青苔 日に厚く 自(おのずか)ら塵無し　

科頭箕踞長松下　　　　科頭箕踞 長松の下　

白眼看他世上人　　　　白眼看他の世上の人

 

【語釈】

○崔處士…盧象、張九齡に抜擢されて左補闕、司勛員外郎となる。王維の母方のいとこ。○重陰…深い陰。○四隣…あたり。四辺。○科頭箕踞…頭を現し脚を開いて坐る、縱恣軽漫な態度。○白眼看他世上人…世を冷ややかに見る、他は助字。｢白眼視｣は、晋書、阮籍伝による。

（参考文献）　　『『唐詩選』

 

 

★    三日尋李九莊　　　　　三日 李九の荘を尋ぬ　　　　　　　　　  唐　　常　建

 

雨歇楊林東渡頭　　　　雨は歇(や)む 楊(よう)林(りん) 東渡の頭(ほとり)　

永和三日盪輕舟　　　　永和 三日 軽舟を盪(うご)かす　

故人家在桃花岸　　　　故人の家は 桃花の岸に在り　

直到門前溪水流　　　　直ちに門前に到る渓水の流に

 

【語釈】

○三日…三月三日、上巳の節句。○楊林…黑龍江省哈爾濱市楊林鄕。○永和…年号。○軽舟…小舟。○故人…昔なじみ、親しい人。

（参考文献）『唐詩選』

 

 

★    過鄭山人所居       鄭(てい)山人(さんじん)が所(しょ)居(きょ)に過(よぎ)る　　　                唐　 劉長卿

 

寂寂孤鶯啼杏園　　　寂々(せきせき)として 孤(こ)鴬(おう) 杏(きょう)園(えん)に啼き

寥寥一犬吠桃源　　　寥々(りょうりょう)として 一犬 桃源に吠ゆ

落花芳草無尋處　　　落花芳草 尋ぬる処無く

萬壑千峰獨閉門　　　万壑(ばんがく)千(せん)峰(ぽう) 独り門を閉ず

 

【語釈】

○過…立ち寄る。○鄭山人…未詳、山に住んでいる鄭氏。○所居…住まい。寂寂…ひっそり。○万壑千峰…多くの谷と峰。○閉門…門をしめる、世間との交際を絶つたとえ。

（参考文献）『三体詩』

 

★    休暇日訪王侍御不遇　 休暇日に王侍御を訪いて遇わず　　　　　  唐    韋應物

 

九日驅馳一日閑　　　九日(きゅうじつ) 駆馳(くち)して  一日(いちじつ) 閑(かん)なり　

尋君不遇又空還　　　君を尋ねて遇(あ)わず 又空しく還える　

怪來詩思清人骨　　　怪み来たる 詩思の人骨を清からしむるを　

門對寒流雪滿山　　　寒流(かんりゅう)は門に対して　雪は山に満つ　

 

【語釈】

○侍御…皇帝の側に使える人。○驅馳…走り回ること（当時の役人は，９日働き、１日休暇であった）。○怪來…あやしむ（「來」は助辞）。○詩思…詩を作ろうと思う心。○人骨…人。

（参考文献）　『三体詩』

 

 

★    草堂村尋羅生不遇　　　草堂村に羅生を尋ねて遇わず　　　　　　　  唐    岑  參

 

數株谿柳色依依　　　　数株の谿柳 色依々(いい)たり　

深巷斜陽暮鳥飛　　　　深巷 斜陽 暮(ぼ)鳥(ちょう)飛ぶ　

門前雪滿無人迹　　　　門前 雪満ち 人(じん)迹(せき)無し　

應是先生出未歸　　　　応に是(こ)れ 先生 出(い)でて 未だ帰らざるべし

 

【語釈】

○草堂村…不祥。○羅生…不祥。○依依…おぼつかないさま。○深巷…奥まった道。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。

 

★    赴李少府莊失路　　　　李少府の荘に赴(おもむ)いて路を失う　　　　　  唐    皇甫冉

 

君家南郭白雲連　　　　君が家の南郭(なんかく) 白雲連(つ)らなる　

正待天晴弄石泉　　　　正(まさ)に 天晴を待ち 石泉を弄す            

月照煙花迷客路　　　　月は 煙花を照らし 客路に迷う　

蒼蒼何處是伊川　　　　蒼々(そうそう) 何れの処か 是れ 伊川(いせん)

 

【語釈】

○李少府…不祥。○失路…迷子になる。○南郭…南側のくるわ。○弄…楽しむ。○煙花…花がすみ。○客路…客として行った道。○蒼蒼…草木などが青く繁るさま。○伊川…河南省 西部を流れる川。

 

　

★    尋道者隱不遇　　　　隱者を尋ねて遇わず　　　　　　　　　　　　  唐　　竇　鞏

 

籬外涓涓澗水流　　　　籬外 涓々(けんけん)として 澗(かん)水(すい)流る　

槿花半點夕陽收　　　　槿(きん)花(か) 半ば点じ 夕陽(せきよう)収る　

欲題名字知相訪　　　　名字を題して 相訪(あいと)うを知らせんと欲す

又恐芭蕉不耐秋　　　　又た恐る 芭蕉の 秋に耐えざるを

 

【語釈】

○涓涓…水がちょろちょろ流れるさま。○澗水…山谷中の渓水。○槿花…むくげの花。○点…滴がしたたるように落ちる。○相訪…訪問する、相は行為が相手に及ぶことを示す。

 

★    題友人山居　　　　　　友人の山居に題す　　　　　　　　　　　 唐　　戴叔倫

 

四郭青山處處同　　　　四(し)郭(かく)の青山 処々同じ　

客懐無計答秋風　　　　客(かく)は 秋風に答うに 計無きを懐(おも)う

數家茅屋清溪上　　　　数家の茅屋 清渓の上(ほとり)　

千樹蝉聲落日中　　　　千樹の蝉声(せんせい) 落日の中(うち)

 

【語釈】

○四郭…四方の城郭の外。○青山…青青とした山。

 

 

★    過鄭處士            　鄭處士(ていしょし)に過(よぎ)る　                           唐　　白居易

 

聞道移居村塢間　　　　聞道く 居を村塢(そんお)の間に移し　

竹林多處獨開關　　　　竹林多き処 独り関(かん)を開くと

故來不是求他事　　　　故(ことさら)に来りて 是れ 他事を求めず　

暫借南亭一望山　　　　暫(しばら)く 南亭を借りて  一たび山を望まん

 

○鄭處士…不祥、處士は士であって、まだ使えていないもの。○村塢…山村。○關…門を閉ざすかんぬき。

（参考文献）『新釈漢文大系　白氏文集三』

 

★    曲江夜歸聞元八見訪　　曲江より夜帰りて 元八の訪れらるを聞く     唐　　白居易

 

自入臺來見面稀　　　　台に入りてより来(このか)た面(めん)を見ること稀なり　

班中遥得揖容輝　　　　班中(はんちゅう) 遥かに容(よう)輝(き)に揖(ゆう)することを得たり　

早知相憶来相訪　　　　早(すで)に知る 相(あい)憶(おも)いて 来たりて 相(あい)訪(と)えるを　

悔待江頭明月帰　　　　悔(く)ゆらくは　江頭に 明月を待ちて 帰りしを

 

【語釈】

○曲江…長安東南にある池の名。○元八…不祥、八は排行。見…受け身、尊敬を示す助字。臺…御史台。○來…このかた、以来。○班中…宮中での官吏の班列。○容輝…輝かしい容貌。○揖…両手を組んで会釈する。○江頭…曲江の岸辺。

（参考文献）『新釈漢文大系　白氏文集三』

 

 

★    訪山家　　　　　　　　山家を訪う　　　　　　　　　　　　　　  唐　長孫佐輔

 

獨訪山家歇還涉　　　　独り山家を訪(oto)いて 歇(や)みて還(ま)た渉く　

茅屋斜連隔松葉　　　　茅屋　斜めに連なり　松葉を隔つ　

主人聞語未開門　　　　主人　語を聞けども　未だ門を開かず　

繞籬野菜飛黃蝶　　　　籬を繞(めぐ)る野菜　黄蝶(こうちょう)飛ぶ　

 

【語釈】

○歇…停止する。○涉…そぞろ歩きをする。

 

★    劉補闕西亭晚宴　　　　 劉補闕(りゅうほけつ)の西亭の晚宴　　　　　　　　　  唐　　朱慶餘

 

蟲聲已盡菊花乾　　　　虫声 已に尽き 菊花乾く　

共立松陰向晚寒　　　　共に松陰(しょういん)に立ち 晩(ばん)に向って寒し　

對酒看山俱惜去　　　　酒に対し 山を看て 俱(とも)に去るを惜しみ　

不知斜日下欄干　　　　知らず 斜日の 欄干の下にあるを

 

【語釈】

○劉補闕…不祥、補闕は官名で天子を諫める役。

 

 

★    城西訪友人別墅        城西に友人の別墅(べっしょ)を訪う　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

澧水橋西小路斜　　　　澧(れい)水橋(すいきょう)西(せい) 小路斜めなり　

日高猶未到君家　　　　日高くして 猶お未だ 君が家に到らず　

村園門巷多相似　　　　村園 門巷 多くは 相い似たり　

處處春風枳殼花　　　　処々の春風 枳殻(きこく)の花

 

【語釈】

○別墅…園林にある別荘。○澧水橋…不祥、澧水は長江の支流で洞庭水域に属す。○門巷…門前にある村里の道。○枳殼…からたち。

 

 

★    韋處士郊居            韋処士の郊居　　　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

滿庭詩境飄紅葉　　　　満庭の詩境 紅葉に飄(ひるがえ)り　

繞砌琴聲滴暗泉　　　　砌(みぎり)を繞(めぐ)る琴声 暗泉に滴(したた)る　めぐ

門外晚晴秋色老　　　　門外の晩晴 秋色老い　

萬條寒玉一溪煙　　　　万条の寒玉 一渓の煙

 

○韋處士…韋郊のこと、官戶部侍郎に到る。處士は偉人を呼ぶときに着ける言葉。○詩境…詩趣に富んだ場所。○砌…階の下の敷き瓦をしいた場所。○暗泉…目に見えない泉。○晩晴…夕方の晴。○秋色老…秋の気配が深まる。○寒玉…清らかな水。竹。

 

 

★          過南鄰花園　　　　　　南鄰の花園を過ぐ　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

莫怪頻過有酒家　　　怪しむ莫かれ 頻(しき)りに酒有る家に過(よ)ぎるを

多情長是惜年華　　　多情は長く是れ 年(ねん)華(か)を惜しむ

春風堪賞還堪恨　　　春風は賞するに堪え 還(ま)た 恨むに堪えたり　

纔見開花又落花　　　纔(わずか)に開花を見しに 又た落花

 

【語釈】　　

○過…「を過ぎる」と読むときは「通過する」、「に過ぎる」と読むときは「訪れる」。○是…助辞、動詞の前に置かれて強調する。○年華…歳月。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    訪友人幽居　　　　　　友人の幽居を訪う　　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

落花門外春將盡　　　　落花 門外 春 将(まさ)に尽きんとす

飛絮庭前日欲高　　　　飛絮(ひじょ) 庭前 日 高からんと欲す　

深院客來人未起　　　　深院 客来(かくきた)れども 人未だ起きず　

黃鸝枝上啄櫻桃　　　　黄鸝(こうり) 枝上にて桜桃を啄(ついば)む

 

【語釈】

○幽居…隠者のすまい。○將…「まさに～せんとす」と読み「いまにも～しようとする」の意。○飛絮…飛んでいる柳絮。○深院…奥まった中庭。○黃鸝…高麗ウグイス。○櫻桃…さくらんぼ。

 

 

★    訪隱者不遇　　　　　　隠者を訪ねて遇わず　　　　　　　　　  唐　　李商隱

 

城郭休過識者稀　　　　城郭 過ぐことを休(や)め 識者(しきしゃ) 稀なり　

哀猿啼處有柴扉　　　　哀(あい)猿(えん) 啼く処 柴扉有り　

滄江白石樵漁路　　　　滄江 白石 樵(しょう)漁(ぎょ)の路(みち)　

日暮歸來雨滿衣　　　　日暮れ 帰り来たれば 雨 衣(ころも)に満つ

 

【語釈】

○識者…見識のある人。○哀猿…悲しんでいる猿。猿の声は悲しく聞こえる。○柴扉…柴で作った粗末な門。○滄江…青い川。○樵漁…樵と漁夫、共に隠者をさす。

 

★    題王侍御宅　　　　　　王侍御の宅に題す　　　　　　　　　　  唐　　李羣玉

 

門向滄江碧岫開　　　　門は 滄(そう)江(こう) 碧岫(へきしゅう)に向って 開く　

地多鷗鷺少塵埃　　　　地に 鴎(おう)鷺(ろ)多く 塵埃 少なし　

綠陰十里灘聲裏　　　　緑陰 十里 灘声(たんせい)の裏(うち)　

閑去王家看竹來　　　　閑かに 王家を去りて 竹を看て来る　　

 

【語釈】        

○王侍御…不祥、侍御は官名で侍従。○滄江…青い川。○碧岫…緑色の連なった山。○鷗鷺…鷗とサギ。○緑陰…木陰。○灘聲…灘の水音。○王家…朝廷。王侯の家。

　

 

★    訪隱者不遇　　　　　　隱者を訪ねて遇わず　　　　　　　　　　　  唐　　高　駢

 

落花流水認天台　　　　落花 流水 天台を認む　

半醉閑吟獨自來　　　　半ば酔い 閑かに吟じ 独り自(おのずか)ら来る　

惆悵何處去　　　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 仙(せん)翁(おう) 何(いず)れの処にか去る　

滿庭紅杏碧桃開　　　　満庭の紅(こう)杏(きょう) 碧(へき)桃(とう) 開く

 

【語釈】

○天台…天台山。此処では秘境の意？○惆悵…嘆き悲しむこと。○仙翁…世俗を離れた翁、隠者のこと。

 

★    郊居友人相訪           郊居の友人を相訪(あいたず)ぬ　　　　　　　　　  唐　　崔道融

 

柴門深掩古城秋　　　　柴門(さいもん) 深く掩(おお)う 古城の秋

背郭緣溪一徑幽　　　　郭(かく)を背にし　渓に縁(そ)いて　一径幽なり　

不有小園新竹色　　　　小園の新竹の色に有らずんば　

君來那肯暫淹留　　　　君 来りて 那(な)んぞ肯(a)えて暫(しばら)くも淹留(1eんりゅう)せんや

 

【語釈】

○郊居…郊外の住まい。○柴門…柴で作った粗末な門。○郭…城を囲む二重の城壁のうち外側。○緣…沿う。○那…なんぞ～や、反語。○淹留…久しく留まる。

 

 

★    尋隠者不遇             隠者を尋ねて遇わず　　　　　　　　　　  宋　　魏　野

 

尋真誤入蓬萊島　　　　真を尋ねて誤って入る 蓬萊(ほうらい)の島

香風不動松花老　　　　香風 動かず 松花老ゆ　

採芝何處未歸來　　　　芝を採り 何れの処か 未だ帰り来らず　

白雲滿地無人掃　　　　白雲 地に満ち 人の掃(はら)う無し

 

【語釈】

○蓬萊…仙山の名、東海の東にあって仙人が住んでいるという。

 

 

★    訪陳處士　　　　　　　陳處士を訪ぬ　　　　　　　　　　　　　  宋　　蔡　襄

 

橋畔修篁下碧溪　　　　橋畔 篁を修めて 碧渓を下る　

君家元在此橋西　　　　君の家 元 此の橋の西に在り　

來時不似人間世　　　　来(きた)る時 似ず 人間(じんかん)の世に　きた

日暖花香山鳥啼　　　　日暖かに 花は香り 山鳥啼く　

 

【語釈】

○陳處士…不祥。處士は民間にあって仕官しない人。○篁…笛。○人間世…俗世間。

 

 

★    書湖陰先生壁          湖陰先生の壁に書す　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

茆檐長掃浄無苔　　　　茆檐(ぼうえん) 長(つね)に掃い 浄(きよ)くして苔無し　

花木成畦手自栽　　　　花木 畦(けい)を成すは 手 自(みずか)ら栽(う)う　

一水護田將綠繞　　　　一水 田(でん)を護り 緑(りょく)を将(も)ちて繞(めぐ)り　

兩山排闥送青來　　　　両山 闥(たつ)を排し 青(せい)を送り来る

 

【語釈】

○湖陰先生…楊徳逢、作者が隠棲した金陵の近くにいた人物。○茆檐…茅吹きの軒。○長…常に。○畦…一区画の畑。○排闥…くぐり門を力で押し開く。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

 

★    對雪憶往歲錢塘西湖訪林逋　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　梅堯臣

雪に対し 往歳(おうさい)　銭塘西湖に林逋(りんぽ)を訪いしことを憶う

 

昔乘野艇向湖上　　　　昔 野(や)艇(てい)に乗りて 湖上に向う　

泊岸去尋高士初　　　　岸に泊(はく)して去り 高士を尋ぬるの初　

折竹壓籬曾礙過　　　　折竹(せっちく) 籬(まがき)を圧して 曽(かつ)て過(す)ぐるを礙(さまた)ぐ　

却穿松下到茅廬　　　　却(かえ)って　松下を穿(うが)ち　茅廬に到る

 

【語釈】

○往歲…往年、昔。○銭塘西湖…浙江省西湖、ここの孤山に林逋が隠棲した。○林逋…北宋の詩人、鶴を妻、梅を子として西湖の孤山に隠棲して生涯を終えた。○野艇…郷村の小舟。○高士…在野の隠君子、品行の高尚な人。林逋のこと。○礙過…通り過ぎるのを妨げる。○茅廬…茅葺きの粗末な家。

 

 

★    訪隱者       　　　　  隱者を訪(おとな)う　　　　　　　　　　　　  宋　　郭祥正

 

一徑沿崖踏蒼壁　　　　一径 崖に沿(そ)い 蒼壁(そうへき)を踏む　

半塢寒雲抱泉石　　　　半塢(はんお) 寒雲 泉石(せんせき)を抱く　

山翁酒熟不出門　　　　山翁 酒 熟して 門を出でず　

殘花滿地無行跡　　　　残花 地に満ち 行跡無し

 

【語釈】

○塢…村落の周囲に繞らされた防御用の小さな土塁。村落。○山翁…山に隠棲した翁。○殘花…色あせた花。散り残りの花。○行跡…人の通った跡。

 

★    金陵訪楊氏            金陵に楊氏を訪(おとな)う　　　　　　　　　　　  宋　　陳　輔

 

北山松粉未飄花　　　　北山の松(しょう)粉(ふん) 未だ花に飄(ひるがえ)らず　

白下風輕麥脚斜　　　　白下 風軽くして 麦(ばい)脚(きゃく)斜めなり　

身似舊時王謝燕　　　　身は 旧時の 王謝(おうしゃ)の燕に似て　

一年一度到君家　　　　一年 一度 君が家に到る

 

【語釈】

○北山…北邙山、洛陽の北に在り漢代の王侯の墓がある。○松粉…松の花粉。○白下…江蘇省南京市の西北。○王謝…六朝時代の貴族、王氏と謝氏。

 

 

★    訪石林　　　　　　　　　石林を訪う　　　　　　　　　　　　  宋　　劉一止

 

山行不用瘦藤扶　　　　山行 用いず 痩(そう)藤(とう)の扶(たすく)るを　

度石穿雲意自徐　　　　石を度(わた)り 雲を穿(うが)ち 意 自(おのずか)ら徐(ゆるやか)やかなり　

夜過西巖投宿處　　　　夜 過ぎて 西巌 投宿(とうしゅく)する処　

滿身風露竹扶疏　　　　満身の風露 竹 扶疏(ふそ)たり

 

【語釈】

○石林…石が浸食されて林のようになった景勝の地。○瘦藤…痩せた藤。○投宿…宿をとる。○扶疏…植物が枝を四方に広げるさま。

 

★    題呉公輔庵　　　　　　呉公輔の庵に題す　　　　　　　　　       宋　　陳　東      

 

一徑縈迴屋數間　　　　一径 縈迴(えいかい)す 屋(おく)数間(すうかん)

我來聊欲寄清閑　　　　我 来って 聊(いささ)か 清閑(せいかん)を寄せんと欲す

道人杖履知何處　　　　道人 杖(じょう)履(り) 知んぬ 何れの処ぞ

空鎻烟霞萬疊山　　　　空しく 鎻ざす 煙霞 万(ばん)畳(じょう)の山

 

○吳公輔…南劍州劍浦の人、詩人。○縈迴…まといめぐる。○屋數間…数間の大きさの家。○清閑…静かで閑なさま○杖履…老人を尊敬して言う言葉。○煙霞…靄と霞。○萬疊山…幾重にも重なりあった山。

 

 

★    過從子澤家    　　子沢の家を過從(かじゅう)す　　　　　　　　　　　　　　　宋　　樓　鑰       

 

楚楚初篁脱綠苞　　　　楚々(そそ)たる初篁(しょこう) 緑苞(りょくほう)を脱す

城居約略似荒郊　　　　城居 約(やく)略(りゃく) 荒郊(こうこう)に似たり

土膏更得春風力　　　　土膏 更に春風の力を得て

直引薔薇上竹梢　　　　直ちに薔薇(しょうび)を引いて竹(ちく)梢(しょう)に上る

 

【語釈】

○過從…訪問する。○子澤…不祥。○楚楚…清らかで美しいさま。○初篁…筍から育った竹。○綠苞…緑の筍の皮。○約略…大体、あらまし。粗雑。○荒郊…荒れた野原。○土膏…土の中の植物を育てる養分。

 

★    過故家        　　　　　　　故家に過ぎる　　　　　　　　　　　宋　　樓　鑰     

 

團團桂樹擁簷牙　　　　団々(だんだん)たる桂樹(けいじゅ) 簷(えん)牙(が)を擁(よう)す

舊日輕黄滿樹花　　　　旧日の軽黄(けいおう) 満樹(まんじゅ)の花

惆悵秋清無一葉　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 秋 清くして 一葉無きを

空餘枯枿縋寒瓜　　　　空しく 枯枿(こがつ)を余し 寒(かん)瓜(か)を縋(かけ)く

 

【語釈】

○故家…故郷の家。○團團…丸いさま。○簷牙…軒の尖ったところ。○輕黄…柳。○惆悵…嘆き悲しむ。○惆悵…なげきかなしむ。○枯枿…枯れた切り株。○寒瓜…冬瓜。○縋…懸ける。

 

 

★    訪中洲　　　　　　　　中洲を訪(おとな)う　　　　　　　　　　　　　  宋　　姚　鏞

 

踏雨來敲柳下門　　　　雨を踏み 来りて敲(たた)く 柳下(りゅうか)の門　

荷香清透紫綃裙　　　　荷(か)香(こう) 清く透る 紫綃(ししょう)の裙(すそ)　

相逢未暇論奇字　　　　相逢(あいあ)いて 未だ奇字を論ずる暇(いとま)あらず　

先向水邊看白雲　　　　先ず 水辺(すいへん)に向い 白雲を看る

 

【語釈】

○中洲…河川の中にある中洲。○荷香…蓮の花の香。○紫綃…紫色のうすぎぬの衣。○裙…衣の裾。○奇字…古い文字。

 

★    期袁卿見過因出失值寄詩謝之 　　　　　　　　　　　　　　　　明　　髙　啓

袁卿が過(よぎ)らるる期(とき) 出るに因(よ)りて値(あ)うを失す 詩を寄せて之に謝す

 

非關遠出負幽期　　　　遠く出でて幽期(ゆうき)に負(そむ)くに關(かん)するに非ず　　

自是江邊枉棹遲　　　　自(おのずか)ら是れ　江辺　棹(さお)を枉(ま)ぐること遅し　

誰道空迴君恨切　　　　誰か道(い)う　空しく迴(かえ)り　君が恨み 切なりと　

未應如我到家時　　　　未だ応(まさ)に 我の如く 家に到らざる時なるべし

 

○見過…訪問される。○因出…外出していた為。○幽期…逢おうと約束していた時。○江辺…川のほとり。○枉…まげる。○應…まさに～べし、と読み、きっと～に違いないの意。

 

 

★    雪中喜劉户曹見過　　　雪中 劉戸曹の 過(よぎ)らるるを喜ぶ　　　　　  明　　髙　啓

 

滿城春雪禁花開　　　　満城の春雪 禁(きん)花(か)開く　

愁對寒窓欠酒盃　　　　愁(うれ)いて 寒窓に対し 酒杯を欠く　

喜子遠能來慰我　　　　喜ぶ 子(し)が 遠くより 能く 来(きた)りて 我を慰むを　

扁舟不肯過門回　　　　扁舟 肯えて 門を過ぎて回(かえ)らず

 

【語釈】

○劉戸曹…不祥。○禁花…宮廷庭園の花、ここでは雪が花のように見えること。○子…劉户曹のこと。○扁舟…小舟。

 

★    秋日過子問郊居　　　　秋日過子郊居を問う　　　　　　　　　　  明　　王伯稠

 

映竹緣溪三兩家　　　　竹に映じ 渓に縁(よ)る 三両家　

陰陰樹影日將斜　　　　陰々(いんいん)たる樹影 日 将(まさ)に斜ならんとす　

翩翩黃蝶穿疏蓼　　　　翩々(へんぺん)たる黄蝶(こうちょう) 疏(そ)蓼(りょう)を穿(うが)ち　

喞喞秋蟲語豆花　　　　喞々(しょくしょく)として 秋虫 豆花に語る

 

【語釈】

○緣…沿う。○陰陰…木が生い茂って暗いさま。○將…「まさに～せんとす」と読み「いまにも～しそうである」の意。○翩翩…鳥や昆虫が身軽に飛ぶさま。○疏蓼…まばらなたで。○喞喞…虫の鳴き声の形容。

　

　

★    上菁山訪張山人        菁山(せいざん)に上り 張(ちょう)山人(さんじん)を訪う                   明　　徐　賁

 

此日尋君竟不逢　　　　此の日 君を尋ねて 竟(つい)に逢わず　

閒行直到最高峰　　　　閑(しずか)に行き 直ちに到る 最高峰　　

歸時已是斜陽後　　　　帰時 已に是れ 斜陽の後　

惆悵荒山寺裏鐘　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 荒山 寺裏(じり)の鐘

 

【語釈】

○菁山…不祥。○張山人…不祥。山人は世を逃れて山中に住んでいる人。○惆悵…嘆き悲しむこと。

 

★    訪某附馬　　　　　　　某附(ぼうふ)馬(ば)を訪(おとな)う　　　　　　　　　　　　   明　　孫　蕡

 

青春附馬不還家　　　　青春 附馬 家に還らず　

公主傳宣坐賜茶　　　　公主 伝宣(でんせん)して 坐して茶を賜う　　

十二碧闌春似海　　　　十二碧闌　春　海に似たり　

隔窗閒殺碧桃花　　　　窓を隔てて 閑殺す 碧桃花(へきとうか)

 

【語釈】

○某附馬…不祥。附馬は補助役のこと？○公主…皇帝、諸侯の娘。○傳宣…旨を伝え述べる。○碧闌…緑色の欄干。○閑殺…ひどく閑かな思いにさせる。殺は人を甚だしく思わせる意の助字。○碧桃花…桃の花の一種。

　

　

★    尋隱者不遇　　　　　　隱者を尋ねて遇わず　　　　　　　　　　 明　　徐永寧

 

杖藜徐步出荒原　　　　杖(じょう)藜(れい) 徐(おもむろ)に歩み 荒原に出ず　

漠漠寒雲掩洞門　　　　漠々(ばくばく)たる 寒雲 洞門を掩(おおう)う　

流水桃花人不見　　　　流水 桃花 人見えず　

孤鶯飛過綠楊村　　　　孤(こ)鶯(おう) 飛過ぐ 緑(りょく)楊(よう)の村

 

【語釈】

○杖藜…藜(あかざ)の杖をつくこと。○徐…ゆっくり。○漠漠…一面に続いているさま。○寒雲…寒々として見える雲。

 

 

★    劉氏南亭子　　　　　劉氏の南亭子(なんていし)　　　　　　　　　　　　　　   明　　蔣山卿

 

洛水橋南學士家　　　　洛(らく)水橋(すいきょう)南(なん) 学士の家　

青林遙映碧山斜　　　　青林 遥かに 碧山(へきざん)に映じて斜なり　

春風細雨柴門閉　　　　春風 細雨 柴門(さいもん)を閉ざす

一樹鶯啼杏子花　　　　一樹 鶯は啼く 杏子(きょうし)の花

 

【語釈】

○劉氏…不祥。○南亭子…南の亭。○洛水橋…洛陽を流れる洛水に架かっている橋。○柴門…柴で作った粗末な門。○杏子…杏の木。

 

 

★    次儒珍韻　　　　　　　儒珍の韻に次す　　　　　　　　　　　　  明　　謝　鐸

 

莞海東頭去路賒　　　　莞(かん)海東頭(かいとうとう) 去(きょ)路(ろ)賒(はるか)なり　

獨乘羸馬到君家　　　　独り羸(るい)馬(ば)に乗りて 君が家に到る　

十年夢裏相尋處　　　　十年 夢(む)裏(り)に 相尋ぬる処　

依舊青山兩岸花　　　　旧に依(よ)りて 青山 両岸の花

 

【語釈】

○儒珍…不祥。○次…次韻。同じ韻字を同じ順にして作った詩。○莞海東頭…莞海（不祥）の東のほとり。○去路…旅行く道。○賒…はるか。○羸馬…やせ疲れた馬。○夢裏…夢の中。○依舊…昔のまま。

 

★    毛園萃芳亭與沈中白丘月渚同賦　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　楊　慎

 　　　　　毛園の萃芳亭にて 沈中・白丘・月渚と同(とも)に賦す

 

繚垣洞屋鎖烟霞　　　　垣を繚(めぐ)らす洞屋　煙霞に鎖さる

五色離披百種花　　　　五色の離披(りひ)　百種の花　

客子看來猶駐馬　　　　客子(かくし)　看(み)来(きた)りて　猶お馬を駐む　

主人何事不歸家　　　　主人 何事ぞ 家に帰らざる

 

【語釈】

○毛園萃芳亭…不祥。○沈中・白丘…不祥。○月渚…杜東、邵武（現在の福建）の人。○洞屋…洞窟の中にある家。○煙霞…霞と靄。○離披…分散して垂れ下がっているさま。○客子…旅人。○看來…見る。來は助字。

 

 

★    夜過張子不遇　　　　　 夜 張子に過ぎりて 遇わず                明　　皇甫汸

 

偶隨明月過君家　　　　偶ゝ(たまたま) 明月に隨って 君が家に過ぎる　

幽徑無人自落花　　　　幽径 人無く 自ら落花

書帙亂抛青玉案　　　　書帙(しょちつ) 乱抛(らんほう)す 青玉案(せいぎょくあん)　

尚餘螢火掛窓紗　　　　尚お 蛍火(けいか)を余して 窓紗(そうさ)に掛く　

 

【語釈】

○張子…不祥。○幽徑…静かな小径。○書帙…書籍。○亂抛…乱暴に抛つ。○青玉案…青い玉で飾った机。○窓紗…窓を蔽う薄絹のカーテン。

 

★    訪劉山人不遇　　　　劉山人を訪(おとな)いて遇わず　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

南窓狼藉半牀書　　　　南窓の狼藉(ろうぜき) 半床の書　

階下蒼苔罷掃除　　　　階下の蒼(そう)苔(たい) 掃い除くを罷(や)む　

似是隣人邀作社　　　　是れ 隣人の 邀(もと)めて社を作(な)すに似たり　

不然應釣錦川魚　　　　然らず 応に 錦(きん)川(せん)の魚を釣るなるべし

 

【語釈】

○劉山人…不祥。山人は山に住む隠者。○狼藉…乱れたさま。○邀…求める。○社…土地の神を祭ること。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～に違いない」の意。○錦川…錦水、成都の平原を流れる川。

 

 

★宿林泉觀　　　　　　　林泉の観に宿す　　　　　　　　　　　　 明　　李攀龍

 

盥漱焚香坐翠微　　　　漱に盥(あら)い 香を焚き 翠微(すいび)に坐す

煙霞猶在芰荷衣　　　　煙霞 猶お芰(き)荷(か)の衣に在り　

怪來不作人間夢　　　　怪しみ来る 人間(じんかん)の夢を 作(な)さざるを　

一夜寒泉拂牖飛　　　　一夜 寒泉 牖(まど)を払って飛ぶ

 

【語釈】

○觀…道教の廟。○盥…洗う。○翠微…山のみどりの奥深いひっそりした中腹のあたり。薄緑色のもや。○煙霞…もやと霞。○芰荷…ヒシと蓮。○怪來…怪しむ。來は

助字。○寒泉…冬の冷たい泉。○牖…窓。

 

★    汝思見過林亭　　　　　汝思 林亭に過ぎらる　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

五柳陰陰逼酒清　　　　五柳 陰々として 酒に逼(せま)りて清し　

一杯須見故人情　　　　一杯 須(すべか)らく見るべし 故人の情　

明朝馬上聽黄鳥　　　　明朝(みょうちょう) 馬上 黄鳥を聴かん　

不似樽前喚友聲　　　　似ず 樽前 友を喚ぶ声に

 

【語釈】

○汝思…不祥。○五柳…陶淵明の庭には五本の柳があった。又，柳は別れの印。○陰陰…木が茂って暗いさま。○須…「すべからく～すべし」と読み「当然～すべきだ」の意。○故人…古くからの友人。○黄鳥…コウライ鶯。○樽前…酒樽の前。

 

 

★    訪葛徵君               葛徵君を訪(たず)ぬ　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

西城閑訪葛洪家　　　　西城 閑かに訪ぬ 葛(かっ)洪(こう)の家　

籬落秋餘白荳花　　　　籬落(りらく) 秋余(しゅうよ) 白荳(はくとう)の花　

高枕自知無俗夢　　　　高枕(こうちん) 自(おのずか)ら知る 俗夢(ぞくむ)無きを

數椽茅屋在煙霞　　　　数椽(すうてん)の茅屋 煙霞に在り

 

【語釈】

○葛徵君…不祥。○葛洪…西晋・東晋時代の道教研究家、ここでは葛徵君をそれになぞららている。○籬落…かきね。○秋餘…秋が終わって。○白荳…白豆。○高枕…高枕でねること。○數椽…数軒、椽は家を数える言葉。○茅屋…茅吹きの粗末な家。○煙霞…もやと霞。○數椽…篆書のように連なっている数軒の家。

 

★    北山訪梁思伯不値　　　北山に梁思(りょうし)伯(はく)を訪ねて値(あ)わず　　　　　　  明　　梁有譽

 

竹塢無塵日已曛　　　　竹塢(ちくお) 塵無く 日 已に曛(くん)ず　

數聲啼鳥隔花聞　　　　数声の啼鳥 花を隔てて聞く　

平蕪一望涼風起　　　　平(へい)蕪(ぶ) 一望すれば 涼風起り　

吹落江城萬樹雲　　　　吹き落す 江城 万樹の雲

 

【語釈】

○北山…不祥。○梁思伯…梁孜、広東省順德の人。○竹塢…竹が生い茂った山村。○曛…暗い。○平蕪…草が生い茂った平らな原野。○江城…川の畔にある街。

 

 

★    北山訪梁思伯不値　　　北山に梁思(りょうし)伯(はく)を訪ねて値(あ)わず　　　　　　  明　　梁有譽

 

此日相期汗漫遊　　　　此の日 相(あい)期(き)す 汗漫遊　

獨尋猿鶴北山頭　　　　独り 猿(えん)鶴(かく)を尋ぬ 北山の頭(ほとり)　

池塘花落無人管　　　　池塘(ちとう) 花落ちて 人の管する無く　

空鎖蟬聲一院秋　　　　空しく鎖(とざ)す 蟬声(せんせい) 一院の秋

 

【語釈】

○北山…不祥。○梁思伯…梁孜、広東省順德の人。○汗漫遊…世俗を離れた遊び。○池塘…池の周りの土手。○無人管…人間が手を加えず自然のままにする。○一院…一つの中庭。

 

★    訪陳徳英　　　　　　　陳徳英を訪ぬ　　　　　　　　　　　　   明　　龔明卿

 

椅岸成橋通小蹊　　　　岸に椅(よ)り 橋を成し 小蹊(しょうけい)に通ず　

渓流清浅草萋萋　　　　渓流 清浅(せいせん) 草 萋々(せいせい)　

野花自落春歸去　　　　野(や)花(か) 自(おのずか)ら落ち 春 帰り去り　

澗戸無人山鳥啼　　　　澗(かん)戸(こ) 人 無く 山鳥啼く

 

【語釈】

○陳徳英…不祥。○萋萋…草が盛んに生い茂っているさま。○春歸…春が過ぎ去る。○澗戸…山間の家。

 

 

★    真州訪譚子羽          真州に譚子羽(たんしう)を訪ぬ　　　　　　　　　  明　　陳　鶴

 

海上尋君路半迷　　　　海上に君を尋ね 路 半ばにして迷う　

畫船如入武陵溪　　　　画船 武(ぶ)陵渓(りょうけい)に入(い)るが如し　

橋迴流出桃花水　　　　橋 迴(めぐ)りて 流出す 桃花の水　

應有人家在樹西　　　　応(まさ)に 人家の 樹西に在る有るべし

 

【語釈】

○譚子羽…不祥。○畫船…画で彩られた船。○武陵溪…桃花源記にある武陵溪を流れる渓の意。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。

 

★    宿魯生西斎　　　　　　魯生(ろせい)の西斎(せいさい)に宿す　　　　　　　　　　  明　　程嘉燧

 

石橋明月正東峰　　　　石橋(せききょう)の明月 正に東の峰　

仄聴南屏隔水鐘　　　　仄(ひそか)に聴く 南屏(なんぺい) 水を隔つる鐘　

昨夜西窓風不斷　　　　昨夜 西窓 風 断えず　

半疑巌瀑半疑松　　　　半ば巌瀑(がんばく)かと 疑い半ば松かと疑う

 

【語釈】

○魯生…不祥。○西斎…西の部屋。○南屏…南側の目隠しの壁。○巌瀑…岩にかかった滝。

　

　

★    過孫山人故居　　　　　孫(そん)山人(さんじん)の故居に過ぎる　　　　　　　　　  明　　僧明秀

 

谿邊野竹暎寒沙　　　　谿(けい)辺(へん)の野竹 寒沙(かんさ)に映じ　

茅屋青山處士家　　　　茅屋 青山 処士の家　

燕子歸來寒食雨　　　　燕子 帰り来たる 寒食の雨　

春風開徧野棠花　　　　春風 開きて徧(あまね)し 野棠(やどう)の花

 

【語釈】

○孫山人…不祥、山人は山に住む隠者。○故居…古いすみか。○寒沙…寒々とした砂浜。○茅屋…茅吹きの粗末な家。○處士…民間にあって仕官していない人。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○野棠…野原の海棠。

 

★    喜蔣用弢至自閩南　　　 蔣用弢が閩(びん)南(なん)より至るを喜ぶ　　　　　  清　　週亮工

 

海水群飛百丈高　　　　海水 群飛して 百丈の高　

同君城上擁弓刀　　　　君と同(とも)に 城上にて 弓刀を擁す　

戰瘢莫向燈前看　　　　戦瘢 灯前に向(お)いて 看ること莫(な)かれ　　

恐惹霜華上鬢毛　　　　恐らくは 霜(そう)華(か)を惹(ひ)いて 鬢(びん)毛(もう)に上らん

 

【語釈】

○蔣用弢…不祥。○閩南…福建省の南。○自…より。○戦瘢…戦いで負傷した傷跡。○霜華…美しい霜。ここでは白さが強調される。

　

　

★    題程氏水樓　　　　　　程氏の水楼に題す　　　　　　　　　　　   清　　彭孫遹

 

舊館重来倍寂寥　　　　旧館 重ねて来れば 倍ゝ(ますます)寂寥(せきりょう)　

隔溪惟見柳千隔　　　　渓を隔てて 惟だ見る 柳 千条　

黄花水榭無人到　　　　黄花(こうか) 水榭 人の到る無く　

獨對西風看落潮　　　　独り 西風に対して 落潮を看る

 

【語釈】

○程氏…不祥。○水樓…水辺又は水中の楼。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○黄花…黄色の花。菊の花。○水榭…水際の亭、水亭。○西風…秋風。○落潮…引き潮。

 

 

★    訪張道士題壁　　　　　 張道士を訪ね壁に題す　　　　　　　　　  清　　袁　凱

 

道士門前春日温　　　　道士の門前 春日温(あたたか)し　

千重碧草睡鵞羣　　　　千重の碧草 鵞群(がぐん)を睡らす　

山風忽送桃花雨　　　　山風(さんぷう) 忽(たちま)ち送る 桃花の雨　

濕遍牀頭白練裙　　　　湿遍(しうへん)す 床頭の白練裙(はくれんくん)

 

【語釈】

○張道士…不祥。○鵞羣…鵞鳥の群。○濕遍…遍く湿らせる。○白練裙…白絹製のすそも。

 

 

★    尋友                  友を尋ぬ　　　　　　　　　　　　　　  清　　王仔園

 

亂鳥棲定夜三庚　　　　乱鳥 棲(す)み定まり 夜 三庚　

樓上銀燈一點明　　　　楼上の銀灯 一点(いちてん)明(あき)らかなり　

記得到門還不叩　　　　記し得たり 門に到りて 還(ま)た叩かざるを　

花陰悄聴讀書聲　　　　花陰 悄(かすか)に聴く 読書の声

 

【語釈】

○三庚…午前零時頃。○銀燈…銀色の灯火。○記得…おぼえている。心にしるし留める。○悄…かすか。

 

 

★    州道上過故人居　　　通州道上 故人の居を過ぐ　　　　　　　　   清　　金　潢

 

城北城南數里遙　　　　城北城南 数里遥(はるか)なり　

靑山依約似相招　　　　青山 依(い)約(やく)として 相(あい)招(まね)くに似たり　

西風驢背沈吟客　　　　西風 驢(ろ)背(はい) 沈吟(ちんぎん)の客(かく)　

疎雨殘陽舊板橋　　　　疎(そ)雨(う) 残(ざん)陽(よう) 旧板橋(きゅうはんきょう)

 

【語釈】

○通州…江蘇省南通市。○故人…古くからの友人。○依約…かすかなさま。依稀。○西風…秋風。○驢背…驢馬に乗る。○沈吟…思いに沈む。○殘陽…夕陽。○舊板橋…古い板の橋。

 

 

★    宿程蒨湖書堂不寐題壁時蒨湖赴西郷燕席　　　　　　　　　　  清　　蔣士銓

程蒨(ていせい)湖(こ)の書堂に宿し 寐(いね)ず 壁に題す 時に蒨(せい)湖(こ) 西郷し燕席に赴く

 

華筵絲竹蝋堆盤　　　　華(か)筵(えん) 糸竹(しちく) 蝋(ろう) 盤に堆(うずたか)し　

傀儡登場椅醉看　　　　傀儡(かいらい) 場に登り　酔に椅(よ)りて看る　

豈料空斎亂書裏　　　　豈(あ)に料(はか)らんや 空(くう)斎(さい) 乱書の裏(うち)　

有人消受五更寒　　　　人の 五更の寒を 消受(しょうじゆ)する有りとは

 

【語釈】

○程蒨湖…不祥。○蒨湖…不祥。○西郷…西に向かって坐る。通常、客人が座る位置。○燕席…宴席。○華筵…華やかなむしろ。宴会。○絲竹…管弦、音楽。○蝋…蝋燭。○傀儡…操り人形。○空斎…人気の無い書斎。○五更…午前四時頃、夜明け前。○消受…忍んで受ける。

 

絶句類選標本　三

絶句類選巻之六　　　遊覧類

 

 

 

★    同武平一遊湖　　　　　武平一と同(とも)に湖に遊ぶ　　　　　　　　　  唐　　儲光羲

 

朦朧竹影蔽巖扉　　　　朦朧(もうろう)たる竹影 巌(がん)扉(ぴ)を蔽(おお)う　

淡蕩荷風飄舞衣　　　　淡蕩(たんとう)たる 荷風 舞衣に飄(ひるがえ)る　

舟尋綠水宵將半　　　　舟は 緑水を尋ね 宵 将(まさ)に半(なか)ばならんとす　

月隱青林人未歸　　　　月は 青林に隠れ 人 未だ帰らず

 

【語釈】

○武平一…并州文水の人，名は甄。○朦朧…ほのぐらくぼおっとしているさま。○巖扉…いわやの扉。○淡蕩…ゆったりしてとらわれのないさま。○荷風…蓮を通り抜けた風。○將…「まさに～せんとすと読み、「「いまにも～しそうである、これから～したい」の意。○青林…青々とした林。

 

 

★    春行寄興　　　　　　　 春行寄興　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　華

 

宜陽城下草萋萋　　　　宜(ぎ)陽(よう)城下(じょうか) 草萋々(せいせい)　

澗水東流復向西　　　　澗(かん)水(すい) 東に流れて 復た西に向う

芳樹無人花自落　　　　芳樹 人無く 花 自(おのずか)ら落ち

春山一路鳥空啼　　　　春山 一路 鳥 空しく啼く

 

【語釈】

○春行 … 春の行楽。○寄興 … 感興を詩に託して述べる。○宜陽 … 河南省宜陽県。○

城下 … 城壁の外。町の郊外。○萋萋 … 草が盛んに茂っているさま。○澗水 … 谷川の水。○芳樹 … 芳しい花の咲いている春の木。

(参考文献)　『唐詩選』『漢詩鑑賞時点』

　

★    望廬山瀑布　　　　　　廬山(ろざん)の瀑布を望む　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

日照香爐生紫煙　　　　日は 香炉を照らして 紫煙を生ず　

遙看瀑布挂長川　　　　遥に看る 瀑布の長川(ちょうせん)を挂(か)くるを　

飛流直下三千尺　　　　飛流 直下 三千尺　

疑是銀河落九天　　　　疑うらくは 是(こ)れ 銀河の九天より落つるかと

 

【語釈】

○廬山…陶淵明以来、数々の詩に詠まれている江西省九江市南部の名勝。東西二大伽藍があり、南方仏教の中心地。○香爐…香炉峰、廬山の主峰の一つ、形が高香炉に似ているからこう呼ぶ。○紫煙　紫のもや。山気が日光に霞む様子。○疑是　～と疑うほどだ。○九天…空の非常に高いところ。

(参考文献)　『漢詩鑑賞辞典』

 

★    東魯門泛舟　　　　　　東魯門(とうろもん)に舟を泛ぶ                        唐　　李　白

 

日落沙明天倒開　　　　日落ち 沙(すな)明にして 天 倒(さかしま)に開く　

波搖石動水縈迴　　　　波揺れ 石動きて 水　縈迴(えいかい)す　

輕舟泛月尋溪轉　　　　軽舟 月を泛(うか)べて 渓を尋ねて転ずれば

疑是山陰雪後來　　　　疑らくは是れ 山陰 雪後に来るかと

 

【語釈】

○東魯門…山東省済寧市の地名。○縈迴…めぐりめぐる。○山陰雪後…王徽之嘗て山陰（浙江省紹興市）に居り，忽然想起し剡中（浙江省嵊縣）住在し安道に戴る，于是に夜雪初霁が在り、月色清朗の夜里，小舟に乘り去りて他を望み看る，門に過りて入らずして返える。（『世説新語』任誕）

（参考文献）　『漢詩大系　８』

 

★    遊洞庭湖　　　　　　　洞庭湖に遊ぶ　　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

洞庭西望楚江分　　　　洞庭西に望めば楚江分る　

水盡南天不見雲　　　　水尽きて南天雲を見ず　

日落長沙秋色遠　　　　日落ちて長沙秋色遠し　

不知何處弔湘君　　　　知らず何れの処にか湘君を弔わん

 

【語釈】

○洞庭湖 … 湖南省北部にある巨大な湖。○楚江 … 長江の湖南・湖北省一帯の川を指す。○水盡…水平線。○長沙 …湖南省長沙市。○秋色…秋の景色。○湘君 … 洞庭湖に注ぐ湘水の女神のこと。堯帝の二人の娘、姉の娥が皇こうと妹の女英じょえいは、ともに舜帝の妃となったが、舜帝が没した時、その後を追って湘水に身を投げて死に、水神になったという。

（参考文献）　『唐詩選』

○    遊洞庭湖　　　　　　　洞庭湖に遊ぶ　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

洞庭湖西秋月輝　　　　洞庭(どうてい)湖西 秋月輝き　

瀟湘江北早鴻飛　　　　瀟湘江北 早鴻飛ぶ　

醉客滿船歌白苧　　　　酔客 船に満ち 白苧を歌う　

不知霜露入秋衣　　　　知らず 霜露 秋衣に入るを

 

【語釈】

○洞庭湖 … 湖南省北部にある巨大な湖。○瀟湘江…洞庭湖の南の瀟水・湘水。八箇所の佳景は瀟湘八景と呼ばれた。◇鴻…大型の水鳥。ひしくい（大雁）や白鳥の類。◇醉客　李白自身とその連れを客観視して言う。◇白苧…白紵歌。古くから伝わる歌曲。

(参考文献)　　『漢詩大系　８』

　

 

★    魯門泛舟　　　　　　　魯門(ろもん)に舟を泛ぶ　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

水作青龍盤石堤　　　　水は青竜と作(な)り 石堤に盤(ばん)す　

桃花夾岸魯門西　　　　桃花 岸を夾(さしはさ)む 魯門(ろもん)の西　

若教月下乘舟去　　　　若(も)し 月下に舟に乗じて去さらしめば　

何啻風流到剡溪　　　　何啻(なんぞただ) 風流 剡渓に到るのみならんや

 

【語釈】

○魯門…山東省の地名。○何啻…「なんぞたら～のみならんや」と読み、「どうして単に～だけであろうかの意。○剡溪…浙江省曹娥江の上流。○風流剡渓…王子猷の故事（『世説新語』任堪）

　

　

★    峨眉山月歌　　　　　　峨(が)眉山(びさん)月(げつ)の歌　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

峨眉山月半輪秋　　　　峨(が)眉山(びさん)月(げつ) 半輪の秋　

影入平羌江水流　　　　影は 平羌(へいきょう) 江水に入って流る　

夜發清溪向三峽　　　　夜 清渓(せいけい)を発して 三峡に向う　

思君不見下渝州　　　　君を思えども見えず 渝州(ゆしゅう)に下る

 

【語釈】

○峨眉山…四川省峨眉の東南にあるけわしい山。○平羌江…峨眉山の北側を流れる青衣江。○三峡…四川省の奉節県から湖北省の宣昌までの大渓谷。途中三つの渓谷があるのをまとめて、「三峡」という。○清渓…四川省漢源県。○渝州…今の重慶。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』『唐詩選』

 

 

★    滁州西澗　　　　　　　滁州の西澗　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋應物

 

獨憐幽草澗邊生　　　　独り憐れむ 幽草の澗(かん)辺(ぺん)に生ずるを　

上有黃鸝深樹鳴　　　　上に 黄鸝(こうり)の 深樹に鳴く有り　

春潮帶雨晚來急　　　　春(しゅん)潮(ちょう) 雨を帯びて 晩来(ばんらい)　急なり　　

野渡無人舟自橫　　　　野(や)渡(と) 人無く 舟 自(おのずか)ら横たわる

 

【語釈】

○滁州…安徽省滁市。○西澗：西側の谷川。○幽草：奥深い谷に生ずる草。○澗邊：谷川の岸辺。○黄鸝…コウライウグイス。○深樹：生い茂った木々。春潮：春の日のうしお。　○晩來…夕暮れになってから。○野渡…田舎の舟渡し場。郊外の渡し場。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』『唐詩選』

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　甫

 

兩箇黃鸝鳴翠柳　　　　両箇(りょうこ)の黄鸝(こうり) 翠(すい)柳(りゅう)に鳴き　

一行白鷺上青天　　　　一行(いっこう)の白鷺(はくろ) 青天に上る　

窗含西嶺千秋雪　　　　窓は含む 西嶺(せいれい) 千秋の雪　

門泊東呉萬里船　　　　門は泊(はく)す 東呉(とうご) 万里の船

 

【語釈】

○両箇…二つ。○黄鸝…コウライウグイス。○翠柳…緑の柳。○一行…一列。○含…窓枠に景色がはめこまれているようなさま。○西嶺…成都西方の山。○千秋雪…万年雪。○東呉…東のほうの呉の地方。江蘇省。

（参考文献）　『中国名詞集』

 

 

★    漫興　　　　　　　　　漫興　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　甫

 

腸斷春江欲盡頭　　　　腸断(ちょうだん) 春江 尽きんと欲する頭(ほとり)　

杖藜徐步立芳洲　　　　杖(じょう)藜(れい) 徐(おもむろ)に歩き 芳(ほう)洲(しゅう)に立つ

顛狂柳絮隨風去　　　　顛狂(てんきょう)の柳絮(りゅうじょ) 風に随って去り

輕薄桃花逐水流　　　　軽薄の桃花 水を逐(お)って流る

 

【語釈】

○漫興…なんとなく催した感慨。○腸斷…思いのたかまりが消失していくこと。○欲盡頭…春を盛りにしていた景色の構成要素が消滅していくこと。○杖藜…藜（アカザ，軽いので老人、仙人の杖として用いる）を杖にする。○徐步…おもむろにあるく。○芳洲…美しい中洲。○顛狂…気が狂う。動作が落ち着かないことの喩え。

（参考文献）　『中国詩人撰集』

★泛洞庭湖　　　　　　　洞庭湖に泛(うか)ぶ　　　　　　　　　　　　  唐　　賈　至

 

江上相逢皆舊遊　　　　江上 相(あい)逢(あ)うは 皆旧遊　

湘山永望不堪愁　　　　湘山(しょうざん) 永望すれば 愁に堪えず　

明月秋風洞庭水　　　　明月 秋風 洞庭の水　

孤鴻落葉一扁舟　　　　孤(こ)鴻(こう) 落葉 一扁舟　

 

【語釈】

○洞庭湖 … 湖南省北部にある巨大な湖。○旧遊…昔からの交友。○湘山…洞庭湖にある君山。○孤鴻…孤独なおおとり。○扁舟…小舟。

 

 

★    泛洞庭湖　　　　　　　洞庭湖に泛(うか)ぶ　　　　　　　　　　　  唐　　賈　至 

 

楓岸紛紛落葉多　　　　楓(ふう)岸(がん) 紛々(ふんぷん) 落葉多し　

洞庭秋水晚來波　　　　洞庭 秋水 晩来(ばんらい)波だつ　

乘興輕舟無近遠　　　　興に乗じて 軽舟 近遠無し　

白雲明月弔湘娥　　　　白雲 明月 湘娥(しょうが)を弔う

 

【語釈】

○洞庭湖 … 湖南省北部にある巨大な湖。○楓岸 … 楓の木の立ち並ぶ岸辺。○紛紛 … 入り乱れて散るさま。○秋水 … 秋の澄んだ水面。○晩来 … 夕方とともに。夕暮れを迎えて。来は、時をあらわす語につく助辞。○波 … 動詞として「なみだつ」と読む。○乗興 … 感興のわくままに。興の赴くままに。東晋の王徽之の故事（『世説新語』任湛）。○白雲明月 … 白雲たなびき、明るい月の光の下で。○湘娥 … 洞庭湖に注ぐ湘水の女神（娥皇と女英）のこと。

（参考文献）　『唐詩選』

★    春郊　　　　　　　　　 春郊　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　錢　起

 

水遶冰渠漸有聲　　　　水は 冰渠を遶(めぐ)り 漸(ようや)く声有り　

氣融煙塢晚來明　　　　気は 煙塢(えんお)を融かし 晩来(ばんらい)明(あきら)かなり　

東風好作陽和使　　　　東風 好く 陽和(ようわ)の使と作(な)り　

逢草逢花報發生　　　　草に逢い 花に逢い 発生を報ず

 

【語釈】

○春郊…春の郊外。○冰渠…氷の張った溝。○漸…だんだんと、次第に。○煙塢…もやのかかっている村。○晚來…夕方になってから。○東風…春風。○陽和…のどかな春候。○發生…春が来たこと。

 

 

★    宿石邑山中　　　　　　石邑(いしゆう)山中(さんちゅう)に宿す　　　　　　　　　　　   唐　　韓　翃

 

浮雲不共此山齊　　　　浮雲も 此の山と 斉(ひと)しからず　　

山靄蒼蒼望轉迷　　　　山(さん)靄(あい) 蒼々(そうそう)として 望み転(うた)た迷う　

曉月暫飛千樹裏　　　　暁(ぎょう)月(げつ) 暫(しばら)く飛ぶ 千樹の裏　

秋河隔在數峰西　　　　秋河は隔てて 数峰の西に在り

 

【語釈】

○石邑…河北省石家荘市の西、鹿泉県（河北省石家荘市鹿泉区）の古名。○共…～と」と読み、「～と」と訳す。与に同じ。○不～斉…等しくない。○山靄…山にかかる靄もや。○蒼蒼…青黒い色の形容。○望…眺めやると。眺めわたせば。○転…いよいよ。ますます。○迷…方角に迷う。○秋河…天の川。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    洛中即事　　　　　　　 洛中即事　　　　　　　　　　　　　　  唐　　竇　鞏

 

高梧葉盡鳥巢空　　　　高梧(こうご) 葉尽き 鳥(ちょう)巣(そう)空し　

洛水潺湲夕照中　　　　洛水 潺湲(せんかん) 夕照の中(うち)　

寂寂天橋車馬絕　　　　寂々(せきせき)たる天橋 車馬絶え　

寒鴉飛入上陽宮　　　　寒鴉 飛び入る 上陽宮(じょうようきゅう)

 

【語釈】

○洛中…洛陽の街。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○高梧…高いアオギリ。○洛水…洛陽を流れる川。○潺湲…浅い水の流れるさま。○寂寂…寂しくしずかなさま。○天橋…天上の橋のような橋。洛水橋のこと？○上陽宮…洛陽の宮殿の名。

　

 

★    曲江春望              曲江春望　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　盧　綸

 

菖蒲飜葉柳交枝　　　　菖蒲は 葉を翻えし 柳は枝を交(まじ)う　

暗上蓮舟鳥不知　　　　暗に 蓮(れん)舟(しゅう)に上(のぼ)り 鳥知らず　

更到汀花最深處　　　　更に 汀(てい)花(か)の最も深き処に到れば

玉樓金殿影參差　　　　玉楼 金殿 影 参(しん)差(し)たり

 

【語釈】

○曲江…長安の東南にある池。○暗…ひそかに。○蓮舟…蓮の実を採るための舟。○汀花…なぎさに咲く花。○玉樓…玉で飾った楼閣。楼閣の美称。○金殿…金で飾った宮殿。宮殿の美称。○參差…不揃いなさま。連なっているさま。

 

★    山店　　　　　　　　　山店　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　盧　綸

 

登登山路何時盡　　　　登(とう)々(とう)たる山路 何(いずれ)の時にか尽く　　　　

決決溪泉到處聞　　　　決々(けつけつ)たる渓泉 到る処に聞(きこ)ゆ　

風動葉聲山犬吠　　　　風は葉声(ようせい)を動かして 山犬吠ゆ　

一家松火隔秋雲　　　　一家の松火 秋雲を隔(へだ)つ

 

【語釈】

○山店…山中の店。○登登…のぼるさま。○決決…水の流れるさま。さらさら。○松火…照明用のたいまつ。

 

 

★    城東早春　　　　　　　城東早春　　　　　　　　　　　　　　  唐　　楊巨源

 

詩家清景在新春　　　　詩家の清景 新春に在り　

柳嫩鵞黄色未勻　　　　柳 嫩(どん)にして 鵞(が)黄(こう)色(しょく) 未だ勻(ととの)わず

若待上林花似錦　　　　若し 上林(じょうりん)花(か)の 錦に似たるを待たば

出門皆是看花人　　　　門を出ずるは 皆 是れ 花を看る人　　　　

 

【語釈】

○清景…清新な風景。○嫩…わかく柔らか。○鵞黄色…鵞の雛の黄色、柳の新芽の色に比したもの。○上林…漢の武帝が築いた宮殿、転じて天子の御苑をいう。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

 

★    逢鄭三遊山　　　　　　鄭(てい)三(さん)の山に遊ぶに逢う　　　　　　　　　  唐　　盧　仝

 

相逢之處花茸茸　　　　相逢(あいあ)うの処 花茸(じょう)々(じょう)　

石壁攢峰千萬重　　　　石壁 攢(さん)峰(ぽう) 千万重(せんまんちょう)　

他日期君何處好　　　　他日 君を期すに 何れの処か好からん　

寒流石上一株松　　　　寒流 石上 一株(いっしゅ)の松

 

【語釈】

○鄭三…不祥。○茸茸…草（花）が盛んに繁っているさま。○攢峰…集まった峰。○千萬重…数多く重なりあっているさま。○期…逢うことを期待する。

　

　

★    同張籍曲江春遊寄白舍人　張(ちょう)籍(せき)と同(とも)に曲江に春遊し白舍人に寄す　　  唐　　韓　愈

 

漠漠輕陰晚自開　　　　漠漠(ばくばく)たる軽陰(けいいん) 晩に自(おのずか)ら開く　

青天白日映樓臺　　　　青天 白日 楼台に映ず　

曲江水滿花千樹　　　　曲江に水は満ち 花千樹　

有底忙時不肯來　　　　底の忙時 肯えて来らざる有り

【語釈】

○張籍…唐吳郡の人。字は文昌。　德宗貞元十五年の進士。累遷して水部員外郎となる。○白舍人…白居易。○曲江…長安の南西にある池。○漠漠…一面に続いているさま。○輕陰…薄い雲。○底…草稿（枢密院での用語）。○忙時…忙しい時。

 

 

★    隄上行                隄上(ていじょうこう)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

酒旗相望大隄頭　　　　酒旗 相望む 大隄の頭(ほとり)　

堤下連檣堤上樓　　　　堤下の連檣(れんしょう) 堤上の楼　

日暮行人爭渡急　　　　日暮れて 行人(こうじん) 渡(わたる)を争うこと急なり　

槳聲鳴軋滿中流　　　　槳(しょう)声(せい) 鳴軋(めいきつ) 中流に満つ

 

【語釈】

○隄上行…楽府題、船着き場を詠った曲。○酒旗…酒屋の旗。○相望…あちこちに見られる。○連檣…帆柱が連なっているさま。○行人…旅人。○槳聲…舵の音。○鳴軋…ぎしぎしという音を立てる。

（参考文献）　『中国名詩選』

 

 

★    月望洞庭　　　　　　　 月に洞庭を望む　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

湖光秋月兩相和　　　　湖光 秋月 両(ふた)つながら相和(あいわ)す　

潭面無風鏡未磨　　　　潭面(たんめん) 風無けれども 鏡 未だ磨かず　

遙望洞庭山水翠　　　　遥かに望む 洞庭 山水の翠(みどり)なるを

白銀盤裏一青螺　　　　白(はく)銀盤(ぎんばん)裏(り)の一青螺(いちせいら)

 

【語釈】

○洞庭…洞庭湖（湖南省北部にある巨大な湖）にある君山。○潭面…淵の水面。○鏡未磨…細かい波が立っている。○白銀盤…銀の皿。○青螺…青い田螺。

 

★    自朗州召至京戲贈看花諸君子　　　 　　　　　　　　　　　　　唐　　劉禹錫

朗州(ろうしゅう)自(よ)り召されて京に至り 戯(たわむれ)に花を看る諸君子に贈る

 

紫陌紅塵拂面來　　　　紫陌 紅塵 面を払って来る　

無人不道看花回　　　　人の 花を看て回ると 道わざるは無し　

玄都觀裏桃千樹　　　　玄(げん)都(と)観(かん)裏(り) 桃 千樹　

盡是劉郎去後栽　　　　尽(ことごと)く 是れ 劉郎去りて後 栽えたり

 

【語釈】

○朗州…湖南省常徳市。○自…「より」と読み、「～から」と訳す。時間・場所などの起点を示す。○紫陌…都大路。○紅塵…にぎやかな町の道路に舞い上がる土ぼこり。○払面来…顔に当たって飛んで来る。○玄都観…長安にあった道教の寺院。○劉郎 … 劉さん。劉禹錫自身をいう。

（参考文献）　　『唐詩選』

　

 

★    與賈島閑遊　　　　　　賈島と閑遊(かんゆう)す　　　　　　　　　　　　  唐　　張　籍

 

水北原南草色新　　　　水(すい)北(ほく) 原南(げんなん) 草色新たなり　

雪消風暖不生塵　　　　雪消え 風暖かにして 塵を生ぜず　

城中車馬應無數　　　　城中の車馬 応(まさ)に無数なるべきも　

能解閑行有幾人　　　　能(よ)く 閑(かん)行(こう)を解するは 幾人か有る

 

【語釈】

○賈島…中唐の詩人、推敲で有名。○閑遊…のんびり遊ぶ。○水北…川の北。○原南…原野の南。○能…～出来る。○閑行…心閑に歩く。

（参考文献） 『和漢名詞選類評釈』

 

★    隄上行　　　　　　　　隄上(ていじょう)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

江南江北望煙波　　　　江南 江北 煙波(えんぱ)を望む　

入夜行人相應歌　　　　夜に入りて 行人(こうじん) 相(あい)応(おう)じて歌う　

桃葉傳情竹枝怨　　　　桃(とう)葉(よう)は情を伝え 竹(ちく)枝(し)は怨む　

水流無限月明多　　　　水流 限り無く 月明多し

 

【語釈】

○隄上行…楽府題、船着き場を詠った曲。○煙波…水面のもや。○行人…旅人。

　

 

★    上香爐峰　　　　　　　香爐(こうろ)峰(ほう)に上る　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

倚石攀籮歇病身　　　　石に倚(よ)り籮(ら)を攀(よ)じ 病身を歇(やす)ましむ　

青笻竹仗白紗巾　　　　青笻(せいきょう)の竹仗(ちくじょう) 白紗(はくさ)の巾(きん)　

他時畫出廬山障　　　　他時 廬山(ろざん)の障(しょう)を 画き出(い)ださば　

便是香爐峰上人　　　　便(すなわ)ち是れ 香炉峰上の人

 

【語釈】

○香爐峰…廬山の一つの峰。○青笻…竹の一種。○白紗…白い薄絹。○巾…ハンカチ。○

他時…後日。○廬山…江西省九江市南部にある名山。○障…ついたて。○是…英語のbe動詞にあたり、「コレ」と訓読する。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

★    香山避暑　　　　　　　香山(こうざん)避暑(ひしょ)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

紗巾草履竹疎衣　　　　紗巾(さきん)　草履(ぞうり)　竹(ちく)疎(そ)衣(い)　

晚下香山蹋翠微　　　　晩(ばん)に香山(こうざん)を下りて 翠微(すいび)を蹋(ふ)む　

一路涼風十八里　　　　一路 涼風 十八里　

臥乘籃輿睡中歸　　　　臥(が)して 籃(らん)輿(よ)に乗(じょう)じて 睡中(すいちゅう)に帰る

 

【語釈】

○香山…香山寺、洛陽の寺の名。○紗巾…薄絹の頭巾。○竹疎衣…竹の繊維を織って作った衣。晚下…日暮れ。翠微…山の八合目。籃輿…竹を編んで作った籠。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集十一』『和漢名詞選類評釈』

　

 

★    和裴相公傍水閑行     裴相(はいしょう)公(こう)の傍(ぼう)水(すい)閑(かん)行(こう)に和す　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

行尋春水坐看山　　　　行きて 春水を尋ねて 坐して山を看(み)　

早出中書晚未還　　　　早(つと)に中書を出(いで)て 晩(く)れに未だ還らず　

爲報野僧巖客道　　　　為に報ず 野僧 巌客(げんかく)の道

偷閑氣味勝長閑　　　　閑を偷(たの)しむ気味は 長閑(ちょうかん)なるに勝れりと

 

【語釈】

○裴相公…裴度。河東聞喜（山西省）の人。中書侍郎、同中書門下平章事（宰相）となった。節度使を抑圧し、宦官に対しても強硬策をとり、憲宗、穆宗、敬宗、文宗の四朝にわたって活躍した。○中書…中書省。○野僧…山野を歩く僧。○巖客…木犀のこと。○偷閑…忙中に閑暇をとること。○気味…意趣あるいは情調。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　九』

　

 

★    暮江吟　　　　　　　　暮江吟(ぼこうぎん)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

一道殘陽鋪水中　　　　一道の残(ざん)陽(よう) 水中に鋪(し)き　

半江瑟瑟半江紅　　　　半江は瑟々(しつしつ) 半江は紅なり　

可憐九月初三夜　　　　憐むべし 九月 初(しょ)三(さん)の夜　

露似真珠月似弓　　　　露は真珠に似 月は弓に似たり

 

【語釈】

○一道…一筋。○殘陽…夕陽。○瑟瑟…さびしい音や色の形容。ここでは、水の碧く清んださま。○可憐…深い感動を表す言葉。ああ。○初三夜…月の三日目。

（参考文献）　『中国名詩選』『新釈漢文大系　白氏文集　四』

　

 

★    三月晦日題慈恩寺   三月晦日慈恩寺(じおんじ)に題す　　　　　　  唐　　白居易

 

慈恩春色今朝盡　　　　慈(じ)恩(おん)の春色 今朝(こんちょう) 尽き　

盡日裴回倚寺門　　　　尽日(じんじつ) 裴回し 寺門に倚(よ)る　

惆悵春歸留不得　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 春 帰りて 留め得ざるを　

紫藤花下漸黃昏　　　　紫藤(しとう)花下(かか) 漸(ようや)く 黄昏(こうこん)

 

【語釈】

○晦日…三十日。○慈恩寺…西安市南東郊外にある仏教寺院であり、三蔵法師玄奘ゆかりの寺。○春色…春の気配。○惆悵…嘆き悲しむ。○春歸…春が過ぎ去る。○紫藤花…紫色の藤の花。○漸…だんだんと。○黃昏…たそがれ。

（参考文献）　『漢詩大系』『新釈漢文大系　白氏文集　三』

★    題水月臺　　　　　　　水月台に題す　　　　　　　　　　　   唐　　李　涉

 

 

平流白日無人愛　　　　平流 白日 人の愛する無く　

橋上閑行若箇知　　　　橋上 閑行すれば 箇若(いずれのところ)か知る　

水似晴天天似水　　　　水は晴天に似 天は水に似たり

兩重星點碧琉璃　　　　両重(りょうちょう) 星点 碧琉璃(へきるり)　

 

【語釈】

○水月臺…不祥。○平流…閑かな水流。○閑行…閑かに歩く。○若箇…何処。○両重…重なりあう。○星點…点々とした星。○碧琉璃…瑠璃のような緑色で透明なさま。

　

★    題侯仙亭              侯仙亭に題す    　　　　　　　　　　  唐　　沈亞之

 

新創仙亭覆石壇　　　　新たに創(きず)く仙亭 石壇を覆(くつがえ)す　

雕梁峻宇入雲端　　　　雕(ちょう)梁(りょう) 峻宇(しゅんう) 雲端(うんたん)に入る　

嶺北嘯猨高枕聽　　　　嶺北の嘯猨(しょうえん) 枕を高くして聴き　

湖南山色捲簾看　　　　湖南の山色 簾(すだれ)を捲(ま)いて看る

 

【語釈】

○侯仙亭…不祥。○新創…新たに作る。○石壇…石で出来た壇。○雕梁…彫刻が施された梁。○峻宇…広大な家。○嘯猨…猿の鳴き声。○山色…山の景色。

 

★    雨霽登北岸　　　　　　雨霽(は)れて北岸に登る　　　　　　　　　　  唐　　盧　殷

 

稻黃撲撲黍油油　　　　稲(とう)黄(こう) 撲々(ぼくぼく) 黍(きび) 油々(ゆゆ)　

野樹連山澗自流　　　　野樹 山に連って 澗(かん) 自(おのずから)ら流る　

憶得年時馮翊部　　　　憶い得たり 年時 馮翊(ひょうよく)部　

謝郎相引上樓頭　　　　謝郎(しゃろう) 相引いて 楼頭に上るを

 

【語釈】

○稻黃…黄色く実った稲。○撲撲…打ち当たるさま。○油油…伸びて美しいさま。○澗…渓水。○年時…年月。昔年。○­馮翊…地名。○謝郎…謝さん。不祥。

　

 

★    同諸隱者夜登四明山　　諸隱者と同(とも)に 夜 四(し)明山(めいざん)に登る　　　　　  唐　　施肩吾

 

半夜尋幽上四明　　　　半夜 幽(ゆう)を尋ね 四(し)明(めい)に上る　

手攀松桂觸雲行　　　　手は松(しょう)桂(けい)を攀(よ)じ 雲に触れて行く　

相呼已到無人境　　　　相呼べば 已に到る 無人の境　

何處玉簫吹一聲　　　　何れの処の玉簫(ぎょくしょう) 吹くこと一声

 

【語釈】

○四明山…浙江省寧波市の四明山。○半夜…真夜中。○四明…四明山○幽…深い趣き。○玉簫…玉で作った笛。笛の美称。

 

★    天津橋望春   　　　　 天津橋 望春　　　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

津橋春水浸紅霞　　　　津(しん)橋(きょう)の春水 紅(こう)霞(か)を浸し　

煙柳風絲拂岸斜　　　　煙(えん)柳(りゅう) 風(ふう)糸(し) 岸を払って斜めなり　

翠輦不來金殿閉　　　　翠輦(すいれん) 来らず 金殿(きんでん)閉ざす　

宮鶯銜出上陽花　　　　宮(きゅう)鶯(おう) 銜(くわ)えて出ず 上陽(じょうよう)花(か)

 

【語釈】

○天津橋…洛陽の西南にある橋。○津橋…天津橋。○紅霞…夕焼け。紅色の霞。○煙柳…靄や霞で煙った柳の林。○風絲…そよかぜ。○翠輦…天子の乗り物。○金殿…宮殿。○宮鶯…宮殿に住むウグイス。○上陽宮（洛陽の宮殿の名）の花木、美人にたとえる。

 

 

★    秋塘曉望　　　　　　　秋塘曉(しゅうとうぎょう)望(ぼう)　　　　　　　　　　   唐　　杜　牧（吳商浩）

 

鐘盡疎桐散宿鴉　　　　鐘 尽きて 疎(そ)桐(とう) 宿(しゅく)鴉(あ)散ず　

故山煙樹隔天涯　　　　故山の煙樹 天涯を隔つ　

西風一夜秋塘曉　　　　西風 一夜 秋塘(しゅうとう)の暁　

零落幾多紅藕花　　　　零落(れいらく)す 幾多の紅藕(こうぐう)花(か)

 

【語釈】

○秋塘…秋の堤。○宿鴉…ねぐらの烏。○故山…故郷の野山。○煙樹…靄にかすんでいる樹。○西風…秋風。○零落…草木が枯れ落ちること。○幾多…たくさん。いかほど。○紅藕花…蓮の花。

 

 

★    江南春　　　　　　　　江南の春　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

千里鶯啼綠映紅　　　　千里 鶯 啼いて 緑 紅に映ず　

水村山郭酒旗風　　　　水村山郭 酒旗の風　

南朝四百八十寺　　　　南朝 四百八十寺(しひゃくはっしんじ)　

多少樓臺煙雨中　　　　多少の楼台 煙雨の中

 

【語釈】

○江南…揚子江下流の江南地方。○水村…水辺の村。○山郭…山間の村。○南朝…南北朝時代の宋、斉、梁、陳、呉・東晋の六朝。○煙雨…こぬか雨

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』　『漢詩大系』

 

 

★    山行　　　　　　　　　山行　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

遠上寒山石徑斜　　　　遠く寒山に上れば 石径 斜めなり　

白雲生處有人家　　　　白雲 生ずる処 人家有り

停車坐愛楓林晚　　　　車を停めて 坐(そぞろ)に愛す 楓(ふう)林(りん)の晩(くれ)

霜葉紅於二月花　　　　霜(そう)葉(よう)は 二月の花よりも 紅なり

【語釈】

○山行 … 山歩き。○寒山 … 秋から冬にかけての、さむざむとした山。○石径 … 石の多い小道。○楓林 … カエデの林。紅葉林。○霜葉 … 霜にうたれて紅葉した葉。○於 … 「A～於B」の形で「AはBより（も）～（なり）」と読み、「AはBよりも～だ」と

○二月花 … 陰暦二月。桃の花を指す。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』　『漢詩大系』

 

★    三十六灣　　　　　　　三十六湾　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　許　渾

 

縹緲臨風思美人　　　　縹緲(ひょうびょう)として風に臨み 美人を思う　

荻花楓葉帶離聲　　　　荻(てき)花(か) 楓葉 離声を帯ぶ

夜深吹笛移船去　　　　夜深くして 笛を吹き 船を移し去れば

三十六灣秋月明　　　　三十六湾 秋月 明らかなり

 

【語釈】

○三十六灣…自注があって、この場合湖南省岳陽市にある湾。○縹緲…遠くかすかなさま。○美人…立派な人。○荻花…荻の花。○離声…離別の声音。○去…行く。

　

 

★    雲開見華山　　　　　　雲開き華山を見る　　　　　　　　　　  唐　　李　頻

 

夹道人家水竹間　　　　道を夹(さしはさ)みて人家 水竹閑(しずか)なり

馬頭山色畫應難　　　　馬頭の山色 画くこと 応(まさ)に難かるべし

天公故自開雲幕　　　　天公 故(ことさら)に 自(おのずか)ら 雲幕(うんばく)を開き

乞與蓮峰仔細看　　　　蓮(れん)峰(ほう)を乞与(きつよ)して 仔細に看せしむ

 

【語釈】

○華山…陝西省華陰市にある山、五嶽の一つ。○馬頭山…崋山にある山。○天公…天帝。○乞與…与える。○蓮峰…華山の峰の一つ。

 

★    松江早春　　　　　　　松江(しょうこう)早春(そうしゅん)　　　　　　　　　　　　　  唐　　皮日休

 

松陵清淨雪消初　　　　松(しょう)陵(りょう) 清浄にして 雪 消ゆるの初(はじめ)　

見底新安恐未如　　　　見底(けんてい) 新安 恐(きょう) 未だ如(ゆ)かず　

穩凭船舷無一事　　　　穏かに 船(せん)舷(げん)に凭(よ)り 一事無く　

分明數得鱠殘魚　　　　分明に 数え得たり 鱠残(かいざん)魚(ぎょ)

 

【語釈】

○松江…上海市内を流れる川で蘇州河とも呼ばれる。○見底…水の清いさま。○新安…浙江省杭州市。○如…行く。○船舷…ふなべり。○分明…はっきりと。○鱠殘魚…しらうお。

　

 

★    晚渡　　　　　　　　　晚に渡る　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸龜蒙

 

半陂風雨半陂晴　　　　半陂(はんぱ)は風雨 半陂(はんぱ)は晴

漁曲飄秋野調清　　　　漁曲 秋に飄(ひるがえ)りて 野調清し

各漾蓮船逗村去　　　　各ゝ(おのおの) 蓮(れん)船(せん)を漾(よう)して 逗(とう)村(そん)に去り

笠簷衰袂有殘聲　　　　笠簷(りゅうえん) 衰(すい)袂(けつ) 残声に有り

 

【語釈】

○半陂…波の周期の半分。○漁曲…猟師の歌う舟歌。○野調…村野の曲調。○蓮船…蓮の実を採る船。○漾…うかべる。○逗村…宿の村。○笠簷…笠のひさし。○衰袂…古く衰えた袖。

 

★    九華樓晴望　　　　　　九(きゅう)華楼(かろう)晴望　　　　　　　　　　　　　唐　　張　喬

 

一夜江潭風雨後　　　　一夜 江潭(こうたん) 風雨の後　　　　

九華晴望倚天秋　　　　九(きゅう)華(か) 晴望 天に倚(よ)る秋　　　　

重來此地知何日　　　　重来(ちょうらい) 此の地 何れの日か知らん　　　　　

欲別殷勤更上樓　　　　別れんと欲して 殷(いん)勤(ぎん)に 更に楼に上る

 

【語釈】　　　

○九華樓…不祥。○江潭…江水の深い処。○九華…九華楼のこと。○重來…重ねてくる。

 

 

★    長溪秋望　　　　　　　長溪(ちょうけい)秋(しゅう)望(ぼう)　　　　　　　　　　　　　　   唐　　唐彥謙

 

柳短莎長溪水流　　　　柳は短く 莎(はますげ)は長く 渓水流る　

雨微煙暝立溪頭　　　　雨は微(かす)かに 煙は暝(くら)く渓頭に立つ　

寒鴉閃閃前山去　　　　寒鴉は 閃々(せんせん)として 前山に去り　

杜曲黃昏獨自愁　　　　杜曲(ときょく)は 黄昏(こうこん)に 独り 自(おのずか)ら愁う

 

【語釈】

○秋望…秋の眺め。○暝…暗い。○閃閃…動いてひらめくさま。○杜曲…西安の東南の地名。

 

★    野塘　　　　　　　　　 野塘(やとう)　　　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

侵曉乘涼偶獨來　　　　暁を侵(おか)し 涼に乗(じょう)じて 偶ゝ(たまたま)独(ひと)り来る　

不因魚躍見萍開　　　　魚の躍るに因(よ)らずして 萍(ひょう)の開くを見る　

卷荷忽被微風觸　　　　巻(けん)荷(か) 忽ち微風に触れられ　

瀉下清香露一杯　　　　瀉(そそ)ぎ下す 清香の露一杯

 

【語釈】

○野塘…野原の中の池。侵曉…明け方。○乘涼…納涼する。乘は便乗の乘。○萍…浮き草。○卷荷…巻いている蓮の葉。

（参考文献）　『三体詩』

　

 

★    溪岸秋思             溪岸秋思     　　　　　　　　　　　　  唐　　杜荀鶴

 

桑柘窮頭三四家　　　桑柘窮頭 三四家　

挂罾垂釣是生涯　　　罾(そう)を挂け 釣(ちょう)を垂るる 是れ生涯　

秋風忽起溪灘白　　　秋風 忽ち起って 渓灘白し　

零落岸邊蘆荻花　　　零落す 岸辺の蘆荻花

 

【語釈】

○桑柘…桑と柘の木。農作業養蚕のことを指す。○窮頭…窮まった人達の首領。○罾…魚を捕るよつであみ。○垂釣…釣り糸を垂れる。○渓灘…渓の早瀬。○零落…しぼんで落ちる。○蘆荻花…蘆と荻の花。

 

★    秋霽         　　　　  秋霽(しゅうせい)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　崔道融

 

雨霽長空蕩滌清　　　　雨 霽(は)れて 長空 蕩滌(とうじょう)されて清し　

遠山初出未知名　　　　遠山 初めて出(い)で 未だ名を知らず　

夜來江上如鉤月　　　　夜来　江上　鉤(こう)の如き月

時有驚魚擲浪聲　　　　時に 驚魚の浪に擲(おど)る声有り

 

【語釈】

○長空…大空。○蕩滌…洗い清める。○夜来…夜になってから。○鉤…釣り針。○擲…おどる。

 

 

★    竹枝詞　　　　　　　　竹(ちく)枝(し)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　孫光憲

 

門前春水白蘋花　　　　門前の春水 白蘋(はくひん)の花　

岸上無人小艇斜　　　　岸上 人無く 小艇 斜なり　

商女經過江欲暮　　　　商女 経過し 江 暮んと欲す　

散拋殘食飼神鴉　　　　残食を散拋(さんほう)して 神(しん)鴉(あ)を飼う

 

【語釈】

○竹枝詞…劉禹錫が左遷されていたときに土地の民謡をもとに作った詩の形態、男女の情愛や土地の風俗を詠う。○白蘋…白い浮き草。○商女…妓女。○散拋…ばらまく。○神鴉…烏のこと。

 

★    灞上　　　　　　　　　灞上(はじょう)　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　紇干著

 

鳴鞭晚日禁城東　　　　鞭(むち)を鳴す 晩日 禁城の東　

渭水晴煙灞岸風　　　　渭水の晴煙 灞(は)岸(がん)の風　

都傍柳陰回首望　　　　都(すべ)て 柳(りゅう)陰(いん)に傍(そ)いて 首(こうべ)を回(めぐ)らして望めば　

春天樓閣五雲中　　　　春天 楼閣 五雲の中(うち)

 

【語釈】

○灞上…西安の東南にある丘。○禁城…天子の宮殿、長安。○渭水…関中を東流し黄河に繋がる川。○灞岸…灞上を流れる川の岸。○五雲…五色の雲。

 

 

★    馬上作　　　　　　　　 馬上の作　　　　　　　　　　　　　  唐　　僧貫休

 

柳岸花堤夕照紅　　　　柳(りゅう)岸(がん)の花堤(かてい) 夕(せき)照(しょう) 紅なり　

風清襟袖轡璁瓏　　　　風清くして 襟(きん)袖(しゅう) 轡(たずな)は璁瓏(そうりょう)　

行人莫訝頻迴首　　　　行人 訝(いぶか)る莫かれ 頻(しき)りに首(こうべ)を迴らすを　

家在凝嵐一點中　　　　家は 凝(ぎょう)嵐(らん) 一点の中(うち)に在り

 

【語釈】

○襟袖…えりとそで。○轡…馬を制御する手綱。○璁瓏…明潔のさま。○行人…旅人。

 

 

★    碧瀾堂　　　　　　　　碧瀾堂(へきらんどう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳堯佐

 

苕溪清淺霅溪斜　　　　苕渓(ちょうけい) 清浅にして 霅渓(とうけい)斜めなり　

碧玉光寒照萬家　　　　碧玉 光 寒く 万家を照らす　

誰向月明中夜聽　　　　誰か 月明に向って 中夜に聴く　

洞庭漁笛隔蘆花　　　　洞庭の漁笛　蘆花を隔(へだ)つ

 

【語釈】

○碧瀾堂…浙江省湖州市にある堂の名。○苕溪…浙江省天目山近くの渓。○霅溪…浙江省 湖州市を流れる川の名。○碧玉…ここでは月のこと。○中夜…半夜。真夜中。○洞庭…洞庭湖、湖南省北部にある大きな湖。

　

 

★    題文潞公曲水閣　　　　文潞公(ぶんろこう)の曲水閣(きょくすいかく)に題す　　　　　　　  宋　　賈昌朝

 

畫船載酒及芳辰　　　　画船 酒を載せて 芳(ほう)辰(しん)に及ぶ　

丞相園林潩水濱　　　　丞相の園林 潩水の浜　

虎節麟符拋不得　　　　虎節 麟符 拋ちて得ず　

却將清景付閑人　　　　却って 清景を将(も)って 閑人(かんじん)に付す

 

【語釈】

○文潞公…不祥。○曲水閣…不祥。○畫船…彩られた船。○芳辰…美しい春の時候。○潩水…河南省の川。○虎節麟符…共に割り符。○閑人…閑かに暮らす人。

 

★    出鴈蕩回望常雲峰　　　鴈蕩を出で常雲峰を回望す　　　　　　　  宋　　趙　抃

 

遊遍名山未肯休　　　　名山を遊遍(ゆうへん)して 未だ肯えて休(や)まず　

征車已發尚回眸　　　　征車(せいしゃ) 已に発して 尚(な)お眸(ひとみ)を回(めぐ)らす　

高峯亦似多情思　　　　高峰 亦た 情思(じょうし)の多きに似て

百里依然一探頭　　　　百里 依然 一たび探頭す

 

【語釈】

○鴈蕩…浙江省温州市にある山の名。○常雲峰…不祥。○遊遍…遍くあそぶ。○征車…旅人を乗せる車。○情思…思い。○依然…前のまま。○探頭…頭を出す。

　

　

★    豐樂亭遊春　　　　　　豊(ほう)楽亭(らくてい)に春を遊ぶ　　　　　　　　　　  宋　　歐陽修

 

綠樹交加山鳥啼　　　　緑樹 交加して 山鳥 啼き　

晴風蕩漾落花飛　　　　晴風 蕩漾(とうよう)として 落花 飛ぶ　

鳥歌花舞太守醉　　　　鳥 歌い 花 舞いて 太守酔う　

明日酒醒春已歸　　　　明日(みょうにち) 酒醒むれば 春 已に帰らん

 

【語釈】

○豊樂亭…安徽省の滁州に欧陽脩が作ったあずまや。○交加…枝と枝が交わる。○蕩漾…のどかにゆるぎ動く。○太守…欧陽脩自ら。○春歸…春が去る。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

★    豐樂亭遊春　　　　　　豊(ほう)楽亭(らくてい)に春を遊ぶ　　　　　　　　　　  宋　　歐陽修

 

春雲淡淡日輝輝　　　　春雲 淡々(たんたん) 日 輝(き)々(き)　

草惹行襟絮拂衣　　　　草は行(こう)襟(きん)を惹(ひ)き絮(じょ)は衣(い)を払う

行到亭西逢太守　　　　行きて亭西に到り 太守に逢わば　

籃輿酩酊插花歸　　　　籃(らん)輿(よ)に 酩酊して 花を挿して帰るならん

 

【語釈】

○豊樂亭…安徽省の滁州に欧陽脩が作ったあずまや。○淡淡…薄いさま。○輝輝…明るく輝くさま。○惹…ひっぱる。○絮…柳絮。○太守…刺史。○籃輿…竹製の籠。

　

 

★    豐樂亭遊春　　　　　　豊(ほう)楽亭(らくてい)に春を遊ぶ　　　　　　　　　  宋　　歐陽修

 

紅樹青山日欲斜　　　　紅樹 青山 日 斜めならんと欲す　

長郊草色綠無涯　　　　長郊(ちょうこう)の草色 緑 涯(かぎ)り無し　

遊人不管春將老　　　　遊人は管せず 春 将(まさ)に老いんとするを　

來往亭前踏落花　　　　亭前に来往して 落花を踏む

 

【語釈】

○豊樂亭…安徽省の滁州に欧陽脩が作ったあずまや。○長郊…広々とした郊外。○無涯…果てが無い。○遊人…遊覧客。○不管…気に掛けない。○春将老…春が暮れようとしている。○將…「まさに～せんとす」と読み「今にも～しそうである」「すぐに～しよう」の意。○来往…行き来する。

（参考文献）　　『漢詩鑑賞辞典』

 

★    淮中晚泊犢頭　　　　　淮中犢頭(わいちゅうとくとう)に晚(ばん)泊(ぱく)す　　　　　　　　　　  宋　　蘇舜欽

 

春陰垂野草青青　　　　春(しゅん)陰(いん) 野に垂れ 草青々(せいせい)　

時有幽花一樹明　　　　時に 幽(ゆう)花(か)の 一樹に明なる有り　

晚泊孤舟古祠下　　　　晩泊の孤舟 古祠(こし)の下(もと)　

滿川風雨看潮生　　　　満川の風雨 潮の生ずるを看る

 

【語釈】

○淮中…淮河の中。○犢頭…犢頭磯、淮河の中部の岸辺にある渡し場の名前。○春陰…春の暗雲。○垂野…原野の上に低く垂れ込める。田野が暗雲によって覆われていることを形容する。○幽花…ひっそりと静かで辺鄙な場所の花。○明…明瞭。ここでは、花の色が鮮やかで、人目を奪うことをさす。○古祠…古い廟。○潮生…潮が満ちる。 　

(参考文献)　『中国名詩選』

　

 

★    獨步至洛濱            独步して洛浜に至る　　　　　　　　　  宋　　司馬光

 

草軟波清沙徑微　　　　草 軟かく 波 清くして 沙径(さけい) 微(かすか)なり　

手攜筇竹著深衣　　　　手に筇(きょう)竹(ちく)を携(たずさ)えて 深衣を著(ちゃく)す　

白鷗不信忘機久　　　　白鴎 信ぜず 機(き)を忘ること久し　

見我猶穿岸柳飛　　　　我を見て 猶お 岸(がん)柳(りゅう)を穿(うが)ちて飛ぶ

 

【語釈】

○沙徑…砂を敷き詰めた小径。○筇竹…杖に適する竹の名。○深衣…士太夫の朝祭の次服。○岸柳…岸に植えてある柳。

 

★    初晴　　　　　　　　　初晴　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

一抹明霞暗淡紅　　　　一抹の明霞(めいか) 暗淡(あんたん)の紅　

瓦溝已見雪花溶　　　　瓦(が)溝(こう) 已に見る 雪花(せつか)の溶(よう)するを　

前山未放曉寒散　　　　前山 未だ 暁(ぎょう)寒(かん)を放ち散ぜず　

猶鎖白雲三兩峰　　　　猶お鎖ざす 白雲 三両峰

 

【語釈】

○明霞…燦爛とした雲霞。○暗淡…暗くて淡い。○瓦溝…瓦屋根の雨水を集める溝。○雪花…雪。○三兩峰…二三の峰。

　

 

★    鍾山晚歩              鍾山晚歩　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

小雨晩風落楝花　　　　小雨 晩風 楝(れん)花(か)を落す　

細紅如雪點平沙　　　　細(さい)紅(こう) 雪の如く 平沙に点ず

槿籬竹屋江村路　　　　槿籬(きんり) 竹屋(ちくおく) 江村の路　

時見宜城賣酒家　　　　時に見る 宜(ぎ)城(じょう) 売酒の家

 

【語釈】

○鐘山…、江蘇省南京市玄武区に位置する山。○楝花…おうちの花。○細紅…。○平沙…平らな砂浜。○槿籬…むくげの垣根。○江村…川辺の村。○宜城…湖北省襄陽市に位置する県級市（南京から見えるか疑問。別の地名？）。

　

 

★    初晴　　　　　　　　　初晴　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

幅巾慵整露蒼華　　　　幅巾　整(ととの)に慵(ものう)うく　蒼(そう)華(か)を露(あらわ)す

度隴深尋一徑斜　　　　隴(ろう)を度(わた)り　深尋(しんじん)すれば 一径斜めなり　

小雨初晴好天氣　　　　小雨 初めて晴れ 好天気　

晚花殘照野人家　　　　晩花 残照 野人の家

 

【語釈】

○幅巾…頭巾。○蒼華…白髪のある頭。○隴…丘。○深尋…遠くを尋ねる。○晩花…遅咲きの花。○殘照…日が沈んだあとの夕焼け。○野人…田舎の人。

 

 

★    庚申正月遊齊安　　　　庚申正月齊安に遊ぶ　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

水南水北重重柳　　　　水南 水北 重々(ちょうちょう)の柳　

山後山前處處梅　　　　山後 山前 処々(しょしょ)の梅　

未即此身隨物化　　　　未だには 即ち此の身 物化(ぶっか)に随わず　

年年長趁此時來　　　　年々(ねんねん) 長く 此の時の来(きた)るを趁(お)う

 

【語釈】

○齊安…広東省江門市。○重重…重なり合うさま。○處處…所々にある。○物化…事物の変化。○趁…追い掛ける。

 

★    壬戌正月再遊　　　　　壬戌(じんじゅつ)正月 再遊(さいゆう)す　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

風暖柴荆處處開　　　　風暖くして 柴荆(さいけい) 処々に開く　

雪乾沙浄水洄洄　　　　雪乾き 沙(すな)浄く 水洄々(かいかい)　

意行却得前年路　　　　意(い)行(こう) 却って得たり 前年の路　

看盡梅花看竹來　　　　梅花を看尽(みつく)し 竹を看て来(きた)る

 

【語釈】

○壬戌…干支の一つ。○柴荆…柴の戸。○洄洄…めぐりめぐる。○意行…意のままに行く。

　

 

★    微雨登城　　　　　　　微雨 城に登る　　　　　　　　　　　  宋　　劉　敞

 

雨映寒空半有無　　　　雨は寒空に映じ 半ば有無　

重樓閒上倚城隅　　　　重楼(ちょうろう) 閑かに上りて 城(じょう)隅(ぐう)に倚(よ)る　

淺深山色高低樹　　　　浅深の山色 高低の樹　

一片江南水墨圖　　　　一片 江南 水墨の図

 

【語釈】

○重樓…二重の楼閣。○城隅…城郭の隅。○江南…長江中下流の南岸地方。

 

 

★    萬里橋……　　　　　　　　 万里橋……　　　　　　　　　　　　　  宋　　呂大防

 

萬里橋西萬里亭　　　　万里(ばんり)橋(きょう)西(せい) 万里の亭　

錦江春漲與隄平　　　　錦江(きんこう) 春 漲(みなぎ)って 隄と平かなり　

拏舟直入修篁裏　　　　舟を拏(ひ)き 直ちに入る 修篁(しゅうこう)の裏(うち)　

坐聽風湍徹骨清　　　　坐(そぞろ)ろに聴く風湍 骨に徹して清し

 

【語釈】

○萬里橋…四川省成都市にある橋。○錦江…成都を流れる川。○修篁…長い竹。○坐…なんとなく。○風湍…風の渦巻く音。

 

 

★    遊春                   遊春     　　　　　　　　　　　　  宋　　晏幾道

 

一年花事又成空　　　　一年の花事(かじ) 又 空と成る　

擁鼻微吟半醉中　　　　鼻を擁(よう)して 微吟す 半酔の中　

夾道桃花新過雨　　　　道を夾(さしはさ)む桃花 新たに過ぐ雨　

馬蹄無處避殘紅　　　　馬蹄 残(ざん)紅(こう)を避くに 処無し

 

【語釈】

○花事…春遊して花を見ること。○擁鼻…鼻を蔽う。○殘紅…地上に落ちている赤い花。

 

 

★    次韻王忠玉遊虎丘　　　王忠玉の虎(こ)丘(きゅう)に遊ぶに次韻す　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

當年大白此相浮　　　　当年 大白(たいはく) 此(ここ)に相(あい)浮(うか)ぶ　

老守娯賓得二丘　　　　老守 賓(ひん)を娯しみ 二丘を得たり　

白髮重來故人盡　　　　白髪 重ねて来れば 故人 尽き　

空餘叢桂小山幽　　　　空しく 叢(そう)桂(けい)を余して 小山 幽なり

 

【語釈】

○王忠玉…王瑜，字は忠玉，真定（河北省正定）の人、亳州知事となる。○遊虎…江蘇省 蘇州市にある山。○當年…壮年期。○大白…大盃。○老守…蘇州の太守である王忠玉の伯父。○娯賓…客(私)をもてなすことを楽しみにする。○二丘…人名の丘と地名の丘。○白髮…白髪になった自分。○故人盡…王忠玉の伯父が死去した。○叢桂…叢がっている桂の木。

 

 

★    金山夢中作　　　　　　金山夢中の作　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

江東賈客木綿裘　　　　江東の賈客(かかく) 木綿の裘(きゅう)　

會散金山月滿樓　　　　会 散じて金山 月 楼に満つ　

夜半潮來風又熟　　　　夜半 潮(うしお)来たりて 風又た熟す　　

臥吹簫管到揚州　　　　臥(が)して 簫管(しょうかん)を吹きて 揚州に到らん

 

【語釈】

○金山…江蘇省鎮江市の山。○江東…江蘇省南部。○賈客…商人。○木綿裘…綿入りの衣。○潮來風又熟…潮が満ち、順風となる。○簫管…管楽器。○揚州…江蘇省揚州市。

 

★望湖樓醉書　　　　　　望湖楼の酔書(すいしょ)　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

黑雲翻墨未遮山　　　　黒雲 墨を翻(ひるがえ)えして 未だ山を遮(さえぎ)らず　

白雨跳珠亂入船　　　　白雨 珠を跳(おど)せて 乱れて船に入る　

卷地風來忽吹散　　　　地を巻き 風来(きた)って 忽(たちま)ち吹散ず　

望湖樓下水如天　　　　望(ぼう)湖楼下(ころうか) 水 天の如し

 

【語釈】

○望湖楼…浙江省杭州市西湖このほとりにあった楼。○醉書…酒に酔った勢いで作った詩。○翻墨…墨をぶちまける。○白雨…夕立の白く見える雨滴。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』

 

 

★    暴雨初晴樓上晚景　　　暴雨初めて晴る 楼上の晚景              宋　　蘇　軾

 

秋後風光雨後山　　　　秋後の風光 雨後の山　

滿城流水碧潺潺　　　　満城の流水 碧 潺々(せんせん)たり　

煙雲好處無多子　　　　煙雲 好き処 多子無く　

及取昏鴉未到間　　　　及(きゅう)取(しゅ)す 昏(こん)鴉(あ) 未だ到らざるの間

 

【語釈】　

○風光…景色。○潺潺…浅い水の流れるさま。さらさら。○煙雲…雲と霞。○多子…多くの卿大夫。多くの男子。○及取…取るに及ぶ。（昏鴉）を採り上げて論ずると。○昏鴉…夕暮れに飛ぶ烏。

 

 

★    澄邁驛通潮閣　　　　　澄邁(ちょうまい)駅(えき)の通潮閣(つうちょうかく)　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

餘生欲老海南村　　　　余生 老いんと欲す 海南の村　

帝遣巫陽招我魂　　　　帝 巫(ふ)陽(よう)をして 我が魂を招かしむ　

杳杳天低鶻沒處　　　　杳々(ようよう)として 天低(た)れ 鶻(こつ)の没する処　

青山一髮是中原　　　　青山 一髪(いっぱつ) 是れ中原

 

【語釈】

○澄邁驛…海南島北部の宿場町。○餘生…残りの人生。○欲老…年老いていこう。帝…天帝。遣…～に、～をさせる。○巫陽…『楚辭』「招魂」に出てくる巫女の名。杳杳…遥かなさま。○低…低くたれ込める。○鶻…はやぶさ。○青山一髮…青い山影が、一筋の線になって。○是…英語のbe動詞に相当し、「コレ」と訓読する。○中原：中華の地。ここでは、中国本土を指す。

（参考文献）　『漢詩鑑賞辞典』　『漢詩大系』

　

 

★    望海樓晚景  　　　　　望海楼の晚景　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

橫風吹雨入樓斜　　　　横風 雨を吹いて 楼に入って斜なり　

壯觀應須好句誇　　　　壮観(そうかん) 応(まさ)に須(すべか)らく 好句にて誇るべし　

雨過潮平江海碧　　　　雨過ぎて 潮平かにして 江海碧なり　

電光時掣紫金蛇　　　　電光 時に掣(せい)す 紫(し)金(きん)の蛇(だ)

 

【語釈】

○望海樓…浙江省温州市にある楼。○応須…「まさにすべからく～すべし」と読み「必ず～しなければならない」「必ず～するはずである」の意。○電光…いなずま。○掣…引っ張る。○紫金蛇…赤銅色の稲妻。

 

★    題東林壁             東林の壁に題す　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

橫看成嶺側成峰　　　　横より看れば嶺(れい)を成し 側(そば)よりすれば峰(ほう)を成す　

遠近高低總不同　　　　遠近 高低 総て同じからず

不識廬山真面目　　　　廬山(ろざん)の真面目を 識らざるは　

只緣身在此山中　　　　只だ 身の 此の山中に在るに縁(よ)る

 

【語釈】

○東林…東林寺、廬山（江西省九江市南部）のふもとに西林寺と東林寺があった。○題壁 … 壁に詩を書きつけること。○横看…横の方から眺めわたすと。○成嶺…連なった山になる。○側 … そば。○成峰 … 鋭く聳える峰となる。○廬山…山の名、江西省九江市の南方にある。○真面目… 本来の姿。

（参考文献）　『漢詩大系』

　

★    呉興　　　　　　　　　呉(ご)興(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　林　希

 

遶郭芙蕖拍岸平　　　　郭を遶(めぐ)る 芙蕖(ふきょ) 岸を拍(う)ちて平かなり　

花深蕩槳不聞聲　　　　花深くして 槳(かじ)を蕩(うご)かす声を聞かず　

萬家笑語荷花裏　　　　万家(ばんか)の笑語 荷花の裏(うち)　

知是人間極樂城　　　　知る是れ 人間(じんかん) 極楽(ごくらく)城(じょう)

 

【語釈】

○呉興…浙江省湖州市。○郭…二重になった城壁の外側。○芙蕖…蓮の花。○槳…舟をこぐ櫂。○人間…人間世界。

 

★    偶成　　　　　　　　　偶成　　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　程　顥

 

雲淡風輕近午天　　　　雲淡く 風軽く 午天に近し　

望花隨柳過前川　　　　花を望み 柳に随い 前川(ぜんせん)を過ぐ

旁人不識余心樂　　　　旁人(ぼうじん)は識らず 余(よ)心(しん)の楽しみを　　　　　★

將謂偸閑學少年　　　　将(まさ)に謂(い)わんとす 閑(かん)を偸(ぬす)みて少年を学ぶと

 

【語釈】

○偶成…たまたま作った詩。○午天…ひる。正午。○旁人…傍らのひと。○余心…のびのびとした心。○偸閑…ひまをぬすむ。なまける。

 

 

★    在當塗作              當(とう)塗(と)に在りて作る　　　　　　　　　　　  宋　　沈　括

 

豹堂春水綠泱泱　　　　豹堂(ひょうどう)の春水 緑 泱々(ようよう)たり

謝市烟深柳線長　　　　謝市 煙 深くして 柳線長し

卷幔夕陽留不住　　　　幔(まく)を巻けば 夕陽(せきよう) 留まり住(や)まず

好風將雨過梅塘　　　　好風 雨を将(も)って 梅塘(ばいとう)を過ぐ

 

【語釈】

○當塗…江蘇省揚州市九江。○豹堂…不祥。○泱泱…水の深く広いさま。○謝市…不祥。○柳線…柳の細い枝。○不住…絶えない。○梅塘…梅が植えてある隄。

 

★    北郭　　　　　　　　　北郭　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　文　同

 

繞樹垂蘿蔭曲堤　　　　樹を繞(めぐ)る 垂蘿(すいら) 曲堤を蔭(おお)う　

暖烟深處亂禽啼　　　　暖煙 深き処 乱禽(らんきん) 啼く　

何人來此共携酒　　　　何人か 此(ここ)に来て 共に酒を携えん　

可惜拒霜花一谿　　　　惜しむべし 拒(きょ)霜(そう)花(か)の一谿

 

【語釈】

○北郭…城壁の北側。○垂蘿…垂れ下がったかづら。○暖烟…春霞。○拒霜花…木芙蓉。

 

 

★    納凉                  納凉                                  宋　　秦　觀

 

携杖來追柳外凉　　　　杖を携え 来りて追う 柳外の涼　

畫橋南畔倚胡床　　　　画橋の南畔 胡床に倚る　

月明船笛參差起　　　　月明に 船笛 参差(しんし)として起り　

風定池蓮自在香　　　　風定まりて 池(ち)蓮(れん) 自在に香(かん)ばし

 

【語釈】

○画橋…色彩で彩られた橋。○胡床…背もたれがあり、不用のときはたたんでおく。○參差…入り乱れるさま。

(参考文献)　　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    秋日                  秋日                                 宋　　秦　觀

 

霜落邗溝積水清　　　　霜落ちて 邗溝 積(せき)水(すい)清し　

寒星無數傍船明　　　　寒星 無数 船に傍いて明らかなり　

菰蒲深處疑無地　　　　菰(こ)蒲(ほ) 深き処 地無きかと疑うに　

忽有人家笑語聲　　　　忽(たちま)ち 人家 笑語の声有り

 

【語釈】

○邗溝…江南にあった運河。○積水…積もった水。○菰蒲…まこもとがま。

（参考文献）　　『漢詩大系　１６』

 

 

★    泗州東城晚望　　　　　泗州東城の晚望　　　　　　　　　　　  宋　　秦　觀

 

渺渺孤城白水環　　　　渺々(びょうびょう)たる 孤城 白水環(めぐ)る　

舳艫人語夕霏間　　　　舳(じく)艫(ろ) 人語 夕霏(せきひ)の間　

林梢一抹青如畫　　　　林(りん)梢(しょう) 一抹 青きこと 画の如し　

應是淮流轉處山　　　　応(まさ)に是れ 淮流(わいりゅう) 転ずる処の山なるべし

 

【語釈】

○泗州…江蘇省淮安市盱眙県。○晚望…夕景色。○渺渺…遠くかすかなさま。○白水…清い川。夕陽で白く光った川。○舳艫…船。○夕霏…夕暮れの靄と霞。○林梢…林のこずえ。○應…「まさに～べし」と読み、「おそらく～にであろう」の意。○是…英語のbe動詞にあたり、「コレ」と訓読する。○淮流…川の名、不祥。

(参考文献)　　『宋詩選注』

 

★    金山晚眺　　　　　　　金山晩眺(きんざんばんちょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　秦　觀

 

西津江口月初弦　　　　西津(せいしん)の江口　月は初弦なり　

水氣昏昏上接天　　　　水気 昏々(こんこん)として 上りて天に接す

清渚白沙茫不辨　　　　清(せい)渚(ちょ) 白沙(はくさ) 茫(ぼう)として弁せず　

只應燈火是漁船　　　　只だ応に 灯火は是れ漁船なるべし

 

【語釈】

○金山…江蘇省鎮江市の西にある山。○西津…長江西岸。○初弦…三日月。○水氣…水面の靄。○昏昏…薄暗いさま。○辨…見分ける。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。

(参考文献)　　『宋詩選注』

 

 

★    湖上絕句　　　　　　　湖上絕句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

風蕩雲容不成雪　　　　風は雲(うん)容(よう)を蕩(うごか)して 雪を成さず　

柳偸春色故衝寒　　　　柳は春色を偸(ぬす)みて 故(ことさら)に寒を衝(つ)く　　　

湖邊艇子衝烟去　　　　湖辺の艇子 煙を衝(つ)いて去り　

天畔青山隔雨看　　　　天畔の青山 雨を隔てて看る

 

【語釈】

○雲容…雲の有様。○春色…春景色。○艇子…船。○煙…靄、霞。○天畔…天のあたり。○青山…青々した山。

 

★    鄂州南樓書事　　　　　　鄂州南楼にて事を書す　　　　　　　  宋　　黄庭堅

 

四顧山光接水光　　　　四顧(しこ)すれば 山光 水光に接す　

凭欄十里芰荷香　　　　欄に凭(よ)れば 十里 芰(き)荷(か) 香(かんば)し　

清風明月無人管　　　　清風 明月 人の管する無く　

併作南樓一味凉　　　　併せて南楼  一味の涼を作す

 

【語釈】

○鄂州…湖北省武漢市の長江以南の地区。○書事…事柄の感慨を書きしるす。○山光…山の景色。○水光…水面の輝き。○闌…手すり。○凭…もたれる。○芰荷…菱と蓮。○管…司る、支配する。

（参考文献）『漢詩大系１８』

 

 

★    春日遊湖上　　　　　　春日湖上に遊ぶ　　　　　　　　　　　  宋　　徐　俯

 

雙飛燕子幾時回　　　　双飛の燕子(えん) 幾時か回(かえ)る　

夾岸桃花蘸水開　　　　岸を夾(さしはさ)む桃花 水を蘸(ひた)して開く　

春雨斷橋人不渡　　　　春雨 断橋 人渡らず　

小舟撐出柳蔭來　　　　小舟 撐(さおさし)て柳(りゅう)蔭(いん)を出て来る

 

【語釈】

○雙飛…つがいで飛ぶ。○蘸…ある物を水につける。○斷橋…壊れた橋。○撐…棹で船を進める。

 

★    到飛泉　　　　　　　　飛泉に到る　　　　　　　　　　　　　　  宋     曹 勛

 

曉入飛泉带月華　　　　暁に飛泉に入り 月(げっ)華(か)を带ぶ　

山如相識路如家　　　　山は相識(そうしき)の如く 路は家の如し　

百蟲不響露初下　　　　百虫 響かず 露 初めて下(くだ)る　

開盡一川蕎麥花　　　　開き尽す 一川 蕎麦(きょうばく)の花

 

【語釈】

○月華…月の光。○相識…顔なじみの友人。○蕎麥…そば。

 

 

★    游梅坡席上雜酬　　　　梅坡(ばいは)に游び 席上雜酬(ざつしゅう)す　　　           宋    李彌遜

 

風約疏梅蘸石泉　　　　風は疏(そ)梅(ばい)を約し　石(せき)泉(せん)を蘸(ひた)す　

山涵弱柳借廚烟　　　　山は弱柳を涵(ひた)し　廚煙(ちゅうえん)を借(か)る　

竹籬茅屋傾樽酒　　　　竹籬(ちくり) 茅屋(ぼうおく) 樽(そん)酒(しゅ)を傾く　

坐看銀鈎上晚川　　　　坐(そぞろ)に看る 銀(ぎん)鈎(こう)の晩(ばん)川(せん)に上るを

 

【語釈】

○梅坡…梅の植えてある堤。○雜酬…雑談。○約…招き結ぶ。○蘸…物を水につける。○涵…物を水につける。○廚烟…厨房から出る煙。○竹籬…竹垣。○茅屋…茅吹きの家。○銀鈎…釣り針のような月。

 

 

★    城上晚思              城上の晚思　　　　　　　　　　　　　　  宋    陳與義

 

獨憑危堞望蒼梧　　　　独り 危堞(きちょう)に憑(よ)り 蒼梧(そうご)を望む　

落日君山如畫圖　　　　落日 君山 画図(がと)の如し　

無數柳花飛滿岸　　　　無数の柳花 岸に満ちて飛び　

晚風吹過洞庭湖　　　　晩風 吹き過ぐ 洞庭湖

 

【語釈】

○危堞…高い危険な城。○蒼梧…湖南省永州市九嶷山。○君山…洞庭湖中にある山。○柳花…柳絮。○洞庭湖…湖南省北東部にある淡水湖。

 

 

★    題柳溪別墅　　　　　　柳溪の別墅(べっしょ)に題す　　　　　　　　　　  宋　　姚孝錫

 

雨霽風和不動塵　　　　雨 霽(は)れ 風 和(なご)みて 塵を動かさず　

柳邊携酒賞晴春　　　　柳辺 酒を携えて 晴春を賞す　

頻來溪鳥渾相識　　　　頻(しきり)に来る渓鳥 渾(すべ)て相識(そうしき)　

度水穿花不避人　　　　水を度り 花を穿ち 人を避けず

 

【語釈】

○柳溪…柳の茂る渓。○別墅…別荘。○相識…相識った仲間。

 

 

★    石壁寺山房即事        石壁寺の山房 即事                      宋　　沈與求

 

望斷南崗遠水通　　　　望断す 南崗(なんこう) 遠水通ず　

客檣來往酒旗風　　　　客檣(かくしょう) 来往す 酒旗の風　

畫橋依約垂楊外　　　　画(が)橋(きょう) 依約たり 垂楊の外(ほか)　

映帯殘霞一抹紅　　　　映(えい)帯(たい)す 残(ざん)霞(か) 一抹の紅

 

【語釈】

○石壁寺…浙江省衢州市石壁寺。○山房…寺院の部屋。○即事…事に触れて感じたことを、そのまま詠った詩。○望斷…遠くを眺める。○南崗…南の丘。○客檣…客を乗せる帆船。○酒旗…酒屋の旗。○畫橋…彩られた橋。○依約…かすかなさま。○映帯…景色のいどろりが互いにうつりあう。○殘霞…日が沈んだ後の夕映え。

 

 

 

郎官湖春日  　　　　　郎官湖の春日　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　李　祁

 

兩山收雨暗平沙　　　　両山 雨を収めて 平沙(へいさ)に暗(くら)し　

遮斷溪梅隔水花　　　　渓(けい)梅(ばい)を遮断し 水を隔つる花　

留得烟林作圖畫　　　　煙林を留め得て 図画(とが)と作す

依稀松磴有人家　　　　依(い)稀(き)たる松磴(しょうとう) 人家有り

 

【語釈】

○郎官湖…湖北省漢陽にある湖。○平沙…平らな砂浜。○煙林…靄のかかった林。○依稀…ぼんやりしている。○松磴…松のある坂道。

 

★萬松嶺                 万松嶺　　　　　　　　　　　　　　  宋　　李　質

 

蒼蒼森列萬株松　　　　蒼々(そうそう)たる森列 万株の松　

終日無風亦自風　　　　終日 風無く 亦(ま)た 自(おのずか)ら風あり　

白鶴來時清露下　　　　白鶴 来たる時 清露下る　

月明天籟滿秋空　　　　月明 天籟 秋空に満つ

 

【語釈】

○萬松嶺…浙江省杭州市にある峰。○蒼蒼…草樹などが青く茂るさま。○天籟…風などの天籟の音。

 

　

★    題齊山翠微亭　　　　　斉山の翠微亭(すいびてい)に題す　　　　　　　　　　  宋　　岳　飛

 

經年塵土滿征衣　　　　年を経て 塵土(じんど) 征衣に満つ　

得得尋芳上翠微　　　　得(とく)々(とく) 芳を尋ねて翠微(すいび)に上る　

好山好水看不足　　　　好山 好水 看て足らず

馬蹄催趁月明歸　　　　馬蹄(ばてい) 催(うなが)して 月明を趁(お)いて帰る

 

【語釈】

○齊山…安徽省貴池の南にある山。○翠微亭…不祥。○征衣…旅の衣。○得得…わざわざ。○翠微…山の八合目付近。

 

★    出山道中口占　　　　　　山を出ず 道中 口占　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

川原紅紫一時新　　　　川原(せんげん) 紅(こう)紫(し) 一時に新たなり　

暮雨朝雲更可人　　　　暮雨 朝雲 更に人に可なり　

書冊埋頭何日了　　　　書冊 頭(こうべ)を埋めて 何れの日にか了(りょう)せん　

不如拋却去尋春　　　　如(しか)ず 抛却(ほうきゃく)して 去りて春を尋ねんには

 

【語釈】

○口占…紙に書かずに作った即興の詩。○川原…原野。○紅紫…いろとりどりの花。○了…終える。全うする。○拋却…抛つ、却は動作の完成、完了を示す助字。

　

　

★    水口行舟　　　　　　　水口(すいこう)行(こう)舟(しゅう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

昨夜扁舟雨一簑　　　　昨夜(さくや) 扁(へん)舟(しゅう) 雨 一簑(いっさ)　

滿江風浪夜如何　　　　満江の風浪 夜 如何(いかん)　

今朝試捲孤篷看　　　　今朝 試みに孤篷(こほう)を捲(ま)いて看る　

依舊青山綠樹多　　　　旧(きゅう)に依り青山 緑樹多し

 

【語釈】

○行舟…船旅。○扁舟…小舟。○孤篷…一つだけある船の篷窓。○依舊…以前のまま。○青山…青々とした山。

 

 

★    入瑞巖道間得四絕句　　瑞(ずい)厳(がん)に入り道間(どうかん)に四絕句を得たり　　　　  宋　　朱　熹

 

清溪流過碧山頭　　　　清渓 流れ過ぐ 碧山(へきざん)の頭(ほとり)　

空水澄鮮一色秋　　　　空(くう)水(すい) 澄鮮(ちょうせん) 一色の秋　

隔斷紅塵三十里　　　　隔断(かくだん)す 紅(こう)塵(じん) 三十里　

白雲黄葉共悠悠　　　　白雲 黄葉(こうよう) 共に悠々(ゆうゆう)たり　

 

【語釈】　

○瑞巖…位置不祥。○空水…天と水。○澄鮮…清新。○隔斷…間を隔てる。斷は意味を強める助字。○紅塵…車馬の上げる塵。○悠悠…他と関わりなくゆったりとしたさま。

　

 

★    醉下祝融峰　　　　　　醉下祝融峰　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

我來萬里駕長風　　　　我来って 万里 長風に駕す　

絕壑層雲許盪胸　　　　絶壑(ぜつがく)の層雲 許(か)く胸を盪(うご)かす　

濁酒三杯豪氣發　　　　濁酒 三杯 豪気発し　

朗吟飛下祝融峰　　　　朗吟 飛下る 祝融(しゅくゆう)峰(ほう)

 

【語釈】

○祝融峰…湖南省東部にある南岳・衡山の諸峰の最高峰。○駕…御する。操縦する。○長風…遠くから吹き渡ってくる風。○絶壑…深く険しい谷。○層雲…いくえにも重なった雲。○許…このように。

(参考文献)　　『漢詩鑑賞辞典』

★    晚步　　　　　　　　　晚步　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　真山民

 

未暝先啼草際蛩　　　　未だ暝(めい)なざるに 先に啼く 草際(そうさい)の蛩(こおろぎ)　

石橋暗度稲花風　　　　石橋(せききょう) 暗(あん)に度る 稲花(とうか)の風　　

歸鴉不带殘陽去　　　　帰(き)鴉(あ) 残陽を带びて去らず　

留得林梢一抹紅　　　　留め得たり 林梢(りんしょう) 一抹の紅　

 

 

【語釈】

○暝…暗い。○歸鴉…ねぐらへ帰る烏。○殘陽…夕陽。○林梢…林のこずえ。

　

 

★    高景山夜歸　　　　　　 高景山より夜帰る　　　　　　　　  宋　　范成大

 

伊軋籃輿草露間　　　　伊軋(いあつ) 籃輿(らんよ) 草露の間　

夜凉月暗走孱顔　　　　夜涼しく 月暗くして 孱(せん)顔(がん)を走らす　

忽逢陂水明如鏡　　　　忽ち 陂(は)水(すい)の明かなること鏡の如きに逢う　

照見沈沈倒景山　　　　照見す 沈々(ちんちん) 倒景の山

 

【語釈】

○高景山…不祥。○伊軋…船槳，櫂などの軋る音の形容。○籃輿…あじろの籠。○孱顔…山の高く険しい様。○陂水…堤の中の水。○照見…映し出す。○沈沈…草木の生い茂るさま。○倒景…逆さになって見える。

 

★    橫塘　　　　　　　　　橫塘　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

南浦春來綠一川　　　　南浦(なんぽ) 春来たりて 緑 一川　

石橋朱塔兩依然　　　　石橋(せききょう) 朱塔(しゅとう) 両(ふた)つながら 依然たり　

年年送客橫塘路　　　　年々 客(かく)を送る 横塘(おうとう)の路　

細雨垂楊繫畫船　　　　細雨 垂(すい)楊(よう) 画船を繫ぐ

 

【語釈】

○横塘…蘇州市中央のやや南寄りにある古い堤の名。○南浦…別れの港。（別れの港である）南の方のなぎさ。○一川…一面の原野、満川。○依然…もとのままである。○畫船…彩られた船。

（参考文献）　『和漢名詩選類評釈』『宋詩選注』

　

 

★    碧瓦　　　　　　　　　 碧瓦　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

碧瓦樓頭繡幙遮　　　　碧(へき)瓦楼頭(がろうとう) 繡幙(しゅうばく) 遮(さえぎ)る　

赤欄橋外綠溪斜　　　　赤欄(せきらん)橋外(きょうがい) 緑渓 斜めなり　

無風楊柳漫天絮　　　　風無くして 楊柳 漫天の絮(じょ)　

不雨棠梨滿地花　　　　雨ふらず 棠(どう)梨(り) 満地の花

 

【語釈】

○碧瓦樓頭…青い瓦の楼のほとり。○繡幙…刺繍をしたとばり。○赤欄橋…赤い欄干の橋。○漫天…天にはびこる。○絮…柳絮。○棠梨…やまなし、からなし。

 

 

★    晚步          　　　　晚步   　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

排門簾幕夜香飄　　　　排門(はいもん) 簾幕(れんばく) 夜香 飄(ひるがえ)える　

燈火人聲小市橋　　　　灯火 人声 小市の橋　

滿縣月明春意好　　　　満県(まんけん) 月明 春意好し　

旗亭吹笛近元宵　　　　旗亭(きてい)の吹笛 元宵(げんしょう)に近し

 

【語釈】

○排門…門に到って拝謝する。○簾幕…すだれとまく。○滿縣…県内一杯。○旗亭…料理店、酒亭。○元宵…上元、正月十五日。この夜、火祭が行われた。

 

 

★    胥口　　　　　　　　　胥(しょ)口(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

扁舟拍浪信西東　　　　扁舟 浪を拍(う)ち 西東に信(まか)す　　　　　

何處孤帆萬里風　　　　何れの処の孤(こ)帆(はん)か 万里の風　

一雨快晴雲放樹　　　　一雨 快晴 雲 樹を放ち　

兩山中斷水粘空　　　　両山 中断し 水 空(くう)に粘(ねん)す

 

【語釈】

○胥口…不祥。○扁舟…小舟。○孤帆…一つの帆船。

 

 

★    桐川郡圃梅極盛皆圍抱高木浙中無有　　　　　　　　　　　　宋　　范成大

 桐(とう)川郡圃(せんぐんぽ) 梅 極めて盛なり 皆圍抱(かいいほう)の高木 浙中(せっちゅう)に有る無し

 

家住丹楓白葦林　　　　家は住(じゅう)す 丹(たん)楓(ぷう) 白(はく)葦(い)の林　

橫枝一笑萬黄金　　　　横(おう)枝(し) 一笑 万(よろ)ず黄金　

玉溪園裏逢千樹　　　　玉渓(ぎょくけい)園(えん)裏(り) 千樹に逢い　

還盡春風未足心　　　　還(かえ)り尽くして 春風 未足の心

 

【語釈】

○桐川郡圃…不祥。○皆圍抱…不祥。○浙中…不祥。○家住…家は～にある。○丹楓…紅葉した楓。○白葦…白いあし。○玉溪…渓の美称。○未足心…まだ満ち足りない心。

 

 

★    夜歸　　　　　　　　　 夜 帰る　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

竹輿伊軋走長街　　　　竹(ちく)輿(よ) 伊軋(いあつ) 長街を走る　

掠面風清醉夢迴　　　　面を掠(かす)むる風 清く 酔夢(すいむ)迴(かえ)る　

曲巷無聲門戶閉　　　　曲(きょく)巷(こう) 声無く 門戸閉ず　

一燈猶照酒壚開　　　　一灯 猶(な)お照らす 酒壚(しゅろ)の開くを

 

【語釈】

○竹輿…竹製のこし。○伊軋…○伊軋…船槳，櫂などの軋る音の形容,この場合、輿のきしみ。○曲巷…街の曲がりくねった道。○酒壚…酒を温める爐、酒屋。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

★    晚步西園　　　　　　　晚に西園を步す　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

料峭輕寒結晚陰　　　　料峭(りょうしょう)たる 軽寒 晩陰を結ぶ　

飛花院落怨春深　　　　飛花 院落(いんらく) 春の深きを怨む　

吹開紅紫還吹落　　　　紅紫を吹き開きて 還(ま)た吹き落とす　

一種東風兩樣心　　　　一種の東風 両様の心

 

【語釈】

○料峭…春風の肌触りの冷たいことの形容。○輕寒…薄ら寒さ。○晚陰…夕方に空が暗くなること。○院落…屋敷の中の中庭。○東風…春風。

 

 

★    龍津橋　　　　　　　　龍津(りゅうしん)橋(きょう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

燕石扶欄玉作堆　　　　燕(えん)石(せき) 欄(らん)を扶(たす)け 玉 堆(つい)を作す　

柳塘南北抱城迴　　　　柳塘(りゅうとう) 南北 城を抱いて迴(めぐ)る　          

西山剩放龍津水　　　　西山 剰(じょう)放(ほう)す 竜津(りゅうしん)の水　

留待官軍飲馬來　　　　留めて 官軍の 馬に飲(みずか)い来たるを待つ

 

【語釈】

○龍津橋…不祥。○燕石…燕山から出る玉に似た石。○欄…欄干。○剩放…余りを放つ。○龍津…龍門（洛陽の東の地名）。 ○官軍…南宋の軍。

　

　

 

★    拄笏亭晚望　　　　　　 拄笏亭(ちゅうしゃくてい)の晚望　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

林泉隨處有清凉　　　　林泉 随処に 清涼有り　

山繞闌干客自忙　　　　山は闌干を繞(めぐ)り 客(かく) 自(おのずか)ら忙(いそが)し　

溪雨不飛虹尚飲　　　　渓雨 飛ばず 虹 尚(な)お飲す　

亂蟬高柳滿斜陽　　　　乱(らん)蝉(せん) 高柳 斜陽に満つ

 

【語釈】

○拄笏亭…不祥。○林泉…山林と泉、隠棲の地を指す。○亂蟬…乱れ啼く蝉。

　

 

★    泛西湖　　　　　　 　 西湖に泛ぶ　　　　　　　　　　　　　　宋　　楊萬里

 

西湖雖老爲人容　　　　西湖 老いたりと雖(いえど)も 人の為に容(かたち)す

不必花時十里紅　　　　必ずしも 花時 十里の紅ならず　

卷取郭熙真水墨　　　　巻取(けんしゅ)す 郭熙(かくき) 真水(しんすい)の墨(すみ)　

枯荷折葦小霜風　　　　枯(こ)荷(か) 折(せつ)葦(い) 小霜の風

 

【語釈】

○西湖…浙江省杭州の西にある風光明媚な湖。○郭熙…水墨画の名人。○枯荷…枯れた蓮。○折葦…折れたあし。

　

 

★    泛西湖                西湖に泛ぶ　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

曲曲都城繚翠微　　　　曲々(きょくきょく)たる都城 翠微(すいび)を繚(めぐ)り　

鱗鱗湖浪動斜暉　　　　鱗(りん)々(りん)たる湖浪(ころう) 斜暉(しゃき)に動く　

天寒日暮遊人少　　　　天寒く 日暮れて 遊人少(まれ)なり　

兩岸輕舟星散歸　　　　両岸の軽舟 星 散じて 帰る

 

【語釈】

○曲曲…彎曲しているさま。○翠微…山のみどりの深いひっそりとした中腹のあたり。○鱗鱗…うろこのような波の波紋の形容。○斜暉…夕陽。○遊人…遊び楽しむ人。

　

 

★    晚望　　　　　　　　　 晚望　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

病身似怯暮來風　　　　病身 怯(おびゆる)に似たり 暮来(ぼらい)の風　

老眼還驚霽後虹　　　　老眼 還(ま)た驚く 霽後(せいご)の虹　

落日偏明松表裏　　　　落日 偏(ひとえ)に明らかなり 松の表裏　

好山分占水西東　　　　好山 分占す 水の西東

 

【語釈】

○暮來…暮れ方からの。○霽後…雨が晴れた後の虹。○分占…分けて占める。

　

 

★    早春新晴　　　　　　　早春新晴　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

嫩水春來別樣光　　　　嫩(どん)水(すい) 春来 別様の光　

草芽綠甚却成黄　　　　草芽 緑 甚だしくして 却って 黄(こう)を成す　

東風似與行人便　　　　東風 行人の与(ため)に 便(べん)ずるに似て　

吹盡寒雲放夕陽　　　　寒雲を吹き尽くし 夕陽(せきよう)を放つ

 

【語釈】

○嫩水…春水。○春來…春になってから。○別様…普通とは異なった。○東風…春風。○行人…旅人。○便…有利にする。

　

 

★    晚登浄遠亭　　　　　　晚に浄(じょう)遠亭(えんてい)に登る　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

簿書纔了晚衙催　　　　簿書(ぼしょ) 纔(わずか)に了(おわ)らば 晩衙(ばんが) 催(うなが)す　

且上高亭眼暫開　　　　且(しばらく)く 高亭に上らば 眼 暫(しばら)く開く　

野鴨成羣忽驚起　　　　野(や)鴨(おう) 群を成し 忽(たちま)ち 驚起す　

定知城背有船來　　　　定めて知る 城(じょう)背(はい) 船の来る有るを

 

【語釈】

○浄遠亭…江蘇省常州市にある亭。○簿書…財物の出納を記録した帳簿。○晚衙…夕方に勤務を終わって退出すること。○驚起…驚いて飛び立つ。○定知…きっとそうであるにちがいないと知る。○城背…街の裏側。

 

★    題代度寺竹亭　　　　　代度寺の竹亭に題す　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

行盡空房忽畫欄　　　　行き尽くす 空房 忽(たちま)ち画欄(がらん)　

竹光和月入亭寒　　　　竹光 月に和し 亭に入りて寒し　

壁間題字知誰句　　　　壁間の題字 知んぬ誰の句ぞ　

醉把殘燈子細看　　　　酔(よい)て 残灯を把(と)りて 子細に看る

 

【語釈】

○代度寺…江西省吉安市にある寺。○空房…寂しい人のいない部屋。○畫欄…彩られた欄干。○題字…書き付けられている字。○殘燈…消え残りの灯火。

 

 

★    晚步　　　　　　　　　 晚步　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

半匹輕煙束翠山　　　　半匹の軽煙 翠山(すいざん)を束(たば)ぬ　

一梳寒月印青天　　　　一梳(いっそ)の寒月 青天に印(いん)す　

生憎野燒無端甚　　　　生憎(あいにく) 野焼(やしょう)　端無(はしな)くも甚(はなは)だし　

直上高林杳靄邊　　　　直ちに 高林に上る 杳(よう)靄(か)の辺(ほとり)

 

【語釈】

○匹…約９ｍ。○輕煙…薄い靄霞。○野燒…野火。○無端…おもいがけなく、ゆくりなく。○杳靄…暗い霞靄。

　

　

 

★    尋凉鹽橋              塩橋に涼を尋ぬ　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

燈火希疎夜向中　　　　灯火 希(き)疎(そ)にして 夜中に向う　

追涼只與熱相逢　　　　涼を追いて 只だ 熱と相(あい)逢(あ)う　

意行行到新橋上　　　　意行 行きて到る 新橋の上　

兩岸無人四面風　　　　両岸 人無く 四面の風

 

【語釈】

○鹽橋…塩を積んだ船が停泊する橋。○希疎…稀少。○意行…心のままに、歩に任せて。

 

 

★    過臨平蓮蕩　　　　　　臨平の蓮蕩を過ぐ　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

人家星散水中央　　　　人家 星(せい)散(さん)す 水の中央　

十里芹羹菰飯香　　　　十里 芹(きん)羹(こう) 菰(こ)飯(はん) 香ばし　

想得薰風端午後　　　　想い得たり 薫風(くんぷう) 端午(たんご)の後　

荷花世界柳絲郷　　　　荷(か)花(か) 世界 柳(りゅう)糸(し)の郷

 

【語釈】

○臨平…臨平山の側の湖の名。○蓮蕩…蓮池の堤。○星散…星のように散らばっていること。○芹羹…芹のあつもの。○菰飯…マコモの実が入った飯。○薰風…初夏の心地よい風。○端午…旧暦五月五日。端午の節句。○荷花…蓮の花。○柳絲…しだれ柳の枝。

（参考文献）　『漢詩大系１６』

 

 

★    登浄遠亭　　　　　　　浄(じょう)遠亭(えんてい)に登る　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

池冰受日未全開　　　　池氷 日を受け 未だ 全くは開かず　

旋旋波痕百皺來　　　　旋々(せんせん)たる波痕 百(ひゃく)皺(び)来たる　

野鴨被人驚得慣　　　　野鴨 人に驚かされ 得慣し

作羣飛去却飛回　　　　群を作し 飛び去り 却って飛び回(かえ)る　

 

【語釈】

○浄遠亭…不祥。○池冰…池に張った氷。○開…解ける。○旋旋…やや、ゆったりしたさま。○百皺…多くのさざ波。○得慣…慣れることができた。

 

 

★    花時遍遊諸家園       花時 遍(あまね)く諸家の園に遊ぶ　　　　　　　 宋　　陸　游

 

爲愛名花抵死狂　　　　愛するが為に 名花 死に抵(てい)して狂す

只愁風日損紅芳　　　　只だ愁う 風日の 紅(こう)芳(ほう)を損するを

緑章夜奏通明殿　　　　緑章 夜 奏す 通(つう)明(めい)殿(でん)　

乞借春陰護海棠　　　　乞いて 春陰を借りて 海棠を護らんことを

 

【語釈】

○名花…海棠をさす。○抵死…死に到るまで。○風日…風と日。○紅芳…赤い花。○緑章…緑色の奏書、道士が天神に奏するのに用いる。○通明殿…天上の玉帝の殿名、常に雲を擁している。乞借…乞いて借りる。春陰…春の花曇り。

（参考文献）　『漢詩大系１６』

 

★    花時遍遊諸家園　　　　花時 遍(あまね)く諸家の園に遊ぶ　　　　　　  宋　　陸　游

 

飛花盡逐五更風　　　　飛花 尽(ことごと)く逐(お)う 五(ご)更(こう)の風　

不照先生社酒中　　　　照さず 先生 社(しゃ)酒(しゅ)の中(うち)　

輸與新來雙燕子　　　　輸(ゆ)与(よ)す 新来の双燕子(そうえんし)　

啣泥猶得带殘紅　　　　泥を啣(くわ)えて 猶お 残(ざん)紅(こう)を带ぶを得たり

 

【語釈】

○花時…花の盛りの時。○五更…夜明けがた。○社酒…春祭り（春社）と秋祭り（秋社）に飲む酒。○輸與…給与。○雙燕子…つがいの燕。○殘紅…日が沈んだあとの夕焼け。

 

　

★    湖村月夕　　　　　　　湖村の月夕(げつせき)　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

錦城曾醉六重陽　　　　錦(きん)城(じょう) 曽(かつ)て酔いし 六(りく)重陽(ちょうよう)　

回首秋風每斷腸　　　　首(こうべ)を回(めぐ)らせば 秋風 毎(つね)に断腸　

最憶銅壺門外路　　　　最も憶う 銅(どう)壺(こ)門外(もんがい)の路　

滿街歌吹月如霜　　　　満街(まんがい)の歌吹(かすい) 月 霜の如し

 

【語釈】

○錦城…錦官城、成都。○六重陽…重陽の節句六回。六年のこと。○銅壺門…成都府の役所の側にあった門。○歌吹…歌と管楽器の音。

（参考文献）　『漢詩大系　１９』

 

★    冬初出遊　　　　　　　冬初めて出遊(しゅつゆう)す　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

蹇驢渺渺涉烟津　　　　蹇驢(けんろ) 渺々(びょうびょう) 煙津(えんしん)を渉(わた)る　

十里山村發興新　　　　十里の山村 興(きょう)を発して新(あらた)なり　

青旆酒家黄葉寺　　　　青旆(せいはい)の酒家 黄葉(こうよう)の寺　

相逢俱是畫中人　　　　相(あい)逢(あ)うは 俱(とも)に是(こ)れ 画中の人

 

【語釈】

○蹇驢…びっこの驢馬。○渺渺…遠くて果てしないさま。○烟津…靄のかかった津。○青旆…青い旗、酒屋の目印。

 

 

★    夜歸　　　　　　　　　 夜帰る　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

芡浦菱陂夜半時　　　　芡(けん)浦(ほ) 菱陂(りょうは) 夜半の時　

小舟更著疾風吹　　　　小舟 更に著(あらわ)す 疾風(しっぷう)の吹くを　

青熒一炬楓林外　　　　青熒(せいけい) 一炬(いちきょ) 楓林の外　

鬼火漁燈兩不知　　　　鬼火(きか) 漁(ぎょ)灯(とう) 両(ふた「)つながら知らず

 

【語釈】

○芡浦…オニバスの生えた浦。○菱陂…菱の生えた池。○青熒…青く光る。○炬…たいまつ。○鬼火…おにび、きつねび。

 

★    雨後　　　　　　　　　雨後　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

雨後凉生病體輕　　　　雨後 涼生じて 病体軽(かろ)し　

閑拖拄杖出門行　　　　閑(しずか)に拄(ちゅ)杖(じょう)を拖(ひ)いて 門を出(いで)て行く　

槐花落盡桐陰薄　　　　槐花 落ち尽し 桐陰薄し　

時有殘蟬一兩聲　　　　時に有り 残(ざん)蝉(せん)の一両声

 

【語釈】

○拄杖…杖。○槐花…エンジュの花。

　

　

★    湖中                  湖中   　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

橫林渺渺夜生烟　　　　横林 渺々(びょうびょう) 夜に煙を生じ

野水茫茫遠拍天　　　　野水 茫々(ぼうぼう) 遠く天を拍(う)つ

菱唱一聲驚夢斷　　　　菱(りょう)唱(しょう) 一声 夢を驚かして断ち　

始知身在釣魚船　　　　始めて知る 身は 釣魚の船に在るを

 

【語釈】

○渺渺…広く果てしないさま。遠くかすかなさま。○烟…霞、靄。○茫茫…広遠なさま。広く大きいさま。○菱唱…菱をの実をとるときに歌う歌。○驚夢…目を覚めさす。

　

 

★    湖中　　　　　　　　湖中　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

河漢橫斜斗柄低　　　　河漢(かかん) 横斜して 斗柄(とへい)低く　

啼鴉掠水未成栖　　　　啼(てい)鴉(あ) 水を掠め 未だ栖(せい)を成さず　

怪生凄爽侵肌骨　　　　怪生す 凄爽(せいそう) 肌(ひ)骨(こつ)を侵すを　

船繫秦皇酒甕西　　　　船は繫(つな)がる 秦皇 酒(しゅ)甕(おう)の西

 

【語釈】

○河漢…銀河。○斗柄…北斗七星の柄の部分。○栖…鳥が宿りをする。○怪生…怪しむことはない。○凄爽…非常に爽やかなこと。○秦皇…秦の始皇帝。○酒甕…酒がめ。

 

 

★    江瀆池納涼　　　　　江瀆(こうが)池(ち)納涼　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

雨過荒池藻荇香　　　　雨過ぎ 荒池 藻荇(そうこう)香(かんば)し　

月明如水浸胡床　　　　月明 水の如く 胡(こ)床(しょう)を浸す　

天公作意憐羈客　　　　天公 羇客(きかく)を憐れむの 意を作(な)し

乞與今年一夏涼　　　　乞(きつ)与(よ)す 今年 一夏の涼

 

【語釈】

○江瀆池…四川省成都市青羊區江瀆池。○藻荇…藻とアサザ。○胡床…背もたれのある腰掛け、不用の時にはたたんでおく。○天公…天帝。○羈客…旅人。○乞與…与える。

 

 

★    過靈石三峰　　　　　　靈石三(れいせきさん)峰(ほう)を過ぐ　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

奇峰迎馬駭衰翁　　　　奇峰  馬を迎え 衰翁を駭(おどろ)かす　

蜀嶺呉山一洗空　　　　蜀嶺 呉山 一洗して空し　

抜地青蒼五千仞　　　　地を拔く青蒼 五千仞(ごせんじん)　

勞渠蟠屈小詩中　　　　渠を労し 蟠(はん)屈(くつ)す 小詩の中(うち)

 

【語釈】

○靈石三峰…浙江省衢州市江山市江郎山。○奇峰…高くそびえている峰。○一洗…残らず洗いすすぐ。○青蒼…森林。○仞…長さの単位、漢では八尺。○勞…煩わす。○蟠屈…曲がりくねる。○渠…車の外輪。

　

 

★    烟波即事　　　　　　　煙波即事　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

烟波深處卧孤篷　　　　煙波 深き処 孤篷(こほう)に卧(が)す　

宿酒醒時聞斷鴻　　　　宿酒 醒(さ)むる時 断(だん)鴻(こう)を聞く　

最是平生會心事　　　　最も是れ 平生(へいぜい) 会心の事　

蘆花千頃月明中　　　　蘆花 千(せん)頃(けい) 月明の中(うち)

 

【語釈】

○烟波…靄が立ちこめている水面。○孤篷…一つだけの舟。○宿酒…二日酔い。○斷鴻…群れから離れた孤雁。○是…英語のbe動詞にあたり「コレ」と訓読する。○平生…ふだん、平常。○頃…１８２アール。

 

 

★    夢中作　　　　　　　　夢中作　　　　　　　　　　　　　　　　 宋　　陸　游

 

繫馬朱橋上酒樓　　　　馬を朱橋に繫(つな)ぎ 酒楼に上る　

樓前敷水拍堤流　　　　楼前の敷水 堤を拍(う)ちて流る　

春風又作無情計　　　　春風 又た作す 無情の計　

滿路楊花輥雪球　　　　路に満つ楊花 雪球を輥(こん)す

 

【語釈】

○敷水…陜西省華陰県を流れる川の名。○楊花…柳絮。○輥…車が早くまわる。ここでは混じえるの意？

 

 

★    除夜自石湖歸苕溪　　　除夜 石湖より 苕溪(ちょうけい)に帰る   　　　   宋　　姜　夔

 

細草穿沙雪半銷　　　　細草 沙(すな)を穿(うが)ち 雪半ば銷(き)ゆ　

吴宮烟冷水迢迢　　　　吴宮 煙 冷(ひや)やかにして 水迢々(ちょうちょう)たり　

梅花竹裏無人見　　　　梅花(ばいか)竹(ちく)裏(うら) 人の見る無く　

一夜吹香過石橋　　　　一夜 香を吹いて 石橋を過ぐ

 

【語釈】

○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○苕溪…浙江省湖州市。○穿沙…砂を突き通して芽吹く。○吴宮…春秋時代の吴王の宮殿。○烟…靄、霞。○迢迢…遙かなさま、遠いさま。

 

★    除夜自石湖歸苕溪　　　除夜 石湖より 苕溪(ちょうけい)に帰る   　　　　　   宋　　姜　夔

 

笠澤茫茫雁影微　　　　笠沢(りゅうたく) 茫々(ぼうぼう) 雁(がん)影(えい) 微(かすか)かり　

玉峯重疉護雲衣　　　　玉峰 重畳(ちょうじょう)として　雲(うん)衣(い)を護る　

長橋寂寞春寒夜　　　　長橋 寂寞(せきばく)として 春 寒き夜　

只有詩人一舸歸　　　　只だ 詩人 一舸(いっか)の帰る有るのみ

 

【語釈】

○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○苕溪…浙江省湖州市。○笠澤…太湖（江蘇省、浙江省に跨がる大きな湖）にそそぐ川の名。○茫茫…広大なさま。ひろびろとしたさま。○重疉…幾重にも重なり合うさま。○雲衣…雲の気。○寂寞…ひっそりして物寂しいさま。○一舸…一つの舟。

 

 

★    湖山十詠　　　　　　　湖山十詠　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王希呂

 

雨挾東風作嫩寒　　　　雨は 東風を挟(はさ)み 嫩(どん)寒(かん)を作(な)し　

短牆圍水柳藏烟　　　　短牆(たんしょう)は 水を囲み 柳は煙を蔵す　

游人不出西湖靜　　　　遊人は出(い)でず 西湖 静かなり　

白鷺飛來在畫船　　　　白鷺 飛(とび)来(きた)り 画船に在り

 

【語釈】

○嫩寒…うすら寒さ。○短牆…短い牆。○烟…靄、霞。○游人…観光客。○畫船…彩られた船。

 

★    出郊雜咏              出郊雜咏(しゅっこうざつえい)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王　炎

 

閉戸不知春色佳　　　　戸を閉じて 春色の 佳(か)なるを知らず　

柳梢欲暗可藏鴉　　　　柳(りゅう)梢(しょう) 暗くして 鴉を蔵すべからんと欲す

鴨頭新綠齊腰水　　　　鴨頭(こうとう)の新緑 斉腰の水　

女頰輕紅刺眼花　　　　女頰(じょきょう)の軽紅(けいこう) 眼を刺す花

 

【語釈】

○出郊…郊外に出ること。○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○春色…春景色。○藏鴉…鴉を隠して住ませる。○鴨頭…鴨の頭。○斉腰…整った腰。○女頰…女性の頬。○輕紅…薄紅色。

 

 

★    出郊雜咏              出郊雜咏(しゅっこうざつえい)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王　炎

 

道上東風掠面輕　　　　道上の東風 面を掠(かす)めて軽し　

一犁雨足得新晴　　　　一犁(いちり)雨(う) 足りて 新晴を得たり　

草頭蛺蝶自由舞　　　　草頭(そうとう)の蛺(きょう)蝶(ちょう) 自由に舞い　

林下鶌鵃相對鳴　　　　林下の鶌鵃(くつちゅう) 相対(あいたい)して鳴く

 

【語釈】

○出郊…郊外に出ること。○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○一犁雨…春雨。○蛺蝶…ちょうちょう。○鶌鵃…イカルガとハシトビガラス。

　

 

★    題石門奉真觀　　　　　石門の奉真觀に題す　　　　　　　　　　  宋　　劉　宰

 

疊障爲屏石作門　　　　畳障(じょうしょう)は屏と為(な)り 石は門と作(な)る　

陰雲漠漠雨昏昏　　　　陰雲 漠々(ばくばく) 雨 昏々(こんこん)　

清游到晚不知去　　　　清游 晩に到り 去るを知らず　

要上峯頭望曉暾　　　　峰頭に上り 暁暾(ぎょうとん)を望まんと要す

 

【語釈】

○石門…江蘇省蘇州市の地名。○奉真觀…道教の寺院。○疊障…重なりあった山峰。○陰雲…黒雲。○漠漠…一面に続いているさま。○昏昏…暗いさま。○清游…優雅に遊び賞すること。○要…～することを求める。～しようとする。○曉暾…朝日の光、転じて朝日。

 

★    遊武夷　　　　　　　　武夷に遊ぶ　　　　　　　　　　　　　  宋　　詹　羲

 

石廩巖前繫小舟　　　　石廩(せきりん)の巌前 小舟を繫ぐ　

娟娟明月照清秋　　　　娟々(けんけん)たる明月 清秋を照らす　

仙人一夜吹長笛　　　　仙人 一夜 長笛を吹く　

三十六峰雲盡收　　　　三十六峰 雲 尽く収まる

 

【語釈】

○武夷…福建省崇安県の南にある山。○石廩…衡山（五嶽の一つで湖南省にある）？○娟娟…美しく清らかなさま。○三十六峰…多くの峰々。

　

 

★    雨中過蘇堤　　　　　　雨中 蘇堤(そてい)を過ぐ　　　　　　　　　　　  宋　　葛天民

 

一堤楊柳占春風　　　　一堤の楊柳 春風を占む　

柳外群山細雨中　　　　柳外の群山 細雨の中(うち)　

人苦未晴渾不到　　　　人 未だ晴渾(せいき)の到らざるを苦しみて　

只宜老眼看空濛　　　　只だ 宜(よろ)しく 老眼 空濛(くうもう)を看るべし

 

【語釈】

○蘇堤…浙江省杭州市の西湖にある蘇軾が築いた堤。○細雨…こぬか雨。○晴渾…晴れて輝く太陽の光。○宜…「よろしく～すべし」と読み、「～するのが妥当である」「～するのがよい」と訳す。○空濛…小雨や霧などのために、空の薄暗いさま。

 

 

★    看山　　　　　　　　　山を看る　　　　　　　　　　　　　  宋　　葛天民

 

我本田夫作比丘　　　　我 本 田夫(でんぷ) 比丘と作(な)る　

也知騎馬勝騎牛　　　　也(ま)た知る 馬に騎(の)るは 牛に騎(の)るに勝(まさ)るを　

如今馬上看山色　　　　如(じょ)今(こん) 馬上にて 山色を看る　

不似騎牛得自由　　　　似ず 牛に騎(の)りて自由を得たるに

 

【語釈】

○田夫…農夫。○比丘…仏教語、僧侶。○如今…今。○山色…山の景色。

 

 

　

★    山行即事　　　　　　　山(さん)行(こう)即事(そくじ)　　　　　　　　　　　　　   宋　　高　翥

 

落盡桐花春已休　　　　桐花を落尽(らくじん)して 春 已に休(や)む　

過牆新竹籜初抽　　　　牆(かき)を過ぐ新竹 籜(たく) 初めて抽(ぬきん)ず　

山行步步黄泥滑　　　　山行 歩々(ほほ) 黄泥 滑(なめらか)なり　

小立谿橋聽雨鳩　　　　谿(こく)橋(きょう)に小立して 雨(う)鳩(きゅう)を聴く

 

【語釈】

○即事…事に触れて､その場のことを題材にして詩を作る。○籜…魚を捕らえる竹籠。○抽…芽をふく。○小立…立ち止まる。○谿橋…渓に架かる橋。○雨鳩…雨の中で鳴く鳩。

 

 

★    登六和搭　　　　　　　六(りく)和搭(わとう)に登る　　　　　　　　　　　　  宋　　鄭淸之

 

経過塔下幾春秋　　　　経過す 塔下 幾春秋　

毎恨無因到上頭　　　　毎(つね)に恨む 上頭(じょうとう)に到るに 因(いん)無きを　

今日始知高處險　　　　今日 始めて知る 高処の険　

不如帰去卧林邱　　　　如(し)かず 帰去(ききょ)して 林邱に卧(が)すに　　　　　

 

【語釈】

○六和搭…浙江省杭州市にある塔。○上頭…塔の高いところ。○因…理由。○林邱…林の中の家。

 

 

★    舟上　　　　　　　　　 舟上　　　　　　　　　　　　　　  宋　　徐　照

 

小船停槳逐潮還　　　　小船 槳(かじ)を停めて 潮(うしお)を逐(お)いて還(かえ)る　

四五人家住一灣　　　　四五の人家 一湾に住(じゅう)す　

貪看曉光侵月色　　　　貪(むさぼ)り看る 暁光の 月色を侵すを　

不知雲氣失前山　　　　知らず 雲気の 前山を失するを

 

【語釈】

○槳…舟をこぐ櫂。○雲氣…雲。

 

 

★    雁池作　　　　　　　　 雁池の作　　　　　　　　　　　　  宋　　翁　卷

 

包家門外柳垂垂　　　　包(ほう)家門外(かもんがい) 柳 垂(すい)々(すい)　

摇蕩春風滿雁池　　　　摇蕩(ゆうとう)たる 春風 雁池に満つ　

爲是城中最佳處　　　　是れ 城中 最も佳(よ)き処が為に　

每經過此立多時　　　　此(ここ)を経過する毎に 立つこと多時なり

 

【語釈】

○雁池…皇帝の御苑にある池。○包家門…不祥。○垂垂…垂れ下がっているさま。○摇蕩…揺れ動くさま。○多時…長い時間。

 

 

★    野望                 野望                                     宋　　翁　卷

 

一天秋色冷晴灣　　　　一天の秋色 晴湾に冷(ひややか)なり　　　　

無數峰巒遠近間　　　　無数の峰巒(ほうらん) 遠近の間(かん)　　　

閑上山來看野水　　　　閑(しずか)に 山に上り来たりて 野水を看れば　　　

忽於水底見青山　　　　忽(たちま)ち 水底に青山を見る

 

【語釈】

○野望…野原の眺め。○秋色…秋景色。○峰巒…連なっている山。

 

 

★    南塘即事               南塘即事   　　　　　　　　　　　　  宋　　翁　卷

 

半川寒日滿村煙　　　　半川の寒日 村煙に満つ　

紅樹青林古岸邊　　　　紅樹 青林 古岸の辺(ほとり)　

漁子不知何處去　　　　漁子(りょうし)は知らず 何れの処に去るかを　

渚禽飛去拗罾船　　　　渚禽(ちょきん) 飛び落ち 罾(そう)船(せん)を拗(よう)す

 

【語釈】

○南塘…浙江省温州市南塘。○即事…事に触れて､その場のことを題材にして詩を作る。○寒日…寒冷の天気、冬の太陽。○村煙…村の炊飯の煙。○漁子…漁夫。○渚禽…渚に済む鳥。○罾船…魚を捕る網を持った船。○拗…ねじる。向きをかえさせる。

 

 

★    江村晚眺二首　　　　　江村晚眺(こうそんばんちょう) 二首　　　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

數點歸鴉過別村　　　　数点の帰(き)鴉(あ) 別村を過ぐ　

隔灘漁笛遠相聞　　　　灘を隔つる漁笛 遠く相(あい)聞(き)く　

菰蒲斷岸潮痕濕　　　　菰(こ)蒲(ほ)の断岸 潮(ちょう)痕(こん)湿(しめ)り　

日落空江生白雲　　　　日落ち 空江 白雲生ず

 

【語釈】

○歸鴉…ねぐらにかえる烏。○灘…早瀬。○菰蒲…マコモとカバ。○潮痕…潮が引いた後に付く跡。○空江…人のいない川。

 

 

★    江村晚眺二首　　　　　江村晚眺(こうそんばんちょう)二首　　　　　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

江頭落日照平沙　　　　江頭の落日 平沙(へいさ)を照らす

潮退漁船閣岸斜　　　　潮(うしお) 退きて 漁船 岸に閣(お)かれて斜めなり　

白鳥一雙臨水立　　　　白鳥 一双 水に臨んで立つ　

見人驚起入蘆花　　　　人を見て 驚起して 蘆花に入る

 

【語釈】

○江村…川辺の村。○江頭…川のほとり。○平沙…平らな砂浜。○閣…船を岸につける。○一双…ひとつがい。○驚起…おどろいて。

（参考文献）　『中国名詩選』

　

 

 

★    樓上觀山              楼上観山　　　　　　　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

九陌黄塵沒馬頭　　　　九陌(きゅうはく)の黄塵(こうじん) 馬頭を没す　

人來人去幾時休　　　　人来り 人去りて 幾時か休せん

誰家樓上身無事　　　　誰が家の楼上か 身 無事ならん　

長對青山不下樓　　　　長く 青山に対して 楼を下らず

 

【語釈】

○九陌…都大路。○無事…事が無いこと。

 

 

★    湖上                  湖上　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

連天芳草晚凄凄　　　　天に連(つら)なる芳草 晩に凄々(せいせい)　

蹀躞花邊馬不嘶　　　　蹀躞(ちょうしょう) 花辺 馬嘶(いなな)かず　

蜂蝶已歸絃管靜　　　　蜂(ほう)蝶(ちょう) 已に帰り 絃管(げんかん)静なり　

猶聞人語畫橋西　　　　猶お聞く 人語 画橋の西

 

【語釈】

○凄凄…さびしく、いたましいさま。ひえびえとしたさま。○蹀躞…馬の歩くさま。○絃管…音楽。○畫橋…画で彩られた橋。　

　

 

★    湖上　　　　　　　　　湖上　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

綠波如畫雨初晴　　　　緑波は画の如く 雨 初めて晴れ　

一岸烟蕪極望平　　　　一岸の煙(えん)蕪(ぶ) 望(ぼう)を極めて平かなり　

日暮落花風欲定　　　　日暮の落花 風 定まらんと欲し　

小樓絃管壓新聲　　　　小楼の絃管 新声を圧す

 

【語釈】

○烟蕪…靄に煙った草原。○絃管…音楽。○新聲…新しい歌曲。

 

 

★    獨立　　　　　　　　　独り立つ　　　　　　　　　　　　　　  宋     方 岳

 

茅茨烟樹水溶溶　　　　茅茨 煙樹 水 溶々(ようよう)　

籬落人家带晚舂　　　　籬落(ろらく) 人家 晩舂を带ぶ　

獨立西風無一事　　　　独り 西風に立ち 一事無く

自撐短艇看芙蓉　　　　自(みずか)ら短艇を撐(ささ)えて 芙蓉を看る

 

【語釈】

○茅茨…茅吹きの家。○烟樹…靄のかかった樹木。○溶溶…水がさかんに流れるさま。○籬落…垣根。落はかこい。○短艇…小舟。○撐…さおで船を進める。

 

 

★    歸途過銅官山         帰途 銅官山を過ぐ　　　　　　　　　　   宋　　戴　昺

 

山徑崎嶇落葉黄　　　　山径 崎嶇(きく)として 落葉黄なり　

青松疎處漏斜陽　　　　青松 疎(そ)なる処 斜陽を漏らす　

鳴禽無數聲相應　　　　鳴禽(めいきん) 無数 声相応じ　

一陣微風野菊香　　　　一陣の微風 野菊香(かんば)し

 

【語釈】

○銅官山…不祥。○崎嶇…道が険しいさま。○鳴禽…さえずる鳥。

 

 

★    夜過鑑湖　　　　　　　 夜 鑑(かん)湖(こ)を過ぐ　　　　　　　　　　   宋　　戴　昺

 

推篷四望水連空　　　　篷(とま)を推して 四望(しぼう)すれば 水 空(くう)に連なる　

一片蒲帆正飽風　　　　一片の蒲(ほ)帆(はん) 正(まさ)に 風に飽く　

山際白雲雲際月　　　　山際(さんさい)の白雲 雲際(うんさい)の月　

子規聲在白雲中　　　　子規の声は 白雲の中(うち)に在り

 

【語釈】

○四望…四方を遠望する。○蒲帆…蒲で織った帆。

 

★    出城　　　　　　　　　城を出ず　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

小憇城西賣酒家　　　　小憇(しょうけい)す　城西 売酒の家　

綠陰深處有啼鴉　　　　緑陰深き処 啼(てい)鴉(あ)有り　

主人歎息官來晚　　　　主人 歎息す 官の来ること晩(おそ)きを　

謝了酴醾一架花　　　　謝(しゃ)了(りょう)す 酴醾(とび) 一架の花

 

【語釈】

○官…作者自身。○謝了…感謝する。了は動作の完了を表す助字。謝却とも言う。○酴醾…二度かもした酒。

 

 

★    扶胥　　　　　　　　　扶胥(ふせい)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

一陣東風掃曀霾　　　　一陣の東風 曀霾(えいはい)を掃い　

天容海色豁然開　　　　天容 海色 豁然(かつぜん)として開く　

何須更網珊瑚樹　　　　何ぞ須(もち)いん 更に 珊瑚樹を網(あみ)するを　

祇讀韓碑也合來　　　　祇(た)だ韓碑を読み 也た来るを合(あわ)す

 

【語釈】

○扶胥…？。○曀霾…曇って吹く風と土砂を降らす雨。○天容…天の様子。○海色…海の気配。○豁然…広々と開けているさま。○韓碑…唐の憲宗のときに淮西の乱を平らげた功績を標した碑文。文は韓愈による。

　

 

★    溪行                  溪(けい)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　李　庭

 

枯木扶疏夾道傍　　　　枯木 扶疏(ふそ)にして 道(どう)傍(ぼう)を夾(さしはさ)む　

野梅倒影浸寒塘　　　　野梅 影を倒(さかしま)にして 寒塘(かんとう)を浸(ひた)す　

朝陽不到溪灣處　　　　朝陽 到らず 溪(けい)湾(わん)の処　

留得橫橋一板霜　　　　留め得たり 橫橋 一板の霜

 

【語釈】

○扶疏…木の枝の四方に広まるさま。○寒塘…寒々とした池。○溪灣…谷川の彎曲したところ。

 

 

★    江山晚眺　　　　　　　江山の晚眺　　　　　　　　　　　　  宋　　黄榮仲

 

十里滄波自在流　　　　十里の滄波 自在に流れ　

滿天風月下蘆洲　　　　満天の風月 蘆(ろ)洲(しゅう)を下る　

待携六幅生綃去　　　　六幅の生綃(せいしょう)を 携え去るを待ち　

畫出江南水墨秋　　　　画き出す 江南 水墨の秋

 

【語釈】

○晚眺…夕暮れの眺め。○蘆洲…蘆の生えた中洲。○幅…布の横の広さ、周代は二尺二寸。○生綃…絵を描いた巻物。○江南…長江中下流の南岸地域。

 

 

★    過溪　　　　　　　　　 溪を過ぐ　　　　　　　　　　　　　  宋　　葉　茵

 

筍輿軋軋亂山中　　　　筍(じゅん)輿(よ) 軋々(あつあつ) 乱山の中(うち)　

籬落桃花潑眼紅　　　　籬落(りらく)の桃花　眼を溌(はっ)して紅なり　

小駐渡頭呼艇子　　　　小駐の渡頭(ととう)　艇子(ていし)を呼び　

一溪淺綠漾晴風　　　　一渓の浅緑　晴風に漾(ただよ)う

 

【語釈】

○筍輿…竹の輿。○軋軋…進みがたいさま。○籬落…かきね。○潑…そそぐ。○小駐…しばし留まる。○渡頭…渡し場。○艇子…船頭。

 

 

★    過垂虹　　　　　　　　垂虹を過ぐ                              宋　　何應龍

 

垂虹橋下水連天　　　　垂(すい)虹(こう)橋下(きょうか) 水 天に連なる　

一带青山落照邊　　　　一帯の青山 落照の辺(ほとり)　

三十六陂煙浦冷　　　　三十六陂(は) 煙(えん)浦(ほ) 冷やかなり　

鷺鷥飛上釣漁船　　　　鷺鷥(ろじ) 飛上がる 釣漁の船

 

【語釈】

○垂虹橋…江蘇省蘇州市垂虹橋。○落照…夕陽。夕焼け。○三十六陂…江蘇省蘇州市内の地名。○煙浦…霞、靄に煙った浦。○鷺鷥…さぎ。

 

 

★    羊角埂晚行　　　　　　 羊角埂(ようかくこう)晚行　　　　　　　　　　　　  宋　　宋伯仁

 

葛裙蒲履帽烏紗　　　　葛裙(かつくん) 蒲(ほ)履(り) 烏紗(うさ)を帽にす　

迤邐乘凉到水涯　　　　迤邐(いり) 涼に乗じて 水涯(すいがい)に到る　

數寺晚鐘聲未歇　　　　数寺の晩鐘 声 未だ歇(や)まず　

滿身涼月看荷花　　　　満身の涼月 荷花を看る

 

【語釈】

○羊角埂…不祥。○葛裙…かずらで織った衣。○蒲履…蒲であんだ草履。○烏紗…黒い薄絹で作った帽子。隠者がかぶる。○迤邐…あちらこちらとつたい歩くこと。

 

 

★    探春　　　　　　　　　春を探(たず)ぬ　　　　　　　　　　　　　　  宋　　戴　益

 

盡日尋春不見春　　　　尽日 春を尋ねて 春を見ず　

芒鞵踏遍嶺頭雲　　　　芒鞵(ぼうあい) 踏遍(とうへん)す 嶺頭の雲　

歸來適過梅花下　　　　帰り来たりて 適(てき)過(か)す 梅花の下　

春在枝頭已十分　　　　春は枝頭に在りて 已に十分

 

【語釈】

○芒鞵…ススキで作った草鞋。○踏遍…遍く歩き回る。○適過…通り過ぎる。

 

★    春遊　　　　　　　　　春遊　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　宋李任

 

草色江城緑四圍　　　　草色 江城 緑 四(よも)に囲む　　　　　

客中天氣近單衣　　　　客中(かくちゅう) 天気  単衣(たんい)に近し　　　

蛛絲似惜春歸去　　　　蛛(しゅ)糸(し) 惜しむに似たり 春の帰り去るを　　　　

網住桃花不許飛　　　　桃花を網住(もうじゅう)して 飛ぶを許さず

 

【語釈】

○江城…川の畔にある街。○客中…旅の途中。○單衣…ひとえの衣。○蛛絲…蜘蛛の糸。○網住…網でとらえて留める。

 

　　　　

★    武夷　　　　　　　　　武(ぶ)夷(い)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　葛長庚

 

幾點沙鷗泛碧流　　　　幾点の沙(さ)鴎(おう)か 碧流に泛(うか)ぶ

蘆花兩岸暮雲愁　　　　蘆花 両岸 暮雲愁う　

鼓樓巖下一聲笛　　　　鼓楼(ころう)巌下(がんか) 一声の笛　

驚落梧桐飛起秋　　　　梧桐を驚落(きょうらく)して 秋を飛起す

 

【語釈】

○武夷…武夷山、中国・福建省にある黄崗山（2158メートル）を中心とする山系の総称。九曲溪が観光地として有名。○沙鷗…砂浜に住む鷗。○鼓樓巖…九曲溪の中にある名厳。○梧桐…あおぎり。○驚落…驚かせて落とす。○飛起…飛び起こす。

 

 

★    採蓮　　　　　　　　　採(さい)蓮(れん)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　滕傳胤

 

忽然湖上片雲飛　　　　忽然(こつぜん) 湖上 片雲飛ぶ　

不覺舟中雨濕衣　　　　覚えず 舟中 雨の衣を湿(うるお)すを　

折得蓮花渾忘却　　　　折り得たる蓮花 渾(すべ)て忘却し　

空將荷葉蓋頭歸　　　　空しく 荷葉を将(もっ)って 頭を蓋(おお)って帰る

 

【語釈】

○採蓮…蓮の花を採る。○忽然…突然。○忘却…忘れる。却は動作の完了を示す助字。○荷葉…蓮の葉。

 

 

 

★    題八詠樓　　　　　　　八詠楼に題す　　　　　 　　　　　　　　 宋　　李　清

 

千古風流八詠樓　　　　千古の風流 八(はち)詠楼(えいろう)　

江山留與後人愁　　　　江山 留(りゅう)与(よ)す 後人の愁　

水通南國三千里　　　　水は通ず 南国 三千里　

氣壓江城十四州　　　　気は圧す 江城 十四州

 

【語釈】

○八詠樓…浙江省金華市南隅にある楼。○留與…留め与える。○江城…川の畔にある街。

 

★    臨平道中　　　　　　　 臨平(りんぺい)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　  宋　　釋道潜

 

風蒲獵獵弄輕柔　　　　風蒲 猟々(りょうりょう)として 軽柔を弄(ろう)す　

欲立蜻蜓不自由　　　　立たんと欲すも 蜻蜓(せいてい) 自由ならず　

五月臨平山下路　　　　五月 臨平山下(りんぺいさんか)の路　

藕花無數滿汀洲　　　　藕(ぐう)花(か) 無数 汀(てい)洲(しゅう)に満つ

 

【語釈】

○臨平…杭州の江西県にある山の名。○風蒲…風に吹かれる蒲の葉。○獵獵…風の吹く声。○軽柔…軽く柔らかなさま。○蜻蜓…とんぼ。○藕花…蓮の花。○汀洲…なぎさと中州。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

　

 

★    東園　　　　　　　　　 東園　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　釋道潜

 

曲渚回塘孰與期　　　　曲渚 回塘 孰(いず)与(れ)か期せん　

杖藜終日自忘歸　　　　藜(あかざ)を杖つき 終日自(おのずか)ら帰ることを忘る　

隔林彷彿聞機杼　　　　林を隔て 彷彿(ほうふつ)として 機杼(きひ)を聞く　

知有人家住翠微　　　　知る 人家の 翠微(すいび)に住する有るを

 

【語釈】

○曲渚…曲がった渚。○回塘…曲がったつつみ。○藜…草の一種で幹が軽いので老人、隠者の杖にする。○彷彿…かすかなさま。○機杼…機織りの杼の音。○翠微…山の緑の深い中腹あたり。

 

★    秋江　　　　　　　　　 秋江　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　釋道潜

 

赤葉楓林落酒旗　　　　赤葉 楓林 酒旗に落ち　

白沙洲渚夕陽微　　　　白沙 洲(しゅう)渚(ちょ) 夕陽(せきよう)微(かす)かなり　

數聲柔櫓蒼茫外　　　　数声の柔(じゅう)櫓(ろ) 蒼茫(そうぼう)の外(ほか)　

何處江村人夜歸　　　　何れの処の江村か 人 夜に帰る

 

【語釈】

○酒旗…酒屋の旗（青）。○洲渚…中洲のなぎさ。○柔櫓…船をこぐ櫂の軽い音。○蒼茫…水面などの青々として果てしないさま。○江村…川辺の村。

 

 

★北固樓　　　　　　　　北固楼(ほっころう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　僧仲殊

 

北固樓前一笛風　　　　北固楼前(ほっころう) 一笛の風　　　　

碧雲飛出建健康宮　　　碧雲 飛び出ず 建(けん)康宮(こうきゅう)　　　　

江南二月多芳草　　　　江南 二月 芳草多し　　　　

春在濛濛細雨中　　　　春は濛々(もうもう) 細雨の中(うち)に在り　　　

　　　　

【語釈】

○北固樓…江蘇省鎮江市北固山にある楼。○健康宮…不祥。建昌宮（江蘇省南京市の宮殿）のことか？○江南…長江中下流域の南岸地方。○濛濛…（霧や小雨で）煙るようにぼやっとしているさま。　

　　　　

 

★    絶句                 絶句　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　釋志南

 

古木陰中繫短篷　　　　古木陰中(こぼくいんちゅう) 短篷(たんほう)を繫(つな)ぐ　

杖藜扶我過橋東　　　　藜(あかざ)を杖き 我を扶(たす)け 橋東を過ぐ

沾衣欲濕杏花雨　　　　衣を沾(うるお)して湿(ぬら)さんと欲す 杏花の雨　

吹面不寒楊柳風　　　　面(めん)を吹いて 寒からず 楊柳の風

 

【語釈】

○短篷…小舟。○藜…草の一種で幹が軽いので老人、隠者の杖として用いられる。

 

　

★    放船　　　　　　　　　 船を放つ　　　　　　　　　　　　　　　宋　　姚　鏞

 

數幅蒲帆破曉煙　　　　数幅の蒲(ほ)帆(はん) 暁煙を破り　

一篙春水漲平川　　　　一篙(いっこう)の春水 平川に漲(みなぎ)る

誰家池館多楊柳　　　　誰が家か 池館(ちかん) 楊柳多し　

時送飛花到客船　　　　時に飛花を送り 客船(かくせん)に到る

 

【語釈】

○幅…布の幅の単位、周では二尺二寸。○蒲帆…蒲で作った帆を持つ船。○一篙…釣り竿一本くらいの長さ。○池館…池の畔にある館。○飛花…飛ぶ柳絮。

 

 

★    泝舟　　　　　　　　　泝舟(そしゅう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　僧浯渓

 

舟入沙湾一段清　　　　舟は沙(さ)湾(わん)に入り 一段と清し　

枯蘆風起作霜晴　　　　枯蘆(ころ) 風起り 霜(そう)晴(せい)を作(な)す　

江邊怕有梅花發　　　　江辺 怕(おそらく)は梅花の 発(ひら)く有らん　

説輿梢工近岸撐　　　　梢工(しょうこう)に説与(せつよ)して 岸 近く撐(ささ)えしむ

 

【語釈】

○泝舟…さかのぼる舟。○沙湾…砂浜のある湾。○梢工…船頭。○説輿…言って聞かせる。○撐…船を棹で留める。

 

 

★    閭山                   閭山(りょざん)　　　　　　　　　　　　　　  金　　蔡　珪

 

西風絶境撫孤松　　　　西風 絶境(ぜっきょう) 孤松を撫(ぶ)す　

千里川原四望通　　　　千里 川原 四望 通る　

但怪林梢看鳥翼　　　　但だ怪しむ 林(りん)梢(しょう)に鳥(ちょう)翼(よく)を看るを　

不知身到碧雲中　　　　知らず 身は 碧雲の中に到るを

 

【語釈】

○閭山…醫無閭山の略称。遼寧省北鎮県の西にある山。○西風…秋風。○絶境…人界から離れた所。○四望…四方の眺め。

 

 

★    濟南黄臺             済南の黄台　　　　　　　　　　　　   金　　任　訽

 

滿目江南烟水秋　　　　満目の江南 煙水の秋　

濟南重到憶南游　　　　済南 重ねて到り 南遊を憶う　

便欲移家漁市側　　　　便(すなわち)ち 家を移さんと欲す 漁市の側　

輕蓑短棹弄扁舟　　　　軽蓑 短棹 扁舟を弄す

 

【語釈】

○濟南…山東省済南市。○黄臺…台の名前。○滿目…目一杯に映る。○江南…長江中下流域の南岸地方。○煙水…靄に煙る川面。○便…ただちに。○扁舟…小舟。

 

 

★    暮春山家　　　　　　　暮春の山家　　　　　　　　　　　　　  金　　麻九疇

 

山烟向晚白濛濛　　　　山煙 晩に向って 白(はく) 濛々(もうもう)　

人過梨花樹底風　　　　人は梨花を過ぐ 樹底の風　

一犬不鳴村徑黑　　　　一犬 鳴かず 村径 黒し　

野燈孤起遠林中　　　　野灯 孤(ひと)り起く 遠林の中(うち)

 

【語釈】

○濛濛…おぼろげなさま。うすぐらいさま。○野燈…野原にある灯。

 

 

★    春遊　　　　　　　　　春遊　　　　　　　　　　　　　　　  金　　趙秉文

 

無數飛花送小舟　　　　無数の飛花 小舟を送る　

蜻蜓款立釣絲頭　　　　蜻蜓(せいてい) 款(かん)立(りつ)す 釣糸(ちょうし)の頭　

一溪春水關何事　　　　一渓の春水　何事にか関す　

皺作風前萬疊愁　　　　皺(しわ)と作す 風前 万(ばん)畳(じょう)の愁(うれい)

 

【語釈】

○蜻蜓…とんぼ。○款立…留まり立つ。○萬疊…多く重なり合ったさま。

 

 

★    暮歸　　　　　　　　　 暮(くれ)に帰る　　　　　　　　　　　　　  金　　趙秉文

 

貪看孤鳥入重雲　　　　孤鳥の重雲に入るを 貪(むさぼ)り看て　

不覺青林雨氣昏　　　　覚えず 青林に 雨気の昏(くら)きを　

行過斷橋沙路黑　　　　行きて 断橋を過(よぎ)れば 沙路黒し　

忽從電影得前村　　　　忽(たちま)ち 電影に従(よ)りて 前村を得たり

 

【語釈】

○雨氣…雨の降りそうな気配。○断橋…壊れた橋。○電影…稲妻。

 

 

★    即事　　　　　　　　　 即事　　　　　　　　　　　　　  金　　趙秉文

 

樓頭不見暮山重　　　　楼頭 見ず 暮山の重(かさな)るを　

遙認青林雨意濃　　　　遥かに認む 青林 雨意の濃きを　

一陣風來忽吹散　　　　一陣 風来って 忽(たちま)ち吹き散ず　

斷雲還補兩三峯　　　　断雲 還(ま)た補う 両三峰

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○雨氣…雨の降りそうな気配。○　一陣…雨や風などのひとしきり。

 

 

★    山行　　　　　　　　　山行　　　　　　　　　　　　　　　　  金　　趙秉文

 

石頭犖确水縱橫　　　　石頭 犖确(らくかく) 水 縦横　

過雨山閒草屨輕　　　　過雨 山間 草(ぞう)屨(り)軽(かろ)し　

未到上方先滿意　　　　未だ 上方に到らざるに 先ず 意(い)満つ　

倚天青壁看雲生　　　　天に倚(よ)る青壁 雲の生ずるを看る

 

【語釈】

○犖确…山に石の多いさま。○過雨…通り雨。○倚天…空に寄りかかるように聳える。

 

 

★    郊行                 郊行        　　　　　　　　　　　　   金　　酈　權

 

溪橋納納馬蹄輕　　　　渓橋 納(のう)々(のう) 馬蹄軽(かろ)し　

竹裏人家犬吠聲　　　　竹(ちく)裏(り)の人家 犬の吠ゆる声　

行盡灘光溪路黒　　　　灘光(たんこう)を行尽(こうじん)して 渓路黒し　

隔林燈火夜深明　　　　林を隔つる灯火 夜深くして明かなり

 

【語釈】

○郊行…郊外の野原を漫遊すること。○納納…うるおい湿るさま。○行盡…行き尽くす。

 

★    日觀峰　　　　　　　　日觀(にっかん)峰(ほう) 　　　　　　　　　　　　　　　  金　　蕭　貢

 

半夜東風攪鄧林　　　　半夜の東風 鄧(とう)林(りん)を攪(みだ)し　

三山銀闕杳沈沈　　　　三山の銀闕(ぎんけつ) 杳(よう)として沈々(ちんちん)　

洪波萬里兼天湧　　　　洪波(こうは) 万里 天を兼ねて湧(わ)き　

一㸃金烏出海心　　　　一点の金(きん)烏(う) 海心より出ず

 

【語釈】

○日觀峰…山東省泰安市日觀峰。○半夜…真夜中。○東風…春風。○鄧林…古代神話伝説に出てくる樹林。○三山…伝説で海上にある三つの神山。○銀闕…道教で天上にある白玉宮。○沈沈…夜が靜にふけて行くさま。○洪波…大波。○金烏…太陽。○海心…海の真ん中。

 

★    東樓雨中　　　　　　　東楼雨中　　　　　　　　　　　　  金　　王元粹

 

雨入溪樓不見山　　　　雨は渓楼に入りて 山を見ず　

雨晴依舊數峰閒　　　　雨晴れて 旧に依り 数峰 閑なり　

韋郎詩句王維畫　　　　韋郎の詩句 王維の画　

好在幽人指顧間　　　　好し 幽人は 指顧の間に在り

 

【語釈】

○東樓…不祥。○依舊…旧来の如く。○韋郎…韋応物。○幽人…隠者。○指顧間…非常に近い距離。

 

 

★    馬嵬道中　　　　　　　 馬嵬(ばかい)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　   金　　杜　佺

 

垂栁隂隂水拍堤　　　　垂栁(すいりゅう) 隂々 水 堤を拍(う)つ　

春晴茅屋燕争泥　　　　春晴 茅屋 燕 泥を争う　

海棠正好東風惡　　　　海棠 正(まさ)に好く 東風悪(わろ)し　

狼藉殘紅送馬蹄　　　　狼藉(ろうぜき) 残紅 馬蹄を送る

 

【語釈】

○馬嵬…陝西省興平県、安史の乱において楊貴妃が殺されたところ。○隂隂…木が茂って暗いさま。○茅屋…茅葺きの家。○東風…春風。○狼藉…散る花。○殘紅…散り残りの花。

 

★    游南城               南城に遊ぶ　　　　　　　　　　　　　  金　　李好復

 

園林晴晝蔚如烟　　　　園林の晴昼 煙の如く蔚(うつ)として　

林外支流盡水田　　　　林外の支流 尽(ことごと)く水田　

落日趂墟人已散　　　　落日 墟を逐(お)いて 人 已に散じ　

鷺鷥飛上渡頭船　　　　鷺鷥(ろし) 飛上がる 渡頭(ととう)の船

 

【語釈】

○烟…靄、霞。○蔚…雲霧が濃く深いさま。○墟…市の立つ村里。大きな丘。○鷺鷥…しらさぎ。○渡頭…渡し場。

 

 

★    雨後　　　　　　　　　雨後　　　　　　　　　　　　　　  金　　馮　辰

 

東風花外錦鳩啼　　　　東風 花外 錦(きん)鳩(きゅう)啼き　

喚起西山雨一犁　　　　喚起す 西山 雨 一犁(いちれい)　

緑滿蔬畦人不到　　　　緑は蔬(そ)畦(けい)に満ち 人 到らず　

桔橰閒立夕陽低　　　　桔橰(けつこう) 閑(しずか)かに立ち 夕陽(せきよう)低し

 

【語釈】

○東風…春風。○錦鳩…しらこばと。いかるが。○一犁…ひとすきほど。○蔬畦…菜畑。○桔橰…はねつるべ。

 

 

★    梁園春　　　　　　　　　梁(りょう)園(えん)の春　　　　　　　　　　　　　  金　　元好問

 

暖入金溝細浪添　　　　暖は金(きん)溝(こう)に入りて 細浪(さいろう)添(そ)う　

津橋楊柳綠纖纖　　　　津(しん)橋(きょう)の楊柳 緑 繊々(せんせん)　

賣花聲動天街遠　　　　売花の声は動き 天街遠く　

幾處春風揭繡簾　　　　幾処(いくところ)の春風か 繡(しゅう)簾(れん)を掲(かか)ぐ

 

【語釈】

○梁園…河南省開封市梁苑。○金溝…美しい堀。○細浪…さざなみ。○津橋…渡しにかける橋。○纖纖…かぼそいさま。○繡簾…刺繍をほどこした簾。

 

 

★    清湖春早              清湖春早　　　　　　　　　　　　　　　  元　　方　回

 

樓上春陰覆曉雲　　　　楼上の春(しゅん)陰(いん) 暁(ぎょう)雲(うん)を覆(おお)う　　　　　

一河天淨碧沄沄　　　　一河 天浄(きよ)く 碧 沄々(うんうん)

雨宜不驟風宜細　　　　雨は 宜しく驟(しゅう)ならざるべく 風は 宜しく細(さい)なるべし

閒倚闌干看水紋　　　　閑かに 闌干に倚りて 水紋を看る

 

【語釈】

○春陰…春の曇り。春霞。○沄沄…広々としているさま。○宜…「よろしく～すべし」と読み、「～するのが妥当である」「～するのがよい」の意。○驟…にわかに降る。　　　

 

★    雨過                   雨過ぐ　　　　　　　　　　　　　   元　　黃　庚

 

雨過山頭雲氣溼　　　　雨は 山頭を過ぎ 雲気溼(しげ)し　

潮生渡口岸痕深　　　　潮(うしお)は 渡(と)口(こう)に生じ 岸(がん)痕(こん)深し　

一聲短笛斜陽外　　　　一声の短笛 斜陽の外　

知有漁舟泊柳陰　　　　知る 漁舟の 柳(りゅう)陰(いん)に泊(はく)する有るを

 

【語釈】

○雲気…雲の気配。雲。○渡口…渡し場。○岸痕…潮が引いた後岸に残った痕。

 

 

★    江景　　　　　　　　　江景　　　　　　　　　　　　　　　　   元　　黃　庚

 

寒生雁背天將雪　　　　寒は 雁(がん)背(はい)に生じ 天 将(まさ)に雪ふらんとす　

冷入魚鰓水欲冰　　　　冷は 魚(ぎょ)鰓(さい)に入り 水 氷らんと欲す　

釣艇歸來江路暝　　　　釣(ちょう)艇(てい) 帰り来たりて 江路暝(くら)し　

舟人分火點漁燈　　　　舟人 火を分け 漁灯を点ず

 

【語釈】

○將…「まさに～せんとす」と読み、「今にも～しそうである」の意。○魚鰓…魚のえら。○釣艇…釣り船。漁船。

 

 

★    暮景                  暮景　　　　　　　　　　　　　　　   元　　黃　庚

 

浮雲開合晚風輕　　　　浮雲 開合して 晩風軽(かろ)し　

白鳥飛邊落照明　　　　白鳥の飛(ひ)辺(へん) 落照明かなり　

一曲彩虹橫界斷　　　　一曲の彩(さいこう)虹(にじ) 横に界断(かいだん)し　

南山雷雨北山晴　　　　南山は雷雨 北山は晴

 

【語釈】

○開合…分合。○飛邊…飛んでいるあたり。○落照…落日。夕焼け。○界斷…分け開く。

 

 

★    江村　　　　　　　　　江村　　　　　　　　　　　　　　   元　　黃　庚

 

極目江天一望賖　　　　極目(きょくもく)の江天 一望 賖(はるか)なり　

寒煙漠漠日西斜　　　　寒煙 漠々(ばくばく) 日は西に斜めなり　

十分秋色無人管　　　　十分の秋色 人の管する無く

半屬蘆花半蓼花　　　　半ばは 蘆花に属し 半ばは蓼(りょう)花(か)

 

【語釈】

○極目…見渡す限り。○江天…川と空。○賖…広大なさま。○寒煙…寒い靄霞。○漠漠…一面に続いているさま。○秋色…秋景色。○蓼花…たでの花。

 

 

★    溪上                   溪上　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　劉秉忠

 

蘆花遠映釣舟行　　　　蘆花 遠く映じて 釣舟行く　

漁笛時聞三兩聲　　　　漁笛 時に聞く 三両声　

一陣西風吹雨散　　　　一陣の西風 雨を吹いて散じ　

夕陽還在水邊明　　　　夕陽(せきよう) 還(ま)た 水辺に在りて 明らかなり

 

【語釈】

○一陣…風や雨などのひとしきり。○西風…秋風。

 

 

★東城　　　　　　　　　 東城　　　　　　　　　　　　　　　　   元　　趙孟頫

 

野店桃花紅粉姿　　　　野店の桃花 紅粉の姿　

陌頭楊栁綠烟絲　　　　陌頭(はく)の楊栁 緑(りょく)煙(えん)の糸　

不因送客東城去　　　　客(かく)を送り 東城に去るに 因(よ)らずんば　

過却春光總不知　　　　春光を過却(かきゃく)して 総(すべ)て知らざらん

 

【語釈】

○野店…田舎の店、野原の茶屋。○紅粉…紅おしろい。○陌頭…道ばた。○綠烟絲…柳の細い枝に芽が萌え出て煙の如きさま。○過却…見ないで空しく過ごす。○去…行く。○春光…春景色。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

★    湖上暮歸　　　　　　　湖上 暮に帰る　　　　　　　　　　　　 元　　趙孟頫

 

春隂栁絮不能飛　　　　春隂(しゅんいん) 栁絮(りゅうじょ) 飛ぶ能(あた)わず　

雨足蒲芽綠更肥　　　　雨足りて 蒲(ほ)芽(が) 緑 更に肥えたり　

政恐前呵驚白鷺　　　　政(まさ)に恐る 前呵(ぜんか)の 白鷺を驚かすを　

獨騎欵段遶湖歸　　　　独(ひと)り 欵段(かんだん)に騎(の)りて 湖を遶(めぐ)りて帰る

【語釈】

○春隂…春の曇り。春がすみ。○前呵…先払いをする人。○欵段…子馬。

 

 

★    晨出郊　　　　　　　晨(あした)に郊(こう)に出ず　　　　　　　　　　　　  元　　張養浩

 

雲駁疎陰漏日華　　　　雲 駁(まだら)にして疎(そ)陰(いん) 日華を漏らし　

曨曨晨色散林鴉　　　　曨々(ろうろう)たる 晨(しん)色(しょく) 林(りん)鴉(あ)を散ず　

馬前怪底猶明月　　　　馬前 怪底(かいてい)す 猶お明月　

路轉滿川蕎麥花　　　　路は転ず 満川(まんせん) 蕎麦(きょうばく)の花

 

【語釈】

○郊…郊外の野原。○疎陰…疎らな影。○日華…太陽の光。○曨曨…おぼろげなさま。薄明るいさま。○晨色…暁の景色。○林鴉…林に棲む烏。○怪底…驚き怪しむ。○蕎麥…そば。

 

 

★    黃華山中　　　　　　　 黃(こう)華(か)山中(さんちゅう)　　　　　　　　　　　　　   金　　王庭筠

 

道人邂逅一開顏　　　　道人 邂逅(かいこう)して一たび開(かい)顔(がん)す　

為借筇枝策我孱　　　　為に 筇(きょう)枝(し)を借りて 我孱を策す　

幽鳥留人還小住　　　　幽(ゆう)鳥(ちょう) 人を留め 還(ま)た小住(しょうじゅう)す　

晚風吹破水中山　　　　晩風 吹き破る 水中の山

 

【語釈】

○黃華山…不祥。○道人…徳の高い人。道教の僧侶。○邂逅…偶然会う。うちとけるさま。○開顏…楽しみ笑う。○筇枝…筇竹の枝。○幽鳥…隠れ住む鳥。○小住…しばらく住む。

 

★    即事                  即事  　　　　　　　　　　　　　　  元　　許有壬

 

幾家門繫釣魚船　　　　幾家の門は繫(つな)ぐ 釣魚(ちょうぎょ)の船　

一陣風香燎麥烟　　　　一陣の風は香る 燎(りょう)麦(ばく)の煙　

畫出太平村落景　　　　画き出(いだ)す 太平 村落の景　

酒旗多在緑楊邊　　　　酒旗は 多く 緑楊の辺に在り

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○一陣…風や雨などのひとしきり。○燎麥…麦柄を燃やすこと。○酒旗…酒屋の青い旗。

 

 

★    晚眺　　　　　　　　　 晚眺　　　　　　　　　　　　　　　  元　　周　權

 

閃閃歸鴉過別林　　　　閃々(せんせん)たる 帰(き)鴉(あ) 別(べつ)林(りん)を過ぐ

斜陽流水意沈沈　　　　斜陽 流水 意 沈々(ちんちん)　

數聲樵笛人何處　　　　数声の樵(しょう)笛(てき) 人 何れの処ぞ　

一路寒山晚翠深　　　　一路 寒山 晩に翠(すい)深(しん)

 

【語釈】

○閃閃…動いてひらめくさま。○沈沈…さかんなさま。○寒山…秋から冬にかけての物寂しい山。○翠深…緑色が深いこと。

 

 

★    晚渡　　　　　　　　　 晚(ばん)渡(と)　　　　　　　　　　　　  元　　周　權

 

離離野樹綠生煙　　　　離々(りり)たる 野樹 緑煙を生ず　

灼灼山花爛欲燃　　　　灼々(しゃくしゃく)たる 山花 爛(らん)として 燃(もえ)んと欲す　

酤酒人歸春渡寂　　　　酒を酤(か)いて 人 帰り　春(しゅん)渡(と) 寂(せき)たり　

柳根閒繫夕陽船　　　　柳根 閑(しずか)かに 繫(つな)ぐ 夕陽の船

 

【語釈】

○晚渡…夕暮れの渡し場。○離離…草木の繁茂しているさま。○緑煙…緑色の靄霞。○灼灼…花がさかんに咲いているさま。○爛…鮮やかなさま。○酤…酒を買う。○春渡…春の渡し場。

 

 

★    上京即事               上京即事　　　　　　　　　　　　　  元　　薩都剌

 

沙苑棕毛百尺樓　　　　沙苑(さえん) 棕毛(そうもう) 百尺の楼　

天風搖曳錦絨鈎　　　　天風 揺曳(ようえい)す 錦絨(にしきじゅう)鈎(こう)　

內家宴罷無人到　　　　內家 宴罷(や)みて 人の到る無く　

面面珠簾夜不收　　　　面面の珠簾 夜収まらず

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○沙苑…陝西省大荔県の南，渭水に臨む。○棕毛…元の上都の別殿の通称。○揺曳…揺れたなびく。○錦絨鈎…鈎にかかった錦で出来た織物。○面面…各方面。○珠簾…玉すだれ。

 

 

★    阻風南露筋過羅漢寺登樓看山茶                               元　　薩都剌

南露筋(なんろきん)にて風に阻まれ 羅漢寺(らかんじ)に過ぎりて 楼に登り 山茶を看る 

 

野寺尋春酒未醒　　　　野寺に春を尋ねて 酒 未だ醒めず　

不知幾日過清明　　　　知らず 幾日か 清明を過ぐを　

小闌干外東風急　　　　小闌(しょうらん)干外(かんがい) 東風 急なり　

一樹山茶落晚晴　　　　一樹の山茶 晩晴に落つ

 

【語釈】

○南露筋…不祥。○羅漢寺…湖北省武漢市にある寺。○山茶…常緑の樹。サザンカの花の咲く木。○清明…淸明節、二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○東風…春風。○山茶…サザンカ。○晚晴…夕暮れの晴れた空。

 

★    沙湖晚歸　　　　　　　 沙湖 晚に帰る　　　　　　　　　　　　  元　　朱德潤

 

山野低回落雁斜　　　　山野を低回し 落雁(らくがん)斜なり　

炊煙茅屋起平沙　　　　炊煙 茅屋 平沙(へいさ)に起く

櫓聲歸去浪痕淺　　　　櫓声(ろせい) 帰り去り 浪痕(ろうこん)浅し

搖動一灘紅蓼花　　　　揺動す 一灘の 紅(こう)蓼(りょう)花(か)

 

【語釈】

○茅屋…茅葺きの家。○平沙…平らで広い砂原。○灘…満ち潮のときは水没し、引き潮のときは現れる場所。○紅蓼花…赤いたでの花。

　

 

★    雙井院前小立　　　　　双井院前(そういいんぜん) 小立(しょうりつ)　　　　　　　　　　   元　　倪　瓚

 

山色微茫好放船　　　　山色 微茫(びぼう)たり 好し船を放たん　

秋渠野水夕陽邊　　　　秋渠(しゅうきょ) 野水 夕陽(せきよう)の辺　

西風更灑菰蒲雨　　　　西風 更に灑(うるわ)し 菰(こ)蒲(ほ)の雨　

羡爾沙鷗自在眠　　　　羡(うらやむ)む 沙(さ)鴎(おう)の自在に眠るを

 

【語釈】

○雙井院…江西省修水県にある院？○小立…しばしたたずむこと。○山色…山の景色。○微茫…かすかでぼんやりしているさま。○西風…秋風。○菰蒲…マコモとガマ。○羡爾…うらやむ。爾は助字で訓読しない。○沙鷗…砂浜に住む鷗。

 

 

★    過弋陽　　　　　　　　 弋(よく)陽(よう)を過ぐ　　　　　　　　　　　　  元　　高克恭

 

雷聲驅雨過山西　　　　雷声 雨を駆(く)して 山西を過ぐ　

山腹雲根似削齊　　　　山腹の雲根 削斉に似たり　

日暮牧兒歸不得　　　　日暮れて牧兒 帰るを得ず　

料應白水漲前溪　　　　料るに 応(まさ)に 白水の前渓に漲(みなぎ)るべし

　

【語釈】

○弋陽…江西省上饒市弋陽縣。○驅…駆り立てる。追い出す。○雲根…雲の生ずる所。○削齊…削り整える。○應…「まさに～べし」と読み、「おそらく～であろう」の意。○白水…清い水。

 

 

★    夕陽　　　　　　　　　 夕陽(せきよう)　　　　　　　　　　　　　　　  元　　何　中

 

斜陽盡入笛聲中　　　　斜陽 入り尽す 笛声の中(うち)　

兩岸樵漁一水通　　　　両岸の樵(しょう)漁(りょう)　一水通ず　

楊柳已疏楓漸落　　　　楊柳 已に疏(そ)にして 楓 漸(やうや)く落つ

黃花渾未識秋風　　　　黄花 渾(すべ)て 未だ 秋風を識らず

 

【語釈】

○樵漁…樵と漁師。○漸…次第次第に。○黄花…黄色い花。ここでは菊。

 

 

★    湖光山色樓口占　　　　湖光山色 楼にて口(こう)占(せん)す　　　　　　　  元　　顧　瑛

 

天風吹雨過湖去　　　　天風 雨を吹いて 湖を過ぎて去る

溪水流雲出樹間　　　　渓水 雲を流して 樹間より出ず

樓上幽人不知暑　　　　楼上の幽人 暑を知らず　

鉤簾把酒看虞山　　　　簾(れん)を鉤(こう)し 酒を把(と)りて 虞山(ぐざん)を看る

 

【語釈】

○湖光山色…湖と山の景色。○口占…紙に書かず即興で詩を作ること。○天風…空を吹く風。○幽人…隠れ住む人。隠者。○鉤簾…簾を巻き上げて留め金にかけて留める。○虞山…江蘇省蘇州市にある山。

 

 

★    湧金門見柳　　　　　　湧金門にて柳を見る　　　　　　　　  元　　貢性之

 

湧金門外柳垂金　　　　湧金門外 柳 金を垂る　

三日不來成綠陰　　　　三日 来(きた)らざるに 緑陰を成す　

折取一枝入城去　　　　一枝を折り取り 城に入りて去れば　

使人知道已春深　　　　人をして 道は 已に春の深きを 知らしめん

 

【語釈】

○湧金門…臨安 (杭州市 )の西の城門。○柳垂金…柳の垂れ下がった枝の芽が金のように見えること。○去…行く。

　

 

★    和郭安道治書韻　　　　郭安(かくあん)道(どう)治(ち)書の韻に和す　　　　　　　　  元　　周　馳

 

西風吹起白頭波　　　　西風 吹き起こす 白頭の波　

半夜扁舟掠岸過　　　　半夜 扁舟 岸を掠(かす)めて過ぐ　

不向長橋沽一醉　　　　長橋 一酔を沽して 向わず　

滿天明月奈秋何　　　　満天の明月 秋を奈何(いかん)せん

 

【語釈】

○郭安道…郭安、元の保定の人，字は安道，監察御史から集賢大學士にいたる。○治書…官職名。○韻…詩。○西風…秋風。○半夜…真夜中。○扁舟…小舟。○沽…買う。○奈Ａ何…「Ａをいかんせん」と読み「Ａをどのようにしようか」の意。

 

 

★    小橋 　　　　　　　　　小橋　　　　　　　　　　　　　　　  元　　彭　炳

 

落花如雪馬蹄香　　　　落花 雪の如く 馬蹄香(かんば)し　

幾樹黃鸝欲斷腸　　　　幾樹の黄鸝(こうり) 腸を断たんと欲す　

行到小橋春影碧　　　　行きて到る 小橋 春影 碧なり　

一溝晴水浸垂楊　　　　一溝の晴水 垂楊を浸す

 

【語釈】

○黃鸝…コウライウグイス。○春影…春景色。○晴水…晴れた日の水。○垂楊…垂れ下がった柳の枝。

 

★    湖景　　　　　　　　　 湖景　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　徐元杰

 

花開紅樹亂鶯啼　　　　花開いて 紅樹 乱鶯啼き　

草長平湖白鷺飛　　　　草長くして 平湖 白鷺飛ぶ　

風物晴和人意好　　　　風物 晴和 人意好し　

夕陽簫鼓幾船歸　　　　夕陽(せきよう) 簫鼓 幾船か帰る

 

【語釈】

○平湖…平らな湖。○風物…眺め。○晴和…晴れてのどかなこと。○簫鼓…管弦。音楽。

 

 

★    早春湖上　　　　　　　 早春湖上　　　　　　　　　　　　　  元　　郭君彦

 

栁牙黄淺不勝春　　　　栁(りゅう)牙(が) 黄(こう)浅く 春に勝(た)えず　

沙暖泥香草色新　　　　沙(すな)暖くして 泥香(かんば)しく 草色新なり　

鸂鶆雙飛湖水闊　　　　鸂(けい)鶆(ちょく) 双飛し 湖水闊(ひろ)く　

相思愁殺倚欄人　　　　相思(そうし) 愁(しゅう)殺(さつ)す 欄(らん)に倚(よ)る人

 

【語釈】

○鶆雙…オシドリに似た紫色の水鳥。○雙飛…つがいになって飛ぶ。○相思…（相手を思う）。互いに思う。○愁殺…ひどく愁えさせる。

 

★    春日即興              　　　　春日即興　　　  　　　　　元　　龍仁夫

 

枯藤處處領春華　　　　枯藤(ことう) 処々 春(しゅん)華(か)を領す　

遮莫東風顫帽紗　　　　遮(さもあら)莫(ばあれ) 東風の 帽紗(ぼうさ)を顫(ふるわ)す　

點破蕪青黄世界　　　　点破す 蕪青(ぶせい)の黄世界　

一枝香雪小梨花　　　　一枝の香雪 小梨の花

 

【語釈】

○枯藤…枯れた藤。○春華…春の花。○遮莫…ままよ。○東風…春風。○帽紗…薄絹で作った帽子。○點破…發く。○蕪青…カブラ菜。○香雪…白い花。

 

　

★    西湖春日壯遊即事　　西湖 春日 壮遊 即事    　　　　　　　  元　　馬　臻

 

遶湖無處避芳塵　　　　湖を遶(めぐ)り 芳(ほう)塵(じん)を避くるに処(ところ)無く　

疊鼓紅旗彩鷁新　　　　畳(じょう)鼓(こ) 紅旗 彩鷁(さいげき) 新(あらた)なり　

冉冉春雲來不斷　　　　冉々(ぜんぜん)たる春雲　来(きた)りて断ぜず　

涌金門外踏青人　　　　涌(ゆう)金門外(きんもんがい) 青(せい)を踏む人

 

【語釈】

○即事…その場の事を詠ずる詩。○芳塵…落花。○疊鼓…太鼓の音。○彩鷁…水鳥の一種、転じて船を指す。○冉冉…むくむくと動くさま。○涌金門…臨安（広州市）の西の城門。○青…春。

 

 

★    西湖春日壯遊即事　　西湖 春日 壮遊 即事    　　　　　　　  元　　馬　臻

 

鏤玉雕瓊簇閙竿　　　　鏤(る)玉(ぎょく) 雕瓊(ちょうけい) 閙(どう)竿(かん)に簇がり　

珠花翠葉縷金籃　　　　珠(しゅ)花(か) 翠(すい)葉(よう) 縷金(るきん)の籃(かご)　

東家年少貪遊冶　　　　東家の年少 遊冶(ゆうち)を貪(むさぼ)り　

正值明朝三月三　　　　正に值(あ)たる 明朝 三月三

 

【語釈】　

○即事…その場の事を詠ずる詩。○鏤玉…玉をちりばめる。○雕瓊…玉をきざむ。○閙竿…賑やかな竿。○珠花…珠を削って花の形にした装飾品。○翠葉…緑の葉。○縷金…金の糸で編んだ。○籃…かご。○遊冶…楽しみを求めて外出すること。○三月三…上巳の節句。

　

　

★    西湖春日壯遊即事　　西湖 春日 壮遊 即事    　　　　　　　  元　　馬　臻

 

一路亭臺間酒家　　　　一路の亭台 酒家に間(かん)す　

漸看楊柳綠藏鴉　　　　漸(ようや)く看る 楊柳の 緑 鴉を蔵(ぞう)すを　

太平官府無民訟　　　　太平の官府 民訟無く　

補種沿隄四季花　　　　補いて種う 隄に沿う 四季の花

 

【語釈】

○即事…その場の事を詠ずる詩。○酒家…酒屋。○漸…だんだん、次第次第に。○官府…政府機関。○民訟…民衆からの訴え。○補種…後から追加して植えること

 

 

★    西湖春日壯遊即事　　西湖 春日 壮遊 即事    　　　　　　　  元　　馬　臻

 

畫船過午入西林　　　　画船 午を過ぎて 西林に入る　

人擁孤山陌上塵　　　　人は 孤山を擁(よう)して 陌上の塵　

曾被弁陽模寫盡　　　　曽って 弁陽に模写し 尽さる　

晚來閒卻半湖春　　　　晩来 閑却す 半湖の春

 

【語釈】

○即事…その場の事を詠ずる詩。○畫船…画で彩色を施した船。○午…正午。○孤山…西湖にある島。林逋隠棲の地。○陌上…道の上。○弁陽…人名？○晩来…夕方になってから。○閒卻…捨てて顧みない。

 

 

★    西湖春日壯遊即事　　西湖 春日 壮遊 即事    　　　　　　　　  元　　馬　臻

 

天街夜市已喧闐　　　　天街の夜市 已に喧闐(けんてん)　

半掩城門玉漏傳　　　　半ば城門を掩(とざ)し 玉漏伝う　

籠燭絳紗爭道入　　　　籠燭(ろうしょく) 絳紗(こうしゃ) 道を争いて入り　

湖心猶有未歸船　　　　湖心 猶お有り 未だ帰らざる船

 

【語釈】

○即事…その場の事を詠ずる詩。○天街…首都の街道。○喧闐…人があふれて騒々しいさま。○玉漏…水時計の美称。○籠燭…手提げの灯火。○絳紗…赤い薄絹。

 

 

★    一峰雲外菴　　　　   一峰雲外の菴(あん)　　　　　　　　　　　　　  元　　僧惟則

 

平田水語稻花香　　　　平田 水 語りて 稲花香(かんば)し　

半解蘿衣受晚涼　　　　半ば蘿(ら)衣(い)を解いて 晩涼を受く　

景物雙清秋正好　　　　景物 双つながら清く 秋 正(まさ)に好し　

亂山雲外又斜陽　　　　乱山 雲外 又た斜陽

 

【語釈】

○蘿衣…うすぎぬの衣。○景物…景色、風景。

 

 

★    次韻王文明絶句漫興　　王(おう)文明(ぶんめい)の絶句漫興に次韻す　　　　　　  明　　劉　基

 

芙蓉湖上夕陽低　　　　芙蓉湖上 夕陽(せきよう)低し　

楊柳枝頭一鳥棲　　　　楊(よう)柳(りゅう)枝頭(しとう) 一鳥棲む　

獨倚闌干看山色　　　　独り 闌干に倚(よ)り 山色を看れば　

白雲飛過若耶溪　　　　白雲 飛び過ぐ 若耶渓(じゃくやけい)

 

【語釈】

○王文明…王麟、紹興路山陰の人，詳細不明。○芙蓉湖…蓮の花が咲く湖の一般名と思われる。○山色…山の景色。○若耶溪…浙江省紹興市若耶山の渓。

 

 

 

★    過閩關               閩(びん)関(かん)を過ぐ　　　　　　　　　　　　  明　　劉　基

 

漠漠輕雲結晚陰　　　　漠々(ばくばく)たる軽雲 晩陰を結び　

依依斜日掛遙岑　　　　依々(いい)たる斜日 遥岑(ようしん)に掛(かか)る　

炊烟忽起桑楡上　　　　炊煙 忽(たちま)ち起る 桑楡(そうゆ)の上　

散作鮫綃抹半林　　　　散じて 鮫綃(こうしょう)と作り 半林を抹(まつ)す

 

【語釈】

○閩關…福建省にある関所の様な地形の地、詳細不詳。○漠漠…一面に続いているさま。○晩陰…夕暮れの暗さ。○依依…遠くぼんやりとしているさま。○遙岑…遙かな峰。○桑楡…桑とにれ、転じて木をいう。○鮫綃…人魚の薄絹。○抹…ぬる。

 

　

★    蘭溪棹歌              蘭溪(らんけい)棹歌(とうか)　　　　　　　　　　　　　  明　　汪廣洋

 

涼月如眉掛栁灣　　　　涼月 眉の如く 栁湾に掛かる　

越中山色鏡中看　　　　越中の山色 鏡中に看る　

蘭溪三日桃花雨　　　　蘭渓 三日 桃花の雨　

夜半鯉魚來上灘　　　　夜半  鯉魚 灘に上って来る

 

【語釈】

○蘭溪…浙江省金華市にある名勝の渓。○棹歌…舟歌。○栁灣…柳を植えた湾。○越中…浙江省。○山色…山の景色。○鏡中…ここでは、鏡のような水面。○灘…早瀬。

 

 

★    蘇溪亭                 蘇溪亭(そけいてい)　　　　　　　　　　　　　　  明　　汪廣洋

 

蘇溪亭上草漫漫　　　　蘇渓亭上(そけいていじょう) 草漫々(まんまん)　

誰倚東風十二欄　　　　誰か倚(よ)る 東風 十二欄　

燕子不歸春事晚　　　　燕子(えんし) 帰らず 春事の晩(くれ)　

一汀烟雨杏花寒　　　　一汀の煙雨 杏花寒し

 

【語釈】

○蘇溪亭…不祥。○漫漫…広く遙かなさま。○東風…春風。○春事…春景色。○烟雨…こぬか雨。

（注）唐 · 戴叔倫に同一の詩あり。

 

 

★    登石鐘山望廬山　　　　石(せき)鐘山(しょうざん)に登りて廬(ろ)山(ざん)を望む　　　　　　  明　　張　治

 

廬嶽亭亭翠萬重　　　　廬(ろ)岳(がく) 亭々(ていてい) 翠(みどり) 万(ばん)重(ちょう)　

懸泉千尺掛飛龍　　　　懸(けん)泉(せん) 千尺 飛竜を掛く

石鐘山下江如鏡　　　　石(せき)鐘(しょう)山下(さんか)　江 鏡の如し　

映出青天五老峰　　　　映し出だす 青天 五老峰

 

【語釈】

○石鐘山…江西省北部湖口県にある山。○廬山…江西省九江市南にある名山。○亭亭…高く聳え立つさま。○懸泉…瀑布。○石鐘山…不祥。○五老峰…廬山の名峰。

 

★    江村即事　　　　　　　江村即事　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

野岸江村雨熟梅　　　　野岸の江村 雨 梅を熟す　

水平風軟燕飛回　　　　水平かに 風軟かく 燕 飛び回(めぐ)る　

小舟送餉荷包飯　　　　小舟 餉(かれい)を送る 荷(か)包(ほう)の飯　

遠斾招沽竹醞醅　　　　遠斾(えんはい) 沽(か)うを招く 竹醞醅(たけうんばい)

 

【語釈】

○江村…川辺の村。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○餉…昼の弁当。○荷包飯…蓮の葉で包んだ飯。○遠斾…遠くの旗。○沽…（さけ）を買う。○竹醞醅…かもした酒の一種。

 

 

★    舟歸江上過斜塘　　　　舟 江上の斜塘(しゃとう)を過ぎて帰る　　　　　　  明　　髙　啓

 

漫漫村塘水沒沙　　　　漫々(まんまん)たる村塘(そんとう) 水 沙を没す　

清明初過已無花　　　　清明 初めて過ぎて 已に花無し　

春寒欲雨歸心急　　　　春寒 雨ふらんと欲し 帰心急なり　

不駐扁舟問酒家　　　　扁舟を駐め酒家を問わず

 

【語釈】

○斜塘…斜めになった池の堤。○漫漫…遠く遙かなさま。○村塘…村の溜め池。○淸明…淸明節。二十四節気の一つ。春分のあと一五日目、新暦の四月五、六日ごろに当たる。○春寒…春の薄ら寒さ。○扁舟…小舟。

 

★    消夏湾                 消夏湾　　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

凉生白苧水浮空　　　　涼は白苧に生じ 水は空に浮ぶ　

湖上曽開避暑宮　　　　湖上 曽て開く 避暑宮　

清簟疎簾人去後　　　　清簟 疎簾 人去りて後　

漁舟占盡栁隂風　　　　漁舟 占め尽す 栁隂の風

 

【語釈】

○白苧…しろからむしで織ったかたびら。○避暑宮…不祥。○清簟…竹で編んだ涼しいむしろ。○疎簾…まばらな竹製のすだれ。

 

 

★    春郊挟彈　　　　　　　春郊挟弾(しゅんこうきょうだん)　　　　　　　　　　　　　  明　　呉彦貞

 

五陵年少出新豐　　　　五陵の年少 新豊(しんぽう)を出ず　

紫鞚銀鞍耀玉驄　　　　紫鞚(しこう) 銀(ぎん)鞍(あん) 玉驄(ぎょくそう)に耀(かがや)く　

挟彈遅迴楊柳陌　　　　弾を挟み 遅迴(ちかい)す 楊柳の陌(みち)　

馬蹄軽逐落花風　　　　馬蹄 軽く逐う 落花の風

 

【語釈】

○春郊…春の郊外の野原。○挟彈…現在のパチンコのように玉で獲物を撃つ道具。○五陵…漢の高帝以下五人の帝の墓があるところの付近、豪遊の人が多く住んでいる。○年少…若者。○新豐…長安の東にある美酒の産地。○紫鞚…紫色のたずな。○銀鞍…銀の鞍。○玉驄…葦毛馬の美称。○遅迴…ぶらぶらする。

 

★    一鑑亭　　　　　　　　一(いっ)鑑亭(かんてい)　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　金元立

 

桃源不隔鳳城遙　　　　桃源 隔たず 鳳(ほう)城(じょう)遥なり　

翠瑣朱欄十二樓　　　　翠瑣(すいさ) 朱欄(しゅらん) 十二楼　

荷葉滿塘香露白　　　　荷葉 塘に満ち 香露白し　

玉人乗月坐吹簫　　　　玉人 月に乗じて 坐して簫を吹く

 

【語釈】

○一鑑亭…不祥。○桃源…桃源郷。○鳳城…長安。○翠瑣…鎖模様を施した緑色の宮門。○朱欄…朱色の欄干。○荷葉…蓮の葉。○塘…池。○玉人…玉のように高潔な人。○乗月…月明かりのもとで。

 

 

★    晩眺　　　　　　　　　晩眺(ばんちょう)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　趙　迪

 

白雲深處野人家　　　　白雲 深き処 野人の家　

椅杖閒吟日未斜　　　　杖に椅(よ)りて 閑吟(かんぎん)すれば 日は未だ斜めならず　

江上數峯看欲盡　　　　江上の数峰 看れば 尽きんと欲す　

晩鐘殘月入蘆花　　　　晩鐘 残月 蘆花に入る

 

【語釈】

○野人…野にあって仕えぬ人。○閒吟…閑かに吟ずること。

 

 

 

★    揚州                   揚州(ようしゅう)     　　　　　　　　　　　   明　　曾　棨

 

翠裙紅燭夜調笙　　　　翠裙(すいくん) 紅燭(こうしょく) 夜 笙を調す　　　　

一曲嬌歌萬種情　　　　一曲の嬌歌(きょうか) 万種の情　　　　

二十四橋春水綠　　　　二十四橋 春水 緑なり　　　　

蘭橈隨處傍花行　　　　蘭橈(らんぎょう)は 随処 花に傍いて行く

 

【語釈】

○揚州…江蘇省揚州市。○翠裙…緑色の裾。○紅燭…赤い灯火。○嬌歌…なまめかしい歌、美しい歌。○二十四橋…揚州にある２４の石橋。○蘭橈…小舟の美称。

 

★    塔頂　　　　　　　　　塔頂　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　郭　登

 

塔頂新晴獨自登　　　　塔頂 新晴 独り自(みずか)ら登る　

畫欄高倚十三層　　　　画欄 高く倚(よ)る 十三層　

不知眼界高多少　　　　知らず 眼界 高きこと多少なるを　

地上行人似凍蠅　　　　地上の行人(こうじん) 凍蠅(とうよう)に似たり

 

【語釈】

○新晴…雨あがりの晴。○画欄…彩色された欄干。○眼界…目の届く範囲。○行人…行き交う人。○凍蠅…氷った蠅。

 

★    春日泛爽亭　　　　　　春日の泛爽亭(ぼうそうてい)　　　　　　　　　　　　　  明　　楊承鯤

 

江畦高城背日斜　　　　江(こう)畦(けい) 高城  背(はい)日(じつ)斜めなり　

竹西茅屋是漁家　　　　竹西(ちくせい)の茅屋 是(こ)れ漁家　

南山雨歇春流急　　　　南山 雨 歇(や)んで 春流急なり　

多少遊魚上淺沙　　　　多少の遊魚 浅沙(せんさ)に上る

 

【語釈】

○江畦…川の側の畑。○背日…夕陽。○茅屋…茅ぶきの家。○是…be動詞にあたり、「コレ」と訓読する。○多少…多く。○淺沙…沙底の浅い川。

 

 

★    湖上暮歸　　　　　　　湖上 暮に帰る　　　　　　　　　　　  明　　史　鑒

 

鴨群呼去水雲空　　　　鴨群(こうぐん) 呼び去る 水雲の空　

香滴葒花露氣濃　　　　香滴 葒(こう)花(か) 露気濃(こまや)かなり　

僧寺茫茫看不見　　　　僧寺 茫々(ぼうぼう) 看れども見えず　

暮煙生處忽聞鐘　　　　暮煙 生ずる処 忽ち鐘を聞く

 

【語釈】

○水雲…水と雲。○葒花…おおだての花。○茫茫…あきらかでないさま。○暮煙…夕餉の煙。

 

★    觀城歌                観城の歌  　　　　　　　　　　　　　明　　邊　貢

 

睥睨連雲十二樓　　　　睥睨(へいげい)す 雲に連なる 十二楼　

西南形勝數荆州　　　　西南の形勝 荆州(けいしゅう)を数う　　

已教峴首為屏繞　　　　已に 峴首(けんしゅ)をして 屏と為りて繞(めぐ)らしめ　

更遣巴江作帶流　　　　更に 巴(は)江(こう)をして 帯と作りて流れしめん

 

【語釈】

○觀城…山東省聊城市莘県。○睥睨…流し目で見る。にらむ。○形勝…地勢、風景などの優れていること。○荆州…湖北省、湖南省と四川省の一部。○峴首…湖北省襄陽県の南にある峴山。○巴江…重慶のあたりを流れる川。

 

 

★    春日漫興           　　春日漫興　　　　　　　　　　  明　　李夢陽

 

十日不出花盡開　　　　十日出(い)でざるに 花 開き尽くす　

城南城北看花來　　　　城南 城北 花を看て来たる　

即教閉戶從花盡　　　　即ち 戶を閉じて 花の尽くるに従(したが)わしめ

莫遣看花不醉廻　　　　花を看て 酔わずして 廻(かえ)らしむる莫(な)かれ

 

【語釈】

○漫興…一時の感興に乗じて作った詩。　

　

 

★    終南篇　　　　　　　　終南篇　　　　　　　　　　　　　　  明　　何景明

 

離宮別館舊京華　　　　離宮の別館 旧京華　　　　

表裏關河屬漢家　　　　表裏の関河 漢家に属す　　　　

二閣天圍青錦帳　　　　二閣の天囲 青錦の帳　　　　

五臺雲湧石蓮花　　　　五台 雲湧く 石蓮花　　　　

　　　　　

【語釈】

○終南…陕西省西安市の終南山、隠棲の地。○京華…帝都。○關河…函谷関等の関と黄河。○五臺…中尚書、門下省、中書省、秘書省、禦史台の総称。○石蓮花…景天科植物。ハリンゴ。

 

 

★    溪上漫興       　　 　溪上漫興　　　　　　　　　　　　　　　  明　　何景明

 

雙飛𤄬鶒戀青莎　　　　双飛(そうひ)の𤄬(けい)鶒(ちょく) 青莎(せいさ)を恋い　

對舞蜻蛉愛碧波　　　　対舞(ついぶ)の蜻蛉(せいれい) 碧波を愛す　

一夕水風開菡萏　　　一夕の水風 菡萏(かんたん)を開き　

畫船齊唱採蓮歌　　　　画船 斉唱す 採蓮歌

 

【語釈】

○漫興…なんとなく催した感興。○雙飛…つがいで飛ぶ。○𤄬鶒…おしどり。○青莎…青いハマナスゲ。○對舞…対を為して舞う。○蜻蛉…とんぼ。○菡萏…蓮の花のまだ開かぬもの。○画船…彩色された船。○採蓮歌…楽府の曲の一つ、蓮を採るときの歌で､男女の相愛を歌う。

　

 

★    郊行　　　　　　　　　 郊行　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　莊　昶

 

凌兢瘦馬踏春泥　　　　凌兢(りょうきょう)の痩(そう)馬(ば) 春泥(しゅんでい)を踏み　

雪後郊原綠未齊　　　　雪後の郊原 緑 未だ斉(ととの)わず　

一抹午煙風隔斷　　　　一抹の午煙 風 隔断(かくだん)す　

野鷄聲在竹林西　　　　野鶏の声は　竹林の西に在り

 

【語釈】

○凌兢…寒さに戦慄するさま。○春泥…春の雪解けの水。○郊原…原野。○午煙…昼餉の煙。○隔斷…隔て開く。

 

 

★    飲龍井　　　　　　　　龍(りゅう)井(せい)を飲む　　　　　　　　　　　　　  明　　孫一元

 

眼底閑雲亂不開　　　　眼底の閑雲(かんうん) 乱れて開かず　

偶随麇鹿入林來　　　　偶(たまた)ま 麇(び)鹿(ろく)に随って 林に入りて来(きた)る　

平生於物元無取　　　　平生(へいぜい) 物に於いて 元 取る無し　

消受山中水一杯　　　　消受(しょうじゅ)す 山中の水一杯

 

【語釈】

○龍井…浙江省餘姚縣の龍泉寺にある井戸。○閑雲…のんびり漂う雲。○麇鹿…鹿。○平生…つねひごろ。○消受…受けて用いる。

 

 

★    遊准曲               遊准曲　　　　　　　　  　　　　　　　明　　王　謳

 

高捲珠簾白玉鈎　　　　高く 珠(しゅ)簾(れん)を捲く 白玉の鈎(こう)　

呉歌楚舞幾時休　　　　呉歌 楚舞 幾時にか休(や)む　

市橋燈火三庚後　　　　市橋の灯火 三庚の後　

客醉歸來月滿樓　　　　客 酔いて 帰り来れば 月 楼に満つ

 

【語釈】

○珠簾…珠でできた簾。○鈎…簾などを捲き上げて吊す留め金。○三庚…真夜中。

 

 

★    春城曲　　　　　　　　春城曲　　　　　　　　　　　　　  明　　金　鑾

 

雨餘芳草遠萋萋　　　　雨余(うよ)の芳草 遠く萋々(せいせい)

春暖遊人信馬蹄　　　　春暖くして 遊人 馬蹄に信(まか)す

日暮畫樓歸去晚　　　　日暮れて 画楼 帰り去る晩

落花香裏路東西　　　　落花(らっか)香(こう)裏(り) 路 東西す

 

【語釈】

○雨餘…雨上がり。○萋萋…草木が生い茂っているさま。○遊人…旅人。遊びに出かけた人。○畫樓…絵や色彩で飾られた楼。

 

 

★    横翠樓        　　　　　　　横翠樓　　　　　　　　　　　　　　　　明　　華　察  

 

渓邊畫閣霞春輝　　　　渓辺の画閣 春輝 霞(かすみ)たり

雲外高窗面翠微　　　　雲外の高窓 翠微(すいび)に面す

遙望仙人練丹處　　　　遥かに望む 仙人 丹(たん)を練(ね)る処

朝朝常見五雲飛　　　　朝々(ちょうちょう) 常に見る 五雲 飛ぶを

 

【語釈】

○横翠樓…不祥。○畫閣…絵や色彩で彩られた閣。○春輝…春の光。春の日。○翠微…山のみどりの深いひっそりとした中腹のあたり。○丹…仙薬の一つ。○朝朝…毎日。○五雲…五色の瑞雲。

 

 

★    清虚閣        　　　　　　　清虚閣(せいきょかく)　　　　　　　　　　　　　　　明　　華　察     

 

月上孤峯静夜分　　　　月は孤峰に上り 静夜 分る

憑高四望斷塵氣　　　　高きに憑(よ)りて 四望(しぼう)し 塵気を断つ

天空萬籟人俱寂　　　　天空 万籟(ばんらい) 人と俱(とも)に寂(しずか)なり

惟有疎鐘在白雲　　　　惟(た)だ 疎鐘の 白雲に在る有り

 

○清虚閣…不祥。○四望…四方をながめやる。○萬籟…万物の風で起こる響き。

 

 

★    春望                 春望　　　　　　　　　　　　　　            明　　李先芳       

 

芳草萋迷一徑斜　　　　芳草 萋迷して一径斜なり

澹煙疏雨譟新鴉　　　　澹煙 疏雨 新鴉(しんあ)を譟(さわ)がす

城南春色濃於酒　　　　城南の春色 酒よりも濃し

醉殺千林桃杏花　　　　酔殺す 千林 桃杏の花

 

【語釈】

○春望…春の眺め。○萋迷…草木が盛んに生い茂るさま。○澹煙…薄い靄。○新鴉…生まれたばかりの烏。○春色…春景色。○酔殺…すっかり酔わせる。

 

 

★    蓬莱閣　　　　　　　　蓬莱閣　　　　　　　　　　　　　　　  明　　呉維嶽

 

群山映帯曙霞開　　　　群山 映帯して 曙(しょ)霞(か)開く　

千尺巉巖海上臺　　　　千尺の巉(ざん)巌(がん) 海上の台　

仙馭有無春色裏　　　　仙馭(せんぎょ)の有無 春色の裏(うち)　

長空雲盡鳥飛廻　　　　長空 雲尽き 鳥飛び廻る

 

【語釈】

○蓬莱閣…不祥。○映帯…色つや又は景色の彩りが互いに写り合う。○曙霞…曙の霞。○巉巖…高く厳しいいわお。○仙馭…鶴（仙人の乗り物）。○春色…春景色。春の世界。

 

★    同明卿惟敬登太白樓   明(めい)卿(けい)惟(い)敬(けい)と同(とも)に太(たい)白楼(はくろう)に登る　　　　　　  明　　除中行

 

醉携仙客上雲梯　　　　酔いて 仙客を携えて 雲(うん)梯(てい)を上る　

睥睨烟霽萬象低　　　　睥睨(へいげい)す 煙霽(えんせい) 万象の低きを　

即欲乗風登日觀　　　　即ち風に乗(じょう)じて 日(にっ)観(かん)に登らんと欲す

蒼茫海色使人迷　　　　蒼茫(そうぼう)たる海色 人をして迷わ使(し)む

 

【語釈】

○明卿惟敬…不祥。○太白樓…安徽省黄山市太白楼,李白が訪れた。○仙客…仙人のような高潔な人、明卿惟敬を言う。○雲梯…雲の梯子。仙人などが空に登っていくときに用いる。○睥睨…流し目で見る。にらむ。○烟霽…かすんだ空。○万象…万物。○日觀…山東省泰安市日觀峰。○蒼茫…水面などの青々として果てしなく広いさま。

　

 

★    西湖采蓮曲　　　　　　西湖(せいこ)采(さい)蓮曲(れんきょく)　　　　　　　　　　　　　  明　　伊　臺

 

湖市羅裙映玉缸　　　　湖市の羅裙(らくん) 玉缸(ぎょくこう)に映ず　

蘇堤楊柳拂船窓　　　　蘇堤の楊柳 船窓を払う　

采蓮誤觸鴛鴦起　　　　采(さい)蓮(れん) 誤って鴛鴦(えんおう)に触れて起き　

飛向花間還自雙　　　　飛びて 花間に向(お)いて 還た自(おのずか)ら双(なら)ぶ

 

○羅裙…薄絹の裳裾。○玉缸…細長い素焼きの瓶の美称。○蘇堤…西湖にある蘇軾が作った堤。○采蓮曲…蓮を採るときの労働歌で、楽府の一つ。男女の情を歌う。○采蓮…采蓮船。○采蓮…采蓮船。○鴛鴦…おしどり。○向…場所を示す前置詞。○雙…つがいになる。

　

 

★    金陵元夜              金(きん)陵元(りょうげん)夜(や)　　　　　　　　　　　　　  明　　歐大任

 

舊京門巷盛繁華　　　　旧京 門(もん)巷(こう) 繁華(はんか)盛なり　

雙鳳銜燈出帝家　　　　双鳳(そうほう) 灯を銜(くわ)え 帝家を出ず　

寶馬嘶殘三市月　　　　宝馬 嘶(いなな)き残る 三市の月　

玉笙吹過五陵花　　　　玉笙 吹き過ぐ 五陵の花

 

【語釈】

○金陵…南京。○元夜…正月十五日、上限節の夜。○舊京…旧都。○門巷…家の門と町中の道。○繁華…繁栄して美しいさま。○雙鳳…一対の鳳凰。○帝家…皇宮。○寶馬…貴重な駿馬。○三市…大市、朝市、夕市の三つの市。○玉笙…笙の美称。

 

　

★    若耶詞　　　　　　　　 若耶(じゃくや)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　  明　　瀋明臣

 

嫣然越女勝荷花　　　　嫣然(えんぜん)たる越女 荷(か)花(か)に勝る　

蕩漾輕舟過若耶　　　　蕩漾(とうよう)たる軽舟 若耶(じゃくや)を過ぐ　

紅藕牽絲風欲斷　　　　紅藕(こうぐう) 糸を牽け 風 断たんと欲す　

綠楊撩影日初斜　　　　緑楊 影を撩(ととなの)えて 日 初めて斜めなり

 

【語釈】

○若耶…江蘇省紹興市の南にある山、渓。○嫣然…素直で美しいさま。しとやかなさま。○越女…越（紹興市のあたり）の女、西施をはじめ美女が多い。○荷花…蓮の花。○蕩漾…揺るぎ動く。○輕舟…軽やかな小舟。○紅藕…赤いレンコン。

　

 

★    青溪　　　　　　　　　 青溪　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　沈明臣

 

窈窕清溪盡日尋　　　　窈窕(ようちょう)たる清渓 尽日尋ぬ　

雨收風歇翠沈沈　　　　雨収まり　風歇(や)んで 翠(みどり) 沈々　

一雙燕子翻花出　　　　一双の燕子　花を翻(ひるがえ)して出(い)で　

始覺人家住隔林　　　　始めて覚ゆ 人家の 住して 林を隔つるを

 

【語釈】

○窈窕…容貌の美しいさま。○盡日…一日中。○沈沈…草木がさかんに生い茂っているさま。○人家住…人家が在る。

 

 

★    春日湖上　　　　　　　春日湖上　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　泰

 

步逐東風踏軟沙　　　　歩して 東風を逐(お)い 軟沙(なんさ)を踏む　

背人驚鷺去斜斜　　　　人に背き 鷺を驚かして　去ること斜々たり　

兩株紅杏疏籬外　　　　両株の紅杏 疏籬(そり)の外　

知是湖村賣酒家　　　　知る 是れ 湖村 酒を売る家

 

【語釈】

○東風…春風。○去…行く。○斜斜…斜めなさま。○両株…二株。○疏籬…まばらな垣根。

 

 

★    春日湖上              春日湖上　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　泰

 

小鬟扶處醉瞢騰　　　　小鬟(しょうかん) 扶(たす)くる処 酔瞢(すいぼう) 騰(あ)ぐ　

落日寒生半臂綾　　　　落日 寒は生ず 半臂(はんぴ)の綾(あや)　

燕子不來春尚淺　　　　燕子来らず 春 尚お浅し　

湖陰留得未消冰　　　　湖(こ)陰(いん) 留め得たり 未だ消えざる氷

 

【語釈】

○小鬟…女の召使い。○醉瞢…酔った状態の人。○騰…馳せる。跳び上がる。○半臂綾…袖の短い、又は無い薄絹の上衣。○湖陰…湖の日影の部分。

 

 

★    夏日登樓　　　　　　　夏日登楼　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　鰲

 

一林疎竹半池萍　　　　一林の疎竹  半池の萍(ひょう)　

高閣涼多酒易醒　　　　高閣 涼多く 酒 醒め易し　

隔浦夕陽孤島外　　　　浦を隔つる夕陽(せきよう) 孤島の外(そと)　

白雲飛斷亂山青　　　　白雲 飛断し 乱山青し

 

【語釈】

○萍…うきくさ。

 

 

 

★    湖上梅花歌　　　　　　湖上梅花の歌　　　　　　　　　　　　  明　　王稚登

 

山煙山雨白氤氳　　　　山煙 山雨 白 氤氳(いんうん)　

梅蕊梅花濕不分　　　　梅蕊 梅花 湿(しめ)りて分れず　

渾似高樓吹笛罷　　　　渾(すべ)て似たり 高楼にて 笛を吹き罷(や)むに

半隨流水半為雲　　　　半ばは 流水に随い 半ばは雲と為る

 

【語釈】

○山煙…山にかかっている靄、霞。○氤氳…天地の気の盛んなさま。○梅蕊…梅の花の芯の部分。

 

 

★湖上梅花歌           湖上梅花歌　　　　　　　　　　　　　  明　　王稚登

 

虎山橋外水如煙　　　　虎山(こざん)橋外(きょうがい) 水 煙の如し　

雨暗湖昏不繫船　　　　雨 暗く 湖 昏(くら)くして 船を繫がず　くら

此地人家無曆日　　　　此の地の人家 曆日無し　

梅花開日是新年　　　　梅花開く日 是れ新年

 

【語釈】

○虎山橋…不祥。○煙…靄、霞。○曆日…暦により日を知ること。

 

 

 

★    雜言　　　　　　　　　 雜言(ざつげん)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王稚登

 

凍雲寒樹曉模糊　　　　凍雲 寒樹 暁に模糊(もこ)たり　

水上樓臺似畫圖　　　　水上の楼台 画図に似たり　

紅袖誰家乘小艇　　　　紅(こう)袖(しゅう) 誰が家か  小艇に乗る　

捲簾看雪過鴛湖　　　　簾を捲き雪を看て 鴛(えん)湖(こう)を過ぐ

 

【語釈】

○雜言…よもやまの事を詠った詩。○模糊…はっきりしないさま。ぼんやりしているさま。○紅袖…赤い袖で転じて美人。○鴛湖…浙江省嘉興の西南にある湖。湖中に煙雨楼がある。

 

 

★    白下春遊曲　　　　　　白下春遊の曲　　　　　　　　　　　　  明　　金大輿

 

江南春暖杏花多　　　　江南 春暖くして 杏花多し　

拾翠尋芳逐隊過　　　　翠(すい)を拾い 芳(ほう)を尋ねて 隊を逐(お)いて過ぐ　

滿地綠陰鋪徑轉　　　　満地の緑陰 径を鋪(ほ)して転じ　

隔枝黃鳥近人歌　　　　枝を隔つる黄鳥 近人の歌

 

【語釈】

○白下…南京の西北の地。○江南…長江下流の南側の地方。○拾翠…婦女子の春遊びをいう。○尋芳…美しい景色を賞して遊ぶ。○逐隊…多くの人に従って。○鋪…広げる。○黄鳥…コウライウグイス。

　

 

★    白下春遊曲　　　　　　白下春遊の曲　　　　　　　　　　　　  明　　金大輿

 

白馬金鞍遊冶郎　　　　白馬 金(きん)鞍(あん) 遊冶郎(ゆうじろう)　

醉攜紅袖上梅岡　　　　酔いて 紅袖を携えて 梅岡に上る　

銀鈿金雁春風裏　　　　銀鈿(ぎんでん) 金(きん)雁(がん) 春風の裏(うち)　

指點江山坐夕陽　　　　江山を指点(してん)し 夕陽(せきよう)に坐す

 

【語釈】

○白下…南京の西北の地。○遊冶郎…風流な若者。○紅袖…赤い袖で転じて美人。○銀鈿…銀でできたかんざし。○金雁…金属製の雁をかたどった飾り。○指點…手で物を指し示す。

 

 

★    白下春遊曲　　　　　　白下 春遊の曲　　　　　　　　　　　　  明　　金大輿

 

何處佳人婀娜妝　　　　何れの処の佳人か 婀娜(あだ)の妝(よそおい)　

青山初日炤流黃　　　　青山の初日(しょじつ)　流(りゅう)黄(こう)を炤(あきらか)にす　

輕羅半掩金跳脱　　　　軽羅(けいら) 半ば掩(おお)う 金跳(きむちょう)脱(だつ)　

春寺燒香繞畫廊　　　　春寺 香を焼いて 画廊を繞(めぐ)る

 

【語釈】

○白下…南京の西北の地。○婀娜…軽く柔らかくて美しいこと。○初日…朝日。○炤…明るく照らす。○流黃…褐黄色。○輕羅…軽い薄絹。○金跳脱…菌の腕輪。○畫廊…絵や色彩で彩られた廊下。　

　

　

★    夜同黄白中歩至孤山尋梅                                      明　　謝肇淛

 　　　　　 夜 黄白中と同(とも)に 歩して孤山(こざん)に至り 梅を尋ぬ  

 

望湖亭上大堤斜　　　　望(ぼう)湖亭上(こていじょう) 大堤 斜めなり　

夜到孤山處士家　　　　夜に到る 孤山処士の家　

殘冬滿林霜月暗　　　　残冬 林に満ち 霜月暗し　

不知何處是梅花　　　　知らず 何れの処か 是れ梅花

【語釈】

○黄白中…不祥。○孤山…西湖中にあった山。林逋の隠棲地。○望湖亭…西湖にあった亭。○大堤…白居易が西湖に作った堤、白堤。○孤山処士…林逋。○是…be動詞にあたり「コレ」と訓読する。

 

 

★    靈源洞暁起            靈源(れいげん)洞(どう) 暁に起く　　　　　　　　　　　  明　　安　國

 

拂曙禪房夢乍醒　　　　曙(あけぼの)を払う禅房 夢 乍(たちま)ち醒む　

數聲啼鳥椅欄聴　　　　数声の啼鳥 欄に椅(よ)りて聴く　

海上霞出樹凝紫　　　　海上 霞 出で 樹 紫を凝らす　

天際雲來山斷青　　　　天際 雲来りて 山 青を断つ

 

【語釈】

○靈源洞…不祥。○禪房…禅室。禅寺。○欄…欄干。○天際…空の果て。

 

 

★    春郊即事              春郊即事                             明　　宋登春

 

春風嫋嫋夕陽西　　　　春風 嫋々(じょうじょう) 夕陽の西　

芳草菲菲楊柳隄　　　　芳草 菲々(ひひ) 楊柳の隄　

行盡溪山有茆屋　　　　行き尽くす渓山 茆屋(ぼうおく)有り　

青林深處一鳩啼　　　　青林 深き処 一鳩(いっきゅう)啼く　

 

【語釈】

○春郊…春の郊外の野原。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○嫋嫋…しなやかで美しいさま。○芳草…美しい草。○菲菲…草木の茂るさま。○茆屋…茅吹きの家。

 

 

★    晚登九華山　　　　　　 晚に九(きゅう)華山(かざん)に登る　　　　　　　　　　  明　　呉　兆

 

望江亭望晚江晴　　　　望(ぼう)江亭(こうてい)望(ぼう) 晩江の晴　

颯颯秋兼風水聲　　　　颯々(さつさつ)たる秋は兼ぬ 風水の声　

寺隔數峰猶未到　　　　寺は数峰を隔て 猶お未だ到らず　

禪燈幾點翠微明　　　　禅(ぜん)灯(とう)幾点(いくてん) 翠(みどり) 微(び)明(めい)たり

 

【語釈】

○九華山…安徽省青陽県西南の山。○望江亭…不祥。○颯颯…風のさっとふくさま。また、その形容。

　

 

★    晩歸　　　　　　　　　 晩に帰る　　　　　　　　　　　　   明　　鬍宗仁

 

送客歸來息樹根　　　　客を送りて 帰り来たり 樹根に息う　

蕭疏楓葉掩柴門　　　　蕭疏(しょうそ)たる楓葉 柴門を掩う　

暮煙未即全遮眼　　　　暮煙　未だ即ち　全くは眼を遮らず　

猶露橋西一兩村　　　　猶(な)お 露(うるお)おす 橋(きょう)西(せい) 一両村

 

【語釈】

○蕭疏…寂しくまばらなさま。○柴門…柴で作った粗末な門。○暮煙…ゆうもや。○露…つゆでぬらす。

 

 

★    寓玉清觀              玉清観に寓(よ)る　　　　　　　　　　　　  明　　葉子奇

 

徑草微微護淺沙　　　　径草 微々 浅沙を護る　

小山叢竹玉清家　　　　小山の叢竹 玉清の家　

牽牛延蔓無多碧　　　　牽牛 延蔓し 多碧 無し　

點綴秋光一兩花　　　　秋光を点綴す 一両花

 

【語釈】

○寓…仮に宿泊する。○玉清観…不祥。○叢竹…叢がった竹林。○玉清…高潔。○牽牛…牽牛花、あさがお。○點綴…ほどよくとりあわせて飾る。○秋光…秋景色。

　

 

★    石湖                    石湖      　　　　　　　　　　　　  明　　周　砥

 

煙中白鶴獨飛還　　　　煙中 白鶴 独り 飛び還(かえ)る　

相伴孤雲盡日閒　　　　相い伴う 孤雲 尽日閑(しずか)なり　

落日放船湖水上　　　　落日 船を放つ 湖水の上　

一簾秋色看青山　　　　一簾の秋色 青山を看る

 

【語釈】　

○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○煙中…靄、霞の中。○秋色…秋景色。

 

 

★    長橋                  長橋　　　　　　　　　　　　　　　  明　　蘇大年

 

綠陰高樹映清潭　　　　緑陰 高樹 清潭(せいたん)に映ず　

一舸夷猶酒半酣　　　　一舸の夷猶 酒 半ば酣(たけなわ)なり　

最愛西城城下路　　　　最も愛す 西城 城下の路　

長橋煙雨似江南　　　　長橋の煙雨 江南に似たり

 

【語釈】

○清潭…清い淵。○一舸…一つの小舟。○夷猶…ためらっていること。○煙雨…こぬか

雨。○江南…長江中下流の南岸地方。

 

 

★    華陽雜韻　　　　　　　 華陽 雜韻　　　　　　　　　　　　　　  明　　廖孔説

 

林間風靄日氤氲　　　　林間の風(かぜ)靄(あい) 日 氤氲(いんうん)　

乍露孤峰半未分　　　　乍(たちま)ち孤峰を露(あらわ)して 半ば未だ分(わか)たず　

一夜雷聲在山下　　　　一夜 雷声 山下に在り　

始知身出萬重雲　　　　始めて知る 身は万(ばん)重(ちょう)の雲を出でしを

 

【語釈】

○華陽…四川省成都市武侯区。○雜韻…とりとめも無く作った詩。○風靄…風にたなびく靄。○氤氳…気の和らぐさま。○萬重…多く重なり合う。

 

 

★    古塘即事　　　　　　　 古塘(ことう)即事(そくじ)　　　　　　　　　　　　　　  明　　張　金

 

布穀聲中日又斜　　　　布(ふ)穀声中(こくせいちゅう) 日又斜なり　

石橋流水兩三家　　　　石橋 流水 両三家　

郷村春色無人管　　　　郷村の春色 人の管する無し　

開盡棠梨幾樹花　　　　開き尽す棠(どう)梨(り) 幾樹の花

 

【語釈】

○古塘…古い堤。○即事…事に触れて､その場のことを題材にして詩を作る。○布穀…呼子鳥。○春色…春景色。○棠梨…野生の梨。

　

 

★    竹枝詞　　　　　　　　竹(ちく)枝(し)詞(し)                                 明　　朱妙端

 

横塘秋老藕花殘　　　　横塘 秋 老いて 藕(ぐう)花(か)残(ざん)す　

兩兩呉姬蕩槳還　　　　両々の呉姫 槳(かじ)を蕩(うご)かして還(かえ)る　

驚起鴛鴦不成浴　　　　鴛鴦(えんおう)を驚起し 浴を成さず　

翩翩飛過白蘋灘　　　　翩々(へんぺん)として 飛び過ぐ 白蘋(はくひん)の灘

 

【語釈】

○竹枝詞…劉禹錫が左遷されていたときに土地の民謡をもとに作った詩の形態、男女の情愛や土地の風俗を詠う。○横塘…南京市の西南にある堤。○藕花…蓮の花。○殘…損なわれる。○呉姫…呉の地方出身の妓女，美人が多い。○鴛鴦…おしどり。○翩翩…鳥が身軽に飛ぶさま。○白蘋…白い浮き草。○灘…早瀬。

 

 

★    曉過横塘　　　　　　　曉に横塘を過ぐ　　　　　　　　　　  明　　戒　襄

 

半幅蒲帆九里汀　　　　半幅の蒲(ほ)帆(はん) 九里の汀(てい)　

石湖秋水接天青　　　　石湖の秋水 天に接して青し

舟人指㸃蘼蕪外　　　　舟人 指点す 蘼(び)蕪(ぶ)の外　

一帶青山是洞庭　　　　一帯の青山 是れ 洞庭

 

【語釈】

○横塘…南京市の西南にある堤。○半幅…一幅は二尺二寸、ここでは余り意味は無い。○蒲帆…蒲で作った帆。○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○指点…指さして示す。○蘼蕪…センキュウの苗。○洞庭…洞庭湖、湖南省北部にある大湖。

 

★    立玉亭　　　　　　　　立(りつ)玉亭(ぎょくてい)　　　　　　　　　　　　　　  明　　法　聚

 

山當崖斷孤亭立　　　　山は 崖断(がいだん)に当たり 孤亭立つ　

竹樹廻環翠萬層　　　　竹樹 廻環(かいかん)し 翠(みどり) 万層　

倒看夕陽深澗底　　　　倒(さかしま)に看る 夕陽(せきよう) 深澗(しんかん)の底　

不知雲外有歸僧　　　　知らず 雲外に 帰僧有るを

 

【語釈】

○立玉亭…不祥。○崖斷…切り立った崖。○廻環…回り廻る。○深澗…深い谷。○雲外…雲の彼方。

 

 

★    西湖曉行　　　　　　　西湖曉行　　　　　　　　　　　　　　   明　　清　濋

 

海角曈曨日欲生　　　　海角 曈曨 日生ぜんと欲す　

山南山北淡煙横　　　　山南 山北 淡煙横わる　

春風吹斷沙禽夢　　　　春風 吹断(すいだん)す 沙禽(さきん)の夢　

人在綠楊隄上行　　　　人は 緑楊隄上に在りて 行く

 

【語釈】

○西湖…浙江省杭州の西にある風光明媚な湖。○海角…海のはて。○曈曨…日が初めて出るときの薄明かりがさすさま。○淡煙…淡い靄。○沙禽…砂浜に棲息する鳥。

　

 

★    漁村夜歸　　　　　　　漁村夜帰　　　　　　　　　　　　　　  明　　宗　衍

 

月落蘋汀宿霧凝　　　　月は 蘋(ひん)汀(てい)に落ちて 宿霧凝る　

小橋霜冷挂漁罾　　　　小橋 霜 冷く 漁罾(ぎょそう)を挂(か)く

歸來已是三更後　　　　帰り来たるは 已に 是れ 三更の後　

水際人家尚有燈　　　　水際の人家 尚お灯有り

 

【語釈】

○蘋汀…浮き草の生えた渚。○宿霧…夜来の霧。○漁罾…魚を捕る網。○三更…真夜中。

 

★    百嘉村見梅花           百嘉村に梅花を見る　　　　　　　　　   清　　龔鼎孳

 

天涯疎影伴黃昏　　　　天涯の疎影 黄昏(こうこん)を伴い　

玉笛高樓自掩門　　　　玉笛 高楼 自(おのずか)ら門を掩(おお)う　

夢醒忽驚身是客　　　　夢醒めて 忽ち驚く 身は是れ客(これ)なるを　

一船寒月到江邨　　　　一船 寒月 江村に到る

 

【語釈】

○百嘉村…不祥。○天涯…空のはて。○疎影…梅の異称。○黄昏…たそがれ。○玉笛…笛の美称。○是…be動詞にあたり「コレ」と訓読する。○客…旅人。○江村…川辺の村。

 

 

★    上接筍峰至隱屏絶頂    接(せつ)筍(じゅん)峰(ほう)に上りて隱屏(いんぺい)絶頂(ぜっちょう)に至る　　　　  清　　施閏章

 

躡盡危梯椅翠微　　　　危(き)梯(てい)を躡尽(じょうじん)して 翠微(すいび)に椅(よ)る

松門巖屋坐忘歸　　　　松門 巌屋 坐して帰るを忘る　

雨從天柱峰頭過　　　　雨は 天柱(てんちゅう)峰頭(ほうとう)に従ってに過ぎ　

雲向臥龍潭上飛　　　　雲は 臥竜潭上(がりょうたんじょう)に向って飛ぶ

 

【語釈】

○接筍峰…福建省南平市の接笋峰。○隱屏…不祥。○危梯…危険な梯子（のような山道）。○躡盡…踏み尽くす。○松門…自然の松を門とした物。○天柱峰…福建省南平市天柱峰。○臥竜潭…貴州省黔南臥龍潭。

 

 

★    西湖竹枝　　　　　　　 西湖(せいこ)竹(ちく)枝(し)　　　　　　　　　　　　　　  清　　施閏章

 

荷葉橫塘官路斜　　　　荷葉 横塘 官路 斜めなり　

吳姬日出浣春紗　　　　呉姫 日出でて 春紗(しゅんさ)を浣う　

兒家種蓮取蓮実　　　　児家 蓮を種え 蓮実(れんじつ)を取る　

囑付遊人莫采花　　　　遊人に嘱付(しょくふ)して 花を采る莫(な)かれ

 

【語釈】

○西湖…浙江省杭州市にある風光明媚な湖。○竹枝…劉禹錫が左遷されていたときに土地の民謡をもとに作った詩の形態、男女の情愛や土地の風俗を詠う。○横塘…横にある水塘。○呉姫…呉の地方の妓女。美人が多い。○春紗…うすぎぬの春着。○兒家…青年期の女性。○囑付…いいつける。頼む。○遊人…旅人。

 

　

★    荷湖館               荷(か)湖館(こかん)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　施閏章

 

隔林烟火幾人家　　　　林を隔つる煙火 幾人家　

古廟江頭噪晚鴉　　　　古廟(こびょう)江頭(こうとう) 噪(さわ)ぐ晩(ばん)鴉(あ)　

欲問芰荷香寂寂　　　　問わんと欲す 芰(き)荷(か) 香(かおり)寂々(せきせき)　

一川新漲白蘋花　　　　一川 新に漲(みなぎ)る 白蘋(はくひん)花(か)

 

【語釈】

○荷湖館…不祥。○古廟江頭…古い廟のある川のほとり。○芰荷…ひしとはす。○寂寂…さびしく静かなさま。○白蘋花…白いうきくさ。

 

 

★    黃花谷　　　　　　　　黃花の谷　　　　　　　　　　　　　　  清　　申涵光

 

竹杖尋源入上方　　　　竹(ちく)杖(じょう) 源を尋ね　上方に入(い)る

滿山槲葉晚蒼蒼　　　　満山の槲(こく)葉(よう) 晩に蒼々(そうそう)　

亂碑零落遊人少　　　　乱碑 零落(れいらく)し 遊人少(まれ)なり　

一道飛泉下夕陽　　　　一道の飛泉 夕陽(せきよう)に下る

 

【語釈】

○黃花…黄色い花。菊。○竹杖…竹を杖にして。○上方…上界。○槲葉…かしわの葉。○蒼蒼…さかんなさま。○零落…草木が枯れ落ちること。○遊人…旅人。

　

 

★    汎舟明湖       　　　舟を明湖に汎(うか)ぶ　　　　　　　　　　　　　　　清　　申涵光       

 

四郭山圍嵐氣昏　　　　四郭 山 囲みて 嵐気昏(くら)し

竹籬疎樹一江村　　　　竹籬 疎樹 一江の村

醉中見月忘風露　　　　酔中 月を見て 風露を忘る

夜半吹簫過水門　　　　夜半の吹簫 水門を過ぐ

 

【語釈】

○明湖…明浄な湖。○四郭…城郭の四周。

 

 

★    馬上回望中條口号　　　　馬上 中條(ちゅうじょう)を回望す 口号       　　　　清　　黄文驥       

 

辭滿期年心自閑　　　　満を辞し 年を期して 心自(おのずか)ら閑(かん)なり

中條盡日白雲間　　　　中條 尽日 白雲の間

従茲更去向五湖　　　　茲(ここ)従(より)り 更に 五湖に向って去り

看遍五湖湖上山　　　　看遍(かんへん)す　五湖 湖上の山

 

【語釈】

○中條…山西省運城市中條山。○回望…振り返り望む。○口号…紙に書かずに作った即興の詩。○看遍…あまねく看る。○五湖…五つの湖、諸説あり特定不能。

 

 

★    真州雑詩　　　　　　　真州雑詩　　　　　　　　　　　　　　  清　　王士禛

 

江干多是釣人居　　　　江干 多く是れ 釣人(ちょうじん)の居(きょ)　

栁陌菱塘一帶疎　　　　栁陌(りゅうはく) 菱塘(りょうとう) 一帯に疎(まばら)なり　

好是日斜風定後　　　　好きかな是れ 日斜めにして 風定まる後　

半江紅樹賣鱸魚　　　　半江の紅樹 鱸魚を売る

 

【語釈】

○真州…江蘇省揚州市儀征市。○江干…川の畔。栁陌…柳を植えた道。○菱塘…菱を植えた堤。○半江…川の片側。○鱸魚…日本のすずきに似た淡水魚。

（参考文献）　『中国詩人撰集二－１３』

 

 

★    山行　　　　　　　　　山行　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　劉逢源

 

寂歷空山鹿豕蹤　　　　寂歴(せきれき)たる空山 鹿(ろく)豕(し)の蹤　

石樑苔滑椅孤笻　　　　石樑(せきりょう) 苔 滑(なめらか)にして孤笻(こせつ)に椅(よ)る　

岸花零落隨流去　　　　岸花 零落(れいらく)して 流(ながれ)に随って去り　

秋到溪南第幾峰　　　　秋は到る 渓南の第幾峰

 

【語釈】

○寂歷…ひっそりとして物寂しいさま。○空山…人気の無い山。○鹿豕…鹿と猪。○石樑…岩石のかど。○孤笻…一つの杖。○零落…草木が枯れ落ちること。○第幾峰…多くの峯。

 

★    武夷九曲櫂歌　　　　　武(ぶ)夷(い)九曲(きゅうきょく)櫂歌(とうか)　　　　　　　　　　　　  清　　朱克生

 

一曲津亭入畫船　　　　一曲 津亭(しんてい) 画船に入る　

江天落月滿平川　　　　江天 落月 平川に満つ　

大王峯外浮雲散　　　　大王峰外 浮雲散じ　

両岸鐘聲出暁煙　　　　両岸の鐘声 暁煙に出ず

 

【語釈】

○武夷九曲櫂歌…武夷山（黄崗山を中心とする山系の総称）の九曲渓を歌った舟歌。○一曲…九曲の内の第一曲（渓谷の曲がったところ）。○津亭…渡し場にある旅館。○画船…彩色された船。○大王峯…一曲にある峰。○暁煙…夕靄。

 

★    金陵紀行              金陵紀行　　　　　　　　　　　　　　　  清　　顔光敏

 

身騎龍背上青霽　　　　身は 竜(りゅう)背(はい)に騎(の)り 青霽(せいせい)に上る　

路轉峯迴出麗譙　　　　路は 峰迴(ほうかい)に転じ 麗譙(れいしょう)を出だす　

雨氣全呑幽壑樹　　　　雨気 全て呑む 幽壑(ゆうがく)の樹　

風聲直送大江潮　　　　風声 直ちに送る 大江の潮(うしお)　

 

【語釈】

○金陵…南京。○青霽…あおぞら。碧空。○峯迴…峰がめぐる。○麗譙…美しい楼。○幽壑…奥深い谷。

 

 

★    東湖曲　　　　　　　　東湖の曲　　　　　　　　　　　　　　   清　　朱彞尊

 

十里湖光一葉舟　　　　十里の湖光 一葉の舟　

五層塔火浴中流　　　　五層の塔火 中流に浴す

曉來寺寺霜鐘急　　　　暁来 寺々(じじ) 霜鐘急なり　

驚起啼烏掠渡頭　　　　啼烏を驚起し 渡頭(ととう)を掠(かす)む

 

【語釈】

○東湖…湖北省宜昌市の東にある湖。○一葉舟…一つの小舟。○渡頭…渡し場。○霜鐘…冬の明け方の鐘。○驚起…驚かせて起こす。

　

 

★    山行　　　　　　　　　山行　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　高　詠

 

滿谷寒煙日暮平　　　　満谷の寒煙 日暮に平かなり　

松杉十里夜猿聲　　　　松杉 十里 夜猿の声　

仙居尚在數峯外　　　　仙居 尚お 数峰の外(そと)に在り　

已覺此中非世情　　　　已に覚ゆ 此の中 世情に非ざるを

 

【語釈】

○寒煙…さみしい靄。○仙居…仙人のすまい。世俗を超絶した清廉な住まい。

 

 

★    遠眺　　　　　　　　　 遠眺(えんちょう)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　惲　格

 

暮雲千里亂呉峰　　　　暮雲 千里 呉峰を乱す　

落葉微聞遠寺鐘　　　　落葉 微かに聞く 遠寺の鐘　

目盡長江秋草外　　　　目尽(もくじん)す 長江 秋草の外　

美人何處採芙蓉　　　　美人 何れの処にか 芙蓉を採る

 

【語釈】

○呉峰…呉の地方の峰。○目盡…見尽くす。見渡す限り。○芙蓉…蓮の花。

 

 

★    明湖別業　　　　　　　明湖の別業　　　　　　　　　　　　  清　　張實居

 

平湖一望碧連天　　　　平湖 一望すれば 碧(みどり) 天に連なる　

臨水人家屋似船　　　　水に臨む 人家 屋(おく) 船に似たり　

翡翠巣來花砌下　　　　翡翠(ひすい) 巣(すずく)りて来る 花(か)砌(さい)の下　

慈姑生出卧床前　　　　慈姑(じこ) 生出す 卧(が)床(しょう)の前

 

【語釈】

○明湖…不祥。○別業…別荘。○翡翠…かわせみ。○花砌…花の咲いたみぎわ。○慈姑…慈しみ深いしうとめ。

 

 

★    滸山濼　　　　　　　　滸山濼　　　　　　　　　　　　　　  清　　張實居

 

漠漠漁村雪壓扉　　　　漠々(ばくばく)たる 漁村 雪は扉を圧す　

江波不動釣船歸　　　　江波 動かず 釣船帰る　

畏人水鳥時驚去　　　　人を畏(おそ)る 水鳥 時に驚きて去り　

直向寒山影裏飛　　　　直ちに 寒山影裏に向って飛ぶ

 

【語釈】

○滸山濼…不祥。○漠漠…ひっそりとしているさま。○寒山…秋から冬にかけての物寂しい山。

 

★    石壁　　　　　　　　　 石壁　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　湯右曽

 

迴崖沓嶂翠浮空　　　　迴(かい)崖(がい) 沓嶂(とうしょう) 翠(みどり) 空(くう)に浮ぶ　

峭壁巉巉揷水中　　　　峭壁(しょうへき) 巉々(ざんざん) 水中に揷(さ)す　

直是五丁開不得　　　　直に是れ 五丁 開いて得ず　

天然畳出錦屏風　　　　天然 畳(じょう)出(しゅつ)す 錦屏風

 

【語釈】

○迴崖…曲がりくねった山崖。○沓嶂…幾重にも重なりあった峰。○峭壁…壁のように険しく聳った崖。○巉巉…高く険しいさま。○五丁…力士。○畳出…畳のように重なって作り出す。

 

★    海幢寺觀大水西下　　　海幢寺にて大水の西下するを観(み)る　　　　  清    沈用済

 

鬱水西來萬壑奔　　　　鬱(うつ)水(すい) 西来して 万壑(ばんがく)に奔(ほとばし)る　

倒翻塔影盪雲根　　　　塔影を倒翻(とうほん)して 雲根を盪(うごか)す　

中間一束高腰峽　　　　中間 一束 高腰峡(こうようきょう)　

直放驚濤出海門　　　　直ちに驚濤(きょうとう)を放ち 海門を出(い)ず

 

【語釈】

○鬱水…重なり合った水。○西來…西に向かって来る。○萬壑…多くの谷。○倒翻…倒転して空に飛び上げる。○雲根…山岩。○高腰峽…不祥。○驚濤…人心を驚かすような大波。○海門…河川が海に入るところ。

 

 

★    洞庭始波　　　　　　　洞庭 始めて波だつ　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

滿天秋色晩雲低　　　　満天の秋色 晩雲低し　

碧漲寒江遠欲迷　　　　碧(みどり) 漲(みなぎ)る 寒江 遠くして迷わんと欲す　

棹破煙波三百里　　　　棹破(とうは)す 煙波 三百里　

好風吹送岳陽西　　　　好風 吹き送る 岳陽の西

 

【語釈】

○洞庭…洞庭湖、湖南省北部にある巨大な湖。○秋色…秋景色。○寒江…寒々とした川。○棹破…舟を棹さして進め行き尽くす。○煙波…水面にかかった靄。○岳暘…岳暘楼。湖南省岳暘県の洞庭湖に面した楼閣。

 

★    鶯脰湖詞              鶯脰湖詞　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

湖波起縠晩風餘　　　　湖波 縠(こく)を起す 晩風の余　

一抹殘霞畫不如　　　　一抹の残霞 画けども如(しか)らず　

傍岸漁家盡収網　　　　岸に傍う漁家 尽(ことごと)く網を収め　

緑楊深處賣銀魚　　　　緑楊 深き処 銀魚を売る

 

【語釈】

○鶯脰湖…不祥。○縠…縮緬のようなさざ波。○殘霞…残った夕映え。

 

 

★    西湖　　　　　　　　　西湖　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

十里長堤遍種花　　　　十里の長堤 遍(あまね)く花を種ゆ　

花間揺蕩酒旗斜　　　　花間に揺蕩(ようどう)し 酒旗斜めなり　

大蘇風流人不識　　　　大蘇(たいそ)の風流 人は識らず　

偏問西泠蘇小家　　　　偏(あまね)く問う 西泠 蘇(そ)小(しょう)の家

 

【語釈】

○西湖…浙江省杭州の西にある風光明媚な湖。○揺蕩…揺れ動く。○酒旗…酒屋の目印の旗。○大蘇…蘇軾。○問…訪問する。○西泠…浙江省杭州市西泠橋。○蘇小…小蘇、蘇轍。

 

★    野渡                  野渡　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

弧村揺蕩酒旗風　　　　弧村 揺蕩(ようどう)す 酒旗の風　

野岸人家翠柳中　　　　野岸の人家 翠柳の中(うち)　

略似江南渡傍渡　　　　略(ほ)ぼ似たり 江南 渡傍の渡(わたし)に　

一湾春水晩霞紅　　　　一湾の春水 晩霞紅なり

 

【語釈】

○野渡…野原の渡し場。○揺蕩…揺れ動く。○酒旗…酒屋の目印の旗。○江南…長江中下流の南岸地方。○渡傍…不祥。○晩霞…夕焼け。

 

 

★    西湖雑句　　　　　　　西湖雑句　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

湖光宜雨最宜晴　　　　湖光は 雨に宜(よろ)しく 最も晴に宜(よろ)し　

好景偏憐夜色清　　　　好景 偏(へん)隣(りん)すれば 夜色清し　

十里畫船歌舞歇　　　　十里の画船 歌舞歇み　

月明静聴按琴聲　　　　月明かにして 静に聴く 琴を按(あん)ずる声

 

【語釈】

○西湖…浙江省杭州の西にある風光明媚な湖。○雑句…とりとめも無く作った詩。○偏憐…特別に愛する。○夜色…夜の気配、夜の景色。○画船…彩られた船。○按…手で撫でる、弾く。

 

★    西湖雑句　　　　　　　西湖雑句　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

數聲柔櫓畫波還　　　　数声の柔櫓 波を画(かく)して還る　

暮色蒼然滿四山　　　　暮色 蒼然(そうぜん)として 四山(しざん)に満つ　

勘破西湖塵土夢　　　　勘破(かんぱ)す 西湖 塵土の夢　

夜涼月白話禪關　　　　夜涼く 月白くして 禅関(ぜんかん)に話す

 

【語釈】

○西湖…浙江省杭州の西にある風光明媚な湖。○雑句…とりとめも無く作った詩。○柔櫓…船を操るかけ声。○暮色…夕暮れの気配。○蒼然…日暮れの薄暗いさま。○勘破…見破る。○禪關…心を一に定め、妄念を除く法。

　

　

★    漢川                  漢川　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　周　準

 

漢川城郭枕江堤　　　　漢川の城郭 江堤に枕(まくら)す　

黯澹烟波日乍低　　　　黯澹(あんたん)たる煙波 日 乍(たちま)ち低し　

我欲停橈訪神女　　　　我 橈(かじ)を停めて 神女を訪わんと欲す　　　　

暮山無限楚雲西　　　　暮山 限り無し 楚雲の西

 

【語釈】

○漢川…湖北省荊門市を流れる漢江。○枕…臨む。○黯澹…暗くてはっきりしないさま。○煙波…川面の靄。○橈…船をこぐ櫂。○神女…巫山の神女（『文選』宋玉）。○楚雲…楚の空の雲。

　

 

★    過廢園                 廃園を過ぐ　　　　　　　　　　　　   清　　李　葂

 

誰家亭院自成春　　　　誰が家の亭院(ていいん)か 自(おのずか)ら春を成す　

窗有莓苔案有塵　　　　窓に莓(まい)苔(たい)有り 案(あん)に塵有り　

偏是關心鄰捨犬　　　　偏(ひとえ)に是れ 心に関す 隣捨の犬　

隔墻猶吠折花人　　　　墻をてて 猶お吠ゆ 花を折る人に

 

【語釈】

○亭院…建物の内側の庭園、苑。○莓苔…青苔。○案…机。○隣捨…隣の家。

　

 

★    楊渓返棹　　　　　　　楊渓返棹　　　　　　　　　　　　　   清　　李　葂

 

薄暮清渓一棹開　　　　薄暮の清渓 一(いっ)棹(とう)開く　

片雲忽作數聲雷　　　　片雲 忽(たちま)ち作(な)す 数声の雷　

前途昏黒不知處　　　　前途 昏(こう)黒(こく) 処を知らず　

龍挟海天風雨來　　　　竜は 海天 風雨を挟(さしはさ)て来る

 

【語釈】

○楊渓…柳が生えている渓。○返棹…舟を返す。○一棹…一つの小舟。○片雲…ちぎれ雲。○昏黒…夕やみ、真っ暗なこと。○竜…雷を起こす龍神。

 

 

★    南西門外即目          南西門外 即目                     清　　恆　仁

 

澄潭初月影微微　　　　澄潭(ちょうたん) 初月 影 微々たり　

雨過涼生透葛衣　　　　雨過ぎて 涼 生じ 葛(かつ)衣(い)を透(とお)す　

十里亂蟬風兩岸　　　　十里の乱蝉 風 両岸　

藕花香送釣船歸　　　　藕(ぐう)花(か) 香りて 釣船の帰るを送る

 

【語釈】

○即目…目の前の景色を詠った詩。○澄潭…澄んだ淵。○初月…三日月。○微微…奥深く閑かなさま。○葛衣…葛で編んだ夏用の衣。○亂蟬…乱れ鳴く蝉。○藕花…蓮の花。

　

　

★    江上                  江上                                 清　　石　年

 

春山春水碧迢迢　　　　春山 春水 碧(みどり) 迢々(ちょうちょう)　

病起扶笻過野橋　　　　病起　笻(つえ)に扶(たす)けられて 野橋に過(よ)ぎる　

幾日不尋江上夢　　　　幾日か尋ねず 江上の夢　

東風吹長杜蘅苗　　　　東風 吹長す 杜蘅(とこう)の苗

 

【語釈】

○岧岧…遙かなさま。遠いさま。○病起…病み上がり。○過…（～によぎる）と読むときは訪れる。（をよぎる）と読むときは通過するの意。○東風…春風。○吹長…吹いて長くする。○蘅苗…草の名、葵の一種。

　

 

★    出郊　　　　　　　　　出郊　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　祁文友

 

桃花點點萩長芽　　　　桃花 点々 萩 芽を長ず　

出郭吟行到日斜　　　　郭を出(いで)て 吟行し 日の斜なるに到る　

一夜東風吹雨過　　　　一夜 東風 雨を吹いて過ぎ　

滿江新水長魚蝦　　　　満江の新水 魚(ぎょ)蝦(か)を長ず

 

【語釈】

○出郊…郊外の野原に行くこと。○郭…街を取り囲む城壁のうち外側のもの。○東風…春風。○魚蝦…水中の生物。

 

 

★    遊揚州僧寺　　　　　揚州の僧寺に遊ぶ　　　　　　　　　　　   清　　龔元超

 

煙蘿深處石稜層　　　　煙蘿(えんら) 深き処 石稜(せきりょう) 層をなす　

翠竹玲瓏月作燈　　　　翠(すい)竹(ちく) 玲瓏(れいろう)として 月 灯と作(な)る　

聴是誰家吹玉笛　　　　聴く是れ 誰が家か 玉笛を吹く　

畫欄清冷夜深憑　　　　画欄 清冷 夜深くして憑(よ)る

 

【語釈】

○揚州…江蘇省揚州市。○煙蘿…靄の籠めた蔦。○石稜…岩石の角。○翠竹…緑色の竹。○玲瓏…さえて鮮やかなさま。透き通るように美しいさま。○画欄…彩られた欄干。○清冷…清らかで透き通っているさま。○憑…寄りかかる。

 

★    過松陵　　　　　　　　松陵を過ぐ　　　　　　　　　　　　　  清　　程永作

 

橘柚秋風十里程　　　　橘(きつ)柚(ゆう) 秋風 十里の程　

垂虹亭下水蕪平　　　　垂虹亭下 水(すい)蕪(ぶ)平かなり

龍拖急雨長橋過　　　　竜は 急雨を拖(は)せ 長橋を過ぐ　

遮却呉江一半城　　　　遮却(しゃきゃく)す 呉江 一半の城

 

○松陵…不祥。○橘柚…橘と柚。○垂虹亭…不祥。○水蕪…みずな。○遮却…遮る。却は完了、完成を示す助字。○呉江…江蘇省蘇州市に位置する市轄区。○一半…半分。

 

 

★    遊霞園　　　　　　　　霞(か)園(えん)に遊ぶ　　　　　　　　　　　　  清　　張　琦

 

峯巒曲折水淙淙　　　　峰巒(ほうらん) 曲折して 水淙々(そうそう)　

花映蕃籬竹映窓　　　　花は蕃籬(ばんり)に映じ 竹は窓に映ず　

最好小亭東山望　　　　最も好し 小亭 東山の望　

青山缺處露秋江　　　　青山欠く処 秋江を露(あらわ)す

 

【語釈】

○峯巒…重なった峰々。○淙淙…さらさらと水の流れるさま。○蕃籬…かきね。まがき。

 

 

★    鄧尉山觀梅　　　　　　鄧尉山の観梅　　　　　　　　　　　   清　　張夢喈

 

山日初升静素暉　　　　山日 初めて升(のぼ)りて 素暉(そき)静なり　

梅花如雪満山圍　　　　梅花 雪の如く 満山囲む　

費家湖口支筇處　　　　費家 湖口 筇を支える処　

香氣晴烘客子衣　　　　香気 晴れて烘(あぶ)る 客子の衣

 

【語釈】

○鄧尉山…江蘇省蘇州市にある山。梅の名所。○素暉…白い光。○費家…?○客子…旅人。

 

 

★    石湖秋汎　　　　　　　石湖の秋汎　　　　　　　　　　　　   清　　劉　璜

 

軽船斜向五湖開　　　　軽船 斜めに 五湖に向かいて開く

秋水空明浸石苔　　　　秋水 空明 石苔を浸(ひた)す

忽聴雲間鈴鐸響　　　　忽(たちま)ち聴く 雲間に 鈴鐸(れいたく)の響くを

楞伽山色送青來　　　　楞伽(りょうが)の山色(さんしょく) 青(せい)を送りて来る　さんしょく

 

【語釈】

○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○五湖…太湖のこと。○鈴鐸…すず。○楞伽山…江蘇省呉県の南西にある山。○山色…山の景色。山の気配。

 

 

★    遊平山堂　　　　　　　平山堂に遊ぶ　　　　　　　　　　　　　清　　雇宗秦       

 

韶光淡沲綺橋東　　　　韶光(しょうこう) 淡沲(たんた) 綺(き)橋(きょう)の東

香海慈雲靄碧空　　　　香(こう)海(かい) 慈(じ)雲(うん) 碧空に靄(かす)む

隔岸蘭舟横玉笛　　　　岸を隔つる 蘭(らん)舟(しゅう) 横(おう)玉(ぎょく)笛(てき)

數聲吹散柳條煙　　　　数声 吹き散ず 柳条の煙

 

【語釈】

○平山堂…不祥。○韶光…春ののどかな景色。○淡沲…淡くかすんだ舟を泊めることができる入り江。○綺橋…華やかに飾りたてた橋。○香海…香りの漂う海。○慈雲…一面に広がった雲。○蘭舟…木蘭で作った美しい舟。○柳條煙…かすんで見える柳の枝。

 

 

★    呉淞雑詠　　　　　　　呉淞(ごしゅ)雑(ざつ)詠(えい)　　　　　　　　　　　　  清　　徐薌坡

 

蒲帆斜趁鯉魚風　　　　蒲(ほ)帆(はん) 斜めに趁(お)う 鯉魚(りぎょ)の風　

卵色遙天浸碧空　　　　卵色の遥天(ようてん) 碧空を浸(ひた)す　

幾點水葓花影外　　　　幾点の水葓(すいこう)か 花影の外(そと)　

滿灘涼雨浴鳬翁　　　　灘に満つる涼雨 鳬(ふ)翁(おう)を浴す

 

【語釈】

○呉淞…呉淞江、江蘇省蘇州市の松江。○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○蒲帆…蒲で織った帆を持つ船。○鯉魚…鯉。○水葓…草の名、水辺に生えるおほけだて。○鳬翁…雄の雞。

　

 

★    柳湖春泛          柳湖 春に泛(うか)ぶ　　　　　　　　　　　　 清　　顧宗泰

 

蜻蛉一葉破空濠　　　　蜻蛉(せいれい) 一葉 空(くう)濠(ごう)を破り

暁色晴開遠翠濃　　　　暁色 晴開きて 遠翠(えんすい)濃(こまやか)かなり

試向潮音高閣望　　　　試みに 潮音に向って 高閣より望めば

彎環九朶碧芙蓉　　　　彎環(わんかん) 九朶 碧(へき)芙蓉(ふよう)　わんかん

 

【語釈】

○蜻蛉一葉…水をかすめるトンボのような小さな一つの小舟。○空濠…何もない壕。○遠翠…遠く見える緑。○彎環…彎曲して輪のようになっているさま。○九朶…多くの枝。

 

 

★    石湖舟中     　　　　石湖舟中　　　　　　　　　　　　　　　清　　顧宗泰     

 

楞伽山畔翠溟濛　　　楞伽山畔(りゅうがさんぱん) 翠 溟濛(めいもう)　りゅうがさんぱん

十里横塘累約通　　　十里の横塘 累約通ず

一路竹枝聲不断　　　一路の竹枝 声断えず

蘭橈斜漾鯉魚風　　　蘭橈　斜に漾(ただよ)う 鯉魚の風

 

【語釈】

○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○楞伽山…江蘇省呉県の南西にある山。○溟濛…雨がそぼ降って薄暗いこと。又はその雨。○蘭橈…小舟の美称。○鯉魚…鯉。

 

 

★    石湖舟中     　　　石湖舟中　　　　　　　　　　　　　　清　　顧宗泰 

 

鵁鶄點點撲晴沙　　　　鵁(きょう)鶄(せい) 点々として 晴沙(せいさ)を撲(う)つ　

柳陌菱塘一逕斜　　　　柳陌 菱塘(りょうとう) 一径 斜なり　

好是短篷疎雨歇　　　　好し是れ 短篷(たんほう) 疎雨歇(や)み　

媺涼初放拒霜花　　　　媺(び)涼(りょう) 初めて放つ 拒(きょ)霜(そう)の花

 

【語釈】

○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○鵁鶄…足長サギとゴイサギ。○柳陌…柳を植えた道。○菱塘…菱の生えた池。○短篷…小舟。

 

 

★    石湖舟中     　　　石湖舟中　　　　　　　　　　　　　　清　　顧宗泰 

 

穀紋新漲漫沙汀　　　　穀紋 新たに漲(みなぎ)って 沙汀に漫つ

緑曲紅欄水面亭　　　　緑曲 紅欄 水面の亭

遙望具區山色好　　　　遙かに望む 具區(ぐう) 山色好し

彎環七十二峯青　　　　彎(わん)環(かん)たり 七十二峯の青

 

【語釈】

○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○穀紋…穀物が風にそよいで紋をなすこと？○沙汀…砂の渚。○緑曲…。○紅欄…紅色の欄干。○具區…太湖のこと。○彎環…丸い形容。

 

 

★    趙埠口　　　　　　　　趙埠(ちょうふ)口(こう) 　　　　　　　　　　　　　清　　葉承宗 

 

長隄密柳板橋連　　　　長隄の密柳 板橋(はんきょう)に連なる

紅蓼花中繫釣船　　　　紅(こう)蓼(りょう)花中(かちゅう) 釣船を繫ぐ

漁父狂歌歸酒市　　　　漁父 狂歌して 酒市に帰り

高竿掛網夕陽邊　　　　高竿に網を掛く 夕陽(せきよう)の辺(ほとり)

 

【語釈】

○趙埠口…不祥。○密柳…密集した柳の木。○紅蓼花…赤いたでの花。

 

 

★    呉門雑詠　　　　　　　呉門(ごもん)雑(ざつ)詠(えい)　　　　　　　　　　　　  清　　楊學基

 

岩桂香飄艶素秋　　　　岩 桂け 香 飄えり 素秋 艶なり

石湖風静水悠悠　　　　石湖 風静かに 水悠々(ゆうゆう)　

洞簫吹出山頭月　　　　洞簫 吹き出だす 山頭の月　

両岸軽煙半未収　　　　両岸の軽煙 半ば未だ収らず

 

【語釈】

○呉門…甘粛省甘谷県。○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○素秋…秋。○石湖…江蘇省蘇州市の西南にある湖。○悠悠…のんびりしたさま。他と関わりなくゆったりしたさま。○洞簫…縦笛。○軽煙…かるい靄。

 

 

★    呉門雑詠　　　　　　　呉門(ごもん)雑(ざつ)詠(えい)　　　　　　　　　　　　　　  清　　楊學基

 

廻塘夜火刺船行　　　　廻塘(かいとう)の夜火 船を刺して行く　

銀觸高焼水榭明　　　　銀触 高く焼いて 水榭(すいしゃ)明らかなり　

兩岸采菱歌不絶　　　　両岸 菱を采る 歌絶えず　

木蘭舟上又吹簫　　　　木蘭舟上 又た簫を吹く

 

【語釈】

○呉門…甘粛省甘谷県。○雑詠…（主題を決めずに）色々なことを詠じた詩歌。○廻塘…周りの堤。○水榭…水に望む台榭。水亭。　

　

 

★    夜夢遊秦淮           夜夢 秦淮(しんわい)に遊ぶ　　　　　　　　　　　　  清　　張香岩

 

雨餘山色浮天遠　　　　雨余の山色 天に浮びて遠し　

月下潮聲拍岸多　　　　月下の潮声 岸を拍ちて多し　

醉後不知身是夢　　　　酔後 知らず 身は是れ夢なるを　

半橋疎柳聴漁歌　　　　半橋の疎柳 漁歌を聴く

 

【語釈】

○秦淮…南京市内を通る河の名、その両岸は歓楽街であった。○雨余…雨上がり。○山色…山の景色。山の気配。

 

★    龍渓即事　　　　　　　龍渓(りゅうけい)即事(そくじ)　　　　　　　　　　　　　　   清　　宿鳳翀

 

石蘚青青石瀬清　　　　石蘚(せきせん) 青々(せいせい) 石(せき)瀬(らい)清し　

夜深扶醉遶渓行　　　　夜深くして 酔(すい)を扶(たす)け 渓を遶(めぐ)りて行く　

屐聲驚起幽棲鳥　　　　屐声(げきせい) 驚起す 幽棲(ゆうせい)の鳥　

飛上山橋向月鳴　　　　飛びて 山橋に上りて 月に向って鳴く

 

【語釈】

○龍渓…不祥。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○屐聲…履き物の音。○驚起…驚かせて起こす。○幽棲…隠れ住む。

 

 

★    陽邱道中　　　　　　　陽邱(ようきゅう)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　王敬公

 

谷口雲埋一逕斜　　　　谷口 雲 埋みて 一径斜なり　

荒巌老樹叫殘鴉　　　　荒巌 老樹 残鴉 叫ぶ　

山村寂寞行人少　　　　山村　寂寞(せきばく)として 行人少(まれ)なり　

落日風吹躑觸花　　　　落日 風は吹く 躑触(てきちょく)花(か)

 

【語釈】

○陽邱…山東省濟南市章丘市。○殘鴉…残っている烏。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○躑觸花…つつじ。

　

 

★    泰安道中　　　　　　　泰安道中　　　　　　　　　　　　　　　  清　　孔傅樅

 

東風拂面柳枝低　　　　東風　面を払って　柳枝低し　

宛轉渓山路欲迷　　　　宛転(えんてん)たる渓山 路 迷わんと欲す　

十里桃花新過雨　　　　十里の桃花 新たな過雨　

夕陽遙映盧門西　　　　夕陽 遥かに映ず 盧門(ろもん)の西

 

【語釈】

○泰安…山東省泰安市。○東風…春風。○宛轉…変化すること。○盧門…不祥。○過雨…通り雨。○盧門…不祥。

　

 

★    夢村    　　　　　　　夢村　　　　　　　　　　　　　　　  清　　安致遠

 

丹楓黄菊晩秋圖　　　　丹(たん)楓(ふう) 黄菊(こうきく) 晩秋の図　

石碓奔流響轆轤　　　　石碓(せきたい) 奔流 響く轆轤(ろくろ)

行過小橋人影寂　　　　小橋を行過すれば 人影寂(しずか)なり

一渓秋水泛軽鳧　　　　一渓の秋水 軽鳧(けいふ)を泛(うか)ぶ

 

【語釈】

○丹楓…紅葉した楓。○石碓…石うす。○轆轤…井戸の水くみ用の滑車。○軽鳧…かるがるとした鳧（小型の鴨の一種）。

 

 

★    明湖絶句　　　　　　明湖絶句　　　　　　　　　　　　　　　  清　　葉正夏

 

一水濚洄舊路微　　　　一水 濚洄(えいかい)して 旧路微(かすか)なり　

殘荷衰柳送斜暉　　　　残荷 衰柳 斜暉を送る　

此翁尚有機心在　　　　此の翁 尚お 機心在る有り　

驚起閑鷗作隊飛　　　　閑鴎を驚起して 隊を作(な)して飛ばしむ

　

【語釈】

○濚洄…回り廻る。○残荷…損なわれた蓮の葉。○斜暉…夕陽。○機心…いつわり企むこころ。いたずら心。

　

 

★    維揚出遊　　　　　　　維揚出遊　　　　　　　　　　　　　   清　　田　霡

 

籃輿穏坐挂詩瓢　　　　籃(らん)輿(よ) 穏(おだやか)に坐して 詩(し)瓢(ひょう)を挂(か)く　

獨出城闉輿自多　　　　独り 城闉(じょういん)を出で 興 自(おのずか)ら多し　

秋水多情山色近　　　　秋水 多情にして 山色近し　

人従畫裏過紅橋　　　　人は 画(が)裏(り)に従って 紅橋を過ぐ　　　　　

 

【語釈】

○維揚…揚州（南京市）の別称。○籃輿…かご。○詩瓢…詩を書いた紙を入れる大きな瓢箪。○城闉…城郭。○山色…山の景色。山の気配。○畫裏…絵の中。

 

 

★    儀微入江　　　　　　　 儀微 江に入る　　　　　　　　　　　　清　　李永紹

 

白沙州外唱橈歌　　　　白沙州外(はくさしゅうがい) 橈歌(ぎょうか)を唱う　

曲港回橋取次過　　　　曲港 回橋　取次(しゅじ) 過く　

一帯葭蘆沿岸緑　　　　一帯の葭蘆(かろ)　岸に沿いて緑に

青山無數隔江多　　　　青山 無数 江を隔つること多し

 

【語釈】

○儀微…江蘇省江都県。○白沙州…白い砂で出来た中洲。○橈歌…舟歌。○取次…しばらく。○葭蘆…ヨシとアシ。

 

 

★    南澗晩歸              南澗(なんかん) 晩に帰る　　　　　　　　　　　  清　　楊青望

 

嶽寺風聲起暮鐘　　　　岳寺の風声 暮鐘起る　

殘陽歸去興尤濃　　　　残陽 帰り去りて 興 尤も濃(こまやか)なり　

停車欲認登臨處　　　　車を停(とど)めて 認めんと欲す 登臨(とうりん)の処　

忘却西南第幾峯　　　　忘却す 西南 第幾峰

 

【語釈】

○澗…谷。○嶽寺…山岳にある寺。○殘陽…夕日、入り日。○登臨…高いところに登って下を見下ろす。○第幾峰…多くの峰。

 

★    湖中絶句　　　　　　　湖中絶句　　　　　　　　　　　　　　　  清　　顧肇維

 

罨畫渓頭風味秋　　　　罨画渓頭(あんがけいとう) 風味 秋なり　

采菱遊女木蘭舟　　　　采(さい)菱(りょう)の遊女 木蘭の舟　

遠山一帯青如洗　　　　遠山一帯 青 洗うが如し　

幾處湘簾捲畫樓　　　　幾処(いくところ)の湘(しょう)簾(れん) 画楼に捲く

 

○罨畫渓…浙江省長興県の西にある渓。○風味…奥ゆかしい趣き。○采菱…菱を採る。○湘簾…竹の簾。○畫樓…絵や彩色で飾られた楼。

 

 

★    郊行　　　　　　　　　郊行　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　陳徳榮

 

芳園靑草緑離離　　　　芳園の青草 緑 離々(りり)たり　

好是人家祭掃時　　　　好し是れ 人家 祭掃(さいそう)の時　

何處紙錢焼不盡　　　　何れの処の紙銭か 焼いて尽きず

東風吹上野棠枝　　　　東風 吹き上ぐ 野棠(やとう)の枝

 

【語釈】

○郊行…郊外の野原に行くこと。○芳園…花が咲き誇っている庭園。○離離…草木が繁茂しているさま。○祭掃…親族の墓を祀ること。○紙銭…死者を祀るときに燃やす紙幣。○東風…春風。○野棠…野生の梨。

 

　

 

★    晩望群城燈火　　　　　晩に群城の燈火を望む　　　　　   清　　蔣士銓

 

市火船燈閃亂螢　　　　市火の船灯 乱蛍を閃(ひらめ)かす　

紅雲拖墨夜冥冥　　　　紅雲 墨を拖(ひ)いて 夜冥々(めいめい)　

却疑身在層霽上　　　　却って疑う 身は層霽(そうせい)の上に在るかと　

俯見人間有列星　　　　俯(ふ)して見る 人間(じんかん)に 列星有るを

 

【語釈】

○冥冥…暗くかすかなさま。○層霽…天空。○俯見…俯瞰する。○人間…人間世界。

 

 

絶句類選標本　四

絶句類選　　巻之七　　贈答類　　

 

 

★    寄韓鵬　　　　　　　　韓(かん)鵬(ほう)に寄す　　　　　　　　　　　　　   唐　　李(り)　頎(き)

 

爲政心閑物自閑　　　　政を為し 心閑なれば 物自(おのずか)ら閑なり　

朝看飛鳥暮飛還　　　　朝(あした)に看(み)し飛鳥 暮に飛び還(かえ)る　

寄書河上神明宰　　　　書を寄す 河上 神明の宰　

羨爾城頭姑射山　　　　羨(うらや)む 爾(なんじ)が城頭の姑(こ)射山(しゃざん)

 

【語釈】

○韓鵬…不祥。○河上…黄河のほとり。○神明宰…神を祀る官吏。韓鵬のこと？○城頭…城壁の上。○姑射山…山西省臨汾市姑射山。

 

★    寄孫山人　　　　　　　孫山人に寄す　　　　　　　　　　　　  唐　　儲光羲

 

新林二月孤舟還　　　　新林 二月 孤舟還る　

水滿清江花滿山　　　　水は清江に満ち 花は山に満つ　

借問故園隱君子　　　　借問(しゃもん)す 故園の隠(いん)君子(くんし)　

時時來往住人間　　　　時々(じじ)来往して 人間(じんかん)に住まるかと

 

【語釈】

○山人 … 世を捨てて山中に隠れ住む人。○寄 … 詩を人に託して送り届けること、贈は、詩を直接手渡すこと。○新林 … 春になって新しく芽吹いた林。○孤舟還 … 一艘の小舟で帰る。○水満清江 … 春の水が清らかな川に満ちあふれている。○借問 … ちょっとお尋ねしますが。○故園 …古くから住み慣れた庭園、孫山人の住居を指す。○隠君子 … 世を避けて山中に隠れ棲む徳の高い人、孫山人を指す。

（参考文献）　『『唐詩選』

 

 

 

★    寄穆侍御出幽州　　　　穆(ぼく)侍御(じぎょ)が幽州に出るに寄す    　　　　　唐　王昌齢　　　　　　　

 

一從恩譴度瀟湘　　　　一たび 恩譴(おんけん)に従って 瀟湘を度る　　

塞北江南萬里長　　　　塞北 江南 万里長し　

莫道薊門書信少　　　　道う莫れ 薊門(けいもん) 書信少(まれ)なりと　

鴈飛猶得到衡陽　　　　鴈飛びて 猶お 衡(こう)陽(よう)に到るを得ん

 

【語釈】

○穆侍御…不祥、侍御は天子の侍従。○幽州…北京。○恩譴…左遷の命令。○瀟湘…湘江、洞庭湖に注ぐ川。○塞北…幽州。○江南…長江中下流の南側、作者のいる地名。○薊門…北京にある場所の地名。○衡陽…湖南省衡阳市。

★　酬李穆見寄 　　　　　李穆(りぼく)が寄せらるるに酬ゆ　　　　　　　　  唐　　劉長卿

 

孤舟相訪至天涯　　　　孤舟 相訪(あいと)いて 天涯に至る

萬轉雲山路更賒　　　　万転 雲山 路 更に賒(はるか)なり　

欲掃柴門迎遠客　　　　柴門を掃いて 遠客を迎えんと欲すれば　

青苔黃葉滿貧家　　　　青苔 黄葉 貧家に満つ

 

【語釈】

○李穆…劉長卿の娘婿。○酬…詩を送られたことの返礼。○相訪…尋ねてくる。○天涯…地の涯。ここでは、作者（…劉長卿）の許のこと。○万転…何度も向きを変える意。雲山…雲のかかった高い山。○賒…遠い。○柴門…柴（しば）を編んでつくった粗末な門。○遠客…遠くから来た客、ここでは李穆を指す。○黄葉…もみじ葉、秋になって葉が黄色く変わる葉。○貧家…貧しい家、寒家。

（参考文献）　『三体詩』

 

 

 

★    聞王昌齡左遷龍標遙有此寄　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　白

 　　　　　　王昌齡が龍標(りゅうひょう)に左遷せらるを聞き遙かに此の寄有り

 

楊花落盡子規啼　　　　楊花落ち尽くして子規啼く　

聞道龍標過五溪　　　　聞道(きくなら)く 竜標五渓を過ぐと　

我寄愁心與明月　　　　我 愁心を寄せて 明月に与(あた)う　

隨風直到夜郎西　　　　風に随って 直ちに到れ 夜郎の西

 

【語釈】

○竜標…県名、湖南省洪江市西南の黔城鎮。○寄…詩を人に託して送り届けること。○楊花…柳絮。○子規 … ホトトギス。○聞道…聞くところによれば。○五渓…地名、洞庭湖の西南端、湖南省常徳市の西方にあった五つの川。○寄愁心与明月…君を思う愁いの心を明月に託そう。○随風…どうか風に乗って。○夜郎…竜標の西北にある夜郎県のあたりを指す。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    巴陵贈賈舍人　　　　　巴陵(はりょう)の賈舍人(かしゃじん)に贈る　　　　　　　　  唐　　李　白

 

賈生西望憶京華　　　　賈生 西望すれば 京華(けいか)を憶う　

湘浦南遷莫怨嗟　　　　湘浦に南遷して 怨嗟すること莫かれ　

聖主恩深漢文帝　　　　聖主の恩は漢の文帝より深し

憐君不遣到長沙　　　　君を憐み 長沙に到らしめず

 

【語釈】

○巴陵…湖南省岳暘市。○賈舍人…不祥、舎人は中書舎人。賈至？○賈生…賈舍人。○京華…宮城、長安。○湘浦…湘江のあたり（洞庭湖の南）。○南遷…南方に左遷されること。○聖主…皇帝。○長沙…湖南省長沙市。

 

 

★    南流夜郎寄内　　　　　南のかた夜郎(やろう)に流されて内に寄す　　　　　  唐　　李　白

 

夜郎天外怨離居　　　　夜郎 天外 離居を怨む　

明月樓中音信疎　　　　明月楼中 音信疎(そ)なり　

北雁春歸看欲盡　　　　北雁 春帰える 看て尽きんと欲す　

南來不得豫章書　　　　南来 得ず 予(よ)章(しょう)の書

 

【語釈】

○夜郎…貴州省、雲南省の地。○内…妻。○雁…書を運ぶ鳥。蘇武の故事。○豫章…江西省南昌市、李白の妻はここにいた。

（参考文献）　『漢詩大系　８』

 

★    寒食寄京師諸弟　　　　 寒食 京師の諸弟に寄す　　　　　　　　　  唐　　韋應物

 

雨中禁火空齋冷　　　　雨中の禁火 空斎冷(ひややか)なり　

江上流鶯獨坐聽　　　　江上の流鶯 独り坐して聴く　

把酒看花想諸弟　　　　酒を把(と)り 花を看て 諸弟を想う　

杜陵寒食草青青　　　　杜陵の寒食 草青々

 

【語釈】

○寒食…当時から百五日目、この日をと前後一日は火を使わない。○京師…長安。○空齋…人気の無い部屋。○流鶯…枝を飛び回る鶯。○杜陵…西安市雁塔区三兆邑西北にあたる、漢の宣帝の陵があったので名付けられた。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    閑居寄諸弟　　　　　　閑居 諸弟に寄す　　　　　　　　　　　  唐　　韋應物

 

秋草生庭白露時　　　　秋草 庭に生ず 白露の時　

故園諸弟益相思　　　　故園の諸弟 益(ます)ゝ(ます)相(あい)思(おも)う　

盡日高齋無一事　　　　尽日 高斎(こうさい) 一事無し　

芭蕉葉上獨題詩　　　　芭蕉(ばしょう)葉上(ようじょう) 独り詩を題す

 

【語釈】

○閑居…閑かな生活。○白露…二十四節季の一つ、旧暦九月八日頃。○故園…故郷。○盡日…一日中。○高齋…高雅な書斎。

　　

 

★    登樓寄王卿　　　　　　楼に登りて王卿(おうけい)に寄す　　　　　　　　　  唐　　韋應物

 

踏閣攀林恨不同　　　　閣を踏み 林を攀(よ)ずに 同じくせざるを恨む　

楚雲滄海思無窮　　　　楚雲 滄海 思 窮まる無し

數家砧杵秋山下　　　　数家の砧杵(ちんしょ) 秋山の下(もと)

一郡荆榛寒雨中　　　　一郡の荆榛(けいしん) 寒雨の中(うち)

 

【語釈】

○王卿…不祥。踏閣 … 楼閣に登ること。踏は、登る。また、閣を台閣（朝廷）とし、朝廷で活躍するという解釈もある。○攀林…楼閣が林の中にあるため、その坂道をよじ登ること。○恨不同…君と一緒でないのが残念である。○楚雲… 楚の空に浮かぶ雲。楚の地。作者がいるところ。○滄海…大海原。王卿がいるところ。○砧杵…布を打つ砧の音。○榛 … 雑木の茂み。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    酬柳郎中　　　　　　柳郎中に酬ゆ　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋應物

 

廣陵三月花正開　　　　広陵 三月 花正(まさ)に開く

花裏逢君醉一廻　　　　花(か)裏(り) 君に逢いて 酔うこと一廻(いっかい)せん

南北相過殊不遠　　　　南北 相(あい)過(よ)ぎること 殊に遠からず

暮潮歸去早潮來　　　　暮潮帰り去って 早潮来る　　　

 

【語釈】

○柳郎中…不祥。○広陵…揚州。○花裏…花のもとで。○酔一廻…心ゆくまで一度酔いたいものだ。○南北…長江を隔てて南は作者のいる蘇州、北は柳某のいる揚州を指す。○相過…互いに行き来すること。○帰去…潮が引いて行く。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    玉關寄長安李主簿　　　玉関にて長安の李(り)主簿(しゅぼ)に寄す　　　　　　  唐　　岑　參

 

東去長安萬里餘　　　　東のかた 長安を去ること 万里余(ばんりよ)

故人何惜一行書　　　　故人 何ぞ惜しむ 一行の書

玉關西望堪腸斷　　　　玉関 西望すれば 腸(はらわた) 断ゆるに堪えたり

況復明朝是歳除　　　　況(いわん)や復(ま)た 明朝 是れ歳除(さいじょ)なるをや

 

【語釈】

○玉関…玉門関。○李主簿…不祥。○腸堪断…非常に悲しいさま。○是…be動詞にあたり、「コレ」と訓読する。○歳除…大晦日。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    苜蓿峰寄家人　　　　　苜蓿(もくしゅく)峰(ほう)にて家人に寄す　　　　　　  唐　　岑　參

 

苜蓿峰邊逢立春　　　　苜蓿(もくしゅく)峰(ほう)辺(へん)  立春に逢い

胡蘆河上淚沾巾　　　　胡蘆(ころ)河上(かじょう) 涙 巾(きん)を沾(うるお)す

閨中只是空相憶　　　　閨中(けいちゅう) 只だ是れ 空しく相い憶う

不見沙場愁殺人　　　　沙場(さじょう)の 人を愁(しゅう)殺(さつ)するを見ず

 

【語釈】

○苜蓿烽…のろし台の名。苜蓿は、うまごやし。○葫蘆河…西方の塞外にある川の名。葫蘆は、ひょうたんの別称。○沾巾…ハンカチを濡らす。○閨中…妻の寝室を指す。○相憶 …私のことを思ってくれているだろうが。相は、動作に対象があることを示す言葉。○沙場…砂漠。○愁殺…ひどく悲しませる。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    寄王舍人竹樓　　　　王舍人の竹楼に寄す　　　　　　　　　　  唐　　李嘉祐

 

傲吏身閑笑五侯　　　　傲吏(ごうり) 身 閑(しずか)にして 五侯を笑う　

西江取竹起高樓　　　　西江に竹を取り 高楼を起(た)つ　

南風不用蒲葵扇　　　　南風 用いず 蒲葵(ほき)の扇　

紗帽閑眠對水鷗　　　　紗帽(さぼう) 閑に眠り 水鴎に対す　

 

【語釈】

○王舍人…不祥。舎人は中書舎人。○傲吏…物事に屈しない官吏、王舍人のこと。○五侯…漢の元帝の時代の「一日五侯」。○蒲葵扇…ビンロウで作った扇。○紗帽…うすぎぬで作った頭巾。

 

 

★    寄楊侍御　　　　　　　楊侍御に寄す　　　　　　　　　　　　  唐　　包　何

一官何幸得同時　　　　一官 何の幸(さいわい)ぞ 時を同じくすることを得たるは

十載無媒獨見遺　　　　十載 媒(なかだち)無く 独り遺(のこ)さる

今日不論腰下組　　　　今日 論ぜず 腰下(ようか)の組

請君看取鬢邊絲　　　　請う君 看取せよ 鬢(びん)辺(ぺん)の糸

 

【語釈】

○楊侍御…不祥、侍御は侍御史。○一官…一つの官職。○媒…自分を推薦してくれる仲介者。○独見遺…ひとり昇進から取り残されてしまった。見 は「る」「らる」と読み、「～される」と訳す。受身の意を示す。○腰下組 … 腰に下げた印綬。○看取…よく目をとめて見る。取は、動詞の意味を補足する助辞。○鬢辺糸…鬢のあたりの白髪。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★      重贈鄭鍊　　　　　　　重ねて鄭鍊(ていれん)に贈る　　　　　　　　　　　  唐　　杜　甫

 

鄭子將行罷使臣　　　　 鄭子(ていし) 将(まさ)に行かんとし 使臣を罷む　

囊無一物獻尊親　　　　囊(のう)に 一物の 尊親に献ずる無し　

江山路遠羇離日　　　　江山 路遠し 羇離(きり)の日　

裘馬誰爲感激人　　　　裘馬　誰か感激の人為(た)らん

 

【語釈】

○鄭鍊…不祥。成都で地方官をしていたが郷里の襄陽に帰って親を見るという人物である。○君臣…皇帝の使者。○囊…旅のための故荷物入れの袋。○尊親…親族。○裘馬…上等の軽い皮衣と立派馬。富貴の人を指す。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    贈花卿　　　　　　　　花卿に贈る　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　甫

 

錦城絲管日紛紛　　　　錦(きん)城(じょう)の糸管 日に紛々(ふんぷん)

半入江風半入雲　　　　半ばは江風に入り 半ばは雲に入る

此曲秪應天上有　　　　此の曲 秪(た)だ応(まさ)に 天上に有るべし

人間能得幾回聞　　　　人間(じんかん) 能く 幾回か聞くを得ん

 

【語釈】

○花卿 … 唐の猛将、花敬定のこと。成都にあったとき、皇帝専用の曲を奏しさせた。○錦城…錦官城。成都の別称。○糸管…琴などの弦楽器と笛などの管楽器。○紛紛…入りみだれて賑やかなさま。○應…「まさに～すべし」と読み「～すべきである」「～であるべきである」の意。○天上…天上界（皇帝）。○人間…俗世間。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    江南逢李龜年          江南にて李(り)亀(き)年(ねん)に逢う　　　　　　　　  唐　　杜　甫

 

岐王宅裏尋常見　　　　岐王の宅裏 尋常に見　

崔九堂前幾度聞　　　　崔(さい)九(く)の堂前 幾度か聞く　

正是江南好風景　　　　正に是れ 江南の好風景　

落花時節又逢君　　　　落花の時節 又た君に逢う

 

【語釈】

○江南…ここでは洞庭湖の南の地方を指す。○李亀年…玄宗に寵愛された当時有名な男性歌手。○岐王…玄宗の弟、李範。○崔九…崔滌という貴族。玄宗に寵愛された。○正是…ちょうど今～である。

（参考文献）　『唐詩選』

　

 

★    酬張繼　　　　　　　　張継(ちょうけい)に酬ゆ　　　　　　　　　　　　　  唐　　皇甫冉

 

悵望南徐登北固　　　　南徐(なんじょ)を悵望して 北固に登る　

迢遙西塞阻東關　　　　迢(ちょう)遥(よう)たる西塞 東関を阻む　

落日臨川問音信　　　　落日 川に臨み 音信を問えば　

寒潮唯帶夕陽還　　　　寒潮 唯 夕陽(せきよう)を帯びて還る

 

【語釈】

○張繼…中国、盛唐の詩人。「楓橋夜泊」の詩で知られる。○南徐…江蘇省鎮江市。○北固…江蘇省鎮江市にある山。○迢遙…はるかなさま。○西塞…浙江省湖州市の西南にある山。○東關…安徽省含山県の西南、三国時代の呉の諸葛恪が住んだところ。

（参考文献）　　『三体詩』

 

★    旅次寄湖南張郎中　　　 旅(りょ)次(じ) 湖南の張郎中に寄す　　　　　　　　  唐　　戎　昱

 

寒江近戸漫流聲　　　　寒江 戸に近く 漫流(まんりゅう)の声　　

竹影臨窗亂月明　　　　竹(ちく)影(えい) 窓に臨み 月明を乱す

歸夢不知湖水闊　　　　帰夢は知らず 湖水の闊(ひろ)きを

夜來還到洛陽城　　　　夜来 還り到る 洛陽城

 

【語釈】

○旅次…旅の途中の宿。○湖南…湖南省。○張郎中…不祥。○漫流…あふれ流れる水。○月明…月明かり。○帰夢…故郷に帰る夢。○湖水…洞庭湖の水。○夜来…夜になってから。

 

 

★    寄南游兄弟　　　　　　 南游の兄弟(けいてい)に寄す　　　　　　　　　  唐　　竇　鞏

 

書來未報幾時還　　　　書来りて 未だ報ぜず 幾時(いくとき)にか還えるを

知在三湘五嶺間　　　　知る 三湘五嶺の間に在るを

獨立衡門秋水闊　　　　独り立つ 衡門(こうもん) 秋水闊(ひろ)し

寒鴉飛去日銜山　　　　寒鴉 飛び去り 日 山を銜(くわ)う

 

【語釈】

○南游…南方を旅する。○三湘…湖南省の湘鄉、湘潭、湘陰の地。○五嶺…大庾嶺、 越城嶺、騎田嶺、萌渚嶺 、都龐嶺 の総称。○衡門…横木を渡しただけの門。粗末な家。

 

 

★    代書寄京洛舊遊        書に代えて京洛の旧遊に寄す　　　　　  唐　　戴叔倫

 

今年十月溫風起　　　　今年 十月 温風起る

湘水悠悠生白蘋　　　　湘水 悠々 白蘋(はくひん)を生ず

欲寄遠書還不敢　　　　遠書を寄せんと欲して 還(ま)た 敢(あえ)てせず

却愁驚動故鄉人　　　　却って 故鄉の人を 驚動せんことを愁う

 

【語釈】

○京洛…洛陽。○舊遊…古くからの友達。○湘水…湘江、洞庭湖に流入する川。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○白蘋…白い浮き草。○遠書…遠くからの手紙。○驚動…非常に驚かす。

 

 

★    贈殷亮                殷亮に贈る　　　　　　　　　　　　　　  唐　　戴叔倫

 

日日河邊見水流　　　　日々 河辺に 水の流るるを見る

傷春未已復悲秋　　　　春を傷むこと 未だ已(や)まざるに 復た秋を悲しむ

山中舊宅無人住　　　　山中の旧宅 人の住む無く

來往風塵共白頭　　　　風塵(ふうじん)に来往して 共に白頭

 

【語釈】

○殷亮…人名、不詳。○河邊…川のほとり。○舊宅…かっての住まい。○來往…行ったり来たり、うろうろすること。○風塵…けがれた俗世間。○白頭…白髪頭、年をとったことを示す常用語。

（参考文献）　『三体詩』『和漢名詞選類評釈』

 

★    聽夜雨寄盧綸　　　　　夜雨を聽き盧綸に寄す　　　　　　　　  唐　　李　端

 

暮雨蕭條過鳳城　　　　暮雨 蕭(しょう)条(じょう)として 鳳城(ほうじょう)を過ぐ　

霏霏颯颯重還輕　　　　霏々(ひひ)颯々(さつさつ) 重還(ま)た軽　

聞君此夜東林宿　　　　聞く 君 此の夜 東林の宿　

聽得荷池幾番聲　　　　聴き得たり 荷池 幾番の声

 

【語釈】

○盧綸…唐の詩人。山西省運城市永済市の人。大暦十才子の一人。○蕭條…もの寂しいさま。○鳳城…帝都長安。○霏霏…雨や雪のしきりに降るさま。○颯颯…雨の降るさま。○東林…東の林の中の宿。○荷池…蓮のある池。

 

 

★    酬浩初上人欲登仙人山見貽　　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　柳宗元

　　　　　　　浩初上人が仙人山に登らんとして貽(おく)らるるに酬ゆ　　　　　　 

珠樹玲瓏隔翠微　　　　珠樹 玲瓏(れいろう)として 翠微(すいび)を隔つ

病來方外事多違　　　　病来 方外 事 多くは違う　

仙山不屬分符客　　　　仙山は属さず 分符の客　

一任凌空錫杖飛　　　　一任す 空を凌ぐ 錫(しゃく)杖(じょう)の飛ぶに

 

【語釈】

○浩初上人…不祥。○珠樹…樹木の美称。○玲瓏…さえて鮮やかなさま。○翠微…緑色の山八合目あたり。○病来…病気になってから。○方外…世俗を超越した世界。○分符客…朝廷から任命された官吏。○錫杖…道士や僧などの用いる頭に鈴をつけた杖。仙人が空に飛ばして、それに乗って天空を飛ぶという。

参考文献　『唐詩選』

★    酬曹侍御過象縣見寄                                       唐　　柳宗元

　　　　　　　曹侍御が象県に過ぎりて寄せらるるに酬ゆ

 

破額山前碧玉流　　　　破額山前(はがくさんぜん) 碧玉流る　

騷人遙駐木蘭舟　　　　騒人 遥かに駐む 木蘭の舟

春風無限瀟湘憶　　　　春風 限り無し 瀟湘の憶(おもい)

欲採蘋花不自由　　　　蘋花を採らんと欲すれども 自由ならず

 

【語釈】

○侍禦…侍御史、皇帝の側に使える役人。○象縣…嶺南道柳州の県（広西壮族自治区象州県）。○破額山…象県の中の柳江のほとりにある山。○碧玉…清く青く澄んでいる喩え。騒人…屈原をはじめとする『楚辞』の世界の人、曹侍御をいう。遥駐…象縣と柳州は、５０kmほど離れている。○木蘭舟…木欄で作った船、船の美称。○瀟湘…湘水と瀟水の合流しているところ，洞庭湖の南。○瀟湘意…曹侍御に逢いたいのだが果たせないこと。○蘋花…浮き草の一種の花。

（参考文献）　『柳宗元詩集』

 

 

★    憶樂天　　　　　　　　楽天を憶う　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

尋常相見意殷勤　　　　尋常に相見て 意 殷(いん)勤(ぎん)なり　

別後相思夢更頻　　　　別後 相思い 夢みること 更に頻(しきり)なり　

每遇登臨好風景　　　　登臨して 好風景に遇(あ)う毎に　

羨他天性少情人　　　　羨(うらや)む 他の 天性 情(じょう)少き人

 

【語釈】

○樂天…白居易。○尋常…常日頃。○殷勤…ねんごろ。○登臨…高いところに登って俯瞰すること。○天性…生まれつき。○情…感情。

 

★    與歌者何戡　　　　　　歌者(うたしゃ)何戡(かかん)に与う　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

二十餘年別帝京　　　　二十余年 帝京に別れ

重聞天樂不勝情　　　　重ねて天楽を聞き 情に勝えず

舊人唯有何戡在　　　　旧人 唯だ 何戡(かか)の在る有り

更與殷勤唱渭城　　　　更に与(ため)に 殷(いん)勤(ぎん)に 渭(い)城(じょう)を唱う

 

【語釈】

○何戡…長安で著名な歌手。○帝京…長安。○天楽…人間世界を離れたような良い音楽。○情…感情。○殷勤…ねんごろ。○渭城…王維の「送元二使安西」。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    道州郡齋臥疾寄東館諸賢　　　　   　　　　　　　　　　　　　　唐　　呂　溫

　　       　　道州の郡齋(ぐんさい)にて疾(やまい)に臥(ふ)し 東館の諸賢に寄す

 

東池送客醉年華　　　　東池 客(かく)を送り 年(ねん)華(か)に酔う

聞道風流勝習家　　　　聞道(きくなら)く 風流は 習家に勝ると

獨臥郡齋寥落意　　　　独り郡(ぐん)斎(さい)に臥(ふ)す 寥落(りょうらく)の意

隔簾微雨濕梨花　　　　簾(れん)を隔つる微雨 梨花を湿す

 

【語釈】

○道州…湖南省永州市道県。○郡齋…群主の住居。○年華…春の光。○聞道…聞くところによれば。高陽池 。○習家…湖北省襄陽市にある古跡名。○寥落…落ちぶれたさま。

 

★    二月朔日是貞元舊節有感寄黔南竇三洛陽盧七　　　　　　　   唐　　呂　溫

二月朔日 是れ貞元(じょうげん)の旧節に感有りて 黔(げい)南(なん)の竇三(とうさん) 洛陽の盧(ろ)七(しち)に寄す

 

同事先皇立玉墀　　　　同(とも)に先皇に事(こと)し 玉墀(ぎょくち)に立つ

中和舊節又支離　　　　中和の旧節 又た支離

今朝各自看花處　　　　今朝 各自 花を看る処

萬里遙知掩淚時　　　　万里 遥に知る 涙を掩(おお)う時

 

【語釈】

○貞元…唐の徳宗の年号。○旧節…旧暦の節日。○黔南…貴州省黔南市。○竇三…不祥。○盧七…不祥。○先皇…先の皇帝。○事…従事する。玉墀…朝廷。○中和…旧暦二月二日。○支離…ばらばらでとりとめの付かないこと。○掩…覆い隠す。

 

 

★    寄李渤　　　　 　　　　李渤(りぼつ)に寄す　　　　　　　　　　　　　　唐　　張　籍

 

五度溪頭躑躅紅　　　　五度渓頭 躑躅紅なり

嵩陽寺裏講時鐘　　　　嵩陽寺裏 講時の鐘

春山處處行應好　　　　春山処々 行けば 応に好かるべし

一月看花到幾峰　　　　一月 花を看て 幾峰に到る

　

【語釈】　　

○李渤…洛陽人､科挙に合格しなかったが太子賓客となった。崇山の小室山に隠棲した。○五度溪…崇山にある渓。○躑躅…つつじ。○嵩陽寺…崇山にある寺。○應…「まさに～すべし」と読み、「おそらく～であろう」「たいてい～のはずである」の意。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    聞樂天授江州司馬聞楽天授江州司馬　　　　　　　　　　　　   唐　　元　稹

　　　　　　楽天の江州司馬を授けらしを聞く

 

殘燈無焰影幢幢　　　　残灯 焰(ほのお)無く 影 幢々(どうどう)

此夕聞君謫九江　　　　此の夕べ君が九江に謫せられしを聞く

垂死病中驚坐起　　　　垂(すい)死(し)病中 驚きて坐起(ざき)すれば

暗風吹雨入寒窗　　　　暗風雨を吹いて寒窓に入る

 

【語釈】

○残燈…燃え尽きようとしている灯火。○憧憧…揺れ動くさま。○謫…流刑に処される。○九江…江州（江西省北部に位置する地級市）。○垂死…瀕死。○坐起…起きて坐る。○暗風…暗闇の中を吹く風。○寒窓…冷たい冬の窓。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    江南送北客因憑寄徐州兄弟書　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

江南に北客を送りて 因(よ)りて徐州の兄弟(けいてい)に憑(たの)みて書を寄す

 

故園望斷欲何如　　　　故園 望断するも 何如(いかん)せんと欲す

楚水呉山萬里餘　　　　楚水 呉山 万里余

今日因君訪兄弟　　　　今日 君に因(よ)りて 兄弟(けいてい)を訪(と)う

數行郷淚一封書　　　　数行(すうこう)の郷涙　一封の書

 

【語釈】

○江南…長江中下流の南側の地。○徐州…江蘇省徐州市。○故園…故郷。○望斷…とことん望見する。○楚水呉山…呉楚の地の山水。○郷淚…故郷を思う涙。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

　　

★    贈江客                江客(こうかく)に贈る　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

江柳影寒新雨地　　　　江柳 影は寒し 新雨の地

塞鴻聲急欲霜天　　　　塞(さい)鴻(こう) 声 急に 霜ならんと欲する天

愁君獨向沙頭宿　　　　愁う 君が独(ひと)り 沙頭の宿に向うを

水遶蘆花月滿船　　　　水は蘆花を遶(めぐ)り 月は船に満つ

 

【語釈】　　　　

○江客…江上の旅人。○江柳…川辺の柳。○塞鴻…北の辺地から来る雁。○沙頭…沙洲のほとり。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』『新釈漢文大系　白氏文集　四』

 

 

 

★    同李十一醉憶元九　　　李十一と同(とも)に酔いて元九を憶う　　　　  唐　　白居易

 

春來無計破春愁　　　　春来 計無く 春愁を破る

醉折花枝當酒籌　　　　酔いて花枝を折りて 酒籌(しゅちゅう)に当つ

忽憶故人天際去　　　　忽(たちま)ち憶う 故人の天際に去るを　

計程今日到梁州　　　　程を計れば 今日 梁州(りょうしゅう)に到る

 

【語釈】

○李十一…李夷簡、唐の宗室、劍南節度使、御史大夫、淮南節度使に至る。○元九…元槇。○春来…春になってから。○春愁…春のもの悲しさ。○破…消す。○酒籌…飲んだ盃の数を数える算木。○天際…天涯、遙か彼方。○梁州…陝西省漢中府。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

　

★    禁中夜作書與元九      禁中 夜 書を作りて元九に与う　　　　　　  唐　　白居易

  

心緒萬端書兩紙　　　　心緒(しんしょ)万端(ばんたん) 書(しょ)両紙(りょうし)

欲封重讀意遲遲　　　　封ぜんと欲して 重ねて読み 意(こころ)遅々たり

五聲宮漏初鳴後　　　　五声の宮漏(きゅうろう) 初めて鳴りて後

一點窗燈欲滅時　　　　一点の窓灯 滅せんと欲する時

 

【語釈】

○禁中…天子の住む宮殿。○元九…元槇。○心緒萬端…心の中で思っているさまざまの事。○書兩紙…二枚の紙にしたためる。○五聲…五更、午前四時ごろ。○宮漏…宮中の漏刻。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

 

★    雨夜憶元九　　　　　　雨夜 元九を憶う　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

天陰一日便堪愁　　　　天陰(くも)ること一日なれば 便(すなわ)ち愁うに堪たり

何況連宵雨不休　　　　何ぞ況(いわ)んや　連(つう)宵(しょう) 雨休(や)まざるをや

一種雨中君最苦　　　　一種 雨中 君 最も苦しまん

偏梁閣道向通州　　　　偏(へん)梁(りょう)の閣(かく)道(どう) 通州(つうしゅう)に向う

 

【語釈】　

 ○元九…元槇。○一種…一様に、当時の俗語。○最…ちょうど今、時あたかも、当時の俗語。○偏梁…辺鄙な漢中、四川の地域。○閣道…桟道。○通州…四川省にあった州。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』　　　　

 

★    曉眠後寄楊戸部　　　　暁眠(ぎょうみん)の後 楊(よう)戸部(こぶ)に寄す　　　　　　　  唐　　白居易

 

軟綾腰褥薄緜被　　　　軟(なん)綾(りょう) 腰(よう)褥(じょく) 薄綿被(はくめんぴ)

涼冷秋天穩暖身　　　　涼(りょう)冷(れい)たる秋天 穏(おん)暖(だん)たる身

一覺曉眠殊有味　　　　一(いっ)覚(かく)の暁眠(ぎょうみん) 殊に味有り

無因寄與早朝人　　　　早朝人(そうちょうじん)に寄与するに 因(よし)無(な)し

 

【語釈】

○曉眠…明け方出仕をせずに眠っていること。○楊戸部…楊汝士。元和四年の進士。○軟綾…柔らかくて細やかな絹織物。ここでは敷き布団。○腰褥…腰までの綿入れ。○薄緜被…薄く軽い掛け布団。○涼冷…寒々としたさま。○穩暖身…安穩で寒い思いをしない身。○一覺…一眠り。○寄與…送り与える。○早朝人…朝廷に朝出かける人。役人。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　白氏文集　十一』

 

　　　

★    得袁相公書得　　　　　　袁相(えんそう)公(こう)の書を得たり　　　　　　　　唐　　白居易

 

穀苗深處一農夫　　　　穀(こく)苗(びょう) 深き処 一農夫

面黑頭斑手把鋤　　　　面黒く 頭(かしら)斑(まだら)にして 手に鋤(すき)を把(と)る

何意使人猶識我　　　　何ぞ意(い)わん 使人 猶お我れを識り

就田來送相公書　　　　田に就き 来りて送る 相公の書　

 

【語釈】

○袁相公…袁滋、蔡州郎山の人、中書侍郎平章事、戸部尚書に至る。○穀苗…生長した稲の苗か。○一農夫…白居易自身。○何意…思いがけなく。○使人…使者。○就田…他の中に入る。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

★    早入皇城贈王留守僕射 　早(つと)に皇城に入り 王(おう)留守(りゅうしゅ)僕(ぼく)射(しゃ)に贈る　　  唐　　白居易

 

津橋殘月曉沈沈　　　　津橋(しんきょう)の残月 暁に沈々　

風露淒清禁署深　　　　風露 淒(せい)清(せい) 禁(きん)署(しょ)に深し

城柳宮槐謾搖落　　　　城柳 宮槐 謾(まん)に揺落す

悲愁不到貴人心　　　　悲愁は到らず 貴人の心

 

【語釈】

○早…朝早く。○王留守僕射…王起、当時、僕射で東都留守であった。○津橋…洛陽の洛水にかかる、天津橋ともいう。○沈沈…静まりひっそりとしたさま。○淒清…ひっそりと静まりかえっているさま。○禁署…宮中の官庁。城柳…城内の柳。○宮槐…宮廷のエンジュ。謾…むやみやたらに。○搖落…秋になり葉が落ちる。　

（参考文献）　『和漢名詩選類評釈』『新釈漢文大系　白氏文集　十二上』

 

 

★    在巴南望郡南山呈樂天　巴南に在りて郡南の山を望みて楽天に呈す　　唐　　白行簡

 

臨江一嶂白雲間　　　　臨江 一嶂(いっしょう) 白雲の間

紅綠層層錦繡班　　　　紅緑 層々 錦繡(きんしゅう)班(まだら)なり

不作巴南天外意　　　　作(な)さず　巴南 天外の意

何殊昭應望驪山　　　　何ぞ 殊(こと)ならん 昭応 驪山(りざん)を望むに

 

【語釈】　

○巴南…蜀の地。○樂天…白居易。○臨江…川に臨む。○錦繡…錦ぬいとりのある絹。○昭應…明らかに答える。○驪山…陝西省臨潼県にある山。麓に華清宮があった。

 

★    和孫明府懷舊山　　　　孫(そん)明府(めいふ)が旧山を懐うに和す　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

五柳先生本在山　　　　五柳先生 本 山に在り

偶然爲客落人間　　　　偶然 客(かく)と為りて 人間(じんかん)に落つ

秋來見月多歸思　　　　秋来 月を見て 帰(かえ)思(し)多し

自起開籠放白鷴　　　　自ら起きて 籠を開き 白鷴(はくかん)を放つ

 

【語釈】

○孫明府…未詳、明府は県令の尊称。○五柳先生…陶淵明、ここでは孫明府。○爲客…客は旅人。○人間…俗世間。○秋來…秋になる。○歸思…本いた山に帰りたいという思い。○白鷴…キジ科の鳥。

（参考文献）　『三体詩』　

 

 

★    寄揚州韓綽判官　　　　揚州の韓綽(かんとう)判官(はんがん)に寄す　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

青山隱隱水迢迢　　　　青山 隠々(いんいん) 水迢々(ちょうちょう)

秋盡江南草木凋　　　　秋尽きて 江南 草木凋(しぼ)む

二十四橋明月夜　　　　二十四橋 明月の夜

玉人何處教吹簫　　　　玉人 何れの処にか 吹簫(すいしょう)を教う

 

【語釈】

青山…青く見える山。隠隠…かすんではっきりしないさま。迢迢…はるかに遠くまで続いている様子。草木凋…草木が枯れる。二十四橋…揚州城の内外の水路にかかった虹橋。玉人…貴公子、韓綽を指す。吹簫…簫の笛を吹く。

（参考文献）　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

★    懷呉中馮秀才　　　　　呉中の馮(ば)秀才(しゅうさい)を懐う　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

長洲苑外草蕭蕭　　　　長洲(ちょうしゅう)苑外(えんがい) 草蕭々(しょうしょう)

却算遊程歲月遙　　　　却って 遊程を算うれば 歳月遥(はるか)なり

唯有別時今不忘　　　　唯だ 別時の 今忘れざる有り

暮煙秋雨過楓橋　　　　暮煙 秋雨 楓橋を過ぐ

 

【語釈】

○呉中…江蘇省呉県（蘇州市）。○馮秀才…馮という姓の科挙試験合格者。○長洲苑…古の苑の名、春秋時代の呉王・闔閭が遊猟した処。○蕭蕭…ものさびしいさま。○却…かえって。○遊程…旅路の行程。○唯有…ただ～だけがある。○別時…別れたとき。○暮煙…夕暮れに立つもや。楓橋…江蘇省蘇州市の郊外にある橋の名。

参考文献　『杜樊川絶句詳解』

 

 

★    別王十後遣京使累路附書　　　           　　                 唐　　杜　牧

王十に別れて後 京に遣(や)る使の累路に 書を附す

 

重關曉度宿雲寒　　　　重関(ちょうかん) 暁に度(わた)りて 宿雲寒し

羸馬緣知步步難　　　　羸(るい)馬(ば) 縁(よ)りて知る 歩々の難

此信的應中路見　　　　此の信 的(あきら)かに 応(まさ)に 中路に見るべし

亂山何處拆書看　　　　乱山 何れの処か 書を拆(ひら)きて看ん　

 

【語釈】

○王十…不祥。○重關…重なった門。○累路…重なった路。○宿雲…昨夜からの雲。○羸馬…痩せた馬。○此信…この手紙。○應…「まさに～すべし」と読み、この場合推量を示す。

参考文献　『杜樊川絶句詳解』

★    寄桐江隱者            桐(とう)江(こう)の隱者に寄す                      唐　　杜　牧

 

潮去潮來洲渚春　　　　潮去り 潮来たる 洲(しゅう)渚(ちょ)の春

山花如繡草如茵　　　　山花 繡(しゅう)の如く 草 茵(きん)の如し

嚴陵臺下桐江水　　　　厳(げん)陵(りょう)台下(だいか) 桐江の水

解釣鱸魚有幾人　　　　鱸魚(ろぎょ)を釣るを解するは 幾人か有る

 

【語釈】

○桐江…浙江省杭州市桐廬県。○洲渚…中洲。○繡…刺繍をした布。○茵…しとね。○嚴陵臺…後漢の嚴陵（隠者で釣りをして暮らし、光武帝の招きに応じなかった）が釣りをしていたところ。ここでは、隠者を嚴陵になぞらえる。

参考文献　『杜樊川絶句詳解』

 

 

 

★    宿駱氏亭寄懷崔雍衮　　駱(らく)氏(し)の亭に宿し 崔雍衮(さいようほう)に寄(き)懐(かい)す　　　　  唐　　李商隱

 

竹塢無塵水檻清　　　　竹塢(ちくお) 塵無くして 水(すい)檻(かん)清し

相思迢遞隔重城　　　　相思う 迢逓(ちょうてい) 重城(ちょうじょう)を隔つを

秋陰不散霜飛晚　　　　秋陰 散ぜず 霜飛晩(おそ)し

留得枯荷聽雨聲　　　　枯(こ)荷(か)を留め得て 雨声を聴く

 

【語釈】

○駱氏…駱山人、詳細不祥。○崔雍衮…不祥。○竹塢…竹の茂っている堤。○水檻…水に臨んでいる闌干。○遞隔…はるか。遠いさま。○秋陰…秋の曇り、秋の冷ややかさ。○枯荷…枯れた蓮の葉。

 

★    夜雨寄北　　　　　　　夜雨北に寄す　　　　　　　　　　　　  唐　　李商隱

 

君問歸期未有期　　　　君 帰期を問えども 未だ期有らず

巴山夜雨漲秋池　　　　巴山の夜雨 秋池に漲る

何當共剪西窗燭　　　　何(いつ)か 当(まさ)に 共に 西窓の燭を剪(き)りて

却話巴山夜雨時　　　　却って 巴山(はざん) 夜雨を話す時なるべき

 

【語釈】

○北…妻。○歸期…家に帰る時。○巴山…陝西省西郷県の南西にある山、寂しい所を指す場合が多い。○西窗…西の窓、女性の部屋の窓。○「卻」…振り返る。

（参考文献）　　『漢詩鑑賞辞典』　『唐詩選』　　

 

 

★    寄令狐郎中　　　　　　令狐郎中(れいころうちゅう)に寄す　　　　　　　　　　　　  唐　　李商隱

 

嵩雲秦樹久離居　　　　嵩(すう)雲(うん)秦樹(しんじゅ) 久しく離居す

雙鯉迢迢一紙書　　　　双鯉(そうり) 迢々(ちょうちょう) たり 一紙の書

休問梁園舊賓客　　　　問うを休(や)めよ 梁園　旧賓(きゅうひん)の客(かく)

茂陵秋雨病相如　　　　茂陵の秋雨 病相如(びょうそうじょ)

【語釈】

○令狐郎中…右司郎中（尚書省の役人を右司の長官）である令狐綯（令狐楚の子）。○嵩雲…五岳の一つ崇山（河南省登封県の南）にかかる雲。○秦樹…陝西省の樹木。○雙鯉…二匹の鯉、雁と共に手紙をもたらす物とされている（『文選』巻二十七）。○迢迢…遙かに遠いさま。○一紙書…令狐郎中からの手紙。○休問梁園舊賓客…梁園は、前漢の景帝の弟の凌の孝王の庭園で司馬相如を始めとする文人たちを賓客として招いた、自分を司馬相如をたとえ、令狐楚を孝王にたとえた物。○茂陵…漢の武帝の陵墓、司馬相如が晩年病臥してすごした所。○病相如…病気の司馬相如にも似た自分。

（参考文献）　『唐詩選』『唐詩三百首』

　

★    寄雲臺觀田秀才　　　　雲(うん)台(だい)観(かん)の田(でん)秀才に寄す　　　　　　　　唐　　馬　戴

 

雲壓松枝拂石窗　　　　雲松 枝を圧して 石窓を払う

幽人獨坐鶴成雙　　　　幽人 独坐し 鶴 双(そう)を成す

晚來漱齒敲冰渚　　　　晩来 歯を漱ぎ 氷を敲く渚

閑讀仙書倚翠幢　　　　閑(しずか)に 仙書を読み 翠幢(すいどう)に倚る

 

【語釈】○雲臺觀…陝西省華山市雲台峰にある道觀。四川省綿陽市の雲台觀。○田秀才…不祥。秀才は科挙の地方試験合格者。○幽人…隠者。○晩来…夕方になってから。○翠幢…緑色の円柱（仏教では経文を刻みこんだもの）。

 

 

★    還淮卻寄睢陽　　　　　淮(わい)に還って却(ま)た睢陽(きよう)に寄す　　　　　  唐　　孟　遲

 

梁王池苑已蒼然　　　　梁(りょうおう)王(おう)の池苑 已に蒼然

滿樹斜陽極浦煙　　　　満樹の斜陽 極浦の煙

盡日回頭看不見　　　　尽日(じんじつ) 頭を回(めぐ)して 看れども見えず　

兩行愁淚上南船　　　　両行(りょうこう)の愁涙 南船に上る　

 

【語釈】

○淮…淮水、安徽省と江蘇省を流れる川。○睢陽…河南省商丘市。○梁王…魏（梁）の君主。○池苑…池と花木のある庭園。○蒼然…古びた家の形容。○極浦…遙かに遠い砂浜。○盡日…一日中。

 

 

★    寄友人　　　　　　　　友人に寄す　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李羣玉

 

野水晴山雪後時　　　　野水 晴山 雪後の時

獨行邨路更相思　　　　村路 独行して 更に相い思う

無因一向溪頭醉　　　　一に因(よ)る無くして 渓頭に向(お)いて酔う

處處寒梅映酒旗　　　　処々の寒梅 酒旗に映ず

 

【語釈】

○相思…相手のことを思う。「相」は動作が相手に及ぶことを示す。○溪頭…渓のほとり。○酒旗…酒屋の目印の旗。青色。

 

 

寄維揚故人　　　　維揚(いよう)の故人に寄す　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　喬

 

離別河邊綰柳條　　　　離別 河辺に 柳条を綰(むす)ぶ

千山萬水玉人遙　　　　千山 万水 玉人遥なり

月明記得相尋處　　　　月明 記(き)得(とく)す 相尋ねし処

城鎖東風十五橋　　　　城は鎖す 東風 十五橋

 

【語釈】

○維揚…揚州。○故人…古くからの知り合い。○綰柳條…柳の枝を輪にして首にかける。「輪」が「還」に通ず。○玉人…故人のこと。○十五橋…揚州にかかる多くの橋、普通は二十四橋という。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    寄鄰莊道侶　　　　　　隣(りん)荘(そう)の道侶(どうりょ)に寄す　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

聞說經旬不啓關　　　　聞説(きくなら)く 経(けい)旬(じゅん) 関を啓(ひら)かずと

藥窓誰伴醉開顏　　　　薬窓 誰に伴いて 酔いて顔を開かん

夜來雪壓村前竹　　　　夜来 雪は圧す 村前の竹

剰見溪南幾尺山　　　　剰(あま)し見る 渓南 幾尺の山

 

【語釈】

○道侶…共に修行する者。○聞說…聞くところによれば。○經旬…十日あまり。○啓關…門を開く。○薬窓…書斎の窓。○夜来…夜になってから。○剰…おまけに。更に。

 

 

★    寄江南逐客 　　　　　　江南の逐客に寄す　　　　　　　　　　 唐　　韋　莊

 

三年音信阻湘潭　　　　三年の音信 湘潭(しょうたん)を阻む　　

花下相思酒半酣　　　　花下 相思いて 酒半ば酣(たけなわ)なり

記得竹齋風雨夜　　　　記(き)得(とく)す 竹斎(ちくさい)　風雨の夜

對牀孤枕話江南　　　　床に対して孤枕 江南を話せしを

 

【語釈】

○江南…長江中下流域の南側の地。○逐客…地方に左遷された役人。○湘潭…湘潭湖南省湘潭市湘潭県。○相思…相手のことを思う。「相」は動作が相手に及ぶことを示す。○記得…はっきり憶える。○竹斎…外に竹を植えた書斎。○孤枕…独り寝。○江南…長江中下流の南岸地方。

 

★    山中寄友人　　　　　　山中 友人に寄す　　　　　　　　　　  唐　　李九齡

 

亂雲堆裏結茅廬　　　　乱雲堆(らんうんつい)裏(り) 茅廬(ぼうろ)を結ぶ

已與紅塵跡漸疎　　　　已に紅塵と 跡と 漸(ようや)く疎(まばら)なり

莫問野人生計事　　　　問うこと莫かれ 野人 生計の事

窗前流水枕前書　　　　窓前の流水 枕前の書

 

【語釈】

○茅廬…茅吹きの粗末ないおり。○紅塵…車馬の起こす塵埃。○野人…人里離れて住む隠者。

 

 

★    贈野老　　　　　　　　野老に贈る　　　　　　　　　　　　 　 唐　　陳　陶

 

何年種芝白雲裏　　　　何れの年か 芝を種(う)う 白雲の裏(うち)

人傳先生老萊子　　　　人は伝う 先生 老萊子(ろうれいし)と

消磨世上名利心　　　　消磨す 世上 名利の心

澹若巖間一流水　　　　澹(あわ)きこと 巌間(がんかん)の一流水の若し

 

【語釈】

○野老…村野の老人。○老萊子…春秋時代楚の賢人。世を避けて隠棲し、楚王の招きにも応じなかった。○消磨…すり切れて無くなる。

 

　　

 

★    寄人　　　　　　　　　人に寄す　　　　　　　　　　　　唐　　張　泌

 

別夢依依到謝家　　　　別夢 依々(いい)として 謝家に到る

小廊迴合曲闌斜　　　　小廊 迴合し 曲闌(きょくらん)斜(ななめ)めなり

多情只有春庭月　　　　多情は 只だ 春庭の月に有り

猶爲離人照落花　　　　猶お 離人の為に 落花を照らす　

 

【語釈】

○寄…詩を手紙で送る。○別夢…別れた後相手のことを思う夢。○依依…相手のことを思うさま。○謝家…才女の家、（恋人である）女性側の家。○小廊…小振りな渡り廊下。○小振りなまわり廊下。○建物（…正房）の両外側の廊下。○迴合…周囲をめぐる。○曲闌…まがった欄干。○多情…情愛が深く感じやすいこと。○只有…ただ…だけがある。ただ…よりほかはない。○離人…別れていった人、ここでは作者自身。

（参考文献）　『唐詩三百首』　

 

　　

★    答韋丹　　　　　　　韋(い)丹(たん)に答う　　　　　　　　　　　　　　 唐　　僧靈澈

 

年老心閑無外事　　　　年老いて 心閑かにして 外事(がいじ)無し

麻衣草座亦容身　　　　麻衣 草座 亦た身を容(い)る

相逢盡道休官去　　　　相逢いて 尽(ことごと)く道(い)う 官を休(や)めて去らんと

林下何曾見一人　　　　林下 何ぞ曽(かつ)て 一人(いちにん)を見ん

 

○東林寺…江西省廬山にある名刹。○韋丹…韋丹、字は文明。○外事…外部に関すること。ここでは俗世間のできごとをいう。○麻衣草坐…三衣一鉢、樹下石上などと同じように仏道の修行者をいう。○何曾…何は反語。未だ曾て一人も見たことがないの意。

 

★    馬當呼鴉不至偶成呈同行諸官　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　余　靖

馬当 鴉を呼びて至らず 偶(たまた)ま成る 同行の諸官に呈す 

 

昔年曾泛馬當灣　　　　昔年 曽て泛(うか)ぶ 馬当湾　

團飯喚鴉篙楫間　　　　団飯 鴉を喚ぶ 篙楫(こうしゅう)の間

今日江頭飛不下　　　　今日 江頭 飛びて下らず

應知人世足機關　　　　応に人世を知り 機関 足(た)るべし

 

【語釈】

○馬當…江西省彭澤県の東北にある山名。○馬當灣…馬当山の近くの河の湾。○團飯…おむすび。○篙楫…棹や櫂のような舟を進める道具。○江頭…川のほとり。○應…まさに～すべし、と読み、きっと～だろう、きっと～に違いない、の意。○機關…計略を繞らす心底。

 

 

★    闕下答傅逸人　　　　　闕下(けつか) 伝逸人(でんいつじん)に答う　　　　　　　　　  宋　　張　詠

 

蕭蕭疎葦映門墙　　　　蕭々(しょうしょう)たる疎(そ)葦(い) 門墙(もんしょう)に映ず

見説新秋膾味長　　　　見(みる)説(なら)く 新秋 膾味(かいまい)の長きを

何事輕抛來帝里　　　　何事ぞ 軽く抛(うちなげ)て 帝里に来(きた)り

至今魂夢遶寒塘　　　　今に至りて 魂夢 寒塘を遶らんとは

 

【語釈】

○闕下…宮廷の門の下。○傅逸人…傅霖、青州（山東省）の人、隠棲して仕官しなかった。○蕭蕭…物寂しいさまや音声の形容。○疎葦…まばらなヨシ。○門墙…門の垣。○見説…見たと言うことには。○膾味…なますの味。○帝里…帝都。○魂夢…夢。○寒塘…さむざむとした池塘。

 

★    呈友人 　　　　　　　友人に呈す　　　　　　　　　　　　　  宋　　高　言

 

昨夜陰風透膽寒　　　　昨夜 陰風 胆に透(とお)りて寒し

地爐無火酒瓶乾　　　　地炉 火無くして 酒(しゅ)瓶(へい)乾く

男兒慷慨平生事　　　　男児 慷慨(こうがい) 平生(へいぜい)の事

時復挑燈把劍看　　　　時に 復び 灯を挑(かか)げ剣を把(と)りて看る

 

【語釈】

○陰風…朔風、寒い風。○地爐…地下に設けた暖炉。○慷慨…意氣が盛んで感激しやすいこと。○平生…常日頃。○挑…火を掻き起こす。

 

 

★    病酒呈晉州李八丈　　　酒に病んで晋州(しんしゅう)の李八丈に呈す　　　　　  宋　　司馬光

 

身如五嶺炎蒸裏　　　　身は 五(ご)嶺(れい)の如し 炎(えん)蒸(じょう)の裏

心似三江高浪中　　　　心は 三江に似たり 高浪の中(うち)

誰道醉郷風土好　　　　誰か道(い)う 酔郷 風土好しと

舟車常願不相通　　　　舟車 常に願うも 相通(あいつう)ぜず　

 

【語釈】

○晉州…山西省臨汾市。○李八丈…不祥。○五嶺…広西省桂林市五嶺。○炎蒸…ひどく蒸し暑いさま。○三江…多くの川、地名として不特定。○醉郷…酔った気分を別の天地に比して言う。○舟車…舟に乗って旅行すること。　

 

 

★    與北山道人 　　　　　　北山の道人に与(あた)う　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

蒔果疏泉带淺山　　　　果を蒔(ま)き 泉を疏(とお)し 浅山を带(お)ぶ

柴門雖設要常關　　　　柴門(さいもん) 設くと雖(いえど)も 常に関することを要す

別開小徑連松路　　　　別に小径を開き 松路に連なる

祗與鄰僧約往還　　　　祗(つつし)みて 隣僧と 往還を約せん　

 

【語釈】

○北山…鍾山、南京の東北にある山。○道人…道教の師。○疏…通す。○带…取り囲む。○柴門…柴でできた粗末な門。○關…門を閉ざす。

　　　

 

★    贈王寂　　　　　　　　王(おう)寂(せき)に贈る　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

與君暫別不須嗟　　　　君と暫(しばら)らく別る 嗟(なげ)くを須(もち)いず

俯仰歸來鬢未華　　　　俯仰(ふぎょう)のうちに 帰来せん 鬢(びん) 未だ華(か)ならざるに

記取江南煙雨裏　　　　記(き)取(しゅ)す 江南 煙雨の裏(うち)

青山斷處是君家　　　　青山 断ゆる処 是れ君が家

 

【語釈】

○王寂…山西省汾陽市の人、真宗の時代の朝人。○俯仰…仰ぎ見る。○華…白髪。○記取…しっかり憶える。○江南…長江中下流域の南岸地方。○煙雨…こぬか雨。

 

 

★    彭城遇子由　　　　　　彭城にて子由に遇う　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

別期漸近不堪聞　　　　別期 漸く近し 聞くに堪えず

風雨蕭蕭已斷魂　　　　風雨 蕭々として 已に魂(こん)を断つ

猶勝相逢不相識　　　　猶お勝る 相逢いて 相識らず

形容變盡語音存　　　　形容 変じ尽くるも 語音 存するに

 

【語釈】

○彭城…江蘇省徐州市。○子由…弟の蘇轍。○別期…別れるとき。○漸…段々と。。○蕭蕭…物寂しい様子や物音などの形容。○転結句…後漢末の党錮の禁により別れ別れになった夏馥と夏静の兄弟が再びあったときに、お互いの顔も分からず、言葉だけが通じたという故事。　　

 

★    贈張繼愿　　　　　　　　 張継愿(ちょうけいげん)に贈る　　　　　　　　　　　 宋　　蘇　軾

 

受降城下紫髯郎　　　　受降(じゅこう)城下(じょうか)の紫髯郎(しぜんろう)

戲馬臺南舊戰場　　　　戯(ぎ)馬(ば)台(だい)南(なん)の旧戦場

恨君不取契丹首　　　　恨む 君が契丹(きったん)の首を取らず

金甲牙旗歸故郷　　　　金甲 牙旗(がき) 故郷に帰るを　がき

 

【語釈】

○受降城…敵人の投降者を受け入れる為の城、內蒙古の烏拉特旗の北にある。○紫髯郎…紫色の鬚をした男。○戲馬臺…河北省臨漳県の西にあった台。○金甲…金色のよろい。○牙旗…象牙の飾りのある旗。大将旗。

 

★    寄四明神智師　　　　　四明の神智師に寄す　　　  　　　　　　　宋　　沈　遼

 

甬水樓頭看盡山　　　　甬(よう)水楼頭(すいろうとう) 尽して山を看る

南城寺裏扣禪關　　　　南城寺(なんじょうじ)裏(り) 禅関を扣く

老師多事猶相記　　　　老師 多事 猶お相(あい)記(き)す

千里馳書慰病孱　　　　千里 書を馳せて 病孱(びょうせん)を慰む

 

【語釈】

○四明…浙江省宁波市西南にある山。○神智…才知が卓越していること。○甬水樓…浙江省宁波市甬江にある楼。○南城寺…不祥。○禪關…禅門。○相記…覚えている。相は動作が相手に及ぶこと。○病孱…病弱の人。

 

 

★    馬上口占呈立之　　　　馬上の口(こう)占(せん) 立之(りつし)に呈す　　　          宋　　陳師道

 

廉纖小雨濕黄昏　　　　廉繊(れんせん)たる 小雨 黄昏(こうこん)を湿(うるお)す　

十里塵泥不受辛　　　　十里の塵(じん)泥(でい) 受辛(じゅしん)せず

轉就鄰家借油蓋　　　　転じて 隣家に就(つ)き 油(ゆう)蓋(がい)を借(か)る

始知公是最閑人　　　　始めて知る 公は是れ 最も閑人(かんじん)なるを

 

【語釈】

○口占…紙に書かず即興で作った詩。○立之…不祥。○廉纖…微雨の形容。○黄昏…たそがれ。○受辛…つらいことを受け入れる。○油蓋…油を引いた傘。○公…立之のこと。○閑人…清閑で事のない人。

 

★    謝陳昌國惠酒　　　　陳(ちん)昌(しょう)国(こく)が酒を恵まるるに謝す　　　　　　  宋　　郭祥正

 

欲瀉瓊漿洗我憂　　　瓊漿(けいしょう)を瀉(そそ)ぎ 我が憂いを洗わんと欲す　

玉壺分送不知休　　　玉壺分ち送りて 休(や)むを知らず

醉來一覺還郷夢　　　酔来りて 一たび覚(さ)む 郷に還る夢

看盡江南二十州　　　看尽す 江南二十州

 

【語釈】

○陳昌國…不祥。○瓊漿…仙人の飲み物、転じて美酒。○玉壺…酒壺の美称。○江南…長江中下流の南岸の地域。

 

 

★    月下懷廣勝華師 　　　　月下に広(こう)勝(しょう)華師(かし)を懐う  　　　　　　　宋　　郭祥正

 

下方遙憶上方僧　　　　下方 遥かに憶う 上方の僧

素月青林隔幾層　　　　素月 青林 幾層を隔つ

鐘磬聲沉香篆熄　　　　鐘磬 声は沈みて 香篆(こうてん)む

只應詩思冷如冰　　　　只だ応(まさ)に 詩思(しし) 冷なること氷の如くなるべし

 

○下方…人間の下世界。○上方…上界。寺院。○素月…明月。○磬…への字型をした打楽器。○香篆…香を焚いた煙。○應…「まさに～べし」、と読み、「たぶん～だろう、きっと～に違いない」の意。○詩思…詩の心。　

 

 

★    謝人恵茶　　　　　　　人の茶を恵むに謝す　　　　　　　　　  宋　　韓　駒

 

白髪前朝舊史官　　　　白髪の前朝の旧史官(きゅうしかん)

風爐煮茗暮江寒　　　　風炉 茗(めい)を煮て 暮江寒し

蒼龍不復從天下　　　　蒼(そう)竜(りゅう) 復(ま)た 天従(よ)り下らず

拭淚看君小鳯團　　　　涙を拭いて 君を看る 小鳯団(しょうおうだん)

 

【語釈】

○前朝…前の時代の朝廷。○史官…典籍を司る官。○風爐…小型の炉、酒や茶を煮るのに使う。○蒼龍…蒼い龍。○小鳯團…茶葉の精品。

 

 

★    行至華陰呈舊同舍　　　行きて華(か)陰(いん)に至り　旧(きゅう)同舎(どうしゃ)に呈す　　　　　  宋　　韓　駒

 

落日同騎款段游　　　　落日 同(とも)に 款段(かんだん)に騎(の)りて游ぶ

倦依松石弄清流　　　　倦(う)みて 松石に依(よ)り 清流を弄(ろう)す

蓬萊漢殿春分手　　　　蓬萊漢(ほうらいかん)殿(でん) 春 手を分ち

一笑相逢太華秋　　　　一笑し 相逢う 太華の秋

 

【語釈】

○華陰…陝西省渭南市華県。○同舍…同宿者。同僚。○款段…馬。○蓬萊漢殿…不祥。○太華…華山。五岳の一つ。陝西省華陰にある。

　　　

 

★    偶書二絶呈館中舊同舍　  偶(たまたま)二絶を書し館中の旧同舎(きゅうどうしゃ)に呈す　　　　宋　　韓　駒

 

去年看曝石渠書　　　　去年 石渠の書を曝(ばく)すを看る　

內酒均頒白玉腴　　　　內酒 均しく頒(わか)つ 白玉腴(はくぎょくそう)

今日醉登延閣望　　　　今日酔いて 延閣(えんかく)に登りて望む　

幾人回首憶窮途　　　　幾人か 首(こうべ)を回らして 窮途を憶う

 

【語釈】

○同舍…同宿者。同僚。○石渠…皇室の蔵書を収める宮殿。○內酒…宮廷で作った酒。○白玉腴…酒の名。○延閣…帝王の蔵書の閣。○窮途…行き詰まりの道。困窮の道。　　　

 

 

★    偶書二絶呈館中舊同舍　  偶(たまたま)二絶を書し館中の旧同舎(きゅうどうしゃ)に呈す　　　　宋　　韓　駒

 

御本曾看錦帕舒　　　　御本 曽て看る錦帕の舒(の)ぶるを

醉驚飛閣上凌虛　　　　酔いて驚飛し 閣上 虚を凌ぐ

而今卧病衡門底　　　　而(じ)今(こん)　病に卧す　衡門(こうもん)の底　

自晒茆簷幾卷書　　　　自(みずか)ら晒(さら)す　茆簷(ぼうえん)　幾巻の書　

 

【語釈】

○同舍…同宿者。同僚。○御本…禁中所蔵の本。○錦帕…銀の布。○舒…展開する。○而今…現在。○衡門…横木を渡しただけの粗末な門。○茆簷…カヤの軒。

　　　

 

★    簡甯子儀兩絶　　　　　甯子(ねいし)儀(ぎ)に簡す両絶　　　　　　　　　　宋　　呂本中

 

只恐老去被花悩　　　　只だ恐る 老去りて 花に悩ませらるるを

更欲忘憂須酒澆　　　　更に憂いを忘れんと欲して 酒を須(もち)いて澆(そそ)ぐ

何似山堂病居士　　　　何に似たるや 山堂の病居士

閉門高枕過春朝　　　　門を閉じ 枕を高くして 春朝を過ぐ

 

【語釈】

○甯子儀…不祥。○山堂…山中の隠者の住まい。○居士…隠者。

 

 

★    和何季崇簽判　　　　何季崇簽判(かきすうせんはん)に和す　　　　　　　　　宋　　曹　勛

 

羈思登臨已怯秋　　　　羈思(きし) 登臨(とうりん) 已に秋に怯(おび)ゆ

紫萸黄菊更添愁　　　　紫萸(しゆ) 黄菊 更に愁いを添う

海光不動暮山紫　　　　海光動かず 暮山紫なり

人在天涯空倚樓　　　　人は天涯に在りて 空しく楼に倚(よ)る

 

【語釈】　

○何季崇簽判…不祥。○羈思…羈旅の思。○登臨…高いところに登って下方を眺める。重陽の節句の習わし。○紫萸…茱萸。重陽の節句に登臨したとき、頭に挿す。○黄菊…重陽の節句に登臨したとき、菊酒を飲む。○天涯…空のはて。

 

 

★    和顔持約　　　　　　　顔持約(がんじやく)に和す　　　　　　　　　　　　　　陳與義

 

半篙寒碧秋垂釣　　　　半篙(はんこう)の寒碧 秋 釣(ちょう)を垂る　

一笛西風夜倚樓　　　　一笛の西風 夜 楼に倚(よ)る

多少巫山舊家事　　　　多少の 巫山 旧家の事

老來分付水東流　　　　老来 分付す 水の東流するに

 

【語釈】

○顔持約…顏博文。德州（山東省陵県）の人。徽宗政和八年（一一一八）進士。欽宗靖康二年（一一二七）秘書省著作郎となる。○半篙…釣り竿半分の長さ。○西風…秋風。○巫山…三峽の巫峡にある山。○老來…老年になってから。○分付…分け与える。

 

 

★    兵火之後家藏墳籍蕩然寄居江村欲借書諸公先寄此詩　　　　　　　宋　　王庭珪

兵火の後 家蔵の墳(ふん)籍(せき) 蕩(とう)然(ぜん)たり　江村に寄居(ききょ)し 諸公に書を借りんと欲して 先に此の詩を寄す

 

卜築江村翠嶺坳　　　　卜築(ぼくちく)す 江村 翠(すい)嶺(れい)の坳(よう)

喜君書室近衡茅　　　　喜ぶ 君が書室 衡(こう)茅(ぼう)に近きを

牙籖插架幾千冊　　　　牙籖(がせん) 架に挿(さ)す 幾千冊

準擬從頭借一抄　　　　準(じゅん)擬(ぎ)す 従頭(じゅうとう) 借りて一抄せん

 

【語釈】

○墳籍…古文書。○蕩然…あとかたもないさま。○卜築…占って家を建てる。○翠嶺…緑の山嶺。○坳…くぼみ。○衡茅…粗末な家。○牙籖…象牙で作った書籍の見分けの札。○準擬…なぞらえ擬すること。○從頭…最初に。○一抄…まず最初に一読する。　

　

★    懷劉溫其　　　　　　　劉(りゅう)温(おん)其(き)を懐う　　　　　　　　　　　   宋　　劉子翬

 

結茅同隠水雲間　　　　茅(ちがや)を結んで 同じく隠る 水雲の間

何日柴車不往還　　　　何日 柴車 往還せず

憶得松林長嘯罷　　　　憶い得たり 松林 長嘯(ちょしょう)罷(や)むを

歸時明月遍秋山　　　　帰時 明月 秋山に遍(あまね)からん

 

【語釈】

○劉溫其…不祥。○結茅…粗末な家を建てる。○柴車…装飾のない簡素な車。○長嘯…長く嘯く。

 

★    寄懷密菴　　　　　　　　密菴(みつあん)に寄(き)懐(かい)す　　　　　　　　　　　　宋　　劉子翬

  

曾訪高人上翠峯　　　　曽て 高人を訪ね 翠(すい)峰(ほう)に上る

至今清興逐松風　　　　今に至りて 清(せい)興(こう) 松風を逐う

籃輿夢想行山處　　　　籃(らん)輿(よ) 夢想す 山を行く処

白葛花開細雨中　　　　白(はく)葛(かつ) 花は開く 細雨の中(うち)　

 

【語釈】

○密菴…不祥。○高人…志の高尚な人。○清興…清らかな楽しみ。○籃輿…こし。○白葛…白いかずら。○細雨…こぬか雨。

 

 

★    觀林長仁書卷戲題問答二首　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　朱　熹

　　　　　　　　　　　林(りん)長仁(ちょうじん)が書巻を観て 戯(たわむれ)に問答を題す二首

 

猿去山空鶴亦飛　　　　猿去り 山空しくして 鶴 亦た飛ぶ

柴門空掩釣魚磯　　　　柴門 空しく掩う 釣魚(ちょうぎょ)の磯

門前樹葉都黄了　　　　門前の樹葉 都(すべ)て黄(こう)了(りょう)す

何事幽人久不歸　　　　何事ぞ 幽人 久しく帰らざるは

 

【語釈】

○林長仁…不祥。○柴門…柴で作った粗末な門。○黄了…すっかり黄色くなる。○幽人…幽隠の人。隠者。

 

　　　

★    觀林長仁書卷戲題問答二首　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　朱　熹

　　　　　　　　　　　林(りん)長仁(ちょうじん)が書巻を観て 戯(たわむれ)に問答を題す二首

 

爲愛雲泉百尺飛　　　　雲泉の 百尺を飛ぶを 愛するが為に

故將茅屋傍苔磯　　　　故(ことさら)に 茅屋(ぼうおく)を将(も)って 苔(たい)磯(き)に傍う

幾年清夢黄塵裏　　　　幾年の清夢 黄塵の裏(うち)

此日秋風一棹歸　　　　此の日 秋風 一(いっ)棹(とう)帰る

 

【語釈】

○林長仁…不祥。○雲泉…瀑布。○茅屋…茅葺きの粗末な家。○苔磯…苔の生えた磯。○一棹…一つの小舟。

 

★    祠事齋居聽雨呈劉子晉　　　祠事(しじ)斎(さい)居(きょ) 雨を聴き劉子(りゅうし)晋(しん)に呈す　　　  宋　　朱　熹

 

刀筆常時篋笥盈　　　　刀筆 常時 篋笥(きょうす)に盈(み)つ

齋祠今喜骨毛清　　　　斎(さい)祠(し) 今 喜ぶこと 骨(こつ)毛(もう)に清きを

與君此日俱無事　　　　君と 此の日 俱(とも)に無事

共愛寒階滴雨聲　　　　共に愛す 寒階 滴(てき)雨(う)の声

 

【語釈】

○祠事齋居…祭礼に際して斎戒を行う為の居所。○劉子晉…不祥。○刀筆…筆。○笥盈…竹製の物入れ。○齋祠…心を清めて祀る。

 

 

★    和子服老弟黄楊詩　　　子服(こふく)老(ろう)弟(てい)の黄楊(こうよう)詩(し)に和す　　　　　　　　　宋　　朱　熹

 

聞道黄楊山上頭　　　　聞道(きくなら)く 黄楊(こうよう)山上(さんじょう)の頭(ほとり)　

千峰環抱百泉幽　　　　千峰 環抱(かんぽう)して 百泉幽なり　

羨君柱杖年年去　　　　羨む 君が杖を柱(つ)いて 年々去り　

飽看人間萬頃秋　　　　飽くまで 人間(じんかん)に 万(ばん)頃(けい)の秋を看るを

 

【語釈】

○子服…丘膺。建寧建陽の人。朱熹の老友。○黄楊…つげの木。○黄楊山…広東省珠海市黃楊山。○環抱…取り巻く。○萬頃…非常に広いこと。

 

 

★    戲贈勝私老友　　　　　戯に勝(しょう)私(し)老友(ろうゆう)に贈る　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

槐花黄盡不關渠　　　　槐(かい)花(か) 黄尽(こうじん)して 渠に関せず

老向功名意自老　　　　老いて 功名に向(お)いて 意 自(おのずか)ら踈(そ)なり

乞得山田三百畝　　　　乞い得たり 山田 三百畝

青燈徹夜課農書　　　　青灯 夜を徹して 農書を課す

 

【語釈】

○勝私老友…不祥。老友は昔から友人。○黄盡…すっかり黄葉する。○乞得…求めて貰うことができた。○青灯…青い灯火。清貧な生活。

 

 

★    寄謝劉彦集菖蒲之貺　　劉彦集(りゅうげんしゅう)菖蒲之貺(たま)うを寄謝す　　　　　   宋　　朱　熹

 

君家蘭杜久萋萋　　　　君が家の蘭杜 久しく萋々(せいせい)

近養菖蒲綠未齊　　　　近く 菖蒲を養いて 緑 未だ斉(ととの)わず

乞與幽人伴岑寂　　　　幽人に乞与(きつよ)して岑(しん)寂(せき)に伴う

小窗風露日低迷　　　　小窓の風露 日に低迷

 

【語釈】

○寄謝…礼を伝える。○劉彦集…不祥。○蘭杜…香草の一種。○萋萋…草木が生い茂っているさま。○幽人…隠者。○乞與…与える。○岑寂…高く静かなところ。

 

 

★    道中憶胡季懷　　　　　　道中 胡季懷(こりかい)を憶う　　　　　　　　　  宋　　周必大

 

珍重臨分白玉巵　　　　　珍重 分つに臨む 白玉の巵(し)

醉中那暇說相思　　　　　酔中 那(な)んぞ暇(いとま)あらん 相思を説くに　

天寒道遠酒醒處　　　　　天寒く 道遠くして 酒醒むる処

始是憶君腸斷時　　　　　始めて是れ 君を憶う 腸断の時

 

【語釈】

○胡季懷…不祥。○白玉巵…白玉でできた杯。○腸断…ひどい悲しみ，愁い。

 

 

★    次韻揚子直　　　　　　揚子直に次韻す  　　　　　　　　　　　宋　　周必大

 

栽花種竹滿平園　　　　花を栽え 竹を種え 平園に満つ

人道安閒似樂天　　　　人道 安間 楽天に似たり

自笑鉛黄消永日　　　　自ら笑う 鉛黄 永日を消すを

何如蠻素樂華年　　　　 何ぞ如(しか)ん 蛮素(ばんそ) 華年を楽しむに　

 

【語釈】

○次韻…同じ韻字を同じ順序で用いて詩を作ること。○揚子直…不祥。○安間…心が落ち着いてゆったりしたさま。○楽天…白居易。○鉛黄…添削、校勘すること。○永日…長い日。○何如…どうして～に及ぼうか。反語。○蠻素…？○華年…青春の時。　

 

 

 

★    示七邑宰　　　　　　　七邑(しちゆう)宰(さい)に示す　　　　　　　　　　　　　 宋　　王十朋

 

九重天子愛民深　　　　九重の天子　民を愛すること深く

令尹宜懷撫隠心　　　　令尹(れいいん) 宜しく惻隠(そくいん)の心を懐(いだ)くべし

今日黄堂一盃酒　　　　今日　黄堂　一杯の酒

使君端爲庶民斟　　　　使君 端(まさ)に 庶民の為に斟(く)む

 

【語釈】

○邑宰…県令。○令尹…地方長官。○撫隠…哀れみ傷む。○黄堂…地方長官の居所。○使君…刺史。

 

 

★    和林子望　　　　　　　林子望に和す　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陳　藻

 

勸君莫要嘆無官　　　　君に勧む 要(かなら)ずしも 官の無きを嘆くこと莫かれ

幸有田園在故山　　　　幸に 田園の故山に在る有り

滿室清風滿林月　　　　満室 清風 満林の月

人生何事勝於閒　　　　人生 何事ぞ 閑(かん)よりも勝(まさ)らんや　

 

【語釈】

○林子望…不祥。○故山…故郷の山。

 

 

★    次韻樂先生呉中見寄　　楽(がく)先生(せんせい)が呉(ご)中(ちゅう)に寄せらるるに次韻す　　　  宋　　范成大

 

送春濛雨漲蘋灘　　　　春を送る濛(もう)雨(う) 蘋灘(ひんたん)に漲(みなぎ)る

荷葉田田柳絮闌　　　　荷葉 田(でん)々(でん) 柳絮の闌(らん)

想見垂虹三萬頃　　　　想い見る垂虹 三万頃

拍天湖水釣絲寒　　　　天を拍(う)つ湖水 釣糸(ちょうし)寒し

 

【語釈】

○樂先生…盛曠。武林（浙江省杭州市）の人。○濛雨…こぬか雨。○蘋灘…浮き草のある早瀬。○田田…蓮の葉が水に浮かんださま。連なるさま。

　　　　

 

★    求竹軒詩　　　法宝璉師(ほうほうれんし) 竹軒の詩を求む　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

南軒竹色映谿光　　　　南軒の竹色 谿光に映ず

不减吾州五月涼　　　　减ぜず 吾州 五月の涼

猶恨秋來鷗鷺少　　　　猶お恨む 秋 来りて 鴎(おう)鷺(ろ)の少(まれ)なるを

須君更爲築横塘　　　　須(すべから)く 君 更に 為に 横塘(おうとう)を築くべし

 

【語釈】

○法寶璉師…不祥。○竹軒…竹で作った家。○更爲…更に加えて。○須…「すべからく～すべし」と読み「当然～すべきである」の意。○横塘…水の隄。

 

 

★    寄題朱元晦武夷精舍　　朱元(しゅげん)晦(かい)の武(ぶ)夷(い)精舎(しょうじゃ)に寄題す　　　　　　  宋　　陸　游

 

先生結屋綠巖邊　　　　先生 屋を結ぶ 緑巌の辺(ほとり)

讀易懸知屢絕編　　　　易を読みて 懸に知り屢(しばし)ば編を絶つ

不用采芝驚世俗　　　　用いず 芝を采(と)りて 世俗を驚すを

恐人謗道是神僊　　　　恐らくは 人 謗(そし)りて 是れ神僊(しんせん)と道(い)わん

 

【語釈】

○朱元晦…朱熹。○武夷精舍…福建省南平市武夷精舍。朱熹が隠棲した所。○懸…かけ離れる。○絕編…古い書物を破る。○神僊…神仙世界の人。

 

　　　

★    寄題朱元晦武夷精舍　　朱元(しゅげん)晦(かい)の武(ぶ)夷(い)精舎(しょうじゃ)に寄題す　　　　　　  宋　　陸　游

 

身閑剩覺溪山好　　　　身 閑(かん)にして剰(はなは)だ覚ゆ 渓山の好きを

心靜尤知日月長　　　　心 静にして 尤(もっと)も知る 日月の長きを

天下蒼生未蘇息　　　　天下の蒼生 未だ蘇息(そそく)せず

憂公遂與世相忘　　　　憂う 公が 遂に世と相忘れんことを

 

【語釈】

○元晦…朱熹。○武夷精舍…福建省南平市武夷精舍。朱熹が隠棲した所。○剩…ほんとうに、非常に。○蒼生…人民。○蘇息…生き返ったような気持でほっと息をつくこと。

 

 

★    臨安旅邸答蘇虞叟　　　　臨安(りんあん)の旅邸にて蘇虞叟(そうぐそう)に答う　　　　　   宋　　姜　夔

 

垂楊風雨小樓寒　　　　垂楊 風雨 小楼寒し

宋玉秋詞不忍看　　　　宋玉の秋詞 看るに忍びず

萬里青山無處隠　　　　万里の青山 隠るる処無し

可憐投老客長安　　　　憐むべし 老いて投じ 長安に客(かく)となるを

 

【語釈】

○臨安…浙江省杭州市。○蘇虞叟…不祥。○宋玉…戦国時代の楚国の人。屈原の弟子といわれる。楚の襄王のとき大夫となる。○宋玉秋詞…「九弁五首」の冒頭の一節？。

 

 

★    寄張季思　　　　　　　張季思(ちょうきし)に寄す　　　　　　　　　　　　  宋　　翁　卷

 

荊呉中隔萬山遥　　　　荊(けい)呉(ご) 中ば 万山を隔ちて遥なり

那得相逢話寂寥　　　　那(な)んぞ得ん 相逢いて寂寥(せきりょう)を話(わ)するを

長憶梅花好時節　　　　長く憶う 梅花 好時の節

訪君船泊古楓橋　　　　君を訪ね 船を泊す 古楓橋

 

【語釈】

○張季思…不祥。○荊呉…長江中下流域。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○古楓橋…江蘇省蘇州市の楓橋。張継の「楓橋夜泊」で有名。

 

 

★    寄玉溪林逢吉　　　　　玉(ぎょく)渓(け)の林逢(りんほう)吉(きち)に寄す　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

心腹相知會面稀　　　　心腹 相知りて 会面(かいめん)稀なり

一春未有盍簪期　　　　一春 未だ有らず盍(がい)簪(しん)の期

西窗風雨愁眠夜　　　　西窓の風雨 愁眠の夜

夢到君家賦小詩　　　　君の家に到りて 小詩を賦すことを夢む

 

【語釈】

○玉溪…江西省上饒市玉溪。○…寓台州臨海（浙江省）の人。仕歷不詳。○會面…会見。○盍簪…会見。

 

　　　

★    到南昌呈宋愿父伯仲黄子魯諸丈　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　戴復古　

南昌に到りて宋愿(そうげん)父(ふ)・伯仲(はくちゅう)・黄子魯(こうころ)・諸丈(しょじょう)に呈す

 

一秋無便寄平安　　　　一秋 便(たより)の平安を寄する無く　

新鴈聲聲報早寒　　　　新鴈(しんがん) 声々(せいせい) 早寒を報ず

昨夜檢衣開故篋　　　　昨夜 衣を検じ 故篋(こきょう)を開き　

去年家信把來看　　　　去年の家信 把(と)り来りて看る

 

【語釈】

○南昌…江西省南昌市。○宋愿父…宋自逢、婺州金華（浙江省金華市）の人，寧宗嘉定四年進士。累官して楚州通判となる。○伯仲…兄弟。○黄子魯…黄師參、閩清（福建省）の人。嘉定十三年（一二二○）の進士，国子正となる。○丈…年長者への敬称。○故篋…なじみの箱。○家信…家からの手紙。

 

 

 

★    到南昌呈宋愿父伯仲黄子魯諸丈　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　戴復古　

南昌に到りて宋愿(そうげん)父(ふ)・伯仲(はくちゅう)・黄子魯(こうころ)・諸丈(しょじょう)に呈す

 

扁舟幾度到南昌　　　　扁舟 幾度か 南昌(なんしょう)に到る

東望家山道路長　　　　家山を東望すれば 道路長し

醉裏不知身是客　　　　酔(すい)裏(り) 知らず 身は是れ客(かく)なるを

故人多處亦吾郷　　　　故人多き処 亦た吾が郷

 

　【語釈】

○南昌…江西省南昌市。○宋愿父…宋自逢、婺州金華（浙江省金華市）の人，寧宗嘉定四年進士。累官して楚州通判となる。○伯仲…兄弟。○黄子…黄師參、閩清（福建省）の人。嘉定十三年（一二二○）の進士，国子正となる。○丈…年長者への敬称。○扁舟…小舟。○客…旅人。○故人…古くからの友人。　

 

 

★    答友人　　　　　　友人に答う　　　　　　　　　　　  宋　　嚴　羽

 

湘江南去少人行　　　　湘江 南に去れば 人行(じんこう)少(まれ)なり

瘴雨蠻煙白草生　　　　瘴(しょう)雨(う) 蛮(ばん)煙(えん) 白草生ず

誰念梁園舊詞客　　　　誰か念(おも)わん 梁(りょう)園(えん)の旧詞客(きゅうしかく)

桄榔樹下獨聞鶯　　　　桄榔(こうろう)樹下(じゅげか) 独り鶯(うぐいす)を聞く

 

【語釈】

○湘江…湖南省長沙市湘江。○瘴雨蠻煙…山川の毒気を含む煙雨。○梁園…帝都汴京（河南省開封市）。○詞客…詩人。○桄榔樹…砂糖椰子の樹。

 

★    次韻程弟　　　　　　　次韻 弟に程す　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

柴門雖設不曾開　　　　柴門 設くと雖も 曽て開かず

俗面向人三寸埃　　　　俗面 人に向う 三寸の埃

却是前溪雙白鷺　　　　却って是れ 前渓の双白鷺

門關不住又飛來　　　　門関に住まず 又た飛来す

 

【語釈】

○次韻…同じ韻字を同じ順序で用いて詩を作ること。○柴門…柴で作った粗末な門。○俗面…俗人の顔。○門関…関門。

 

 

★    寄書後作　　　　　　　書を寄す後の作　　　　　　　　　　　  宋　　林希逸

 

幾度題書客未還　　　　幾度か 書を題して 客(かく) 未だ還らず

歸鴻節節度郷關　　　　帰(き)鴻(こう) 節々(せつせつ) 郷関を度る

遥知一紙平安字　　　　遥に知る 一紙 平安の字

慈母燈前閣淚看　　　　慈母 灯前に 涙を閣(かく)して看るを

 

【語釈】

○客…旅人。ここでは作者。○歸鴻…帰雁。○節節…逐次。○郷関…郷土。○閣…止める。

 

 

 

★    和仲弟　　　　　　　　仲(ちゅう)弟(てい)に和す　　　 　　　　　　　　　　宋　　劉克莊

 

一春簷溜不曾停　　　　一春 簷溜(えんりゅう) 曽て停めず

滴破空階蘚暈青　　　　滴破(てきは)す 空階 蘚暈(せんうん)の青

便是家山對床雨　　　　便ち是れ 家山 対床の雨

絶憐老大不同聽　　　　絶(はなは)だ憐れむ 老大にして 同(とも)に聴かざるを

 

【語釈】

○仲弟…生まれ順が二番目である弟。○簷溜…軒端から落ちる雨だれ。○滴破…滴で打ち破る。○蘚暈…苔の傘。○對床…床を並べて対すること。○老大…老年。

 

　　　

★    與邵德芳　　　　　　　邵(しょう)徳(とく)芳(ほう)に与う　　　　　　 　　　　　　　宋　　林景熙

 

年少同游古辟雍　　　　年少 同游す 古辟雍(こへきよう)

文光萬丈掃秋虹　　　　文光 万丈 秋虹を掃(はら)う

不須舊事談如夢　　　　須(もち)いず 旧事の談 夢の如きを

燈下相看亦夢中　　　　灯下 相看るも 亦(ま)た夢中

 

【語釈】

○與邵德…淳安（浙江省）の人。度宗咸淳七年（一二七一）の進士、處州教授となる。○辟雍…皇帝が設けた大学。○文光…綾のある光。○夢中…夢の中。　　

 

 

 

 

★    懷郭安道　　　　　　　郭安(かくあん)道(どう)を懐う　　　　　　　　　　　　  元　　周　馳

 

江南江北路茫茫　　　　江南 江北 路 茫々(ぼうぼう)

明月高樓各異郷　　　　明月 高楼 各(おのおの)異郷

旅雁叫雲天似水　　　　旅雁 雲に叫び 天 水に似たり

故人今夜泊瀟湘　　　　故人 今夜 瀟湘に泊す

 

【語釈】

○郭安道…郭貫、保定（河北省保定市）の人，世祖至元二十七年に監察御史となり、英宗至治初集賢大学士となる。○江南江北…江蘇省，浙江省，安徽省。○瀟湘…瀟水と湘水が合流する洞庭湖南の地域。

　　　

 

★    題扇贈弟大監　　　　扇に題し弟大監(ていだいかん)に贈る　　　　　　　　  元　　韓　隣

 

雝雝鳴雁落江濱　　　　雝々(ようよう)たる鳴雁 江浜に落つ

夢裏年來相見頻　　　　夢(む)裏(り) 年来 相見ること頻なり

吟盡楚詞招不得　　　　楚詞を吟尽(ぎんじん)して 招き得ず

夕陽愁殺椅樓人　　　　夕陽 愁(しゅう)殺(さつ)す 楼に椅(よ)る人

 

【語釈】

○弟大監…不祥。○雝雝…ゆったりして楽しむさま。○夢裏…夢の中。○楚詞…楚辞の「招魂」。○愁殺…ひどく悲しませる。

 

　

 

★    寄俞秀老清老二居士　　俞秀老・清老二居士に寄す　　　  　　　宋　　釋道潜

 

慙愧君家好弟兄　　　　慙愧す 君が家の 弟兄好きを

風流宜與晉人弁　　　　風流 宜(よろ)しく 晋人と弁ずべし

青鞋布襪能從我　　　　青鞋(せいあい) 布襪(ふばつ) 能(よ)く我に従う

共入廬山深處行　　　　共に廬山に入りて 深き処に行く

 

【語釈】

○俞秀老・清老…共に不祥。○居士…道芸に達しながら官に仕えない人。○慙愧…恥じて後悔する。○宜…「よろしく～すべし」と読み、「～するのが妥当である」「～するほうがよい」の意。○晋人…不祥。東晋の陶淵明？○青鞋…わらじ。○布襪…布の靴下。○廬山…江西省九江市南部にある名山。陶淵明隠棲の地の近くにある。

 

 

★    辭侍郎蔣公讌客見招北　　侍郎蔣公(じろうしょうこう)が客を讌(えん)して招かるるを辞す　　  宋　　釋惟政

 

昨日曾將今日期　　　　昨日 曽(なん)ぞ 今日を将(も)って期す

出門倚杖又思惟　　　　門を出で  杖に倚りて 又 思(し)惟(い)す

爲僧只合居巖谷　　　　僧と為(な)り 只(た)だ合(まさ)に 巌谷(がんこく)に居(い)るべし

國士筵中甚不宜　　　　国士 筵中(えんちゅう) 甚(はなは)だ宜しからず

 

【語釈】

○侍郎蔣公…不祥。○讌…集まって宴会をする。○曾…「なんぞ」と読み「なぜ」「どうして」の意。○合…「まさに～すべし」と読み「～にしなければならない」「当然～のはずである」の意。○巖谷…山谷。○國士…国家の為に命をささげて尽くす人。○筵中…宴席。

 

★    和薛伯通韻        　　薛(せつ)伯(はく)通(つう)の韻に和す  　　　　　　　　　元　耶律楚材

 

黃花紅葉滿秋山　　　　黄花 紅葉 秋山に満つ

月浸銀河夜未闌　　　　月は銀河を浸し 夜 未だ闌(たけなわ)ならず

寂寞梧桐深院落　　　　寂寞(せきばく)たる梧桐 院落に深し

有人何處倚闌干　　　　人 有りて 何れの処にか 闌干に倚る

 

【語釈】

○薛伯通…不祥。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○梧桐…桐とあおぎり。○院落…垣根でかこった屋敷。屋敷の中庭。

 

 

★    將遊茅山先寄道士張伯雨　　　　　　　　　　　　　　　　　　元　　薩都剌

  　　　　　　　将(まさ)に茅山に遊ばんとし 先に道士(どうし)張(ちょう)伯(はく)雨(う)に寄す

 

借騎白鶴訪茅君　　　　借りて 白鶴(はくかく)に騎り 茅(ち)君(くん)を訪ぬ

琪樹秋聲隔夜聞　　　　琪樹(きじゅ)の秋声 夜を隔てて聞ゆ

料得山中張道士　　　　料り得たり 山中の張道士

開門先掃鶴巢雲　　　　開を門きて 先ず掃う 鶴(かく)巣(そう)の雲

 

【語釈】

○將…「まさに～せんとす」と読み、｢今にも～しようとする｣の意。○茅山…江蘇省鎮江市茅山。○道士…道教の僧侶。○張伯雨…杭州錢塘の人、諸名山を遍歴し家を捨てて道士となる。○茅君…仙人となった伝説の人。張伯雨をなぞらえる。○琪樹…仙境の玉樹の花。○秋聲…秋の気配を感じさせる物音。○料得…推量することが出来る。

 

★    寄友　　　　　　　　　友に寄す  　　　　　　　　　　　　　　元　　朱希晦

 

雨過溪頭鳥篆沙　　　　雨過ぎて 渓頭 鳥 沙に篆(てん)す

溪山深處野人家　　　　渓山 深き処 野人の家

門前桃李都飛盡　　　　門前の桃李 都(すべ)て飛び尽くし

又見春光到楝花　　　　又 春光を見て 楝(れん)花(か)に到る

 

【語釈】

○渓頭…谷川のほとり。○篆…足跡を付ける。○野人…田舎の住民。○春光…春景色。○楝花…オウチの花。

 

 

★    懷顧仲瑛　　　　　　　顧(こ)仲(ちゅう)瑛(えい)を懷う　　　　　　　　　　　　  明　　楊維楨

 

五月江聲入閣寒　　　　五月 江声 閣に入りて寒し

故人西望倚闌干　　　　故人 西を望みて 闌干に倚る

珠簾乍卷西山雨　　　　珠(しゅ)簾(れん)　乍(たちま)ち巻く　西山の雨

一片青峰拄笏看　　　　一片の青峰 笏(しゃく)を拄(ささえ)て看る

 

【語釈】

○顧仲瑛…不祥。○珠簾…玉すだれ。

 

 

★    春夜懐重居字　　　　　春夜 重(ちょう)居(きょ)字(じ)を懐う　　　　　　　　　  明　　馬　治

 

寺中虛閣每曾登　　　　寺中の虚閣 毎(つね)に曽(すなわ)ち登らんや

忽欲看花往未能　　　　忽(たちま)ち花を看んと欲して 往くこと 未だ能(あた)わず

夜色蕭條門半掩　　　　夜色 蕭(しょう)条(じょう)として 門 半ば掩う

獨依寒燭憶高僧　　　　独(ひと)り 寒燭に依り 高僧を憶う

 

【語釈】

○重居字…不祥。○虛閣…人のいない楼閣。○夜色…夜の景色。夜の気配。○蕭條…もの静かなさま。

 

 

★    次翰林都事拜珠春日見寄韻　　　　　　  　　　　　　　　　　　　明　　張以寧

拝(はい)住(じゅう)が 春日 韻を寄せらるるに次す

 

日髙睡起小窻明　　　　日高くして 睡起すれば 小窓明らかなり

飛絮遊絲弄晝晴　　　　飛絮 遊糸 昼晴を弄(ろう)す

忽憶金河年少夢　　　　忽(たちま)ち憶う 金河 年少の夢

栁隂騎馬聽流鶯　　　　栁隂 馬に騎りて 流鶯を聴く

 

【語釈】

○飛絮…柳絮。○遊絲…糸のような柳の枝。○金河…大黒河 、内蒙古自治区を流れる川。○年少…若者。

 

 

★    泊瓜洲懷舊寄顧利賔王又新　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　劉　炳

 　　　　　　　　　　　瓜(か)洲(しゅう)に泊して旧を懐い顧利賔(こりひんおう)王(おう)に 又新(あらた)に寄す

 

潮聲月色滿江船　　　　潮声 月色 江船に満つ

回首春風十六年　　　　首(こうべ)を回(めぐ)らせば 春風 十六年　

憶得石橋楊柳巷　　　　憶い得たり 石橋 楊柳の巷(ちまた)

珠簾銀燭聽歌眠　　　　珠(しゅ)簾(れん) 銀燭 歌を聴いて眠りしを

 

【語釈】

○泊瓜…江蘇省邗江県。○顧利賔王…不祥。○憶得…思い出すことができる。○珠簾…玉すだれ。

 

 

★    寄紅橋舊人　　　　　　紅橋の旧人に寄す　　　　　　　　　  明　　林　鴻

 

殘燈影暗别魂消　　　　残灯 影暗くして 别魂消す

淚濕鮫人玉線綃　　　　涙 湿(うるお)う 鮫人(こうじん)の玉線綃(ぎょくせんしょう)

記得雲娥相送處　　　　記し得たり 雲娥 相送る処

淡烟斜月過紅橋　　　　淡煙 斜めにして 月 紅橋を過ぐ

 

【語釈】

○紅橋…不祥。○舊人…古くからの知り合い。○别魂…離別の情思。○鮫人…伝説中の人魚。○玉線綃…鮫人の機織り中の涙が玉となること。○雲娥…仙女。○淡煙…淡いもや。

 

 

★    南行途中寄錢塘親友　　　南行途中 銭塘(せんとう)の親友に寄す　　　　　　  明　　施　敬

 

萬里移家入瘴烟　　　　万里 家を移して 瘴(しょう)煙(えん)に入る

故郷音耗若為傳　　　　故郷 音耗(おんもう) 若(い)為(かん)ぞ伝えん

衡陽自古無来鴈　　　　衡(こう)陽(よう) 古(いにしえ)より 来(らい)鴈(がん)無し　

况去衡陽又八千　　　　况(いわん)や 衡(こう)陽(よう)を去る 又 八千にしてをや

 

【語釈】

○錢塘…浙江省杭州市。○瘴烟…熱病を起こす山川の悪氣を含む靄。○音耗…音信。○若為…若何、「いかんぞ」とよみ「どうして～しようか」「どうして～であろうか」の反語。○衡陽…湖南省衡陽市。「衡陽雁断」衡陽は、衡山の南に有り、衡山の南にある回雁峰は険しい峰で、雁がやって来ても、これを越えて南下することはできないと言われた。

 

 

★    寄淮南　　　　　　　　 淮(わい)南(なん)に寄す　　　　　　　　　　　  明　　沈　愚

 

江南相望路迢迢　　　　江南 相望めば 路 迢々(ちょうちょう)たり

風滿關河雁影飄　　　　風は 関(かん)河(が)に満ち 雁影 飄(ひるがえ)える

最好鳳凰台上月　　　　最も好し 鳳凰台上の月

共誰攜酒聽吹簫　　　　誰と共に 酒を携えて 吹簫(すいしょう)を聴かん

 

【語釈】

○淮南…不祥。○江南…長江中下流の南の地方。○迢迢…はるかなさま。遠いさま。○關河…関山河川。○鳳凰台…南京市の南にあった楼台。

 

★    懷友　　　　　　　　　友を懐う　　　　　　　　　　　　　　　明　　張　弼

 

飛花渺渺送春歸　　　　飛花 渺々(びょうびょう)として 春の帰るを送る

忽漫鉤簾對夕暉　　　　忽(たちま)ち 漫(あまね)く 簾を鉤(こう)して夕暉(せきき)に対す

竹下小池雙翡翠　　　　竹下の小池 双翡翠(そうひすい)

啣魚飛過緑苔磯　　　　魚を啣(くわえ)て 飛び過ぐ 綠(りょく)苔(たい)の磯

 

【語釈】

○飛花…柳絮。○渺渺…広く果てしないさま。○鉤…鈎にかける。○夕暉…夕焼け。○雙翡翠…かわせみのつがい。

 

 

★    寄友　　　　　　　　友に寄す　　　　　　　　　　　　　 明　　史　鑑

 

柴門流水釣磯閑　　　　柴門 流水 釣(ちょう)磯(き) 閑(かん)なり

夢繞天涯鬂已斑　　　　夢は 天涯を繞(めぐ)りて 鬂(びん) 已に斑(まだら)なり

酒債詩逋還未了　　　　酒債(しゅさい) 詩逋(しほ) 還(ま)た 未だ了(おわ)らず

又隨人去看青山　　　　又 人に随いて去り 青山を看る

 

【語釈】

○柴門…柴で作った粗末な門。○天涯…空のはて。○酒債…酒代の借金。○詩逋…他人から送られた詩でまだ返しの詩を送っていないもの。

 

 

★    題美人寄胡丈　　　　　　美人に題し胡丈に寄す　　　　　　　  明　　邊　貢

 

月宮秋冷桂團團　　　　月宮 秋 冷かにして桂 団々(だんだん)

歲歲花開只自攀　　　　歳々(さいさい) 花開き 只だ 自(おのずか)ら攀(よ)ず

共在人間説天上　　　　共に 人間(じんかん)に在りて 天上を説く

不知天上憶人間　　　　知らず 天上 人間(じんかん)を憶うを

 

【語釈】

○胡丈…不祥。○月宮…月の中にあるといわれる宮殿。○團團…丸いさま。垂れ下がっているさま。○歲歲…年々。

 

　　　

★    金陵逢方日昇　　　　金陵にて方(かた)日(じつ)昇(しょう)に逢う　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

燕市分攜十七春　　　　燕市に分携(ぶんけい)す 十七春

白門相見白頭新　　　　白門に相見て 白頭新なり

鳳凰樓畔含香客　　　　鳳凰楼(ほうおうろう)畔(はん) 含香の客(かく)

江海飄零有幾人　　　　江海 飄零　幾人か有る

 

【語釈】

○金陵…南京。○方日昇…浙江省永嘉の人，六書を好む。○燕市…北京。○分攜…離別。○白門…南京の別称。○鳳凰樓…金陵（南京）にあった楼閣。○飄零…木の葉がはらはらと落ちること。

 

 

★    寄鄭繼之　　　　　　鄭継之(ていけいし)に寄す　　　　　　　　　　　　　　　明　　何景明

 

台嶽中峰綵霧生　　　　台岳 中峰 綵(さい)霧(む)生ず

石梁遙挂赤霞城　　　　石梁 遥(はるか)に挂(か)く 赤(せき)霞(か)城(じょう)

仙潭尺素傳雲鯉　　　　仙潭(せんたん) 尺素(せきそ) 雲(うん)鯉(り)を伝う

報爾今尋華頂行　　　　爾(なんじ)に報ず 今 華頂を尋ねて行くと

 

【語釈】

○鄭繼之…鄭善夫、福建閩県の人，弘治十八年進士、南京吏部郎中となる。○台嶽…天台山。○綵霧…色の美しい霧。○石梁…安徽省滁州市天長市。或いは、天台山の名勝石橋？○赤霞城…天台山の目印赤城峰。○仙潭…仙界の淵。○尺素…手紙。○華頂…浙江省台州市華頂。

 

 

★    喜戴生得郷薦　　　　　戴生(たいせい)の郷薦(きょうせん)を得るを喜ぶ　　　　　　　　明　　何景明

 

梁園宋苑總宜秋　　　　梁(りょう)園(えん) 宋(そう)苑(えん) 総べて秋に宜(よろ)し

夾道槐花映綺樓　　　　道を夾(さしはさ)む 槐花 綺楼に映ず

試問東瀛海邊住　　　　試(こころみ)に問う 東瀛(とうえい) 海辺の住

何如金明池上遊　　　　何如(いかん)んぞ 金明池上(こんめいちじょう)の遊　

 

【語釈】

○戴生…戴冠、河南信陽の人，正德三年進士、何景明の詩友。○郷薦…科挙の中央試験の受験資格を得ること。○梁園宋苑…様々な庭園。○東瀛…東海。○金明池…開封の西鄭門の西北にある池。

 

 

★    江陵舟中贈田李二子　　江陵舟中にて田・李二子に贈る  　　　　　明　　楊　慎

 

落月寒沙夜未分　　　　落月 寒沙(かんさ) 夜 未だ分(わか)たず

玉簫金管醉中聞　　　　玉簫 金管 酔中に聞く

明朝回首沅江路　　　　明朝 首(こうべ)を回(めぐ)らす 沅江の路

愁聽清猿和白雲　　　　愁いて聴く 清猿の 白雲に和するを

 

【語釈】

○江陵…湖北省荆州市江陵県。○玉簫金管…管楽器の美称。○沅江…湖南省懷化市沅江。

 

 

★    失題（呉門）　　　　　　失題（呉門）　　　　　　　　　　　　　　明　　金　鑾

 

闔閭城外花如煙　　　　闔閭(こうりょ)城外(じょうがい) 花 煙の如し

洞庭山下水連天　　　　洞庭山下 水 天に連なる

安得弄花緣水去　　　　安(いずくん)ぞ得ん 花を弄(ろう)して水に縁(よ)って去るを

與君同上木蘭船　　　　君と同じく上る 木蘭の船

 

【語釈】

○呉門…春秋時代の呉の都、蘇州市一帯。○闔閭城…呉王闔閭の城，蘇州の別称。○洞庭山…蘇州の西山。

 

 

　　　

★    贈滁陽程逸人　　　　　滁陽の程逸人に贈る　　　　　　　　　　　　明　　皇甫涍

 

安道携琴去入呉　　　　安道 琴を携えて 去りて呉に入る

小山遙對白雲弧　　　　小山 遥かに対して 白雲弧なり

粱渓盡處烟波闊　　　　粱渓(りょうけい) 尽きる処 煙波闊(ひろ)し

好逐秋風下五湖　　　　好し 秋風を逐いて 五湖に下らん

 

【語釈】

○滁陽…安徽省滁州市。○程逸人…不祥。○粱渓…川の名。○烟波…川に立つ靄。○五湖…太湖。

 

　　　

★    荅寄于鱗　　　　　　　于(う)鱗(りん)に荅寄(とうよ)す　　　　　　　　　　　　　　明　　許邦才

 

結交昔日擬荊高　　　　交(まじわり)を結び 昔日 荊(けい)高(こう)に擬す

那管傍人笑我曹　　　　那(な)んぞ管せん 傍人の我曹(がそう)を笑うに

醉後悲歌燕市裏　　　　酔後 悲歌す 燕市の裏(うち)

一時海内更無豪　　　　一時 海内(かいだい) 更に 豪 無し

 

【語釈】

○荅寄…答えて寄せる。○荊高…『史記』刺客列伝の荊軻と高漸離。○我曹…我ら。○燕市…燕の都（北京付近）。○海内…天下。

 

　

 

★    寄懷元美　　　　　　　元美(げんび)に寄(き)懐(かい)す　　　　　　　　　　　  明　　許邦纔

 

鴻雁驚秋海上還　　　　鴻(こう)雁(がん) 秋に驚き 海上より還(かえ)る

片雲孤月薊門關　　　　片雲 孤月 薊門(げいもん)の関

奈何昨夜西窗夢　　　　奈何(いかん)んぞ 昨夜 西窓の夢

不道千山與萬山　　　　道(い)わず 千山と万山と

 

【語釈】

○寄懷…思いを寄せる。○元美…不祥。○鴻雁…かり。○薊門…北京城西の地。

 

 

★    簡殿卿　　　　　　　殿(でん)卿(きょう)に簡す　　　　　　　　　　　　　　　明　　李攀龍

 

玉函山色倚嵯峨　　　　玉函(ぎょくかん) の山色 嵯峨に倚(よ)る

北渚清秋已自波　　　　北渚(ほくちょ)の清秋 已に自(おのずか)ら波だつ

我欲與君擕酒去　　　　我 君と酒を擕えて 去らんと欲す

不知何處白雲多　　　　知らず 何れの処か 白雲多きを

 

【語釈】

○簡…書簡を送る。○殿卿…許邦才、山東省歷城の人，嘉靖二十二年の進士、永寧知州となる。○玉函…山東省歴城県にある山。○山色…山の気配、景色。○嵯峨…高く突っ立って険しいさま。○北渚…北側の水際。

 

 

★    荅寄殿卿　　　　　　　殿(でん)卿(きょう)に荅寄(とうよ)す　　　　　　　　　　　　　　明　　李攀龍

 

江南行色照青春　　　　江南の行色 青春を照らす

白髪相看夢裏新　　　　白髪 相い看て 夢裏(むり)に新たなり

憶爾故郷歸未得　　　　憶う 爾(なんじ)が故郷に帰ることを 未だ得ざるを

梁園風雪正愁人　　　　梁園の風雪 正に人をして愁えしむ

 

【語釈】

○荅寄…答えて寄せる。○殿卿…許邦才、山東省歷城の人，嘉靖二十二年の進士、永寧知州となる。○江南…長江中下流の南岸の地方。○夢裏…夢の中。○梁園…宮中の庭園。

 

 

★    寄元美               元美(げんび)に寄す                              明　　李攀龍

 

江南風雨夢扁舟　　　　江南の風雨 扁舟を夢む

薊北燕花傍酒樓　　　　薊(げい)北(ほく)の燕(えん)花(か) 酒楼に傍う

無那故人揺落盡　　　　那(いか)んするとも無し 故人 揺落(ようらく)尽くすを

教君何處不悲秋　　　　君をして 何れの処か 悲秋ならしめん

 

【語釈】

○江南…長江中下流域の南岸の地方。○扁舟…小舟。○薊北…燕の都（北京）の北○燕花…燕の地方の花。○無那…無奈、どうしようもない。○故人…昔なじみ。○揺落…ゆれ落ちる。亡くなる。

 

 

★    懷明卿　　　　　　　　明卿(めいけい)を懷う　　　　　　　　　　　　　　明　　李攀龍

 

豫章西望彩雲間　　　　豫(よ)章(しょう) 西望す 彩雲の間

九派長江九疊山　　　　九派の長江 九畳(きゅうじょう)の山

髙卧不須窺石鏡　　　　髙卧(こうが) 石鏡を窺(うかが)うを須(もち)いず

秋風憔悴侍臣顔　　　　秋風 憔悴す 侍臣の顔

 

【語釈】

○明卿…不祥。○豫章…江西省北部。○九派…多くに分かれる。○九疊…多く重なる。○髙卧…閑適の気分で安臥すること。○石鏡…石で出来た鏡。許渾詩「高歌一曲掩明鏡，昨日少年今白頭。」　

 

 

★    示殿卿　　　　　　殿卿に示す　　　　　　　　　　　明　　李攀龍

 

湖上青山遶屋斜　　　　湖上の青山 屋を遶(めぐ)りて斜なり

蕭條重枉使君車　　　　蕭条 重ねて枉(ま)ぐ 使君の車

到來縱遣柴門閉　　　　到来して 縦(たと)い柴門をして閉ざしむも

只在東鄰賣酒家　　　　只だ 東隣 売酒の家に在り

 

【語釈】

○殿卿…許邦才、山東省歷城の人，嘉靖二十二年の進士、永寧知州となる。○蕭條…もの静かで寂しいさま。○枉…わざわざしてくれる。○使君…刺史。○柴門…柴で作った粗末な門。

　　　

 

★    寄李内翰仲西　　　　　李内翰仲西に寄す　　　　　　　　　　　　明　　謝　榛

 

春日芳樽獨解顔　　　　春日 芳樽 独り顔を解く

玉堂金闕五雲間　　　　玉堂 金闕 五雲の間

看花忽憶當年事　　　　花を看て 忽ち憶う 当年の事

半醉相將踏月還　　　　半ば酔い 相将(あいひき)いて 月を踏みて還る　あいひき

 

【語釈】

○李内翰仲西…不祥。○芳樽…美酒。○解顔…笑い顔になる。○玉堂…玉で飾った堂。○金闕…金色で飾った宮門。○五雲…五色の雲。○當年…当時。○踏月…月明かりを踏む。

 

 

★    對月寄壺樑　　　　　　月に対して壺樑(こりょう)に寄す　　　　　　　　　　　明　　彭　年

 

天街霜月夜迢迢　　　　天街の霜月(そうげつ) 夜 迢々(ちょうちょう)

淮浦金波蕩畫橋　　　　淮(わい)浦(ほ)の金波 画橋を蕩(とう)す

才子行吟青玉案　　　　才子 行吟す 青(せい)玉(ぎょく)案(あん)

仙人吹和紫瓊簫　　　　仙人 吹和す 紫瓊簫(しけいしょう)

 

【語釈】

○壺樑…伝説中の仙人。○天街…京城の街道。○迢迢…遙かに遠いさま。○淮浦…江蘇省淮安市漣水県。○画橋…画で飾った橋。○青玉案…詞の詞牌の一つ。○紫瓊簫…紫色の玉簫。

 

 

★    于鱗謝病歸濟南寄訊　　于(う)鱗(りん)に病を謝し済(さい)南(なん)に帰りて寄訊す　　　　明　　除中行

 

白雲湖上亂山青　　　　白雲 湖上 乱山青し

日日茅堂醉復醒　　　　日々 茅堂に酔いて復た醒む

不是楊雄耽寂寞　　　　是れ 楊(よう)雄(ゆう) 寂寞(せきばく)に耽(ふけ)らざれば

千秋誰見大玄經　　　　千秋 誰だ見ん 大玄経(だいげんきょう)　

 

【語釈】

○于鱗…不祥。○濟南…山東省西部にあった州の南部。○寄訊…消息を尋ねる。○茅堂…茅吹きの粗末な堂。○楊雄…漢の揚雄、大玄経を草した。○千秋…千年。○大玄經…、前漢末の揚雄の撰述による『易経』に似た書物。易が陰陽の二爻を6つ重ねた六十四卦によるのに対し、天地人の三才を4つ重ねた八十一首から構成される。

 

★    寄荅汝南諸明符　　　　汝(じょ)南(なん)の諸明符(しょめいふ)に寄荅(きとう)す　　　　　　　　  明　　除中行

 

景夷臺上白雲秋　　　　景(けい)夷(い)台上(だいじょう) 白雲の秋

懸瓠城邊汝水流　　　　懸瓠(けんこ)城辺(じょうへん) 汝(じょ)水(すい)流る

却憶諸君明月夜　　　　却って憶う 諸君 明月の夜

臨風清嘯滿南樓　　　　風に臨み 清嘯(せいしょう) 南楼に満つるを

 

【語釈】

○寄荅…答えて寄せる。○汝南…中国河南省駐馬店市の県。○明符…太守、県令。○景夷臺…不祥。○懸瓠城…河南汝南県にあった街。○汝水…江西省東部を流れる河川。○清嘯…清らかな歌声。

 

 

★    寄徐石亭　　　　　　　徐石亭に寄す　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　渭

 

聞道名園盛牡丹　　　　聞道(きくなら)く 名園 牡丹盛んにして

豪家歡賞到春殘　　　　豪家 歓賞して 春残(しゅんざん)に到ると

自憐亦具看花眼　　　　自(みずか)ら憐む 亦た 花を看る眼を具(そな)へ

種菜澆畦不得看　　　　菜を種え 畦(はた)に澆(そそ)ぎて 看るを得ざるを

 

【語釈】

○徐石亭…不祥。○聞道…聞くところによれば。○春殘…旧暦三月、春の終わり。

 

 

★    遼城寄憶　　　　　　　遼城寄(りょうじょうき)憶(おく)　　　　　　　　　　　　　　明　　愈　憲

 

胡天一望盡高秋　　　　胡天 一望すれば 尽(ことごと)く高秋

忽傍中原憶舊遊　　　　忽(たちま)ち 中原に傍(そ)いて 旧遊を憶う

漢省春風吹視草　　　　漢省(かんしょう)の春風 視草を吹き

庚家明月照登樓　　　　庚家の明月 登楼を照らす

 

【語釈】

○遼城…遼東城。 遼寧省遼陽市。○寄憶…抱いた思いを寄せる。○胡天…北方異民族の空。○中原…黄河中流から下流の地域。○漢省…不祥。○視草…皇帝が起草した詔勅。○庚家…不祥。

 

 

★    寄謝在枕　　　　　　　在枕(ざいちん)に寄(き)謝(しゃ)す　　　　　　　　　　　　　   明　　陳仲凑

 

孤館蕭條夜不眠　　　　孤館 蕭(しょう)条(じょう)として 夜眠らず

思君斷腸太湖邊　　　　君を思いて 断腸 太湖の辺(ほとり)

傷心最是樓前月　　　　傷心 最も是れ 楼前の月

惆悵清光隔幾年　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 清光 幾年をか隔つを

 

【語釈】

○寄謝…感謝して寄せる。○在枕…不祥。○蕭條…もの静かで寂しいさま。○大湖…江蘇省南部と浙江省北部の境界にある大きな湖。○惆悵…なげき悲しむ。

 

　　　

★    與李太虛　　　　　　　李(り)太虚(たいきょ)に与う　　　　　　　　　　　　　　明　　湯顯祖

 

少年豪氣幾時成　　　　少年の豪気 幾時にか成る

斷酒辭家向此行　　　　酒を断ち 家を辞して 此の行(こう)に向う

夜半梅花春雪裏　　　　夜半の梅花 春雪の裏(うち)

小窗燈火讀書聲　　　　小窓の灯火 読書の声

 

【語釈】

○李太虛…不祥。○少年…若いとき。

 

 

 

★    寄長安故人　　　　　　長安の故人に寄す　　　　　　　　　　　　　明　　謝肇淛

 

春時相送出燕都　　　　春時 相送りて 燕(えん)都(と)を出ず

秋到江南一字無　　　　秋 江南に到り 一字無し

半夜寒燈數行涙　　　　半夜の寒灯 数行(すうこう)の涙

滿天風雨下西湖　　　　満天の風雨 西湖に下る

 

【語釈】

○故人…古くからの友人。○燕都…春秋戦国時代の燕の都の地、北京。○江南…長江中下流の南岸の地方。○一字…一通の手紙。

 

 

★    寄懷王震甫客蜀寄　　　　王震(おうしん)甫(ぽ)の蜀に客(かく)するを懐う　　　　　　　　明　　陳薦伕

 

邛歊東望草離離　　　　邛歊(きょうきょう) 東望すれば 草 離々(りり)たり

峽口春歸未有期　　　　峡口 春 帰りて 未だ 期 有らず

懷古思郷兩行淚　　　　古を懐い 郷を思い 両行(りょうこう)の涙

豈堪同在聽猿時　　　　豈に堪えんや 同(とも)に 猿を聴く時に在るを

 

【語釈】

○王震甫…王震、莘縣（山東省東部）の人。龍圖閣直學士、知封府知事となる。○邛歊…四川省にある山。○離離…草が盛んに生い茂っているさま。○峡口…三峽への入り口。○春帰…春が過ぎる。

 

★    贈致政司諫劉後峰　　　致政司諫(ちせいいしかん) 劉後(りゅうこう)峰(ほう)に贈る　　　　　　　　　　明　　李開先

 

人散燈殘睡正濃　　　　人 散じ 灯 残(ざん)して 睡(ねむり) 正(まさ)に濃(こまやか)なり

驚迴曉夢思重重　　　　暁夢を驚迴(きょうかい)して 思(おもい) 重々

攬衣欹枕從容聽　　　　衣を攬(と)り 枕を欹(そばだ)てて 従容(しょうよう)として聴く

野店鷄聲野寺鐘　　　　野店の鶏声 野寺の鐘

 

【語釈】

○致政…致仕した人。○司諫…門下省の諫官。○劉後峰…劉祿、山東省章丘の人，嘉靖二十三年の進士、太常少卿に至る。○殘…燃え尽きる。○驚迴…目が覚める。○重重…深く思うさま。○從容…ゆったりと落ち着いたさま。

 

 

★    寄曹能始　　　　　　　曹(そう)能(のう)始(し)に寄す　　　　　　　　　　　　　　明　　吴　兆

  

聞説官閑心亦閑　　　　聞説(きくなら)く 官 閑(しずか)にして 心亦た閑(しずか)なりと　

馬蹄日出不知還　　　　馬蹄 日に出で 還るを知らず

落葉滿城秋似水　　　　落葉 城に満ち 秋 水に似たり

家家樓上有鐘山　　　　家々(かか)の楼上 鐘山有り

 

【語釈】

○曹能始…曹學佺、福建省侯官の人，萬歷二十三年の進士。禮部尚書に至る。○聞説…きくところによれば。○鐘山…南京市の東北にある山。

 

 

★    寄曹能始　　　　　　　曹(そう)能(のう)始(し)に寄す  　　　　　　　　　　　　明　　徐　煅     

 

見説風帆出石頭　　　　見(みる)説(なら)く 風帆 石頭を出ず

遠書遙寄雁來秋　　　　遠書 遥かに寄す 雁 来(きた)る秋

不知此地開緘日　　　　知らず 此の地 緘(かん)の開く日

又過天涯何處州　　　　又た過ぐ 天涯 何れの処の州か

 

【語釈】

○曹能始…不祥。○見説…見るところによると。○風帆…帆掛け船。○石頭…南京。○緘…書箱。

 

             

★    題林貞孚草堂　　　　　林貞孚の草堂に題す  　　　　　　　　　明　　鄭允珪

 

為愛湖山静卜居　　　　為に愛す湖山 静かに居を卜するを

石邊花片落春渠　　　　石辺の花片 春渠(しゅんきょ)に落つ

閉門晝寂渾無事　　　　門を閉ざせば　昼 寂(しずか)かに 渾(すべ)て無事

寶鴨煙沈讀古書　　　　宝(ほう)鴨(こう) 煙沈みて 古書を読む

 

【語釈】

○林貞孚…不祥。○草堂…草葺きの家。○卜居…家を建てる。○寶鴨…香炉。

 

　

 

★    夏日寄王山人　　　　　夏日 王山人に寄 す　　　　　　　　　  明　　張天英

 

赤日行天氣欲焚　　　　赤日 天を行き 気 焚(やけ)んと欲す

樹根群蟻正紛紛　　　　樹根の群蟻 正に紛々(ふんぷん)

道人心在羲皇上　　　　道人の心は 羲(ぎ)皇(こう)の上に在り

睡殺青松一枕雲　　　　睡(すい)殺(さつ)す 青松 一枕の雲

 

【語釈】

○王山人…李訓、事跡不祥。○赤日…烈日。○紛紛…混じり乱れるさま。○道人…道教の師、信者。道徳のある人。○羲皇…伏羲、伝説上の帝王。○睡殺…非常に強い眠気を憶えさせる。

 

　　　

★    楚江懐友　　　　　　　楚江にて友を懐う　　　　　　　　　　　明　　趙世顯

 

春來夏口起層波　　　　春来 夏(か)口(こう) 層波を起す

秋到衡陽少雁過　　　　秋に 衡(こう)陽(よう)に到りて 雁の過ぐること少なり

獨夜短橈何處泊　　　　独夜 短橈(たんじょう) 何れの処にか泊せん

江風蕭瑟月明多　　　　江風 蕭瑟(しょうしつ)として 月明多し

 

【語釈】

○春來…春になってから。○夏口…湖北省武漢市夏口。○層波…重なるあった波。○衡陽…湖南省衡陽市。「衡陽雁断」衡陽は衡山の南にあり、衡山の南にある回雁峰は険しい峰で、雁がやって来ても、これを越えて南下することはできないと言われた。○獨夜…独りで寂しく居る夜。○短橈…短い櫂、小舟。○蕭瑟…物寂しいさま。

 

 

★    寄友人　　　　　　　　友人に寄す　　　　　　　　　　　　　　明　　趙世顯

 

日暮狂風吹短橈　　　　日暮 狂風 短橈(たんじょう)を吹く

寒鴉點點草蕭蕭　　　　寒(かん)鴉(あ) 点々 草 蕭々(しょうしょう)

故人家在千山外　　　　故人の家は 千山の外に在り

月落猿啼歸夢遙　　　　月落ち 猿啼いて 帰夢(きむ)遥(はるか)なり

 

【語釈】

○短橈…短い櫂、小舟。○蕭蕭…物寂しい様子や音声の形容。○故人…古くからの友人。○歸夢…故郷に帰る夢。

 

 

★    示友　　　　　　　　　友に示す　　　　　　　　　　　　　　　清　　周亮工

 

海水群飛百丈高　　　　海水 群飛す 百丈の高(こう)

同君城上擁弓刀　　　　君と同に 城上 弓刀を擁(よう)す

戰瘢莫同燈前看　　　　戦瘢(せんはん) 同(とも)に 灯前に看ること莫(なか)れ

恐惹霜華上鬢毛　　　　恐らくは霜(そう)華(か)を惹(ひ)いて 鬢(びん)毛(もう)に上らしめん

 

【語釈】

○戰瘢…戦いで受けた傷跡。○霜華…白髪。

 

 

★    贈柳敬亭　　　　　　　柳(りゅう)敬亭(けいてい)に贈る　　　　　　　　　　　　　清　　毛奇齡

 

流落相憐柳敬亭　　　　流落して相憐れむ 柳(りゅう)敬亭(けいてい)

消除豪氣鬢星星　　　　豪気を消除して 鬢 星(せい)々(せい)

江南多少前朝事　　　　江南 多少 前朝の事

說與人間不忍聽　　　　人間(じんかん)に説与して 聴くに忍びず

 

【語釈】

○柳敬亭…明末の說書藝人。大將左良玉の幕客となる。○流落…外地に漂泊する。○星星…白髪まじり。○江南…長江中下流の南岸地方。○前朝…ここでは明王朝。○說與…説き聞かせる。

 

 

★    得劍村寄懷詩次韻答之　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　錢良擇

 　　　　　　　　　 剣村の寄(き)懐(かい)の詩を得たり 次韻して之に答う

 

宦遊空自滞京華　　　　宦遊(かんゆう) 空しく 自(おのずか)ら京(けい)華(か)に滞る

誰說狂夫不憶家　　　　誰か説く 狂夫は 家を憶わずと

昨夜客窗風雪裏　　　　昨夜 客(かく)窓(そう) 風雪の裏(うち)

夢歸山館種梅花　　　　夢は山館に帰り　梅花を種う

 

【語釈】

○剣村…不祥。○寄懷…思いを寄せる。○宦遊…故郷を離れて官を求める。○京華…京城。○客窗…旅館の窓。

 

 

★    贈某　　　　　　　　　某に贈る　　　　　　　　　　　　　　　　清　　龔錫瑞

 

従戎二十執戈殳　　　　戎(じゅう)に従い 二十 戈(か)殳(しゅ)を執(と)る

百戦餘生膽氣粗　　　　百戦の余生 胆気粗(そ)なり

飲馬長城休照影　　　　馬に飲(みずか)いて長城 影を照すを休(や)めよ

恐驚霜雪上頭顱　　　　恐くは 霜雪の 頭顱(とうろ)に上るに 驚かん

 

【語釈】

○従戎…従軍。○戈殳…ほこ。○照影…自分の姿を映してみる。○霜雪…白髪。○頭顱…頭髪。

 

 

★    寄虞山王石丞　　　　　虞山(ぐざん)の王石丞(おうせきじょう)に寄す　　　　　　　　　　　清　　惲　格

 

東望停雲結暮愁　　　　東望すれば 停雲 暮愁を結ぶ

千林黃葉劍門秋　　　　千林の黄葉 剣門の秋

最憐霜月懷人夜　　　　最も憐む 霜月 人を懐う夜

鴻雁聲中獨倚樓　　　　鴻(こう)雁声中(がんせいちゅう) 独り楼に倚る

 

【語釈】

○虞山…江蘇省蘇州市虞山。○王石丞…王翬、剣門に隠棲した画家。○暮愁…暮れ方の

寂しい物思い。○剣門…江蘇省蘇州市劍門。○霜月…陰暦七月。○鴻雁…かり。

 

 

★    懐薊門馬寓公　　　　　薊門(げいもん)の馬寓(ばぐう)公(こう)を懐う　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

脱帽歌呼號酒狂　　　　帽を脱ぎ 歌呼し 酒狂と号す

呉門煙月薊門霜　　　　呉門(ごもん)の煙月 薊門(げいもん)の霜

知君廣武山邊過　　　　知る君が 広(こう)武(ぶ)山辺(さんぺん)に過(よ)ぎり

匹馬寒風弔戰場　　　　匹馬 寒風 戦場を弔うを

 

【語釈】

○薊門…北京市城西の地域。○馬寓公…不祥。○呉門…江蘇省蘇州市。○煙月…おぼろ月。○廣武山…河南省滎陽市の東北にある山、項羽と劉邦がここで対陣した。

　　　

 

★    懐楊雙山　　　　　　　楊(よう)双山(そうざん)を懐う　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

沿門濃緑稲苗霽　　　　門に沿う濃緑 稲苗(とうびょう)霽(は)る

課了新詩旋灌畦　　　　新詩を課了して 旋(めぐ)りて畦(あぜ)に灌(かん)す

舊是吾家棲隠地　　　　旧(も)と是れ吾家 棲隠の地

夢魂常繞采葑渓　　　　夢魂 常に繞(めぐ)る 采葑(さいほう)の渓

 

【語釈】

○楊雙山…不祥。○課了…作り終わる。○灌…水をまく。○采葑渓…蕪が植えてある渓。

　　　

 

★    寄懐張春㠶　　　　　　張(ちょう)春(しゅん)㠶(ほ)に寄(き)懐(かい)す　　　　　　　　　　　　　清　施朝翰

 

楊花飛盡白沙州　　　　楊(よう)花(か) 飛び尽す 白沙の州

夾水蒼山兩岸流　　　　水を夾(さしはさ)む蒼山 両岸の流

忽憶故人従此去　　　　忽(たちま)ち憶う 故人 此(ここ)従(より)り去るを

西風吹月下江樓　　　　西風 月を吹いて 江楼に下る

 

【語釈】

○張春㠶…不祥。○寄懐…思いを寄せる。○楊花…柳絮。○故人…昔からの友人。○西風…秋風。○江樓…川辺の楼。

 

 

★    懐南村方孟升　　　　　南村の方(ほう)孟(もう)升(しょう)を懐う　　　　　　　　　　  清　　呉　初

 

經春細雨日昏昏　　　　春を経て 細雨 日 昏々(こんこん)たり

毎欲招尋嬾出門　　　　毎(つね)に 招尋(しょうじん)せんと欲して 嬾(ものう)く 門を出ず

但得天晴風日好　　　　但だ 天晴れ 風日の好きを得たり

看花一路到南村　　　　花を看て 一路 南村に到る

 

【語釈】

○方孟升…不祥。○昏昏…暗いさま。○招尋…訪れる。

　　　

 

★    范性華遅余不至舟發却寄　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　徐　教

范(ぼん)性(せい)華(か) 余に遅れて至らず 舟 発し 却って寄す

 

梅綻寒輕二月天　　　　梅 綻(ほころ)び 寒　軽し 二月の天

平山堂外正流連　　　　平山堂外(へいさんどうがい) 正流連なる

那堪暮雨瀟瀟下　　　　那(な)んぞ堪えんや 暮雨の瀟々(しょうしょう)として下るに

酒散旗亭客上船　　　　酒散じて 旗亭 客(かく) 船に上る

 

【語釈】

○范性華…不祥。○平山堂…不祥。○瀟瀟…雨風の寂しく降るさま。○旗亭…飲み屋。

 

　　　

★    題小景寄劉杜五　　　小景に題し 劉(りゅう)杜(と)五(ご)に寄す      　　　　清　　王　岱

 

一壑一邱高枕間　　　　一壑 一邱 高枕の間

終年無事不開關　　　　終年 無事 関(かん)を開かず

那知門外秋冬換　　　　那んぞ知らん 門外 秋冬の換わるを

黄葉庭前積滿山　　　　黄葉(こうよう) 庭前に 積みて山に滿つ

 

【語釈】

○劉杜五…不祥。○高枕…枕を高くして寝ること。○關…門を閉じるかんぬき。

 

 

★    寄王蘭泉　　　　　　　王(おう)蘭(らん)泉(せん)に寄す　　　　　　　　　　　　　  清　　高景光

 

牢落塵寰歎索居　　　　牢落(ろうらく) 塵寰(じんかん) 索(さく)居(きょ)を歎く

清渓一望渺愁予　　　　清渓 一望 渺(びょう)として予を愁えしむ

何當抱被來同宿　　　　何(いつ)か　当(まさ)に　被(ひ)を抱きて　来たりて　同じく宿し

風雨蘆花夜讀書　　　　風雨 蘆花 夜 書を読むべし

 

【語釈】

○王蘭泉…不祥。○牢落…とりとめもないさま。○塵寰…人の住むところ。○索居…ひとり寂しくしていること。○被…夜着。

 

 

 

★    客有問余近況者詩以答之　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　王　樞

客 余の近況を問う者有り 詩を以って之に答う

 

豪氣於今尚未除　　　　豪気 今に於いて 尚お未だ除かず

難將壯志付樵漁　　　　壮志を将(も)って 樵(しょう)漁(ぎょ)に付き難し

短衣射虎南山下　　　　短衣 虎を射る 南山の下

帶月歸來夜讀書　　　　月を帯び 帰り来たりて 夜 書を読む

 

【語釈】

○樵漁…木こりと漁夫、隠者。

 

 

★    秋日寄懐高梓巖　　　　秋日 高梓巌に寄懐す　　　  　　　　　　　清　　張増慶

 

琴樽幾載憶南皮　　　　琴(きん)樽(そん) 幾載(いくさい) 南皮を憶う

明月清風阻舊歡　　　　明月 清風 旧歓を阻(へだ)つ

欲問離愁何處切　　　　問わんと欲す 離愁 何れの処か切なる

滿庭黄葉雨來時　　　　満庭の黄葉 雨の来る時

 

【語釈】

○高梓巌…不祥。○舊歡…昔の楽しみ。○離愁…人と別れる悲しみ。

 

 

★    寄張策時　　　　　　　張(ちょう)策(さく)時(じ)に寄す　　　　　　　　　　　　　  清　　呉泰來

 

江湖一夢逐浮雲　　　　江湖の一夢 浮雲を逐(お)う

禪榻茶烟颺夕曛　　　　禅榻(ぜんとう)の茶煙 夕曛(せきくん)に颺(あ)がる

忽忽停盃思往事　　　　忽々(こつこつ)として 杯を停め 往事を思う

酒痕狼藉欝金裙　　　　酒痕 狼藉たり 欝(うつ)金(こん)の裙(すそ)

 

【語釈】

○江湖…隠棲する人が住む地。○禪榻…座禅を組む腰掛け。○夕曛…落日のあとの餘暉。○忽忽…ぼんやりしたさま。○往事…昔日。○狼藉…乱れて多いこと。○欝金裙…ウコンで染めた衣の袖。

　　　

 

★    括州寄内　　　　　　　括州(かつしゅう)にて内に寄す　　　　　　　　　　　　清　　劉　璜

 

屈指刀環悵浹旬　　　　指を屈し 刀環(とうかん) 悵(うら)み浹(しょう)旬(しゅん)

離居千里滞音塵　　　　離居 千里 音(おん)塵(じん)滞(とどこお)る

東流不及桐江水　　　　東流及ばず 桐江の水

一夜寒潮到富春　　　　一夜 寒潮 富春に到る

 

【語釈】　

○括州…浙江省麗水市蓮都区。○刀環…刀に付ける環。還るに通じる。○浹旬…十年。○音塵…音信。○桐江…浙江省杭州市桐廬県。○富春…富春江，浙江省中部を流れる銭塘江中流部の別称。

 

 

★    寄無言従弟　　　　　無言の従弟に寄す　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

別來十日苦相思　　　　別来 十日 苦(はなは)だ相思う

況是花飛三月時　　　　況(いわん)や是れ 花飛ぶ 三月の時においてをや

料得夜深孤館裏　　　　料り得たり 夜深き孤館の裏(うち)

一燈明滅坐填詞　　　　一灯 明滅 坐して詞を填(てん)す

 

【語釈】

○填…書き記す。

 

 

★    寄無言従弟　　　　　無言の従弟に寄す　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

             

起坐當窓残月明　　　　起坐すれば 窓に当りて 残月(ざんげつ)明(あき)らかなり　　　

蕭蕭亂竹作風聲　　　　蕭々(しょうしょう)たる乱竹 風声を作(な)す

思君不見空惆悵　　　　君を思えども 見えず 空しく 惆悵(ちゅうちょう)す

春草池塘無數生　　　　春草 池塘 無数に生ず

 

【語釈】

○起坐…起きて坐る。○蕭蕭…嘆き悲しむ。○池塘…池の隄。

　　　

 

★    節母詩為淮南陶太守作　　　　　                              清　　袁　枚

節母の詩 淮(わい)南陶(なんとう)太守(たいしゅ)の為に作る　

 

烏啼月落夜窓空　　　　烏啼き月落ち 夜窓空(むな)し　

親授兒書讀未終　　　　親児 書を授け 読むこと未だ終らず

試看採薪風雪裏　　　　試(し)看(かん)す 薪を採る 風雪の裏(うち)

阿娘手瓜為誰紅　　　　阿娘(あじょう) 手瓜 誰が為にか紅なる　

 

【語釈】

○節母…操の正しい婦人。○淮南…安徽省の中部の地。○陶太守…不祥。○試看…試みに見る。○阿娘…母親

 

 

★    節母詩為淮南陶太守作　　　　　                              清　　袁　枚

節母の詩 淮(わい)南陶(なんとう)太守(たいしゅ)の為に作る　

 

兒今五馬領淮南　　　　児 今 五馬 淮南を領す

望見蹲鴟涙便含　　　　蹲鴟に望見すれば 涙便(すなわ)ち含む

記得當年煨蘊火　　　　記し得たり 当年 蘊(うん)火(か)に煨(うず)み

膝前賜與十分甘　　　　膝前(しつぜん)に賜与(しよ)され 十分甘かりしを

 

【語釈】

○節母…操の正しい婦人。○淮南…安徽省の中部の地。○陶太守…不祥。○五馬…太守の称号。○望見…謁見。○蹲鴟…大芋。○記得…覚えている。○當年…昔。当時。○蘊火…火を貯える。○賜與…与え賜る。

 

 

★    題三妹澄碧樓　　　　　三(さん)妹(まい)澄(ちょう)碧楼(へきろう)に題す　　　　　　　　　　   清　　張葤斎

 

小軒近對碧波澄　　　　小軒 近く対して 碧波(へきは)澄む

隔着疎楊喚欲譍　　　　疎(そ)楊(よう)を隔(かく)着(ちゃく)して 喚(さけ)びて譍(こた)んと欲す

最好淡雲微月夜　　　　最も好し 淡雲 微月の夜

半簾相望讀書燈　　　　半簾 相望む 読書の灯

 

【語釈】

○三妹澄碧樓…不祥。○隔着…隔てる。着は動作の進行、完了を示す助字。○微月…おぼろ月。○半簾…半分捲き上げた簾。

 

 

★    寄子詩　　　　　　　　子に寄す詩 　　　　　　　　　　　　　  清　　徐　氏

 

家內平安報爾知　　　　家內の平安 爾(なんじ)に報じて知らしむ

田園歲入有餘資　　　　田園の歳入 余資(よし)有り

絲毫不用南中物　　　　糸(し)毫(ごう)も用いず 南中の物

好作清官答聖時　　　　好く 清官と作(な)りて 聖時に答えよ

 

【語釈】　

○餘資…余りの資財。○絲毫…極めて僅か。○南中物…南方の地、作者の子の居る地の産物。○聖時…聖明の天子の御世。

 

 

絶句類選　　巻之八　　　送別類　

 

 

★    送司馬道士遊天台　　　司馬道士が天台に遊ぶを送る　　　　　  唐　　宋之問

 

羽客笙歌此地違　　　　羽客の笙歌 此の地に違(たが)う

離筵數處白雲飛　　　　離(り)筵(えん) 数処 白雲飛ぶ

蓬萊闕下長相憶　　　　蓬萊闕下(ほうらいけっか) 長く相憶うも

桐柏山頭去不歸　　　　桐(とう)柏山頭(はくけっか) 去りて帰らず

 

【語釈】

○司馬道士…唐代の有名な道士、司馬承禎。○天台…天台山、浙江省天台県の北にある。○羽客…道士。○離筵…送別の宴席。○蓬萊闕下…蓬萊宮の宮門のあたり、大明宮の別名。○桐柏山…天台山の西にある山。

（参考文献）『唐詩選』

 

★    送梁六　　　　　　　　梁(りょう)六(ろく)を送る　　　　　　　　　　　　 　唐　　張　説

 

巴陵一望洞庭秋　　　　巴陵 一望す 洞庭の秋

日見孤峰水上浮　　　　日に見る 孤峰の水上に浮ぶを

聞道神仙不可接　　　　聞道(きくなら)く 神仙は接すべからずと

心隨湖水共悠悠　　　　心は 湖水に随い 共に悠々たり

 

【語釈】

○梁六…梁知微、潭州（湖南省長沙市）の刺史となった人物。○巴陵…岳州（湖南省岳陽市）の西南にある丘。○孤峰…君山のこと。○聞道…「きくならく」と読み、「聞くところによれば」「人の話によると」と訳す。○悠悠…長くゆったりと続くさま。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    送元二使安西送       元(げん)二(じ)の安西に使(つかい)するを送る              唐  　王 　維

 

渭城朝雨浥輕塵　　　　渭(い)城(じょう)の朝雨 軽塵を浥(うるお)す

客舍青青柳色新　　　　客舎(かくしゃ) 青々(せいせい) 柳(りゅう)色(しょく)新なり

勸君更盡一杯酒　　　　君に勧む 更に尽せ 一杯の酒を

西出陽關無故人　　　　西のかた 陽関を出ずれば 故人無からん

 

【語釈】

○元二…不祥。○安西…唐の時代に置かれた都護府の名、現在の新疆ウイグル自治区庫車。○渭城…秦の都で咸陽。○客舍…旅館。○陽関…関所の名、甘粛省敦煌県の西南にあった。○故人…古くからの友人。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    別李浦之京　　　　　　李浦の京に之くに別る　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

故園今在灞陵西　　　　故園 今 灞(は)陵(りょう)の西に在り

江畔逢君醉不迷　　　　江畔 君に逢いて 酔いて迷わず

小弟鄰莊尚漁獵　　　　小弟　隣荘に　尚お漁猟(ぎょりょう)せん

一封書寄數行啼　　　　一封の書は寄す　数行の啼(なみだ)

 

【語釈】

○李浦…不祥。○京…長安の都。○故園…ふるさと。○㶚陵…漢の文帝の陵墓。長安の東南校外にある。○江畔…川のほとり。江は長江を指す。○醉不迷…酒を飲んでも酔えない意。○小弟…おとうと。○鄰莊…別荘の隣。○漁獵…魚を捕って遊ぶ。
（参考文献）　『三体詩』

 

 

★    芙蓉樓送辛漸　　　　芙蓉楼(ふようろう)にて辛漸(しんぜん)を送る　　　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

寒雨連江夜入呉　　　　寒雨 江に連って 夜 呉に入る

平明送客楚山孤　　　　平明 客を送れば 楚山　孤なり

洛陽親友如相問　　　　洛陽の親友 如し 相問わば

一片冰心在玉壺　　　　一片の氷(ひょう)心(しん) 玉(ぎょく)壺(こ)に在り

 

【語釈】

○芙蓉樓…長江南岸の江蘇省京口（鎭江）の西北にある楼。○辛漸……不詳。○寒雨…寂しい雨、寒々とした雨。○呉…芙蓉楼のある江蘇省京口（鎭江）。○平明…夜あけがた。

○楚山…楚の山、山名不詳。○冰心…透き通って清い心。○玉壺…玉で作った壷。（南朝宋の鮑照『代白頭吟』「直如朱絲繩，清如玉壺冰。」に基づく。）

(参考文献)　　　　『唐詩選』

 

★    送薛大赴安陸　　　　　薛大(せつだい)の安陸に赴(おもむ)くを送る　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

津頭雲雨暗湘山　　　　津頭(しんとう)の雲雨 湘山(しょうざん)暗し

遷客離憂楚地顏　　　　遷客(せんかく)の離憂 楚地の顔(かんばせ)

遙送扁舟安陸郡　　　　遥かに扁舟を送る 安陸郡

天邊何處穆陵關　　　　天辺 何れの処か 穆(ぼく)陵関(りょうかん)

 

【語釈】

○薛大…薛家の長男。○安陸…湖北省の安陸県。○津頭…渡し場。○湘山…君山、洞庭湖中の西北岸の山（小島）の名。○遷客…罪によって遠方に流された人〔作者〕。○楚地顏…ここでは追放されて憔悴した屈原の顔を言う『漁父辞』「屈原既放，游於江潭，行吟澤畔，顏色憔悴，形容枯槁。」）。○天邊…大空の涯。穆陵關…安陸県の東北にあった関の名。

（参考文献）　　『唐詩選』

　　　

 

★    送魏三　　　　　　　　魏三を送る　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

醉別江樓橘柚香　　　　酔いて 江楼に別るれば 橘(きつ)柚(ゆ)香(かんば)しく

江風引雨入舟涼　　　　江風 雨を引いて 舟に入りて涼し

憶君遙在湘山月　　　　憶う 君が遥かに 湘山の月に在りて

愁聽清猿夢裏長　　　　愁え聴かん 清猿の 夢(む)裏(り)に長きを

 

【語釈】

○魏三…魏家の三男。酔別…酔って別れる意。酔いに別れの辛さをごまかすこと。江楼…川のほとりにある楼。橘柚…タチバナとユズ。江風…川風。湘山…君山のこと、洞庭湖中の西北岸の山（小島）の名。清猿…サル。もの悲しげな鳴き声を出す猿。夢裏…夢の中。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    重別李評事　　　　　　重ねて 李評事(りひょうじ)に別る　　　　　　　唐　　王昌齡

 

莫道秋江離別難　　　　道(い)う莫(なか)かれ 秋江 離別難(かた)しと

舟船明日是長安　　　　舟(しゅう)船(せん) 明日(みょうにち) 是れ 長安

呉姬緩舞留君醉　　　　呉姬 緩(かん)舞(ぶ)して 君を留めて酔わしむ

隨意青楓白露寒　　　　隨意なれ 青(せい)楓(ふう) 白露の寒(かん)

 

【語釈】

○評事…裁判官。○呉姫…呉の地方（現・浙江省）の舞姫。○緩舞…緩やかに舞う。○青楓…青い楓。○白露…露の美称。二十四節気の一、太陽暦で九月八、九日頃、秋の気配が著しくなる頃。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    盧溪別人　　　　　　　盧渓(ろけい)にて人と別る　　　　　　　　　　　　唐　　王昌齡

 

武陵溪口駐扁舟　　　　武(ぶ)陵(りょう)の渓口 扁舟を駐(とど)むるに

溪水隨君向北流　　　　渓水は 君に随って 北に向って流る

行到荆門上三峽　　　　行きて 荆門(けいもん)に到り 三峡を上らば

莫將孤月對猿愁　　　　孤月を将(も)って 猿(えん)愁(しゅう)に対すること莫れ

 

【語釈】

○盧渓…漢の武陵郡に属し、辰州五渓のひとつ。○武陵渓…盧渓に同じ。○扁舟 … 小舟。○荊門…山名。湖北省宜都県の西北、揚子江の南岸にある。○三峡…長江上流にある三つの峡谷。○孤月…ものさびしく輝く月。猿愁…猿の悲しい鳴き声。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    使還七里灘上逢薛承規赴江西貶官　　　　　　　　　　　　　　　唐　　劉長卿

使(つかい)して還り 七里灘(しちりたん)上に 薛承(せつしょう)規(き)が江西に貶官され赴(おもむ)くに逢う

 

遷客歸人醉晚寒　　　　遷客(せんかく) 帰人(きじん) 晩(ばん)寒(かん)に酔い

孤舟暫泊子陵灘　　　　孤舟 暫く泊す 子(し)陵灘(りょうたん)

憐君更去三千里　　　　憐む 君が更に去ること 三千里

落日青山江上看　　　　落日 青山 江上に看る

 

【語釈】

○七里灘…浙江省桐廬県の西南２０キロメートルほどの厳陵山の西にあった長江の難所。○薛承規…不祥。○江西…江西省。○遷客…地方に左遷された役人。○子陵灘…七里灘。

 

 

★    七里灘重　　　　　　　七里灘(しちりたん)にて重ねて送る　　　　　　　　唐　　劉長卿

 

秋江渺渺水空波　　　　秋江 渺々(びょうびょう)として 水 空しく波だつ

越客孤舟欲榜歌　　　　越客の孤舟 榜歌(ぼうか)せんと欲す

手折衰楊悲老大　　　　手に衰(すい)楊(よう)を折りて 老大を悲しむ

故人零落已無多　　　　故人 零落(れいらく)して 已に多きこと無し

 

【語釈】

○七里灘…浙江省桐廬県の西南２０キロメートルほどの厳陵山の西にあった長江の難所。○渺渺…水のはてしなくけむるさま。○越客…越の国（現・浙江省）の旅人、この詩で送別された人物。○榜歌…舟歌。○老大…年をとる。○故人…古くからの友人。○零落…落ちぶれてさびしい。○無多…多くはない。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

★    重送裴郎中貶吉州　　重ねて裴郎中(ばいろうちゅう)が吉州に貶(へん)せらるるを送る　　　　 唐　　劉長卿

 

猿啼客散暮江頭　　　　猿は啼き 客は散ず 暮(ぼ)江(こう)の頭(あたま)

人自傷心水自流　　　　人は自(おのずか)ら傷心して 水は自(おのずか)ら流る

同作逐臣君更遠　　　　同に 逐(ちく)臣(しん)と作りて 君 更に遠く

青山萬里一孤舟　　　　青山 万里 一孤舟

 

【語釈】

○重送 … 重ねて送別する。再び見送る。○裴…作者の友人、人物については不明。○郎中 …官名、尚書省の六部の四司の各司の長。○貶 … 罪によって官位をおとされ、地方に流されること。○吉州…今の江西省吉安市。○猿啼…猿が悲しげに鳴く。○客散…見送りの人々がそれぞれ帰っていく。○暮江頭…夕暮れの川のほとり。○水自流…水は水として無心に流れていく。○自…「おのずから」と読むが、ここでは「自然に」の意ではなく、「人は人、水は水、それ自体として」の意。○逐臣…放逐された臣下。○君更遠…君の左遷先は私よりずっと遠い。○青山万里…遥か彼方まで続く青々として見える山。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

 

★    送李判官之潤州行營　　李判官の潤州(じゅんしゅう)行営(こうえい)に之くを送る　　　　唐　　劉長卿

 

萬里辭家事鼓鼙　　　　万里 家を辞して 鼓鼙(こへい)を事とす

今陵驛路楚雲西　　　　今(こん)陵(りょう)の駅路 楚雲の西

江春不肯留行客　　　　江春 肯えて 行客(こうかく)を留めず

草色青青送馬蹄　　　　草色 青々(せいせい)として 馬蹄を送る

 

【語釈】

○李 … 李某、人物については不明。○判官 … 官名。節度使・観察使などの属官。○潤州 …江蘇省鎮江市。○行営 … 節度使や観察使の役所。○万里 … 万里の彼方へ。○辞家 … 自分の家を離れて。○事鼓鼙 … 軍務に従事することとなった。○鼓鼙 … 鼓は太鼓、鼙は、騎兵が馬上で打ち鳴らす小太鼓で柄がある、転じて、軍事・軍務をいう。○金陵 … 江蘇省南京市の古名。○駅路 … 駅亭間をつなぐ街道。○江春 … 長江のほとりの春景色。○不肯 … 「あえて～せず」と読み、「進んで～しようとしない」と訳す。○行客 … 旅ゆく人。○不留 … 引き留めようとはしない。○青青 … 青々と茂る。○馬蹄…馬の蹄で、馬のこと。

（参考文献）　　『唐詩選』

　

 

★    送杜十四之江南　　　　杜十四の江南に之(い)くを送る　　　　　　　  唐　　孟浩然

 

荆吳相接水爲鄉　　　　荆(けい)呉(ご) 相接して 水鄉と為る

君去春江正淼茫　　　　君去りて 春江 正(まさ)に淼茫(びょうぼう)

日暮征帆何處泊　　　　日暮れて 征(せい)帆(はん) 何の処にか泊す

天涯一望斷人腸　　　　天涯 一望 人の腸(はらわた)を断つ

 

【語釈】

○杜十四…不詳。○荊呉…荊（楚の国、湖北省地方）と呉（江蘇省の地方）。○淼茫…水がはてしなく広がっている様。○天涯…天の果て、ごく遠いところ。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    黃鶴樓送孟浩然之廣陵　　黄鶴楼(こうかくろう)にて孟浩然の広陵(こうりょう)に之(い)くを送る　　  唐　　李　白

 

故人西辭黃鶴樓　　　　故人 西のかた黄鶴楼(こうかくろう)を辞し

煙花三月下揚州　　　　煙花 三月 揚州(ようしゅう)に下る

孤帆遠影碧空盡　　　　孤帆の遠影　碧空に尽き

唯見長江天際流　　　　唯だ見る　長江の　天(てん)際(さい)に流るるを

 

【語釈】

黄鶴楼 …湖北省武漢市武昌区の楼閣。呉の黄武二年（223）の建立と伝えられ、何度も破壊と改修を繰り返してきた、「黄鶴の伝説」で名高い。之 … 目的地に向かって行くこと。広陵 … 揚州（江蘇省揚州市）の古称。故人 … 古くからの友人。辞 … 辞去する。煙花 … 春がすみの中に咲く花。孤帆 … ただ一艘いっそう浮かんで見える舟の帆。碧空 … 青空。尽 … 消える。唯 … 「ただ」と読み、「ただ～だけである」「ただ～にすぎない」と訳す。天際 … 空のはて、水平線の彼方。

（参考文献）　『唐詩選』

★    送賀賓客歸越　　　　　賀(が)賓客(ひんかく)の越に帰るを送る　　　 　　　　 唐　　李　白

 

鏡湖流水漾清波　　　　鏡湖の流水 清波を漾(ただよ)わす

狂客歸舟逸興多　　　　狂客(きょうかく)の帰舟 逸興(いっきょう)多し

山陰道士如相見　　　　山陰の道士 相(あい)見(み)る如し

應寫黃庭換白鵝　　　　応に　黄庭(こうてい)を写し　白鵝(はくが)に換えるべし

 

【語釈】

○賀賓客…賀知章。越州（浙江省紹興市）の人。太子賓客とな秘書監を授けられた。○越…浙江省紹興市。○鏡湖…紹興市の側にあった湖。賀知章が賜った。○狂客…賀知章の号。○逸興…優れたおもむき。○山陰道士…王羲之。○黃庭…黃庭経、道教の経典で不老長寿が説かれている。○結句…晉書王羲之伝の故事。

 

 

★    送人使河源　　　　　人の河源に使するを送る　　　　　　　　  唐　　張　謂

 

故人行役向邊州　　　　故人 行役し 辺州(へしゅう)に向う

匹馬今朝不少留　　　　匹馬 今朝 留まること少し

長路關山何日盡　　　　長路 関山 何れの日にか尽く

滿堂絲竹爲君愁　　　　満堂の糸竹 君が為に愁う

 

【語釈】

○河源…黄河の河源地方、寧夏省銀川のあたりから甘粛省蘭州あたりまでの地域。○行役…官命によって旅に出ること。○邊州…辺境。○匹馬 … 一匹の馬。○關山…関所のある山。○糸竹…管弦

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    虢州後亭送李判官使赴晉絳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　岑　參

 　　　　　　　虢州(かくしゅう)の後亭にて李(り)判官(はんがん)の使して晋絳(しんこう)に赴(おもむ)くを送る

 

西原驛路挂城頭　　　　西原駅路 城頭に挂(か)く

客散江亭雨未休　　　　客(かく)散じて 江亭 雨 未だ休(う)まず　　　　　　　　

君去試看汾水上　　　　君去りて 試みに 汾(ふん)水(すい)の上を看れば

白雲猶似漢時秋　　　　白雲 猶お 漢時の秋に似たり

 

【語釈】

○虢州…河南省三門峡市一帯。○後亭…州の庁舎の裏にある庭園のあずまや。○李判官…不祥。○晋…晋州、現在の山西省臨汾県。○絳 … 絳州、現在の山西省新絳県。○西原 …西の原野、虢州から晋州・絳州へ向かう途中の地。○駅路…駅亭間をつなぐ街道。○江亭…川に臨んだあずまや。後亭を指す。○汾水 … 山西省にある川。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    武威送劉判官赴磧西　　　武威(ぶい)にて劉(りゅう)判官(はんがん)の磧(せき)西(せい)に赴(おもむ)くを送る　　  唐　　岑　參

 

火山五月行人少　　　　火山 五月 行人少(まれ)なり

看君馬去疾如鳥　　　　君が馬 去りて 疾(はや)きこと 鳥の如くなるを看る

都護行營太白西　　　　都(と)護(ご)の行営 太白の西

角聲一動胡天曉　　　　角声 一たび動いて 胡天 暁(あかつき)なり

 

【語釈】

○武威…甘粛省武威市。○劉判官…不祥。○磧西 … 砂漠の西。安西都護府を指す。○火山…新疆ウイグル自治区トルファンから東に連なる山脈。火焔山ともいう。○都護…安西都護府。○行営…節度使の幕府。○太白…太白星。金星のこと。○角声…角笛。○胡天 …胡地の空。

（参考文献）　『唐詩選』

★    夜宴南陵留別　　　　　夜 南陵(なんりょう)に宴して 留別す　　　　　　　　唐　　李嘉祐

 

雪滿前庭月色閑　　　　雪は 前庭に満ちて 月色閑(かん)なり

主人留客未能還　　　　主人 客を留めて 未だ 還る能(あた)わず

預愁明日相思處　　　　預(あらかじ)め 明日を愁い 相思う処

匹馬千山與萬山　　　　匹馬 千山と万山と

 

【語釈】

○南陵…広東省陽江市陽春市。○留別…自分が旅立つときに作った詩。○匹馬…一頭の馬。孤独な旅人をいう。

 

 

★    別董大　　　　　　　　董大に別る　　　　　　　　　　　　　　  唐　　高　適

 

十里黃雲白日曛　　　　十里の黄雲 白日 曛(くん)ず

北風吹雁雪紛紛　　　　北風 雁を吹いて 雪 紛々

莫愁前路無知己　　　　愁う莫かれ 前路に 知己(ちき)無きを

天下誰人不識君　　　　天下 誰人(たれひと)か 君を識らざらん

 

【語釈】

○董大…琴の名手、董庭蘭と思われる。○十里…十里のかなたまで、空一面に。○黄雲 … 黄色い雲、黄塵を巻き上げた雲。○白日…輝く太陽。真昼の太陽。○曛 …暗くかすむこと。○紛紛 … 盛んに入り乱れること。○知己…知人。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    送王道士還京　　　　王道士(おうどうし)の京に還るを送る　　　　　　  唐　　賈　至

 

一片仙雲入帝郷　　　　一片の仙雲 帝郷に入る

數聲秋鴈至衡陽　　　　数声の秋(しゅう)鴈(がん) 衡(こう)陽(よう)に至る

借問清都舊花月　　　　借問(しゃもん)す 清都の旧花月

豈知遷客泣瀟湘　　　　豈(あ)に知らんや 遷客(せんかく) 瀟湘(しょうしょう)に泣くを

 

　【語釈】

○王道士…不祥。○仙雲…仙人の入る雲、転じて仙人。○帝郷…帝都、長安。○衡陽…湖南省衡陽市。○清都…長安のこと。遷客…左遷されて地方に移された人、作者。○瀟湘…瀟水と湘水の合流した下流、洞庭湖に近い地方。　　

（参考）　　『詩詞世界』

 

 

★    巴陵夜別王八員外     巴(は)陵(りょう)にて 夜 王八員外に別る　　　　　　唐　　賈　至

 

柳絮飛時別洛陽　　　　柳絮(りゅうじょ) 飛ぶ時 洛陽に別れ

梅花發後到三湘　　　　梅花 発(びら)く後 三湘に到る

世情已逐浮雲散　　　　世情 已に逐(お)う 浮雲の散ずるを

離恨空隨江水長　　　　離恨 空しく随う 江水の長きに

 

【語釈】

○巴陵…湖南省岳陽市。○三湘…南 湘鄉 、 湘潭 、 湘陰 (或 湘源 )，合稱 三湘南省の湘鄉、湘潭 、湘陰 。○離恨…離別の恨み。○江水…長江。

 

★    送李侍郎赴常州　　　　李侍郎(りじろう)の常州に赴(おもむ)くを送る　　　　　　　　唐　　賈　至

 

雪晴雲散北風寒　　　　雪晴れ 雲散じて 北風寒し

楚水吳山道路難　　　　楚水 呉山 道路 難し

今日送君須盡醉　　　　今日 君を送る 須(すべか)らく酔を尽すべし

明朝相憶路漫漫　　　　明朝 相(あい)憶(おも)わば 路 漫々(まんまん)

 

【語釈】

○李 …李白の族叔（同族で父より年少の者）李曄のこと。○郎 … 刑部侍郎。○雲散 … 雲が散る、李侍郎が去っていくことと掛けている。○楚水呉山 … 楚の川と呉の山。○須 … 「すべからく～べし」と読み、「ぜひ～する必要がある」「～するべきだ」と訳す。○相憶 … 互いに思い偲んでみても。○漫漫 … 道路の長く遠いさま。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    岳陽樓重宴別王八員外貶長沙　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　賈　至　　　

岳(がく)陽楼(ようろう)にて 重ねて王八員外が長(ちょう)沙(さ)に貶(へん)せらるるを宴別す

 

江路東連千里潮　　　　江路 東に連なる 千里の潮(うしお)

青雲北望紫微遙　　　　青雲 北に望めば 紫微(しび) 遥(はるか)なり

莫道巴陵湖水闊　　　　道う莫かれ 巴(は)陵(りょう) 湖水闊(ひろ)しと

長沙南畔更蕭條　　　　長沙(ちょうさ)の南畔 更に蕭(しょう)条(じょう)

 

【語釈】

○岳陽楼…湖南省岳陽市の西門の楼。○王八員外…不祥。○長沙 …湖南省長沙市。○宴別…送別の宴を催すこと。○江路…長江の航路。○青雲…青空のこと。○紫微…斗星の北東にある十五の星の名。転じて、王宮のこと。ここでは長安の都または朝廷を指す。○巴陵…湖南省岳陽市。○蕭条…物寂しいさま。

（参考文献）　『唐詩選』

★    送歐陽子還江華郡　　　欧陽子(おうようし)が江(こう)華(か)郡(ぐん)に還るを送る　　　　　唐　　錢　起

 

江華勝事接湘濱　　　　江華の勝事(しょうじ) 湘(しょう)浜(ひん)に接す

千里湖山入興新　　　　千里 湖山 興に入りて新たなり

才子思歸催去櫂　　　　才子 帰るを思い 去(きょ)櫂(よう)を催(うなが)す

汀花且爲駐殘春　　　　汀(てい)花(か)  且(か)つ為に 残春を駐(とど)む

 

【語釈】

○歐陽子…不祥。○江華郡…湖南省永州市。○江華…江華郡。○勝事…美しい景色。○去櫂…帰る舟。○汀花…岸に咲く花。

 

 

★    送客知鄂州           客(かく)の鄂(がく)州(しゅう)に知(ち)たるを送る                  唐　　韓　翃

 

江口千家帶楚雲　　　　江口の千家 楚雲を帯ぶ

江花亂點雪紛紛　　　　江花 乱点して 雪 紛々(ふんぷん)たらん

春風落日誰相見　　　　春風 落日 誰か相(あい)見(み)ん

青翰舟中有鄂君　　　　青翰(せいかん)舟中(しゅうちゅう) 鄂(がく)君(くん)有り

 

【語釈】

○鄂州…湖北省武漢市武昌区。○知…刺史。○江口…長江のほとり。○楚雲…楚の空に浮かぶ雲。楚は、湖北・湖南省一帯を指す。○乱点…あちこちに乱れ散ること。○雪…雪のように。○紛紛 … 落花が入り乱れて散るさま。○青翰舟…船首に青雀、すなわち鷁という水鳥の形の飾りをつけた船。○鄂君…戦国時代、楚国の公子。結句は『説苑』善説篇の故事を踏まえる。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    送齊山人歸長白山　　　斉(せい)山人(さんじん)の長白山(ちょうはくさん)に帰るを送る　　　　   唐　　韓　翃

 

舊事仙人白兔公　　　　旧(も)と事(つか)う 仙人の白(はく)兔(と)公(こう)

掉頭歸去又乘風　　　　頭(こうべ)を掉(ふ)り 帰り去りて 又 風に乗ず

柴門流水依然在　　　　柴門の流水 依然として在り

一路寒山萬木中　　　　一路寒山 万木の中(うち)

 

【語釈】

○齊山人…未詳、山人は世を捨てて山に隠れ住む人。○白兔公…仙人の名。掉頭…頭をふる、事柄を否定するさま。○歸去…ふるさとに帰る。○柴門…しばで作った門。○寒山…秋から冬にかけてのさびしい山、さむざむとした山。○萬木…きわめて多くの木々。

（参考文献）　『三体詩』

 

 

★    曾山送別　　　　　　　曽山(そうざん)送別(そうべつ)　　　　 　　　　　　　　　　　 唐　　皇甫冉

 

淒淒遊子苦飄蓬　　　　淒々(せいせい)たる遊子 飄(ひょう)蓬(ほう)に苦しむ

明月清罇秪暫同　　　　明月 清罇(せいそん) 秪(た)だ暫(しばら)く同(とも)にす

南望千山如黛色　　　　南のかた 千山を望めば 黛(たい)色(しょく)の如し

愁君客路在其中　　　　愁う 君が客(かく)路(ろ) 其の中に在るを

 

【語釈】

○曾山 … 場所は不明。送別 … 別れていく人を見送る。○凄凄 …寂しく辛つらいさま。○遊子 … 旅人の君。○飄蓬 … 風に吹かれてころがり飛ばされてゆく蓬。○清樽 … 清らかな酒をたたえた樽。○黛色 … まゆずみの色、かすんで見える遠山の青黒い色に喩える。○客路 … 旅路、（君の）行く道。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    送魏十六還蘇州送　　　魏十六が蘇州(そしゅう)に還るを送る　　　　　　　　唐　　皇甫冉

 

秋夜沈沈此送君　　　　秋夜 沈々(ちんちん) 此(ここ)に君を送る

陰蟲切切不堪聞　　　　陰虫　切々 聞くに堪えず

歸舟明日毗陵道　　　　帰舟 明日 毗(び)陵(りょう)の道

迴首姑蘇是白雲　　　　首(こうべ)を迴(めぐ)らせば 姑蘇(こそ)は 是れ 白雲ならん

 

【語釈】

○魏十六…不詳。○清夜…ひっそりとした夜。○沈沈…静まりひっそりとしたさま。○陰蛩…ひそかに鳴くこおろぎ。○切切…悲しいさま。○毘陵…現在の江蘇省常州市。○囘首…ふりかえり見ること。○姑蘇…現在の江蘇省蘇州市。○常州市武進区。

（参考文献）　『唐詩選』『三体詩』

 

 

★    九日送別　　　　　　　九日送別　　　　　　　　　　　　　　　唐　　王之渙

 

薊庭蕭瑟故人稀　　　　薊庭(けいてい) 蕭瑟(しょうひつ)として 故人 稀なり

何處登高且送歸　　　　何れの処か 高きに登り 且(しばら)く 帰るを送らん

今日暫同芳菊酒　　　　今日 暫(しばら)く同(おなじ)くす 芳菊の酒

明朝應作斷蓬飛　　　　明朝 応(まさ)に 断(だん)蓬(ぽう)と作(な)りて 飛ぶべし

 

【語釈】

○九日…陰暦九月九日、重陽の節句。○薊庭 … 薊州（天津市薊州区）の地。○蕭瑟…秋風がものさびしく吹くさま。○故人 … 古くからの友人。登高 … 重陽の節句に小高い丘に登って菊酒を飲み、災厄を払う行事。○且…「しばらく」と読み、「ひとまず」と訳す。○暫…しばらくの間。○芳菊酒 … 香り高い菊の花を浮かべた酒。○応…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。○断蓬 … 北方の蓬よもぎは冬になって枯れると、根が切れて丸いかたまりとなって、風の吹くままに転がって行く。行方の定まらない旅人の身の上に喩えられる。

（参考文献）　　『唐詩選』

★    丹陽送人　　　　　丹(たん)陽(よう)にて人を送る　　　　　　　　　唐　　嚴　維

 

丹陽郭裏送行舟　　　　丹(たん)陽(よう)郭(かく)裏(り) 行(こう)舟(しゅう)を送る

一別心知兩地秋　　　　一別 心に知る 両地の秋

日晚江南望江北　　　　日 晩れて 江南より 江北を望めば

寒鴉飛盡水悠悠　　　　寒鴉 飛び尽き 水悠々(ゆうゆう)たり

 

【語 釈】

○丹陽…現在の江蘇省鎮江市。○郭裏…郭は、城郭。○行舟…通り行く舟。一別…別れること。心知…心が自然と知ること。兩地秋…別れた互いの土地が秋の気配となる。江南望江北…江は、長江。長江の南より遥か北の方角を見る。寒鴉…冬のからす。○水悠悠…水は、長江の流れのこと。○悠悠は、遠くはるかなさま。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    送人歸岳陽　　　　　　人の岳陽に帰るを送る　　　　　　　　　　唐　　李　益

 

煙草連天楓樹齊　　　　煙草 天に連なり 楓樹斉(ひと)し

岳陽歸路子規啼　　　　岳陽の帰路 子規啼く

春江萬里巴陵戍　　　　春江 万里 巴(は)陵(りょう)の戍(じゅ)

落日看沈碧水西　　　　落日 沈むを看る 碧水の西

 

【語釈】

○岳陽…湖南省岳陽市。○煙草…靄のかかった草。○子規…ホトトギス。○巴陵…湖南省岳陽市。○戍…守備兵の屯営。

 

 

★    送劉侍郎　　　　　　　劉侍郎(りゅうじろう)を送る　　　　　　　　　　　唐　　李　端

 

幾人同入謝宣城　　　　幾人か 同(とも)に入る 謝宣(しゃせん)城(じょう)

未及酬恩隔死生　　　　未だ 恩に酬いるに及ばざるに 死生を隔つ

唯有夜猨知客恨　　　　唯だ 夜猨(やえん)の　知客(ちかく)を恨む有り

嶧陽溪路第三聲　　　　嶧(えき)陽(よう)の渓路 第三声

 

【語釈】

○劉侍郎…不祥。○同入…ときを同じくして幕下となる。○謝宣城…謝朓のこと。○隔死生…あの世とこの世とに別れること。○客恨…あなたの旅先でのわびしい思い。○嶧陽 …嶧山（場所不確定）の南側。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    峽口送人　　　　　　峽口にて人を送る　　　　　　　　  唐　　司空曙

 

峽口花飛欲盡春　　　　峽口 花 飛んで 尽きんと欲する春

天涯去住淚沾巾　　　　天涯 去(きょ)住(じゅう) 淚 巾(きん)を沾(うるお)す

來時萬里同爲客　　　　来時 万里 同(とも)に 客(かく)と爲り

今日飜成送故人　　　　今日 飜って 故人を送るを成す

 

【語釈】

○峽口…長江が三峽から平原にでるところ。○天涯…空の果ての地方。○去住…去ることと留まること。○巾…ハンカチ。○客…旅人。

 

★    發渝州却寄韋判官　　　渝州(ゆしゅう)を発して却って韋(い)判官(はんがん)に寄す　　　　　唐　　司空曙

 

紅燭津亭夜見君　　　　紅燭 津亭(しんてい) 夜 君を見る

繁弦急管兩紛紛　　　　繁(はん)弦(げん)急管(きゅうかん) 両(ふた)つながら紛々(ふんぷん)

平明分手空江上　　　　平明に 手を分(わか)つ 空江の上

唯有猿聲滿水雲　　　　唯だ 猿声の水雲に満つる有るのみ

 

【語釈】

○渝州…四川省重慶市。○韋判官…不祥。○津亭…渡し場の前にある旅館。○繁弦急管…管弦のおとが繁く急なるさま。○紛紛…混じり合って乱れるさま。○平明…夜明け。○空江…静寂な川面。

 

 

★    合溪送人　　　　　　　合渓(がっけい)にて人を送る　　 　　　　　　　　　唐　　劉　商

 

君去春山誰共遊　　　　君去りて 春山 誰と共にか遊ばん

鳥啼花落水空流　　　　鳥啼き 花落ちて 水 空しく流る

如今送別臨溪水　　　　如(じょ)今(こん)別れを送り 渓水(けいすい)に臨む

他日相思來水頭　　　　他日 相思いて 水頭に来(きた)らん

 

【語釈】

○合溪…湖北省宜昌市合溪。○如今…今。○水頭…渓のほとり。

 

★    滑州送人先歸　　　　　滑州(かつしゅう)にて人の先に帰るを送る　　　　　　　唐　　劉　商

 

河水冰消鴈北飛　　　　河水 氷 消えて 鴈 北に飛ぶ

寒衣未足又春衣　　　　寒衣 未だ足らず 又 春衣ならず

自憐漂蕩經年客　　　　自(みずか)ら憐れむ 漂蕩(ひょうとう) 経年の客(かく)　

送別千回獨未歸　　　　送別千回 独(ひと)り未だ帰らず

 

【語釈】

○滑州…河南省安陽市滑県。○河水…黄河の水。○漂蕩…流浪。

 

 

★    送溫台　　　　　　　　溫台を送る　　　　　　　　　　　　　　唐　　朱　放

 

眇眇天涯君去時　　　　眇々(びょうびょう)たる天涯 君の去る時

浮雲流水自相隨　　　　浮雲 流水 自(おのずか)ら相隨う

人生一世長如客　　　　人生一世 長(とこしえ)に客(かく)の如し

何必今朝是別離　　　　何ぞ必ずしも 今朝(こんちょう) 是れ別離ならん

 

【語釈】

○溫台…不祥。○眇眇…広く果てしないさま。○天涯…空のはて。○客…旅人。

 

 

★    餞裴行軍赴朝命　　　　裴(ばい)行軍(こうぐん)の朝命に赴くを餞す　　　　　　唐　　武元衡

 

來時聖主假光輝　　　　来時 聖主 光輝を仮す

心恃朝恩計日歸　　　　心に恃(たの)む 朝恩 日を計りて帰るを

誰料忽成雲雨別　　　　誰か料らん 忽ち 雲雨の別れと成るを

獨將邊淚灑戎衣　　　　独り 辺涙を将って 戎(じゅう)衣(い)に灑(そそ)ぐ

 

【語釈】

○裴行軍…不祥。○聖主…聖人である皇帝。○光輝…光栄。○朝恩…皇帝の恩。○計日歸…一定の時が経てば帰ることができる。○邊淚…辺境にある悲しみの涙。○戎衣…旅衣。

 

 

 

★    送盧起居　　　　　　　重ねて盧(ろ) 起居(ききょ)を送る　　　　　　　　　　唐　　武元衡

 

相如擁傳有光輝　　　　相如(しょうじょ) 伝を擁(よう)し 光輝有り

何事闌干淚濕衣　　　　何事ぞ 闌(らん)干(かん)として 涙 衣を湿(うるお)すとは

舊府東山餘妓在　　　　旧府 東山 余妓在り

重將歌舞送君歸　　　　重ねて 歌舞を将って 君の帰るを送らん

 

【語釈】

○盧三十一…盧士玫、郡望范陽(河北省涿州)の人。德宗貞元四年(七七八)の進士。起居舍人、吏部郎中等を歴任し太子賓客となる。起居は起居舍人。○相如…司馬相如。武帝に召されて「上林の賦」などを作り、漢魏六朝時代の文人の模範となった。○擁伝…四頭立ての伝車に乗って。伝は、四頭立ての駅伝の馬車。『史記』司馬相如伝。○闌干…涙がしきりに流れ出るさま。○旧府 … 元の役所。旧任地。洛陽を指す。○東山…浙江省紹興市上虞区の西南に位置する。○余妓…多くの妓女。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    伏翼西洞送夏方慶　　　伏(ふく)翼(よく)の西洞に夏方慶(かほうけい)を送る　　　　　　　  唐　　陳　羽

 

洞裏春晴花正開　　　　洞裏の春晴 花 正(まさ)に開く

看花出洞幾時迴　　　　花を看 洞を出でて 幾時か迴(かえ)る

殷勤好去武陵客　　　　殷(いん)勤(ぎん)に 好し去れ 武(ぶ)陵(りょう)の客(かく)

莫引世人相逐來　　　　世人を引いて 相逐(あいお)い来ること莫かれ

 

【語釈】

○伏翼…こうもり。○夏方慶…德宗貞元十年(七九四)の進士，生没事跡不祥。○武陵客…世を避けて隠棲する人（陶潜　『桃花源記』）。

 

★    送蜀客　　　　　　　　蜀客(しょくかく)を送る 　　　　　　　　　　　　　　唐　　張　籍

 

蜀客南行祭碧雞　　　　蜀客(しょくかく) 南行す 祭碧雞

木棉花發錦江西　　　　木棉 花発く 錦江の西

山橋日晚行人少　　　　山橋 日晩れて 行人少(まれ)なり

時見猩猩樹上啼　　　　時に見る 猩猩(しょうじょう)の樹上に啼くを

 

【語釈】

○蜀客…蜀の生地を離れて旅をする人。○祭碧雞…四川省西昌市にある山。○錦江…成都市中心部を流れる川で、岷江の支流。○猩猩…猿の一種。　　　

 

 

★    送元結　　　　　　　　元結を送る　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　張　籍

 

昔日同遊漳水邊　　　　昔日 同遊す 漳(しょう)水(すい)の辺(ほとり)

如今重説恨綿綿　　　　如(じょ)今(こん) 重ねて説く 恨み綿々(めんめん)

天涯相見還離別　　　　天涯 相見て 還(ま)た離別

客路秋風又幾年　　　　客(かく)路(ろ) 秋風 又幾年

 

【語釈】

○元結…鲁山（河南省）の人。天宝十二年（七五三）の進士。道州、容州刺史，加授容州を経て都督充本管經略守捉使となる。○漳水…河北省と河南省の境を流れる川。○如今…今。○綿綿…長く続いて堪えないさま。○天涯…空のはて。○客路…旅の道。

 

★    草堂　　　　　　　　　草堂に別る　　　　　　　　  　　　唐　　白居易

 

三間茅舍向山開　　　　三間の茅舎 山に向って開き

一帶山泉遶舍迴　　　　一帯の山泉 舎を遶(めぐ)りて迴(めぐ)る

山色泉聲莫惆悵　　　　山色の泉声 惆悵(ちゅうちょう)する莫かれ

三年官滿却歸來　　　　三年 官満たば 帰却(ききゃく)し来らん

 

【語釈】

○草堂…草葺きの粗末な家。○三間…間口三間。○茅舎…茅吹きの粗末な家。○惆悵…嘆き悲しむ。○却歸…もどる。却は動作の意思を表す接尾語。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

 

 

★    送魏簡能東遊　　　　魏簡(ぎかん)能(のう)の東遊(とうゆう)するを送る　　　　　　　　　　唐    李　涉

 

獻賦論兵命未通　　　　賦を献じ 兵を論ずれども 命 未だ通ぜず

却乘羸馬出關東　　　　却って羸(るい)馬(ば)に乗じ 関東を出ず　

灞陵原上重回首　　　　灞(は)陵(りょう)原上(げんじょう) 重ねて首(こうべ)を回(めぐ)らせば

十載長安似夢中　　　　十載の長安 夢中に似たり

 

【語釈】

○魏簡能…不祥。○獻賦…賦を皇帝に献ずること。○羸馬…やせ馬。○關東…函谷関の東の地方。○灞陵…陕西省西安市の東にあった県。

 

 

★    送人謫幽州　　　　　　人の幽州(ゆうしゅう)に謫(たく)せらるを送る　　　　　　　　唐　　陳去疾

 

臨路深懷放廢慚　　　　路に臨み 深く懐う 放廃(ほうはい)の慚(はじ)

夢中猶自憶江南　　　　夢中 猶お 自(おのずか)ら 江南を憶う

莫言塞北春風少　　　　言う莫かれ 塞(さい)北(ほく) 春風少(まれ)なりと

還勝炎荒入瘴嵐　　　　還って 炎(えん)荒(こう) 瘴(しょう)嵐(らん)に入(い)るに勝る

 

【語釈】

○幽州…北京。○放廢…罷免され放逐されること。○塞北…万里の長城の北。○炎荒…南方の炎熱荒遠の地。○瘴嵐…熱病を起こす山川の毒気の嵐。

 

 

★    洲送朱萬言　　　　　瓜(か)洲(しゅう)にて朱(しゅ)万言(まんげん)を送る　　　　　　　　  唐　　顧非熊

 

渡頭風晚葉飛頻　　　　渡頭(ととう) 風晩れて 葉の飛ぶこと頻(しきり)なり

君去還呉我入秦　　　　君去りて 呉に還(かえ)り 我は秦に入る

雙淚別家猶未斷　　　　双涙 家を別れて 猶お 未だ断えず

不堪仍送故郷人　　　　堪えず 仍(しきり)に 故郷の人を送るに

 

【語釈】

○瓜洲…江蘇省邗江県。○朱萬言…不祥。○渡頭…渡し場。○呉…江蘇省。○秦…陝西省。

 

 

★    送宋處士歸山　　　　　宋処士(そうしょし)が山に帰るを送る　　　　　　　　　唐　　許　渾

 

賣藥修琴歸去遲　　　　薬を売り 琴を修めて 帰去すること遅し

山風吹落桂花枝　　　　山風 吹き落とす 桂花の枝

世間甲子須臾過　　　　世間 甲子(かっし) 須臾(しゅゆ)に過ぐ

逢著仙人莫看棋　　　　仙人に逢著(ほうちゃく)して 棋を看ること莫かれ

 

【語釈】

○宋處士…不祥。處士は官に使えない人。○帰去…故郷に帰る。○甲子…暦日。○逢著…出会う。○看棋…『述異記』における「爛柯」

 

 

★    謝亭送別             謝亭(しゃてい)の送別　　　　　　　　　　　　　　　唐　　許　渾

 

勞歌一曲解行舟　　　　労歌 一曲 行舟を解けば

紅葉青山水急流　　　　紅葉 青山 水は急流す

日暮酒醒人已遠　　　　日暮 酒 醒むれば 人已に遠く

滿天風雨下西樓　　　　満天の風雨 西楼を下る

 

【語釈】

○謝亭…亭の名。謝公亭ともいう。宣城の北側にあり、南斉の詩人・謝朓が宣城の太守に任じられていた時に建てたもの。謝朓が、曽てここで友人の范雲を送別したことで、後には謝亭とは宣城での送別の地として有名になった。○労歌…労労亭での送別の歌、転じて、送別の歌。○解…舟の纜を解く。○日暮…日暮れ。○人…舟に乗って別れて行った人。○満天…空いっぱい。○西楼…今回、送別の宴を開いた労労亭。

（参考文献）　『中国名詞集』

 

★    別人                  人に別る        　　　　　　　　　　唐　　溫庭筠

 

江海相逢客恨多　　　　江海に相逢いて 客(かく)恨(こん)多し

秋風葉下洞庭波　　　　秋風 葉下りて 洞庭波だつ

酒酣夜別淮陰市　　　　酒 酣(たけなわ)にして 夜 別る 淮(わい)陰(いん)の市

月照高樓一曲歌　　　　月は 高楼を照らして 一曲の歌

 

【語釈】

○客恨…故郷を離れた愁い。○洞庭…洞庭湖、湖南省北部にある湖。○淮陰市…江蘇省淮安市淮陰区。

 

 

★    送人西歸　　　　　　　人の西に帰るを送る　　　　　　　　　 唐　　張　賁

 

孤雲獨鳥本無依　　　　孤雲 独鳥 本 依(よ)る無し

江海重逢故舊稀　　　　江海に 重ねて逢う 故旧稀なり

楊柳漸疏蘆葦白　　　　楊柳 漸(ようや)く疏(そ)にして 蘆(ろ)葦(い)白し

可憐斜日送君歸　　　　憐むべし 斜日の 君の帰るを送るを

 

【語釈】

○江海…四方各地。○故旧…旧友。○蘆葦…アシとヨシ。○漸…だんだんと。○蘆葦…アシとヨシ。○可憐…感嘆の言葉、ああ。○斜日…夕陽。

 

 

★    淮上與友人別　　　　　淮上にて友人と別る　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

揚子江頭楊柳春　　　　揚子江頭 楊柳の春

楊花愁殺渡江人　　　　楊花 愁(しゅう)殺(さつ)す 江を渡る人

數聲風笛離亭晚　　　　数声の風笛 亭を離るる晩(くれ)

君向瀟湘我向秦　　　　君は瀟湘(しょうしょう)に向い 我は秦に向う

 

【語釈】

○淮上…淮水（現・淮河）華中を流れる河のほとり。○楊柳…柳の総称。○楊花…柳絮。柳の花が咲いた後、白い綿毛のある種子が散るさま。○愁殺…ひどく愁えさせる。○風笛…風に散る笛の声。○離亭…送別の宴を張る亭。○瀟湘…遥か南方の地湖南省。○秦…長安などのある陝西省の別称。

（参考ブログ）　「詩詞世界」

　　　

 

★    送薛學士赴任峽州送　　薛(せち)学士(がくし)の峡(きょう)州(しゅう)に赴任するを送る　　　　　　唐　　呉　融

 

片帆飛入峽雲深　　　　片帆 飛び入る 峡雲深し

帶雨兼風動楚吟　　　　雨を帯び 風を兼ねて 楚吟を動かす

何似玉堂裁詔罷　　　　何んぞ似たる 玉堂 詔を裁するを罷め

月斜鳷鵲漏沈沈　　　　月 斜めにして 鳷鵲(しじゃく) 漏(ろう) 沈々たるに　

 

【語釈】

○薛學士…不祥。○峽州…湖北省宜昌市。○片帆…孤舟。○楚吟…楚辞。○玉堂…翰林院。○鳷鵲…宮殿の名。長安の甘泉宮にあった。○漏…水時計。○沈沈…音が断続してかすかに聞こえて来るさま。

 

 

★    送人歸上國　　　　　　人の上国に帰るを送る　　　　　　　　　　　唐　　韋　莊

 

送君江上日西斜　　　　君を送る 江上 日は西に斜なり

泣向春風滿樹花　　　　泣いて 春風に向えば 満樹の花

若見青雲舊相識　　　　若し 青雲の旧相識(きゅうそうしき)を見れば

爲言流落在天涯　　　　為に言え 流落(りゅうらく)して天涯に在ると

 

【語釈】

○青雲…志の高い人。○舊相識…古い知り合い。○流落…落ちぶれる。○天涯…空のはて。

 

　　

 

★    江上別李秀才　　　　　江上にて李秀才に別る　　　　　　　　　唐　　韋　莊 

 

前年相送灞陵春　　　　前年 相送る 灞(は)陵(りょう)の春

今日天涯各避秦　　　　今日 天涯 各(おのおの) 秦を避く

莫向尊前惜沈醉　　　　尊前に向(お)いて 沈酔(ちんすい)を惜しむ莫かれ

與君俱是異郷人　　　　君と俱(とも)に 是れ 異郷の人

 

【語釈】

○江上…長江の畔。○李秀才…李という姓の科挙の貢試に合格した人物。○灞陵…長安の人士が旅立つ人を見送って灞陵橋畔まで足を運び、柳の枝を折って送別の意を表したという。○天涯…空のはて、故郷を遠く離れた地。○避秦…乱を避けて離れていること。○向…於いて。○沈酔…酔いつぶれる。

（参考文献）　『和漢名詩選類評釈』

 

 

★    衢州江上別李秀才　　　衢州(くしゅう)の江上にて李秀才と別る　　　　　　　　唐　　韋　莊

 

千山紅樹萬山雲　　　　千山の紅樹 万山の雲

把酒相看日又曛　　　　酒を把(と)り 相(あい)看(み)れば 日 又 曛(くん)ず

一曲驪歌兩行涙　　　　一曲の驪歌(りか) 両行(りょうこう)の涙

更知何地再逢君　　　　更に知る 何の地にて 再び君に逢わん

 

【語釈】

○衢州…浙江省衢州市。○李秀才…李という姓の科挙の貢試に合格した人物。○驪歌…告別の歌。

　　　

 

★    暮春滻水送別　　　　　暮春滻水の送別　　　　　　　　　　　　　唐　　韓　琮　　

 

綠暗紅稀出鳳城　　　　緑 暗く 紅 稀にして 鳳(ほう)城(じょう)を出ず

暮雲樓閣古今情　　　　暮雲 楼閣 古今の情

行人莫聽宮前水　　　　行人 聴く莫かれ 宮前の水

流盡年光是此聲　　　　年光を流尽(りゅうじん)するは 是れ 此の声

 

【語釈】

○滻水…不祥。○鳳城…首都長安の美称。○行人…旅人。○年光…年月。○流盡…流し尽くす。

 

★    送友人之上都　　　　　友人の上都に之(ゆ)くを送る　　　　　　　　　唐　　法　振

 

玉帛徵賢楚客稀　　　　玉帛(ぎょくはく) 賢を徴し 楚客(そかく)稀なり

猨啼相送武陵歸　　　　猿啼き 相送りて 武陵(ぶりょう)に帰る　

湖頭望入桃花去　　　　湖頭の望(ぼう)は 桃花に入りて去り

一片春帆帶雨飛　　　　一片の春帆 雨を帯びて飛ぶ

 

【語釈】

○上都…首都、長安。○玉帛…賢者を招く使者。○楚客…故郷を離れて住む人。○武陵…湖南省常德市。『桃花源記』の漁夫の住んでいたところ。○湖頭…湖のほとり。

 

 

★    暮春送人　　　　　　　暮春 人を送る　　　　　　　　　　　　唐　　無　悶

 

折柳亭邊手重攜　　　　柳を折る 亭辺 手を重ねて携う

江煙澹澹草萋萋　　　　江煙 澹々(たんたん) 草萋々(せいせい)

杜鵑不顧離人意　　　　杜鵑(とけん)は顧(かえりみ)ず 離人の意　

更向落花枝上啼　　　　更に 落花 枝上に向って啼く

 

【語釈】

○江煙…水上に立つもや。○澹澹…薄いさま。○萋萋…草木が盛んに生い茂っているさま。○杜鵑…ホトトギス。鳴き声は故郷に帰る思いをつのらせる。○離人…家を離れた人。

 

 

★    送履霜上人還金陵西山　　履(り)霜(そう)上人の金陵の西山に還るを送る　　　唐　　僧皎然

 

携錫西山步綠莎　　　　錫(しゃく)を携え 西山 緑莎(りょくさ)を歩く

禪心未了奈情何　　　　禅心 未だ了(りょう)せず 情を奈何(いかん)んせん

湘宮水寺清秋夜　　　　湘宮 水寺 清秋の夜

月落風悲松柏多　　　　月落ち 風悲みて 松柏多し

 

【語釈】

○履霜上人…不祥。○金陵…南京。○綠莎…緑草の地。○湘宮…湖南省。

 

 

★    冬日梅溪送裴方舟宣州　　冬日 梅溪に 裴(はい)方舟(ほうしゅう) 宣州(せんしゅう)を送る　　　　  唐　　僧皎然

 

平明走馬上村橋　　　　平明に馬を走らして 村橋に上る

花發梅溪雪未消　　　　花発く梅溪 雪 未だ消(しょう)せず

日短天寒愁送客　　　　日短く 天寒く 愁いて客(かく)を送る　

楚山無限路遙遙　　　　楚山 限り無く 路 遙々(ようよう)

 

【語釈】

○裴方舟…裴濟、郡望河東聞喜(山西省聞喜)の人。代宗大歷中，湖州從事となる。○宣州…安徽省宣城市宣州区。○平明…夜明け方。○楚山…楚の地方の山々。○遙遙…遙かに遠く離れるさま。

 

 

★    送人往長沙　　　　　　人の長沙(ちょうさ)に往くを送る　　　　　　　　　　唐　　僧齊己

 

荆門歸路指湖南　　　　荆門(けいもん)の帰路 湖南を指さす

千里風帆興可諳　　　　千里の風帆 興 諳(そらん)ずべし

好聽鷓鴣啼雨處　　　　好し 聴く 鷓鴣(しゃこ)の雨に啼く処

木蘭舟晚泊春潭　　　　木蘭の舟 晩(くれ)に 春潭(しゅんたん)に泊す

 

【語釈】

○長沙…湖南省長沙市。○荆門…湖北省宜昌市荆門山。○湖南…中国南部の省。○風帆…帆掛け船。○春潭…春の淵。

 

 

★    送魏道士　　　　　　　魏(ぎ)道士(どうし)を送る　　　　　　　　　　　　宋　　張　詠

 

江上蕭蕭木葉飛　　　　江上 蕭々(しょうしょう)として 木葉(もくよう)飛ぶ

天台狂客杖藜歸　　　　天台の狂客(きょうかく)　杖藜(じょうれい)して帰る

莫嫌俗吏勤相顧　　　　嫌(きら)う莫(なか)れ 俗吏の勤めて相顧(あいかえりみ)るを

曾是嵩陽舊掩扉　　　　曽(かつ)て是れ 嵩(すう)陽(よう) 旧(もと) 扉を掩(おお)う

 

【語釈】

○魏道士…不祥。○蕭蕭…物寂しいさまや音の形容。○狂客…奇行のある人。○杖藜…藜（あかざ）を杖にする。藜は老人、隠者の杖。○嵩陽…崇山の南側。

 

★    送易從師還金華　　　　易(えき)従師(じゅうし)の金華(きんか)に還るを送る　　　　　　　　宋　　林　逋

 

吟卷田衣歲向殘　　　　吟巻(ぎんかん) 田(でん)衣(い) 歳(とし) 残(ざん)に向う

孤舟夜泊大江寒　　　　孤舟 夜泊して 大江寒し

前巖數本長松色　　　　前巌 数本 長松(ちょうしょう)の色

及早歸來带雪看　　　　早(つと)に帰り来りて 雪を带びて看るに及ぶ

 

【語釈】

○易從師…不祥。○金華…金華山。浙江省金華市の北にある山。○吟卷…詩稿、詩冊。○田衣…袈裟。○歲向殘…一年が残り少なくなる。○大江…長江。

 

 

★    永州送周茂叔還濂溪　　　永州にて周茂叔(しゅうもしゅく)の濂(れん)渓(けい)に還るを送る　　　  宋　　任大中

 

君去何人最淚流　　　　君去りて 何人(なにびと)か 最も 涙流る

老翁身獨宿南州　　　　老翁 身独り 南州に宿す

隨君不及秋來雁　　　　君に随いて 及ばず 秋来の雁に

直到瀟湘水盡頭　　　　直ちに到る 瀟湘(しょうしょう) 水尽くる頭(ほとり)

 

【語釈】

○永州…湖南省永州市。○周茂叔…周敦頤、道州營道（湖南省道県）の人。各県の知事を務めた。程顥、程頤等を門下生とする。○濂溪…湖南省道県の川。○南州…重慶から三峽あたりの州。○瀟湘…瀟水と湘水が合流する洞庭湖南の地方。

 

 

★    送客西陵　　　　　　　西陵に客(かく)を送る　　　　　　　　　　　  宋　　王安國

 

若耶溪畔醉秋風　　　　若耶渓(じゃくやけい)畔(はん) 秋風に酔い

獵獵船旗照水紅　　　　猟々(りょうりょう)たる船旗 水を照らして紅なり

後夜錢塘酒樓上　　　　後夜 銭塘 酒楼の上

夢魂應繞浙江東　　　　夢魂 応に 浙江の東を繞(めぐ)るべし

 

【語釈】

○西陵…浙江省蕭山市西興鎮。○若耶溪…浙江省北部、紹興の若耶山を流れる谷川。鏡湖に注ぐ。○獵獵…物の翻るさま。○後夜…夜半過ぎ。○銭塘…浙江省杭州市。○浙江…錢塘江。

 

 

★    彭城逍遥堂留別瞻兄　　　彭(ほう)城(じょう)の逍遥堂(しょうようどう)にて瞻(せん)兄(けい)に留別す　　　　宋　　蘇　轍

 

逍遥堂後千尋木　　　　逍遥堂後(しょうようどうご) 千尋の木

常送中宵風雨聲　　　　常に送る 中宵(ちゅうしょう) 風雨の声

誤喜對床尋舊約　　　　誤って喜ぶ 対床 旧約を尋ぬかと

不知漂泊在彭城　　　　知らず 漂泊して 彭(ほう)城(じょう)に在るを

 

【語釈】

○彭城…江蘇省徐州市。○逍遥堂…所在地不祥。○瞻兄…蘇軾。○留別…自分が別れて旅立つときに残す詩。○中宵…真夜中。○舊約…昔の約束。○漂泊…さすらう。

 

 

★    彭城逍遥堂留別瞻兄　　　彭(ほう)城(じょう)の逍遥堂(しょうようどう)にて瞻(せん)兄(けい)に留別す　　　　宋　　蘇　轍

 

秋來東閣凉如水　　　　秋来 東閣 涼しきこと 水の如し

客去山公醉似泥　　　　客(かく)去りて 山公の酔 泥に似たり

困卧北窗呼不醒　　　　困卧す 北窓 呼べども醒めず　

風吹松竹雨凄凄　　　　風は 松竹を吹き 雨 凄々(せいせい)

 

○彭城…江蘇省徐州市。○逍遥堂…所在地不祥。○瞻兄…蘇軾。○留別…自分が別れて旅立つときに残す詩。○山公醉…酔った状態で訳が分からなくなること。山公は山簡、字は季倫。西晋時代の人。竹林の七賢、『世説新語』（任誕）白接籬。○凄凄…冷え冷えとしたさま。

 

 

★    送呂晦叔赴河陽　　　　呂晦叔(ろかいしゅく)が河(か)陽(よう)に赴(おもむ)くを送る　　　　　　  宋　　程　顥

 

曉日都門颭斾旌　　　　暁日 都門 斾旌(せいはい)颭(ゆれ)る

晚風鐃吹入三城　　　　晩風 鐃吹(ぎょうすい) 三城に入る

知公再爲蒼生起　　　　知公 再び 蒼生(そうせい)の為に起(た)つ

不是尋常刺史行　　　　是れ 尋常の 刺史の行(こう)ならず

 

【語釈】

○呂晦叔…呂公著。壽州（安徽省鳳台）の人。仁宗時の進士。尚書右僕矢兼中書侍郎となる。○河陽…河南省焦作市孟州市。○曉日…朝日。○斾旌…旗。○鐃吹…軍中の楽歌。○知公…沈約。南朝宋・斉・梁の3朝に仕えた政治家。○蒼生…人民。

 

　　　

★    別元忠學士八兄　　　　元忠学士八(げんちゅうがくしはち)兄(けい)に別る　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

身逐孤舟似斷雲　　　　身は孤舟を逐(お)いて 断雲に似たり

故人追送尚殷勤　　　　故人 追送して 尚お殷(いん)勤(ぎん)なり

秋城夜泊西風岸　　　　秋城 夜泊 西風の岸

落葉悲蟲獨自聞　　　　落葉 悲虫 独り自(おのずか)ら聞く　

 

【語釈】

○元忠學士…不特定。○故人…古くからの友人。○追送…送る。○殷勤…愁い傷むさま。

 

 

★    古離別　　　　　　　　古離別(こりべつ)　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　張　耒

 

亭亭畫舸繫春潭　　　　亭々(ていてい)たる画舸(がか) 春潭(しゅんたん)に繫ぐ　

直到行人酒半酣　　　　直ちに到る行人(こうじん)  酒半ば酣(たけなわ)なり

不管烟波與風雨　　　　管せず 煙波と風雨と

載將離恨過江南　　　　離恨を将(も)って載せ 江南を過ぐ

 

【語釈】

○古別離 … 楽府題。古風な調べにならって、別離の心情を詠んだ詩。○亭亭…高く聳え立つさま。○畫舸…画で彩られた船。○行人…旅人。○煙波…水面に立つ煙。○離恨…別れの恨み。○江南…長江中下流の南の地方。

 

★    送選兄歸天台　　　　　選(せん)兄(けい)の天台に帰るを送る　　　　　　　　宋　　曹　勛

 

一笠彌天亦大奇　　　　一(いち)笠(りゅう) 弥天(やてん) 亦た大奇(たいき)

選公訪我索新詩　　　　選(せん)公(こう) 我を訪れ 新詩を索す

赤城歸去應相憶　　　　赤城(せきじょう)に帰り去りて 応(まさ)に相憶うべし

十里松風月上時　　　　十里の松風 月の上る時

 

【語釈】

○選兄…不祥。○天台…浙江省台州市天台山。○彌天…志の高いさま。○選公…選兄のこと。○赤城…赤城峰。天台山の目印となる山。○應…「まさに～すべし」と読み、「～すべきである」「きっと～にちがいない」の意。

　

 

★    送甘叔懷游廬阜　　　　甘叔(かんしゅく)懐(かい)の廬阜(ろき)に游ぶを送る　　　　　　　　宋　　朱　熹

 

匡廬不見幾經年　　　　匡廬(きょうろ) 見ず 幾年を経(ふ)

一話清遊一悵然　　　　一話清遊 一悵然

此日送君憑問訊　　　　此の日 君を送り 憑(よ)りて問訊(もんじん)す

千峰影裏舊潺湲　　　　千峰影裏(せんぽうえいり) 旧(も)と潺湲(せんかん)　

 

【語釈】

○甘叔懷…不祥。○廬阜…江西省の廬山。○匡廬…江西省の廬山。○清遊…清雅な遊び。○悵然…歎くさま。がっかりしたさま。○問訊…問いただす。○潺湲…浅い水の流れるさま。

 

 

★    清湘驛送王柳州南歸　　　清湘(せいしょう)駅(えき)にて王(おう)柳州(りゅうしゅう)の南に帰るを送る　　　宋　范成大

 

南歸北去路茫茫　　　　 南帰 北去 路 茫々(ぼうぼう)

不是行人也斷腸　　　　  是れ 行人(こうじん)にあらずとも 也(ま)た断腸

可惜湘江春夜月　　　　　惜むべし 湘江 春夜の月

落花時節照離觴　　　　　落花の時節 離觴(りしょう)を照らす

 

【語釈】

○清湘驛…不祥。○王柳州…不祥。○行人…旅人。○茫茫…遠く果てしないさま。○断腸…非常な悲しみ。○湘江…湖南省最大の川。○離觴…別れの杯。

 

 

★    夜離零陵以避同僚追送之勞留詩簡諸友　　　　　　　　　　　　　　宋　　楊萬里

夜 零陵を離れ 以って同僚の追送の労を避け 詩簡を諸友に留む

 

已坐詩臞病更羸　　　　已に詩臞(しく)に坐せられて 病 更に羸(よわ)る　

諸公剛欲餞湘湄　　　　諸公 剛(まさ)に湘湄(しょうび)に餞(せん)せんと欲す　

夜浮一葉逃盟去　　　　夜 一葉を浮かべて 盟を逃げて去る

已被沙鷗聖得知　　　　已に 沙鴎に聖得知(せいとくち)せらる　

 

【語釈】

○零陵…湖南省寧遠市東南。○詩簡…詩を書いた紙。○詩臞…やせ衰えた詩人。○湘湄…湘江と湄江の合流点。○餞…送別する。○一葉…一つの小舟。○聖得知…素早く敏感に知る。

 

 

★    送鄭節夫              鄭(てい)節夫(せつふ)を送る                          宋　　劉　宰

 

盛年已去壯心閑　　　　盛年 已に去れども 壮心閑(かん)なり

此別懸知後會難　　　　此の別れ 懸(はるか)に知る 後の会の難(かた)きを

願使乾坤同日月　　　　願うに 乾坤(けんこん)をして日月を同じくせしめば

不妨閩浙異江山　　　　妨(さまた)げず 閩浙(びんせき) 江山を異にするを　

 

【語釈】

○鄭節夫…不祥。○壯心…豪壮の志。○懸知…計り知る。○乾坤…天地、天帝。○閩浙…福建省と浙江省。

 

★    送真舍人帥江西　　　　真(しん)舎人(しゃじん)の江西に帥(すい)たるを送る　　　　　宋　　劉克莊

 

舶客珠犀湊郡城　　　　舶客(はくかく) 珠(しゅ)犀(さい) 郡城に湊(みなと)す

向來點涴幾名卿　　　　向来 点涴(てんえん)す 幾名卿

海神亦歎公清德　　　　海神 亦た歎ず 公の清徳

少見歸舟箇樣輕　　　　見ること少(まれ)なり 帰舟の 箇(か)様(よう)に軽きを

 

【語釈】

○真舍人…不祥。○江西…江西省。○珠犀…貴重で珍しい物。○郡城…郡の中心街。○向來…昔から。○點涴…けがす。○幾名卿…多くの名声のある公卿。○清德…高潔な品徳。○箇樣…このように。

 

 

★    荆南別賈制書東歸　　　　荆(けい)南(なん)にて賈制書(かせいしょ)の東に帰るに別る　　　　宋　　鄭　起

　

來時秋雨滿江樓　　　　来たる時 秋雨 江楼に満つ

歸日春風度客舟　　　　帰る日 春風 客(かく)舟(しゅう)に度(わた)る

回首荆南天一角　　　　首(こうべ)を回らせば 荆(けい)南(なん) 天の一角

月明吹笛下揚州　　　　月明に 笛を吹いて 揚州(ようしゅう)を下る

 

【語釈】

○荆南…荊州（湖北省一帯）の南部。○賈制書…不祥。○客舟…客船。○揚州…江蘇省揚州市。

 

 

★    別李寄閑　　　　　　　李寄(りき)閑(かん)に別る　　　　　　　　　　　　　  宋　　僧實存

 

客氈未暖各東西　　　　客氈(かくせん) 未だ暖かならざるに 各(おのおの)東西

望斷呉山杳霞中　　　　望断す 呉山 杳(よう)霞(か)の中(うち)

燕子不來春又老　　　　燕子(えんし) 来らず 春又老ゆ

滿襟離思落花風　　　　満襟(まんきん)の離思(りし) 落花の風

 

【語釈】

○客氈…旅館での寝床の布団。○望斷…遠くまで見尽くす。○杳霞…深い靄。○滿襟…襟に満ちる。○離思…旅中で故郷に帰りたいという思い。

 

 

★    上逢袁景従　　　　　江上 袁景(えんけい)従(じゅう)に逢う　　　　　　　　　　　　明　　馬　熒

 

茫茫江上浸平沙　　　　茫々(ぼうぼう)たる江上 平沙(へいさ)を浸す

雁影翩翩帶日斜　　　　雁(がん)影(えい) 翩々(へんぺん) 日を帯びて斜なり

欲駐扁舟風更急　　　　扁舟を駐めんと欲すれば 風 更に急なり

明朝相憶即天涯　　　　明朝 相憶うは 即ち天涯

 

【語釈】

○袁景従…不祥。○茫茫…広々としたさま。○平沙…平らな砂浜。○翩翩…ひらひら。○扁舟…小舟。○天涯…空のはて。

 

 

 

★    逢呉秀才復送歸江上　　呉(ご)秀才(しゅうさい)に逢い復た江上に帰るを送る　　　　明　　髙　啓

 

江上停舟問客蹤　　　　江上 舟を停め 客蹤(かくしょう)を問う

亂前相别亂餘逢　　　　乱前 相别れ 乱余に逢う

暫時握手還分手　　　　暫時(ざんじ) 手を握り 還た手を分つ

暮雨南陵水寺鐘　　　　暮雨の南陵 水寺の鐘

 

【語釈】

○秀才…学者、知識人階級のこと。○復…ふたたび。○江上…河の畔、川の水面。○客蹤…旅人としての行跡。○亂…元末の張士誠の叛乱。○餘……後。○暫時…しばらくの間。還…また。○南陵…地名。○水寺…水辺にある寺。

（参考資料）　「ブログ　詩詞世界」

 

 

★    送義烏龔叔安給事歸省　　　義烏龔叔安給事(ぎちょうきょうしゅくあんきゅうじ)の帰省を送る　　　　明　　方孝孺

 

鷄舌同含侍紫宸　　　　鶏(けい)舌(ぜつ) 同(とも)に含み 紫宸(ししん)に侍す

朝回東閣每相親　　　　朝(ちょう)より回(かえ)りて 東閣 毎(つね)に相親しむ

片帆忽逐西風去　　　　片(へん)帆(ぱん) 忽ち 西風を逐いて去る

鴛鷺行中少一人　　　　鴛(えん)鷺(ろ)行中 一人を少(か)く

 

【語釈】

○義烏…浙江省金華市義烏市。○龔叔安…龔泰、浙江省義烏の人。洪武二十九年挙人となり、官戶科都給事中となる。○給事…給仕中、法令の異失を調べる官。○鷄舌…鷄舌香。奏上するときに口に含んだ。○紫宸…紫宸殿、天子の居所。○片帆…小舟。○鴛鷺行…朝官の行列。

 

★    送林一和　　　　　　　林一和(りんいちわ)を送る　　　　　　　　　　　   明　　高　棅

 

雨裏春衣惜解携　　　　雨(う)裏(り) 春衣 解携(かいけい)を惜しむ

出門愁見草萋萋　　　　門を出て 愁い見れば 草萋々(せいせい)

憶君獨在星渓月　　　　君を憶いて 独り 星渓(せいけい)の月在り

無那青山杜宇啼　　　　無那(いかんするともな)し 青山 杜宇(とけん)の啼くを

 

【語釈】

○雨裏…雨の中。○解携…離別。○萋萋…草木が盛んに生い茂っているさま。○無那…どうしようもない。○杜宇…ほととぎす。故郷に帰るを促す。

 

 

★    即事　　　　　　　　　即事　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　曾　棨

 

片片飛花逐水流　　　　片々(へんぺん)たる飛花 水を逐(お)って流れ

傷春何處最多愁　　　　春を傷みて 何れの処か 最も愁い多き

紅妝獨倚闌干立　　　　紅妝(こうしょう) 独り 闌干に倚りて立ち

望盡征帆不下樓　　　　征(せい)帆(はん)を望尽(ぼうじん)して 楼を下らず

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○片片…ひらひらと軽く飛ぶさま。○紅妝…化粧をした美人。○征帆…旅客を乗せた帆掛け船。○望盡…見えなくなるまで眺める。

 

 

★    淮安別回御史　　　　　淮安(じゅんあん)にて回(かい)御史(ぎょし)に別る　　　　　　　　明　　王　英

 

遠別悠悠郷夢頻　　　　遠別(えんべつ) 悠々(ゆうゆう) 郷夢(きょうむ)頻(しきり)なり

逢君況是異郷春　　　　君に逢う 況(いわん)や是れ 異郷の春においてをや

可憐河畔青青柳　　　　憐むべし 河畔 青(せい)々(せい)の柳

又折長條別故人　　　　又 長条(ちょうじょう)を折りて故人に別る　　　　

 

【語釈】

○淮安…江蘇省淮安市。○回御史…不祥。○悠悠…遠く遙かなさま。○郷夢…故郷の夢。○可憐…感嘆の言葉。ああ。○長條…長い枝。「折楊柳」

 

 

★    送客　　　　　　　　　客(かく)を送る　　　　　　　　　　　　　　明　　王雲鳳

 

春濕蒸雲雨欲絲　　　　春は蒸(じょう)雲(うん)を湿(うるお)し 雨 糸ならんと欲す

飄飄遊子別離時　　　　飄々(ひょうひょう)たる遊子(ゆうし) 別離の時

愁看陌上青青草　　　　愁い看る 陌上(はくじょう) 青々の草

送盡行人總不知　　　　行人(こうじん)を送尽(そうじん)して　総て知らず

 

【語釈】

○蒸雲…蒸気のような雲。○飄飄…さまようさま。○遊子…旅人。○陌上…道の上。○行人…旅人。

 

 

★    江上送客　　　　　　　江上客(かく)を送る　　　　　　　　　　　　　明　　鄧　定

 

別酒臨行醉未消　　　　別酒 行(こう)に臨みて 酔 未だ消えず

綠楊何處繫蘭橈　　　　緑楊 何れの処か 蘭橈(らんとう)を繫(つな)ぐ

知君最是相思處　　　　知る 君が最も是れ 相思う処

月落江頭夜半潮　　　　月落つ江頭 夜半の潮(うしお)

 

【語釈】

○蘭橈…小舟の美称。○江頭…川のほとり。

 

 

★    送潘伯振守漢中　　　　潘伯振(はんはくしん)が漢中に守たるを送る　　　　　　明　　邊　貢

 

石棧凌雲鳥路斜　　　　石(せき)桟(さん) 雲を凌ぎ 鳥路斜なり　　　　　　

漢中城府枕三巴　　　　漢中の城府 三(さん)巴(ぱ)に枕す

風林落葉猿聲滿　　　　風林 落葉 猿声満つ

那得行人不憶家　　　　那(なん)ぞ得ん 行人 家を憶わざるを

 

【語釈】

○潘伯振…不祥。○漢中…陝西省漢中市。○石棧…石を穿って木を掛け渡した桟道。○　鳥路…鳥しか通らないような山間の道。○城府…官府。○三巴…巴郡 、 巴東 、 巴西。現在の四川省嘉陵江、綦江 流域の東的の地域。

 

 

★    送顧侍御出守馬湖　　　顧(こ)侍御(じぎょ)が出(いで)て馬(ば)湖(こ)に守たるを送る　　　  明　　邊　貢

 

露冕南征火井西　　　　露冕(ろべん) 南征 火井の西

東過漉水北泥溪　　　　東は漉(ろく)水(すい)を 過ぎ北は泥渓(でいけい)

借問郷愁何處切　　　　借問(しゃもん)す 郷愁 何れの処か切なる

千山明月子規啼　　　　千山 明月 子規啼く

 

【語釈】

○顧侍御…不祥。○馬湖…安徽省合肥市。○露冕…仙人の冠。○火井…四川省の地名、未確定。○漉水…川名、不祥。○泥溪…渓名、不祥。○借問…ちょっとお尋ねする。

 

 

★    送蘇通判　　　　　　　蘇通判(そつうはん)を送る　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

去歳秋風别省闈　　　　去(きょ)歳(さい) 秋風 省闈(しょうい)に别る

木樨花落雨霏霏　　　　木樨(もくせい) 花落ちて 雨 霏々(ひひ)

那知此日江陵郡　　　　那(な)んぞ知らん 此の日 江(こう)陵(りょう)郡(ぐん)

春草連天送客歸　　　　春草 天に連なり 客(かく)の帰るを送るを

 

【語釈】

○蘇通判…不祥。○去歳…去年。○省闈…宮中。○霏霏…雨や雪のしきりに降るさま。○江陵郡…不祥。

 

 

★    贈劉君按察雲南　　　　劉君の雲南を按察(あんさつ)するに贈る　　　　　　　明　　李夢陽

 

碧雞金馬古黔陽　　　　碧雞(へきけい) 金(きん)馬(ば) 古黔(こげい)陽(よう)

滇海秋搖日月光　　　　滇海　秋揺れ日月の光

自此蠻中無毒熱　　　　此(ここ)自(より) 蛮中 毒熱無し

行臺六月有飛霜　　　　行台 六月 飛霜有り　

 

【語釈】

○按察…巡察。○雲南…中国南西の辺境の地。○碧雞…雲南省昆明市の西南にある山。○金馬…酷暑。○黔陽…湖南省懷化市洪江市。○滇海…雲南省昆明市の西南にある昆明湖。○蛮中…異民族の地。○行臺…地方間の役所。

　　　　

 

★    別達生　　　　　　　　達生(たつせい)に別る　　　　　　　　　　　　　明　　李夢陽

 

醉約金山観海流　　　　酔いて約す 金山 海流を観(み)るを

興飛江漢忽西遊　　　　興 飛びて 江漢 忽(たちま)ち西遊す

龍沙月色年年滿　　　　竜沙(りゅうさ) 月色 年々(ねんねん)満ち

獨照匡廬萬仞秋　　　　独り 匡廬(きょうろ)を照らす 万仞(ばんじん)の秋

 

【語釈】

○達生…不祥。○金山…上海市松江県附近の海中にある山。 ○江漢…湖北省武漢市付近。○龍沙…江西省南昌市北の白沙丘。○匡廬…江西省九江市の廬山。○萬仞…非常に深いこと。

 

 

★    送周判官　　　　　　　周(しゅう)判官(はんがん)を送る　　　　　　　　　　　　　　明　　李夢陽

 

靑燈綠酒五花裘　　　　青灯 緑酒 五花の裘(かわごろも)

客舍新秋螢火流　　　　客舎 新秋 蛍(けい)火(か)流る

問君不飲真何事　　　　君に問う 飲まずんば 真に何事ぞ

明日出城楓葉愁　　　　明日 城を出ずれば 楓(ふう)葉(よう)愁(うれ)わん

 

【語釈】

○綠酒…美酒。○客舎…旅館。

 

 

★    送韓汝慶還關中　　　　韓汝慶(かんじょけい)の関中に還(かえ)るを送る　　　　明　　何景明

 

華岳雲臺萬里情　　　　華岳の雲台 万里の情

高秋落日眺秦城　　　　高秋 落日 秦城を眺む

黃河一線通滄海　　　　黄河 一線 滄海に通じ

身在仙人掌上行　　　　身は 仙人掌上に在りて 行く

 

【語釈】

○韓汝慶…陝西省朝邑の人。正德三年の進士。工部主事となる。○關中…函谷関の西、陝西省。○華岳…陝西省華陰の華山、五岳のひとつ。○雲臺…華山の北峰。○高秋…天高く爽やかな秋。○秦城…西安。○仙人掌…華山の峰のひとつ。

 

 

 

 

★    送郷人還　　　　　　　郷人の還るを送る　　　　　　　　　　　　　明　　何景明

 

楊柳花飛蕪草青　　　　楊柳 花飛んで 蕪(ぶ)草(そう)青し

故郷南望幾長亭　　　　故郷 南望すれば 幾長亭

城邊客散重回首　　　　城辺 客散じ 重ねて首(こうべ)を回(めぐら)し

愁見孤鴻落晚汀　　　　愁い見る 孤(こ)鴻(こう)の晩(ばん)汀(てい)に落つるを

 

【語釈】

○楊柳…柳絮。○蕪草…乱れ茂った草。○長亭…十里ごとに設けられた宿駅。○孤鴻…群を離れた孤独の雁。

 

 

★    送陸史之楚　　　　　　陸史(りくし)の楚に之(い)くを送る　　　　　　　　　  明　　王維楨

 

楚苑天南暖不遅　　　　楚(そ)苑(えん) 天(てん)南(なん) 暖(だん) 遅からず

隔年梅柳已多姿　　　　年を隔て 梅(ばい)柳(りゅう) 已に姿多し

春來花絮粉粉起　　　　春来(しゅんらい) 花絮(かじょ) 粉々(ふんぷん)として起る

絶勝粱園雪裏時　　　　絶勝たる粱(りょう)園(えん) 雪(せつ)裏(り)の時

 

【語釈】

○陸史…不祥。○楚…湖南省・湖北省。○楚苑…その地方の庭園。○春來…春になってから。○花絮…柳絮。○粉粉…乱れ飛ぶさま。○絶勝…非常に優れた景色。○粱園…漢代、梁の孝王が営んだ庭園。多く文人を集めて会遊した。転じて帝都、ここでは北京。

　　

 

★    岳陽樓送客　　　　　　岳(がく)陽楼(ようろう)にて客を送る　　　　　　　　　  明　　陳　達

 

湖南煙樹遠依依　　　　湖南の煙樹 遠く依々(いい)たり

百尺欄干倚落暉　　　　百尺の欄干 落暉(らっき)に倚(よ)る

鐵笛一聲人不見　　　　鉄笛 一声 人見えず

茫茫秋水片帆歸　　　　茫々(ぼうぼう)たる 秋水 片帆帰る

 

【語釈】

○岳陽樓…中国湖南省岳陽市にある楼閣。黄鶴楼、滕王閣と共に、江南の三大名楼のひとつとされる。○依依…遠くぼんやりとして見えるさま。○落暉…夕陽の光。○鉄笛…鉄の笛、仙人が吹くとされる。○茫茫…広大なさま。○片帆…小さな帆掛け船。

 

 

★送劉侍御謫嶺南　　　　劉(りゅう)侍御(じぎょ)が嶺(れい)南(なん)に謫(たく)せらるを送る　　　　　　　明　　鄭善夫

 

尉陀城外泛雲槎　　　　尉陀(いだ)城外(じょうがい) 雲槎(うんさ)を泛(うか)ぶ

西望峨眉不見家　　　　峨(が)眉(び)を西望(せいぼう)すれども家を見ず　　　

莫道日南天萬里　　　　道(い)うこと莫(なか)れ 日南 天 万里と　　　

歸心一夜過三巴　　　　帰心 一夜 三(さん)巴(ぱ)を過ぐ

 

【語釈】

○劉侍御…劉士元、四川省彭県の人、正德六年進士，御史となるが麟山駅の丞に謫せられるが、復官して右副都御史となる。○嶺南…広東省、広西チワン族自治区、海南省地方。○尉陀城…所在不明。○峨眉…峨眉山、四川省楽山県にある名山。○三巴…巴郡 、 巴東 、 巴西。現在の四川省嘉陵江、綦江 流域の東的の地域。

 

 

★    送門生楊靜夫北上　　　門生(もんせい)楊(よう)静夫(せいふ)が北上を送る　　　　　　　　明　　楊　慎

 

滇海門生廿載遙　　　　滇(てん)海(かい)の門生(もんせい) 廿載(にじゅうさい)遥なり

飛騰次第上雲霄　　　　飛騰(ひとう) 次第に 雲霄(うんせい)に上る

衰年七十猶羈旅　　　　衰年 七十 猶お羈(き)旅(りょ)

誰向玄亭慰寂寥　　　　誰だ 玄亭(げんてい)に向(お)いて 寂寥(せきりょう)を慰む

 

【語釈】

○門生…門人。○楊靜夫…許倓。揚州府泰州の人，成化二十年の進士、戶部侍郎に到る。○滇海…昆明池。雲南省昆明市の西南にある池。○飛騰…高く飛び上がる。○雲霄…高空。○羈旅…異郷に住むこと。○玄亭…四川成都にある住宅の名。草玄亭。○寂寥…寂しさ。

 

★    送別郭子坤赴選　　　　郭子坤(かくししん)の選(せん)に赴(おもむ)くを送別す　　　　　　　　明　　許邦才

 

老去風雲意氣孤　　　　老去りて風雲 意気孤なり

因君更與話江湖　　　　君に因(よ)りて 更に与(ため)に 江湖を話す

定經燕市悲歌地　　　　定めて経(ふ)　燕市(えんし) 悲歌の地

為問當年舊酒徒　　　　為に問え 当年の旧酒徒

 

【語釈】

○郭子坤…不祥。○江湖…川と湖。隠士の住むところ。○燕市…燕の国の都〔北京〕。○○当年…昔。○酒徒…酒飲み仲間。

 

 

★    送謝中丞歸射洪　　　　謝中丞(しゃちゅうじょう)が射(しゃ)洪(こう)に帰るを送る　　　　　　　　明　　許邦才

 

巫峡江陵一水分　　　　巫峡(ふきょう) 江(こう)陵(りょう) 一水分る

猨聲雨岸夜成羣　　　　猿声 雨岸に 夜 群を成す

遥知月下孤臣淚　　　　遥かに知る 月下 孤臣の涙

才過三聲不可聞　　　　才(わずか)に過ぎ 三声 聞くべからず

 

【語釈】

○謝中丞…不祥。○射洪…四川省遂寧市射洪県。○巫峡…長江三峽の一つ。○江陵…湖北省荊州市江陵県。○孤臣…孤立無縁、或いは用いられず遠ざけられた臣。○三声…猿の三声（『水径注』）。

 

 

★    贈鄭将軍之銅江　　　　鄭(てい)将軍(しょうぐん)の銅(どう)江(こう)に之(い)くを贈る　　　　　　　  明　　李攀龍

 

銅柱遥臨幕府髙　　　　銅柱 遥かに 幕府に臨みて高し

武陵溪水日滔滔　　　　武(ぶ)陵(りょう)の渓水 日に滔々(とうとう)たり

桃花不及驊騮色　　　　桃花 及ばず 驊騮(かりゅう)の色

併與春光照錦袍　　　　春光と併せて 錦袍(きんほう)を照らす

 

【語釈】

○鄭将軍…不祥。○銅江…不祥。○銅柱…建物を支える銅製の柱。○幕府…大將軍の本営。○武陵溪…湖南省常德市の武陵溪。「桃花源記」の漁夫のいた処。○滔滔…水などが盛んに流れていくさま。○驊騮…駿馬。○錦袍…錦の衣。

 

 

★    送殷正甫内翰之京　　　殷(いん)正甫(せいほ)内翰(ないかん)の京に之(ゆ)くを送る　　　　　　  明　　李攀龍

 

春風忽送漢臣還　　　　春風 忽(たちま)ち送りて 漢臣還る

再入承明供奉班　　　　再び 承明 供奉の班に入る

怪得文章成五色　　　　怪み得たり 文章 五色成るを

朝朝染翰近龍顔　　　　朝(ちょう)々(ちょう) 翰(ふで)を染めて 竜顔(りゅうがん)に近し

 

【語釈】

○殷正甫…殷士儋。山東省歷城の人、嘉靖二十六年進士、官武英殿大學士となる。○内翰…翰林学士。○漢臣…君臣、殷正甫のこと。○承明…承明殿侍臣が勤務するところ。○供奉班…天子の御用を為す役人。○朝朝…毎日。○龍顔…天子。

 

★    寄送方山人歸歙州　　　方山人が歙州(きゅうしゅう)に帰るに寄送(きそう)す　　　　　　明　　李攀龍

 

河水悠悠鴈影長　　　　河水 悠々(ゆうゆう) 鴈(がん)影(えい)長し

長安囘首淚成行　　　　長安 首(こうべ)を回して 涙 行(こう)を成す

可憐三十年前客　　　　憐むべし　三十年前の客(かく)

明日扁舟是故鄉　　　　明日 扁舟 是れ故鄉

 

【語釈】

○方山人…不祥。○歙州…安徽省黃山市歙県。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○扁舟…小舟。

　　　

 

★    送劉戸部督餉湖廣　　　劉(りゅう)戸部(こぶ)が餉(かれい)を湖(こ)広(こう)に督(とく)するを送る　　　　　明　　李攀龍

 

錦帆南入楚雲重　　　　錦(きん)帆(ぱん) 南に入りて 楚雲重し

江上遥看衡嶽峰　　　　江上 遥(はるか)に看る 衡(こう)岳(がく)峰(ほう)

落日蒼茫秋不斷　　　　落日 蒼茫(そうぼう) として 秋 断えず

青天七十二芙蓉　　　　青天 七十二 芙蓉

 

【語釈】

○劉戸部…不祥。○湖廣…湖北省と湖南省。○錦帆…帆掛け船の美称。○楚雲…楚の地方に見える雲。○衡嶽峰…湖南省衡陽市の衡山。五岳の一つ。○蒼茫…青々として果てしないさま。○七十二…数が多いこと。

 

 

★    送右史之京　　　　　　右史(うし)の京(けい)に之(い)くを送る　　　　　　　　　明　李攀龍

 

桃花美酒鳯凰樓　　　　桃花 美酒 鳯凰楼(ほうおうろう)

公子乗春作宦游　　　　公子 春に乗じて 宦游(かんゆう)を作す

寒食不知何處過　　　　寒食 知らず 何れの処にか過ぐ

縦無風雨亦堪愁　　　　縦(たと)い 風雨無くとも 亦た 愁うるに堪えたり

 

【語釈】

○右史…中書省起居舍人。○鳯凰樓…不祥。○宦游…他国に出て官吏となる。仕官するために郷土を離れる。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。

 

 

★    送子相歸廣陵　　　　　子相(しそう)が広陵(こうりょう)に帰るを送る　　　　　　　　明　　李攀龍

 

白雲無盡楚天寒　　　　白雲 尽くること無く 楚天寒し

鴻鴈蕭蕭楓樹丹　　　　鴻(こう)鴈(がん) 蕭々(しょうしょう) として 楓樹丹し

楊子月明愁裏度　　　　楊子の月明 愁(しゅう)裏(り)に度(わた)り

蕪城雨色夢中看　　　　蕪(ぶ)城(じょう)の雨色 夢中に看る

 

【語釈】

○子相…不祥。○廣陵…江蘇省揚州市。○楚天…楚の地方の空。○鴻鴈…かり。○蕭蕭…物寂しいさま。○楊子…江蘇省邗江の南にあった渡し場。○蕪城…廣陵城 。江蘇省江都県の街。○雨色…雨景色。

 

 

 

★    送子相歸廣陵　　　　　子相(しそう)が広陵(こうりょう)に帰るを送る　　　　　　　　明　　李攀龍

 

廣陵秋色雨中開　　　　広陵(こうりょう)の秋色 雨中に開く

繫馬青楓江上臺　　　　馬を繫(つな)ぐ 青楓 江上の台

落日千帆低不度　　　　落日 千帆 低く度らず

驚濤一片雪山來　　　　驚濤(きょうとう) 一片 雪山来(きた)る

 

【語釈】

○子相…不祥。○廣陵…江蘇省揚州市。○秋色…秋景色。○江上…川岸。○驚濤…人を驚かすような大波。

　　

 

★    送劉主簿陞趙府　　　　劉(りゅう)主簿(しゅぼ)が趙(ちょう)府(ふ)に陞(のぼ)るを送る　　　　　　明　　張佳胤

 

遮道頻將車馬停　　　　道を遮(さえぎ)ること頻(しきり)に 車馬を将(も)って停む

渭城歌發柳青青　　　　渭城 歌 発して 柳青々

送君欲作巴山月　　　　君を送り 巴山(はざん)の月と作(なら)んと欲す

千里相随過洞庭　　　　千里 相随い 洞庭を過(よぎ)らん

 

【語釈】

○劉主簿…不祥。○趙府…不祥。○陞…昇進する。○渭城…秦の都のあったところ。送別の地。○巴山…大巴山。四川省と陝西省省境にある山。○洞庭…洞庭湖、湖南省北部にある巨大な湖。

 

 

★    送維楊王生遊秦中　　　維(い)楊(よう)王生(おうせい)が秦中(しんちゅう)に遊ぶを送る　　　　　明　　李先芳

 

燕山朔雪暗胡沙　　　　燕山(えんざん)の朔(さく)雪(せつ) 胡沙(こさ)に暗し

又逐秦雲聴暮笳　　　　又 秦雲を逐い 暮笳(ぼか)を聴く

不念廣陵江上月　　　　念ぜず 広陵 江上の月

玉人斷腸落梅花　　　　玉人 断腸 落(らく)梅花(ばいか)

 

【語釈】

○維楊王生…不祥。○秦中…陝西省の平原地域。○燕山…河北省の河北平原の北を囲むようにそびえる山脈。○朔雪…北方の雪。○胡沙…異民族の暮らす地域の砂漠。○秦雲…秦中の雲。○暮笳…夕方に吹く胡笳。○広陵…江蘇省揚州市。○玉人…玉のように高潔な人。○落梅花…楽府題。横笛の曲。

 

 

★    初冬別李山人　　　　　初冬 李山人に別る　　　　　　　　　　  明　　盧叔麟

 

江城十月雁聲寒　　　　江城 十月 雁声寒し

短髪偏嗟行路難　　　　短髪 偏嗟(へんさ)す 行路難(こうろなん)

莫惜啣盃今夜醉　　　　惜しむ莫れ 啣杯(かんはい) 今夜の酔

明朝長鋏向誰彈　　　　明朝 長鋏(ちょうきょう) 誰に向ってか弾ぜん

 

【語釈】

○李山人…不祥。○江城…川に臨んだ街。○偏嗟…ひとえに嘆く。○行路難…楽府題、旅路の苦労を詠う。○啣盃…杯を銜える、酒を飲む。○長鋏…長い柄の剣。故郷に帰ること（馮驩の「長鋏歸去乎」と言う歌　『史記』孟嘗君列伝）。

 

 

★    送宗子相還廣陵　　　　宗子相(そうしそう)の広陵(こうりょう)に還るを送る　　　　　　　明　　徐中行

 

黄金臺下白榆秋　　　　黄金台下 白榆(はくゆ)の秋

葉落滹沱急暝流　　　　葉落ちて 滹沱(こだ) 暝流(めいりゅう)急なり

南望大江明月裏　　　　南望す 大江 明月の裏(うち)

片帆千里下揚州　　　　片(へん)帆(ぱん) 千里 揚州(ようしゅう)に下る

 

【語釈】

○宗子…宗臣。揚州の人，嘉靖二十九年の進士、吏部稽勛員外郎となる。○廣陵…江蘇省揚州市。○黄金臺…河北省易県の東南，易水の南にあった楼台。滹沱河 。○滹沱…河北省西部を流れる川。○暝流…暗い流れ。○大江…長江。

 

 

★    送宗子相還廣陵　　　　宗子相(そうしそう)の広陵(こうりょう)に還るを送る　　　　　　　明　　徐中行

 

霜落江空楓葉凋　　　　霜落ち 江空くして 楓葉凋(しぼ)む

接天寒色廣陵潮　　　　天に接する寒色 広陵(こうりょう)の潮(うしお)

清宵憶爾聴鴻處　　　　清宵 憶う 爾(なんじ)が鴻(こう)を聴く処

明月揚州第幾橋　　　　明月 揚州 第幾(だいいく)橋(きょう)

 

【語釈】

○宗子…宗臣。揚州の人，嘉靖二十九年の進士、吏部稽勛員外郎となる。○廣陵…江蘇省揚州市。○寒色…寒冷時の気色。○第幾橋…多くの橋。二十四橋があった。

 

 

★    秋樹下送張雲少憲使　　秋樹の下 張(ちょう)雲(うん)少憲(しょうけん)が使(つかい)するを送る　　　　明　　潘子震

 

老樹臨風葉半黄　　　　老樹 風に臨みて 葉 半ば黄なり

一樽岐路又斜陽　　　　一樽 岐路 又 斜陽

別君何必折楊柳　　　　君と別れるに 何ぞ必しも 楊柳を折らんや

只此秋聲已斷腸　　　　只だ此れ 秋声 已に断腸

 

【語釈】

○張雲少憲…不祥。○秋聲…秋の気配を感じさせる風や草木の物音。

 

 

★    送王元美使江南　　　　王元(おうげん)美(び)の江南に使(つかい)するを送る　　　　　　　　明　　宗　臣

 

千門羽檄正紛紜　　　　千門 羽檄(うげき) 正に紛紜(ふんでん)

搖落西風此送君　　　　揺落 西風 此(ここ)に君を送る

匹馬關山秋色裏　　　　匹馬 関山 秋色の裏(うち)

胡笳吹斷萬峰雲　　　　胡笳(こか) 吹断(すいだん)す 万峰の雲

 

【語釈】

○王元美…王世貞。江蘇省蘇州市の人。嘉靖二十六年の進士。官は刑部尚書に至った。○江南…長江中下流の南岸地域。○羽檄…国家有事の時、急速に兵を徴するための檄文。○紛紜…乱れるさま。○搖落…木の葉が揺れ落ちるさま。○西風…秋風。○匹馬…一頭の馬。○関山…関所のある山。○秋色…秋景色。○胡笳…異民族のあし笛。

 

 

★    送袁山人還廣陵　　　袁(えん)山人(さんじん)の広陵(こうりょう)に還るを送る　　　　　　　　明　　陳　鶴

 

月出潮生江倒流　　　　月出(い)で 潮(うしお)生じ 江 倒(とう)流(りゅう)す

別離無奈又逢秋　　　　別離 奈(いかん)ともする無く 又秋に逢う

呉江楓葉紅千點　　　　呉江の楓葉 紅(くれない) 千点

一夜隨風滿客舟　　　　一夜 風に随って 客(かく)舟(しゅう)に満つ

 

【語釈】

○廣陵…江蘇省揚州市。○無奈…どうしようも無い。○呉江…江蘇省に属する県名。○客舟…旅人を乗せた舟。

 

 

★    送張捨人還永嘉　　　　張捨人(ちょうしゃじん)の永(えい)嘉(か)に還るを送る　　　　　　　　明　　陳　鶴

 

幾年相憶在京畿　　　　幾年 相(あい)憶(おも)いて 京畿(けいき)に在り

一過呉門便拂衣　　　　一たび 呉門に過(よ)ぎりて 便(すなわ)ち衣を払う

君似舟前夜潮水　　　　君に似たり 舟前 夜(や)潮(ちょう)の水

纔臨江口又西歸　　　　纔(わずか)に江口に臨みて 又 西に帰る

 

【語釈】

○張捨人…不祥。○永嘉…浙江省温州市。○京畿…首都。○呉門…江蘇省蘇州市。○夜潮…夜に満ちてくる潮。

 

 

★    樵渓送別　　　　　　　樵(しょう)渓(けい)にて送別す　　　　　　　　　　　　　明　　薛　欽

 

秋風迴棹下樵渓　　　　秋風 棹(さお)を迴(めぐ)り 樵渓(しょうけい)を下る

渓水悠悠日欲西　　　　渓水 悠々(ゆうゆう) 日 西せんと欲す

山鳥似憐離別恨　　　　山鳥 離別の恨みを憐(あわれ)むに似て

飛來飛去傍人啼　　　　飛び来たり 飛び去りて 人に傍いて啼く

 

【語釈】

○樵渓…不祥。樵の通る渓のこと？○悠悠…他とかかわり無くゆったりとしたさま。

 

 

★    送客之揚州　　　　　　客(かく)の揚(よう)州(しゅう)に之(い)くを送る　　　　　　　　　　明　　薛　欽

 

隋家遺殿鎖塵埃　　　　隋家(ずいけ)の遺殿 塵埃に鎖ざさる

鳳輦龍舟去不回　　　　鳳輦(ほうれん) 竜(りゅう)舟(しゅう) 去りて回らず

君到廣陵江上望　　　　君 広陵(こうりょう)に到りて 江上に望めば

風吹官柳使人哀　　　　風は 官柳を吹き 人をして哀ましむ

 

【語釈】

○揚州…江蘇省揚州市。○隋家遺殿…随の煬帝が建てた宮殿の残骸。○鳳輦…煬帝が乗った輿。○龍舟…煬帝が引かせた龍船。○官柳…煬帝が植えさせた柳。

 

 

★    送公孝與下第東歸送　　公(こう)孝(こう)と下第して東に帰る　　　　　　　　明　　馮　琦

 

素衣不禁帝京塵　　　　素衣 帝京(ていけい)の塵を禁ぜず

出郭看春已暮春　　　　郭を出で 春を看れば 已に暮春

我自倦遊君未逢　　　　我は自(みずか)ら倦遊(けんゆう)し 君は未だ逢わず

楊花如雪送歸人　　　　楊花 雪の如く 帰人を送る

 

【語釈】

○公孝…公鼐。山東省蒙陰の人，萬歷二十九年の進士。礼部右侍郎となる。○下第…科挙に落第すること。○素衣…白色の着物。庶民の衣服。○帝京…首都。○郭…城壁。○倦遊…官を求める生涯にあきる。○楊花…柳絮。

 

 

★    送人之邊　　　　　　　人の辺に之(い)くを送る　　　　　　　　   明　　曹學佺

 

積雪遼陽路不通　　　　積雪の遼(りょう)陽(よう) 路 通ぜず

送君此去遠従戎　　　　君を送れば 此より去りて 遠く戎(じゅう)に従う

家山萬里腸堪斷　　　　家山 万里 腸(はらわた) 断ゆるに堪えたり

最是長城鼓角中　　　　最も是れ 長城 鼓(こ)角(かく)の中(うち)

 

【語釈】

○遼陽…遼寧省遼陽市。○戎…軍隊。○長城…万里の長城。○鼓角…太鼓と角笛。

 

 

★    送人之蜀　　　　　　　人の蜀に之くを送る　　　　　　　　　　明　　袁敬烈

 

霜落孤城夜析哀　　　　霜落ち 孤城 夜 析哀(せきあい)

巴江楚水片帆開　　　　巴(は)江(こう)の楚水 片(へん)帆(ぱん)開く

傷心不獨衡陽雁　　　　心を傷むは 独り 衡(こう)陽(よう)の雁(かり)のみならず

更有猿聲巫峡來　　　　更に 猿声の 巫峡(ふきょう)より来る有り

 

【語釈】

○析哀…非常に哀れましいさま。○巴江…四川省を流れる川。○楚水…陝西省商県を流れる川。○片帆…小さな帆掛け船。○衡陽雁…衡陽断雁、衡陽（湖南省の県）に回雁峰という山が有り、雁が超えられないで引き返す。○巫峡…三峽の一つ。

 

 

★    送蕭若愚　　　　　　　蕭(しょう)若(じゃく)愚(ぐ)を送る　　　　　　　　　　　　　　明　　徐禎卿

 

送君南下巴渝深　　　　君を送りて 南に下れば 巴(は)渝(ゆ)深し

予亦迢迢湘水心　　　　予も亦(ま)た 迢々(ちょうちょう) 湘水の心

前路不知何地别　　　　前路 知らず 何れの地にか别る

千山萬壑暮猿吟　　　　千山 万壑 暮猿 吟ず

 

【語釈】

○蕭若愚…蕭世賢、本泰和の。弘治乙醜の進士，按察副使となる。○巴渝…蜀の地名。○迢迢…怨みなどが長く堪えないさま。○湘水…湖南省最大の河川。

 

 

★    送胡生南歸　　　　　　胡生(こせい)の南に帰るを送る　　　　　　　　 明　　陳宗虞

 

揚子江頭落暮潮　　　　揚子の江頭 暮潮落つ　　　　　　　　　

瓜洲夜月起蘭橈　　　　瓜洲の夜月 蘭橈を起す

西湖歸去三千里　　　　西湖 帰り去ること 三千里

家在芙蓉第一橋　　　　家は 芙蓉 第一橋に在り

 

【語釈】

○胡生…不祥。○瓜洲…江蘇省邗江県南部。○蘭橈…小舟の美称。○西湖…浙江省杭州市の近くにある風光明媚な湖。○芙蓉第一橋…所在不明。

 

 

★    江上送客　　　　　　　江上 客(かく)を送る　　　　　　　　　　　　　明　　李  奎

 

月白霜寒歸路遙　　　　月白く 霜寒くして 帰路  遥なり

哀鴻落葉正蕭蕭　　　　哀(あい)鴻(こう) 落葉ちて 正に蕭々(しょうしょう)

孤舟今夜泊何處　　　　孤舟 今夜 何れの処にか泊す

卧聴空江落暮潮　　　　卧(ふ)して 聴く 空江 暮潮の落つるを

 

【語釈】

○蕭蕭…物寂しい音の形容、雨風や馬、落葉など。○空江…物陰のない川。

 

 

★    送客　　　　　　　　　客(かく)を送る　　　　　　　　　　　　　　　　明　　鄭　琰

 

野色蕭蕭官渡頭　　　　野色 蕭々(しょうしょう) 官渡の頭(ほとり)

亂楓飛盡不勝秋　　　　乱楓 飛び尽くして 秋に勝えず

思君後夜看明月　　　　君を思いて 後夜 明月を看る

愁殺鳥啼古戎樓　　　　愁(しゅう)殺(さい)す 鳥啼く 古戎楼(こじゅろう)

 

【語釈】

○野色…野原の景色。○蕭蕭…物寂しい音の形容、雨風や馬、落葉など。○官渡…公営の渡し場。○後夜…夜半から明け方の間。○愁殺…ひどく愁えさせる。○古戎樓…古い物見櫓。

 

 

★    送鄭先生之漢陽　　　　鄭(てい)先生(せんせい)の漢(かん)陽(よう)に之(い)くを送る　　　           明　　徐　燉     

 

垂老無家別故郷　　　　垂(すい)老(ろう) 無家(むか) 別故郷

薄遊十里只空嚢　　　　薄遊 十里 只だ空(くう)嚢(のう)　

楚江風浪孤心客　　　　楚江の風浪 孤心の客(かく)

何日漂零到漢陽　　　　何れの日か 漂(ひょう)零(れい) 漢(かん)陽(よう)に到る

 

【語釈】

○鄭先生…不祥。○漢陽…湖北省武漢市の区。○垂老…老年（杜甫、垂老別）。○無家…（杜甫、無家別）。○薄遊…薄禄で、地方に赴任すること。○空嚢…空っぽの財布。○漂零…落ちぶれること。

 

 

★    送僧還義興簡聰聞復　　　　僧の義(ぎ)興(きょう)に還るを送り聡聞(そうぶん)復(ふく)に簡(かん)す　　　明　　僧德祥

 

 別却銅山三十年　　　　別却す 銅山 三十年

因師長憶舊風煙　　　　師に因りて 長く憶う旧風煙

今朝忽送東歸客　　　　今朝(こんちょう) 忽ち送る 東帰の客

正是秋江落木前　　　　正に是れ 秋江 落木の前

 

【語釈】

○義興…江蘇省無錫市宜興市。○聰聞復…不祥。○別却…別れる。却は完了を示す助字。○銅山…江蘇省徐州市。○風煙…俗世間。

 

 

★    送王石谷遊金陵　　　　王(おう)石谷(こくや)が金陵に遊ぶを送る　　　　　　　　　清　　陳　瑚

 

臺城秋草暮雲殘　　　　台城の秋草 暮雲残る

六代興亡雁影寒　　　　六代(りくだい)の興亡 雁影寒し

無限傷心金粉地　　　　限り無き傷心 金粉の地

憑君畫出與人看　　　　君に憑(よ)りて 画き出(いだ)して 人に与えて看さしめん

 

【語釈】

○王石谷…不祥。○金陵…南京。○臺城…六朝時代の天子の御所。○六代…六朝。○金粉…繁華綺麗な生活。

 

 

★    送黄憶渓別駕之蘇州　　黄憶(こうおく)渓(けい)にて別駕(べつが)の蘇(そ)州(しゅう)に之(ゆ)くを送る　　　清　　黎士弘     

 

青天起舞髩斕斑　　　　青天 起舞して 髩斕(びんらん) 斑(まだら)なり

習習邊風惨別顔　　　　習々(しゅうしゅう)たる 辺風 別顔を惨(そこな)う

同是南來君更遠　　　　同(とも)に是れ 南来(なんらい)して 君 更に遠し

莫教歌者疊陽關　　　　歌者をして 陽関を畳(かさ)ねしむること莫かれ

 

【語釈】

○黄憶渓…不祥。○別駕…刺史の随行者。○蘇州…江蘇省蘇州市。○髩斕…髪の毛。○習習…風がそよそよと吹くさま。○陽關…王維の陽関曲（送元二使安西）。○疊…繰り返し歌うこと（陽関三畳）。

 

 

★    送又玄練師　　　　　　又 玄(げん)練師(れんし)を送る 　　　　　　　　     　　清　　黎士弘       

 

塵埃野馬漫粉紜　　　　塵埃 野馬 漫(いたずら)に粉紜(ふんうん)

誰解閑身伴水雲　　　　誰か 閑(かん)身(しん) 水雲に伴うを解せん

一棹春風乗輿遠　　　　一(いっ)棹(とう)の春風 輿(こし)に乗じて遠し

過江先問小茅君　　　　江を過ぎ 先ず問う 小茅(しょうち)君(くん)

 

【語釈】

○玄練師…不祥。○粉紜…入り乱れるさま。○閑身…暇な身。○一棹…一つの小舟。○小茅君…伝説中の仙人。

 

 

★    送陳其年歸宜陽　　　　陳其年(ちんきねん)の宜(ぎ)陽(よう)に帰るを送る　　　　　　　　　清　　王士禛

 

送客魂銷楓樹林　　　　客を送りて魂銷す 楓樹の林

買田陽羡舊同心　　　　田を買う陽羡(ようい) 旧同心

花枝照眼蝦籠嘴　　　　花枝 眼を照らす 蝦籠嘴

未得從君弄渚禽　　　　未だ 君に従って 渚禽(ちょきん)を弄するを得ず

 

【語釈】

○陳其年…陳維崧。江蘇省宜興の人。康熙の間学鴻博一等となり検討を授かる。○宜陽…江蘇省無錫市宜興市。○魂銷…魂が消えるほどの悲しみ。○買田陽羨…官を辞して隠逸生活に入ること。○同心…心を同じくする友人。○蝦籠嘴…不祥。○渚禽…渚にいる鳥。

 

 

★    送呉仁趾歸句曲       呉仁趾(ごじんきょ)の句曲(くきょく)に帰るを送る                   清　　呉嘉紀

 

幽居聞在翠微間　　　　幽居 聞く 翠微(すいび)の間に在りと

歸去漁樵任往還　　　　帰り去りて 漁(ぎょ)樵(しょう)の往還に任す

屋後鷗飛揚子水　　　　屋後 鴎は飛ぶ 揚子(ようす)水(すい)

門前月出大茅山　　　　門前 月は出ず 大茅山(だいちざん)

 

【語釈】

○呉仁趾…吳麐。江南新安の人、事跡不祥。○句曲…江蘇省鎮江市句容市。○幽居…隠者の住まい。○翠微…山八合目くらい。○漁樵…漁夫と樵、隠者。○揚子水…江蘇省揚州市の揚子江。○大茅山…江蘇省鎮江市句容市にある山。

 

 

★    送湯西崖歸西泠　　　　湯(とう)西崖(せいがい)の西泠(せいれい)に帰るを送る　　　　　　　　清　　陳錫嘏

  

遊人經歲在京華　　　　遊人 歳を経て 京(けい)華(か)に在り　

忽逐征鴻去路賒　　　　忽(たちま)ち 征(せい)鴻(こう)を逐いて 去路(きょろ)賒(はるか)なり

何物關心歸思急　　　　何物か 心に関して 帰思(きし)急なる

孤山開遍早梅花　　　　孤山 開くこと遍(あまね)し 早(そう)梅花(ばいか)

 

【語釈】

○遊人…故郷を離れた人。○京華…京城の美称。○征鴻…旅をする雁。○歸思…故郷に帰りたいという気持。○孤山…西湖にある山（島）、梅の名所、林逋の隠棲地。

 

 

★    送通門和尚住持太白山　　　通門(つうもん)和尚(わじょう)の太(たい)白山(はくさん)に住(じゅう)持(じ)するを送る　　　　清　朱彞尊

 

越山東望路迢迢　　　　越山 東望すれば 路 迢々(ちょうちょう)

澗口寒藤度石橋　　　　澗(かん)口(こう)の寒藤 石橋を度(わた)る

惆悵空林飛錫遠　　　　惆悵す 空林 錫を飛ばすこと遠きを

海門秋雨浙江潮　　　　海門の秋雨 浙江の潮(うしお)

 

【語釈】

○通門和尚…不祥。○住持…住職となる。○太白山…不確定。○越山…浙江省の山。○迢迢…遙かで遠いさま。○澗口…渓の出口。○寒藤…枯れた藤。○惆悵…嘆き悲しむ。○空林…人気の無い林。○飛錫…錫を飛ばしてそれに乗って空を行く。○海門…川の海への出口。○浙江潮…錢唐江の海嘯。

 

 

★    送孫處士還黄山　　　　孫処士が黄山(こうざん)に還るを送る　　　　　　　清  　朱彞尊

 

蕪城客散亂烏啼　　　　蕪(ぶ)城(じょう) 客散じ 乱烏啼く

别業黃山路不迷　　　　别業 黄山 路 迷わず

後夜相思秋色遠　　　　後夜 相い思い 秋色遠し

月明三十二峰西　　　　月明 三十二峰の西

 

【語釈】

○孫處士…孫默。江南の休寧の人，一生官職に就かずに過ごした。○黄山…安徽省黄山市にある山岳景勝地。○蕪城…江蘇省揚州市江都区。○别業…別荘。○後夜…夜半から夜明けまでの間。○秋色…秋景色。

 

 

★    送趙秋水還永年　　　　　趙(ちょう)秋水(しゅうすい)が永年に還るを送る　　　　　　清　　朱彞尊

 

離堂卜夜且成歡　　　　離堂(りどう) 夜を卜(ぼく)し 且つ 歓(かん)を成す

酒盡休歌行路難　　　　酒尽きて 歌うことを休(や)めよ 行路難

四十逢時猶未晚　　　　四十 逢う時き 猶お 未だ晩(ばん)ならず

看君騎馬入長安　　　　君が 馬に騎(の)りて 長安に入るを看る

 

【語釈】

○趙秋水…不祥。○永年…河北省邯鄲市永年区。○卜夜…卜夜論。夜通し議論すること。○行路難…楽府題。行く道の険しいことを詠い，別離の情を詠う。○晚…老年。

 

 

★    送譚舍人　　　　　　　譚舍人(たんしゃじん)を送る　　　　　　　　　      清　　朱彞尊

 

大漠霜流磧草枯　　　　大漠(たいばく) 霜 流れて 磧草(せきそう)枯る

郫筒蘆酒急須沽　　　　郫(ひ)筒(とう) 蘆(ろ)酒(しゅ) 急に須(すべか)らく沽(か)うべし

雲中西去黃河曲　　　　雲中 西に去る 黃河の曲

未必山川似畫圖　　　　未だ必ずしも 山川 画図(がと)に似ず

 

【語釈】

○譚舍人兄…不祥。○大漠…北西方の大砂漠。○磧草…積み重なった草。○郫筒…竹製の酒具。○蘆酒…酒を飲む方法。樽に葦のパイプを差し込み、その中に吸い込む。

 

 

★    歲暮送張生還呉　　　　歳暮(せいぼ) 張生(ちょうせい)が呉に還るを送る　　　　　　清　　朱彞尊

 

四野同雲淰淰寒　　　　四野 同雲 淰(だん)々(だん)として寒し

只應小住共春盤　　　　只だ応(まさ)に 小住(しょうじゅう) 春盤(しゅんばん)を共にすべし

懷歸潘岳眞多事　　　　帰るを懐う 潘(はん)岳(がく) 真に多事

遺挂重思面壁看　　　　遺挂(いけい) 重ねて思う 面壁(めんぺき)して看るを

 

【語釈】

○歲暮…年末。○四野…四方の原野。○同雲…雪雲。○淰淰…とどこおるさま。○應…「まさに～すべし」とよみ、「～すべきである」の意。○小住…暫時の住居。○春盤…立春の日に食べる春餅と野菜。○遺挂…使者の遺物。○面壁…壁に向かって座禅をすること。

 

　　　

★    送馮寶初　　　　　　　馮(ぼう)宝(ほう)初(しょ)を送る　　　　　　　　　　　　清　　週稚廉

 

木末花開柿葉稀　　　　木(ぼく)末(まつ) 花開きて 柿葉 稀(まれ)なり

旂亭分手淚霑衣　　　　旂亭 手を分かち 涙 衣を霑(うるお)す

憐君身似江南燕　　　　憐む 君が身は 江南の燕に似たるを

又逐秋風望北飛　　　　又た 秋風を逐いて 北を望みて飛ぶ

 

【語釈】

○馮寶初…不祥。○木末…木の梢。○旂亭…酒楼。○江南…長江中下流域南岸地方。

 

 

★    去京師　　　　　　　　京師を去る　　　　　　　　　　　　　　清　　沈名蓀

  

一望南天雲樹迷　　　　一望す 南天 雲樹迷う　　　　

滄浪仍臥釣魚磯　　　　滄浪 仍ち臥す 釣魚の磯

誰言京洛緇塵滿　　　　誰か言う 京洛(けいらく) 緇(し)塵(じん)満つと

我獨還家是素衣　　　　我 独り家に還えるは 是れ素衣

 

【語釈】

○京師…京城。○滄浪…川の名。不確定。○京洛…京城。○緇塵…黒い塵。○素衣…白い衣服。庶民の着物。

 

 

★    暮春送別　　　　　　　暮春の送別   　　　　　　　　　　　　　清　　高　岑

 

飛花萬點撲征衣　　　　飛花 万点 征(せい)衣(い)を撲(う)つ　　　　

南浦依依怨落暉　　　　南浦 依々(いい)として落暉(らっき)を怨(うら)む

腸斷離亭煙柳色　　　　腸は断え 亭を離る 煙(えん)柳(りゅう)の色

留君不住共春歸　　　　君を留め 住わず 春と共に帰る

 

【語釈】

○征衣…旅衣。○南浦…南面の水辺。送別の地の常用語。○依依…遠くぼんやりとして

見えるさま。○落暉…夕焼け。○煙柳…靄霞に煙る柳。

 

　

 

★    別家人　　　　　　　　家人に別る　　　　　　　　　　　　　　  清　　盛　錦

 

伏雌烹罷勸加餐　　　　伏(ふく)雌(し) 烹罷(にや)みて 加餐(かさん)を勧む

秉燭喃喃語夜闌　　　　燭を秉(と)りて 喃々(なんなん) 夜闌(やらん)に語す　

點檢篋中裘葛具　　　　点検す 篋中(きょうちゅう) 裘(きゅう)葛(かつ)の具

預知別後寄衣難　　　　預(あらかじ)め知る 別後 衣を寄するの難きを

 

【語釈】

○伏雌…母雞。○喃喃…小さな声でぺちゃくちゃしゃべるさま。○夜闌…夜が明けようとするとき。○篋中…箱の中。○裘葛…冬の衣と夏の衣。

 

 

 

★    送石谷遊金陵　　　　　石谷(せきこく)の金陵に遊ぶを送る　　　　　　　　　清　　秦保寅

 

寒牎風急砌鳴蛩　　　　寒窓 風 急なり 砌(みぎり)に鳴く蛩(こおろぎ)

夜半挑燈話正濃　　　　夜半 燈を挑(かか)げ 話(わ) 正(まさ)に濃(のう)なり

明日石頭城上望　　　　明日 石頭城上に望まば

六朝煙雨孝陵松　　　　六朝(りくちょう)の煙雨 孝陵の松

 

【語釈】

○石谷…不祥。○金陵…南京。○挑…灯火をかき立てる。○石頭城…南京市鼓楼区の清涼門の北に位置していた城。○六朝…南北朝時代の六朝。○孝陵…明孝陵。中国の南京玄武区にある紫金山の南麓に位置する明の太祖洪武帝朱元璋と后妃の陵墓。

 

 

★    送劉編修使朝鮮　　　　劉(りゅう)編修(へんしゅう)の朝鮮に使するを送る　　　　　　　清　　錢謙益

 

箕子墓對檀君祠　　　　箕子(きし)の墓　壇(だん)君(くん)の祠(し)に対す

墓前山色滿城陴　　　　墓前の山色 城陴(じょうひ)に満つ

知君繫馬無窮思　　　　知る 君が馬を繫(つな)ぐ 無窮の思(おもい)

正是春風麥秀時　　　　正に 是れ 春風(しゅんぷう)麦(ばく)秀(しゅう)の時

 

【語釈】

○劉編修…劉鴻訓。山東省長山の人，萬歷四十一年進士。礼部尚書兼東閣大学士となる。○箕子…中国殷王朝の政治家。朝鮮で箕子朝鮮を建国した。○檀君…伝説上の古朝鮮の王。○山色…山の景色。○城陴…城壁。○麥秀…麦が伸びる。

 

 

★    送人之武昌　　　　　　人の武(ぶ)昌(しょう)に之(い)くを送る　　　　　　　   清　　劉　璜

 

昨夜秋風動桂橈　　　　昨夜 秋風 桂橈(けいぎょう)を動かす

寒塘紅樹雁聲驕　　　　寒塘の紅樹 雁声驕(おご)る

送君西上潯陽去　　　　君を送りて西上 潯(じん)陽(よう)に去り

落月横江夜半潮　　　　落月 江に横わる 夜半の潮(うしお)

 

【語釈】

○武昌…湖北省武漢市武昌区。○桂橈…桂でできた船。○寒塘…寒々とした堤防。○潯陽…揚子江南岸九江市。

 

 

★    江上別陳梅岑　　　　　江上(こうじょう) 陳梅岑(ちんばいしん)に別る　　　　　　　　　　　清　　葉抱崧

 

落葉西風水欲波　　　　落葉 西風 水 波だたんと欲す

天涯分手意如何　　　　天涯に 手を分かち 意如何(いかん)

昨宵明月揚州宿　　　　昨(さく)宵(しょう) 明月 揚州(ようしゅう)の宿

畫舫同聴碧玉歌　　　　画舫(がほう) 同(とも)に聴く 碧玉(へきぎょく)の歌

 

【語釈】

○西風…秋風。○天涯…空のはて。○揚州…江蘇省揚州市。月の名所。○畫舫…画で飾った船。船の美称。

 

　　　

★    錢別　　　　　　　　　銭別　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　王元勲

 

疎雨斜陽城上樓　　　　疎(そ)雨(う) 斜陽 城上の楼

送君此日到瓜州　　　　君を送り 此の日 瓜州(かしゅう)に到る

蕭蕭落木滄江冷　　　　蕭々(しょうしょう)たる 落木 滄(そう)江(こう)冷(ひや)かに

萬里秋波一葉舟　　　　万里の秋波 一葉(いちよう)の舟

 

【語釈】

○疎雨…疎らな雨。○瓜州…甘粛省瓜州県。○蕭蕭…雨風、落葉などの物寂しいさま。○滄江…長江。○秋波…秋日の波。○一葉舟…一つの小さな小舟。

 

 

★    送伯緒従子旋里　　　　伯(はく)緒(ちょ)従子(じゅうし)の里に旋(かえ)るを送る　　　　　　　　清　　周臨生

 

桃花新漲緑沄沄　　　　桃花 新たに漲(みなぎ)り 緑沄々(うんうん)

那有離人不斷魂　　　　那(な)んぞ 離人(りじん) 断魂(だんこん)せざる有らんや

遙憶孤舟初出峽　　　　遥かに憶う 孤舟 初めて峡を出で

一帆細雨下荊門　　　　一帆の細雨 荊門(けいもん)を下るを

 

【語釈】

○伯緒従子…不祥。○沄沄…広いさま。○離人…離れて行く人。旅人。○斷魂…非常に悲しいさま。○荊門…湖北省荊門市。

 

 

★    送舎弟典返東蒙別業　　舎弟(しゃてい)典(てん)の東蒙(とうもう)の別業(べつぎょう)に返(かえ)るを送る　　　　清　　程先貞

 

蹇驢秋盡度荒原　　　　蹇驢(けんろ) 秋 尽きて 荒原を度る

東下顓臾有舊村　　　　東のかた 顓臾(せんゆ)に下りて 旧村有り

流水斜通樵徑遠　　　　流水 斜めに通じて 樵(しょう)径(けい)遠し

寒山萬木一柴門　　　　寒山 万木 一(いっ)柴(さい)門(もん)

 

【語釈】

○舎弟典…不祥。○東蒙…不祥。○別業…別荘。○蹇驢…びっこの痩せた驢馬。○顓臾…山東省費県。○樵徑…樵だけが通る人知れない道。○寒山…寒々とした山。○柴門…柴で作った粗末な門。

 

 

 

★    送友人謫長沙　　　　　友人の長沙(ちょうさ)に謫(たく)さるるを送る　　　　　　　清　　王宣縄

 

送君遠渉五渓西　　　　君を送りて 遠く渉る 五渓の西

草色萋萋路欲迷　　　　草色 萋々(せいせい) 路 迷わんと欲す

直上湘江亭北望　　　　直ちに 湘(しょう)江亭(えてい)北(ほく)に 上りて望めば

衡山七十二峰低　　　　衡山(こうざん) 七十二峰 低し

 

【語釈】

○長沙…湖南省長沙市。○五渓…不祥。○萋萋…草木が盛んに生い茂るさま。○湘江…湖南省最大の河川。長沙を流れる。○衡山…湖南省衡陽市にある五岳の一つ。○七十二峰…多くの峰。

 

 

★    送秋谷還益都　　　　　秋谷(しゅうこく)の益(えき)都(と)に還(かえ)るを送る　　　　　　　清　　趙善慶

 

寒鴻何事又南飛　　　　寒(かん)鴻(こう) 何事ぞ 又 南に飛ぶ

九月霜寒欲授衣　　　　九月 霜寒くして 授衣ならんと欲す

況是家郷好風景　　　　況(いわ)んや是(こ)れ 家郷の好風景

滿山紅葉待人歸　　　　満山の紅葉 人の帰るを待つ

 

【語釈】

○秋谷…不祥。○益都…山東省濰坊市青州市。○寒鴻…晩秋から冬にかけての雁。秋谷になぞらえる。○授衣…冬の衣を整備すること。○家郷…故郷。

 

 

★    送宋習九之旋州衛　　　　宋習(そうしゅう)九(く)の旋(せん)州(しゅう)衛(えい)に之(い)くを送る　　　清　　王　翰

 

相看把酒唱驪歌　　　　相(あい)看(み)て 酒を把(と)り 驪歌(れいか)を唱う

匹馬秋風遠渡河　　　　匹馬 秋風 遠く河を渡る

問月亭前莫回首　　　　月に問う 亭前 首(こうべ)を回(めぐ)らす莫(な)かれと

客星山畔夜猿多　　　　客(かく)星(せい) 山畔 夜猿多し

 

【語釈】

○宋習九…不祥。○旋州衛…不祥。○驪歌…告别の歌。○匹馬…一頭の馬。○客星…ほうき星。

 

 

★    送王淑亮之蘇州　　　　王淑(おうしゅく)亮(りょう)の蘇(そ)州(しゅう)に之(い)くを送る　　　　　　　清　　趙　慶

 

蘆花楓葉憶江天　　　　蘆花 楓葉 江天を憶ゆ

夢斷姑蘇二十年　　　　夢は断ゆ 姑蘇(こそ) 二十年

舊友若逢相問尋　　　　旧友 若(も)し逢いて 相(あい)問尋(もんじん)すれば

長安多向酒家眠　　　　長安 多く 酒家に向(お)いて眠る

 

【語釈】

○王淑亮…不祥。○蘇州…江蘇省蘇州市。○姑蘇…江蘇省蘇州市近郊にある呉県の古名。

 

 

★    送家兄价人入燕　　　　家兄价人(かいじん)の燕(えん)に入るを送る　　　　　　　　清　　王　謙

 

渓雲故故馬頭生　　　　渓雲 故々 馬頭(ばとう)に生ず

芳草萋萋送客程　　　　芳草 萋々(せいせい) 客を送る程(てい)

正是黯然分手處　　　　正に是れ 黯(あん)然(ぜん)として手を分つ処

東風更送鶺鴒聲　　　　東風 更に送る 鶺鴒(せきれい)の声

 

【語釈】

○价人…不祥。○燕…春秋戦国時代の燕の地方。北京一帯。○萋萋…草木が生い茂っているさま。○黯然…気が晴れないさま。○東風…春風。

 

 

★    送楊曰補南還　　　　　楊曰補(ようえつほ)の南に還(かえ)るを送る　　　　　　　　  清　　沈欽圻

 

昨年春盡同為客　　　　昨年 春尽きて 同(とも)に客(かく)と為り

此日君歸又暮春　　　　此の日 君帰りて 又 暮春

最是客中偏送客　　　　最も是れ 客中(かくちゅう) 偏(ひとえ)に客(かく)を送る

況堪更送故郷人　　　　況(さら)に堪んや 更に故郷の人を送るに

 

【語釈】　

○楊曰補…不祥。○客中…旅の途中。異郷にある中。○況…さらに。ますます。　　

 

★    送李千里適杭州　　　　李(り)千里(せんり)の杭州(こうしゅう)に適するを送る　　　　　  清　　孫廷桂

 

杭州直下片帆風　　　　杭州(こうしゅう)直下(ちょっか) 片(へん)帆(ぱん)の風

越嶠呉江四面通　　　　越嶠(えつきょう) 呉江 四面に通ず

試問鴟夷歸隠處　　　　試問(しもん)す 鴟(し)夷(い) 帰隠(きいん)の処

五湖烟水至今同　　　　五湖の煙水 今に至るまで同じかと

 

【語釈】

○李千里…不祥。○杭州…浙江省杭州市。○片帆…小舟。○越嶠…越の地方の尖って高い山。○試問…試みに問。ちょっと尋ねる。○鴟夷…范蠡。呉を滅ぼしたあと、五湖に浮かんで隠棲した。○歸隠…隠棲すること。○五湖…太湖と言われる。○煙水…靄のたつ水面。

 

 

★    送夫子之鳩江　　　　　夫子(ふし)の鳩(きゅう)江(こう)に之くを送る　　　　　　　清　　范淑鐘

 

征鞍落葉打離披　　　　征(せい)鞍(あん) 落葉 打ちて離披(りひ)

忍涙臨風錢一巵　　　　涙を忍んで 風に臨み 一巵(いっし)を銭す

夕照漸低人漸遠　　　　夕照 漸(ようや)く低く 人 漸(ようや)く遠し

斷鴻聲裏立多時　　　　断鴻声裏(だんこうせいり) 立つこと多時　　

 

【語釈】

○夫子…男子。將士。○鳩江…安徽省蕪湖市鳩江区。○征鞍…旅人の乗馬。○離披…分散して落ちるさま。○一巵…一杯の酒。○漸…だんだんと。○断鴻声…絶えだえに聞こえる雁の声。

 

 

★    冬日送別表妹　　　　　冬日 表(ひょう)妹(まい)を送別す　　　　　　　清　　周淑履

 

蕭蕭風雪逼人寒　　　　蕭々(しょうしょう)たる風雪(ふうせつ) 人に逼(せま)りて寒し

欲整行装忍涙看　　　　行装(こうそう)を整えんと欲して 涙を忍びて看る

珍重送君無別語　　　　珍重す 君を送りて 別語無きを

高堂代我問平安　　　　高堂 我に代わりて 平安を問う

 

【語釈】

○表妹…母方の従妹。○蕭蕭…雨風、落葉等の物寂しい音の形容。○行装…旅の衣裳。○別語…別れの言葉。○高堂…父母。

 

★    別淮陰官署　　　　　淮(わい)陰(なん)官署(かんしょ)に留(りゅう)別(べつ)す　　　　　　　　　　　  清　　呉苕華

 

三歳依依玉鏡前　　　　三歳 衣(い)々(い) 玉鏡の前

舊梳妝處最相憐　　　　旧梳妝(きゅうそしょう)の処 最も相憐(あいあわ)れむ

不知今後紅窓裏　　　　知らず 今後 紅窓の裏(うち)

又是何人點翠鈿　　　　又た是れ 何人(なにびと)か翠鈿(すいでん)を点す　

 

【語釈】

○留別…自分が旅立つときの別れ。○淮陰…江蘇省淮安市。○依依…細くなよなよしているさま。○玉鏡…鏡の美称。○梳妝…化粧する。○紅窓…女性の部屋の窓。○点…調べる。○翠鈿…翡翠のかんざし。

 

 

絶句類選標本　五

絶句類選　巻之九　　　客旅類

 

 

★    渡湘江　　　　　　　　湘(しょう)江(こう)を渡る　　　　　　　　　　  唐　　杜審言

 

遲日園林悲昔遊　　　　遅(ち)日(じつ) 園林 昔遊(せきゆう)を悲しむ

今春花鳥作邊愁　　　　今春 花鳥 辺愁を作す

獨憐京國人南竄　　　　独り憐れむ 京(けい)国(こく)の人 南竄(なんざん)せられ

不似湘江水北流　　　　似ず 湘江の水 北流するに

 

【語釈】

○湘江…湘水ともいう。広西チワン族自治区に発して湖南省を北上し、瀟水と合流して洞庭湖に注ぐ川。○遅日…うららかな春の日のこと。○園林…庭園の中の林。昔遊かつて遊んだ時のこと。○邊愁…辺地にある身の憂愁。○獨憐 … ひとりわが身を憐れんでいるばかりだ。○京國人 … 都の人。○南竄…罪によって南方の土地に流されること。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    寒食汜上作　　　　　　寒食汜上(かんしょくしじょう)の作　　　　　　　　　　　　　唐　　王　維

 

廣武城邊逢暮春　　　　広(こう)武(ぶ)城辺(じょうへん) 暮春に逢い

汶陽歸客淚沾巾　　　　汶(ぶん)陽(よう)の帰客 涙 巾(きん)を沾(うるお)す

落花寂寂啼山鳥　　　　落花寂々(せきせき) 山に啼く鳥

楊柳青青渡水人　　　　楊柳青々(せいせい) 水を渡る人

 

【語釈】

○寒食…寒食節、冬至から百五日目にあたる日の前後三日間。○汜上…汜水の（河南省にある川の名）ほとり。○広武城…古城名、河南省滎陽の東北の廣武山上に東西二箇所ある。○暮春… 春の終わり。○汶陽…山東省寧陽県地方。帰客…帰ってきた旅人（作者）。○沾…ぬれる。○巾…ハンカチ状の布。○寂寂…もの寂しいさま。ひっそりとしたさま。○楊柳…ヤナギの総称。○青青…青々とした。

（参考文献）　『新釈漢文大系　詩人編　３』

 

 

★    落第長安　　　　　　　落第長安 　　　　　　　　　　　　　　唐　　常　建

 

家園好在尚留秦　　　　家園 好在(こうざい)なるも 尚お秦に留まる

恥作明時失路人　　　　恥ずらくは 明時に失路の人と作る

恐逢故里鶯花笑　　　　恐らくは 故里に 鶯(おう)花(か)の笑うに逢うわん

且向長安度一春　　　　且(しばら)く 長安に向(む)いて 一春を度(わた)らん

 

【語釈】

○落第…科挙に不合格となること。○好在…旧のままである。○秦…長安。○明時…名君の治世。○失路人…志を得ない人。○故里…故郷。

 

★    渡浙江問舟中人　　　　浙(せっ)江(こう)を渡り舟中の人に問う　　　　　　　唐　　孟浩然

 

潮落江平未有風　　　　潮落ち 江平かにして 未だ風有らず

扁舟共濟與君同　　　　扁舟 共に済(わた)る 君と同じ

時時引領望天末　　　　時々(じじ) 領(くび)を引いて 天末を望む

何處青山是越中　　　　何れの処の青山 是れ 越中なるかと

 

【語釈】

○浙江…錢唐江。○潮落…引き潮。○扁舟…小舟。○濟…川を渡る。○時時…いつも。○引領…首を伸ばす。○天末…空のはて。○越中…浙江省会稽。

（参考文献）　『新釈漢文大系　詩人編　３』

 

 

★    秋下荆門　　　　　秋 荆門(けいもん)を下る　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　白

 

霜落荆門江樹空　　　　霜落ち 荆門(けいもん) 江樹空し

布帆無恙挂秋風　　　　布帆 恙無(つつがな)く 秋風に挂く

此行不爲鱸魚鱠　　　　此の行(こう) 鱸魚(ろぎょ)の鱠(かい)の為ならず

自愛名山入剡中　　　　自ら名山を愛して　剡中(せんちゅう)に入る

 

【語釈】

○荆門…長江の南岸、湖北省枝城市の西北にある山で、蜀と湖北・湖南地方との境目。○江樹…秋の紅葉した木。○布帆…帆掛け船。○挂…ひっかかる、かかる。○鱸魚…スズキに似た淡水魚。鱠…なます。刺身。「鱸膾蓴羮」西晋の張翰の故事。○剡中…浙江省嵊州市。

（参考文献）　『唐詩選』

 

★    與史郎中欽聽黃鶴樓上吹笛唐　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　　李　白

史郎中欽(しろうちゅうきん)と黄鶴(こうかく)楼上(ろうじょう)にて吹(すい)笛(てき)を聴く

 

一爲遷客去長沙　　　　一たび遷(せん)客(かく)と為りて 長沙(ちょうさ)に去り

西望長安不見家　　　　西のかた 長安を望めども 家を見ず

黃鶴樓中吹玉笛　　　　黄鶴楼中(こうかくろうちゅう) 玉笛を吹く

江城五月落梅花　　　　江城 五月 落梅花

 

【語釈】

○史郎中欽…郎中の官位にある史欽。○黄鶴樓…武漢の西南の蛇山北黄鵠（長江右岸）にある楼。○一爲…ひとたび…となってすぐに。○遷客…流罪に処せられた者。○長沙…湖南省省都。○玉笛…玉で作った笛、笛の美称。○江城…川沿いの町。○落梅花…笛の演奏用の「梅花落」という曲名のこと、悲しみを誘う。

（参考文献）　『唐詩選』

 

　　　

★    客中行　　　　　　　　客中(かくちゅう)行(こう)　　　　　  　　　　　　　　　　　唐　　李　白

 

蘭陵美酒鬱金香　　　　蘭(らん)陵(りょう)の美酒 鬱(うっ)金(こん)香(こう)

玉椀盛來琥珀光　　　　玉(ぎょく)椀(わん) 盛り来る 琥珀(こはく)の光

但使主人能醉客　　　　但だ 主人をして 能(よ)く客(かく)を酔わしめば

不知何處是他鄉　　　　知らず 何れの処か 是れ他鄉

 

【語釈】

○客中行…楽府題、旅先での歌。○蘭陵…地名、山東省最南端の蒼山（の西南３０キロメートル）、棗荘市（の東南東４０キロメートル）の中間にある。○鬱金香…ミョウガ科の多年草でキゾメグサ（鬱金）の香。○玉碗…玉杯。○他鄕…異郷。

（参考文献）　　『唐詩選』

★    橫江詞　　　　　　　　横江(おうこう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　白

 

海潮南去過潯陽　　　　海潮 南に去りて 潯(じん)陽(よう)を過ぐ

牛渚由來險馬當　　　　牛(ぎゅう)渚(ちょ) 由来(ゆらい) 馬(ば)当(とう)よりも険なり

橫江欲渡風波惡　　　　横江 渡らんと欲するも 風波悪し

一水牽愁萬里長　　　　一水 愁を牽(ひ)いて 万里長し

 

【語釈】

○橫江…南京市のあたりにある橫江浦の渡し場。○潯陽…江蘇省九江市。○牛渚…安徽省当塗県の西北にある山。○由来…もともと。○馬當…江西省彭沢県の東北にある山。　

 

 

★    望天門山　　　　　　　天門山を望む　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

天門中斷楚江開　　　　天門 中断して 楚江開く

碧水東流至北迴　　　　碧水 東に流れて 北に至って迴(めぐ)る

兩岸青山相對出　　　　両岸の青山 相対(あいたい)して出ず

孤帆一片日邊來　　　　孤帆一片 日(じっ)辺(ぺん)より来る

 

【語釈】

○天門山…長江両岸を夾んで門のように聳える二つの山の総称。安徽省当塗県にある博望山（東梁山）と和県にある梁山のこと。○中斷…中が断ち切られること。○楚江…長江。○碧水…青い色をした川の流れ。○廻…まわる，向きを変える。○青山…木が青々と茂っている山。○相對…向かい合う。○出…（大空に）突き出る。○孤帆…ただ、一そうの帆掛け船。○日邊…太陽のある所。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    早發白帝城　　　　　　早に白帝城を発す　　　　　　　　　　　唐　　李　白

 

朝辭白帝彩雲間　　　　朝に辞す 白帝 彩雲の間

千里江陵一日還　　　　千里の江(こう)陵(りょう) 一日に還る

兩岸猨聲啼不盡　　　　両岸の猿声 啼いて尽(や)まざるに

輕舟已過萬重山　　　　軽舟 已に過ぐ 万(ばん)重(ちょう)の山

 

【語釈】

早…時間帯上、はやいこと。白帝…白帝城のこと、昔の城市（都市）の名。朝…あさ。辭…辞去する。彩雲…朝焼けや夕焼けの雲。江陵…湖北省江陵県。猿聲…四川東部の巫峡は、（もの悲しげに啼く）猿の声で有名。輕舟…軽やかな小舟。萬重山…幾重にも重なった多くの山々。

（参考文献）　『唐詩選』

 

　　　

★    春夜洛城聞笛　　　　　春夜洛城に笛を聞く　　　　　　　　　　唐　　李　白

 

誰家玉笛暗飛聲　　　　誰(た)が家の玉笛か 暗(あん)に声を飛ばす

散入春風滿洛城　　　　散じて 春風に入りて 洛(らく)城(じょう)に満つ

此夜曲中聞折柳　　　　此の夜 曲中 折(せつ)柳(りゅう)を聞く

何人不起故園情　　　　何人か 故園の情を 起さざらん

 

【語釈】

○洛城…洛陽の街。○玉笛…宝玉でできた笛、笛の美称。○暗…暗闇に、密やかに。○折柳…折楊柳、横吹曲で別れの情をうたった曲名。○故園…故郷。○故園情…故郷を思う気持ち、郷愁。

（参考文献）　　『唐詩選』

　

 

★    逢入京使　　　　　　　京(けい)に入る使に逢う　　　　　　　　　　　唐　　岑　參

 

故園東望路漫漫　　　　故園 東に望めば 路 漫々(まんまん)

雙袖龍鍾淚不乾　　　　双袖(そうしゅう) 竜鍾(りょうしゅう)として 涙 乾かず

馬上相逢無紙筆　　　　馬上に相逢(あいあ)いて 紙筆無し

憑君傳語報平安　　　　君に憑(よ)って 伝語して 平安を報ぜん

 

【語釈】

○故園…ふるさと，住むべき地。○漫漫…路が長々と続いているさま。○雙袖…両袖龍鐘…失意のさま。涙を流すさま。○相逢……に出逢う、…に（偶然に）出くわす。○憑…たのむ。○傳語…言伝（ことづて）する。○報…知らせる。○平安…無事。

（参考文献）　『唐詩選』

 

　　　

★    暮春歸故山草堂　　　　暮春(ぼしゅん) 故山の草堂に帰る　　　　　　　　　唐　　錢　起

 

谷口春殘黃鳥稀　　　　谷口　春(しゅん)残(ざん)して 黄鳥(こうちょう)稀なり

辛夷花盡杏花飛　　　　辛夷(しんい) 花尽きて 杏(きょう)花(か)飛ぶ

始憐幽竹山窗下　　　　始めて憐れむ 幽竹 山窓の下(もと)

不改清陰待我歸　　　　清陰を改めずして 我が帰るを待つを

 

【語釈】

○暮春…春の景物がすたれた時節。○故山…故郷の山。○草堂…草葺きの家。○春殘…春の景物がすたれる。○黃鳥…コウライウグイス。○辛夷…こぶし。○幽竹…密やかな竹。○清陰…清らかな影。

（参考文献）　『新編中国名詩選』

 

★    楓橋夜泊　　　　　　　　楓(ふう)橋(きょう)夜(や)泊(はく)  　　　　　　　　　　　　　　　唐　　張　繼

 

月落烏啼霜滿天　　　　　月落ち 烏啼いて 霜 天に満つ

江楓漁火對愁眠　　　　　江楓 漁火 愁眠に対す

姑蘇城外寒山寺　　　　　姑蘇(こそ)城外(じょうがい)の 寒山寺

夜半鐘聲到客船　　　　　夜半の鐘声 客船(かくせん)に到る

 

【語釈】

○楓橋…中国蘇州にある運河にかかった太鼓橋。○霜満天…霜の下りる気配が天に満ちること。霜は地面から上がってくるものだが、中国では天から降りてくるものと考えられていた。　○江楓　川沿いの楓の木々。漁火　漁船のいさり火。○愁眠　旅愁を抱いてウトウトしながらたまに目が覚める浅い眠り。○姑蘇…蘇州の旧名。春秋時代の呉の都。○寒山寺…蘇州郊外西5キロの楓橋鎮にある、臨済宗の寺。

（参考文献）　　『唐詩選』

　　

★    湖中　　　　　　　　　　湖中　　　　　　　　　　　　　　　唐　　顧　況

 

青草湖邊日色低　　　　青草(せいそう)湖(こ)辺(へん) 日(にっ)色(しょく)低く

黃茅嶂裏鷓鴣啼　　　　黄茅嶂(こうちしょう)裏(り) 鷓鴣(しゃこ)啼く

丈夫飄蕩今如此　　　　丈夫 飄蕩(ひょうとう) 今此(こ)の如し

一曲長歌楚水西　　　　一曲の長歌 楚(そ)水(すい)の西

 

 【語釈】

○湖中…湖中にて、湖は洞庭湖を指す。○青草湖 …一名巴丘湖、洞庭湖の東南部に位置する。○辺 …ほとり。○日色 …日の輝き。○黄茅瘴 …茅が黄ばんで枯れる頃、瘴疫が広まるので、土地の人はこれを黄茅瘴と呼んだという。○飄蕩落ちぶれて流浪すること。○今如此…今このような身の上である。○一曲…一節ひとふし。○長歌…声を長く引き伸ばして歌うこと。○楚水西 …楚国の川の西方。

（参考文献）　『唐詩選』

　　　

★    憶故園　　　　　　　　故園を憶う　　　　　　　　　　　　　　　唐　　顧　況

 

惆悵他山人復稀　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 他山 人 復(ま)た稀なるを

杜鵑啼處淚霑衣　　　　杜鵑(とけん) 啼く処 涙 衣を霑(うるお)す

故園此去千餘里　　　　故園 此(ここ)より去ること 千余里

春夢猶能夜夜歸　　　　春夢 猶(な)お能(よ)く 夜(や)々(や)帰る　

 

【語釈】

○故園…故郷。○惆悵…嘆き悲しむさま。○杜鵑…ホトトギス。

 

 

★    小孤山　　　　　　　　小孤山　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　顧　況

 

古廟楓林江水邊　　　　古廟(こびょう)の楓林 江水の辺(ほとり)

寒鴉接飯雁橫天　　　　寒(かん)鴉(あ) 飯に接し 雁 天に横わる

大孤山遠小孤出　　　　大孤山 遠くして 小孤出ず

月照洞庭歸客船　　　　月は照らす 洞庭 帰客(きかく)の船

 

【語釈】

○小孤山…安徽省安慶市小孤山。○江水…長江。○大孤山…江西省鄱楊湖の出口にある山。○小孤…小孤山。○洞庭…洞庭湖。湖南省北東部にある淡水湖。

 


 

★    聽角思歸　　　　　　　角を聴(き)いて帰るを思う　　　　　　　　  唐　　顧　況

 

故園黃葉滿青苔　　　　故園の黄葉(こうよう) 青(せい)苔(たい)に満つ

夢後城頭曉角哀　　　　夢後の城頭 暁(ぎょう)角(かく)哀し

此夜斷腸人不見　　　　此の夜 断腸 人見えず

起行殘月影徘徊　　　　起行すれば 残月 影 徘徊す　　　　　

 

【語釈】

○角…角笛。○故園…故郷。○曉角…曉を告げる角笛。○断腸…はらわたがちぎれるほどの悲しみ。○起行…起きて歩く。○殘月…有り明けの月。

(参考文献)　『唐詩選』

 

 

★    宿湘江　　　　　　　　湘(しょう)江(こう)に宿す　　　　　　　　　　　　　  唐　　戎　昱

 

九月湘江水漫流　　　　九月 湘(しょう)江(こう) 水 漫(まん)流(りゅう)す

沙邊唯覽月華秋　　　　沙辺 唯だ覧(み)る 月(げっ)華(か)の秋

金風浦上吹黃葉　　　　金風 浦上 黄葉(こうよう)を吹き

一夜紛紛滿客舟　　　　一夜 紛々として 客(かく)舟(しゅう)に満つ

 

【語釈】

○湘江…洞庭湖に注ぐ湖南省最大の川。○漫流…意のままに流れる。○月華…月の光。○金風…秋風。○紛々…乱れ飛ぶさま。○客舟…旅客を乗せた舟。

 

 

★    雲安阻雨　　　　　　　雲安(うんあん)にて雨に阻(はば)まる　　　　　　　　　　　　唐　　戎　昱

 

日長巴峽雨濛濛　　　　日長く 巴峡 雨 濛々(もうもう)

又説歸舟路未通　　　　又た説く 帰舟 路(みち) 未だ通ぜずと

遊人不及西江水　　　　遊人 及ばず 西江の水

先得東流到渚宮　　　　先ず東流して 渚宮(しょきゅう)に到るを得たり

 

【語釈】

○雲安…四川省雲陽県。○巴峡…湖北省巴東県にある峡谷。○霧や小雨で，煙るように

ぼおっとしているさま。○遊人…旅人。○西江…長江の中下流。○渚宮…湖北省江陵県の古跡。

 

 

★    南游感興　　　　　　　南游(なんゆう)感興(かんきょう)　　　　　　　　　　   　　  唐　　竇　鞏

 

傷心欲問前朝事　　　　傷心 問わんと欲す 前朝の事

惟見江流去不回　　　　惟(た)だ見る 江流 去りて回(かえ)らざるを

日暮東風春草綠　　　　日 暮れて 東風 春草 緑なり

鷓鴣飛上越王臺　　　　鷓鴣(しゃこ) 飛び上がる 越(えつ)王(おう)台(だい)

 

【語釈】

○南游…南方（ここでは呉楚の地方）を旅すること。○前朝…春秋戦国時代の呉越。○江流…長江の流れ。越王臺…越王勾践が築いた台。

 

★    夜發袁江寄　　　　　　夜 袁(えん)江(こう)を発して寄す　　　　　　　　　　  唐　　戴叔倫

 

半夜回舟入楚郷　　　　半夜 舟を回(めぐ)らして楚郷に入(い)る

月明山水共蒼蒼　　　　月明 山水 共に蒼々(そうそう)たり

孤猨更叫秋風裏　　　　孤猿 更に叫ぶ 秋風の裏(うち)

不是愁人亦斷腸　　　　是(こ)れ 愁人ならずも 亦(ま)た断腸

 

【語釈】

○袁江…不祥。○楚郷…楚の地、湖北省・湖南省。○蒼蒼…青白いさま。○断腸…はらわたが断えるほどの悲しみ。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

　　　

★    湘南即事　　　　　　　湘(しょう)南即事(なんそくじ) 　　　　　　　　　　　　　　唐    戴叔倫

 

盧橘花開楓葉衰　　　　盧(ろ)橘(きつ) 花開きて 楓葉(ふうよう)衰う

出門何處望京師　　　　門を出(いで)て何れの処にか 京師(けいし)を望まん

沅湘日夜東流去　　　　沅湘(げんしょう) 日夜 東に流れて去る

不爲愁人住少時　　　　愁人の為に 住(とど)まること少時(しょうじ)もせず

 

【語釈】

○湘南…湖南省湘潭県の西。○即事…その場の事を詠じた詩。○盧橘…金柑。○楓葉…楓の葉。○出門…城門を出ることで、郊外へ行く意。○京師…帝都。○沅湘…沅江と湘江、共に湖南省を流れて洞庭湖に注ぐ川の名。○愁人…愁いを抱く人。

（参考文献）　『三体詩』

 

 

★    下第後出關　　　　　　下第後(かだいご) 関(かん)を出ず　　　　　　　　　　　  唐    盧　綸

 

出關愁暮一沾裳　　　　関を出で 暮を愁い 一(いつ)に裳(しょう)を沾(うるお)す

滿野蓬生古戰場　　　　満野　蓬(ほう)は生ず 古戦場

孤村樹色昏殘雨　　　　孤村の樹色 残雨に昏(くら)く

遠寺鐘聲帶夕陽　　　　遠寺の鐘声夕陽を帯ぶ

 

【語釈】

○下第…科挙の郷試に落第する。○出関…関中（現・陝西省中部で、四つの関の中の地。中心は都の長安）の地より出る。○愁暮…日が暮れたことを愁える。○一…もっぱら。○沾…ぬらす。しめらす。うるおす。○裳…衣服。○満野…野原いっぱいに。○蓬…ヨモギ。○孤村…ぽつんと離れたところにある村。○昏…（日が暮れて）くらい。○残雨…残り雨。

（参考文献）　　『三体詩』　

 

 

★    春夜聞笛　　　　　　　春夜笛を聞く　　　　　　　　　　　　　唐　　李　益

 

寒山吹笛喚春歸　　　　寒山の吹(すい)笛(てき) 春の帰るを喚(さけ)ぶ

遷客相看淚滿衣　　　　遷客(せんかく) 相(あい)看(み)て 涙 衣に満つ

洞庭一夜無窮雁　　　　洞庭 一夜 無窮(むきゅう)の雁(かり)

不待天明盡北飛　　　　天明(てんめい)を待たずして 尽(ことごと)く北に飛ぶ

 

【語釈】

○寒山…寒々とした山。○春歸…春が来る。○遷客…地方に左遷された人。○洞庭…洞庭湖。○天明…夜明け。

 

 

★    失題　　　　　　　　　失題　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　益

 

世故相逢各未閑　　　　世故(せこ) 相逢(あいあ)いて　各(おのおの)未だ閑(かん)ならず

百年多在別離間　　　　百年 多く 別離の間に在り

昨夜秋風今夜雨　　　　昨夜の秋風 今夜の雨

不知何處入空山　　　　知らず 何れの処にか 空山に入るを

 

【語釈】

○世故…世事、世の中の一切のことがら。○空山…人気の無い山。

 

　　　

★    雨中怨秋　　　　　　　雨中秋を怨む　　　　　　　　　　　　　　唐　　楊　憑

 

辭家遠客愴秋風　　　　家を辞し 遠客 秋風を愴(かなし)む

千里寒雲與斷蓬　　　　千里の寒雲 断(だん)蓬(ぽう)を与(あしら)う

日暮隔山投古寺　　　　日暮れて 山を隔て 古寺に投ず

鐘聲何處雨濛濛　　　　鐘声 何れの処か 雨 濛々(もうもう)

 

【語釈】

○辭家…家を離れる。○斷蓬…根のちぎたヨモギ。あてどない旅の象徴。○濛濛…霧や雨で煙るようにぼおっとしているさま。

 

 

★    登峴亭　　　　　　　　峴亭(けんてい)に登る　　　　　　　　　　　　　　　唐　　司空曙

 

峴山回首望秦關　　　　峴山(けんざん) 首(こうべ)を回(めぐ)らして 秦関(しんかん)を望み

南向荊州幾日還　　　　南のかた 荆州(けいしゅう)に向(むか)いて 幾日か還る　

今日登臨唯有淚　　　　今日 登臨(とうりん)して 唯だ 涙有り

不知風景在何山　　　　知らず 風景 何れの山にか在る

 

【語釈】

○峴亭…峴山にある亭。○峴山…湖北省襄陽県の南ある山。○秦關…関中の地、長安。○荊州…湖北省一帯。○登臨…高いところに登って見下ろす。○風景…風光景色。

 

 

★    江陵使至汝州　　　　　江(こう)陵(りょう)に使して 汝州(じょしゅう)に至る　　　　　　　唐　　王　建

 

回看巴路在雲間　　　　回看(かいかん)すれば 巴(は)路(じ) 雲間に在り

寒食離家麥熟還　　　　寒食(かんしょく)に家を離れて 麦 熟して還る

日暮數峰青似染　　　　日暮れて 数峰 青 染むるに似たり

商人説是汝州山　　　　商人 説く 是れ 汝州(じょしゅう)の山と

 

【語釈】

○江陵…湖北省荆州市江陵県。○汝州…河南省汝州市一帯。○回看…振り返って見る。○巴路…四川省の道。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。

 

 

★    宿青陽驛　　　　　　　青陽駅に宿す　　　　　　　　　　　　　　  唐　　武元衡

 

空山搖落三秋暮　　　　空山 揺落す 三秋の暮

螢過疎簾月露團　　　　蛍は疎簾を過ぎ 月露 団(だん)たり

寂寞孤燈愁不寐　　　　寂寞たる孤灯 愁いて寐らず

蕭蕭風竹夜窗寒　　　　蕭蕭たる風竹 夜窓寒し

 

【語釈】

○青陽驛…陝西省漢中市青陽駅。○空山…人気の無い山。○揺落…木の葉が枯れ落ちる。○三秋…旧暦九月。○疎簾…まばらな簾。○月露…月に照らされた露。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○蕭蕭…風雨や落葉などの物寂しい音の形容。

 

 

★    嘉陵驛　　　　　　　嘉(か)陵(りょう)駅(えき)　　　    　　　　　　　　　唐　　武元衡 

 

悠悠風斾繞山川　　　　悠々(ゆうゆう)たる風斾(ふうはい) 山川を繞(めぐ)る

山驛空濛雨似煙　　　　山駅 空濛(くうもう)として 雨煙に似たり

路半嘉陵頭已白　　　　路 半ばにして 嘉(か)陵(りょう) 頭(こうべ) 已に白し

蜀門西上更青天　　　　蜀門 西上 更に青天

 

【語釈】

○嘉陵驛…広西百色市嘉陵駅。○悠悠…ゆったりしたさま。○風斾…風になびく旗。○空濛…小雨が降ったり靄が立ちこめたりして薄暗いさま。○嘉陵…四川省南充市嘉陵市。○蜀門…剣門山。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    汴州聞角　　　　　　　汴州(べんしゅう)にて角を聞く　　　　　　　　　　  唐　　武元衡

 

何處金笳月裏悲　　　　何れの処の金笳(きんか)か 月(げつ)裏(り)に悲し

悠悠邊客夢先知　　　　悠々(ゆうゆう)たる辺客(へんかく) 夢に先ず知る

單于城上關山曲　　　　単于(ぜんう)城上(じょうじょう) 関山の曲

今日中原總解吹　　　　今日 中原 総て吹くを解す

 

【語釈】

○汴州…河南省開封市。○角…角笛。○金笳…あし笛の美称。○悠悠…愁え悲しむさま。○邊客…辺地を旅する人。○單于…匈奴の王。○關山曲…関山月。縦笛の曲。○中原…黄河流域の平原。

 

　　　

★    春興　　　　　　　　　春興　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　武元衡

 

楊柳陰陰細雨晴　　　　楊柳 陰々(いんいん) 細雨晴れ

殘花落盡見流鶯　　　　残花 落ち尽くして 流鶯を見る

春風一夜吹郷夢　　　　春風 一夜 郷夢を吹き

夢逐春風到洛城　　　　夢は春風を逐い 洛城に到る

 

【語釈】

○楊柳…柳の総称。○陰陰…木が茂って暗いさま。○殘花…廃れた花。○郷夢…故郷の夢。○洛城…洛陽。

 

 

★    舟行 　　　　　　　　　舟行　　　　　　　　　　　　　　　唐　　權德輿

 

蕭蕭落葉送殘秋　　　　蕭々(しょうしょう)たる落葉 残(ざん)秋(しゅう)を送る

寂寞寒波急暝流　　　　寂寞(せきばく)たる寒波 暝流(めいりゅう)急なり

今夜不知何處泊　　　　今夜知らず 何れの処にか泊(はく)せん

斷猿晴月引孤舟　　　　断(だん)猿(えん) 晴月 孤舟を引く

 

【語釈】

○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○殘秋…まさに終わろうとしている秋。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○暝流…くらい水流。○斷猿…猿のとぎれとぎれの悲しい声。

 

 

★    登樓                  登楼                                   唐　　羊士諤

 

槐柳蕭疎遶郡城　　　　槐(かい)柳(りゅう) 蕭(しょう)疎(そ)として 郡城を遶(めぐ)る

夜添山雨作江聲　　　　夜　山雨を添(そ)えて 江声を作(な)す

秋風南陌無車馬　　　　秋風 南陌(はんぱく) 車馬無く

獨上高樓故國情　　　　独り高楼に上る 故国の情

 

【語釈】

○槐柳…エンジュと柳。○蕭疎…草木が疎らで寂しいさま。○南陌…南に面した道。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

　

 

★    晚次宣溪　　　　　　　晚に宣溪(せんけい)に次(やど)る　　　　　　　　　　　  唐　　韓　愈

 

韶州南去接宣溪　　　　韶州(しょうしゅう) 南に去り 宣溪に接す

雲水蒼茫日向西　　　　雲水 蒼茫として 日 西に向う

客淚數行先自落　　　　客淚 数行 先ず自(おのずか)ら落つ

鷓鴣休傍耳邊啼　　　　鷓鴣(しゃこ) 耳辺に啼くことを傍(そえ)るを休(や)む

 

【語釈】

○宣溪…不祥。○韶州…広東省韶關市。○蒼茫…水面などの青々として果てしないさま。○客淚…旅を愁う涙。

 

 

★    柳州二月榕葉落盡偶題　　柳州(りゅうしゅう)二月榕(よう)葉(よう)落ち尽くす偶(たまた)ま題す　　　  唐　　柳宗元

 

宦情羈思共悽悽　　　　宦(かん)情(じょう) 羈思 共に悽々(せいせい)

春半如秋意轉迷　　　　春 半ばにして 秋の如く 意 転(うた)た迷う

山城過雨百花盡　　　　山城 雨 過ぎて 百花尽き

榕葉滿庭鶯亂啼　　　　榕(よう)葉(よう) 庭に満ち 鶯 乱れ啼く

 

【語釈】

○柳州（広西壮族自治区の柳州市）。○榕葉…榕樹（あこう）の葉。○偶題…たまたま詩をつくる。○宦情…役人としての思い。○羈思…旅愁、ここでは地方勤めの愁。○淒淒…わびしく悲しいさま。○意…思い。○転…ますます。○迷…悲しみ悼む。○山城…山あいの町、柳州を指す。○過雨…通り雨。

（参考文献）　　『柳宗元詩選』

 

　

 

★    與浩初上人　　　　　浩初上人に与う　　　　　　　　　　　　　　唐　　柳宗元

 

 海畔尖山似劒鋩　　　　海(かい)畔(はん)の尖(せん)山(ざん) 劒鋩(けんぼう)に似たり

秋來處處割愁腸　　　　秋来 処々(しょしょ) 愁(しゅう)腸(ちょう)を割る

若爲化作身千億　　　　若為(いかん)して化し 身を千億と作(な)し

散上峰頭望故鄉　　　　散じて 峰頭に上りて 故鄉を望まん

 

【語釈】

○浩初上人…覃州（湖南省長沙）の人。僧で柳宗元の知り合い。○尖山…尖った山。○劒鋩…剣の切っ先。○秋来…秋になってから。○愁腸…痛ましい心。○若爲…いかんして、どのようにして。

（参考文献）　　『柳宗元詩選』

 

　　　

★    京宿於都亭有懷續來諸君子　　　　　　　　　　　　　唐    劉禹錫

京(けい)に赴(おもむ)き都亭(とてい)に宿す続来(ぞくらい)の諸君子を懷う有り　 

 

雷雨湘江起臥龍　　　　雷雨 湘江 臥(が)竜(りょう)を起す

武陵樵客躡仙蹤　　　　武(ぶ)陵(りょう)の樵客(しょうかく) 仙蹤(せんしょう)を躡(ふ)む

十年楚水楓林下　　　　十年 楚(そ)水(すい) 楓林の下

今夜初聞長樂鐘　　　　今夜 初めて聞く 長楽(ちょうらく)の鐘

 

【語釈】

○元和甲午歲…西暦８１４年。○江湘…長江と湘江の地方。○逐客…地方に左遷された人。○武陵…湖南省常德市。○續來…続いてやってくる。○湘江…洞庭湖に注ぐ湖南省最大の河川。○臥龍…雌伏して世に出ていない人材。○樵客…樵のように世に出ない人。○仙蹤…京に召された者の通る道。○楚水…湖北省・湖南省の河川。○長樂…宮殿。

 

★    秋思　　　　　　　　　秋思 　　　　　　　　　　　　　　　　唐    張　籍

 

洛陽城裏見秋風　　　　洛陽(らくよう)城(じょう)裏(り) 秋風を見る

欲作家書意萬重　　　　家書を作らんと欲すれば 意(おもい) 万(ばん)重(ちょう)

復恐匆匆說不盡　　　　復(ま)た恐る 匆々(そうそう) 説きて尽さざるを

行人臨發又開封　　　　行人(こうじん) 発するに臨みて 又た封を開く

 

【語釈】

○城裏…城壁に囲まれた市街の中。○家書… 家族へあてた手紙。，○意万重 …「あれも書きたい、これも書きたい」と、思いが幾重にも重なること。○怱怱 … 慌ただしいさま。、○行人…飛脚。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    感春　　　　　　　　　春に感ず　　　　　　　　　　　　　　　唐　　張　籍

 

遠客悠悠多病身　　　　遠客(えんかく) 悠々(ゆうゆう) 多病の身

謝家池上又逢春　　　　家を謝して 池上 又た春に逢う

明年各自東西去　　　　明年 各自 東西に去り

此地看花是別人　　　　此の地 花を看るは 是れ 別人ならん

 

【語釈】

○遠客…故郷を遠く離れた旅人。○悠悠…うれえるさま。○謝家…家を出る。池上…池のほとり。

（参考文献）　『三体詩』

 

 

★    重陽日至峽道　　　　　重陽(ちょうよう)の日 峡(きょう)道(どう)に至る　　　　　　　　　唐　　張　籍

 

無限青山行已盡　　　　限り無き青山 行きて已に尽き

迴看忽覺遠離家　　　　迴看(かいかん)すれば 忽ち覚ゆ  遠く家を離るるを

登高欲飲重陽酒　　　　高きに登りて飲まんと欲す 重陽の酒　

山菊今朝未有花　　　　山菊 今朝 未だ花有らず

 

【語釈】

○重陽日…旧暦九月九日、重陽の節句。○峽道…峽州（湖北省宣昌市）の道。○迴看…振り返って見る。○転句…重陽の節句には高所に登って菊酒を飲む習慣がある。

 

 

★    邯鄲冬至夜思家　　　　邯鄲(かんたん)の冬至の夜 家を思う　　　　　　唐　　白居易

 

邯鄲驛裏逢冬至　　　　邯鄲(かんたん)駅(えき)裏(り) 冬至に逢う

抱膝燈前影伴身　　　　膝(ひざ)を抱きて 灯前 影 身に伴う

想得家中夜深坐　　　　想い得たり 家中 夜 深(ふ)けて坐し

還應説著遠行人　　　　還(ま)た 応(まさ)に 遠行の人を説著(せっちゃく)すべし

 

【語釈】

○邯鄲…河北省邯鄲市。○驛…宿場。○家中…故郷の家族。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～しているに違いない」の意。○説著…語る。著は成り行きを示す接尾語。○遠行人…故郷を遠く離れた旅人、作者。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

★    宿桐廬館同崔存度醉後作　　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易　

  　　　　　　　　桐廬館(とうろかん)に宿し 崔存度(さいそんど)と同(とも)に酔後に作る

 

江海漂漂共旅遊　　　　江海漂々(ひょうひょう)として 共に旅遊し

一尊相勸散窮愁　　　　一尊(いっそん) 相(あい)勧(すす)めて 窮(きゅう)愁(しゅう)を散ず

夜深醒後愁還在　　　　夜深くして 醒後(すいご) 愁 還(な)お在り

雨滴梧桐山館秋　　　　雨は梧桐(ごとう)に滴る　山館の秋

 

【語釈】

○桐廬館…浙江省桐廬県にある館。○崔存度…不祥。○江海…長江と東海。○漂漂…ただようさま。○旅遊…旅に遊ぶ。○窮愁…窮迫の愁い。○還…やはり。当時の俗語。○梧桐…あおぎり。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

　　　

 

★    江行　　　　　　　　江行　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

青草湖中萬里程　　　　青草(せいそう)湖中(こちゅう) 万里の程

黃梅雨裏一人行　　　　黄梅(こうばい)雨(う)裏(り) 一人(ひとり)行く

愁見灘頭夜泊處　　　　愁い見る 灘頭(だんとう) 夜泊の処

風翻暗浪打船聲　　　　風は暗浪(あんろう)を翻えして 船を打つ声

 

【語釈】

○青草湖…湖南省岳陽県の南にある湖。○黃梅雨…さみだれ。○灘頭…早瀬。

（参考文献）　『新釈漢文大系　十一』

 

★    箬峴東池　　　　　　　箬峴(じゃくけん)の東池(とうち)　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

箬峴亭東有小池　　　　箬峴亭(じゃくけんてい)の東に 小池有り

早荷新荇綠參差　　　　早(そう)荷(か) 新荇(しんこう) 緑 参(さん)差(し)たり

中宵把火行人發　　　　中宵(ちゅうしょう) 火を把(と)りて 行人(こうじん) 発すれば

驚起雙栖白鷺鷥　　　　驚起す 双栖(そうせい)の白鷺鷥(ろじ)

 

【語釈】

○箬峴…箬峴亭、不祥。○早荷…新芽を出した蓮。○新荇…新芽を出したアサザ。○參差…不揃いなさま。○中宵…夜中。○行人…旅人、作者自身。○雙栖…つがい。○白鷺鷥…白鷺。

〔参考文献〕　　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

 

★    登崖州城作　　　　　　崖州城(がいしゅうじょう)に登りて作る　　　　　　　　　  唐　　李德裕

 

獨上高樓望帝京　　　　独り 高楼に上りて 帝京を望めば

鳥飛猶是半年程　　　　鳥 飛び 猶お是れ 半年の程

青山似欲留人住　　　　青山 人を留めて住ましめんと欲するに似て　

百匝千遭遶郡城　　　　百匝(ひゃくそう) 千遭(せんそう) 郡城を遶(めぐ)る

せんぐう

【語釈】

○崖州城…海南省海口市琼山区。○帝京…京城。長安。○百匝…多くの巡り。○千遭…多くの周。

 

 

　　　

★    再宿武關　　　　　　　武関(ぶかん)に再宿す　　　　　　　　　　　　　唐　　李　涉

 

遠別秦城萬里遊　　　　遠く 秦(しん)城(じょう)に別れて 万里に遊ぶ

亂山高下入商州　　　　乱山 高下  商州(しょうしゅう)に入る

關門不鎖寒溪水　　　　関門 鎖さず 寒渓の水

一夜潺湲送客愁　　　　一夜 潺湲(せんかん) 客(かく)愁(しゅう)を送る

 

【語釈】

○武關…陝西省商南県。○秦城…長安。○商州…陝西省の地名。○關門…関所の門。○潺湲…水の流れるさま。さらさら。○客愁…旅の愁い。

（参考文献）　『三体詩』

　　　

 

★    晚泊潤州聞角         晩に潤州(じゅんしゅう)に泊し角(かく)を聞く　　　　　　　　　唐　　李　涉

 

孤城吹角水茫茫　　　　孤城 角(かく)を吹き 水 茫々(ぼうぼう)たり

曲引邊聲怨思長　　　　曲は辺声を引き 怨(えん)思(し)長し

驚起暮天沙上鴈　　　　驚起す 暮天 沙上の鴈(がん)

海門斜去兩三行　　　　海門 斜めに去る 両(りょう)三行(さんこう)　

 

【語釈】

○潤州…江蘇省鎮江市。○角…角笛。○茫茫…膨大で広々したさま。○邊聲…角笛等の音声。○怨思…恨めしい思い。○驚起…驚いて飛び立つ。○海門…川の海への出口。○兩三行…二三列。

 

　

 

★    竹枝詞　　　　　　　　竹(ちく)枝(し)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　涉

 

十二峰頭月欲低　　　　十二峰頭 月 低からんと欲す

空澪灘上子規啼　　　　空(くう)澪灘上(れいたんじょう) 子規啼く

孤舟一夜東歸客　　　　孤舟 一夜 東帰の客(かく)

泣向春風憶建溪　　　　泣いて 春風に向って 建渓(けんけい)を憶う

 

【語釈】

○竹枝詞…劉禹錫が左遷されていたときに土地の民謡をもとに作った詩の形態、男女の情愛や土地の風俗を詠う。○十二峰…不確定。○空澪灘…不祥。○建溪…福建省南平市建溪。　　　

 

 

★    郵亭殘花            郵亭の残花　　　　　　　　　　　　　   唐　　張　祜

 

雲暗山橫日欲斜　　　　雲暗く 山横たわりて 日 斜めならんと欲す

郵亭下馬對殘花　　　　郵亭 馬より下りて 残花に対す

自從身逐西征府　　　　身 西征府を逐(お)いてより

每到花時不在家　　　　花(か)時(じ)に到る毎(ごと)に 家に在らず

 

【語釈】

○郵亭…郵便物の中継所。○殘花…散り残っている花。○自從…「より」と読み、「～以来」の意。○西征府…不祥。軍務の役所？○花時…花の盛りの時。

 

　　　

 

★    瓜洲聞曉角　　　　　　瓜(か)洲(しゅう)にて暁(ぎょう)角(かく)を聞く　　　　　　　　　   唐　　張　祜

 

寒耿稀星照碧霄　　　　寒耿(かんこう) 稀(き)星(せい) 碧霄(へきしょう)を照す

月樓吹角夜江遙　　　　月楼 角(かく)を吹き 夜江遥なり

五更人起煙霜靜　　　　五更 人 起きて 煙霜静なり

一曲殘聲送落潮　　　　一曲の残声 落潮(らくちょう)を送る

 

【語釈】

○瓜洲…江蘇省邗江県南部。○曉角…曉を告げる角笛。○寒耿…寒々とした光。○碧霄…青空。○角…角笛。○五更…夜明け方。○煙霜…朝靄と霜。○落潮…引き潮。

 

 

★    夜宿湓浦逢崔昇　　　　夜 湓(ほん)浦(ほ)に宿し崔(さい)昇(しょう)に逢う　　　　　   唐　　張　祜

 

江流不動月西沈　　　　江流 動かず 月 西に沈む

南北行人萬里心　　　　南北 行人(こうじん) 万里の心

況是相逢鴈天夕　　　　況(いわん)や是(こ)れ 相(あい)逢(あ)う 鴈天(がんてん)の夕(ゆうべ)

星河寥落水雲深　　　　星河 寥落(りょうらく)して 水雲深し

 

【語釈】

○湓浦…江西省九江市湓浦。○崔昇…博陵安平の人。尚書左丞に至る。○行人…旅人。○鴈天…秋天。○星河…銀河。○寥落…星などの少ないさま。

 

 

★    宿嘉陵驛　　　　　　　嘉(か)陵(りょう)駅(えき)に宿す　　　　　　　　　　　　 唐　　雍　陶

 

離思茫茫正値秋　　　　離思 茫々(ぼうぼう) 正に秋に值(あ)う　

每因風景卻生愁　　　　毎(つね)に 風景に因り 却って愁を生ず

今宵難作刀州夢　　　　今宵(こんしょう) 作し難し 刀州の夢

月色江聲共一樓　　　　月色 江声 共に一楼

 

【語釈】

○嘉陵驛…嘉陵江（四川省を北から南に縦断し、重慶で長江に注ぐ川）にある宿場。○離思…遠い故郷を偲ぶ気持。○茫茫…果てしなく広いさま。○值…会う。○因…親しむ。○刀州…四川省広元県。

（参考文献）　『三体詩』『和漢名詞選類評釈』

　　　

 

★    峽中行　　　　　　　　峡中(きょうちゅう)行(こう) 　　　　　　　　　　　　　唐　　雍　陶

 

兩崖開盡水回環　　　　両崖 開き尽して 水 回環(かいかん)す

一葉纔通石罅間　　　　一葉 纔(わずか)に通ず 石(せき)罅(か)の間

楚客莫言山勢險　　　　楚客(そかく) 言う莫かれ 山勢(さんせい)険なりと

世人心更險於山　　　　世人の心は　更に山よりも険なり

 

【語釈】

○峽中…両側の山の間。行は歌。○回環…回り廻る。○一葉…一小舟。○石罅…石の隙間。○楚客…湖南省・湖北省から来た旅人。○山勢…山の形勢。

 

 

★    西歸出斜谷　　　　　　西に帰りて斜(や)谷(こく)を出ず　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

行過險棧出褒斜　　　　険(けん)桟(さん)を行過し 褒(ほう)斜(や)を出ず

出盡平川似到家　　　　平川(へいせん)に出尽して 家に到るに似たり

無限客愁今日散　　　　限り無き客(かく)愁(しゅう) 今日散ず

馬頭初見米囊花　　　　馬頭 初めて見る 米囊(べいのう)花(か)

 

【語釈】

○西歸…西の故郷、西都に帰る。○斜谷…褒斜谷。險棧…険しい桟橋。○平川…平らな河原。○客愁…旅の愁い。○馬頭…馬の上。○米囊花…芥子の花、蜀に多い。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    秋懷　　　　　　　　　 秋懷(しゅうかい)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

古槐煙薄晚鴉愁　　　　古槐(こかい) 煙 薄く 晩(ばん)鴉(あ)愁う

獨向黃昏立御溝　　　　独り 黄昏(こうこん)に向いて 御溝(ぎょこう)に立つ

南國望中生遠思　　　　南国望中 遠思生じ

一行新鴈去汀洲　　　　一行の新鴈 汀(てい)洲(しゅう)を去る

 

【語釈】

○古槐…古いエンジュの樹。○煙…もや。○黃昏…たそがれ。○御溝…宮苑の堀。○南国望中…南国の眺めの中。○遠思…遠く思いをやる。○汀洲…川の中の中洲。

　　

 

★    漢江　　　　　　　　　漢(かん)江(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　杜　牧

 

溶溶漾漾白鷗飛　　　　溶々(ようよう) 漾々(ようよう) 白(はく)鴎(おう)飛ぶ

綠淨春深好染衣　　　　緑浄く 春深くして 衣を染むるに好し

南去北來人自老　　　　南去(なんきょ)北来(ほくらい) 人 自(おのずか)ら老ゆ

夕陽長送釣船歸　　　　夕陽(せきよう) 長く送る 釣船(ちょうせん)の帰るを

 

【語釈】

○漢江…陝西省西部に源を発し、東に流れ、武漢で長江に注ぐ。○溶溶…水がこんこんとたたえているさま。漾漾…水面がゆらゆら揺れているさま。○南去北來…南へ行ったり、北へ行ったりすること。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

　　　

★    題齊安城樓　　　　　　斉(せい)安(あん)の城楼に題す　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

嗚軋江樓角一聲　　　　嗚軋(おえつ)たり 江楼の 角(かく) 一声

微陽瀲瀲落寒汀　　　　微(び)陽(よう) 瀲々(れんれん)として 寒(かん)汀(てい)に落つ

不用憑闌苦回首　　　　用いず 闌(らん)に憑(よ)りて 苦(ねんごろ)に首(こうべ)を回(めぐら)すを

故鄉七十五長亭　　　　故鄉 七十五長亭(ちょうてい)

 

【語釈】

○斉安城…広東省恩平市。○鳴軋…悲しみに泣くような声。○江樓…川に面した高殿。○角…角笛。○微陽…かすかな日の光。○瀲瀲…水が日の光できらめくさま。○寒汀…寒々とした渚。○落…ここでは照らすの意。○憑欄…欄干にもたれかかる。○苦…ねんごろ、ねんいり。○廻首…顔を向ける。○故鄕…住むべき所、長安。○長亭…十里毎にある宿場、七十五長亭は、七百五十里。

（参考文献）　『漢詩大系　１４』

 

 

★    初冬夜飲　　　　　　　初冬夜飲(しょとうやいん)　　　　　　　　　　　　　　　唐　　杜　牧

 

淮陽多病偶求歡　　　　淮(わい)陽(よう) 多病 偶(たまた)ま 歓を求む

客袖侵霜與燭盤　　　　客(かく)袖(しゅう) 霜を侵して 燭盤(しょくばん)を与にす

砌下梨花一堆雪　　　　砌下(せいか)の 梨花(りか) 一堆(いちつい)の雪

明年誰此凭闌干　　　　明年 誰か 此(ここ)に 闌(らん)干(かん)に凭(よ)る

 

【語釈】　　

○淮陽多病…漢の汲黯は武帝に遠ざけられが淮陽の太守になったが多病であった。作者自身をなぞらえる。○客袖…旅衣。○燭盤…灯を灯すための油皿。○砌下…石畳。

（参考文献）　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

 

★    夜泊永樂有懷　　　　　永楽(えいらく)に夜泊して懐有り　　　　　　　　　　唐　　許　渾

 

蓮渚愁紅蕩碧波　　　　蓮(れん)渚(ちょ) 愁(しゅう)紅(こう) 碧波(へきは)を蕩す

吳娃齊唱採蓮歌　　　　呉娃(ごけい) 斉唱す 採(さい)蓮(れん)の歌

橫塘一別千餘里　　　　横塘 一別 千余里

蘆葦蕭蕭風雨多　　　　蘆(ろ)葦(い) 蕭々(しょうしょう) 風雨多し

 

【語釈】

○永樂…不祥。○蓮渚…蓮のある渚。○愁紅…風雨の後に散り残った花。○吳娃…呉の地の美女。○採蓮歌…蓮をとるときに歌う歌。○蘆葦…アシとヨシ。○蕭蕭…物寂しい様子や音の形容。

 

 

★    題黃花驛　　　　　　　黄花(こうか)駅(えき)に題す　　　　　　　　　　　　　唐　　薛　逢

 

孤戍迢迢蜀路長　　　　孤戍(こじゅ) 迢々(ちょうちょう) 蜀(しょく)路(ろ)長し

鳥鳴山館客思鄉　　　　鳥鳴き 山館 客(かく) 鄉を思う

更看絕頂煙霞外　　　　更に絶頂を看る 煙霞(えんか)の外

數樹巖花照夕陽　　　　数樹の巌(がん)花(か) 夕陽(せきよう)を照らす

 

【語釈】

○黃花驛…陝西省寶雞市黃花駅。○孤戍…孤立した守りの寨。○迢迢…道の遙かなさま。○山館…山の中にある宿。○煙霞…靄と霞。○巖花…岩に咲く花

 

 

★    吳門夢故山　　　　　　呉門(ごもん)にて故山を夢む　　　　　　　　　　   唐　　趙　嘏

 

心熟家山夢不迷　　　　心 熟して 家山 夢 迷わず

孤峰寒遶一條溪　　　　孤峰 寒は遶(めぐ)る 一条の渓

秋窗覺後情無限　　　　秋窓 覚めて後 情 限り無し

月墮館娃宮樹西　　　　月は堕(お)つ 館娃宮樹(かんあきゅうじゅ)の西

 

【語釈】

○吳門…荊州。○故山・家山…故郷の山。○館娃宮…呉王夫差が西施のために作った宮殿。

　　　

 

 

★    茅山道中　　　　　　茅山(ちざん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　趙　嘏

 

溪樹重重水亂流　　　渓樹 重々(ちょうちょう) 水 乱れて流る

馬嘶殘雨晚程秋　　　馬嘶(いなな)き 残雨 晩程の秋

門前便是仙山路　　　門前 便ち是れ 仙山の路

目送歸雲不得遊　　　帰(き)雲(うん)を目送(もくそう)し 遊ぶことを得ず

 

【語釈】

○重重…多数が重なり合っていること。○仙山…仙人が住む山。○歸雲…行雲。○目送…目を離さずに見送る。

　　　

 

★    西江晚泊　　　　　　　西江晩泊　　　　　　　　　　　　　　　唐　　趙　嘏 

  

江煙靄靄失西東　　　　江煙 靄(あい)々(あい) 西東を失す

柳浦桑村處處同　　　　柳浦(りゅうほ) 桑村 処々同じ

戍鼓一聲帆影盡　　　　戍(じゅ)鼓(こ) 一声 帆影(はんえい)尽き

水禽飛起夕陽中　　　　水禽(すいきん) 飛び起く 夕陽(せきよう)の中(うち)

 

【語釈】

○江煙…川に立つもや。○靄靄…もやの立つさま。○戍鼓…守備兵の太鼓。○水禽…水鳥。

 

 

★    渡桑乾               桑(そう)乾(かん)を渡る　　　　　　　　　　　　　　  唐　　賈　島

 

客舍幷州已十霜　　　　客舎(かくしゃ) 幷州(へいしゅう) 已に十(じゅっ)霜(そう)

歸心日夜憶咸陽　　　　帰心 日夜 咸(かん)陽(よう)を憶う

無端更渡桑乾水　　　　端無(はしな)くも 更に渡る 桑(そう)乾(かん)の水

却望幷州是故鄉　　　　却って 幷州(へいしゅう)を望めば 是れ故鄉

 

【語釈】

○桑乾 …桑乾河、北京の西南を流れ、永定河となる。○并州…山西省太原市。○客舎…旅ぐらしをする。○十霜…十年、「霜」は星霜。○帰心…故郷に帰りたいと思う心。○咸陽…長安の西北にあり、秦の都があった所、ここでは長安を指す。○憶…思い出す。○無端…思いがけず。○更渡 …更に（桑乾河を）渡って遠方へ行く。○却…ふり返って。○望…眺める。○故郷…住むべき所。

（参考文献）　『唐詩選』

 

　　　

★    漫書　　　　　　　　　漫書　　　　　　　　　　　　　　　 唐　　司空圖

 

長擬求閑未得閑　　　　長く閑(かん)を求もとめんと擬(ぎ)し 未だ閑(かん)を得ず

又勞行役出秦關　　　　又 行役(こうえき)に労して 秦関(しんかん)を出ず

逢人漸覺郷音異　　　　人に逢い 漸(ようや)く覚ゆ 郷音の異なるを

却恨鶯聲似故山　　　　却って恨む 鶯声の 故山に似たるを

 

【語釈】

○漫書…意のむくままに作った詩。○擬…～するつもりである。○行役…官命に従う兵役。○秦關…長安。○漸…だんだんと。○郷音…郷土なまり。方言。○故山…故郷の山。

 

 

★    出東陽道中作　　　　　東陽(とうよう)を出(い)で道中の作　　　　　　　　　　  唐　　方　干

 

馬首寒山黛色濃　　　　馬首の寒山 黛色(たいしょく)濃(あでやか)なり

一重重盡一重重　　　　一重(いっちよう) 重ね尽して 一(いっ)重々(ちょうちょう)

醉醒已在他方界　　　　酔(よい) 醒(さ)むれば 已に 他方界(たほうかい)に在り

猶憶東陽昨夜鐘　　　　猶お憶ゆ 東陽(とうよう) 昨夜の鐘

 

【語釈】　

○東陽…浙江省金華市東陽市。○寒山…さむざむとした山。○黛色…青黒色。○他方界…

別世界。

 

 

★    思江南　　　　　　　　江南を思う　　　　　　　　　　　　　　唐　　方　干 

 

昨日草枯今日青　　　　昨日 草枯れて 今日青し

羇人又動望郷情　　　　羇人(きじん) 又 動す 望郷の情

夜來有夢登歸路　　　　夜来 夢有り 帰路に登る

不到桐廬已及明　　　　桐廬(とうろ)に到らざるに 已に明(めい)に及ぶ

 

【語釈】

○江南…長江中下流の南岸地域。○羇人…旅人。○夜来…夜になってから。○桐廬…浙江省杭州市桐廬県。○明…夜明け。

 

 

★    早行　　　　　　　　　早(そう)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　羅　隱

 

雨洒江聲風又吹　　　　雨は江声を洒(そそ)いで 風 又た吹く

扁舟正與睡相宜　　　　扁舟　正(まさ)に睡(ねむり)を与えて　相宜(あいよろ)し

無端戍鼓催前去　　　　端(はし)無(な)くも 戍(じゅう)鼓(こ) 前去(ぜんきょ)を催(うなが)し

別却青山欲曉時　　　　別却(べっきゃく)す 青山 暁(あかつき)ならんと欲する時

 

【語釈】

○早行…夜明け前に出発すること。○江聲…川の流れの音。○扁舟…小舟。○無端…思いがけず。○戍鼓…番兵の鳴らす太鼓。○前去…前進。○別却…別れる。却は完了を示す助字。

　　　

 

★    涇溪　　　　　　　　　　涇渓(けいけい)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　羅　隱

 

涇溪石險人競懼　　　　涇渓 石 険しくして 人 競いて懼(おそ)る

終歳不聞傾覆人　　　　終歳 聞かず 人を覆(くつがえ)するを傾くと

却是平流無石處　　　　却って是れ 平流 石無き処

時時聞説有沈淪　　　　時々(じじ) 聞くならく 沈淪(ちんりん)有りと

 

【語釈】

○涇溪…安徽省宣城市の涇溪。○終歳…年中。○平流…平静な水流。○時時…常々。○聞説…聞くところによれば。○沈淪…沈没。

 

 

★    東蜀春晚　　　　　　　東蜀春晚　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

無奈浮生毎別離　　　　奈無(いかんともするな)し 浮生 毎(つね)に別離なるを

更堪長慟送春歸　　　　更に 長慟(ちょうどう)に堪え春の帰るを送る

潼江水上楊花雪　　　　潼(どう)江(こう)水上(すいじょう) 楊(よう)花(か)の雪

偏逐孤舟繚繞飛　　　　偏(ひとえ)えに 孤舟を逐(お)いて 繚繞(りょうぎょう)して飛ぶ

 

【語釈】

○東蜀…四川省東部。○春晚…晩春。○無奈…どうしようもない。○浮生…浮き世。○長慟…耐えがたいほどの悲しみ。○春歸…春が過ぎ去る。○潼江水…四川省広元市潼江水。○繚繞…めぐりめぐる。

 

★    江宿聞蘆管　　　　　　江に宿し蘆管(ろかん)を聞く　　　　　　　　　　　 唐　　鄭　谷

 

塞曲淒清楚水濱　　　　塞曲(さいきょく) 淒(せい)清(せい) 楚水の浜

聲聲吹出落梅春　　　　声々(せいせい) 吹出(ふきいだ)だす 落梅の春

須知風月千檣下　　　　須(すべから)く知るべし 風月 千檣(せんしょう)の下(もと)

亦有葫蘆河畔人　　　　亦(ま)た 葫蘆(ころ)河畔の人 有るを

 

【語釈】

○蘆管…胡笳。異民族のアシブエ。○塞曲…辺境の地の曲。○淒清…清く凄涼なさま。○楚水…湖南省・湖北省の川。○須…「すべからく～すべし」と読み、「当然～すべきである」の意。○千檣…多くの帆柱。○葫蘆…雲南省の辺地。

 

 

★    街西晚歸　　　　　　　街西に晩に帰る　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

御溝春水繞閑坊　　　　御溝(ぎょこう)の春水 閑坊(かんぼう)を繞る

信馬歸來傍短牆　　　　馬に信(まか)せて 帰り来り 短牆(たんしょう)に傍う

幽榭名園臨紫陌　　　　幽榭(ゆうしゃ) 名園 紫陌(しはく)に臨み

晚風時帶牡丹香　　　　晩風 時に帯ぶ 牡丹の香

 

【語釈】

○御溝…宮苑の堀。○閑坊…静かな建物。○短牆…短い垣根。○幽榭…ひっそりした建物。○紫陌…京城郊外の道路。

 

　　　

★    商山道中　　　　　　　商山(しょうざん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

雲橫峭壁水平鋪　　　　雲は峭壁(しょうへき)に横わりて 水平に鋪(し)く

渡口人家日欲晡　　　　渡口の人家 日 晡(くれ)んと欲す

却憶往年看粉本　　　　却って憶う 往年 粉本(ふんぽん)を看るを

始知名畫有工夫　　　　始めて知る 名画 工夫有るを

 

【語釈】

○商山…陕西省商洛市商山。○峭壁…そそり立った山崖。○渡口…渡し場。○晡…日暮れになる。○往年…昔年。○粉本…画稿。

 

 

★    旅舍遇雨　　　　　　　旅舎雨に遇(あ)う　　　　　　　　　　　　　唐　　杜荀鶴

 

月華星彩坐來收　　　　月(げっ)華(か) 星(せい)彩(さい) 坐(ざ)来(らい)に収まる

嶽色江聲暗結愁　　　　岳(がく)色(しょく) 江声 暗(あん)に愁(うれい)を結ぶ

半夜燈前十年事　　　　半夜 灯前 十年の事

一時和雨到心頭　　　　一時 雨に和し 心頭に到る

 

【語釈】

○月華…月明かり。○星彩…星々のきらめき。○坐來収…次第にうすれていく。○坐來…いながらにして。○嶽色…山の色。○江聲…川の流れる音。○半夜…夜中。○和雨…雨音にあわせて、和は調子を合わせるの意。○心頭…こころ、心中に同じ。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

 

　　　

★    焦崖閣　　　　　　　　焦崖閣(しょうがいかく)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋　莊

 

李白曾歌蜀道難　　　　李白　曽(かつ)て歌う 蜀(しょく)道難(どうなん)

長聞白日上青天　　　　長く聞く 白日 青天に上ると

吾今夜過焦崖閣　　　　吾 今 夜 過ぐ 焦崖閣(しょうがいかく)

始信星河在馬前　　　　始めて信ず 星(せい)河(が)の馬前に在るを

 

【語釈】

○陝西省洋県の焦崖山にあった閣。○星河…銀河。

 

　

 

★    含山店夢覺作　　　　　含山店 夢覚むる作　　　　　　　　　　  唐　　韋　莊

 

曾爲流離慣別家　　　　曾(かつ)て 流離の爲に 家に別るるに慣れ

等閑揮袂客天涯　　　　等閑(とうかん)に 袂(たもと)を揮(ふる)い 天涯に客(かく)たり

燈前一覺江南夢　　　　灯前  一(いっ)覚(かく) 江南の夢

惆悵起來山月斜　　　　惆悵(りゅうちょう)す　起き来れば　山月斜めなり

 

【語釈】

○含山…浙江省湖州市含山。○等閑…おろそか。なおざり。○揮袂…意気盛んなさま。○天涯…空のはて。○客…旅人。○江南…長江中下流の南岸地域。○惆悵…嘆き悲しむ。

 

★    宿新安村步　　　　　　新安の村步に宿す　　　　　　　　　　　  唐　　王貞白

 

淅淅寒流漲淺沙　　　　淅々(せきせき)たる寒流 淺沙(せんさ)に漲(みなぎ)り

月明空渚徧蘆花　　　　月明 空(くう)渚(ちょ) 蘆花(ろか)に徧し

離人偶宿孤村下　　　　離人 偶ゝ(たまたま)宿る 孤村(こそん)の下　

永夜聞砧一兩家　　　　永夜 砧(きぬた)を聞く 一両家

 

【語釈】

○新安…不祥。○村步…村の船泊場。○淅淅…風や鈴などの寂しい音の形容。○空渚…物影の無い渚。○離人…故郷を離れた人。○一両家…一二軒の家。

 

 

★    題嘉陵驛　　　　　　　嘉(か)陵(りょう)駅(えき)に題す　　　　　　　　　　　   唐　　張　蠙

 

嘉陵路惡石和泥　　　　嘉(か)陵(りょう)路(じ) 悪く 石 泥に和す

行到長亭日已西　　　　行きて 長亭に到れば 日 已に西す

獨倚闌干正惆悵　　　　独り 闌(らん)干(かん)に倚りて 正(まさ)に惆悵(ちゅうちょう)す

海棠花裏鷓鴣啼　　　　海棠(かいどう)花(か)裏(り) 鷓鴣(しゃこ)啼く

 

【語釈】

○嘉陵驛…江西省百色市嘉陵驛。○長亭…十里毎に設けられた宿場町。○惆悵…嘆き悲しむ。

 

 

★    關下　　　　　　　　　関下 　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　崔道融

 

百二山河壯帝畿　　　　百二の山河 帝畿(ていき)に壮なり

關門何事更開遲　　　　関門 何事ぞ 更に開くこと遅し

應從漏却田文後　　　　応(まさ)に 田(でん)文(ぶん)を 漏却(ろうきゃく)せし従(よ)り後

每度聞雞未免疑　　　　毎度 雞を聞きても 未だ疑を免れざるべし

 

【語釈】

○關下…関所の下。○帝畿…帝都長安のあたり。○關門…関所の門。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～に違いない」の意。○漏却…取り逃がす｡却は完了を示す助字。○田文…孟嘗君。鶏鳴狗盗で秦から逃れた。

 

 

★    荆溪夜泊　　　　　　　荆渓(けいけい)夜(や)泊(はく)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李九齡

 

點點漁燈照浪清　　　　点々たる漁灯 浪を照して清し

水烟疎碧月朧明        水煙 疎(そ)碧(へき)にして 月(げつ)朧(ろう) 明(あきらか)なり

小灘驚起鴛鴦處　　　　小灘 鴛鴦(えんおう)を驚起する処

一隻採蓮船過聲　　　　一隻の採蓮 船 過ぐる声

 

【語釈】

○荆溪…江蘇省常州市荆溪。○水煙…水面に立つもや。○疎碧…疎らな青緑色。○月朧…おぼろ月。○驚起…驚かせて飛び立たせる。○鴛鴦…おしどり。○採蓮船…蓮を採る船。

 

　　　

★    獻主司　　　　　　　　主司(しゅし)に献ず　　　　　　　　　　　　　　　唐　　孟賓于

 

那堪雨後更聞蟬　　　　那(な)んぞ堪ん 雨後 更に蟬を聞くに

溪隔重湖路七千　　　　渓は隔つ 重湖 路七千

憶昨故園楊柳岸　　　　憶昨(おくさく) 故園 楊柳の岸

全家送上渡頭船　　　　全家 送りて 渡頭(ととう)の船に上(のぼ)りしを

 

【語釈】

○主司…部署の主幹。○重湖…洞庭湖。○憶昨…昔を懐う。○故園…故郷。○渡頭…渡し場。

 

 

★    泊秋浦　　　　　　　　秋(しゅう)浦(ほ)に泊す　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　中

 

葦岸風高宿鴈驚　　　　葦(ろ)岸(がん) 風高くして 宿(しゅく)鴈(がん)驚く

維舟特地起郷情　　　　舟を維(つな)ぎ 特地 郷情を起こす

漁兒隔水吹橫笛　　　　漁児 水を隔てて 横笛を吹く

半夜空江月正明　　　　半夜 空江 月 正(まさ)に明(あきらか)なり

 

【語釈】

○秋浦…安徽省池州市秋浦。○葦岸…アシの生えている岸。○宿鴈…宿っている雁。○特地…突然。○郷情…故郷を思う情念。○半夜…真夜中。○空江…静寂な川。

 

 

★    感秋書事　　　　　　　秋に感じ事を書す　　　　　　　　　　　　唐　　李　中

　　　　　　　　　　　　

宦途憔悴雪生頭　　　　宦(かん)途(と) 憔悴 雪 頭(こうべ)に生ず

家計相牽未得休　　　　家計 相牽(あいひ)きて 未だ休することを得ず

紅寥白蘋消息斷　　　　紅寥(こうりょう) 白蘋(はくひん) 消息断え

舊溪煙月負漁舟　　　　旧渓 煙月 漁舟に負う   

 

【語釈】

○宦途…仕官の道。○家計…一家の生計。○煙月…おぼろ月。

 

 

★    泊巴東　　　　　　　　巴東に泊す　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王　周

 

偶泊巴東古縣前　　　　偶ゝ(たまたま) 巴(は)東(とう)に泊す 古県の前　

宦情郷思兩綿綿　　　　宦(かん)情(じょう) 郷思(きょうし) 両(ふた)つながら綿々(めんめん)

不堪蠟炬燒殘淚　　　　堪えず 蠟炬(ろうきょ)の 残涙を焼くを

雨打船窓半夜天　　　　雨は船窓を打つ 半夜の天

 

【語釈】

○巴東…湖北省恩施土家族苗族自治州巴東県。○宦情…仕官したいという志。○郷思…故郷を思う心。○綿綿…長く続いて絶えないさま。○蠟炬…蝋燭の火。○半夜…真夜中。

 

 

★    宿疏陂驛　　　　　　　疏陂(そは)駅(えき)に宿す　　　　　　　　　　　  宋    王　周

 

秋染棠梨葉半紅　　　　秋は棠(とう)梨(り)を染め 葉 半ば紅なり

荆州東望草平空　　　　荆州(けいしゅう) 東に望めば 草 空(くう)に平かなり

誰知孤宦天涯意　　　　誰か知らん 孤宦(こかん) 天涯の意

微雨蕭蕭古驛中　　　　微雨 蕭々(しょうしょう) 古駅の中(うち)

 

【語釈】

○疏陂驛…不祥。○棠梨…やまなし。○荆州…湖北省一帯。○孤宦…地位の低い官吏。○天涯…空のはて。○蕭蕭…風雨、葉などの物寂しい音の形容。

（参考文献)　　　『唐詩選』

 

 

★    旅泊　　　　　　　　　旅泊 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　蔣　吉

 

霜月正高鸚鵡洲　　　　霜月(そうげつ) 正(まさ)に高し 鸚鵡(おうむ)洲(しゅう)

美人清唱發紅樓　　　　美人 清唱し 紅楼を発す

郷心暗逐秋江水　　　　郷(きょう)心(しん) 暗く逐(お)う 秋江の水

直到呉山脚下流　　　　直ちに到る 呉山(ござん) 脚下(きゃっか)の流(ながれ)

 

【語釈】

○霜月…寒い夜の月。○鸚鵡洲…湖北省武漢市西南の長江にあった中洲。○紅樓…妓女のいる楼閣。○郷心…故郷を思う心。○呉山…江蘇省一帯の山。○脚下…あしもと。

 

 

★    三湘有懷　　　　　　　三湘(さんしょう)懐(おもい)有(あ)り　　　　　　　　　　　　　宋　　蕭　靜

 

柳絮飛時別洛陽　　　　柳絮 飛ぶ時 洛陽に別れ

梅花落後到三湘　　　　梅花 落つる後 三湘に到る

世情已逐浮雲散　　　　世情 已に逐(お)う 浮雲の散ずるを

離恨空隨江水長　　　　離恨(りこん) 空しく随う 江水の長きに

 

【語釈】

○三湘…洞庭湖の南側の地方。○離恨…別離の恨み苦しみ。

 

 

★    初過漢江　　　　　　　初めて漢江を過ぐ　　　　　　　　　　　  唐　　崔　塗

 

襄陽好向峴亭看　　　　襄(じょう)陽(よう)好し 峴亭(けんてい)に向(お)いて看るに

人物蕭條属歳闌　　　　人物 蕭(しょう)条(じょう)として 歳闌(さいらん)に属(しょく)す

爲報習家多置酒　　　　為に報ず 習家 多く 置酒(ちしゅ)せよと

夜來風雪過江寒　　　　夜来の風雪 江を過ぎて寒し

 

【語釈】

○漢江…湖北省襄陽市漢江。○襄陽…湖北省襄陽市。○峴亭…峴山（湖北省襄陽県の南にある山）にある亭。○蕭條…もの静かなさま。○歳闌…年末。○習家…《晉書·山簡傳》襄陽の豪族であった習氏 、佳園池において置酒して遊んだ。○置酒…酒宴を開く。

　　　

 

★    雨夜　　　　　　　　　雨夜(うや)　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　張　詠

 

簾幕蕭蕭竹院深　　　　簾幕(れんばく) 蕭々(しょうしょう) 竹(ちく)院(いん)深し

客懷孤寂伴燈吟　　　　客(かく)懐(かい) 孤(こ)寂(せき) 灯に伴って吟ず

無端一夜空堦雨　　　　端無(はしな)くも 一夜 空堦(くうかい)の雨

滴破思郷萬里心　　　　滴破(てきは)す 郷を思う 万里の心

 

【語釈】

○簾幕…すだれと幕。○蕭蕭…風雨や木の葉等の物寂しい音の形容。○竹院…竹を植えた庭院。○客懷…異郷にある心情。○孤寂…孤独である寂しさ。○無端…思いがけず。何の原因もなく。○空堦…何もないきざはし。○滴破…滴で打ち破る。

 

 

★    客舟夜雨　　　　　　　客(かく)舟(しゅう)夜(や)雨(う)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　趙　抃

 

朝發溫江上處溪　　　　朝(あした)に発す 温(おん)江(こう) 上る処の渓

小舟無寐枕頻攲　　　　小舟　寐(ねむ)ること無くして 枕 頻(しき)りに攲(そばだ)つ

夜來雨作籧篨響　　　　夜来 雨と作り 籧篨(きょじょ)響く

恰似當年赴舉時　　　　恰(あたか)も似たり 当年 学に赴(おもむ)く時

 

【語釈】

○客舟…旅の舟。○溫江…四川省成都市温江区。○籧篨…竹で作った床。○当年…昔時。

 

 

★    行次壽州寄內　　　　　行きて寿州(じゅしゅう)に次(やど)り內(ない)に寄す　　　　　　　宋　　歐陽修

 

紫金山下水長流　　　　紫(し)金(きん)山下(さんか) 水 長流す

嘗記當年此共遊　　　　嘗(かつ)って記す 当年 此に共に遊ぶを

今夜南風吹客夢　　　　今夜 南風 客夢(かくむ)を吹き

清淮明月照孤舟　　　　清淮(せいわい)の明月 孤舟を照らす

 

【語釈】

○壽州…安徽省淮南市鳳台県。○次…船泊。○內…妻。○紫金山…南京市の東にある鐘山。○当年…昔年。○客夢…旅先での夢。○清淮…淮南市の美称。

　　　

 

★    琵琶亭　　　　　　　　琵琶亭　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　歐陽修

 

樂天曾謫此江邊　　　　楽天 曽て 謫(たく)さる 此の江辺

已嘆天涯涕泫然　　　　已に嘆く 天涯 涕(なみだ) 泫(げん)然(ぜん)たるを

今日始知予罪大　　　　今日 始めて知る 予の罪 大なるを

夷陵此去更三千　　　　夷(い)陵(りょう)　此より去りて 更に三千

 

【語釈】

○琵琶亭…江西省九江市にあった亭。○樂天…白居易。○天涯…空のはて。○泫然…涙がはらはらと流れ落ちるさま。○夷陵…湖北省宜昌市夷陵区。

 

 

★    泥溪驛中作　　　　　　泥渓駅(でいけいえき)中の作　　　　　　　　　　　　  宋    石  介

 

山驛蕭條酒倦傾　　　　山駅 蕭(しょう)条(じょう)として 酒 傾くに倦(う)む

嘉陵相背去無情　　　　嘉(か)陵(りょう) 相(あい)背(そむ)きて 去りて 情無し

臨流未忍輕相別　　　　流れに臨みて 未だ忍ばず 軽く相別す

吟聽潺湲坐到明　　　　吟じて 潺湲(せんかん)を聴きて 坐して(ざして)明(めい)に到る

 

【語釈】

○泥溪驛…陝西省寶雞市嘉陵江の近くにある宿場町。○山驛…山の中の宿場町。○蕭條…もの静かで寂しいさま。○嘉陵…四川省南充市。○潺湲…水がさらさらと流れるさま。○明…曉。

 

 

★    題江寧驛舎　　　　　　江寧(こうねい)の駅舎に題す　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

茅屋滄洲一酒旗　　　　茅屋 滄(そう)洲(しゅう) 一酒旗  

午煙孤起隔林炊　　　　午煙 孤起(こき)す 林を隔つる炊(すい)　

江晴日暖蘆花轉　　　　江晴れ 日暖かくして 蘆花転ず

恰似春風柳絮時　　　　恰(あたか)も似たり 春風柳絮の時に

 

【語釈】

○江寧夾口…南京にあった船着場。○茅屋…茅葺きの家。○滄洲…浜水の地。隠棲の地。○酒旗…酒屋の目印の旗。

 

 

★    江寧夾口　　　　　　　江寧夾口(こうねいきょうこう)　　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

落帆江口月黄昏　　　　落帆(らくはん) 江口 月 黄昏(こうこん)　

小店無燈欲閉門　　　　小店 灯無くして 門を閉じんと欲す

側出岸沙楓半死　　　　側出して 岸沙 楓 半(なか)ば死す

繫船應有去年痕　　　　船を繫ぎて 応(まさ)に去年の痕有るべし

 

【語釈】

○江寧夾口…南京にあった船着場。○落帆…帆を下ろす。○黄昏…たそがれ。○側出…斜めに飛び出す。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～であるに違いない」の意。

（参考文献）　『中国詩人撰集　二』

 

 

★    泊船瓜洲　　　　　　　船を瓜洲(かしゅう)に泊す　　　　　　　　　　　　  宋    王安石

 

京口瓜洲一水間　　　　京口 瓜洲(かしゅう) 一水の間

鍾山祇隔數重山　　　　鍾山 祇(た)だ隔つ 数重の山

春風又綠江南岸　　　　春風 又た緑にす 江南の岸

明月何時照我還　　　　明月 何れの時にか 我が還(かえ)るを照さん

 

【語釈】

○京口…江蘇省鎮江市。○瓜洲…江蘇省邗江県南部。○鍾山…南京の東にある山。王安石の隠棲地。○江南…長江中下流の南岸地方。

（参考文献）　『宋詩選注』

 

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句 　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　李　覯

 

人言落日是天涯　　　　人は言う 落日 是れ天涯なると

望極天涯不見家　　　　望(ぼう) 極めて 天涯 家を見ず

已恨碧山相掩映　　　　已に恨む 碧山 相掩(あいおお)いて映じ

碧山還被暮雲遮　　　　碧山  還(かえ)って 暮雲に遮らるるを

 

【語釈】

○天涯…空のはて。○望極…見渡す限り。○家…故郷の家。

 

 

 

★    和韓玉汝宿城北馬鋪　　韓(かん)玉(ぎょく)汝(じょ)が城北の馬鋪(ばほ)に宿すに和す　　　　宋　　梅堯臣

 

暗樹秋風擺葉鳴　　　　暗樹 秋風 葉 擺(はい)して鳴き

桃枝竹簟冷逾清　　　　桃(とう)枝(し) 竹簟(ちくたん) 冷えて逾(いよいよ)清し

孤燈淡淡短亭客　　　　孤灯 淡々(たんたん) 短亭の客(かく)

半夜蕭蕭聞雨聲　　　　半夜 蕭々(しょうしょう) 雨声を聞く

 

【語釈】

○韓玉汝…韓縝、開封雍丘（河南省杞県）の人。億子。仁宗慶曆二年（一○四二）の進士。尚書右僕射となる。○擺…振るい動かす。○竹簟…竹で作ったたかむしろ。○淡淡…うすい、かすかなさま。○短亭…五里毎に設けられた宿場。○半夜…真夜中。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。　　　

 

 

★    慈湖夾　　　　　　　慈湖夾(じこきょう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

此生歸路愈茫然　　　　此の生 帰路愈(いよいよ)茫然(ぼうぜん)

無數青山水拍天　　　　無数の青山 水 天を拍(う)つ

猶有小船來賣餅　　　　猶お 小船の来って 餅を売る有り

喜聞墟落在山前　　　　喜んで聞く 墟落の山前に在るを

 

【語釈】

○慈湖夾…安徽省馬鞍山市慈湖の仮泊所。○茫然…気が抜けぼんやりしているさま。○墟落…村落。

（参考文献）　『漢詩大系　１７』

 

★    潤州除夜　　　　　　　潤州(じゅんしゅう)除夜(じょや)　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

寺官官小未朝參　　　　寺官 官 小にして 未(いま)だ朝参(ちょうさん)せず

紅日半窗春睡酣　　　　紅日 半窓 春睡(しゅんすい) 酣(たけなわ)なり

為報鄰雞莫驚覺　　　　為に報ず 隣雞(りんけい) 驚覚(きょうかく)する莫れと

更容殘夢到江南　　　　更に容(ゆる)せ 残夢の 江南に到るを

 

【語釈】

○潤州…江蘇省鎮江市。○寺官…寺院の官吏。○朝參…朝廷に参内する。○紅日…赤い朝日の光。○半窓…窓。○驚覺…驚いて目覚めさせる。○江南…長江中下流域の南側。

 

 

★    淮上早發　　　　　　　淮上(わいじょう)早(つと)に発す　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

澹月傾雲曉角哀　　　　澹(たん)月(げつ) 雲を傾けて 暁(ぎょう)角(かく)哀し

小風吹水碧鱗開　　　　小風 水を吹いて 碧(へき)鱗(りん) 開く

此生定向江湖老　　　　此の生 定めて 江湖に向(お)いて老ゆ

默數淮中十往來　　　　黙して数うれば 淮中(わいちゅう) 十たび往来

 

【語釈】

○淮上…淮水のほとり。○澹月…淡く見える月。○曉角…夜明けを告げる角笛。○碧鱗…碧色の波。○江湖…隠棲する人が住むところ。○淮中…淮水。

〔参考文献〕　　『中国詩人撰集　二―６』

 

★    虔州　　　　　　　　　虔州(けんしゅう)　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

濤頭寂寞打城還　　　　濤頭(とうとう) 寂寞(せきばく)として 城を打って還る

章貢臺前暮靄寒　　　　章(しょう)貢(こう)台前(だいぜん)  暮(ぼ)靄(あい)寒し

倦客登臨無限思　　　　倦客(けんかく) 登臨(とうりん) 限り無き思い

孤雲落日是長安　　　　孤雲 落日 是れ長安

 

【語釈】

○虔州…江西省贛州市。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○章貢臺前…江西省贛州市にある台。○暮靄…夕靄。○倦客…旅に疲れた人。

 

 

★    泊真州新河亭         真州(しんしゅう)の新河亭(しんかてい)に泊す                   宋　　彭汝礪

 

鬢毛垂雪欲毿毿　　　　鬢(びん)毛(もう) 雪を垂れて 毿々(さんさん)たらんと欲す

道路風波老不堪　　　　道路の風波 老(おい)に堪えず

繫纜短亭聊自慰　　　　纜(ともづな)を繫(つな)ぐ 短亭 聊(いささ)か自(みずか)ら慰む

青山數點見江南　　　　青山 数点 江南に見る

 

【語釈】

○真州…江蘇省揚州市儀征市。○新河亭…不祥。○毿毿…毛の長いさま。○短亭…五里ごとに設けられた宿場町。○江南…長江中下流の南岸地方。

 

 

 

★    里伏驛作　　　　　　　　里伏(りふく)駅(えき)にて作る　　　　　　　　　　　  宋　　孔平仲

 

去家一日已思家　　　　家を去りて 一日 已に家を思う

浩渺歸期未有涯　　　　浩渺(こうびょう)たる帰期 未だ涯(はて)有らず

滿眼春風最多恨　　　　満眼の春風 最も恨み多し

無言似笑小桃花　　　　無言 笑うに似たり 小桃花

 

【語釈】

○里伏驛…不祥。○浩渺…広く遙かなさま。○歸期…帰ってくる日。

 

 

★    宿濟州西門外旅舎　　　　済州(さいしゅう)西門外の旅舎に宿す　　　　　　宋　　晁端友

 

寒林殘日欲棲烏　　　　寒林の残日 烏 棲(す)まんと欲す

壁裏青燈乍有無　　　　壁裏の青灯 乍(たちま)ち有無

小雨愔愔人不寐　　　　小雨 愔々(いんいん)として人寐(いね)ず　　　　　　　

卧聽疲馬齧殘芻　　　　卧(ふ)して聴く 疲(ひ)馬(ば)の残芻(ざんすう)を齧(かじ)るを

 

【語釈】

○濟州…山東省濟寧市。○寒林…晩秋から冬の林。○青燈…青い光の油灯。○愔愔…奥深く静かなさま。○疲馬…疲れた馬。○殘芻…残ったまぐさ。

 

 

★    舟行五絶句　　　　　　舟行五絶句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

落景秋雲晚不開　　　　落景 秋雲 晩に開かず

天寒古岸野船回　　　　天 寒くして 古岸 野船回(かえ)る

初驚波面微瀾起　　　　初めて驚く 波面 微瀾(びらん)の起るを

已覺風前細雨來　　　　已に覚ゆ 風前 細雨の来るを

 

【語釈】

○落景…夕陽。○野船…郷村の小舟。○微瀾…さざなみ。

 

 

★    舟行五絶句　　　　　　舟行五絶句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

獵獵西風秋水清　　　　猟々(りょうりょう)たる 西風 秋水清し

野花寒草傍流生　　　　野(や)花(か) 寒草 流れに傍いて生ず

沙邊水鶴待魚立　　　　沙(さ)辺(へん)の水(すい)鶴(かく) 魚を待ちて立ち

石底暗蛩先夜鳴　　　　石底(せきてい)の暗蛩(あんきょう) 先ず夜に鳴く

 

【語釈】

○獵獵…風の吹く音の形容。○西風…秋風。○野花…野草の花。○寒草…枯れ草。○暗蛩…夜になくコオロギ。

 

 

★    舟行五絶句　　　　　　舟行五絶句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

渡頭風雨晚生寒　　　　渡頭(ととう)の風雨 晩(くれ)に生じて寒し

蓑笠漁翁坐釣船　　　　蓑(さ)笠(りゅう)の漁翁 釣船に坐す

爲問篷中有魚否　　　　為に問う 篷中(ほうちゅう) 魚有りや否やと

一雙新鱖出籠鮮　　　　一双の新鱖(しんけい) 籠を出でて鮮なり

 

【語釈】

○渡頭…渡し場。○蓑笠…簑と笠。○篷中…舟の中。○新鱖…釣れたての鮭。

 

 

★    舟行五絶句　　　　　　舟行五絶句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

天寒野店斷人行　　　　天寒くして 野店(やてん) 人(じん)行(こう)断ゆ

晚繫孤舟浪未平　　　　晩に繫(つな)ぐ孤舟 浪 未だ平かならず

半夜西風驚客夢　　　　半夜の西風 客夢(かくむ)を驚かし

卧聽寒雨到天明　　　　卧(ふ)して 寒雨を聴き 天明に到る

 

【語釈】

○野店…村の茶店。○人行…道行く人。○西風…秋風。○驚客夢…旅先での夢を覚めさせる。○天明…夜明け。

 

 

★    舟行五絶句　　　　　　舟行五絶句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

渡頭烟雨欲昏天　　　　渡頭の煙雨 昏(くれ)んと欲する天

灣畔枯桑繫客船　　　　湾(わん)畔(はん)の枯(こ)桑(そう)に 客船(かくせん)を繫(つな)ぐ

風打篷窗秋浪急　　　　風は篷(ほう)窓(そう)を打ち 秋浪(しゅうは)急なり

一杯寒酒夜深眠　　　　一杯の寒酒 夜 深く眠る

 

【語釈】

○渡頭…渡し場。○烟雨…霧雨。○枯桑…枯れた桑の木。○客船…旅の舟。○篷窗…舟の窓。

 

　　　

★    雨中題壁　　　　　　　雨中 壁に題す　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

去年此日泊瓜州　　　　去年　此の日　瓜州(かしゅう)に泊す

衰柳蕭蕭繫客舟　　　　衰(すい)柳(りゅう) 蕭々(しょうしょう) 客(かく)舟(しゅう)を繫(つな)ぐ

白髮天涯歎流落　　　　白髪 天涯 流落(りゅうらく)を歎ず

今年對雨古宣州　　　　今年 雨に対す 古宣州

 

【語釈】

○瓜州…甘粛省敦煌市。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○客舟…旅の舟。○天涯…空の果ての地。○流落…落ちぶれて流浪すること。○宣州…安徽省宣城市宣州区。

 

 

★    遇赦北歸　　　　　　　赦(しゃ)に遇いて北に帰る　　　　　　　　　　　  宋    晁補之

 

山猶故險水猶奔　　　　山 猶お故(ことさら)に険にして 水 猶お奔(はし)る

無復前年濺淚痕　　　　復(ま)た前年 涙を濺(そそ)ぐ痕(あと)無し

自是人心隨境別　　　　自(おのずか)ら是れ 人心 境(きょう)に随って別なり

櫓聲帆色盡君恩　　　　櫓声(ろせい) 帆色 尽(ことごと)く君恩

 

【語釈】

○赦…大赦。○境…境遇。○君恩…皇帝の恩。

　　　

 

★    題穀熟驛舍　　　　　　穀熟の駅舎に題す　　　　　　　　　　　　  宋　　晁補之

 

驛後新籬接短牆　　　　駅後の新籬(しんり) 短牆(たんしょう)に接す

枯荷衰柳小池塘　　　　枯(こ)荷(か) 衰(すい)柳(りゅう) 小池塘

倦游到此忘行路　　　　倦游 此に到りて 行路を忘る　　　

徙倚軒窗看夕陽　　　　徙(いたずら」)に 軒(けん)窓(そう)に倚(よ)り 夕陽(せきよう)を看る

 

【語釈】

○穀熟…不祥。○新籬…新しいまがき。○短牆…短いかき。○枯荷…枯れた蓮の葉。○小池塘…小さな池。○倦游…旅の疲れ。○軒窗…家の窓。

　　　

 

★    登岳陽樓望君山　　　　岳(がく)陽楼(ようろう)に登りて君山(くんざん)を望む　　　　　　  宋　　黄庭堅

 

投荒萬死鬢毛斑　　　　荒(こう)に投ぜられて万死鬢(びん)毛(もう)斑(まだら)なり

生出瞿塘灧澦關　　　　生きて出る瞿塘灧澦(くとうえんよ)の関(かん)

未到江南先一笑　　　　未だ 江南に到らざるに 先ず一笑す

岳陽樓上對君山　　　　岳(がく)陽(よう)楼上(ろうじょう) 君山(くんざん)に対す

 

【語釈】

○岳陽楼 …湖南省岳陽市の西門の楼。○君山 …洞庭湖中にある山。○荒 …辺境の地。○投…流される。○万死…何度も死ぬ思いをすること。○鬢毛…鬢びんの毛。○斑…白髪まじりになること。○生出…生きて通り抜けることができた。○瞿塘…瞿塘峡。長江の三峡の一つ、船の難所。○灔澦関 …灔澦堆の難関、瞿塘峡の入り口にある大暗礁長江最大の難所、「関」は難関の意であるが、ここでは関所の意も懸けている。○江南 … ここでは作者の故郷、分寧（江西省修水県）を指す。○一笑 … ちょっと笑うこと。

〔参考文献〕　『中国詩人撰集　二―７』

 

　　　

★    曉行　　　　　　　　　曉行　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　晁沖之

 

老去功名意轉疏　　　　老去りて 功名に 意 転(うた)た疏(そ)なり

獨騎瘦馬取長途　　　　独り 痩(そう)馬(ば)に騎りて 長途を取る

孤村到曉猶燈火　　　　孤村 暁に到れば 猶お灯火

知有人家夜讀書　　　　知んぬ 人家に 夜 読書する有るを

 

【語釈】

○轉…いよいよ。○疏…心がうとく熱心で無いこと。○長途…長旅。

 

★    泊呉門　　　       呉門に泊す　　　　　　　　　　　　   宋　　寇國寶

 

黄葉西陂水漫流　　　　黄葉 西陂(せいは) 水 漫(まん)流(りゅう)す

籧篨風急滯扁舟　　　　籧篨(きょじょ) 風 急にして 扁舟滞(とどこお)る

夕陽暝色來千里　　　　夕陽(せきよう)の暝(めい)色(しょく) 千里に来(きた)り

人語鷄聲共一丘　　　　人語 鶏声 共に一丘

 

【語釈】

○呉門…不祥。○西陂…西の隄。○漫流…意のままに流れる。○籧篨…粗い竹で作った座席。○扁舟…小舟。○暝色…暗い色。

 

 

★    越州道中　　　　　　　越州道中　　　　　　　　　　　　　　  宋　　李　光

 

晚潮落盡水涓涓　　　　晩潮 落ち尽くして 水涓々(けんけん)たり

柳老秧齊過禁煙　　　　柳老い 秧(なえ)斉(ひと)しくして 禁煙を過ぐ

十里人家鷄犬静　　　　十里の人家 鶏犬静(しずか)なり

竹扉斜掩護蠺眠　　　　竹扉 斜めに掩い 蠺(さん)の眠るを護る

 

【語釈】

○越州…江蘇省紹興市。○涓涓…水がチョロチョロと流れるさま。○禁煙…寒食節。冬至から百五日目。○蠺…かいこ。

 

 

★    呉門道中　　　　　　　呉門(ごもん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　孫  覿

 

小橋分道各東西　　　　小橋 道を分ち 各(おのおの)東西

寂寂松牎半掩蓬　　　　寂々(せきせき)たる松牎(しょうそう) 半ば蓬(よもぎ)を掩う

客夢悠揚殘酒裏　　　　客夢(かくむ) 悠揚(ゆうよう)す 残酒の裏(うち)

一池荷葉雨聲中　　　　一池の荷(か)葉(よう) 雨声の中(うち)

 

【語釈】

○呉門…江蘇省蘇州市。○寂寂…寂しくて静かなさま。○松牎…書斎の窓。○客夢…旅先での夢。○悠揚…遠くかすかなさま。○荷葉…蓮の葉。

 

 

★    呉門道中　　　　　　　呉門(ごもん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　宋　　孫  覿

 

數間茅屋水邊村　　　　数間(すうけん)の茅屋(ぼうおく) 水辺の村

楊柳依依緑映門　　　　楊柳 依々(いい)として 緑 門に映ず

渡口喚船人獨立　　　　渡口 船を喚(よ)び 人 独り立つ

一簑煙雨濕黄昏　　　　一簑(いっさ)の煙雨 黄昏(こうこん)を湿(うるお)す

 

【語釈】

○呉門…江蘇省蘇州市。○數間…間口数間。○茅屋…茅葺き家。○依依…細くなよなよしている。○渡口…渡し場。○一簑…ひとしきりの。○煙雨…霧雨。

　　　

 

★    呉門道中　　　　　　　呉門(ごもん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　孫  覿

 

暮色炊烟竹裏村　　　　暮色 炊煙 竹(ちく)裏(り)の村

人家深閉雨中門　　　　人家 深く閉ざす 雨中の門

數聲寒烏不知處　　　　数声の寒烏 処を知らず

千丈藤蘿古木昏　　　　千丈の藤蘿(とうら) 古木昏(くら)し

 

【語釈】

○呉門…江蘇省蘇州市。○寒烏…冬の鳥。○藤蘿…紫藤の通称。

 

　　　

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　譚知柔

 

漫言無處覓歸田　　　　漫(そぞろ)に言う 帰(き)田(でん)を覓(もと)むるに 処無しと

江北江南水拍天　　　　江北 江南 水 天を拍(う)つ

抖藪十年塵上夢　　　　抖(と)薮(とう) 十年 塵上(じんじょう)の夢

秋風吹上釣魚船　　　　秋風　吹き上ぐ 釣魚(ちょうぎょ)の船

 

【語釈】

○漫…なんとなく。○歸田…官職を辞め、故郷に帰って農作業をすること。○江北江南…長江中下流の北側と南側の地方。○抖藪…求める。○塵上…俗世間。

 

 

★    襄邑道中　　　　　　　襄邑(じょうゆう)道中　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陳與義

 

飛花兩岸照船紅　　　　飛花 両岸 船を照らして紅なり

百里楡堤半日風　　　　百里の楡堤(ゆてい) 半日の風

卧看滿天雲不動　　　　卧(ふ)して看る 満天 雲の動かざるを

不知雲與我俱東　　　　知らず 雲と我と 俱(とも)に東するを

 

【語釈】

○襄邑…不確定。○楡堤…ニレの木を植えた隄。

 

　　　

★    早行　　　　　　　　　早(そう)行(こう) 　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陳與義

 

露侵駝褐曉寒輕　　　　露は駝褐(だかつ)を侵(おか)し 暁(ぎょう)寒(かん)軽し

星斗闌干分外明　　　　星斗(せいと) 闌(らん)干(かん) 分外に明(あきらか)なり

寂寞小橋和夢過　　　　寂寞(せきばく)たる小橋 夢に和して過ぎ

稻田深處草蟲鳴　　　　稲田(とうでん) 深き処 草(そう)虫(ちゅう)鳴く

 

【語釈】

○早行…朝早く出発すること。○駝褐…駱駝の毛で作った衣服。○曉寒…曉の寒さ。○星斗…星。○闌干…北斗星。○分外…特別に。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。

 

 

★    延平道中　　　　　　　延平(えんぺい)道中(どうちゅう)　　　　　　   　　　　　　　　宋　　朱　槔

 

一溪春漲午晴初　　　　一渓 春は漲(みなぎ)る 午(ご)晴(せい)の初(はじめ)

日透波光綠浸裾　　　　日は透(とお)して 波光 緑 裾(すそ)に浸む

却憶孤山山下路　　　　却って憶う 孤山 山下の路

石橋清澈看叉魚　　　　石橋 清澈(せいてつ) 魚の叉(さ)するを看る

 

【語釈】

○延平…福建省南平市。○孤山…浙江省杭州市西湖の中にある山、林逋の隠棲地。○清澈…清浄で透き通っていること。○叉…交叉する。

 

　　　

★    舟次黿湖　　　　　　　舟 黿(げん)湖(こ)に次(やど)る　　　　　　　 　　　　宋　　朱　槔

 

山雨疎疎心又驚　　　　山雨 疎(そ)々(そ)として 心 又驚く

起瞻天色斗微明　　　　起きて 天色を瞻(み)れば 斗 微明なり

他年一枕江關夢　　　　他年 一(いっ)枕(ちん) 江関(こうかん)の夢

知憶蓬窗此夜聲　　　　知んぬ 蓬(ほう)窓(そう) 此の夜の声を憶ゆを

 

【語釈】

○次…舟宿りする。○黿湖…江蘇省無錫市にある湖。○疎疎…まばらなさま。○斗…北斗星。○天色…空の様子。○他年…昔。○一枕…一眠り。○江關…四川省重慶市瞿塘峡。○蓬窗…舟の窓。

 

 

★    陽關詞　　　　　　　　陽関(ようかん)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳剛中

 

客舍休悲柳色新　　　　客舎(かくしゃ) 悲むを休(や)め 柳色新なり　

東西南北一般春　　　　東西南北 一般の春

若知四海皆兄弟　　　　若(も)し 四海 皆 兄弟なるを知らば

何處相逢非故人　　　　何れの処に相逢うも 故人(こじん)に非(あら)ざらん

 

【語釈】

○陽關詞…王維の「陽關三畳」にあわせて作った詩。○客舎…旅館。○一般…すべて。○四海…全世界。○故人…昔からの友人。

 

 

★    白沙夜聞灘聲　　　　　白沙 夜 灘声(たんせい)を聞く　　　　　　　　　　  宋  　黄公度

 

錯認松風萬壑傳　　　　錯(あや)って認む 松風 万壑(まんがく)伝うと

又如急雨碎池蓮　　　　又 急雨の 池(ち)蓮(れん)を砕くが如し

青燈孤館元無寐　　　　青灯 孤館 元 寐(いね)る無し

况復溪聲到枕邊　　　　况(いわん)や復(ま)た 渓声の枕辺(ちんぺん)に到るをや

 

【語釈】

○灘聲…早瀬の音。○萬壑…多くの山。○池蓮…池の蓮。○青燈…青い色の油灯。

 

 

★    古博嶺　　　　　　　　古博(こはく)嶺(れい)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　姚　寬

 

北風獵獵駕寒雲　　　　北風 猟々(りょうりょう)として 寒雲を駕(が)す

低壓平川路欲昏　　　　平川を低圧して 路 昏(くら)からんと欲す

人馬忽驚俱辟易　　　　人馬 忽ち驚き 俱に辟易(へきえき)

一聲乳虎下前村　　　　一声の乳虎 前村に下る

 

【語釈】

○古博嶺…不祥。○獵獵…風の吹く音。○駕…あやつる。○平川…広く平坦な地。○辟易…たじろぐ。○乳虎…生まれたばかりの虎の子。

　　　

 

★    江上　　　　　　　　　江上　　　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　劉子翬

 

江上潮來浪薄天　　　　江上 潮来(うしおきた)って 浪 天に薄し

隔江寒樹晚生煙　　　　江を隔つる寒樹 晩(ばん)に煙を生ず

北風三日無人渡　　　　北風 三日 人の渡る無く

寂寞沙頭一簇船　　　　寂寞(せきばく)たる 沙頭(さとう) 一簇(いちぞく)の船

 

【語釈】

○寒樹…寒天の樹木。○煙…もや。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○沙頭…砂洲のほとり。○一簇…一群。

 

 

★    讀林擇之二詩有感　　　　林択(りんたく)の詩を読みて感有り　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

竹輿傲兀聽嘔啞　　　　竹(ちく)輿(よ) 傲兀(ごうこつ) 嘔啞(おうあ)を聴く

合眼歸心已到家　　　　眼を合(あわ)すれば 帰心(きしん) 已に家に到る

遊子上堂慈母笑　　　　遊子(ゆうし) 堂に上りて 慈母笑う

豈知行李尚天涯　　　　豈に知らんや 行李 尚お天涯なるを

 

【語釈】

○林擇…林用中。福建省福州古田の人。終身仕官せず。○竹輿…竹の輿。○傲兀…高ぶって屈しないさま。○嘔啞…小兒の語る声。○歸心…故郷に帰りたいと思う心。○遊子…旅人。○行李…旅人の持つ荷物。○天涯…空の果ての地。

　　　

 

★    疎山道中　　　　　　　疎山(そざん)道中(みちちゅう)　　　　　　　　　　　　　宋　　曾季貍

 

江南九月未飛霜　　　　江南 九月 未だ霜を飛ばさず

木葉蕭蕭已半黄　　　　木葉 蕭々(しょうしょう) 已に半ば黄なり

行遍疎山山下路　　　　行きて遍(あまね)し 疎山(そざん) 山下の路

滿山唯有桂花香　　　　山に満ち 唯だ 桂花の香 有るのみ

 

【語釈】

○疎山…江西省撫州市疏山。○江南…長江中下流の南岸地方。○蕭蕭…物寂しい様子や音の形容。

 

 

★    泊釣臺　　　　　　　　釣台に泊す　　　　　　　　　　　　　  宋　　毛　幵

 

洲渚寒雲薄暮天　　　　洲渚(しゅうちょ)の寒雲 薄暮の天　

蕭蕭燈火落帆邊　　　　蕭々(しょうしょう)たる灯火 落帆(らくはん)の辺(ほとり)　　

嚴陵灘下孤舟遠　　　　厳陵灘下(げんりょたんか) 孤舟遠し

一夜歸心聽雨眠　　　　一夜 帰心 雨を聴きて眠る

 

【語釈】

○釣臺…厳陵釣台。東漢の厳光（光武帝の幼なじみ）が光武帝から召されたのを断って、釣りをしていたところ。浙江省桐廬市の西にある。○洲渚…中洲。○蕭蕭…物寂しい様子や音の形容。○落帆…帆を下ろした舟。○嚴陵灘…厳陵釣台の近くにある早瀬。○帰心…故郷に帰りたいという心。

 

 

★    龍州　　　　　　　　　竜州(りゅうしゅう)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　邵稽仲

 

峭壁陰森古木稠　　　　峭壁(しょうへき) 陰(いん)森(しん)として古木稠(しぼ)む

亂山深處指龍州　　　　乱山 深き処 竜州(りゅうしゅう)を指(ゆび)さす

猿啼鴉噪溪雲暮　　　　猿啼き 鴉噪(さわ)ぎて 渓(けい)雲(うん)暮(く)る

不是愁人亦自愁　　　　是れ 愁人ならずも 亦(ま)た自(おのずか)ら愁う

 

【語釈】

○龍州…江西省崇左市龍州県。○峭壁…険しい岩壁。○陰森…薄暗く物寂しいさま。

　　　

 

★    舟行　　　　　　　　　舟行　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方汝疆

 

平林漠漠暝烟齊　　　　平林 漠々(ばくばく) 暝(めい)煙(えん)斉(ひと)し

竹樹蕭森望眼迷　　　　竹樹 蕭(しょう)森(しん) 望(ぼう)眼(がん)迷う

相喚幾聲何處雁　　　　相喚(あいさけ)ぶ 幾声 何れの処の雁ぞ

斷霞明處一行低　　　　断(だん)霞(か) 明(あきら)かなる処 一(いっ)行(こう)低し

 

【語釈】

○平林…平原の林。○漠漠…ひろびろとして果てしないさま。○暝烟…夕方の霞霧。○蕭森…樹木が多いさま。○望眼…遠くを見る眼。○斷霞…断片的な霞。

 

 

★    浙江小磯春日　　　　　浙(せっ)江(こう)小磯(しょうき)の春日 　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大

 

客裏無人共一杯　　　　客(かく)裏(り) 人無く 共に一杯

故園桃李爲誰開　　　　故園の桃李 誰が為に開く

春潮不管天涯恨　　　　春潮は管せず 天涯の恨み

更捲西興暮雨來　　　　更に 西興(せいこう)の暮雨を捲(ま)いて来る

 

【語釈】

○浙江…錢唐江。○客裏…旅の途中。○故園…故郷。○天涯…空の果ての地。○西興…浙江省蕭山市西北にある渡し場。

 

 

 

　　　

★    宿閶門　　　　　　　　閶門(しょうもん)に宿す　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大

 

五更潮落水鳴船　　　　五更 潮(うしお)落ち 水 船に鳴る

霜送新寒到枕邊　　　　霜は新寒を送りて　枕辺(ちんへん)に到る

報道霧收紅日上　　　　報道す 霧 収まりて 紅日上ると

野翁猶蓋短篷眠　　　　野翁 猶お 短篷(たんほう)を蓋(おお)いて眠る

 

【語釈】

○閶門…江蘇省蘇州市城西の門。○五更…夜明け方。○報道…告知する。○野翁…田舎の老人。○短篷…小舟。

 

 

★    將赴建康出城 　　　　　将(まさ)に建(けん)康(こう)に赴(おもむ)かんとして城を出ず　　　  宋　　范成大

 

牒訴繽紛塞甕天　　　　牒訴(ちょうそ) 繽紛(ひんぷん) 甕天(おうてん)を塞(ふさ)ぐ

經年癡坐兩三椽　　　　経年 痴坐(ちざ) 両三椽(りょうさんてん)

出門納納乾坤大　　　　門を出で納(のう)々(のう) 乾坤(けんこん)大なり

依舊青山繞畫船　　　　旧に依(よ)る青山 画船を繞(めぐ)る

 

【語釈】

○建康…南京。○牒訴…訴状。○繽紛…非常に多いさま。○甕天…非常に狭い地方。○癡坐…変動のないこと。○兩三椽…二三軒。○納納…物を大きく包み入れるさま。○乾坤…天地。○依舊…昔のまま。○画船…絵で飾った船。

　　　

 

★    餘杭道中　　　　　　余杭道中　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大

 

村媼羣觀笑老翁　　　　村媼(そんおう) 群がり観て 老翁を笑う

宦途何處苦龍鍾　　　　宦(かん)途(と)　何れの処か 苦(はなはだ)だ竜鍾(りゅうしょう)

霜毛瘦骨猶千里　　　　霜毛 痩骨 猶お千里

少見行人似箇儂　　　　見ること少(まれ)なり 行人の箇儂に似たるを

 

【語釈】

○餘杭…浙江省杭州市。○村媼…村の老婆。○宦途…官吏の次席や昇降。○龍鍾…老い衰えること。○行人…旅人。○箇儂…彼。

 

 

★    阻風泊鍾家村　　　　　風に阻まれ鍾(しょう)家村(かそん)に泊す　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

南游端爲看山來　　　　南游 端(まさ)に山を看る為に来る

過眼匆匆首屢回　　　　眼を過ぎて 匆々(そうそう) 首 屢(る)回(かい)す

不是阻風船不進　　　　是れ 風に阻まれて 船の進まざるにはあらず

何緣看盡萬崔嵬　　　　何に縁(よ)りてか 看尽さん 万崔嵬(ばんさいかい)

 

【語釈】

○鍾家村…不祥。○南游…南方への旅行。○匆匆…そわそわして落ち着かないさま。○屢回…しばしば廻らす。○萬崔嵬…多くの石のある山。

 

 

★    舟過謝潭　　　　　　　舟 謝潭(しゃたん)を過ぐ　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

夾江百里沒人家　　　　江を夾(さしはさ)みて 百里 人家に没す

最苦江流曲更斜　　　　最も苦しむ 江流 曲りて更に斜なるに

嶺草已青今歲葉　　　　嶺草 已に青し 今歳の葉

岸蘆猶白去年花　　　　岸蘆 猶お白し 去年の花

 

【語釈】

○謝潭…不祥。○嶺草…嶺に生えている草。○岸蘆…岸に生えているアシ。

 

 

★    明發瀧頭　　　　　　　明(あかつき)に滝頭(りゅうとう)を発す　　　　　　　　　　　　宋　　楊萬里

 

黑甜偏至五更濃　　　　黒甜(こくてん) 偏(あまね)く 五更に至りて濃(こまやか)なり

强起侵星敢小慵　　　　強(しい)て起きて 星を侵して 敢えて小(すこし)も慵(ものう)からんや

輸與山雲能樣嬾　　　　輸与す 山雲 能(よ)く様に嬾(らい)なる

日高猶宿夜來峰　　　　日高くして 猶お宿(しゅく)す 夜来の峰

 

【語釈】

○瀧頭…不祥。○黑甜…ぐっすり眠る。○五更…夜明け。○侵星…曉を払う。○輸與…致し与える。

 

 

★    夜泊鴉磯　　　　　　　夜 鴉(あ)磯(き)に泊す　　　　　　　　　　　　　宋　　楊萬里

 

峽中盡日沒人煙　　　　峡中(きょうちゅう) 尽日(じんじつ) 人煙没す

船泊鴉磯也有村　　　　船 鴉(あ)磯(き)に泊して 也(ま)た村に有り

已被子規酸骨死　　　　已に 子規に酸骨(さんこつ)し 死せらる

今宵第一莫啼猿　　　　今宵(こんしょう) 第一 猿を啼かしむ莫(なか)れ

 

【語釈】

○鴉磯…不祥。○盡日…一日中。○人煙…人家の炊煙。○子規…ホトトギス。○酸骨…憤恨、悲傷の形容。○第一…最も重要なこと。

 

 

★    早行鳴山　　　　　　　早(つと)に鳴(めい)山(ざん)に行く　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

淡淡清霜薄薄冰　　　　淡々(たんたん)たる清霜 薄々(はくはく)の氷

曉寒端爲作新晴　　　　暁寒(ぎょうかん) 端(まさ)に為(ため)に 新晴を作(な)す　

殷勤喚醒梅花睡　　　　殷(いん)勤(ぎん)に 喚び醒ます 梅花の睡(ねむ)るを

枝上春禽一兩聲　　　　枝上の春禽 一両の声

 

【語釈】

○早…朝早く。鳴山…浙江省溫州市鳴山。○淡淡…薄い。かすかなさま。○薄薄…薄いさま。○新晴…雨後の晴れ。○春禽…春の鳥。○一両…ひとつふたつ。

 

 

★    萬安道中書事　　　　　万安(まんあん)道中(どうちゅう)事を書す　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

携家滿路踏春華　　　　家を携えて 満路 春(しゅん)華(か)を踏む

兒女欣欣不憶家　　　　児女 欣々(きんきん) 家を憶わず

騎吏也忘行役苦　　　　騎吏(きり) 也た 行役(こうえき)の苦を忘れ

一人人插一枝花　　　一(いち)人人(にんにん) 挿む一枝の花

 

【語釈】

○萬安…海南省直轄県級行政区画萬寧市。○携家…家を離れる。○春華…春の花。○欣欣…喜ぶさま。○騎吏…宿場の役人。○行役…旅の仕事。○一人人…ひとりひとり。

 

　　　

★    上章戴灘　　　　　　　章戴灘(しょうたいたん)に上る　　　　　　　　　　　　  宋    楊萬里

 

脫巾枕手仰哦詩　　　　巾(きん)を脱し 手を枕し 仰いで詩を哦(が)す

醉上諸灘總不知　　　　酔いて 諸灘(しょたん)に上り 総て知らず

回看他船上灘苦　　　　他船の 灘(たん)に上る苦を 回看(かいかん)して

方知他看我船時　　　　方(まさ)に知る 他の 我が船を看る時

 

【語釈】

○章戴灘…不祥。○哦…歌う。○諸灘…いろいろな早瀬。○回看…振り返って見る。

 

 

★    之官毗陵舟行阻風宿　　官に毗(び)陵(りょう)に之(ゆ)き舟行(しゅうこう) 風に阻まれて宿す　　  宋    楊萬里

 

蟲聲兩岸不堪聞　　　　虫声 両岸 聞くに堪えず

把燭銷愁且一尊　　　　燭を把(と)り 愁を銷(け)し 且(しばら)く一尊

誰宿此船愁似我　　　　誰か 此の船に宿し 愁 我に似ん

船篷猶带燭煙痕　　　　船篷(せんぽう) 猶お带ぶ 燭(しょく)煙(えん)の痕(あと)

 

【語釈】

○毗陵…江蘇省常州市。○一尊…酒を飲む。○船篷…船の窓。　　　

 

 

★    之官毗陵舟行阻風宿　　官に毗(び)陵(りょう)に之(ゆ)き舟行(しゅうこう) 風に阻まれて宿す　　  宋    楊萬里

 

千里江行一日程　　　　千里 江行 一日の程

出山似被北風嗔　　　　山を出で 北風に嗔(いか)らるるに似る

東窗水影西窗月　　　　東窓の水影 西窓の月

併照船中不睡人　　　　併せて照らす 船中 睡らざる人

 

【語釈】

○毗陵…江蘇省常州市。

 

 

★    憩分水嶺望郷　　　　　分水嶺に憩い郷を望む　　　　　　　　　  宋    楊萬里

 

嶺頭泉眼一涓流　　　　嶺頭の泉(せん)眼(がん) 一涓(いっけん)流(りゅう)

南入虔州北吉州　　　　南のかた虔州(けんしゅう)に入り 北は吉州

只隔中間些子地　　　　只だ隔つ 中間 些子(さし)の地

水聲滴作兩郷愁　　　　水声 滴(したた)り 両郷の愁いを作(な)す

 

【語釈】

○嶺頭…山頂。○泉眼…泉の湧き出る洞穴。○涓流…微少な水流。○虔州…江西省贛州市。○吉州…江西省吉安市。○些子…不祥。

 

　　　

★    曉過大皋渡　　　　　　暁に大皋(だいこう)渡(と)を過ぐ　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

霧外江山看不真　　　　霧外(むがい)の江山 看(み)れども真ならず

只憑雞犬認前村　　　　只だ 雞犬に憑(よ)りて 前村を認む

渡船滿板霜如雪　　　　渡船 満板(まんぱん) 霜 雪の如し

印我青鞋第一痕　　　　印す 我が青鞋(せいあい) 第一の痕

 

【語釈】

○大皋渡…不祥。○滿板…板の上一面。○青鞋…わらじ。　　　

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    過沙頭　　　　　　　　沙頭(さとう)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

過了沙頭漸有村　　　　沙頭を過了して 漸く 村有り

地平江闊氣清溫　　　　地 平かに 江 闊(ひろ)くして 気 清温なり

暗潮已到無人會　　　　暗潮 已に到り 人の会する無く

只有篙師識水痕　　　　只だ 篙師の水痕を識る有るのみ

 

【語釈】

○過了…過ぎ去る。○沙頭…砂洲のあたり。○漸…次第に。段々と。○暗潮…小潮。○篙師…船頭。○水痕…潮の引いたあとの印。

 

　　　

★    聞雁　　　　　　　　　雁を聞く　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

過盡梅花把酒稀　　　　梅花を過ごし尽くして 酒を把(と)ること稀に

熏籠香冷換春衣　　　　熏(くん)籠(ろう) 香(こう)冷えて 春衣を換う

秦關漢苑無消息　　　　秦関(しんかん) 漢(かん)苑(えん) 消息無し

又在江南送雁歸　　　　又 江南に在って 雁の帰るを送る

 

【語釈】

○把酒…酒を飲む。○熏籠…衣に香を炊き込めつとき使うかごのようなもの。○秦關…関中の地、長安。○漢苑…長安の西にあった漢代の上林苑。○消息…おとさた。○江南…長江中下流の見南側の地方。

（参考文献）  『漢詩大系　１９』

 

 

★    小雨極凉舟中熟睡至夕　　　　　　　  　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

小雨極めて涼し 舟中熟睡して夕べに至る

 

舟中一雨掃飛蠅　　　　舟中 一雨 飛蠅(ひよう)を掃う

半脱綸巾卧翠藤　　　　半ば 綸巾(りんきん)を脱して 翠(すい)藤(とう)に卧す

清夢初回窗日晚　　　　清夢 初めて回(かえ)えれば 窓(そう)日(じつ)晩(く)れ

數聲柔櫓下巴陵　　　　数声の柔(じゅう)櫓(ろ) 巴(は)陵(りょう)を下る

 

【語釈】

○飛蠅…うるさく飛び回っている蠅。○綸巾…生糸のひもを編んで作った頭巾。隠者、道士などが好んで用いる。○翠藤…青い藤を編んで作った寝台。涼しいので夏に用いられる。○清夢…すがすがしく心地よい夢。○初回…（夢から）現実に立ち返ったばかり。○柔櫓…強いて流れに逆らったりせず，穏やかにこぐ舟。

（参考文献）　　『漢詩大系　１９』

 

　　　

★    建安遣興　　　　　　　建安興遣　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

建安酒薄客愁濃　　　　建安 酒薄く 客愁 濃し

除却哦詩事事慵　　　　詩を哦(が)するを除却(じょきゃく)して 事々(じじ)慵(ものう)し　

不許今年頭不白　　　　許さず 今年 頭の白からざるを

城樓殘角寺樓鐘　　　　城楼の残角 寺楼の鐘

 

【語釈】

○建安…福建省南平市建瓯市。○客愁…旅の愁い。○哦…吟詠する。○除却…除く。却は助字。○残角…止まない角笛

　

★    别建安　　　　　　　　建安(けんあん)に别る　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

攲帽揚鞭晚出城　　　　帽を攲(かたむ)け 鞭を揚げて 晩に城を出ず

驛亭燈火向人明　　　　駅亭の灯火 人に向って 明らかなり

多情葉上蕭蕭雨　　　　多情なり 葉上(ようじょう) 蕭々(しょうしょう)たる雨

更把新涼送客行　　　　更に 新涼を把(と)りて 客(かく)の行くを送る

 

【語釈】

○建安…福建省南平市建瓯市。○駅亭…宿場町の家。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○新涼…初秋の爽快な気候。

　　

 

★    三峽歌　　　　　　　　三峡歌(さんきょうか)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

十二巫山見九峰　　　　十二巫山(じゅうにふざん) 九峰を見(あらわ)し

船頭彩翠滿秋空　　　　船頭の彩(さい)翠(すい) 秋空に満つ

朝雲暮雨渾虛語　　　　朝雲 暮雨 渾(すべ)て虚語

一夜猿啼明月中　　　　一夜 猿啼く 明月の中(うち)

 

【語釈】

○三峽…長江上流、重慶市奉節県の白帝城から湖北省宜昌の南津関にかけてある峡谷。瞿塘峡・巫峡・西陵峡、古来、舟行の難所。○十二巫山…巫山には十二の峰があると言われる。○船頭…舟の舳先（「せんどう」は和語）。○彩翠…彩られた山の緑。○朝雲暮雨…巫山の巫女が楚の襄王に「朝に朝雲となり、暮れに暮雲となる」と言った故事、「高唐賦」による。

（参考文献）　　『漢詩大系　１９』

 

★    東關　　　　　　　　　東関(とうかん) 　　　　　　　　　　　　　　　　 宋　　陸　游

 

煙水蒼茫西復東　　　　煙水　蒼茫(そうぼう) 西 復(ま)た東

扁舟又繫柳陰中　　　　扁舟　又た繫(つな)ぐ 柳陰の中

三更酒醒殘燈在　　　　三更　酒 醒めて 残灯在り

卧聴蕭蕭雨打篷　　　　卧して聴く 蕭々(しょうしょう) 雨 篷を打つを

 

【語釈】

○東關…不祥。○蒼茫…水面などの青々として果てしないさま。○扁舟…小舟。○三更…真夜中。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。

　　　

 

★    梨嶺遇雨　　　　　　　梨(り)嶺(れい)にて雨に遇う　　　　　　　　　　　  宋　　黄景説

 

黑風吹雨又黄昏　　　　黒風 雨を吹いて 又た黄昏(こうこん)

雞犬數聲何處村　　　　雞犬 数声 何れの処の村ぞ

身在嶺雲飛處濕　　　　身は 嶺(れい)雲(うん)の飛ぶ処に在りて湿(うるお)い

不關別淚濺成痕　　　　関せず 別涙の 濺(そそ)ぎて痕を成すに

 

【語釈】

○梨嶺…不確定。○黑風…暴風。○嶺雲…嶺にかかっている曇。○別淚…別れを悲しむ涙。

 

 

★    溪橋晚興　　　　　　　渓(けい)橋(きょう)晩(ばん)興(きょう)　　　　　　　　　　　　　  宋　　鄭　協

 

寂寞亭基野渡邊　　　　寂寞(せきばく)たる 亭基(ていき) 野(や)渡(と)の辺(ほとり)

春流平岸草芊芊　　　　春流 岸に平かに 草芊々(せんせん)

一川晚照人閒立　　　　一川(いっせん)の晩照 人間(にんげん)立ち

滿袖楊花聽杜鵑　　　　袖に満つる楊(よう)花(か) 杜鵑(とけん)を聴く

 

【語釈】

○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○野渡…野辺の渡し場。○芊芊…草木が盛んに生い茂るさま。○晩照…夕陽の餘暉。○楊花…柳絮。○杜鵑…ホトトギス。

 

　　　

★    晚行　　　　　　　　　晩(ばん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳　淵

 

晚煙低掃樹千重　　　　晩煙 低く掃(はら)う 樹(じゅ) 千重(せんちょう)

一簇人家接遠空　　　　一簇(いちぞく)の人家 遠空に接す

日暮荒陂行客盡　　　　日暮れて 荒陂(こうは) 行(こう)客(かく)尽き

只尋牛迹去匆匆　　　　只だ 牛迹(ぎゅうせき)を尋ねて 去りて匆々(そうそう)

 

【語釈】

○晚煙…夕靄。○一簇…一群。○荒陂…荒れた隄。○行客…旅人。○牛迹…牛の通った跡。○匆匆…そわそわして落ち着かないさま。

 

 

★    題趙秀才壁　　　　　　趙(ちょう)秀才(しゅうさい)の壁に題す　　　　　　　　　　  宋　　陳　造

 

日日危亭憑曲欄　　　　日々 危亭(きてい) 曲欄(きょくらん)に憑る

幾山蒼翠擁烟鬟　　　　幾山の蒼(そう)翠(すい) 煙鬟(えんびん)を擁(よう)す

連朝策馬衝雲去　　　　連朝 馬に策(さく)し 雲を衝(つ)いて去る

盡是亭中望處山　　　　尽(ことごと)く是(こ)れ 亭中 望む処の山

 

【語釈】

○趙秀才…不祥。○危亭…高所に聳える亭。○曲欄…曲がった闌干。○蒼翠…青緑。○烟鬟…雲霧に掩われた嶺の形容。○連朝…連日。○策馬…馬を使って走行する。

　　　

 

★    蘄春道中　　　　　　　蘄(き)春(しゅん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　宋　　張孝祥

 

霜凈波平水落灣　　　　霜凈(きよ)く 波平かにして 水 湾に落つ

我行正在畫圖間　　　　我 行きて 正(まさ)に 画図(がと)の間に在り

簾鈎不用怕風日　　　　簾(れん)鈎(こう) 用いず 風日を怕(おそ)るるを

且看江南江北山　　　　且(しばらく)く看る 江南江北の山

 

【語釈】

○蘄春…湖北省黃岡市蘄春県。○風日…天気。○簾鈎…すだれを捲き上げて懸ける金具。簾を巻くこと。

 

 

★    過九嶺　　　　　　　　九(きゅう)嶺(れい)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　宋　　徐　璣

 

斷崖橫路水潺潺　　　　断崖の横路 水潺々(せんせん)

行到山根又上山　　　　行きて 山根(さんこん)に到り 又た山に上る

眼看別峰雲霧起　　　　眼に看る　別峰 雲霧起るを

不知身也在雲間　　　　知らず 身は 也(ま)た 雲間に在るを

 

【語釈】

○九嶺…不祥。○潺潺…浅い水の流れるさま。サラサラ。○山根…山のふもと。

 

 

★    旅夜書懷　　　　　　　旅夜 懐(おもい)を書 す　　　　　　　　　　　  宋　　胡朝穎

 

十日春光九日陰　　　　十日 春光 九日陰(くも)る

故關千里未歸心　　　　故関 千里 未だ帰るの心あらず

遥憐兒女寒窗底　　　　遥かに憐む 児女 寒窓の底

指點燈花語夜深　　　　灯花を指点して 夜深に語るを

 

【語釈】

○故關…古い関所。○歸心…故郷に帰りたいと思う心。○指點…指指す。○燈花…灯心が花の形になったもの。

 

 

絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　盧　蹈

 

客懷耿耿自難寬　　　　客(きゃく)懐(かい) 耿々(こうこう) 自(おのずか)ら寛(ゆる)うし難し

老傍京塵更鮮歡　　　　老いて 京(けい)塵(じん)に傍い 更に歓(よろこ)び鮮(すくな)し

遠夢已回窗不曉　　　　遠夢(えんむ) 已に回(かえ)り 窓 暁ならず

杏花同度五更寒　　　　杏花 同(とも)に度る 五更の寒

 

【語釈】

○客懷…旅の想い。○耿耿…心が穏やかでないこと。○京塵…帝都の塵。○遠夢…遠くの人を思う夢。○五更…夜明け。

 

 

★    離巫山晚泊棹石灘下　　　巫山(ふざん)を離れ 晩(くれ)に 棹(ふね) 石灘下(せきたんか)に泊す　　 宋　　　李　埴

 

黄昏風雨阻江濱　　　　黄昏(こうこん) 風雨 江(こう)浜(ひん)を阻む

翠綰羣峯暮色勻　　　　翠(みどり) 群峰を綰(わん)して 暮色勻(ととの)う　　　　　　

一夜子規啼到曉　　　　一夜 子規 啼きて 暁に到る

孤舟愁殺未歸人　　　　孤舟 愁(しゅう)殺(さつ)す 未だ帰らざる人

 

【語釈】

○巫山…四川省と湖北省の境にある山。○石灘…石の早瀬。○江濱…長江の浜。○綰…つらぬく。○暮色…夕景色。○子規…ホトトギス。○愁殺…ひどく愁えさせる。

 

 

★    廟山道中　　　　　　　廟山(びょうさん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　盧祖皋

 

粉黄蛺蝶遶疎籬　　　　粉(ふん)黄(こう) 蛺(きょう)蝶(ちょう) 疎籬(そり)を遶(めぐ)る

山崦人家挂酒旗　　　　山崦(さんえん) 人家 酒旗を挂(か)く

細雨嫩寒衫袖薄　　　　細雨 嫩(どん)寒(かん) 衫(さん)袖(しゅう)薄し

客中知是菊花時　　　　客中(かくちゅう) 知る是れ 菊花の時

 

【語釈】

○廟山…浙江省杭州市廟山。○蛺蝶…ちょうちょう。○山崦…山の曲がり。○酒旗…酒屋の目印の旗。○嫩寒…うすら寒さ。○衫袖…衣の袖。○客中…旅の途中。

 

　　　

★    天台道上早行　　　　　天台(てんだい)道上(どうじょう) 早(そう)行(こう)　　　　　　　　　　　　   宋　　戴　昺

 

箯輿軋軋過清溪　　　　箯(べん)輿(よ) 軋々(あつあつ) 清渓を過ぐ

溪上梅花壓水低　　　　渓上の梅花 水を圧して低し

月影漸收天半曉　　　　月影 漸(ようや)く収まり 天 半ば暁(あ)く

兩山相對竹雞啼　　　　両山 相対(あいたい)し 竹雞(ちくけい)啼く

 

【語釈】

○天台…浙江省天台市。○早行…朝早く出発すること。○箯輿…竹の輿。○軋軋…ギシギシという音。○漸…だんだんと。しだいしだいに。○竹雞…鳥の名。鷓鴣に似て小型。

 

 

★    寧川冷渡　　　　　　　寧(ねい)川(せん)冷(れい)渡(と)　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　華　岳

 

峰回路轉六七里　　　　峰 回(めぐ)り 路は転ず 六七里

林靜鳥啼三四聲　　　　林 静に 鳥は啼く 三四声

游女不知行旅恨　　　　游女は知らず 行旅の恨

一茶留我話平生　　　　一茶 我を留めて 平生(へいぜい)を話す

 

【語釈】

○寧川…不祥。○峰回路轉…山の様子が屈曲していて、道路がそれに沿ってくねくねしている形容。○游女…妓女。○平生…平素。

 

 

★    湘潭道中即事　　　　　湘潭(しょうたん)道中即事　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

敗絮龍鍾擁病身　　　　敗絮(はいじょ) 竜鍾(りょうしょう)として 病身を擁(よう)す

十分寒事在湘濱　　　　十分の寒事 湘(しょう)浜(ひん)に在り

若非野店黏官曆　　　　若し 野店 官暦(かんれき)を粘(ねん)するに非(あら)ずんば

不記今朝是立春　　　　記せず 今朝(こんちょう) 是(こ)れ 立春なるを　

 

【語釈】

○湘潭…湖南省湘潭市。○即事…事にふれてその場のことを題材として詩を作ること。○敗絮…損なわれた柳絮。○龍鍾…老いてやつれるさま。○寒事…秋冬の様子。○湘濱…湘江の浜。○野店…野の茶店。○官曆…官府が発行した暦。

 

★    壽昌道中　　　　　　　　　寿(じゅ)昌(しょう)道中　　　　　　　　　　　　　宋　　劉克莊     

 

山路泥深雪未乾　　　　山路 泥 深くして 雪 未だ乾かず

病身初怕浙西寒　　　　病身 初めて怕(おそ)る 浙(せっ)西(せい)の寒きを

新年臺曆無人寄　　　　新年の台暦(たいれき) 人の寄る無く

且就村翁壁上看　　　　且(しばら)く 村翁に就(つ)きて 壁上を看る

 

【語釈】

○壽昌…湖北省鄂州市。○浙西…浙江省西部。○臺曆…机の上に置く暦。

 

               　　

★    館頭　　　　　　　　　館頭(かんとう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

雨雪蕭蕭驛堠長　　　　雨雪 蕭々(しょうしょう) 駅(えき)堠(こう)長し

不堪流潦入車箱　　　　堪えず 流潦(りゅうりょう) 車箱(しゃしょう)に入るに

撫州城外黄泥路　　　　撫州(ぶしゅう)城外(じょうがい) 黄泥の路

即是人間小太行　　　　即ち 是れ 人間の小太行

 

【語釈】

○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○驛堠…宿場町に設けられた路程を示す土盛。○流潦…地面を流れる水。○車箱…車の人や物を載せるところ。○撫州城…江西省撫州市臨川区。

　　　

 

 

★    發通州　　　　　　　　通州(つうしゅう)を発す　　　　　　　　　　　　  宋　　文天祥

 

白骨叢中過一春　　　　白骨叢中(そうちゅう) 一春を過ぐ

東將入海避風塵　　　　東のかた 将(まさ)に海に入り 風塵(ふうじん)を避けんとす

姓名變盡形容改　　　　姓名 変じ尽くし 形容改まる

猶有天涯相識人　　　　猶お 天涯　相識(そうしき)の人有り

 

【語釈】

○通州…江蘇省南通市。○將…「まさに～せんとす」と読み、「いまにも～しようとする」の意。○叢中…草むらの中。○風塵…戦乱。○形容…すがたかたち。○天涯…空の果ての地。○相識…知人。

 

 

★    暮春雜興　　　　　　　暮春(ぼしゅん)雑(ざっ)興(きょう)　　　　　　　　　　　　　  宋　　葛起耕

 

畫闌目斷楚雲西　　　　画闌(がらん) 目(もく)断(だん)す 楚雲の西

芳草連天客思迷　　　　芳草 天に連って 客思(かくし)迷う

家在江南烟雨裏　　　　家は在り 江南 煙雨の裏(うち)

落花時節杜鵑啼　　　　落花の時節 杜鵑(とけん)啼く

 

【語釈】

○畫闌…絵画で飾った闌干。○目斷…眼の尽きるところまで見渡す。○楚雲…長江下流の曇。○客思…故郷を離れた思。○江南…長江中下流の南岸地方。○煙雨…霧雨。○杜鵑…ホトトギス。

 

 

★    盱眙旅舍　　　　　　　盱眙(くち)の旅舎　　　　　　　　　　　　　  宋　　路德章

 

道傍草屋兩三家　　　　道傍の草屋 両三家

見客擂麻旋煎茶　　　　客(かく)を見て 麻を擂(す)り 煎茶を旋(めぐ)らす　　　　　

漸近中原語音好　　　　漸(ようや)く 中原に近くして　語音好し

不知淮水是天涯　　　　知らず 淮(わい)水(すい) 是(こ)れ天涯

 

【語釈】

○盱眙…江蘇省淮安市盱眙県。○煎茶…煎じた茶。○漸…段々と。次第に。○中原…黄河流域の平原。○淮水…江蘇省淮安市淮河。○天涯…空の果て。

 

 

★    建州道中　　　　　　　建州(けんしゅう)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　  宋　　無名氏

 

江南三月已聞蟬　　　　江南 三月 已に蟬を聞く

麥熟梅黄繭作綿　　　　麦 熟し 梅 黄にして 繭(まゆ) 綿(わた)を作す

料得故園煙雨裏　　　　料り得たり 故園 煙雨の裏

輕寒猶自養花天　　　　軽寒 猶(いま)自(だ) 養(よう)花(か)の天

 

【語釈】

○建州…福建省南平市建甌市。○料得…推量することができる。○故園…故郷。○煙雨…霧雨。○軽寒…うすら寒さ。○養花天…暮春牡丹の花の咲く季節。

 

 

★    睡起　　　　　　　　　睡起(すいき)　　　　　　　　　　　　　　　  宋    釋曇瑩

 

蕙帳煙凝晝掩關　　　　蕙帳(けいちょう) 煙 凝(こ)りて 昼 関(かん)を掩う

落花時節雨闌珊　　　　落花の時節 雨 闌珊(らんさん)

客來驚起還家夢　　　　客来りて 驚起す 還家(かんか)の夢

繞屋春風綠樹寒　　　　屋を繞(めぐ)る 春風 緑樹寒し

 

【語釈】

○蕙帳…とばりの美称。○掩關…門を閉ざす。○闌珊…散り乱れるさま。○驚起…驚いて夢が覚める。

 

 

★    將渡江　　　　　　　　　将(まさ)に江を渡らんとす　　　　　　　　  宋　　張　斛

 

無數飛花委路塵　　　　無数の飛花 路塵に委(みすて)らる

不堪重醉楚城春　　　　堪えず 重ねて 楚城の春に酔うに

明朝回首江南岸　　　　明朝 首(こうべ)を回(めぐら)せば 江南の岸

烟雨昏昏不見人　　　　煙雨 昏々(こんこん)として 人を見ず

 

【語釈】

○楚城…楚の都、不確定。湖北省宜昌市？○江南…長江中下流南岸の地。○煙雨…霧雨。○昏昏…暗いさま。

 

 

★    韓陵道中　　　　　　　韓(かん)陵(りょう)道中　　　　　　　　　　　　　　   金　　王庭筠

 

石頭犖确兩坡間　　　　石頭(せきとう) 犖确(らくかく) 両坡(りょうひ)の間　　

不記秋來幾往還　　　　記せず 秋来 幾(いく)往還(おうかん)

日暮蹇驢鞭不動　　　　日暮れて 蹇驢(けんろ) 鞭すれども動かず

天教子細數前山　　　　天 子細に 前山を数えしむ

 

【語釈】

○韓陵…不祥。○石頭…石塊。○犖确…山に石の多いさま。○兩坡…両側の隄。○秋来…秋になってから。○蹇驢…びっこの驢馬。

 

★    渡洛口　　　　　　　　洛口を渡る　　　　　　　　　　　　　  金　　趙　元

 

一脉寒流兩㟁氷　　　　一脉(いちみゃく)の寒流 両㟁(りょうがん)の氷

斷橋無力強支撐　　　　断橋 力無く 強(し)いて支撐(ししょう)す

忘機羡殺沙鷗好　　　　忘機(ぼうき) 羡(い)殺(さつ)す 沙(さ)鴎(おう)の好きを

不省人間有戰爭　　　　省みず 人間(じんかん) 戦争有るを

 

【語釈】

○洛口…不祥。○一脉…ひとすじ。○兩㟁…両岸。○斷橋…壊れた橋。○忘機…世俗のことを忘れる。○羡殺…非常にうらやましがる。○沙鷗…砂浜の鷗。

 

 

★    宋樓道中　　　　　　　宋楼(そうろう)道中 　　　　　　　　　　　　  金　　劉從益

 

十里羊腸路詰盤　　　　十里の羊腸 路 詰盤

過花穿栁幾廻還　　　　花を過ぎ 栁を穿(うが)ち 幾廻か還(かえ)る

馬頭忽轉青林角　　　　馬頭 忽(たちま)ち転ず 青林の角

緑繞人家水一灣　　　　緑は人家を繞(めぐ)り 水は一湾

 

【語釈】

○宋樓…不祥。○羊腸…曲がりくねった道。○詰盤…険しい。○青林…清浄な山林。

 

　　　

★    蔡村道中　　　　　　　蔡(さい)村(そん)道中　　　　　　　　　　　　　　  金　　楊雲翼

 

水連深竹竹連沙　　　　水は深竹に連なり 竹は沙に連なる

村落蕭蕭巳暮鴉　　　　村落 蕭々(しょうしょう) 巳に暮(ぼ)鴉(あ)      　

行盡畫圖三十里　　　　行き尽す 画図(がと) 三十里

青山影裏見人家　　　　青(せい)山影(ざんえい)裏(り) 人家を見る

 

【語釈】

○蔡村…不祥。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○畫圖…美しい景色。

 

 

★    榆社硤口村早發　　　　榆(ゆ)社硤口村(しゃきょうこうそん) 早(つと)に発す　　　　　　　　　  金　　元好問

 

瘦馬長途懶著鞭　　　　痩(そう)馬(ば) 長途 鞭を著(しる)すに懶(ものう)し

客懷牢落五更天　　　　客(かく)懐(かい) 牢落(ろうらく) 五更の天

幾時不屬雞聲管　　　　幾時か 属さず 雞声の管するに

睡徹東窗日影偏　　　　睡(ねむり)は東窓に徹し 日影偏(あまね)し

 

【語釈】

○榆社…故郷。○硤口村…不祥。○早發…朝早く出発する。○客懷…旅の中での思。○牢落…寂しいさま。○五更…夜明け。○管…司る。○日影…日光。

 

 

★    江行大雨水漲　　　　　江行 大雨 水漲(みなぎ)る　　　　　　　　　　　  宋　　方　回

 

客路由來但喜晴　　　　客(かく)路(ろ) 由来(ゆらい) 但(た)だ晴るるを喜ぶ

山深何况更舟行　　　　山深くして 何ぞ况(いわん)んや 更に舟行(しゅうこう)なるをや

孤篷酒醒三更雨　　　　孤篷(こほう) 酒醒(さけさ)むれば  三更の雨

滴碎愁腸是此聲　　　　愁(しゅう)腸(ちょう)を滴砕(てきさい)するは 是(こ)れ此の声

 

【語釈】

○客路…旅路。○由來…始まってから以来。○孤篷…一つだけの舟。○三更…真夜中。○滴碎…滴で打ち砕く。○愁腸…愁い悲しむ心。

 

 

★    王干三嶺　　　　　　　王干三(おうかんさん)嶺(れい)　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　回

 

澄練平臯水屈盤　　　　澄(ちょう)練(れん) 平臯(へいこう) 水 屈盤(くつばん)

青蒼松櫟擁峰巒　　　　青蒼たる松櫟(しょうらく) 峰巒(ほうらん)を擁(よう)す　

霜晴村落全如畫　　　　霜晴れ 村落 全て画の如し

一見都忘上嶺難　　　　一見して 都て忘る 嶺に上る難を

 

【語釈】　

○王干三嶺…不祥。○澄練…白絹。○平臯…水辺の平坦地。○屈盤…かがまりわだかまる。○松櫟…松とくぬぎ。○峰巒…連なる峰々。

 

 

★    見雁有懷　　　　　　　雁を見て懐(おもい)有り　　　　　　　　　　　 　宋　　黃　庚

 

滿眼西風憶故廬　　　　満眼(まんがん)の西風 故廬(ころ)を憶う

親朋音問久相疏　　　　親(しん)朋(ぽう) 音(おん)問(もん) 久しく 相疏(あいそ)す

年年江上無情雁　　　　年々 江上 無情の雁

只帶秋來不帶書　　　　只だ 秋を帯びて来り 書を帯びず

 

【語釈】

○滿眼…見渡す限り。○西風…秋風。○故廬…故郷の家。○親朋…親族と友達。○音問…音信。○相疏…疎遠になる。○帶書…雁は手紙を運ぶものとされた。蘇武の故事。

 

★    舟次九山　　　　　　　舟 九山に次(やど)る　　　　　　　　　　　 　宋　　黃　庚

 

水雲盡處列奇峰　　　　水雲 尽くる処 奇峰を列す

螺髻參差杳靄中　　　　螺(ら)髻(けい) 参(さん)差(し)たり 杳(よう)靄(か)の中(うち)

江岸維舟看不了　　　　江岸に舟を維(つな)ぎて 看て了(おわ)らず

煙嵐分碧入疏篷　　　　煙嵐 碧を分かち 疏篷(そほう)に入る

 

【語釈】

○水雲…水の上の雲。○螺髻…渦巻いた髻のように聳える嶺々。○參差…不揃い。○杳靄…雲霧が縹渺としているさま。○煙嵐…山林に立ちこめる煙霧。○疏篷…疎らに編んだ舟の窓。

 

 

★    山行　　　　　　　　　山(さん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　王　惲

 

西來遊宦半忙閒　　　　西来 遊宦(ゆうかん) 半ば忙間(ぼうかん)

六日迢遙道路間　　　　六日(りくじつ) 迢(ちょう)遥(よう)たり 道路の間

回轉羊腸三百里　　　　回転 羊腸(ようちょう) 三百里

天教馬上飽看山　　　　天 馬上 飽くまで山を看せしむ

 

【語釈】

○遊宦…官職を求めて故郷を離れること。○迢遙…時間の長いさま。○羊腸…羊の腸のように曲がりくねっていること。

 

 

★    夜次館陶　　　　　　　夜 館(かん)陶(とう)に次る　　　　　　　　　　　　　　　元　　許有壬

 

三老趨程不憚勞　　　　三老 程に趨(おもむ)き 労を憚(はばか)らず

船頭坐看月輪髙　　　　船頭(せんとう) 坐して看る 月輪の高きを

烟村漁火微茫外　　　　煙村の漁火 微茫(びぼう)の外(そと)

一簇人家是館陶　　　　一簇(いちぞく)の人家 是れ館(かん)陶(とう)

 

【語釈】

○館陶…山東省聊城市冠県。○三老…船頭。○船頭…舟の舳先。○烟村…もやのかかっている村。○微茫…はっきりしないさま。○一簇…ひと叢がり。

 

 

★    渡端州峽　　　　　　　端州峡(たんしゅうきょう)を渡る　　　　　　　　　　　　   元　　范　梈

 

櫂郎得便泝清流　　　　櫂郎(とうろう) 便を得て 清流を泝(さかのぼ)る

忽報舟前曉霧收　　　　忽(たちま)ち 舟前 暁霧の収まるを報ず

蠻語酬人翻自苦　　　　蛮(ばん)語(ご) 人 酬(こた)えて 翻(ひるがえ)って自(おのずか)ら苦なり

好山不敢問何州　　　　好山 敢えて何れの州かを問わず

 

【語釈】

○端州…廣東省肇慶市。○櫂郎…船夫。○蠻語…少数民族の言葉。

 

 

 

★    曉發山館　　　　　　　暁に山館を発す　　　　　　　　　　　　  元    薩都剌

 

夢回山館月西斜　　　　夢は回(かえ)る 山館 月 西に斜なり

曙色千峰動紫霞　　　　曙(ちょ)色(しょく) 千峰 紫(し)霞(か)を動かす

杜宇一聲山竹裂　　　　杜宇(とう) 一声 山(さん)竹(ちく)裂け

鷓鴣飛上野棠花　　　　鷓鴣(しゃこ) 飛び上ぐ 野棠(やとう)の花

 

【語釈】

○山館…山中の旅館。○夢回…目が覚める。○杜宇…ホトトギス。○野棠…こりんご。

 

　　　

★    秋夜聞笛　　　　　　　秋夜 笛を聞く　　　　　　　　　　　　  元    薩都剌

 

何人吹笛秋風外　　　　何人の吹(すい)笛(てき)か 秋風の外

北固山前月色寒　　　　北固山前(ほくこさんぜん) 月色寒し

亦有江南未歸客　　　　亦(ま)た 江南 未だ帰らざるの客(かく)有り

徘徊終夜倚闌干　　　　徘徊し 終夜 闌干に倚(よ)る

 

【語釈】

○北固山…江蘇省鎮江市北固山。○江南…長江中下流の南岸の地方。

 

 

★    度淮即事　　　　　　　淮(わい)を渡る即事　　　　　　　　　　　　　　  元    薩都剌

 

楊花點點衝帆過　　　　楊花 点々 帆を衝(つ)いて過ぐ

燕子雙雙掠水飛　　　　燕子 双々(そうそう) 水を掠(かす)めて飛ぶ

淮上漁人閒不得　　　　淮上(わいじょう) 漁人 閑 得ず

船頭對結綠蓑衣　　　　船頭 対し結ぶ 緑(りょく)蓑(さ)衣(い)

 

【語釈】

○淮…淮河。河南省、安徽省、江蘇省を流れる中国三番目の大河。○即事…事に触れて、その場のことを題材にして作った詩。○楊花…柳絮。○雙雙…二羽ずつ。○淮上…淮河の上。○綠蓑衣…緑色の簑。

 

 

★    煙雨中過石湖　　　　　煙雨中　石(せき)湖(こ)を過ぐ　　　　　　　　   元　　倪　瓚

 

姑蘇城外短長橋　　　　姑蘇(こそ)城外(じょうがい) 短長の橋

煙雨空濛又晚潮　　　　煙雨 空濛(くうもう)として 又た 晩潮

載酒曾經此行樂　　　　酒を載せて 曽(かつ)って経(ふ) 此の行楽

醉乘江月臥吹簫　　　　酔いて 江月に乗じて 臥(が)して簫(しょう)を吹く

 

【語釈】

○煙雨…霧雨。○石湖…江蘇省蘇州市西南にある湖。○姑蘇城…江蘇省蘇州市。○空濛…小雨が降ったり、靄が立ちこめたりして薄暗いさま。○載酒…船に酒を載せる。○乘江月…江月の明かりの下で。

 

 

★    徳興山中　　　　　　　徳(とく)興(こう)山中(さんちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  元　　郭　奎

 

石橋斜日萬山陰　　　　石橋の斜日 万山の陰

雲滿寒溪雪滿林　　　　雲は 寒渓に満ち 雪は林に満つ

獨有梅花看不厭　　　　独り 梅花の 看て厭わざる有り

江南春色故園心　　　　江南の春色 故園の心

 

【語釈】

○徳興…江西省上饒市德興市。○江南…長江中下流の南岸地方。○春色…春景色。○故園…故郷。

 

 

★    夜過黃泥渡　　　　　　夜 黄泥(こうでい)渡(と)を過ぐ　　　　　　　　　　　  元　　許　謙

 

夜深風息水安流　　　　夜深く 風 息(や)んで 水 安流す

白雁黃蘆滿眼秋　　　　白雁 黄蘆(こうろ) 満眼の秋

行李蕭蕭官櫂穩　　　　行李 蕭々(しょうしょう) 官(かん)櫂(よう) 穏かに

臥看明月過真州　　　　臥(が)して明月を看(み) 真州を過ぐ

 

【語釈】

○黃泥渡…不祥。○行李…旅道具を入れる入れ物。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○官櫂…公務に使う船。○真州…江蘇省揚州市儀征市。

 

　

 

　　

★夜宿野城　　　　　　　夜 野城に宿す　　　　　　　　　　　  元　　成廷珪

 

露氣涓涓欲二更　　　　露気 涓々(けんけん) 二更ならんと欲す

小舟猶向月中行　　　　小舟 猶(な)お 月中に向いて行く

前村知有人家近　　　　前村 知る 人家の 近くに有るを

隔浦微聞犬吠聲　　　　浦を隔てて 微かに聞く 犬の吠ゆる声

 

【語釈】

○涓涓…水がチョロチョロ流れるさま。○二更…午後九時～十一時ころ。

 

 

★    謫會昌　　　　　　　　会(かい)昌(しょう)に謫(たく)さる　　　　　　　　　　　　  元　　滕　斌

 

莫道文章不直錢　　　　道(い)うこと莫(な)かれ 文章 銭に直(あた)らずと

布衣親到玉皇前　　　　布衣(ほい) 親しく到る 玉(ぎょく)皇(こう)の前

好詩未足三千首　　　　好詩 未(いま)だ足らず 三千首

又為梅花入瘴烟　　　　又た 梅花の為に 瘴(しょう)煙(えん)に入る

 

【語釈】

○會昌…江西省贛州市会昌県。○直錢…金銭的価値がない。○布衣…無位無官の者。○玉皇…皇帝。○瘴烟…熱病の元となる毒気を含む靄。

 

 

★    旅夜　　　　　　　　　旅夜 　　　　　　　　　　　　　　  元　　于　石

 

擁爐兀兀坐成眠　　　　炉を擁(いだ)き 兀々(こつこつ) 坐して眠(ねむり)を成す

夢到家山人不知　　　　夢は 家山に到りて 人 知らず　

半夜酒醒還是客　　　　半夜 酒 醒むれば 還(ま)た是(こ)れ客(かく)

一庭黄葉雨來時　　　　一庭の黄葉 雨の来(きた)る時

 

【語釈】

○擁爐…爐を囲んで暖をとる。○兀兀…一心不乱なさま。○家山…故郷の山。○客…旅人。

 

 

★    過姑蘇　　　　　　　　姑蘇(こそ)を過(す)ぐ　　　　　　　　　　　　　　宋　　戴表元

 

水天彌望接青蕪　　　　水天 弥(や)望(ぼう) 青(せい)蕪(ぶ)に接す

雲氣漫漫近又無　　　　雲気 漫々(まんまん) 近づけば 又た 無し

一色好風三百里　　　　一色の好風 三百里

挂帆安坐過姑蘇　　　　帆を挂(か)け 安坐し 姑蘇(こそ)を過ぐ

 

【語釈】

○姑蘇…江蘇省蘇州市。○彌望…見渡す限り。○青蕪…野草の生えている草原。○漫漫…広く遙かなさま。

 

　

 

★    客窓聽雨　　　　　　　客(かく)窓(そう) 雨を聴く　　　　　　　　　　　　  明　　錢　宰

 

綠江煙草渺天涯　　　　緑(りょく)江(こう) 煙草(えんそう) 天涯に渺(びょう)たり

燕子來時未到家　　　　燕子(えんし) 来る時 未だ家に到らず

宿酒恰隨春夢醒　　　　宿(しゅく)酒(しゅ) 恰(あたか)も 春に随って 夢醒む

雨聲落盡碧桃花　　　　雨声 落ち尽くす 碧(へき)桃(とう)花(か)

 

【語釈】

○客窓…旅館の窓。○煙草…霧の立ちこめた草叢。○天涯…空の果て。○宿酒…二日酔い。○碧桃花…仙人の食べる果実。

 

 

★    夜泊雩浦　　　　　　　夜 雩(う)浦(ほ)に泊す　　　　　　　　　　　  明　　張以寧

 

雩浦四更潮已平　　　　雩(う)浦(ほ) 四更 潮(うしお) 已に平かなり

蕩舟月落唱歌聲　　　　舟を蕩(うご)さば 月落ちて 唱歌の声

山中應是夜來雨　　　　山中 応(まさ)に是れ 夜来 雨ふるべし

流出落花春水生　　　　落花を流出して 春水生ず

 

【語釈】

○雩浦…不祥。○四更…午前一時～三時頃。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○夜來…夜になってから。

　　　

 

★    過桐廬　　　　　　　　桐廬(とうりょ)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　  明　　張以寧

 

江邊三月草凄凄　　　　江辺 三月 草 凄々(せいせい)

緑樹蒼煙望欲迷　　　　緑樹 蒼(そう)煙(えん) 望(のぞみ) 迷わんと欲す

細雨孤帆春睡起　　　　細雨 孤帆 春睡(しゅんすい)起く

青山兩岸畫眉啼　　　　青山 両岸 画(が)眉(び)啼く

 

【語釈】

○桐廬…浙江省杭州市桐廬県。○凄凄…草が盛んに生い茂っているさま。○蒼煙…蒼茫とした雲霧。○畫眉…画眉鳥。

 

 

★    有感　　　　　　　　　感有り　　　　　　　　　　　　　　　  明　　張以寧

 

馬首桓州又懿州　　　　馬首 桓州又た懿州

朔風秋冷黒貂裘　　　　朔風 秋 冷やかなり 黒貂裘(こくちょうきゅう)

可憐吹得頭如雪　　　　憐れむべし 吹き得て 頭(かしら) 雪の如きを

更上安南萬里舟　　　　更に 安南(あんなん)に上る 万里の舟

 

【語釈】

○桓州…不確定。○懿州…湖南省懷化市芷江県。○朔風…寒風。○黒貂裘…黒い貂のかわごろも。○可憐…感嘆のことば。ああ。○安南…浙江省麗水市蓮都区。

 

 

★    將赴金陵始出閶門夜泊　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　髙　啓

将(まさ)に金陵に赴かんとし始めて閶門(しょうもん)を出で夜泊す

 

烏啼霜月夜寥寥　　　　烏(からす)啼き 霜月 夜寥々(りょうりょう)

回首離城尚未遥　　　　首(こうべ)を回(めぐら)せば 城を離れて 尚お未だ遥(はるか)ならず

正是思家起頭夜　　　　正(まさ)に是れ 家を思い 頭(こうべ)を起こす夜　

遠鐘孤棹宿楓橋　　　　遠鐘 孤(こ)棹(とう) 楓橋に宿(しゅく)す

 

【語釈】

○將…「まさに～す」と読み「これから～する」の意。○金陵…南京。○閶門…江蘇省 蘇州市の城西の門。○寥寥…しんとして静かなさま。○孤棹…一つの舟。○楓橋…江蘇省 蘇州市の郊外にある橋、寒山寺の近く。

 

　　　

★    將赴金陵始出閶門夜泊　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　髙　啓

将(まさ)に金陵に赴かんとし始めて閶門(しょうもん)を出で夜泊す

 

煙月籠沙客未眠　　　　煙月 沙を籠(こ)めて 客(かく)未だ眠らず

歌聲燈火酒家前　　　　歌声 灯火 酒家の前

如何纔出閶門宿　　　　如何(いかん) 纔(わずか)に閶(しょう)門(もん)を出でて宿すれば

已似秦淮夜泊船　　　　已に 秦淮(しんわい) 夜泊の船に似たり

 

【語釈】

○金陵…南朝の首都、南京。○閶門…江蘇省蘇州市にあった城門の一つ。○夜泊…夜舟を泊して眠る。○煙月…おぼろ月。○籠…蔽う。○秦淮…金陵の近くの煙花風流の地。

 

★    雨中登天界西閣　　　　雨中 天界の西閣(せいかく)に登る　　　　　　　　 明　　髙　啓

 

青山樓閣楚江東　　　　青山の楼閣 楚江の東

身在蒼茫晚色中　　　　身は蒼茫(そうぼう) 晩色の中(うち)に在り

故國自遥難望見　　　　故国 自(おのずか)ら遥(はるか)にして 望見し難し　

不關春樹雨溟濛　　　　関せず 春樹 雨 溟濛(めいもう)

 

【語釈】

○楚江…湖南省、湖北省一帯の長江。○蒼茫…水などの青々として果てしないさま。○晩色…夕景色。○溟濛…薄暗い。

 

　　　

★    夜寫家書　　　　　　　夜 家書を写す　　　　　　　　　  　　　　明　　高　啓

 

月淡梧桐雨後天　　　　月淡く 梧桐(ごとう) 雨後の天

蕭蕭絡緯夜燈前　　　　蕭々(しょうしょう)たる 絡緯(らくい) 夜灯の前

誰憐古寺空齋客　　　　誰(たれ)か憐(あわ)れむ 古寺 空(くう)斎(さい)の客(かく)

獨寫家書猶未眠　　　　独り 家書(かしょ)を写し 猶(な)お未だ眠らず

 

【語釈】

○家書…家族からの手紙、家族への手紙。○梧桐…桐とアオギリ。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○絡緯…コオロギ。○空齋…誰も居ない書斎。○家書…家族への、家族からの手紙。

 

　

 

★    江行　　　　　　　　　江行 　　　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

家家魚網映迴橋　　　　家々(かか)の魚網 迴(かい)橋(きょう)に映ず

春水初生沒樹腰　　　　春水 初めて生じ 樹(じゅ)腰(よう)没す

客路江南烟雨裏　　　　客(かく)路(ろ) 江南 煙雨の裏(うち)

緑蕪芳草恨迢迢　　　　緑(りょく)蕪(ぶ) 芳草 恨み迢々(ちょうちょう)　　　

 

【語釈】

○客路…旅路。○江南…長江中下流の南岸地方。○煙雨…霧雨。○緑蕪…緑の雑草。○芳草…かおり草。○迢迢…はるかなさま。遠いさま。

 

 

★    客夜聞女病　　　　　　客(かく) 夜 女の病を聞く　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

歳盡歸期尚杳然　　　　歳 尽きて 帰期 尚お杳(よう)然(ぜん)

不知汝病復誰憐　　　　知らず 汝の病 復た誰か憐れむ

隔鄰兒女燈前笑　　　　隔(かく)隣(りん)の児女 灯前に笑う

客舎愁中正獨眠　　　　客舎(かくしゃ) 愁中 正(まさ)に独り眠る　　　　　　

 

【語釈】

○歳盡…年末になる。○帰期…家に帰るとき。○杳然…遙かなさま、遠いさま。○隔鄰…垣を隔てた隣。○客舎…旅館。

 

　

 

★    秋夜同周著作宿婁浦　　秋夜 周(しゅう)著作(ちょさく)と同(とも)に 婁(ろう)浦(ほ)に宿す　　 明　　髙　啓

 

小廨寒依竹浦雲　　　　小廨(しょうかい) 寒に依る 竹(ちく)浦(ほ)の雲

酒䦨相對説離羣　　　　酒 䦨(たけなわ)にして相対(あいたい)し 離群(りぐん)を説く

一聲新鴈誰先聽　　　　一声 新鴈 誰か先ず聴く

今夜江南我共君　　　　今夜 江南 我 君と共に

 

【語釈】

○周著作…不祥。○婁浦…不祥。○小廨…小さな官吏の事務所。○竹浦…竹の多い浦。○離羣…社会から離れていること。○江南…長江中下流の南岸地域。

 

 

★    夜聞雨聲憶故園花　　　夜 雨声を聞いて故園の花を憶う　　　  明　　髙　啓

 

帝城春雨送春殘　　　　帝城の春雨 春残(しゅんざん)を送る

雨夜愁聽客枕寒　　　　雨夜 愁い聴きて 客(かく)枕(ちん)寒し

莫入郷園使花落　　　　郷園に入りて 花をして 落しむ莫(なか)れ

一枝留待我歸看　　　　一枝 留まりて 我の帰るを待ちて 看せよ

 

【語釈】

○故園…故郷。○帝城…帝都。○客枕…旅の夜。

 

 

★    江行　　　　　　　　　江行　　　　　　　　　　　　　　　　明　　王　佐

 

江水悠悠行路長　　　　江水 悠々(ゆうゆう) 行路長し

孤鴻啼月有微霜　　　　孤(こ)鴻(こう) 月に啼いて 微霜有り

十年蹤跡渾無定　　　　十年の蹤(じゅう)跡(せき) 渾(すべ)て 定る無し

莫更逢人問故郷　　　　更に 人に逢いて 故郷を問うこと莫(なか)れ

 

【語釈】

○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○孤鴻…群れを離れた一つの雁。○蹤跡…これまでの生涯。

 

 

★    燕山春暮　　　　　　　燕山(えんざん)春(しゅん)暮(ぼ)　　　　　　　　　　　　　　  明　　張　羽

 

金水橋邊蜀鳥啼　　　　金水橋辺　蜀鳥啼く

玉泉山下柳花飛　　　　玉泉山下 柳花飛ぶ

江南江北三千里　　　　江南 江北 三千里

愁絕春歸客未歸　　　　愁(うれい) 絶え 春帰りて 客(かく) 未だ帰らず

 

【語釈】

○燕山…天津市薊県の山。○金水橋…北京天安門前にある橋。○蜀鳥…杜鵑、ホトトギス。○玉泉山…北京市西北にある山。○柳花…柳絮。○春歸…春が過ぎ去る。　　　

 

 

★客中感懐　　　　　　　客中(かくちゅう)感懐(かんかい)　　　　　　　　　　　　　  明　　王　蒙

 

十年蹤跡厭紅塵　　　　十年の蹤(じゅう)跡(せき) 紅(こう)塵(じん)を厭(いと)う

功業無成白髮新　　　　功業 成る無く 白髪新なり

夢裏不知身是客　　　　夢裏(むり) 知らず 身は是れ客(かく)なるを

覺來惟有影随身　　　　覚え来(きた)るは 惟だ 影の 身に随う有るのみ

 

【語釈】

○客中…旅中。○蹤跡…これまでの生活。○紅塵…俗世間の塵。○夢裏…夢の中。

 

 

★    淮西夜坐　　　　　　　淮西夜坐(わいせいやざ)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　袁　凱

 

蕭蕭風雨滿闗河　　　　蕭々(しょうしょう)たる 風雨 関(かん)河(が)に満つ

酒罷西樓聽鴈過　　　　酒罷みて 西楼 鴈の過ぐを聴く

莫怪行人頭白盡　　　　怪しむ莫(なか)れ 行人 頭(とう)白(はく)の尽(じん)するを

異郷秋色不勝多　　　　異郷の秋色 多きに勝えず

 

【語釈】

○淮西…淮水（淮河…長江・黄河に次ぐ第三の大河。黄河と長江の間を東西に流れており、下流にある湖で二手に分かれ、放水路は黄海に注ぎ、本流は長江につながっている。）の西の地方。○蕭蕭…もの寂しいさま。○關河…関所の山や川。○頭白盡…頭髪が全く白くなること。○異郷…他郷。○秋色…秋景色。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    客中夜坐　　　　　　　客中夜坐(かくちゅうやざ)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　袁　凱

 

夜色蕭蕭淮水長　　　　夜色 蕭々(しょうしょう) 淮(わい)水(すい)長し

故園歸路更茫茫　　　　故園 帰路 更に茫々(ぼうぼう)

一聲新鴈三更雨　　　　一声 新鴈 三更の雨

何處行人不斷腸　　　　何れの処の行人 腸を断たざらん

 

【語釈】

○客中…旅の途中。○蕭蕭…もの寂しいさま。○淮水…長江・黄河に次ぐ第三の大河。黄河と長江の間を東西に流れており、下流にある湖で二手に分かれ、放水路は黄海に注ぎ、本流は長江につながっている。○故園…故郷。○茫茫…遠く果てしないさま。○三更…真夜中。○行人…旅人。

（参考文献）　『墨場必携　明詩選』

 

 

★    常山道中　　　　　　常山(じょうざん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　   明　　王　偁

 

前山近曉樹蒼蒼　　　　前山 暁に近く 樹 蒼々(そうそう)

野蕨初肥緑笋長　　　　野(や)蕨(び) 初めて肥え 緑(りょく)笋(い)長し

一路春風如有待　　　　一路の春風 待つこと有るが如く

馬頭吹送落花香　　　　馬頭 吹き送くる 落花の香

 

【語釈】

○常山…浙江省衢州市常山県。○蒼蒼…草木などが青く茂るさま。○野蕨…野生のワラビ。○緑笋…緑色のタケノコ。

　　　

 

★    重登岳陽樓望君山　　　重ねて岳陽楼に登り君山を望む　　　　   明　　王　偁

 

南湖烟水接天流　　　　南湖の煙水 天に接して流る

天際青螺掌上浮　　　　天際の青螺(せいら) 掌上(しょうじょう)に浮ぶ

欲弔湘君何處是　　　　湘(しょう)君(くん)を弔わんと欲して 何れの処か是なる

不堪重倚岳陽樓　　　　堪えず 重ねて 岳陽楼に倚(よ)るに

 

【語釈】

○岳陽樓…湖南省岳陽市にある古城楼。○君山…洞庭湖中にある山。○南湖…湖南省岳陽市南湖。○烟水…もやの立った水流。○天際…空の果て。○青螺…青い田螺。君山。○湘君…堯帝の妃の娥皇と女英。

 

　　　

★    夜泊潯陽江驛　　　　　夜 潯(じん)陽(よう)江(こう)の駅に泊す　　　　　　　　   明　　王　偁

 

度盡名山問楚湘　　　　名山を度り尽し 楚湘(そしょう)を問う

扁舟此夜泊潯陽　　　　扁舟 此の夜 潯(じん)陽(よう)に泊す

琵琶聲斷知何處　　　　琵琶の声は断え 知んぬ何れの処ぞ

江水江烟自眇茫　　　　江水 江煙 自(おのずか)ら眇茫(びょうぼう)たり

 

【語釈】

○潯陽江…長江の江西省九江市あたり。白居易「琵琶行」。○楚湘…修睦。昭宗光化間の廬山の僧正。○扁舟…小舟。○江烟…水の上にたつ靄。○眇茫…広く果てしないさま。

 

 

★    雨中過洞庭　　　　　　雨中 洞庭を過ぐ　　　　　　　　　   明　　王　偁

 

昨夜南風起洞庭　　　　昨夜 南風 洞庭に起く

曉来湖上雨溟溟　　　　暁来 湖上 雨 溟々(めいめい)

忽看天際驚濤白　　　　忽(たちま)ち看る 天際に 驚濤(きょうとう)白きを

失却君山一點青　　　　君山を失却し 一点青し

 

【語釈】

○洞庭…洞庭湖。湖南省北東部にある淡水湖。○暁来…夜明けになってからずっと。○溟溟…薄暗いさま。○天際…空の果て。○驚濤…大波。○君山…洞庭湖にある山。

 

 

★    山窓夜雨　　　　　　　山窓夜雨　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

深澗埀蘿暗竹房　　　　深澗(しんかん)の埀蘿(すいら) 竹房に暗し

半枝殘燭雨聲涼　　　　半枝の残燭(ざんしょく) 雨声涼し

蕭條樹葉千峰裏　　　　蕭(しょう)条(じょう)たる 樹葉 千峰の裏(うち)

不獨啼猿斷客腸　　　　独り 啼猿の 客(かく)腸(ちょう)を断つのみならず

 

【語釈】

○深澗…山の間の深い谷。○埀蘿…垂れ下がったツタ。○蕭條…草木が枯れしおれるさま。○客腸…旅人のハラワタ。

 

 

★    海城秋晚　　　　　　　海城の秋晩　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

西風孤鴈海城頭　　　　西風 孤鴈 海城の頭(ほとり)

羌笛聲中水亂流　　　　羌(きょう)笛声中(てきせいちゅう) 水 乱流す

楓葉蕭蕭山月下　　　　楓葉 蕭々(しょうしょう) 山月の下

戍樓殘火幾家秋　　　　戍楼(じゅろう)の残火 幾家の秋

 

【語釈】

○海城…海辺の街。○西風…秋風。○羌笛…異民族の笛。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○戍樓…守備のための物見櫓。

 

★    宜陽山中　　　　　　　宜(ぎ)陽(よう)山中(さんちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  明　　李昌祺

 

緑隂重疊鳥間關　　　　緑隂　重畳(ちょうじょう)し 鳥 間関(かんかん)  

野棗花香宿雨殘　　　　野(や)棗(そう)花(か) 香(かんば)しくして 宿(しゅく)雨(う)残る

天遣浮雲都捲盡　　　　天 浮雲をして 都(すべ)て捲尽(けんじん)せしめ

教人一路看青山　　　　人をして 一路 青山を看さしむ

 

【語釈】

○宜陽…河南省洛陽市の県。○重疊…畳のように重なる。○間關…鳥の鳴き声の形容。○野棗花…ナツメににた植物。○宿雨…昨夜からの雨。○捲盡…撤退し尽くす。

 

 

★    薊門秋夕　　　　　　　薊門(げいもん)の秋夕(しゅうせき)　　　　　　　　　　　　  明　　熊　直

 

清漏遲遲月轉廊　　　　清漏 遅々(ちち)として 月 廊に転ず

博山銷盡水沈香　　　　博山(はくざん) 銷(しょう)じ尽す 水(すい)沈香(じんこう)

重城不鎖還家夢　　　　重城(ちょうじょう) 鎖さず 還家(かんか)の夢

半夜分明到故郷　　　　半夜 分明に 故郷に到る

 

【語釈】

○薊門…北京城西の德勝門外の西北隅。○清漏…清らかな水時計の音。○博山…香炉の一種。○水沈香…香木の一種。○還家夢…家に帰る夢。○半夜…真夜中。○分明…はっきりと。

 

 

★    江上早行　　　　　　　江(こう)上(じょう)早(そう)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  明    楊士竒

 

漢陽磯上鼓初稀　　　　漢(かん)陽(よう)磯上(きじょう) 鼓 初めて稀なり

烟栁曨曨一鵲飛　　　　煙栁(えんりゅう) 曨々(ろうろう)として 一鵲(いちじゃく)飛ぶ

乘月不知行路遠　　　　月に乗じて 知らず 行路の遠きを　　　

滿江風露濕人衣　　　　満江の風露 人衣を湿おす

 

【語釈】

○早行…朝早く出発すること。○漢陽…湖北省武漢市漢陽区。○烟栁…靄のかかった柳林。○曨曨…ほの暗い様子。○乘月…月明かりの下で。

 

 

★    穆陵關夜雨　　　　　　穆(ぼく)陵関(りょうかん)の夜雨　　　　　　　　　　　   明    薛　瑄

 

萬山絶頂穆陵關　　　　万山の絶頂 穆(ぼく)陵関(りょうかん)

一上山樓五月寒　　　　一たび 山楼に上れば 五月寒し

烟樹滿川浮瞑色　　　　煙樹 川に満ち 瞑(めい)色(しょく)浮ぶ

晩風吹雨濕闌干　　　　晩風 雨を吹いて 闌干を湿(うるお)す

 

【語釈】

○穆陵關…不祥。○烟樹…靄、霞のかかった樹木。○瞑色…暮色。

 

 

★    舟次石頭口　　　　　　舟 石頭(せきとう)口(こう)に次(やど)る　　　　　　　　　  明    李夢陽

 

窓開面面水風微　　　　窓 開けば 面々 水風微(かすか)なり

五月江空冷照衣　　　　五月 江空 冷(ひややか)に衣を照らす

此艇果如天上坐　　　　此の艇 果して 天上に坐すが如く

茶烟化作綵雲飛　　　　茶煙 化して綵(さい)雲(うん)と作りて 飛ぶ

 

【語釈】

○次…船泊する。○石頭口…不祥。○面面…各方面。○綵雲…いろどられた雲。

 

 

★    夏口夜泊别友人　　　　夏口夜泊 友人に别る　　　　　　　　　　  明    李夢陽

 

黄鶴樓前日欲低　　　　黄鶴楼前(こうかくろうぜん) 日 低からんと欲す

漢陽城樹亂烏啼　　　　漢(から)陽(よう)城樹(じょうじゅ) 乱烏啼く

孤舟夜泊東遊客　　　　孤舟 夜泊す 東遊の客

恨殺長江不向西　　　　恨(こん)殺(さい)す 長江の 西に向わざるを

 

【語釈】

○夏口…湖北省武漢市夏口。○黄鶴樓…武漢市武昌区にある名楼。○漢陽城…武漢市漢陽区。○東遊客…東方にいる旅人。○恨殺…深く恨む。

 

　　　

★    竹枝詞　　　　　　　　竹(ちく)枝(し)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　  明    何景明

 

十二峰頭秋草荒　　　　十二(じゅうに)峰頭(ほうとう) 秋草荒れ

冷烟寒月過瞿塘　　　　冷煙 寒月 瞿塘(くとう)を過ぐ

青楓江上孤舟客　　　　青楓 江上 孤舟の客

不聽猿聲亦斷腸　　　　猿声を聴かずして 亦(ま)た断腸

 

【語釈】

○竹枝詞…劉禹錫が左遷されていたときに土地の民謡をもとに作った詩の形態、男女の情愛や土地の風俗を詠う。○十二峰…三峽の巫山にある十二の峰。○冷煙…冷たい靄。○瞿塘…瞿塘峡。白帝城 と巫山の間にある峡谷。

 

　

 

★    餘千道中　　　　　　　余千(よせん)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  明　　鄭　鵬

 

樹繞前灣水拍堤　　　　樹は 前湾を繞(めぐ)りて 水 堤を拍(う)つ

白雲極目遠天低　　　　白雲 目を極むれば 遠天低し

春光己逐飛花盡　　　　春光 己に 飛花を逐いて尽き

猶有多情杜于啼　　　　猶お 多情 杜于(とう)の啼く有り

 

【語釈】

○餘千…不祥。○春光…春景色。○杜于…杜鵑。ホトトギス。

 

 

★    舟中即事　　　　　　　舟中即事　　　　　　　　　　　　　　 明　　陳　達

 

湿霧濛濛畫未開　　　　湿霧 濛々(もうもう) 画 未だ開かず

扁舟何處越王臺　　　　扁舟 何れの処か 越王台

蘆花浅水暫停泊　　　　蘆花 浅水 暫(しばら)く停泊

恐有前村風雨來　　　　恐らくは 前村 風雨の来る有り

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○濛濛…ぼんやりしたさま。○扁舟…小舟。○越王台…浙江省紹興市種山 。越王勾踐が登臨したところ。

 

　　　

 

★    沙平道中　　　　　　　沙(さ)平(へい)道中　　　　　　　　　　　　　　   明　　陳　焞

 

海北海南兩地賖　　　　海北 海南 両地賖(はるか)なり

驅車遙向楚天涯　　　　車を駆って 遥かに向う 楚の天涯

逢人更入雲深處　　　　人に逢いて 更に 雲深き処に入る

一犬黄昏吠落花　　　　一犬 黄昏(こうこん) 落花に吠ゆ

 

【語釈】

○沙平…不祥。○楚…湖北省・湖南省。○黄昏…たそがれ。

 

 

★    夜泊闔閭城　　　　　　闔閭(こうりょ)城(じょう)に夜泊す　　　　　　　　　　　　明　孫一元

 

欲行未行風力柔　　　　行かんと 欲して未だ行かず 風力 柔(やわらか)に

吳門挂席夜正幽　　　　呉門 席を挂(か)けて 夜 正(まさ)に幽なり　

秋水半汀鷗共我　　　　秋水 半汀(はんてい) 鴎 我と共に

好山兩岸月隨舟　　　　好山 両岸 月 舟に随う

 

【語釈】

○闔閭城…江蘇省蘇州市の別称。○呉門…江蘇省蘇州市一帯。○挂席…帆をかける。　　

 

　　

　

 

★    峽中　　　　　　　　　峡中　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

峽裏青山夢裏過　　　　峡(きょう)裏(り)の青山 夢(む)裏(り)に過ぐ

曉來春比夜來多　　　　暁来(ぎょうらい) 春 夜来(やらい)に比ぶれば多し

開篷試看江頭路　　　　篷(とま)を開いて 試(こころみ)に看る 江頭の路　　　

樹樹殘梅照綠波　　　　樹々 残梅 緑波を照らす

 

【語釈】

○曉來…夜明け以来。○夜來…昨夜以来。○篷…舟の窓。○残梅…散り残りの梅。

 

　　　

★    望中條山　　　　　　　中条山を望む　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

征馬長鳴向北風　　　　征馬 長く鳴いて 北風に向う

崤關回首暮天東　　　　崤関(こうかん) 首(こうべ)を回(めぐら)す 暮天の東

太行過盡中條出　　　　太行 過ぎ尽くし 中条に出ず

一路青山白雪中　　　　一路 青山 白雪の中(うち)

 

【語釈】

○中條山…陝西省南部の山脈。○征馬…旅の馬。○崤關…長安と洛陽を結ぶルートにある関。○太行…太行山西省、河南省、河北省の阪井にある山脈。

 

 

★    嘉州壁津　　　　　　　嘉州(かしゅう)の壁津(へきしん) 　　　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

荒津漁火照江城　　　　荒津(こうしん)の漁火 江城を照らす

城下灘聲徹夜鳴　　　　城下の灘声(たんせい) 夜を徹して鳴く

寒笛莫吹楊柳曲　　　　寒笛 吹く莫かれ 楊柳曲

故園回首不勝情　　　　故園 首(こうべ)を回(めぐ)らせば 情に勝えず

 

【語釈】

○嘉州…浙江省温州市。○江城…川辺の街。○灘聲…早瀬の音。○楊柳曲…楽府題、折楊柳の別称。別れの曲。○故園…故郷。

 

 

★    馬道壁上次韻　　　　　馬(ば)道壁上(どうへきじょう) 次韻　　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

嘉陵江水碧迢迢　　　　嘉(か)陵(りょう)江(こう)水(すい) 碧 迢々(ちょうちょう)

雷吼晴灘雪湧潮　　　　雷 晴灘に吼(ほ)え 雪 潮(うしお)に湧(わ)く

岸曲行人愁駐馬　　　　岸曲(がんきょく)の行人 愁いて馬を駐む

清猿聲在白雲霄　　　　清猿の声は 白雲の霄るるに在り

 

【語釈】

○馬道…車馬の通る広い道。○次韻…他の詩の韻字をその順序で使って作った詩。○嘉陵江…不確定。○迢迢…遙かなさま。遠いさま。○岸曲…岸の隈。○行人…旅人。

 

 

★    過滁州　　　　　　　　滁州(じょしゅう)を過ぐ　　　　　　　　　　　  明　　江　琦

 

江北除南數日程　　　　江北 除(じょ)南(なん) 数日の程

蕭蕭落木送秋聲　　　　蕭々(しょうしょう)たる落木 秋声を送る

夕陽滿地鳥飛盡　　　　夕陽(せきよう) 地に満ち 鳥 飛び尽き

人在亂山堆裏行　　　　人は 乱山 堆(つい)裏(り)に在りて 行く

 

【語釈】

○滁州…安徽省滁州市。○江北…長江の北側。○除南…徐州の南？○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○秋聲…秋風や葉の落ちるおとなど、秋の気配を感じさせる音。○堆裏…重なった中。

 

　　　

★    宿雙溝東岸　　　　　　双溝(そうこう)の東岸に宿す　　　　　　　　　明　　邵　傳　　     

 

戯馬臺前正夕輝　　　　戯(ぎ)馬(ば)台前(だいぜん) 正に夕輝(せっき)　

呂梁洪下片帆飛　　　　呂(ろ)梁(りょ)洪下(こうか) 片帆飛ぶ

夢魂更急黄河水　　　　夢魂 更に急なり 黄河の水

萬里關山一夜歸　　　　万里の関山 一夜に帰る

 

【語釈】

○雙溝…不祥。○戯馬臺…河北臨漳県の西にある台、閱馬台。○夕輝…夕焼け。○呂梁洪…山西省吕梁市。○片帆…小さな帆掛け船。○関山…関所のある山。国境の山。

 

 

★    月夜江行聞笛　　　　　月夜江行し笛を聞く　　　　　　　　　　　明　　茅　坤     

 

月明中天掛席流　　　　月明の中天 席を掛けて流る

江空五月似清秋　　　　江 空しくして 五月 清秋に似たり

忽聞銕笛風前起　　　　忽ち聞く 鉄笛の 風前に起るを

吹動關山萬里愁　　　　吹動す 関山 万里の愁

 

【語釈】

○掛席…帆を掛ける。○鉄笛…鉄製の笛。隠者が吹くとされる。○關山…関所のある山。国境の山。

 

 

★    汴河守凍　　　　　　　汴河に凍を守る　　　　　　　　　　　　  明　　許邦纔

 

客館寒燈淚滿襟　　　　客館の寒灯 涙 襟に満つ

間關萬里欲歸心　　　　間関 万里 帰らんと欲する心

眼前一水冰霜苦　　　　眼前 一水 冰霜の苦

又說三江瘴癘深　　　　又た説く 三江 瘴癘深しと

 

【語釈】

○汴河…黄河と淮河とを結んだ川。○客館…旅館。○間關…鳥の鳴き声。○三江…不確定。○瘴癘…疫病を引き起こす毒気を含んだ空気。

 

 

 

★    新添驛　　　　　　　　新添(しんてん)駅(えき)　　　　　　　　　　　　　  明　　許邦纔

 

野館孤燈半滅明　　　　野館の孤灯 半ば滅明

江壖月落夜潮生　　　　江壖(こうぜん) 月落ちて 夜潮生ず

無端郷思三更後　　　　端無(はしな)くも 郷思 三更の後

聽盡蕭蕭風雨聲　　　　聴き尽くす 蕭々(しょうしょう) 風雨の声

 

【語釈】

○江壖…江辺の地。○無端…思いがけなく。○郷思…故郷を思う気持ち。○三更…真夜中。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。

　　　

 

★    江上聞笛　　　　　　　江上 笛を聞く　　　　　　　　　　　　　  明　　呉維嶽

 

誰家短笛弄晩風　　　　誰が家の短笛ぞ 晩風に弄(ろう)す

暗逐江風到客舟　　　　暗に 江風を逐(お)い 客舟に到る

愁處不知郷路近　　　　愁う処 知らず 郷路の近きを

梅花飛盡水悠悠　　　　梅花 飛び尽きて 水 悠々(ゆうゆう)たり

 

【語釈】

○郷路…故郷への道。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。

 

 

　

 

★    邊城望月　　　　　　　辺城にて月を望む　　　　　　　　　　　  明　　愈　憲

 

片月盈盈海外生　　　　片月 盈(えい)々(えい)として 海外に生ず

遙應九塞一時明　　　　遥かに 応(まさ)に 九塞 一時に 明らかなるべし

望京樓上頻回首　　　　望(ぼう)京(きょう)楼上(ろうじょう) 頻(しき)りに首(こうべ)を回(めぐ)らせば

何處淸光五鳳城　　　　何れの処の清光か 五(ご)鳳(ほう)城(じょう)

 

【語釈】

○邊城…辺地の街。○片月…片割れ月。○盈盈…姿の美しいさま。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～に違いない」の意。○九塞…九つの険阻な地方。○望京樓…楼の名前。○五鳳城…帝都。

 

　　　

★    舟行　　　　　　　　　舟行　　　　　　　　　　　　　　  明　　林　紀

 

青山秀色落湖陰　　　　青山の秀色 湖陰に落つ

雲樹依微薄暮林　　　　雲樹 依微たり 薄暮の林

寂寞水扉閑釣艇　　　　寂寞たる水扉 釣艇閑かに

一川煙雨緑蕪深　　　　一川の煙雨 緑蕪深し

 

【語釈】

○雲樹…靄のかかっている樹木。○依微…ぼんやりしたさま。○寂寞…ひっそりして物寂しいさま。○煙雨…霧雨。○緑蕪…青々と茂っている雑草。

 

　

 

★    興田驛　　　　　　　　興田駅(こうでんえき)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　林玉汝

 

驛亭南下水悠悠　　　　駅亭(えきてい)南下(なんか) 水悠々(ゆうゆう)

滿目青山片片秋　　　　満目の青山 片々(へんぺん)の秋

最是不堪岑寂處　　　　最も是れ 岑(しん)寂(せき)に堪えざる処

瞑煙寒雨一孤舟　　　　瞑(めい)煙(えん) 寒雨 一孤舟

 

【語釈】

○興田驛…不祥。○驛亭…宿場町の亭。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○満目…見渡す限り。○片片…切れ切れ。○岑寂…わびしく静かなさま。○瞑煙…暗い靄。

 

 

山行即事　　　　　　　山行即事　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　王世懋

 

滿目殷紅躑躅新　　　　満目の殷(いん)紅(こう) 躑躅(てきちょく) 新なり

流光偏感官遊人　　　　流光 偏(ひと)えに 感ず 官遊(かんゆう)の人

南中氣暖花開盡　　　　南中 気 暖にして 花 開き尽し

三月翻疑不是春　　　　三月 翻(かえ)って疑う 是れ 春ならざるを

 

【語釈】

○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○殷紅…深紅。○躑躅…つつじ。○流光…時の流れ。○官遊…仕官するために他郷にいる人。

 

 

★    江上聞簫　　　　　　　江上 簫を聞く　　　　　　　　　　　　  明　　陳　輝

 

潮落荒州客未眠　　　　潮(うしお) 落ちて 荒州(こうしゅう) 客(かく) 未だ眠らず

遙聞鳳吹隔晴川　　　　遥(はるか)に聞く 鳳吹(ほうすい)の 晴(せい)川(せん)を隔つを

愁來轉憶孤蓬夕　　　　愁 来りて 転(うた)た憶う 孤(こ)蓬(ほう)の夕(ゆうべ)

赤壁江空月滿船　　　　赤壁 江 空しく 月 船に満つ

 

【語釈】

○荒州…荒れた中洲。○鳳吹…笙や簫などの美称。○孤蓬…風にちぎれて飛ぶ蓬、あてどない旅人の象徴。○赤壁…赤い岸壁。

　　　

 

★    桐慮夜泊　　　　　　　桐慮(とうりょ)夜(や)泊(はく)　　　　　　　　　　　　　　   明　　薛應旂

 

夜深孤棹泊桐渓　　　　夜深くして 孤(こ)棹(とう) 桐渓(とうけい)に泊す

明月清霜照石堤　　　　明月 清霜 石堤を照らす

木落江空行客少　　　　木落ち 江 空くして 行客(こうかく)少(まれ)なり

隔林惟有野猿啼　　　　林を隔てて 惟(た)だ 野猿の啼く有るのみ

 

【語釈】

○桐慮…不祥。○孤棹…孤舟。○桐渓…不祥。○行客…旅人。

 

　　　

 

★    渡黄河　　　　　　　　黄河を渡る　　　　　　　　　　　　　明　　方　法       

 

野曠天低日欲西　　　　野 広く 天低くして 日 西せんと欲す

北風吹雪雁行低　　　　北風 雪を吹いて 雁行低し　

黃河渡口行人少　　　　黄河 渡(と)口(こう) 行人(こうじん)少(まれ)なり　　　　　　　　　

一片寒沙沒馬蹄　　　　一片の寒沙 馬蹄を没す

 

【語釈】

○雁行…飛雁の群れ。○渡口…渡し場。○行人…旅人。

             

             

★    曉過八坼　　　　　　　暁に八坼(はっせき)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　  明　　王叔承

 

殘星點點照船明　　　　残星 点々 船を照らして 明(あき)らかなり

敲石寒爐曙火生　　　　石を敲きて 寒炉 曙(しょ)火(か)生ず

推枕坐看江市過　　　　枕を推して坐し 江市(こうし)を看て過ぐ

夢中聽得賣魚聲　　　　夢中 聴き得たり 魚を売る声

 

【語釈】

○残星…夜明けに消えずに残っている星。○敲石…火打ち石を打って火をおこす。○寒爐…寒天の火炉。○江市…川辺の集落。

 

 

★    江泊　　　　　　　　　江泊　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　湯顯祖

 

寂歷秋江漁父稀　　　　寂歷(せきれき)たる 秋江 漁父稀なり

起看殘月映林微　　　　起きて看る 残月の 林に映じて 微(かすか)なるを

波光水鳥驚猶宿　　　　波光 水鳥 驚きて 猶お宿(しゅく)し

露冷流螢濕不飛　　　　露 冷(ひややか)にして 流螢 湿(しめ)りて飛ばず

 

【語釈】

○寂歷…ひっそりとしてものさびしい。

 

 

★    山行聞鷓鴣　　　　　　山行鷓鴣(しゃこ)を聞く　　　　　　　　　　　  明　　陳价夫

 

楊花似雪草如烟　　　　楊(よう)花(か) 雪に似て 草 煙の如し

拂面東風不起塵　　　　面を払う東風 塵を起さず

無數青山春雨後　　　　無数の青山 春雨の後

鷓鴣聲裏遠行人　　　　鷓鴣声(しゃこせい)裏(り) 遠行(えんこう)の人

 

【語釈】

○楊花…柳絮。○煙…靄霞。○東風…春風。○遠行…故郷を遠く離れた旅人。

　

 

★    崖州道中　　　　　　　崖州(がいしゅう)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　  明　　陳邦注

 

萬里珠崖道路難　　　　万里の珠(しゅ)崖(がい) 道路難し

故郷回首望漫漫　　　　故郷 首(こうべ)を回(めぐ)らせば 望み漫々

青山半是猿啼處　　　　青山 半ば是れ 猿の啼く処

落日西風海色寒　　　　落日 西風 海色寒し

 

【語釈】

○崖州…海南省海口市琼山区。○珠崖…赤い色の崖。○漫漫…長く遠いさま。○西風…秋風。

 

 

★    湘江　　　　　　　　　湘江　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳邦注

 

長江寂寂一弧舟　　　　長江 寂々(せきせき) 一弧舟

楓葉蘆花下急流　　　　楓(ふう)葉(よう) 蘆花 急流を下る

何處漁郎暮吹笛　　　　何れの処の漁郎か 暮に笛を吹く

數聲斷腸夕陽秋　　　　数声 断腸 夕陽(せきよう)の秋

 

【語釈】

○寂寂…さびしく静かなさま。○漁郎…漁夫。

 

　

 

★    絶句　　　　　　　　　絶句　　　　　　  　　　　　　　　　　　明　　殷　奎

 

㶚陵橋下水潺湲　　　　㶚(は)陵(りょう)橋下(きょうか) 水 潺湲(せんかん)

人影離披夕照間　　　　人影 離披(りひ) 夕照の間

來往總憐車馬好　　　　来往 総て憐む 車馬の好きを

西風破帽獨南還　　　　西風 破帽 独り南に還る

 

【語釈】

○㶚陵橋…河南省許昌市灞陵橋。○潺湲…浅い水の流れるさま。さらさら。○離披…ちらばる。○来往…行きかう人。○西風…秋風。○破帽…破れた古い帽子。

 

 

★    度仙霞嶺　　　　　　　仙(せん)霞(か)嶺(れい)を度る　　　　　　　　　　　　  　　明　　王毓德

 

已恨閩天道路賒　　　　已に恨む 閩天(びんてん) 道路 賒(はるか)なるを

更堪回首隔仙霞　　　　更に堪えんや 首(こうべ)を回(めぐら)して 仙(せん)霞(か)を隔つるを

潺湲已是他郷水　　　　潺湲(せんかん) 已に是れ 他郷の水

縱使東流不到家　　　　縦(たと)い 東に流れしむとも 家に到らず

　　　

【語釈】

○仙霞嶺…浙江省西南部にある嶺。○閩天…福建省の空。○仙霞…仙霞嶺。○潺湲…浅い水の流れるさま。さらさら。

 

 

★    蘭溪夜泊　　　　　　　蘭渓(らんけい)夜(や)泊(はく)　　　　　　　　　　　　　　  明　　王毓德

 

暮雨孤村繋客船　　　　暮雨 孤村 客船を繋(つな)ぐ

漁燈相對未成眠　　　　漁灯 相対(あいたい)して 未だ 眠(ねむり) 成らず

思家淚共蘭溪水　　　　家を思い 涙 蘭渓(らんけい)の水と共に

一夜潺湲過枕邊　　　　一夜 潺湲(せんかん) 枕辺(ちんぺん)を過ぐ

 

【語釈】

○蘭溪…浙江省金華市蘭溪。○客船…旅人を乗せた船。○潺湲…浅い水の流れるさま。さらさら。○枕邊…枕元。

 

 

★    龍泉寺五更口示李元之　　　竜泉寺(りゅうせんじ) 五更 李元之(りげんし)に口示す　　　   明　　鄭　琰

 

献賦論兵事已非　　　　賦(ふ)を献じ 兵を論ず 事 已に非なり

西風却憶故山微　　　　西風 却って憶う 故山の微(かす)かなるを

五更涼雨醒殘夢　　　　五更の涼雨 残夢を醒まし

愁殺飄零人未歸　　　　愁(しゅう)殺(さつ)す 飄(ひょう)零(れい) 人 未だ帰らざるを

 

【語釈】

○龍泉寺…不祥。○五更…夜明け頃。○李元之…不祥。○賦…貢ぎ物。○西風…秋風。○故山…故郷の山。○愁殺…ひどく愁えさせる。○飄零…落ちぶれること。

 

 

★    太平驛　　　　　　　　太平駅　　　　　　　　　　　　　　  明　　林廷模

 

太平溪上客舟過　　　　太平渓上 客(かく)舟(しゅう) 過ぐ

坐聴滄浪醉裏歌　　　　坐して聴く 滄浪(そうろう) 酔(すい)裏(り)の歌

無數落花隨水去　　　　無数の落花 水に随って去る

前山風雨夜來多　　　　前山の風雨 夜来 多し

 

【語釈】

○太平驛…不祥。○太平溪…不祥。○客舟…旅人を乗せた舟。○滄浪…滄浪の歌。漁父の辞。○夜来…夜になってから。

 

 

★    巫峡夜泊　　　　　　　巫峡夜泊　　　　　　　　　　　　　   明　　魏文焲

 

夾峽江流下楚湘　　　　夾峡(きょうきょう) 江流 楚湘(そしょう)を下る

猿聲凄切断人聲　　　　猿声 凄(せい)切(せつ) 人声を断つ

無端驚起三庚夢　　　　端無(はしな)くも 驚起す 三庚の夢

恍惚猶疑是故郷　　　　恍惚として 猶お疑う 是れ故郷かと

 

【語釈】

○巫峡…三峽のひとつ。○夾峽…山で刺挟まれた峡谷。○楚湘…長江中下流。○凄切…非常に物寂しいさま。○無端…思いがけず。○驚起…驚き醒ます。○三庚…真夜中。

 

 

★    分水關　　　　　　　分水関(ぶんすいかん)を度(わた)る　　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　榻

 

瀟路鶯聲送夕陽　　　　瀟(しょう)路(ろ)の鶯声(おうせい) 夕陽(せきよう)を送る

關門樹色遠蒼蒼　　　　関門の樹色 遠く蒼々(そうそう)

婦人不及清渓水　　　　婦人 及ばず 清渓の水

一夜東流到故郷　　　　一夜 東流し 故郷に到る

 

【語釈】

○分水關…福建省と浙江省の境の関所。○瀟路…湖南省の瀟水のあたりの道。○蒼蒼…草木が青く茂るさま。

 

 

★    雨夜　　　　　　　　　雨夜　　　　　　　　　　　 　　　　　 明　　萬虞愷

 

弧館殘燈照獨眠　　　　弧館の残灯 独眠を照らす

寒江落木正蕭然　　　　寒江の落木 正(まさ)に蕭然(しょうぜん)

西風還送秋宵雨　　　　西風 還(ま)た送る 秋宵の雨

併入江聲到枕邊　　　　併せて 江声に入り 枕辺に到る

 

【語釈】

○蕭然…ものさびしいさま。○西風…秋風。○江声…川の流れの音。○枕邊…枕元。

 

 

　　　

 

 

★    山行　　　　　　　　　山行　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　郭文涓

 

春暁衝嵐磴道賖　　　　春暁 衝(しょう)嵐(らん) 磴道(とうどう)賖(はるか)なり

小橋流水抱人家　　　　小橋 流水 人家を抱く

鷓鴣聲裏東風老　　　　鷓鴣声(しゃこせい)裏(り) 東風老ゆ

開遍棠梨幾樹花　　　　遍(あまね)く開く棠(どう)梨(り) 幾樹の花

 

【語釈】

○衝嵐…衝撃を与えるような嵐。○磴道…山に登る石径。○東風…春風。○棠梨…野梨。

 

 

★    呂粱　　　　　　　　　呂粱(ろりょう)　　　  　　　　　　　　　　　　明　　林　燁

 

十月風寒天雨霜　　　　十月 風寒くして 天 霜を雨ふらす

客愁欹枕夜偏長　　　　客(かく)愁(しゅう) 枕を欹(そばだ)てて 夜 偏(ひとえ)に長し

河流迅似歸心急　　　　河流 迅(はや)きこと 帰心の急なるに似たり

落月孤舟下呂粱　　　　落月 孤舟 呂粱(ろりょう)を下る

 

【語釈】

○呂粱…不祥。○客愁…旅の愁い。○帰心…故郷に帰りたいと思う心。

 

 

★    歸閩宿子規領　　　　　閩(びん)に帰り子規領(しきりょう)に宿す　　　　　　　　　　  明　　王應山

 

千盤休難路行艱　　　　千盤 難(おそ)るを休(や)めよ 路行の艱(かた)きを

茅舎淸幽客夢閑　　　　茅舎 淸幽にして 客夢(かくむ) 閑(しずか)なり

杜宇不須頻喚醒　　　　杜宇(とう) 須(もち)いず 頻りに 喚醒(かんせい)するを

棟花飛盡竹雞啼　　　　棟花 飛び尽きて 竹雞(ちくけい)啼く

 

【語釈】

○閩…福建省。○子規領…不祥。○茅舎…茅葺きの家。○淸幽…清らかで奥深いこと。○客夢…旅先での夢。○杜宇…ホトトギス。○喚醒…鳴いて眠りを覚ます。○棟花…オウチの花。○竹雞…雞に似て大型の鳥の名。

　　　

 

★    入垓口　　　　　　　　垓(がい)口(こう)に入る　　　　　　　　　　　　　　明　　程慶珫

 

沙明水碧淨無泥　　　　沙(いさご)  明かに 水 碧(みどり)りにして 浄く泥なし

三百灘盤上歙溪　　　　三百灘 盤(うずま)いて 歙渓(きゅうけい)に上る

兩岸青山春欲暮　　　　両岸の青山 春 暮んと欲す

楝花飛盡竹雞啼　　　　楝(れん)花(か) 飛び尽くして 竹雞(ちくけい)啼く

 

【語釈】

○垓口…不祥。○三百灘…多くの早瀬。○歙溪…安徽省黃山市歙県にある溪。○楝花…オウチの花。○竹雞…雞に似て大型の鳥の名。

 

 

★    宿澧陽　　　　　　　　澧(れい)陽(よう)に宿す　　　　　　　　　　　　　　  明　　郭　武

 

蘋花風急水茫茫　　　　蘋(ひん)花(か) 風 急にして 水 茫々(ぼうぼう)たり

今夜孤舟宿澧陽　　　　今夜 孤舟 澧(れい)陽(よう)に宿す

誰在江城吹畫角　　　　誰か 江城に在って 画角を吹く

五更殘月一天霜　　　　五更の残月 一天の霜

 

【語釈】

○澧陽…湖南省常德市津市。○蘋花…浮き草（テンジソウ）の花。○茫茫…果てしないさま。○江城…川辺の街。○画角…彩られた角笛。○五更…真夜中。

 

 

★    晩次安南呂塊站　　　　晩に安南呂塊站(あんなんろかいてん)に次(やど)る　　　　　　　 明　　許天錫

 

瓊雲歸路正匆匆　　　　瓊(けい)雲(うん) 帰路 正に匆々(そうそう)

十里官亭坐晩風　　　　十里の官亭 晩風に坐す

何事最關孤客思　　　　何事ぞ 最も関(とざ)す 孤客(こかく)の思

數聲啼鳥木綿紅　　　　数声の啼鳥 木綿(もくめん)紅なり

 

【語釈】

○安南…広東省雲浮市羅定市。○呂塊站…不祥。○瓊雲…美しい雲。○匆匆…そわそわして落ち着かないさま。○十里官亭…十里毎に置かれ宿場。長亭。○木綿…ベンガル菩提樹。

 

★    靖公弟至　　　　　　　靖(せい)公(こう)弟(てい)至(し)　　　　　　 　　　　　　　　 清　　週亮工

 

荒城兀坐對燈殘　　　　荒城 兀坐(こつざ) 灯の残るに対す

歸計先愁百八灘　　　　帰計 先ず愁う 百八灘

爾又遠來餘未去　　　　爾(なんじ) 又た 遠く来り 余 未だ去らず

高堂清淚幾時乾　　　　高堂の清涙 幾時か乾く

 

【語釈】

○靖公…丁密。東漢の蒼梧岑溪の人、性至孝で清廉な人。○兀坐…高々と坐る。ぼんやりと坐る。○帰計…家に還る計画。○百八灘…多くの早瀬。○高堂…父母。

 

 

★    青陽峽               青(せい)陽峡(ようきょう)                         　　　　清　　宋　琬

 

夾岸長楊接翠微　　　　岸を夾(さしはさ)む長楊 翠微(すいび)に接し

亂流高下見柴扉　　　　乱流 高下し 柴扉を見る

空山十月無冰雪　　　　空山 十月 氷雪無く

紅葉叢中蛺蝶飛　　　　紅葉 叢中 蛺(きょう)蝶(ちょう)飛ぶ

 

【語釈】

○青陽…安徽省池州市。○翠微…青々とした山。○柴扉…柴で作った粗末な門。○叢中…草むらの中。○蛺蝶…チョウチョウ。

 

 

★    過洞庭　　　　　　　　洞庭を過ぐ　　　　　　　　　　　　　　 明　　李  敬

 

湖水連雲秋色清　　　　湖水 雲に連って 秋色清し

西風況是客中行　　　　西風 況んや是れ 客中行(かくちゅうこう)なるをや　

不堪揺落君山樹　　　　堪えず 揺落す 君山の樹

飛入湘江作雨聲　　　　湘江に飛び入り 雨声と作る

 

【語釈】

○洞庭…洞庭湖。湖南省北東部にある淡水湖。○秋色…秋景色。○西風…秋風。○客中行…旅の途中。○揺落…揺れ落ちる。○君山…洞庭湖中にある山。○湘江…洞庭湖に注ぐ長江右岸の支流。湖南省最大の川。

 

 

★    南還至橫浦驛前與程五別處　　　　　　   　　　　　　　　　　清　　彭孫遹　　　

南に還り横浦駅(おうほえき)に至る 前に程(てい)五(ご)と別れし処

 

憶向清秋採白蘋　　　　憶う 清秋に向って 白蘋(はくひん)を採る

今来江上值殘春　　　　今来 江上 残春に值(あ)う

一從横浦三年别　　　　一たび 横(おう)浦(り) 三年の别れに従い

南北俱為萬里人　　　　南北 俱(とも)に 万里の人と為る

 

【語釈】

○橫浦驛…不祥。○程五…不祥。○清秋…清く爽やかな秋。○白蘋…しろいなずな。

 

 

★    江上　　　　　　　　　江上 　　　　　　　　　　　　　　  清　　王士禛

 

呉頭楚尾路如何　　　　呉頭楚尾(ごとうそび) 路 如何(いかん)　　　　　　　　　　　　　

烟雨秋深暗白波　　　　煙雨 秋 深く 白波暗し

晚趁寒潮渡江去　　　　晩に寒潮を趁(お)い 江を渡りて去る

滿林黄葉雁聲多　　　　満林の黄葉 雁声多し

 

【語釈】

○呉頭楚尾…江蘇省、湖南省、湖北省一帯。○煙雨…霧雨。

（参考文献） 『中国詩人撰集二―１３』

 

　　

★    夜雨題寒山寺寄西樵禮吉　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　王士禛

夜雨 寒山寺に題し 西樵(せいしょう)・礼(れい)吉(きち)に寄す

 

日暮東塘正落潮　　　　日暮 東塘 正に落潮

孤篷泊處雨瀟瀟　　　　孤篷 泊まる処 雨瀟々(しょうしょう)たり

疎鐘夜火寒山寺　　　　疎鐘 夜火 寒山寺

記過呉楓第幾橋　　　　過ぐるを記す 呉(ご)楓(ふう) 第幾橋

 

【語釈】

○寒山寺…江蘇省蘇州市姑蘇区にある臨済宗の仏教寺院。○西樵…王士禄。王士禛の長兄。○禮吉…王士禧。王士禛の仲兄。○落潮…引き潮。○孤篷…孤舟。○瀟瀟…風雨の寂しく降る（吹く）音のさま。○第幾橋…多くの橋。

 

 

★    荆山口待渡　　　　　　荆山口 渡るを待つ　　　　　　　　　　  清　　王士禛

 

西連豐沛走中原　　　　西のかた 豊沛(ほうはい)に連って 中原を走り

風色蕭蕭野渡昏　　　　風色蕭々(しょうしょう)として 野(や)渡(と)昏(くら)し

一望孤城天接水　　　　一望すれば 孤城 天 水に接す

亂山合沓是彭門　　　　乱山 合沓(ごうとう) 是れ彭(ほう)門(もん)

 

【語釈】

○荆山…不確定。○豐沛…江蘇省徐州市沛県。○中原…黄河下流の平野地域。○風色…景色。○風色…景色。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○野渡…野原の渡。○合沓…合わせ重なる。○彭門…徐州市の門。

 

 

★    雨中度故關　　　　　　雨中 故関(こかん)を度る　　　　　　　　　　　　清    王士禛

 

危棧飛流萬仞山　　　　危(き)桟(さん) 飛流 万仞(ばんじん)の山

戍樓遥指暮雲間　　　　戍楼(せいじゅ) 遥かに指さす 暮雲の間

西風忽送瀟瀟雨　　　　西風 忽(たちま)ち送る 瀟々(しょうしょう)の雨

滿路槐花出故關　　　　満路の槐(かい)花(か) 故関を出ず

 

【語釈】

○故關…山西省太源府平定州の東にある関所。○危棧…危ない桟橋。○萬仞…非常な高さ。○戍樓…守りのための物見櫓。○西風…秋風。○瀟瀟…風雨の寂しく降る（吹く）音のさま。○槐花…エンジュの花。

 

 

★    郎當驛雨中　　　　　　郎(ろう)当駅(とうえき)雨中(うちゅう)　　　　　　　　　　　  清    王士禛

 

武連縣南雲氣遮　　　　武連(ぶれん)県(けん)南(なん) 雲気遮(さえぎ)り

郎當驛北石槎牙　　　　郎(ろう)当駅(とうえき)北(ほく) 石 槎(さ)牙(が)たり

西風盡日濛濛雨　　　　西風 尽日 濛々(もうもう)の雨

開徧空山白芨花　　　　開くこと徧(あまね)し 空山 白芨(はくきゅう)の花

 

【語釈】

○郎當驛…四川省梓潼県の宿場町。○雲気…雲霧。○武連県…四川省広元市劍閣県。○槎牙…角張ったさま。○西風…秋風。○濛濛…霧や小雨で煙るようにもやっとしたさま。○空山…人気のない山。○白芨…ラン科の多年草。　

 

 

★    嘉陵江上憶家　　　　　嘉(か)陵(りょう)江上(こうじょう)家を憶う　　　　　　　　  清    王士禛

 

自入秦關歳月遲　　　　秦関(しんかん)に入りて自(よ)り 歳月遅し　

棧雲隴樹苦相思　　　　桟(さん)雲(うん) 隴樹(ろうじゅ) 苦(ねんごろ)に相(あい)思(おも)う　

嘉陵驛路三千里　　　　嘉(か)陵(りょう)駅(えき)路(ろ) 三千里

處處春山叫畫眉　　　　処々(しょしょ)の春山 画(が)眉(び)叫ぶ

 

【語釈】

○嘉陵江…甘粛省から陝西省を通り四川省へと流れる大きな川で、重慶市で長江に合流する。○秦關…関中の地。○棧雲…高い桟道。○隴樹…辺塞の樹木。○嘉陵驛…四川省南充市嘉陵区。○畫眉…画眉鳥。

（参考文献）　　『漢詩大系　２３』

 

 

★    途中逢入京使口占　　　　途中 京に入る使に逢(あ)う口(こう)占(せん)す　　　　　清　　曹申吉

 

連朝風雨百重山　　　　連朝の風雨 百重の山

始信荊門道路艱　　　　始めて信ず 荊門(けいもん) 道路の艱きを

逢着舊鄰煩寄訊　　　　旧鄰(きゅうりん)に逢(ほう)着(ちゃく)し 寄訊(きじん) 煩(しきり)りなり

唯有秋風送馬蹄　　　　唯だ 秋風の 馬蹄を送る有るのみ

 

【語釈】

○口占…書かないで作った即興の詩。○連朝…連日。○荊門…湖北省荊門市。○逢着…たまたま逢う。○寄訊…尋ねること。

　　　

 

★    早發黄州　　　　　　　早(つと)に黄州(こうしゅう)を発す　　　　　　　　　　　　  清　　孫　蕙

 

連朝雨雪歳將蘭　　　　連(れん)朝(ちょう)の雨雪 歳 将に蘭(たけなわ)ならんとす　　

枕畔江聲永夜寒　　　　枕(ちん)畔(はん)の江声 永夜寒し

夢裏分明拜家慶　　　　夢(む)裏(り) 分明に 家慶(かけい)を拝す

渾忘身在古斎安　　　　渾(すべ)て 忘身 古斎安に在り

 

【語釈】

○黄州…湖北省黄岡市。○將…｢まさに～せんとす｣と読み、「いまにも～しそうである」の意。○蘭…終わる。○枕畔…枕辺。○永夜…夜通し。○夢裏…夢の中。○分明…はっきりと。○拜家慶…家に帰って家族の長を拝すること。○古斎安…？

 

 

★    春日莊浪看雪　　　　　春日　荘浪(そうろう)に 雪を看る　　　　　　　  清　　李唸慈

 

蕭蕭風雪下千巒　　　　蕭々(しょうしょう)たる風雪 千巒(せんらん)を下る

客裏相看淚不乾　　　　客(かく)裏(り) 相看て 涙 乾かず

欲典羊裘沽好酒　　　　羊裘(ようきゅう)を典して 好酒を沽(か)わんと欲し

卻愁明日又春寒　　　　却って愁(うれ)う 明日 又 春寒(しゅんかん)なるを

 

【語釈】

○莊浪…甘肅省平涼市莊浪県。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○千巒…多くの嶺。○客裏…旅の途中。○羊裘…羊の皮で作ったかわごろも。○典…質に入れる。○春寒…春先のうすら寒さ。

 

　　　

★    榆次道中　　　　　　　榆(ゆ)次(じ)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　        清　　葉映榴

 

路出榆關西復西　　　　路は出ず 榆関 西復(ま)た西

荒原白草怪禽啼　　　　荒原 白草 怪禽(かいきん)啼く

經行百里無人跡　　　　経行 百里 人跡(じんせき)無く

惟有秋風送馬蹄　　　　惟(た)だ 秋風の 馬蹄を送る有るのみ

 

【語釈】

○榆次…山西省晋中市榆次区。○榆關…北方の辺塞。○白草…北地に生える白い草。○經行…行程中の径路。

 

★    舟泊廣陵　　　　　　　舟 広陵(こうりょう)に泊す　　　　　　　　　　　  清　　孫　蕙

 

橫塘草碧竹煙涼　　　　横塘(おうとう) 草 碧(みどり)にして 竹(ちく)煙(えん)涼し

樹帶風烏繞蜀岡　　　　樹帯 風烏 蜀(しょく)岡(こう)を繞(めぐ)る

二十四橋何處問　　　　二十四橋 何れの処か問わん

廣陵城下月如霜　　　　広陵(こうりょう)城下(じょうか) 月 霜の如し

 

【語釈】

○廣陵…江蘇省揚州市。○竹煙…竹林中の靄霞。○蜀岡…江蘇省揚州市蜀岡区。○二十四橋…江蘇省 揚州市江都県にあった二十四の橋。

 

　　　

★    松陵舟中作　　　　　　松(しょう)陵(りょう)舟中(せんちゅう)の作　　　　　　　　　　　　　清　　余　懐

 

一河春水漲桃花　　　　一河の春水 桃花に漲(みなぎ)り

小艇随風日未斜　　　　小艇　風に随って 日 未だ斜ならず

胡蝶紛紛滿芳草　　　　胡蝶 紛々(ふんぷん) 芳草に満ち

獨憐遊子不還家　　　　独り憐む 遊子の家に還らざるを

 

【語釈】

○松陵…江蘇省の太湖東岸にある町。○春水…春の雪解け水。○紛紛…乱れ飛び散るさま。○芳草…かおりぐさ。○遊子…旅人。

 

 

★    江行　　　　　　　　　江行　　　　　　　　　　　　　　　  清　　朱克生

 

江頭水漲没沙堤　　　　江頭 水 漲(みなぎ)り 沙堤(さてい)没す

風外征帆落日低　　　　風外の征(せい)帆(はん) 落日低し

細雨寒潮人不見　　　　細雨 寒潮 人 見えず

兩山叢竹鷓鴣啼　　　　両山の叢(そう)竹(ちく) 鷓鴣(しゃこ)啼く

 

【語釈】

○江頭…川辺。○沙堤…砂の堤。○征帆…遠行する舟。○叢竹…叢がる竹。

 

　　　

★    憶橘　　　　　　　　　橘を憶う　　　　　　　　　　　　　　  清　　張玉裁

 

朱實垂垂葉尚青　　　　朱(しゅ)実(じつ) 垂(すい)々(すい) 葉 尚お青し

故山千樹未凋零　　　　故山 千樹 未だ凋零(ちょうれい)せず

相思不隔長淮水　　　　相思う 隔たず 長淮(ちょうわい)の水

一夜郷心落洞庭　　　　一夜の郷心 洞庭に落つ

 

【語釈】

○朱實…紅色の実。○垂垂…垂れ下がっているさま。○故山…故郷の山。○凋零…萎み落ちる。○長淮…淮河。黄河と長江の間を東西に流る中国第三の川。○郷心…故郷に帰りたいと思う心。○洞庭…洞庭湖。湖南省北東部にある淡水湖。

 

　

 

★    江行　　　　　　　　　江行　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　傅昂霄

 

白雲明月漾微瀾　　　　白雲 明月 微瀾(びらん)に漾(ただよ)う

空外千聲落遠灘　　　　空外の千声 遠灘(えんたん)に落つ

燕子磯頭中夜起　　　　燕子(えんし) 磯頭(きとう) 中夜に起き

一天星斗大江寒　　　　一天の星斗(せいと) 大江寒し

 

【語釈】

○微瀾…さざ波。○空外…遙かな天空。○遠灘…遠い早瀬。○磯頭…磯のほとり。○星斗…満天の星。

 

 

★    蘭渓道中　　　　　　　　蘭渓(らんけい)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　傅昂霄

 

青山隠隠雉樓低　　　　青山 隠々(なばりいん) 雉(ち)楼(ろう)低し

夾岸垂楊緑始齊　　　　岸を夾(さしはさ)む 垂(すい)楊(よう) 緑 始めて斉(ととの)う

滿眼春愁消不得　　　　満眼の春愁(しゅんしゅう) 消し得ず

一帆煙雨過蘭渓　　　　一帆 煙雨 蘭(らん)渓(けい)を過ぐ

 

【語釈】

○蘭渓…浙江省金華市蘭谿市。○隠隠…多いさま。○雉樓…城楼。○満眼…見渡す限り。○春愁…春の日になんとなく気がふさがりもの悲しく感じられること。○煙雨…霧雨。

 

 

★    發苕溪　　　　　　　苕渓(ちょうけい)を発す　　　　　　　　　　　  清　　葉　燮

 

客心如水水如愁　　　　客(かく)心(しん) 水の如く 水 愁(うれい)の如し

容易歸帆趂疾流　　　　容易 帰帆 疾流を趂(お)う

忽訝船窗送呉語　　　　忽(たちま)ち訝(いぶか)る 船窓 呉語を送るを

故山月已掛船頭　　　　故山 月 已に 船頭(せんとう)に掛(か)く

 

【語釈】

○苕溪…浙江省湖州市。○客心…旅心。○疾流…急流。○呉語…呉の地方の言葉。○故山…故郷の山。○船頭…舟のへさき。

 

 

★    渡錢塘　　　　　　　　銭塘(せんとう)を渡る　　　　　　　　　　　　　　   清　　朱彞尊

 

渡口乗潮漾北風　　　　渡口 潮に乗じ 北風に漾(ただよ)う

輕舟如馬泝江東　　　　軽舟 馬の如く 江東を泝(さかのぼ)る

明朝又是山陰道　　　　明朝 又た是(こ)れ 山陰道

身在千巖萬壑中　　　　身は 千巌万壑(せんざんばんがく)の中(うち)に在り

 

【語釈】

○錢塘…錢唐江。浙江（杭州湾に注ぐ川）の下流。○渡口…渡し場。○軽舟…速度の速い小舟。○山陰道…浙江省の県名。○千巖萬壑…多くの山と谷。

 

自贛州至南安灘行口號　　　贛州(かんしゅう)自(よ)り南安に至り灘(たん)行(こう)す口号(こうごう)　　　 清　　朱彞尊

 

一片風帆溯急流　　　　一片の風(ふう)帆(はん) 急流を溯(さかのぼ)る

船人勸道莫深愁　　　　船人　勧めて道(い)う　深愁(しんしゅう)する莫れと

只應預想歸程樂　　　　只だ 応(まさ)に 預(あらかじ)め帰程の楽なるを想うべし

柔櫓嘔唖下吉州　　　　柔(じゅう)櫓(ろ) 嘔唖(おうあ) 吉州(きちしゅう)を下る

 

【語釈】

○贛州…江西省赣州市。○江西省贛州市大餘県。○口號…書かないで作った即興の詩。○風帆…帆掛け船。○船人…船夫。○深愁…深く心配する。○應…｢まさに～すべし｣とよみ「きっと～した方がよい」「きっと～すべきである」の意。○柔櫓…船槳を操る時の声。○嘔唖…舟や車の音。

 

　　　

★    十八灘　　　　　　　　十八灘(じゅうはちたん)　　　　　　　　　　　　　  清　　徐　釚

 

萬壑千峰送客舟　　　　万壑千(ばんがくせん)峰(ぽう) 客(かく)舟(しゅう)を送る

槎牙怪石水交流　　　　槎(さ)牙(が) 怪石 水 交流す

嶺猿莫更啼深樹　　　　嶺(りょう)猿(えん) 更に 深樹に啼く莫(なか)れ

只聽灘聲已白頭　　　　只だ 灘声(たんせい)を聴きて 已に白頭

 

【語釈】

○十八灘…贛江（江西省を南北に貫く江西最大の川）の十八の険灘。○萬壑千峰…多くの谷と峰。○客舟…旅人を乗せた舟。○槎牙…飛び出した石。○嶺猿…峰にいる猿。○灘聲…早瀬の音。

 

★    金華道中　　　　　　　金華(きんか)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　  清　　邱象隨

 

一徑煙雲鳥道還　　　　一径の煙(えん)雲(うん) 鳥道還(めぐ)る

高盤如黛越中山　　　　高盤 黛(まゆずみ)の如し 越中の山

不知過盡山多少　　　　知らず 過(す)き尽くして 山の多少なるを

猶在啼猿萬木間　　　　猶お 啼猿 万木の間に在り

 

【語釈】

○金華…浙江省金華市。○煙雲…雲と霞。○鳥道…鳥しか通わないような道。○越中…越の地方。

 

 

★    題旅店　　　　　　　　旅店に題す　　　　　　　　　　　　　　清　　王九齡

 

曉覺茅簷片月低　　　　暁に覚むれば 茅簷(ちえん) 片月低し

依稀郷國夢中迷　　　　依(い)稀(き)たる郷国 夢中に迷う

世間何物催人老　　　　世間 何物ぞ 人の老いを催(うなが)す

半是雞聲半馬蹄　　　　半ばは是(こ)れ雞(けい)声(せい) 半ばは馬蹄

 

【語釈】

○旅店…旅館。○茅簷…茅吹きの簷。○片月…片割れ月。○依稀…ぼんやりした。○郷国…故郷。

 

 

★    白堤雨泊　　　　　　　白堤(はくてい)雨(う)泊(はく)　　　　　　　　　　　　　  清　　鄧漢儀

 

白堤春盡水連空　　　　白堤 春 尽きて 水 空(くう)に連なる

呉傍頻吹柳絮風　　　　呉(ご)傍(ぼう) 頻(しき)りに吹く 柳絮(りゅうじょ)の風

匆匆酒醒眠不得　　　　匆々(そうそう) 酒醒めて 眠り得ず

五更殘雨打船篷　　　　五更 残雨 船篷(せんほう)を打つ

 

【語釈】

○白堤…浙江省杭州市白堤。○呉傍…不祥。○匆匆…慌ただしくて落ち着かないさま。○五更…明け方。○船篷…舟の窓の篷。

　　　　

 

★    溪西早行　　　　　　　渓(けい)西(せい)早(そう)行(こう)　　　　　　　　　　　　   清　　黃　始

 

溪上人家秋水生　　　　渓上の人家 秋水生ず

孤舟常自五更行　　　　孤舟 常に 五更自(よ)り行く　　　

一聲啼鳥半江月　　　　一声の啼鳥 半江の月

纔到西山天欲明　　　　西山に纔(めぐ)り到れば 天 明(めい)ならんと欲す

 

【語釈】

○早行…朝早く出発すること。○五更…夜明け方。

 

 

★    呉江舟夜　　　　　　　呉江舟夜　　　　　 　　　　　　　　　 清　　汪洋度

 

水驛迢遙望不分　　　　水駅 迢(ちょう)遥(よう) 望 分たず

愁心落葉共紛紛　　　　愁(しゅう)心(しん) 落葉 共に紛々(ふんぷん)

扁舟一夜搖江月　　　　扁舟 一夜 江月を揺がし

入夢呉歌斷續聞　　　　夢に入る呉歌 断続して聞く

 

【語釈】

○吳江…江蘇省蘇州市吳江。○水驛…水辺の宿場。○迢遙…遠く遙かなこと。○紛紛…乱れ飛ぶさま。○扁舟…小舟。○江月…川に映っている月。○呉歌…長江下流地方の歌。

 

　　　

★    晩泊　　　　　　　　　晩に泊す　　　　　　　　　　　　　　  清　　彭始奮

 

夜色微茫水驛孤　　　　夜色 微茫(びぼう)として 水駅孤なり

遙遙燈火映寒蘆　　　　遥々(ゆうゆう)たる灯火 寒蘆(かんろ)に映ず

愴然獨夜家十里　　　　愴(そう)然(ぜん) 独夜 家 十里

煙雨空江聞鷓鴣　　　　煙雨 空江 鷓鴣(しゃこ)を聞く

 

【語釈】

○夜色…夜の景色。○微茫…微かではっきりみえないさま。○水驛…船旅用の宿場街。○遙遙…他と関わりなくゆったりしたさま。○愴然…痛み悲しむさま。○独夜…独り寝の夜。○煙雨…霧雨。○空江…物影の無い川。

 

 

★    將出都赴滇却寄呉中諸友　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　鄂　爾

将(まさ)に都を出で滇(てん)に赴(おもむ)んとし却(かえ)って呉中の諸友に寄す

 

尺書裁罷又重拈　　　　尺書(せきしょ) 裁すを罷(や)めて 又た重拈(じゅうねん)す

細字旁添手自緘　　　　細字 旁添(ほうてん) 手自(みずか)ら緘(と)ず

此去滇陽真萬里　　　　此(ここ)を去りて 滇(てん)陽(よう) 真に万里

夢魂不易到江南　　　　夢魂 易からず 江南に到るは

 

【語釈】

○呉中…江蘇省吳県一帶。○尺書…書信。○滇陽…不祥。○夢魂…夢の中で魂。○江南…長江中下流の南岸地域。

 

              　　

★    登蕪湖浮屠　　　　　蕪湖浮屠(ぶこふと)に登る　　　　　　　　　　　　   清　　查愼行

 

落帽家山記幾巡　　　　落帽(らくぼう) 家山 記す幾巡(いくじゅん)

弟兄南北各傷神　　　　弟兄　南北 各(おのおの)神(しん)を傷む

茱萸明日重陽酒　　　　茱萸(しゅゆ) 明日 重陽(ちょうよう)の酒

五處登髙各一人　　　　五処 登髙するは 各(おのおの)一人

 

【語釈】

○蕪湖…安徽省馬鞍山市蕪湖。○浮屠…仏塔。○落帽…風で帽子を落とす。重陽の節句に、晋の孟嘉が風で帽子を失い、人の嘲りに文を以て答えたという故事。○家山…故郷。○神…心。精神。○茱萸…グミに似た植物。重陽の節句に登高し頭に挿して邪気を払う。○五處…五箇所。

 

★    舟泊無錫　　　　　　　舟 無錫(むしゃく)に泊す　　　　　　　　　　　　   清　　張延璐

 

九龍山色何媚嫵　　　　九竜の山色 何ぞ媚嫵(びょうぶ)たる　

坐見白雲生縷縷　　　　坐して見る 白雲の縷々(るる)として生ずるを

空濛散作波上煙　　　　空濛(くうもう) 散じて 波上の煙と作る

篷牎一夜蕭蕭雨　　　　篷(ほう)窓(そう) 一夜 蕭々(しょうしょう)の雨

 

【語釈】

○無錫…江蘇省無錫市。○九龍山…浙江省嘉興市九龍山。○山色…山の景色。○媚嫵…なまめかしい。○縷縷…糸のように細く長く続くさま。○空濛…小雨が降ったり靄が立ちこめたりして薄暗いさま。○篷牎…舟の篷窓。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。

　　　

 

★    南還口號　　　　　　　南還(なんかん)口号(くちごう)　　　　　　　　　　　　　　　清　　沈徳濳

 

軺車獨去潞河東　　　　軺車(ようくしゃ) 独り去る 潞(ろ)河(が)の東

回首長安夕照紅　　　　首を回らせば 長安 夕(せき)照(しょう)紅なり

無限離情難忘處　　　　限り無き離(り)情(じょう) 忘れ難き処

西山蒼翠夢魂中　　　　西山 蒼(そう)翠(すい) 夢魂の中

 

【語釈】

○軺車…一人乗りの小さな車。○潞河…不祥。○離情…離別の情。○蒼翠…青緑。○夢魂…夢の中で魂。

 

　

 

★    夜泊聴雨　　　　　　　夜泊 雨を聴く　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

入夜篷牎罨散絲　　　　夜に入りて篷(ほう)窓(そう) 散糸を罨(おお)う

深更殘溜滴遅遅　　　　深更 残溜(ざんりゅう) 滴(したた)ること 遅々(ちち)たり

夢餘忘却空江畔　　　　夢余(むよ) 忘却す 空江の畔

猶認春明聴漏時　　　　猶お 春明を認め 漏時を聴く

 

【語釈】

○篷牎…舟の篷窓。○散絲…まき散らした糸。○深更…夜更け。○夢餘…夢が覚めた後。○春明…明媚な春光。○漏時…水時計が時を告げる音。

 

 

★    雨泊話舊　　　　　　　雨泊旧を話(わ)す　　　　　　　　　　　　　　  清　　瀋德潛

 

寒雨蕭蕭夜打篷　　　　寒雨 蕭々(しょうしょう) 夜 篷(とま)を打つ

篷窗相對一燈紅　　　　篷(ほう)窓(そう) 相対(あいたい)して 一灯紅なり

十年無限存亡感　　　　十年 限り無し 存亡の感

併入空江話雨中　　　　併せて入る 空江 雨に話(わ)する中(うち)

 

【語釈】

○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○篷窗…舟の篷窓。○空江…物影の無い川。

 

 

★    秦州舟次　　　　　　　秦州(しんしゅう)舟(しゅう)次(じ)　　　　　　　　　　　　　  清　　李　葂

 

煙燈月暈影微微　　　　煙灯 月暈(げつうん) 影 微々(びび)たり

辯得宵行草上飛　　　　弁じ得たり 宵(しょう)行(こう)の草上に飛ぶを

垂髪女兒知盪槳　　　　垂髪の女児 槳(かじ)を盪(うご)かすを知る

不辭風露送人歸　　　　辞せず 風露の 人の帰るを送るを

 

【語釈】

○秦州…甘粛省天水市秦州区。○舟次…船泊り。○煙灯…靄のかかっている灯。○月暈…月のかさ。○宵行…螢火。○垂髪…下げ髪。○槳…船をこぐ櫂。

 

 

★    馬上口占　　　　　　　馬(ば)上口(じょうこう)占(せん)　　　　　　　　　　　　　　  清　　陸叢桂

 

夕陽禾黍晩秋風　　　　夕陽(せきよう) 禾(か)黍(しょ) 晩秋の風

霜氣纔深葉已紅　　　　霜気 纔(わずか)に深くして 葉 已に紅なり

無數渓流添夜雨　　　　無数の渓流 夜雨を添え

青山一路白雲中　　　　青山 一路 白雲の中(うち)

 

【語釈】

○口占…書かないで作った即興の詩。○禾黍…稲とキビ。○霜氣…骨を刺すような寒気。

 

 

★    豐潤道中感懐　　　　　豊潤(ほうじゅん)道中(どうちゅう)感懐(かんかい)　　　　　　　　　　　  清　　李應薦

 

秋山遠近樹高低　　　　秋山 遠近 樹 高低

茅屋重重枕古渓　　　　茅屋 重々(ちょうちょう) 古渓に枕す

夢裏分明東海曲　　　　夢(む)裏(り) 分明 東海の曲

却驚身在北平西　　　　却って驚く 身は北平の西に在るを

 

【語釈】

○豐潤…河北省唐山市豊潤区。○茅屋…茅吹きの家。○重重…重なり合うさま。○夢裏…夢の中。○分明…はっきりとしているさま。○北平…北京。

 

 

★    江上遇亦于大兄　　　　江上 亦(ま)た于(う)大兄(たいけい)に遇う　　　　　　　　  清　　徐　白

 

百種愁情一寸腸　　　　百種の愁情 一寸の腸(はらわた)　

更罹多難又無郷　　　　更に 多難に罹(かか)りて 又た郷無し

與君一世為兄弟　　　　君と一世 兄弟(けいてい)と為る

只是相逢在路傍　　　　只だ是れ 相(あい)逢(あ)うは 路傍に在り

 

【語釈】

○于大兄…不祥。○愁情…悲哀の情思。

 

　

 

★    松塘舟次有感　　　　　松塘(しょうとう)舟(しゅう)次(じ)感有り　　　　　　　　　　  清　　王日祥

 

芳州皷檝未嫌遅　　　　芳州(ほうしゅう) 檝(かじ)を皷(こ)して 未だ遅きを嫌わず

欲采蘼蕪寄所思　　　　蘼(び)蕪(ぶ)を采(と)りて 所思を寄せんと欲す

兩岸緑陰人不見　　　　両岸の緑陰 人見えず

滿船離恨夕陽時　　　　満船の離恨(りこん) 夕陽の時

 

【語釈】

○松塘…不祥。○舟次…船泊まり。○芳州…美しい中洲。○蘼蕪…おんなかずら。○所思…思うこと。○離恨…離別の恨み。

 

 

★    江上　　　　　　　　　江上   　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　徐薌坡

 

楚天雲樹隔郷關　　　　楚天の雲樹 郷関(きょうかん)を隔つ

隠約帆檣白下還　　　　隠(いん)約(やく)たる帆檣(はんしょう) 白下(はくか)より還る

遙望寒烟秋色裏　　　　遥かに望む 寒煙 秋色の裏(うち)

數峰青峭夕陽山　　　　数峰の青峭(せいしょう) 夕陽(せきよう)の山

 

【語釈】

○楚天…湖北省・湖南省一帯の空。○郷關…郷土。○隠約…ぼんやりして分明でない。○帆檣…帆掛け船。○白下…南京西北にある地名。○寒煙…寒い靄。○秋色…秋景色。○青峭…青く高く険しい山。

 

 

★    瓜州夜泊　　　　　　　瓜州(かしゅう)夜(や)泊(はく)　　　　　　　　　　　　　   清　　徐薌坡

 

微茫漁火出江干　　　　微茫(びぼう)たる漁火 江(こう)干(かん)を出ず

大海潮回走急湍　　　　大海 潮(うしお) 回(めぐ)りて 急湍(きゅうたん)を走る　

一葉孤篷宿烟雨　　　　一葉の孤篷(こほう)  宿(しゅく)煙(えん)の雨

蕭蕭木落雁聲寒　　　　蕭々(しょうしょう)として木落ち 雁声寒し

 

【語釈】

○瓜州…甘粛省酒泉市瓜州県。○微茫…ぼんやりしたさま。○江干…かわばた。○一葉…一艘。○孤篷…孤舟。○宿烟…夜来の煙霧。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。

 

 

★    晩入山東界　　　　　　晩に山東界に入る　　　　　　　　　　　  清　　施朝幹

 

山通青充晩陰陰　　　　山は 青(せい)充(じゅう)に通じて 晩 陰々(いんいん)

却望郷關烟水深　　　　却って 郷関(きょうかん)を望めば 煙水深し

舟子不須輕解纜　　　　舟子 須(すべから)く 軽く解纜(かいらん)せざるべし

今宵猶得聴南音　　　　今宵(こんしょう) 猶お 南音(なんおん)を聴き得たり

 

【語釈】

○山東界…太行山脈の東方の意。山東省。○青充…不祥。○陰陰…空が曇って暗いさま。○郷關…故郷。○烟水…靄のかかった川。○須…「すべからく～すべし」と読み、「きっと～しなければならない」「きっと～すべきである」の意。○解纜…とも綱をとく。○南音…南方の音楽。

 

 

★    聞琵琶　　　　　　　　琵琶を聞く　　　　　　　　　　　　　  清　　施朝幹

 

秋風蕭殺草初黄　　　　秋風 蕭殺(しょうさつ)し 草 初めて黄なり

盡日行人望故郷　　　　尽日(じんじつ) 行人(こうじん) 故郷を望む

一曲琵琶數行涙　　　　一曲の琵琶 数行(すうこう)の涙

椅樓今夜月如霜　　　　楼に椅(よ)れば 今夜 月 霜の如し

 

【語釈】

○蕭殺…草木が枯れ落ちるさま。○盡日…一日中。○行人…旅人。

 

 

★    梁渓道中　　　　　　　梁渓(りょうけい)道中　　　　　　　　　　　　　  清　　范雲鵬

 

秋來重放秣陵舟　　　　秋(しゅう)来(らい) 重ねて放つ 秣(ばつ)陵(りょう)の舟

擬過粱渓續舊遊　　　　粱渓(りょうけい)を過ぎて 旧遊を続(つ)がんと擬(ぎ)す

遙望九龍山色好　　　　遥かに望む 九竜 山色の好きを

林端塔影暮煙浮　　　　林端の塔影 暮煙浮ぶ

 

【語釈】

○梁渓…江蘇省無錫市梁渓区。○秋來…秋になってから。○秣陵…南京市にある地名。○九龍…湖南省常德市九龍山。○山色…山の景色。○暮煙…夕靄。

 

 

 

★    梁渓道中　　　　　　　梁渓(りょうけい)道中　　　　　　　　　　　　　  清　　范雲鵬

 

打頭風急浪花麤　　　　打頭 風急にして 浪花(ろうか)麤(あら)し

小市維舟挈玉壺　　　　小市 舟を維(つな)ぎ 玉壺を挈(ひっさ)ぐ

買得髙橋魚數尾　　　　買い得たり 高橋 魚数尾

儘拌夜雨洒菰蒲　　　　侭拌(じんはん)す 夜雨の菰(こ)蒲(ほ)を洒(あら)うを　

 

【語釈】

○梁渓…江蘇省無錫市梁渓区。○浪花…波頭。○玉壺…酒壺の美称。○儘拌…任せてすておく。○菰蒲…まこもとガマ。

 

 

★    山窓　　　　　　　　　山窓　　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　張韶庭

 

空海入夜雨蕭蕭　　　　空海 夜に入りて 雨蕭々(しょうしょう)

別盡弧燈漏轉遙　　　　弧灯を別尽(べつじん)して 漏(ろう) 転(うた)た遥(はるか)なり

為怕客中聴不得　　　　為に怕(おそ)る 客中(かくちゅう) 聴くことを得ざるを

小窓先日剪芭蕉　　　　小窓 先日 芭蕉を剪(せん)す

 

【語釈】

○空海…空と海。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○別盡…別れる。○漏…水時計。○客中…旅の途中。

 

 

★    寄内　　　　　　　　　　内に寄す　　　　　　　　　　　　　　  清　　王　昶

 

澄江楓落雁初飛　　　　澄江(ちょうこう) 楓 落ちて 雁 初めて飛び　

杳杳紅樓隔翠微　　　　杳々(ようよう)たる紅楼(こうろう)　翠微(すいび)を隔つ

料得故園砧杵急　　　　料り得たり　故園　砧(ちん)杵(しょ)の急なるを

一燈清涙寄寒衣　　　　一灯の清涙　寒衣を寄す

 

【語釈】

○内…妻。○澄江…澄んだ川。○杳杳…遙かに遠いさま。○翠微…山の中腹の緑色の部分。○料得…推量することができる。○故園…故郷。○砧杵…衣うつ砧。○寒衣…冬の衣。

　　　

 

★    錢塘暁發　　　　　　　銭塘(せんとう) 暁に発す　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

殘月盈盈傍水明　　　　残月 盈(えい)々(えい) 水に傍(そ)いて 明(あき)らかなり

流波淅淅覺潮生　　　　流波(りゅうは) 淅々(せきせき) 潮(うしお)の生ずるを覚ゆ

孤舟客夢驚初斷　　　　孤舟 客夢(かくむ) 驚きて初めて断ゆ

何處鯨鐘報暁聲　　　　何れの処の鯨(げい)鐘(しょう)か 暁を報ずる声

 

【語釈】

○銭塘…浙江省杭州市銭塘県。○盈盈…しなやかなさま。○淅淅…風や鈴などの寂しい音。○客夢…旅先での夢。○鯨鐘…釣り鐘。

　　　

 

★    雨夜舟中　　　　　　　雨夜(うや)舟中(せんちゅう)　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

湖煙漠漠放孤舟　　　　湖煙 漠々(ばくばく) 孤舟を放つ

暮雨蕭蕭動客愁　　　　暮雨 蕭々(しょうしょう) 客(かく)愁(しゅう)を動かす

一夜雁鴻聲不斷　　　　一夜 雁(がん)鴻(こう) 声 断えず

西風吹度白蘋州　　　　西風 吹き度る 白蘋(はくひん)州(しゅう)

 

【語釈】

○湖煙…湖に立つ靄。○漠漠…広々として果てしないさま。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○客愁…旅先での愁い。○雁鴻…かり。○西風…秋風。○白蘋州…白い浮き草のある中洲。

　　　

 

★    湘中雑興　　　　　　　湘中(しょうちゅう)雑(ざつ)興(きょう)　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

垂楊垂柳滿長堤　　　　垂(すい)楊(よう) 垂(すい)柳(りゅう) 長堤に満つ

薄霧輕煙晩更迷　　　　薄霧 軽煙 晩 更に迷う

三十六彎春草緑　　　　三十六彎 春草緑なり

鷓鴣聲裏夕陽低　　　　鷓鴣声(しゃこせい)裏(り) 夕陽(せきよう)低し

 

【語釈】

○湘中…湘江（洞庭湖に注ぐ長江右岸の支流）のあたり。○雜興…さまざまな感興。○軽煙…かすかな霞。○三十六彎…多くの湾。

　　　

 

★    五渓雜吟　　　　　　　五渓雑吟(ごけいざつえい)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

懸崖峭壁椅空横　　　　懸崖(けんがい) 峭壁(しょうへき) 空(くう)に椅(よ)りて横わる

下映澄潭徹底清　　　　下は澄潭(ちょうたん)に映じて 底に徹して清し

山到辰渓随處好　　　　山は辰渓(しんけい)に到りて 随処好し

天涯寂寞不知名　　　　天涯 寂寞(せきばく) 名を知らず

 

【語釈】

○五渓…湖南省常徳県。○懸崖…高く聳える障壁のような山崖。○峭壁…壁のように険しい崖。○澄潭…澄んだ淵。○辰渓…湖南省懐化市辰渓県。○天涯…空の果て。○寂寞…静かで寂しいさま。

 

 

★    霅川道中和呉東白　　　霅(とう)川(せん)道中 呉(ご)東白(とうはく)に和す　　　　　　　  清　　王大壯

 

孤城迢逓出平沙　　　　孤城 迢逓(ちょうてい)として 平沙(へいさ)を出ず

夾岸青山帯晩霞　　　　岸を夾(さしはさ)みて 青山 晩霞を帯ぶ

一自峰煙人散後　　　　一たび 峰(ほう)煙(えん) 人 散ずるの後より

牆頭惟見野棠花　　　　牆頭(しょうとう) 惟だ見る 野棠(やとう)の花

 

【語釈】

○霅川…浙江省湖州市。○呉東白…不祥。○迢逓…はるかに遠いさま。○平沙…砂漠。○晩霞…日が沈んだ後の餘暉。○峰煙…山にかかったもや。○牆頭…垣根の上。

 

 

 

★    巴陵道中　　　　　　　巴(は)陵(りょう)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　　   清　　高　珩

 

螢火高低照遠明　　　　蛍火 高低 遠きを照らして 明らかなり

露凉河漢已西横　　　　露 涼しくして 河漢(かかん) 已に 西に横たわる

夢回不識巴陵道　　　　夢 回(かえ)りて 識らず 巴(は)陵(りょう)の道

絡緯分明故國聲　　　　絡緯(らくい) 分明 故国の声

 

【語釈】

○巴陵…湖南省岳陽市一帯。○河漢…銀河。○絡緯…コオロギ。○分明…はっきりしている。○故國…故郷。

 

 

★    凉暑夜聞風聲因憶去年此日泊舟江上　　　　　　　　　　　   清　　高　珩

涼暑夜 風声を聞き 因りて 去年 此の日 舟を江上に泊するを憶う

 

安慶城東晩泊船　　　　安慶(あんけい)城東(じょうとう) 晩に船を泊す

江風霜柝夜蕭然　　　　江風 霜(そう)柝(たく) 夜 蕭然(しょうぜん)たり

分明湖海餘聲在　　　　分明に 湖海 余声在り

又向長安攪客眠　　　　又た長安に向って 客眠(かくみん)を攪(みだ)す

 

【語釈】

○安慶城…安徽省 安慶市。○霜柝…霜の降りる夜の拍子木の音。○蕭然…ものさびしいさま。○分明…はっきり。○客眠…旅先での眠り。

 

 

 

 

★    錦陽川道中即事　　　　錦(きん)陽(よう)川(がわ)道中即事　　　　　　　　　　　　　  清　　高　瑾

 

黄昏留宿在茅亭　　　　黄昏(こうこん) 宿に留って 茅亭(ちてい)に在り

天上明河淡幾星　　　　天上の明河 淡幾星

穿竹過惣聲滴瀝　　　　竹を穿ち 惣(そう)を過ぎ 声 滴瀝(てきれき)

石泉一夜枕邊聴　　　　石泉 一夜 枕辺(ちんぺん)に聴く

 

【語釈】

○錦陽川…山東省済南市南部の山間地域を流れる川。○即事…事にふれて、その場に応じて詩を作ること。○黄昏…たそがれ。○茅亭…茅吹きのあずまや。○明河…明るい銀河。○惣…束ねた稲。○滴瀝…滴が垂れる音。○枕邊…枕元。

 

　　　

★    書蘆溝店壁　　　　　　蘆(ろ)溝(こう)の店の壁に書す　　　　　　　　　　  清　　王尊美

 

蟲聲切切報新秋　　　　虫声 切々(せつせつ) 新秋を報ず

月落燈昏四壁愁　　　　月落ち 灯(ともしび) 昏(くら)く 四壁愁う

殘夢未成催上馬　　　　残夢 未だ成らず 上馬を催(うなが)す

一天凉雨過蘆溝　　　　一天の涼雨 蘆(ろ)溝(こう)を過ぐ

 

【語釈】

○蘆溝…北京市豊台区。○切切…虫の声がたえだえに続くさま。○殘夢…明け方になってうとうとしながらも見続けている夢。

 

 

 

★    渡汶河　　　　　　　　汶(もん)河(が)を渡る　　　　　　　　　　　　　  清　　田同之

 

汶水洋洋碧玉流　　　　汶(もん)水(すい) 洋々(ようよう) 碧玉(へきぎょく)流る　　

長堤官柳颺清秋　　　　長堤 官柳 清秋颺(あが)る

征人無那銷魂處　　　　征人 那(いか)んするとも無く 銷魂する処

落日西風古渡頭　　　　落日 西風 古渡の頭

 

【語釈】

○汶河…山東省中部を流れる川。○洋洋…水などの満ちあふれているさま。○官柳…大通りに植えてある柳。○征人…旅人。○無那…どうしよもない。○銷魂…魂が体から離れるほどの悲しみ。○古渡…古い渡し場。

 

　　　

★    過儀微縣　　　　　　　儀微(ぎび)県(けん)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　  清　　田同之

 

布帆無恙大江流　　　　布帆 恙無(つつがな)く 大江流る

兩岸蕭蕭蘆萩秋　　　　両岸 蕭々(しょうしょう) 蘆(ろ)萩(てき)秋なり

一夜濤聲喧客夢　　　　一夜 濤声(とうせい) 客夢(かくむ)に喧(かまびす)しく　　　　

暁風殘月過真州　　　　暁風 残月 真州を過ぐ

 

【語釈】

○儀微縣…不祥。○布帆…帆掛け船。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○蘆萩…アシとオギ。○客夢…旅先での夢。○真州…江蘇省儀徴市。

 

★    趙北口　　　　　　　　趙(ちょう)北口(ほくこう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　田同之

 

十里長堤萬柳垂　　　　十里の長堤 万柳垂る

茫茫淀尾望無涯　　　　茫々(ぼうぼう)たる 淀(てい)尾(び) 望(のぞみ)涯(はて)無し

西風猶憶秦郵路　　　　西風 猶お憶う秦郵(しんゆう)の路

蟹舎魚荘夕陽時　　　　蟹舎(かいしゃ) 魚(ぎょ)荘(そう) 夕陽(せきよう)の時

 

【語釈】

○趙北口…河北省保定市趙北口鎮。○茫茫…広大なさま。○淀尾…湖の果て。○西風…秋風。○秦郵…江蘇省 高郵県。○蟹舎…漁家。○魚荘…漁家。

 

 

★    趙北口　　　　　　　　趙(ちょう)北口(ほくこう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　高景光

 

碧湖如鏡影迢迢　　　　碧湖 鏡の如く 影 迢々(ちょうちょう)たり

兩岸人家間柳條　　　　両岸の人家 柳条に間(まじ)う

累似鱸郷亭畔路　　　　累(るい) 似たり 鱸(ろ)郷(きょう) 亭畔の路

夕陽秋水小紅橋　　　　夕陽 秋水 小紅橋

 

【語釈】

○趙北口…河北省保定市趙北口鎮。○迢迢…遙かなさま。○鱸郷…江南の水郷。

 

 

★    春日歸泊閶門　　　　　春日 帰りて閶(しょう)門(もん)に泊す　　　　　　　　　  清　　樓　錡

 

年年蹤跡感漂蓬　　　　年々 蹤(じゅう)跡(せき) 漂(ひょう)蓬(ほう)の感

冷落柴門煙雨中　　　　冷落(れいらく)たる柴門(さいもん) 煙雨(えんう)の中(うち)

燕子歸來迷舊壘　　　　燕子(えんし) 帰来して 旧塁に迷い

桃花何處笑春風　　　　桃花 何れの処か 春風に笑う

 

【語釈】

○閶門…江蘇省蘇州市城西の地。○蹤跡…往来。○漂蓬…風に吹かれて漂うヨモギ。あてどない漂泊者の象徴。○冷落…物寂しい。○柴門…柴で作った粗末な門。○煙雨…霧雨。○旧塁…昨年作った巣。

 

 

★    再抵東阿　　　　　　　再び東阿(とうあ)に抵(いた)る　　　　　　　　　   清　　吳象弼

 

煙中山色水邊村　　　　煙中の山色 水辺の村

草樹蒼黃落日昏　　　　草樹 蒼(そう)黄(こう) 落日昏(くら)し

白雁丹楓兩蕭索　　　　白(はく)雁(がん) 丹(たん)楓(ぽう) 両(ふた)つながら蕭索(しょうさく)

騎驢重過小雲門　　　　驢(ろ)に騎(の)りて 重ねて過ぐ 小雲門

 

【語釈】

○東阿…東の隅。○煙中…霞や靄の中。○山色…山の景色。○蕭索…物寂しいさま。○雲門…山門。

 

 

★    贛州道中　　　　　　　贛州(かんしゅう)道中　　　　　　　　　　　　　　　清　　袁　枚

 

樟樹迷離密不分　　　　樟樹(しょうじゅ) 迷離(めいり) 密にして分たず

幾聲雞犬樹中聞　　　　幾声 雞犬 樹中に聞く

濛濛一縷茅簷白　　　　濛々(もうもう) 一縷(いちる) 茅(ち)簷(たん)に白し

知是炊煙是晩雲　　　　知る 是(こ)れ炊煙か 是(こ)れ晩雲か

 

【語釈】

○贛州…江西省贛州市儲潭鎮。○樟樹…くすのき。○迷離…模糊としているさま。○濛濛…（雨や小雨で）煙るようにぼおっとしているさま。○一縷…一筋の糸。○茅簷…茅製の簷。

 

 

★    江左客中作　　　　　　江左 客中(かくちゅう)の作　　　　　　　　　　　　　  清　　呂　濳

 

横江閣外數帆檣　　　　横江(おうこう)閣外(かくがい) 数帆檣(すうはんしょう)

立盡西風鬢欲霜　　　　立ち尽す 西風 鬢(びん) 霜ふらんと欲す

只有郷心不東去　　　　只だ 郷(きょう)心(しん)の東去せざる有り

蚤隋煙月上瞿唐　　　　蚤(つと)に 煙月に隋って 瞿(く)唐(とう)に上る

 

【語釈】

○横江閣…不祥。○帆檣…帆掛け船。○西風…秋風。○郷心…故郷に帰りたいと思う心。○蚤…朝早く。○煙月…おぼろ月。○瞿唐…瞿塘峡。長江三峡の一つ。

 

 

★    舟中絶句　　　　　　　舟中絶句　　　　　　　　　　　　　　　清　　顔光敏

 

舟開鎮遠大橋東　　　　舟は開く　鎮(ちん)遠(えん)　大橋の東

緑水青山宛轉流　　　　緑水 青山 宛(あたか)も転流す

七十二橋瞬息過　　　　七十二橋 瞬息に過ぎ

滿江風雨下辰州　　　　満江の風雨 辰州(しんしゅう)を下る

 

【語釈】

○鎮遠…貴州省黔東南鎮遠。○七十二橋…多くの橋。○辰州…湖南省懷化市沅陵県。

 

　　　

★    戊寅正月六日再至朐城　　戊(ぼ)寅(いん)正月六日再び朐(きょう)城(じょう)に至る　　   清　　安　䈯

 

去歲歸時雪沒腰　　　　去歳 帰時 雪 腰を没す

重來殘雪未全消　　　　重来 残雪 未だ全くは消ぜず

東風委粟城邊路　　　　東風 粟を委(す)つ 城辺の路

春水溶溶上板橋　　　　春水 溶々(ようよう) 板橋(はんきょう)に上る

 

【語釈】

○朐城…不祥。○去歳…去年。○重来…再来。○東風…春風。○溶溶…水がさかんに流れるさま。

 

 

★    江行　　　　　　　　　江行　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　雇宗秦

 

澄江如練客舟輕　　　　澄江(ちょうこう) 練(れん)の如く 客(かく)舟(しゅう)軽し

楚水呉山新雨晴　　　　楚水 呉山 新雨晴る

一片渚花浮動處　　　　一片の渚(ちょ)花(か) 浮動する処

白鷗斜帯夕陽明　　　　白(はく)鴎(おう) 斜めに夕陽を帯びて 明かなり

 

【語釈】

○澄江…水の澄んだ川。○練…ねりぎぬ。○客舟…旅人を乗せた舟。○楚水…湖北省・湖南省の川。○呉山…揚州・荊州・交州地方の山。○渚花…渚に咲いた花。

 

 

★    松陵道中　　　　　　　松(しょう)陵(りょう)道中　　  　　　　　　　　　　　　　清　　雇宗秦

 

數聲欸乃下輕艭　　　　数声の欸乃(あいだい) 軽艭(けいそう)を下る

飛散波心鷺幾雙　　　　飛散す 波心 鷺(さぎ) 幾(いく)双(そう)

正是篷窓高睡足　　　　正に是れ 篷(ほう)窓(そう) 高睡足り

一天幽夢落楓江　　　　一天の幽夢 楓(ふう)江(こう)に落つ

 

【語釈】

○松陵…江蘇省蘇州市松江。○欸乃…舟歌。○輕艭…軽舟。小舟。○篷窓…舟の篷窓。○高睡…熟睡。○幽夢…ぼんやりとかすかな夢。

 

 

　

 

★    歸舟口號　　　　　　　帰舟口号　　　　 　　　　　　　　　　　 清　　李　縄

 

濛濛雨氣冷侵衣　　　　濛々(もうもう)たる雨気 冷衣を侵す

遙指呉江舊釣磯　　　　遥かに指さす 呉江 旧釣(きゅうちょう)磯(き)

一路鵓鳩啼不住　　　　一路 鵓(ぼ)鳩(っこう) 啼いて住(や)まず

緑楊影裏片帆歸　　　　緑(りょく)楊(よう)影(えい)裏(り) 片(へん)帆(ぱん)帰る

 

【語釈】

○口號…書かないで作った即興の詩。○濛濛…煙るようにぼおっとしているさま。○呉江…江蘇省に属する県名。○釣磯…釣りをするときに腰掛ける石。○鵓鳩…鳩科の鳥。○片帆…孤舟。

 

 

★    雨中過秀州　　　　　　雨中 秀州を過ぐ　　　　　　　　　　  清　　李　縄

 

樓影湖波枕碧空　　　　楼影 湖波 碧空に枕す

魚荘蟹舎岸西東　　　　魚荘 蟹舎(かいしゃ) 岸の西東

一聲欸乃知何處　　　　一声の欸乃(あいだい) 知んぬ何れの処ぞ

棹入迷濛煙雨中　　　　棹は 迷濛(めいもう) 煙雨の中に入(い)る

 

【語釈】

○秀州…浙江省嘉興市。○魚荘…漁家。○蟹舎…漁家。○欸乃…舟歌。○迷濛…煙霧等で景色がはっきり見えないさま。○煙雨…こぬか雨。

 

 

　　　

 

★    過樑溪　　　　　　　　樑(りょう)渓(けい)を過ぐ　　　　　　　　　　　　  清　　徐洪鈞

 

東風作意送歸艭　　　　東風 意を作(は)し 帰艭(きそう)を送る

舟子呉歌盡短腔　　　　舟子の呉歌 尽(ことごと)く短腔(たんこう)

一枕夢迴天已曙　　　　一枕 夢 迴(かえ)れば 天 已に曙(あ)く

九龍峰影落篷窗　　　　九竜峰影 篷(ほう)窓(そう)に落つ

 

【語釈】

○樑溪…江蘇省無錫市梁渓区。○東風…春風。○歸艭…故郷に帰る舟。○舟子…船夫。○呉歌…江南の民謡。○短腔…話し方や節回しが短いこと。○一枕…一眠り。○夢迴…夢が覚める。○九龍峰…不祥。○篷窗…船の篷窓。

 

 

★    早行　　　　　　　　　早行　　　　　　　　　　　　　　　  清　　徐　衡

 

身在層巒疊嶂間　　　　身は 層巒畳嶂(そうらんじょうしょう)の間に在り

還聞空外水潺湲　　　　還(ま)た聞く 空外 水 潺湲(せんかん)

忽然行到烟銷處　　　　忽然(こつぜん)として　行きて到る　煙の銷(しょう)する処

擁出楊彭一帯山　　　　擁(よう)し出(い)だす 楊彭(ようほう) 一帯の山

 

【語釈】

○早行…朝早く出発すること。○層巒…重なった峰。○疊嶂…重なった山峰。○空外…野外。○潺湲…水が流れるさま。さらさら。○楊彭…不祥。

 

 

 

　　　

★    廖家溝阻雨　　　　　　廖家(りょうか)溝(こう)にて雨に阻まる　　　　　　　　  清　　任大椿

 

蕭疎萩巷宿鸇鷀　　　　蕭(しょう)疎(そ)たる萩(しゅう)巷(こう) 鸇鷀(せんじ)に宿す

夢裏還家袛自知　　　　夢裏 家に還って 袛(た)だ自(みずか)ら知る

無限旅懐言不得　　　　限り無き旅懐 言い得ず

一渓風雨泊舟時　　　　一渓の風雨　舟の泊する時

 

【語釈】

○廖家溝…不祥。○蕭疎…寂寞。ひっそりとしてものさびしいさま。○萩巷…萩の生えたちまた。○鸇鷀…不祥。○夢裏…夢の中。○旅懐…旅の思い。

 

 

★    道場山晩眺　　　　　　道場山の晩眺(ばんちょう)　　　　　　　　　　　　　  清　　趙士冕

 

指點江城幾萬家　　　　指点す 江城 幾万の家

歸帆點點日西斜　　　　帰帆(きはん) 点々 日は西に斜なり

故園遙憶三春月　　　　故園 遥かに憶う 三春の月

滿地芳菲正落花　　　　満地の芳菲(ほうひ) 正に落花

 

【語釈】

○道場山…不祥。○晩眺…夕方の眺め。○指点…指さす。○江城…川辺の街。○歸帆…帰って行く帆掛け船。○故園…故郷。○三春…晩春。○芳菲…盛んで美しい草花。

 

　　　

 

 

★    道中紀事　　　　　　　道中紀事　　　　　　　　　　　　　　  清　　陳魯章

 

月映湖光分外明　　　　月は 湖光に映じ 分外に明かなり

蘆花影裏一舟横　　　　蘆花(ろか)影(えい)裏(り) 一舟 横たわる

夜深聞有郷音在　　　　夜深くして 聞く 郷音の在る有るを

暁起開篷問姓名　　　　暁に起き 篷(とま)を開き 姓名を問う

 

【語釈】

○紀事…事を記録する。○分外…過分。○郷音…故郷のなまり言葉。○篷…船の窓の篷。

 

　　　

★    銅陵夜泊　　　　　　　銅(どう)陵(りょう)夜(や)泊(はく)　　　　  　　　　　　　　　　　清　　岳滋園

 

櫓聲乍住月初明　　　　櫓声 乍(たちま)ち住(や)み 月 初めて明らかなり

散歩江皋宿雁驚　　　　散歩 江皋(こうこう) 宿(しゅく)雁(がん)驚く

忽聴鄰舟故郷語　　　　忽(たちま)ち聴く 隣舟 故郷の語

縦非相識也關情　　　　縦(たと)い 相識(そうしき)にあるずとも 也(ま)た情に関す

 

【語釈】

○銅陵…不祥。○江皋…川辺のさつき。○宿雁…巣に宿っている雁。○相識…知り合い。

 

　　　

 

★    五月九日舟中偶成　　　五月九日舟中偶成　　　　　　  清　　張若駒

 

水窗晴掩日光高　　　　水窓 晴 掩(おお)いて 日光高し

河上風寒正長潮　　　　河上 風寒くして 正に潮(うしお)を長(ちょう)ず

忽忽夢迴憶家事　　　　忽々(こつこつ) 夢迴(かえ)りて 家事を憶う

女兒生日是今朝　　　　女児の生日 是(こ)れ今朝(こんちょう)　

 

【語釈】

○忽忽…心のぼんやりしているさま。○夢迴…夢が覚める。○生日…誕生日。○今朝…今日。

 

 

 

★    行路難　　　　　　　　行路難(こうろなん)　　　　　　　　　　　　　　　   清　　鄭　爕

 

天明始覚滿身霜　　　　天明 始めて覚ゆ 満身の霜

抖擻征衫曳馬韁　　　　抖擻(とうてつ) 征衫(せいさん) 馬韁(ばきょう)を曳(ひ)く

茅店煖烟嘘冷面　　　　茅店(ちてん)の煖(だん)煙(えん) 冷面を嘘(は)き

射人朝日出林塘　　　　人を射る朝日(ちょうじつ) 林塘に出ず

 

【語釈】

○行路難…行く道の険しいこと。楽府題。○天明…夜明け。○抖擻…振り払う。○征衫…旅衣。○馬韁…馬の手綱。○茅店…茅吹きの茶店。○林塘…樹林の中の池塘。

 

　　　

 

 

 

★    暁行　　　　　　　　　暁行　　　　　　　　　　　　　  清　　松　甫

 

蘆萩飛花白滿汀　　　　蘆(ろ)萩(てき)の飛花 白く汀(なぎさ)に満つ

停車小憩水邊亭　　　　車を停めて 小憩す 水辺の亭

前林一綫炊烟起　　　　前林 一綫(いっせん) 炊煙起り

畫斷遙山半角青　　　　画断す 遥山(ようざん) 半角の青

 

【語釈】

○蘆萩…ヨシとオギ。○一綫…ひとすじ。○畫斷…切断。○遙山…遙か遠くの山。

 

 

★    憶父　　　　　　　　　父を憶う　　　　　　　　　　  　　　　　　清　　宋凌雲

 

吳樹燕雲斷尺書　　　　呉樹 燕雲 尺書(せきしょ)を断つ

迢迢兩地恨何如　　　　迢々(ちょうちょう)たる両地 恨(うらみ) 何如(いかん)

夢魂不憚長安遠　　　　夢魂 憚(はばか)らず 長安の遠きを

幾度乘風問起居　　　　幾度か 風に乗じて 起居を問う

 

【語釈】

○呉樹…江蘇省一帯の樹木。○燕雲…北京市一帯の雲。○尺書…手紙。○迢迢…遙かに遠いさま。○夢魂…夢を見ている魂。○起居…安否。

 

 

★    瀧中　　　　　　　　　滝中(ろうちゅう) 　　　　　　　　　　　　　　 清　　屈大均

 

一渓煙雨夕陽晴　　　　一渓の煙雨 夕陽(せきよう)晴る

瀧口鴛鴦夾岸迎　　　　滝口(ろうこう)の鴛鴦(えんおう) 岸を夾(さしはさ)みて迎う

風送猿聲滿城郭　　　　風は猿声を送り 城郭に満つ

行人忽起故園情　　　　行人 忽(たちま)ち起す 故園の情

 

【語釈】

○煙雨…霧雨。○鴛鴦…おしどり。○行人…旅人。○故園情…故郷を思う気持ち。

 

 

絶句類選標本　六

絶句類選　巻之十　　感慨類

 

 

★    回郷偶書　　　　　　　　　郷に回(かえ)りて偶(たまた)ま書す　　　　　　　　唐　　賀知章     

 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

少小離家老大回　　　　少小(しょうしょう) 家を離れて 老大にして回(かえ)る

郷音無改鬢毛摧　　　　郷音 改まる無く 鬢毛(びんもう)摧(くだ)く

兒童相見不相識　　　　児童 相見て 相識(あいし)らず

笑問客従何處來　　　　笑って問う 客(かく)は何れの処従より来るかと

 

【語釈】

○少小…若いとき。○老大…老年。○郷音…故郷の言葉。○鬢毛摧…髪の毛が白くなること。○客…旅人

（参考文献）　『唐詩三百首』

 

　

 

★    回郷偶書　　　　　　　　　郷に回(かえ)りて偶(たまた)ま書す　　　　　　　　唐　　賀知章     

 

離別家郷歲月多　　　　家郷に離別して 歳月多し

老來人事半消磨　　　　老来 人事 半ば消磨す

惟有門前鏡湖水　　　　惟(た)だ門前 鏡(きょう)湖(こ)の水有り

春風不減舊時波　　　　春風 減せず 旧時の波

 

【語釈】

○家郷…故郷。○老來…歳をとってから。○人事…俗事。人の世の出来事。○消磨…磨り減ること。○鏡湖…浙江省紹興市越城区にあった湖。賀知章が致仕するときに、この湖一帯を玄宗皇帝から賜った。

 

 

★    春思　　　　　　　　　春思　　　　　　 　　　　　　　　　　 唐　　韋應物

 

野花如雪繞江城　　　　野花 雪の如く 江城を繞(めぐ)る

坐見年芳憶帝京　　　　坐して 年(ねん)芳(ぽう)を見て 帝京を憶う

閶闔曉開凝碧樹　　　　閶闔(しょうこう) 曉に開く 凝(ぎょう)碧(へき)の樹

曾陪鴛鷺聽流鶯　　　　曽(かつ)て 鴛(えん)鷺(ろ)を陪(ばい)して 流(りゅう)鶯(おう)を聽く

 

【語釈】

○江城…川辺の街。○年芳…美しい春景色。○帝京…帝都。長安。○閶闔…宮城の門。○鴛鷺…オシドリとサギ。○流鶯…枝を飛び回る鶯。

 

 

★    成口號誦示裴迪　　　私(し)成(せい)口号(くちごう)裴迪(はいてき)に誦(じゅ)示(じ)す　　　　　　　　　　  唐　　王　維

 

萬戶傷心生野煙　　　　万戶 心を傷ましむ 野煙の生ずるに

百官何日更朝天　　　　百官 何れの日か 更に天に朝す

秋槐葉落空宮裏　　　　秋槐(しゅうかい) 葉は落つ 空宮(くうぐう)の裏(うち)

凝碧池頭奏管弦　　　　凝(ぎょう)碧(へき)池頭(ちとう)に 管弦を奏す

 

【語釈】

○私成口號…ひそかに紙に書かないで作った即興の詩。○裴廸…王維の友人。○萬戸…多くの家々。○野煙…野のもや。○朝天…宮廷に参内する。○秋槐…秋になって葉が散り始めたエンジュ。○空宮裏…主がいなくなって、空しくなった宮中。○凝碧池…洛陽にある池の名。

（註…賊軍に仕えて、重刑を免れないところ、無実とされた曰く付きの詩）

(参考文献)　　『和漢名詞選類評釈』

　　　

 

★    絕句漫興　　　　　　　絶句漫(ぜっくまん)興(きょう)　　　　　　 　　　 唐　　杜　甫

 

二月已破三月來　　　　二月 已に破れ 三月来る

漸老逢春能幾回　　　　漸(ぜん)老(ろう) 春に逢うこと 能(よ)く幾回ぞ

莫思身外無窮事　　　　思う莫かれ 身外 無窮(むきゅう)の事

且盡生前有限杯　　　　且(しばら)く尽くせ 生前 有限の杯　

 

【語釈】

○漫興…興趣に任せて作った詩。○漸老…次第に老いゆく身。○身外…自身のほか。…無窮…はてしない。

（参考文献）　『杜甫全詩注』

★    解悶　　　　　　　　　解悶　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　甫

 

一辭故國十經秋　　　　一たび故国を辞して 十たび秋を経たり

每見秋瓜憶故丘　　　　秋瓜を見る毎に 故丘を憶う

今日南湖采薇蕨　　　　今日 南湖の薇(び)蕨(けつ)を采る

何人爲覓鄭瓜州　　　　何人の為に 鄭(てい)瓜州(かしゅう)を覓(もと)めん

 

【語釈】

○故國…故郷。ここでは長安。○秋瓜 … 秋の瓜。秦の東陵侯邵平は秦が滅んだ後、長安の東門の外で瓜を売って暮らしていた。その瓜がたいへんおいしかったので、人々は「東陵瓜」と呼んだという故事を踏まえる。○故丘…故郷の丘。○薇蕨 … ぜんまいと、わらび。○鄭瓜州…杜甫の友人の鄭審、瓜州は村名。

（参考文献）　『唐詩選』　　　　

 

 

★    初入諫司喜家室至　　　初めて諫司(かんし)に入り家室(かしつ)の至るを喜ぶ　　　　唐　　竇　羣

 

一旦悲歡見孟光　　　　一旦の悲歓 孟光(もうこう)を見る

十年辛苦伴滄浪　　　　十年の辛苦 滄浪(そうろう)を伴う

不知筆硯緣封事　　　　知らず　筆硯(ひっけん)　封事(ふうじ)に縁(よ)るを

猶問傭書日幾行　　　　猶お問う 傭書(ようしょ) 日に幾行(いくぎょう)

 

【語釈】　　

○諫司…天子を諫めるもの（補闕、拾遺）が努める役所。○家室…妻。○一旦…忽ち。○悲歡…悲しみと喜び。○孟光…後漢の梁鴻の妻、夫に定説を尽くし「挙案斉眉」で知られる。自分の妻をなぞらえた。○滄浪…屈原のような流謫の身。○筆硯緣封事…天子へ奏上する諫文に封をすること。○傭書…賃仕事の筆耕文。

(参考文献)　　『三体詩』

 

★    奉誠園聞笛　　　　　　　奉(ほう)誠(せい)園(えん)にて笛を聞く　　　　　　　　　　  唐　　竇　牟

 

曾絶朱纓吐錦茵　　　　　曽(かつ)て 朱纓(しゅえい)を絶ち 錦茵(きんいん)に吐く

欲披荒草訪遺塵　　　　　荒草を披(ひら)き 遺塵を訪わんと欲す

秋風忽灑西園淚　　　　　秋風 忽(たちま)ち灑(そそ)ぐ 西園の涙

滿目山陽笛裏人　　　　　満目の山陽 笛(てき)裏(り)の人

 

【語釈】

○奉誠園…唐の司徒馬燧の旧宅であった園名。○朱纓…朱色の纓。○錦茵…芳草。○遺塵…前人の行動の跡。○西園…上林園。

 

　　　

★    上汝州郡樓　　　　　　汝州(じょしゅう)の郡楼に上る　　　　　　　　　　  唐　　李　益

 

黃昏鼓角似邊州　　　　黄昏(こうこん)の鼓角 辺州に似たり

三十年前上此樓　　　　三十年前 此の楼に上る

今日山川對垂淚　　　　今日 山川 垂(すい)涙(るい)に対す

傷心不獨爲悲秋　　　　心を傷むるは 独り 悲秋の為のみならず

 

【語釈】

○汝州…河南省汝州市。○郡楼…郡の役所の楼。○黃昏…たそがれ。○鼓角…太鼓と角笛。○邊州…辺境の地。

 

 

★    聽舊宮人穆氏唱　　　旧宮人穆(ぼく)氏(し)の唱(うた)を聴く　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

曾隨織女渡天河　　　　曽(かつ)て 織女に隨い 天河を渡る

記得雲間第一歌　　　　記し得たり 雲間 第一の歌

休唱貞元供奉曲　　　　唱(うた)うを休めよ　貞元(じょうげん) 供奉(ぐぶ)の曲

當時朝士已無多　　　　当時の朝士　已に多きこと無し

 

【語釈】

○宮人穆氏…不祥、宮人は宮女。○織女…穆氏のこと。○渡天河…作者が宮中に入ったこと。○記得…記憶した。○貞元…徳宗の年号。○供奉曲…天子の為に奏する曲。○朝士…朝廷の官。

（参考文献）　　『三体詩』

 

　　　

★    宿府池西亭　　　　　　府(ふ)池(ち)の西亭に宿す　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

池上平橋橋下亭　　　　池上の平(へい)橋(きょう) 橋下(きょうか)の亭

夜深睡覺上橋行　　　　夜 深くして 睡(ねむり) 覚めて 橋を上りて行く

白頭老尹重來宿　　　　白頭の老尹(ろういん) 重ねて 来宿すれば

十五年前舊月明　　　　十五年前 旧月 明らかなり

 

【語釈】

○府池…河南伊〔河南府の長官〕の役所の池。○平橋…そりが無い平たい橋。○老尹…退官した河南伊，作者。○舊月…往昔のままの月。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　十二下』

 

★    感舊詩卷　　　　　　　旧詩巻(きゅうしかん)に感ず  　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

夜深吟罷一長吁　　　　夜深く 吟じ罷(や)みて 一たび長(ちょう)吁(く)す

老淚燈前濕白鬚　　　　老涙 灯前 白(はく)鬚(しゅ)を湿す

二十年前舊詩卷　　　　二十年前の 旧詩巻(きゅうしかん)

十人酬和九人無　　　　十人の酬和(しゅうわ) 九人は無し

 

【語釈】

○舊詩卷…古い詩を書いた巻物。○長吁…長いため息をつく。○白鬚…白いヒゲ。○酬和…（詩に）唱和すること。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　白氏文集　十一』

 

 

★    梨園弟子　　　　　　　梨園(りえん)の弟子(ていし)　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易　

             

白頭垂淚話梨園　　　　白頭 涙を垂れて 梨園(りえん)を話(かた)る

五十年前雨露恩　　　　五十年前 雨露(うろ)の恩

莫問華清今日事　　　　問う莫かれ 華(か)清(せい) 今日の事

滿山紅葉鏁宮門　　　　満山の紅葉 宮門鏁(とざ)す

 

【語釈】

○梨園…玄宗が設けた楽士養成所。○話…語。当時の俗語。○雨露恩…万物を育成させ縷雨露のように万民を慈しむ天恩。○華清…華清宮。

（参考文献）　　　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

             

 

★    詠懷　　　　　　　　　詠(えい)懐(かい) 　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

歲去年來塵土中　　　　歳(とし)去り 年来(きた)る 塵土の中(うち)

眼看變作白頭翁　　　　眼に看る 変じて白頭翁と作(な)るを

如何辦得歸山計　　　　如何(いかん)んぞ 弁じ得ん 帰山の計

兩頃村田一畝宮　　　　両(りょう)頃(けい)の村田 一(いっ)畝(ぽ)の宮(きゅう)

 

【語釈】

○塵土…俗世間。○眼看…まざまざと見る。○如何…どのようにして、反語。○帰山…退官して故郷の山に帰って隠棲すること。○宮…家。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

 

★    望月懷江上舊遊　　　　月を望み 江上の旧遊を懐う　　　　　　  唐　　雍　陶

 

往歲曾隨江客船　　　　往(おう)歳(さい) 曽て 江客(こうかく)の船に随う

秋風明月洞庭邊　　　　秋風 明月 洞庭の辺

爲看今夜天如水　　　　今夜 天 水の如きを看しが為に

憶得當時水似天　　　　憶い得たり 当時 水 天に似たるを

 

【語釈】

○舊遊…昔日の遊覧。○往歲…昔年。○江客…江上の旅人。○洞庭…洞庭湖。湖南省北部にある淡水湖。○憶得…思い出した。

 

　

 

★    勸行樂　　　　　　　　行楽を勧む　　　　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

老去風光不屬身　　　　老去りては　風光　身に属さず

黃金莫惜買青春　　　　黄金　惜む莫かれ　青春を買うに

白頭縱作花園主　　　　白頭 縦(たと)い 花園の主と作るも

醉折花枝是別人　　　　酔いて花枝を折るは 是れ 別人

 

【語釈】

○老去…老人になる。○風光…景色。

 

 

★    寄隱者　　　　　　　　隠者に寄す　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

無媒徑路草蕭蕭　　　　無媒(むばい)の径路 草蕭々(しょうしょう)

自古雲林遠市朝　　　　古自(いにしえよ)り 雲林 市朝に遠ざかる

公道世間唯白髮　　　　世間に 公道たるは 唯だ白髪

貴人頭上不曾饒　　　　貴人の頭上にも 曽て饒(ゆる)さず

 

【語釈】

○無媒…人里離れた寂しい所。逕路…こみち。○蕭々…ものさびしいさま。草がゆれうごくさま。○雲林…隠者の住む処。雲のたちこめる山深き林の中。○市朝…人のおおぜい集まる場所。○公道…公平な。○貴人…身分の高い人。○不曾…決して～しない。○不曾饒…ゆるさない、貴人の頭も白髪となる。

（参考文献）　　　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

　

 

★    秋思　　　　　　　　　秋思　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　許　渾

 

琪樹西風枕簟秋　　　　琪樹(きじゅ) 西風 枕簟(ちんてん)の秋

楚雲湘水憶同遊　　　　楚雲 湘水 同遊を憶う

高歌一曲掩明鏡　　　　高歌一曲 明鏡を掩う

昨日少年今白頭　　　　昨日の少年 今は白頭

 

【語釈】

○琪樹… 美しい木々、琪は玉の名。○西風…秋風。枕簟…枕と簟（竹で編んだむしろ）、転じて夏の寝具。○楚雲…楚の空に浮かぶ雲、楚は、湖北・湖南省一帯を指す。○湘水…湘江。○同遊 …昔いっしょに遊んだ友人。憶…思い出す。○高歌一曲…声高らかに一節ひとふし歌うこと。

(参考文献)　　『唐詩選』

 

　　　

★    贈彈箏人　　　　　　　箏(こと)を弾く人に贈る　　　　　　　　　　　    唐　　溫庭筠

 

天寶年中事玉皇　　　　天宝(てんぽう)年中(ねんちゅう) 玉(ぎょく)皇(こう)に事(つか)え

曾將新曲敎寧王　　　　曽て 新曲を将(も)って 寧王に教ゆ

鈿蟬金雁皆零落　　　　鈿蟬(でんせん) 金(きん)雁(がん) 皆零落(れいらく)し

一曲伊州淚萬行　　　　一曲の伊州(いしゅう) 涙 万行

 

【語釈】

○天寶年中…玄宗の時代の年号（七四二～七五六年）。○玉皇…皇帝、玄宗。○李憲…玄宗の兄李憲。○鈿蟬…蝉をかたどった螺鈿の琴の飾り。○金雁…雁に似た金の琴柱。○零落…落ちぶれる。○伊州…伊州曲、北地の哀音を奏でる。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    南莊春望　　　　　　　南荘(なんそう)春(しゅん)望(ぼう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李羣玉

 

草暖沙長望去舟　　　　草暖かく 沙長くして 去舟を望む

微茫煙浪向巴丘　　　　微茫(びぼう)たる 煙浪(えんろう) 巴(は)丘(きゅう)に向う

沅湘寂寂春歸盡　　　　沅湘(げんしょう) 寂々(せきせき) 春 帰り尽き

水綠蘋香人自愁　　　　水は緑に 蘋(ひん)は香(かんば)しくして 人 自(おのず)ら愁う

 

【語釈】

○沙…砂浜。○去舟…去りゆく舟。○微茫…かすかでぼんやりしているさま。○巴丘…湖南省岳陽府。○沅湘…沅江と湘江が流れる一帯。○寂寂…寂しく静かなさま。○春歸…春が過ぎ去る。○蘋…浮き草。

（参考文献）　　『三体詩』

 

　　　

★    宋州月夜感懷　　　　　宋州(そうしゅう)月夜(げつや)感懐(かんかい) 　　　　　　　　　　　　　  唐　　儲嗣宗

 

鴈池衰草露霑衣　　　　鴈(がん)池(ち)の衰草 露 衣を霑(うるお)す

河水東流萬事微　　　　河水の東流 万事微(かすか)なり

寂寞青陵臺上月　　　　寂寞(せきばく)たる 青陵台上の月

秋風滿樹鵲南飛　　　　秋風 樹に満ち 鵲(かささぎ) 南に飛ぶ

 

【語釈】

○宋州…河南省商丘市睢阳区。○鴈池…帝王の園林中の池。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○青陵臺…山東省鄆州にあった台。

 

 

★    退朝望終南山　　　　　退朝して終南山を望む　　　　　　　　  唐　　李　拯

 

紫宸朝罷綴鴛鸞　　　　紫宸(ししん) 朝(ちょう) 罷(や)みて 鴛鸞(おうらん)を綴(つづ)る

丹鳳樓前駐馬看　　　　丹(たん)鳳楼前(ほうろうぜん) 馬を駐むるを看る

惟有終南山色在　　　　惟だ 終南 山色の在る有るのみ

晴明依舊滿長安　　　　晴明 旧に依り 長安に満つ

 

【語釈】

○退朝…朝見の儀から退出する。○終南山…長安の南にある山。○紫宸…天子の居住する宮殿。○鴛鸞…官吏の比喩。○丹鳳樓…大明宮の上部の門楼。○山色…山の景色。○晴明…明るくて朗快なさま。○依舊…以前のまま。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    秋日感懷　　　　　　　秋日感懷　　　　　　　　　　　　　　  唐　　唐彦謙

 

溪上芙蓉映醉顏　　　　溪上の芙蓉 醉顏に映ず

悲秋宋玉鬢毛斑　　　　悲秋 宋玉 鬢(びん)毛(もう)斑(まだら)なり

無情最恨東流水　　　　無情 最も恨むは 東流の水

暗逐芳年去不還　　　　暗に 芳年を逐(お)い 去りて還らず

 

【語釈】

○宋玉…屈原の弟子と言われ、重用されなかった人。自身になぞらえる。○鬢毛…頭髪。○芳年…青年の頃の良き日。

 

 

★    批子弟理舊居狀　　　　子弟の旧居状を理(おさ)め批(ひ)す　　　　　　　　   唐　　楊　玢

 

四鄰侵我我從伊　　　　四隣 我を侵し 我 伊(これ)に従う

畢竟須思未有時　　　　畢竟(ひっきょう) 須(すべら)く思うべし 未だ有らざる時

試上含元殿基望　　　　試みに含み 元(げん)殿基(でんき)に上りて 望めば

秋風秋草正離離　　　　秋風 秋草 正に離々(りり)たり

 

【語釈】

○舊居狀…旧居についてのもめ事の訴状。○理…責任を持って納める。○批…批判する。○四鄰…四方の隣。○須…「すべからく～すべし」とよみ「必ず～しなければならない」の意。○元殿基…蓬莱宮。長安の東郊、龍首山上にあった。高宗が造営。○離離…草木が生い茂っているさま。

 

 

★    覩野花思京師舊遊　　　野花を覩(み) 京師(けいし)の旧遊を思う              唐　　無名氏

 

曾至街西看牡丹　　　　曽(かつ)て 街西に至り 牡丹を看る

牡丹纔謝便心闌　　　　牡丹 纔(わずか)に謝し 便ち 心 闌(たけなわ)なり

如今變作村園眼　　　　如(じょ)今(こん) 変じて 村園の眼と作り

鼓子花開也喜歡　　　　鼓子(こし)花(か) 開いて 也(ま)た喜歓(きかん)す

 

【語釈】

○京師…帝都。○舊遊…昔の交游。○謝…散る。○如今…今。○鼓子花…ヒルガオ。

 

 

★    解印　　　　　　　印を解く　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　廖　凝

 

五斗徒勞漫折腰　　　　五斗 徒(いたずら)に労して 漫(みだり)に腰を折らず

三年兩鬢爲誰焦　　　　三年 両鬢 誰が為にか焦(こが)す

今朝官滿重歸去　　　　今朝 官 満ちて 重ねて帰り去る

還挈來時舊酒瓢　　　　還(たずさ)た挈(たずさ)う　来時の旧酒(しゅ)瓢(ひょう)

 

【語釈】

○解印…官を辞める。○五斗…官吏の薄給（陶淵明）。○折腰…へつらう（陶淵明）。○焦…白髪になる。○酒瓢…酒を入れるひさご。

 

 

★    長安早秋　　　　　　　長安(ちょうあん)早秋(そうしゅう)　　　　　　  　　　　　　　　唐　　子　蘭

 

風舞槐花落御溝　　　　風は槐(かい)花(か)に舞い 御溝に落つ　

終南山色入城秋　　　　終南の山色 城に入りて秋なり　

門門走馬徵兵急　　　　門々の走馬 徴兵 急なるに　

公子笙歌醉玉樓　　　　公子 笙歌し 玉楼に酔う

 

【語釈】

○槐花…エンジュの花。○御溝…宮城の堀。○終南…終南山。長安の南にある山。○山色…山の景色。○公子…身分の高い人の子供。○玉樓…玉で飾った楼閣。

 

 

★    題關右寺壁　　　　　　関(かん)右寺(うじ)の壁(かべ)に題す(だいす)　　　　　　　　　　  宋　　姚嗣宗

 

欲挂衣冠神武門　　　　衣冠を挂けんと欲す 神武門

先尋水竹渭南村　　　　先ず尋ぬ 水竹 渭南の村

却將舊斬樓蘭劍　　　　却って 旧と楼蘭を斬る 剣を将(も)って

旋博黄牛教子孫　　　　旋(つい)で黄牛に博(ひろめ)て子孫に教えん

 

【語釈】

○關右寺…不祥。○神武門…建業（南京）にあった宮門。○渭南…陕西省渭南市。○楼蘭…西域にあった国の名。○黄牛…黄色い毛の牛。立派な牛。

 

 

★    途中　　　　　　　　　途中 　　　　　　　　　　　　　　　 宋　　張　詠

 

人情到底重官榮　　　　人情 到底 官栄を重ぬ

見我東歸夾路迎　　　　我の東帰するを見て 路を夾(はさ)みて迎う

不免舊溪高士笑　　　　免れず 旧渓 高士の笑

天真喪盡得虛名　　　　天真 喪(うしな)い尽して 虚名を得たり

 

【語釈】

○到底…つまるところ。○官榮…官爵の栄誉。○東歸…故郷に帰る。○高士…隠棲して仕官しなかった人。○天真…人間の本性。

 

 

★    雨中聞鶯　　　　　　　雨中鶯を聞く　　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇舜欽

 

嬌騃人家小女兒　　　　嬌騃(きょうがい)たる人家の 小女児(しょうじょじ)

半啼半語隔花枝　　　　半ば啼き 半ば語り 花枝を隔つ

黄昏雨密東風急　　　　黄昏(こうこん) 雨 密にして 東風急なり

向此漂零欲泥誰　　　　此(ここ)漂(ひょう)零(れい)に向(むか)いて 誰を泥(でい)せんと欲す

 

【語釈】

○嬌騃…なまめかしく愚か。○小女兒…ここでは鶯。○黄昏…たそがれ。○東風…春風。○漂零…落ちぶれること。

 

　　　

★    縱筆　　　　　　　　　縦(じゅう)筆(ひつ)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

寂寂東坡一病翁　　　　寂々(せきせき)たり 東坡の一病翁

白鬢蕭散滿霜風　　　　白(はく)鬢(びん) 蕭散(しょうさん)し 霜風(しょうふう)に満つ

小兒誤喜朱顏在　　　　小児 誤って喜ぶ 朱顔在るを

一笑那知是酒紅　　　　一笑　那(な)んぞ知らん　是れ酒(しゅ)紅(こう)なるを

 

【語釈】

○縱筆…手に任せて書いた詩。○寂寂…寂しく静かなさま。○東坡…蘇軾の号。○湖北省黃岡県の地名。○蕭散…消え散じる。○霜風…骨を指すような寒さ。○朱顔…青年の美しい赤い顔。○酒紅…酒に酔ったときの赤ら顔。

　　　

 

★    天津感事　　　　　　　天津(てんしん)事に感ず　　　　　　　　　　　　　  宋　　邵　雍

 

前朝無限貴公卿　　　　前朝 限り無き 貴公(きこう)卿(けい)

後世徒能記姓名　　　　後世 徒(いたずら)に能(よ)く 姓名を記す

唯有天津橋下水　　　　唯(た)だ 天津(てんしん)橋下(きょうか)の水のみ有りて

古今都作一般聲　　　　古今 都(すべ)て 一般の声を作す

 

【語釈】

○前朝…以前の王朝。○天津橋…洛陽の西南にある橋の名。○一般聲…今も昔も変わらぬ尋常一般の声。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

　

 

★    春詞　　　　　　　　　春詞　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

靄靄芳園誰氏家　　　　靄(あい)々(あい)たる芳(ほう)園(えん) 誰の氏の家か

朱門橫鎖夕陽斜　　　　朱門 横鎖(おうさ)して 夕陽(せきよう)斜なり

鳩鳴散噪閒庭館　　　　鳩 鳴き散じ噪ぐ 閑庭の館

盡日春風吹百花　　　　尽日(じんじつ) 春風 百花を吹く

 

【語釈】

○靄靄…靄のかかっているさま。○朱門…高貴な身分の人の門。○閑庭…静かな庭。○盡日…一日中。

 

 

★    病中聞雨　　　　　　　病中 雨を聞く　　　　　　　　　　　　   宋　　李昭玘

 

官居寥落禁門東　　　　官居 寥落(りょうらく)たり 禁門の東

秋滿長安一夜風　　　　秋は満つ 長安 一夜の風

老病不眠成展轉　　　　老病 眠らず 展転(てんてん)を成す

五更鐘鼓雨聲中　　　　五更の鐘鼓 雨声の中(うち)

 

【語釈】

○官居…官吏の宿舎。○寥落…荒れ果ててすさまじいさま。○禁門…宮城の門。○展轉…寝返りを打つ。

 

 

★    宿西軒　　　　　　　　西軒に宿す　　　　　　　　　　　　  宋　　任伯雨

 

茅簷不動晚風微　　　　茅簷(ちえん) 動かず 晩風微(かすか)なり

獨對爐烟枕半攲　　　　独り 炉煙に対し 枕 半ば攲(そばだ)つ

惟有多情沙上月　　　　惟(た)だ 多情 沙上の月のみりて

依然青瑣照人時　　　　依然たる青瑣 人を照す時

 

【語釈】

○茅簷…茅製の軒。茅吹きの家。○依然…昔のまま。○青瑣…くさりの模様を施して青色でかざったもの。

 

 

★    焚香有感　　　　　　　香を焚(た)きて感有り　　　　　　　　　　　　宋　　任伯雨

 

掃地焚香開竹扉　　　　地を掃(はら)い 香を焚(た)き 竹扉を開く

輕烟郁郁閒朝暉　　　　軽煙 郁々(いくいく) 朝暉(ちょうき)の間

却思昔日延和殿　　　　却って思う 昔日 延和(えんわ)殿(でん)

對罷曾携滿袖歸　　　　対し罷(や)みて 曽(かつ)て満袖(まんしゅう)を携えて帰るを

 

【語釈】

○郁郁…香しいさま。○朝暉…朝日。○延和殿…宮殿の名。○滿袖…香りが満ちた袖（杜甫「朝罷香煙攜滿袖」）。

 

 

★    題諸宮　　　　　　　　諸宮に題す　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　廖　剛

 

蔓草春深綠更齊　　　　蔓草(まんそう) 春深くして 緑 更に斉(ととの)う

玉鞭何處選芳菲　　　　玉(ぎょく)鞭(べん) 何れの処か 芳菲(ほうひ)を選ばん

舊時錦綉叢中蜨　　　　旧時 錦綉(きんしゅう) 叢中(そうちゅう)の蜨(ちょう)

却傍疏籬野菜飛　　　　却って 疏籬(そり) 野菜に傍いて飛ぶ

 

【語釈】

○蔓草…つる草。○玉鞭…玉の鞭。馬に乗った貴人。○芳菲…香花芳草。○錦綉…花紋色彩で飾った刺繍品。○叢中…くさむら。○蜨…蝶々。○疏籬…疎らなまがき。

 

 

★    題青泥市蕭寺壁　　　　青泥市 蕭寺の壁に題す 　　　　　　宋　　岳　飛

 

雄氣堂堂貫斗牛　　　　雄気 堂々　斗(と)牛(ぎゅう)を貫く

誓將直節報君讎　　　　誓って 直節を将(も)って 君讎(くんしゅう)に報ぜん

斬除頑惡還車駕　　　　頑(がん)悪(あく)を斬(ざん)除(じょ)し 車駕を還(かえ)さん

不問登壇萬戸侯　　　　問わず　登壇の万(ばん)戸(こ)侯(こう)

 

【語釈】

○堂堂…調って盛んなさま。○斗牛…北斗と牽牛の二つの星。○君讐…皇帝の仇（金族）。○報…刑罰を下す。○頑惡…頑強で猛悪な敵。○斬除…切り捨てる。○車駕…皇帝の馬車。○登壇…大将を拝する式壇に登ること。○萬戸侯…一万戸の封を得た侯爵。

 

 

★    惜海棠未開　　　　　　海棠(かいどう)の未だ開かざるを惜しむ　　　　　　　  宋　　程　敦

 

今年春色可勝嗟　　　　今年の春色 勝(た)えて嗟(さ)すべきや

二月山中未見花　　　　二月の山中 未だ花を見ず

長憶去年今夜月　　　　長(とこしえ)に憶う 去年 今夜の月

海棠花影到窗紗　　　　海棠(かいどう)花(か)影(えい) 窓紗(そうしゃ)に到るを

 

【語釈】

○春色…春景色。○窗紗…窓に薄絹のカーテン。

 

 

★    新亭　　　　　　　　　新亭　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　史正志

 

龍盤虎踞阻江流　　　　竜盤(りゅうばん)虎踞(こきょ) 江流を阻(はば)む

割據由來起仲謀　　　　割拠 由来 仲謀起る

從此但誇佳麗地　　　　此れ従(よ)り 但だ誇る 佳麗の地

不知西北有神州　　　　知らず 西北に 神州有るを

 

【語釈】

○新亭…南京市にあった新亭。王導の故事。新亭の涙。○龍盤虎踞…地勢が険阻で要害の地であることをいう。○割拠…南北朝に別れていたこと。○仲謀…呉の孫権。○佳麗…風光明媚なこと。○神州…新亭に於いて王導が言った晉の地。

 

 

★    有感　　　　　　　　　　感有り　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

昨夜江邊春水生　　　　昨夜 江辺 春水生ず

蒙衝巨艦一毛輕　　　　蒙衝(もうしょう) 巨艦 一毛軽し

向來枉費推移力　　　　向来(きょうらい) 枉(まげ)て費す 推移の力

此日中流自在行　　　　此の日 中流 自在に行く

 

【語釈】　

○蒙衝…戦いに用いる細長の舟。○向來…これまで（春水で川の水かさが増す前）。○枉…いたずらに。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

 

　

 

★    闕題　　　　　　　　　闕(けつ)題(だい)　　　　　　　　　　　　　　   宗　　王  檝

 

到處江山是戦場　　　　到る処 江山 是(こ)れ戦場

淮民依舊説耕桑　　　　淮(わい)民(みん) 旧に依り 耕(こう)桑(そう)を説く

梅花不識興亡恨　　　　梅花は識らず 興亡の恨

猶向東風笑夕陽　　　　猶お 東風に向って 夕陽(せきよう)を笑う

 

【語釈】　

○江山…山河。○依舊…昔の如く。○淮民…淮水の流域の民。○耕桑…農業に従事すること。○東風…春風。

 

　　　

★    會同館　　　　　　　　会同館　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大       

 

萬里孤臣致命秋　　　　万里 孤臣 命を致たす秋(とき)

此身何止一漚浮　　　　此の身 何んぞ止まらん 一漚の浮くに

提携漢節同生死　　　　漢節を提携して 生死を同じくす

休問羝羊解乳不　　　　問うを休めよ 羝羊 乳を解くかいなやかと

 

【語釈】

○會同館…外国からの使者を接待するところ。○一漚…一粒の泡。○漢節…天子の使者である事を示す割り符。蘇武の故事。○羝羊…男羊。○解乳…乳を出す。○羝羊解乳…蘇武の故事。

 

 

★    鎖宿省中心氣大作通夕不寐　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　楊萬里

宿省中に鎖され 心気 大作(な)る 通夕 寐(いね)ず

 

絕恨詩人浪許癡　　　　絶(はなはだ)恨む 詩人 浪(みだり)に許痴(きょち)なるを

四更無睡只哦詩　　　　四更 睡る無く 只だ詩を哦(うた)う

老鈴枕手眠窗底　　　　老鈴 手を枕にして 窓底に眠り

急雨顛風總不知　　　　急雨 顛風(てんぷう) 総て知らず

 

【語釈】

○鎖宿省中…科挙の試験官として試験場に閉じ込められること。○許癡…正しい判断ができないこと。○四更…午前1時～3時頃。○顛風…暴風。

 

 

★    感秋　　　　　　　　　秋に感ず　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

舊不悲秋只愛秋　　　　旧(も)と秋を悲しまず 只だ 秋を愛す

風中吹笛月中樓　　　　風中 笛を吹く 月中の楼

如今秋色渾如舊　　　　如(じょ)今(こん) 秋色 渾(すべ)て旧の如し

欲不悲秋不自由　　　　秋を悲しまざらんと 欲すれども 自由ならず

 

【語釈】

○舊…以前は。○如今…今。○秋色…秋景色。

 

 

　

 

★    秋夕不寐             秋夕(しゅうせき)寐(いね)ず　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

夏熱通宵睡不成　　　　夏熱 通(つう)宵(しょう) 睡(ねむり) 成らず

秋涼老眼又偏醒　　　　秋涼 老眼 又 偏(ひとえ)えに醒(さ)む

窗虛月白清無夢　　　　窓 虚しく 月 白くして 清く 夢無し

却爲西風數漏聲　　　　却って 西風 為に漏声を数う

 

【語釈】

○通宵…一晩中。○西風…秋風。○漏聲…水時計の音。

 

　　　

★    冬夜聞角聲　　　　　　冬夜聞角声　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

憶在梁州夜雪深　　　　憶(おもい)は梁州に在りて 夜雪深し

落梅聲裏玉關心　　　　落梅声裏(らくばいせいり) 玉関(ぎょくかん)の心

山城老去功名忤　　　　山城に老去りて 功名忤(さから)う

臥對寒燈泪滿襟　　　　臥して 寒灯に対し 泪(なみだ)襟(きん)に満つ

 

【語釈】

○角聲…角笛の音。○梁州…河南省商丘市。○玉關…玉門関。○襟…襟。

　　　

 

★    秋晚思梁益舊遊　　　　秋晩 梁益(りょうえき)の旧遊を思う　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

幅巾笻杖立籬門　　　　幅巾 笻(きょう)杖(じょう) 籬門(りもん)に立つ

秋意蕭條欲斷魂　　　　秋意 蕭(しょう)条(じょう)として 魂を断たんと欲す

恰似嘉陵江上路　　　　恰(あたか)も似たり 嘉(か)陵(りょう) 江上の路

冷雲微雨濕黄昏　　　　冷雲 微雨 黄昏(こうこん)を湿(うるお)す

 

【語釈】

○梁益…蜀の地。○舊遊…昔の遊び。○幅巾…頭巾。○笻杖…杖をつく。○籬門…竹垣の門。隠者の住まい。○秋意…秋の気配。○蕭條…物寂しいさま。○嘉陵…四川省東部の嘉陵江。○黄昏…たそがれ。

 

 

★    春晚懷山南　　　　　　春晩に山南を懐う　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

梨花堆雪柳吹綿　　　　梨花は雪を堆(つ)みて 柳は綿を吹く

常記梁州古驛前　　　　常に記す 梁州(りょうしゅう) 古駅の前

二十四年成昨夢　　　　二十四年 昨夢と成り

每逢春晚即凄然　　　　春晩に逢う毎に 即ち凄然(せいぜん)たり

 

【語釈】

○山南…陝西省漢中市の南側。○梁州…陝西省漢中市。○昨夢…昨夜の夢。○凄然…寂しくいたましさま。

（参考文献）　　『漢詩大系　１９』

 

　

 

★    春晚懷山南　　　　　　春晩 山南を懐う　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

壯歲從戎不憶家　　　　壮(そう)歳(さい) 戎(じゅう)に従って 家を憶わず

梁州裘馬鬭豪華　　　　梁州(りょうしゅう) 裘(きゅう)馬(ば) 豪華に闘う

至今夜夜尋春夢　　　　今に至って 夜々 春夢を尋ぬ

猶在吳園藉落花　　　　猶お 呉園に在りて 落花を藉(し)く

 

【語釈】

○壯歲…壮年。○從戎…従軍する。○梁州…陝西省漢中市を中心とした州。○裘馬…輕裘肥馬。豪華な生活。○春夢…春の夢。ものごとのはかないことの譬え。○呉園…江蘇省蘇州周辺にあった園。

 

 

★    感昔　　　　　　　　　昔に感ず　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

行遍天涯只漫勞　　　　天涯を行遍(こうへん)して 只だ漫(まん)労(ろう)す

歸來登覽興方豪　　　　帰り来りて 登覧(とうらん)すれば 興方(こうほう)豪なり

雲生神禹千年穴　　　　雲は生ず 神禹(せんぐう) 千年の穴

雪捲靈胥八月濤　　　　雪は捲く 霊胥(れいしょ) 八月の濤(なみ)

 

【語釈】

○行遍…遍く行く。○天涯…空の果ての地。○漫勞…あてどなくさまよう。○登覽…高所に登って眺める。○神禹…夏王朝の帝王禹。○靈胥…伍子胥の靈。

 

 

 

★    感昔　　　　　　　　　昔に感ず　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

曾從征西十萬師　　　　曽(かつ)て従う 征西 十万の師

白頭回顧只成悲　　　　白頭 回顧すれば 只だ 悲しみを成すのみ

雲深駱谷傳烽處　　　　雲は深し 駱(らく)谷(こく) 伝烽(でんほう)の処

雪密嶓山校獵時　　　　雪は密(こまや)かなり 嶓山(はざん) 校猟(こうりょう)の時

 

【語釈】

○西十萬師…陝西省漢中市にあった南宋の軍隊。○駱谷…陝西省漢中市駱谷、当時の最前線。○傳烽處…のろし台。○嶓山…陝西省漢中市の山。○校獵…鳥獣が逃げないように柵をしておいて猟をすること。

(参考文献)　　『新釈漢文大系　１９』

 

 

★    醉歌　　　　　　　　　酔歌　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

百騎河灘獵盛秋　　　　百騎 河灘(かたん) 盛秋に猟す

至今血漬短貂裘　　　　今に至って 血は漬(そ)む 短貂裘(たんちょうきゅう)

誰知老卧江湖上　　　　誰か知らん 老いて 江湖の上に卧(ふ)し

猶枕當年虎髑髏　　　　猶お枕(まくら)す 当年の虎(こ)髑髏(どくろ)

 

【語釈】

○河灘…川が浅くて石が露出する地方。○短貂裘…短い貂のかわごろも。○江湖…川と湖の多い地方。隠棲の地。○虎髑髏…虎の頭蓋骨。

 

★    排悶　　　　　　　　　排悶(はいもん)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

四十從軍渭水邊　　　　四十 軍に従う 渭(い)水(すい)の辺

功名無命氣猶全　　　　功名 命無く 気猶お全(まった)し

白頭爛醉東呉市　　　　白頭 爛酔(らんすい) 東呉の市

自拔長刀割彘肩　　　　自ら長刀を抜いて 彘(てい)肩(けん)を割る

 

【語釈】

○排悶…煩悶を消す。○四十…四十才。○渭水…西安市近くを東流する黄河の支流。○爛醉…大酔。○東呉…江蘇省蘇州市。○彘肩…豚の肩の肉。

 

 

★    感舊　　　　　　　　　旧に感ず　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

雕鞍送客雙流驛　　　　雕(ちょう)鞍(あん) 客(かく)を送る 双流駅(そうりゅうえき)

銀燭看花萬里橋　　　　銀燭 花を看る 万里橋(ばんりきょう)

三十三年真一夢　　　　三十三年 真に一夢

茆簷寒雨夜蕭蕭　　　　茆簷(ぼうえん)の寒雨 夜に蕭々(しょうしょう)たり

 

【語釈】

○雕鞍…彫刻飾った華美な鞍。○雙流驛…不祥。○萬里橋…四川省成都市にある橋。○茆簷…萱葺きのひさし。○蕭蕭…風や雨のものさびしい音の形容。

 

 

　

★    書感　　　　　　　感を書す　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

行遍天涯等斷蓬　　　行きて 天涯に遍(あまね)きこと 断(だん)蓬(ぽう)に等し

作詩博得一生窮　　　　詩を作りて 博(かち)ち得たり 一生の窮(きゅう)

可憐老境蕭蕭夢　　　　憐むべし 老境 蕭々(しょうしょう)の夢

常在荒山破驛中　　　　常に 荒山破(こうざんは)駅(えき)の中に在り

 

【語釈】

○天涯…空の果て。○斷蓬…根のちぎれた蓬。風に吹かれてさまよう。○博得…得た物は～だけであった。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。ここでは、寂しくうら悲しいさま。○荒山…尋ねる人もなく荒廃した山。○破驛…荒廃した宿場。

 

★    春日雜詠　　　　　　　春日雑詠　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

攪睡禽聲曉傍簷　　　　睡(ねむり)を攪(おぼ)ゆる禽声　暁に簷(ひさし)に傍う

泥人花氣午穿簾　　　　人を泥する花気 午に簾を穿つ

歡情老去年年薄　　　　歓情 老去りて 年々薄し

困思春來日日添　　　　困思 春来りて 日々添う

 

【語釈】

○泥…よごす。○花氣…花の香。○午…正午。○歓情…歓びの思。○老去…老年になって。

 

 

★    貧甚戲作　　　　　　貧甚(はなはだ)し戯(たわむれ)に作る　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

糴米歸遲午未炊　　　　米を糴(か)いて帰ること遅く 午(ひる) 未だ炊(かし)がず

家人竊閔乃翁飢　　　　家人 窃(ひそ)かに閔(あわ)れむ 乃(だい)翁(おう)の飢うるを

不知弄筆東窗下　　　　知らず 筆を東窓の下に弄(もてあそ)び

正和淵明乞食詩　　　　正(まさ)に 淵(えん)明(めい)の食を乞う詩に和するを

 

【語釈】

○糴…穀物を買う。○閔…気の毒がること。○乃翁…おまえの父親。○淵明…陶淵明。

 

★    秋風雨大作　　　　　秋風雨大に作る　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

僵卧孤村不自哀　　　　僵卧(きょうが) 孤村 自(おのずか)ら哀れまず

尚思爲國戍輪臺　　　　尚お思う　国の為に輪(りん)台(だい)を戍(まも)らんと

夜闌卧聴風吹雨　　　　夜闌(やらん) 卧して聴く 風 雨を吹くを

鐵馬冰河入夢來　　　　鉄馬 氷河 夢に入りて来る

 

【語釈】

○僵卧…臥したまま動かない。○輪臺…辺境の地の寨。○夜闌…夜明け前。○鉄馬…戦闘用の鎧を着た馬。

 

 

★    示兒                  児に示す　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

 

死去元知萬事空　　　　死し去らば 元 知る 万事空なるを

但悲不見九州同　　　　但だ悲しむ 九州の同きを見ざることを

王師北定中原日　　　　王師 北のかた 中原を定むる日

家祭無忘告乃翁　　　　家祭 忘る無かれ 乃(だい)翁(おう)に告ぐるを

 

【語釈】

○元知…もともと知っている。○九州…中国全土のこと。○同…一つになること。全土の統一。○王師 … 天子の軍隊。南宋の軍を指す。○中原…中国の中心とされる黄河中流域一帯のこと。○家祭…我が家の先祖の祭り。○乃翁…お前の父親。

（参考文献）　『中国詩人撰集二　８』

 

★    自哂　　　　　　　　　自(みずか)ら哂(わら)う　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳　普

 

曾騎白鶴上揚州　　　　曽(かつ)て 白鶴に騎(の)り 揚州に上る

頭挿花枝秉燭遊　　　　頭に花枝を挿し 燭を秉(と)って遊ぶ

樽酒邇來誰是伴　　　　樽酒 邇来 誰か是れ伴う

白雲收盡數峰秋　　　　白雲 収まり尽くす 数峰の秋

 

【語釈】

○揚州…江蘇省揚州市。○邇来…近ごろ。

 

 

★    自哂　　　　　　　　　自(みずか)ら哂(わら)う　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳　普

 

鬥雞走馬醉高陽        鬥雞走(とうけいそう)馬(ば) 高陽に酔う

今日歸來兩鬢霜　　　　今日 帰来して 両鬢の霜

無限少年心上事　　　　限り無き 少年 心上の事

半簾豆雨語寒螿　　　　半簾の豆雨 寒螿(かんしょう)に語る

 

【語釈】

○鬥雞走馬…闘鶏競馬。古代の博打。晉の時代の酒宴をした園。○高陽…高陽酒弟。酒におぼれて豪放な人のたとえ（史記·酈生陸賈列伝）。○心上…心中。○寒螿…深秋の虫の声。

 

★    自哂　　　　　　　　　自ら哂(わら)う　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳　普

 

世事悠悠酒幾杯　　　　世事(せいじ) 悠々(ゆうゆう) 酒 幾杯

晴窓把鏡獨徘徊　　　　晴窓 鏡を把(と)りて 独り徘徊(はいかい)す　　　

西風吹老梧桐樹　　　　西風 老を吹く 梧桐の樹

仍送新霜兩鬢來　　　　仍(な)お 新霜を送りて 両鬢(りょうびん)に来(きた)る

 

【語釈】

○世事…世上の出来事。○悠悠…無関心なさま。○西風…秋風。○梧桐…アオギリ。

 

 

 

★    淮村兵後　　　　　　　淮(わい)村兵後(そんへいご) 　　　　　　　　　　　　　　　　 宋    戴復古

 

小桃無主自開花　　　　小桃 主 無く 自(おのずか)ら花を開く

烟草茫茫带曉鴉　　　　煙草 茫々(ぼうぼう) 暁(ぎょう)鴉(あ)を带ぶ

幾處敗垣圍故井　　　　幾処(いくところ)の敗(はい)垣(えん)か 故井(こせい)を囲む

郷來一一是人家　　　　郷来(きょうらい)一一 是れ人家

 

【語釈】

○淮村…淮河（南宋と金との国境）流域の村落。○兵…戦い（金軍の侵入）。○煙草…霞みでぼんやりとした遠くの草むら。○茫茫…草が多く生えて乱れているさま。○晩鴉…夕暮れに鳴きながら巣に戻るカラス。○敗垣…壊れた垣根。○故井…古井戸。○向來…今まで。　一一…ひとつひとつ。○是……は…である、be動詞にあたる。

 

 

★    題蔡中卿青在堂　　　　蔡中(さいちゅう)卿(けい)が青在堂(せいざいどう)に題す　　　　　　　　　  宋    戴復古

 

幾人富貴不能閑　　　　幾人か富貴 閑すること能(あた)わず

夜運牙籌日跨鞍　　　　夜 牙籌(がちゅう)を運び 日に 鞍に跨(また)がる

役役一生忙裏過　　　　役々 一生 忙(ぼう)裏(り)に過ぐ

不知屋上有青山　　　　知らず 屋上に青山有るを

 

【語釈】

○蔡中卿…蔡青。漳州（建省南漳州市）龍溪の人。農民の軍に殺された。○青在堂…不祥。○牙籌…象牙、骨、角などで作った計数器。○役役…奔走して苦労するさま。

 

 

★      城市　　　　　　　　　城市　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱繼芳

 

身遊城市髮將華　　　　身は城市に遊び 髪 将(まさ)に華ならんとす

眼見人情似槿花　　　　眼に 人情の槿(きん)花(か)に似たるを見る

惟有梁間雙燕子　　　　惟(た)だ 梁間(りょうかん)に 双燕子(そうえんし)有り

不嫌貧巷主人家　　　　嫌わず 貧(ひん)巷(こう) 主家の人

 

【語釈】

○將…「まさに～せんとす」と読み、「今にも～しようとしている」の意。○華…白髪。○槿花…木槿の花。槿花一日の榮。栄華のはかないことの譬え。○雙燕子…つがいの燕。○貧巷…貧民の集まるちまた。

 

 

★    老奴　　　　　　　　　老(ろう)奴(ど)　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　劉克莊

 

老奴昔逐我西東　　　　老(ろう)奴(ど) 昔 我を逐(お)いて 西東

捷似猿猱跳絶峯　　　　捷(す)むこと 猿猱(えんじゅう)の 絶(ぜっつ)峰(ぽう)に跳るに似たり

今日道旁扶一拐　　　　今日 道(どう)旁(ぼう) 一拐(いっかい)に扶(たす)けらる

乃公安得不龍鍾　　　　乃公(だいこう) 安(やす)んじ得たり 竜鍾(りょうしょう)たらざるを

 

【語釈】

○老奴…年取った召使い。○猿猱…猿。○絶峯…山の頂上。○道旁…道の傍ら。○一拐…一つの杖。○乃公…我が輩。○龍鍾…老いてやつれ病むさま。

 

 

★    記夢　　　　　　　　　夢に記す　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

父兄誨我髧髦初　　　　父兄 我を誨(おし)える 髧髦(たんぼう)の初(はじめ)

老不成名鬢髮疎　　　　老いて 名 成らず 鬢(びん)髪(ぱつ)疎(まだら)なり

紙帳鐵檠風雪夜　　　　紙帳(しちょう) 鉄檠(てつけい) 風雪の夜

夢中猶誦小時書　　　　夢中 猶お誦(そらん)んず 小時の書

 

【語釈】

○髧髦…古代の小兒の髪型。○紙帳…紙のとばり。○鐵檠…鉄製の灯火の台。

 

 

★    朱門　　　　　　　　　朱門　　　　　　　　　　　　　　  宋　　周端臣

 

朱門茅屋偶爲隣　　　　朱門 茅屋 偶(たまた)ま隣(りん)を爲す

北阮誰憐南阮貧　　　　北阮(ほくげん) 誰か憐まん 南阮(なんげん)の貧

却是梅花無世態　　　　却って是れ 梅花 世態(せたい)無し

隔牆分送一枝春　　　　牆(かき)を隔てて 分ち送る 一枝の春

 

【語釈】

○朱門…紅色の漆で塗った大門。貴族富豪の家。○茅屋…茅吹きの粗末な家。○北阮・南阮…親族の内で富裕な者を北阮、貧しい者を南阮という。『世説新語』任誕：阮仲容。○世態…世の中の有様。

 

 

★    京城翫月　　　　　　　京城 月を翫(もてあそ)ぶ　　　　　　　　 　　　 宋　　廬登甫

 

秋滿西湖月正圓　　　　秋は西湖に満ち 月 正(まさ)に円(まどか)なり

家家醉賞椅欄干　　　　家々(かか) 酔賞(すいしょう)し 欄干に椅(よ)る

西風茅葺長淮地　　　　西風 茅葺(ちしゅう) 長淮(ちょうわい)の地

應有征人帯涙看　　　　応(まさ)に 征人の 涙を帯びて 看る有るべし

 

【語釈】

○京城…首都。○西湖…浙江省杭州市にある風光明媚な湖。○醉賞…酔ってめでる。○西風…秋風。○茅葺…茅葺きの粗末な家。○長淮…淮河。長江・黄河に次ぐ第三の大河。○征人…旅人。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。

 

 

★    白髮　　　　　　　　　白髪　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　葉　茵

 

半世持竿笠澤濱　　　　半世 竿(さお)を持つ 笠沢の浜

鬢邊留得幾莖春　　　　鬢(びん)辺(へん) 留むを得たり 幾(いく)茎(けい)の春

近來白髮無公道　　　　近来 白髪 公道無し

暗把黑頭饒貴人　　　　暗に 黒頭を把(と)りて 貴人に饒(ゆず)る

 

【語釈】

○笠沢…松江省中国東北の東九省の一部。○幾莖春…少しの黒髪。○公道…公平なやりかた。

 

 

★    兵火後還里　　　　　　兵火後 里に還る　　　　　　　　　　　　  宋　　嚴　粲

 

萬屋煙消餘塔身　　　　万屋　煙 消えて 塔身を余す

還家何處訪情親　　　　家に還(かえ)って 何れの処にか 情親を訪わん

舊時巷陌今難認　　　　旧時の巷陌(こうはく) 今 認め難し

却問新移來住人　　　　却って問う 新移来住の人に

 

【語釈】

○煙…炊煙。○情親…親人。○巷陌…街通り。○新移来住人…新たに移って来て住んでいる人。

 

 

★    鏡湖　　　　　　　　　鏡湖　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張惟中

 

昔年曾過賀家湖　　　　昔年 曽(かつ)て過ぐ 賀家(がか)の湖

今日烟波太半無　　　　今日 煙波 太半無し

惟有一天秋夜月　　　　惟(た)だ 一天 秋夜の月のみ有りて

不隨田畝入官租　　　　田(でん)畝(そ)に随わず 官(かん)租(そ)に入る

 

【語釈】

○鏡湖…浙江省紹興市会稽山北麓にあった湖。○賀家湖…鏡湖のこと。賀知章が故郷に帰ったときに、玄宗が鏡湖剡川の一部分を与えたことに由来する。○煙波…水面に立つもや。○太半…三分の二。○田畝…農村。○官租…租税。

 

 

★    鬻廬　　　　　　　　　廬(ろ)を粥(う)る　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　宋　氏

 

自歎年來刺骨貧　　　　自(みずか)ら歎く 年来 骨を刺す貧(ひん)なるを

吾廬今已屬西鄰　　　　吾が廬 今 已に 西隣に属す

殷勤說與東園柳　　　　殷(いん)勤(ぎん)に説与す　東園の柳

他日相逢是路人　　　　他日　相(あい)逢(あ)うは 是れ路人

 

【語釈】

○鬻…売る。○年来…近年以来。○說與…言い与える。○路人…自分と関係の無い人。

 

 

★    不寐　　　　　　　　　寐(いね)ず　　　　　　　　　　　　　　　　　　  金　　劉　勲

 

酪奴作祟攪秋眠　　　　酪(らく)奴(ど) 祟(たたり)を作し 秋眠を撹(おぼ)ゆ

追咎前非四十年　　　　追いて 前非(ぜんぴ)を咎(とが)む 四十年

一夜蟲聲相計會　　　　一夜 虫声 相計(あいけい)会(かい)す

併催白髪到愁邉　　　　併せて 白髪を催(うなが)し 愁辺に到る

 

【語釈】

○酪奴…茶。○計會…数え計る。思い計る。

 

 

★    山園　　　　　　　　　山園　　　　　　　　　  　　　　　　　　金　　辛　愿

 

歳暮山園懶再行　　　　歳暮 山園 再行するに懶(ものう)し

蘭衰菊悴頗闗情　　　　蘭(らん) 衰え 菊 悴(やつ)れ 頗(すこぶ)る情に闗(かん)す

青青多少無名草　　　　青々(せいせい) 多少 無名の草

爭向殘陽暖處生　　　　争(いか)でか 残(ざん)陽(よう)に向って 暖かき処に生ぜん

 

【語釈】

○歳暮…年末。○殘陽…入り残っている夕陽。

 

 

★    京城雜詠　　　　　　　京(けい)城(じょう)雑(ざつ)詠(えい)　　　　　　　　　　　　　  元    歐陽玄

 

奉詔修書白玉堂　　　　詔(みことのり)を奉じ 書を修む 白玉堂(はくぎょくどう)

朝朝騎馬侍宮牆　　　　朝(ちょう)々(ちょう) 馬に騎り 宮牆(きゅうしょう)に侍す

牐河東畔垂楊柳　　　　牐(そう)河(か) 東畔 垂(すい)楊(よう)柳(りゅう)

時有鶯聲似故郷　　　　時に 鶯声の 故郷に似たる有り

 

【語釈】

○京城…国都。○雜詠…主題を決めずに色々なことを詠じた詩。○白玉堂…翰林院。○朝朝…毎日。○宮牆…宮廷。○牐河…閘門を設けた河。

 

 

 

★    偶成                   偶成                                    元　　倪　瓚

 

紫燕低飛不動塵　　　　紫(し)燕(えん) 低く飛び 塵を動かさず

黃鸝嬌小未勝春　　　　黄鸝(こうり) 嬌(きょう)小(しょう) 未だ春に勝えず

東風綠遍門前草　　　　東風 緑 遍(あまね)し 門前の草

暮雨寒煙愁殺人　　　　暮雨 寒煙 人を愁(しゅう)殺(さつ)す

 

【語釈】

○黃鸝…コウライウグイス。○嬌小…声の柔細なさま。○東風…春風。○寒煙…寒い靄。

 

 

★    南田夜雨　　　　　　　南田(なんでん)夜(や)雨(う)　　　　　　　　　　　　　　　   元　　黃鎮成

 

四簷春雨夜浪浪　　　　四簷の春雨 夜 浪々(ろうろう)

記得吹笙近竹房　　　　記得す 笙を吹いて 竹房に近きを

三十五年江海夢　　　　三十五年 江海の夢

又隨歸鴈過瀟湘　　　　又 帰鴈に随って 瀟湘(しょうしょう)を過ぐ

 

【語釈】

○南田…浙江省温州市南田鎮。○四簷…四方の軒。○浪浪…雨の降り続くさま。○記得…心にしるし留める。竹房…竹で囲まれた部屋。○瀟湘…湘水と瀟水の合流しているところ，洞庭湖の南。

　　　

 

 

★    秋思　　　　　　　　　秋思　　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　孫存吾

 

雁落西風字字沈　　　　雁は西風に落ちて 字々沈む

嫩涼偷入藕花心　　　　嫩(どん)涼(りょう) 偷(ぬす)み入る 藕(ぐ)花(か)の心(しん)

眼前多少關心事　　　　眼前 多少 心に関する事

嗟與寒螿徹夜吟　　　　寒螿(かんしょう)に嗟(さ)与(よ)して 夜を徹して吟ぜしむ

 

【語釈】

○西風…秋風。○字字…雁の群れのたとえ。○嫩涼…初秋の微かな寒さ。○藕花…蓮の花。○寒螿…秋に無く虫。○嗟與…嘆き与える。

 

 

★    有感　　　　　　　　　感有り 　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　基

 

浪動江淮戰血紅　　　　浪は江淮(こうわい)に動いて 戦血紅なり

羽書應不達宸聦　　　　羽書 応に宸聦(しんそう)に達っせざるべし

紫薇門下逢宣使　　　　紫(し)薇(び)門下(もんか) 宣使(せんし)に逢う

新向湖州召畫工　　　　新たに 湖州(こしゅう)に向(お)いて 画工を召すと

 

【語釈】

○江淮…長江と淮河。○羽書…急を要する檄文 。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○宸聦…皇帝の聴聞。○紫薇門…皇帝の宮城の門。○宣使…軍事を司る官。○湖州…浙江省湖州市。

 

 

 

★    自賛　　　　　　　　自賛　　　　　　　　　　　  明　　顧　瑛

 

儒衣僧帽道人鞋　　　　儒衣 僧帽 道人の鞋(くつ)

天下青山骨可埋　　　　天下 青山 骨 埋むべし

還憶少年豪傑興　　　　還(ま)た憶う 少年 豪傑の興

五陵裘馬洛陽街　　　　五陵の裘(きゅう)馬(ば) 洛陽の街

 

【語釈】

○道人…道教の僧侶。○少年…若い頃。○五陵…漢の高帝以下五帝の陵があったところで，富豪の人が住んでいた。李白｢少年行｣。○裘馬…輕裘肥馬。豪華な生活。

 

 

★    感舊遊　　　　　　　　旧遊に感ず　　　　　　　　　　　　  明　　呉與弼

 

石橋門巷落花深　　　　石橋 門(もん)巷(こう) 落花深し

晴日光風鳥亂吟　　　　晴日 光風 鳥 乱吟す

人事暗隨春夢改　　　　人事 暗く随う 春夢の改まるに

緑楊還似舊時隂　　　　緑楊 還(ま)た 旧時の隂に似たり

 

【語釈】

○門巷…門庭内の道。○光風…雨がやんだ後の光を浴びた風。○亂吟…乱れ鳴く。

　　　

 

 

★    秋日雜興　　　        秋日雑興　　　　　　　　　　　　　 　明　　何景明

 

寒螿啼斷槿園空　　　　寒螿(かんしょう) 啼(めい) 断え 槿(きん)園(えん)空し

萬樹凋傷八月中　　　　万樹 凋傷(ちょうしょう)す 八月の中(うち)

只有南山蒼桂在　　　　只だ 南山 蒼(そう)桂(けい)の在るのみ有りて

一株花發向秋風　　　　一株 花 発(ひら)いて 秋風に向う

 

【語釈】

○寒螿…深秋に鳴く虫。○槿園…木槿の園。○凋傷…草木が凋み枯れること。

 

　　　

★    秋日雜興　　　        秋日雑興　　　　　　　　　　　　　 　明　　何景明

　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

雨花風葉總堪憐　　　　雨花 風葉 総(すべ)て 憐むに堪えたり

海燕江鴻各渺然　　　　海燕 江鴻 各(おのおの) 渺(びょう)然(ぜん)

莫向高樓空悵望　　　　高楼に向(お)いて 空しく 悵望(ちょうぼう)する莫かれ

暮蟬多在夕陽邉　　　　暮蟬 多く 夕陽の辺に在り

 

【語釈】

○渺然…遙かに広いさま。○悵望…恨めしい感じで遠くを眺めやる。

 

　　　

 

★    秋感　　　　　　　　　秋感　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　錢　楷

 

一夜西風枕簞涼　　　　一夜 西風 枕(ちん)簞(たん)涼し

幾群征雁向衡陽　　　　幾群の征(せい)雁(がん) 衡(こう)陽(よう)に向う

深宮猶自揮紈扇　　　　深宮 猶お自(おのずか)ら 紈(がん)扇(せん)を揮(ふる)う

此日邊城已下霜　　　　此の日 辺城 已に霜を下す

 

【語釈】

○西風…秋風。○枕簞…枕とたかむしろ。○征雁…渡る雁。○衡陽…湖南省衡陽市。（衡陽断雁）。○紈扇…薄絹でできた扇子。○辺城…辺地の街。

 

 

★    感舊　　　　　　　　　旧に感ず　　　　　　　　　　  　　　　明　　徐中行

 

自别燕臺白日徂　　　　燕(えん)台(だい)に别れてより 白日に徂(ゆ)く

華陽碣石總荒蕪　　　　華(か)陽(よう)の碣(かつ)石(せき) 総て荒蕪(こうぶ)

獨留一片西山月　　　　独り 一片 西山の月を留め

猶照當年舊酒壚　　　　猶お照らす 当年の 旧酒壚

 

【語釈】

○燕臺…河北省一帯。○華陽…四川省成都市武侯区。○碣石…墓石。○荒蕪…荒れて草叢になっているさま。○当年…昔。○酒壚…土で作った酒を温める炉。

 

 

 

★    月夜聞笛　　　　　　　月夜 笛を聞く　　　　　　　　　　　　　明　張僉都

 

十載皋蘭三出師　　　　十載の皋(こう)蘭(らん)　三たび師を出だす

角巾歸第鬢如絲　　　　角巾 第に帰り 鬢(びん) 糸の如し

那知今夜關山月　　　　那(なん)ぞ知らん 今夜 関山(かんざん)月(げつ)

卻向中原笛裏吹　　　　却って 中原に向(お)いて 笛(てき)裏(り)に吹くを

 

【語釈】

○皋蘭…甘肅省蘭州市。○出師…軍を発する。○角巾…棱角の有る頭巾。隠士が被る。○歸第…家に還る。○關山月…笛の曲名。辺境で吹かれる。○中原…黄河下流の平原。

 

 

★    重過大樑坡臺廢寺有感　　　　　　　　　　　　　　　　   明　　佘　育

重ねて 大樑(だいりょう)の坡(は)台(だい)の廃寺に過(よぎ)ぎりて 感有り

 

古寺無僧門半扃　　　　古寺 僧 無く 門 半ば扃(とざ)す

重來往事暗傷神　　　　重来 往事 倍(ますます)神(しん)を傷ましむ　　　　

一株殘柳猶青眼　　　　一株の残柳 猶お青眼(せいがん)

似識當年繫馬人　　　　当年 馬を繫ぐ人を 識るに似たり

 

【語釈】

○大樑…河南省開封市西北の地名。○坡臺…堤の上の台。○重來…再び来る。○往事…昔の事。○神…心。○当年…昔年。○青眼…柳の青い芽。

 

 

 

★    立春日感懷　　　　　　立春の日 感懐　　　　　　　　　　　  明　　陳薦伕

 

征袖翩翩浥淚痕　　　　征(せい)袖(しゅう) 翩々(へんぺん) 涙痕浥(うるお)す　　　　　

別離無計但銷魂　　　　別離 計無く 但だ 魂を銷(け)す

應嗟不及墻東柳　　　　応(まさ)に嗟(なげ)くべし 墻(しょう)東(とう)の柳に及ばざるを

歳歳春風在故園　　　　歳々 春風 故園に在り

 

【語釈】

○征袖…旅衣の袖。○翩翩…行き来するさま。落ち着かないさま。○銷魂…悲しみで魂が消えたような気持になること。○應…「まさに～すべし」と読み、「～すべきである」の意。○墻東…垣根の東。○故園…故郷。

 

 

★    會稽過呉氏酒樓　　　　会稽(かいけい) 呉氏の酒楼に過ぎる　　　　　　　  明　　陳邦注

 

紅粉佳人舊酒樓　　　　紅粉(こうふん)の佳人 旧酒楼

管弦零落暮生愁　　　　管弦 零落して 暮に愁いを生ず

長堤無限東風起　　　　長堤 限り無く 東風起り

吹起楊花滿渡頭　　　　楊花を吹き起こして 渡頭に満たしむ

 

【語釈】

○会稽…浙江省紹興市の地名。○呉氏…不祥。○紅粉…紅おしろい。○管弦…音楽。○零落…落ちぶれること。○東風…春風。○楊花…柳絮。○渡頭…渡し場。

 

 

 

★    病中作　　　　　　　　病中の作　　　　　　　　　　　　　　　　明　　朱妙端

 

剔盡寒燈夢不成　　　　寒灯を剔尽(てきじん)して 夢 成らず

擁衾危坐到三庚　　　　衾(きん)を擁(よう)し 危坐(きざ)して 三庚に到る

不知何處吹羗笛　　　　知らず 何れの処か 羗(きょう)笛(てき)を吹く

落盡梅花月滿城　　　　落ち尽くす 梅花 月 城に満つ

 

【語釈】

○剔盡…（灯火を）かき立て尽くす。○擁衾…半臥して、下半身に布団を掛ける。○危坐…正しく坐る。○三庚…真夜中。○羗笛…異民族の吹く笛。

 

 

★    秋夜聞笛　　　　　　　秋夜笛を聞く　　　　　　　　　　　　　  明　　鄧　氏

 

秋風颯颯滿江城　　　　秋風 颯々(さつさつ)　江城に満つ

雁叫霜天月正明　　　　雁は 霜天に叫び 月 正に明らかなり

長夜蕭條多少恨　　　　長夜 蕭(しょう)条(じょう) 多少の恨(うらみ)

不堪更聴斷腸聲　　　　更に 断腸の声を聴くに堪えず

 

【語釈】

○颯颯…かぜがさっと吹くさま。○江城…川辺の街。○蕭條…静かで物寂しいさま。

 

 

 

★    舟中見獵犬有感　　　　舟中 猟犬を見て感有り　　　　　　　　   明　　宋　琬

 

秋水蘆花一片明　　　　秋水 蘆花 一片明らかなり

難同鷹隼共功名　　　　鷹(よう)隼(じゅん)と同じく 功名を共にし難し

檣邊飽飯垂頭睡　　　　檣(しょう)辺(へん) 飽飯 頭(こうべ)を垂れて睡(ねむ)る

也似英雄髀肉生　　　　也(ま)た 英雄に似て 髀(ひ)肉(にく)生ず

 

【語釈】

○蘆花…蘆の花。○檣邊…帆柱のあたり。○飽飯…満腹。○英雄…劉備玄德。○髀肉…もも肉。「髀肉の嘆」。

 

 

★    秋夜有感　　　　　　　秋夜 感有り　　　　　　　　　　　　　  清　　宋微輿

 

憔悴経時獨自慰　　　　憔悴(しょうすい) 時を経て 独り自(みずか)ら慰む

酒醒無奈欲悲秋　　　　酒醒めて 奈(いかん)するとも無(な)し 悲秋ならんと欲するを

不堪木落風涼夜　　　　堪えず 木落ち 風涼しき夜

卧對青燈憶舊遊　　　　卧(が)して 青灯に対して 旧遊を憶うに

 

【語釈】

○憔悴…愁え悩む。○悲秋…もの悲しい秋。○青灯…青色の灯火。○旧遊…昔の遊び。

 

 

 

★    書陳将軍便面　　　　　陳(ちん)将軍(しょうぐん)の便面(びんめん)に書す　　　　　　　　　　清　　潘問奇

 

虎頭垂老卧江濱　　　　虎頭 老に垂(なんな)んとして 江(こう)浜(ひん)に卧(が)す

李廣空餘百戦身　　　　李(り)広(こう) 空しく余す 百戦の身

馬蹀平原芳草緑　　　　馬 平原を蹀(ふ)みて 芳草緑なり

角弓閑殺射鵰人　　　　角弓 閑殺す 鵰(わし)を射る人

 

【語釈】

○陳将軍…不祥。○虎頭…虎に似た容貌の人。○江濱…河岸。○李廣…漢の名将、飛将軍李広。陳将軍をなぞらえている。○角弓…角で飾った強弓。○閑殺…暇なことにより愁えさせる。

 

 

★    雑感　　　　　　　　　雑感　　　　　　　　　　　　　　　　清　　張實居

 

卧病蕭條黛水邊　　　　卧病(がびょう) 蕭(しょう)条(じょう) 黛(たい)水(すい)の辺(ほとり)

樵風枚雨已三年　　　　樵風(しょうふう) 枚雨 已に三年

夢回忽覚秋衾薄　　　　夢 回(かえ)り 忽(たちま)ち覚ゆ 秋(しゅう)衾(きん)の薄きを

鴻雁一聲霜滿天　　　　鴻(こう)雁(がん) 一声 霜 天に満つ

 

【語釈】

○卧病…病に臥す。○蕭條…物寂しいさま。○黛水…不祥。○樵風…順風。唐·李賢注引孔靈符《會稽記》。○夢回…夢が覚める。○秋衾…秋のしとね。○鴻雁…雁。

 

 

 

★    聞撫洞庭秋思曲　　　　洞庭秋思(どうていしゅうし)の曲を撫(かな)でるを聞く　　　　　　　　清　　方　朝

 

曾放扁舟泝楚天　　　　曽て 扁舟を放ち 楚天に泝(さかのぼ)る

清猿淚竹思淒然　　　　清猿 涙竹 思(おもい)に淒(せい)然(ぜん)

廿年夢裏湘山月　　　　廿年 夢(む)裏(り) 湘山(しょうざん)の月

今夜分明在七絃　　　　今夜 分明に 七絃(しちげん)に在り

 

【語釈】

○洞庭…洞庭湖。湖南省北東部にある淡水湖。○楚天…湖北省、湖南省の地。○涙竹…竹の一種。斑竹。湘妃竹ともいう。○淒然…寂しく痛ましいさま。○湘山…君山。洞庭湖にある山。○分明…はっきりと。○七絃…七絃琴。

 

 

★    中秋有感　　　　　　　中秋 感有り　　　　　　　　　　　　清　　錢之青

 

去年醉月曲江頭　　　　去年 月に酔う 曲(きょく)江(こう)の頭(ほとり)

綠酒紅牙記勝遊　　　　緑酒 紅(こう)牙(が) 勝遊を記す

今夜中秋形輿影　　　　今夜 中秋 形と影と

故人還復上南樓　　　　故人 還(かえ)りて 復(ま)た 南楼に上る

 

【語釈】

○曲江…長安東南部にある池。○緑酒…美酒。○紅牙…紅色の牙板を持つ楽器の名。○勝遊…決意の遊覧。

 

 

 

★    雑興　　　　　　　　　雑興　　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈祖考

 

天意欲寒鳥夜號　　　　天意 寒からんと欲し 鳥 夜に号す

霜空木落暮雲高　　　　霜空 木 落ちて 暮雲高し

川原一望無青草　　　　川原(せんげん) 一望 青草(せいそう)無し

那得愁人不二毛　　　　那(な)んぞ得ん 愁人 二毛ならざるを。

 

【語釈】

○号…鳴く。○川原…荒野。○二毛…白くて斑な頭髪。

 

　　　

★    憶法蔵寺前柳　　　法蔵寺前の柳を憶う　　　　　　　　　　　　　　　清　　陳維崧

 

一樹青絲拂寺前　　　　一樹の青糸 寺前を払う

毿毿和月復和煙　　　　毿々(さんさん)として月に和し 復た煙に和す

當時春夜頻來往　　　　当時 春夜 頻(しき)りに来往す

曽見依依十二年　　　　曽(かつ)て見る 依々(いい) 十二年

 

【語釈】

○毿毿…毛の長いさま。○煙…霞。○依依…遠くぼんやりしているさま。

 

 

 

★    山塘間歩　　　　　　　山塘閑歩　　　　　　　　　　　　　　　　清　　宋樹殻

 

疎狂猶記少年時　　　　疎狂(そきょう) 猶お記す 少年の時

幾處歌場闘雪詩　　　　幾処(いくところ)の歌場 雪を闘わす詩

今日舊遊零落盡　　　　今日 旧遊 零(れい)落(らく)し尽し

酒痕只有故衫知　　　　酒(しゅ)痕(こん) 只だ故衫(こさん)の知る有るのみ

 

【語釈】

○山塘…山にある湖沼。○疎狂…豪放で束縛を受けないこと。○舊遊…昔の遊び。○零落…落ちぶれること。○故衫…なじみの服。

 

 

★    盧溝橋　　　　　　　　盧(ろ)溝(こう)橋(きょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　元　璟

 

日色纔分萬衆囂　　　　日(にっ)色(しょく) 纔(わずか)に分ちて 万衆囂(かまびす)し

黃塵漠漠馬蹄驕　　　　黄塵 漠々(ばくばく) 馬蹄驕(おご)る

題詩笑問桑乾水　　　　詩を題して 笑って問う 桑(そう)乾(かん)の水

曾有閑人過此橋　　　　曽(かつ)て 閑人の 此の橋を過ぐる有りやと

 

【語釈】

○日色…日光。○漠漠…遠く遙かなさま。○桑乾水…桑乾河。山西省北部と河北省西北部を流れる河川のひとつで、海河水系に属する。北京市西部から天津市を流れる永定河の主な支流である。

 

 

絶句類選　巻之十一　　哀傷類

 

 

★    題李將軍林園　　　　　李将軍の林園に題す　　　　　　　  　　　唐　　武元衡

 

落英飄蘂雪紛紛　　　　落英 飄(ひょう)蘂(ずい) 雪 紛々(ふんぷん)

啼鳥如悲霍冠軍　　　　啼(てい)鳥(ちょう) 悲しむが如し 霍(かく)冠軍(かんぐん)

逝水不回弦管盡　　　　逝(せい)水(すい) 回(かえ)らず 弦管(かんげん)尽く

玉樓迢遰鎖浮雲　　　　玉楼 迢遰(ちょうてい)として 浮雲を鎖ざす

 

【語釈】　　　

○李将軍…不祥。○落英…落花。○飄蘂…漂う花の蕊。○紛紛…乱れ散るさま。○霍冠軍…漢の驃騎将軍霍去病。李將軍になぞらえる。○逝水…流れ去る水。○迢遰…高いさま。

 

★    　哭孟寂　　　　　　　　孟(もう)寂(せき)を哭す　　　　　　　　　　　　 　 唐　　張　籍

 

曲江院裏題名處　　　　曲(きょく)江院(こういん)裏(り) 名を題せし処

十九人中最少年　　　　十九人中 最少年

今日春光君不見　　　　今日 春光 君見えず

杏花零落寺門前　　　　杏花 零(れい)落(らく)す 寺門の前

 

【語釈】

○孟寂…不詳、進士合格同期生。○曲江院裏…慈恩寺、科挙及第者は，曲江で宴を開き、慈恩寺大雁塔に名を記する習慣があった。○風光…景色。○零落…凋んで落ちる。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』『三体詩』

 

 

★    傷愚溪               愚渓(ぐけい)を傷む　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　劉禹錫       

 

柳門竹巷依依在　　　　柳門(りゅうもん)竹(ちく)巷(こう) 依々として在り

野草青苔日日多　　　　野草 青苔 日々に多し

縱有鄰人解吹笛　　　　縦い 隣人(りんじん) 笛を吹くを解する有るとも

山陽舊侶更誰過　　　　山陽の旧侶(きゅうりょ) 更に誰か過ぐ

 

【語釈】

○愚溪…柳宗元。○柳門竹巷…幽靜でつつましい住宅。○依依…遠くぼんやりとしているさま。○山陽…江西省九江市山陽。○舊侶…旧友。○転句、結句は、「山陽笛」《晉書．卷四九．向秀傳》の故事を踏まえる。

 

★    賦此詩　　　　　　　　此の詩を賦す　　　　　　　　　　　　 唐　　劉長卿

 

事去人亡跡自留　　　　事去りて 人亡く 跡 自(おのずか)ら留る

黃花綠蒂不勝愁　　　　黃花 綠蒂(りょくてい) 愁いに勝えず

誰能更向青門外　　　　誰か 能く 更に青門の外に向(お)いて

秋草茫茫覓故侯　　　　秋草 茫々(ぼうぼう) 故(こ)侯(こう)を覓(もと)めん

 

【語釈】

○黃花…黄色の花。菊。○綠蒂…緑色の花のしべ。○茫茫…あてもなくつかみ所の無いさま。○故侯…漢の召平。○覓故侯…《史記》卷五十三〈蕭相國世家〉の故事。

（家園の瓜が熟したが，是は蕭相（漢の蕭何）の瓜の種から伝わったものであったので、召平のことを思い出して作った詩）

 

　　　

★    題柳郎中茅山故居　　　柳郎中(りゅうろうちゅう)の茅山(ちざん)の故(こ)居(きょ)に題す　　　　　  唐　　李德裕

 

下馬荒堦日欲曛　　　　馬を下りて 荒堦(こうかい) 日 曛(くん)ぜんとす

潺潺石溜靜中聞　　　　潺々(せんせん)たる石溜(せきりゅう) 静中に聞く

鳥啼花落人聲絕　　　　鳥啼き 花落ち 人声絶え

寂寞山窗掩白雲　　　　寂寞(せきばく)たる 山窓 白雲掩う

 

【語釈】

○柳郎中…不祥。○茅山…江蘇省鎮江市茅山。○故居…昔の住まい。○荒堦…荒れたきざはし。○潺潺…浅い水の流れるさま。さらさら。○石溜…岩石の間の水流。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。

 

★    西亭　　　　　　　　　西亭　　　　　　　　　　　　　  唐　　李商隱

 

此夜西亭月正圓　　　　此の夜 西亭 月 正(まさ)に円(まど)かなり

疎簾相伴宿風煙　　　　疎(そ)簾(れん) 相伴いて 風煙に宿す

梧桐莫更翻清露　　　　梧桐 更に清露を翻(ひるがえ)す莫れ

孤鶴從來不得眠　　　　孤(こ)鶴(かく) 従来 眠ることを得ず

 

【語釈】

○疎簾…まばらな簾。○風煙…風にたなびくもや。○梧桐…アオギリ。○孤鶴…孤独で高潔な人のたとえ。

 

 

★    江樓書感　　　　　　　江楼にて感を書す　　　　　　　　　　　　　唐　　趙　嘏

 

獨上江樓思渺然　　　　独り 江楼に上りて 思(おもい) 渺(びょう)然(ぜん)

月光如水水聯天　　　　月光 水の如く 水 天に連なる

同來玩月人何處　　　　同(とも)に来たりて 月を玩(もてあそ)びし 人 何れの処ぞ

風景依稀似去年　　　　風景 依(い)稀(き)として 去年に似たり

 

【語釈】

○江樓 … 川辺の高楼。○渺然 … 果てしなく広がる。果てしないさま。○如水 … 水のように冴えわたたる。○水連天 … 川の水は大空まで続いている。○翫月 … 月を眺めて楽しむこと。○依稀…はっきりしないが～だ。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

　　　

 

★    悼楊氏妓琴弦　　　　　楊(よう)氏(し)の妓琴弦(ぎきんげん)を悼(いた)む　　　　　　　　　　唐　　韋　莊

 

魂歸寥廓魄歸煙　　　　魂(こん)は寥(りょう)廓(ろう)に帰し 魄(はく)は煙に帰す

只住人間十八年　　　　只だ 人間(じんかん)に住むこと 十五年

昨日施僧裙帶上　　　　昨日 僧に施す 裙帯(くんたい)の上

斷腸猶繫琵琶弦　　　　断腸 猶お繫(つな)ぐ 琵琶の弦

 

【語釈】

○魂…人の精神を司るたましい。○魄…人の肉体や形質を司る魂。○猽漠…天空。○煙…靄、霞。ここでは地のこと。○施僧…死後十七日目に死者が愛用していた物を僧に施す習慣があった。○裙帶…もすその紐。○繫琵琶弦…裙帶を縛るのに、琵琶の弦を使用する。

（参考文献）　　『三体詩』

　　　

 

★    無題　　　　　　　　　無題　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　王　周      　

             

梨花如雪已相迷　　　　梨花(りか) 雪の如く 已に相(あい)迷(まよ)う

更被驚烏半夜啼　　　　更に 驚かさる 烏の 半夜に啼くに

簾捲玉樓人寂寂　　　　簾(すだれ) 捲いて 玉楼 人 寂々(せきせき)

一鉤新月未沈西　　　　一(いっ)鉤(こう)の新月 未だ西に沈まず

 

【語釈】

○半夜…真夜中。○玉樓…玉で飾った楼閣。○寂寂…寂しく静かなさま。○一鉤…一つの釣り針のような。

 

 

               　

★    用西林舊韻　　　　　　西林の旧韻(きゅういん)を用う　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

一自籃輿去不回　　　　一たび 籃(らん)輿(よ) 去りて回(かえ)らざるより

故山空鎖舊池臺　　　　故山 空しく鎖ざす 旧池台

傷心觸目經行處　　　　傷心 触目(しょくもく) 経行する処

幾度親陪杖屨來　　　　幾度か 親しく 杖屨(じょうり)に陪(ばい)して来る

 

【語釈】

○籃輿…あじろの輿。○故山…故郷の山。○池台…池苑楼台。○觸目…目に触れる。○杖屨…老人に対する尊称。

 

　　　

★    題陳景明梅廬　　　　　陳景(ちんけい)明(めい)の梅廬(ばいろ)に題す　　　　　　　　　  宋　　戴復古

 

手栽梅核待成林　　　　手 梅核(ばいかく)を栽えて 林と成るを待つ

慈母當年屬望深　　　　慈母 当年 属望(しょくぼう)深し

梅未成林人已往　　　　梅 未だ林を成さざるに 人已に往(ゆ)く

空酸孝子一生心　　　　空しく酸(さん)す 孝子 一生の心

 

【語釈】

○陳景明…不祥。○梅廬…梅を植えたいおり。○梅核…梅の種。○當年…当時。○屬望…将来を期待する。○酸…酸味を感じる。

 

 

 

★    悼阿駒　　　　　　　　阿(あ)駒(く)を悼(いた)む　　　　  　　　　　　　　　　　宋　　劉克莊

 

吾老方期汝亢宗　　　　吾 老いて 方(まさ)に期す 汝の亢宗(こうそう)

愛憐不與衆雛同　　　　愛し憐れむ 衆(しゅう)雛(すう)と同じからざるを

豈知希世千金産　　　　豈に知らんや 希世 千金の産

止作空花賺乃翁　　　　止みて 空花と作りて 乃翁を賺(けん)すを

 

【語釈】

○阿駒…不祥。作者の子。○亢宗…宗族をおおい守ること。○衆雛…諸稚子。○希世…世に希であること。○空花…かすんだ目で天空をみるときにチラチラ見える雪のような物。○乃翁…兒孫に対して言う親の自称。○賺…あざむく。

　　　

 

★    　悼阿駒　　　　　　　　阿(あ)駒(く)を悼(いた)む　　　　  　　　　　　　宋　　劉克莊

 

人生憂患本無涯　　　　人生の憂患 本より涯(はて)無し

强取瞿聃語自排　　　　強いて　瞿聃の語を取りて 自(みずか)ら排す

吾母白頭猶念我　　　　吾が母 白頭 猶お我に念ず

吞聲不敢惱慈懷　　　　声を吞み 敢えて 慈懐を悩せず

 

【語釈】

○阿駒…不祥。作者の子。○瞿聃…仏教と道教。○慈懷…慈しみの思い。

　　　

 

★    殤女　　　　　　　　　殤(しょう)女(じょ)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

靈照覊魂章水西　　　　霊(れい)照(しょう) 覊(き)魂(こん) 章(しょう)水(すい)の西

冷風殘雪古招提　　　　冷風 残雪 古招提(こしょうだい)

老懷已作空花看　　　　老懐(ろうかい) 已に 空花を看るを作(な)す

更把楞嚴曉病妻　　　　更に 楞(ろう)厳(げん)を把(と)りて 病妻に暁(さと)す

 

【語釈】

○殤女…死んだ女。○靈照…女性の代称。○覊魂…旅先で死んだ人の魂。○章水…不祥。○招提…寺院。○老懷…老人の心の想い。○空花…かすんだ目で天空をみるとき、チラチラ見える雪のような物。○楞嚴…楞嚴経。仏教の経典の名。

 

 

★    失子　　　　　　　　　子を失う　　　　　　　　　　　　　　　金　　周　昂

 

白髪飄蕭老病身　　　　白髪 飄蕭(ひょうしょう) 老病の身

幾因兒女淚沾巾　　　　幾(いくばく)か 児女に因(よ)って 涙 巾(きん)を沾(うるお)す

虚談誤世王夷甫　　　　虚談 世を誤る 王(おう)夷(い)甫(ほ)

只有情鍾語最真　　　　只だ 情鍾(じょうしょう)の語 最も真なる有り

 

【語釈】

○飄蕭…頭髪のまばらなさま。○巾…ハンカチ。○虚談…現実と離れた議論。○王夷甫…王衍。西晉瑯邪臨沂の人。口中雌黄（口からでまかせを言って、真相をおおい隠すこと）の人といわれた（晉書王衍伝）。○情鍾語…人情が集まるという語。王衍が言った言葉による。『大漢和辞典参照』　

 

 

★    還家　　　　　　　　家に還(かえ)る　　　　　　　　　　　　　金　　李天翼 

 

牡丹樹下影堂前　　　　牡丹樹下 影堂(えいどう)の前

幾醉春風穀雨天　　　　幾酔(いくすい) 春風 穀雨(こくう)の天

二十六年渾一夢　　　　二十六年 渾(すべ)て一夢

堂空樹老我華顛　　　　堂 空しく 樹 老いて 我は華顛(かとう)

 

【語釈】

○影堂…先人の遺影を置く堂。○穀雨…二十四節季の一つ。4月20日ごろ。○華顛…白髪。

 

             

★    輓道士　　　　　　　　道士を輓(いた)む　　　　　　　　　　　　　　明　　王　恭     

 

雲卧山房秋草青        雲卧(うんが) 山房(さんぼう) 秋草青し

步虚聲斷月冥冥　　　　歩(ほ)虚(きょ) 声は断え 月冥々(めいめい)

凄凉行到空壇上　　　　凄(せい)涼(りょう) 行き到る 空壇の上

拾得松間舊鶴翎　　　　拾い得たり 松間 旧鶴翎(きゅうかくれい)

 

【語釈】

○雲卧…隠居の家。○步虚…道士の経を唱える声。○冥冥…暗くかすかなさま。○凄凉…痛ましい。○空壇…何もない壇。○鶴翎…鶴の羽。

 

 

★    感舊　　　　　　　　　旧に感ず　　 　　　　　　　　　　　　　明　　方孝孺

 

王郞遠逐雲中戍　　　　王郎 遠く逐(お)う 雲中の戍(じゅ)

許子俄爲地下郞　　　　許子 俄(にわか)に地下の郎と為(な)る

重訪故人尋舊迹　　　　重ねて 故人を訪ね 旧迹を尋ぬ

嶺雲溪月總堪傷　　　　嶺雲 渓月 総(すべ)て傷むに堪えたり

 

【語釈】

○王郞…王さん。○戍…守りの寨。○許子…許さん。○地下郞…死者。○故人…昔なじみ。

 

★    一清軒感舊　　　　　　一清軒 旧に感ず　　　　　　　　　  明　　林景清

 

往事淒涼似夢中　　　　往事 淒(せい)涼(りょう) 夢中に似たり

香奩人去玉臺空　　　　香奩(こうれん) 人 去りて 玉台空し

傷心最是秦淮月　　　　心を傷ましむるは 最も是れ 秦淮(しんわい)の月

還對秋閨燭影紅　　　　還(ま)た対す 秋(しゅう)閨(けい) 燭(しょく)影(えい)の紅なるに

 

【語釈】

○往事…昔。○淒涼…ものさびしい。○香奩…香を入れる箱。○玉臺…玉で飾った鏡台。○秦淮…秦淮河。南京を流れる川。○秋閨…秋の寝室。

 

 

★    八月十三日夜夢亡室安人…　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　楊　慎

八月十三日夜 亡室安人(ぼうしつあんじん)を夢む…

 

五更殘夢正迷离　　　　五更の残夢　正に迷离(めいり)

窻紙光明燭熖遲　　　　窓紙 光明 燭熖(しょくえん)遅し

卻憶去年當此日　　　　却って憶う 去年 此の日に当たり

催人晨起早朝時　　　　人を催(うなが)して 晨(しん)起(き)す 早朝の時

 

【語釈】

○亡室安人…世を去った妻。○五更…夜明け方。○殘夢…明け方になってうとうとしながら見続けている夢。○迷离…ぼんやりしているさま。○晨起…朝早く起きる。○早朝…朝早く。朝見の儀。

 

 

★    八月十三日夜夢亡室安人…　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　楊　慎

八月十三日夜 亡室安人(ぼうしつあんじん)を夢む…

 

稚子今朝是兩週　　　　稚子(ちし) 今朝(こんちょう) 是れ 両週

新衣戲舞拜前頭　　　　新衣 戯(ぎ)舞(ぶ) 前頭に拝す

傷心孺慕聲聲切　　　　心を傷め 孺慕(じゅぼ) 声々(せいせい)切なり

母在重泉聽得不　　　　母は 重泉に在りて 聴き(きき)得(う)や不(なし)や

 

【語釈】

○稚子…幼児。○今朝…今日。○兩週…二週。○前頭…全面、面前。○孺慕…父母に対する哀悼。○重泉…九泉、黄泉。

 

★    輓王中丞　　　　　　　王中丞(おうちゅうじょう)を輓(いた)む　　　　　　　　　　　　　 明　　李攀龍

 

司馬臺前列栢髙　　　　司馬(しば)台前(だいぜん) 列(れつ)栢(はく)高し

風雲猶自夾旌旄　　　　風雲 猶(いま)自(だ) 旌旄(せいもう)を夾(はさ)む

屬鏤不是君王意　　　　属鏤(しょくる)は 是れ 君王の意ならず

莫作胥山萬里濤　　　　作(な)す莫(なか)かれ 胥山(こうざん) 万里の濤(とう)

 

【語釈】

○王中丞…不祥。○司馬臺…不祥。○列栢…連なった柏の木。○猶自…未だ。○旌旄…指揮をするのに用いる旗。○屬鏤…屬鏤の名剣。伍子胥がこの剣で自殺を命じられた。○胥山…江蘇省呉県の西南にある山。伍子胥の廟があった。

 

 

★    輓王中丞　　　　　　　王中丞(おうちゅうじょう)を輓(いた)む　　　　　　　　　　　　　 明　　李攀龍

 

幕府髙臨碣石開　　　　幕府 高く臨みて 碣(かつ)石(せき)開く

薊門丹旐重裵徊　　　　薊門(げいもん)の丹旐(たんちょう) 重ねて裵徊(はいかい)す

沙塲入夜多風雨　　　　沙塲(さじょう) 夜に入って 風雨多し

人見親提鐡騎来　　　　人は見る 親しく 鉄騎を提(ひきつれ)て来るを

 

【語釈】

○幕府…将軍の指揮所。○碣石…墓石。○薊門…北京城西德勝門外西北の地。○丹旐…喪を出すときに用いる赤色の名前を書いた旗。○沙塲…戦場。○鐡騎…精鋭の騎兵。

 

 

★    感事　　　　　　　　　事に感ず　　　　　　　　　　　　　　　  明　　屠　隆

 

玉堂人去事荒涼　　　　玉堂 人は去りて 事 荒涼

蔓草春回自野牆　　　　蔓草(まんそう) 春 回(かえ)りて 自(おのずか)ら野牆(やしょう)

唯有多情雙燕子　　　　唯だ 多情の双燕子(そうえんし)のみ 有りて

猶來江上覓彫梁　　　　猶お 江上に来って 彫(ちょう)梁(りょう)を覓(もと)む

 

【語釈】

○玉堂…玉で飾った堂。○蔓草…つるくさ。○野牆…野原の牆。○雙燕子…つがいの燕。○彫梁…彫刻を施した梁。

 

 

★    無題　　　　　　　　　無題　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陸　弼

 

珠簾寂寞網流塵　　　　珠簾 寂寞として流塵を網(あみ)し

舞歇歌殘已十春　　　　舞 歇(や)み 歌 残り 已に十春

惟有香魂消不得　　　　惟(た)だ 香(こう)魂(こん)の消え得ざる有り

至今猶作夢中人　　　　今に至って 猶お夢中の人と作(な)る

 

【語釈】

○珠簾…玉すだれ。○寂寞…ひっそりとして寂しいさま。○網…網で捕らえる。○十春…十年。○香魂…美人の魂。

 

 

★    過程學士墓　　　　　　程学士の墓を過ぐ　　　　　　　　　　   明　　孫友篪

 

野水空山拜墓堂　　　　野水 空山 墓堂(ぼどう)を拝す

松風濕翠灑衣裳　　　　松風 翠(みどり)を湿(うるお)し 衣裳に灑(そそ)く

行人欲問前朝事　　　　行人 問わんと欲す 前朝の事

翁仲無言對夕陽　　　　翁仲 言無く 夕陽(せきよう)に対す

 

【語釈】

○程学士…不祥。○行人…旅人。○前朝…前の時代の朝廷。○阮翁仲…秦の時代の阮翁仲。身長一丈三尺の豪傑。ここではその銅像。

 

 

★    哭句章公　　　　　　　句(く)章(しょう)公(こう)を哭す　　　　　　　　　　　　  明　　沈一貫

 

従此斯文失主盟　　　　此(ここ)従(よ)り 斯(し)文(ぶん) 主盟を失う

海鷗飛去不留情　　　　海鴎 飛び去り 留らざるの情

可憐櫟社長橋月　　　　憐むべし 櫟社(れきしゃ) 長橋の月

曽照詩翁散髪行　　　　曽(かつ)て照らす 詩翁 散髪(さんぱつ)して行くを

 

【語釈】

○句章公…不祥。句章は、浙江省寧波市鄞州区。○斯文…文学。○主盟…盟主。○櫟社…神社の象徴として立っているクヌギの木。故郷。○詩翁…詩人の尊称。○散髪…官を辞めて隠棲する。

　　　

 

★    哭張天如先生　　　　　張天如(ちょうてんにょ)先生を哭す　　　　　　　　　　　  清　　陳子龍

 

江城日日坐相思　　　　江城 日々 坐(そぞろ)に相思う

尺素我傳絶命詩　　　　尺素(せきそ) 我に伝う 絶命詩

讀罷驚魂如夢裏　　　　読み罷(や)みて 驚(きょう)魂(こん) 夢(む)裏(り)の如し

千行落涙不堪悲　　　　千行(せんこう)の落涙 悲(かなしみ)に堪えず

 

【語釈】

○張天如…張溥。江蘇省蘇州太倉の人。蘇州虎丘の会を設け数千人を集めた。○江城…川辺の街。○尺素…書信。○夢裏…夢の中。

 

 

★    哭張天如先生　　　　　張天如(ちょうてんにょ)先生を哭す　　　　　　　　　　　  清　　陳子龍

 

越山北望指呉關　　　　越山 北望し 呉関を指(ゆびさ)す

一月緘書幾往還　　　　一月(いちげつ) 緘書(かんしょ) 幾(いく)往還(おうかん)

數日不傳雲裏字　　　　数日 伝えず 雲(うん)裏(り)の字

那知非復在人間　　　　那(な)んぞ知らん 復た 人間(じんかん)に在るに非(あら)ざるを

 

【語釈】

○張天如…張溥。江蘇省蘇州太倉の人。蘇州虎丘の会を設け数千人を集めた。○越山…越（江蘇省会稽を中心とする地方）の山。○北望…北方を眺める。○呉關…江蘇省杭州の地。○一月…一ヶ月。○緘書…書信。○雲裏…雲の中。

 

 

★    悼亡　　　　　　　　　悼(あい)亡(ぼう)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　孟淑卿

 

斑斑羅袖濕啼痕　　　　斑々(はんぱん)たる羅(ら)袖(しゅう) 啼(てい)痕(こん)に湿(しめ)る

深恨無香使返魂　　　　深く恨む 香の 返(へん)魂(こん)せしむ無きを

荳蔲花開人不見　　　　荳蔲(とうこう) 花 開いて 人 見ず

一簾明月伴黄昏　　　　一(いち)簾(れん)の明月 黄昏(こうこん)に伴う

 

【語釈】

○悼亡…死者を哀悼する。○斑斑…斑な点の多いさま。○羅袖…薄絹の着物の袖。○啼痕…涙の痕。○返魂…死者が復活する。○荳蔲…ショウガ科の多年草。○黄昏…たそがれ。

 

 

★    悼長孺集句　　　　　　長孺(ちょうじゅ)を悼(いた)む集句(しゅうく)　　　　　　　　　　　　　　  明　　丘　劉

 

江流曲似九迴腸　　　　江流 曲ること 九迴(きゅうかい)の腸に似たり

愁思非春亦自傷　　　　愁思 春に非ずして 亦(ま)た自(おのずか)ら傷む

明月不知人世變　　　　明月は知らず 人世の変わるを

夜來依舊下西廂　　　　夜来 旧に依りて 西廂(せいしょう)を下る

 

【語釈】

○集句…先人の句を寄せ集めて作った詩。○九迴腸…腸が多く曲がっていること。愁いの思いが解きがたいことのたとえ。○夜来…夜になってから。○西廂…西側のひさし。

  　　　

 

★    夢長兄悽然有作　　　　長兄を夢みて 悽(せい)然(ぜん)として作る有り　　　　 明　　僧明秀

 

獨夜殘燈一雁鳴　　　　独夜 残灯 一雁鳴く

凄涼夢裏似半生　　　　凄(せい)涼(りょう)たる 夢(む)裏(り) 半生(はんせい)に似たり

相看無奈幽明隔　　　　相(あい)看(み)て 奈(いか)んするとも無し 幽明(ゆうめい)に隔たるを

枕畔蕭蕭風雨聲　　　　枕(ちん)畔(はん) 蕭々(しょうしょう) 風雨の声

 

【語釈】

○悽然…痛ましくおもう。○独夜…独り寝の夜。○夢裏…夢の中。○無奈…どうしようもない。○幽明隔…この世界とあの世とで別れていること。○枕畔…枕もと。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。

 

 

★    過孫山人故居　　　　　孫(そん)山人(さんじん)の故居を過ぐ　　　　　　　　  明　　僧明秀

 

渓邊野竹映寒沙　　　　渓辺の野竹 寒沙に映ず

茅屋青山處士家　　　　茅屋(ぼうおく) 青山 処士(しょし)の家

燕子歸來寒食雨　　　　燕子(えんし) 帰り来る 寒食の雨

春風開徧野棠花　　　　春風 開くこと徧(あまね)し 野棠(やどう)の花

 

【語釈】

○孫山人…不祥。○故居…旧宅。○寒沙…寒々とした砂浜。○茅屋…茅吹きの粗末な家。○處士…官職につかず隠棲していた人。○寒食…冬至から一○五日目。この日と前後の日、三日間は火を使うのを禁じて、火を使わない食事とする習慣があった。○野棠…野原の海棠。

　　　

 

★    題謝岱怡古稿　　　　　謝岱怡(しゃだいたい)の古稿(ここう)に題す　　　　　　　　　　  明　　黎士弘

 

詩魂苦痩看猶在　　　　詩魂 苦痩 看ること猶お在り

方駕曽劉意未倘　　　　駕を曽劉に方(なら)べ 意 未だ倘(いぶか)らず

尚更十年身不死　　　　尚お更に十年 身 死せず

無人道着買長江　　　　人の 買長江を道着する無し

 

【語釈】

○謝岱怡…不祥。○古稿…古い枯れ木。○詩魂…詩人の精神。○苦痩…苦労して痩せること。○駕…乗り物。○道着…言い尽くす。着は助字。○買長江…？

 

 

★    悼亡詩　　　　　　　　悼(あい)亡詩(ぼうし)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王士禛

 

病中送我向南秦　　　　病中 我を 南秦(なんしん)に向(お)いて送りる

感逝傷離涕淚新　　　　逝(せい)を感じ 離(り)を傷(いた)みて 涕涙 新なり

長憶啼猿斷腸處　　　　長く 啼(てい)猿(えん)を憶い 断腸する処

嘉陵江驛雨如塵　　　　嘉(か)陵江駅(りょうこうえき) 雨 塵の如し

 

【語釈】

○悼亡…死者を哀悼する。○南秦…雲南省昭通市。○涕涙…涙をながす。○断腸…非常な悲しみ。○嘉陵江驛…長江上遊支流で四川省東部を流れる川の側にある宿場街。

 

 

★    悼亡詩　　　　　　　　悼(あい)亡詩(ぼうし)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王士禛

 

藥罏經卷送生涯　　　　薬罏(やくろ) 経巻(けいかん) 生涯を送る

禪榻春風兩鬢華　　　　禅榻(ぜんとう)の春風 両鬢の華(はな)

一語寄君君聽取　　　　一語 君に寄す 君聴取せよ

不教兒女衣蘆花　　　　兒女をして 蘆花を衣(い)せしめず

 

【語釈】

○悼亡…死者を哀悼する。○藥罏…薬を入れる壺。○經卷…宗教の教典。○禪榻…座禅を組む腰掛け。○蘆花…廬依、蘆で作った粗末な衣。《太平禦覽》卷八一九《孝子傳》：“閔子騫の故事。

 

 

★    輓馬章民年丈　　　　　馬(ば)章(しょう)民(みん)年(ねん)丈(じょう)を輓(いた)む　　　　　　　　　　  清　　張玉書

 

辛苦中閨罷錦機　　　　辛苦 中閨(ちゅうけい) 錦機(きんき)を罷(や)む

白頭曾未識宮衣　　　　白頭 曽て 未だ 宮衣を識らず

可憐風雨寒燈夢　　　　憐む可し 風雨 寒灯の夢

猶是書堂夜讀歸　　　　猶お是れ 書堂 夜読(やどく)して帰る

 

【語釈】

○馬章民…馬世俊。江蘇省常州市溧陽の人。順治十八年の狀元，修撰を授かり、侍讀に移った。○年丈…年伯。父と同じ年に進士に及第した人。○中閨…内室。○錦機…錦を織る機織り機。○宮衣…宮中で着る衣服。○可憐…感嘆の言葉。ああ。○書堂…学堂。

 

 

★    重經采石江懐曹梁父　　重ねて采(さい)石(せき)江(こう)を経(へ) 曹(そう)梁(りょう)父(ふ)を懐う　　　　　   清　　王士祐

 

憶向江于惜別離　　　　憶う 江于(こうう)に向(お)いて 別離を惜しみ

黄昏石壁共題詩　　　　黄昏(こうこん) 石壁 共に詩を題す

今來寂寞空江上　　　　今来 寂寞(せきばく) 空江の上(ほとり)

獨酹青蓮夜雨祠　　　　独(ひと)り青(せい)蓮(れん)を酹(そそ)ぐ 夜雨の祠(ほこら)

 

【語釈】

○采石江…安徽省馬鞍山市を流れる川。○曹梁父…不祥。○江于…川岸。○寂寞…寂しいさま。○青蓮…青色の蓮の花。

 

 

★    重經采石江懐曹梁父　　重ねて采(さい)石(せき)江(こう)を経(へ) 曹(そう)梁(りょう)父(ふ)を懐う　　　　　   清　　王士祐

 

禪榻何人對寂寥　　　　禅榻(ぜんとう) 何人か 寂寥(せきりょう)に対す

短檠和涙雨瀟瀟　　　　短檠(たんけい) 涙に和し 雨 瀟々(しょうしょう)

若為麗向寒江裏　　　　若(いか)為(んぞ) 麗向 寒江の裏

月黒雲深欲上潮　　　　月は黒く 雲は深く 上潮ならんと欲す

 

【語釈】

○采石江…安徽省馬鞍山市を流れる川。○曹梁父…不祥。○禪榻…腰掛け。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○短檠…短い灯。○瀟瀟…雨風が寂しく降る（吹く）音の形容。○若為…「いかんぞ」と読み、「どのように」「どうして」の意。

 

 

★    悼亡妾趙氏　　　　　　妾(しょう) 趙(ちょう)氏(し)を悼(とう)亡(ぼう)す　　　　　　　　　　  清　　惠週惕

 

春時初嫁秋來病　　　　春時 初めて嫁(か)し 秋来(しゅうらい) 病なり

九月東遊我未歸　　　　九月 東遊し 我 未だ帰らず

獨擁寒衾壓針線　　　　独(ひと)り 寒(かん)衾(きん)を擁(よう)し 針(しん)線(せん)を圧す

辛勤還為寄寒衣　　　　辛(しん)勤(きん) 還(ま)た為に 寒衣を寄す

 

【語釈】

○妾…妻。○悼亡…死者を悼む。○秋來…秋になってから。○東遊…東方に旅をする。○寒衾…寒い掛け布団。○針線…裁縫刺繍の仕事。○辛勤…辛苦勤労。○寒衣…冬着。

 

 

★    悼亡妾趙氏　　　　　　妾(しょう) 趙(ちょう)氏(し)を悼(とう)亡(ぼう)す　　　　　　　　　　  清　　惠週惕

 

年來無夢到彤扉　　　　年来 夢の 彤扉(とうひ)に到る無く

臥聽三商玉漏稀　　　　臥(ふ)して聴く　三商 玉漏(ぎょくろう)稀(まれ)なるを

記得去春風雪夜　　　　記(き)得(とく)す 去(きょ)春(しゅん) 風雪の夜

添香喚我著朝衣　　　　香に添いて 我を喚(よ)び 朝(ちょう)衣(い)を著(つ)くを

 

【語釈】

○妾…妻。○悼亡…死者を悼む。○年來…一年この方。○彤扉…赤い扉。○三商…三刻。六時間。○玉漏…水時計の美称。○記得…覚えている。忘れない。○去春…昨年の春。○朝衣…参内するときの礼服。

　　　

 

★    舟泊劍津懷亡友劉復菴　　舟 剣津(けんしん)に泊し 亡友 劉復菴(りゅうふくあん)を懐う　　　  清　　許　潤

 

分手齊安隔數春　　　　斉安(せいあん)に 手を分かちて 数春を隔つ

何緣龍劍合延津　　　　何に縁りて 竜(りゅう)剣(けん) 延津(えんしん)を合す

可堪風雨孤舟夜　　　　堪える可し 風雨 孤舟の夜

白髮盈頭哭故人　　　　白髪 頭に盈(み)ち 故人を哭す

 

【語釈】

○劍津…福建省南平県。○劉復菴…不祥。○齊安…廣東省江門市恩平市。○龍劍…古代の宝剣の一つ、龍泉ともいう。○延津…延平津（福建省南平市東南にある津)、晉の時、龍泉 ・ 太阿の両剣が分離後、この地において合併して龍となったとの伝説がある。

 

 

★    七夕詞　　　　　　　　七夕(しちせき)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

璇宮休怨渺難攀　　　　璇宮(せんきゅう) 怨むを休(や)めよ 渺(びょう)として攀(よ)ずこと難きを

地久天長往復還　　　　地久天(ちきゅうてん)長(ちょう) 往復して還(かえ)る

但有生離無死別　　　　但だ 生離(せいり) 有りて 死別無し

果然天上勝人間　　　　果然(かぜん)として 天上は人間(じんかん)に勝(まさ)る

 

【語釈】

○璇宮…玉で飾った宮殿。○地久天長…時間の長いことの形容。○生離…生きて離ればなれになること。○果然…はたして。思った通り。○人間…人間世界。

 

 

★    悼亡　　　　　　　 　　悼(あい)亡(ぼう)　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　張　照

 

邊關暑夕冷於秋　　　　辺(へん)関(かん)の暑(しょ)夕(せき) 秋よ於(よ)りも冷かなり

孤鵲驚飛別樹頭　　　　孤鵲 驚飛し 樹頭に別る

此夜萬家明月裏　　　　此の夜 万家 明月の裏(うち)

幾家思婦獨登樓　　　　幾家か 婦るを思い 独り楼に登る

 

【語釈】

○邊關…辺境の関所。○孤鵲…群れを離れたカササギ。○思婦…死者の魂が帰ってくる。

 

 

★    過呉寧若故宮過　　　　呉(ご)寧(ねい)の若(じゃく)故宮(こきゅう)に過(よ)ぎる　　　　　　　　  清　　儲雄文

 

三年不到西州路　　　　三年到らず 西州の路

松下重來欵竹扉　　　　松下 重ねて来り 竹扉を欵(たた)く

鶯語空堂春寂寂　　　　鶯語(おうご)　空堂 春 寂々(せきせき)　

緑陰深護舊漁磯　　　　緑陰 深く護る 旧漁(きゅうぎょ)磯(き)

 

【語釈】

○呉寧…浙江省金華市東陽市。○若故宮…不祥。○西州…不祥。○寂寂…寂しく静かなさま。○漁磯…魚を釣る川辺の石。

 

 

★    哭女　　　　　　　　　女(じょ)を哭す　　　　　　　　　　　　　　　　清　　姚世鈺

 

十歳言詩有性靈　　　　十歳 詩を言い 性霊有り

木蘭愛説替爺征　　　　木蘭 愛し説きて 爺に替りて征(ゆ)く

黃泉不是黃河水　　　　黄泉(こうせん) 是れ 黄河の水ならず

聞否耶嬢喚女聲　　　　聞くや否や 耶娘(やじょう) 女(じょ)を喚(よ「)ぶ声

 

【語釈】

○性霊…性情。○耶嬢…父母。　　

 

 

★    哭女　　　　　　　　　女(じょ)を哭す　　　　　　　　　　　　　　　　清　　姚世鈺

 

貧家生小儉梳妝　　　　貧家 生小 梳妝(しょしょう)倹(けん)なり

竹笥練裙少盛裝　　　　竹笥(ちくす) 練裙(れんくん) 盛装少(まれ)なり

繡得羅襦幾回著　　　　繡い得たる羅襦(らじゅ) 幾回か著(ちゃく)す

送終猶是嫁衣裳　　　　終を送りて 猶お是れ 嫁衣裳

 

【語釈】

○生小…幼少。○儉…つつましい。○梳妝…化粧をすること。○竹笥…衣裳を入れる竹製の容器。○練裙…絹製の裳裾。○羅襦…綢製の短衣。

 

　

 

★    哭女　　　　　　　　　女(じょ)を哭す　　　　　　　　　　　　　　　　清　　姚世鈺

 

傳業方今羨蔡邕　　　　業(ごう)を伝え 方(まさ)に 今 蔡邕(さいよう)を羨むべし

慰情那更比陶公　　　　情を慰めて 那(なん)ぞ更に 陶(とう)公(こう)に比せん

明知此恨古人少　　　　明知 此に恨む 古人に少(まれ)なるを

哭女偏當無子翁　　　　女(じょ)を哭(こく)するは 偏(ひとえ)えに 当(まさ)に 子 無きの翁なるべし

 

【語釈】

○業…家に伝わる学問。方…「まさに～すべし」と読み、「ちょうど」の意。○蔡邕…後漢末期の政治家・儒者・書家。○陶公…陶淵明。「弱女雖非男，慰情良勝無。」○當…「まさに～すべし」と読み「～であるのが当然である」の意。

 

★    方舟廬先姑墓感賦　　　方舟(ほうしゅう) 先姑(せんこ)の墓に廬(やど)る感じて賦(ふ)す　　　　  清　　朱柔即

 

寝苫枕塊空山裏        苫(とま)に寝(い)ね 塊に枕す 空山の裏

却望松楸涙泫然　　　　却って 松楸(しょうしゅう)を望めば 涙 泫(げん)然(ぜん)

縦使慈烏能反哺　　　　縦(たと)い 慈(じ)烏(う)をして 能(よ)く 反哺(はんぽ)せしむとも

可能飛得到九泉　　　　能(よ)く飛びて 九泉に到るを得(う)べけんや

 

【語釈】

○方舟…はこぶね。○先姑…亡くなった姑。○松楸…松とひさぎ。○泫然…涙などのハラハラと落ちるさま。○慈烏…白居易「慈烏夜啼」による。○反哺…烏が成長して親にエサを与えること。

 

 

★    癸丑秋陳妾得舉一子誌喜　　　　　　　　　　 　　　　　　　　清　　呉　巽

　　　癸(き)丑(ちゅう)の秋 陳(ちん)妾(しょう)一子を舉げ得たり 喜びて誌す

 

窮薄還憑世澤存　　　　窮(きゅう)薄(はく) 還って憑(たの)む 世沢(せたく)の存すを　　

朝來弧矢喜懸門　　　　朝来(ちょうらい) 弧矢 喜びて門に懸(か)く

翻嗟姑舅先朝露　　　　翻(ひるがえ)って嗟(さ)す 姑(こ)舅(しゅう) 朝露に先んじ

未得生前一弄孫　　　　未だ 生前 一孫を弄(ろう)す を得ざるを

 

【語釈】

○窮薄…不幸せ。○世澤…先祖からの財産。○朝来…朝になってから。○姑舅…しゅうととしゅうとめ。

 

　　　

絶句類選　巻之十二　　仙釋類　　　　　

 

★    題法院　　　　　　　　法院に題す　　　　　　　　　　　　  唐    常　建

 

勝景門開對遠山　　　　勝景 門 開いて 遠山に対す

竹深松老半含煙　　　　竹深く 松老いて 半ば煙を含む

素月殿中三度磬　　　　素(そ)月(げつ)殿中(でんちゅう) 三度の磬(けい)

水晶宮裏一僧禪　　　　水晶宮(すいしょうきゅう)裏(り) 一僧禅す

 

【語釈】

○勝景…光風景。○煙…霞、靄。○素月殿…不祥。素月(明るい月光)に照らされた殿？○磬…石や金属で出来たへ字型の楽器。○水晶宮…不祥。水晶のような宮殿？

 

★    過融上人蘭若　　　　　融(ゆう)上人(しょうにん)の蘭(らん)若(にゃ)に過(よぎ)る　　　　　　　　　  唐    孟浩然

 

山頭禪室挂僧衣　　　　山頭の禅室 僧衣を挂(か)く

窗外無人溪鳥飛　　　　窓外 人無く 渓鳥飛ぶ

黃昏半在下山路　　　　黄昏(こうこん) 半ば 山路の下に在り

却聽鐘聲度翠微　　　　却って聴く 鐘声の翠微(すいび)を度(わた)るを

 

【語釈】

○融上人…不祥。○蘭若…寺院。○溪鳥…谷に棲む鳥。○黃昏…たそがれ。○翠微…山の緑の深い中腹あたり。

 

 

★    柏林寺南望　　　　　　柏(はく)林寺(りんじ)の南望　　　　　　　　　　　　  唐　　郎士元

 

溪上遙聞精舍鐘　　　　渓上 遥(はるか)に聞く 精舎(しょうじゃ)の鐘

泊舟微徑度深松　　　　舟を泊して 微径(びけい) 深松を度(わた)る

青山霽後雲猶在　　　　青山 霽(は)れて後 雲 猶お在り

畫出西南四五峰　　　　画き出(いだ)す　西南の四五峰

 

【語釈】

○柏林寺…河北省趙県にある寺。○精舍…祇園精舎。転じて寺院。○微徑…細い道。

 

 

★    題淨居寺　　　　　　　浄(じょう)居寺(きょじ)に題す　　　　　　　　　　　　  唐　　戴叔倫

 

玉峰山下雲居寺　　　　玉(ぎょく)峰山下(ほうさんか)の雲居寺(うんきょじ)

六百年來選佛場　　　　六百年来 選仏場(せんふつじょう)

滿地白雲關不住　　　　満地の白雲 関(とざ)し住まず

石泉流出落花香　　　　石泉 流れ出(い)で 落花香(かんば)し

 

【語釈】

○淨居寺…江西省吉安市淨居寺。○玉峰山…不確定。○雲居寺…淨居寺。○選佛場…座禅の修行をする僧堂。

 

 

★    夏日登鶴巖偶成　　　　夏日 鶴(かく)巌(がん)に登る 偶成　　　　　　　　　  唐　　戴叔倫

 

天風吹我上層岡　　　　天風 我を吹いて 岡層に上らしむ

露灑長松六月涼　　　　露は 長松に灑(そそ)いで 六月涼し

願借老僧雙白鶴　　　　願くは 老僧の双白鶴(そうはくちょう)を借りて

碧雲深處共翺翔　　　　碧(へき)雲(うん) 深き処 共に翺翔(こうしょう)せん

 

【語釈】

○鶴巖…福建省南平市鶴岩？。○岡層…重なりあった丘。○翺翔…鳥が高く飛び上がる。

（参考文献）　「ブログ　詩詞世界」

 

 

 

★    過柳溪道院　　　　　　柳渓の道院に過(よぎ)る　　　  　　　　　　　唐　　戴叔倫

 

溪上誰家掩竹扉　　　　渓上 誰が家か 竹扉を掩(とざ)す

鳥啼渾似惜春暉　　　　鳥啼(ちょうてい) 渾(すべ)て 春暉(しゅんき)を惜しむに似たり

日斜深巷無人跡　　　　日 斜(ななめ)して 深(しん)巷(こう) 人跡(じんせき)無く

時見棃花片片飛　　　　時に見る 棃(り)花(か)の 片々(へんぺん)として飛ぶを

 

【語釈】

○道院…道教の寺。○春暉…春日の陽光。○深巷…奥深い道。○片片…ひらひらと軽く飛ぶさま。

 

 

★    玉真公主影殿　　　　玉(ぎょく)真(しん)公(こう)主(しゅ)の影(えい)殿(でん)　　　　　　　　　　 　　　 唐　　盧　綸

 

夕照臨窗起暗塵　　　　夕(せき)照(しょう) 窓に臨んで 暗(あん)塵(じん)起る

青松繞殿不知春　　　　青松 殿を繞(めぐ)りて 春を知らず

君看白髮誦經者　　　　君 看よ 白髪 経(きょう)を誦(しょう)する者

半是宮中歌舞人　　　　半ば是れ 宮中 歌舞の人

 

【語釈】

○玉真公主…唐の睿宗の娘。○影殿…遺影を飾った殿堂。

 

　　　

 

★    題雲公山房　　　　　　雲公(うんこう)の山房に題す　　　　　　　　　　　　　唐　　權德輿

 

雲公蘭若深山裏　　　　雲(うん)公(こう)の蘭(らん)若(にゃ) 深山の裏(うち)

月明松殿微風起　　　　月 明(あきら)かにして 松殿 微風起る

試問空門清淨心　　　　試問(しもん)す 空門 清浄の心

蓮花不著秋潭水　　　　蓮花 著(つ)かず 秋潭(しゅうたん)の水

 

【語釈】

○雲公…不祥。○蘭若…寺院。○松殿…周りに松を植えた殿堂。○試問…試みに尋ねる。○空門…仏法。○秋潭…秋の淵。

 

　　　

★    贈廣通上人　　　　　　広通(こうつう)上人(しょうにん)に贈る　　　　　　　　　　　　  唐　　權德輿

 

身隨猿鳥在深山　　　　身は 猿鳥に随いて 深山に在り

早有詩名到世間　　　　早(つと)に 詩名の世間に到る有り

客至上方留盥漱　　　　客(かく) 至りて 上方 留(とどめ)て盥漱(かんそう)す

龍泓洞水晝潺潺　　　　竜泓(りゅうこう)洞(どう)水(すい) 昼 潺々(せんせん)

 

【語釈】

○廣通上人…不祥。○上方…僧侶の住まい。○盥漱…手を洗い口すすぐ。○龍泓洞…不祥。○潺潺…浅い水の流れるさま。さらさら。

 

 

　

 

★    題張道士山居　　　　　張(ちょう)道士(どうし)の山居に題す　　　　　　　　　　  唐　　秦　系

 

盤石垂蘿即是家　　　　盤石(ばんせき)の垂蘿(すいら) 即ち是の家

回頭猶看五枝花　　　　頭を回(めぐ)して 猶お看る 五枝の花

松間寂寂無煙火　　　　松間 寂々(せきせき) 煙火無く

應服朝來一片霞　　　　応に服すべし 朝来 一片の霞

 

【語釈】

○張道士…不祥。○盤石…大石。○垂蘿…垂れ下がったつる草。○寂寂…静かで物寂しいさま。○應…「まさに～すべし」と読み、「とうぜん～であるはずだ」の意。○朝来…朝からの。

 

 

★    生公講堂　　　　　　　生公の講堂　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

生公説法鬼神聽　　　　生公 法を説き 鬼神聴く

身後堂空夜不扃　　　　身後 堂 空(むなし)くして 夜 扃(とざ)さず

高坐寂寥塵漠漠　　　　高坐 寂寥(せきりょう) 塵 漠々(ばくばく)

一方明月可中庭　　　　一方の明月 中庭に可なり

 

【語釈】

○生公…晋末高僧竺道生の尊称。○身後…死後。○高坐…聴講者に法を説く高所の座席。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○漠漠…平らに連なっているさま。○一方…一片。

 

 

★    春題華陽觀春　　　　春 華(か)陽(よう)観(かん)に題す　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

帝子吹簫逐鳳皇　　　　帝子 簫を吹いて 鳳(おう)皇(こう)を逐(お)い

空留仙洞號華陽　　　　空しく 仙洞(せんとう)を留めて 華(か)陽(よう)と号す

落花何處堪惆悵　　　　落花 何れの処か 惆悵(ちゅうちょう)に堪えん

頭白宮人埽影堂　　　　頭白の宮人 影堂を埽(はら)う

 

【語釈】

○華陽觀…長安永嵩里にあった道觀。代宗の五女華陽後主の旧宅。○起句…亭主は華陽後主、秦の穆公の女弄玉が簫の名人簫史に嫁し、遂に自ら簫を吹いて，鳳に乗って仙境へ飛び去った故事を踏まえる。○仙洞…仙人の住む洞穴。○惆悵…嘆き悲しむ。

〔参考文献〕　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

　　　

★    苦熱題恆寂師禪室　　　熱に苦しみ恒(こう)寂師(じゃくし)の禅室に題す　　　　　　唐　　白居易      　　

             

人人避暑走如狂　　　　人々 暑を避けて 走ること 狂するが如し

獨有禪師不出房　　　　独り 禅師の 房を出でざる有り

可是禪房無熱到　　　　可(はた)して 是(こ)れ 禅房 熱の到ること無けんや

但能心靜即身涼　　　　但だ 能(よ)く 心静かなれば　即ち身も涼し

 

【語釈】

○恆寂師…不祥。○可是…いったい～だろうか。当時の俗語。○但…～しさえすれば。当時の俗語。○能…直ちに、そのまま。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

 

★    題揚州木蘭院　　　　　　　揚州(ようしゅう)の木(もく)蘭院(らんいん)に題す　　　　　　　　  唐　　王　播

 

三十年前此地遊　　　　三十年前 此の地に遊ぶ

木蘭花發院初修　　　　木蘭 花発(ひら)いて 院 初めて修(しゅう)す

如今再到經行處　　　　如(じょ)今(こん) 再び到り 経行(けいこう)する処

樹老無花僧白頭　　　　樹 老いて 花 無く 僧は白頭

 

【語釈】

○木蘭院…不祥。○揚州…江蘇省揚州市。○修…飾る。○如今…現在。○經行…一定の地を繞って往来する。

 

 

★    宿冽上人房　　　　　　冽(きよ)上人(しょうにん)の房に宿す　　　　　　　　　　　  唐　　徐　凝

 

浮生不定若蓬飄　　　　浮生(ふせい) 定まらず 蓬の飄(ただよ)うが若(ごと)し

林下真僧偶見招　　　　林下の真僧 偶(たまた)ま招き見る

覺後始知身是夢　　　　覚めて後 始めて知る 身は 是れ夢なるを

更聞寒雨滴芭蕉　　　　更に聞く 寒雨の芭蕉に滴(したた)たるを

 

【語釈】

○浮生…人生の定まりないこと。○真僧…戒律を厳格に守っている人。

 

 

★    題鶴林寺僧舍　　　　　鶴(かく)林寺(りんじ)の僧舎に題す　　　　　　　　　　   唐　　李　涉

 

終日昏昏醉夢間　　　　終日 昏々(こんこん) 酔夢(すいむ)の間

忽聞春盡強登山　　　　忽(たちま)ち 春の尽くるを聞いて 強(し)いて山に登る

因過竹院逢僧話　　　　竹院に過(よぎ)りて 僧話に逢うに因(よ)り

又得浮生半日閑　　　　又 得たり 浮生(ふせい) 半日の閑(かん)

 

【語釈】

○鶴林寺…江蘇省鎮江市南郊にある寺。○昏昏…うつらうつらしているさま。○竹院…周りに竹を植えてある院。○浮生…人生の定まりないこと。　

 

 

★    登慈恩寺　　　　　　　慈恩寺(じおんじ)に登る　　　　　　　　　　　  唐　　劉　滄

 

金界時來一訪僧　　　　金界 時に来りて 一たび僧を訪ぬ

天香飄翠瑣窗凝　　　　天香 翠(すい)を飄(ひるがえ)えして 瑣(さ)窓(そう) 凝(こ)る

碧池靜照寒松影　　　　碧池 静かに照らす 寒(かん)松(しょう)の影

清晝深懸古殿燈　　　　清(せい)昼(ちゅう) 深く懸(か)く 古殿の灯

 

【語釈】

○慈恩寺…陝西省西安の南東にある名刹。○金界…仏寺。○天香…芳香の美称。○瑣窗…鎖の模様で飾った窓。○清晝…昼間。

 

 

★    重過文上人院　　　　　重ねて 文(ぶん)上人(しょうにん)の院に過(よ)ぎる　　　　　　　唐　　李　涉

 

南隨越鳥北燕鴻　　　　南は 越(えつ)鳥(ちょう)に随い 北は燕(えん)鴻(こう)

松月三年別遠公　　　　松月 三年 遠(えん)公(こう)に別る

無限心中不平事　　　　限り無し 心中 不平の事

一宵清話又成空　　　　一(いっ)宵(しょう)の清話 又 空(くう)と成る

 

【語釈】

○文上人…不祥。○越鳥…南方の鳥。○燕鴻…河北省(北方)のおおとり。○松月…松を照月。幽然とした情景。○遠公…晉の高僧慧遠、廬山の東林寺に居住した。

 

 

★    題開聖寺　　　　　　　開(かい)聖寺(せいじ)に題す　　　　　　　　　　　　唐　　李　涉

  

宿雨初收草木濃　　　　宿(しゅく)雨(う) 初めて収まり 草木濃(こまやか)なり

羣鴉飛散下堂鍾　　　　群(ぐん)鴉(あ) 飛び散ず 下堂の鍾

長廊無事僧歸院　　　　長廊 事無く 僧 院に帰り

盡日門前獨看松　　　　尽日 門前 独り松を看る

 

【語釈】

○開聖寺…不祥。○宿雨…前夜からの雨。長雨。○盡日…一日中。

 

 

　

 

★    春晚遊鶴林寺寄使府諸公　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　涉

春晩 鶴(かく)林寺(りんじ)に遊び 使府(しふ)諸(しょ)公(こう)に寄す

  

野寺尋花春已遲　　　　野寺(やじ) 花を尋ぬれば 春 已に遅し

背巖唯有兩三枝　　　　巌(いわお)に背(そむ)きて 唯だ 両三枝有り

明朝攜酒猶堪賞　　　　明朝 酒を携えて 猶お賞するに堪えたり

爲報春風且莫吹　　　　為に報ず 春風 且(しばら)く吹く莫かれと

 

【語釈】

○鶴林寺…江蘇省鎮江市南郊にある寺。○使府…節度使の役所。○堪賞…愛でることができる。

 

 

★    贈楊煉師　　　　　　　楊煉師(ようれんし)に贈る　　　　　　　　　　　　　  唐　　鮑　溶

 

紫煙衣上繡春雲　　　　紫煙(しえん)衣上(いじょう) 春雲を繡(しゅう)す

清隱山書小篆文　　　　清隱 山書 小篆(しょうてん)文(ぶん)

明月在天將鳳管　　　　明月 天に在りて 鳳管(ほうかん)を将って

夜深吹向玉晨君　　　　夜深くして 吹いて 玉晨(ぎょくしん)君(くん)に向う

 

【語釈】

○楊煉師…不祥。○紫煙…紫色の瑞雲。○小篆文…秦の字臺に使われた文字かいた文書。○鳳管…簫や笙の美称。○玉晨君…道教の神。

 

 

 

★    贈楊煉師　　　　　　　楊煉師(ようれんし)に贈る　　　　　　　　　　　　  唐　　鮑　溶

 

道士夜誦蘂珠經　　　　道士 夜 誦(じゅ)す 蘂(ずい)珠(じゅ)経(きょう)

白鶴下遶香煙聽　　　　白鶴(はくかく) 下りて 香煙を遶(めぐ)りて聴く

夜移經盡人上鶴　　　　夜移り 経 尽きて 人 鶴に上り

仙風吹入秋冥冥　　　　仙風 吹き入りて 秋 冥々(めいめい)たり

 

【通釈】

○楊煉師…不祥。○道士…道教の僧。○蘂珠經…道教の教典の一つ。○冥冥…奥深くかすかなさま。

 

 

★    峰頂寺　　　　　　　　峰(ほう)頂寺(ちょうじ)　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　張　祜

 

月明如水山頭寺　　　　月明 水の如し 山頭(さんとう)の寺

仰面看天石上行　　　　面を仰ぎ 天を看て 石上に行く

夜半深廊人語定　　　　夜半の深廊 人語定まり

一枝松動鶴帰聲　　　　一枝 松 動いて 鶴の帰る声

 

【語釈】

○峰頂寺…不祥。○山頭…山の頂上。○仰面…顔を上げて上を見る。○定…やむ。

 

 

 

★    仙遊寺　　　　　　仙遊寺(せんゆうじ)に題す　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　朱慶餘

 

雲抱龍堂蘚石乾　　　　雲は 竜堂を抱いて 蘚(せん)石(せき)乾き

山遮白日寺門寒　　　　山は 白日を遮りて 寺門寒し

長松瀑布饒奇狀　　　　長松 瀑布 奇状を饒(ま)し

曾有仙人駐鶴看　　　　曽(かつ)て 仙人の 鶴を駐(とど)めて看る有り

 

【語釈】

○僊遊寺…陝西省周至県の南にある寺。○龍堂…龍の絵がある堂。○蘚石…苔の生えた石。○奇状…珍しく美しい形状。

 

 

★    醉後題禪院　　　　　　酔後 禅院に題す　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

觥船一掉百分空　　　　觥(こう)船(せん) 一掉(いっとう) 百分空(むな)し

十歳青春不負公　　　　十歳の青春  公に負(そむ)かず

今日鬢絲禪榻畔　　　　今日 鬢(びん)糸(し) 禅榻(ぜんとう)の畔(ほとり)

茶煙輕颺落花風　　　　茶煙 軽く颺(あが)がる 落花の風

 

【語釈】

○觥船…水牛の角で作った大杯。舟の形をしている。○一掉…舟を棹で一漕ぎする。一気飲み。○百分空…全部空に成る。○禪榻…禅寺の長椅子。

（参考文献）　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

 

★    憶住一師　　　　　　　住一師(じゅういちし)を憶う　　　　　　　　 　　　　　 唐　　李商隱

 

無事經年別遠公　　　　無事 経年 遠公に別る

帝城鐘曉憶西峰　　　　帝城の鐘暁 西峰を憶う

爐煙消盡寒燈晦　　　　炉煙 消え尽くし 寒灯晦(くら)し

童子開門雪滿松　　　　童子 門を開けば 雪 松に満つ

 

【語釈】

○住一師…不祥。○遠公…晉の高僧慧遠。廬山の東林寺に居住した。○帝城…帝都長安。○炉煙…香炉の煙。

 

 

★    定山寺　　　　　　　　　定山寺(じょうざんじ)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　薛　逢

 

十里松蘿映碧苔　　　　十里の松蘿(しょうら) 碧(へき)苔(たい)に映ず

一川晴色鏡中開　　　　一川の晴色 鏡中に開く

遙聞上界翻經處　　　　遥かに聞く 上界 経を翻(ほん)する処

片片香雲出院來　　　　片々(へんぺん)たる 香雲 院を出(いで)て来(きた)る

 

【語釈】

○定山寺…不祥。○松蘿…松とカズラ。○上界…天界。仏のいる寺。○片片…ひらひらと軽く飛ぶさま。○香雲…美しい雲。

 

 

　　　

 

 

★李侍御歸炭谷山居同宿華嚴寺　　　　　　　   　　　　　　　　　　唐    趙  嘏

李(り)侍御(じぎょ)が炭谷(たんこく)の山居に帰り華厳寺(けごんじ)に同宿す

 

家在青山近玉京　　　　家は 青山に在りて 玉(ぎょく)京(けい)に近し

白雲紅樹滿歸程　　　　白雲 紅樹 帰程に満つ

相逢一宿最高寺　　　　相逢いて 一宿す 最高の寺

半夜翠微泉落聲　　　　半夜 翠微(すいび) 泉の落つる声

 

【語釈】

○李侍御…不祥。○炭谷…長安城の南にある靈母谷？○華嚴寺…陝西省西安市華嚴寺。○玉京…帝都長安。○帰程…帰路。○翠微…山の中腹の緑色の所。

 

 

★    尋僧　　　　　　　　　僧を尋ぬ　　　　　　　　　　　　   唐　　趙　嘏

 

溪戸無人谷鳥飛　　　　渓(けい)戸(こ) 人無く 谷(こく)鳥(ちょう)飛ぶ

石橋橫木掛禪衣　　　　石橋の横木に 禅衣を掛く

看雲日暮倚松立　　　　雲を看て 日暮 松に倚(よ)りて立つ

野水亂鳴僧未歸　　　　野水 乱れ鳴き 僧 未だ帰らず

 

【語釈】

○溪戸…渓にある家。○谷鳥…谷に棲む鳥。

 

 

★    僧舍　　　　　　　　　僧舎　　　　　　　　　　　　　　   唐　　趙　嘏

 

溪上禪關水木間　　　　渓上の禅関(ぜんかん) 水木の間

水南山色與僧閑　　　　水南の山色 僧と与(とも)に閑(かん)なり

春風盡日無來客　　　　春風 尽日(じんじつ) 来客無く

幽磬一聲高鳥還　　　　幽磬(ゆうけい) 一声 高鳥還(かえ)る

 

【語釈】

○禪關…禅寺の門。○山色…山の気配。○盡日…一日中。○幽磬…奥深い磬（金属、石で出来たへの字型の楽器）の音。○高鳥…高く飛ぶ鳥。

 

 

★    文殊院避暑　　　　　　文殊院(もんじゅいん)に暑を避く　　　　　　　　　　　　  唐　　李羣玉

 

赤日黃埃滿世間　　　　赤日 黄埃(こうじん) 世間に満つ

松聲入耳即心閑　　　　松声 耳に入り 即ち心閑(しずか)なり　

願尋五百仙人去　　　　願わくは 五百仙人を尋ねて去り

一世清涼住雪山　　　　一世の清涼 雪山に住せん

 

【語釈】

○文殊院…四川省成都市文殊院。○赤日黃埃…俗世間の煩わしさの比喩。○五百仙人…不祥。

 

 

 

★    峽山寺上方　　　　　　峡山寺の上方　　　　　　　　　　　　　  唐　　李羣玉

 

滿院泉聲水殿涼　　　　満院の泉声 水殿涼し

疎簾微雨野松香　　　　疎簾の微雨 野松香(かんば)し

東峰下視南溟月　　　　東峰  下に視る南溟(なんめい)の月

笑踏金波看海光　　　　笑って 金波(きんぱ)を踏み 海光を看る

 

【語釈】

○峽山寺…不祥。○上方…僧侶の住居。○満院…中庭一杯。○水殿…水に臨む殿堂。○南溟…南の海。○金波…月光。

 

　　　

★    紫極宮齋後　　　　　　紫(し)極宮(きょくきゅう) 斎後(さいご)　　　　　　　　　　　唐　　李羣玉

 

紫府空歌碧落寒　　　　紫府(しふ)の空歌(くうか) 碧落(へきらく)寒し

曉星寥亮月光殘　　　　暁星 寥(りょう)亮(りょう) 月光残る

一羣白鶴高飛上　　　　一群の白鶴 高く飛上がり

唯有松風吹石壇　　　　唯だ 松風(しょうふう)の 石壇を吹く有るのみ

 

【語釈】

○紫極宮…不確定。○齋後…身を清めた後。○紫府…道教の仙人の住むところ。○碧落…道教の語で青空。○寥亮…清らかに響く。

 

 

 

　　　

★    步虛詞　　　　　　　　歩(ほ)虚(きょ)詞(し)　　　　　　　　　　　　　  唐　　高　駢

 

青溪道士人不識　　　　青渓(せいけい)道士(どうし) 人 識らず

上天下天鶴一隻　　　　天に上り 天を下る 鶴 一隻

洞門深鎖碧窗寒　　　　洞門 深く鎖ざし 碧窓寒し

滴露研朱點周易　　　　滴(てき)露(ろ) 朱を研(けん)じて 周(しゅう)易(えき)に点ず

 

【語釈】

○步虛詞…道教を賛美する詩。○青溪道士…諸子百家一人である鬼谷子。道教では古の真仙とみなしている。○滴露研朱…朱筆で文書を改めること。○周易…易経に記された、爻辞、卦辞、卦画に基づいた占術。

 

 

★    頭陀僧　　　　　　　　頭陀(ずだ)僧(そう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸龜蒙

 

萬峰圍繞一峰深　　　　万峰 囲繞(いぎょう)し 一峰深し

向此長修苦行心　　　　此に向って 長修す 苦行の心

自掃雪中歸鹿跡　　　　自(みずか)ら掃う 雪中 帰(き)鹿(ろく)の跡

天明恐被獵人尋　　　　天明 恐らくは 猟人に尋ねらるらん

 

【語釈】

○頭陀僧…俗塵、煩悩から離れた僧。○圍繞…取り囲む。○歸鹿跡…山に帰った鹿の足跡。○天明…夜明け。

 

 

★    贈老僧　　　　　　　　老僧に贈る　　　　　　　　　　　　　唐　　陸龜蒙

 

枯貌自同霜裏木　　　　枯貌(こぼう) 自(おのずか)ら同じ 霜(そう)裏(り)の木に

餘生唯指佛前燈　　　　余生 唯だ指す 仏前の灯

少時冩得坐禪影　　　　少時 写し得たる 坐禅の影

今見問人何處僧　　　　今見て 人に問う 何れの処の僧かと

 

【語釈】

○枯貌…老いた容貌。○少時…若年の時。

 

　　　

★    贈日東鑒禪師　　　　　日東の鑑(がん)禅師(ぜんじ)に贈る　　　　　　　　　　唐　　司空圖

 

故國無心渡海潮　　　　故国 無心にして 海(かい)潮(ちょう)を渡り

老禪方丈倚中條　　　　老禅の方丈 中条(ちゅうじょう)に倚(よ)る

夜深雨絕松堂靜　　　　夜深くして　雨絶え　松堂静かなり

一點山螢照寂寥　　　　一点の山(さん)蛍(けい)　寂寥(せきりょう)を照す

 

【語釈】

○日東…日本。○鑒禪師…鑑禅師、日本人僧侶の名。○方丈…僧の居室。○中條…中條山、長安と洛陽の中間にある。○松堂…松林の中にある堂。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。

（参考文献）　『三体詩』　

 

　　　

 

 

★    西蜀淨衆寺七祖院小山　　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　鄭　谷

西蜀の浄(じょう)衆寺(しゅうじ)の七(しち)祖院(そいん)の小山

 

小巧功成雨蘚斑　　　　小巧(しょうこう) 功成りて 雨蘚(うせん) 斑(まだら)なり

軒車日日扣松關　　　　軒車(けんしゃ) 日々 松(しょう)関(かん)を扣(たた)く

峨嵋咫尺無人去　　　　峨嵋(がび) 咫尺(しせき) 人の去る無く

却向僧窗看假山　　　　却って 僧窓に向って 仮山を看る

 

【語釈】

○淨衆寺…不祥。○七祖院…不祥。○小巧…小さな技巧。○雨蘚…雨を帯びた苔。○軒車…大夫以上が乗る車。○松關…柴門。粗末な門。○峨嵋…峨眉山。四川省にある名山。○咫尺…距離の近いことの形容。○仮山…庭に作った築山。

 

 

★    別修覺寺無本上人　　　修(しゅう)覚寺(かくじ)の無本(むほん)上人(しょうにん)に別る　　　　　  唐　　鄭　谷

 

松上閑雲石上苔　　　　松上の閑雲(かんうん) 石上の苔

自嫌歸去夕陽催　　　　自ら 嫌(きら)う 帰り去りて 夕陽(せきよう)催(もよお)すを

山門握手無語他　　　　山門 手を握(にぎ)ぎり 他語無し

秪約今冬看雪來　　　　秪(た)だ約す 今冬 雪を看に来らんと

 

【語釈】

○修覺寺…四川省成都市新津県修覺寺。○無本上人…不祥。○閑雲…悠悠として空に浮かんでいる雲。

 

★    小遊仙詩　　　　　　　小遊仙(しょうゆうせんし)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　　唐　　曹　唐

 

彤閣鐘鳴碧鷺飛　　　　彤閣(とうかく)の鐘 鳴りて 碧(へき)鷺(さぎ)飛ぶ

皇君催熨紫霞衣　　　　皇君 催(さい)熨(い)す 紫(し)霞(か)衣(い)

丹房玉女心慵甚　　　　丹房(たんぼう)の玉女 心 慵(ものう)きことに甚え

貪看投壺不肯歸　　　　投壺を貪り看て 肯て帰らず

 

【語釈】

○小遊仙詩…俗界を離れて仙界に遊ぶことをうたった詩。○彤閣…赤色の楼閣。○碧鷺…青緑色のサギ。○皇君…？○催熨…熨で皺を延ばす。○紫霞衣…道教で仙人が着る紫色の雲の模様の衣。○丹房…神仙の住む部屋。○玉女…仙女。○投壺…矢を投げて壺の口に入れる遊び。賭け事に使われた。

 

 

★    小遊仙詩　　　　　　　小遊仙(しょうゆうせん)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　曹　唐

 

北斗西風吹白榆　　　　北斗の西風 白榆(はくゆ)を吹く

穆公相笑夜投壺　　　　穆公(ぼくこう) 相い笑う 夜の投(とう)壺(こ)

花前玉女來相問　　　　花前の玉女 来りて相問う

賭得青龍許贖無　　　　賭け得たる青竜 贖(あがな)うを許すや無(いな)や

 

【語釈】

○小遊仙詩…俗界を離れて仙界に遊ぶことをうたった詩。○西風…秋風。○白榆…星のこと。○穆公…春秋時代の秦の第9代公。○投壺…矢を投げて壺の口に入れる遊び。賭け事に使われた。○玉女…仙女。○青龍…木星。

 

 

★    僧房聽雨　　　　　　　僧房 雨を聴く　　　　　  　　　　　　唐　　盧士衡

 

古寺松軒雨聲別　　　　古寺の松(しょう)軒(けん) 雨声別なり

寒窗聽久詩魔發　　　　寒窓 聴くこと久しくして 詩魔(しま)発す

記得年前在赤城　　　　記(き)得(とく)す 年前 赤城(せきじょう)に在りて

石樓夢覺三更雪　　　　石楼 夢は覚む 三更の雪

 

【語釈】

○松軒…松の植えてある家。○詩魔…強烈な詩興。○記得…思い出す。○赤城…王宮。○三更…真夜中。

 

 

★    贈僧　　　　　　　　　僧に贈る　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　洞

 

不羨王公與貴人　　　　羨まず 王公と貴人とを

唯將雲鶴自相親　　　　唯(た)だ 雲(うん)鶴(かく)を将(も)って 自(おのずか)ら相親しむ

閑來石上觀流水　　　　閑来(かんらい) 石上 流水を観る

欲洗禪衣未有塵　　　　洗わんと欲す 禅衣の 未だ塵有らざるを

 

【語釈】

○雲鶴…鶴の形容。○閑來…閑散となって以来。

 

 

　

 

★    題常樂寺　　　　　　　常(じょう)楽寺(らくじ)に題す　　　　　　　　　　　　  唐　　唐　求

　　

天桂香聞十里間　　　　天桂 香聞 十里の間　　　　　

殿臺渾不似人寰　　　　殿台 渾(すべ)て 人寰(じんかん)に似ず

日斜回首江頭望　　　　日 斜めにして 首(こうべ)を回(めぐ)らして 江頭に望めば　

一片閑雲落後山　　　　一片の閑雲 後山に落つ

 

【語釈】

○常樂寺…不祥。○人寰…俗世間。○天桂…天上の桂の木。○香聞…香りの匂いを嗅ぐ。○殿台…寺院の建物。○閑雲…悠悠として空に浮かんでいる雲。

 

 

★    宿巾子山禪寺　　　　　巾子山(きんしざん)の禅寺に宿す　　　　　　　唐　　任　翻

 

絕頂新秋生夜涼　　　　絶頂の新秋 夜涼を生ず

鶴翻松露滴衣裳　　　　鶴は 松露(しょうろ)を翻えして 衣裳に滴(したた)る

前峰月映半江水　　　　前峰 月は映ず 半江の水

僧在翠微開竹房　　　　僧は 翠微(すいび)に在りて 竹房(ちくぼう)を開く

 

【語釈】

○巾子山…不確定。○翠微…緑がかった山の中腹。○竹房…竹で囲まれた部屋。○翠微…山の中腹の緑がかったあたり。○竹房…竹林で囲まれた部屋。

 

 

　

 

★    再遊巾子山寺　　　　　再び巾子山(きんしざん)の寺に遊ぶ　　　　　　　　　 唐　　任　翻

 

靈江江上幘峰寺　　　　霊(れい)江(こう)の江上 幘(さく)峰寺(ほうじ)

三十年來兩度登　　　　三十年来 両度(ふたたび)登り来たる

野鶴尚巢松樹徧　　　　野鶴(やかく) 尚お 松樹に巣くいて徧(あまね)し

竹房不見舊時僧　　　　竹房 見えず 旧時の僧

 

【語釈】

○巾子山…不確定。○靈江…霊力のある江。○幘峰寺…不祥。○竹房…竹で囲まれた部屋。

 

 

★    三遊巾子山寺感述　　　三たび巾子山(きんしざん)の寺に遊びて感述す　　　　  唐　　任　翻

 

清秋絶頂竹房開　　　　清秋の絶頂 竹房開く

松鶴何年去不回　　　　松鶴 何年 去りて回(かえ)らず　

惟有前峰明月在　　　　惟だ 前峰に 明月の在るのみ有りて

夜深猶過半江來　　　　夜深くして 猶お 半江を過ぎて来る

 

【語釈】

○巾子山…不確定。○竹房…竹で囲まれた部屋。○松鶴…松に巣くう鶴。

 

 

 

★    寄鑒上人　　　　　　　　鑑(がん)上人(しょうにん)に寄す　　　　　　　　　　　　  唐　　左　偃

 

一從攜手阻戈鋋　　　　一たび 手を携えし従(よ)り 戈鋋(かせん)に阻(さえぎ)られ

屈指如今已十年　　　　指を屈し 如(じょ)今(こん) 已に十年

長記二林同宿夜　　　　長(ちょう)記(き)す 二林 同宿の夜

竹齋聽雨共忘眠　　　　竹(ちく)斎(さい) 雨を聴いて 共に眠るを忘るを

 

【語釈】　

○鑒上人…不祥。○戈鋋…戦争。○屈指…指折り数える。○如今…現在。○竹齋…竹の植えてある書斎。

 

 

★    訪邵道者不遇　　　　　邵(しょう)道者(どうしゃ)を訪ねて 遇わず　　　　　　　　唐　　李　中

 

閑來仙觀問希夷　　　　閑来(かんらい) 仙(せん)観(かん)に希(い)夷(き)を問う

雲滿星壇水滿池　　　　雲は 星壇に満ち 水は 池に満つ

羽客不知何處去　　　　羽客(うかく)は知らず 何れの処にか去る

洞前花落立多時　　　　洞前 花落ちて 立つこと多時なり

 

【語釈】

○邵道者…不祥。○閑來…閑散となって以来。○仙觀…道教の寺院の美称。○希夷…道士。○星壇…道教の祭壇。○羽客…方士。

 

 

 

★    遊紫陽宮　　　　　　　紫陽宮に遊ぶ　　　　　　　　　　　　　　  唐　　成彦雄

 

古殿煙霞簇畫屏　　　　古殿の煙霞(えんか) 画屏(がへい)に簇(むらが)る

直疑踪跡到蓬瀛　　　　直ちに疑う 踪跡(そうせき) 蓬瀛(ほうえい)に到るかと

碧桃滿地眠花鹿　　　　碧(へき)桃(とう) 地に満ち 花に眠る鹿

深院松窗擣藥聲　　　　深院の松窓 薬を擣(つ)く声

 

【語釈】

○紫陽宮…不祥。神仙を祀った宮。○煙霞…もや、やすみ。○畫屏…絵で飾られた屛。○踪跡…往来。○蓬瀛…東海にあるという蓬莱と瀛州の二仙山。○深院…奥深い中庭。○松窓…松が近くにある窓。

 

 

★    山僧蘭若　　　　　　　山僧の蘭(らん)若(にゃ)　　　　　　　　　　　　　　唐　　崔　峒

 

絕頂茅庵老此生　　　　絶頂の茅(ち)庵(あん) 此の生を老ゆ

寒雲孤木獨經行　　　　寒雲 孤木 独り経(けい)行(こう)す

世人那得知幽逕　　　　世人 那(な)んぞ 幽径(ゆうけい)を知ることを得ん

遙向中峰禮磬聲　　　　遥かに 中峰に向って 磬声(けいせい)を礼す

 

【語釈】

○蘭若…寺院。○絕頂…頂上。○茅庵…茅葺きの粗末な家。○經行…座禅の時眠気を防ぐため、立って往来すること。○幽逕…静かな小径。○磬聲…磬（石や金属でできたへの字方の楽器）の音。

 

 

★    宿靜林寺　　　　　　　静(せい)林寺(りんじ)に宿す　　　　　 　　　　　　 唐　　靈　一

 

山寺門前多古松　　　　山寺の門前 古松多し

溪行欲到已聞鐘　　　　渓(けい)行(こう) 到らんと欲して 已に鐘を聞く

中宵引領尋高頂　　　　中宵(ちゅうしょう) 領を引いて 高頂を尋ぬ

月照雲峰凡幾重　　　　月は 雲峰を照らして 凡(すべ)て幾重

 

【語釈】

○靜林寺…不祥。○中宵…夜半。○引領…待望して首を伸ばす。○凡…合わせて。

 

　　　

★    僧院　　　　　　　　　僧院　　　　　　　　　　　　　  唐　　靈　一

 

虎溪閑月引相過　　　　虎渓(こけい)の閑月 引きて相過(あいす)ぐ

帶雪松枝挂薜蘿　　　　雪を帯ぶ松枝 薜蘿(へきら)を挂(か)く

無限青山行欲盡　　　　限り無き青山 行きて尽きんと欲す

白雲深處老僧多　　　　白雲深き処　老僧多し

 

【語釈】

○虎溪…江西省九江市廬山の東林寺の前にある渓。○閑月…清閑な月。○薜蘿…緑色の薄絹。

 

 

★    晚秋宿破山寺　　　　　晩秋　破(は)山寺(ざんじ)に宿す　　　　　　　　　  唐　　皎　然

 

秋風落葉滿空山　　　　秋風 落葉 空山に満つ

古殿殘燈石壁間　　　　古殿の残灯 石壁の間

昔日經行人去盡　　　　昔日(せきじつ) 経(けい)行(こう) 人 去り尽くし

寒雲夜夜自飛還　　　　寒雲 夜々 自(おのずか)ら飛びて還る

 

【語釈】

○破山寺…江蘇省常熟市虞山北嶺下にある寺。○經行…座禅の時眠気を防ぐため、立って往来すること。

　　　

 

★    贈九華上人           九(きゅう)華(か)上人(しょうにん)に贈る    　　　　　　　　　  唐　　齊　己

 

一法傳聞繼老能　　　　一法 伝え聞く 老能(ろうのう)に継ぐと

九華閑臥最高峰　　　　九華 閑(かん)臥(が)す 最高峰

秋鐘盡後殘陽暗　　　　秋鐘 尽きて後 残陽暗し

門掩松邊雨夜燈　　　　門は掩う 松(しゅう)辺(へん) 雨夜の灯

 

【語釈】

○九華上人…不祥。○一法…仏教用語。一事一物。○九華…九華上人。○閑臥…静かに横たわる。

 

　　　

 

★    七月過孤山勤上人院　　七月 孤山の勤(きん)上人(しょうにん)の院に過(よ)ぎる　　　　  宋　　蔡　襄

 

青林藹藹日暉暉　　　　青林 藹々(あいあい) 日 暉々(きき)

薄晚涼生暑氣微　　　　薄晩 涼 生じて 暑気微(かすか)なり

湖上清風如可載　　　　湖上の清風 如(いか)に載すべき

畫船十隻不空歸　　　　画船 十隻 空しく帰らず

 

【語釈】

○孤山…浙江省杭州市の西湖中にある山。○勤上人…不祥。○藹藹…草木の茂るさま。○暉暉…日が明るく輝るさま。○薄晩…夕暮れ時。○画船…絵で飾った船。

 

　　　

★    悟真院　　　　　　　　悟(ご)真院(しんいん)　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

野水從橫漱屋除　　　　野水 従横 屋除(おくじょ)に漱(すす)ぐ

午窗殘夢鳥相呼　　　　午窓 残夢 鳥相呼ぶ

春風日日吹香草　　　　春風 日々 香草を吹き

山北山南路欲無　　　　山北山南 路 無からんと欲す

 

【語釈】

○悟真院…唐の詩僧であった悟真の院。○屋除…建物の前の階段。○残夢…目が覚めて猶お残る夢こごち。

 

 

 

★    華山精舎　　　　　　　華山(かざん)精舎(しょうじゃ)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊　備

 

巖屏晚樹噪寒鴉　　　　巌屏(がんぺい) 晩樹 寒鴉噪(さわ)ぎ

嵐翠樓臺釋子家　　　　嵐(らん)翠(すい) 楼台 釈子(しゃくし)の家

池面鏡光功德水　　　　池面の鏡光 功徳(くどく)の水

金波影裏石蓮花　　　　金波(きんぱ)影(えい)裏(り) 石(せき)蓮(れん)花(か)

 

【語釈】

○華山…西省華陰市にある山。五岳の一つで西岳と呼ばれる。○精舎…寺院。○巖屏…巌の壁。○嵐翠…青緑色の山の靄。○釋子…僧侶。○石蓮花…サボテンの一種。

 

 

★    宿餘杭山寺　　　　　　杭山寺に宿余(しゅくよ)す　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

暮鼓晨鐘自擊撞　　　　暮(ぼ)鼓(こ) 晨(しん)鐘(しょう) 自(みずか)ら撃撞(げきとう)し

閉門孤枕對殘紅　　　　門を閉じ 孤(こ)枕(ちん) 残紅(ざんこう)に対す

白灰旋撥通紅火　　　　白(はく)灰(かい) 旋(やが)て撥(ひら)く 通(つう)紅(こう)の火

臥聽蕭蕭雨打窗　　　　臥(ふ)して聴く 蕭々(しょうしょう) として 雨の窓を打つを

 

【語釈】

○宿餘…宿泊する。○杭山寺…不祥。○暮鼓晨鐘…夕暮に敲く太鼓と夜明けに付く鐘。○擊撞…打つ。○孤枕…一人で眠る。○殘紅…消えかかっている灯火。○撥…払いのけて開く。○通紅…真っ赤。○蕭蕭…雨風、落葉等の物寂しい音の形容。

（参考文献）　　『漢詩大系　１９』

 

絶句　　　　　　　　　　絶句　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

天風吹月入欄干　　　　天風 月を吹いて 欄干に入り

烏鵲無聲夜向闌　　　　烏鵲(うじゃく) 声無く 夜 闌(たけなわ)に向う

織女明星來枕上　　　　織女 明星 枕上(ちんじょう)に来(きた)り

乃知身不在人間　　　　乃(すなわ)ち知る 身は人間(じんかん)に在らざるを

 

【語釈】

○天風…天空を吹く風。○烏鵲…カササギ。○夜向闌…夜が明けようとする。○織女…織女星。○人間…俗世間。

　　　

 

★    佛日山榮長老方丈　　　仏(ぶつ)日山(じつざん)栄(えい)長老(ちょうろう)の方丈(ほうじょう)　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

日射回廊午枕明　　　　日は回廊を射て 午枕明(あきらか)なり

水沈銷盡碧煙橫　　　　水沈(すいちん) 銷尽(しょうじん)して 碧(へき)煙(えん)横わる

山人睡覺無人見　　　　山人 睡(ねむり)覚(さ)めて 人の見る無く

只有飛蚊繞鬢鳴　　　　只だ 飛(ひ)蚊(ぶん)の鬢(びん)を繞(めぐ)りて鳴く有り

 

【語釈】

○佛日山…広西省河池市日山の浄慧寺。○榮長老…不祥。○方丈…僧の住まい。○午枕…午睡の枕元。○水沈…沈香。香木の名。○銷盡…燃え尽くす。○山人…仙人、道士、ここでは僧侶。

 

　

 

★    常州太平寺薝蔔亭　　　常州(じょうしゅう)太平寺薝蔔亭(たいへいじせんぷくてい)　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

六花薝蔔林間佛　　　　六(りく)花(か)の薝蔔(せんぷく) 林間の仏

九節菖蒲石上仙　　　　九節の菖蒲 石上の仙

何似東坡鐵拄杖　　　　何ぞ似たる 東坡 鉄拄(てっちゅう)の杖に

一時驚散野狐禪　　　　一時に驚(きょう)散(さん)す 野(や)狐(こ)の禅

 

【語釈】

○常州…江蘇省常州市一帯。○太平寺…江蘇省泰州市太平寺。○六花…六弁。○薝蔔…くちなし枇杷の花。○九節菖蒲…漢の武帝が崇山に登って採ったという仙章。○東坡…蘇軾の号。○鐵拄…鉄棒。○野狐禪…えせ修行者。

 

　　　

★    夜間風雨有感 　　　　夜間の風雨 感有り　　　　　　　　 宋　　張　耒

 

留滯招提未是歸　　　　招提(しょうだい)に留滞(りゅうたい)して 未だ是れ帰らず

卧聞秋雨響疏籬　　　　卧(ふ)して聞く 秋雨の疏籬(そり)に響くを

何當粗息飄萍恨　　　　何(いつ)か当(まさ)に 粗(あら)き飄萍(ひょうひょう「)の恨みを息(や)め

却誦僧窗聽雨詩　　　　却って 僧窓に 雨を聴く詩を誦(とな)うべき

 

【語釈】

○留滯…滞留する。○招提…寺院。○疏籬…粗い籬。○當…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であろう」の意。○飄萍…漂流する浮き草。身の定まらない事の喩え。

 

　　　

 

★    瑞巖庵清眺　　　　　　瑞(ずい)巌(がん)庵(あん)の清眺(せいちょう)　　　　　　　　　　　  　 宋　　米　芾

 

西山月落楚天低　　　　西山 月落ちて 楚天(そてん)低し

不放紅塵點翠微　　　　紅(こう)塵(じん)を放たず 翠微(すいび)に点ず

鶴唳一聲松露滴　　　　鶴唳(かくれい) 一声 松露(しょうろ)滴(した)たり

水晶寒濕道人衣　　　　水晶 寒(かん)湿(しつ)す 道人の衣

 

【語釈】

○瑞巖庵…不祥。○楚天…湖北省・湖南省の空。○紅塵…車馬の土埃。○翠微…緑色をした山の中腹。○鶴唳…鶴の鳴き声。○寒濕…冷たく湿らす。○道人…道教徒。

 

 

★    望道場山塔　　　　　　道場山(どうじょうざん)の塔を望む　　　　　　　　　　 宋　　孫　覿

 

蕭寺知名四十年　　　　蕭寺(しょうじ) 名を知りて 四十年

身投籠檻到無緣　　　　身を籠(ろう)檻(かん)に投じて 無縁(むえん)に到る

行人指點松間路　　　　行人(こうじん) 指(し)点(てん)す 松間の路

正在孤雲落照邊　　　　正に 孤雲 落照の辺に在り

 

【語釈】

○蕭寺…浙江省湖州にある山。○籠檻…竹で作った檻。不自由な世界。○無緣…仏の教えを聞く縁の無い者。○行人…旅人。○指點…指指す。○落照…夕陽の光。

 

 

★    遊金沙寺　　　　　　　金沙寺に遊ぶ　　　　　　　　　　　  宋　　孫　覿

 

綠笋遺苞半出籬　　　　緑笋(りょくい) 遺苞(いほう)して 半ば籬(かき)を出ず

清溪一曲翠相迷　　　　清渓 一曲 翠(みどり) 相迷う

古苔稱意壞牆滿　　　　古苔(こたい) 意に称(かな)って 壊牆(かいしょう)に満ち

好鳥盡情深樹啼　　　　好鳥 情を尽して 深樹に啼く

 

【語釈】

○金沙寺…不祥。○綠笋…緑のタケノコ。○遺苞…皮から体を現す。○一曲…一回曲がること。○壞牆…壊れた垣根。　　

 

 

★    重過楓橋寺示遷老　　　　重ねて楓(ふう)橋寺(きょうじ)に過(よぎ)りて 遷(せん)老(ろう)に示す　　　　  宋　　孫　覿

 

白首重來一夢中　　　　白首 重来(ちょうらい) 一夢の中

青山不改舊時容　　　　青山 改めず 旧時の容(かたち)

烏啼月落橋西寺　　　　烏啼き 月は落つ 橋西の寺

攲枕猶聞半夜鍾　　　　枕を攲(そばだて)て猶お聞く 半夜の鍾

 

【語釈】

○楓橋寺…江蘇省蘇州の寒山寺。張継の「風橋夜泊」で名高い。○白首…白髪頭。○重來…再びやってくる。○半夜…真夜中。

 

 

★    道經柘溪靜林寺　　　道 柘渓(たくけい)の静(せい)林寺(りんじ)を経(ふ)　　　　　　　　　　  宋　　邵　棠

 

青山萬疊倚晴空　　　青山 万(ばん)畳(じょう) 晴空に倚(よ)る

中有招提一徑通　　　中に 招提(しょうだい) 一径の通ずる有り

衲子不關塵世事　　　衲子(のうし)は関せず 塵世の事

黄花紅葉共秋風　　　黄花(こうか) 紅葉 共に秋風

 

【語釈】

○柘溪…浙江省衢州市の西にある渓。○靜林寺…不祥。○萬疊…山が多く重なるさま。○招提…寺院。○衲子…僧侶。○塵世…俗世間。

 

 

★    寄南巖悟禪師　　　　　南巌(なんがん)の悟(ご)禅師(ぜんじ)に寄す　　　　　　　   宋　　王　銍

 

雪後千峯玉刻成　　　　雪後 千峰 玉刻(ぎょっこく)成る

瓊瑶寒照寺樓明　　　　瓊瑶(けいよう) 寒く 寺楼を照らして 明らかなり

遥知禪老開窗坐　　　　遥(はるか)に知る 禅老 窓を開きて坐し

指點煙村看晚晴　　　　煙(えん)村(そん)を指点して 晩晴を看るを

 

【語釈】

○南巖…不確定。○悟禪師…不祥。○瓊瑶…美しい姿の形容。○瓊瑶…美玉。雪のたとえ。○煙村…靄でかすんだ村。○指点…指指す。○晩晴…夕晴れ。

 

　　　

 

★    上方　　　　　　　　　上方　　　　　　　 　　　　　　　  宋　　王　銍

 

松間清月佛前燈　　　　松間(しょうかん)の清月 仏前の灯

菴在孤峯更上層　　　　菴(いおり)は 孤峰の 更に上層に在り

犬吠一聲秋意靜　　　　犬 吠えて 一声 秋意静なり

敲門時有夜歸僧　　　　門を敲(たた)いて 時に 夜帰(やき)の僧有り

 

○上方…寺院。○秋意…秋の気配。

 

　　　　

★    鼓山寺　　　　　　　　鼓(こ)山寺(ざんじ)　　　　　　　　　　　　  宋　　趙汝愚

 

幾年奔走厭塵埃　　　　幾年か 奔走し 塵埃(じんあい)を厭う

此日登臨亦快哉　　　　此の日 登臨(とうりん)す 亦た快なる哉(かな)

江月不隨流水去　　　　江月　流水に随って去らず

天風直送海濤來　　　　天風 直ちに 海濤(かいとう)を送って来る

 

【語釈】

○鼓山寺…福建省福州市の寺。○厭塵…俗世間の塵埃。○登臨…高所に登って下を見下ろす。○江月…川に映った月。○天風…空を吹く風。○海濤…海の波。

　　　

 

 

★    示西林可師　　　　　　西林の可師(かし)に示す　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

身世年來欲兩忘　　　　身(しん)世(せ) 年来 両(ふた)つながら 忘れんと欲す

一春隨意住僧房　　　　一春 随意 僧房に住(じゅう)す

行逢舊隠低回久　　　　行きて 旧隠(きゅういん)に逢い 低回久し

綠樹鶯啼清晝長　　　　緑樹 鶯 啼いて 清昼長し

 

【語釈】

○可師…不祥。○身世…自身と世の中。○年来…かねてより。○随意…意のままに。○舊隠…以前に隠居していたところ。○低回…徘徊。

　　　

 

★    示西林可師　　　　　　西林の可師(かし)に示す　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

幽居四畔只空林　　　　幽居の四畔 只だ 空林

啼鳥落花春意深　　　　啼鳥 落花 春意深し

獨宿塵龕無夢寐　　　　独り 塵龕(じんがん)に宿して 夢寐(むび)無し

五更山月照寒衾　　　　五更の山月 寒(かん)衾(きん)を照す

 

【語釈】

○可師…不祥。○幽居…隠棲の住まい。○四畔…四方。○空林…人気の無い林。○春意…春ののどかな心持。○塵龕…俗世間の小部屋？。○夢寐…酔夢。○五更…夜明け。○寒衾…寒いふすま。

 

 

 

★    金氏菴　　　　　　　　金氏菴(きんしあん)　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大       

 

醉墨題窗側暮鴉　　　　酔(すい)墨(ぼく) 窓に題して暮(ぼ)鴉(あ)を側(そばだ)つ

蔓藤緣壁走青蛇　　　　蔓(まん)藤(とう) 壁に縁(そ)いて 青蛇を走らす

春深有燕捎飛蝶　　　　春 深くして 燕の 飛蝶を捎(と)る有り

日暮無人掃落花　　　　日 暮くれて 人の 落花を掃(はら)う無し

 

【語釈】

○金氏菴…不祥。○醉墨…酔って作った詩画。○暮鴉…夕暮れ時の烏。○蔓藤…つる草。

 

 

★    贈德輪行者　　　　　　徳(とく)輪(りん)行者(ぎょうじゃ)に贈る　　　　　　　　　　 宋　　楊萬里

 

刺血抄經奈若何　　　　血を刺し 経を抄(うつ)し 若(なんじ)を奈何(いかん)んせん

十年依舊一頭陀　　　　十年 旧に依る 一頭の陀(だ)

袈裟未著愁多事　　　　袈裟(けさ)　未だ著せざるに　事多く 愁う

著了袈裟事更多　　　　袈裟を著了すれば　事 更に多し

 

【語釈】

○「奈Ａ何」…「Ａをいかんせん」と読み、「Ａをどうしようか」の意。反語。○刺血…指を刺して血を流す。○依舊…旧のままである。○陀…仏陀。○著了…着る。了は完了を示す助字。

　　　

 

 

★    聽雨　　　　　　　　　雨を聴く　　　　　　　　　　　　  宋　　胡仲參

 

聽盡燈前細雨聲　　　　聴き尽くす 灯前 細雨の声

聲聲總是別離情　　　　声々(せいせい) 総て是れ 別離の情

何時斷得閑煩惱　　　　何れの時か 閑かに煩悩を断じ得て

一任芭蕉滴到明　　　　一任せん 芭蕉の 滴して明(めい)に到るに

 

【語釈】

○斷得…断ち切ることが出来る。○明…あかつき。

 

 

★    閤皂山　　　　　　　　閤皂山(こうぞうざん)　　　　　　　　　　　　　　宋　　劉遂初

 

春山靈草百花香　　　　春山の霊草　百花香(かんば)し

誰識仙家日月長　　　　誰か識らん 仙家 日月長きを　

滿院莓苔綠陰匝　　　　満院の莓(まい)苔(たい) 緑陰匝(みち)る　

棋聲何處隔宮牆　　　　棋声(きせい) 何れの処か 宮牆(きゅうしょう)を隔つ

 

【語釈】

○閤皂山…江西省宜春市閤皂山。○霊草…仙草，瑞草。草の美称。○莓苔…青緑色の苔。○棋聲…碁を打つ音。○宮牆…住宅の周りの垣根。

 

　

 

 

　　　

★    僧門　　　　　　　　　僧門　　　　　　　　　　　　　　  宋　　林景熙

 

一閑每笑不如僧　　　　一(いっ)閑(かん)毎(ごと)に笑するは 僧に如(し)かず

及到僧門閑未能　　　　僧門に到るに及び 閑(かん) 未だ能(あた)わず

昨夜褐袍風雪裏　　　　昨夜 褐袍(かっぽう) 風雪の裏(うち)

隔溪犬吠入林燈　　　　渓を隔てて 犬は吠え 林灯に入(い)る

 

【語釈】

○僧門…寺の門。○褐袍…衣服。

 

 

★    沁水山寺　　　　　　　沁(しん)水(すい)山寺(さんじ)　　　　　　　　　　　　　　　  金　　王　寂

 

兩峽山高月半輪　　　　両峡 山高く 月 半輪

五更人起馬嘶頻　　　　五更 人起きて 馬 嘶(いなな)くこと頻(しきり)なり

無端又上長安道　　　　端無(はしな)くも 又 上る 長安(ちょうあん)道(どう)

輸與僧窻飽睡人　　　　輸(ゆ)与(よ)す 僧窓 飽睡(ほうすい)の人に

 

【語釈】

○沁水山寺…不祥。○五更…夜明け方。○無端…思いがけなく。○輸與…給与。○飽睡…眠り足りる。

 

 

 

★    月夜宿官塔下院　　　　月夜 官塔(かんとう)の下院に宿す　　　　　　　　　 金　　馮延登

 

喬松脩竹翠交陰　　　　喬(きょう)松(しょう) 脩(しゅう)竹(ちく) 翠(みどり) 陰(かげ)を交(まじ)う

涼月玲瓏地布金　　　　涼月 玲瓏(れいろう)として 地 金を布(し)く　　　　　

老懶無詩酬節物　　　　老懶(ろうらい) 詩の節物(せつぶつ)に酬(むく)ゆる無く

脱巾和月卧昏黄　　　　巾(きん)を脱し 月に和し 昏(こん)黄(こう)に卧(が)す

 

【語釈】

○喬松…高い松。○脩竹…高い竹。○玲瓏…さえて鮮やかなさま。○老懶…老いておっくうになること。○節物…四季折々の花鳥、景色、品物など。○昏黄…たそがれ。○巾…頭巾。

 

 

★    雜詩　　　　　　　　　雑詩　　　　　　　　　　　　　　　　　  金　　王良臣

 

道人知我愛禪房　　　　道人(どうじん) 我の 禅房を愛するを知る

淨埽階前紫石牀　　　　浄(きよ)め埽(はら)う 階前の紫(しせ)石(せき)床(しょう)

軟飽三杯風味好　　　　軟飽(なんぽう) 三杯 風味好し

脱巾和月卧昏黄　　　　巾(きん)を脱し 月に和し 昏(こん)黄(こう)に卧(が)す

 

【語釈】

○雜詩…主題を決めず作った詩。○道人…有徳の人。○禪房…寺院。○軟飽…飲酒。○昏黄…たそがれ。○巾…頭巾。

 

 

★    三天竺道中　　　　　　三(さん)天竺(てんじく)道中(どうちゅう)  　　　　　　　　　　　　　　宋　　方　回

 

三天竺路漸登高　　　　三(さん)天竺(てんじく)路(ろ) 漸(ようや)く 登高

高似雷峰塔幾層　　　　高く 雷(らい)峰(ほう)塔(とう)に似て 幾層

山到無人行處好　　　　山は 人行無き処に到りて好し

松陰萬樹立孤僧　　　　松陰 万樹 孤僧 立つ

 

【語釈】

○三天竺…浙江省杭州市天竺山に上、中、下 天竺寺があり、合せて三天竺という。○漸…だんだんと。○雷峰塔…浙江省杭州西湖の南、夕照山上にある塔。

　　　

 

★    初秋夜坐　　　　　　　初秋夜坐(しょしゅうやざ)　　　　　　　　　　　　　　 元　　趙　雍

 

月明如水侵衣濕　　　　月明 水の如く 衣を侵して湿(うるお)す

臺榭沈沈秋夜長　　　　台榭(だいしゃ) 沈々(ちんちん) 秋夜長し

坐久高僧禪語罷　　　　坐すこと久くして 高僧 禅語罷(や)む

澹然相對玉簪香　　　　澹(たん)然(ぜん)として 相対(あいたい)す 玉(ぎょく)簪(しん)の香

 

【語釈】

○臺榭…うてなと高殿。○沈沈…夜がしんしんとふけていくさま。○澹然…静かで安らかなさま。○玉簪…玉簪花、百合科の多年草。

 

 

★    遊會仙宮　　　　　　　会仙宮に遊ぶ　　　　　　　　　　　　　  元　　薩都剌

 

霏霏涼露濕瑶臺　　　　霏々(ひひ)たる涼(りょう)露(ろ) 瑶(よう)台(だい)を湿(うるお)す

半夜吹簫月下來　　　　半夜の吹簫(すいしょう) 月下に来る

山外春風將雨過　　　　山外の春風 雨 将(まさ)に過ぎんとす

隔水遙看是白雲　　　　水を隔てて 遥(はる)かに看るは 是れ 白雲

 

【語釈】

○會仙宮…不祥。○霏霏…霜や露の沢山降りているさま。○瑶臺…宝玉で飾られてたうてな。○吹簫…縦笛の声。○半夜…真夜中。○將…「まさに～せんとす」と読み、「ちょううど～しようとしている」の意。

 

 

★春日鎮陽柳溪道院　　　春日 鎮(ちん)陽(よう)の柳渓(りゅうけい)の道院　　　　　　　　　　 元　　薩都剌

 

城外青溪出洞門　　　　城外の青渓 洞門を出ず

道人歸去日長曛　　　　道人 帰り去りて 日 長く曛(くん)ず

柳花滿地無人掃　　　　柳(りゅう)花(か) 地に満ち 人の掃(はら)う無く

隔水遙看是白雲　　　　水を隔てて 遥(はる)かに看るは 是れ 白雲

 

【語釈】

○鎮陽…不祥。○柳溪…柳が植わっている渓。○道院…道教の寺院。○道人…道教の僧。○柳花…柳絮。

 

 

★    遊法興寺            　法興寺に遊ぶ                  　　　 元　　胡天游

 

山色搖光入袖涼　　　　山色 揺光 袖に入りて涼し

松隂十丈印迴廊　　　　松隂(しょういん) 十丈 迴廊(かいろう)に印す

老僧讀罷楞嚴呪　　　　老僧は 読みて罷(や)まず 楞(ろう)厳(げん)呪(じゅ)

一殿神風柏子香　　　　一殿の神風(しんぷう) 柏(はく)子(し)香(かんば)し　

 

【語釈】　

○法興寺…山西省長治市法興寺。○山色…山の景色・気配。○迴廊…回り廊下。○楞嚴呪…教典の一つ、大乗仏典の『大仏頂首楞厳経』に説かれる陀羅尼。○一殿…満殿。○柏子…柏子香、香の一種。

 

 

★    南屏寺　　　　　　　　南屏寺(なんぺいじ)　　　　　　　　　　　　　　　  元　　陳陽極

 

禪心不動法堂空　　　　禅(ぜん)心(しん) 動かず 法(ほう)堂(どう)空(むな)し

日影斜侵半榻紅　　　　日影(にちえい) 斜めに侵す 半榻(はんとう)の紅(くれない)

一卷楞嚴看未了　　　　一巻の楞(ろう)厳(げん) 看て 未だ了(おわ)らず

篆煙香散竹窗風　　　　篆(てん)煙(えん) 香(かおり)散ず 竹(ちく)窓(そう)の風

 

【語釈】

○南屏寺…浙江省杭州市にある寺。○禪心…清浄で静かな心境。○法堂…寺院。○榻…こしかけ。○楞嚴…教典の一つ、大乗仏典の『大仏頂首楞厳経』に説かれる陀羅尼。○篆煙…香を焚いたときの細い煙。

 

 

★    寄金山普衲　　　　　　金山の普衲(ふのう)に寄す　　　　　　　　　　元　　鄭元祐     

 

金鰲背上欎藍天　　　　金鰲(こんごう)背上 欎(うつ)藍(らん)の天

長有神龍衛法筵　　　　長(とこしえ)に神竜 法(ほう)筵(えん)を衛(まも)りて有り

午夜江聲推月上　　　　午夜の江声 月を推(お)して上り

浪花如雪寺門前　　　　浪花(ろうか) 雪の如し 寺門の前

 

【語釈】

○金山…不祥。○普衲…不祥。神话中海中金色巨龟。○金鰲…海に住むという金色の大海亀。○欎藍…深い藍色。○法筵…仏教の法を説く者の座席。○江声…江の流れの音。○浪花…波のしぶきの花。

 

 

★    宿焦山上方　　　　　　焦山(しょうざん)の上方(じょうほう)に宿す　　　　　　　　　　  元　　郭天錫

 

楊子江頭風浪平　　　　楊子(ようす)江頭(こうとう) 風浪 平らかなり

焦山寺裏晚鐘鳴　　　　焦(しょう)山寺(さんじ)裏(り) 晩鐘鳴く

爐煙已斷燈花落　　　　炉煙 已に断え 灯花落つ

喚起山僧看月明　　　　山僧を喚起し 月明を看る

 

【語釈】

○焦山…江蘇省 鎮江市の東北にある山。○上方…寺院。○爐煙…香炉の煙。○燈花…灯心が燃え尽きて花の形になったもの。

 

 

★    題解空寺　　　　　　　解(かい)空寺(くうじ)に題す　　　　　　　　　　　　　  元　　僧脩禪

 

古塔凌空玉筍高　　　　古塔 空を凌(しの)ぎ 玉(ぎょく)筍(じゅん)高し

斜陽半壓水嘈嘈　　　　斜陽 半ば水を圧して嘈々(そうそう)たり

老僧掩却殘經坐　　　　老僧 残(ざん)経(きょう)を掩却(えんきゃく)して坐し

静聴松聲沸海濤　　　　静かに聴く 松声の海濤(かいとう)を沸(わ)かすを

 

【語釈】

○解空寺…不祥。○玉筍…タケノコの美称。○嘈嘈…声の喧しいさま。○殘經…読み残した教典。○掩却…覆い尽くす。却は完了を示す助字。○海濤…海の波。

 

 

★    師子林即景　　　　　　師子(しし)林(りん)の即景　　　　　　　　　　　　  元　　惟　則

 

道人肩水灌畦蔬　　　　道人(どうじん) 水を肩にして 畦蔬(けいそ)に灌(そそ)ぐ　　

託鉢船歸粟有餘　　　　託(たく)鉢(はつ) 船 帰りて 粟(ぞく) 余す有り

飽飯禪和無一事　　　　飽(ほう)飯(はん) 禅に和して 一事無し

繞池分食餧遊魚　　　　池を繞(めぐ)り 食を分ちて 遊魚に餧(い)す

 

【語釈】

○師子林…江蘇省蘇州ある庭園。蘇州四大庭園の一つに数えられる。元高僧・天如禅師（惟則）の弟子が禅師のために造営した庭園。○即景…目に映ったことをそのまま詠った詩。○道人…僧侶。○畦蔬…田畑の野菜。○飽飯…満腹。○餧…エサを与えて飼育する。

　　　

 

★    山中别寧公歸西塢　　　山中 寧(ねい)公(こう)の 西塢(せいう)に帰るに别る　　　　　  明　　髙　啓

 

一上香臺看落暉　　　　一たび 香台に上りて 落暉(らっき)を看る

沙村孤樹晚依微　　　　沙(さ)村(そん) 孤樹 晩に依微(いび)たり

老僧不出青山寺　　　　老僧は出(い)でず 青山寺

只有鐘聲送客歸　　　　只だ 鐘声の 客(かく)の帰るを送る有るのみ

 

【語釈】

○寧公…不祥。○西塢…不祥。○落暉…夕映え。○依微…ぼんやりしているさま。

 

 

★月林僧舍　　　　　　　月(げつ)林(りん)の僧舎(そうしゃ) 　　　　　　　　　　　　　  明　　許相卿

 

月午天霜破衲寒　　　　月 午にして 天 霜ふり 破(は)衲(のう)寒し

梵音蕭颯度林端　　　　梵音(ぼんおん) 蕭颯(しょうさつ)として 林端(りんたん)を度(わた)る

經殘香燼秋寥泬　　　　経　残り 香燼きて 秋 寥泬(りょうけつ)

時有風枝語夜䦨　　　　時に風枝の 夜䦨に語る有り

 

【語釈】

○月午…月が中天にある。真夜中。○破衲…破れた僧衣。○梵音…読経の声。○蕭颯…蕭条として寂しいさま。○寥泬…空虚で寂しいさま。○風枝…風で音を立てる枝。○夜䦨…夜明け前。

 

 

★    寄上清何尊師　　　　　上清(じょうせい)の何(か)尊師(そんし)に寄す　　　　　　　　　 　明　　王　偁

 

雲母屏風月影孤　　　　雲母(うんも)の屏風 月影孤なり

碧雲琪樹兩三株　　　　碧雲 琪樹(きじゅ) 両三株

道童慣識鈞天舞　　　　道童 慣れ識る 鈞天の舞

偸向堦前教鶴雛　　　　偸(ひそか)に 堦(かい)前(ぜん)に向(お)いて 鶴(かく)雛(すう)に教う

 

【語釈】

○上清…不祥。○何尊師…不祥。○琪樹…雪で覆われた樹木。○道童…修道者の召使いの童子。○鈞天舞…仙境の舞の一種。○鶴雛…鶴のひな。

 

　　　

★    題方壺道人山房　　　　方(ほう「)壺(こ)道人(どうじん)の山房に題す　　　　　　　  明　　王　恭

 

洞門一逕入烟霞　　　　洞門 一径 烟(えん)霞(か)に入る

九曲溪泉繞洞斜　　　　九曲の渓泉 洞を繞(めぐ)って 斜なり

鐵笛一聲山月冷　　　　鉄笛 一声 山月冷(ひやや)かなり

獨騎黄鶴問仙家　　　　独り 黄鶴(こうかく)に騎(の)りて 仙家を問う

 

【語釈】

○方壺道人…不祥。○烟霞…靄と霞。○九曲…曲がりの多いこと。○鉄笛…鉄製の笛。隠者が吹くと言われる。

 

 

 

★    訪僧不遇　　　　　　　僧を訪ねて遇わず　　　　　　　　　　　  明     王 恭

 

寺門深閉對青山　　　　寺門 深く閉ざして 青山に対す

何處浮杯更未還　　　　何れの処か 杯を浮かべ 更に未だ還らず

萬壑千峯人不見　　　　万壑(ばんがく)千(せん)峰(ぽう) 人 見えず

滿林霜葉磬聲閑　　　　満林の霜葉 磬声(けいせい)閑(しずか)なり

 

【語釈】

○萬壑千峯…数多くの渓と山。○磬聲…磬（石や金属でできたへの字方の楽器）の音。

 

 

★    歩虚詩　　　　　　　　歩(ほ)虚(きょ)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　　　　明     王 恭       

 

緑草封事奏瑶京　　　　緑草の封事 瑶(よう)京(きょう)に奏す

侍女如花弄玉笙　　　　侍女 花の如く 玉(ぎょく)笙(しょう)を弄す

夜半朝回人上鶴　　　　夜半 朝(ちょう)より回(かえ)りて 人 鶴に上り

九天環珮月中明　　　　九天の環珮(かんぱい) 月中に明かなり

 

【語釈】

○歩虚詩…道教を讃える詩。○封事…密封した上奏文。○瑶京…神仙の世界。○玉笙…玉で出来た笛。○朝回…朝廷から帰る。○九天…空の天辺。○環珮…美女。

 

             


 

★    憶原上人　　　　　　　原上人(げんしょうにん)を憶う　　　　　　　　　　　　  明　　劉　績

 

一兩棕鞋八尺籐　　　　一両の 棕鞋 八尺の籐

廣陵行遍又金陵　　　　広陵 行(こう) 遍(あまね)くして 又 金陵

不知竹雨松風夜　　　　知らず 竹雨 松風の夜

吟對秋山那寺燈　　　　吟じて対す 秋山 那寺(なじ)の灯

 

【語釈】

○一兩…一足。○棕鞋…シュロの毛を編んで作ったワラジ。○籐…籐製の物入れ。○広陵…江蘇省揚州市。○金陵…南京。○那寺…安閑とした寺。

 

 

★    金山寺　　　　　　　　金山寺　　　　　　　　　　　　　　明　　林　瀚

 

金山頂上梵王家　　　　金山の頂上 梵(ぼん)王(おう)の家

萬里江山四望餘　　　　万里の江山 四望余す

曙色漸分京口渡　　　　曙(ちょ)色(しょく) 漸(ようや)く分つ 京口(けいこう)の渡

數聲寒雁落霜花　　　　数声の寒雁 霜花落つ

 

【語釈】

○金山寺…不祥。○梵王家…諸天の王の家。金山寺を指す。○四望…四方の眺め。○京口…江蘇省鎮江市。

 

　　　

 

★    題空上人山房　　　　　空(くう)上人(しょうにん)の山房に題す　　　　　　　　　　　  明　　薛　蕙

 

古寺殘冬倍悄然　　　　古寺 残冬 倍ゝ(ますます)悄(しょう)然(ぜん)たり　

老僧閉戸獨安禪　　　　老僧 戸を閉じて 独り安禅

水滿瓶中無滴水　　　　水は瓶中(へいちゅう)に満ち 滴(てき)水(すい)無し

香消爐畔有餘煙　　　　香は消じて 炉(ろ)畔(はん) 余煙有り　　

 

【語釈】

○空上人…不祥。○残冬…春になってまだ冬の寒さが残っている状態。○悄然…もの寂しいさま。○安禪…静かに座禅に入ること。

 

　　　

★    崇義院雜題　　　　　　崇(すう)義院(ぎいん)雑(ざつ)題(だい)　　　　　　　　　　　　　　明　　文徵明       

 

六月門前暑似炊　　　　六月 門前 暑　炊(かしぐ)に似たり

殿堂深處未曾知　　　　殿堂 深き処 未だ曽て知らず

晚凉浴罷思歸去　　　　晩涼 浴を罷みて 帰去を思うも

更為松風佇少時　　　　更に 松風の為に 佇(たたず)むこと少時(しょうじ)

 

【語釈】

○崇義院…江西省贛州市にあった寺。○晩涼…夕方の涼しさ。○少時…しばしの間。

              　　

 

 

★    巻禪堂即事　　　　　　巻(かん)禅堂(ぜんどう)即事　　　　　　　　　　　  明　　華　察

 

啜茗禪房山月斜　　　　茗(めい)を啜(すす)れば 禅房 山月斜なり

上方燈火望楞伽　　　　上方(じょうほう)の灯火 楞伽(りょうが)を望む

真僧獨悟空門妙　　　　真僧 独り悟る 空門の妙

夜静諸天雨寶華　　　　夜 静にして 諸天 宝(ほう)華(か)を雨ふらす

 

【語釈】

○巻禪堂…不祥。○茗…茶。○禅房…禅寺の部屋。○上方…寺院。○楞伽…印度の山名。○空門…仏法。○寶華…仏寺の花。

 

 

★    永興寺㪚歩　　　　　　永(えい)興寺(こうじ)㪚歩　　　　　　　　　　　　　   明　　皇甫汸

 

帝城西覔古叢林　　　　帝城 西に覔(もと)む 古叢(こそう)林(りん)

萬木寒垂六月隂　　　　万木 寒く垂る 六月の隂

庭下閑花齋後偈　　　　庭下の閑花 斎後(せいご)の偈(げ)

門前空水定時心　　　　門前の空水 定時(ていじ)の心

 

【語釈】

○永興寺…不祥。○帝城…皇城。○叢林…叢がった林。○閑花…幽雅な花。○齋…身を清める。○偈…仏徳をたたえた韻文。○空水…天空に和した水の色。○定時…いつもと変わらない時。

 

 

★    寄茅山道士　　　　　　茅(ち)山道士(ざんどうし)に寄す　　　　　　　　　　　　  明　　玉　問

 

曽向華陽洞口過　　　　曽(かつ)て 華(か)陽(よう)に向い 洞口を過ぐ

三峰高處白雲多　　　　三峰 高き処 白雲多し

仙房隠隠依巖竹　　　　仙房 隠々(いんいん)として 巌(がん)竹(ちく)に依(よ)る

清夜経聲出薛蘿　　　　清夜の経声(けいせい) 薛蘿(せつら)を出ず

【語釈】

○茅山道士…不祥。○華陽…四川省広元市剣閣県。○仙房…道士の住むところ。○隠隠…かすかではっきりしなさま。○薛蘿…よもぎとツタ。

 

 

★    湧泉菴 　　　　　　　　湧泉菴(ゆうせんあん)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

錦陽川上女僧家　　　　錦(きん)陽(よう)川上(せんじょう) 女僧の家

紅樹蕭蕭白日斜　　　　紅樹 蕭々(しょうしょう) 白日斜なり

弟子如雲人不見　　　　弟子 雲の如く 人見えず

可憐秋老玉蓮花　　　　憐むべし 秋老 玉蓮花

 

○湧泉菴…不祥。○錦陽川…不祥。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○展…伸びる。○秋老…秋が深まること。○玉蓮花…蓮の花の美称。○弟子…道教、仏教の信徒。

　　　

 

 

★    遊仙曲　　　　　　　　遊仙曲(ゆうせんきょく)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

一聴黄竹寫歌鐘　　　　一たび黄竹(こうちく)を聴き 歌(か)鐘(しょう)を写す

人醉秦臺十二重　　　　人は 秦台に酔い 十二重

琪樹花開巢孔雀　　　　琪樹(きじゅ)花(か) 開いて 孔雀(くじゃく)巣(す)くい

瑶池水煖岀芙蓉　　　　瑶(よう)池(ち) 水煖かにして 芙蓉岀ず

 

【語釈】

○遊仙曲…仙界に遊ぶことを詠った詩。○黄竹…周の穆王が作った詩。○秦台…？ほ○歌鐘…鐘で伴奏すること。○琪樹花…仙界中の玉樹の名。○瑶池…崑崙山にあるという伝説中の池。

 

 

★    遊金燈寺　　　　　　　金灯寺に遊ぶ　　　　　　　　　　　　明　　榭　榛

 

策杖穿林路幾重　　　　杖を策(つえ)つき 林を穿(うが)ち 路 幾重(いくちょう)

上方鐘磬出雲峯　　　　上方の鐘磬(しょうけい) 雲峰を出(い)ず

再來只恐無尋處　　　　再び来りて 只だ恐る 尋ぬる処無きを

好記懸崖一古松　　　　好(こう)記(き)す 懸崖(けんがい)の一古松

 

【語釈】

○金灯寺…不祥。○鐘磬…鐘と磬（金属や石でできたへの字型の打楽器）。○雲峰…雲のかかった峰。○好記…好ましく覚えている。

 

 

★    本公山房　　　　　　　本公の山房　　　　　　　　　　　　   明　　榭　榛

 

滿山秋色亂寒松　　　　満山の秋色 寒松乱る

天外遙傳日暮鐘　　　　天外 遥かに伝う 日暮の鐘

争怪簷前起雲雨　　　　争(いか)でか怪まん 簷(えん)前(ぜん)に雲雨の起るを

誰知鉢底卧蛟竜　　　　誰か知らん 鉢底 蛟竜卧(よこた)うを

 

【語釈】

○本公…不祥。○秋色…秋景色。○天外…遙かかなた。○簷前…軒の前。○蛟竜…龍の一種で鱗のある物。雨を降らせる。

 

 

★    道院秋夕　　　　　　　道院の秋夕(しゅうせき)　　　　　　　　　　　　　   明　　榭　榛

 

河漢横斜天宇清　　　　河漢(かかん) 横斜し 天(てん)宇(う)清し

夜涼松鶴睡無聲　　　　夜涼 松(しょう)鶴(かく) 睡(ねむ)りて声無し

月光低照碧潭水　　　　月光 低く照らす 碧潭(へきたん)の水

人椅洞門吹玉笙　　　　人は 洞門に椅(よ)り 玉(ぎょく)笙(しょう)を吹く

 

【語釈】

○河漢…銀河。○天宇…天空。○松鶴…松に巣くう鶴。○碧潭…青い淵。○玉笙…笙の美称。

 

 

★    宿香山　　　　　　　　香山(こうざん)に宿す　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

深夜無眠風露清　　　　深夜 眠る無く 風露清し

天移北斗坐間横　　　　天は 北斗を移して 坐間(ざかん)横(よこた)う

幽人不作紅塵夢　　　　幽人は作(な)さず 紅塵の夢

月照空山鶴一聲　　　　月は 空山を照らして 鶴一声

 

【語釈】

○香山…香山寺、河南省洛陽市にあり白居易と縁が深い。○坐間…少しの間。○幽人…隠者。○紅塵…都会の車馬の塵。○空山…人気の無い山。

 

 

★    遊無相寺　　　　　　　無相寺(むそうじ)に遊ぶ　　　　　　　　　　　　  明　　陳　鶴

 

玉輦曾經野寺中　　　　玉輦(ぎょくれん) 曽(かつ)て経(ふ) 野寺(やじ)の中(うち)

宸書猶在翠華空　　　　宸書(しんしょ) 猶お在りて 翠(すい)華(か)空(むな)し

斷碑世遠無人識　　　　断碑(だんぴ) 世遠くして 人の識る無し

落日鶯啼古殿風　　　　落日 鶯は啼く 古殿の風

 

【語釈】

○無相寺…浙江省温州市甌海区にある寺。○玉輦…皇帝の乗る手押し車。○宸書…皇帝の書。○翠華…皇帝の儀仗である翠の羽の付いた旗。○斷碑…壊れた碑。

 

 

 

★    登天台峰宿　　　　　　天台峰に登りて宿す　　　　　　　　　   明　　吳　兆

 

蘿磴松崖幾百層　　　　蘿磴(らとう) 松(しょう)崖(がい) 幾百層

猱攀魚貫始徐登　　　　猱攀(どうはん) 魚(ぎょ)貫(かん) 始めて徐(じょ)登(とう)

昨朝望處今宵歇　　　　昨朝 望む処今 宵歇む

巖下雲埋入定僧　　　　巌下 雲は埋む 入定(にゅうじょう)の僧

 

【語釈】

○天台峰…天台山。○蘿磴…ツタの絡んだ石壇の道。○松崖…松の生えた崖。○猱攀…あ猿のようによじ登る。○魚貫…魚の列のように連なる。○徐登…徐々に登る。○入定…目をつぶって静かに坐す。

 

 

★    宿香嚴寺　　　　　　　香(こう)厳寺(げんじ)に宿す　　　　　　　　　　　　　  明　　蕭　宗

 

方丈香銷客未眠　　　　方丈 香銷(しょう)じ 客(かく) 未だ眠らず

出城頓覺夜如年　　　　城を出て 頓(とみ)に覚ゆ 夜 年の如きを

烏啼霜落僧歸院　　　　烏啼き 霜落ちて 僧は院に帰る

雲滿空山月滿天　　　　雲は空山に満ち 月は天に満つ

 

【語釈】

○香嚴寺…河南省南陽市香嚴寺。○方丈…寺院の部屋。○空山…人気の無い山。

 

 

★    香嚴寺　　　　　　　香(こう)厳寺(げんじ)に宿す　　　　　　　　　　　　　  明　　蕭　宗

 

烏啼霜落夜漫漫　　　　烏啼き 霜落ちて 夜漫々(まんまん)

風入疏櫺客枕寒　　　　風は 疏櫺(そじゅ)に入りて 客(かく)枕(ちん)寒し

戍鼓敲殘雞亂唱　　　　戍(じゅう)鼓(こ) 敲(こ) 残りて 雞 乱れ唱う

半軒明月照欄干　　　　半軒の明月 欄干を照らす

 

【語釈】

○香嚴寺…河南省南陽市香嚴寺。○漫漫…夜の長いこと。○疏櫺…粗いれんじ。○客枕…旅枕。○戍鼓…番兵の鳴らす太鼓。○半軒…軒の半分の高さ。

 

 

★    小遊仙　　　　　　　　小遊仙(しょうゆうせん)　　　　　　　  　　　　　　　明　　王　澤

 

中山千日酒初醒　　　　中山 千日 酒 初めて醒(さ)む

却愛玄都夜景清　　　　帰って愛す 玄(げん)都(と) 夜景の清きを

起坐天門吹玉笛　　　　起坐し 天門 玉笛を吹く

月中珠樹起秋聲　　　　月中の珠樹 秋声を起す

 

【語釈】

○小遊仙…仙界に遊ぶことを詠った詩。○玄都…玄都観、長安城内の南、朱雀大路に面してあった道教の寺。桃の名所でもあった。○起坐…起きて坐る。○天門…室女座。○玉笛…笛の美称。○秋聲…秋の気配を感じさせる物音。

 

　　　

 

★    和寒山子詩　　　　　　　寒山子(かんざんし)の詩に和す　　　　　　　　　　　　明　　陳　芹

 

青煙紫霧夕冥冥　　　　青(せい)煙(えん) 紫(し)霧(む) 夕べ冥々(めいめい)

似雨飛泉滿戸庭　　　　雨に似たる飛泉 戸庭(こてい)に満つ

白日山人無一事　　　　白日 山人 一事無く

水精簾下閱金經　　　　水(すい)精(しょう)簾下(れんか) 金(きん)経(きょう)を閲す

 

【語釈】

○寒山子…唐代の詩僧寒山。○冥冥…暗く微かなさま。○水精簾…水晶でできた簾。○金經…仏教の経典。

　　　

 

★    與僧一然聽鐘　　　　　僧一然と鐘を聴く　　　　　　　　　　 明　　廖孔説

 

寥寥相對一燈明　　　　寥々(りょうりょう)として相対(あいたい)して 一灯明かなり

數盡遥鐘百八聲　　　　数え尽くす 遥(よう)鐘(かね) 百八の声

題向山堂成故事　　　　題して 山堂に向(お)いて 故事と成す

他年却好話平生　　　　他年 却って好し 平生(へいぜい)を話するに

 

【語釈】

○僧一然…不祥。○寥寥…静かなさま。○遥鐘…遠くから聞こえて来る鐘。○他年…将来の地の年。○平生…平素のこと。

 

 

 

★    遊仙詞　　　　　　　　遊仙(ゆせん)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　朱妙端

 

洞天春暖碧桃芳　　　　洞天 春暖かにして 碧(へき)桃(とう)芳(よ)し

瑶草金芝滿路香　　　　瑶(よう)草(そう) 金(きん)芝(し) 満路香(かんば)し

吹徹玉簫天似水　　　　玉簫を吹徹(すいてつ)して 天 水に似たり

笑騎黄鶴過扶桑　　　　笑って 黄鶴に騎(の)り 扶桑(ふそう)を過ぐ

 

【語釈】

○遊仙詞…仙界に遊ぶことを詠った詩。○洞天…別天地。○碧桃…仙界の桃、西王母が武帝に与えた。○瑶草…伝説中の香草。○金芝…伝説中の仙草。○玉簫…玉で出来た笛。○扶桑…東海中にあると言う伝説中の樹。

 

 

★    題西禪蘭若　　　　　　西禅(せいぜん)蘭(らん)若(にゃ)に題す　　　　　　　　　　  明　　僧明秀

 

尋幽偶到古禪關　　　　幽を尋ねて 偶(たまた)ま到る 古禅関(ふるぜんかん)

樓閣高低紫翠間　　　　楼閣 高低 紫(し)翠(すい)の間

山鳥不鳴人境寂　　　　山鳥鳴かず 人境寂(せき)たり

爐煙裊裊白雲閑　　　　炉煙 裊々(じょうじょう) 白雲閑かなり

 

【語釈】

○西禪蘭若…不祥。蘭若は寺院。○禪關…禅門。○裊裊…たおやかなさま。○紫翠…紫と緑。山の美しい形容。

 

 

 

★    山房秋夜　　　　　　　山房(さんぼう)の秋夜　　　　　　　　　　　　　  明　　僧明秀

 

寒蛩鳴砌夜蕭蕭　　　　寒蛩(かんきょう) 砌(みぎり)に鳴き 夜蕭々(しょうしょう)

一點禪燈伴寂寥　　　　一点の禅灯 寂寥(せきりょう)に伴う

楓落呉江吟不就　　　　楓 落ちて 呉江 吟 就(おわ)らず

那堪涼雨滴芭蕉　　　　那(な)んぞ堪えんや 涼雨の 芭蕉に滴(したた)るに

 

【語釈】

○寒蛩…晩秋のコオロギ。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○寂寥…ひっそりとしてもの寂しいさま。○呉江…江蘇省蘇州一帯の川。

　　　

 

★    題月堂精舎　　　　　　月堂(げつどう)の精舎(しょうじゃ)に題す　　　　　　　　　　　  明　　文　湛

 

雨後青苔路不分　　　　雨後の青(せい)苔(たい) 路 分たず

柴門竹裏映斜曛　　　　柴門(さいもん) 竹(ちく)裏(り) 斜曛(しゃくん)に映ず

松花落盡無人到　　　　松(しょう)花(か) 落ち尽くし 人の到る無く

只有山童掃白雲　　　　只だ 山童の 白雲を掃(はら)う有るのみ

 

【語釈】

○月堂…唐の李林甫が作った堂。○精舎…僧の学び舎。○柴門…柴で作った粗末な門。○斜曛…落日の餘暉。○山童…山寺に使える童子。

 

　　　

 

★    題院壁　　　　　　　　院の壁に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　永　瑛

 

自愛青山常住家　　　　自ら愛す 青山 常住の家

銅缾閒煮壑源茶　　　　銅缾(どうへい) 閑(しずか)に煮る 壑源(がくげん)茶(ちゃ)

春深白日巖扉静　　　　春深くして 白日 巌(げん)扉(ぴ)静かなり

坐看蛛絲罥落花　　　　坐して看る 蛛(しゅ)糸(し)の 落花を罥(か)くるを

 

【語釈】

○銅缾…銅のつるべ。○壑源茶…銘茶の一種。○巖扉…隠者の住居。○罥…網で捕らえる。

 

　　　

★    山居　　　　　　　　　山居　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　德　清

 

平湖秋水浸寒空　　　　平湖の秋水 寒空を浸(ひた)す

古木霜餘落葉紅　　　　古木 霜余(そうよ) 落葉紅なり

石逕小橋人迹斷　　　　石径 小橋 人迹(じんせき)断え

一菴深鎻白雲中　　　　一菴 深く鎻(とざ)す 白雲の中(うち)

 

【語釈】

○平湖…平らな湖。○霜餘…霜が解けて消えた後。

 

 

　

 

★    山居　　　　　　　　　山居　　　　　　　　　　　　　　　　　   明　　僧唵覽

 

苔花滿逕緑雲涼　　　　苔(たい)花(か) 径に満ち 緑雲涼し

嫰竹離離覆短墻　　　　嫰竹(どんちく) 離々として 短墻(たんしょう)を覆う

院静晝長人不到　　　　院 静かに 昼 長くして 人到らず

一簾風裊一爐香　　　　一簾の風裊(ふうじょう) 一炉の香

 

【語釈】

○嫰竹…若い竹。○離離…草木が繁育しているさま。○短墻…短い垣根。○院…中庭。○風裊…しなやかな風。

 

 

★    文殊院　　　　　　　　文殊院(もんじゅいん)　　　　　　　　　　　　　   清　　蔣　超

 

紫玉屏風敬佛筵　　　　紫(しゅ)玉(ぎょく)の屏風 仏(ぶつ)筵(えん)に敬なり

諸峰如笏上青天　　　　諸峰 笏(しゃく)の如く 青天に上る

偶來山寺空無主　　　　偶(たまた)ま 山寺に来(きた)れば 空しく 主無し

驚起白猿松際眠　　　　驚起す 白猿の松際に眠るを

 

【語釈】

○文殊院…四川省成都市文殊院。○紫玉…紫色の宝玉。○佛筵…寺院の筵。○驚起…驚かせて起こす。

 

 

★    自錦繡峰下至東林寺　　　　錦繡(きんしゅう)峰下(ほうか)自(よ)り東林寺に至る　　　　　  清　　王士禛

 

江州郭外雪雲濃　　　　江州(こうしゅう)郭外(かくがい) 雪雲 濃(こまやか)なり

翠壁丹崖錦繡重　　　　翠壁(すいへき) 丹(たん)崖(がい) 錦繡(きんしゅう)重なる

行盡清溪三百曲　　　　行き尽す清渓 三百曲

東林纔打午時鐘　　　　東林 纔(わずか)に打つ 午時の鐘

 

【語釈】

○錦繡峰…江西省九江市の南部の廬山の峰の一つ。○東林寺…廬山にある名刹。○江州…江西省九江市一帯の州。○錦繡…錦の刺繍のように色が入り交じる。○三百曲…多くの曲がり。○東林…東林寺。○午時…昼時。

　　　

 

★    題寒山寺　　　　　　　寒山寺に題す　　　　　　　　　　　　　　  清　　汪懋鱗

 

呉中池館日吹簫　　　　呉中の池館 日に簫を吹く

只有寒山寺寂寥　　　　只だ 寒山寺の寂寥(せきりょう)なる有り

揺落江楓對漁火　　　　揺(よう)落(らく)せる江楓 漁火に対す

行人歸去雨蕭蕭　　　　行人(こうじん) 帰り去りて 雨 蕭々(しょうしょう)

 

【語釈】

○寒山寺…江蘇省蘇州市にある寺、張継の「楓橋夜泊」で有名。○呉中…蘇州を中心とした地方。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○揺落…揺れて落ちる。○行人…旅人。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。

 

 

 

★    玉屏晩望待榛公不至　　玉屏(ぎょくへい) 晩に望み 榛公(しんこう)を待つも至らず　　　　  清　　汪微遠

 

洞口無人山鳥飛　　　　洞口 人無く 山鳥飛ぶ

寒烟一縷篆香微　　　　寒煙 一縷(いちる) 篆(てん)香(こう)微(かす)かなり

遊人薄暮椅松立　　　　遊人 薄暮 松に椅(よ)りて立つ

眺盡落霞僧未歸　　　　眺め尽くす 落(らく)霞(か) 僧 未だ帰らず

 

【語釈】

○玉屏…玉で飾った屏風。○榛公…不祥。○一縷…一筋。○篆香…篆書のように曲がっている香の煙。○遊人…閑散な人。○落霞…夕焼け。

 

　　　

★    恭和御製白雲泉元韻　　　「御製 白雲の泉 元韻」を恭和す　　　  清　　沈徳濳

 

石竇涓涓滴乳泉　　　　石竇(せきとう) 涓々(けんけん)として 乳泉に滴(したた)たる

老僧相對日閑閑　　　　老僧 相対し 日 閑々(かんかん)

清池只供山中飲　　　　清池 只だ供す 山中の飲

不許白雲出世間　　　　許さず 白雲の世間に出ずるを

 

【語釈】

○石竇…石穴。○涓涓…水がちょろちょろ流れるさま。○乳泉…美しく清い泉。○閑閑…ゆったりと落ち着いたさま。

 

 

 

★    白雲泉僧舎題壁　　　　白雲泉の僧舎の壁に題す　　　　　　　  清　　王廷諤

 

白板扉開小閣明　　　　白板の扉 開いて 小閣明(めい)なり

閑雲漠漠水冷冷　　　　閑雲 漠々(ばくばく) 水 冷(れい)々(れい)

脩然便覺塵襟滌　　　　脩(しゅう)然(ぜん)として 便ち覚ゆ 塵(じん)襟(きん)の滌(あら)わるを

心與寒泉一様清　　　　心と寒泉と 一様に清し

 

【語釈】

○白雲泉…不祥。○閑雲…悠悠飄然として浮かぶ雲。○漠漠…一面に続いているさま。○冷冷…ひえびえとしているさま。○脩然…厳格なさま。○塵襟…世間の塵に染まったえり。

 

 

★    宏濟寺　　　　　　　　宏済寺(こうせいじ)　　　　　　　　　　　　　  　　 清　　田　霡

 

初入長干第一關　　　　初めて入る 長干 第一の関

果然幽境出塵寰　　　　果然たる幽境 塵寰(じんかん)を出ず

西風黃葉南朝寺　　　　西風 黄葉 南朝の寺

前面長江後面山　　　　前面の長江 後面の山

 

【語釈】

○宏濟寺…不祥。○長干…南京の南にある街。○果然…思った通り。○幽境…優雅な境地。○塵寰…俗世間。○西風…秋風。○南朝…南北朝時代の南朝。南京を中心とする。

 

 

 

★    宿蘆花寺　　　　　　　蘆花寺(ろかじ)に宿す　　　　　　　　　　　   清　　徐薌坡

 

栴檀香細博山添　　　　栴壇(せんだん)香(こう) 細くして 博山(はくざん)添う

蓮漏沈沈響夜籤　　　　蓮漏(れんろう) 沈々(ちんちん) 夜(や)籤(せん)に響く

一覺東華塵土夢　　　　一たび覚ゆ 東華 塵土の夢

長明燈下読楞巖　　　　長明(ちょうめい)灯下(とうか) 楞(ろう)巌(がん)を読む

 

【語釈】

○蘆花寺…不祥。○栴檀香…香草の一種。○博山…香炉の一種。○蓮漏…蓮の花の形をした水時計。○沈沈…夜の更けるさま。○東華…伝説上の仙人上の東王公。○楞巖…楞巖経、仏教の経典の一つ。

 

　　　

★    秋夜宿八峰山房　　　　秋夜 八峰山房に宿す　　　　　　　　  清　　大　燈

 

黃花籬下亂蛩鳴　　　　黄花籬下(こうかりか) 乱蛩(らんきょう)鳴く

古寺秋高嶺月明　　　　古寺 秋高くして 嶺(りょう)月(げつ)明かなり

夜半石床清睡去　　　　夜半 石床 清睡(せいすい)去り

不知枕上落泉聲　　　　知らず 枕上(ちんじょう) 落(らく)泉(せん)の声

 

【語釈】

○八峰山…安徽省馬鞍山市と蕪湖市にまたがる地域にある山。○黃花…黄菊。○蛩…コオロギ。○嶺月…嶺に懸かっている月。

　　　

絶句類選標本　七

絶句類選　巻之十三　　憑弔類          

 

 

★    汾陰行　　　　　　　　汾(ふん)陰(いん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　   唐　　李　嶠

 

山川滿目淚沾衣　　　　山川 満目 涙 衣を沾す

富貴榮華能幾時　　　　富貴 栄華 能く幾時ぞ

不見秪今汾水上　　　　見ず 秪(た)だ今 汾水の上

唯有年年秋雁飛　　　　唯だ 年々 秋雁の飛ぶ有るのみ

 

【語釈】

○汾陰行…山西省萬榮県の歌。○満目…見渡す限り。○汾水 … 山西省にある川。

（注…古詩の最後の四句を切り取った物）

 

 

★    邙山　　　　　　　　　邙山(ぼうざん)　　　　　　　　　　　　　　　   唐    沈佺期

 

北邙山上列墳塋　　　　北邙(ほくぼう)山上(さんじょう) 墳塋(ふんえい)列なり

萬古千秋對洛城　　　　万古千秋 洛城に対す

城中日夕歌鐘起　　　　城中 日夕(にっせき) 歌(か)鐘(しょう)起る

山上唯聞松栢聲　　　　山上 唯だ聞く 松栢の声

 

【語釈】

○邙山…北邙山。洛陽の北にある黄土の平坦な山。後漢以来、王侯貴族の陵墓の多い所として有名。○墳塋…墓。○万古千秋…千年も万年も。洛城…洛陽の町。

（参考文献）　『唐詩選』

 

　　　

★    銅雀臺　　　　　　　　銅雀台　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉庭琦

 

銅臺宮觀委灰塵　　　　銅台の宮(きゅう)観(かん) 灰塵に委(い)す

魏主園林漳水濱　　　　魏主の園林 漳(しょう)水(すい)の浜(ひん)

即今西望猶堪思　　　　即今 西望して 猶お思うに堪えたり

況復當時歌舞人　　　　況(いわ)んや復(ま)た 当時 歌舞の人をや

 

【語釈】

○銅雀台…楽府題の一つ。魏の武帝、曹操が鄴の都（河北省臨漳県）に築いた楼台の名。○銅台…銅雀台のこと。○宮観…宮殿や楼閣。○委…棄てられたままになっていること。○魏主…曹操。○園陵…帝王の陵墓。○漳水…漳河。○即今…今。○猶堪思…なお悲しい思いで胸がいっぱいになる。○況復… そのうえに。○歌舞人…銅雀台上で歌舞を演じた宮女たちを指す。

（参考文献）　『唐詩選』

★    蘇臺覽古　　　　　　　蘇(そ)台覧(だいらん)古(こ)　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　白

 

舊苑荒臺楊柳新　　　　旧苑(きゅうえん) 荒台 楊(よう)柳(りゅう)新なり

菱歌清唱不勝春　　　　菱歌(りょうか) 清唱 春に勝(た)えず

只今惟有西江月　　　　只今 惟(た)だ 西江の月のみ有りて

曾照呉王宮裏人　　　　曽(かつ)て照らす 呉(ご)王宮(おうきゅう)裏(り)の人

 

【語釈】

○蘇台…姑蘇台、呉王夫差の宮殿があった、江蘇省蘇州市の西・姑蘇山山頂にある。○覧古…昔を懐かしむこと。○旧苑…古い園。○荒台…荒れた高台。○菱歌…菱を取りながら歌う女性の歌。○清唱…清らかに歌う。○勝春…春の感傷に耐えられない。○西江…姑蘇台の西を流れている川。○呉王宮裏人…呉王夫差の宮殿にいた美女、西施のこと。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    越中覽古　　　　　　　越中覧(えっちゅうらん)古(こ)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

越王句踐破吳歸　　　　越王句践(えつおうこうせん) 呉を破って帰る

義士還家盡錦衣　　　　義士 家に還って 尽(ことごと)く錦(きん)衣(い)す

宮女如花滿春殿　　　　宮女 花の如く 春殿に満つ

只今惟有鷓鴣飛　　　　只今 惟だ 鷓鴣(しゃこ)の飛ぶ有るのみ

 

【語釈】

○越中…春秋時代の越の国。○覽古…懐古する。○越王勾踐…春秋時代の越の王の勾践。○破…撃破する。○呉…ここでは呉王・夫差の軍。○義士…忠義の兵士。○錦衣…にしきをきる。○春殿…春の宮殿。○只今…現在。鷓鴣…シャコ。○鳥の名。キジ科の鳥。悲しげな鳴き声でなく。

（参考文献）　『唐詩選』

★    山房春事　　　　　　　山房(さんぼう)春事(しゅんじ)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　岑　參

 

梁園日暮亂飛鴉　　　　梁(りょう)園(えん)の日暮 乱飛(らんぴ)の鴉(からす)

極目蕭條三兩家　　　　極目(きょくもく) 蕭(しょう)条(じょう) 三両家

庭樹不知人去盡　　　　庭樹は知らず 人 去り尽すを

春來還發舊時花　　　　春来りて　還(ま)た発(ひら)く　旧時の花

 

【語釈】

○山房春事…山房での春のもの思い。○梁園…漢代に、文帝の子、梁の孝王が築いた園の名、河南省東部、商丘の東にある。○極目…目の届く限り。○蕭條…もの寂しいさま。○舊時…昔と変わらない。

（参考文献）　　『唐詩選』　

　

 

★    讀嶧山碑　　　　　　　嶧山(えきざん)碑(ひ)を読む　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　繼

 

六國平來四海家　　　　六(りっ)国(こく) 平げ来りて 四海家なり

相君當代擅才華　　　　相(しょう)君(くん) 当代 才華を擅す

誰知頌德山頭石　　　　誰か知らん 頌(しょう)徳山頭(とくさんとう)の石

却與他人戒後車　　　　却って 他人に与え 後車を戒(いまし)むとは

 

【語釈】

○嶧山碑…秦の始皇帝が山東省の嶧山を巡遊したときに建てた記念碑。○六國…齊、 楚、燕、韓、趙 、魏。○四海…全世界。○才華…文才の優れた者。○頌德…功徳を讃える歌。○戒後車…悪い前例に倣わないように後から来る物を戒める。

 

 

 

★    宿昭應　　　　　　　　昭応(しょうおう)に宿す　　　　　　　　　　　　　　 唐　　顧　況

 

武帝祈靈太乙壇　　　　武帝 霊を祈る 太(たい)乙壇(おつだん)

新豐樹色繞千官　　　　新(しん)豊(ぽう)の樹色 千官を繞(めぐ)る

那知今夜長生殿　　　　那(な)ぞ知らん 今夜 長生殿

獨閉空山月影寒　　　　独り 空山 月影の寒きに閉ざされんとは

 

【語釈】

○昭應…陝西省西安市臨潼区。驪山の西北。○武帝…漢の武帝。○祈靈…神霊に祈願すること。○太乙壇…天帝の太乙を祀るために築いた祭壇。○新豊…昭応の旧名。○長生殿…華清宮の中にある宮殿の名。○空山…人ひと気けのない寂しい山。○月影…月光。

（参考文献）　『唐詩選』『三体詩』

 

 

★    上陽宮　　　　　　　　上陽宮(じょうようきゅう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　竇　庠

 

愁雲漠漠草離離　　　　愁雲は漠々(ばくばく)たり 草は離々(りり)たり

太乙句陳處處疑　　　　太(たい)乙(おつ)か句(く)陳(ちん)か 処々に疑う

薄暮毀垣春雨裏　　　　薄暮 毀(き)垣(がい) 春雨の裏(うち)

殘花猶發萬年枝　　　　残花 猶お発(ひら)く 万年の枝

 

【語釈】

○上陽宮…現在の河南省洛陽市の西に唐の高宗が建てた宮殿、このころ已に荒廃していたらしい。○愁雲…さびしき雲。○漠漠…連なっているさま、うす暗いさま。○草離離…草が生茂っているさま。○太乙…太掖池、池のなまえ。○勾陳…星の名前、星の名前を冠した宮殿の名。○處處…あちらこちら。○毀垣…破りくずれた垣根。○殘花…散りゆく花。○萬年枝…冬青樹。

（参考文献）　『三体詩』

★    南游感興　　　　　　　南游(なんゆう)感興(かんきょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　竇　鞏

 

傷心欲問前朝事　　　　傷心問わんと欲す 前朝の事

惟見江流去不回　　　　惟(た)だ見る 江流の去りて 回(かえ)らざるを

日暮東風春草綠　　　　日暮 東風 春草緑なり

鷓鴣飛上越王臺　　　　鷓鴣(しゃこ) 飛び上ぐ 越(えつ)王(おう)台(だい)

 

【語釈】

○南游…南方（ここでは呉楚の地方）を旅すること。○前朝…春秋戦国時代の越。江流…長江の流れ。○越王臺…越王勾践が築いた台。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    隋宮燕　　　　　　　　隋宮の燕　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　益

 

燕語如傷舊國春　　　　燕語(えんご) 傷(いた)むが如し 旧国の春

宮花零落総成塵　　　　宮花 零落(れいらく)して 総て塵と成る

自從一閉風光後　　　　一たび 風光を閉(とざ)して自従(より) 後

幾度飛來不見人　　　　幾度(いくたび)か 飛び来(きた)れども 人を見ず

 

【語釈】

○燕語…燕の声。○隋宮…隋の煬帝が揚州に築いた行宮。○旧国…隋の国。○零落…草木が枯れ落ちること。○自從…「ヨリ」と読み、「～から」の意。○風光…美しい輝き。

 

 

★    汴河曲　　　　　　　　汴(べん)河(が)の曲　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　益

 

汴水東流無限春　　　　汴(べん)水(すい) 東流す 無限の春

隋家宮闕已成塵　　　　隋家(ずいけ)の宮闕(きゅうけつ) 已に 塵と成る

行人莫上長堤望　　　　行人(こうじん) 長堤に上りて 望むこと莫(なか)れ

風起楊花愁殺人　　　　風起って 楊(よう)花(か) 人を愁(しゅう)殺(さつ)す

 

【語釈】

○汴河・汴水…黄河と淮水とをつなぐ運河。○宮闕…本来は宮殿の意であるが、ここでは隋帝の離宮を指す。○已成塵 … すでに荒廃して塵となってしまった。○行人 … 道行く人、旅人。○長堤 … 運河沿いに築かれた長い堤。○楊花 … 楊柳の花、白い綿毛が飛ぶ。○愁殺人 … 見る人を深い悲しみに沈ませる。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    綺岫宮　　　　　　　　綺岫宮(きしゅうきゅう)　　　　　　　　　 　　　　　　　 唐　　王　建

 

玉樓傾倒粉牆空　　　　玉楼 傾倒して 粉(ふん)牆(しょう)空し

重疊青山遶故宮　　　　重畳たる青山 故宮を遶(めぐ)る

武帝去來羅袖盡　　　　武帝 去りて来(よ)り 羅(ら)袖(しゅう)尽き

野花黃蝶領春風　　　　野花 黄蝶 春風を領(りょう)す

 

【語釈】

○綺岫宮…長安の東の驪山もあった離宮。○玉樓…宮殿の楼閣。○傾側…傾く。○粉牆…土塀。○重疊…幾重にも重なる。○武帝…漢の武帝をいうが、ここでは玄宗。○羅袖…後宮の美女。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    華清宮　　　　　　　　華(か)清宮(せいきゅう)　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　王　建

 

酒幔高樓一百家　　　　酒幔(しゅまん) 高楼 一百家

宮前楊柳寺前花　　　　宮前の楊柳 寺前の花

內園分得溫湯水　　　　內園 分ち得たり 温湯の水

二月中旬已進瓜　　　　二月中旬 已に瓜を進む

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にあった宮殿。○酒幔…酒宴を開くとき、四方を蔽う膜。○寺…大常寺、内務省、文科省に当たる。○分得溫湯水…一つの出口の温泉を方々に分かつ。○結句…温泉を利用しているので、瓜が育つのが早いという意味。

（参考文献）　　『三体詩』

 

 

★    會稽東小山　　　　　　会稽(かいけい)の東小山　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸　羽

 

月色寒潮入剡溪　　　　月色 寒潮 剡渓(せんけい)に入る

青猿叫斷綠林西　　　　青猿 叫び断ゆ 緑林の西

昔人已逐東流去　　　　昔人 已に東流を逐(お)いて去り

空見年年江草齊　　　　空しく見る 年々 江草の斉(ひとし)きを

 

【語釈】

○會稽…浙江省紹興市の南。○剡溪…浙江省紹興市剡溪。○昔人…戴安道。王子猷の友人。『世説新語』任湛。○東流…東に流れる水。

 


 

★    華清宮　　　　　　　華(か)清宮(せいきゅう)を過ぐ　　　　　　　　　　　　  唐　　李　約

 

君王遊樂萬機輕　　　　君王 遊楽し 万機(ばんき)軽(かろ)し

一曲霓裳四海兵　　　　一曲の霓(げい)裳(しょう) 四海の兵

玉輦(ぎょくれん)升天人已盡　　　　玉輦(ぎょくれん) 天に升(のぼ)り 人 已に尽き

故宮猶有樹長生　　　　故宮 猶お 樹の長生する有り

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にあった宮殿。○君王…玄宗皇帝。○萬機…皇帝が行う政治。○霓裳…霓裳羽衣の曲。楊貴妃が得意とした舞。○四海兵…安史の乱。○玉輦…皇帝の乗る手押し車。○故宮…華清宮。

 

 

★    登闔閭古城　　　　　　闔閭(こうりょ)の古城に登る　　　　　　　　　　　　  唐　　武元衡

 

登高遠望自傷情　　　　登高し 遠望すれば 自(おのずか)ら情を傷ましむ

柳嚲花開映古城　　　　柳嚲(りゅうた) 花開いて 古城に映ず

全盛已隨流水去　　　　全盛 已に 流水に随って去り

黃鸝空囀暮春聲　　　　黄鸝(こうり) 空しく囀(てんず)ず 暮春の声

 

【語釈】　　

○闔閭…春秋時代の呉の王、夫差の父。○柳嚲…なよなよとした柳。○黃鸝…コウライウグイス。

 

 

★    吳城覽古　　　　　　　呉城覧(くれじょうらん)古(こ)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陳　羽

 

吳王舊國水煙空　　　　呉王の旧国 水煙空し

香徑無人蘭葉紅　　　　香径 人無く 蘭(らん)葉(よう)紅なり

春色似憐歌舞地　　　　春色は 歌舞の地を 憐(あわれ)むに似て

年年先發館娃宮　　　　年々 先ず発く 館娃宮(かんあきゅう)

 

【語釈】

○呉城…春秋時代の呉の都。江蘇省蘇州市。○覽古…古跡を尋ねて当時の面影を偲ぶ。○呉王…夫差のこと。○水煙…川の上に立つ靄。○香徑…採香径、夫差が香草、香木を植え、西施と楽游したところ。○春色…春景色、春の気配。○館娃宮…呉の宮殿、夫差が西施の為に建てた。

（参考文献）　　『三体詩』

　　　

 

★    題延平劒潭　　　　　　延平(えんぺい)の剣潭(けんたん)に題す　　　　　　　　　　　　  唐　　歐陽詹

 

想象精靈欲見難　　　　精霊(せいれい)を想(そう)象(しょう)して 見んと欲すれども難し

通津一去水漫漫　　　　通津(つうしん) 一たび去りて 水漫々(まんまん)

空餘千催凌霜色　　　　空しく 千催(せんさい)の霜を凌ぐの色を余して

長與澄潭白日寒　　　　長(とこし)えに 澄潭(ちょうたん)と与(とも)に 白日寒し

 

【語釈】

○延平…福建省南平市延平区。○劒潭…剣潭は、閩江の上流にあった渡し場。『晋書』張華伝。○想象…心に思い浮かべること。○精靈…精妙なる霊気。ここでは竜に化した宝剣の霊気。○通津…四通八達の渡し場。○漫漫…遠く遙かなさま。○凌霜色…霜にも勝る冴えて凛然とした刃の色。○澄潭…清く澄み切った潭ふち。

（参考文献）　　『唐詩選』

★    題楚昭王廟　　　　　　　楚の昭王の廟に題す　　　　　　       唐　　韓　愈

 

丘墳滿目衣冠盡　　　　丘墳 満目(まんもく) 衣冠尽く

城闕連雲草樹荒　　　　城闕(じょうけつ) 雲に連って 草樹荒る

猶有國人懷舊德　　　　猶お 国人の 旧徳を懐う有りて

一間茅屋祭昭王　　　　一間の茅屋 昭王を祭る

 

【語釈】

○楚…春秋戦国時代に長江中流域を領有していた国。昭王…春秋時代の楚の王、聖賢の大道に通じた有徳の王。○丘墳…墳墓。○満目…見渡す限り。○衣冠…衣冠を附ける身分のもの、官吏。○城闕…城の門、宮殿。○連雲…空に高く聳える様。○荒…雑草が地を覆う、あれはてる。○国人…ある地域の人民。○旧徳…昔の徳行。ここでは楚の昭王の徳治を指す。○一間…一間の幅。○屋茅…かや・わらなどでふいた粗末な家。

（参考文献）　　『中国詩人選集１１』

　　　

 

★    石頭城　　　　　　　　石頭(せきとう)城(じょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

山圍故國周遭在　　　　山は 故国を囲んで 周遭(しゅうそう)として在り

潮打空城寂寞回　　　　潮は 空(くう)城(じょう)を打って 寂寞(せきばく)として回(めぐ)る

淮水東邊舊時月　　　　淮(わい)水(すい)東辺(とうへん) 旧時の月

夜深還過女牆來　　　　夜深くして 還(ま)た 女牆(じょしょう)を過ぎて来る

 

【語釈】

石頭城…金陵（南京）市街の西にある六朝の古都の城郭。故国…古都、六朝の古都・南京を指す。週遭…めぐる。空城…嘗ての首都、実態が無くなった寂しい首都。寂寞…回…めぐる、かえる。淮水…秦淮河のこと、金陵（南京）市街の南部、西部を回る川。女牆…ひめがき、城壁の上にある高い部分と低い部分のうち、低い部分をいう。

（参考文献）　　『中国名詩選　（下）』

★    烏衣巷                烏(う)衣(い)巷(こう)         　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

朱雀橋邊野草花　　　　朱雀(すじゃく)橋(きょう)辺(へん) 野草の花

烏衣巷口夕陽斜　　　　烏(う)衣(い)巷(こう)口(こう) 夕陽(せきよう)斜なり

舊時王謝堂前燕　　　　旧時 王謝(おうしゃ) 堂前の燕

飛入尋常百姓家　　　　飛んで 尋常 百姓(ひゃくせい)の家に入る

 

【語釈】

○烏衣巷…金陵城（南京）の南側、秦淮区の白鷺洲公園のすぐ西側にある町内の名。○朱雀橋…南京城の南にある秦淮河の上の浮橋の名。○巷口…路地の入り口。○舊時…過ぎ去った昔。○王謝…王導や謝安を出した南朝の名族。○堂前…大きい建物の前。○尋常…普通の。○百姓…庶民。

（参考文献）　　『唐詩三百首』

 

 

★    臺城　　　　　　　　　台城　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

臺城六代競豪華　　　　台城 六代 豪華を競う

結綺臨春事最奢　　　　結綺(けっき) 臨春(りんしゅん) 事 最も奢(おご)る

萬戸千門成野草　　　　万戸千門 野草と成り

只緣一曲後庭花　　　　只だ 一曲の 後庭(こうてい)花(か)に縁(よ)る

 

【語釈】

○臺城…六朝時の禁城（南京）。○六代…南朝の六王朝。○結綺…陳の後主が建てた宮殿。○臨春…春に臨む。○後庭花…「玉樹後庭花」。南朝の陳の後主が作った詩。亡国の歌曲。

★    法雄寺東樓　　　　　　法(ほう)雄寺(ゆうじ)の東楼　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　籍

 

汾陽舊宅今爲寺　　　　汾(ふん)陽(よう)の旧宅 今 寺と為る

猶有當時歌舞樓　　　　猶お 当時の歌舞の楼 有り

四十年來車馬絕　　　　四十年来 車馬絶え

古槐深巷暮蟬愁　　　　古槐(こかい) 深(しん)巷(こう) 暮(ぼ)蝉(せん)愁う

 

【語釈】

○法雄寺…不祥。○汾陽…汾河（山西省を南北に流れる大河）の北の地方。○深巷…深く長い道。

 

 

★    長洲苑　　　　　　　　長洲(ちょうしゅう)苑(えん)　　　　　　　　　　　　　　　　唐    白居易

 

春入長洲草又生　　　　春は長洲に入て 草又生ず

鷓鴣飛起少人行　　　　鷓鴣(しゃこ) 飛び起き 人(じん)行(こう) 少(まれ)なり

年深不辨娃宮處　　　　年深くして 弁ぜず 娃宮(あきゅう)の処

夜夜蘇臺空月明　　　　夜(や)々(や) 蘇(そ)台(だい) 月明空(むな)し　

 

【語釈】

○長洲苑…江蘇省蘇州虎丘の上にあり、呉王闔閭の狩猟したところ。○長洲…長洲苑。○年深…久しい。冬至の俗語。○館娃宮…呉王夫差が西施の爲に建てた宮殿。○蘇臺…姑蘇臺…蘇州市姑蘇山にある、呉王夫差が西施を住まわせた宮殿。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　白氏文集　四』　　　

 

 

★    商山廟　　　　　　　　商山(しょうざん)廟(びょう)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐    白居易

 

臥逃秦亂起安劉　　　　臥(ふ)しては秦の乱を逃がれ 起ちては劉を安んず

舒卷如雲得自由　　　　舒巻(じょけん) 雲の如く 自由を得たり

若有精靈應笑我　　　　若(も)し 精霊(せいれい) 有らば 応(まさ)に我を笑うべし

不成一事謫江州　　　　一事を成さずして　江州に謫(たく)さる

 

【語釈】

○商山廟…商山（陝西省商県にある山）にある四皓（秦漢の乱を避けて商山に隠棲した

四人の隠者）の廟。○安劉…漢の髙祖の皇太子を守った。○舒卷…出処進退。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～でるにちがいない」の意。○江州…江西省北部におかれた州。

〔参考文献〕　　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

　　　　

 

★    題昭應溫泉　　　　　　昭応(しょうおう)の温泉に題す　　　　　　　　　　　  唐    孫叔向

 

一道泉回繞御溝　　　　一道の泉 回(まわ)りて 御溝を繞(めぐ)る

先皇曾向此中游　　　　先皇 曽(かつ)て 此の中に向いて游ぶ

雖然水是無情物　　　　然水は 是れ 無情の物と雖(いえど)も

也到宮前咽不流　　　　也(ま)た 宮前に到りて 咽(むせ)びて流れず

 

【語釈】

○昭應…不祥。○一道…一筋の。○御溝…宮城の堀。○先皇…前朝の皇帝。

 

 

★    題縉雲山鼎池　　　　　　縉(しん)雲山(うんざん)の鼎(てい)池(ち)に題す　　　　　　　　　  唐　　徐　凝

 

黃帝旌旗去不回　　　　　黄帝の旌旗(せいき) 去りて回(かえ)らず

空餘片石碧崔嵬　　　　　空しく 片石を余す 碧崔嵬(へきさいかい)

有時風卷鼎湖浪　　　　　時有りて 風は巻く 鼎(てい)湖(こ)の浪

散作晴天雨點來　　　　　散じて 晴天の雨点と作(な)りて来(きた)る

 

【語釈】

○縉雲山…重慶市西北北碚地区にある山。○鼎池…鼎湖のこと。○黃帝…伝説中の帝王の最高者。○旌旗…旗の総称。○片石…石碑。○碧崔嵬…碧いろの山頂。○鼎湖…浙江省麗水市鼎湖。黄帝が、ここで龍に乗り昇天したとの伝説がある。

 

　　　

★    過襄陽上于司空頔　　　襄(じょう)陽(よう)を過ぎ 于司空頔(うしくうてき)に上(たてまつ)る　　　　　　   唐　　李　涉

 

方城漢水舊城池　　　　方城 漢水 旧城池

陵谷依然世自移　　　　陵(みささぎ)谷(たに)  依然として 世 自(おのずか)ら移る

歇馬獨來尋故事　　　　馬を歇(やめ)て 独(ひと)り来(きた)り 故事を尋ぬ

逢人唯説峴山碑　　　　人に逢い 唯だ説く 峴山(けんざん)碑(ひ)

 

【語釈】

○襄陽…湖北省襄陽市襄城区。○于司空頔…于頔。河南省洛陽市の人，遷湖、蘇二州刺史を勤め，司空に進んだ。○方城…河南省方城県。○漢水…長江の最長の支流。武漢で長江に合流する。○陵谷…墳墓。○依然…昔のまま。○峴山碑…晉の羊祜が襄陽の太守であった時、功績があったので、後の人がそれを書き記した碑、峴山（湖北省襄陽市南にある山）にある。

 

 

★    隋宮　　　　　　　　　隋宮(ずいきゅう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鮑　溶

 

柳塘煙起日西斜　　　　柳塘(りゅうとう) 煙 起りて 日は西に斜なり

竹浦風迴鴈弄沙　　　　竹(ちく)浦(ほ) 風迴(めぐ)り 鴈 沙を弄(ろう)す

煬帝春遊古城在　　　　煬(よう)帝(だい)の春遊 古城在り

壞宮芳草滿人家　　　　壊(かい)宮(きゅう)の芳草 人家に満つ

 

【語釈】

○隋宮…隋の煬帝が揚州に行幸したときの行宮。○柳塘…柳を植えた堤。○竹浦…竹の生えた浦。○壞宮…壊れた宮殿。

 

 

★    望思臺　　　　　　　　望思(ぼうし)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭還古

 

讒語能令骨肉離　　　　讒(さん)語(ご) 能(よ)く 骨肉を離さ令(し)む

姦情難測事堪悲　　　　姦(かん)情(じょう) 測り難く 事 悲むに堪えたり

何因掘得江充骨　　　　何に因(よ)りてか 江充の骨を掘り得て

搗作微塵祭望思　　　　搗(つ)いて 微塵と作(な)し 望思(ぼうし)を祭らん

 

【語釈】

○望思臺…漢の武帝の時、奸臣江充に落とし入れられて自殺した太子（巫蠱の獄）の無実を哀れんで武帝が建てた臺。○讒語…そしる言葉。讒言。○骨肉…ごく親しい間柄の者。○姦情…よこしまな心。○江充…巫蠱の獄を起こした奸臣。○望思…望思臺。

 

 

★    華清宮　　　　　　　　華(か)清宮(せいきゅう)　　　　　　　　　　  　　　 唐　　張　祜

 

紅樹蕭蕭閣半開　　　　紅樹 蕭々(しょうしょう)として 閣 半ば開く

上皇曾幸此宮來　　　　上皇 曽って 此の宮に幸(みゆき)して来(きた)る

至今風俗驪山下　　　　今に至る 風俗 驪(り)山(ざん)の下(もと)

村笛猶吹阿濫堆　　　　村笛 猶お吹く 阿濫堆(あらんたい)

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○上皇…玄宗皇帝。○阿濫堆…玄宗が作った曲の名。

　　　

 

★    寶應縣　　　　　　　　宝応(ほうおう)県(けん)　　　　　　　　　　　　  唐　　雍　陶

 

雪樓當日動晴寒　　　　雪楼 日に当って 晴(せい)寒(かん)を動かす

渭水梁山鳥外看　　　　渭(い)水(すい) 梁山(りょうざん) 鳥外に看る

聞説德宗曾到此　　　　聞説(きくなら)く 徳宗 曽て此に到ると

吟詩不敢倚闌干　　　　詩を吟じ 敢(あえ)て 闌(らん)干(かん)に倚(よ)らず

 

【語釈】

○寶應縣…江蘇省揚州市宝応県。○雪樓…雪に覆われた楼。○晴寒…寒い青空。○渭水…関中を東流し黄河に繋がる川。○梁山…陝西省韓城市にある山。○鳥外…高空。○聞説…聞くところによれば。○德宗…唐朝の第12代皇帝。

 

 

 

★    題桃花夫人廟　　　　　桃(とう)花(か)夫人(ふじん)の廟に題す　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

細腰宮裏露桃新　　　　細(さい)腰宮(ようきゅう)裏(り) 露(ろ)桃(とう)新たなり

脈脈無言度幾春　　　　脈々(みゃくみゃく)として 言(げん)無く 幾春を度る

至竟息亡緣底事　　　　至竟(しきょう) 息の亡ぶは底事(なにごと)にか縁(よ)る

可憐金谷墜樓人　　　　憐れむべし 金谷(きんこく) 墜楼(ついろう)の人

 

【語釈】

○桃花夫人…息婦人。楚の文王に息の国を滅ぼされ妻とされたが、一言も口をきななかった。（『春秋左氏伝』文王十四年）。○細腰宮…楚の文王の宮殿。文王は細腰の女性を好んだ。○露桃…桃の花。○脈脈…思いを秘めている様子。○至竟…結局。畢竟。○金谷墜樓人…晉の石崇の愛姫であった緑珠。『蒙求』（緑珠墜樓）。

（参考文献）　『新釈漢文大系　詩人編９』

 

 

★    題烏江亭　　　　　　　烏江亭に題す　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

勝敗兵家事不期　　　　勝敗は 兵家も 事 期せず

包羞忍恥是男兒　　　　羞を包み 恥を忍ぶ 是れ男児

江東子弟多才俊　　　　江東の子弟 才俊多し

卷土重來未可知　　　　巻土(かんつち)重来(ちょうらい) 未だ知るべからず

 

【語釈】

烏江亭…安徽省の長江北岸にある亭。項羽と劉邦の天下争覇で、敗れた項羽が舟での戦場離脱を拒んだところ。烏江…安徽省東部を流れる川であり地名。・兵家…兵法家。事不期…予期することができない。男兒…立派な男である。是…強意の助辞、…である。江東…烏江の東側にある項羽の根拠地。才俊…才能にひいでた人物。捲土重來…砂塵を巻き起こす勢いで、再びやってくる。未可知…その結果はどうなるかは、まだ、知ることができない。

（参考文献）　　『漢詩大系　９』

★    青塚　　　　　　　　　青塚(せいちょう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

青塚前頭隴水流　　　　青塚(せいちょう)前頭(ぜんとう) 隴水流る

燕支山下暮雲秋　　　　燕支(えんし)山下(さんか) 暮雲 秋なり

蛾眉一墜窮泉路　　　　蛾(が)眉(び) 一たび 窮(きゅう)泉(せん)の路に墜ち

夜夜孤魂月下愁　　　　夜々 孤(こ)魂(こん) 月下に愁う

 

【語釈】

○青塚…王昭君の墓。砂漠の中で草が青々と茂るので青塚と言われる。内蒙古自治区にある。○隴水…隴山（陝西省北部から甘粛省にかけての山脈）から流れる川。○燕支山…燕然山。モンゴル民族共和国にある。○蛾眉…美人。王昭君。○窮泉…黄泉の国。○孤魂…孤独な魂。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

 

★    赤壁　　　　　　　　　赤壁　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

折戟沈沙鐵半銷　　　　折戟 沙に沈んで 鉄 半(なか)ば銷(しょう)す

自將磨洗認前朝　　　　自(みずか)ら 磨洗(ません)を将って 前朝を認む

東風不與周郎便　　　　東風 周郎(しゅうろう)の与に 便ぜずんば

銅雀春深鏁二喬　　　　銅(どう)雀(じゃく) 春深くして 二(に)喬(きょう)を鏁(とざ)さん

 

【語釈】

○赤壁 … 今の湖北省咸寧市赤壁市にある古戦場、呉の孫権と蜀の劉備の連合軍が、魏の曹操の軍を打ち破った所。○折戟 … 折れたほこ。○銷 … 錆びて朽ち果てる。○磨洗 … 洗い磨くこと。○前朝 … 前の時代。赤壁の戦いのあった三国時代。周郎 … 呉の名将、周瑜ゆのこと。○便…都合良くする。○銅雀 … 曹操が鄴（今の河北省臨漳県）に築いた台の名、銅雀台。○二喬 … 呉の喬氏の美人姉妹。○姉の大喬は孫策が、妹の小喬は周瑜が側室とした。

（参考文献）　　『三体詩』

★    泊秦淮               秦淮(しんわい)に泊す　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

煙籠寒水月籠沙　　　　煙は 寒水を籠(こ)め 月は沙(すな)を籠(こ)む

夜泊秦淮近酒家　　　　夜 秦淮(しんわい)に泊して 酒家に近し

商女不知亡國恨　　　　商女は知らず 亡国の恨を

隔江猶唱後庭花　　　　江を隔てて 猶お唱う 後庭(こうてい)花(か)

 

【語釈】

○秦淮…建康（南京）を貫流して長江へ注ぐ古代の運河。○煙…霞は靄。○寒水…寒々とした冬の川。○籠…月光が河の砂に射している。○籠…つつみこむ。○沙…砂州。○酒家…酒屋、飲み屋。○商女…妓女。○亡國恨…嘗てここに都を構えていた南朝の陳の後主が酒色に耽り、国を亡ぼしたという。○後庭花…『玉樹後庭花』。南朝の陳の後主が作った詩。

（参考文献）　『漢詩大系　９』

　　　

 

★    金谷園　　　　　　　　金谷(きんこく)園(えん)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

繁華事散逐香塵　　　　繁華(はんか)の事 散じて 香塵を逐(お)う

流水無情草自春　　　　流水 無情 草 自(おのずか)ら春なり

日暮東風怨啼鳥　　　　日暮 東風 啼(てい)鳥(ちょう)を怨む

落花猶似墮樓人　　　　落花は 猶(な)お似たり 堕楼(だろう)の人に

 

【語釈】

○金谷園…西晋の石崇が洛陽の北の金谷に建てた別荘の庭園で、石崇は、ここで愛妾の緑珠と暮らしていた。○繁華事…昔、金谷園で遊んだこと。○香塵…香りの良い塵。○堕楼人…身投げをした人、石崇の愛妾の緑珠のこと。『蒙求』緑樹堕楼。

（新釈漢文大系　詩人編　９）

 

★    登樂遊原　　　　　　　楽遊(らくゆう)原(げん)に登る　　　　　　　　　　  　唐　　杜　牧

 

長空澹澹孤鳥沒　　　　長空 澹々(たんたん)として 孤鳥没す

萬古銷沈向此中　　　　万古 銷沈(しょうちん)して 此の中に向う

看取漢家何事業　　　　看取(かんしゅ)す 漢家 何事の業ぞ

五陵無樹起秋風　　　　五陵 樹の 秋風を起す無し

 

【語釈】

○楽遊原…長安の東南にある遊覧の地で、高くなっており、長安を眺め渡すことのできる名勝地。○長空…大空。○澹澹…あっさりしたさま。○孤鳥…群を離れて一羽だけになった鳥。○沒…かくれて見えなくなる。○看取…みる。みてとる。○漢家…漢の王室。○何…なに、どれほど、疑問の助字。○事業…営む事がらとその成果。○五陵…長安にあった前漢の五帝陵。高祖長陵、恵帝安陵、武帝茂陵、昭帝平陵の五帝陵。

（参考文献）　『漢詩大系　１４』

 

　　　

★    途經秦始皇墓　　　　　途経秦始皇墓　　　　　　　　　　　　　  唐　　許　渾

 

龍盤虎踞樹層層　　　　竜盤虎踞(りゅうばんとこきょ) 樹 層々(そうそう)

勢入浮雲亦是崩　　　　勢い 浮雲に入るも 亦(ま)た是(こ)れ崩る

一種青山秋草裏　　　　一種の青山 秋草の裏(うち)

路人唯拜漢文陵　　　　路人 唯だ 拝す 漢文の陵

 

【語釈】

○龍盤虎踞…龍がとぐろを巻き、虎がうずくまるように、ある場所を根拠地として威勢を振るうこと。○層層…幾重にも重なっていること。○漢路人…道行く人。○漢文陵…仁君であった漢の文帝の陵。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

★    過湘妃廟　　　　　　　湘(しょう)妃(き)廟(びょう)を過 ぐ　　　　　　　　　　  唐　　許　渾

 

古木蒼山掩翠娥　　　　古木 蒼山 翠娥(すいが)を掩(おお)う

月明南浦起微波　　　　月明 南浦 微波起る

九疑望斷幾千載　　　　九疑(きゅうぎ) 望断す 幾千載

斑竹淚痕今更多　　　　斑(はん)竹(ちく) 涙(るい)痕(こん) 今 更に多し

 

【語釈】

○湘妃廟…堯帝の娘で舜帝の妃となり、舜帝が死去した後、湘水に入る水した娥皇、女英を祀る廟、君山にある。○翠娥…緑色の眉。○南浦…南側の水面。○九疑…九疑山、湖南省寧遠県の南にある山。舜を葬ったところ。○望斷…見える処まで見尽くす。○斑竹…まだら竹。娥皇、女英の涙が注がれて斑ができたと伝えられる。

 

 

★    經故太尉段公廟　　　　故太尉段(こたいいだん)公(こう)の廟を経(ふ)　　　　　　　　　　　  唐　　許　渾

 

靜想追兵緩翠華　　　　静かに想う 兵を追い 翠(すい)華(か)を緩(ゆる)めるを

古碑荒廟閉松花　　　　古碑 荒(こう)廟(びょう) 松花を閉ざす

紀生不向滎陽死　　　　紀生 滎(けい)陽(よう)に向(お)いて 死せずんば

爭有山河屬漢家　　　　争(いかで)か 山河の 漢家に属する有らん

 

【語釈】

○故太尉段公…後漢の段熲、武将・官僚として功績があり、太尉にまで上り詰めたが、最後には投獄されて自殺した。○翠華…帝王、ここでは劉邦。○紀生…滎陽において劉邦が項羽に包囲されたとき、劉邦と偽って項羽に降伏し、その間に劉邦は脱出した。ここでは、段熲になぞらえている。○爭…どうして～がありえようか。反語。

　　　

 

★    驪山有感　　　　　　　驪山(りざん)感有り　　　　　　　　　　　　　唐　　李商隱     

 

驪岫飛泉泛暖香　　　　驪岫(りしゅう)の飛泉 暖香を泛ぶ

九龍呵護玉蓮房　　　　九竜 呵(か)護(ご)す 玉(ぎょく)蓮房(れんぼう)

平明每幸長生殿　　　　平明 毎(つね)に幸(こう)す 長生殿

不從金輿惟壽王　　　　金(きん)輿(よ)に従わざるは 惟だ寿(じゅ)王(おう)

 

【語釈】

○驪山…陝西省臨潼県にある山。麓に華清宮があった。○驪岫…驪山。○呵護…加護。○玉蓮房…蓮の花の外包の美称。○平明…夜明け。○幸…寵愛する。○長生殿…華清宮の中にあった宮殿。○金輿…皇帝の乗る輿。○壽王…李瑁、玄宗の子、楊貴妃は李瑁の妻であった。

 

              　　

★    龍池　　　　　　　　　竜(りょう)池(ち)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李商隱     

 

龍池賜酒敞雲屏　　　　竜(りょう)池(ち) 酒を賜いて 雲屏(うんぺい)を敞(ひら)く

羯鼓聲高衆樂停　　　　羯(かっ)鼓(こ) 声 高くして 衆(しゅう)楽(がく)停(とどま)る

夜半宴歸宮漏永　　　　夜半 宴　帰りて 宮(きゅう)漏(ろう)永し

薛王沈醉壽王醒　　　　薛(せつ)王(おう)は沈酔し 寿(じゅ)王(おう)は醒(さ)む

 

【語釈】

○龍池…中書省。○雲屏…雲母で装飾された屏風。○羯鼓…打楽器の一種。○宮漏…宮中の水時計。○薛王…李業、睿宗の子。○壽王…李瑁、玄宗の子、楊貴妃は李瑁の妻であった。

 

 

★    經汾陽舊宅経　　　　　汾(ふん)陽(よう)の旧宅を経(ふ)　　　　　　　　　　　   唐　　趙　嘏

 

門前不改舊山河　　　　門前 改まらず 旧山河

破虜曾輕馬伏波　　　　虜(りょ)を破り 曽(かつ)て軽んず 馬伏波(ばふくは)

今日獨經歌舞地　　　　今日 独り経(ふ) 歌舞の地

古槐疎冷夕陽多　　　　古槐 疎(そ)冷(れい)にして 夕陽(せきよう)多し

 

【語釈】

○汾陽…山西省汾陽市。○汾陽舊宅…郭子儀の旧宅、郭子儀は、唐朝に仕えた軍人・政治家。安史の乱で大功を立て、以後よく異民族の侵入を防いだ。○虜…蛮族。○曾輕…馬伏波以上の功績があることをいう、馬伏波は馬援、後漢の武将。○歌舞地…汾陽の舊宅のこと。○古槐…古い槐の樹。○疎冷…疎らでさびしいさま。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

　　　

 

★    易水懷古　　　　　　　易(えき)水(すい)懐古(かいこ)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　馬　戴

 

荆卿西去不復返　　　　荆(けい)卿(きょう) 西に去りて 復(ま)た返らず

易水東流無盡期　　　　易(えき)水(すい) 東流して 尽くる期無し

落日蕭條薊城北　　　　落日 蕭(しょう)条(じょう)たり 薊(げい)城(じょう)の北

黃沙白草任風吹　　　　黄沙 白草 風の吹くに任(まか)す

 

【語釈】

○易水…河北省西部を流れる川、荊軻が燕太子丹に別れたところ。○荆卿…秦王を暗殺しようとした刺客、史記「刺客列伝」。○蕭條…もの静かで寂しいさま。○薊城…現在の北京。

　　　

 

★    秋日過驪山　　　　　　秋日 驪山(りざん)を過ぐ　　　　　　　　　　　  唐　　孟　遲

 

冷日微煙渭水愁　　　　冷日 微煙 渭(い)水(すい)愁う

翠華宮樹不勝秋　　　　翠(すい)華(か) 宮樹 秋に勝(た)えず

霓裳一曲千門鎖　　　　霓(げい)裳(しょう) 一曲 千門を鎖す

白盡梨園弟子頭　　　　白(はく)尽(じん)す 梨園(りえん) 弟子(ていし)の頭(こうべ)

 

【語釈】

○驪山…陝西省臨潼県にある山。麓に華清宮があった。○微煙…かすかな水上のもや。○翠華…皇帝の儀仗である翠の羽の付いた旗。○霓裳…霓裳羽衣の曲。楊貴妃が得意とした舞。○白盡…すっかり真っ白になる。○梨園…宮廷の楽人、その養成所。○弟子…一同。

 

 

★    華清宮　　　　　　　　華(か)清宮(せいきゅう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　崔　櫓

 

草遮回磴絕鳴鑾　　　　草は 回磴(かいとう)を遮って 鳴鑾(めいらん)を絕つ

雲樹深深碧殿寒　　　　雲樹 深々として 碧(へき)殿(でん)寒し

明月自來還自去　　　　明月 自(おのずか)ら來って 還(ま)た自(おのずか)ら去る

更無人倚玉欄干　　　　更に 人の 玉(ぎょく)欄干(らんかん)に倚(よ)る無し

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○雲樹…雲のかかる樹木。○深深…奥深くまで生い茂っている形容。○碧殿…青緑色に塗った宮殿、または碧玉で飾られた美しい宮殿。○寒…ひっそりとして肌寒く感じる。○自来…ひとりでにやって来て。○自去…ひとりでに去っていく。○玉欄干…玉で飾った欄干。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

 

★    華清宮　　　　　　　　華(か)清宮(せいきゅう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　崔　櫓

 

障掩金雞蓄禍機　　　　障(さわ)りは 金雞(きんけい)を掩いて 禍機(かき)を蓄う

翠華西拂蜀雲飛　　　　翠(すい)華(か) 西を払いて 蜀雲飛ぶ

珠簾一閉朝元閣　　　　珠簾 一たび閉す 朝元閣(ちょうげんかく)

不見人歸見燕歸　　　　人の帰るを見ず 燕の帰るを見る

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○金雞…檞樹の別名。○禍機…禍の起こるきざし。○翠華…皇帝の車。○西拂…玄宗が蜀に逃れたこと。○朝元閣…驪山にあった楼閣。

　　　

 

★    華清宮　　　　　　　　華(か)清宮(せいきゅう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　崔　櫓

 

門橫金鎖悄無人　　　　門は 金(きん)鎖(さ)を横たえて 悄(しょう)として人無く

落日秋聲渭水濱　　　　落日 秋声 渭(い)水(すい)の浜

紅葉下山寒寂寂　　　　紅葉 山を下りて 寒 寂々(せきせき)

濕雲如夢雨如塵　　　　湿雲は夢の如く 雨は塵の如し

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○渭水…関中を東流し黄河に繋がる川。○寂寂…もの寂しくひっそりしたさま。

 

 

★    桃源洞　　　　　　　　桃源(とうげん)洞(どう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李羣玉

 

我到瞿真上昇處　　　　我は到る 瞿(く)真(しん) 上昇(じょうしょう)の処

山川四望使人愁　　　　山川を四望(しぼう)すれば 人を使(し)て愁えしむ

紫雲白鶴去不返　　　　紫雲 白鶴 去りて返らず

唯有桃花溪水流　　　　唯だ 桃花 渓(けい)水(すい)の 流るる有るのみ

 

【語釈】

○桃源洞…湖南省桃源県西南の桃源山の下にある洞、秦人洞ともいう。○瞿真…唐の時代の人で、桃源山に昇って羽化登仙したと言われる。○紫雲…紫色の瑞雲。

 

 

★    二妃廟　　　　　　　　二妃廟　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　高　駢

 

帝舜南巡去不還　　　　帝舜(ていしゅん) 南巡(なんじゅん)し 去りて還らず

二妃幽怨水雲間　　　　二妃 幽怨(ゆうえん)す 水雲の間

當時珠淚知多少　　　　当時の珠(しゅ)涙(るい) 知んぬ多少ぞ

直到如今竹尚斑　　　　直ちに 如(じょ)今(こん)に到りて 竹 尚お斑(まだら)なり

 

【語釈】

○二妃廟…湘妃廟、堯帝の娘で舜帝の妃となり、舜帝が死去した後、湘水に入る水した娥皇、女英を祀る廟、君山にある。○南巡…南方に巡幸すること。○二妃…娥皇と女英。○幽怨…非常に悲しむ。○如今…現在。○竹尚斑…斑竹のこと、娥皇と女英の涙によって斑になったとされる。

 

 

★    嚴陵釣臺　　　　　　　厳(げん)陵(りょう)の釣(ちょう)台(だい)　　　　　　　　　　　　   唐　　黃　滔

 

終向煙霞作野夫　　　　終(つい)に 煙霞(えんか)に向(むか)いて 野夫と作(な)り

一竿竹不換簪裾　　　　一(いっ)竿(かん)の竹 簪(しん)裾(きょ)に換えず

直鉤猶逐熊羆起　　　　直(ちょく)鉤(こう) 猶お 熊(ゆう)羆(ひ)を逐(お)いて起り

獨是先生真釣魚　　　　独(ひと)り 是れ 先生 真に魚を釣る

 

【語釈】

○嚴陵…嚴光、後漢の光武帝の幼なじみであったが、光武帝の再三の招奇を拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところが嚴子陵釣臺といわれる。○野夫…隠棲者。○簪裾…貴人の服装。○直鉤…真っ直ぐな針、太公望呂尚が用いた。○熊羆…熊。○先生…嚴光のこと。

 

 

★    長城　　　　　　　　　長城　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　汪　遵

 

秦築長城比鐵牢　　　　秦 長城を築いて 鉄(てつ)牢(ろう)に比す

蕃戎不敢過臨洮　　　　蕃(ばん)戎(じゅう) 敢(あえ)て 臨洮(りんとう)を過(よぎ)らず

焉知萬里連雲勢　　　　焉(いずく)んぞ知らん 万里 連雲の勢

不及堯階三尺高　　　　及ばず 尭(ぎょう)階(かい) 三尺の高きに

 

【語釈】

○蕃戎…野蛮な異民族。○臨洮…甘粛省定西市あたり。○堯階…堯帝の宮殿。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

　　　

 

★    桐江　　　　　　　　　桐(とう)江(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　汪　遵

 

光武重興四海寧　　　　光武 重興(じゅうこう)し 四海寧(やす)し

漢臣無不受浮榮　　　　漢臣 浮(ふ)栄(えい)を受けざるは無し

嚴陵何事輕軒冕　　　　厳(げん)陵(りょう)　何事ぞ　軒冕(けんべん)を軽んじ

獨向桐江釣月明　　　　独(ひと)り 桐(とう)江(こう)に向いて 月明に釣るとは

 

【語釈】

○桐江…錢塘江の桐廬県の部分。○光武…後漢の開祖光武帝。○重興…王莽の簒奪から後漢を復興させたこと。○浮榮…虚栄。○嚴陵……嚴光、後漢の光武帝の幼なじみであったが、光武帝の再三の招奇を拒否して隠棲生活を送った。○軒冕…高位高官。

 

 

★    梁寺　　　　　　　　　梁寺(りょうじ)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　汪　遵

 

立國從來爲戰功　　　　国を立つるは 従来 戦功の為なり

一朝何事却談空　　　　一朝 何事ぞ 却って空(くう)を談ず

臺城兵匝無人敵　　　　台城 兵 匝(めぐ)って 人敵無く

閑臥高僧滿梵宮　　　　閑臥の高僧 梵宮に満つ

 

【語釈】

○梁寺…六朝の梁の時代の寺。○立國…建国。○一朝…ある日。○臺城…六朝時代の南朝の都。南京。○梵宮…仏寺。

 

 

★    汴河懐古　　　　　　　汴(べん)河(が)懐古(かいこ)　　　　　　　　　　　  唐　　皮日休

 

盡道隋亡爲此河　　　　尽(ことごと)く道(い)う 隋の亡ぶるは 此の河の為なりと

至今千里賴通波　　　　今に至りて 千里 通波に頼(たよ)る

若無水殿龍舟事　　　　若(も)し 水(すい)殿(でん)竜(りゅう)舟(せん)の事 無くんば

共禹論功不較多　　　　禹(う)と共に 功を論じ多くを較(くら)べず

 

【語釈】

○汴河…隋の煬帝が開削した運河、広済渠。○通波…流水。水路の便。○水殿龍舟…帝王の乗る龍をかたどった豪華な巨船。○禹…夏朝の創始者､治水工事に成功し、舜から禅譲を受けた。

 

　　　

★    長城　　　　　　　　　長城　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　胡　曾

 

祖舜宗堯自太平　　　　祖舜(そしゅん) 宗(そう)尭(ぎょう) 自(おのずか)ら太平

秦皇何事苦蒼生　　　　秦(しん)皇(こう) 何事ぞ 蒼生を苦しめる

不知禍起蕭牆內　　　　知らず 禍(わざわい)の蕭牆の內に起るを

虛築防胡萬里城　　　　虚しく築く 防胡 万里の城

 

【語釈】

○祖舜…舜帝。○宗堯…堯帝。○秦皇…秦の始皇帝。○蒼生…人民。○蕭牆…垣根。○防胡…異民族の侵入を防ぐ。

 

　　　

 

★    烏江　　　　　　　　　烏江　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　胡　曾

 

爭帝圖王勢已傾　　　　帝を争い 王を図(はか)り 勢(いきおい) 已に傾く

八千兵散楚歌聲　　　　八千の兵 散じ 楚歌の声

烏江不是無船渡　　　　烏江 是れ 船渡(せんと) 無からざるに

耻向東吳再起兵　　　　東呉(とうご)に向いて 再び兵を起こすを耻(は)ず

 

【語釈】

○烏江…安徽省馬鞍山市和県烏江鎮付近を流れる川。項羽最後の地。○船渡…舟で渡る手段。○東吳…蘇州地方一帯。

 

 

★    金谷園　　　　　　　　金谷園　　　　　　　　　　　　　　  唐　　胡　曾

 

一自佳人墜玉樓　　　　一たび 佳人 玉楼を墜ちて自(よ)り

繁華東逐洛河流　　　　繁華 東に 洛(らく)河(が)を逐(お)いて流る

唯餘金谷園中樹　　　　唯だ余す 金谷園中の樹

殘日蟬聲送客愁　　　　残日 蝉声 客(かく)愁(しゅう)を送る

 

【語釈】

○晉の石崇が金穀澗に作った園、「緑珠墜楼」（蒙求）で知られる。○佳人…緑珠。○洛河…河南省洛陽市洛河。○殘日…夕陽。○客愁…旅の愁い。

 

 

　

 

★    望仙臺　　　　　　　　仙台を望む　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

千山壘土望三山　　　　千山 土を塁(るい)して 三山を望む

雲鶴無蹤羽衛還　　　　雲(うん)鶴(かく) 蹤(あと)無(な)く 羽(う)衛(えい)還る

若説神仙求便得　　　　若(も)し 神仙(しんせん) 求めて 便ち得(う)と説かば

茂陵何事在人間　　　　茂(も)陵(りょう) 何事ぞ 人間(じんかん)に在らん

 

【語釈】

○三山…中国の伝説上の神山。渤海湾中にあるといわれる蓬莱山、方丈山、瀛洲(山の三山をいう。漢の武帝などが使者を出して海上にその神山を探させ、不死の薬を得ようとした。○雲鶴…鶴。○無蹤…消え去ること。○羽衛…帝王の護衛隊。○茂陵…漢の武帝の陵墓、陝西省興平県東北にある。

 

 

★    陳宮　　　　　　　　　陳宮　　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

白玉尊前紫桂香　　　　白玉 尊前 紫(し)桂(けい)香(かん)ばし

迎春閣上燕雙雙　　　　春を迎え 閣上 燕双々(そうそう)

陳王半醉貴妃舞　　　　陳王 半ば酔い 貴妃舞い

不覺隋兵夜渡江　　　　覚えず 隋兵 夜 江を渡るを

 

【語釈】

○陳宮…南朝最後の陳の後主の宮殿。○尊前…酒宴。○紫桂…紫色の花が咲く桂。○雙雙…つがいになってとぶ。○陳王…陳の後主。○貴妃…張麗華、孔貴人。

 

　

 

★    汴河懐古　　　　　　　汴(べん)河(が)懐古(かいこ)　　　　　　　　　　　　　　　唐　　羅　鄴

  

煬帝開河鬼亦悲　　　　煬帝 河を開きて 鬼も亦た悲しむ

生民不獨力空疲　　　　生民 独力 空しく疲るるのみならず

至今嗚咽東流水　　　　今に至って 嗚咽(おえつ)す 東流の水

似向清平怨昔時　　　　清平に向(お)いて 昔時を怨むに似たり

 

【語釈】

○汴河…隋の煬帝が開削した運河、広済渠。○煬帝…隋の煬帝。○生民…人民。○清平…太平の世。

 

 

★    焚書坑　　　　　　　　焚書坑(ふんしょこう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　章　碣

 

竹帛煙消帝業虛　　　　竹帛(ちくはく) 煙消えて 帝業虚(むな)し

關河空鎖祖龍居　　　　関(かん)河(が) 空しく鎖ざす 祖(そ)竜(りゅう)の居

坑灰未冷山東亂　　　　坑(こう)灰(かい) 未だ冷めざるに 山東乱る　

劉項元來不讀書　　　　劉(りゅう)項(こう) 元来 書を読まず

 

【語釈】

○焚書坑 … 秦の始皇帝が儒教の書物を焼き捨てた穴。○４竹帛 … 竹や帛の書籍。○銷 … 「消」に同じ。○帝業 … 秦の始皇帝による天下統一の事業。○関河 … 函谷関と黄河。○祖竜 … 秦の始皇帝。○居 … 始皇帝のいた咸陽の宮殿を指す。○坑灰 … 坑の中で焼いた書物の灰。○山東 … 函谷関の東方。○劉項 … 劉邦と項羽。

（参考文献）　『三体詩』

 

★    鄧艾廟　　　　　　　　鄧(とう)艾(がい)廟(びょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　唐彦謙

 

昭烈遺黎死尚羞　　　　昭烈(しょうれつ)の遺(い)黎(れい) 死して尚お羞ず

揮刀斫石恨譙周　　　　刀を揮(ふる)い 石を斫(き)り 譙(しょう)周(しゅう)を恨む

如何千載留遺廟　　　　如何(いかん)ぞ 千載 遺(い)廟(びょう)に留まるとは

血食巴山伴武侯　　　　血食 巴山(はざん) 武侯に伴う

 

【語釈】

○鄧艾…魏の武将。蜀に攻め入り成都を陥落させた。○昭烈…劉備の諡。○遺黎…滅ぼされた国の民。○譙周…蜀の劉禅の臣下で劉禅に降伏を勧めた。○血食…祭祀用の食品。○巴山…蜀の山。○武侯…諸葛孔明の諡。

 

 

★    仲山　　　　　　　　　　仲山　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　唐彦謙

 

千載遺蹤寄薜蘿　　　　千載の遺蹤(いしょう) 薜蘿(へいら)に寄る

沛中鄉里漢山河　　　　沛中の鄉里 漢の山河

長陵亦是閑丘隴　　　　長陵 亦た是れ 閑丘隴(かんきゅうろう)

異日誰知與仲多　　　　異日 誰か知る 仲に与(とも)の多きを

 

【語釈】

○仲山…漢の高祖兄の劉仲の隱居したところ。○遺蹤…遺跡。○薜蘿…かずら。つる草の一種。○沛中…髙祖の故郷。○長陵…髙祖の墓。○丘隴…墳墓。○異日…従前。○仲…劉仲。○與…仲間。

 

 

華清宮　　　　　　　　華(か)清宮(せいきゅう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　呉　融

 

四郊飛雪暗雲端　　　　四郊の飛雪 雲端に暗し

唯此宮中落旋乾　　　　唯だ此れ 宮中に落ちて旋(めぐ)り乾く

綠樹碧簷相掩映　　　　緑樹 碧簷(へきたん) 相掩いて映じ

無人知道外邊寒　　　　人の道する 外辺の寒きを知る無し

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○四郊…都士の四方の郊外。○碧簷…緑色の軒。

 

　　　

★    華清宮　　　　　　　　華清宮　　　　　　　　　　　　　　  唐　　呉　融

 

漁陽烽火照函關　　　　漁(ぎょ)陽(よう)の烽火 函関を照し

玉輦怱怱下此山　　　　玉輦(ぎょくれん) 怱々(そうそう)として 此の山を下る

一曲羽衣聽不盡　　　　一曲の羽衣(うい) 聴いて尽きず

至今遺恨水潺潺　　　　今に至りて 遺恨 水 潺々(せんせん)たり

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○漁陽烽火…北京市付近で蜂起した安禄山軍の烽火。○函關…函谷関。○玉輦…皇帝の車。○怱怱…慌ただしいさま。○羽衣…霓裳羽衣の曲。楊貴妃が舞を得意とした。○潺潺…浅い水の流れるさま。さらさら。

 

 

★    過金陵　　　　　　　　金(きん)陵(りょう)を過(よ)ぎる　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋　莊

 

江雨霏霏江草齊　　　　江雨 霏々(ひひ)として 江草斉(ひと)し

六朝如夢鳥空啼　　　　六朝(りくちょう) 夢の如く 鳥 空しく啼く

無情最是臺城柳　　　　無情なるは 最も是れ 台城の柳

依舊煙籠十里堤　　　　旧に依(よ)りて 煙は籠む 十里の堤

 

【語釈】

○金陵圖…金陵（南京）の風景画を見て、その印象を詠んだ詩。○江雨…長江に降る雨。○霏霏…雨や雪などが絶え間なく降りしきる様子。○江草…川辺の草。○斉…一面に生はえ揃って茂っている様子。○六朝…建康を都とした六つの王朝。○如夢…夢のように消え去ってしまったこと。○台城…玄武湖のほとりにあった宮城、建康宮。○依旧…昔のままに。昔ながらに。○煙籠…緑のしだれ柳が芽吹いて、春雨にけぶって見える様子。○十里堤 …玄武湖の十里あまりの長い堤。

（参考文献）　　『唐詩三百首』

 

　　　

★    繡嶺宮詞　　　　　　　繡(しゅう)嶺宮(れいきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　洞

 

春草萋萋春水綠　　　　春草 萋々(せいせい)として 春水緑なり

野棠開盡飄香玉　　　　野棠(やとう) 開き尽くして 香玉を飄(ひるがえ)す

繡嶺宮前鶴髮翁　　　　繡(しゅう)嶺(れい)宮前(きゅうぜん) 鶴(かく)髪(はつ)の翁

猶唱開元太平曲　　　　猶お唱う 開元 太平の曲

 

【語釈】

○繡嶺宮…河南省陕県にあった唐の高宗が作った宮殿。○萋萋…草木の盛んに茂るさま。○野棠…野生の海棠。○香玉…野棠の花の形容。○鶴髮…白髪頭。○開元太平曲…玄宗が開元年間にこの地に御幸して作った曲。　

　

★    隋堤柳　　　　　　　　隋堤(ずいてい)の柳　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　江　爲

 

錦纜龍舟萬里來　　　　錦(きん)纜(らん) 竜(りゅう)舟(しゅう) 万里来る

醉郷繁盛忽塵埃　　　　酔郷(すいきょう)の繁盛 忽ち塵埃

空餘兩岸千株柳　　　　空しく余す 両岸 千株の柳

雨葉風花作恨媒　　　　雨葉 風花 恨媒(こんばい)を作(な)す

 

【語釈】

○隋堤…隋の煬帝が作った運河の堤。○錦纜…錦のともづな。○龍舟…龍の飾りのある大船。○醉郷…酔った気分。○恨媒…恨みを発生する元。

 

 

★    過金陵　　　　　　　　金(きん)陵(りょう)を過ぐ　　　　　　　　　　  唐　　包　佶

 

玉樹歌終王氣收　　　　玉樹 歌終りて 王気収まる

鴈行高送石城秋　　　　鴈(がん)行(こう) 高く送る 石城の秋

江山不管興亡事　　　　江山は管せず 興亡の事

一任斜陽伴客愁　　　　一任す 斜陽の 客(かく)愁(しゅう)に伴うに

 

【語釈】

○金陵…南朝の首都、南京。○玉樹…「玉樹後庭花」。南朝の陳の後主が作った詩。亡国の歌曲。○王氣…帝王の居る所に立つ瑞気。○石城…石頭城。南京市清涼山にあった。○江山…川と山。自然。○客愁…旅の愁い。　　

 

★    闔閭城懷古　　　　　　闔閭(こうりょ)城(じょう)懐古(かいこ)　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉　瑤

 

五湖春水接遙天　　　　五湖の春水 遥天(ようてん)に接す

國破君亡不記年　　　　国破れ 君 亡びて 年を記せず

唯有妖娥曾舞處　　　　唯だ 妖娥(ようが)の 曽(かつ)て舞う処有り

古臺寂寞起愁煙　　　　古台 寂寞(せきばく)として 愁煙起る

 

【語釈】

○闔閭城…江蘇省蘇州市の別称。○五湖…太湖のこと。○遙天…遙かな空。○妖娥…なまめかしい美人。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○愁煙…愁いを含んだ煙波。

 

 

★    題巫山神女廟　　　　　巫山(ふざん)の神女の廟に題す　　　　　　  　宋　　呉簡言

 

惆悵巫娥事不平　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 巫娥(ふが) 事 平かならざるを

當時一夢是虛成　　　　当時の一夢 是れ 虚(きょ)成(せい)

只因宋玉閑唇吻　　　　只だ 宋(そう)玉(ぎょく)の 閑唇吻(かんしんぷん)に因(よ)りて

流盡巴江洗不清　　　　巴(は)江(こう)を流尽(りゅうじん)して 洗うも 清からず

 

【語釈】

○巫山…重慶市巫山県と湖北省の境にある名山。長江が山中を貫流して、巫峡を形成する。楚の宋玉の「高唐賦」（『文選』所収）序に、楚の懐王が高唐（楚の雲夢沢にあった台館）に遊んだ際、疲れて昼寝していると、夢の中に「巫山の女」と名乗る女が現れて王の寵愛を受けた、という記述がある。○惆悵…嘆き悲しむ。○巫娥…前記巫山の女。○虛成…空しくなる。○宋玉…「高唐賦」を書いた晉の宋玉。○閑唇吻…閑かな言詞。○巴江…重慶市の巴江。

 

 

★    淮陰廟　　　　　　　　淮(わい)陰(いん)廟(びょう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　黄好謙

 

築壇拜日恩雖厚　　　　壇を築き 日を拝し 恩 厚きと雖(いえど)も

躡足封時慮已深　　　　足を躡(ふ)み 封する時 慮(りょ) 已に深し

隆準早知同鳥喙　　　　隆(りゅう)準(じゅん) 早(つと)に 鳥喙(ちょうかい)に同じきを知らば

將軍應有五湖心　　　　将軍 応に 五湖の心有るべし

 

【語釈】

○淮陰廟…漢の髙祖、劉邦の将軍であった韓信の廟。○築壇拜日…劉邦が韓信を將軍に取り立てたとき、盛大な儀式を行った。○躡足封時…劉邦は張良の勧めにより、地団駄を踏みながら、韓信に大領を与えた。○隆準…漢の髙祖。○鳥喙…越王勾践。苦労を共には出来るが楽を共には出来ないとされた。○将軍…韓信。○五湖心…范蠡が五湖に浮かんで去ったように隠棲すること。

 

 

★    題歌風臺　　　　　　　歌風(かふう)台(だい)に題す　　　　　　　　　　　　　　　宋　　張方平

 

 落魄劉郎作帝歸　　　　落魄(らくはく) 劉郎 帝と作(な)りて帰る

樽前感慨大風詩　　　　樽前 感慨 大風の詩

才如信越猶菹醢　　　　才 信越(しんえつ)の如きも 猶お菹醢(しょかい)

安用思他猛士爲　　　　安(いずく)んぞ用いん 他の猛士を思うことを爲すを　

 

【語釈】

○歌風臺…漢の髙祖が故郷に帰り「大風歌」を歌った台。○落魄…落ちぶれること。○劉郎…劉邦。○信越…韓信と彭越。○菹醢…処刑した後、死者を塩漬けにすること。実際に菹醢されたのは彭越だけであるが、『宋史列伝：梁周翰』に韓信と彭越、両者との記載がある。

 

★    釣臺　　　　　　　　釣(ちょう)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范仲淹

 

漢包六合網英豪　　　　漢 六合(りくごう)を包み 英豪を網にす

一箇冥鴻惜羽毛　　　　一箇の冥(めい)鴻(こう) 羽毛を惜しむ

世祖功臣三十六　　　　世祖の功臣 三十六

雲臺爭似釣臺高　　　　雲台 争(いかで)か似ん 釣(ちょう)台(だい)の高きに

 

【語釈】

○釣臺…嚴子陵釣臺。後漢の光武帝の幼なじみであった嚴光が光武帝の再三の招きを拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところがといわれる台。○漢…後漢の光武帝。○六合…天地四方。○英豪…英雄豪傑。○冥鴻…高く飛ぶ鴻雁。志の高い人。嚴光。○世祖…初代皇帝。光武帝。○三十六…数の多いこと。○雲臺…宮中の高台。光武帝の時に群臣の集まるところ。

 

 

★    雞鳴臺　　　　　　　　雞鳴(けいめい)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　宋　　范　鎮

 

古人惟恃衆心城　　　　古人 惟(た)だ恃す 衆(しゅう)心(しん)城(じょう)

何事秦皇苦好兵　　　　何事ぞ 秦皇 苦(はなは)だ兵を好む

本設函關禁奸詐　　　　本(もと) 函関を設け 奸詐(かんさ)を禁ず

不知半夜有雞鳴　　　　知らず 半夜 雞鳴有るを

 

【語釈】

○雞鳴臺…不祥。函谷関に設けられた物？○衆心城…多くの人が集まれば城のように堅固となること。○秦皇…秦の始皇帝。○函関…函谷関。○奸詐…ごまかし。○半夜有雞鳴…「鶏鳴狗盗」の故事。

 

　

★    嘲范蠡　　　　　　　　范蠡(はんれい)を嘲(あざわら)う　　　　　　　　　　　   　宋　　鄭　獬

 

千重越甲夜城圍　　　　千重の越(えつ)甲(こう) 夜 城 囲む

宴罷君王醉不知　　　　宴 罷(や)んで 君王 酔を知らず

若論破吳功第一　　　　若し 呉を破る功 第一を論ずれば

黄金只合鑄西施　　　　黄金 只だ合(まさ)に 西施を鋳(ちゅう)すべし

 

【語釈】

○范蠡…越王勾踐軍師。○越甲…越の兵士。○君王…越王勾踐。○合…「まさに～すべし」と読み、「～しなければならない」「当然～すべきである」の意。○西施…越から呉に送られ呉王夫差をおぼれさせた絶世の美女。

 

 

★    金陵即事　　　　　　　金陵即事　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

結綺臨春歌舞地　　　　結綺(けつき) 春に臨む 歌舞の地

荒蹊狹巷兩三家　　　　荒蹊(こうけい)　狭(きょう)巷(こう)　両三家

東風漫漫吹桃李　　　　東風 漫々(まんまん)として 桃李を吹く

非復當時仗外花　　　　復(ま)た 当時の 仗外(じょうがい)の花に非(あら)ず

 

【語釈】

○金陵…南京。南北朝時代の六朝の都。○結綺閣…南朝陳の後主が建てた楼閣。○荒蹊…荒れた小道。○狹巷…狭いちまた。○漫漫…広く遙かなさま。○仗外…？

 

 

★    驪山　　　　　　　　　驪山(りざん)     　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

功成惟欲善持盈　　　　功成りて 惟(た)だ善く 盈(えい)を持せんと欲す

可歎前王恃太平　　　　歎(さ)すべし 前王 太平を恃(たの)むを

辛苦驪山山下土　　　　辛苦(しんく)す 驪山(りざん) 山下の土

阿房纔廢又華清　　　　阿房(あぼう) 纔(わずか)に廃すれば 又 華清

 

【語釈】

○驪山…陝西省臨潼県にある山。麓に華清宮があった。○功成…開元の治。○盈…最盛期。○前王…玄宗皇帝。○阿房…阿房宮。秦の始皇帝が建てた大宮殿。○華清…華清宮。玄宗の冬の宮殿。長恨歌で名高い。

 

 

★    驪山　　　　　　　　　驪山(りざん)　　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

海中方士覓三山　　　　海中の方士 三山を覓(もと)む

萬古明知去不還　　　　万古 明かに知る 去りて還らざるを

咫尺秦陵是商鑑　　　　咫尺(しせき)の秦陵は 是れ商(しょう)鑑(かん)

朝元何必苦躋攀　　　　朝元(ちょうげん) 何ぞ必ずしも 苦(ねんごろ)に躋攀(せいはん)せん

 

【語釈】

○驪山…陝西省臨潼県にある山。麓に華清宮があった。○海中方士…徐福。○三山…海上にあると言われる伝説中の三神山。仙人が住み不老長寿の薬があるとされる。○咫尺…極く近く。○商鑑…殷鑑不遠。自分のいましめとなるものは近くにあること。○秦陵…秦始皇帝の陵。○朝元…朝元閣。驪山にあった楼閣で､玄宗皇帝が玄元皇帝（老子）に会って、降聖閣と改めた。○躋攀…登攀。

 

 

★    長安覧古　　　　　　　長安覧古　　　　　　　　　　　　　  宋　　張蕣民

 

黄鵠高飛去不還　　　　黄鵠(こうこく) 高く飛び 去りて還らず

百年世事奕碁間　　　　百年の世事(せじ) 奕(えき)碁(ご)の間

沈香亭畔千株石　　　　沈香亭(じんこうてい)畔(はん) 千株の石

散與人間作假山　　　　与(くみ)して人間(じんかん)に散じて 仮山(かざん)と作(な)る

 

【語釈】

○黄鵠…黄色いおおとり。○世事…世の中の出来事。○奕碁…囲碁。○沈香亭…長安の興慶宮にあった亭。牡丹の名所で知られ、玄宗と楊貴妃が花見を行ったこと、李白がこれを題材に詩を詠い、それを李亀年が歌にしたというエピソードで知られる。○與…一緒になって。

 

 

★    秦人洞　　　　　　　　秦人(しんじん)洞(どう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　潘興嗣

 

秦人當日避風煙　　　　秦人 当日 風煙を避く

自種桑麻老洞天　　　　自(みずか)ら 桑麻を種う 老洞天

綠竹橫溪鷄犬靜　　　　緑竹 渓に横わりて 鶏(けい)犬(けん)静かなり

不知門外漢山川　　　　知らず 門外 漢の山川

 

【語釈】

○秦人洞…桃源洞。湖南省桃源県西南桃源山の下にある。○秦人…秦の時代の人。○風煙…戦乱。○老洞天…仙人世界。桃源郷。

 

 

★    城山　　　　　　　　　城山　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　華　鎮

 

兵家制勝舊多門　　　　兵家 勝を制するに 旧(もと)より 門 多し

贈答雍容亦解紛　　　　贈答 雍(よう)容(よう) 亦(ま)た紛を解く

緩報一雙文錦鯉　　　　緩報(かんぽう)す 一双の 文(ぶん)錦鯉(きんり)

坐歸十萬水犀軍　　　　坐帰す 十万 水犀の軍

 

【語釈】

○城山…浙江省紹興市にある山。呉王闔閭が越に侵攻したとき越王句踐が立てこもった山。○制勝…勝利すること。○舊…昔から。○多門…方法が沢山ある。○贈答…呉王闔閭が鹽米の食事を贈り、越王句踐は鯉を二匹取って、呉王に返礼したこと。○雍容…やわらぎやすらかなさま。○解紛…紛争を解く。○緩報…諸侯の間の交流。○一双…ひとつがい。○文錦鯉…錦鯉。○坐帰…呉の軍が囲みを解いて引き揚げたこと。○水犀軍…犀の皮で覆った水軍。

 

 

★    遊華清留題　　　　　　華清に遊び留題す　　　　　　　　　　　宋　　王　瑜

 

廢宇頹垣不復新　　　　廃宇(はいう) 頹(たい)垣(がい) 復び新(あらた)ならず

朝元輦道盡荆榛　　　　朝元(ちょうげん) 輦(れん)道(どう) 尽く荆榛(けいしん)

惟餘一派溫湯水　　　　惟だ余す 一派の温湯水

長與行人洗路塵　　　　長く 行人(こうじん)の与に 路塵を洗う

 

【語釈】

○華清…華清宮。陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○留題…名所古跡を遊覧してその地のことを詠った詩。○廢宇…廃屋。○頹垣…崩れた垣。○朝元…朝元閣。驪山にあった宮殿。○輦道…皇帝の手押し車の通る道。○荆榛…叢生灌木。荒野の形容。○行人…旅人。

★    題華清宮　　　　　　　華清宮に題す　　　　　　　　　　　　　  宋　　黄　裳

 

東別家山十六程　　　　家山に東別し 十六程

曉來残月到華清　　　　暁来(ぎょうらい) 残月 華清に到る

朝元閣下西風急　　　　朝元(ちょうげん)閣下(かくか) 西風急なり

都入長楊作雨聲　　　　都(すべ)て 長楊に入りて 雨声と作る

 

【語釈】

○華清宮…陝西省臨潼県の驪山の麓にある宮殿、「長恨歌」で名高い。○家山…故郷。○十六駅分の道のり百六十里。○曉來…曉になってから。○朝元閣…驪山にあった宮殿。

 

 

★    驪山　　　　　　　　　驪山(りざん)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　杜　常

 

漁陽烽燧起雲間　　　　漁陽の烽燧 雲間に起る

玉輦蒼黄下此山　　　　玉輦 蒼黄として 此の山を下る

何事君王自神武　　　　何事ぞ 君王 自ら神武あるに

區區南渡鹿頭關　　　　区々(くく)として 南に渡る 鹿頭関(ろくとうかん)

 

【語釈】

○驪山…陝西省臨潼県にある山。麓に華清宮があった。○漁陽烽燧…北京付近から起こった戦乱。安史の乱。○玉輦…皇帝の手押し車。○蒼黄…慌ただしく。○君王…皇帝。○神武…神明のような武徳。○區區…努力するさま。○鹿頭關…四川省德陽市鹿頭山にある関所。

 

★    沿流館中得二絕句　　　沿流(えんりゅう)館中(かんちゅう)二絶句を得たり　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

淮西功業冠吾唐　　　　淮(わい)西(せい)の功業 吾が唐に冠たり

吏部文章日月光　　　　吏部(りぶ)の文章 日月の光

千載斷碑人膾炙　　　　千載の断碑(だんぴ) 人 膾炙(かいしゃ)す

不知世有段文昌　　　　知らず 世に段(だん)文(ぶん)昌(しょう)の有るを

 

【語釈】

○沿流館…不祥。○淮西功業…憲宗が淮南西道の呉元済を滅ぼしたこと。○吏部文章…淮西功業を記した韓愈の文章。○斷碑…韓愈の文を記した碑のかけら。○段文昌…唐び齊州臨淄の人，中書侍郎、同中書門下平章事となる。韓愈の文を改作したとされる。

 

　　　

★    題嚴子陵釣臺　　　　　厳子(げんし)陵(りょう)の釣(ちょう)台(だい)に題す　　　　　　　　　  宋　　陳貫道

 

足加帝腹似癡頑　　　　足 帝(てい)腹(ふく)に加う 痴頑(ちがん)に似たり

詎肯折腰求好官　　　　詎(いずく)んぞ 肯(あえ)て腰を折り 好官を求めんや

明主莫將臣子待　　　　明主 臣子を将(も)って 待すること莫かれ

故人只作友朋看　　　　故人 只だ 友朋の看(かん)を作す

 

【語釈】

○嚴子陵釣臺…後漢の光武帝の幼なじみであった嚴光が光武帝の再三の招奇を拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところがといわれる台。○足加帝腹…嚴光が足を光武帝の腹に乗せて熟睡したこと。○癡頑…愚かでかたくななこと。○折腰…こびへつらうこと。陶淵明の故事。○明主…光武帝。○故人…嚴光。

 

 

★    汴京紀事　　　　　　　汴(べん)京(けい)紀事(きじ)　　　　　　　　　　　　　　   宋　　劉子翬

 

空嗟覆鼎誤前朝　　　　空しく嗟(さ)す 覆(ふく)鼎(てい) 前朝を誤るを

骨折人間駡未銷　　　　骨 折れて 人間 駡(ののしり)　未だ銷(しょう)せず

夜月池臺王傅宅　　　　夜月 池台 王傅(おうでん)の宅

春風楊柳太師橋　　　　春風 楊柳 太師橋

 

【語釈】

○汴京…河南省開封市。○紀事…事実の経過を記すこと。○覆鼎…国を滅ぼすこと。ここでは北宋が金に破れた「靖康の変」。○前朝…前の時代の朝廷。ここでは北宋。○骨折…「捜韻」に「骨朽」とあり。死後長時間が経って。「靖康の変」より時間が経って。○王傅…三公の一つ。○太師橋…不祥。

 

　　　

★    汴京紀事　　　　　　　汴(べん)京(けい)紀事(きじ)　　　　　　　　　　　　　　   宋　　劉子翬

 

萬炬銀花錦繡圍　　　　万炬(ばんこ)の銀花 錦繡(きんしゅう) 囲む

景龍門外軟紅飛　　　　景(けい)竜(りゅう)門外(もんがい) 軟紅 飛ぶ

淒涼但有雲頭月　　　　淒(せい)涼(りょう) 但だ 雲頭の月のみ有りて

曾照當時步輦歸　　　　曽(かつ)て照らす 当時 歩輦の帰るを

 

【語釈】

○汴京…河南省開封市。○紀事…事実の経過を記すこと。○萬炬…数多くの蝋燭。○銀花…蝋燭の灯りのこと。○錦繡…あやにしき。○景竜門…不祥。汴京の城門の一つと思われる。○軟紅…柔らかな花びら。○淒涼…物寂しいさま。○步輦…人が引く車。

 

★    泊釣臺　　　　　　　　　釣(ちょう)台(だい)に泊す　　　　　　　　　　　　　宋　　毛　幵

 

洲渚寒雲薄暮天　　　　洲(しゅう)渚(ちょ)の寒雲 暮天(ぼてん)に薄し

蕭蕭燈火落帆邊　　　　蕭々(しょうしょう)たる灯火 落(らく)帆(はん)の辺

嚴陵灘下孤舟遠　　　　厳(げん)陵灘下(りょうたんか) 孤舟遠く

一夜歸心聽雨眠　　　　一夜 帰心 雨を聴いて眠る

 

【語釈】

○釣臺…嚴子陵釣臺。後漢の光武帝の幼なじみであった嚴光が光武帝の再三の招奇を拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところがといわれる台。○洲渚…中洲。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○落帆…帆を下ろす舟。○嚴陵灘…釣臺のあるところの早瀬。○帰心…故郷に帰りたいと思う心。　

 

 

★    項王廟　　　　　　　項王廟　　　　　　　　　　　　  宋　　許彦國

 

千歳興亡莫浪愁　　　　千歳の興亡 浪愁する莫かれ

漢家功業亦荒丘　　　　漢家の功業 亦(ま)た荒丘

空餘原上虞姬草　　　　空しく余す 原上 虞姫の草

舞盡春風未肯休　　　　舞い尽す 春風 未だ肯えて休(や)まず

 

【語釈】

○項籍…項羽。○浪愁…無駄に愁う。○原上…草原。○虞姬草…虞美人草。

　　　

 

 

★    黄陵廟　　　　　　　　黄陵(こうりょう)廟(びょう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸士規

 

東風吹草綠離離　　　　東風 草を吹き 緑 離々(りり)たり

路入黄陵古廟西　　　　路は入る 黄陵(こうりょう) 古廟の西

帝子不知春又去　　　　帝子は知らず 春 又 去るを

亂山無主鷓鴣啼　　　　乱山 主 無く 鷓鴣(しゃこ)啼く

 

【語釈】

○黄陵廟…舜の二妃、娥皇と女英の廟。湖南省湘陰県の北にある。○東風…春風。○離離…草木が生い茂っているさま。○帝子…娥皇と女英。

 

 

★    虞姬墓　　　　　　　　虞(ぐ)姫(き)の墓　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

劉項家人總可憐　　　　劉(りゅう)項(こう)の家人 総(すべ)て憐われむべし

英雄無策庇嬋娟　　　　英雄 策の嬋娟(せんけん)を 庇(ひ)する無し

戚姬葬處君知否　　　　戚姫(せきき) 葬る処 君知るや否や

不及虞兮有墓田　　　　及ばず 虞兮(ぐけい) 墓田有るに

 

【語釈】

○虞姬…項羽の愛妾虞美人。○劉項…劉邦と項羽。○英雄…劉邦と項羽。○庇…かばう。○嬋娟…美人。○戚姬…劉邦の側室の戚夫人。劉邦の死後、呂后により惨殺された。墓はない。○虞兮…虞美人のこと。｢垓下の歌｣を踏まえる。○墓田…墳墓の地。

 

 

★    雷萬春墓　　　　　　　雷万春墓　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大

 

九隕元身不隕名　　　　九(く)隕(いん)の元身 名を隕(いん)せず

言言千載氣如生　　　　言々(げんげん) 千載 気 生の如し

欲知忠信行蠻貊　　　　忠信 蛮貊(ばんばく)に行くを 知らんと欲す

過墓胡兒下馬行　　　　墓を過ぐ 胡児(こじ) 馬を下りて行く

 

【語釈】

○雷萬春…唐の武将。唐の名将の張巡配下として南霽雲とともに活躍した。○九隕…九死。○元身…美徳の身。○不隕名…名は死なない。○忠信…忠誠信実。○蠻貊…四方の異民族。○胡兒…異民族の人。

 

 

★    宣德樓　　　　　　　　宣徳楼　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大

 

嶢闕叢霄舊玉京　　　　嶢闕(ぎょうけつ) 叢霄(そうしょう) 旧玉京

御牀忽有犬羊鳴　　　　御床 忽ち犬羊の鳴く有り

他年若作清宮使　　　　他年 若し清宮の使を作さば

不挽天河洗不清　　　　天河を挽(ひ)かず洗いて清からず

 

【語釈】

○宣德樓…聖徳を顕す楼。○嶢闕…皇宮の大門。○叢霄…皇帝の居所。○玉京…帝都。○御床…皇帝の坐臥具。○他年…未来のある年。○清宮…清涼な宮室。○天河…銀河。

 

 

　　　

★    藺相如墓　　　　　　　藺相如(りんそうじょ)の墓　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大

 

玉節經行虜障深　　　　玉(ぎょく)節(せつ)の経(けい)行(こう) 虜(りょ)の障(しょう)に深く

馬頭釃酒奠疎林　　　　馬頭 酒を釃(した)しみて 疎林に奠(まつ)る

茲行璧重身如葉　　　　茲(ここ)に行きて 璧(へき)は重く 身は葉の如し

天日應臨慕藺心　　　　天日　応(まさ)に臨むべし 藺(りん)を慕(した)う心に

 

【語釈】

○戦国時代の末期に趙の恵文王の家臣。「完璧」や「刎頸の交わり」の故事で知られる。○玉節…玉で出来た割り符。○經行…旅路。○虜障…金の国の寨。○馬頭…馬の側。○疎林…疎らな林にある藺相如の墓。○璧…自分の任務を藺相如の璧になぞらえた。○天日…皇帝。○藺…藺相如。

 

★    長沙王墓　　　　　　　長沙王の墓　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

英雄轉眼逐東流　　　　英雄 眼を転じて 東流を逐う

百戰工夫土一抔　　　　百戦の工夫 土 一抔

蕎麥茫茫花似雪　　　　蕎麦(きょうばく) 茫々(ぼうぼう)として 花 雪に似たり

牧童吹笛上高丘　　　　牧童 笛を吹いて 高丘に上る

 

【語釈】

○長沙王…三国志時代の呉の孫策。○英雄…孫策。○逐東流…空しく世を去ることの喩え。○蕎麦…そば。○茫茫…広大なさま。ひろびろとしたさま。

 

 

★    楚城　　　　　　　　　楚城　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

江上荒城猿鳥悲　　　　江上の荒城 猿鳥悲し

隔江便是屈原祠　　　　江を隔つるは 便ち是れ 屈原の祠

一千五百年間事　　　　一千五百 年間の事

只有灘聲似舊時　　　　只だ 灘声の 旧時に似たる有るのみ

 

【語釈】

○楚城…春秋時代の楚の都。江西省九江市廬山区。

　　

 

★    慈恩塔　　　　　　　　慈(じ)恩塔(おんとう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

憶在長安爛漫遊　　　　憶う 長安に在りて 爛漫(らんまん)として遊ぶを

大明宮闕與雲浮　　　　大明宮闕(だいめいきゅうけつ) 雲と浮ぶ

今朝偶上慈恩塔　　　　今朝 偶(たまた)ま上る 慈(じ)恩塔(おんとう)

北望茫茫禾黍秋　　　　北望すれば 茫々(ぼうぼう)たり 禾(か)黍(しょ)の秋

 

【語釈】

○慈恩塔…長安にある慈恩寺の大雁塔。○爛漫…はなやかなさま。○大明宮闕…長安城の北にある大明宮の城門。○茫茫…広大なさま。広々としたさま。○禾黍…稲とキビ。

 

 

★    釣臺　　　　　　　　　釣(ちょう)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　戴復古

 

萬事無心一釣竿　　　　万事無心　一釣竿

三公不換此江山　　　　三公も換えず 此の江山

當初誤識劉文叔　　　　当初 誤りて識る 劉文叔(りゅうぶんしゅく)

惹起虚名滿世間　　　　虚名を惹起して 世間に満たしむ

 

【語釈】

○釣臺…嚴子陵釣臺。後漢の光武帝の幼なじみであった嚴光が光武帝の再三の招きを拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところがといわれる台。○釣竿…釣り竿。○三公…最高官である太尉、司徒、司空。○劉文叔…光武帝。

 

 

★    保應廟　　　　　　　　保應廟　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　董太初

 

廟食空山八百年　　　　空山に 廟食(びょうしょく)して 八百年

衣冠猶是李唐前　　　　衣冠 猶お是れ 李(り)唐(とう)の前

抃河十里垂楊柳　　　　抃(べん)河(が) 十里 垂楊柳　

何以松陰數畝田　　　　何を以ってか 松陰 数畝の田

 

【語釈】

○隋の諸王を祀った廟。○廟食…供えられた物を食べる。○李唐…唐王朝。○抃河…隋の煬帝が開削した運河。両岸に柳を植えた。

 

 

★    釣臺　　　　　　　　　釣(ちょう)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　林　洪

 

三聘慇懃起富春　　　　三聘(さんへい) 慇懃(いんぎん) に富(ふ)春(しゅん)に起く

如何一宿便辭君　　　　如何(いかん)んぞ 一宿 便ち君に辞す

早知閑脚無伸處　　　　早(つと)に知るは 閑脚 伸ばす処無きを

只合青山卧白雲　　　　只だ合(まさ)に 青山 白雲に卧すべし

 

【語釈】

○釣臺…嚴子陵釣臺。後漢の光武帝の幼なじみであった嚴光が光武帝の再三の招きを拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところがといわれる台。○三聘…賢人を二度も三度も訪ねて招聘すること。○富春…富春江。浙江省富陽県にある。釣臺のある川。○閑脚無伸處…足を伸ばすところが無くて、光武帝の腹に足を載せたこと。○合…「まさに～すべし」と読み、「～しなければならない。」「当然～すべきである」の意。

 

★    題梅壇　　　　　　　　梅壇に題す　　　　　　　　　　　　　  宋　　呂　防

 

封事悠悠即掛冠　　　　封事(ふうじ) 悠々(ゆうゆう)として 即ち冠を掛(か)く

蒼烟古木鎖空壇　　　　蒼(そう)煙(えん) 古木 空壇を鎖(と)ざす

當時不識蓬萊客　　　　当時 識らず 蓬萊(ほうらい)の客(かく)

祇作南昌一尉看　　　　祇(た)だ 南昌(なんしょう) 一尉の看(かん)を作(な)す

 

【語釈】　　　

○梅壇…漢の梅福（『漢書』巻六十七、梅福伝）を祀った壇。○封事…密封した奏書。○悠悠…無関心なさま。○掛冠…辞職すること。○蓬萊…蓬萊山。東海中にあると言われる三仙山の一つ。○蓬萊客…梅福が仙人になったので、こう呼ばれる。○南昌…江西省南昌市。○尉…県令の下の役職。梅福は、南昌の尉を辞めて仙人になった。

 

 

★    石湖　　　　　　　　　石湖　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　毛　珝

 

一片湖光接薜蘿　　　　一片の湖光 薜蘿(へいら)に接す

功名餘事屬吟多　　　　功名 余事 吟 多きに属(しょく)す

至今魚鳥皆堪敬　　　　今に至りて 魚鳥 皆 敬(うやまう)に堪えたり

曾見烏巾照碧波　　　　曽(かつ)て 見る 烏巾(うきん) 碧波(へきは)を照すを

 

【語釈】

○石湖…江蘇省蘇州市西南にある湖。范成大が晚年此の地に住んで皇帝から｢石湖｣の二字を賜って「石湖居士」と称した。この詩は范成大のことを詠う。○薜蘿…かずら。○烏巾…隠棲者が被る頭巾。

 

★    滄浪亭　　　　　　　滄浪亭(そうろうてい)　　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　毛　珝

 

濯纓人去水空寒　　　　濯纓(たくえい) 人 去りて 水(すい)空(くう)寒し

事屬明時欲問難　　　　事は 明時に属し 問わんと欲すれども難し

日暮客歸園館閉　　　　日暮 客は帰り 園館閉じ

鷺鷥飛上石棋盤　　　　鷺鷥(ろじ) 飛び上ぐ 石棋盤(せききばん)

 

【語釈】

○滄浪亭…江蘇省蘇州市に存在する名園。詩人の蘇舜欽が蘇州に住み着いて改築し、屈源の詩の「滄浪の水」という魚歌から「滄浪亭」と名づけたといわれる。○濯纓…｢漁夫の辞｣「滄浪之水濁兮，可以濯吾足。」による。○人…屈原。○明時…政治が清らかだった時代。○園館…滄浪亭。○鷺鷥…さぎ。○石棋盤…文字を四角で囲んだ石碑。杜甫の物だと言われる。

 

 

★    過杭州故宮　　　　　　杭州の故宮を過ぐ　　　　　　　　　　　宋　　謝　翱

 

紫雲樓閣宴流霞　　　　紫雲(しうん)楼閣(ろうかく) 流(りゅう)霞(か)に宴す

今日凄凉佛子家　　　　今日 凄涼 仏子の家

殘照下山花霧散　　　　残照 山を下り 花霧散じ

萬年枝上挂袈裟　　　　万年枝上 袈裟(けさ)を挂(か)く

 

【語釈】

○杭州…浙江省濒杭州市。○故宮…古い宮殿。○紫雲樓…杭州にあった楼閣。○流霞…たなびく夕焼け雲。○凄涼…物寂しい。○佛子家…仏教寺院。○残照…夕陽が沈んだ後の餘暉。○萬年枝…樹木の名前。

 

★    過杭州故宮　　　　　杭州の故宮を過ぐ　　　　　　　　　　　　  宋　　謝　翱

 

隔江風雨動諸陵　　　　江を隔つる 風雨 諸陵に動く

無主園池草自春　　　　主無き園池 草 自(おのずか)らなり

聞説就中誰最泣　　　　聞説(とくなら)く 中就(なかんず)く 誰か最も泣く

女冠猶有舊宮人　　　　女冠 猶お 旧宮人 有りと

 

【語釈】

○杭州…浙江省濒杭州市。○故宮…古い宮殿。○聞説…言うところによれば。○就中…とりわけ。そのなかでも。○女冠…女道土。

 

 

★    流杯池　　　　　　　　流杯池(りゅうはいち)　 　　　　　　　　　　　　　宋　　徐蘭皋

 

楚王宮闕馬王宮　　　　楚王の宮闕(きゅうけつ) 馬王の宮

惟有樓臺带舊風　　　　惟だ 楼台の旧風を带びる有り

屬玉不知興廢事　　　　属玉(ぞくぎょく)は知らず 興廃の事

雙雙飛入藕花叢　　　　双々(そうそう)として飛び入る 藕(ぐ)花(か)の叢(くさむら)

 

【語釈】

○流杯池…五代十国時代の楚の第五代の王である馬希萼が掘った池。湖南省長沙市（馬希萼が都とした）近くにある。○楚王…馬希萼。○宮闕…宮城の門。○馬王…馬希萼。○屬玉…鴨に似た水鳥。○雙雙…つがいになって。○藕花…蓮の花。

 

 

★    梁臺　　　　　　　　　梁(りょう)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　　　   金　　密　璹

 

汴水悠悠蔡水來　　　　汴(べん)水(すい) 悠々(ゆうゆう) 蔡(さい)水(すい)来(きた)る

秋風古道野花開　　　　秋風 古道 野(や)花(か)開く

行人驚起田間雉　　　　行人 驚き起こす 田間(でんかん)の雉(きじ)

飛上梁王鼓吹臺　　　　飛びて上る 梁(りょう)王(おう)の鼓吹(こすい)台(だい)

 

【語釈】

○梁臺…漢の梁孝王劉武が築いた台。○汴水…汴河。隋の煬帝が開削した運河。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○蔡水…不祥。○行人…旅人。○梁王…漢の梁孝王劉武。○鼓吹臺…管弦を行った台。

 

 

★    馬嵬　　　　　　　　　馬嵬(ばかい) 　　　　　　　　　　　　　　　　  金　　髙有鄰

 

事去君王不奈何　　　　事 去りて 君王 奈何(いかんとも)せず

荒墳三尺馬嵬坡　　　　荒墳 三尺 馬嵬坡(ばかいは)

歸来枉為香囊泣　　　　帰来 枉(ま)げて 香囊(こうのう)の為に泣く

不道生靈淚更多　　　　道(い)わず 生霊(せいれい) 涙 更に多きを

 

【語釈】

○馬嵬…陝西省興平県馬嵬坡。安史の乱で玄宗が蜀に落ち延びる途中、楊貴妃が殺された所。○帰来…帰ってくる。○香囊…香を入れる袋。楊貴妃のこと。○生靈…人民。

 

 

★    滕王閣　　　　　　　　滕王閣(わおうかく)　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　虞　集

 

滕王遺構麗飛甍　　　　滕王の遺構 飛(ひ)甍(ぼう)麗(うる)わし

不見鳴鑾珮玉聲　　　　見ず 鳴鑾(めいらん) 珮(はい)玉(ぎょく)の声

惟有當時簷外月　　　　惟だ 当時 簷外(えんがい)の月のみ有りて

夜深依舊照江城　　　　夜深くして 旧に依(よ)りて 江城を照らす

 

【語釈】

○滕王閣…江西省南昌市東湖区滕王閣街道にある楼閣。岳陽の岳陽楼・武漢の黄鶴楼と並んで、江南の三大名楼とされる。○滕王…李元嬰（唐の高祖李淵の二十二男）。滕王閣を作った。○飛甍…高楼の屋根。○鳴鑾珮玉…高官が腰に付ける鈴と帯び玉。王勃「滕王閣」。

 

 

★    彭城雜詠　　　　　　　彭(ほう)城(じょう)雑(ざつ)詠(えい)　　　　　　　　　　　　　　  元　　薩都剌

 

亞父墳前春草齊　　　　亜父墳(あほふん)前(ぜん) 春草斉(ひと)し

楚王城上夕陽低　　　　楚(そ)王城上(おうじょうじょう) 夕陽低し

黄鶯不解興亡事　　　　黄鶯 解かず 興亡の事

飛過海棠枝上啼　　　　海棠を飛び過ぎ 枝上に啼く

 

【語釈】

○彭城…江蘇省徐州市。一時項羽が本拠とした。○雜詠…いろいろな物事を詠じた詩歌。○亞父…項羽の軍師范増。○楚王…項羽。○興亡…漢楚の興亡。

 

 

★    岳武穆王　　　　　　　岳武穆(がぶぼく)王(おう)　　　　　　　　　　　　　　　  元　　宋　无

 

尅復神州指掌間　　　　神州を尅(か)復(ふく)す 指(し)掌(しょう)の間

永昌陵側詔師還　　　　永(えい)昌(しょう)陵側(りょうそく) 師を詔(しょう)して還る

丹心一片棲霞月　　　　丹(たん)心(しん)一片(いっぺん) 棲(せい)霞(か)の月

猶照中原萬里山　　　　猶お照らす 中原 万里の山

 

【語釈】

○岳武穆…宋の名将岳飛。○神州…中原地方。○指掌間…あっという間。北宋の創始皇帝趙匡陰の墓。河南鞏義市にある。○詔師還…皇帝の撤退命令により、やむなく軍を引き上げた。○丹心一片…いつわりの無い真心。岳飛の入れ墨。

 

 

★金陵懷古　　　　　　　金(きん)陵(りょう)懐古(かいこ)　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　宋　无

 

宮磚賣盡雨崩牆　　　　宮磚(きゅうせん) 売り尽して 雨 牆(かき)を崩す

苜蓿秋紅滿夕陽　　　　苜蓿(ぼくしゅく) 秋 紅にして 夕陽満つ

玉樹後庭花不見　　　　玉樹後庭 花見えず

北人租地種茴香　　　　北人 地に租(そ)して 茴(かい)香(こう)を種う

 

【語釈】

○金陵…南朝の首都、南京。○宮磚…宮殿の瓦。○苜蓿…クローバ。○玉樹後庭…「玉樹後庭花」。南朝の陳の後主が作った詩。亡国の歌曲。○北人…北方民族。○茴香…多年草の一種。薬用となる。

 

 

★    博浪沙　　　　　　　　博浪沙(はくろうさ)　　　　　　　　　　　　　　　　　 元　　陳　孚

 

一擊車中膽氣豪　　　　一撃 車中 胆気豪なり

祖龍社稷已驚摇　　　　祖(そ)竜(りゅう)の社稷(しゃしょく) 已に驚き摇ぐ

如何十二金人外　　　　如何(いかん)んぞ 十二金人の外(ほか)

猶有民間鐵未銷　　　　猶お 民間 鉄の未だ銷(しょう)ざる有らん

 

【語釈】

○博浪沙…張良が劉邦に使える前、秦の始皇帝を暗殺使用とした場所。○一擊車中…張良が力士に秦の始皇帝の車に向けて鉄堆を投げさせたこと。○祖龍…秦の始皇帝。○社稷…国家。秦始皇帝が天下を統一した後、天下の兵器尾を集めて十二個の銅人を作らせたことを指す。

 

 

★    漂母塚　　　　　　　　漂母(ひょうぼ)塚(づか) 　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　陳　孚

 

英雄未遇亦堪羞　　　　英雄 未だ遇わず 亦た 羞ずるに堪えたり

一飯區區不自謀　　　　一飯 区々 自(みずか)ら謀(はか)る

莫笑千金酬漂母　　　　笑う莫かれ 千金 漂母に酬いるを

漢家更有頡羮侯　　　　漢家 更に 頡羮侯(かんかつこう)有り

 

【語釈】

○漂母…水中でわたを打つのを業としていた老婆が、不遇な時の韓信が食にも困っているのを見て、食事を与えた。韓信がこれを喜び「漂母」と呼んだという「史記‐淮陰侯伝」の故事から)。○英雄…韓信。○區區…わずかなこと。○千金酬漂母…韓信が楚王になったときに、漂母に千金を与えたこと。○頡羮侯…劉邦がつらく当たっていた兄嫁の子に与えた侯爵の名前。

 

 

★    古宿遷　　　　　　　　古宿遷(こしゅくせん)　　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　陳　孚

 

月落狐鳴野草黄　　　　月落ち 狐 鳴いて 野草黄なり

雁飛無數水茫茫　　　　雁 飛ぶこと無数 水茫々(ぼうぼう)

數星鬼火寒沙上　　　　数星の鬼火(きか) 寒沙(かんさ)の上

知是何年舊戰場　　　　知る是れ 何年 旧戦場

 

【語釈】

○宿遷…江蘇省宿遷市。○茫茫…広大なさま。

 

 

★    經杜樊川水榭故基　　　杜樊(とはん)川(せん)の水榭(すいしゃ)の故基を経(ふ)　　　　　元　　周　砥

 

 落花風裏酒旗搖　　　 落花風裏 酒旗揺らぐ

水榭無人春寂寥　　　　水榭(すいしゃ) 人無く 春 寂寥

何許長亭七十五　　　　何許(いずこ) 長亭 七十五

野鶯煙樹綠迢迢　　　　野鶯 煙樹 緑 迢々(ちょうちょう)

 

【語釈】

○杜樊川…杜牧。○水榭…水に望むうてな。○酒旗…酒屋の目印の青い旗。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○転句…杜牧の「題齊安城樓」に「不用憑闌苦回首，故鄉七十五長亭。」とある。長亭は十里毎に設けられた宿場。○迢迢…遙かなさま。遠いさま。

 

 

★    煙霞洞　　　　　　　　煙霞(えんか)洞(どう)　　　　　　　　　　　　　　　 宋　　丘處機

 

白石磷磷繞洞泉　　　　白石 磷々(りんりん) 洞泉を繞(めぐ)る

蒼松鬱鬱鎖寒煙　　　　蒼松 鬱々(うつうつ) 寒煙を鎖(とざ)ず

碧桃花發朱櫻秀　　　　碧桃 花 発(ひら)きて　朱桜秀(ひい)ず

別是人間一洞天　　　　別に是れ 人間(じんかん) 一洞天

 

【語釈】

○煙霞洞…浙江省杭州市烟霞洞。○磷磷…玉石の輝くさま。○洞泉…洞から流出する泉水。○鬱鬱…樹木のこんもりと生い茂っているさま。○寒煙…冷たい霞。○洞天…道教の神仙の居処，洞中にある別天地。

 

 

 

★    滕王閣　　　　　　　　滕王閣 　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　釋晦機

 

檻外長江去不迴　　　　檻外の長江 去りて迴らず

檻前楊柳後人栽　　　　檻前の楊柳 後人栽ゆ

當時唯有西山在　　　　当時 唯だ 西山の在る有るのみ

曾見滕王歌舞來　　　　曽(かつ)て 滕王 歌舞を見て来(きた)る

 

【語釈】

○滕王閣…江西省南昌市東湖区滕王閣街道にある楼閣。岳陽の岳陽楼・武漢の黄鶴楼と並んで、江南の三大名楼とされる。○承句…王勃の「滕王閣」に「檻外長江空自流」とある。転句…王勃の「滕王閣」に「珠簾暮捲西山雨」とある。○結句…王勃の「滕王閣」に「珮玉鳴鸞罷歌舞」とある。

 

 

★    過蘇州　　　　　　　蘇州(そしゅう)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　基

 

姑蘇臺上垂楊柳　　　　姑蘇(こそ)台上(だいじょう) 垂(すい)楊(よう)柳(りゅう)

曾為張王護禁城　　　　曽(かつ)て 張王の為に 禁城を護る

今日淡烟芳草裏　　　　今日 淡烟(たんえん) 芳草の裏

暮蟬猶作管絃聲　　　　暮蟬(ぼせん) 猶お管絃の声を作(な)す

 

【語釈】

○蘇州…江蘇省蘇州市。○姑蘇臺…春秋時代の呉王夫差が姑蘇山（江蘇省呉県の西南）上に築いた台の名。○張王…不祥。○禁城…宮城。○淡烟…薄いもや。

 

 

★    詠爛柯山　　　　　　　爛柯山(らんかさん)を詠ず　　　　　　　　　　　　　  明　　張以寧

 

人說仙家日月遲　　　　人は説く 仙家 日月遅しと

仙家日月轉堪悲　　　　仙家の日月 転(うた)た 悲しむに堪えたり

誰將百歳人間事　　　　誰か 百歳の人間(じんかん)の事を将(も)って

只換山中一局碁　　　　只だ 山中一局の碁に換えんや

 

【語釈】

○爛柯山…諸説あるが、浙江省衢州市柯城区が有力。『述異記』などにある伝説「爛柯」（晋の時代に信安郡の石室山へ王質という木こりが分け入ったところ、数人の童子が歌いながら碁を打っていた。王質は童子にもらった棗の種のようなものを口に入れてそれを見物していたが、童子に言われて気がつくと斧の柄（柯）がぼろぼろに爛れていた。山から里に帰ると、知っている人は誰一人いなくなっていた）による。○仙家…仙人の住む世界。

 

　　　

★    蘇公赤壁　　　　　　　蘇公(そこう)赤壁(せきへき)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　張以寧

 

赤壁江寒葉漸稀　　　　赤壁 江 寒くして 葉 漸(ようや)く稀なり

黄泥陂静鷺斜飛　　　　黄泥陂(こうでいは) 静かにして 鷺 斜めに飛ぶ　　　

洞簫聲裏當時月　　　　洞簫声(どうしょう)裏(うら) 当時の月

應照千年化鶴歸　　　　応に照らすべし 千年 鶴に化して帰るを

 

【語釈】

○蘇公赤壁…東坡赤壁（文赤壁）中国湖北省黄岡市の長江沿岸にある岩。蘇軾が「赤壁の賦」を作ったところ。○漸…だんだんと。○黄泥陂…黄泥坂。湖北省黃岡市內の地名。後赤壁の賦に「二客予に従いて黄泥の坂を過ぐる。」とある。○洞簫…縦笛。赤壁の賦に「客に洞簫を吹く者有り」とある。○結句…後赤壁の賦において、東から飛んできた鶴が道士の化身で在り、その鶴が今、帰ってきたが、月がそれを照らすべきであるという意。

 

★    夜宿姑蘇　　　　　　　夜 姑蘇(こそ)に宿す　　　　　　　　　　　　明　　張　煌

 

館娃宮外繋蘭橈　　　　館娃宮外(かんあきゅうがい) 蘭橈(らんぎょう)を繋ぐ

何處鐘聲月上潮　　　　何れの処の鐘声か 月 潮(うしお)を上ぐ

露落臺空春樹暗　　　　露 落ち 台 空しくして 春樹暗し

隔江漁火照楓橋　　　　江を隔つる 漁火 楓橋を照らす

 

【語釈】

○姑蘇…江蘇省蘇州市。○館娃宮…春秋時代、呉王夫差が硯石山上に築き、西施を住まわせた宮殿。○楓橋…江蘇省蘇州市の西郊にある橋。張継の「楓橋夜泊」で有名。

 

 

★    黄陵廟　　　　　　　　黄陵(こうりょう)廟(びょう)　　　　　　　　　　　　　　　   明　　王　偁

 

芳洲烟草碧萋萋　　　　芳(ほう)洲(しゅう)の烟草 碧 萋々(せいせい)

古廟雲深落日低　　　　古廟 雲深く 落日低し

剥盡殘碑無可問　　　　剥(は)ぎ尽す 残(ざん)碑(ぴ) 問う可き無し

春山惟有鷓鴣啼　　　　春山 惟だ 鷓鴣(しゃこ)の啼く有るのみ

 

【語釈】

○黄陵廟…舜の二妃、娥皇と女英の廟。湖南省湘陰県の北にある。○芳洲…香しい草の朝いている洲。○烟草…煙霧のように茂っている草。○萋萋…草木が生い茂っているさま。○殘碑…損なわれた碑。

 

 

★    宿鄂渚                鄂(がく)渚(ちょ)に宿す　　　　　　　　　　　　　   明　　王　偁

 

襧衡洲古白雲低　　　　襧衡(ちこう)洲(しゅう) 古くして 白雲低し

庾亮樓空緑樹齊　　　　庾(ゆ)亮楼(りょうろう) 空しくして 緑樹斉し

惟見晚空漁艇火　　　　惟だ見る 晩空 漁艇の火

隨風遠過漢陽西　　　　風に随って 遠く過ぐ 漢陽の西

 

【語釈】

○鄂渚…湖北省武漢市武昌区の長江中にある中洲。○襧衡洲…鸚鵡州。三国志の人物、襧衡が黄祖に殺され埋葬されたところ。○庾亮樓…湖北省鄂州市鄂城区にある楼。東晋の政治家庾亮が作った。○漢陽…湖北省武漢市漢陽区。

 

 

★    古戰場　　　　　　　　古戰場　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　勃

 

衰草殘雲古戰場　　　　衰(すい)草(そう) 殘雲 古戰場

腥風吹血濺衣裳　　　　風 腥(なまぐさ)く 血吹き　衣裳に濺(そそ)ぐ

塵沙一望三千里　　　　塵沙 一望 三千里

惟見馬頭斜日黃　　　　惟だ見る 馬頭 斜日 黃なるを

 

【語釈】

○古戰場…湖北省鹹寧市古戰場。○塵沙…塵埃と砂土。○馬頭…前方。

 

 

★    蘭亭懐古         蘭亭(らんてい)懐古(かいこ)                                 明　　王　恭

 

祓禊亭中日漸低    祓(ふつ)禊亭中(けいていちゅう) 日 漸(ようや)く低し   

昔人行處草萋萋    昔人(せきじん) 行く処 草 萋々(せいせい)たり

多情最是山隂鳥    多情なるは 最も是れ 山隂の鳥

啼向春風滿會稽    啼いて 春風に向い 会稽に満つ

 

【語釈】

○蘭亭…浙江省紹興市西南の蘭渚山上にある亭。王羲之が上巳の節句に曲水の宴を開き、「蘭亭の序」を書いたことで有名。○漸…段々と。○萋萋…草木が盛んに生い茂っているさま。○山隂…山の北側。○會稽…浙江省紹興市東南にある山。

 

 

★    四知臺　　　　　　　　四(し)知(ち)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　薛　瑄

 

 人間無處不天公　　　 人間 処として 天公ならざるは無く

却笑黄金餽夜中　　　　却って笑う 黄金 夜中に餽(おく)るを

千載四知臺下過　　　　千載 四知台下を過ぐ

馬頭猶自起清風　　　　馬頭 猶(いま)自(だ) 清風起る

 

【語釈】

○四知臺…楊震の四知台。河北省定州市にあった。四知とは「天知り、地知り、我知り、子（相手）知る」という揚震の言葉（後漢書。・楊震伝）。○天公…天帝。○黄金餽夜中…楊震が、賄の黄金を（誰も知らない）夜中に贈られようとしたこと。○千載…千年の後。○馬頭…前方。○猶自…いまだ。

 

 

★    渡湘潭　　　　　　　　湘潭(しょうたん)を渡る　　　　　　　　　　　　　   明　　林　烓

 

瀟湘日夜向東流　　　　瀟湘(しょうしょう) 日夜 東に向って流る

萬里西行獨未休　　　　万里 西行し 独り 未だ休(や)まず

擬吊汨羅何處是　　　　汨(べき)羅(ら) 吊(とむら)んと擬(ぎ)せども 何(いずれ)れの処か是れなる

江籬滿目不勝愁　　　　江籬(こうり) 満目 愁(うれい)に勝えず

 

【語釈】

○湘潭…湖南省衡陽市衡東県の淵。○瀟湘…瀟水と湘水の合流した下流。○汨羅…湘江の一支流汨羅江の下流域にあり、戦国時代、楚の忠臣で詩人として有名な屈原(が、国を憂い)身を投げた所として知られる。○江籬…川に沿ったまがき。○満目…見渡す限り。

 

 

★　愚閶門柳枝詞　　　閶(しょう)門(もん)柳(りゅう)枝(し)詞(し)　　　　　　　　　　　　　 明　　蘇　平

 

此地呉王舊市朝　　　　此の地 呉王の旧市朝

空遺衰柳日蕭蕭　　　　空しく 衰柳を遺(のこ)して 日 蕭々(しょうしょう)

行人不用頻迴首　　　　行人 用いず 頻りに首(こうべ)を迴(めぐ)らすを

煬帝宮前更寂寥　　　　煬帝の宮前 更に寂寥

 

【語釈】

○瀋愚…江蘇省蘇州市昆山の人。景泰十才子の一人。○閶門…江蘇省蘇州市の西の城門。○柳枝詞…楊柳詩詞(楽府題)。○吴王…夫差。○市朝…市場と朝廷。○蕭蕭…物寂しいさま。○行人…旅人。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。

　　　

 

★　習池　　　　　　　　　習池　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

習家池上草萋萋　　　　習家の池上 草 萋々(せいせい)

流水成渠稻作畦　　　　流水 渠を成す 稲作の畦

山簡不来遊客散　　　　山簡 来らず 遊(ゆう)客(かく)散じ

居人猶唱白銅鞮　　　　居人 猶お唱う 白銅鞮

 

【語釈】

○習池…一名高陽池 。湖北省襄陽市峴山の南にある。東晋の頃、習郁の末裔の習鑿歯が池を望み書物を読み、あずまやで史書を記し、「漢晋春秋」という名作を残した。○萋萋…草木が盛んに生い茂っているさま。○山簡…晋鎮南将軍の山簡、衆池で酒に溺れていた（晋書・山簡伝）。○白銅鞮…南朝の梁の歌謠名。

 

 

★    峴山　　　　　　　　　峴山(けんざん)　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

大樹蕭蕭白日寒　　　　大樹 蕭々(しょうしょう)として 白日寒し

羊公祠下獨凭欄　　　　羊(よう)公(こう)祠下(しか) 独り欄に凭(よ)る

尋常一種青山石　　　　尋常 一種 青山の石

長使行人洒涙看　　　　長(とこし)えに 行人をして 涙を洒(そそ)ぎ看さしむ

 

【語釈】

○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。○峴山…湖北襄陽県にある山。峴首山ともいう。○羊公…羊祜。三国時代から西晋にかけての武将。襄陽に赴任中、羊祜は好んで峴山に登り、酒を飲みながら、時が経つのも忘れて景色を眺めていたという。○行人…旅人。

 

 

★    越王臺　　　　　　　　越(えつ)王(おう)台(だい)　　　　　　　　　　　　　　　　　 明　　林　真

 

屠龍人去幾時歸　　　　屠(と)竜(りゅう) 人去りて 幾時(いくとき)にか帰る

空有髙臺對夕暉　　　　空しく 高台に有りて 夕暉(せきき)に対す

回首舊時歌舞地　　　　首(こうべ)を回(めぐ)らせば 旧時 歌舞の地

年年春草鷓鴣飛　　　　年々の春草 鷓鴣(しゃこ) 飛ぶ

 

【語釈】

○越王臺…広東省広州市越秀山上にある台。○西漢の時に南越王の趙佗が築いたとされる。○屠龍…西漢の南越王屠龍。○夕暉…夕焼け。

 

 

★    望夫石　　　　　　　　望夫(ぼうふ)石(せき)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　呉國倫

 

月冩雙蛾霧結衣　　　　月は 双蛾(そうが)を写し 霧は衣に結ぶ

望夫山上望夫歸　　　　望夫(ぼうふ)山上(さんじょう) 夫の帰るを望む

朝雲歳歳含愁散        朝雲 歳々 愁いを含んで散ず

暮雨年年作涙揮　　　　暮雨 年々 涙と作(な)って揮(ふる)う

 

【語釈】

○望夫石…湖北省武昌の北山にある。 妻が出征する夫を見送り、そのまま化したものと伝える石。中国では、「神異経」などに見える伝説にもとづく。○雙蛾…美人の二つの眉、転じて美人。○望夫山…妻が出征する夫を見送り、そのまま化したものと伝える望夫石のある湖北省武昌の北山。

 

 

★    隋宮　　　　　　　　　隋宮　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　陳　烓

 

錦帆不返廣陵舟　　　　錦(きん)帆(ぱん) 返らず 広陵(こうりょう)の舟

一代繁華逐水流　　　　一代の繁華 水を逐(お)いて流る

堤柳欲収宮女涙　　　　堤柳 収めんと欲す 宮女の涙

景陽鐘斷雁聲秋　　　　景(けい)陽(よう)の鐘 断え 雁声秋なり

 

【語釈】

○隋宮…隋の煬帝が揚州に築いた行宮。○錦帆…錦の帆の豪華船。○広陵…江蘇省揚州市。○一代繁華…隋の煬帝の栄華。○景陽鐘…六朝時代斉の時、景陽楼（南京の北、玄武湖畔にあった陳の宮殿） にあった夜明けを告げる鐘。

 

　　　

 

★    懿文陵　　　　　　　　懿(い)文(ぶん)陵(りょう)　　　　　　　　　　　　　　   明　　榭　榛

 

秋盡郊原落木紛　　　　秋 尽きて 郊(こう)原(げん) 落木 紛たり

空山日暮鎖愁雲　　　　空山 日暮れて 愁雲を鎖ざす

一従幽薊龍飛後　　　　一たび 幽(ゆう)薊(けい) 竜の飛ぶに従いて後

陵寝何人謁懿文　　　　陵(りょう)寝(しん) 何人か 懿(い)文(ぶん)に謁せん

 

【語釈】

○懿文…明の太祖洪武帝の長男の朱標。早逝し、光武帝はその死を深く悲しんで懿文太子の諡号を贈った。実子の建文帝が即位する孝康皇帝と諡された。○郊原…郊外の野原。○空山…人気の無い山。○幽薊…幽州と薊州。○龍飛後…洪武帝の四男、永楽帝は通州・薊州に出撃して領土としたが、兄である懿文の皇帝の諡号を太子に追降した。その後。○結句…帝王陵墓の墓守を訪ねても、誰もが懿文を拝謁することを拒否された。

 

★    經下邳　　　　　　　　下邳(かひ)を経(ふ)　　　　　　　　　　　　　　  明　　袁宏道

 

諸儒坑盡一身餘　　　　諸儒(しょじゅ) 坑(こう)し尽して 一身を余す

始覺秦家網目疏　　　　始めて覚ゆ 秦家 網目の疏なるを

枉把六經灰火底　　　　枉(ま)げて六(りく)経(けい)を把り 火底に灰にするも

橋邊猶有未燒書　　　　橋辺 猶お有り 未だ焼かざる書

 

【語釈】

○下邳…秦始皇帝暗殺に失敗した張良が隠れていて、黄石公から太公の兵法を受けたところ。○坑…穴埋めにする。○一身…張良。○六經…儒教で貴ぶ六種の経典。すなわち「易経」「書経」「詩経」「春秋」「周礼」。○橋辺…圯橋のほとり。○未燒書…太公の兵法書。○未燒書…張良が貰った兵法書。

 

 

★    樂遊原　　　　　　　　楽遊(らくゆう)原(げん)　　　　　　　　　　　　　　　   明　　徐　焰

 

荒原渺渺樹層層　　　　荒原 渺々(びょうびょう) 樹 層々(そうそう)

立馬斜陽問廢興　　　　馬を 斜陽に立てて 廃興を問う

何處銷沈多感慨　　　　何れの処か 銷沈(しょうちん) 感慨多き

秦時遺殿漢諸陵　　　　秦時の遺殿 漢の諸陵

 

【語釈】

○樂遊原…長安東部にあった行楽の地。○渺渺…広々として果てしないさま。○層層…重なり合っているさま。○銷沈…気が沈む。

 

★    潯陽夜泊　　　　　　　潯(じん)陽(よう)夜(や)泊(はく)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　方　丈

 

微微秋月照江沙　　　　微々(びび)たる 秋月 江沙を照らす

兩岸楓林蘆萩花　　　　両岸の楓林 蘆(ろ)萩(てき)の花

若憶當年白司馬　　　　若(ねんごろ)に 当年の白司馬を憶えば

不知何處聴琵琶　　　　知らず 何れの処か 琵琶を聴かん

 

【語釈】

○潯陽…潯陽江、江西省北部の九江付近を流れる長江の異称。白居易の「琵琶行」に「潯陽江頭夜送客」とある。○微微…かすかなさま。○江沙…長江の砂浜。○蘆萩…あしとおぎ。○白司馬…白居易。江州司馬に左遷されていた。

 

 

★    疑冢　　　　　　　　　疑冢(ぎちょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  明    黄德水

 

英雄事去藐難徵　　　　英雄 事 去りて 藐(ばく)として徵(ちょう)し難し

疑冢累累半已崩　　　　疑冢(ぎちょう) 累々(るいるい) 半ば已に崩る

試問当時銅雀妓　　　　試問(しもん)す 当時 銅(どう)雀(じゃく)の妓

定将若箇当西陵　　　　定めて 若箇(じゃっか)を将って西陵に当らん

 

【語釈】

○疑冢…発掘されることを恐れて周りに多く作った偽塚。ここでは魏の曹操の墓の疑冢。○英雄…曹操。○累累…続き連なっているさま。○銅雀妓…曹操が築いた銅雀台の歌妓。曹操は息子たちに対し、月の一日と十五日には、銅雀台に登って西陵を望みながら宮女たちに歌舞を演じさせるようにと言ったという。○若箇…少人数。○西陵…曹操の墓。

 

 

★    廣陵懐古　　　　　　　広陵(こうりょう)懐古(かいこ)　　　　　　　　　　　　　　　　明　　趙徳剛

 

白石黄流湖上堤　　　　白石 黄流 湖上の堤

堤邊楊柳有鶯啼　　　　堤辺の楊柳 鶯の啼く有り

琵琶月伎今何處　　　　琵琶の月伎 今 何れの処ぞ

二十四橋烟雨低　　　　二十四橋 煙雨低し

 

【語釈】

○廣陵…江蘇省揚州市。○琵琶月伎…白居易｢琵琶行｣の妓女。○二十四橋…揚州にあった二十四の石橋。○煙雨…霧雨。

 

 

★    隋隄柳　　　　　　　　隋隄(ずいてい)の柳　　　　　　　　　　　　　　  明　　任　彪

 

剪綵池邊楊柳條　　　　剪綵(せんさい)池辺(ちへん) 楊柳の条

垂金拂翠逞春嬌　　　　金を垂れ 翠(みどり)を払い 春嬌(しゅんきょう)を逞(てい)す

不知亡國多遺恨　　　　知らず 亡国 遺恨多きを

猶自風前舞細腰　　　　猶(いま)自(だ) 風前 細腰を舞わす

 

【語釈】

○剪綵池…隋河のことをいうか？○隋隄…隋の煬帝が作った運河の隄。柳を植えた。○春嬌…女子の妖艶な姿の形容。○細腰…ここでは細い柳の枝。

 

 

★    過越王墓            越王の墓を過ぐ     　　　　　　　　　  明　　陳　椿

 

越王墳前日欲西　　　　越王墳(えつおうふん)前(ぜん) 日 西せんと欲す

斷碑殘碣隠荒渓　　　　断碑(だんぴ) 残碣(ざんかつ) 荒渓に隠る

可憐松柏摧薪後　　　　憐れむべし 松柏 摧(さい)薪(しん)の後

一逕寒烟鳥自啼　　　　一径の寒煙 鳥 自(おのずか)ら啼くを

 

【語釈】

○越王…春秋時代の越王勾踐。○斷碑…砕かれた残碑。○殘碣…損なわれたいしぶみ。○可憐…感嘆の言葉。ああ。○摧薪…砕かれて薪となる。○一径…一筋。○寒烟…寒々とした煙霧。

 

　　　

★    過彭澤縣　　　　　　　彭沢県(ほうたくけん)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　  明　　夏　寅

 

古樓寂寂枕江聲　　　　古楼 寂々(せきせき) 江声に枕(まくら)す

五里荒山二里城　　　　五里の荒山 二里の城

彭澤到今更幾令　　　　彭沢(ほうたく) 今に到るまで 幾令(いくれい)を更(あらた)む

縣人開口説淵明　　　　県人 口を開いて 淵(えん)明(めい)を説く

 

【語釈】

○彭澤縣…中國江西省北部にある県。陶淵明が県令であった。○幾令…多くの県令。○淵明…陶淵明。

 

 

 

★    金陵舊院　　　　　　　金陵の旧院　　　　　　　　　　　　　   明　　蔣　超

 

錦繍歌殘翠黛塵　　　　錦繍(きんしゅう) 歌は残る 翠(すい)黛(たい)の塵

樓臺已盡曲池湮　　　　楼台 已に尽き 曲池に湮(しず)む

荒園一種瓢兒菜　　　　荒園 一種 瓢児(ひょうじ)の菜(さい)

獨占秦淮舊日春　　　　独り占む 秦淮(しんわい) 旧日の春

 

【語釈】

○金陵…南京。南北朝時代の南朝の都。○錦繍…錦の刺繍をした衣服。○翠黛…まゆ墨。○蔬菜…蔬菜の一種。○秦淮…南京市内を通る河の名、その両岸は歓楽街であった。

 

　　　

★    銕笛亭　　　　　　　　銕(てっ)笛亭(てきてい)　　　　　　　　　　　　　　　 明　　施潤章

 

渓光漠漠樹冥冥　　　　渓光 漠々(ばくばく) 樹 冥々(めいめい)

勝事猶傳石上亭　　　　勝事(しょうじ) 猶お伝う 石上の亭

樵唱數聲人静後　　　　樵(しょう)唱(しょう) 数声 人 静なる後

松風吹出片雲青　　　　松風 吹き出す 片雲青し

 

【語釈】

○銕笛亭…不祥。○渓光…渓流の水の色。○漠漠…ぼおーとして薄暗いさま。○冥冥…暗くかすかなさま。○勝事…よいこと。○樵唱…樵の歌。

 

 

★    題昭烈孫夫人祠　　　　昭烈孫(しょうれつそん)夫人(ふじん)の祠(し)に題す　　　　　　　　　　  清　　王士禛

 

霸氣江東久寂寥　　　　覇気 江東 久しく 寂寥(せきりょう)

永安宮殿草蕭蕭　　　　永安宮殿(あんえいきゅうでん) 草 蕭々(しょうしょう)

都將家國無窮恨　　　　都(すべ)て 家国 無窮の恨みを将って

分付潯陽上下潮　　　　分付す 潯(じん)陽(よう) 上下の潮に

 

【語釈】

○昭烈孫夫人…三国志時代の劉備の妻で孫権の妹。廟は安徽省蕪湖の西江中にある。○江東…長江下流の南岸地方。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○永安宮…三国志の劉備が四川省奉節県に建てた宮殿名。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○分付…分け与える。○潯陽…潯陽江。長江の江西省九江市のあたりの名前。

 

 

★    楊妃墓　　　　　　　　楊(よう)妃(ひ)の墓　　　　　　　　　　　　　  清　　王士禛

 

巴山夜雨卻歸秦　　　　巴山(はざん)の夜雨 却って 秦に帰る

金粟堆邉草不春　　　　金粟の堆辺 草 春ならず

一種傾城好顔色　　　　一種の傾城 好顔色

茂陵終傍李夫人　　　　茂(も)陵(りょう) 終に 李夫人に傍う

 

【語釈】

○楊妃…楊貴妃。墓は馬嵬坡（陝西省興平県）にある。○巴山…四川省の北・陝西省の南・湖北省の西の境界に位置する山脈。○秦…長安。○金粟…陝西省蒲城東北の金粟山 にある玄宗の陵墓。○傾城…傾国の美女。○茂陵…漢の武帝の陵墓。陝西省興平県東北にある。○李夫人…漢の李延年の妹武帝に寵愛されたが早世した。墓は茂陵の近くにある。

 

 

★    馬嵬懐古　　　　　　　馬嵬(ばかい)懐古(かいこ)　　　　　　　　　　　　　　清　　王士禛     

 

何處長生殿裏秋　　　　何れの処か 長生(ちょうせい)殿(でん)裏(り)の秋

無情清渭日東流　　　　無情の清渭(せいい) 日に東に流る

香魂不及黄旛綽　　　　香魂 及ばず 黄旛綽(こうはんしゃく)

猶占驪山土一丘　　　　猶お占む 驪山(りざん) 土一丘

 

【語釈】

○馬嵬…馬嵬陂。楊貴妃が殺された所。陝西省興平県。○長生殿…唐代宮中の神殿。玄宗と楊貴妃が永遠の愛を誓ったとされる(長恨歌)。○清渭…清らかな渭水。○香魂…美人の魂。○黄旛綽…玄宗に使えた芸人。○驪山…長安の東にある山で麓に華清宮がある。

 

 

★    謁文忠烈公祠　　　　　文(ぶん)忠烈(ちゅうれつ)公(こう)の祠(し)に謁す　　　　　　　　　　　清　王士禛

 

精神如破貝州時　　　　精神 貝州(はいしゅう)を破る時の如く

晚節猶能動四夷　　　　晩節 猶お能(よ)く 四夷を動かす

天遣不同韓富没　　　　天 韓富と同(とも)に没っし遣(し)めず

姓名留冠黨人碑　　　　姓名 留(りゅう)冠(かん)たり 党人(とうじん)碑(ひ)　

 

【語釈】

○文忠烈公…文彦博。北宋の宰相、司馬光と並ぶ旧法派の代表者の一人。清代には「よく中正を守り傾険がなかった。」と評価された。○貝州…河北省邢台市清河県。王則の乱が起こり、文彦博が鎮圧した。○四夷…四方の異民族。○留冠…最上部に留まる。○韓富…韓琦と富弼。共に旧法派の代表的人物○黨人碑…新法派の蔡京が旧法派三百九人を「姦党」として名前を刻んだ「元祐黨籍碑」。南宋では名誉ある人物達とされた。

 

★    黃樑夢盧生祠　　　　　黄樑(こうりょう)の夢の盧生(ろせい)の祠(し)　　　　　　　　　　　清　　屈　復     

 

夢作公侯醒作仙　　　　夢に公侯と作(な)り 醒むれば仙と作(な)る

人間願欲那能全　　　　人間(じんかん)の願 欲して 那(な)んぞ能(よ)く全き

從知秦漢真天子　　　　従(よ)りて知る 秦漢の真天子

不及盧生一餉眠　　　　及ばず 盧生(ろせい) 一餉(しょう)の眠りに

 

【語釈】

○黃樑夢…「黃樑一炊の夢」。『枕中記』に出てくる話で「邯鄲の枕」「邯鄲の夢」ともいう。「栄枯盛衰も、ほんのひとときの夢のように、はかないものである。」こと。○盧生…「黃樑一炊の夢」を見た書生。○餉…食料。ここでは「炊」の意。

 

 

★    次江東門懐古　　　　　江東門(こうとうもん)懐古(かいこ)に次す　　　　　　　　　　　　清　　徐元文

 

歌舞臺空跡已更　　　　歌舞台 空しくして 跡 已に更(あらたま)る

莫愁湖水尚盈盈　　　　愁うる莫かれ 湖水 尚お盈(えい)々(えい)たるを

英雄消歇知多少　　　　英雄 消え歇(や)んで 知んぬ多少ぞ

紅粉尚傳身後名　　　　紅粉 尚お伝う 身後の名

 

【語釈】

○江東門…不祥。広東省広州市？○歌舞臺…不祥。曹操が銅雀台の前に築かせた物？○盈盈…水の満ちているさま。○英雄…曹操？○紅粉…美人。

 

 

★    朱雀航　　　　　　　　朱雀(すざく)航(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　余　懐

 

紅旗曽挂大航西　　　　紅旗 曽(かつ)て挂(か)く 大航の西

日暮蕭蕭疎鳥啼　　　　日暮 蕭々(しょうしょう) 疎(そ)鳥(ちょう)啼く

野火閑雲齊滿地　　　　野火(やか) 閑雲 斉しく地に満つ　

橋邊風雨夜淒淒　　　　橋辺の風雨 夜 淒々(せいせい)たり

 

【語釈】

○朱雀航…六朝の都城建康 (南京市)の朱雀門の外にあった浮き橋。○紅旗…儀仗兵の赤旗。○大航…朱雀航。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○閑雲…静かに浮かんでいる雲。○淒淒…ひえびえとしたさま。寂しくいたましいさま。

 

 

★    過夷門　　　　　　　　夷門(いもん)を過ぐ  　　　　　　　　　　　　　清　　黄　雲

 

依舊夷門汴水濱　　　　旧に依る夷門(いもん) 抃(べん)水(すい)の浜

由來豪傑混風塵　　　　由来 豪傑 風塵に混じる

馬前莫漫輕關吏　　　　馬前 漫(みだり)に 関吏を軽んずる莫れ

恐有當年侯姓人　　　　恐らくは 当年 候姓の人有らん

 

【語釈】

○夷門…河南省北東部にあった汴水（汴河）の浜にあった地名。○依舊…昔のままである。○由來…それ以来。○豪傑…戦国時代の魏の信陵君。○風塵…俗世間。○關吏…門番の役人。大梁の夷門で門番をしていた老人の侯嬴に、魏の信陵君が礼を尽くして食客に加えるた故事（『史記』魏公子列伝）による。○侯姓人…侯嬴のような優れた人（『史記』魏公子列伝）。

 

★    過易水　　　　　　　　易(えき)水(すい)を過ぐ　　　　　　　　　　　　　清　　王邦畿

 

地入幽州白日沈　　　　地は 幽州(ゆうしゅう)に入りて 白日沈む

寒雲奔奔水陰陰　　　　寒雲 奔々(ほんぽん) 水 陰々(いんいん)

亦知匕首無成事　　　　亦た知る 匕首(ひしゅ) 事の成る無きを

只重荊軻一片心　　　　只だ 荊軻(けいか)を重んず 一片の心

 

【語釈】

○易水…河北省を流れる川。秦始皇帝暗殺に赴く荊軻を燕の太子丹等が見送ったことで名高い。○幽州…戦国時代の燕の地。○奔奔…走ることが速いさま。○陰陰…静かなさま。○匕首…あいくち。○無成事…始皇帝暗殺が失敗したこと。

 

 

★    烏江　　　　　　　　　烏江 　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　宋　犖

 

落日烏江繋小船　　　　落日 烏江 小船を繋ぐ

抜山氣勢想當年　　　　山を抜く気勢 当年を想う

一間古屋荒煙外　　　　一間の古屋 荒煙の外

野鼠銜髭上几莚　　　　野(や)鼠(そ) 髭を銜(くわ)え 几(き)莚(えん)に上る

 

【語釈】

○安徽省和県の東北にある川。項羽最後の地。○抜山氣勢…「垓下の歌」による。○当年…当時。○一間…間口一間。○荒煙…荒野の煙霧。○几莚…肘掛けと敷物。

 

 

★    古於陵城　　　　　　　古於(こお)陵(りょう)城(じょう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　徐　夜

 

仲子城邊日向中　　　　仲子(ちゅうし)城辺(じょうへん) 日 中に向う

田家饁畝自西東　　　　田家 畝に饁(おく)りて 自(おのずか)ら西東

高原雨脚牛羊外　　　　高原の雨脚(うきゃく) 牛羊の外

一逕秋深豆葉風　　　　一径 秋は深し 豆葉の風

 

【語釈】

○於陵…春秋時代の斉の国の陳仲子。富家である実家の世話になるのを嫌い、於陵に逃げ込んだ。○中…中天。○田家…農家。○饁…昼食を贈りどける。

 

 

★    曹操疑塚　　　　　　　曹操(そうそう)の疑(ぎ)塚(ちょう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　査愼行

 

分香賣履獨傷神　　　　分香売(ぶんこうばい)履(り) 独り神を傷む

歌吹聲中繐帳陳　　　　歌吹声中 繐帳(けいちょう)陳(なら)ぶ

到底不知埋骨地　　　　到底 知らず 骨を埋むる地

却教臺上望何人　　　　却って 台上 何人をも望ましむとは

 

【語釈】

○疑冢…発掘されることを恐れて周りに多く作った偽塚。○分香賣履…死に臨んでの妻妾への愛情。曹操が死に臨んで夫人には香を分け与え、妾には履を作る方法を教えて売れるようにし、死後の生活のささえとさせた故事による。○繐帳…細糸のとばり。

 

 

 

★    嚴陵釣臺　　　　　　　厳(げん)陵(りょう)の釣台　　　　　　　　　　　　　　　清　　洪　升  

 

逃卻高名遠俗塵　　　　高名を逃却(とうきゃく)し 俗塵(ぞくじん)を遠ざく

披裘澤畔獨垂綸　　　　裘(かわごろも)を披(ひら)いて 沢(たく)畔(はん) 独り綸(いと)を垂る

千秋一個劉文叔　　　　千秋 一個 劉文叔(りゅうぶんしゅく)

記得微時有故人　　　　記し得たり 微時 故人有るを

 

【語釈】

○嚴陵…嚴光、後漢の光武帝の幼なじみであったが、光武帝の再三の招奇を拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところが嚴子陵釣臺といわれる。○千秋…千年。○劉文叔…東漢の光武帝。○微時…卑賤で栄達する前。

 

 

★    曹操疑塚　　　　　　　曹操(そうそう)疑(ぎ)塚(ちょう)　　　　　　　　　　　　　　清　　陸次雲       

 

疑塚累累漳水頭　　　　疑塚 累々(るいるい) 漳(しょう)水(すい)の頭(ほとり)

如山七十二高丘　　　　山の如き 七十二高丘

正平只有墳三尺　　　　正平 只だ 墳 三尺有り

千古安眠鸚鵡洲　　　　千古 安眠す 鸚鵡洲

 

【語釈】

○疑冢…発掘されることを恐れて周りに多く作った偽塚。○累累…続き連なって並んでいるさま。○漳水…湖北省を流れる長江の支流。○七十二高丘…多くの高い丘。○正平…平地。○鸚鵡洲…武漢にあった長江の中洲。

 

 

 

★    蘇隄口號　　　　　　　蘇隄(そてい)口号(こうごう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　瀋受宏

 

六橋遙帶兩峰孤　　　　六(りく)橋(きょう) 遥かに 両峰を帯びて孤なり

煙水茫茫舊宋都　　　　煙水 茫々(ぼうぼう) 旧宋(きゅうそう)都(と)

一向鄂王墳上拜　　　　一たび 鄂王墳上(がくおうふんじょう)に向(む)かいて 拝すれば

回頭不忍見西湖　　　　頭(こうべ)を回(めぶら)して　西湖を見るに忍びず

 

【語釈】

○蘇隄…西湖にある蘇軾が作った隄。○口號…紙に書かずに作った即興の詩。○六橋…蘇隄の上にある六つの橋。○煙水…水面のもや。○茫茫…広々としたさま。○舊宋都…杭州。一時南宋の都となった。○鄂王…南宋の名将岳飛。墳は西湖の畔にある。

 

 

★    田氏紫荆里　　　　　　田氏紫荆(でんししけい)の里　　　　　　　　　　　　  清　　翁志琦

 

田氏遺墟沒草萊　　　　田氏の遺墟(いきょ) 草萊(そうらい)に没す

春風猶見紫荊開　　　　春風 猶お見る 紫(し)荊(けい)の開くを

願攜當日連枝種　　　　願わくは 当日の連枝の種を携え

分與人間處處栽　　　　人間(じんかん)に分与(ぶんよ)して 処々(しょしょ)に栽えしめんことを

 

【語釈】

○田氏紫荆…春秋時代の斉の都に住む田真兄弟３人が父の遺産を分割しようとした。分割可能なものはみな平等に分けたが、家の前の紫荊樹も三等分しようとしが、紫荊樹はたちまち枯れた。それを見て、抑えきれず、木のことに思いが至らなかった」と。木はこの言葉を聞いて、兄弟は父の財産をひとまとめにして共有することにした。紫荊樹はもとのように茂り始めた。（続斎諧記）。○遺墟…廃墟。○草萊…雑草。○人間…人間世界。○分與…分け与える。

 

★    馬陵道　　　　　　　　馬(ば)陵(りょう)道(どう)　　　　　　　　　　　　　　　清　　魏荔彤

 

戰壘千秋沙草平　　　　戦塁 千秋 沙(さ)草(そう) 平かなり

更無殘戟礙春耕　　　　更に 残戟(ざんげき)の 春耕を碍(さまた)ぐる無し

荒城夜半喧雷雨　　　　荒城 夜半 雷雨 喧(かまび)すし

還似當年萬弩聲　　　　還(ま)た 当年の万弩(ばんど)の声に似たり

 

【語釈】

○山東省聊城市莘県の道。戦国時代に魏と斉が激突した戦で、孫臏が龐涓を討ち取り、斉の圧勝に終わった地。○殘戟…損なわれて土に埋まったほこ。○萬弩…多くの弩弓。孫臏が計略により龐涓を石弩で射殺した。

 

 

★    峴山　　　　　　　　　峴山(けんざん)　　　　　　　　　　　　　　　　　清     劉　震

 

當塗典午事紛紛　　　　当塗の典午 事 紛々(ふんぷん)

西蜀山川付暮雲　　　　西蜀の山川 暮雲を付す

我到峴山無淚洒　　　　我 峴山(けんざん)に到り 涙の洒(そそ)ぐ無し

秋風曾拜臥龍墳　　　　秋風 曽(かつ)て拝す 臥竜墳(がりょうふん)

 

【語釈】

○峴山…所在不祥。○當塗…三国志の魏のこと。○午事…司馬懿仲達。○紛紛…ごたつくさま。○臥龍墳…陝西省勉県の定軍山にある諸葛孔明の墓？

 

 

★    秦淮雑詠　　　　　　　秦淮(しんわい)雑(ざつ)詠(えい)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

六代江山久寂寥　　　　六代(りくだい)の江山 久しく寂寥

勝朝宮闕亦湮銷　　　　勝(しょう)朝(ちょう)の宮闕(きゅうけつ) 亦た湮銷(えんしょう)

秖餘燕子憐春色　　　　秖(た)だ余す 燕子(えんし)の春色を憐むを

依舊銜泥過内橋　　　　旧に依(よ)り 泥を銜(くわ)えて 内橋を過ぐ

 

【語釈】

○秦淮…南京市内を通る河の名、その両岸は歓楽街であった。○雑詠…主題を決めずに作った詩。○六代…南北朝時代の南朝六朝。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○勝朝…滅亡前の一朝。陳。○宮闕…宮城の門。○湮銷…消失。○春色…春景色。○依舊…昔の如く。

 

 

★    華容　　　　　　　　　華(か)容(よう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

楓林橘樹自成叢　　　　楓林 橘樹 自(おのずか)ら叢(くさむら)と成る

廬舎臨湖接遠空　　　　廬舎(ろしゃ) 湖に臨み 遠空に接す

回首楚王歌舞地　　　　首(こうべ)を回らせば 楚王 歌舞の地　

斜陽衰草細腰宮　　　　斜陽 衰草 細腰の宮

 

【語釈】

○華容…湖北省にあった春秋時代の楚の都。○廬舎…墓守の住むところ。○楚王…春秋時代の楚の靈王。細腰の臣下を好んだので臣下が減食し、餓死する者が出たという。(元は「墨子」による)。

 

★    淮陰候祠　　　　　　　淮陰候(じゅんいんこう)の祠　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王言従

 

蹙項摧秦益世功　　　　項に蹙(せま)り 秦を摧(くだ)く 益世の功

盟寒帯礪失英雄　　　　盟(めい)寒(かん) 帯礪(たいれい) 英雄を失う

四方尚有誰堪守　　　　四方 尚お 誰か守りに堪える有らん

枉上高臺詠大風　　　　枉(ま)げて 高台に上りて 大風を詠ず

 

【語釈】

○淮陰候…漢の髙祖の将軍韓信。功なりて後粛正された。○項…項羽。○益世…社会に貢献する功績。○盟寒…盟約が薄らぐ。○帯礪…河山帯礪。永久に変わらない誓のたとえ。国が永遠に栄え安泰であるたとえ。○英雄…韓信。○大風…高祖が郷土（沛）に帰って作った「大風の歌」。「安得猛士兮守四方」とある。

 

 

★    淮陰候祠　　　　　　　淮陰候(じゅんいんこう)の祠　　　　　　　　　　　　　　  清　　王言従

 

全身只合老漁竿　　　　身を全うし 只だ 合(まさ)に漁(りょう)竿(かん)に老ゆべし

若愛炎劉上將壇　　　　若(ねんごろ)に愛す 炎劉 上将の壇

鳥盡弓藏多少恨　　　　鳥尽き 弓蔵せらる 多少の恨(うらみ)

荒祠古木夕陽寒　　　　荒(こう)祠(し) 古木 夕陽(せきよう)寒し

 

【語釈】

○淮陰候…漢の髙祖の将軍韓信。功なりて後粛正された。○合…「まさに～すべし」と読み、「～しなければならない」「当然～であるはずである」の意。○漁竿…隠棲の身。○炎劉…火徳の劉氏の漢王朝。○上將壇…上将軍韓信の祠。○鳥盡弓藏…韓信（范蠡）の言葉「狡兔死して良狗亨られ、高鳥盡きて良弓藏せられ、敵國破れて、謀臣亡ぶ」。○多少…多くの。

 

 

★    嚴陵釣臺　　　　　　　厳陵の釣台　　　　　　　　　　　　　　　清　　唐夢賚

 

群山疊疊水層層　　　　群山 畳(じょう)々(じょう) 水 層々(そうそう)

詞客探奇為一登　　　　詞客(しかく) 奇を探して 為に一登す

試向咸陽秋草望　　　　試(こころ)みに 咸陽に向って 秋草に望めば

樵歌聲遍漢諸陵　　　　樵歌 声は遍(あまね)し 漢の諸陵

 

【語釈】

○嚴陵…嚴光、後漢の光武帝の幼なじみであったが、光武帝の再三の招奇を拒否して隠棲生活を送った。釣りをしたところが嚴子陵釣臺といわれる。○疊疊…重なり合っているさま。○層層…幾重にも重なっているさま。○詞客…詩人の旅人。○咸陽…秦の都。ここでは西安、洛陽地帯。○樵歌…きこりの歌。

 

　　　

★    籌筆驛　　　　　　　　籌(ちゅう)筆(ひつ)駅(えき)　　　　　　　　　　　　　  宋    瀋　復

 

駐軍荒驛筆能籌　　　　軍を駐むる荒駅 筆 能く籌(はか)る

將畧休輕議武侯　　　　将畧(しょうりゃく) 武侯に議すを 軽んずるを休(や)めよ

若使渭川星未墜　　　　若し 渭(い)川(せん)をして 星 未だ墜(お)とさしざら使(し)めば

銅臺應是漢宮秋　　　　銅台 応に是れ 漢宮の秋なるべし

 

【語釈】

○籌筆驛…四川省廣元市北八十里にあった宿場真知。諸葛亮が出師したとき、常にこの地に駐屯して作戦をねったと伝えられる。○籌…作戦を練る。○將畧…用兵の策略。○武侯…諸葛亮孔明。○渭川…渭水。長安付近を東流して黄河に合流する川。○星未墜…孔明の詩に於いて巨星が落ちた事による。孔明が死ななければ。○銅臺…銅雀台。魏の曹操が河北省邯鄲市に作った楼台。○漢宮秋…漢朝の復興がなって、漢の物として秋を迎えたであろうことを言う。

 

★    秦淮雑感　　　　　　　秦淮(しんわい)雑感(ざっかん)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　趙文哲

 

翠袖朱家舊擅名　　　　翠(すい)袖(しゅう) 朱家 旧(もと) 名を擅(ほしいまま)にす

荒園遺跡尚關情　　　　荒園の遺跡 尚お情を関(とざ)す

重門深掩棠梨樹　　　　重門 深く掩う 棠(どう)梨(り)の樹

聴盡瀟瀟暮雨聲　　　　聴き尽す 瀟々(しょうしょう)たる暮雨の声

 

【語釈】

○秦淮…南京市内を通る河の名、その両岸は歓楽街であった。○翠袖…女子的装束。女子。○朱家…漢の魯の侠客。○重門…重なりあった門。○瀟瀟…風雨の寂しく降る（吹く）音のさま。

 

　　　

★    烏衣巷　　　　　　　　烏(う)衣(い)巷(こう)　　　　　　　　　　　　　　   清　　徐薌坡

 

瑯揶池館 久荒涼　　　 瑯揶(ろうや)池館(ちかん) 久しく荒涼

鳴咽寒聲淮水長　　　　鳴咽(めいいん) 寒声 淮(わい)水(すい)長し

唯有銜泥雙燕子　　　　唯だ 泥を銜(くわ)う 双燕子(そうえんし)のみ有りて

年年巷口弔斜陽　　　　年々 巷(こう)口(こう) 斜陽を弔う

 

【語釈】

○烏衣巷…金陵城（南京）の南側、秦淮区の白鷺洲公園のすぐ西側にある町内の名。○瑯揶池館…不祥。○鳴咽…咽び鳴く。○寒声…寒々とした声。○淮水…秦淮河。南京を流れる川で、両岸は歓楽街であった。○雙燕子…つがいの燕。○巷口…街の入り口。

 

 

　　　

★    五人墓　　　　　　　　五人(ごにん)墓(ぼ)　　　　　　　　　　　　　　   清　　徐薌坡

 

亂鴉幾點夕陽殘　　　　乱(らん)鴉(あ) 幾点 夕陽(せきよう)残(ざん)す

酹酒蒼碑拂蘚看　　　　酒を酹(そそ)ぐ蒼(そう)碑(ひ) 蘚(こけ)を払って看る

颯颯陰風山鬼語　　　　颯々(さつさつ)たる陰風 山鬼(さんき)の語

冬青花落石壇寒　　　　冬(とう)青(せい) 花 落ちて 石壇寒し

 

【語釈】

○五人墓…明末の宦官魏忠賢によって殺害された東林党の五人の墓。江蘇省蘇州市にあった。○颯颯…風がさっと吹くさま。○陰風…冬の風。陰気で殺伐とした風。○山鬼…山の中の怪物。○冬青…常緑の喬木。

 

 

★    過宛陵李太白酒樓　　　宛(えん)陵(りょう)の李(り)太(たい)白(はく)酒楼に過(よ)ぎる　　　　　　　  清　　楊青藜

 

寒日登高眺晩秋　　　　寒日 登高して 晩秋を眺む

謫仙人去水空流　　　　謫(たく)仙人(せんにん) 去りて 水 空しく流る

傷心萬古陵陽月　　　　傷心 万古 陵(りょう)陽(よう)の月

長送江風入酒樓　　　　長(とこし)えに 江風を送りて 酒楼に入る

 

【語釈】

○宛陵…安徽省宣城市宣州区。○李太白…李白。○謫仙人…李白のこと。○陵陽…安徽省池州陽県。

 

 

 

　　　

★    景帝陵　　　　　　　　景(けい)帝(てい)陵(りょう)　　　　　　　　　　　　　　清　　李　蔚

 

蒼蒼栝栢冷烟凝　　　　蒼々(そうそう)たる栝栢(かつはく) 冷煙凝る

古瓦頽垣牧豎登　　　　古瓦(こが) 頽(たい)垣(かい) 牧豎(ぼくじゅ)登る

白髪中官扶杖立　　　　白髪の中官 杖に扶りて立ち

向人指點景皇陵　　　　人に向って 指点す 景(けい)皇(こう)陵(りょう)

 

【語釈】

○景帝陵…漢の六代目皇帝の陵。陝西省咸陽市渭城区にある。○栝栢…ビャクシンとカシワの木。○冷煙…冷たいもや。○頽垣…くずれた垣根。○牧豎…牧童。○中官…朝内の官。宦官。○指点…指指す。○景皇陵…景帝陵。

 

 

★    青龍江　　　　　　　　青(せい)竜(りゅう)江(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　廖景文

 

百戰樓船畫角昏　　　　百戦の楼船 画(が)角(かく)昏(くら)し

空江何處弔征魂　　　　空江 何れの処か 征魂を弔う

夕陽惨淡荒城路　　　　夕陽(せきよう) 惨淡(さんたん)たり 荒城の路

黄葉西風滬瀆邨　　　　黄葉 西風 滬瀆(ことく)の村

 

【語釈】

○青龍江…不祥。呉淞江のこと？○樓船…櫓のある大船。○畫角…画で彩られた角笛。○空江…物影の無い川。○征魂…遠征で死んだ兵士の魂。○惨淡…物寂しいさま。○西風…秋風。○滬瀆…呉淞江。黄浦江の主要な支流。上海市街地の外灘北端にある外白渡橋の近くで黄浦江に合流する。上海市の北にある地の地名。

 

 

　　　

★    鄧艾祠　　　　　　　　鄧(とう)艾(がい)の祠　　　　　　　　　　　　　　清　　張馬慶

 

奇兵未扼一丸泥　　　　奇兵 未だ扼(やく)さず 一丸の泥

綿竹懸軍萬仭梯　　　　綿(めん)竹(ちく)の懸軍(けんぐん) 万仭(ばんじん)の梯

奄忽當塗更典午　　　　奄忽(えんこつ)として 当塗(とうと) 更(かわ)りて典(てん)午(ご)

翻嫌多事鄧征西　　　　翻(ひるがえ)って嫌(きら)う 多事 鄧(とう)の征西(せいせい)

　　　

【語釈】

○鄧艾…三国志時代の魏の武将。蜀に攻め入り後主劉禅を降伏させた。○奇兵…刀剣などの兵器。○一丸泥…極小さな土地。剣閣から攻めた本軍が守備兵を破れなかったこと。

○綿竹…四川省德阳市綿竹市。○懸軍…独り深く敵地に侵入する軍隊。○萬仭梯…深い谷に懸けた桟橋。○奄忽…たちまち。○當塗…魏の国。○典午…晉の国。○多事…忙しいこと。鄧艾は、蜀を滅ぼす功績を挙げたが、三年後に魏も晉に変わり、鄧艾は邪魔者扱いされて殺されたことを詠う。

 

 

★    馬嵬　　　　　　　　馬嵬(ばかい)　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　袁　枚

 

莫唱當年長恨歌　　　唱うる莫(なか)れ 当年の長恨歌(ちょうごんか)

人間亦自有銀河　　　人間(じんかん) 亦た 自(おのずか)ら銀河有り

石壕村裏伕妻別　　　石(いし)壕(ごう)村(せん)裏(り) 夫妻別れ

淚比長生殿上多　　　涙 長生(ちょうせい)殿上(でんじょう)に比して多し

 

【語釈】

○馬嵬…陝西省興平県馬嵬坡。安史の乱で玄宗が蜀に落ち延びる途中、楊貴妃が殺された所。○當年…当時。○人間…平民の人間世界。○銀河：（天上で牽牛（牛郎）と織女とを隔てる働きをする）天の川。○石壕村裏…杜甫の「石壕吏」における別れた老夫妻。○長生殿…玄宗と楊貴妃が「比翼の鳥」「連理の枝」となる永遠の愛を誓った宮殿。

参考文献　「ブログ詩詞世界」

★    黄粱夢廬生祠　　　　　黄粱(こうりょう)の夢 廬生(ろせい)の祠　　　　　　　　　　 清　　無名氏

 

四十年中公與候　　　　四十年中 公と候

雖然是夢也風流　　　　然(しか)りと雖(いえど)も 是れ夢 也た風流

我今落魄邯鄲道　　　　我 今 落魄(らくはく)して 邯鄲(かんたん)の道

要替先生借枕頭　　　　先生に替わりて 枕頭(ちんとう)を借るるを要す

 

【語釈】

○黄粱夢…「枕中記」の故事で、粟飯をたきあげるほどの短い間にみた盧生の夢の意。人間の富貴や功名が、きわめてはかなく短いことのたとえ。○廬生…「枕中記」の廬生。○廬生が夢の中で公爵や侯爵になったこと。○落魄…落ちぶれる。○邯鄲…河北省南部の都市。戦国時代、趙の都としてもっとも栄えた。「黄粱夢」を「邯鄲夢」「邯鄲枕」ともいう。○先生…廬生。○枕頭…「邯鄲の枕」。

 

 

★    露筋祠　　　　　　　　露筋(ろきん)祠(し)　　　　　　　　　　　　　　　　　 清　　僧岑霽

 

沙草凄涼煙樹昏　　　　沙(さ)草(そう) 凄(せい)涼(りょう)として 煙樹昏(くら)し

荒祠寂寞託貞魂　　　　荒(こう)祠(し) 寂寞(せきばく)として 貞(てい)魂(こん)を託す

靈旗高捲秋風晩　　　　霊旗(れいき) 高く捲く 秋風の晩(くれ)

惟有清淮照墓門　　　　惟だ 清淮の 墓門を照らす有るのみ

 

【語釈】

○露筋祠…江蘇省揚州高郵県の南にある祠。俗称・仙女廟。唐代貞女とその嫂が旅をしていて日も暮れ、夜になろうとしたので、嫂は近くの百姓家に入って泊めてもらうことにしたが、貞女は見ず知らずの他人の家に泊まるのは、貞節に反するとして、屋内に入らなかった。一夜明けた後、貞女は蚊のために血を吸い尽くされ、筋だけが残っているという姿になって斃れていた。里人たちは、貞女の高潔な節操を讃え、その死を悼んでそこに祠を建てた。○凄涼…ぞっとするほど物寂しいさま。○煙樹…靄霞のかかった樹。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○靈旗…神霊の旗。○清淮…清い淮水（河南省に源を発し、安江蘇省を流れる。　　　

絶句類選　巻之十五　　征戍類

 

★    從軍行               従軍(じゅうぐん)行(こう)                                    唐　李　白

 

百戰沙場碎鐵衣　　　　沙場に百戦して 鉄衣を砕く

城南已合數重圍　　　　城南 已に合(がっ)す 数重の囲み

突營射殺呼延將　　　　営を突いて 射殺す 呼(こ)延(えん)の将

獨領殘兵千騎歸　　　　独り 残兵千騎を領して帰る

 

【語釈】

○従軍行 … 楽府題。従軍の歌。○沙場…砂漠の地。○鉄衣…鉄のよろい。○営…陣営。○呼延將…匈奴の最も身分の高い姓の將軍。○残兵…生き残りの兵。

〔参考文献〕　『中国詩人撰集　７』

　　　

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍行　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　王昌齢

 

騮馬新跨白玉鞍　　　　騮(りゅう)馬(ば) 新たに跨(また)がり 白玉の鞍

戰罷沙場月色寒　　　　戦(いくさ) 罷(や)み 沙場 月色寒し

城頭鐵鼓聲猶震　　　　城頭の鉄鼓 声 猶お震い

匣裏金刀血未乾　　　　匣(こう)裏(り)の金刀 血 未だ乾かず

 

【語釈】

○騮馬…黒い尾を持った赤馬。○沙場…砂漠。○鐵鼓…戦鼓。○匣裏…箱の中。○金刀…刀の美称。

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍行　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齢

 

青海長雲暗雪山　　　　青海の長雲 雪山を暗(おお)う

孤城遙望玉門關　　　　孤城 遥かに望む 玉門関

黃沙百戰穿金甲　　　　黄沙 百戦 金甲を穿つも

不破樓蘭終不還　　　　楼蘭を破らずんば 終(つい)に還らじ

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○青海…ココノール湖。○雪山…天山。○玉門関…西域に置かれた関所の名。○金甲…金属製のよろい。○楼蘭…新疆ウイグル自治区、ロプノール湖の西にあった小独立国。

（参考文献）　『唐詩選』

 

　

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　王昌齢

 

秦時明月漢時關　　　　秦時の明月 漢時の関

萬里長征人未還　　　　万里 長征 人 未だ還らず

但使龍城飛將在　　　　但だ 竜城の飛将をして 在ら使(し)めば

不教胡馬度陰山　　　　胡馬をして 陰山を 度ら教(し)めず

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○秦時…秦の時代。○漢時…漢の時代。○関…関所。○竜城…匈奴の築いた砦。○飛将…漢の名将、李広。○胡馬 … えびすの馬。○陰山…陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。漢族と匈奴との境界となっていた。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　馬　逢

 

漢馬千蹄合一羣　　　　漢馬 千(せん)蹄(てい) 一群に合す

單于鼓角隔山聞　　　　単于(ぜんう)の鼓角 山を隔てて聞ゆ

沙塠風起紅樓下　　　　沙塠(さつい) 風 起るは 紅楼の下

飛上胡天作陣雲　　　　飛んで　胡天に上り　陣雲と作(な)る

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○漢馬…唐の馬。時の王朝を漢にたとえる。○千蹄…千頭。○單于…匈奴の王。○沙塠…小砂丘。○胡天…異民族地方の空。○陣雲…戦闘の兆しを示す雲。

 

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍行　　　　　　　　　　　　　　　　明　　王世貞     

 

蹋臂歸來六博場　　　　蹋臂 帰り来る 六博場

城中白羽募征羌　　　　城中 白羽 征羌(せいきょう)を募る

相逢試解呉鈎看　　　　相逢(あいあ)いて 試(こころみ)に 呉(ご)鈎(こう)を解いて看れば

已是金河萬里霜　　　　已に是れ 金河 万里の霜

 

【語釈】　

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○蹋臂…？。○六博場…？○白羽…士兵。○征羌…異民族を征服する軍。○呉鈎…刀剣。○金河…内蒙古自治区境内にある大黒河。

 

★    從軍行　　　　　　　　從軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　明　王世貞

　

夜深鄰帳送胡笳　　　　夜深くして 鄰帳(りんちょう) 胡笳(こか)を送る

三月春寒雪作花　　　　三月 春寒くして 雪 花と作(な)る

吹盡關山楊柳曲　　　　吹き尽くす 関山 楊柳の曲

壯心元自不思家　　　　壮心 元 自(おのずか)ら 家を思わず

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○鄰帳…とばりの外。○胡笳…異民族のあしぶえ。○關山…関山月。縦笛の曲。○楊柳…折楊柳。横笛の曲。○壯心…豪壮な心。

 

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　明　　王世貞     

 

蹀馬吹塵紫極昏　　　　馬を蹀(ちょう)し 塵を吹いて 紫(し)極(きょく)昏し

洗刀飛血九河渾　　　　刀を洗い 血を飛ばして 九河渾(ふる)う

長城直拓三千里　　　　長城 直ちに拓(ひら)く 三千里

表取隂山作北門　　　　隂山を 北門と作(な)すを 表(ひょう)取(しゅ)す

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○蹀馬…馬を舞わせること。○紫極…天子の宮殿。○九河…黄河。○長城…万里の長城。○隂山…內蒙古自治区南境にある陰山山脈。匈奴との国境としていた。○北門…北の国境。○表取…勝ち取る。

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳子龍

 

彎弓獨上李陵臺　　　　弓を彎(ひ)き 独(ひと)り上る 李(り)陵(りょう)台(だい)

極目燕支秋色來　　　　極目(きょくもく) 燕支(えんし) 秋色来(きた)る

磧路西迴三萬里　　　　磧(せき)路(ろ) 西迴 三万里

青天遙挂白龍堆　　　　青天 遥かに挂(か)く 白竜堆(はくりょうたい)

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○彎弓…弓を引きしぼる。○李陵臺…李陵の墓。○極目…見渡す限り。○燕支…草の名。紅の材料となる。○秋色…秋景色。秋の気配。○磧路…砂石の多い道。○白龍堆…新疆ウイグル自治区南東部から甘粛省最西部一帯に広がる砂漠。

 

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳子龍

 

疎勒城南木葉秋　　　　疎勒(そろく)城南(じょうなん) 木葉(もくよう) 秋なり

紇干山下月西流　　　　紇(こつ)干(ひ)山下(さんか) 月 西に流る

莫將此夜西樓夢　　　　此の夜 西楼の夢を将(も)って

添作征人萬里愁　　　　征人 万里の愁を 添作(てんさく)する莫れ

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○疏勒…タリム盆地に存在したオアシス都市国家。○紇干山…不祥。○西樓夢…女性（妻）の部屋で出征している夫のことを思って見る夢。○征人…出征兵士。○添作…増す。

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　明　　陳子龍

 

一望穹廬匝地寛　　　　一望の穹廬(きゅうろ) 地を匝(めぐ)りて 寛(ひろ)し

將軍中夜出皐蘭　　　　将軍 中夜 皐(こう)蘭(らん)を出ず

月臨青海千烽亂　　　　月は 青海に臨みて 千烽乱れ

雲照黄河萬馬寒　　　　雲は 黄河を照らして 万馬寒し

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○穹廬…遊牧民族の家。ゲルのようなもの。○皐蘭…甘肅省蘭州市南にある山。○青海…青海湖。青海省にある中国最大の湖。○千烽…多くの烽火。

 

 

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　  明　　陳子龍

 

十丈黄沙没馬鞍　　　　十丈の黄沙(こうさ) 馬(ば)鞍(あん)を没す

健兒吹角暮雲端　　　　健児 角(かく)を吹く 暮(ぼ)雲(うん)の端

可憐丹鳳樓前月　　　　憐(あわ)れむべし 丹(たん)鳳(ほう)楼前(ろうぜん)の月

夜夜飛孤嶺上看　　　　夜々 飛孤するを 嶺上に看る

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○黄沙…黄砂。○可憐…感嘆の言葉。ああ。○丹鳳樓…長安の宮殿である大明宮の正門の楼閣。○飛孤…孤独なさまで飛ぶ。

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　馬　森

 

陰風漠漠塞雲飛　　　　陰風　漠々(ばくばく) 塞(さい)雲(うん)飛ぶ

萬里従軍着銕衣　　　　万里 軍に従い 銕(てつ)衣(い)を着る

幾度郷書傳雁足　　　　幾度か 郷書(きょうしょ) 雁(がん)足(そく)に伝う

家山唯向夢中歸　　　　家山 唯か 夢中に向(お)いて帰る

 

【語釈】

○従軍行…楽府題。従軍の歌。○陰風…殺気のある風。寒い風。○漠漠…寂しいさま。○塞雲…寨にかかる雲。○銕衣…金属のよろい。○郷書…故郷からのたより。○雁足…かりの足に結ばれた手紙。蘇武の故事。○家山…故郷の山。故郷。

 

 

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

三邊烽火照軍営　　　　三辺の烽火 軍営を照らし

十萬丁男夜練兵　　　　十万の 丁男(ていだん) 夜 兵を練る

但使腰間懸寶刀　　　　但だ 腰間(ようかん)に 宝刀を懸(か)け使(し)めば

丈夫何處不成名　　　　丈夫(じょうふ) 何れの処か 名を成さざらん

 

【語釈】

○従軍行…樂府題、出征兵士や戦場のさまを詠う。○三辺…延綏、寧夏、甘肅の三つの国境守備地域。○烽火…のろし火。○軍営…軍隊の営所。○丁男…成人した男子。○但使…ただ、～でさえあれば。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

關山月冷夜黄昏　　　　関山 月 冷やかにして 夜 黄昏(こうこん)

指日應擒吐谷渾　　　　日を指さし 応(まさ)に擒(とりこ)にすべし 吐谷渾(とこくこん)　　　

誰憶樓頭新小婦　　　　誰か憶わん 楼頭の新小婦

一聲横笛正銷魂　　　　一声の横笛 正に銷魂(しょうこん)するを

 

【語釈】

○従軍行…樂府題、出征兵士や戦場のさまを詠う。○關山…関所のある山。○黄昏…たそがれどき。○吐谷渾…異民族の首領。○銷魂…魂が消え去るような寂しさ、悲しさ。

 

 

 

★    從軍行　　　　　　　　従軍(じゅうぐん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

沙漠風高列戎連　　　　沙(さ)漠(ばく) 風　高くして 列(れつ)戎(じゅう) 連なる

寒侵行張不成眠　　　　寒は 行(こう)張(ちょう)を侵し 眠(ねむり) 成らず

狼山夜半聞新警　　　　狼山(ろうざん) 夜半 新警を聞く

披甲争聴號令傳　　　　甲を披(はお)り 争い聴く 号令の伝

 

【語釈】

○従軍行…樂府題、出征兵士や戦場のさまを詠う。○沙漠…砂漠。○列戎…守りの要塞。○行張…軍中でのとばり。○狼山…不祥。狼煙火のある山か？○新警…新たな警報。○甲…よろい。○號令…命令を伝える使者。

 

 

★    出塞曲　　　　　　　　出(しゅつ)塞曲(さいきょく)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　賈　至

 

萬里平沙一聚塵　　　　万里 平沙 一聚(いっしゅう)の塵

南飛羽檄北來人　　　　南飛(なんぴ)の羽檄(うげき) 北来の人

傳道五原烽火急　　　　伝道 五原 烽火(ほうか)急なり

單于昨夜寇新秦　　　　単于(ぜんう) 昨夜 新秦に寇(こう)す

 

【語釈】

○出塞曲…寨から出発するときの歌。○平沙…砂漠。○一聚…一堆。○羽檄…目印に鳥の羽を付けた急速に兵を発する爲の檄文。○五原…內蒙古巴彥淖爾市五原県。○單于…匈奴の王。

 

 

 

★    出塞曲　　　　　　　　出(しゅつ)塞曲(さいきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　蒋山卿

 

禪于秋色自堪哀　　　　禅于 秋色 自(おのずか)ら哀むに堪えたり

霜滿天山黄葉摧　　　　霜は天山に満ち 黄葉摧(くだ)く

落日懸軍度砂漠　　　　落日 懸軍 砂漠を度る

邊頭惟見雁飛回　　　　辺頭 惟だ見る 雁の飛回するを

 

【語釈】

○出塞曲…寨から出発するときの歌。○單于…匈奴の王。○秋色…秋景色。○天山…新疆ウイグル自治区を横断する山脈。○懸軍…深く敵地に入った孤軍。○邊頭…辺地。辺境。

 

 

★    從軍北征　　　　　　　軍に従って北征す　　　　　　　　　　唐　　李　益

 

天山雪後海風寒　　　　天山 雪後 海風寒し

橫笛偏吹行路難　　　　横笛 偏えに吹く「行路難」

磧裏征人三十萬　　　　磧(せき)裏(り) 征人 三十万

一時回首月中看　　　　一時に 首(こうべ)を回(めぐ)らして 月中に看る

 

【語釈】

○天山…新疆ウイグル自治区を横断する山脈。○雪後 … 雪が晴れた後。○海風 … 青海など西方の湖から吹く風。○偏 … しきりに、折悪しく。○行路難 … 古楽府の歌曲の名、旅路の苦難を主題とする。○磧裏 … 砂漠（ゴビ砂漠）の中。○征人 … 遠征の兵士。○一時 … いっせいに。○回首 … 振り向いて。振り返って。○月中 … 月の光の下で。　

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    出寨行　　　　　　　　出寨(しゅつさい)行(こう)　　　　　　　　　　　　　唐　　王昌齢

 

白草原頭望京師　　　　白(はくそう)草原頭(げんとう) 京師を望めば

黃河水流無盡時　　　　黄河 水 流れて 尽くる時無し

秋天曠野行人絶　　　　秋天 広野 行人絶ゆ

馬首東來知是誰　　　　馬首 東来(とうらい)するは 知る是れ誰そ

 

【語釈】

○出塞行 …楽府題、塞を出ていくときの歌。○白草…白っぽい色の草、乾燥すると白くなる草。○原頭…野原，原野。○京師…みやこ、ここでは長安。○行人…旅人。○東来…東に向かってやってくる。○知是誰…誰であろうか、分からない（反語）。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

　　　

★    出塞詞　　　　　　　　出(しゅつ)塞(さい)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　馬　戴

 

金帶連環束戰袍　　　　金帯の連環 戦袍(せんぽう)を束(たば)ぬ

馬頭衝雪度臨洮　　　　馬頭 雪を衝(つ)いて 臨洮(りんとう)を度る

卷旗夜劫單于帳　　　　旗を巻き 夜 劫(おびや)かす 単于(ぜんう)の帳(とばり)

亂斫胡兒鈌寶刀　　　　胡児を乱斫(らんしょう)し 宝刀を鈌(さ)す

 

【語釈】　

○出塞詞…塞を出ていくときの歌。○連環…鎖。○戰袍…戦闘用の衣服。○臨洮…甘肅省定西市臨洮県。○單于…匈奴の王。○胡児…異民族の兵士。○亂斫…切り刻む。

 

 

　　　

★    後出塞　　　　　　　　後(ご)出(しゅつ)塞(さい)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳　第

 

萬里秋風海上生　　　　万里の秋風 海上より生ず

駐車今復戍檀城　　　　車を駐(とど)めて 今 復(ま)た 壇(だん)城(じょう)を戍(まも)る

天寒夜渡韋溝水　　　　天 寒くして 夜 渡る 韋(い)溝(こう)の水

馬尾凝冰碎有聲　　　　馬尾の凝冰(ぎょうひょう) 砕けて 声 有り

 

【語釈】

○後出塞…前の出寨の後に、再び寨を出ること。○檀城…不祥。○韋溝…不祥。○凝冰…凝り固まった氷。

 

 

★    出軍　　　　　　　　　出軍　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　戎　昱

 

龍繞旌竿獸滿旗　　　　竜は旌(せい)竿(かん)を繞(めぐ)り 獣(じゅう)は旗に満つ

飜營乍似雪山移　　　　翻営(ほんえい) 乍ち 雪山の移るに似たり

中軍一隊三千騎　　　　中軍 一隊 三千騎

盡是幷州遊俠兒　　　　尽(ことごと)く 是れ 幷州(へいしゅう) 遊俠(ゆうきょう)の児

 

【語釈】

○旌竿…旗竿。○飜營…陣営。○幷州…山西省太原市。○遊俠兒…男伊達の良い男児。

 

 

 

　　　

 

★    出關　　　　　　　　　出関(しゅつかん)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　徐　蘭

 

憑山俯海古邊州　　　　山に憑(よ)り 海を俯(ふ)す 古辺の州

旆影風翻見戍樓　　　　旆(はい)影(えい) 風翻(ふうはん)して 戍楼(じゅろう)を見る

馬後桃花馬前雪　　　　馬後の桃花 馬前の雪

出關爭得不迴頭　　　　関を出(い)で 争い得て 頭を迴(めぐ)らさず

 

【語釈】

○旆影…旗影。○風翻…風に翻る。○戍樓…守りの爲の見張り台。

 

 

★    塞下曲                塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　常　建

 

玉帛朝回望帝鄉　　　　玉帛 朝より回りて 帝鄉を望む

烏孫歸去不稱王　　　　烏孫 帰り去りて 王を称せず

天涯靜處無征戰　　　　天涯 静けき処 征戦無く

兵氣銷爲日月光　　　　兵気 銷(しょう)じて 日月の光と為る

 

 【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○玉帛…宝玉と絹布。諸侯が天子に拝謁する時の献上品。ここでは烏孫国王の献上品を指し、烏孫国王が唐朝に帰順したことを表す。○朝回…朝廷より退出した後も。○帝郷 …天子の都。○烏孫…漢代から南北朝にかけて西域にいたトルコ系遊牧民族。○天涯…空の果て。○征戦…討伐のための戦。○兵気…殺伐とした戦争の妖気。

（参考文献）　　『唐詩選』

　　　

 

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　  唐　　常　建

 

北海陰風動地來　　　　北海の陰風 地を動かして来る

明君祠上望龍堆　　　　明君 祠上(しじょう) 竜堆(りょうたい)を望む

髑髏盡是長城卒　　　　髑髏(どくろ) 尽く是れ 長城の卒

日暮沙場飛作灰　　　　日暮 沙場(さじょう)に 飛んで 灰と作(な)る

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○北海…北方にある湖。○陰風 … 陰気な風。冬の北風のこと。○明君…漢の元帝の宮女で美人の王昭君のこと。○竜堆…白竜堆の略称。今の新疆ウイグル自治区東部、ロプノール湖の東にある砂漠。○長城卒…万里の長城のほとりで戦死した兵士。○沙場…砂漠。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　戎　昱

 

漢將歸來虜塞空　　　　漢将 帰り来りて 虜(りょ)塞(さい)空し

旌旗初下玉關東　　　　旌旗(せいき) 初めて下る 玉関の東

高蹄戰馬三千匹　　　　高蹄(こうてい) 戦馬 三千匹

落日平原秋草中　　　　落日 平原 秋草の中

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○漢将…漢になぞらえて唐の将軍。○虜塞空…胡の要塞が空になった。○旗幟…旗、幟の総称。ここでは軍隊。○玉関…玉門関。

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　烈

 

紅顏歳歳老金微　　　　紅顔 歳々(さいさい) 金微(きんび)に老ゆ

砂磧年年臥鐵衣　　　　砂磧(させき) 年々 鉄衣に臥(ふ)す

白草城中春不入　　　　白草 城中 春 入らず

黃花戍上鴈長飛　　　　黄花 戍上 鴈 長飛す

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○金微…アルタイ山脈。唐の時代に金微都督府が置かれた。○砂磧…砂漠の砂。○鉄衣…鉄のよろい。○白草…牧草。○戍上…守りの寨の上。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    塞下曲　　　　　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　  唐　　令狐楚

 

雪滿衣裳冰滿鬚　　　　雪は 衣裳に満ち 氷は鬚に満つ

曉隨飛將伐單于　　　　暁に 飛将に随って 単于を伐つ

平生意氣今何在　　　　平生の意気 今 何(いずく)にか在る

把得家書淚似珠　　　　家書を把得(はとく)して 涙 珠に似たる

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○飛將…漢の飛将軍李広。一般に名将の意味で用いられる。○単于…匈奴の王。○家書…家からの手紙。○把得…得る。

 

　　　

 

 

★    塞下曲　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　令狐楚

 

邊草蕭條塞鴈飛　　　　辺草 蕭(しょう)条(じょう) として 塞(さい)鴈(がん)飛ぶ

征人南望淚沾衣　　　　征人 南望して 涙 衣を沾(うるお)す

黃塵滿面長須戰　　　　黄塵 満面 長く戦に須(とど)まり

白髮生頭未得歸　　　　白髪 頭に生ずれども 未だ帰るを得ず

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○邊草…辺地に生えている草。○蕭條…草木が枯れしおれるさま。○征人…遠征に出ている兵士。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　令狐楚

 

陰磧茫茫寒草腓　　　　陰磧(いんせき) 茫々(ぼうぼう)として 寒草腓(しお)る

桔梗烽上暮煙飛　　　　桔梗烽上(ききょうほうじょう) 暮(ぼ)煙(えん)飛ぶ

交河北望天連海　　　　交河 北望すれば 天 海に連なる

蘇武曽將漢節歸　　　　蘇武 曽って 漢節を将(も)って帰る

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○陰磧…寨外の砂漠。○茫茫…果てしなく広大なさま。○桔梗烽…烽台の通称。○暮煙…夕靄。○交河…河北省滄州市。○蘇武…漢の武帝の臣。匈奴に使いして捕虜となり、十九年間荒れ地で過ごした。○漢節…漢の皇帝が与えた使者である事を示す証明。

 

　　　

 

★    塞下曲　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張仲素

 

獵馬千行鴈幾雙　　　　猟馬 千行(せんこう) 鴈 幾双

燕然山下碧油幢　　　　燕(えん)然(ぜん)山下(さんか) 碧油幢(へきゆしょう)

傳聲漠北單于破　　　　伝声 漠(ばく)北(ほく) 単于(ぜんう)破れ

火照旌旗夜受降　　　　火は旌旗(せいき)を照らして 夜 降を受く

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○獵馬…狩人の乗る馬。ここでは軍馬。○燕然山…蒙古境內杭愛山。転じて征戦の対象地。○碧油幢…青綠色の軍での帳。○傳聲…伝令の言葉。○單于…匈奴の王。○旌旗…旗と幟の総称。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　 唐　　張仲素

 

三戍漁陽再渡遼　　　　三たび漁(りょう)陽(よう)を戍(まも)りて 再び遼(りょう)に渡る

騂弓在臂劒橫腰　　　　騂(せい)弓(きゅう)は臂に在り 剣は腰に横たう

匈奴似欲知名姓　　　　匈奴(きょうど) 名姓を知らんと欲するに似たり

休傍陰山更射雕　　　　陰山(いんざん)に傍いて 更に 雕(ちょう)を射るを休(や)む

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○漁陽…北京一帯。○遼…満州地帯の北方民族の地。○騂弓…赤い弓。○陰山…陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。漢族と匈奴との境界となっていた。○雕…わしさぎ。

 

 

　　　

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　  唐　　張仲素

 

朔雪飄飄開鴈門　　　　朔(さく)雪(せつ) 飄々(ひょうひょう)として 鴈門(がんもん)を開き

平沙歷亂卷蓬根　　　　平沙 歴(れき)乱(らん)として 蓬(ほう)根(こん)を巻く

功名恥計擒生數　　　　功名 擒生(きんせい)の数を計るを恥ず

直斬樓蘭報國恩　　　　直ちに 楼(ろう)蘭(らん)を斬って 国恩に報いん

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○朔雪…朔風（北風）に吹きつけられる雪。○飄飄…風に吹かれて、ひらひらと舞うさま。○鴈門…山西省の北部、代県の西北にある雁門山頂上関所の名。○平沙…砂漠。○歴乱…乱れ散るさま。○蓬根…枯れたよもぎの根。○擒生…捕虜。○楼蘭…新疆ウイグル自治区、ロプノール湖の西にあった小独立国。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　  唐　　僧皎然

 

都護今年破武威　　　　都護 今年 武威を破る

胡沙萬里鳥空飛　　　　胡沙 万里 鳥 空しく飛ぶ

旄竿瀚海掃雲出　　　　旄(ぼう)竿(かん) 瀚海 雲を掃って出ず

氈騎天山蹋雪歸　　　　氈騎(せんき) 天山 雪を蹋(ふ)んで帰える

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○都護…軍隊を率いて一地方を鎮め守る官職。○武威…甘肅省武威市。○胡沙…異民族の地の砂漠。○旄竿…？○旄竿…旗竿。○瀚海…砂漠。○氈騎…？○天山…天山山脈。

 

　　　

★    塞下曲　　　　　　　　塞下の曲　　　　　　　　　　　　　  唐　　僧皎然

 

寒塞無因見落梅　　　　寒(かん)塞(さい) 落梅を見るに 因し無し

胡人吹入笛聲來　　　　胡人 吹いて 笛声に入りて来る

勞勞亭上春應度　　　　労労亭上(ろうろうていじょう) 春 応(まさ)に度るべし

夜夜城南戰未回　　　　夜々 城南 戦 未だ回(かえ)らず

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○寒塞…寒苦の寨。○無因…きっかけがない。方法がない。○胡人…異民族の人。○承句…曲名は「梅花落」。○勞勞亭…南京にある亭。新亭ともいう。東晋の王導達が集まって再興を願ったところ。○應…「まさに～すべし」と読み「～であるに違いない」の意。

(参考文献)　　『唐詩選』

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　嚴　仁

 

漠漠孤城落照間　　　　漠々(ばくばく)たる孤城 落(らく)照(しょう)の間

黄榆白葦滿關山　　　　黄榆(こうゆ) 白(はく)葦(い) 関山に満つ

千枝羌笛連雲起　　　　千枝の羌(きょう)笛(てき) 雲に連って起る

知是胡兒牧馬還　　　　知る是れ 胡児 馬を牧して還るを

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○落照…夕陽の光。○黄榆…秋になって黄色になったニレ。○白葦…枯れて白くなったアシ。○關山…関所のある山。○羌笛…異民族のあしぶえ。○胡児…異民族の兒童。

（本詩は、高適の「塞上聞吹笛」を下敷きにしたもの）

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　薛　蕙

 

陰山縳盡犬羊群　　　　陰山 縳り尽す 犬羊の群

萬里胡天散陣雲　　　　万里の胡天 陣雲を散ず

塞外降王三十郡　　　　塞外の降王 三十郡

來朝盡隸霍將軍　　　　来朝 尽隷(じんれい)す 霍(かく)将軍(しょうぐん)

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○陰山…陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。漢族と匈奴との境界となっていた。○犬羊群…捕虜のたとえ。○胡天…異民族の住む地域の空。○陣雲…重なり起こって兵陣のように見える雲。○降王…降伏した王。○來朝…諸侯が天子のもとに挨拶に来ること。○霍將軍…漢の大将軍霍去病。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　薛　蕙

 

日暮陰風吹鐵衣　　　　日暮 陰風 鉄衣を吹く

孤軍轉闘陷重圍　　　　孤軍 転闘し 重囲に陥る

虜中白骨行應朽　　　　虜中の白骨 行々(いくいく) 応に朽(く)ちるべし

樓上紅妝尚憶歸　　　　楼上の紅妝(こうしょう) 尚お 帰るを憶う

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○陰風 … 陰気な風。冬の北風のこと。○陰風 … 陰気な風。冬の北風のこと。○転闘…転戦。○虜中…胡の地の中。○紅妝…美人。ここでは戦死した兵士の妻。

　（「隴西行」陳陶）

 

　　　

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　唐順之

 

青袍白馬紫金鞦　　　　青袍(せいほう) 白馬 紫(し)金(きん)の鞦(しゅう)

不向沙場便酒樓　　　　沙場(さじょう)に向わずんば 便ち酒楼

夜來一賭青錢盡　　　　夜来 一賭(いっと) 青(せい)銭(せん)尽き

尚有囊中血髑髏　　　　尚お 囊中(のうちゅう)の 血(けつ)髑髏(どくろ)有り

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○青袍…青色の衣。○紫金…赤銅の異名。○鞦…しりがい。○沙場…砂漠。○夜來…夜になってから。○青錢…青銅の貨幣。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　  明　　石　星

 

絶塞黄塵没錦韉　　　　絶(ぜっつ)塞(さい)の黄塵 錦韉(きんせん)を没す

陰山昨日射鵰旋　　　　陰山 昨日 鵰(わし)を射て旋(めぐ)る

西風忽報狼煙急　　　　西風 忽ち報ず 狼煙(ろうえん)の急なるを

又向祁連逐左賢　　　　又 祁連(ぎれん)に向いて左(さ)賢(けん)を逐(お)う

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○絶塞…非常な辺地にある寨。○錦韉…錦の鞍しき。○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○陰山…陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。○西風…秋風。○祁連県…青海省海北チベット族自治州。○左賢…左賢王。匈奴の単于に次ぐ地位の者。

 

　

★    塞下曲                塞下(さいか)の曲                            明　　屠　隆

 

鐵騎橫行大漠空　　　　鉄騎(てっき) 横行す 大漠(たいばく)の空

將軍羽箭挿長虹　　　　将軍の羽箭(うせん) 長虹(ちょうこう)を挿す

禪于臺上看秋色　　　　禅于(ぜんう)台上(だいじょう) 秋色を看る

獵獵旌旗捲朔風　　　　猟々(りょうりょう)たる旌旗(せいき) 朔風(さくふう)を捲く

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○鐵騎…精鋭の騎兵。○大漠…西北の大砂漠。○羽箭…白羽の矢。○禪于臺…匈奴の地にある台。○秋色…秋景色。○獵獵…物の翻る形容。○旌旗…旗と幟の総称。○朔風…北風。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　  明　　屠　隆

 

朝随都護出行邊　　　　朝(あした)に 都(と)護(ご)に随って 出でて辺に行く

斬得胡頭馬上懸　　　　胡頭を斬り得て 馬上に懸(か)く

萬里無人沙月白　　　　万里 人無く 沙月白し

霜前獨枕大刀眠　　　　霜前 独り 大刀に枕して眠る

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○都護…軍隊を率いて一地方を鎮め守る官職。○胡頭…異民族の首。○沙月…砂漠にかかる月。

 

　　　

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　 明　　李化龍

 

黄龍東去海雲低　　　　黄竜(こうりゅう) 東に去りて 海雲低し

殺氣連天望欲迷　　　　殺気 天に連なり 望み 迷わんと欲す

生得胡兒挟馬上　　　　生きて 胡児を得て 馬上に挟む

夜深一騎到遼西　　　　夜深くして 一騎 遼西に到る

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○黄龍…黄色い煙霞、黄砂の比喩。○胡児…異民族の兵士。○遼西…遼寧省の西部。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　   　　　明　　陳薦伕

 

塞草黃雲萬里哀　　　　塞(さい)草(そう) 黃雲 萬里 哀し

胡天漠漠鳥飛迴　　　　胡天 漠々(ばくばく) 鳥 飛び迴(めぐ)る

漢傢幾見封侯印　　　　漢家 幾つか見る 封侯の印

曾繫沙場白骨來　　　　曾て 沙場 白骨を繫(つな)ぎ來る

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○黃雲…辺塞の雲。○胡天…異民族の地の空。○漠漠…広々として果てしないさま。○漢家…ここでは明王朝のこと。○封侯の印…戦で手柄を立てた人に与える侯爵の印。

（一將成功萬骨枯）

 

　　　

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　轅　文

 

邊城一曲古涼州　　　　辺城 一曲 古涼州(こりょうしゅう)

十萬征人盡白頭　　　　十万の征人 尽(ことごと)く白頭

青海連天明月夜　　　　青海 天に連なる 明月の夜

黄沙動地朔風秋　　　　黄沙 地を動かし 朔風(さくふう)秋なり

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○邊城…辺塞の街。○古涼州…涼州詞。楽府題の曲。○征人…遠征の兵士。○青海…青海湖。青海省にある中国最大の湖。○朔風…寒い風。

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　許景樊

 

前軍吹角出轅門　　　　前軍 角を吹いて 轅門(えんもん)を出ず

雪撲紅旗凍不飜　　　　雪は 紅旗を撲(う)ち 凍(こお)りて翻(ひるがえ)らず

雲暗磧西看候火　　　　雲 暗くして 磧(せき)西(せい) 候火を看る

夜深遊騎獵平原　　　　夜 深くして 遊騎 平原に猟(りょう)す

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○角…角笛。○轅門…軍営の門。○磧西…砂漠の西。○候火…烽火。

 

 

　　　

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　　　  清　　任彦芳

 

長天一雁度關城　　　　長天 一雁 関城(かんじょう)を度(わた)る

白草黄沙列戰営　　　　白草 黄沙 戦営に列す

貂錦五千渾是夢　　　　貂(ちょう)錦(きん) 五千 渾(すべ)て是れ夢

止餘燐火照人明　　　　止めよ 燐火(りんか)を余し 人に照らして明かなるを

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○長天…広闊な空。○關城…関所のある街。○白草…枯れて白くなった草。○貂錦…美麗な衣服を着た士卒。○燐火…鬼火。

（陳陶「隴西行」）

 

 

★    塞下曲　　　　　　　　塞下(さいか)の曲　　　　　　　　　　　　　   清　　史　夔

 

明月中天秋氣清　　　　明月 天に中(あた)りて　秋気清し

令嚴刁鬥最分明　　　　令 厳なりて 刁鬥(ちょうとう) 最も分明

前山夜半彫翎響　　　　前山 夜半 彫翎(ちょうれい) 響く

知是官軍射虎行　　　　知る是れ 官軍 虎を射るの行(こう)

 

【語釈】

○塞下曲…楽府題。塞下は、辺境の塞のあたりの意。○秋気…秋の気配。○刁鬥…どら。○分明…はっきりと明らかなさま。○彫翎…帽子の羽根飾り。

 

 

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　  唐    戴叔倫

 

軍門頻納受降書　　　　軍門 頻(しき)りに納む 受降の書

一劒橫行萬里餘　　　　一剣 横えて行く 万里余

漢祖謾夸婁敬策　　　　漢祖 謾夸(まんこ)す 婁(ろう)敬(けい)が策

卻將公主嫁單于　　　　却って 公主を将(も)って 単于(ぜんう)に嫁す

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○受降書…敵の降伏文書。漢の髙祖天下平定の時に受け取ったもの。○承句…高祖が匈奴に攻め入ったこと。○漢祖…漢の髙祖劉邦。○謾夸…あなどって誇り相手にしなかった。○婁敬策…匈奴はわざと弱みを見せているので闘わない方が良いという婁敬（劉敬）の策。○公主…皇帝の娘。○單于…匈奴の王。○結句…匈奴に破れて屈辱的な条約を結ばざるを得なかったこと。

 

　　　

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　唐    戴叔倫

 

漢家旌幟滿陰山　　　　漢家の旌(せい)幟(し) 陰山に満つ

不遣胡兒匹馬還　　　　胡児の匹馬をして 還ら遣(し)めず

願擲微軀聊報國　　　　願はくは 微(び)躯(く)を擲(なげう)ちて 聊(いささ)か国に報ぜん

何須生入玉門關　　　　何んぞ須(もち)いん 生きて玉門関に入るを

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○漢家…ここでは唐王朝。○旌幟…旗の総称。○陰山…陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。漢族と匈奴との境界となっていた。○胡児…異民族の兵士。○微軀…小さな体。○何須…「なんぞもちいん」と読み「どうして～することがあろうか」と反語の意。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　  唐　　江　爲

 

萬里黃雲凍不飛　　　　万里の黄雲 凍りて飛ばず

磧煙烽火夜深微　　　　磧(せき)煙(うん) 烽火 夜深くして微(かすか)なり

胡兒移帳寒笳絶　　　　胡児 帳を移し 寒笳(かんか)絶え

雪路時聞探馬歸　　　　雪路 時に聞く 探(たん)馬(ば)の帰るを

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○黃雲…辺塞地の雲。○磧煙…砂漠の砂埃。○胡児…異民族の人。○寒笳…寒々とした蘆笛の音。○探馬…探していた馬。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　　元　　廼　賢      

 

秋高沙磧地椒稀　　　　秋高く 沙磧(させき) 地椒(ちしょう) 稀(まれ)なり

貂帽狐裘晚出圍　　　　貂帽(ちょうぼう) 狐裘(こきゅう) 晩に囲(かこみ)を出ず

射得白狼懸馬上　　　　白狼を射得て 馬上に懸(か)け

吹笳夜半月中歸　　　　笳(か)を吹いて 夜半 月中に帰る

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○沙磧…砂漠。○地椒…北方にはえるはじかみの一種。○貂帽…貂の皮で作った帽子。○狐裘…狐の皮で作った皮衣。○笳…あしぶえ。

 

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　　  明　　張　經

 

毎歳防秋西戎邊　　　　毎歳 秋を防ぐ 西戎(せいじゅう)の辺

荒城落日枕戈眠　　　　荒城 落日 戈(ほこ)を枕して眠る

祈連山下朝朝雪　　　　祈(き)連山下(れんさんか) 朝(ちょう)々(ちょう)の雪

不識鶯花二月天　　　　識らず 鶯(おう)花(か) 二月の天

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○防秋…秋になると侵入してくる異民族を防ぐ。○西戎…中国北西の地方。○祈連山…甘粛省と青海省に跨がる山脈。○鶯花…鶯と花。春日の景色をいう。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　張　經

 

銀鞍白馬羽林郎　　　　銀鞍 白馬 羽林郎(うりんろう)

孤帽貂裘塞上装　　　　孤帽(こぼう) 貂裘(ちょうきゅう) 塞上の装(よそおい)

腰下錦嚢斜挿箭　　　　腰下(ようか) 錦(きん)嚢(のう) 斜(ななめ)に箭(や)を挿し

隔河射殺左賢王　　　　河を隔てて射殺す 左(さ)賢(けん)王(おう)

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○羽林郎…近衛兵。○狐裘…狐の皮で作った皮衣。○貂帽…貂の皮で作った帽子。○錦嚢…錦の袋。○左賢王…匈奴の単于に次ぐ地位の者。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　秦

 

秋高沙漠斷鴻哀　　　　秋 高くして 沙漠 断鴻(だんこう)哀し

大將旗翻風色來　　　　大将旗 翻りて 風色来る

落日半天追虜騎　　　　落日 半天 虜騎(りょき)を追い

彎弓直過李陵臺　　　　弓を弯(ききしぼ)って 直ちに過ぐ 李(り)陵(りょう)台(だい)

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○斷鴻…群れから離れた孤独な雁。○風色…風。○半天…中空。○虜騎…異民族の騎兵。○李陵臺…李陵の墓。所在地不祥。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　秦

 

窮邊寒日慘無光　　　　窮(きゅう)辺(へん)の寒日 惨(さん)として 光 無し

沙草連天走白狼　　　　沙草 天に連なり 白(はく)狼(ろう)を走らす

百戰健兒爭射獵　　　　百戦の健児 争いて射(しゃ)猟(りょう)す

秋風躍馬黑山陽　　　　秋風に馬を躍(おど)らす 黒山(こくざん)の陽(よう)

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○窮邊…荒れ果てた辺塞の地。○沙草…砂に生えた草。○黑山…不祥。普通名詞？。○陽…南側。

　　

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　秦

 

暮雲點澹壓邊樓　　　　暮雲 点澹(てんたん)として 辺楼(へんろう)を圧す

雪滿黄河凍不流　　　　雪は黄河に満ちて 凍りて流れず

野焼連山胡馬絶　　　　野焼 連山 胡馬絶え

何人月下唱涼州　　　　何人か 月下に 涼州(りょうしゅう)を唱う

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○點澹…暗いさま。○邊樓…辺塞地の城楼。○野焼…野火。○胡馬…異民族の騎馬兵。○涼州…涼州詞。楽府題の曲。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　  清　　黄　伯

 

黄雲隴水起邊聲　　　　黄雲 隴(ろう)水(すい) 辺声起る

白草寒沙接塞城　　　　白草 寒沙 塞(さい)城(じょう)に接す

征雁不來郷信斷　　　　征(せい)雁(がん) 来らず 郷信(きょうしん)断ゆ

月明空照漢家營　　　　月明 空しく照らず 漢家の営

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○黄雲 … 黄色い雲、黄塵を巻き上げた雲。○隴水…甘肅省にある川。黄河上流の支流の一になる。○邊聲…辺境の地における胡笳、画角などの音。○白草…枯れて白くなった草。○塞城…城塞。○征雁…渡り鳥の雁。手紙を運ぶという。蘇武の故事。○郷信…家郷からの便り。○漢家…ここでは清王朝。○営…軍営。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王　昶

 

軍符昨日下西京　　　　軍(ぐん)符(ぷ) 昨日 西京(さいけい)に下る

都護行邊事遠征　　　　都(と)護(ご) 辺に行き 遠征を事とす

鼓角風高秋出塞　　　　鼓角 風 高くして 秋に塞を出で

旌旗月冷夜移營　　　　旌旗(せいき) 月 冷かにして 夜 営を移す

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○軍符…軍を発する命令の爲の割り符。○西京…不確定。西域の都護府の意味？○都護…軍隊を率いて一地方を鎮め守る官職。○旌旗…旗と幟の総称。軍士。○営…軍営。

　　　

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　 清　　王　昶

 

絶塞秋高萬馬霜　　　　絶(ぜっ)塞(さい) 秋は高し 万馬の霜

邊城寒色晩蒼蒼　　　　辺城の寒色 晩に蒼々(そうそう)たり

夜深明月横滄海　　　　夜 深くして 明月 滄海(そうかい)に横わる

獨上高臺望故郷　　　　独(ひと)り 高台に上りて 故郷を望む

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○絶塞…究極の遠さにある寨。○寒色…寒々とした気配、景色。○蒼蒼…空などの青青としたさま。○滄海…大海。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　  清　　王　昶

 

羽林十萬盡横戈　　　　羽(う)林(りん) 十万 尽(ことごと)く戈(ほこ)を横(よこた)う

不許天驕更請和　　　　許さず 天驕(てんきょう)の更に和を請うを

纔捲旌旗臨上郡　　　　纔(わずか)に旌(せい)旗(き)を捲いて 上郡に臨む

前軍已渡白狼河　　　　前軍 已に渡る 白(はく)狼(ろう)河(が)

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○羽林…近衛兵。○天驕…匈奴のこと。○旌旗…旗の総称。○上郡…陝西省北部。○白狼河…不祥。

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲    　　　　　　　　　　　  清　　王　昶

 

颯颯飛霜點銕衣　　　　颯々(さつさつ)たる 飛霜 銕(てつ)衣(い)に点ず

親提一旅破重圍　　　　親しく 一旅を提し 重囲を破る

沙上日暮黄雲合　　　　沙上 日暮 黄雲合(がっ)す

獨斬楼蘭報捷歸　　　　独り 楼(ろう)蘭(らん)を斬りて 捷(かち)を報じて帰る

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○颯颯…風がさっと吹くさま。○銕衣…鉄のよろい。○黄雲 … 黄色い雲、黄塵を巻き上げた雲。○楼蘭…新疆ウイグル自治区、ロプノール湖の西にあった小独立国。

　　　

 

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　清　　楊　涵     

 

斷梗飛蓬帯雪残　　　　断梗 飛蓬 雪を帯びて残(ざん)す

高臺倒射北風寒　　　　高台　倒射し 北風寒し

須知恩婦樓頭月　　　　須く知るべし　恩婦楼頭の月

不及征人馬上看　　　　及ばず　征人の馬上に看るに

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○斷梗…ちぎれたヤマニレ。○飛蓬…根がちぎれて風に飛ばされるヨモギ。○残…損なわれる。○恩婦楼…不祥。

             

 

★    塞上曲　　　　　　　　塞上(さいじょう)の曲　　　　　　　　　　　　　　　清　　楊　涵     

 

點點哀鴻没遠空　　　　点々(てんてん)たる 哀(あい)鴻(こう) 遠空に没し

牧兒歸去背鵰弓　　　　牧児 帰り去りて 鵰(しゅう)弓(きゅう)を背(せお)う

晩來畧看風沙息　　　　晩来 略(ほ)ぼ看る 風沙の息を

疑貢城邊夕照紅　　　　疑(ぎ)貢(こう)城辺(じょうへん) 夕照紅なり

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○點點…小さい物が多くあるさま。○哀鴻…哀れに見える雁。○牧児…牧童。○鵰弓…精美な弓。○晩来…夜になってから。○風沙…大風が砂を捲き上げること。○疑貢城…不祥。

 

             


 

★    塞上曲送王元美　　　　塞上(さいじょう)の曲 王元(おうげん)美(び)を送る　　　　　　　　清　　李樊龍     

 

西出居庸大漠開　　　　西のかた 居(きょ)庸(よう)を出ずれば 大漠(たいばく)開く

胡塵遥暗白登臺　　　　胡塵 遥かに暗し 白(はく)登(とう)台(だい)

愁看塞上蕭條色　　　　愁い看る 塞上 蕭(しょう)条(じょう)の色

落日秋風萬里來　　　　落日 秋風 万里来る

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○王元美…王世貞。明を代表する詩人。江蘇省蘇州の人、嘉靖二十六年の進士、刑部尚書に到る。李樊龍とは友人関係。○居庸…薊門関、天津市最北部に位置した関所？○大漠…大砂漠。○胡塵…異民族居住地の土埃。○白登臺…不祥。○蕭條…もの静かなさま。

 

             

★    塞上曲送王元美　　　　塞上(さいじょう)の曲 王元(おうげん)美(び)を送る　　　　　　　　清　　李樊龍     

             

白羽如霜出塞寒　　　　白羽 霜の如く 出塞寒し

胡烽不斷接長安　　　　胡烽 断えず 長安に接す

城頭一片西山月　　　　城頭 一片 西山の月

多少征人馬上看　　　　多少の征人 馬上に看る

 

【語釈】

○塞上曲…楽府題。塞上は、辺境の塞のあたりの意。○王元美…王世貞。明を代表する詩人。江蘇省蘇州の人、嘉靖二十六年の進士、刑部尚書に到る。李樊龍とは友人関係。○白羽…将帥が持つ指揮旗。○胡烽…異民族居住地の烽。○多少…多く。○征人…出征兵士。

 

             

 

★    塞上聞吹笛　　　　　　塞上(さいじょう)にて吹(すい)笛(てき)を聞く　　　　　　　　　　  唐　　高　適

 

雪淨胡天牧馬還　　　　雪浄くして胡天牧馬還り

月明羌笛戍樓閒　　　　月は明かに羌笛戍楼の間

借問梅花何處落　　　　借問す梅花何れの処にか落つる

風吹一夜滿關山　　　　風吹きて一夜関山に満つ

 

【語釈】

○淨…きよらかである。○胡天…えびすの地の空。○牧馬…飼い養っている馬。○還…（出かけていったものが）かえる。○羌笛…西方異民族（チベツト系）の吹く笛。○戍樓…辺境防備用の望楼。○借問…ちょっと質問する。○關山…関所となるべき要害の山。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    隴西行　　　　　　　　隴(ろう)西行(せいこう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陳　陶

 

漢主東封報太平　　　　漢主 東封(とうふう)して 太平を報ず

無人金闕議邊兵　　　　人の 金闕(きんけつ)に辺兵を議する無し

縱饒奪得林胡塞　　　　縦饒(たとい) 林(りん)胡(こ)の塞を 奪い得ても

磧地桑麻種不生　　　　磧地(せきち)の桑(そう)麻(ま) 種 生ぜず

 

【語釈】

○隴西行…楽府題、隴西（甘肅省西部）の歌。○東封…匈奴を東の国に封じ，和睦が成立したこと。○金闕…宮城。邊兵…匈奴との戦い。○縱饒…縦令と同じ、「たとい」と読み、「たとえ～しても」の意。○林胡塞…匈奴の寨、位置不明。○磧地…砂漠の地。

 

 

　　　

★    隴西行　　　　　　　　隴(ろう)西行(せいこう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陳　陶

 

誓掃匈奴不顧身　　　　匈奴を掃(はら)わんと 誓って 身を顧(かえり)みず

五千貂錦喪胡塵　　　　五千の貂(てん)錦(にしき) 胡(こ)塵(じん)に喪う

可憐無定河邊骨　　　　憐むべし 無定河辺(むていかへん)の骨

猶是春閨夢裏人　　　　猶お是れ 春(しゅん)閨(けい) 夢(む)裏(り)の人

 

【語釈】

○隴西行…楽府題、隴西（甘肅省西部）の歌。○掃…討ち滅ぼす。○貂錦…美しい軍装の兵士。○胡塵…異民族が攻めてくる土埃。無定河…内モンゴルオルドス砂漠から始まり、南に黄土峡谷と農地に流れ込む。下流部は天井川をなし，河道が移動して，流路が定まらないため〈無定河〉と呼ばれていた。○春閨…艶めかしい婦人の部屋。

（参考文献）　　『唐詩三百首』

 

 

★    隴西行　　　　　　　　隴(ろう)西行(せいこう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陳　陶

 

黠虜生擒未有涯　　　　黠(かつ)虜(りょ) 生擒(せいきん) 未だ涯(がい)有らず

黑山營陣識龍蛇　　　　黒山の営陣 竜蛇を識る

自從貴主和親後　　　　貴主 和親の後自従(より)

一半胡風似漢家　　　　一半の胡風 漢家に似たり

 

【語釈】

○隴西行…楽府題、隴西（甘肅省西部）の歌。○黠虜…狡猾な敵人。○生擒…捕虜。○黑山…遼寧省錦州市黑山県。○龍蛇…勝者と敗者。○貴主…外国の国王への尊称。○自從…「より」と読み「～して以来」の意。○一半…二分の一。○胡風…異民族の風習。

 

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　翰

 

葡萄美酒夜光杯　　　　葡萄の美酒 夜光の杯

欲飲琵琶馬上催　　　　飲まんと欲すれば 琵琶 馬上に催(もよお)す

醉臥沙場君莫笑　　　　酔うて 沙場(さじょう)に臥す 君 笑うこと莫かれ

古來征戰幾人回　　　　古来 征戦 幾人か回(かえ)る

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○葡萄美酒…西域産の葡萄酒。○夜光杯…わずかな光で輝く，ガラス、白玉製の杯。○催…せきたてるように弾く。うながすという読み方もある。○沙場…砂漠の土の上。○征戦…戦に行くこと。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

　　　

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　 　　　　　　　　  唐　　柳中庸

 

關山萬里遠征人　　　　関山 万里 遠征の人

一望家山淚滿巾　　　　一望 家山 涙 巾(きん)に満つ

青海戍頭空有月　　　　青海 戍頭(じゅとう) 空しく 月 有り

黃沙磧裏本無春　　　　黄沙 磧(せき)裏(り) 本より 春 無し

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○關山…関所のある山。○家山…家郷の山。○青海…青海湖。青海省にある中国最大の湖。○戍頭…守備地の上。○磧裏…砂漠の中。

 

 

　　　

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　王之渙

 

黃河遠上白雲間　　　　黄河 遠く上る 白雲の間

一片孤城萬仞山　　　　一片の孤城 万仞(ばんじん)の山

羌笛何須怨楊柳　　　　羌(きょう)笛(てき) 何んぞ須(もち)いん 楊柳を怨むを

春光不度玉門關　　　　春光 度らず 玉門関

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○一片…ぽつんと一つあるさま。○孤城…ぽつんと一つだけの城塞。○萬仞…非常に高いこと。○羌笛…西方のチベット系の人の吹く笛。○楊柳…『折楊柳』の曲調、別離の曲。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　籍

 

邊城暮雨鴈飛低　　　　辺城 暮雨 鴈の飛ぶこと低し

蘆筍初生漸欲齊　　　　蘆(ろ)筍(じゅん) 初めて生じ 漸(ようや)く斉(ととの)わんと欲す

無數鈴聲遙過磧　　　　無数の鈴声 遥かに 磧(せき)を過ぐ

應馱白練到安西　　　　応(まさ)に 馱(だ)白(はく)をして 安西(あんせい)に到らしむべし

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○邊城…辺地にある街。○漸…だんだんと。しだいしだいに。○鈴声…隊商の馬、駱駝に付けた鈴の音。○磧…砂漠。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～であるに違いない」の意。○白練…白色の練り絹。○安西…安西（トルファン市、クッチャ市一帯）の都護府。

 

　　

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　籍

 

鳳林關裏水東流　　　　鳳(ほう)林関(りんかん)裏(り) 水 東流す

白草黃榆六十秋　　　　白草 黄榆(こうゆ) 六十秋

邊將皆承主恩澤　　　　辺将 皆 主の恩沢を承(うけたま)わり

無人解道取涼州　　　　人の 涼州(りょうしゅう)を取るを 解道(かいどう)する無し

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○鳳林関…甘粛省臨夏市の東北、黄河の南岸にあった関所。○白草…寒さのため白く枯れた草。○黄楡…葉の黄ばんだニレの木。○六十秋…六十年。○解道 … 理解する。○取涼州…涼州を攻め取る。

（参考文献）　　『唐詩選』　

 

 

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　胡　侍

 

落日黃河水倒流　　　　落日 黄河 水 倒(さか)しまに流る

沙場旌旆風悠悠　　　　沙場の旌旆(せいはい) 風 悠々(ゆうゆう)

新降胡奴不解語　　　　新たに 胡(こ)奴(ど)を降(くだ)せども 語を解せず

笛中吹出古涼州　　　　笛中 吹き出(いだ)す 古涼州(こりょうしゅう)

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○沙場…砂漠。○旌旆…戦争用の旗。○悠悠…他と関わりなくのんびりしたさま。○胡奴…敵の異民族。○古涼州…古い涼州の歌。

 

 

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王毓德

 

風捲狼烟塞日曛　　　　風は 狼煙(ろうえん)を捲き 塞(さい)日(じつ)曛(くん)ず

流泉愁向隴山聞　　　　流泉 愁いて 隴山(ろうざん)に向(お)いて聞く

玉門關外遙西望　　　　玉門関外 遥かに西望すれば

漠漠黄砂接白雲　　　　漠々(ばくばく)たる黄砂 白雲に接す

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○狼烟…烽火の煙。○塞日…要塞にかかる日。○流泉…泉から湧いて流れる水。○隴山…陝西・甘粛両省境中部、陝西省隴県の西北にある山。○漠漠…一面に続いているさま。

 

 

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　勃

     

隴水秋風胡雁鳴　　　　隴水(ろうすい) 秋風 胡雁鳴く　

戍樓羗笛動邊聲　　　　戍楼(じゅろう)の羗笛(きょうてき) 辺声を動かす

朔雲萬里無青草　　　　朔雲 万里 青草無く

唯見黄沙接渭城　　　　唯だ見る 黄沙の渭城に接するを

 

【語釈】

○隴水…渭水のこと。西安の近くを東流する黄河最大の支流。○胡雁…異民族の地の雁。○戍樓…要塞の物見櫓。○羗笛…異民族の笛の音。○朔雲…北方の雲気。○渭城…現在の西安空港のあるところ。

 

 

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　勃

 

雪消城窟水潺湲　　　　雪 消えて 城窟(じょうくつ) 水 潺湲(せんかん)たり

月照黄楡飲馬還　　　　月は 黄楡(こうゆ)を照らして 馬に飲(みずか)いて還る

烽火臺前聞暁角　　　　烽火台前 暁(ぎょう)角(かく)を聞く

思郷悵望漢關山　　　　思郷 悵望す 漢の関山

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌○城窟…万里の長城のあたりの泉水。○潺湲…浅い水の流れるさま。さらさら。○黄楡…葉の黄ばんだニレの木。○暁角…夜明けを告げる角笛。○悵望…悲しい気持で眺めやる。○關山…関所のある山。

 

 

 

★    涼州詞　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　傅昂霄

 

九月霜高塞草腓　　　九月 霜　高くして 塞草(さいそう)腓(しお)る

征鴻無數向南飛　　　征(せい)鴻(こう) 無数 南に向って飛ぶ

深閨莫道秋砧冷　　　深閨(しんけい) 道う莫かれ 秋(しゅう)砧(ちん)冷ゆと　　　　

夜夜寒光滿鐵衣　　　夜々 寒光 鉄(てつ)衣(い)に満つ

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○塞草…寨の周りの草。○征鴻…空を渡る雁。○深閨…女性の部屋（にいる妻）。○秋砧…秋に衣を打つ砧。

 

 

★    涼州詞　　　　　　　　涼州(りょうしゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　   清　　黄文連

 

營門鼓角夜蒼茫　　　　営門の鼓角 夜 蒼茫(そうぼう)たり　　　　

羗女琵琶斷客腸　　　　羗女(きょうじょ)の琵琶 客(かく)の腸を断つ　　　　

一曲涼州齊下涙　　　　一曲の涼州 斉(ひと)しく 涙 下る　　　　　

李陵臺上月如霜　　　　李陵台上 月 霜の如し

 

【語釈】

○涼州詞…楽府題。涼州（甘粛省中部）の歌。○蒼茫…薄暗いさま。○羗女…羗族の女。○涼州…涼州曲。○李陵台…李陵の墓。所在地不祥。

 

 

★    邊詞　　　　　　　　辺(へん)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張敬忠

 

五原春色舊來遲　　　五原の春色 旧来遅し

二月垂楊未挂絲　　　二月 垂楊 未だ糸を挂(か)けず

即今河畔冰開日　　　即今 河畔 氷開く日

正是長安花落時　　　正に是れ 長安 花落つる時

 

【語釈】

○辺詞…辺境を詠んだ詩。○五原…関内道塩州にある町の名。現・陝西省西北部で、寧夏回族自治区と内蒙古自治区との接点近くの地で現・定辺。○春色…春景色。○旧来…もともと、昔から。○二月…陰暦二月で、春も盛りのころ。○掛糸…芽を吹いたしだれ柳の枝が垂れ下がること。○即今…ただいま。○正是…ちょうど……である。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    邊庭四時怨　　　　　　辺庭 四時の怨　　　　　　　　　　　　  唐　　盧汝弼

 

春風昨夜到榆關　　　　春風 昨夜 榆関(ゆかん)に到る

故國煙花想已殘　　　　故国の煙花 想い已に残(ざん)す　

少婦不知歸未得　　　　少婦は知らず 帰ること未だ得ざるを

朝朝應上望夫山　　　　朝々(ちょうちょう) 応(まさ)に望夫山(ぼうふざん)に上るべし

 

【語釈】

○邊庭…辺地。○四時…四季（この詩は「春夏秋冬」四連作のうち「春」を詠ったもの）。○榆關…北方の辺塞。○煙花…花がすみ。○殘…損なわれる。○少婦…若い妻。○朝朝…毎朝。毎日。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○望夫山…妻が出征する夫を見送り、そのまま化したものと伝える望夫石のある湖北省武昌の北山。

 

 

★    邊庭四時怨　　　　　　辺庭 四時の怨　　　　　　　　  唐　　盧汝弼

 

盧龍塞外草初肥　　　　盧(ろ)竜(りゅう)塞外(さいがい) 草 初めて肥ゆ

雁乳平蕪曉不飛　　　　雁乳(がんにゅう) 平(へい)蕪(ぶ) 暁に飛ばず

郷國近來音信斷　　　　郷国(きょうこく) 近来 音信断ゆ

至今猶自著寒衣　　　　今に至るまで 猶(いま)自(だ) 寒衣を着(ちゃく)す

 

【語釈】

○邊庭…辺地。○四時…四季（この詩は「春夏秋冬」四連作のうち「夏」を詠ったもの）。○盧龍塞…河北省にあった要塞。○雁乳…雁のひな鳥。○平蕪…草木が群生した原野。○郷國…故郷。○猶自…未だ。

 

 

★    邊庭四時怨　　　　　　辺庭 四時の怨　　　　　　　　  唐　　盧汝弼

 

八月霜飛柳半黃　　　　八月 霜 飛んで 柳 半ば黄なり

蓬根吹斷雁南翔　　　　蓬(ほう)根(こん) 吹断(すいだん)し 雁 南に翔ぶ

隴頭流水關山月　　　　隴頭(ろうとう)の流水 関山の月

泣上龍堆望故鄉　　　　泣いて 竜堆(りょうたい)に上り 故鄉を望む

 

【語釈】

○邊庭…辺地。○四時…四季（この詩は「春夏秋冬」四連作のうち「秋」を詠ったもの）。○吹斷…風に吹かれてちぎれる。○隴頭…隴山、辺塞の山を指す。○關山…関所のある山。○竜堆…白竜堆の略称。今の新疆ウイグル自治区東部、ロプノール湖の東にある砂漠。

 

 

★    邊庭四時怨　　　　　　辺庭 四時の怨　　　　　　　　  唐　　盧汝弼

 

朔風吹雪透刀瘢　　　　朔風 雪を吹いて 刀瘢(とうはん)に透(とお)る

飲馬長城窟更寒　　　　馬に飲(みずか)えば 長城の窟 更に寒し

半夜火來知有敵　　　　半夜 火 来りて 敵 有るを知る

一時齊保賀蘭山　　　　一時に斉(せい)保(ほ)す 賀(が)蘭山(らんさん)

 

【語釈】

○邊庭…辺地。○四時…四季（この詩は「春夏秋冬」四連作のうち「冬」を詠ったもの）。○朔風…北風。○刀瘢 … 刀きず。○長城窟…万里の長城の下にある岩穴。○半夜…真夜中。○火来…のろしの火が伝わってくる。○一時…瞬間的に。○齊保…守備を固める。○賀蘭山…今の寧夏回族自治区の首府銀川市の西北にある山脈。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    邊庭四時怨　　　　　　辺庭 四時の怨　　　　　　　　  唐　　盧汝弼

 

昨夜西風入戎樓　　　　昨夜 西風 戎楼(じゅろう)に入る

前軍移帳急防秋　　　　前軍 帳(とばり)を移し 急に秋を防ぐ

陰山獵火龍沙月　　　　陰山(いんざん)の猟(りょう)火(か) 竜沙(りょうさ)の月

併照征人萬里愁　　　　併(あわ)せ照らす 征人 万里の愁

 

【語釈】

○邊庭…辺地。○四時…四季（この詩は「春夏秋冬」四連作のうち「秋」を詠ったもの）。○西風…秋風。○戎樓…国境を守る物見やぐら。○防秋…夷狄を防ぐこと。○陰山…陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。漢族と匈奴との境界となっていた。○獵火…烽火。○龍沙…北西塞外の砂漠。○征人…遠征の兵士。

 

　　

★    邊上聞胡笳　　　　　　辺上胡笳(へんじょうこか)を聞く　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

何處吹笳薄暮天　　　　何れの処か 笳(か)を吹く 薄暮の天

塞垣高鳥沒狼煙　　　　塞(さい)垣(かい) 高鳥 狼煙(ろうえん)を没す

遊人一聽頭堪白　　　　遊人 一たび聴くも 頭(こうべ) 白くするに堪えたり

蘇武爭禁十九年　　　　蘇武 争(いかで)か禁(た)えん 十九年

 

【語釈】

○邊上…辺境の地。○邊上…異民族のあしぶえ。○塞垣…寨のかき。○狼煙…のろし。○蘇武…漢の武帝の臣。匈奴に使いして捕虜となり、十九年間荒れ地で過ごした。

（参考文献）　『杜樊川絶句詳解』

 

 

 

★    邊上作　　　　　　　　辺上の作　　　　　　　　　　　　　  唐　　僧貫休

 

陣雲忽向沙中起　　　　陣雲 忽ち 沙中に向(お)いて起る

探得胡兵過遼水　　　　胡兵を探し得て 遼(りょう)水(すい)を過ぐ

堪嗟護塞征戍兒　　　　嗟(さ)するに堪えたり 塞を護る征戍(せいじゅ)の児

未戰已疑身是鬼　　　　未だ戦わずして 已に疑う 身は是れ鬼なるを

 

【語釈】

○邊上…辺境。○陣雲…軍陣に似た重なった雲、戦闘の起こる前触れとされる。○沙中…砂漠の中。○胡兵…敵である異民族の兵。○遼水…河北省平泉市の麒麟山を源流とし、内モンゴル自治区、吉林省を流れ、遼寧省の渤海に注ぐ河。○征戍兒…国境守備兵。○鬼…死者。

 

★    邊城春雪　　　　　　　辺城の春雪　　　　　　　　　　　　　  明　　王　越

 

二月邊城雪尚飛　　　　二月 辺城 雪 尚お飛び

年年草色見春遲　　　　年々 草色 春を見ること遅し

不知上苑新桃李　　　　知らず 上苑(じょうえん)の新桃(しんとう)李(り)

開到東風第幾枝　　　　開くに到る 東風　第幾(だいいく)枝(し)

 

【語釈】

○邊城…辺地にある街。○上苑…皇帝の庭園。○東風…春風。○第幾枝…多くの枝。

 

 

★    行邊　　　　　　　　　辺に行く　　　　　　　　　　　　　　　　明　　王庭相      

 

楡林上郡跨雄圖　　　　楡(ゆ)林(りん)上郡(じょうぐん) 雄図(ゆうと)に跨(また)がる

況是君王拝郅都　　　　況んや是れ 君王 郅(しつ)都(と)を拝するをや　

夜發金符催出塞　　　　夜 金符を発して 出塞を催(うなが)し

朝開罽帳獻擒胡　　　　朝(あした)に 罽帳(けいちょう)を開いて 擒(きん)胡(こ)を献ず

 

【語釈】

○楡林上郡…陝西省楡林市。○跨雄圖…壮大な計画に乗り出す。○郅都…漢の景帝時代に酷吏と恐れられた人物。○發金符…皇帝の命令をだすこと。○罽帳…皇帝の寝所に設けられた布のとばり。○擒胡…虜にした異民族。

 

 

★    贈友人邊遊回　　　　　友人の辺遊(へんゆう)して回(かえ)るに贈る　　　　　  唐　　馬　戴

 

遊子新從絕塞回　　　　遊子 新たに 絶(ぜつ)塞(さい)従(よ)り回(かえ)る

自言曾上李陵臺　　　　自(みずか)ら言う 曽て 李(り)陵(りょう)台(だい)に上ると

尊前語盡北風起　　　　尊前(そんぜん) 語(ご) 尽きて 北風起り

秋色蕭條胡鴈來　　　　秋色 蕭(しょう)条(じょう)として 胡(こ)鴈(がん)来(きた)る

 

【語釈】

○邊遊…辺境の地を巡る。○遊子…旅人。○絕塞…極めて遠い地の寨。○李陵臺…李陵の墓。所在地不祥。○尊前…酒樽の前。酒宴中に。○秋色…秋の気配。秋景色。○蕭條…もの静かで寂しいさま。○胡鴈…えびすの地方のかり。

 

 

★    軍城早秋　　　　　　　軍城早秋 　　　　　　　　　　　　　  唐　　嚴　武

 

昨夜秋風入漢關　　　　昨夜 秋風 漢関(かんかん)に入る

朔雲邊月滿西山　　　　朔(さく)雲(うん) 辺月 西山に満つ

更催飛將追驕虜　　　　更に 飛将を催して 驕(きょう)虜(りょ)を追わん

莫遣沙場匹馬還　　　　沙場の匹馬をして 還らしむる莫かれ

 

【語釈】

○軍城…軍隊が駐屯している町。○漢関…国境に設けられた唐の関所。○朔雲…北方の雲。○辺月…辺境の月。○西山…四川省成都の西北にある大雪山を指す。○飛将…前漢の武将、李広のこと。○驕虜…驕り高ぶった胡人。○沙場…砂漠。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    奉和嚴大夫軍城早秋　　厳大夫の「軍城早秋」に和し奉(たてまつ)つる　　  唐　　杜　甫

 

秋風褭褭動高旌　　　　秋風 褭々(じょうじょう) 高旌(こうせい)を動かし

玉帳分弓射虜營　　　　玉帳(ぎょくちょう) 弓を分って 虜営(りょえい)を射る

已收滴博雲間戍　　　　已に 滴(てき)博(はく) 雲間の戍(じゅ)を収めたり

更奪蓬婆雪外城　　　　更に奪わん 蓬(ほう)婆(ば) 雪外(せつがい)の城　

 

【語釈】　　　

○嫋嫋…風がそよそよと吹く様子。○高旌 … 高くかかげた大将の旗。○玉帳 … 将軍の陣営。○虜営 … 夷狄の陣営。○蓬婆 … 大雪山、一名蓬婆山。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    磧中作　　　　　　　　磧中(せきちゅう)の作　　　　　　　　　　　　　　　　 唐　　岑　參

 

走馬西來欲到天　　　　馬を走らせて 西来(せいらい) 天に到らんと欲す

辭家見月兩回圓　　　　家を辞してより 月の 両回(りょうかい)円(まど)かなるを見る

今夜不知何處宿　　　　今夜 知らず 何れの処にか宿せん

平沙萬里絶人煙　　　　平沙 万里 人煙 絶ゆ

 

【語釈】

○磧中作…砂漠の中で作った詩。○西來…西に向かってやってきたこと。○欲到天…今にも天まで届きそうだ。○辞家… 家を出てから。○月両回円…月が二度満月になった、二か月経過したこと囘…二廻りすること。○平沙…砂漠。○人煙…人家から立ち上る炊事の煙。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    夜上受降城聞笛        夜 受降(じゅこう)城(じょう)に上りて 笛を聞く　　　　　　  唐　　李　益

 

回樂峰前沙似雪　　　　回(かい)楽(らく)峰前(ほうぜん) 沙 雪に似たり

受降城外月如霜　　　　受降(じゅこう)城外(じょうがい) 月 霜の如し

不知何處吹蘆管　　　　知らず 何れの処か 蘆管(ろかん)を吹く

一夜征人盡望郷　　　　一夜 征人 尽(ことごと)く郷を望む

 

【語釈】

○受降城…漢の武帝の時、将軍公孫敖が匈奴の降伏を受けるために築いた城。位置不確定。○回楽峰 …受降城の近くにあった山。○蘆管…あしぶえ。○征人…遠征の兵士。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    寓懷　　　　　　　　　寓(ぐう)懐(かい)　　　　　　　　　　　　　　  　　　唐    高  駢

 

關山萬里恨難銷　　　　関山 万里 恨み銷(しょう)じ難し

鐵馬金鞭出塞遙　　　　鉄馬 金(きん)鞭(べん) 塞を出でて遥かなり

爲問昔時青海畔　　　　為に問う 昔時(せきじ) 青海の畔

幾人歸到鳳林橋　　　　幾人か 帰りて到る 鳳(ほう)林(りん)橋(きょう)

 

【語釈】

○寓懷…思いを寄せる。○關山…関所のある山。○鉄馬…鉄の鎧を着た馬。○金鞭…鞭の美称。○青海…青海湖。青海省にある中国最大の湖。○鳳林橋…不祥。

 

 

★    九日作　　　　　　　　九日(きゅうじつ)の作　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王  縉

 

莫將邊地比京都　　　　辺地を将(も)って 京都に比ぶる莫かれ

八月嚴霜草已枯　　　　八月 厳(げん)霜(そう) 草 已に枯る

今日登高樽酒裏　　　　今日 登高 樽(そん)酒(しゅ)の裏(うち)

不知能有菊花無　　　　知らず 能く菊花の有るや無きやを

 

【語釈】

○九日…旧暦九月九日。重陽の節句。○京都…長安。○登高…重陽の節句に高所に登って菊酒を飲み、邪気を払う習慣。

 

 

 

★    奉和裴相公東征途經女几山下作　　　　　　　　　　　　　　唐　　韓　愈

裴相(はいしょう)公(こう)の「東征の途にて女几(じょき)山下(さんか)を経(へ)て作る」に和し奉る

 

旗穿曉日雲霞雜　　　　旗は 暁(ぎょう)日(じつ)を穿(うが)って 雲霞(うんか)雑(まじ)わり

山倚秋空劍戟明　　　　山は 秋空に倚(よ)りて剣戟 明かなり

敢請相公平賊後　　　　敢(あえ)て請う 相(しょう)公(こう) 賊を平げて後

暫攜諸吏上崢嶸　　　　暫(しばら)く諸吏(しょり)を携えて崢嶸(そうこう)に上られんことを

 

【語釈】

○裴相公…裴度。山西省運城市の人。七八九年の進士、同中書門下平章事となり、戦功により晋国公に封ぜられた。韓愈は行軍司馬として、呉元済の乱を鎮圧する裴度の軍に従っていた。○女几山は…中宜陽県にある山。○剣戟……剣と矛。兵器。○相公…裴度。○崢嶸…険しい山。女几山のこと。

（参考文献）　　『漢詩大系』

 

 

★    凱歌　　　　　　　　　凱歌(がいか)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　岑　參

 

官軍西出過樓蘭　　　　官軍 西に出でて 楼(ろう)蘭(らん)を過ぎ

營幕傍臨月窟寒　　　　営幕(えいばく) 傍いて 月窟(げっくつ)に臨んで寒し

蒲海曉霜凝馬尾　　　　蒲(ほ)海(かい)の暁(ぎょう)霜(せつ) 馬尾に凝(こ)り

蔥山夜雪撲旌竿　　　　蔥山(そうざん)の夜雪 旌(せい)竿(かん)を撲(う)つ

 

【語釈】

○楼蘭…新疆ウイグル自治区、ロプノール湖の西にあった小独立国。○營幕…野外で宿泊するためのテント。○蒲海…新疆ウィグル自治区にある巴裏坤湖。○蔥山…パミール高原。○旌竿…軍旗の旗竿。

★　凱歌　　　　　　　　　凱歌　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　岑　參

 

暮雨旌旗溼未乾　　　　暮雨 旌旗(せいき) 溼(ぬれ)て 未だ乾かず

胡煙白草日光寒　　　　胡煙 白草 日光寒し

昨夜將軍連曉戰　　　　昨夜 将軍 暁に連りて戦い

蕃軍只見馬空鞍　　　　蕃軍 只だ見る 馬の空(くう)鞍(あん)なるを

 

【語釈】

○旌旗…軍用の旗。○胡煙…異民族の地の砂煙。○白草…枯れて白くなった草。○蕃軍…異民族の敵軍。○蕃軍…乗り手が殺されて空になった鞍。

 

 

★    凱歌　　　　　　　　凱歌(がいか)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　岑　參

 

日落轅門鼓角鳴　　　　日落ちて 轅門 鼓角鳴る

千群面縛出蕃城　　　　千群 面縛して 蕃城を出ず

洗兵魚海雲迎陣　　　　兵を洗い 魚海 雲陣を迎う

秣馬龍堆月照營　　　　馬に秣(まぐさ)かえば 龍堆(りゅうたい) 月 営を照らす

 

【語釈】

○轅門…將軍の営門。○鼓角…太鼓と角笛。○面縛…投降。○蕃城…敵の異民族の寨。○魚海…湖の名。不祥。○龍堆…白龍堆。西域の砂漠。

 

 

★    凱歌　　　　　　　　　凱歌　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊　景

 

旌旗風暖颺春暉　　　　旌旗 風暖かにして 春暉(しゅんき)を颺(あ)ぐ

的皪寒光照鐵衣　　　　寒光を的皪(てきらく)して 鉄衣を照らす

壯士銜枚聽傳令　　　　壮士 枚(ばい)を銜(くわ)えて 伝令を聴く

邊鴻敢傍陣雲飛　　　　辺(へん)鴻(こう) 敢えて 陣雲に傍いて飛ぶ

 

【語釈】

○旌旗…軍旗。○春暉…春日の陽光。○的皪…鮮明にする。○鉄衣…鉄の鎧。○枚…言葉を発しないように口に銜える箸のようなもの。○邊鴻…辺境の雁。

 

　　　　

凱歌　　　　　　　　　凱歌　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　沈明臣

 

銜枚夜度五千兵　　　　枚を銜えて 夜に度る 五千の兵

密領軍符號令明　　　　密(ひそ)かに軍符を領し 号令明らかなり

狹巷短兵相接處　　　　狭巷 短兵 相接する処

殺人如草不聞聲　　　　人を殺すこと 草の如く 声を聞かず

 

【語釈】

○枚…言葉を発しないように口に銜える箸のようなもの。○軍符…兵を徴集するときに使われた割り符。○狭巷…狭い道。○短兵…剣などの短い武器。

 

 

★    大金川凱歌　　　　　　大金川(だいきんせん) 凱歌　　　　　　　　　　　　　  清　　黄文連

 

平沙萬幕塵雲高　　　　平沙 万幕 塵雲高し

塞外風霜上戰袍　　　　塞外の風霜 戦袍(せんぽう)に上る

狂寇千群須面縛　　　　狂寇(きょうこう) 千群 須(すべから)く面縛(めんばく)すべし

元戎下令蕭秋毫　　　　元戎(げんじゅう) 令を下して 秋毫(しゅうごう) 蕭(しょう)たり

 

【語釈】

○大金川…四川省西北部にある川。○平沙…砂漠。○万幕…多くの陣幕。○戰袍…戦闘用の衣服。○狂寇…狂った外敵。○須…「すべからく～すべし」と読み、「必ず～しなければならない」の意。○元戎…主将。○秋毫…秋毫不犯。少しも違反しないこと。

 

 

★    永王東巡歌　　　　　　永(えい)王東巡歌(おうとうじゅんか)　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

丹陽北固是呉關　　　　丹(たん)陽(よう)の北固(ほくこ)は 是れ呉(ご)関(かん)

畫出樓臺雲水間　　　　画(えが)き出(いだ)す楼台 雲水の間

千巖烽火連滄海　　　　千(せん)巌(がん)の烽火(ほうか) 滄海に連り

兩岸旌旗繞碧山　　　　両岸の旌旗 碧山を繞(めぐ)る

 

【語釈】

○永王…李璘、粛宗の弟。水軍を任され南方の鎮圧に当たった。○東巡…東方を巡察する。○丹陽…江蘇省鎮江市。○北固…江蘇省鎮江市の東北にある山。○呉關…呉の地方の関所。○千巖…多くの岩山。○烽火…烽火台。○旌旗…戦の旗。

(参考文献)　　『漢詩大系　８』

 

★    按部道中              按部(あんぶ)道中(どうちゅう)                              金　　蕭　貢

 

寒城睥睨插山隅　　　　寒城 睥睨(へいげい)し 山隅に挿す

秋半霜風塞草枯　　　　秋 半ばにして 霜風 塞草(さいそう)枯る

月轉譙樓天未曉　　　　月は譙楼に転じて 天 未だ暁(あかつき)ならず

角聲吹徹小單于　　　　角声 吹(すい)徹(てっ)す 小単于(しょうぜんう)

 

【語釈】

○按部…不祥。○睥睨…見下ろす。○塞草…寨の周りの草。○譙樓…城門の上の見晴台。○角声…角笛の音。○吹徹…大いに吹く。○小單于…大きな角笛の曲名。

 

★    漠北詞　　　　　　　　漠(ばく)北詞(ほくし)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

大漠蕭蕭黑水流　　　　大漠(たいばく) 蕭々(しょうしょう)として 黒水流る

徤兒七月換羊裘　　　　徤児 七月 羊裘(ようきゅう)を換う

駱駝背上吹蘆管　　　　駱駝(らくだ)背上(せじょう) 蘆管(ろかん)を吹く

日暮長風動地秋　　　　日暮れて 長風 地を動かして秋なり

 

【語釈】

○漠北…蒙古大砂漠以北の地。○蕭蕭…物寂しい様、音の形容。○羊裘…羊のかわごろも。○蘆管…あしぶえ。○長風…大風。

 

 

★    漠北詞　　　　　　　　漠(ばく)北詞(ほくし)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

石頭敲火炙黄羊　　　　石頭 火を敲(こ)して 黄羊を炙(あぶ)る

邊女低歌勸酪漿　　　　辺女 低歌し 酪漿(らくしょう)を勧む

醉殺群胡不知夜　　　　酔殺(すいさつ) 群(ぐん)胡(こ) 夜を知らず

鷂兒嶺下月如霜　　　　鷂児(ようじ)嶺下(れいか) 月 霜の如し

 

【語釈】

○漠北…蒙古大砂漠以北の地。○敲火…火打ち石で火をおこす。○黄羊…野生の羊の一種。○邊女…辺境の女。○酪漿…動物の乳で造った酒。○醉殺…泥酔。○鷂兒嶺…不祥。

 

 

★    雲中曲　　　　　　　　雲中(うんちゅう)の曲　　　　　　　　　　　　　　　明　　李夢陽      

 

黑帽徤兒黃貉裘　　　　黒帽の徤児 黄貉(こうかく)の裘(かわごろも)

匹馬追胡紫塞頭　　　　匹馬　胡を追う 紫(し)塞(さい)の頭(ほとり)

相逢不肯通名姓　　　　相逢いて 肯えて 名姓を通ぜず

但稱家住古雲州　　　　但だ称す 家は 古雲州(こうんしゅう)に住むと

 

【語釈】

○雲中…山西省大同市地方。○黃貉裘…黄色いむじなのかわごろも。○匹馬…一頭の馬。○紫塞…寨。紫は黄の対として使った。○古雲州…江蘇省鎮江市丹陽市。

 

 

★    征夫怨　　　　　　　　征夫の怨(うらみ)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　野

 

黃雲白草沒燕山　　　　黄雲 白草 燕山(えんざん)を没す

百戰空存兩鬢斑　　　　百戦 空しく存す 両鬢の斑(はん)

不識征夫三十萬　　　　識らず 征夫(せいふ) 三十万

幾人生入玉門關　　　　幾人か生きて 玉門関に入るかを

 

【語釈】

○征夫…出征の兵士。○黃雲白草…辺塞地の風景の形容。風によって捲き上げられる黄砂と枯れて白くなった草。○燕山…辺塞の地をいう。

 

 

★    關山月　　　　　　　　関山月　　　　　　　　　　　　　　　  明　　林世薜

 

北塞西山青海灣　　　　北塞 西山 青海湾

夜懸明鏡玉門關　　　　夜 明鏡を懸(か)く 玉門関

那堪千里沙塲影　　　　那(な)んぞ堪えんや 千里 沙塲(さじょう)の影

十萬征人尚未還　　　　十万の征人 尚お 未だ還らず

 

【語釈】

○關山月…楽府題、横笛の曲。辺塞の関所のある山に懸かる月を詠ったもの。○青海…青海湖。青海省にある中国最大の湖。○明鏡…明月。○沙塲…砂漠。○征人…遠征の兵士。

　　　

 

★    夜宿楡關　　　　　　　夜 楡関(ゆかん)に宿す　　　　　　　　　　　　  明　　襲用卿

 

海天長望戎樓間　　　　海天 長望す 戎楼の間

烽火荒原隔暮山　　　　烽火 荒原 暮山を隔つ

永夜朔風傳漏鼓　　　　永夜 朔風 漏鼓を伝う

邊城明月照楡關　　　　辺城の明月 楡関(ゆかん)を照らす

 

【語釈】

○楡關…北方の辺塞。○長望…遠望。○戎樓…寨の見張りやぐら。○烽火…のろし。○朔風…北風。○漏鼓…水時計の鼓。○辺城…辺塞の街。

　　　

 

★    渡楡關　　　　　　　　楡関を渡る　　　　　　　　　　　　　  明　　襲用卿

 

朔漠風高草木枯　　　　朔漠 風　高くして 草木枯る

桓桓騎士列前驅　　　　桓々(かんかん)たる 騎士 前駆(ぜんく)に列す

夜歸雪滿弓刀白　　　　夜帰れば 雪 満ちて 弓刀白し

羗笛一聲山月孤　　　　羗(きょう)笛(てき) 一声 山月孤なり

 

【語釈】

○楡關…北方の辺塞。○朔漠…北方の大砂漠。○桓桓…勇猛な。○前驅…さきがけ。○羗笛…チベット民族の笛。

 

　

 

★    哀蜀人爲南詔俘虜      蜀人の南詔(なんしょう)の俘虜と為るを哀れむ　　　　  唐　　雍　陶

 

雲南路出洱河西　　　　雲南(うんなん)路(ろ)は出ず 洱(じ)河(が)の西

毒草長青瘴色低　　　　毒草 長青し 瘴色(しょうしょく)低し

漸近蠻城誰敢哭　　　　漸(ようや)く 蛮(ばん)城(じょう)に近く 誰か敢えて哭(こく)せん

一時收淚羨猨啼　　　　一時 涙を収め 猿啼(えんてい)を羨やむ

 

○南詔…8世紀半ば、雲南地方のに勃興したチベット・ビルマ語族の王国。○俘虜…捕虜。○雲南路…山東省青島市雲南路。○洱河…雲南省大理市を流れる川。○瘴色…熱病の元なる空気。○漸…だんだんと。しだいしだいに。○蠻城…野蛮人の街。○猨啼…猿の鳴き声。悲しみを誘うとされる。

　　　

 

★    城南書事　　　　　　　城南書事(じょうなんしょじ)　　　　　　　　　　　　　　　   明　　趙　羾

 

三年為客寄龍沙　　　　三年 客(かく)と為り 竜沙(りゅうさ)に寄る

望斷南雲不見家　　　　望断して 南雲 家を見ず

惟有受降城外月　　　　惟だ 受降(じゅこう)城外(じょうがい)の 月のみ有りて

照人清淚落胡笳　　　　人の 清涙の 胡笳(こか)に落つるを照らす

 

【語釈】

○龍沙…白龍堆。新疆ウイグル自治区南東部から甘粛省最西部一帯に広がる砂漠。○望斷…目の届く限り見渡す。○受降城…漢の武帝の時、将軍公孫敖が匈奴の降伏を受けるために築いた城。位置不確定。○胡笳…異民族。

 

 

★    賊平　　　　　　　　　賊 平らぐ　　　　　　　　　　　　　　  明　　陸之裘

 

波浪兼天寇盜窮　　　　波浪 天を兼ね 寇盗(こうとう)窮まる

將軍乘勝奏虜功　　　　将軍 勝に乗じ 虜(りょ)功(こう)を奏す

三年戎馬關河月　　　　三年 戎馬 関河の月

不及狼山一夜風　　　　及ばす 狼山 一夜の風に

 

【語釈】

○寇盜…盗賊。○虜功…捕虜を得た功績。○戎馬…戦争。○關河…関山（国境の山）と河。○狼山…不祥。

 

 

★    感懐　　　　　　　　　感懐(かんかい)　　　　　　　　　　　　　　   明　　沈　鍊

 

割生獻馘古來無　　　　生を割り 馘(かく)を献ずること 古来無し

解道功成萬骨枯　　　　解(かい)道(どう)す 功 成って 万骨枯るを

白草黄沙風雨夜　　　　白草 黄沙 風雨の夜

寃魂多少覔頭顱　　　　寃(えん)魂(こん) 多少 頭顱(とうろ)に覔(もと)む

 

【語釈】

○割生…殺す。○馘…取った首の代わりにする耳。○解道…理解する。○白草…枯れて白くなった草。○黄沙…風によって巻き上げられる黄塵。○寃魂…怨みをもった死者の魂。○多少…多く。○頭顱…髑髏。

 

 

★    贈蕭大將軍移鎮漁陽　　蕭(しょう)大将軍(だいしょうぐん)が鎮(ちん)漁(ぎょ)陽(よう)に移るに贈る　　　　　　明　　張以誠

 

鳴沙城北接雲中　　　　鳴沙(めいさ)城北(じょうほく) 雲中に接し

千里飛狐一道通　　　　千里の飛狐 一道通ず

十萬健兒齊上馬　　　　十万の健児 斉(ひと)しく馬に上(の)り

旌旗獵獵動秋風　　　　旌旗 猟々(りょうりょう)として 秋風に動く

 

【語釈】

○蕭大將軍…不祥。○鎮漁陽…天津市地方を統括する軍営。○鳴沙城…寧夏省中衛市鳴沙鎮。○飛狐…河北省保定市淶源鎮。○旌旗…軍隊の旗。○獵獵…物の翻るさま。

 

 

★    答郭中丞　　　　　　　郭中丞に答う　　　　　　　　　　　　　  明　　李化龍

 

横磨十萬吐霜花　　　　横磨 十万 霜花を吐く

風攪軍聲咽暮笳　　　　風は 軍声を撹(みだ)し 暮笳(ぼか)に咽(むせ)ぶ

越甲方鳴寧愛死　　　　越甲 方(まさ)に鳴き 寧(むし)ろ死を愛す

匈奴未滅敢言家　　　　匈奴 未だ滅せず 敢えて家を言う

 

【語釈】

○郭中丞…不祥。○横磨…横磨剣、長くて大きな剣。精鋭な兵士のたとえ。○霜花…冷たく光る剣の光。○暮笳…日暮れに聞こえるあしぶえ。○越甲…鎧を着た兵士。

 

 

★    答寄延綏王中丞　　　　延綏(えんあん)王(おう)中丞(ちゅうじょう)に答寄(とうよ)す　　　　　　　　　  明　　王世貞

 

中丞繡斧下青霄　　　　中丞の繡(しゅう)斧(ふ) 青霄(せいしょう)より下る

十萬軍聲静不囂　　　　十万の軍声 静にして囂(かまびす)しからず

何限五原春草色　　　　何限(なんげん)の五原 春草の色

莫令胡馬向秦驕　　　　胡馬をして秦驕に向わしむ莫かれ　　　　　　　　      

 

【語釈】

○延綏王中丞…不祥。○中丞…御史大夫（官吏を弾劾する役所の長官）の補佐役。○繡斧…地方巡察者が着る衣服と持つ斧。○青霄…帝都。○何限…無限。○五原…内蒙古自治区 五原県。○胡馬…異民族の馬。○秦驕…関中の大きな馬？

 

 

★    雁門作　　　　　　　　雁門(がんもん)の作 　　　　　　　　　　　　　　　  明　　屈大均

 

三年作客傍滹沱　　　　三年 客と作り 滹沱(こだ)に傍(そ)う

聽盡哀笳出塞歌　　　　聴き尽す 哀笳(あいか) 出塞の歌

白髮不愁明鏡滿　　　　白髪 愁えず 明鏡に満つるを

秋霜只怨雁門多　　　　秋霜 只だ怨む 雁門(がんもん)に多きを

 

【語釈】

○雁門…山西省北部。○滹沱…滹沱河、山西省繁峙県から河北省西部を流れる。 ○哀笳…哀しいあしぶえの音。○秋霜…白髪。

 

 

★ 晩登寶山鎮海樓　　　　晩に宝山(ほうざん)鎮(ちん)の海楼(かるい)に登る　　　　　　　　　  明　　王元勲

 

危樓斜對夕陽開　　　　危楼 斜に対し 夕陽(せきよう)開く

水霧濛濛拂面來　　　　水霧 濛々(もうもう)として 面を払って来る

一隊旌旗塘上轉　　　　一隊の旌旗 塘上(とうじょう)に転ず

將軍海上射鵰回　　　　将軍 海上に 鵰(わし)を射て回(かえ)る

 

【語釈】

○寶山鎮…不祥。○危樓…立派な楼閣。○濛濛…おぼろげなさま。うすぐらいさま。○旌旗…軍用の旗。

 

 

　　　

 

絶句類選標本　八

絶句類選　巻之十五　　宮掖類

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞                                 唐　　顧　況

 

玉樓天半起笙歌　　　　玉楼 天に半ばして 笙歌(しょうか)起り

風送宮嬪笑語和　　　　風 送りて 宮嬪(きゅうひん) 笑語和らぐ

月殿影開聞夜漏　　　　月殿 影開いて 夜漏(やろう)を聞き

水精簾卷近銀河　　　　水精の簾　巻いて 銀河近し

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○玉樓…りっぱな御殿。○天半…天のなかば。高殿の高いさまを謂う。○宮嬪…宮中の女官。○月殿…月の照らしている宮殿の意。○影開…影の場所が動く。時間の経過の表現。○夜漏…夜の水時計。

 

★    　宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

龍煙日暖紫曈曈　　　　竜(りゅう)煙(えん) 日暖かくして 紫 曈々(とうとう)

宣政門當玉殿風　　　　宣(せん)政門(せいもん)に当る 玉殿の風

五刻閣前卿相出　　　　五刻 閣前 卿相(きょうそう)出で

下簾聲在半天中　　　　簾(れん)を下し 声は 半天の中(うち)に在り

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○龍煙…六神の一つ。ここでは、瑞雲のことか？○曈曈…日のように光るさま。○宣政門…宣政殿の前側の宮門。○玉殿…宮殿の美称。○五刻…五更。夜明け方。○卿相…高位高官の人。○半天…中空。

 

 

★    宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

少年天子重邊功　　　　少年の天子 辺(へん)功(こう)を重んず

親到凌煙畫閣中　　　　親しく到る 凌(りょう)煙(えん) 画閣の中(うち)

敎覓勳臣寫圖本　　　　勲(くん)臣(しん)を覓(もと)め 図本に写さしむ

長將殿裏作屏風　　　　長(とこし)えに 将(まさ)に 殿(でん)裏(り)に屏風と作(な)さんとす

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○邊功…辺境のちにおける功績。○凌煙…淩煙閣（唐の太宗が功臣を画かせた建物） の略称。○畫閣…画で飾られた閣。○將…「まさに～せんとす」と読み「いまにも～しそうである」「すぐに～しよう」の意。○殿裏…宮中。

 

 

★    宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

春風吹雨灑旗竿　　　　春風 雨を吹いて 旗竿(きかん)に灑(そそ)ぐ

得出深宮不怕寒　　　　深宮 出で得て 寒を怕(おそ)れず

誇道自家能走馬　　　　誇りて道(い)う 自家 能(よ)く馬を走らすと

園中橫過覓人看　　　　園中 横過(おうか)し 人の看るを覓(もと)む

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○旗竿…はたざお。

 

 

★    宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

御廚不食索時新　　　　御廚(ごちゅう) 食(くら)わず 時(じ)新(しん)を索(もと)む

每見花開即苦春　　　　花の開くを見る毎に 即ち春を苦しむ

白日臥多嬌似病　　　　白日 臥(ふ)すこと多く 嬌(きょう) 病に似たり

隔簾敎喚女醫人　　　　簾を隔てて 喚(よ)ばしむ 女医人

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○御廚…宮中で提供される食物。○時新…時に応じた新鮮な物。○白日…真っ昼間。

 

 

★    宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

供御香方加減頻　　　　供(きょう)御香方(ぎょこうほう) 加減 頻(しきり)に

水沈山麝每回新　　　　水沈山麝　毎回 新たなり

內中不許相傳出　　　　內中 許さず 相伝の出ずるを

已被醫家寫與人　　　　已に 医家に写して人に与えらる

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○供御香方…皇帝の食事に供する香料や薬草を整える女官。○水沈…沈香。香木の一種。○山麝…麝香。麝の雄の腹からとった香。○內中…皇宮の中。○相傳…調整の仕方の秘伝。○結句…已に秘伝は医者に写し取られて世間に知れ渡っているの意。

 

 

★    宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

內人相續報花開　　　　內人 相い続いて 花の開くを報ず

准擬君王便看來　　　　准(じゅん)擬(ぎ)す 君王 便ち 看来るを

逢著五弦紅繡袋　　　　逢(ほう)著(ちゃく)す 五弦 紅繡(こうしゅう)の袋

宜春院裏按歌回　　　　宜(ぎ)春院(しゅんいん)裏(り) 歌を按(あん)じて回(かえ)るならん

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○內人…宮中の女官。○君王…皇帝。○准擬…推し量る。○逢著…出会う。○五弦…五弦琴。○宜春院…宮中の女官の住まい。

 

 

★    宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

金吾除夜進儺名　　　　金(きん)吾(ご) 除夜に 儺名(だめい)を進む

畫袴朱衣四隊行　　　　画(が)袴(こ) 朱衣 四隊行く

院院燒燈如白日　　　　院々(いんいん) 焼(しょう)灯(とう) 白日の如く

沈香火底坐吹笙　　　　沈香(じんこう) 火底(かてい)に 坐して笙を吹く

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○金吾…執金吾、首都警備隊長。○儺名…おにやらいを行う人の名簿。○畫袴朱衣…綺麗な袴と朱色の衣。○院院…家家。○沈香火底…沈香（香木の一種）が燃える傍ら。

（参考文献）　『三体詩』

 

　　　

★    宮詞                 宮詞      　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

五更初起覺風寒　　　　五更 初めて起き 風の寒きを覚ゆ

香炷燒來夜已殘　　　　香炷(こうしゅ) 焼き来(きた)りて 夜 已に残(ざん)す

欲卷珠簾驚雪滿　　　　珠(しゅ)簾(れん) 巻かんと欲して 雪の満つるに驚く

自將紅燭上樓看　　　　自(みずか)ら 紅燭(こうしょく)を将(も)って 楼に上りて看る

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○五更…夜明け前。○香炷…香を焚くこと。○殘…尽きようとしているさま。○珠簾…たますだれ。

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

銀燭秋光冷畫屏　　　　銀燭 秋光 画屏(がへい)冷え

輕羅小扇撲流螢　　　　軽羅(けいら)の小扇 流蛍を撲(う)つ

玉階夜色涼如水　　　　玉(ぎょく)階(かい)の夜色 涼きこと 水の如し

臥看牽牛織女星　　　　臥(が)して看る 牽牛 織女星

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○銀燭…白いロウソク。○秋光…秋の景色。○畫屏…絵が描かれている屏風。○輕羅小扇…薄絹を張った軽やかなおうぎ。○流螢…飛び交うホタル。○天階…宮中のきざはし。○夜色…夜の景色。　

（参考文献）　　『唐詩三百首』

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李商隱

 

君恩如水向東流　　　　君恩 水の如く 東に向って流る

得寵憂移失寵愁　　　　寵(ちょう)を得て 移るを憂い 寵(ちょう)を失うを愁う

莫向尊前奏花落　　　　尊前(そんぜん)に向(お)いて 花の落つるを奏する莫かれ

涼風只在殿西頭　　　　涼風 只だ 殿の西頭に在り

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○君恩…皇帝の寵愛。○尊前…宴席。○花落…曲「梅花落」。○西頭…西側のほとり。

 

 

　　　

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　段成式      

 

二八能歌得進名　　　　二八 能く歌い 名を進むを得たり

人言選入便光榮　　　　人は言う 選入(せんにゅう) 便ち光栄

豈知妃后多嬌妬　　　　豈(あに)知らんや 妃(ひ)后(こう) 嬌妬(きょうと)多きを

不許君前唱一聲　　　　許さず 君前 一声を唱うを

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○二八…十六歳。○進名…皇帝に謁見する人の名簿に載る。○選入…選ばれること。○妃后…皇后、皇妃。○嬌妬…嫉妬。○君前…皇帝の前。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

繡裙斜立正銷魂　　　　繡裙(しゅうくん) 斜に立ち 正(まさ)に銷(しょう)魂(こん)

侍女移燈掩殿門　　　　侍女 灯を移して 殿門を掩う

燕子不歸花著雨　　　　燕子(えんし) 帰らず 花 雨を著(ちゃく)す

春風應是怨黃昏　　　　春風 応(まさ)に是れ 黄昏(こうこん)を怨むべし

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○繡裙…女性の伝統的な衣服。ここでは宮女。○銷魂…魂が消えるほどの悲しさ、寂しさ。○殿門…宮殿の門。○應…「まさに～すべし」と読み、「おそらく～であるであろう」「たいてい～のはずである」の意。○黃昏…たそがれ。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李建勳

 

宮門長閉舞衣閑　　　　宮門 長く閉し 舞衣 閑(かん)なり

略識君王鬢已斑　　　　略(いささ)か識る 君王 鬢 已に斑(まだら)り

却羨落花春不管　　　　却って羨やむ 落花 春 管せざるを

御溝流得到人間　　　　御溝(ぎょこう)に流れ得て 人間(じんかん)に到る

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○舞衣…舞うときの衣裳。○君王…皇帝。○不管…管理しない。○御溝…宮廷の堀。○人間…一般社会。宮廷の外。

 

　　　

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　徐　凝

 

水色簾前流玉箱　　　　水色 簾前(れんぜん) 玉箱(ぎょくしょう)流る

趙家飛燕侍昭陽　　　　趙家(ちょうか)の飛燕(ひえん) 昭(しょう)陽(よう)に侍す

掌中舞罷簫聲絕　　　　掌中(しょうちゅう)舞(ぶ) 罷(や)みて 簫声絶え

三十六宮秋夜長　　　　三十六宮 秋夜長し

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○玉箱…玉で飾った箱。○趙家飛燕…趙飛燕、漢の成帝の寵愛を受け皇后となったが、成帝の死後に庶民に落とされ自殺した。○昭陽…漢の宮殿で妃の住まうところ。○掌中舞…趙飛燕の舞。趙飛燕は軽かったのでこう呼ばれる。○三十六宮…多くの宮殿。

　　　

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　徐仲雅

 

内人曉起怯春寒　　　　内人(ないじん) 暁に起き 春寒(しゅんかん)に怯(おび)ゆ

輕揭珠簾看牡丹　　　　軽く珠簾を掲(かか)げ 牡丹を看る

一把柳絲收不得　　　　一(いっ)把(ぱ)の柳糸 収むるを得ず

和風搭在玉闌干　　　　風に和して 搭は 玉闌干(ぎょくらんかん)に在り

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○内人…宮中の女官。○春寒…初春のうすら寒さ。○珠簾…玉すだれ。○柳糸…しだれやなぎの枝。○玉欄杆…玉で飾った闌干。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　韓　維

 

漸暖正當挑菜日　　　　漸(ぜん)暖(だん) 正(まさ)に当る 挑(ちょう)菜(さい)の日

輕陰漸變養花天　　　　軽陰 漸(ぜん)変(へん)す 養花の天

君王勤政稀游幸　　　　君王 政勤(せいきん)し 游(ゆう)幸(こう)稀なり

院院相過理管弦　　　　院々(いんいん) 相過ぎて 管弦を理(り)す

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○漸暖…段々と暖かくなること。○挑菜日…花神節、花朝節。旧暦二月十二日～十五日。○輕陰…淡い雲。○漸變…段々変化する。○養花天…花曇りの空。○君王…皇帝。○勤政…政治に励む。○游幸…遊びのための御幸。○院院…多くの宮殿。○管弦…管楽器と弦楽器。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　  宋　　武　衍

 

梨花風動玉蘭香　　　　梨花 風 動いて 玉蘭(ぎょくらん)香(かん)ばし

春色沈沈鎖建章　　　　春色 沈々 建(けん)章(しょう)を鎖(とざ)ず

唯有落紅官不禁　　　　唯だ 落紅 官の禁ぜざる有りて

儘教飛舞出宮牆　　　　侭(ことごと)く 飛(ひ)舞(ぶ)をして 宮牆(きゅうしょう)を出(い)ださしむ

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○玉蘭…白木蓮。○春色…春景色。春の気配。○沈沈…盛んなさま。○建章…建章宮、漢の武帝が長安西に造営した宮殿。複道によって未央宮と連絡していた。○落紅…落花。○飛舞…飛び舞うこと。○宮牆…宮殿の垣根。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　許安仁

 

輕寒惨惨透衾羅　　　　軽寒 惨々(さんさん)として衾(きん)羅(ら)を透す

玉箭銅壺漏水多　　　　玉箭(ぎょくせん) 銅(どう)壺(こ) 漏水多し

常是未明供御服　　　　常に是れ 未明 御服(ぎょふく)を供す

夢回頻問夜如何　　　　夢 回(かえ)りて頻(しき)りに問う 夜 如何(いかん)んと

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○輕寒…微寒。○惨惨…物寂しいさま。○衾羅…掛け布団と薄物の着物。○玉箭…銅壺中の浮箭の美称。○銅壺…銅製の時計。○御服…皇帝の服。○夢回…目が覚める。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

一夜西風入碧梧　　　　一夜 西風 碧梧(へきご)に入る

蟬聲永巷月華孤　　　　蟬声 永巷 月華(げっか)孤なり

幾回夢裏羊車過　　　　幾回か夢(む)裏(り) 羊(よう)車(しゃ)過ぎ

又是銀牀轉轆轤　　　　又た是れ 銀床 轆轤(ろくろ)を転ず

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○西風…秋風。○碧梧…綠色の梧桐樹。○永巷…宮中の長い道。○月華…月光。○夢裏…夢の中。○羊車…装飾した綺麗な車。宮中で羊に引かせる。○銀床…轆轤を支える棚。

 

　　　

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊皇后

 

瑣窗宮漏滴銅壺　　　　瑣(さ)窓(そう) 宮漏(きゅうろう) 銅(どう)壺(こ)に滴(した)たる

午夢驚回落井梧　　　　午夢 驚き回り 井梧(せいご)に落つ

風遞樂聲來玉宇　　　　風は楽声(がくせい)を逓(てい)して玉宇(ぎょくう)に来り

日移花影上金鋪　　　　日は移り 花影 金鋪(きんぽ)に上る

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○瑣窗…花紋をちりばめた窓。○宮漏…宮中の水時計。○銅壺…銅製の水時計。○驚回…目が覚める。○井梧…井戸の周りにある梧桐の木。○玉宇…佳麗な宮殿。○金鋪…金の門環の台座。

 

 

★    宮詞                 宮詞                            唐　花蕊夫人

 

春風一面曉妝成　　　　春風 一面 暁妝(ぎょうしょう)成り

偷折花枝傍水行　　　　偷(ひそか)に花枝を折りて 水に傍いて行く

却被内監遙覷見　　　　却って 内監(ないかん)に 遥かに覷(そ)見(けん)被(せ)られ

故將紅豆打黃鶯　　　　故(ことさら)に 紅豆を将(も)って 黄鶯(こうおう)を打つ

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○曉妝…朝化粧。○内監…宦官の通称。○覷見…窺い見る。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　花蕊夫人

 

侍女爭揮玉彈弓　　　　侍女 争い揮(ふる)う 玉弾(ぎょくだん)弓(ゆみ)

金丸飛入亂花中　　　　金丸 飛び入る 乱花の中(なか)

一時驚起流鶯散　　　　一時に驚き起き 流(りゅう)鶯(おう)散じ

踏落殘花滿地紅　　　　踏み落とす 残花 地に満ちて紅なり

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○彈弓…はじき弓（弾丸を飛ばす弓）の美称。○金丸…金の弾丸。○流鶯…ウグイス。○殘花…散り残りの花。

　　　

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　花蕊夫人

 

内庭秋燕玉池東　　　　内庭 秋(しゅう)燕(えん) 玉(ぎょく)池(ち)の東

香散荷花水殿風　　　　香散じ 荷(か)花(か) 水殿の風

阿監采菱牽錦纜　　　　阿監(あかん) 菱を采り 錦(きん)纜(らん)を牽(ひ)く

月明猶在畫船中　　　　月明(げつめい) 猶お 画(が)船(せん)の中(うち)に在り

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○内庭…宮城の中。○玉池…池の美称。○阿監…宦官。○錦纜…錦のとも綱。○畫船…絵で飾った船。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  唐　花蕊夫人

 

太液波清水殿涼　　　　太液 波清く水殿涼し

畫船驚起宿鴛鴦　　　　画(が)船(せん) 驚起す 宿鴛鴦

翠眉不及池邊柳　　　　翠眉 及ばず 池辺の柳

取次飛花入建章　　　　取次(しゅじ) 飛花 建章に入る

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○太液…太液池、漢では長安の西にあり、唐では大明宮の中にあった。○水殿…水に臨ん殿堂。○畫船…絵で飾った船。○宿鴛鴦…宿っているおしどり。○翠眉…美人。○取次…かりそめに。しばらく。○建章…建章宮､漢の武帝が長安に建てた宮殿。

 

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　花蕊夫人

 

釣練沈波漾彩舟　　　　釣練 波に沈み 彩舟に漾(ただよ)う

魚爭芳餌上龍鉤　　　　魚は 芳(ほう)餌(じ)を争い 竜(りゅう)鉤(こう)に上る

内人急捧金盤接　　　　内人 急に 金盤を 捧じて接す

撥剌紅鱗躍未休　　　　撥剌(はっし)たる 紅(こう)鱗(りん) 躍りて休(や)まず

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○釣練…釣り竿の糸。○彩舟…彩られた舟。○芳餌…よい餌。○龍鉤…釣り針の美称。○内人…宮女。○撥剌…魚尾の水をはじく音。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  唐　花蕊夫人

 

三清臺近苑牆東　　　　三(さん)清(せい)台(だい)は近し　苑牆(えんしょう)の東

樓檻層層映水紅　　　　楼(ろう)檻(かん) 層々(そうそう) 水に映じて紅なり

盡日綺羅人度曲　　　　尽日 綺羅人(きらひと) 曲(くま)に度る

管弦聲在半天中　　　　管弦 声は在り 半天の中(うち)

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○三清臺…大明宮にある宮殿。○苑牆…庭園の垣根。○樓檻…楼の闌干。○層層…幾重にも重なっているさま。○盡日…一日中。○綺羅人…美しい衣裳の人。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  唐　花蕊夫人

 

東内斜將紫禁通　　　　東内 斜めに 紫禁(しきん)を将(ひき)いて通ず

龍池鳳苑夾城中　　　　竜(りょう)池(ち) 鳳(ほう)苑(えん) 夾(きょう)城(じょう)の中(うち)

曉鐘聲斷嚴妝罷　　　　暁鐘 声 断え 厳妝(げんしょう)罷(や)む

院院紗窗海日紅　　　　院々(いんいん)の紗(さ)窓(そう) 海日紅なり

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○東内…唐の大明宮。城内の東にある。○紫禁…皇帝の居場所。○龍池…興慶宮内にあった池の名。○鳳苑…皇帝の庭園。○夾城…狭い街。○嚴妝…厳かな装い。○紗窗…カーテンをした窓。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  元　　廼　賢

 

廣寒宮殿近瑤池　　　　広(こう)寒(かん)宮殿(きゅうでん) 瑶(よう)池(ち)に近く

千樹長楊綠影齊　　　　千樹の長楊 緑影斉(ととの)う

報道夜來新雨過　　　　報じ道(い)う 夜来 新雨過ぐと

御溝春水已平隄　　　　御溝(ぎょこう)の春水 已に 隄(つつみ)に平かなり

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○廣寒宮…月の中にあると言われる宮殿。○瑤池…宮城の中にある池。○長楊…長いしだれ柳。○御溝…宮城の堀。

 

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　申屠衡

 

青鎖春閒漏點遲　　　　青鎖 春間 漏点遅し

博山香煖翠煙微　　　　博山(はくざん) 香 煖(あたた)かにして 翠煙(すいえん)微(かすか)なり

隔簾誰撼金鈴響　　　　簾(れん)を隔てて 誰か撼(うご)かす 金鈴の響

知是花間燕子歸　　　　知る是れ 花間 燕子(えんし)の帰るを

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○青鎖…宮殿。○漏點…水時計の音。○博山…香炉の一種。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　 明　　王　蒙

 

南風吹斷采菱歌　　　　南風 吹断(すいだん)す 采(さい)菱(りょう)の歌

夜雨新添太液波　　　　夜雨 新たに添う 太(たい)液(えき)の波

水殿雲廊三十六　　　　水殿 雲廊(うんろう) 三十六

不知何處月明多　　　　知らず 何れの処か 月明多きかを

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○南風…夏風。○采菱歌…菱を採るときに歌う歌。○太液…太液池。唐では大明宮の中にあった。○水殿…水に臨む殿堂。○雲廊…高い楼閣の廊下。○三十六…数多いこと。

 

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　明　　王廷相

 

雲鬢蛾眉紫鳳笙　　　　雲(うん)鬢(びん) 蛾(が)眉(び) 紫(し)鳳(ほう)の笙

三千隊裏獨分明　　　　三千の隊(たい)裏(り) 独り分明

君王莫作尋常看　　　　君王 作す莫(なか)れ 尋常の看(かん)

一別昭陽便隔生　　　　昭陽に一別して　便ち生を隔つ

 

【語釈】

○雲鬢蛾眉…美人の形容。○紫鳳…伝説中の神鳥の模様。○三千隊裏…多くの後宮の美女の中。○分明…際立つこと。○君王…皇帝。○昭陽…昭陽宮。后妃の住むところ。○一別昭陽…玄宗皇帝と楊貴妃の別れ。「昭陽殿裏恩愛絶，蓬萊宮中日月長。」長恨歌。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

鸚鵡喚人池殿東　　　　鸚鵡(おうむ) 人を喚ぶ 池(ち)殿(でん)の東

花開暁日照金籠　　　　花 開いて 暁(ぎょう)日(じつ) 金(きん)籠(ろう)を照らす

繍簾不捲春將暮　　　　繍(しゅう)簾(れん) 捲かず 春 将(まさ)に暮れんとす

嬾向玉階掃落紅　　　　嬾(ものう)く 玉(ぎょく)階(かい)に向(お)いて 落(らく)紅(こう)を掃(はら)う

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○池殿…池に臨んだ殿堂。○金籠…金製の鳥かご。○繍簾…刺繍を施した簾。○將…「まさに～せんとす」と読み、「いまにも～しようとしている」の意。○玉階…玉でできたきざはし。○落紅…落花。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

暁起懶妝眉黛殘　　　　暁に起き 妝(よそお)うに懶(ものう)く眉(び)黛(たい)残(ざん)す

玉階芳草捲簾看　　　　玉(ぎょく)階(かい) 芳草 簾(すだれ)を捲いて看る

花間漫撲雙胡蝶　　　　花間 漫(みだり)に撲(う)つ 双胡蝶(そうこちょう)

宿露偏沾翠袖寒　　　　宿露 偏(ひとえ)に沾(うるお)し 翠(すい)袖(しゅう)寒し

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○眉黛…眉のまゆずみ。○殘…損なわれる。○玉階…玉でできたきざはし。○雙胡蝶…つがいの蝶。○宿露…前夜から残っている露。○翠袖…青緑色の袖。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

院院黄花秋色濃　　　　院々(いんいん)の黄花(こうか) 秋色濃し

幾看青鏡惜芳容　　　　幾たびか 青(せい)鏡(きょう)を看て 芳(ほう)容(よう)を惜しむ

瓊窓忽夢金輿過　　　　瓊(けい)窓(そう) 忽(たちま)ち夢む 金(きん)輿(よ)の過ぐるを

長樂霜寒五夜鐘　　　　長楽(ちょうらく) 霜は寒し 五夜の鐘

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○院院…多くの宮殿。○黄花…黄色い菊。○秋色…秋景色、秋の気配。○青鏡…青銅製の鏡。○芳容…美しい顔色。○瓊窓…玉の窓枠の窓。○金輿…皇帝の乗った輿。○長樂…漢の宮殿。皇后の住むところ。○五夜…五更。明け方。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　     　　  明　　李先芳

 

緋桃半落柳絲長　　　　緋(ひ)桃(とう) 半(なか)ば落ち 柳(りゅう)糸(し)長し

管領東風燕子忙　　　　東風を管領(かんれい)して 燕子(えんし)忙がし

玳瑁粱間棲不定　　　　玳瑁粱間(たいまいりょうかん) 棲(せい) 定らず

又銜春色過昭陽　　　　又た 春色を銜(くわ)えて 昭(しょう)陽(よう)を過ぐ

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○緋桃…桃花。○管領…すべ納める。○玳瑁粱…梁の美称。○春色…春景色、春の気配。○昭陽…昭陽宮。皇紀の住むところ。

　　　

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　   明　　徐　熥

 

宮中無復望車塵　　　　宮中 復(ま)た 車(しゃ)塵(じん)を望む無く

已分深宮老此身　　　　已に分(ぶん)とす 深宮に此の身を老とすを

縱使君王得相見　　　　縦使(たとい) 君王に 相見(あいまみ)ゆるを得(う)るとも

也應不愛白頭人　　　　也(ま)た 応(まさ)に 白頭の人を 愛せざるべし

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○縱使…「たとい」と読み、「たとえ～であっても」の意。○應…「まさに～せんとす」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　   明　　陳薦伕

 

雖言逐隊向長門　　　　隊を逐いて長門に向うと言うと雖(いえど)も

十載何曾識至尊　　　　十載 何ぞ曽て 至(し)尊(そん)を識らん

命薄不教人見妬　　　　命 薄くして 人をして妬(ねた)まれず

始知無寵是君恩　　　　始めて知る 寵(ちょう)無きは 是れ君恩なるを

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○逐隊…前人達に従って。○長門…長安城の中にあった宮殿。○至尊…皇帝。○寵…皇帝の寵愛。○君恩…皇帝のお恵み。

 

 

 

★    宮詞　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　勃

 

舞袖翩翩別樣裁　　　舞袖 翩々(へんぺん) 別樣(べつよう)に裁(さい)す

十年篋裏不曾開　　　十年 篋(きょう)裏(り) 曾(かつ)て開かず

可憐自閉長門後　　　憐われむべし 自(みずか)ら 長門を閉じて後

未對春風舞一回　　　未だ 春風に対して 舞うこと一回せず

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○舞袖…舞衣の袖。○翩翩…翻るさま。○別樣…特別。○篋裏…箱の中。○長門…長門宮。武帝の寵を失った陳皇后が住んだところ。

 

　

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　趙世顯

 

沈沈別殿自焚香　　　　沈々(ちんちん)たる別殿 自(みずか)ら香を焚(た)く

笑解羅襦拂御床　　　　笑って 羅襦(らじゅ)を解いて 御床(ぎょしょう)を払う

十二碧欄春寂寞　　　　十二の碧欄(へきらん) 春 寂寞(せきばく)

水晶簾捲月如霜　　　　水晶の簾(れん) 捲(ま)けば 月 霜の如し

 

【語釈】

○沈沈…夜のふける。○別殿…正殿以外の殿堂。○羅襦…綢製の短衣。○御床…皇帝の床。○碧欄…青緑色の闌干。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　  明　　邵生巳

 

月轉梧桐夜漸闌　　　　月は梧桐に転じ 夜は漸(ようや)く闌(たけなわ)なり　　　　　

長門寂寂覚秋寒　　　　長門 寂々(せきせき) 秋寒を覚ゆ　　　　

臨風欲奏相思曲　　　　風に臨んで 奏さんと欲す 相思の曲　　　　　

抱得琵琶不忍彈　　　　抱き得たる琵琶 弾くに忍びず

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○梧桐…アオギリ。○漸…だんだんと。○闌…終わりに近づく。○長門…長門宮。長安の中にあった宮殿。武帝の寵を失った陳皇后が住んだところ。○寂寂…寂しいさま。　　

 

　　　

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　 　  明　　黃省曾

 

金鋪玉戸月流輝　　　　金鋪(きんぽ) 玉戸 月(げっ)輝(き)を流す

寶座瑤堂映紫衣　　　　宝座 瑶堂(ようどう) 紫(し)衣(い)に映ず

聖主觀書居大善　　　　聖主 書を観て 大善に居(きょ)す

三更龍輦未言歸　　　　三更 竜輦(りゅうれん) 未だ言(ここ)に帰らず

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○金鋪…金製の門環の台座。○玉戸…玉で飾られた戸。○寶座…玉座。○瑤堂…美しい石で出来た殿堂。○聖主…皇帝。○大善…この上もない優れた行い。○居…努める。○三更…真夜中。○龍輦…皇帝の車駕。○言…文のリズムを整える言葉。実質的な意味は無い。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　   明　　俞允文

 

一承恩澤入蓬萊　　　　一たび 恩沢(おんたく)を承(うけたま)わり 蓬萊(ほうらい)に入る

別賜輕綃稱體裁　　　　別に軽綃(けいしょう)を賜わり体裁(たいさい)を称す

剪得辟邪新繭子　　　　剪(た)ち得たり 辟(へき)邪(じゃ)の新繭子(しんらんし)

並房宮女闘看來　　　　並房(へいぼう)の宮女 闘(あらそ)いて看(かん)し来(きた)る

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○恩澤…皇帝の恵み。○蓬萊…蓬萊宮。大明宮のこと。○軽綃…薄くて花模様のある織物。○體裁…詩文の格式。○辟邪…伝説中の神獣。○繭子…まゆ。○並房…隣り合っている部屋。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　蜀成王

 

向暖嬉遊笑語歡　　　　暖に向って嬉遊(きゆう)し 笑語歓(かん)す

宮官忽道過金鑾　　　　宮官 忽(たちま)ち道(い)う 金鑾(きむらん)過ぐと

傳呼聲急人皆避　　　　伝呼 声 急にして 人 皆 避け

盡閉窗櫺紙隙看　　　　尽(ことごと)く 窓櫺(しょうれい)を閉じて 紙(し)隙(げき)より看る

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○宮官…官僚。○金鑾…皇帝の車駕の鈴。○窗櫺…窓の上の格子。○紙隙…〔窓の〕紙の隙間。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　週憲王

 

玉京涼早是初秋　　　　玉(ぎょく)京(けい) 涼(りょう) 早し 是れ 初秋

銀漢斜分大火流　　　　銀漢 斜めに分ち 大火(たいか)流る

吹徹洞簫天似水　　　　洞簫(どうしょう)を吹(すい)徹(てつ)して 天 水に似たり

半鉤新月掛西樓　　　　半鉤(はんこう)の新月 西楼に掛かる

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○玉京…帝都。○銀漢…銀河。○大火…さそり座。○洞簫…縦笛。○吹徹…吹く。撤は助字。○半鉤…釣り針を半分にした形。○新月…三日月。

 

　　　

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　 　 明　　週憲王

 

月明深院有霜華　　　　月明の深院 霜華有り

開遍階前紫菊花　　　　開くこと遍(あまね)し 階前の紫菊花

涼入繡幃眠不得　　　　涼は 繡幃(しゅうい)に入りて 眠り得ず

起來窗下撥琵琶　　　　起き来りて 窓下(そうか) 琵琶を撥(ひ)く

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○深院…奥深い庭。○霜華…美しい霜。○紫菊花…菊の一種。紫色の花を咲かせ薬用になる。○繡幃…刺繍を施したカーテン。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　週憲王

 

清曉龍闈侍寢回　　　　清暁 竜闈(りゅうい)　寝に侍して回(かえ)る

髽髻雲鬢對妝臺　　　　髽(さ)髻(けい) 雲(うん)鬢(びん) 妝(しょう)台(だい)に対す

綺窗昨夜東風暖　　　　綺(き)窓(そう) 昨夜 東風暖かし

一樹梨花對雨開　　　　一樹の梨花 雨に対して開く

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○清曉…清らかな夜明け。○龍闈…正門の脇に設けられた脇門で皇帝、高官だけが出入りできた。○侍寢…皇帝の側での宿直。○髽髻…たぶさを結んだだけで覆いをかけない髪。○雲鬢…美しい髪の毛。○綺窗…飾りのある美しい窓。○東風…春風。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　週憲王

 

御溝秋水碧如天　　　　御溝(ぎょこう)の秋水 碧 天の如し

偶憶當年事惘然　　　　偶々(たまたま) 憶う当年 事 惘(ぼう)然(ぜん)たるを

紅葉縱教能寄恨　　　　紅葉は 縦(た)教(と)い 能(よ)く 恨を寄するも

不知流得到誰邊　　　　知らず 流れ得て 誰が辺に到るかを

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○御溝…宮城の堀。○惘然…気抜けしてがっかりしているさま。○縱教…たとえ。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  明　　週憲王

 

夜夜空庭望女牛　　　　夜々 空庭 女牛を望む

綺牕人静数聲流　　　　綺牕(きそう) 人 静かにして 数声流る

羊車又過宮門去　　　　羊車(ようしゃ) 又 宮門を過ぎて去り

斜月疎桐一院秋　　　　斜月 疎(そ)桐(とう) 一院の秋

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○空庭…人気の無い庭。○女牛…牽牛・織女星。○綺牕…彫刻や絵で飾られた美しい窓。○羊車…装飾した綺麗な車。宮中で羊に引かせる。

　　　

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　黄　拍

 

団扇歌成不解愁　　　　団扇(だんせん) 歌 成りて 愁いを解かず

落花流水共悠悠　　　　落花 流水 共に悠々(ゆうゆう)

昭陽春色知無限　　　　昭(しょう)陽(よう)の春色 知る 限り無きを

唯有長門月似秋　　　　唯だ 長門(ちょうもん)の月の 秋に似たる有るのみ

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○団扇…うちわ。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○昭陽…昭陽宮。后妃の住むところ。○春色…春の気配。春景色。○長門…長門宮。漢の武帝の時に寵愛を失った陳皇后が住んだ。

 

 

★    宮詞　　　　　　　　　宮詞　　　　　　　　　　　　　　  　　明　　黄　拍

 

秋光已滿玉芙蓉　　　　秋光 已に満つ 玉(ぎょく)芙蓉(ふよう)

永巷無人月色濃　　　　永(えい)巷(こう) 人無く 月色 濃(こまや)かなり

誰使五更寒夢斷　　　　誰か 五更の寒夢をして 断たしめん

西風吹入景陽鐘　　　　西風 吹き入る 景(けい)陽(よう)の鐘

 

【語釈】

○宮詞…宮中の物事を詠じた詩。○永巷…宮中の長い小径。○五更…夜明けがた。○寒夢…夜の寒い夢。○西風…秋風。○景陽鐘…夜明けを告げる鐘。六朝時代に景陽楼に置かれた鐘が夜明けを告げたことに由来する。

 

 

★    宮中詞　　　　　　　　宮中詞　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

宛轉黃金白柄長　　　　宛転(えんてん)たる黄金 白(はく)柄(へい)長し

青荷葉子畫鴛鴦　　　　青(せい)荷(か)葉子(ようし) 鴛鴦(えんおう)を画く

把來不是呈新樣　　　　把(と)り来るは 是れ 新(しん)様(よう)を呈するならず

欲進微風到御牀　　　　微風の 御床(ぎょしょう)に到るを 進めんと欲す

 

【語釈】

○宮中詞…宮中の物事を詠じた詩。○宛轉…柔らかく自由に動くさま。○白柄…白い柄。○青荷葉子…青い蓮の花。○鴛鴦…オシドリ。○新樣…新しい花模様。○御牀…皇帝のベッド。

 

 

★    宮中詞　　　　　　　　宮中詞　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　朱慶餘

 

寂寂花時閉院門　　　　寂寂たる花時 院門を閉ざす

美人相並立瓊軒　　　　美人 相並びて 瓊(けい)軒(けん)に立つ

含情欲説宮中事　　　　情を含み 説かんと欲す 宮中の事

鸚鵡前頭不敢言　　　　鸚鵡(おうむ)前頭(ぜんとう) 敢えて言わず

 

【語釈】

○宮中詞…宮中の物事を詠じた詩。○寂寂…寂しくひっそりとしたさま。○花時…花の咲き乱れる時節。○院門…庭の門。○瓊軒…宮殿のひさしの露台の美称。○前頭…面前。

 

 

★    宮中詞　　　　　　　　宮中詞　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　益

 

露湿晴花春殿香　　　　露は 晴花を湿(うるお)し 春殿香(かん)ばし

月明歌吹在昭陽　　　　月 明かにして 歌吹 昭(しょう)陽(よう)に在り

似將海水添宮漏　　　　海水を将(も)って 宮漏(きゅうろう)に添うに似て

共滴長門一夜長　　　　共に 長門(ちょうもん)に滴(したた)りて 一夜長し

 

【語釈】

○宮中詞…宮中の物事を詠じた詩。○歌吹…歌唱吹奏。○昭陽…昭陽宮。皇紀の住むところ。○宮漏…宮中の水時計。○長門…長門宮。漢の武帝の時に寵愛を失った陳皇后が住んだ。

 

 

★    後宮詞　　　　　　　　後宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易　　　

 

雨露由來一點恩　　　　雨露 由来(ゆらい) 一点の恩

爭能徧布及千門　　　　争(いか)でか 能(よ)く徧(あまね)く布きて 千門に及ばん

三千宮女燕脂面　　　　三千の宮女 燕(えん)脂(あぶら)の面

幾箇春來無淚痕　　　　幾箇か 春来りて 涙(るい)痕(こん)無からん

 

【語釈】

○後宮詞…君王の寵を失った又は得られない宮女の悲しみを述べた詩。○雨露…君恩。○由來…元来。○千門…宮門。○三千宮女…数多い宮女。○燕脂…化粧のべに。○幾箇…いくつ。当時の俗語。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

 

　　　

後宮詞　　　　　　　　後宮詞　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

淚濕羅巾夢不成　　　　涙は羅巾(らきん)を湿(うるお)し 夢成らず

夜深前殿按歌聲　　　　夜深くして 前殿 歌を按(あん)ずる声

紅顏未老恩先斷　　　　紅顔 未だ老いざるに 恩 先ず断え

斜倚薰籠坐到明　　　　斜めに 薫(くん)籠(ろう)に倚りて 坐(そぞろ)に明(めい)に到る

 

【語釈】

○後宮詞…君王の寵を失った又は得られない宮女の悲しみを述べた詩。○羅巾…薄絹のハンカチ。○前殿…宮城の正面にあった宮殿の名。○按歌…歌を歌う。○薰籠…衣服に香を焚きしめる籠。○坐…そのまま、じっと。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

 

★    後宮詞　　　　　　　　後宮(こうきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

監宮引出暫開門　　　　監宮(かんきゅう) 引き出でて 暫(しばら)く門を開く

隨例須朝不是恩　　　　例に随って 須(すべか)らく朝(ちょう)すべし 是れ 恩にあらず

銀鑰却收金鎖合　　　　銀(ぎん)鑰(やく) 却って収めて 金(きん)鎖(さ)合(がっ)す

月明花落又黃昏　　　　月明かに 花落ちて 又た黄昏(こうこん)

 

【語釈】

○後宮詞…君王の寵を失った又は得られない宮女の悲しみを述べた詩。○監宮…女官長。○引出…出入りを監督する。○朝…皇帝に謁見する。○不是恩…天子の恩寵によるものではない。○銀鑰…銀の鍵。○金鎖…金の錠。○黃昏…たそがれ。

（参考文献）　　『三体詩』

 

 

★    宮怨　　　　　　　　　宮怨(きゅうえん)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　顧　況

 

長樂宮連上苑春　　　　長楽宮連(ちょうらくきゅうれん) 上苑(じょうえん)春なり

玉樓金殿豔歌新　　　　玉楼(ぎょくろう)金殿(きんでん) 豔歌(えんか)新たなり

君門一入無由出　　　　君門 一 たび入(い)りて 出ずるに由し無し

唯有宮鶯得見人　　　　唯だ 宮(きゅう)鶯(おう)の 人を見得る有るのみ

 

【語釈】

○宮怨 … 宮女の怨情の意。天子の寵愛を失っても宮中を出ることができず、空しく後宮で過ごさなければならない宮女の悲しみを詠んだもの。○長樂宮…漢の高帝の時作られた宮殿。○上苑…皇帝の園。○玉樓金殿…多くの宮殿の美称。○豔歌…艶情の歌。○君門…宮廷の門。○宮鶯…宮中にいる鶯。

 

 

★    宮怨　　　　　　　　　宮怨(きゅうえん)　　　　　　　　　　　　　　唐　　司馬扎

 

柳色參差掩畫樓　　　　柳色 参差(しんし)として 画楼を掩う

曉鶯啼送滿宮愁　　　　暁(ぎょう)鶯(おう) 啼き送りて 満宮愁う

年年花落無人見　　　　年々 花落ちて 人の見る無く

空逐春泉出御溝　　　　空しく 春泉を逐(お)いて 御溝(ぎょこう)に出ず

 

【語釈】

○宮怨…宮女の愁いと怨みを詠った詩。○參差…不揃いなさま。○畫樓…絵で飾られた楼。○御溝…宮城の堀。○春泉…泉から流れる春水。

 

 

★    宮怨　　　　　　　　　宮怨(きゅうえん)　　　　　　　　　　　　　　  明　　蒋山卿

 

一夜梅開上苑東　　　　一夜 梅は開く 上苑(じょうえん)の東

淡煙斜月影朦朧　　　　淡煙 斜月 影 朦朧(もうろう)

春宮願逐香風去　　　　春宮の願(ねがい) 香風を逐(お)いて去り

飛入君王曉夢中　　　　飛び入る 君王 暁夢の中(うち)

 

【語釈】

○宮怨…宮女の悲しみ、愁い、苦しみ、怨みを詠った詩。○上苑…皇帝の宮苑。○淡煙…淡い靄。○朦朧…ほの暗くボートしているさま。○春宮…東の宮殿。○君王…皇帝。

 

 

★    宫怨　　　　　　　　　宫怨　　　　　　　　　　　　　　  明　　沈明臣

 

緑滿南園桑葉肥　　　　緑満の南園 桑(そう)葉(よう)肥ゆ

風光欲盡栁花飛　　　　風光 尽きんと欲して 栁花飛ぶ

妾生不及呉蠶死　　　　妾(しょう)が生 及ばず 呉(ご)蚕(さん)の死に

留得春絲上袞衣　　　　春糸を留め得て 袞(こん)衣(い)に上る

 

【語釈】

○宮怨…宮女の悲しみ、愁い、苦しみ、怨みを詠った詩。○広東省広州市の南にある庭園。明の洪武帝が作った。○風光…景色。風景。○栁花…柳絮。○呉蠶…呉の地のカイコ。○袞衣…皇帝の衣。

 

 

★    宫怨　　　　　　　　　宫怨　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　張尚禮

 

庭院沈沈晝漏清　　　　庭院 沈々(ちんちん) 昼(ちゅう)漏(ろう)清し

閑門春草共愁生　　　　閑門(かんもん) 春草 愁 共に生ず

夢中正得君王寵　　　　夢中 正(まさ)に得たり 君王の寵

却被黄鸝叫一聲　　　　却って 黄鸝 叫ぶこと 一声せらる

 

【語釈】

○宮怨…宮女の悲しみ、愁い、苦しみ、怨みを詠った詩。○沈沈…閑かなさま。奥深いさま。○晝漏…昼の水時計の音。○閑門…閑かな門。○君王…皇帝。○黄鸝…コウライウグイス。

 

 

★    春宮曲　　　　　　　　春宮曲(しゅんきゅう)　　　　　　　　　　　　　　　唐　　王昌齡      

 

昨夜風開露井桃　　　　昨夜 風に開く 露(ろ)井(せい)の桃

未央前殿月輪高　　　　未央(びおう)の前殿 月輪高し

平陽歌舞新承　　　　　平(へい)陽(よう)の歌舞 新たに寵を承け

簾外春寒賜錦袍　　　　簾外 春 寒くして 錦袍(きんぽう)を賜う

 

【語釈】

○春宮曲…楽府題、宮女の怨みを詠う。○露井 … 屋根のない井戸。○未央…未央宮、漢の宮殿で長安にあった。○平陽…平陽公主、武帝の姉。○錦袍…錦の上着、陣羽織の類。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    春宮曲　　　　　　　　春宮曲　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　陳子龍

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 

春宮烟樹夜蒼蒼　　　　春宮の煙樹 夜　蒼々(そうそう)たり

待宴將闌拂象床　　　　宴に待し 将(まさ)に闌(たけなわ)ならんとして 象(ぞう)床(しょう)を払う

月轉西樓花露冷　　　　月は 西楼に転じ 花露 冷やかなり

又移歌舞向昭陽　　　　又た 歌舞を移して 昭(しょう)陽(よう)に向う

 

【語釈】

○春宮曲…楽府題、宮女の怨みを詠う。○春宮…宮城の東にある宮殿。○煙樹…靄のかかった樹。○蒼蒼…草木などが青く茂るさま。○象床…象牙で装飾された床。○昭陽…昭陽宮。皇紀の住むところ。

 

 

★    春宮曲　　　　　　　　春宮曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　王樂善

 

燕語花飛正斷魂　　　　燕語(えんご) 花飛(かひ) 正(まさ)に魂(こん)を断つ

黃金枉費賦長門　　　　黄金 枉(ま)げて費やす 長門を賦(ふ)するを

淒涼莫恨嬋娟誤　　　　淒涼 恨む莫かれ 嬋娟(せんけん)の誤り

不嫁呼韓即主恩　　　　呼(こ)韓(かん)に嫁せざるは 即ち主恩

 

【語釈】

○春宮曲…楽府題、宮女の怨みを詠う。○枉費…空費する。○長門…長門怨。楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○淒涼…寂しいさま。○嬋娟…あでやかで美しいさま。○呼韓…単于。郷土の王。

 

 

★    春宮曲　　　　　　　　春宮曲　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王樂善

 

楊花風散滿池塘　　　　楊(よう)花(か) 風 散じて 池塘に満つ

倚檻看來暗自傷　　　　檻(かん)に倚(よ)り 看来りて 暗に自(みずか)ら傷む

紅粉爭如風裏絮　　　　紅粉(こうふん) 争うが如し 風(ふう)裏(り)の絮(じょ)

化萍猶得傍鴛鴦　　　　萍(ひょう)と化し 猶お 鴛鴦(えんおう)に傍(そ)うことを得たり

 

【語釈】

○春宮曲…楽府題、宮女の怨みを詠う。○楊花…柳絮。○池塘…池。○檻…おばしま。○紅粉…美女。○風裏絮…風に舞う柳絮。○萍…浮き草。○鴛鴦…オシドリ。

 

 

★    秋宮詞　　　　　　　　秋宮詞　　　　　　　　　　　　　　　  明　　林世璧

 

碧天明月淡悠悠　　　　碧天の明月 淡(たん)として悠々(ゆうゆう)

獨上高樓望女牛　　　　独(ひと)り 高楼に上りて 女(じょ)牛(ぎゅう)を望む

昨夜西風何處起　　　　昨夜 西風 何れの処にか起こる

宮中無樹不知秋　　　　宮中 樹 無く 秋を知らず

 

【語釈】

○秋宮詞…秋の宮中のことを詠った詩。○悠悠…他と関わりなくのんびりしたさま。○女牛…牽牛・織女星。○西風…秋風。

 

 

★    春怨　　　　　　　　　春怨(しゅんえん)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉方平

 

紗窗日落漸黃昏　　　　紗(さ)窓(そう) 日 落ちて 漸(ようや)く黄昏(こうこん)

金屋無人見淚痕　　　　金屋 人無く 涙(るい)痕(こん)を見る

寂寞空庭春欲晚　　　　寂寞(せきばく)たる 空庭 春 晩(くれ)んと欲す

梨花滿地不開門　　　　梨花(りか)は地に満ち 門を開かず

 

【語釈】

○春怨…（女性の）春の怨み。○紗窗…カーテンをした窓。○漸…だんだんと。○黃昏…たそがれ。○金屋…華美な家。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○空庭…誰もいない庭。

 

 

★    春詞　　　　　　　　　春詞　　　　　　　　　　　　　　　  明     謝 榛

 

雲鬟高結靚妝新　　　　雲鬟(うんびん) 高く結びて 靚妝(せいしょう)新たなり

白玉屏開光照人　　　　白玉屏(はくぎょくへい) 開いて 光 人を照らす

莫為桃花怨風雨　　　　桃花の為に 風雨を怨む莫かれ

牡丹亭上有餘春　　　　牡丹亭上(ぼたんていじょう) 余(よ)春(しゅん)有り

 

【語釈】

○雲鬟…雲のような美しい髪の毛。○靚妝…美しく化粧すること。○白玉屏…白玉でできた屏風。○牡丹亭…南京市牡丹亭。牡丹が植えてある亭。○餘春…残っている春。

 

 

★    春詞　　　　　　　　　春詞　　　　　　　　　　　　　　　　明     謝　榛

 

御河橋畔是儂家　　　　御河(ぎょか)橋畔(きょうはん) 是れ 儂(わ)が家

一入深宮虛歳華　　　　一たび 深宮に入(い)りて 歳(さい)華(か)を虚(むな)しくす

別院黃昏吹鳳管　　　　別院 黄昏 鳳管(ほうかん)を吹き

月鉤斜照刺桐花　　　　月(げっ)鉤(こう) 斜めに照す 刺(し)桐(とう)花(か)

 

【語釈】

○御河橋…不祥。○儂家…自分の家。○深宮…後宮。○歳華…年月。○別院…本館とは別の建物。○黃昏…たそがれ。○鳳管…簫笙の美称。○月鉤…弓張り月。○刺桐花…キリの花。

 

 

★    春詞　　　　　　　　　春詞　　　　　　　　　　　　　　　  明     謝 榛

 

城烏何意夜深啼　　　　城烏 何の意か 夜深くして啼く

紅杏梢頭片月低　　　　紅(こう)杏(きょう)梢頭(しょうとう) 片月低し

香冷熏籠人不寐　　　　香 冷(ひ)ややかにして 熏(くん)籠(ろう) 人 寐(いね)ず

春風吹過玉欄西　　　　春風 吹き過ぐ 玉欄(ぎょくらん)の西

 

【語釈】

○城烏…宮城にいる鳥。○紅杏…紅色の杏の花。○梢頭…こずえの上。○熏籠…香を衣に焚きしめるための籠。○玉欄…闌干の美称。

 

 

★    和樂天春詞　　　　　　楽天(らくてん)の春詞に和す　　　　　　　　　　　唐　　劉禹錫

 

新妝面面下朱樓　　　　新妝(しんしょう) 面々(めんめん) 朱楼を下る

深鎖春光一院愁　　　　深く 春光を鎖す 一院の愁

行到中庭數花朶　　　　行きて 中庭に到りて 花朶(かだ)を数う

蜻蜓飛上玉搔頭　　　　蜻蜓(せいてい) 飛上る 玉搔(ぎょくそう)頭(とう)

 

【語釈】

○樂天…白居易。○新妝…新たな装いをした女性。○春光…春の気配、春景色。○花朶…花の咲いている枝。○玉搔頭…玉簪。

 

 

★    秋詞　　　　　　　　　秋詞　　　　　　　　　　　　　　　  元　　薩都剌

 

清夜宮車出建章　　　　清夜 宮車 建(けん)章(しょう)を出ず

紫衣小隊兩三行　　　　紫衣の小隊 両三行

石闌干畔銀燈過　　　　石闌(せきらん)干(かん)の畔(ほとり) 銀灯過ぐ

照見芙蓉葉上霜　　　　照(しょう)見(けん)す 芙蓉 葉上の霜

 

【語釈】

○宮車…皇帝の車。○建章…建章宮、漢の武帝が長安西に造営した宮殿。複道によって未央宮と連絡していた。○紫衣…高官。宮女。○石闌干…石の闌干。○照見…照らし看る。

 

　　

★    漢宮詞　　　　　　　　 漢宮詞　　　　　　　　　　　　　　　 唐　　李商隱

 

青雀西飛竟未回　　　　青(せい)雀(じゃく) 西に飛んで 竟(つい)に 未だ回(かえ)らず

君王長在集靈臺　　　　君王 長く 集(しゅう)霊(れい)台(だい)に在り

侍臣最有相如渴　　　　侍臣 最も相如(しょうじょ)が渇き 有れども

不賜金莖露一杯　　　　賜わらず 金(きん)茎(けい)の 露一杯

 

 

【語釈】

○漢宮詞…漢の宮中のことを詠った詩。○青雀…西王母から漢の武帝に遣わされたという青鳥（『漢武故事』）。○君王…武帝。○集靈臺…武帝が西王母を迎えるために建てた宮殿。○相如…司馬相如、口が渇く病があった。○金莖…不老長寿の露を受けるために作った承露盤を支える金の柱。

 

 

★    漢宮曲　　　　　　　　漢宮曲　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　基

 

小雨如烟晝掩扉　　　　小雨 煙の如く 昼 扉を掩う

捲簾忽見燕雙飛　　　　簾を捲いて 忽ち見る 燕双の飛ぶを

不知春色能多少　　　　知らず 春色 能く 多少なるを

総向昭陽柳上歸　　　　総て 昭陽に向って 柳上に帰る。

 

【語釈】

○漢宮詞…漢の宮中のことを詠った詩。○燕双…つがいの燕。○春色…春の気配。春景色。○昭陽…昭陽宮。皇紀の住むところ。

 

 

★    漢宮詞　　　　　　　漢宮詞　　　　　  　　　　　　　　　　明　　潘　緯

 

棄置長門鬢欲華　　　　長門に棄て置かれて 鬢(びん) 華ならんと欲す

後宮又道選良家　　　　後宮 又た道(い)う 良家を選ぶと

君恩好似三春雨　　　　君恩(くんおん) 好く 三春の雨に似て

半為開花半落花　　　　半ば為す 花を開き 半ば花を落すを

 

【語釈】

○漢宮詞…漢の宮中のことを詠った詩。○長門…長門宮。漢の武帝の時に寵愛を失った陳皇后が住んだ。○選良家…趙飛燕が貧賤の生まれだったために寵愛を失ったこと？○君恩…皇帝の寵愛。○三春…春。孟春、仲春、季春の総称。

 


 

★    漢宮春暁　　　　　　　　漢宮の春暁　　　　　　　　　　　　  明　　徐　勃

 

春明乘曉試新妝　　　　春明(しゅんめい) 暁に乗じて 新妝を試む

玉輦金輿出建章　　　　玉(ぎょく)輦(れん) 金(きん)輿(よ) 建(けん)章(しょう)を出ず

三十六宮都望倖　　　　三十六宮 都(みやこ)て 倖(こう)を望む

車聲先已向昭陽　　　　車声 先ず已に 昭(しょう)陽(よう)に向かう

 

【語釈】

○春明…春光明媚なこと。○玉輦…皇帝の手押し車。○金輿…皇帝の乗る輿。○建章…建章宮、漢の武帝が長安西に造営した宮殿。複道によって未央宮と連絡していた。○三十六宮…多くの宮殿。○倖…幸い。皇帝のお出まし。○昭陽…漢の宮殿で妃の住まうところ。

　　　

 

★    漢苑行　　　　　　　　漢(かん)苑(えん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張仲素

 

春風澹蕩景悠悠　　　　春風 澹蕩(たんとう) 景 悠々(ゆうゆう)

鶯囀高枝燕入樓　　　　鶯は高枝に囀(さえず)り 燕は楼に入る

千步回廊聞鳳吹　　　　千歩の回廊 鳳吹(ほうすい)を聞く

珠簾處處上銀鉤　　　　珠簾 処々(しょしょ) 銀(ぎん)鉤(こう)に上る

 

【語釈】

○漢苑行…漢の宮苑を詠った歌。○澹蕩…悠閑自在。○悠悠…他と関わりなくゆったりとしたさま。○鳳吹…簫笙の美称。○珠簾…たますだれ。○銀鉤…銀製の止め具。

 

 

★    漢苑行　　　　　　　　漢(かん)苑(えん)行(こう)　　　　　　　　　　　　  唐　　張仲素

 

回雁高飛太液池　　　　回(かい)雁(がん) 高く飛ぶ 太(たい)液(えき)の池

新花低發上林枝　　　　新花 低く発く 上林(じょうりん)の枝

年光到處皆堪賞　　　　年光 到る処 皆 賞するに堪えたり

春色人間總未知　　　　春色 人間(じんかん) 総て未だ知らず

 

【語釈】

○漢苑行…漢の宮苑を詠った歌。○回雁…戻ってきた雁。○太液…陕西省長安の西にあった池。○上林…皇帝の庭園。○年光…春光。春景色。○春色…春の気配。春景色。○人間…一般の民間社会。

 

 

★    長門怨　　　　　　　　長門怨(ちょうもんえん)　　　　　　　　　　　　　　　　 唐　　李　白

 

天回北斗挂西樓　　　　天は 北斗を回らして 西楼に挂く

金屋無人螢火流　　　　金屋 人無く 蛍火流る

月光欲到長門殿　　　　月光 到らんと欲す 長門殿

別作深宮一段愁　　　　別に 深宮一段の愁を作(な)す

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○金屋…黄金作りの宮殿。○深宮…奥深い長門宮。

（参考文献）　『中国詩人撰集　７』　　　

 

 

★    長門怨　　　　　　　　長門怨(ちょうもんえん)　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　裴交泰      

 

自閉長門經幾秋　　　　自(みずか)ら 長門を閉ざして 幾秋を経たり

羅衣濕盡淚還流　　　　羅(ら)衣(い) 湿り尽して 涙 還(ま)た流る

一種蛾眉明月夜　　　　一種の蛾(が)眉(び) 明月の夜

南宮歌管北宮愁　　　　南宮の歌管 北宮の愁

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。ｓ○幾秋…幾年。○羅衣…薄絹のころも。○蛾眉…美人。○南宮…建章宮，宮央宮など、長安の南側にあった。○北宮…長門宮。長安の北端にあった。

              　　

 

★    長門怨　　　　　　　　長門怨(ちょうもんえん)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

流水君恩共不回　　　　流水 君恩 共に回(かえ)らず

杏花爭忍埽成堆　　　　杏花 争(いかで)か忍ばん 埽(はら)いて堆(たい)を成すを

殘春未必多煙雨　　　　残春 未だ必ずしも 煙雨多からず

淚滴閑階長綠苔　　　　涙は 閑(かん)階(かい)に滴たりて 緑(りょく)苔(たい)を長くす

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○君恩…皇帝の寵愛。○煙雨…霧雨。○閑階…閑かなきざはし。

 

 

★    長門怨　　　　　　　　長門怨(ちょうもんえん)　　　　　　　　　　　　  唐　　劉　媛

 

雨滴長門秋夜長　　　　雨 滴(したた)りて 長門 秋夜長し

愁心和雨到昭陽　　　　愁(しゅう)心(しん) 雨に和して 昭(しょう)陽(よう)に到る

淚痕不學君恩斷　　　　涙痕 学ばず 君恩の断(たゆ)るを

拭却千行更萬行　　　　千行(せんこう)を拭却(しょくきゃく)して 更に万(まん)行(こう)

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○長門…長門宮。○昭陽…漢の宮殿で妃の住まうところ。○君恩…皇帝の寵愛。○千行…千筋。○拭却…ぬぐい去る。却は助字。

 

　　　

★    長門怨                長門怨(ちょうもんえん)                                唐　　劉　媛

 

學畫蛾眉獨出群　　　　画を学びて 蛾(が)眉(び) 独り群を出ず

當時人道便承恩　　　　当時の人は道(い)う 便ち 恩を承わらんと

年年不見君王面　　　　年々 見ず 君(くん)王(のう)の面

花落黃昏空掩門　　　　花落ち 黄昏(こうこん) 空しく門を掩う

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○蛾眉…美人。○年年…毎年。○黃昏…たそがれ時。

 

 

 

★    長門怨　　　　　　　　長門怨(ちょうもんえん)　　　　　　　　　　　　　　   明　　馬　熒

 

永夜含愁夢不成　　　　永夜 愁を含み 夢成らず

長門寂寂月空明　　　　長門 寂寂(せきせき) 月 空しく 明かなり

強携瑶瑟瓊軒立　　　　強(し)いて瑶瑟(ようしつ)を携え 瓊(けい)軒(けん)に立つ

斷腸昭陽歌吹聲　　　　断腸 昭(しょう)陽(よう) 歌吹(かすい)の声

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○長門…長門宮。○寂寂…○寂寂…寂しく静かなさま。○瑶瑟…玉で装飾された琴瑟。○瓊軒…廊台の美称。○昭陽…漢の宮殿で妃の住まうところ。○歌吹…歌と管弦。

 

 

★    長門怨　　　　　　　　長門怨(ちょうもんえん)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陸　粲

 

金屋承恩事已非　　　　金屋 恩を承(うけたわ)る 事 已に非なり

玉顔憔悴度春暉　　　　玉顔 憔悴して 春暉(しゅんき)を度る

無因得似宫前柳　　　　宫前 柳に似得(にう)るに因(よ)し無し

時有長條拂御衣　　　　時に 長条(ちょうじょう)の 御衣を払う有り

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○金屋…美麗な宮殿。○玉顔…美しい顔色。○春暉…春の陽光。○無因…方法がない。○長條…長い枝。○御衣…皇帝の衣服。

　　　

 

 

★    長門怨               長門怨(ちょうもんえん)                                   明　　籃世卿

 

少小深宮侍至尊　　　　少小 深宮 至尊に侍す

舞衣歌扇夜承恩　　　　舞衣 歌扇 夜 恩を承わる

一朝花老春光去　　　　一朝 花 老いて 春光去り

長對黄昏空閉門　　　　長く 黄昏(こうこん)に対し 空しく門を閉ざす

 

【語釈】

○長門怨…楽府題、長門宮に幽閉された、漢の武帝の陳皇后の怨情を詠ったもの。〔司馬相如の「長門の賦」が元になった。○少小…若いとき。○至尊…皇帝。○黄昏…たそがれ時。

 

 

★    長門月　　　　　　　　長門の月　　　　　　　　　　　　　　  明　　張　泰

 

昭陽歌吹晚風移　　　　昭(しょう)陽(よう)の歌吹(かすい) 晩風移る

金屋春寒獨睡遲　　　　金屋の春寒 独り睡ること遅し

何事西宮楊柳月　　　　何事ぞ 西宮 楊柳の月

一彎猶似妒娥眉　　　　一弯(いちわん) 猶お似たり　娥(が)眉(び)を妒(ねた)むに

 

【語釈】

○長門…長門宮。漢の武帝の寵を失った陳皇后が幽閉されたところ。○昭陽…漢の宮殿で妃の住まうところ。○歌吹…歌と管弦。○金屋…美しい宮殿。○春寒…初春のうすら寒さ。○一彎…彎曲した姿。○娥眉…美人。

 

 

 

★    西宫怨　　　　　　　　西宮怨(せいきゅうえん)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王世貞

 

點點蓮花漏未央　　　　點々(てんてん)たる蓮(れん)花(げ) 漏 未だ央(なかば)ばならず

乍寒如水透羅裳　　　　乍(さく)寒(かん) 水の如く 羅(ら)裳(い)を透す

誰憐金井梧桐露　　　　誰か憐れむ 金井(きんせい) 梧桐の露

一夜鴛鴦瓦上霜　　　　一夜 鴛鴦(えんおう) 瓦上(がじょう)の霜

 

【語釈】

○西宮…長信宮、寵を失った班婕妤が移された宮殿。○點點…一点一点。○蓮花…蓮花の形をした水時計。○漏未央…水時計が夜半でないことを言う。○乍寒…急な寒さ。○羅裳…薄絹の衣。○金井…秋の井戸。○梧桐…あおぎり。

〔参考文献〕　　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    西宮春怨　　　　　　　西宮春怨(せいきゅうしゅんえん)　　　　　　　　　　　　　　唐　　王昌齡

 

西宮夜靜百花香　　　　西宮 夜静かにして 百花香(かん)ばし

欲捲珠簾春恨長　　　　珠(しゅ)簾(れん)を捲かんと欲して 春恨長し

斜抱雲和深見月　　　　斜めに 雲和を抱いて 深く月を見る

朧朧樹色隱昭陽　　　　朧(ろう)々(ろう)たる 樹色 昭(しょう)陽(よう)を隠す

 

【語釈】

○西宮春怨…楽府題、寵を失った宮女の怨みを詠う。○西宮…長信宮、寵を失った班婕妤が移された宮殿。○雲和…瑟の名。○朦朧…おぼろげなるさま。○昭陽…趙飛燕がいた宮殿。

〔参考文献〕　　『唐詩選』

 

★    西宮秋怨　　　　　　　西宮秋怨(せいきゅうしゅうえん)　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

芙蓉不及美人妝　　　　芙蓉も及ばず美人の妝

水殿風來珠翠香　　　　水殿風来りて珠(しゅ)翠(すい)香(かん)ばし

却恨含情掩秋扇　　　　却って恨む情を含んで秋扇を掩い

空懸明月待君王　　　　空しく明月を懸けて君王を待つを

 

【語釈】

○西宮…長信宮、寵を失った班婕妤が移された宮殿。○秋怨…若い女性が秋の気配に感じてもの思いにふけること。○芙蓉… はすの花。○美人… 前漢の成帝の妃であった班婕妤。○水殿…池のほとりに建てた宮殿。○珠翠…真珠や翡翠の髪飾り。○秋扇… 秋の扇。扇は秋になれば用がなくなり棄てられるところから、寵を失った女性（班婕妤）に喩える。○懸…月が中天に懸かっているさま。○空懸明月…班婕妤の長門賦の「懸明月以自照」に基づく。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    長信春詞　　　　　　　長信(ちょうしん)春(しゅん)詞(し)　　　　　　  　　　　　　　唐　　孟　遲

 

君恩已盡欲何歸　　　　君恩 已に尽き 何(いずく)に帰らんと欲す

猶有殘香在舞衣　　　　猶お 残香の 舞(ぶ)衣(い)に在る有り

自恨身輕不如燕　　　　自(みずか)ら恨む 身軽きこと 燕の如からざるを

春來長遶御簾飛　　　　春来(しゅんらい) 長く 御簾(ぎょれん)を遶(めぐ)りて飛ぶ

 

【語釈】

○長信秋詞 …長信宮の春の歌、長信宮に孤独な班婕妤の嘆きを歌ったもの。○君恩…皇帝の寵愛。○春來…春になってから。○御簾…皇帝のすだれ。

 

 

★    長信秋詞　　　　　　　長信秋詞　　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齢

 

奉帚平明金殿開　　　　帚(そう)を奉じ 平明(へいめい) 金殿開く

且將團扇暫裴回　　　　且(しばら)く 団扇(だんせん)を将(も)って 暫(しばら)く 裴(ばい)回(かい)す

玉顏不及寒鵶色　　　　玉顔は及ばず 寒鵶(かんあ)の色に

猶帶昭陽日影來　　　　猶お 昭陽の日影を帯びて来る

 

【語釈】

○長信秋詞 …長信宮の春の歌、長信宮に孤独な班婕妤の嘆きを歌ったもの。奉帚：箒で宮殿を掃除する。○平明…夜明け。○金殿…黄金で飾った立派な御殿。○團扇…うちわ。○玉顔…美しい顔。○寒鵶…冬の烏。○昭陽…昭陽宮。皇紀の住むところ。○日影…日光。

 

 

長信秋詞　　　　　　　長信(ちょうしん)秋(きゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齢

 

真成薄命久尋思　　　　真成に薄命 久しく尋(じん)思(し)す

夢見君王覺後疑　　　　夢に君(くん)王(のう)に見(まみ)え 覚めて後 疑う

火照西宮知夜飲　　　　火は 西宮を照らし 夜飲を知る

分明複道奉恩時　　　　分明なり 複(ふく)道(どう) 恩を奉ずる時

 

【語釈】

○長信秋詞 … 楽府題。長信宮の秋の歌、長信宮に孤独な秋の夜を過ごす班婕妤の嘆きを歌ったもの。○真成 … ほんとうに。○薄命 … 不幸せなこと。○尋思 … いろいろ考えること。○西宮 … 長信宮。○夜飲 … 夜の酒宴。○分明 … ありありと、はっきりとしていること。○複道 … 上下二層の渡り廊下。宮殿と宮殿とをつなぎ、上層は天子、下層は臣下が通った。○奉恩時 … 天子の寵愛を受けるとき。

（参考文献）　　『唐詩選』

★    長信秋詞　　　　　　　長信(ちょうしん)秋(しゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齢

 

金井梧桐秋葉黃　　　　金井(きんせい)の梧桐(ごとう) 秋葉黄なり

珠簾不捲夜來霜　　　　珠(しゅ)簾(れん) 捲(ま)かず 夜来の霜

熏籠玉枕無顏色　　　　熏(くん)籠(ろう) 玉(ぎょく)枕(ちん) 顔色無し

臥聽南宮清漏長　　　　臥(ふ)して聴く 南宮 清漏(せいろう)の長きを

 

【語釈】

○長信秋詞 … 楽府題。長信宮の秋の歌、長信宮に孤独な秋の夜を過ごす班婕妤の嘆きを歌ったもの。○金井…枠が美しく装飾されている井戸。○梧桐…アオギリ。○珠簾…玉すだれ。○熏籠…宮中での暖を取る道具で、香炉を組み合わせた網目の覆いのあるもの。○玉枕…玉で飾った枕。○南宮…皇帝の居処。○清漏…清らかな音のする水時計。

 

 

★    長信怨　　　　　　　　長信怨(ちょうしんえん)　　　　　　　　　　　　　　　 明　　鄧原吉

 

長信秋風冷綺羅　　　　長信の秋風 綺羅(きら) 冷やかなり

玉顔憔悴涙痕多　　　　玉顔 憔悴し 涙(るい)痕(こん)多し

空將舊恨題團扇　　　　空しく 旧恨を将って 団扇(だんせん)に題す

不及昭陽子夜歌　　　　及ばず 昭(しょう)陽(よう)の子夜の歌

 

【語釈】

○長信怨…長信宮における班婕妤の嘆きを歌ったもの。○綺羅…刺繍を施した衣服。○玉顔…美しい顔。○團扇…うちわ。○昭陽…昭陽宮。后妃の住むところ。○子夜歌…歌曲の一種．男女の恋愛を詠う。

 

 

★    長信宫落花　　　　　　長信宮(ちょうしんきゅう)の落花 　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

深宫花謝使人愁　　　　深宮 花 謝して 人をして愁えしむ

片片隨風滿御溝　　　　片々(へんぺん)たる 随風(ずいふう) 御溝に満つ

妾命自憐花共薄　　　　妾(しょう)が命 自(みずか)ら憐む 花と共に薄きを

君恩那似水東流　　　　君恩 那(な)んぞ似たる 水の東流するに

 

【語釈】

○長信宫…寵愛を失った班婕妤が住んだ宮殿。○花謝…花が散ってなくなる。○片片…ひらひらと軽く飛ぶさま。○隨風…自由自在に吹くかぜ。○御溝…宮城の堀。○君恩…皇帝の寵愛。

 

 

★    呉宫詞　　　　　　　　呉宮(ごきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

芙蓉水殿屧廊東　　　　芙蓉の水殿 屧廊(しょうろう)の東

白苧秋來不耐風　　　　白苧(はくちょ) 秋来りて 風に耐えず

怪得君王長夜醉　　　　怪しみ得たり 君王 長夜の酔

月明歌舞在舟中　　　　月明らかにして 歌舞 舟中に在り

 

【語釈】

○呉宫詞…呉の宮中のことを詠った詩。○屧廊…春秋時代の呉宮の廊下の名前。○白苧…白いカラビシの衣。○君王…呉王夫差。

 

 

 

★    呉宮詞　　　　　　　　呉宮(ごきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　毛先舒

 

蘇臺月冷夜烏棲　　　　蘇(そ)台(だい) 月 冷やかにして 夜烏(やう)棲み

飲罷呉王醉似泥　　　　飲(いん) 罷みて 呉王 酔(よい) 泥に似たり

別有深恩酬不得　　　　別に 深恩有りて 酬い得ず

向君歌舞背君啼　　　　君に向って歌舞し 君に背(そむ)いて啼く

 

【語釈】

○呉宫詞…呉の宮中のことを詠った詩。○蘇臺…呉の宮中のことを詠った詩。○蘇臺…姑蘇台春秋時呉王夫差が姑蘇山（江蘇省呉県の 西南 ）上に築いた台の名。 夫差は越を破って得た美人西施など、千人の美女を住まわせて栄華をきわめたという。○転句…越王勾踐〔范蠡〕に恩があって、夫差の寵愛酬いることができないこと。

 

 

★    呉官詞　　　　　　　　呉官(ごきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　朱受新      

 

夜擁笙歌百盡臺　　　　夜は 笙歌を擁(よう)す 百尽(ひゃくじん)台(だい)

太湖月落宴還開　　　　太湖 月落ちて 宴 還(ま)た開く

君王自愛傾城色　　　　君王 自(みずか)ら愛す 傾城(けいせい)の色

卻忘人從敵國來　　　　却って忘る 人 敵国従(よ)り来(きた)るを

 

【語釈】

○呉宫詞…呉の宮中のことを詠った詩。○笙歌…音楽と歌。○太湖…江蘇省と浙江省の間にある湖。○君王…呉王夫差。○傾城…絶世の美人。○人…西施。○敵國…越。

 

 

★    吳宮詞　　　　　　　　　吳宮(ごきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　   清　　龐　鳴

 

屟廊移得苧蘿春　　　　屟廊(しょうろう) 移るを得たり 苧蘿(ちょら)の春

沈醉君王夜宴頻　　　　沈醉(ちんすい)す 君王 夜宴頻(しきり)なり

臺畔臥薪臺上舞　　　　台畔 薪(しん)に臥(が)し 台上に舞う

可憐同是不眠人　　　　憐(あわ)れむべし 同じく是れ 眠らざる人

 

【語釈】

○呉宫詞…呉の宮中のことを詠った詩。○屧廊…春秋時代の呉宮の廊下の名前。○苧蘿…苧蘿山。西施の故郷。諸曁市南部の浣紗江の畔にある。○沈醉…ひどく酔う。○君王…呉王夫差。○臥薪…臥薪嘗胆の臥薪。○可憐…詠嘆のことば。ああ。

 

 

★    楚宮怨　　　　　　　　楚宮の怨　　　　　　　　　　　　　　  唐　　許　渾

 

十二山晴花盡開　　　　十二山 晴れ 花 尽(ことごと)く開く

楚宮雙闕對陽臺　　　　楚宮の双闕(そうけつ) 陽台に対す

細腰爭舞君王醉　　　　細腰　争いて舞い　君王　酔う

白日秦兵天上來　　　　白日 秦兵 天上より来る

 

【語釈】

○楚宮…春秋時代の楚の宮殿。○十二山…巫山の十二峰。○雙闕…宮門。○陽臺…屋根のない台の上に立てられた建物。ここでは、楚の懐王が巫山の巫女との情交のあと、巫女が「朝雲暮雨」となって現れると言った陽台のこと。○細腰…細い腰の美女。楚の靈王が好んだが、懐王も好んだという逸話がある。○君王…懐王。秦の張儀の謀略に引きずり回され、国力を消耗し、最後は秦との戦いに敗れ秦に幽閉されたまま死去した。

 

 

★    楚宮詞　　　　　　　　楚宮(そきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

雨去雲來十二峯　　　　雨去り 雲来る 十二峰

渚宮樓閣暮重重　　　　渚宮(ちょきゅう) 楼閣 暮に重々(ちょうちょう)たり

細腰無限空相妒　　　　細腰 限り無く 空しく相い妒(ねた)む

不覺瑶姬夢裏逢　　　　覚えず 瑶姫(ようき) 夢(む)裏(り)に逢うを

 

【語釈】

○楚宮詞…春秋時代の楚の宮殿を詠った詩。○雨去雲來…「朝雲晩雨」の故事を踏まえる。○十二峰…巫山の十二峰。○渚宮…春秋時代の楚の宮殿宮名。湖北省江陵県にある。○重重…重なり合うさま。○細腰…細い腰の美女。楚の靈王が好んだが、懐王も好んだという逸話がある。○瑶姬…巫山の巫女。楚の懐王の夢の中で懐王と情交を結んだ。

 

 

★    楚宮詞　　　　　　　　楚宮(そきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　董以寧

 

一幸高唐暮復朝　　　　一たび 高唐に幸せられ 暮復た朝

章華臺畔柳蕭條　　　　章(しょう)華(か)台(だい)畔(はん) 柳 蕭(しょう)条(じょう)たり

相思且自加餐飯　　　　相思い 且(か)つ 自(みずか)ら餐(さん)飯(はん)を加う　

莫信君王愛細腰　　　　君王の細腰を愛するを 信ずること莫かれ

 

【語釈】

○楚宮詞…春秋時代の楚の宮殿を詠った詩。○高唐…楚の国の望観台の名。○暮復朝…「朝雲暮雨」の故事。○章華臺…楚の霊王が作った見晴台。○君王…楚の懐王。○細腰…細い腰の美女。楚の靈王が好んだが、懐王も好んだという逸話がある。

 

 

 

★    魏宮詞　　　　　　　　魏宮(ぎきゅう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　髙　啓

 

翡翠明珠入掌新　　　　翡翠 明珠 掌(たなごころ)に入りて新たなり

承恩長占鄴宮春　　　　恩を承まり 長く占しむ 鄴宮(ぎょうきゅう)の春

至尊休信陳王賦　　　　至尊 信ずるを休(や)めよ 陳王の賦

那得人間有洛神　　　　那(な)んぞ得ん 人間(じんかん) 洛(らく)神(しん)有るを

 

【語釈】

○魏宮詞…三国時代の魏の宮殿を詠った詩。○明珠…光沢のある珍玉。○鄴宮…魏の宮殿。○至尊…魏の文帝曹丕。○陳王賦…曹植の《洛神赋》。甄氏は曹植が思いをかけていたが曹丕の後宮に入り皇后となった。曹植の思いを知った曹丕は甄氏の枕を与えて曹植を慰めた。それに答えて曹植が作った賦で、甄氏を洛神になぞらえているとされる。○洛神…古代中国の伝説に出てくる伏羲氏の娘であり、水と川を司る洛水の女神。黄河の神・河伯の妻。

 

 

★    魏宮怨　　　　　　　　魏宮の怨　　　　　　　   　　　　　　　明　　陳仲凑

 

當日銅臺望幸時　　　　当日 銅台 望(ぼう)幸(こう)の時

西陵今見草離離　　　　西陵 今 見る 草 離々(りり)たるを

夜來一掬傷春涙　　　　夜来 一掬(いちきく) 傷春の涙

惟有漳河流水知　　　　惟(た)だ 漳(しょう)河(が)流水(りゅうすい)の 知る有るのみ

 

【語釈】

○魏宮…三国魏の都。○当日…魏が栄えていた昔。○銅台…銅雀台。曹操が作った楼台。○望幸…臣下や妃が皇帝の臨幸を望むこと。○西陵…曹操の墓。○離離…草木が盛んに生い茂っているさま。○夜来…夜になってから。○一掬…ひとすくい。○漳河…華北を流れる川。

 

★    呉越宮詞　　　　　　　呉越宮詞　　　　　　　　　　　　　　　   明　　范　汭

 

千門斜月四窗星　　　　千門の斜月 四窓の星

山近簾衣分外青　　　　山は 簾衣に近く 分外に青し

侍女夜間眠不穩　　　　侍女 夜間 眠 穏(おだ)やかならず

御床圓枕綴金鈴　　　　御床 円枕 金鈴を綴(つづ)る

 

【語釈】

○呉越宮詞…春秋時代の呉と越の宮廷の事を詠った詩。○千門…多くの家。○四窗…四方の窓。○簾衣…すだれと幕。○分外…過分。○御床…皇帝の座臥する具。○円枕…円木を用いた枕。

 

　　　

★    楊柳詞　　　　　　　　楊柳詞　　　　　　　　　　　　　　唐　　溫庭筠

 

金縷毶毶碧瓦溝　　　　金縷(きんる) 毶毶(さんさん) 碧(へき)瓦(が)の溝

六宮眉黛惹春愁　　　　六宮(りくぐう)の眉(ふん)黛(たい) 春愁に惹(ひか)る

晚來更帶龍池雨　　　　晩来 更に帯ぶ 竜(りょう)池(ち)の雨

半拂闌干半入樓　　　　半ば闌干を払い 半ば楼に入る

 

【語釈】

○金縷…金の糸。ここでは柳の枝。○毶毶…ふさふさとしたさま。○碧瓦…青綠色の琉璃瓦。○六宮…宮城。○眉黛…美人。○春愁…春日の愁情。○晩来…夕方になってから。○龍池…長安の興慶宮内にある池の名。

 

 

　　　

★    折楊柳　　　　　　　　折楊柳　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　段成式

 

枝枝交影鎖長門　　　　枝(し)々(し) 交(こう)影(えい) 長門を鎖す

嫩色曾沾雨露恩　　　　嫩(どん)色(しょく) 曽て沾(うるお)す 雨露の恩(めぐみ)

鳳輦不來春欲盡　　　　鳳輦(ほうれん)来らず 春 尽きんと欲す

空留鶯語到黃昏　　　　空しく鶯語(おうご)を留め 黄昏(こうこん)に到る

 

【語釈】

○折楊柳…楽府題。別れの曲ちょう。○長門…長門宮。武帝の寵を失った陳皇后が身を引いて住んだところ。○嫩色…若々しい色。○鳳輦…皇帝の乗る手押し車。○黃昏…たそがれ。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    雨霖鈴　　　　　　　　雨霖(うりん)鈴(れい)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　祜

 

雨淋鈴夜卻歸秦　　　　雨淋(うりん)鈴(れい) 夜 秦に却(きゃｋ)帰(き)す

猶是張徽一曲新　　　　猶お是れ 張徽(ちょうき) 一曲新たなり

長説上皇垂淚教　　　　長く説く 上皇 涙を垂れて教うると

月明南内更無人　　　　月明かにして 南内(なんだい) 更に人無し

 

【語釈】

○雨霖鈴…玄宗皇帝が楊貴妃の死を悲しんで作ったとされる楽曲の名。○秦…長安。○卻歸…帰る。却は助字。○張徽…不祥。人名？○上皇…玄宗皇帝。○南内…長安の興慶宮。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    東都望幸　　　　　　　東都(とうと) 幸を望む　　　　　　　　　　　　　唐　　章　碣      

 

懶脩珠翠上高臺　　　　懶(ものう)く 珠(しゅ)翠(すい)を脩(おさ)め 高台に上る

眉月連娟恨不開　　　　眉月 連娟 恨みて開かず

縱使東巡也無益　　　　縦(たと)使(い) 東巡(ひがしじゅん) 無益也(なり)とも

君王自領美人來　　　　君王 自(みずか)ら 美人を領して来らん

 

【語釈】

○東都…洛陽。○幸…行幸。○珠翠…珍玉と翡翠。女性の装飾物。○眉月…新月のような眉。○連娟…曲がって細い眉。○縱使…たとえ～であっても。○東巡…当方への行幸。○君王…皇帝。

 

★    皇后閣春帖子　　　　　　　　皇后閣(　こうごうかく)春帖子　　　　　　　　　　  宋　　司馬光

 

春衣不用蕙蘭薰　　　　春衣 用いず 蕙(けい)蘭(らん)の薫(くん)するを

領緣無加刺繡文　　　　領(りょう)縁(えん) 加うこと無し 刺繡の文(もん)

曾在蠶宮親織就　　　　曽て 蚕宮(さんきゅう)に在りて 親(しん)織(しょく)に就く

方知縷縷盡辛勤　　　　方(まさ)に知る 縷々(るる) 尽(ことごと)く辛(しん)勤(きん)なるを

 

【語釈】

○蕙蘭…多年生植物。良い香りがする。○領緣…礼服の袖や襟に付ける飾り。○蠶宮…宮城の養蚕所。○親織…織物の一種。○縷縷…糸のように長く続くさま。○辛勤…辛苦な勤務。

 

 

★    景陽鐘　　　　　　　　景(けい)陽(よう)鐘(しょう)　　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　劉子翬

 

景陽鐘動曉寒清　　　　景(けい)陽(よう)鐘(しょう) 動いて 暁(ぎょう)寒(かん)清し

度柳穿花隠隠聲　　　　柳を度り 花を穿つ 隠々(いんいん)の声

三十六宮梳洗罷　　　　三十六宮 梳洗(りゅうせん) 罷(や)む

却吹殘燭待天明　　　　却って 残燭(ざんしょく)を吹いて 天明を待つ

 

【語釈】

○景陽鐘…夜明けを告げる鐘。六朝時代に景陽楼に置かれた鐘が夜明けを告げたことに由来する。○隠隠…大きな音の形容。○三十六宮…多くの宮殿。○梳洗…髪を梳り顔を洗う。化粧をする。○吹殘燭…残った燭を吹き消す。○天明…夜明け。

 

 

★    景陽鐘　　　　　　　　景(けい)陽(よう)鐘(しょう)　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　劉子翬

 

一刀殘月淡觚稜　　　　一刀の残月 觚稜(こりょう)に淡なり

遥望林梢曉色升　　　　遥かに望む 林(りん)梢(しょう)  暁色の升(のぼ)るを

寂寞小簾風露冷　　　　寂寞(せきばく)たる小簾 風露冷(ひやや)かなり

玉盆脂水已生冰　　　　玉盆の脂(し)水(すい) 已に 氷を生ず

 

【語釈】

○景陽鐘…夜明けを告げる鐘。六朝時代に景陽楼に置かれた鐘が夜明けを告げたことに由来する。○一刀…刀のような。○觚稜…宮城。○林梢…林の梢。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○玉盆…玉で作った盆。○脂水…口紅などを洗い落とした水。

 

 

★    老宮人　　　　　　　　老宮人　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　劉得仁

 

白髮宮娃不解悲　　　　白髪の宮娃(きゅうあい) 悲しみを解かず

滿頭猶自插花枝　　　　満頭 猶(いま)自(だ) 花枝を挿す

曾緣玉貌君王寵　　　　曽て 玉貌(ぎょくぼう) 君王の寵に縁(よ)り

準擬人看似舊時　　　　準(じゅん)擬(ぎ)す 人の看て 旧時に似んことを

 

【語釈】

○宮娃…宮女。○猶自…いまだ。○玉貌…玉のような美貌。○君王…皇帝。○準擬…なぞらえ擬すること。

 

 

★    出宮人　　　　　　　　出宮人(しゅつきゅうじん)　　　　　　　　　　　　　  明　　張　煒

 

一自承恩得放歸　　　　一たび 恩を承わりて 放帰(ほうき)を得てより

夢魂還繞御屏飛　　　　夢魂 還(ま)た 御屏(ぎょへい)を繞(めぐ)りて飛ぶ

舞衣猶有殘香在　　　　舞(ぶ)衣(い) 猶お 残香の在る有り

花落花開獨掩扉　　　　花落ち 花開いて 独り扉を掩う

 

【語釈】

○出宮人…宮廷から暇を出された宮女。○放歸…家に帰される。○御屏…皇帝の屏風。

 

 

★    岐王宮侍兒出家　　　　岐(ぎ)王宮(おうきゅう)の侍児(たいじ)の出家　　　　　　　　　　  宋　　張叔夜

 

六尺輕羅染麴塵　　　　六尺の軽羅(けいら)　麴(きく)塵(じん)を染む

金蓮步穩襯湘裙　　　　金(きん)蓮(れん) 歩 穏やかにして 湘裙(しょうくん)を襯(しん)す

從今不入君王夢　　　　今(いま)従(よ)り入らず 君王の夢

剪盡巫山一朶雲　　　　剪(せん)尽(じん)す 巫山(ふざん) 一朶(いちだ)の雲

 

【語釈】

○岐王宮…魏王の宮殿。○侍兒…侍妾。○出家…お暇をいただくこと。○輕羅…薄絹の布。○麴塵…青に黄色を混ぜたいろ。○金蓮…女性の細い足。○湘裙…糸で織った女性の衣服の裾。○襯…身につける。○君王…皇帝。○剪盡…裁ち切る。盡は助字。○巫山三峽にある山。「朝雲暮雨」の故事の舞台。○一朶…ひとひら。

 

　　　

★    宮人斜　　　　　　　　宮人(きゅうじん)斜(しゃ)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　雍裕之

 

幾多紅粉委黃泥　　　　幾多の紅粉 黄泥(こうでい)に委(す)てらる

野鳥如歌又似啼　　　　野鳥 歌うが如く 又た 啼くに似たり

應有春魂化爲燕　　　　応(まさ)に 春(しゅん)魂(こん)の 化して 燕と為り

年年飛入未央棲　　　　年々 飛びて未央(びおう)に入りて棲(す)む有るべし

 

【語釈】

○宮人斜…長安郊外にある女官の墓地。○紅粉…美女。○應…まさに～べしと読み、きっと～に違いないの意。○春魂…宮女の魂。○未央…未央宮、西安市の西北 にあった宮殿。前漢の皇帝の居場所であった。

（参考文献）　　『三体詩』

 

★    宮人斜　　　　　　　　宮人(きゅうじん)斜(しゃ) 　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸龜蒙

 

草著愁煙似不春　　　　草は愁(しゅう)煙(えん)を著(ちゃく)し 春ならざるに似たり

晚鶯哀怨問行人　　　　晩鶯 哀怨し 行人に問う

須知一種埋香骨　　　　須く知るべし 一種 香(こう)骨(こつ)を埋むるも

猶勝昭君作虜塵　　　　猶お 昭君の 虜(りょ)塵(じん)と作るに勝れり

 

【語釈】

○宮人斜…長安郊外にある女官の墓地。○著愁煙…悲しみ悶えるさま。○晚鶯…晩春の鶯。○須…「すべからく～べし」と読み、「当然～すべきである」「～するのは当然である」の意。○一種…同様。○昭君…王昭君。匈奴に嫁いだ悲劇の美女。○虜塵…匈奴の地の塵。

 

★    宮人斜　　　　　　　　宮人(きゅうじん)斜(しゃ) 　　　　　　　　　　　　　  明　　林懋和

 

春雲漠漠草如烟　　　　春雲 漠々(ばくばく)として 草 煙の如し

無限香魂哭杜鵑　　　　限り無き香(こう)魂(こん) 杜鵑(とけん)を哭(こく)す

為語蛾眉漫惆悵　　　　為に語る 蛾(が)眉(び) 漫(みだり)に惆悵(ちゅうちょう)すと

絶勝青塚寄胡天　　　　絶勝たる青塚(せいちょう)　胡天に寄る

 

【語釈】

○宮人斜…女官の墓地。○漠漠…一面に連なっているさま。○香魂…美人の魂。○杜鵑…ホトトギス。杜鵑は愛する人を失った女性が化けた鳥だと言われ、杜鵑は悲しみや別離の象徴とされる。○蛾眉…美人。○惆悵…嘆き悲しむ。○絶勝…景色のよい。○青塚…王昭君の墓。砂漠の中で草が青々と茂るので青塚と言われる。内蒙古自治区にある。○胡天…異民族居住地の空。

 

 

★    宮人斜　　　　　　　　宮人(きゅうじん)斜(しゃ)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　杰

 

埋玉空山土一杯　　　　玉を埋(うず)む 空山 土一杯

落花飛盡水悠悠　　　　落花 飛び尽くして 水悠々(ゆうゆう)たり

年年灑作杜鵑血　　　　年々(としねん) 灑(そそ)ぎ作(な)す 杜鵑(とけん)の血

遺恨春風十二樓　　　　遺恨(いこん) 春風 十二楼

 

【語釈】

○宮人斜…女官の墓地。○玉…ここでは宮女。○空山…人気の無い山。○悠悠…他と関わりなくのんびりしたさま。○杜鵑血…ホトトギスは血を吐くような声で鳴くとされる。○十二楼…多くの楼。

 

 

★    宮人斜　　　　　　　　宮人斜　　　　　　　　　　　　　　　   明　　謝肇淛

 

落花啼鳥怨青春　　　　落花 啼鳥 青春を怨む

生不銜恩死作塵　　　　生きて恩を銜(かん)じ 死して塵と作(な)る

長信月明秋寂寂　　　　長信 月明らかにして 秋 寂々(せきせき)

君王只夢李夫人　　　　君王 只だ夢む 李夫人

 

【語釈】

○宮人斜…女官の墓地。○長信…長信宫。寵愛を失った班婕妤が住んだ宮殿。○李夫人…漢の武帝の側室で若くして無くなった。

 

 

★    宮人斜　　　　　　　　宮人斜 　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　渤

 

空山冥冥夜沈沈　　　　空山 冥々(めいめい) 夜 沈々(ちんちん)

多少芳魂不可尋　　　　多少の芳魂 尋ぬべからず

莫怨埋香在黄土　　　　怨む莫かれ 香を埋めて 黄土に在るを

長門深以墓門深　　　　長門 深くして 墓門の深きに以たり

 

【語釈】

○宮人斜…女官の墓地。○冥冥…暗くかすかなさま。○沈沈…夜の更けるさま。○多少…多くの。○芳魂…美人の魂。○黄土…墓。よみじ。○長門…長門宮。漢の武帝の時に寵愛を失った陳皇后が住んだ。

 

 

　　　

絶句類選　巻之十六　　閨閣類

 

★江南行                 江南(こうなん)行(こう)                        唐　　張　潮　　

 

茨菰葉爛別西灣　　　　茨菰(しこ) 葉 爛(ただ)れて 西湾に別る

蓮子花開猶未還　　　　蓮子(れんし) 花 開いて 猶お 未だ還(かえ)らず

妾夢不離江上水　　　　妾(しょう「)が夢は 江上の水を離れず

人傳郎在鳳凰山　　　　人は伝う 郎(ろう)は 鳳凰山(ほうおうざん)に在りと

 

【語釈】

○江南行…楽府題。江南地方の歌。○茨菰…くわい。○葉爛…晩春○西灣…西の入り江。場所不祥。○蓮子…蓮の花。○妾…わらわ。○人傳…人のうわさによると。○郎…家の宿六。○鳳凰山…場所不定。つがいの鳳が仲良く暮らす山。

（参考文献）　　『唐詩選』

★    　閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王昌齡

 

閨中少婦不知愁　　　　閨中(けいちゅう)の少婦 愁(うれい)を知らず

春日凝妝上翠樓　　　　春日 妝(よそお)いを凝らして 翠楼(すいろう)に上る

忽見陌頭楊柳色　　　　忽ち見る 陌頭(はくとう) 楊柳の色

悔教夫壻覓封侯　　　　悔ゆらくは 夫壻(ふせい)をして 封(ほう)侯(こう)を覓(もと)めしむことを

 

【語釈】

○閨中…妻の寝室。○少婦…若妻。○翠楼…青く塗った高殿、青楼に同じ。○陌頭…道ばた。○楊柳 …やなぎ。○夫壻 …夫。○４封侯…諸侯として封ずる。

（参考文献）　　『唐詩選』『唐詩三百首』

 

 

★    春怨　　　　　　　　　春怨　  　　　　　　　　　　　　　　唐　　王昌齡

 

音書杜絶白狼西　　　　音書(いんしょ) 杜(と)絶(ぜつ)す 白(はく)狼(ろう)の西

桃李無顏黃鳥啼　　　　桃李 顔 無くして 黄鳥啼く

寒雁春深歸去盡　　　　寒雁 春 深くして 帰り去りて尽き

出門腸斷草萋萋　　　　門を出で 腸断(ちょうだん) 草　萋々(せいせい)たり

 

【語釈】

○春怨…若い女性が春の気配に感じてもの思いにふけること。○音書…手紙。ここでは出征している夫からの物。○杜絶…途絶える。○白狼…満州熱河省朝陽県。○黄鳥…コウライウグイス。○寒雁…冬の雁。○腸斷…ハラワタがちぎれる程の悲しみ。○萋萋…草木が生い茂るさま。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

★    春夢　　　　　　　　　春夢　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　岑　參

 

洞房昨夜春風起　　　　洞房 昨夜 春風起る

遙憶美人湘江水　　　　遥かに 美人を憶(おも)う 湘(しょう)江(こう)の水

枕上片時春夢中　　　　枕上(ちんじょう) 片時(へんじ) 春夢の中

行盡江南數千里　　　　行き尽す 江南 数千里

 

【語釈】

○洞房…寝室。○湘江…湖南省を東に流れて洞庭湖にそそぐ河。○片時…短い時間。○江南…長江中下流の南岸地方。

（参考文献）　　『新編中国名詞選（中）』

 

 

★    古意　　　　　　　　　古意　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　耿　湋

 

雖言千騎上頭居　　　　千騎上頭(せんきじょうとう)に居すと 言うと雖(いえど)も

一世生離恨有餘　　　　一世の生離(せいり) 恨 余り有り

葉下綺窗銀燭冷　　　　葉下の綺(き)窓(そう)　銀燭冷やかなり

含啼自草錦中書　　　　啼(てい)を含み 自(みずか)ら草(そう)す 錦中(きんちゅう)の書

 

【語釈】

○古意…昔を思う心。○千騎上頭居…多数の騎兵の中で最も高い位置にいる。○生離…生き別れ。○綺窗…装飾された美しい窓。○銀燭…銀色の灯火。○草…書き起こす。

 

 

★    春怨　　　　　　　　　春怨　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　戴叔倫

 

金鴨香消欲斷魂　　　　金(きん)鴨(おう) 香消え 魂(こん)を断たんと欲す

棃花春雨掩重門　　　　棃花 春雨 重門(ちょうもん)を掩う

欲知別後相思意　　　　知らんと欲す 別後 相思(そうし)の意

回看羅衣積淚痕　　　　回(かえ)り看る 羅(ら)衣(い) 涙痕 積(つ)む

 

【語釈】

○春怨…若い女性が春の気配に感じてもの思いにふけること。○金鴨…金製の鴨の形をした香炉。○重門…重門宮。武帝の寵を失った陳皇后が住んだ宮殿。○羅衣…薄絹の衣。

 

 

★    寫情　　　　　　　　情を写す　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　益

 

水紋珍簟思悠悠　　　　水紋の珍簟(ちんたん) 思 悠々(ゆうゆう)

千里佳期一夕休　　　　千里の佳期 一夕休(や)む

從此無心愛良夜　　　　此れ従り 心無し 良夜を愛するに

任他明月下西樓　　　　任(さもあらば)他(あれ) 明月 西楼を下るを

 

【語釈】

○水紋珍簟…水紋の模様がある美しい竹むしろ。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。○佳期…美しい時期。○任他…ままよ。

 

 

 

★    江南曲　　　　　　　　江南の曲　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　于　鵠

 

偶向江邊採白蘋　　　　偶々(たまたま) 江辺に向(お)いて 白蘋(はくひん)を採す

還隨女伴賽江神　　　　還(ま)た 女(じょ)伴(はん)に随って 江(こう)神(しん)に賽(さい)す

衆中不敢分明語　　　　衆中 敢えて 分明に語らず

暗擲金錢卜遠人　　　　暗に 金銭を擲(なげう)ちて 遠人に卜(ぼく)す

 

【語釈】

○江南曲…長江中下流地域の歌。○白蘋…白い浮き草。○女伴…女の連れ合い。○江神…川の神。○衆中…衆人の中。○分明…はっきりと。○卜…与える。

 

 

★    浪淘沙　　　　　　　　浪淘沙(ろうとうさ)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　唐　　劉禹錫      

 

鸚鵡洲頭浪颭沙　　　　鸚鵡(おうむ)洲頭(しゅうとう) 浪(なみ) 沙(すな)を颭(うごか)し

青樓春望日將斜　　　　青楼の春望 日 将(まさ)に斜めらんとす

銜泥燕子爭歸舍　　　　泥を銜(ふく)む燕(えん)子(し)は 争いて舎に帰るも

獨自狂夫不憶家　　　　自独(ひとり) 狂夫のみ 家を憶(おも)わず

 

【語釈】

○浪淘沙…なみが砂を洗う。○鸚鵡洲…武漢西南（武昌）の長江にある中洲。頭…ほとり。○颭…風が物を動かす、波だてる。○青樓…青く塗った華美なたかどの。○春望…春の眺め。○日将斜…日が傾こうとしている。舍…巣。○独自…自分ひとりだけで，自は、～だけでの意。○狂夫…気の狂った男(作者)。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    秋夜曲　　　　　　　　秋夜の曲　　　　　　 　　　　　　 唐　　張仲素

 

丁丁漏水夜何長　　　　丁々(ちょうちょう)たる漏水 夜 何ぞ長き

漫漫輕雲露月光　　　　漫々(まんまん)たる軽雲 露月 光る

秋迫闇蟲通夕響　　　　秋 迫りて 闇(あん)虫(ちゅう) 通夕(つうせき)響く

寒衣未寄莫飛霜　　　　寒衣 未だ寄せず 霜を飛ばすこと莫かれ

 

【語釈】

○丁丁…水時計の音の形容。○漏水…水時計の水。○漫漫…広く遙かなさま。○闇蟲…コオロギ。○通夕…夜通し。○寒衣…冬用の衣服。

 

　　　

★    秋閨思　　　　　　　　秋(しゅう)閨(けい)の思　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張仲素

 

秋天一夜靜無雲　　　　秋天 一夜 静かに 雲 無し

斷續鴻聲到曉聞　　　　断続する 鴻声(こうせい) 暁に到りて聞く

欲寄征人問消息　　　　征人(せいじん)に寄せて 消息を問わんと欲す

居延城外又移軍　　　　居(きょ)延(えん)城外(じょうがい) 又 軍を移す

 

【語釈】

○秋閨思…夫と別れている夫人が，秋に独り寝の寂しさを詠った詩。○鴻聲…雁の声。雁は手紙を運ぶという．蘇武の故事。○征人…遠征に出ている夫。○ 居延城…漢の武帝のとき、匈奴に対する最前線として、甘粛省の酒泉から張掖にかけて築かれた城。

 

 

 

★    秋閨思　　　　　　　　秋(しゅう)閨(けい)の思　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張仲素

 

碧窗斜月藹深暉　　　　碧(へき)窓(そう)の斜月 深暉藹(あい)たり

愁聽寒螿淚濕衣　　　　寒螿(かんしょう)を 愁え聴き 涙 衣を湿す

夢裏分明見關塞　　　　夢(む)裏(り) 分明に 関(かん)塞(さい)を見る

不知何路向金微　　　　知らず 何の路か 金微(きんび)に向うかを

 

【語釈】

○秋閨思…夫と別れている夫人が，秋に独り寝の寂しさを詠った詩。○碧窗…青緑色のカーテンをした窓。○寒螿…晩秋に鳴く虫。○分明…はっきりと。○關塞…辺境の寨。○金微…アルタイ山脈。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

寒月沈沈洞房靜　　　　寒月 沈々(ちんちん)として 洞房静(しずか)なり

真珠簾外梧桐影　　　　真珠簾外 梧桐の影

秋霜欲下手先知　　　　秋霜 下らんと欲して 手先ず知る

燈底裁縫剪刀　　　　　灯底 裁縫 剪(せん)刀(とう)冷やかなり

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている怨み。○沈沈…夜が更けていくさま。○洞房…奥深い寝室。○真珠簾外…真珠で作った暖簾。

 

 

★    閨婦　　　　　　　　　閨婦(けいふ)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

斜凭繡牀愁不動　　　　斜めに繡牀(しゅうしょう)に凭(よ)りて 愁えて動かず

紅綃帶緩綠鬟低　　　　紅 綃(き)え 帶 緩(ゆる)くして 緑鬟(りょくかん)低(た)る

遼陽春盡無消息　　　　遼(りょう)陽(よう) 春 尽きて 消息無し　

夜合花前日又西　　　　夜合(よるごう)花前(かぜん) 日 又た西す

 

【語釈】

○閨婦…夫のいない寝室の妻。○繡牀…刺繍をした寝台。○紅…頬紅。○綠鬟…緑の黒髪のまげ。○遼陽…遼寧省遼陽県、夫の出征先。○夜合花…ねむの花。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

　　

 

★    燕子樓               燕子楼(えんしろう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

滿窗明月滿簾霜　　　　満窓(まんそう)の明月 満簾(まんれん)の霜

被冷燈殘拂臥牀　　　　被(ひ)冷(ひや)かに 灯 残(ざん)して 臥床(がしょう)を払う

燕子樓中霜月夜　　　　燕子楼中(えんしろうちゅう) 霜月(そうげつ)の夜

秋來只爲一人長　　　　秋来(しゅうらい) 只だ 一人の為に長し

 

【語釈】

○燕子樓…徐州刺史であった張惜の愛妾盼盼が、張惜の死後に籠もった楼、序に詳しく説明がある。○燈殘…灯が消えかかる。○拂臥牀…寝床に付く。○秋來…秋になって以来。○一人…独り寝。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

　　

★    燕子樓               燕子楼(えんしろう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

鈿暈羅衫色似煙　　　　鈿暈(でんうん) 羅衫(らさん) 色 煙に似たり

幾回欲著即潸然　　　　幾回か 著(ちゃく)せんと欲して 即ち潸然(さんぜん)たり

自從不舞霓裳曲　　　　霓(げい)裳(しょう)の曲を 舞わざりしより

疊在空箱十一年　　　　畳(たた)みて 空箱(くうそう)に在ること 十一年

 

【語釈】

○燕子樓…徐州刺史であった張惜の愛妾盼盼が、張惜の死後に籠もった楼、序に詳しく説明がある。○鈿暈…螺鈿細工の帯び。○羅衫…薄絹の着物。○煙…霞、靄，雲。○潸然…涙の流れるさま。さめざめ。○霓裳曲…霓裳羽衣の曲、玄宗が楊貴妃のために作った曲とされる。○空箱…空しい衣装箱。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

　　　　

 

★    戍婦詞　　　　　　　　戍婦(じゅふ)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　許　棐

 

半落釭花午夜闌　　　　半ば落つ 釭(こう)花(か) 午夜闌(たけなわ)なり

戍衣裁就寄君難　　　　戍(じゅ)衣(い) 裁就(さいしゅう)すれども君に寄すること難し

雁來不带平字安　　　　雁 来たれども带びず 平安の字

却带邊風入帳寒　　　　却って 辺風を带びて 帳に入りて寒し

 

【語釈】

○戍婦…遠征に出ている人の妻。○釭花…灯心の燃え尽きるときに出来る花形。○午夜…真夜中過ぎ。○戍衣…兵士が着る戦闘服。○裁就…裁縫して作る。○邊風…辺境からの風。

★　昨夜　　　　　　　　　昨夜　　　　　　　　　　　　　唐　　李商隱    

 

不辭鶗鴂妬年芳　　　　鶗鴂(ていけつ)の 年(ねん)芳(ぽう)を 妬(ねた)むを辞せず

但惜流塵暗燭房　　　　但だ 流塵の 燭房(しょくぼう)に暗きを惜しむ

昨夜西池涼露滿　　　　昨夜 西池 涼露満ち

桂花吹斷月中香　　　　桂花 吹断(すいだん)す 月中の香

 

【語釈】

○辭鶗…ホトトギス。○年芳…春の美しい花。女性の比喩。○流塵…空中の塵。○燭房…女性の部屋。○桂花…桂の木の花。月には桂があるという伝説。○起句…ホトトギスが鳴くと草が香らなくなる（『離騒』）。

 

　

★    寄遠　　　　　　　　　遠きに寄す　　　　　　　　　　　　   唐　　趙　嘏

 

禁鐘聲盡見棲禽　　　　禁(きん)鐘(しょう) 声 尽きて 棲禽(せいきん)を見る

關塞迢迢故國心　　　　関塞 迢々(じょうじょう) 故国の心

無限春愁莫相問　　　　限ち無き春愁 相問うこと莫れ

落花流水洞房深　　　　落花 流水 洞(どう)房(ぼう)深し

 

【語釈】

○禁鐘…宮中の鐘。○棲禽…樹木に棲み着いている鳥。○関塞…辺境の寨。○迢迢…遠く遙かなさま。○故國…故郷。○春愁…春の日になんとなく気がふさがりもの悲しく感じられること。○洞房…女性の寝室。

 

 

★    閨情　　　　　　　　　閨(けい)情(じょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　孟　遲

 

山上有山歸不得　　　　山上 山有り 帰り得ず

湘江暮雨鷓鴣飛　　　　湘(しょう)江(こう)の暮雨 鷓鴣(しゃこ)飛ぶ

蘼蕪亦是王孫草　　　　蘼(び)蕪(ぶ) 亦た是れ 王孫草ならば

莫送春香入客衣　　　　春香を送りて 客(かく)衣(い)に入ること莫かれ

 

【語釈】

○閑情…妻が遠くにいる夫のことを思う情。○湘江…洞庭湖に注ぐ湖南省最大的の川。○鷓鴣…鳴き声が「行不得」と聞こえるので、行く事ができない事を意味する。○蘼蕪…川岸に生じる草で当帰草（当に帰るべし）という。○王孫草…「楚辞・招隠詩」の「王孫遊不歸兮 春草生萋萋」に基づく。○客衣…旅の衣。

（参考文献）　『三体詩』

 

 

★    江南織綾詞　　　　　　江南(こうなん)織(せき)綾(りょう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　  唐　　施肩吾

 

卿卿買得越人絲　　　　卿(けい)々(けい) 買い得たり 越人の糸

貪弄金梭嬾畫眉　　　　金梭(きんひ)を弄(ろう)することを貪(むさぼ)りて 眉を画くを嬾(おこた)る

女伴能來看新𥷨　　　　女伴 能(よ)く来りて 新𥷨を看る

鴛鴦正欲上花枝　　　　鴛鴦(えんおう) 正(まさ)に 花枝に上らんと欲す

 

【語釈】

○江南織綾詞…長江中下流地方の織物をするときの歌。○卿卿…高位の人たち。○越人…浙江省の当たりの人。○金梭…金の梭（機織りの道具の一つ）。○女伴…女性の伴侶。○新𥷨…不明。誤字？○鴛鴦…オシドリ。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨　　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

夢斷南窗啼曉烏　　　　夢 断えて 南窓 暁烏(ぎょうう)啼く

新霜昨夜下庭梧　　　　新霜 昨夜 庭梧(ていご)に下る

不知簾外如珪月　　　　知らず 簾外 珪(たま)の如き月　

還照邊城到曉無　　　　還(ま)た 辺城を照して 暁に到るや無(いな)や

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○庭梧…庭のアオギリ。○辺城…辺境の街。

 

　　　

★    春愁　　　　　　　　　春愁 　　　　　　　　　　　　　　　  唐     韋 莊

 

自有春愁正斷魂　　　　自(みずか)ら 春愁 正に魂(こん)を断つ有りて

不堪芳草思王孫　　　　堪えず 芳草 王孫(おうそん)を思うに

落花寂寂黃昏雨　　　　落花寂々(せきせき) 黄昏(こうこん)の雨

深院無人獨倚門　　　　深院 人 無く 独り 門に倚(よ)る

 

【語釈】

○春愁…春の日になんとなく気がふさがりもの悲しく感じられること。○芳草…香草。○王孫…「楚辞・招隠詩」の「王孫遊不歸兮 春草生萋萋」に基づく。○寂寂…寂しく静かなさま。○黃昏…たそがれ。○深院…奥深い中庭。

　　　

 

 

★    春閨怨　　　　　　　　春閨怨(しゅんんけいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐     李 中

 

塵昏菱鑑懶修容　　　　塵 昏くして 菱(りょう)鑑(かん) 容(かたち)を修するに懶(ものう)し

雙臉桃花落盡紅　　　　双臉(そうれん) 桃花 落ち尽して紅なり

玉塞夢歸殘燭在　　　　玉(ぎょく)塞(さい) 夢帰りて 残燭(ざんしょく)在り

曉鶯窗外囀梧桐　　　　暁鶯 窓外 梧桐に囀(てん)ず

 

【語釈】

○春閨怨…夫と別れた夫人が独り寝の寂しさを歌った詩。○塵昏…塵が積もって暗いこと。○菱鑑…鏡の一種。○雙臉…両頰。○玉塞…玉門関。○夢歸…夢が醒める。

 

 

★    已涼　　　　　　　　　已(き)涼(りょう)　　　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

碧闌干外繡簾垂　　　　碧闌(へきらん)干外(かんがい) 繡(しゅう)簾(れん)垂る

猩色屏風畫折枝　　　　猩(しょう)色(しょく)の屏風 折(せっ)枝(し)を画く

八尺龍鬚方錦褥　　　　八尺の竜(りゅう)鬚(びん) 方(まさ)に錦(きん)褥(じょく)

已涼天氣未寒時　　　　已に涼しき天気 未だ寒ならざる時

 

【語釈】

○已涼…已に涼しくなったこと。○碧闌干…青緑色の闌干。○繡簾…刺繍を施した布すだれ。○猩色…猩々色。○龍鬚…シャクナゲ科の植物で茎は織物に使われる。○錦褥…美しい衣服。

 

 

★    春女怨　　　　　　　　春女怨(しゅんじょ)　　　　　　　　　　　　　  唐　　朱　絳

 

獨坐紗窗刺繡遲　　　　独坐 紗窓 刺繡遅し

紫荆花下囀黃鸝　　　　紫荆(しけいか)花下(かか) 黄鸝(こうり)囀ず

欲知無限傷春意　　　　限り無き 春を傷む意を 知らんと欲せば

盡在停針不語時　　　　尽(ことごと)く 針を停めて 語らずの時に在り

 

【語釈】

○春女怨…若い女性が春の気配に感じて、物思いにふけること。○紗窗…薄絹のカーテンをした窓。○紫荆花…バウヒニア。豆科の常緑高木。○黃鸝…コウライウグイス。○囀…さえずる。

 

 

★    春女怨　　　　　　　　春女怨(しゅんじょ)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　薛維翰

 

白玉堂前一樹梅　　　　白玉(はくぎょく)堂前(とうぜん) 一樹の梅

今朝忽見數枝開　　　　今朝 忽ち見る 数枝の開くを

兒家門戸重重閉　　　　児家の門戸 重々(ちょうちょう)閉ざす

春色因何入得來　　　　春色 何に因(よ)りてか 入(い)り得て来る

 

【語釈】

○春女怨…若い女性が春の気配に感じて、物思いにふけること。○白玉堂…高貴な人の邸宅。○重重…重なるさま。○春色…春の気配。春景色。

 

 

★    寄人　　　　　　　　　人に寄す　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　泌

 

酷憐風月爲多情　　　　酷(はなは)だ憐れむ 風月 為に多情なるを

還到春時別恨生　　　　還(ま)た 春時に到りて 別恨生ず

倚柱尋思倍惆悵　　　　柱に倚りて 尋思(じんし)し 倍(ます)ゝ(ます)惆悵(ちゅうちょう)す

一場春夢不分明　　　　一場の春夢 分明ならず

 

【語釈】

○別恨…離別の愁い。○尋思…考慮、思索。○惆悵…嘆き悲しむ。○分明…はっきりする。

 

 

★    寄夫　　　　　　　　　夫(ふ)に寄す　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陳玉蘭

 

夫戍邊關妾在呉　　　　夫(ふ)は辺(へん)関(かん)を戍(まも)り　妾(しょう)は呉に在り

西風吹妾妾憂夫　　　　西風　妾(しょう)を吹き　妾(しょう)は夫(ふ)を憂(うれ)う

一行書信千行淚　　　　一行(いっこう)の書信　千行(せんこう)の涙

寒到君邊衣到無　　　　寒は君の辺に到る　衣は到るや無(いな)や

 

【語釈】

○邊關…辺境の関所。○妾…わらわ。○呉…江蘇省一帯。○西風…秋風。○書信…手紙。

 

 

★    留別　　　　　　　　　留別(りゅうべつ)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　慎　氏

 

當時心事已心關　　　　当時の心事(しんじ) 已に心に関す

雨散雲飛一餉間　　　　雨散じ 雲飛ぶ  一餉(いっしょう)の間

便掛孤帆從此去　　　　便ち 孤(こ)帆(はん)を掛(か)けて 此(ここ)従(より)り去り

不堪重過望夫山　　　　堪えず 重ねて望夫山に 過ぎるに

 

【語釈】

○留別…別れるときに残す詩。○心事…心情。○一餉…一食する間。○孤帆…一つの帆掛け船。○望夫山…妻が出征する夫を見送り、そのまま化したものと伝える望夫石のある湖北省武昌の北山。

 

 

★    燕子樓　　　　　　　　燕子楼(えんしろう)　　　　　　　　　　　　　    唐　　關盼盼

 

北邙松柏鎖愁煙　　　　北邙(ほくぼう)の松柏 愁煙に鎖さる

燕子樓中思悄然　　　　燕子楼中(えんしろうちゅう) 思 悄然たり

自埋劒履歌塵散　　　　自(みずか)ら剣(けん)履(り)を埋めて 歌(か)塵(じん)散じ

紅袖香銷已十年　　　　紅(こう)袖(しゅう) 香 銷えて已に十年

 

【語釈】

○燕子樓…白居易の時代の徐州の長官・張尚書の邸内の楼閣のことで、張の死後、その妾が長い間、ひとりで暮らしていた（白居易「燕子樓」）。○北邙…墓地のあるところ。○愁煙…物寂しい霧靄。○悄然…しょんぼりしているさま。○歌塵…美しく響き渡る歌声。○紅袖…女性の紅色の衣服。

 

 

★    春思　　　　　　　　　春思　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張窈窕

 

門前花柳爛春暉　　　　門前の花柳 春暉に爛(らん)たり

獨坐深閨繍舞衣　　　　独坐 深閨(しんけい) 舞衣を繍(しゅう)す

雙燕不知腸欲斷　　　　双燕(そうえん)は知らず 腸(はらわた) 断えんと欲するを

銜泥故自傍人飛　　　　泥を銜(くわ)えて故(ことさら)に自(おのずか)ら人に傍いて飛ぶ

 

【語釈】

○春思…春の日の思い。○春暉…春の光。○爛…鮮やか。○深閨…女性の部屋。○雙燕…つがいの燕。

 

 

★    贈遠                 遠きに贈る                         唐　　薛　濤

 

芙蓉新落蜀山秋　　　　芙蓉 新たに落つ 蜀山の秋

錦字開緘総是愁　　　　錦字 緘(かん)を開けば 総て是れ愁(うれい)

閨閣不知戎馬事　　　　閨閣(けいかく)は知らず 戎(じゅう)馬(ば)の事

月高還上望夫樓　　　　月高くして 還(ま)た上る 望夫楼(ぼうふろう)

 

【語釈】

○芙蓉…木蓮。○錦字…錦織の文字。ここでは夫からの手紙。○緘…とじひも。○閨閣……女性の寝室。○戎馬…戦争。○望夫樓…遠征している夫のいる方向を眺めやる楼閣（「望夫山」の連想）。

（参考文献）　『漢詩大系　１５』

 

 

 

★    遣侍兒朝華　　　　　　侍兒(たいじ)を朝(ちょう)華(か)に遣(や)る　　　　　　　　　　  宋　　秦　觀

 

月露茫茫曉柝悲　　　　月露 茫々(ぼうぼう) 暁(ぎょう)柝(たく)悲し

玉人揮手斷腸時　　　　玉人 手を揮う 断腸の時

不須重向燈前泣　　　　須らく 重ねて 灯前に向(お)いて泣くべからず

百歲終當一別離　　　　百歳 終(つい)に一別離に当たる

 

【語釈】

○侍兒…侍妾。○朝華…朝早く開いた花枝。○茫茫…あてもなくつかみ所のないさま。○曉柝…曉を告げる拍子木。○玉人…愛する人。○須…「すべからく～すべし」と読み、｢当然～すべきである｣の意。

 

　　　

★    爲亞卿作　　　　　　　亜(あ)卿(けい)の為に作る　　　　　　　　　　  宋　　韓　駒

 

君住江濱起畫樓　　　　君は 江(こう)浜(ひん)に住み 画楼を起こす

妾居海角送潮頭　　　　妾(しょう)は 海(かい)角(かく)に居し 潮頭を送る

潮中有妾相思淚　　　　潮中 妾(しょう)の 相思の涙有り

流到樓前更不流　　　　流れて 楼前に到り 更に流れず

 

【語釈】

○亞卿…愛しい人。○畫樓…絵で飾った楼閣。○妾…わらわ。○海角…海に突き出た陸地。○潮頭…波頭。○相思…相手を思うこと。相は自分の動作が相手に及ぶこと。

 

 

 

★    春日　　　　　　　　　春日　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

藥欄花暖小猧眠　　　　薬欄(やくらん) 花 暖かにして 小猧(しょうわ) 眠る

雪白晴雲水碧天　　　　雪 白くして 晴雲 水碧の天

煮酒青梅寒食過　　　　酒を煮て 青梅 寒食過ぐ

夕陽庭院鎖鞦韆　　　　夕陽(せきよう) 庭院 鞦韆(しゅうせん)を鎖(とざ)す

 

【語釈】

○藥欄…芍薬の花の棚。○小猧…雄の子豚。○寒食…当時から百五日目。この日を挟んで前後の計三日間は火を使わない風習があった。○庭院…中庭。○鞦韆…ブランコ。

 

 

★    春日　　　　　　　　　春日　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　范成大　　

 

西窗一雨又斜暉　　　　西窓 一雨 又 斜暉

睡起薰籠換夾衣　　　　睡起し 薫(くん)籠(ろう) 夾(きょう)衣(い)を換う

莫放珠簾遮洞戸　　　　珠(しゅ)簾(れん)を放ちて 洞戸(どうこ)を遮ぎること莫れ

從教燕子作雙飛　　　　従(さも)教(あらばあれ) 燕子(えんし) 双飛(そうひ)を作すを　

 

【語釈】

○斜暉…夕陽。○薰籠…衣に香を焚きしめるための籠。○夾衣…裏地のある衣服。○珠簾…玉すだれ。○洞戸…奥深い部屋。○從教…ままよ。○雙飛…つがいになって飛ぶ。

 

 

★    柳葉詞　　　　　　　　柳(りゅう)葉(よう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　徐　照

 

嫩葉吹風不自持　　　　嫩(どん)葉(よう) 風に吹かれて 自(みずか)ら持たず

淺黄微綠映清池　　　　浅黄(せんこう) 微緑 清池に映ず

玉人未識分離恨　　　　玉人(ぎょくじん) 未だ識らず 分離の恨(うらみ)

折向堂前學畫眉　　　　折りて 堂前に向(お)いて 画(が)眉(び)を学ぶ

 

【語釈】

○嫩葉…若葉。○玉人…愛する人。○分離恨…柳の枝が分離されることの悲しみ。○畫眉…黛をほどこす。

 

　　　

★    寄衣曲　　　　　　　　寄(き)衣曲(いきょく)　　　　　　　　　　　　　  宋　　嚴　仁

 

君戎交河春復冬　　　　君 交(こう)河(が)を戎(まも)りて 春復(ま)た冬

寒衣倒日看親封　　　　寒衣 倒る日 親封(しんぷう)するを看ん

莫嫌襟上班班色　　　　嫌(きら)う莫かれ 襟上(きんじょう) 班(はん)々(ぱん)の色

是妾燈前滴涙縫　　　　是れ 妾(しょう)が 灯前 涙を滴(したた)たらせて縫う

 

【語釈】

○寄衣曲…遠くに出かけている夫に衣服を送る歌。○交河…新疆ウイグル自治区トルファン市高昌区の中心部の街。○寒衣…冬の衣服。○班班…まだら。○妾…わらわ。

 

 

★    傷春　　　　　　　　　春を傷む　　　　　　　　　　　　　　  宋　　何應龍

 

玉纖輕揭綉簾開　　　　玉繊(ぎょくせん) 軽く掲げ 綉(しゅう)簾(れん)開く

行到花前淚滿腮　　　　行きて 花前に到りて 涙 腮(あご)に満つ

正爾春心無處託　　　　正に 爾(なんじ)の春心 託す処無し

一雙胡蝶忽飛來　　　　一双の胡蝶(こちょう) 忽(たちま)ち飛び来る

 

【語釈】

○玉纖…美人の手。○綉簾…絹や麻などの自然繊維で織ったすだれ。○春心…春景色を見ての春の感情。○一雙…つがい。○胡蝶…蝶々。

 

 

★    閨情　　　　　　　　　閨(けい)情(じょう)　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陳允平

 

閑拈花片貼紗窗　　　　閑かに 花片を拈(つま)んで 紗(さ)窓(そう)に貼(てん)す

繡幕斜飛燕子雙　　　　繡幕(しゅうばく) 斜めに飛びて 燕子(えんし)双(なら)ぶ

細數歸期相次近　　　　細かく 帰期を数うれば 相(あい)次(つ)ぎて近し

倚樓日日望春江　　　　楼に倚(よ)りて 日々(ひび) 春江を望む

 

【語釈】

○閨情…女性の愛情。○紗窗…カーテンをした窓。○繡幕…刺繍をした垂れ幕。

 

 

★    戍婦　　　　　　　　　戍婦(じゅふ)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　羅公升

 

夫戍關西妾在東　　　　夫(ふ)は関西を戍(まも)り 妾(しょう)は東に在り

東西何處望相從　　　　東西 何れの処か 望みて相従わん

只應兩處秋宵夢　　　　只だ応(まさ)に 両処 秋宵の夢

萬一關頭得暫逢　　　　万一 関頭にて 暫(しばら)く逢うを得べし

 

【語釈】

○戍婦…遠征に出ている人の妻。○関西…ここでは西域の関所。○應…「まさに～すべし」と読み、「おそらく～であろう」の意。○関頭…関所のあたり。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　葉元紫

 

長安遊子誤歸期　　　　長安の遊子 帰期を誤まる

懶繊回文錦字詩　　　　懶(ものう)く繊る 回文(かいぶん) 錦(きん)字(じ)の詩

紅聲黄金寛一寸　　　　紅声 黄金 寛(ひろ)さ一寸

逢人猶道不相思　　　　人に逢いて 猶お道(い)う 相思わずと

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○遊子…旅人。○回文錦字詩…秦の時代に秦州刺史竇滔西域の流砂の地に流された。彼の妻蘇蕙は機織機で錦を織り、八百四十字から成る「廻文旋図の詩」（上から読んでも下から読んでも意味が通じる詩）をその中に織りこんで贈ったという故事を踏まえる。

 

 

★    束綾詩　　　　　　　　束(そく)綾(りょう)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　   宋　　蒨　桃

 

一曲清歌一束綾　　　　一曲の清歌 一束の綾(あや)

美人猶自意嫌輕　　　　美人 猶(いま)自(だ) 意 軽きを嫌(きら)う

不知織女螢窗下　　　　知らず 織女 蛍(けい)窓(そう)の下

幾度抛梭織得成　　　　幾度(いくたび)か 梭(ひ)を抛ちて 織り得ること成る

 

【語釈】

○束綾詩…綾を整える詩。○清歌…無伴奏の歌。○織女…織女星。ここでは機を織る婦人。○螢窗…螢の灯りの窓。○梭…機織りの道具。

 

 

★    束綾詩　　　　　　　　束(そく)綾(りょう)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　   宋　　蒨　桃

 

風勁衣單手屢呵　　　　風 勁(つよ)く 衣 単にして 手 屢(しばしば)呵(か)す

幽窗軋軋度寒梭　　　　幽窓 軋々(あつあつ) 寒梭(かんひ)を度る

臘天日短不盈尺　　　　臘天(ろうてん) 日短くして 尺 盈(み)たず

何似妖姬一曲歌　　　　何ぞ似たる 妖姫の 一曲の歌に

 

【語釈】

○呵…息を吹きかけて暖める。○幽窗…奥深く閑かな部屋。○軋軋…ギシギシ。軋む音。○寒梭…機織りの梭。○臘天…陰暦十二月の空。○妖姬…妖絶な侍女。

 

 

★    秋懐　　　　　　　　　秋懐　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　趙令畤

 

白藕作花風已秋　　　　白藕(はくごう) 花を作(な)し 風 已に秋なり

不堪殘睡更回頭　　　　残睡(ざんすい)に堪えず 更に頭(こうべ)を回(めぐ)らす

晚雲带雨歸飛急　　　　晚雲 雨を带びて 帰り飛ぶこと急なり

去作西窗一夜愁　　　　去りて 西窓 一夜の愁(うれい)と作る

 

【語釈】

○秋懐…秋の想い。○白藕…白い蓮の根。○殘睡…目覚めた後の眠さ。○西窓…女性の部屋の窓。

 

　　　

★    春夜　　　　　　　　　春夜　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱淑真

 

半簷斜月人歸後　　　　半簷(はんえん)の斜月 人 帰りて後

一枕清風夢破時　　　　一枕の清風 夢 破るる時

無奈梨花春寂寂　　　　奈(いか)ともする無し 梨花 春 寂々(せきせき)たるを

杜鵑聲裏祇顰眉　　　　杜鵑声(とけんせい)裏(り) 祇(た)だ眉を顰(ひそ)む

 

【語釈】

○半簷…ひさし半分の高さ。○一枕…一眠り。○夢破…夢から覚める。○無奈…どうしようも無い。○寂寂…静かで物寂しいさま。○杜鵑…ホトトギス。

 

 

★    清晝　　　　　　　　　清昼　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱淑真

 

竹搖清影罩幽窗　　　　竹揺れて 清影 幽窓を罩(こ)む

兩兩時禽噪夕陽　　　　両々(りょうりょう)時禽(じきん) 夕陽に噪(さわ)ぐ

謝卻海棠飛盡絮　　　　海棠 謝却(しゃきゃく)して 絮を飛び尽す

困人天氣日初長　　　　人を困らす天気 日 初めて長し

 

【語釈】

○幽窗…静かな窓。○兩兩…幾つものつがい。○時禽…季節にあった鳥。○謝卻…散り尽くす。卻は助字。

 

 

★    感懐　　　　　　　　　感懐　　　　　　　　　　　　 　　　　 宋　　黄氏女

 

欄桿閒倚日偏長　　　　欄桿(らんかん) 閑(しずか)に倚(よ)れば 日 偏(ひとえ)えに長し

短笛無情苦斷腸　　　　短笛 無情 苦(はなは)だ断腸

安得身輕如燕子　　　　安(いずく)んぞ 身の燕子(えんし)の如く軽きを得て

隨風容易到君傍　　　　風に随って 容易に 君の傍に到らん

 

【語釈】

○感懐…心に感じ思うこと。○斷腸…非常に哀しいこと。○安得…何とかして～したいものだ。

 

 

★    哀被擄婦　　　　　　擄(りょ)せらる婦を哀れむ　　　　　　　　　　　　  宋　　聶守真

 

當年結髪在深閨　　　　当年 結髪(けっぱつ)して 深閨(しんけい)に在り

豈料人生有別離　　　　豈(あ)に料らんや 人生 別離有りとは

到底不知因色誤　　　　到底 知らず 色に因(よ)り誤まるを

馬前猶自買臙脂　　　　馬前 猶(いま)自(だ) 臙脂(えんし)を買う

 

【語釈】

○被擄…とりことなる。被は受け身の助字。○当年…昔年。○結髪…結婚。○深閨…人の近づかない女性の部屋。○猶自…いまなお。○臙脂…化粧用の紅色の顔料。

 

 

★    春江曲　　　　　　　　春江曲　　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　基

 

江上風帆日日歸　　　　江上の風(ふう)帆(はん) 日々(ひび) 帰る

獨自狂夫音信稀　　　　独自(ひとり) 狂夫 音信稀なり

無因化作鵁鶄鳥　　　　化して 鵁鶄(きょうせい)鳥(ちょう)と作り

隨著郎船到處飛　　　　郎が船に随著(ずいちゃく)して 到る処に飛ぶに因(よ)し無し

 

【語釈】

○風帆…帆掛け船。○獨自…ただ独り。○狂夫…内の旦那。○無因…～する方法が無い。○鵁鶄鳥…五位鷺。○郎…お前様。○隨著…従う。著は助字。

　　　

 

★    月下裁衣　　　　　　　月下 衣を裁う　　　　　　　　　　　　　  明　　陳　繼

 

香幃風捲月團團　　　　香幃(こうい) 風を捲いて 月 団々

睡起裁衣思萬耑　　　　睡起し 衣を裁えば 思 万耑(ばんたん)

秋葉未紅金剪冷　　　　秋葉 未だ紅ならず 金剪(きんせん)冷やかなり

玉門關外不勝寒　　　　玉門関外(ぎょくもんかんがい) 寒に勝えざらん

 

【語釈】

○香幃…香りのするとばり。○團團…まんまる。○萬耑…さまざま。○金剪…鋏の美称。

 

 

★    洞房曲　　　　　　　　洞房(どうぼう)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　高　啓

 

洞房香吐合昏花　　　　洞房 香を吐く 合昏(ごうこん)花(か)

月轉勾欄啼乳鴉　　　　月 勾欄(こうらん)に転じて 乳(にゅう)鴉(あ)啼く

今宵有酒留君醉　　　　今宵(こんしょう) 酒 有り 君を留めて酔わしめん

不信娼家勝妾家　　　　信ぜず 娼家の 妾(しょう)が家に勝るを

 

【語釈】

○洞房…奥深い女性の部屋。○合昏花…ねむの花。○勾欄…欄干。○乳鴉…鴉のひな。○娼家…妓楼。

 

 

★    秋閨思　　　　　　　　秋閨思(しゅうけいし)　　　　　　　　　　　　　　   明　　孫　䔈

 

涼夜簫聲處處過　　　　涼夜 簫声(しょうせい) 処々に過ぐ

玉樓高起偪天河　　　　玉楼 高く起き 天河に偪(せま)る

西風痩盡梧桐葉　　　　西風 痩(そう)尽(じん)す 梧桐(ごとう)の葉

添得西窓月影多　　　　添え得たり 西窓 月影の多きを

 

【語釈】

○秋閨思…女性の部屋での秋の思い。○玉楼…玉で飾った楼閣。○天河…天の川。○痩盡…凋ませ尽くす。○梧桐…アオギリ。○西窓…女性の部屋。

 

 

感懐　　　　　　　　　　感懐　　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　夏　寅

 

寶鴨煙消幾縷香　　　　宝(ほう)鴨(こう) 煙 消ず 幾縷(いくる)の香

月移花影過長廊　　　　月は花影を移して 長廊を過ぐ

春情一種無聊賴　　　　春情 一種 聊(いささ)か頼り無し

自起燒燈照海棠　　　　自ら起き 灯を焼き 海棠を照らす

 

【語釈】

○寶鴨…鴨の形をした香炉。○幾縷…幾すじ。○春情…男女の春を思う心持ち。

 

 

★    春詞　　　　　　　　　春詞　　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　梅鼎祚

 

海棠殘月照人低　　　　海棠 残月 人を照らして低し

枕上關山路欲迷　　　　枕上の関山 路 迷わんと欲す

生怕啼鶯驚曉夢　　　　生(た)だ怕(おそ)る 啼鶯 暁夢を驚さんことを

垂楊不種畫欄西　　　　垂楊 種えず 画欄(がらん)の西

 

【語釈】

○関山…関所のある山。○驚…夢を覚ます。○畫欄…画で飾った欄干。

 

 

★    春風　　　　　　　　　春風　　　　　　　　　　　　　　　　　明　　梅鼎祚

 

將軍鐵騎戰金微　　　　将軍 鉄騎 金微(きんび)に戦(いくさ)す

八月長安盡搗衣　　　　八月 長安 搗(とう)衣(い)尽く

砧聲欲落三更月　　　　砧声(ちんせい) 落(おち)んと欲す 三更の月

翡翠樓頭鴈卻飛　　　　翡翠楼頭(ひすいろうとう) 鴈 却(ま)た飛ぶ

 

【語釈】

○鐵騎…精鋭の騎兵。○金微…アルタイ山脈。○搗衣…砧で敲いて柔らかくした衣。○砧聲…衣を打つ砧の音。○三更…真夜中。○翡翠樓…翡翠で飾った楼閣。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　 　　　　　　 明　　王世貞

 

聞説邊關樂事多　　　　聞説(きくなら)く 辺関 楽事(らくじ)多しと

前庭蹋鞠後庭歌　　　　前庭の蹋(とう)鞠(きく) 後庭の歌　

不知刁斗聲中月　　　　知らず 刁斗(とうと) 声中の月

曾照流黄錦上梭　　　　曽て照らす 流(りゅう)黄錦上(こうきんじょう)の梭(ひ)

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○聞説…聞くところによると。○邊關…辺境の地にある関所。○蹋鞠…けまり。○刁斗…どら。○流黄錦…褐黄色の錦。○梭…機織り道具の一つ。

 

 

★    秋閨　　　　　　　　　秋閨　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

棠梨落葉滿園秋　　　　棠梨の落葉 満園の秋

門掩蛩聲入夜愁　　　　門 掩いて 蛩声(きょうせい) 夜に入りて愁う

未寄征衣霜露冷　　　　未だ 征衣(せいい)を寄せざるに 霜(そう)露(ろ)冷ゆ

夢魂先到古雲州　　　　夢魂 先ず到る 古雲州(こうんしゅう)

 

【語釈】

○秋閨…秋の女性の寝室。○蛩聲…コオロギの声。○征衣…軍服。○古雲州…内モンゴル自治区フフホト市一帯。

 

 

★    搗衣曲　　　　　　　　搗(とう)衣(い)の曲 　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

秦關昨夜一書歸　　　　秦関(しんかん) 昨夜 一書帰る

百戰郎從劉武威　　　　百戦 郎(ろう)は従る 劉(りゅう)武(たけし)の威

見説平安收涕淚　　　　見(みる「)説(ならく)く平安 涕(てい)涙(るい)を収むを

梧桐樹下搗征衣　　　　梧桐樹下 征衣(せいい)を搗(つ)く

 

【語釈】

○搗衣…砧で衣を敲いて柔らかくする。○秦關…国境に設けられた関所。○郎…夫。○…漢の皇族。文帝の子で景帝の同母弟。呉楚七国の乱での功績があった。○見説…～を見たという事であるが。○梧桐…アオギリ。○征衣…軍服。

 

 

★    效閨中語　　　　　　　閨中(けいちゅう)の語に効(なら)う　　　　　　　　　　　  明　　徐禎卿

 

繡罷還呼姊妹看　　　　繡(しゅう) 罷(や)みて 還(ま)た 姉妹を呼びて看る

午風晴日滿欄干　　　　午風 晴日 欄(らん)干(かん)に満つ

花間打散雙蝴蝶　　　　花間 打ち散ず 双蝴(そうこ)蝶(ちょう)

飛過兒牆又作團　　　　児牆(じしょう)を飛び過ぎて 又た 団を作(な)す

 

【語釈】

○閨中…女性の寝室。○繡…刺繍。○雙蝴蝶…つがいの蝶々。○兒牆…屛。

 

 

★    寄遠　　　　　　　　遠きに寄す　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

濯錦江頭烟水綠　　　　濯(たく)錦江頭(きんこうとう) 煙水緑なり

相思萬里人如玉　　　　相思う万里 人 玉の如し

瑤琴別後不曾彈　　　　瑶琴 別後 曽(かつ)て弾かず

今朝才理將歸曲　　　　今朝 才理す「将帰曲」

 

【語釈】

○濯錦江…錦江。成都を流れる川。○江頭…川のほとり。○烟水…水面に立つ靄。○人…夫。○瑤琴…玉で装飾した琴。○將歸曲…歌曲の一つ。｢詩経｣にあり。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　 閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　週　在

 

江南二月試羅衣　　　　江南 二月 羅(ら)衣(い)を試む

春盡燕山雪尚飛　　　　春 尽きて 燕山(えんざん) 雪 尚お飛ぶ

應是子規啼不到　　　　応(まさ)に是れ 子規 啼けども到らず

故郷雖好不思歸　　　　故郷 好しと雖(いえど)も 帰るを思わざるべし

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○羅衣…軽く柔らかい糸で編んだ衣服。○燕山…燕山山脈。河北省の河北平原の北を囲むようにそびえる。○子規…ホトトギス。故郷に帰るを促す鳥。

 

 

★    閨意　　　　　　　　　閨(けい)意(い)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　李先芳

 

阿郎空自解談文　　　　阿郎(あろう) 空しく 自(みずか)ら 文を談ずるを解す

文似何人薦子雲　　　　文 何人に似せて 子(し)雲(うん)を薦す

聞道田文能好客　　　　聞道(きくなら)く 田(でん)文(ぶん) 能(よ)く客(かく)を好むと

為郎繍箇猛嘗君　　　　郎(ろう)が為に 箇の 猛嘗(もうしょう)君(くん)を繍(しゅう)す

 

【語釈】

○閨意…女性の寝室での思い。○阿郎…私の旦那。○子雲…揚雄。漢代の儒学者、文人。成都の人。学者として高名である。『太玄経)』、『法言』の著者。○聞道…聞くところによると。○田文…戦国四君の一人である猛嘗君。

 

 

★    浣紗曲　　　　　　　　浣紗(かんさ)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　林鳳儀

 

閑赳春晴出浣紗　　　　閑(しずか)に 春晴を趂(お)いて 出でて紗(さ)を浣(あら)う

東風吹落鬢邊花　　　　東風 吹き落とす 鬢(びん)辺(へん)の花

郎君行過休相拾　　　　郎(ろう)君(くん) 行き過ぎて 相拾うを休(や)めよ

柳下門開是妾家　　　　柳下 門の開くは 是れ妾(しょう)が家

 

【語釈】

○浣紗…薄絹を洗う。○東風…春風。○郎君…旦那様。○妾…わらわ。

 

 

★    閨人曲　　　　　　　　閨人(けいじん)の曲　　　　　　　　　　　　　  明　　陳鳴鶴

 

聞君遠在古楡關　　　　聞く 君 遠く 古楡関(こゆかん)に在りと

此去千山復萬山　　　　此(ここ)を去り 千山 復た万山

終日登樓人不見　　　　終日 登楼すれども 人見えず

開簾唯有燕飛還　　　　簾(れん)を開けば 唯だ 燕の飛びて還る有るのみ

 

【語釈】

○閨人…寝室に一人いる夫人。○古楡關…河北省秦皇島市付近の関所。

 

 

★    閨思　　　　　　　　　閨思(けいし)　　　　　　　　　　　　　　  明　　郭文涓

 

青樓弧枕憶天涯　　　　青楼 弧枕 天涯を憶う

紫陌垂楊影縫紗　　　　紫陌(しはく) 垂楊 影 紗(さ)を縫う

啼罷暁鶯香夢覚　　　　啼(てい) 罷(や)んで 暁鶯 香夢(こうむ)覚む

含情愁對海棠花　　　　情を含み 愁えて対す 海棠の花

 

【語釈】

○閨思…寝室での女性の思い。○青樓…妓院。○弧枕…独り寝。○天涯…空の果て。○紫陌…帝都の郊外の道路。○紗…薄絹。○香夢…甘い密のような夢。

 

 

★    閨情　　　　　　　　　閨(けい)情(じょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　金　誠

 

欲剪紅霞作舞衣　　　　紅(こう)霞(か)を剪りて 舞衣を作らんと欲す

薄雲涼霧共霏霏　　　　薄雲 涼(りょう)霧(む) 共に霏々(ひひ)たり

玉簫吹冷天邊月　　　　玉簫(ぎょくしょう) 吹けば 冷やかなり 天辺の月

只待乘鸞子晉歸　　　　只だ待つ 鸞(らん)に乗じて 子(し)晋(しん)の帰るを

 

【語釈】

○閨情…寝室での女性の思い。○紅霞…夕焼け。○霏霏…雲の起こるさま。○玉簫…縦笛の美称。○子晉…周代の仙人、王子喬。白い鶴に乗り、笙を吹きながら空中を飛翔したという。

 

 

★    裁衣　　　　　　　　　 裁(さい)衣(い)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　董少玉

 

芙蓉江北雁飛飛　　　　芙蓉(ふよう)江北(こうほく) 雁 飛々(ひひ)たり

燕子磯邊人未歸　　　　燕子(えんし)磯辺(きへん) 人 未だ帰らず

只怕沈郎腰已瘦　　　　只だ怕(おそ)る 沈郎　腰 已に痩(そう)なるを

遲廻難寄舊時衣　　　　遅廻(ちかい)し 寄せ難し 旧時の衣

 

【語釈】

○芙蓉江…不確定。○飛飛…飜るさま。○燕子磯…南京市東北部觀音山にある。○沈郎…沈約。南朝斉の文人、宰相。老病に苦しみ腰が細くなっていた。「沈約瘦腰｣と言われる。ここでは自分の夫になぞらえる。○遲廻…ぐずぐずする。

 

 

★    裁衣　　　　　　　　　裁(さい)衣(い)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　魏時敏

 

別後衡門鎮不開　　　　別後 衡門(こうもん) 鎮(ちん)として開かず

年年春雨長莓苔　　　　年々の春雨 莓(まい)苔(たい)を長くす

東風似欲添離恨　　　　東風 離恨を添えんと欲するに似て

故引雙雙燕子來　　　　故(ことさら)に 双々(そうそう)の燕(えん)子(し)を引いて来る

 

【語釈】

○衡門…粗末な門。○莓苔…こけ。○東風…春風。○離恨…離別の恨み。○雙雙…二つずつ。

 

 

★    征婦怨　　　　　　　　征婦の怨　　　　　　　　　　　　　　  明　　魏時敏

 

聞説沙場雪未乾　　　　聞説(きくなら)く 沙場(さじょう) 雪 未だ乾かざるに

移師又欲向樓蘭　　　　師を移して 又 楼(ろう)蘭(らん)に向わんと欲すと

憑誰為借東風力　　　　誰に憑(よ)りてか 為に 東風の力を借りて

吹轉三邊地不寒　　　　吹き転じて 三辺 地 寒ならしめざらん

 

【語釈】

○聞説…聞くところによれば。○沙場…砂漠。○楼蘭…新疆ウイグル自治区、ロプノール湖の西にあった小独立国。○東風…春風。

 

 

★    秋閨曲　　　　　　　　秋(しゅう)閨(けい)の曲　　　　　　　　　　　　　　  明　　朱無瑕

 

芙蓉露冷月微微　　　　芙蓉 露 冷く 月 微々(びび)たり

小院風清鴻雁飛　　　　小院 風清くして 鴻(こう)雁(がん) 飛ぶ

聞道玉門千萬里　　　　聞道(きくなら)く 玉門(ぎょくもん) 千万里

秋深何處寄寒衣　　　　秋 深くして 何れの処か 寒衣を寄せん

 

【語釈】

○微微…奥深く静かな様子。○小院…小さな中庭。○鴻雁…かり。○聞道…聞くところによれば。○玉門…玉門関。○寒衣…冬の衣。

 

 

★    秋日書懐　　　　　　　秋(しゅう)日書(じつしょ)懐(かい)　　　　　　　　　　　　  明　　孟淑卿

 

蟬咽庭槐泣素秋　　　　蟬 咽(な)いて 庭槐(ていかい) 素秋に泣く

幾行新鴈度南樓　　　　幾行(いくこう)の新鴈 南楼を度(わた)る

天邊莫看如鈎月　　　　天辺 看ること莫かれ 鈎(かぎ)の如き月

釣起新愁與舊愁　　　　釣(ちょう)起(き)す 新愁と旧愁とを

 

【語釈】

○素秋…秋の季節。○幾行…幾列。○天邊…空の地平線近く。○釣起…つり上げるように新たにおこす。

 

 

 

★    春晚　　　　　　　　　 春晚　　　　　　　　　　　　　　　   明　　黃淑德

 

春風日日閉深閨　　　　春風 日々(ひび) 深閨(しんけい)を閉ざす

柳老花殘鶯自啼　　　　柳は老い 花は残(ざん)し 鶯 自(おのずか)ら啼く

寂寞小窗天又暮　　　　寂寞(せきばく)たる小窓 天 又た暮る

一鉤新掛月樓西　　　　一(いっ)鉤(こう)の新月 楼西に掛かる

 

【語釈】

○深閨…人の近づかない女性の寝室。○殘…そこなわれる。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○一鉤…一つの釣り針のような。

 

 

★    春日偶成              春日偶成   　　　　　　　　　　　　　  明　　謝五孃

 

乳燕銜泥春晝長　　　　乳燕 泥を銜(くわ)えて 春昼長し

倚欄無語立斜陽　　　　欄(らん)に倚(よ)りて 語 無く 斜陽に立つ

桃花紅雨梨花雪　　　　桃花 紅雨 梨花の雪

相逐東風過粉墻　　　　東風を相逐(あいおい)いて 粉墻(ふんしょう)を過ぐ

 

【語釈】

○乳燕…子供の燕。○東風…春風。○粉墻…黒塗りの防火屛。

 

 

★    雨夜聞簫　　　　　　　雨夜 簫を聞く　　　　　　　　　　　　  明　　葉小鸞

 

紗窗徙倚倍無聊　　　　紗(さ)窓(そう) 徙倚(とき)すれば 倍(ます)ゝ(ます)無聊(ぶりょう)

香燼熏爐懶更燒　　　　香 燼(つ)きて 熏(くん)炉(ろ) 懶(ものう)く更に焼く

一縷簫聲何處弄　　　　一縷(いちる)の簫声 何れの処にか弄(ろう)す

隔簾微雨濕芭蕉　　　　簾(れん)を隔てて 微雨 芭蕉を湿(うる)おす

 

【語釈】

○紗窗…薄絹のカーテンをした窓。○徙倚…徘徊。○熏爐…香炉。○一縷…一筋。

 

 

★    懐潘郎　　　　　　　　潘郎(はんろう)を懐(なつか)しむ　　　　　　　　　　　　  明　　陳　氏

 

良人挟策上長安　　　　良人 策(さく)を挟(さしはさ)みて 長安に上る

欲訴哀腸隔萬山　　　　哀腸を訴えんと欲すれども 万山を隔つ

乳燕似隣人寂寞　　　　乳燕 人の寂寞(せきばく)を 隣れむに似て

雙雙飛近玉欄干　　　　双々(そうそう) 飛んで近ずく 玉(ぎょく)欄干(らんかん)

 

【語釈】

○潘郎…晋の潘岳。若いとき美貌であった。自分の夫をなぞらた。○良人…夫。○挟策…奔走する事のたとえ。○哀腸…非常に哀しい思い。○乳燕…子供の燕。○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○雙雙…二つずつ。○玉欄干…玉で飾った欄干。

 

 

 

★    寄遠　　　　　　　　　遠きに寄す　　　　　　　　　　　　　  明　　陳　氏

 

暮雨沈沈不肯休　　　　暮雨 沈々 肯えて休(や)まず

知君今夜宿誰樓　　　　知る君 今夜 誰が楼に宿すや

可憐楚水呉山外　　　　憐れむべし 楚水 呉山の外

旅況閨情一様愁　　　　旅況 閨(けい)情(じょう) 一様に愁う

 

【語釈】

○沈沈…静かなさま。奥深いさま。○楚水…湖北省・湖南省の河川。○呉山…揚州・荊州・交州地方の山。○旅況…旅先での気分や風景。○閨情…女性の寝室での愛情。

 

 

★    感夢　　　　　　　　　夢に感ず　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳　氏

 

忽夢夫君得意旋　　　　忽(たちま)ち 夫君(ふくん)を夢み 意 旋(めぐ)るを得たり

醒來情緒轉悽然　　　　醒め来りて 情緒(じょうちょ) 転(うた)た悽(せい)然(ぜん)

曉風不管閨中恨　　　　暁風は管せず 閨中(けいちゅう)の恨

故送鐘聲到枕邊　　　　故(ことさら)に 鐘声を送りて 枕辺(ちんぺん)に到らしむ

 

【語釈】

○悽然…寂しくいたましいさま。○閨中…女性の寝室。

 

 

★    冬閨夜怨　　　　　　　冬閨夜怨(とうけいやえん)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　宋微輿

 

落盡飛雲暮色寒　　　　落ち尽くす 飛雲 暮色寒し

黄昏北斗照欄干　　　　黄昏(こうこん) 北斗 欄干を照らす

可憐一片如霜月　　　　憐むべし 一片 霜の如き月

惟有深閨獨自看　　　　惟だ 深閨(しんけい) 独り 自(みずか)ら看る有るのみ

 

【語釈】

○冬閨夜怨…冬の女性の寝室での夜の独り寝のうらみ。○黄昏…たそがれ。○深閨…人の近づかない女性の寝室。

 

　　　

★    閨怨　　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　  清　　董以寧

 

流蘇空繋合歡床　　　　流蘇(りゅうそ)　空しく繋ぐ　合歓(ごうかん)床(しょう)

夫壻長征妾斷腸　　　　夫壻(ふせい) 長征して 妾(しょう) 腸(はらわた)を断つ

留得當時臨別涙　　　　留め得たり 当時 臨別の涙

経年不忍浣衣裳　　　　経年 衣裳を浣うに忍びず

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○流蘇…五色の糸を交えたふさ。○合歡床…新婚のベット。○妾…わらわ。○臨別…別れに臨む。○経年…年を経る。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　朮翼宗

 

緑楊深處椅紅樓　　　　緑楊 深き処 紅楼に椅(よ)る

遙憶征人萬里愁　　　　遥かに憶う 征人 万里の愁

何事花間雙蛺蝶　　　　何事ぞ 花間の 双蛺(そうきょう)蝶(ちょう)

朝來飛上玉搔頭　　　　朝 来たりて 飛び上る 玉搔頭(ぎょくそうとう)

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○征人…遠征にでている夫。○雙蛺蝶…つがいの蝶々。○玉搔頭…玉のかんざし。

　　　

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　清　　朮翼宗

 

一樹梨花小院香　　　　一樹の梨花 小院香ばし

紛紛舞雪撲空床　　　　紛々(ふんぷん)たる舞雪 空床を撲つ

月明自照鞦韆影　　　　月明 自(おのずか)ら照らす 鞦韆(しゅうせん)の影

却背傍人數雁行　　　　却って 傍人に背(そむ)いて 雁行を数う

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○…小さな中庭。○紛紛…乱れ飛び散るさま。○空床…独り寝のベッド。○鞦韆…ブランコ。○傍人…傍にいる人。

 

 

★    擣衣曲               擣(とう)衣(い)の曲                          清　　週永銓

 

一夕涼生秦女機　　　　一夕 涼 生ず 秦女(しんじょ)の機(き)

砧聲不待雁南飛　　　　砧声(ちんせい) 待たず 雁 南に飛ぶを

誰知萬里黃雲戍　　　　誰か知らん 万里 黃雲の戍(じゅ)

已有新霜上鐵衣　　　　已に 新霜 鉄衣の上に有るを

 

【語釈】

○擣衣…砧で衣を打つ。○秦女…蘇蕙（蘇若蘭）のこと。蘇氏は夫・竇滔が罪を得て流沙に流されたのを偲び、錦を織り、その中に回文を織り込んで送った故事に基づく。○砧聲…衣を打つ砧の音。○黃雲…辺塞の馳。○戍…守りの寨。○鐵衣…鉄のよろい。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　陳　楝

 

鏡臺寂寂掩芳塵　　　　鏡台 寂々(せきせき) 芳(ほう)塵(じん)を掩う

又換深閨一度春　　　　又 換(かわ)る 深閨(しんけい)  一度(ひとたび)の春

除却慇懃花上鳥　　　　慇懃(いんぎん)に 花上の鳥を除却(じょきゃく)して

他郷應少勧歸人　　　　他郷 応(まさ)に少かるべし 帰(かえる)を勧むる人

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○寂寂…寂しく静かなさま。○深閨…人の近づかない奥の婦人の寝室。○除却…除き去る。○應…「まさに～べし」と読み「きっと～であるに違いない」の意。

 

 

★    閨怨　　　　　　　　　閨怨(けいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　楊青黎

 

分明賺得兩眉開　　　　分明に 賺(すか)し得たり 両眉(りょうび)の開くを

手折黄花上鏡臺　　　　手に 黄花を折りて 鏡台に上る

侍女無端忙報道　　　　侍女 端無(はしな)くも 忙しく報道す

隣家昨夜遠人回　　　　隣家 昨夜 遠人 回(かえ)ると

 

【語釈】

○閨怨…夫と別れている夫人が独り寝の寂しさを詠った詩。○分明…はっきりと。○賺得…勝ち取る。○兩眉開…安心して両眼を開ける。○黄花…黄色の花。菊。○無端…思いがけなく。○遠人…遠征に出かけている夫。

 

 

★    春閨怨　　　　　　　　春閨怨(しゅんけいえん)　　　　　　　　　　　　　　　　清　　楊青藜      

 

燕子將雛蠶欲絲　　　　燕子(えんし) 雛を将(ひき)い 蚕(かいこ) 糸ならんと欲す

海棠開放已多時　　　　海棠 開き放ちて 已に多時

従他紅落蒼苔滿　　　　従(まか)す 他の紅 落ちて 蒼(そう)苔(たい)に満つるに

閉却空閨総不知　　　　空閨(くうけい)を閉却して 総て知らず

 

【語釈】

○春閨怨…春の女性の寝室での独り寝のうらみ。○多時…長い時間がたったこと。○蒼苔…青緑色のこけ。○空閨…独り寝の部屋。○閉却…閉ざし尽くす。

 

 

★    春閨怨　　　　　　　　春閨怨(しゅんけいえん)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　金是崑

 

鶯啼花落掩重扉　　　　鶯 啼き 花落ちて 重扉を掩(おお)う

人去天涯竟不歸　　　　人 去りて 天涯 竟(つい)に帰らず

惟有畫梁雙燕子　　　　惟だ 画(が)梁(りょう)の双燕子(そうえんし)のみ有りて　

春風還向舊巣飛　　　　春風 還(ま)た 旧巣に向って飛ぶ

 

【語釈】

○春閨怨…春の女性の寝室での独り寝のうらみ。○天涯…空の果て。○畫梁…画で飾られた梁。○雙燕子…つがいの燕。

 

 

★    古意　　　　　　　　　古意　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　張延松

 

荷葉風香隔水涯　　　　荷葉 風 香(かんば)しくして 水涯を隔つ

呉姫盪槳濕裙紗　　　　呉姫 槳(かじ)を盪(うご)かして裙紗(くんさ)を湿(しめ)らす

晩來滿載新蓮子　　　　晩来 満載す 新蓮子(しんれんし)

月到横塘正到家　　　　月 横塘(おうとう)に到って 正に 家を到す

 

【語釈】

○古意…昔を偲ぶ心。○呉姫…呉の地方出身の妓女，美人が多い。○裙紗…薄絹の衣服のすそ。○晩来…夜になってから。○横塘…橫の隄。

　


 

★    春閨怨　　　　　　　　春閨怨　　　　　　　　　　　　　  清　　駱綺蘭

 

春寒料峭乍晴時　　　　春寒 料峭(りょうしょう) 乍(たちま)ち晴るる時

睡起紗窓日影移　　　　睡起すれば 紗(さ)窓(そう) 日影(にちえい)移る

何處風箏吹斷線　　　　何れの処の 風箏(ふうきん)か 線を吹断(すいだん)し

飄來落在杏花枝　　　　飄(ひるがえ)り来て 落ち 杏花の枝に在り

 

【語釈】

○春閨怨…春の女性の寝室での独り寝のうらみ。○料峭…春の風の肌寒いさま。○紗窓…薄絹のカーテンをした窓。○風箏…凧。

 

 

★    春閨　　　　　　　　　春(しゅん)閨(けい)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　李　氏

 

重門深鎖寂無塵　　　　重門 深く鎖ざし 寂として 塵 無し

滿樹花開不見人　　　　樹に満つる 花 開いて 人を見ず

獨有畫梁雙燕子　　　　独り 画(が)梁(りょう)の双燕子(そうえんし) 有りて

年年相伴過殘春　　　　年々(ねんねん) 相い伴いて 残春を過ぐ

 

【語釈】

○春閨…艶めかしい婦人の部屋。○重門…重なっている門。○畫梁…画で飾ったはり。○雙燕子…つがいの燕。

 

 

 

★    秋夜　　　　　　　　　秋夜　　　　　　　　　　　　　　　　 清　　顔　氏

 

夜月沈沈静掩扉　　　　夜月 沈々(ちんちん) 静かに扉を掩(おお)う

空庭秋氣逼簞衣　　　　空庭 秋気 簞(たん)衣(い)に逼(せま)る

梧桐小院支機石　　　　梧桐 小院の支機石

擣素聲中落葉飛　　　　擣素声中(とうそせいちゅう) 落葉 飛ぶ

 

【語釈】

○沈沈…夜がふけて行くさま。○空庭…人気の無い庭。○簞衣…竹で編んだ衣服。○梧桐…アオギリ。○支機石…織女が機織り機を支えるために使った石。○擣素…素材の糸をつく砧の音。

 

 

★    女郎詞　　　　　　　　女郎(じょろう)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　  清　胡氏慎容

 

相呼同伴到簾幃　　　　同伴を相呼びて 簾幃(れんい)に到る

偸看新來客是誰　　　　偸(ぬす)み看る 新たに来たる　客(かく) 是れ誰そ

又恐被人先瞥見　　　　又た恐る 人に 先に 瞥見(べっけん)とさるるを

却従紈扇隙中窺　　　　却って 紈(がん)扇(せん) 隙中(げきちゅう)に 従(よ)りて窺う

 

【語釈】

 ○女郎…若い女性。○同伴…つれあい。○簾幃…スダレとトバリの中。○瞥見…ちらりと見る。○紈扇…白い薄絹で作った団扇。

 

　　

絶句類選　巻之十七　　歌曲類　

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　唐　　儲光羲

 

胡王知妾不勝悲　　　　胡王 妾(しょう)が 悲しみに勝えざるを知る

樂府皆傳漢國辭　　　　楽府(がふ) 皆 伝う 漢国の辞

朝來馬上箜篌引　　　　朝来(ちょうらい) 馬上 箜篌引(くうこういん)

稍似宮中閑夜時　　　　稍(や)や似たり 宮中 閑(かん)夜(や)の時

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○胡王…匈奴の王。○樂府…楽符題の詩。○朝來…朝になってから。○箜篌引…楽府題の詩の一つ。○閑夜…閑かな夜。

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　  唐　　儲光羲

 

日暮驚沙亂雪飛　　　　日暮 驚沙 乱雪飛ぶ

傍人相勸易羅衣　　　　傍人 相(あい)勧(すす)めて 羅(ら)衣(い)を易(おさ)む

強來前殿看歌舞　　　　強いて 前殿に来りて 歌舞を看る

共待單于夜獵歸　　　　共に待つ 単于(ぜんう) 夜猟(やりょう)して帰るを

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○驚沙…疾風に吹かれる沙。○傍人…付け人。○羅衣…薄絹の衣。○單于…匈奴の王。

 

 

★明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

漢使却回憑寄語　　　　漢使 却回(きゃくかい)するに 憑(よ)りて 語を寄す

黃金何日贖蛾眉　　　　黄金 何れの日か 蛾眉を贖(あがな)わん

君王若問妾顏色　　　　君王 若(も)し 妾(しょう)が顔色を問わば

莫道不如宮裏時　　　　道(い)う莫(な)かれ 宮(きゅう)裏(り)の時に如(し)かずと

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○却迴…ひき返す。○憑…頼む。○蛾眉…美人。王昭君。○君王…皇帝。○妾…わらわ。○宮裏…宮中。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　（三）』

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　渙

 

夢裏分明入漢宮　　　　夢(む)裏(り) 分明に 漢宮に入る

覺來燈背錦屏空　　　　覚え来れば 灯(とう)背(はい) 錦(ぎん)屏(ぺい)空(むな)し

紫臺月落關山曉　　　　紫台 月は落つ 関山の暁

腸斷君王信畫工　　　　腸断す 君王の 画工を信ずるを

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○夢裏…夢の中。○分明…はっきりと。○灯背…灯火の背面。○錦屏…銀の屏風。○紫臺…皇帝の居場所。○關山…関所のある山。○腸断…非常な悲しみを起こす。○君王…皇帝。

 

　　　

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　偃

 

北望單于日半斜　　　　北望 単于(ぜんう) 日 半(なか)ば斜なり

明君馬上泣胡沙　　　　明君 馬上 胡沙に泣く

一雙淚滴黃河水　　　　一双の涙滴 黄河の水

應得東流入漢家　　　　応(まさ)に 東流して 漢家に入るを得べし

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○單于…匈奴の王。○明君…王昭君。○胡沙…郷土の地の砂漠。○應…「まさに～すべし」と読み「～すべきである」の意。

　　　

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　許忱甫

 

馬背東風去路餘　　　　馬(ば)背(はい) 東風 去(きょ)路(ろ) 余(はるか)なり

幾多幽意寄琵琶　　　　幾多の幽意 琵琶に寄す

妾身若是能傾國　　　　妾(しょう)が身 若(も)し是れ 能(よ)く国を傾くれば

盡捲胡沙入漢家　　　　尽(ことごと)く 胡沙(こさ)を捲(ま)いて 漢家に入らしめん

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○東風…春風。○去路…進むべき道。○幽意…愁える心。○胡沙…匈奴の地の沙。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　楊　達

 

漢國明妃去不還　　　　漢国の明妃 去りて還らず

馬駝弦管向陰山　　　　馬駝(ばだ) 弦管 陰山に向う

匣中縱有菱花鏡　　　　匣中(こうちゅう) 縦(たと)い 菱花の鏡有れども

羞對單于照舊顏　　　　羞ずらくは 単于(ぜんう)に対して 旧顔を照らすを

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○明妃…王昭君。○馬駝…馬と駱駝。○陰山…陰山山脈。匈奴との国境。○匣中…箱の中。○單于…匈奴の王。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　   明　　林　爈

 

四面悲歌夜起風　　　　四面の悲歌 夜 風を起こす

玉顔憔悴對秋空　　　　玉顔 憔悴して 秋空に対す

琵琶欲奏腸先斷　　　　琵琶 奏せんと欲して 腸(はわわた)先ず断ゆ

胡月分明照漢宮　　　　胡月 分明に 漢宮を照らす

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○玉顔…玉のように美しい顔。○胡月…匈奴の地方の月。○分明…はっきりと。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲　　　　　　　　　　　　　  明　　彭　華

 

抱得琵琶不忍彈　　　　琵琶を抱(いだ)き得て 弾ずるに忍びず

胡沙獵獵雪漫漫　　　　胡沙 猟々(りょうりょう) 雪 漫々(まんまん)

曉來馬上寒如許　　　　暁来(ぎょうらい) 馬上 寒 許(かく)の如し

信是將軍出塞難　　　　信ず 是れ 将軍 出塞の難きを

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○胡沙…匈奴の地方の沙。○獵獵…物の飜る形容。○漫漫…雪の静かに盛んにふるさま。○曉來…暁になって以来。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　   明　　李　蓘

 

翠袖啼痕日日新　　　　翠(すい)袖(しょう)の啼(てい)痕(へき) 日々に新なり

迴看漢月遠隨人　　　　迴看(かいかん)すれば 漢月 遠く人に随う

不知世上黃金貴　　　　知らず 世上 黄金の貴きを

空信朱顏鏡裏春　　　　空しく信ず 朱顔 鏡裏の春

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○翠袖…青緑色の袖。○啼痕…涙の痕。涙痕。○迴看…振り返って見る。○漢月…漢で見た月。○朱顏…紅色の美しい顔。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

青海長雲萬里秋　　　青海の長雲 万里の秋

琵琶一曲淚先流　　　琵琶 一曲 涙 先ず流る

六宮多少良家女　　　六宮(りくきゅう) 多少 良家の女

不到沙場不解愁　　　沙場に到らず 愁いを解かず

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○青海…青海省にある中国最大の湖。○六宮…宮城。○多少…多くの。○沙場…砂漠。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

玉門關外起秋風　　　　玉門関外 秋風起る

雙鬢蕭條傍轉蓬　　　　双鬢(そうびん) 蕭(しょう)条(じょう)として 転(てん)蓬(ぽう)に傍う

怪得紅顔零落盡　　　　怪み得たり 紅顔 零落し尽くすを

春光只在合歡宮　　　　春光 只だ在り 合歓宮

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○玉門關外…玉門関の西方。○蕭條…枯れ萎れるさま。○轉蓬…根が切れて風に吹かれるよもぎ。○零落…おちぶれること。○合歡宮…宮殿の名。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　  明　　李攀龍

 

天山雪後北風寒　　　　天山 雪後 北風寒し

抱得琵琶馬上彈　　　　琵琶を抱き得て 馬上に弾ず

曲罷不知青海月　　　　曲 罷(や)んで知らず 青海の月

徘徊猶作漢宮看　　　　徘徊(はいかい)し 猶お 漢宮の看を作(な)す

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○天山…天山山脈。中央アジアのカザフスタン、キルギスから中国西部にかけての国境地帯に広がる山脈群。○青海…青海省にある中国最大の湖。

 

★    明妃曲                明妃曲(めいひきょく)                  　　  　  明　　李攀龍

 

燕支山下㡬囘春　　　　燕支(えんし)山下(さんか) 㡬回の春

坐使蛾眉誤此身　　　　坐(まさ)に 蛾(が)眉(び)をして 此の身を誤らしむ

二八漢宮含笑入　　　　二八(にはち) 漢宮 笑(えみ)を含んで入り

一時紅粉更無人　　　　一時 紅粉 更に人無し

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○燕支山…中国甘粛省蘭州の北、張掖の東南にある山。○蛾眉…美人。○二八…十六歳。○紅粉…美人。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　呉國倫

 

玉關西去馬長鳴　　　　玉関 西に去れば 馬 長く鳴く

不獨琵琶作苦聲　　　　独り 琵琶 苦声を作(な)すのみならず

最恨胡兒誇往事　　　　最も恨む 胡児 往事を誇るを

漢家曽困白登城　　　　漢家 曽(かつ)て 困(くるし)む 白(はく)登城(とうじょう)

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○玉關…玉門関。○胡児…匈奴の人々。○往事…昔。○漢家曽困白登城…漢の髙祖劉邦が、匈奴と戦い包囲されて屈辱的な条件で講話した白登山。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳子龍

 

陰山一夕起秋風　　　　陰山 一夕(いっせき) 秋風起る

撥盡琵琶玉帳空　　　　琵琶を撥(ひ)き尽くして 玉(ぎょく)帳(ちょう)空し

遙思漢家今夜月　　　　遙かに思う 漢家 今夜の月

清光先照未央宮　　　　清光 先ず照らす 未央宮(びおうきゅう)

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○陰山…陰山山脈。匈奴との国境。○玉帳…玉をちりばめた帳。○未央宮…漢の髙祖が作った宮殿で皇帝の居場所。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　 　　 明　　陳子龍

 

千群胡馬合長圍　　　　千群の胡馬 長囲を合(あわ)す

火照禪于夜獵歸　　　　火は照して 禅于(ぜんう) 夜猟して帰る

一曲悲歌爭送酒　　　　一曲の悲歌 争いて酒を送る

幾行紅涙濕羅衣　　　　幾行の紅涙 羅衣を湿(うるお)す

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○合長圍…長い囲みを併せて完全に包囲する。○禪于…匈奴の王。○幾行…幾すじ。○羅衣…薄絹の衣服。

 

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　　明　　陳子龍      

 

日落浮雲暗玉關　　　　日 落ちて 浮雲 玉関(ぎょくかん)に暗し

月明青海又黄昏　　　　月明の青海 又た黄昏(こうこん)

生平唯解西宮怨　　　　生平 唯だ解く 西宮怨(せいきゅうえん)

誰道沙場更斷腸　　　　誰か道(い)う 沙場(さじょう) 更に断腸と

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○玉關…玉門関。○青海…青海省にある中国最大の湖。○生平…今まで。○西宮怨…寵を失った宮女の怨み。○沙場…砂漠。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳子龍

 

二月天山雪未乾　　　　二月 天山 雪 未だ乾(かわ)かず

重重氈張不勝寒　　　　重々(ちょうちょう)たる氈(せん)張(ちょう) 寒に勝(た)えず

春風自滿昭陽殿　　　　春風 自(おのずか)ら満つ 昭(しょう)陽(よう)殿(でん)

獨上龍堆立馬看　　　　独(ひと)り 竜堆(りょうたい)に上りて 馬を立てて看る

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○天山…天山山脈。中央アジアのカザフスタン、キルギスから中国西部にかけての国境地帯に広がる山脈群。○重重…重なりあうさま。○氈張…毛氈の帳。○昭陽殿…漢の成帝の築いた宮殿。皇后趙飛燕とその妹趙昭儀が住んでいた。○竜堆…白竜堆の略称。今の新疆ウイグル自治区東部、ロプノール湖の東にある砂漠。

 

★    妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　   明　　僧宗泐

 

玉貌風沙勝畫圖　　　　玉貌(ぎょくぼう) 風沙 画図(がと)に勝えず

琵琶難冩舊恩疎　　　　琵琶 写し難し  旧恩の疎なるを

宮中咫尺如千里　　　　宮中の咫尺(しせき) 千里の如し

況復胡天萬里餘　　　　況んや 復(ま)た 胡天 万里余なるをや

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○玉貌…美しい姿。○畫圖…醜く画かれた絵。○旧恩…以前の皇帝の寵愛。○咫尺…極めて近い距離。○胡天…匈奴の地方の空。

　　　

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　劉獻廷

 

漢主曽聞殺畫師　　　　漢主 曽(かつ)て聞く 画師を殺すと

畫師何足定妍媸　　　　画師 何んぞ足らん 妍媸(けんし)を定むるに

宮中多少如花女　　　　宮中 多少 花の如き女(じょ)

不嫁禪于君不知　　　　禅于(ぜんう)に嫁(か)せずんば 君 知らず

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○妍媸…美醜。○多少…多い。○禪于…匈奴の王。○君…皇帝。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

琵琶一曲涙雙流　　　　琵琶 一曲 涙 双流(そうりゅう)

明月高懸青海頭　　　　明月 高く懸かる 青海の頭(ほとり)

記得當時曽獨看　　　　記(き)得(とく)す 当時 曽(かつ)て独り看たるを

凄涼猶是漢宮秋　　　　凄涼 猶お是れ 漢宮の秋

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○青海…青海省にある中国最大の湖。○記得…覚えている。○凄涼…寂しく静かなさま。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　  清　　諸延槐

 

蛾眉宛轉欲銷魂　　　　蛾(が)眉(び)宛轉(えんてん) 魂を銷さんと欲す

一曲琵琶雙涙痕　　　　一曲の琵琶 双涙の痕

不到陰山氷雪地　　　　陰山 氷雪の地に 到らずんば

那知永巷是君恩　　　　那んぞ知らん 永巷 是れ君恩

 

【語釈】　　　

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○蛾眉宛轉…三日月形の美しい眉。美しい顔容の形容。○陰山…陰山山脈。匈奴との国境。○永巷…宮中の長巷。宮女達のすまい。○君恩…皇帝の恵み。

 

 

★    明妃曲　　　　　　　　明妃曲(めいひきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　徐　増

 

琵琶觸手涙沾巾　　　　琵琶 手を触れて 涙 巾(きん)を沾(うるお)す

馬背西風捲地塵　　　　馬(ば)背(はい)の西風 地を捲く塵

愁向李陵墳畔過　　　　愁えて 李陵墳(りりょうふん)畔(はん)に向いて 過ぐ

可憐俱是漢家人　　　　憐むべし 俱(とも)に是れ 漢家の人

 

【語釈】

○明妃曲…王昭君のことを詠った曲。○巾…ハンカチ。○西風…秋風。○李陵…漢の将軍。匈奴を相手に勇戦しながらも敗北して抑留され、以降匈奴の地で生涯を終えた。

 

 

★    昭君詞　　　　　　　　昭(しょう)君(くん)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　戴叔倫

 

漢家宮闕夢中歸　　　　漢家の宮闕(きゅうけつ) 夢中に帰る

幾度氈房淚濕衣　　　　幾度(いくたび)か 氈房(せんぼう) 涙 衣を湿す

惆悵不如邊鴈影　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 辺(へん)鴈(がん)の影に如かざるを

秋風猶得向南飛　　　　秋風 猶お 南に向って飛ことを得たり

 

【語釈】

○昭君詞…王昭君のことを詠った詩。○宮闕…宮城。○氈房…毛氈を張って作った天幕。○惆悵…嘆き悲しむ。○邊鴈…辺境の雁。

 

 

★    昭君怨　　　　　　　　昭君の怨 　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　汪　遵

 

漢家天子鎮寰瀛　　　　漢家の天子 寰瀛(げんえい)を鎮(しず)む

塞北羌胡未罷兵　　　　塞北の羌(きょう)胡(こ) 兵を罷(や)めず

猛將謀臣徒自貴　　　　猛将 謀臣 徒(いたずら)に自貴(じき)す

蛾眉一笑塞塵清　　　　蛾眉 一笑 塞塵清し

 

【語釈】

○昭君…王昭君。○寰瀛…天下。○塞北羌胡…匈奴。○自貴…自分を大切にする。○蛾眉…美人。○塞塵清…兵乱が収まる。

 

 

★    昭君怨　　　　　　　　昭君の怨　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　僧皎然

 

自倚嬋娟望主恩　　　　自(みずか)ら 嬋娟(せんけん)に倚(よ)り 主恩を望む

誰知美惡忽相翻　　　　誰か知らん 美悪 忽ち相(あい)翻(ひるが)えるを

黃金不買漢宮貌　　　　黄金 買わず 漢宮の貌

青塚空埋胡地魂　　　　青塚 空しく埋む 胡地の魂

 

【語釈】

○昭君…王昭君。○嬋娟…美貌。○主恩…皇帝の寵愛。○青塚…王昭君の墓。

 

 

★    解昭君怨　　　　　　　昭君の怨みを解(と)く　　　　　　　　　　　　  唐　　王　叡

 

莫怨工人醜畫身　　　　怨む莫かれ 工人  醜く身を画くを

莫嫌明主遣和親　　　　嫌う莫かれ 明主 和親を遣(や)るを

當時若不嫁胡虜　　　　当時 若(も)し 胡(こ)虜(りょ)に嫁(か)せずんば

秖是宮中一舞人　　　　秖(た)だ是れ 宮中の一舞人

 

【語釈】

○昭君…王昭君。○胡虜…匈奴

 

 

★    烏孫公主歌　　　　　　烏孫(うそん)公(こう)主(しゅ)の歌　　　　  　　　　　　明　　陳鳴鶴

 

生長深宮未出門　　　　深宮に生長して 未だ門を出(い)でず

九千里外嫁烏孫　　　　九千里外 烏孫(うそん)に嫁す

一聲胡角空回首　　　　一声の胡(ご)角(かく) 空しく首(こうべ)を回(めぐ)らせば

何處天邊是故国　　　　何れの処の天辺か 是れ故国

 

【語釈】

○烏孫公主…劉細君。漢の江都王劉建の娘。烏孫の王に嫁いだ。○深宮…帝王の住居。○烏孫…漢代から南北朝時代の初め頃まで天山山脈の北方にいた遊牧民族。○胡角…異民族の角笛。○天邊…空の果て。

 

 

★    烏孫公主歌　　　　　　烏孫(うそん)公(こう)主(しゅ)の歌　　　　　　　　　　　　　  明　　陳鳴鶴

 

赤谷城中雨不休　　　　赤谷(せきこく)城中(じょうちゅう) 雨 休せず

雁聲日暮使人愁　　　　雁声 日暮 人をして愁えしむ

漢家今夜平陽第　　　　漢家 今夜 平(たいら)陽第(ようだい)

宮女如花椅玉樓　　　　宮女 花の如く 玉楼に椅(よ)る

 

【語釈】

○赤谷城…不祥。○平陽第…不祥。○玉楼…玉で飾った楼閣。

 

 

★    緑珠怨　　　　　　　　緑(りょく)珠(じゅ)の怨　　　　　　　　　　　　　　  明　　邊　貢

 

主家高樓天與齊　　　　主家の高楼 天と斉(ひと)し

妾身不惜委黄泥　　　　妾(しょう)が身 惜まず 黄泥(こうでい)に委(ゆだ)ぬ

他生願作銜泥燕　　　　他生 願わくは 泥を銜(くわ)うる燕と作(な)り

長傍高樓梁上棲　　　　長(とこし)えに 高楼 梁上に傍いて棲まん

 

【語釈】

○緑珠…大富豪の石崇に愛された妓女。『蒙求』（緑樹墜樓）。○妾…わらわ。○他生…来世。

 

 

★    續長恨歌　　　　　　　続長恨歌　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

人似飛花去不歸　　　　人は飛花に似て 去りて帰らず

蘭昌宮殿幾斜暉　　　　蘭(らん)昌(しょう)宮殿(きゅうでん) 幾斜暉(いくしゃき)

百年只有雲容姊　　　　百年 只だ 雲容姉(うんようし) 有り

留得當時舊舞衣　　　　留め得たり 当時の旧舞(きゅうぶ)衣(い)

 

【語釈】

○蘭昌宮…連昌宮。唐代の行宮の一つで、河南省宜陽県にあり、唐の玄宗と楊貴妃がしばしば訪れた。○斜暉…西日。○雲容姉…唐の玄宗の寵妃である楊貴妃の侍女。舞を得意とした。ここでは霓裳羽衣の曲を舞う舞姫。

　　　

 

★    燕京歌　　　　　　　　燕(えん)京歌(けいか)　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉效祖

 

元會初分庭燎光　　　　元会(げんかい) 初めて分つ 庭燎(ていりょう)の光

君王親御紫霞觴　　　　君王 親しく御す 紫(し)霞(か)の觴(さかずき)

不知五夜春多少　　　　知んぬ 五夜 春 多少ぞ

白日猶聞蠟炬香　　　　白日 猶お聞く 蠟炬(ろうきょ)の香

 

【語釈】

○燕京歌…北京地方の歌。○元會…元旦の朝見の儀。○庭燎…庭を照すかがり火。○君王…皇帝。○紫霞觴…仙人の盃。○五夜…五更。夜明け。○聞…匂いを嗅ぐ。○蠟炬…ろうそく。

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　維

 

出身仕漢羽林郎　　　　出身して 漢に仕(つか)う 羽林郎(うりんろう)

初隨驃騎戰漁陽　　　　初めて 驃騎(ひょうき)に随い 漁陽に戦う

孰知不向邊庭苦　　　　孰(たれ)か知らん 辺庭に向わざるの苦しみを

縱死猶聞俠骨香　　　　縦(たと)い死すとも 猶(な)お 俠(きょう)骨(こつ)の香を聞かん

 

【語釈】

○少年行…少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○出身…仕官する。○羽林郎…皇帝を守護する近衛兵、両家の子を当てた。○驃騎…驃騎将軍。○漁陽…現在の北京近郊、漢代には匈奴など異民族との戦いの最前線であった。○侠骨香…遊侠の気高い気骨。○聞…匂いを嗅ぐ。

（参考文献）　『唐詩選』『新釈漢文大系　詩人編　３』

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　維

 

新豐美酒斗十千　　　　新(しん)豊(ぽう)の美酒 斗 十千

咸陽遊俠多少年　　　　咸(かん)陽(よう)の少年 遊(ゆう)俠(きょう)多し

相逢意氣爲君飲　　　　相逢いて 意気 君の為に飲む

繫馬高樓垂柳邊　　　　馬を繫ぐ 高楼 垂柳の辺(ほとり)

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○新豊…長安の東、華清宮のあるところ。○斗十千…一斗（今の一升）が一万銭もする高級酒。○咸陽…渭城。○遊侠…勇気があり男気にとむ人。○垂柳…しだれ柳。

（参考文献）　『新釈漢文大系　詩人編　３』

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　白

 

五陵年少金市東　　　　五陵の年少 金市の東

銀鞍白馬度春風　　　　銀(ぎん)鞍(あん) 白馬 春風を度る

落花踏盡遊何處　　　　落花 踏み尽くし 何れの処にか遊ぶ

笑入胡姬酒肆中　　　　笑って入る 胡(こ)姫(き) 酒肆(しゅし)の中

 

【語釈】　　

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○五陵年少 … 五陵付近に住む若者。五陵は、漢の五帝の陵墓。この付近には富裕層が住んでいた。○年少…若者・青年。○胡姫…西域の女。○酒肆…酒場。

（参考文献）　　『唐詩選』

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　令狐楚

 

弓背霞明劒照霜　　　　弓(きゅう)背(はい) 霞(か)明(めい) 剣 霜を照す

秋風走馬出咸陽　　　　秋風 走馬 咸(かん)陽(よう)を出ず

未收天子河湟地　　　　未だ 天子 河湟(かこう)の地を 収めず

不擬回頭望故郷　　　　擬(ぎ)せず 頭(こうべ)を回(めぐ)らして 故郷を望むを

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○弓背…曲がった弓の一面。○霞明…霞のような明るさ。○咸陽…長安の西、西安空港の地。○河湟…黄河と黄泉の間にある地域の名称。○不擬…～しようとしない。

 

　

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　呉豸之

 

承恩借獵小平津　　　　恩を承わりて 借猟 小平津(しょうへいしん)

使氣常遊中貴人　　　　気をして 常に 遊中の貴人たらしむ

一擲千金渾是膽　　　　一擲(いってき)千金(せんきん) 渾(すべ)て 是れ胆(たん)

家無四壁不知貧　　　　家 四壁無く 貧を知らず

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○小平津河南省孟金県の北東、黄河沿いに位置する。東漢の霊帝の時代、河南八門の一つであった。○一擲千金…一回の掛け金が千金であるような大博打。

 

　　　

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　  　　明　　高　啓

 

下直平明出禁門　　　　下直(かちょく) 平明(へいめい) 禁門を出で

提隽博局伴王孫　　　　博局(はくきょく)を提隽(ていけい)して 王孫を伴う

寶刀不敢輕輸卻　　　　宝刀 敢えて軽がるしく 輸却(ゆきゃく)せず

明日沙場欲報恩　　　　明日 沙場(さじょう)にて 恩に報いんと欲す

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○下直…宿直を終えて退出する。○平明…明け方。○禁門…宮城の門。○博局…すごろくの盤。○王孫…貴公子。○輸卻…賭けものとして出して取られる。○沙場…砂漠。

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  明　　王毓德

 

装成七寶匣呉鈎　　　　七宝を装成(そうせい)して 呉(ご)鈎(こう)を匣(はこ)にす

笑擁呉姫走馬遊　　　　笑って 呉(ご)姫(き)を擁きて 馬を走らせて遊ぶ

半醉直衝馳道過　　　　半酔 直ちに 馳道を衝きて過ぐ

横鞭遙揖富民候　　　　鞭を横たえて 遥かに揖(しゅう)す 富民候

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○七寶…多くの宝石。○装成…装いに付ける。○呉鈎…鋭い剣。○呉姫…呉の地方出身の女性。美人が多い。○馳道…馬や馬車が通る道。○揖…両手を組んで会釈する。○富民候…侯爵の一つ。

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　燉

 

朝入平康暮酒樓　　　　朝(あした)に平(へい)康(こう)に入り 暮には酒楼

千金寶劍百金裘　　　　千金の宝剣 百金の裘(かわごろも)

酔來走馬長安道　　　　酔(よい) 来(きた)りて 馬を走らす 長安道

不肯停鞭避五侯　　　　肯えて 鞭を停(と)めて五侯を避けず

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○平康…長安の段峰街の平康広場。娼婦が住んでいた。○五侯…権門貴族の総称。

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  明　　趙世顯

 

紫騮玉勒控青絲　　　　紫騮(しりゅう) 玉勒(ぎょくろく) 青糸を控え

挟彈花間歸去遅　　　　弾を挟み 花間 帰り去ること遅し

雲錦夜筵歌越女　　　　雲(うん)錦(きん) 夜(や)筵(えん) 越女に歌わせ

桃花春帳擁呉姫　　　　桃花 春帳(しゅんちょう) 呉姫を擁(いだ)く

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○紫騮…駿馬。○玉勒…玉で飾った鞍。○雲錦…雲の模様を織り込んだ絹織物。○夜筵…夜の宴会。○越女…越の地出身の女性。美女が多い。○春帳…春の帳の中。○呉姫…呉の地出身の女性。美女が多い。

　　　

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  明　　穆世顯

 

貂裘雪滿踏寒威　　　　貂裘(てんきゅう) 雪満ちて 寒威を踏む

薄暮南山射虎歸　　　　薄暮 南山 虎を射て帰る

相逢醉尉無須問　　　　相(あい)逢(あ)う酔尉(すいい) 問うことを須(もち)いる無し

明日邊城羽檄飛　　　　明日 辺(へん)城(じょう) 羽檄(うげき)飛ぶ

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○貂裘…貂の河で作ったかわごろも。○寒威…厳しい寒さの威力。○南山…不祥。○醉尉…俗物。『史記』（李将軍列伝）李広が職を免ぜられたとき、醉尉に侮辱された故事。○邊城…辺塞の街。○羽檄…国家有事の時、急速に兵を徴するための檄文。

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　方　還

 

不解陰符與六韜　　　　解かず 陰(いん)符(ぷ)と六韜(りくとう)と

似知名姓五陵豪　　　　知るに似たり 名姓 五陵の豪

此身未識為誰用　　　　此の身 未だ識らず 誰が為めに用いるかを

慷慨長歌看寶刀　　　　慷慨(こうがい) 長歌し 宝刀を看る

 

【語釈】

○少年行…楽府題。いなせな若者や壮士を詠う。○陰符…兵法書の一つ。○六韜…太公望呂尚が書いたとされる兵法書。○名姓…姓名。○五陵…漢の高祖、惠帝、景帝、武帝、昭帝の陵墓の在る地で富豪が多く住んでいる。

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  　清　　彭　源

 

下馬同傾酒一樽　　　　馬を下りて 同(とも)に傾く 酒一樽

侍兒匕首擘蒸㹠　　　　侍児 匕首 蒸㹠を擘(さ)く

生平不着黄金甲　　　　生平 着(ちゃく)せず 黄金甲

醉祖貂裘數箭痕　　　　酔いて 貂裘(てんきゅう)を祖(と)りて箭(せん)痕(こん)を数う

 

【語釈】

○侍兒…侍妾。○匕首…あいくち。○蒸㹠…蒸した豚肉。○生平…ふだん。○黄金甲…黄金の鎧。○貂裘…貂の裘。○箭痕…矢の痕。

 

 

★    少年行　　　　　　　　少年(しょうねん)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　葉抱崧

 

錦帯呉鈎白花騧　　　　錦帯(きんたい) 呉(ご)鈎(こう) 白花騧(はくかか)

姓名曽隷李輕車　　　　姓名 曽て隷(れい)す 李(り)軽車(けいしゃ)

功成笑却千金賞　　　　功 成りて 笑却(しょうきゃく)す 千金の賞

玉碗春風醉落花　　　　玉(ぎょく)碗(わん) 春風 落花に酔う

 

【語釈】

○呉鈎…刀剣。○白花騧…体に白斑のある口先が黒い黄色の毛の馬。○李輕車…李広の弟、李彩のことを指す。 勇敢で戦上手な軽車両の将軍であったことから、そう呼ばれるようになった。○笑却…笑い飛ばす。却は助字。○玉碗…玉製の杯。

 

 

★    公子行　　　　　　　　 公子(こうし)行(こう)　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

金鞍玉勒照花明　　　　金(きん)鞍(あん) 玉勒(ぎょくろく) 花を照らして明なり

過後香風特地生　　　　過後(かご) 香風 特地に生ず

半醉五侯門裏出　　　　半酔 五侯の門(もん)裏(り)に出ず

月高猶在禁街行　　　　月 高くして 猶お 禁街(きんがい)に在りて行く

 

【語釈】

○公子行…貴族の子を詠った詩。○玉勒…玉で飾ったくつわ。○過後…後に。○特地…突然。○五侯…権門貴族の総称。○禁街…京城の街道。

 

 

★    公子行　　　　　　　　公子(こうし)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　孟賓于

 

錦衣紅奪彩霞明　　　　錦衣の紅　彩(さい)霞(か)を奪って 明らかなり

侵曉春遊向野庭　　　　暁を侵して 春遊し 野庭に向う

不識農夫辛苦力　　　　識らず 農夫の辛苦(しんく)の力

驕驄蹋爛麥青青　　　　驕驄(きょうそう) 蹋爛(とうらん)す 麦 青々(せいせい)たるを

 

【語釈】

○公子行…貴族の子を詠った詩。○彩霞…華やかな彩雲。○驕驄…壮健な駿馬。○蹋爛…踏みつけてただれさす。

 

 

★    採蓮曲　　　　　　　　採(さい)蓮曲(れんきょく)　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

菱葉縈波荷颭風　　　　菱(りょう)葉(よう)は波を縈(まと)い 荷(か)は風に颭(そよ)ぐ

荷花深處小船通　　　　荷(か)花(か) 深き処 小船通ず

逢郎欲語低頭笑　　　　郎に逢いて 語らんと欲し 頭を低れて笑えば

碧玉搔頭落水中　　　　碧玉の搔頭(そうとう) 水中に落つ

 

【語釈】

○采蓮曲…楽府題。蓮を取るときの歌。○碧玉…青く美しい玉。○搔頭…かんざし。

〔参考文献〕　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

 

 

★    采蓮曲　　　　　　　　采(さい)蓮曲(れんきょく)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

湖上西風吹綺羅　　　　湖上の西風 綺羅(きら)を吹く

靚妝越女照清波　　　　靚妝(せいしょう)の越女 清波を照す

折將蓮葉佯遮面　　　　蓮葉を折りて 将(も)って 佯(いつわ)って面を遮(さえぎ)る

櫂過前灘笑語多　　　　櫂(かい)は 前灘を過ぎて 笑語多し

 

【語釈】

○采蓮曲…楽府題。蓮を取るときの歌。○西風…秋風。○綺羅…美しい絹の衣服。○靚妝…着飾った。○越女…越の地方出身の女性。美人が多い。○前灘…前の早瀬。

 

　　　

★    采蓮曲　　　　　　　　采(さい)蓮曲(れんきょく)　　　　　　　　　　　　  明　　沈明臣

 

月照波紋似鴨頭　　　　月は 波紋を照らして 鴨頭(こうとう)に似たり

一船雙槳蕩中流　　　　一船 双槳(そうしょう) 中流に蕩(うごか)す

採蓮不道羅裙濕　　　　蓮を採り 道(い)わず 羅裙(らくん)の湿(しめ)るを

歸晒彫欄夜不收　　　　帰りて 彫欄(ちょうらん)に晒(さら)して 夜 収めず

 

【語釈】

○采蓮曲…楽府題。蓮を取るときの歌。○鴨頭…鴨の頭のような緑色。○雙槳…二つのかい。○羅裙…薄絹の衣服の裾。○彫欄…彫刻や色とりどりの装飾を施した欄干。

 

 

★    怨歌行　　　　　　　　怨歌(えんか)行(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　謝　榛

 

長夜生寒翠幕低　　　　長夜 寒を生じ 翠(すい)幕(ばく)低し

琵琶別調為誰悽　　　　琵琶 別調(べつちょう) 誰が為にか悽(せい)たる

君心無定如明月　　　　君が心 定まる無きこと 明月の如し

纔照樓東復轉西　　　　纔(わずか)に 楼東を照らし 復(ま)た西に転ず

 

【語釈】

○怨歌行…楽府題。怨みを述べた歌。○翠幕…翠色の幕。○別調…別の味わい。

 

 

★    江南曲　　　　　　　　江南の曲　　　　　　　　　　　　　　   清     宋 琬

 

菡萏池塘隔畫橋　　　　菡萏(かんたん) 池塘 画橋を隔つ

月明樓上美人簫　　　　月明らかに 楼上 美人の簫

十年不到傷心地　　　　十年到らず 傷心の地

夢逐長江來往潮　　　　夢は逐(お)う 長江 来往の潮(うしお)

 

【語釈】

○江南…長江中下流の南側の地方。○菡萏…蓮の花。○池塘…池の隄。○画橋…画で飾った橋。

 

 

 

　　　

 

絶句類選標本　九

絶句類選　巻之十八　　詠古類

 

★詠史（夏禹）　　　　　詠史（夏禹(かう)）　　　　　　　　　　　　　 唐　　周　曇

 

堯違天孽賴詢謨　　　　尭(ぎょう) 天孽(てんげつ)に違い 詢謨(じゅんばく)に頼る

頓免洪波浸碧虛　　　　頓(とみ)に免(まぬ)がる 洪波 碧虚を浸すを

海內生靈微伯禹　　　　海內の生霊 伯禹微(な)くんば

盡應隨浪化爲魚　　　　尽(ことごと)く 応(まさ)に 浪に随いて 化して魚と為るべし

【語釈】

○夏禹…伝説上の皇帝で、夏王朝の創始者。治水工事に成功し、堯帝から帝位を譲られた。○堯…伝説上の皇帝で理想の帝王とされる。○天孽…天災。○詢謨…対策を尋ねる。○頓…すぐに。○洪波…大波浪。○碧虚…碧空。○海內…世界中。○生靈…人類。○伯禹…夏禹。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。

 

★    詠史（ 周公 ）　　　　詠史（ 周公 ）　　　　　　　　　　　　  唐　　周　曇

 

文武傳芳百代基　　　　文武 芳(ほう)を伝う 百代の基

幾多賢哲守成規　　　　幾多の賢哲(けんてつ) 成(せい)規(き)を守る

仍聞吐握延儒素　　　　仍(すなわ)ち 聞く 吐握(とあく) 儒素を延べ

猶恐民疵未盡知　　　　猶お恐る 民疵 未だ尽く知らざるを

 

【語釈】

○周公…周公旦。周王朝の政治家で且つ、周邑の君主。初代武王の補佐をして殷打倒に当たった。『周礼』、『儀礼』を著したとされる。孔子は文武両道の旦を理想の聖人と崇めた。○傳芳…美名を伝える。○賢哲…賢明睿智の人。○成規…前人の決めた規則。『周礼』、『儀礼』。○吐握…握髪吐哺。立派な人材を求めること（『韓詩外伝』三）。○儒素…儒者の平素の行い。

 

 

★    詠史（細柳營）　　　　詠史（細柳営） 　　　　　　　　　　　　　唐　　胡　曾

 

文帝鑾輿勞北征　　　　文帝の鑾(らん)輿(よ) 北征を労(ねぎら)う

條侯此地整嚴兵　　　　条(じょう)侯(こう) 此の地 厳兵を整う

轅門不峻將軍令　　　　轅門(えんもん)　将軍の令を峻(しゅん)とせずんば

今日爭知細柳營　　　　今日 争(いかで)か 細柳営を知らん

 

【語釈】

○細柳營…陝西省咸陽県の西南にあたる地名。漢の将軍周亜夫が細柳に営んだ軍営。匈奴に備えて設置された他の将軍の軍営に比べ、規律が厳格に守られていたことで有名になった。○文帝…唐の太宗李世民。○鑾輿…皇帝の車駕。○條侯…漢の周亜弗。○轅門…将軍の軍営門。

 

★    詠史　　　　　　　　　詠史　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　文　同

 

不得滎陽遂失秦　　　　滎(けい)陽(よう)を得ずんば 遂に秦を失わん

始知成敗盡由人　　　　始めて知る 成敗 尽く人に由(よ)るを

可憐一擲贏天下　　　　憐むべし 一擲(いってき) 天下を贏(もう)け

只使黄金四萬斤　　　　只だ使う 黄金四万斤

 

【語釈】

○滎陽…河南省鄭州市新陽市。○失秦…秦の後を継ぐことを失する。○成敗…ことの成否。○盡由人…全て人間の信頼関係による。○可憐…感嘆の言葉。ああ。○贏天下…項羽が天下を得ていたこと。○只使黄金四萬斤…陳平の四万金を使った工作の爲に（范増を失って）天下を失ってしまったこと。

 

 

★    詠史（韓淮隂信）      詠史（韓淮隂信）      　　　　　　  金　　李　汾

 

仗劍淮隂去復還　　　　剣を仗つき 淮隂 去りて復(ま)た還る

舉頭西望識龍顔　　　　頭を舉げて西望し 竜顔(りゅうがん)を識る

堂堂竟握真王印　　　　堂々 竟(つい)に握る 真王の印

未害男兒辱胯間　　　　未だ害せず 男児 胯間に辱めらるるを

 

【語釈】

○韓淮隂信…淮隂侯となった韓信。○淮隂…韓信の故郷。○龍顔…龍のような劉邦の顔。劉邦。○真王印…韓信が斉王から故郷のある楚王になったこと。○未害男兒辱胯間…又くぐりをさせた男を殺さず、却って中尉の位に就けたこと。

 

 

★    詠史（朱震）　　　　　詠史（朱震）　　　　　　　　　　　　　  元　　張養浩

 

交道衰微數百年　　　　交道 衰微す 数百年

死亡誰肯與周旋　　　　死亡して 誰か肯えて 周旋(しゅうせん)を与にせんや

如何當日陳蕃榻　　　　如何(いかん)ぞ 当日の陳蕃(ちんばん)の榻(とう)

止為南州孺子懸　　　　止(た)だ 南州の孺子の為にのみ懸くるとは

 

【語釈】

○朱震…陳蕃の友人。処刑された陳蕃の子の陳逸をかくまい、拷問を受けても白状しなかった。○周旋…立ち振る舞い。○如何…どうして～なのだろうか。○陳蕃…東漢の高潔な政治家。○陳蕃榻…陳蕃は賓客を好まなかったのだが徐稚（東漢の隠士）のためだけに椅子一脚をあつらえ、彼が帰るとその椅子を片付けた。賢下士を礼遇する意味。○南州…南昌。徐稚の出身地。○孺子…徐稚の字。

 

 

★詠史（相如滌器を図）　　詠史（相如(しょうじょ) 器を滌(あら)う図）　　　　　  明　　唐　寅

 

琴心挑取卓文君　　　　琴心 挑取 卓文君

賣酒臨邛石凍春　　　　酒を売り 臨邛の石凍春

狗監猶能薦才子　　　　狗監 猶お能(よ)く 才子を薦す

當時宰相是閑人　　　　当時の宰相 是れ閑人

 

【語釈】

○相如…司馬相如。○琴心…琴の音で表現した愛情。○挑取…選び取る。○卓文君…司馬相如と駆け落ちした妻。中国古代四大才女の一人。○臨邛…四川省邛耒県。卓文君の故郷。○石凍春…不祥。○狗監…漢の時代の内官の名前。皇帝の狩猟犬を管理する役であった。司馬相と同郷の楊得意。

 

★    詠史（雪夜倖趙普）　　　　詠史（雪夜 趙普(ちょうふ)を倖(こう)す） 　　　　 明　　唐　寅

 

宋朝受命政維新　　　　宋朝 命を受け 政 維新たり

魏國稱為社稷臣　　　　魏国 称し 社稷(しゃしょく)臣(しん)と為る    

空使終年讀論語　　　　空しく 終年 論語を読ましむ

如何不做託孤人　　　　如何(いかん)んぞ 孤を託す人に 做(なら)わざる

 

【語釈】

○趙普…北宋初期の宰相で宋朝建国の元勲。○受命…天命を受ける。○社稷臣…国家の安全保障に関わる重要な臣下。○転句…趙普に学問がないとされたため、太祖趙匡胤は『論語』を読ませた。○如何…どうして。○託孤人…劉備玄德。諸葛孔明に劉禅を託した。

 

 

★    詠史　　　　　　　　　詠史　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　陸次雲

 

儒冠儒服委丘墟　　　　儒(じゅ)冠(かん) 儒服(じゅふく) 丘墟(きゅうきょ)に委(す)てられ

文採風流化土苴　　　　文採 風流 土苴(どしょ)と化す

尚有陸生坑不盡　　　　尚お 陸生(りくせい) 坑にし尽くさざる有りて

留他馬上説詩書　　　　他を留めて 馬上 詩書を説く

 

【語釈】

○儒冠儒服…儒者の冠と衣服。○土苴…泥かす。卑しい物のたとえ。○陸生…地上に住む生き物。

 

 

★    詠史　　　　　　　　　詠史 　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈紹姫

 

為報君讐奮一椎　　　　君讐(くんしゅう)に報ぜんが為に 一(いち)椎(つい)奮う

副車雖誤亦雄哉　　　　副車 誤ると雖も 亦た雄なる哉

淮陰也是韓王後　　　　淮(わい)陰(いん) 也(ま)た是れ 韓王の後

何須當時躡足來　　　　何ぞ 当時 足を躡み来るを須(もち)いん

 

【語釈】

○君讐…張良の楚国魏の仇。○一椎…始皇帝の車に投げた鉄槌。○副車…始皇帝の副車。○淮陰…韓信。○韓王…劉邦。○何須…どうして～ができたのだろうか。○躡足…張良が劉邦の足を踏んで、韓信を仮王でなく真王にさせよと言ったこと。

 

 

★    詠史　　　　　　　　　詠史　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　黄文運

 

天馬蒲萄遠道収　　　　天馬 蒲萄 遠道(えんどう)収まる

安西大夏入邊州　　　　安西(あんせい) 大夏(たいか) 辺州に入る

誰知衛霍論功日　　　　誰か知らん 衛霍(えいかく) 論功の日

卜式捐金已拝侯　　　　卜式(ぼくしょく) 金を捐(す)て 已に侯を拝すを

 

【語釈】

○天馬蒲萄…天馬や葡萄を産出する西域の国。衛霍…漢の武帝のときの将軍、衛青と霍去病。○遠道…遙かに遠い地域。○安西…トルファン、クチャ地方。○大夏…中国西北部（甘粛省・寧夏回族自治区）に建国した西夏。○邊州…中国の辺境の州。○衛霍…漢の武帝のときの将軍、衛青と霍去病。○卜式…漢の武帝の時の人。財産家で、財産の半分を国に寄付する嘆願書を出し、左庶長の爵位を与えられた。○捐金…寄付する。

 

★    讀史有感　　　　　　　史を読みて感有り　　　　　　　　　　  清　　郁　植

 

兵壓邯鄲氣欲吞　　　　兵は邯鄲を圧し 気 吞まんと欲す

時危公子下監門　　　　時 危くして 公子 監門に下る

滿堂珠履三千客　　　　満堂の珠履 三千の客(かく)

朱亥從來未受恩　　　　朱亥 従来 未だ恩を受けず

 

【語釈】

○邯鄲…戦国時代の趙の首都。秦軍に包囲された。○公子…戦国四君の一人である信陵君。○監門…門番のいる城門。侯生がいた。○珠履…高貴な人達。○朱亥…侯生が信陵君に推薦した人物。

（参考文献）　『新釈漢文大系　８９　魏公子列伝第十七』

　　　

 

★    湘妃　　　　　　　　　湘(しょう)妃(ひ)　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　林西壁

 

日落風淒湘水湄　　　　日 落ち 風 淒(さむ)し 湘水の湄(みぎわ)

蒼梧人去暮雲悲　　　　蒼梧(そうご) 人 去りて 暮雲悲し

于今一種江千竹　　　　今に于(お)いて 一種 江千の竹

猶似當年染涙時　　　　猶お似たり 当年 涙を染むる時に

 

【語釈】

○湘妃…尭帝の娘で舜の妃である娥皇と女英。舜が蒼梧で死ぬと2人は湘水に身を投げてその神になったのだとされている。○湘水…洞庭湖に注ぐ湖南省最大の河川。○湄…岸辺。○蒼梧…アオギリ。○于…～に至って。○江千竹…湘竹（斑竹）湘妃の涙で皮が斑になったとされる。○当年…昔年。

 

★    夷齊　　　　　　　　　夷(い)斉(せい)　　　　　　　　　　　　　　  元　　宋　无

 

干戈爰及父君間　　　　干戈 爰(ここ)に及ぶ 父君の間

叩馬難令木主還　　　　馬を叩き 木主をして 還らしむること難し

若向使曽食周粟　　　　若し 向(さき)に 曽(かつ)て 周の粟(ぞく)を食らわしめば

千年誰説首陽山　　　　千年 誰か説かん 首陽山

 

【語釈】

○夷齊…伯夷と叔斉。殷の国君の後継者であったが、その地位を譲り合って国を去り、周に使えた。○干戈…戦争。○父君…父である殷と君である周。○木主…位牌。殷を討伐するに際し、武王は父である文王の位牌を戰車に乗せた。○向使…「さきに～しめば」と読み、過去の事実に反する仮定を示す。○曽食周粟…殷に生まれず周の臣下となっていたならば。○首陽山…中国山西省の西南部にある山。周の武王をいさめた伯夷 ・叔斉が隠棲し餓死した山として知られる。

　　　

 

★    讀老子　　　　　　　　老子を読む　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

言者不如知者默　　　　言う者は如らず 知る者は黙す

此語吾聞於老君　　　　此の語 吾 老君より聞けり

若道老君是知者　　　　若し 老君 是れ知者(ちしゃ)と道(い)わば

緣何自著五千文　　　　何に縁(よ)りてか 自(みずか)ら五千文を著(あら)わさんや

 

【語釈】

○老君…老子。○緣何…もし～ならば。○五千文…『老子』のこと。史記の老子列伝による。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　十一』

 

★    晏嬰 　　　　　　　　　　晏嬰(あんえい)　　　　　　　　　　　　　　明　　髙　啓

 

一裘身著久經年　　　　一裘(いちきゅう) 身に著し 久しく年を経たり

祿米分炊幾戸烟　　　　禄米 分ちて炊(かしが)しむ 幾戸の煙

盡説大夫能養士　　　　尽(ことごと)く説く 大夫 能(よ)く士を養うと

却於尼叟惜封田　　　　却って 尼叟(にそう)に於いて 封(ふう)田(でん)を惜しむ

 

【語釈】

○晏嬰…晏子。中国春秋時代の斉の政治家。○一裘身著…「三十年一狐裘」晏子は狐の毛皮から仕立てた一枚きりの服を、30年も着ていた。○禄米…晏子が貰った俸禄米○大夫…晏子。○尼叟…孔子。○惜封田…景公が孔子に領地を与えようとしたのを止めさせた。

 

 

★    屈原　　　　　　　　　　屈(くつ)原(げん)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

千秋遺恨楚江濱　　　　千秋の遺恨 楚の江(こう)浜(ひん)

宗社將傾敢惜身　　　　宗社 将(まさ)に傾かんとし 敢えて 身を惜まず

何事承平漢文代　　　　何事ぞ 承(じょう)平(へい) 漢文(かんぶん)の代

長沙偏欲學斯人　　　　長沙 偏(あまね)く斯の人に学ばんと欲すとは

 

【語釈】

○屈原…戦国時代の楚の政治家、詩人。懐王を必死で諫めたが受け入れられず、楚の将来に絶望して入水した。○千秋…千年。○宗社…国家。○承平…治平相承；太平。○漢文…漢の文帝。○長沙…漢の賈詡。文帝の時代に長沙の王に降格された。

 

 

★    薊子訓　　　　　　　　薊子(げいし)訓(くん)　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

世上年光東逝波　　　　世上の年光 東逝(とうせい)の波

咸陽銅狄幾摩挲　　　　咸陽の銅狄 幾摩挲(いくまさ)

神仙不死成何事　　　　神仙 不死 何事か成る

只向秋風感慨多　　　　只だ 秋風に向いて 感慨多し

 

【語釈】

○薊子訓…『搜神記』にある漢の仙人。○世上…人間世界。○年光…年月。○東逝…東に去る。○咸陽…秦の都。ここでは秦檜のこと。秦の正王は咸陽を守るために土地を割譲した。それと同じように秦檜は南宋の土地を割譲した。○銅狄…銅で作った人像。秦の始皇帝が天下統一後没収した武器で十二人の人像を造った。○摩挲…手でこする。

 

 

★    讀秦紀　　　　　　　　秦(しん)紀(き)を読む　　　　　　　　　　　　　   宋　　蕭　澥

 

築了連雲萬里城　　　　築(ちく)了(りょう)す 連雲 万里の城

春風弦管醉中聽　　　　春風 弦管 酔中に聴く

凄凉六籍寒灰裏　　　　凄涼たり 六(りく)籍(せき) 寒灰の裏

宿得咸陽火一星　　　　宿り得たり 咸(かん)陽(よう)火(か) 一星

 

【語釈】

○秦紀…秦の歴史書。○築了…築き終わる。○凄涼…寂しく静か。○六籍…六経。詩経、書経、礼記、楽経、易経、春秋。○寒灰裏…焚書の灰。○咸陽火…秦の都を焼く項羽が付けた火。

 

 

★    讀秦紀　　　　　　　　秦(しん)紀(き)を読む　　　　　　　　　　　　　　  宋　　元端本

 

海上空求五色芝　　　　海上 空しく求む 五色の芝

鮑魚風起竟堪悲　　　　鮑魚(ほうぎょ) 風起り 竟(つい)に 悲しむに堪たり

桃源自有長生路　　　　桃源 自(おのずか)ら 長生の路有り

却是秦皇不得知　　　　却って是れ 秦皇知るを得ず

 

【語釈】

○秦紀…秦の歴史書。○五色芝…不老長寿の薬とされる芝。○鮑魚…塩漬けにした肴。始皇帝が死んだとき、腐敗臭を隠すため車に積み込んだ。○桃源…桃源郷。秦の支配を逃れた人が隠れ住んだ。○秦皇…始皇帝。

 

 

★    讀秦紀　　　　　　　　秦(しん)紀(き)を読む　　　　　　　　　　　　　　  清　　陳恭尹

 

謗聲易弭怨難除　　　　謗声(ぼうせい) 弭(とど)め易く 怨(うらみ) 除き難し

秦法雖嚴亦甚疏　　　　秦法 厳なりと雖(いえど)も 亦た 甚(はなは)だ疏(そ)なり

夜半橋邊呼孺子　　　　夜半 橋辺 孺子(じゅし)を呼ぶ

人間猶有未燒書　　　　人間(じんかん) 猶お未だ 焼かざる書有り

 

【語釈】

○秦紀…史記の秦始皇本紀。○謗聲…誹しる声。弭…止める。○秦法…挟書律、始皇帝の時、民が密かに書を蔵するのを禁止した。○孺子…張良のこと、老翁から兵書を与えられた。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

 

　

★    秦始皇　　　　　　　　秦始皇　　　　　　　　　　　　　　 清　　汪　繹

 

方丈瀛洲杳莫攀　　　　方丈 瀛洲 杳(よう)として攀(よ)じるもの莫(な)し

金銀宮闕湧煙鬟　　　　金銀 宮闕(きゅうけつ) 煙鬟(えんかん)湧く

桃源自是人間世　　　　桃源 自(おのずか)ら是れ 人間(じんかん)の世

卻遣童男問海山　　　　却って 童男をして 海山を問わしむ

 

【語釈】

○宮闕方丈…伝説上の仙山。○瀛洲…伝説中の仙山。仙人が住むという。○杳…遙かに遠い。○宮闕…宮城の門。○桃源…桃源郷。○童男…若い男。

 

 

★    秦始皇　　　　　　　　秦始皇　　　　　　　　　　　　　    清　　硃　瑄

 

徐巿樓船竟不還　　　　徐巿の楼船 竟(つい)に還らず

祖龍旋已葬驪山　　　　祖竜 旋(めぐ)り 已に 驪山(りざん)に葬らる

蓬莱覔得長生藥　　　　蓬莱(ほうらい) 長生の薬を覔(もと)め得ば

眼見諸侯盡入關　　　　眼に見ん 諸侯 尽(ことごと)く関に入(い)るを

 

【語釈】

○徐巿…徐福。仙薬を採ると言って大船団を組んで東海に去った。○祖龍…始皇帝。○驪山…西安の東、臨潼県城の南にある山。○蓬莱…東海の中にあるとされる仙山。○關…関中。

 

 

★    蕭相　　　　　　　　　蕭相(しょうしょう)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　高樹程

 

英風猶想入關初　　　　英風 猶お想う 関に入るの初(はじめ)

相國功勲世莫知　　　　相国の功勲 世 知ること莫(な)し

猶恨未離刀筆吏　　　　猶お恨む 未だ刀筆の吏を離れず

只収國籍不収書　　　　只だ国籍を収め 収を書せざるを

 

【語釈】

○蕭相…漢の丞相蕭何。○英風…高尚な風格。○關…関中。○相国…丞相蕭何。○刀筆吏…文人の官吏。竹簡を刀で削り筆で書を書いた。○国籍…国の戸籍。○収…収入。

 

 

★    虞姬　　　　　　　　　虞(ぐ)姫(き)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　朱妙端

 

力盡重瞳霸氣消　　　　力尽き 重瞳(じゅうどう) 覇気(はき)消ゆ

楚歌聲裏恨迢迢　　　　楚歌声(そかせい)裏(り) 恨み迢々(ちょうちょう)たり　

貞魂化作原頭草　　　　貞(てい)魂(こん) 化して 原頭の草と作(な)り　

不逐東風入漢郊　　　　東風を逐(お)って 漢郊に入(い)らず

 

【語釈】

○虞姬…項羽の愛妾虞美人。○重瞳…項羽。瞳が二つあったという。○迢迢…重なるさま。○漢郊…漢の地の郊外。

 

　　　

 

★    叔孫通　　　　　　　　叔孫通(しゅくそんとう)　　　　　　　　　　　　　　  金　　李　汾

 

秦時博士魯諸生　　　　秦時の博士 魯の諸生

漏網驪山百丈阬　　　　網を漏らす 驪山(りざん) 百丈の阬

邂逅劉郎習綿蕝　　　　劉郎に邂逅(かいこう)し 綿蕝(めんせつ)を習う

便能彈壓漢公卿　　　　便ち 能く弾圧す 漢の公卿

 

【語釈】

○叔孫通…始め秦に仕え、後で漢に使えた儒者。劉邦が儒教を大切にすることに功績があった。○魯諸生…孔子の弟子の儒者。○漏網…逃れさせた。○驪山…陝西省臨潼県にある山。麓に華清宮があった。○百丈阬…儒者を生き埋めにした穴。○邂逅…思いがけなく出会う。○綿蕝…劉邦が儀式に儒教を取り入れたこと。『史記』劉敬叔孫通列傳。○彈壓漢公卿…漢の重臣達を儒教の礼法に従わせた。

 

★    賈生　　　　　　　　　賈生(かせい)　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李商隱

 

宣室求賢訪逐臣　　　　宣室(せんしつ) 賢を求め 逐(ちく)臣(しん)を訪う

賈生才調更無倫　　　　賈生(かせい)が才調(さいちょう) 更に倫無し

可憐夜半虛前席　　　　憐れむべし 夜半 虚しく席を前(すす)め

不問蒼生問鬼神　　　　蒼生(そうせい)を問わず 鬼神を問う

 

【語釈】

○賈生…漢の賈誼、文帝の時、一旦左遷されたが呼び戻され、文帝が鬼神のことを問うと、その答えが上意にかなうものだったため、末子の梁懐王劉揖の太傅となった。○宣室…文帝の使者。○逐臣…左遷された人、賈誼。○才調…文才。○無倫…並外れている。○前席…一所懸命に聞く。○蒼生…人民。

（参考文献）　『唐詩三百首』『三体詩』

 

★    讀公孫弘傳　　　　　　公孫(こうそん)弘伝(こうでん)を読む　　　　　　　　　　　  金    李過庭

 

古來好客數平津　　　　古来 好客 平津(へいしん)を数う

我道真龍未必真　　　　我(が)道(どう) 真(しん)竜(りゅう) 未だ必ずしも真ならず

一箇仲舒容不得　　　　一箇の仲舒(ちゅうじょ) 容(かたち)得ず

不知開閤為何人　　　　知らず 閤(こう)を開くは 何人の為ぞ

 

【語釈】

○公孫弘…漢の武帝の時代の宰相。○平津…北京・天津地方。公孫弘は平津侯に封じられた。○真龍…真実で変えようがないこと。○仲舒…哲学家。○開閤…公孫弘は丞相府に客館を開き、賓客を招いて謀議に参与させたこと。

 

 

★    司馬相如　　　　　　　司馬相如(しばしょうじょ)　　　　　　　　　　　　  清　　顧宗泰

 

琴心一曲感慇懃　　　　琴心 一曲 慇懃(いんぎん)に感ず

酤酒還憐犢尾褌　　　　酒を酤(う)り 還た 憐む 犢(とく)尾(び)褌(ふん)

底事白頭悲惋切　　　　底事(なにごと)ぞ 白頭 悲惋(ひわん) 切なる

何人更與賦長門　　　　何人か 更に与(あずか)らん 長門(ちょうもん)を賦すに

 

【語釈】

○司馬相如…漢の武帝に使えた文章家。○琴心…琴を弾いて相手に心を通わすこと。○感慇懃…卓文君が感動したこと。○酤酒…卓文君と駆け落ちして酒屋を開いたこと。○犢尾褌…子牛の皮の褌をして働いたこと。○白頭…卓文君の父。○悲惋…悲しみ嘆くこと。○賦長門…司馬相如が陳皇后のために作った賦（文選）。

 

 

★    揚雄　　　　　　　　　揚(よう)雄(ゆう)　　　　　　　　　　　　　　　  明     髙 啓

 

執㦸三朝老從臣　　　　執(しつ)㦸(げき) 三朝 老従臣

從來無意據通津　　　　従来 意無く 通津(つうしん)に拠る

如何晚把玄經筆　　　　如何(いかん)んぞ 晩に 玄経の筆を把り

却為新都著劇秦　　　　却って新都の為に劇秦を著すとは

 

【語釈】

○揚雄…前漢末の文学者・学者。前漢、王莽、後漢の三朝に仕えた。○執㦸…宮廷侍衛官。○通津…目立つ位置のたとえ。○玄経…大玄経。○新都…王莽の都。○劇秦…揚雄の著「劇秦美新」。王莽の政治を讃えて封禅を進めるもの。

 

　　　

★    綠珠　　　　　　　　　緑(りょく)珠(じゅ)　　　　　                      　　元     宋 无

 

紅粉捐軀為主家　　　　紅粉 軀(み)を捐(す)つ 主家の為

明珠一斛委泥沙　　　　明珠(めいじゅ) 一斛(いっこく) 泥沙(でいさ)に委(す)てらる

年年金谷園中燕　　　　年々 金谷(きんこく)園中(えんちゅう)の燕

銜取香泥葬落花　　　　香(こう)泥(でい)を銜取(かんしゅ)して 落花を葬う

 

【語釈】

○綠珠…晋の石崇の愛妾。蒙求「綠珠墜樓」。○紅粉…美人。○明珠…光沢のある宝玉。○一斛…十斗。○金谷園…洛陽の西北にあった石崇の庭園。○銜取…銜え取る。

 

 

 

★    劉伯倫　　　　　　　　 劉伯倫　　　　　　　　　　　　　　   清　　汪紹焻

 

生死窮通付醁醽　　　　生死 窮通 醁醽(ろくれい)を付す

婦言雖好不須聽　　　　婦言好しと雖も聴くを須いず

利名役役真成醉　　　　利名 役々 真成に酔う

只有先生是獨醒　　　　只だ有り　先生 是れ 独醒

 

【語釈】

○劉伯倫…西晉の劉伶。竹林の七賢の一人。『世説新語』任湛に記載あり。○窮通…困窮と栄達。○醁醽…美酒の一つ。○婦言雖好不須聽…妻から禁酒するように進められたが聴かなかった。○利名…名利。○役役…労役して休まぬさま。○独醒…一人だけ世俗を超越しているさま。

 

 

★    桓溫　　　　　　　　　桓(かん)温(おん)　　　　　　　　　　　　　　  清　　王廷諤

 

十萬雄師擁入秦　　　　十万の雄師(ゆうし) 擁(いだ)きて秦に入る

可兒才畧自超倫　　　　可児 才略 自(おのずか)ら超倫(ちょうりん)

關中漫説無豪傑　　　　関中 漫(みだり)に説く 豪傑無しと

失却當前捫蝨人　　　　失却 当前 蝨(しらみ)を捫(ひね)る人

 

【語釈】

○桓溫…東晋の政治家、武将。蜀の成を滅ぼし，前秦の軍を破り，さらに前燕を討った。自ら東晋の帝になろうとしたが、野望を達成しないままで死んだ。○秦…関中。前秦の地○可兒…能人。○超倫…世の標準を超越する。○關中…函谷関の西側の地方。○捫蝨…「虱をひねって当世の務を談ず」（晉書　王猛載記）。桓温が、虱をひねりつぶしながら、晋の政治家である王猛と時世や政治を論じた故事。

 

★    感天寶事　　　　　　　天宝の事に感ず　　　　　　　　　  清　　黄宗臣

 

青瑣如烟御柳斜　　　　青瑣(せいさ) 煙の如く 御柳(ごりゅう)斜なり

承恩輦路及誰家　　　　恩を承け 輦(れん)路(ろ) 誰が家にか及ぶ

居延城外無春草　　　　居(きょ)延城外(えんじょうがい) 春草無し

羯鼓猶催上苑花　　　　羯(かっ)鼓(こ) 猶お催(うなが)す 上苑の花

 

【語釈】

○天宝…唐の玄宗の治世後半に使用された元号。742年 - 756年。○青瑣…窓を飾る青色の鎖模様。○御柳…宮城の柳。○輦路…皇帝の乗る手押し車が通る道。○居延城…匈奴に対する最前線として、甘粛省の酒泉から張掖にかけて築かれた城の名。○羯鼓…打楽器の一つ。○上苑…上苑宮。皇帝が政治を行う宮殿。

 

 

★    楊妃　　　　　　　　　楊(よう)妃(ひ)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　真山民

 

三郎掩涙馬嵬坡　　　　三郎 涙を掩う 馬嵬坡(ばかいは)

生死恩深可奈何　　　　生死 恩深く 奈何(いかん)すべき

瘞玉驛傍何足恨　　　　玉を瘞(うず)む 駅(えき)傍(ぼう) 何ぞ恨むに足らん

潼關戰骨不埋多　　　　潼関の戦骨 埋(うず)めざる多し

 

【語釈】

○楊妃…楊貴妃。○三郎…玄宗皇帝。○馬嵬坡…陜西省西安市の興平県の地名。楊貴妃が殺された。○瘞玉…楊貴妃の遺体を埋めた。○驛傍…宿場の傍。○陝西省渭南市潼関県の北部に位置する。黄河の屈曲点に位置し、古来中原から関中に入る交通の要衝・軍事の要地として知られる。

 

 

★    楊妃襪　　　　　　　楊妃襪(ようひばつ)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　曾原一

 

萬騎西行駐馬嵬　　　　万騎 西行し 馬嵬(ばかい)に駐(とど)まる

凌波曾此墮塵埃　　　　波を凌(しの)ぎ 曽(かつ)て此れ 塵埃(じんあい)に堕つ

誰知一掬香羅小　　　　誰か知らん 一掬(いっきく)の香(こう)羅(ら) 小さきも

踏轉開元宇宙來　　　　開元の宇宙を 踏転(とうてん)して来(きた)るを

 

【語釈】

○楊妃襪…楊貴妃のくつした。○馬嵬…馬嵬坡。陜西省西安市の興平県の地名。楊貴妃が殺された。○一掬…ひとすくい。小量。○香羅…美しく上等な布。○開元…玄宗の治世前半にあたる開元年間（713年―741年）。治世が安定し「開元の治」と呼ばれる。○踏轉…足でひっくり返す。

 

 

★    邠王小管　　　　　　　邠(ひん)王(おう)の小管　　　　　　　　　　　　   唐　　張　祜

 

虢國潛行韓國隨　　　　虢(がく)国(こく)は潜行し 韓国は随う

宜春深院映花枝　　　　宜(ぎ)春(しゅん)の深院 花枝に映ず

金輿遠幸無人見　　　　金(きん)輿(よ) 遠く幸し 人の見る無し

偷把邠王小管吹　　　　偷(ひそか)に 邠(ひん)王(おう) 小管を把(と)りて吹く

 

【語釈】

○邠王…周朝の第三代目の太王。太王は、周の創始者・武王の孫で、父親は周公旦。○小管…小さな管楽器。○虢國…現在の河南省温県に位置し周の宣王の子である公子虢が建てた国。紀元前六八七年に周に滅ぼされた。○韓国…周時代に存在した都市国家。初め現在の河北省にあり、のち現在の陝西省に移った。○宜春深院…宜春院。妓人が召されて入る宮殿の名。○金輿…金の輿。

 

★    王荊公　　　　　　　　王荆公(おけいこう)　　　　　　　　　　　　　  宋　　羅大經

 

錯認蒼姬六典書　　　　錯認す 蒼姫 六典の書

中原從此變蕭疏　　　　中原 此(これ)に従(よ)りて変じて 蕭疏(しょうそ)たり

幅巾投老鍾山日　　　　幅巾(ふくきん) 老(おい)を 鍾山に投ずる日

辛苦區區活數魚　　　　辛苦 区々(くく) 数魚を活かす

 

【語釈】

○王荊公…王安石。○錯認…誤って判断する。○蒼姫？○六典…開元年間に編纂された各官庁ごとに関係の諸法規を集めたもので，主として吏部･戸部･礼部･兵部･刑部･工部の六部の下にこれを分載した。○中原…河南一帯の平野。○蕭疏…不景気。○幅巾…頭を包む布。王安石のこと。○鍾山…南京の東北にある名山。王安石の隠棲の地。○區區…わずかなこと。

 

 

★    王婉容　　　　　　　　王婉(おうえん)容(よう) 　　　　　　　　　　　　　  元　　宋　无

 

貞烈那堪黠虜求　　　　貞烈 那(な)んぞ堪えん 黠(かつ)虜(りょ)の求(もとめ)

玉顏甘沒塞垣秋　　　　玉(ぎょく)顔(がん) 甘じて没す 塞(さい)垣(がい)の秋

孤墳若是鄰青冢　　　　孤墳 若し是れ 青冢(せいちょう)に隣(りん)せば

地下昭君見亦羞　　　　地下の昭君 見て亦た羞(は)じん

 

【語釈】

○王婉容…靖康の変で徽宗にしたがって金に連れ去られたが、金の人の妾となることを拒んで自殺したとされる宮女。○貞烈…非常に固い貞操。○黠虜…ずるがしこい胡。○玉顏…美人。○塞垣…寨の垣根。○青冢…王昭君の墓。○昭君…王昭君。

 

 

絶句類選　巻之十九　　農桑類

 

★    野老曝背　　　　　　　野老曝(のろうばく)背(はい)　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　頎

 

百歲老翁不種田　　　　百歳の老翁 田を種えず

惟知曝背樂殘年　　　　惟だ知る 背を曝(さら)して 残年を楽しむを

有時捫虱獨搔首　　　　時有りて 虱(しらみ)を捫(ひね)り 独り首を搔く

目送歸鴻籬下眠　　　　帰(き)鴻(こう)の 籬下に眠るを 目送(もくそう)す

 

【語釈】

○野老…村の老人。○曝背…背を日にさらすこと。ひなたぼっこ。○歸鴻…帰ってきた雁。○目送…目で以て送る。

★　觀祈雨　　　　　　　　雨を祈るを観る　　　　　　　　　　　  唐　　李　約

 

桑條無葉土生煙　　　　桑(そう)条(じょう) 葉 無く 土 煙を生ず

簫管迎龍水廟前　　　　簫管(しょうかん) 竜を迎う 水廟の前

朱門幾處看歌舞　　　　朱門 幾処か 歌舞を看る

猶恨春陰咽管弦　　　　猶お恨む 春陰 管弦に咽(むせ)ぶを

 

【語釈】

○桑條…桑の枝。○簫管…管楽器。○水廟…龍を祀った廟。○朱門…朱塗りの門。○春陰…春の曇り空に漂う陰影。

 

　　　

★    村夜　　　　　　　　　村夜 　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

霜草蒼蒼蟲切切　　　　霜(そう)草(そう) 蒼々(そうそう)として 虫 切々(せつせつ)たり

村南村北行人絶　　　　村南 村北 行人(こうじん)絶ゆ

獨出前門望野田　　　　独(ひと)り前門に出て 野田を望めば

月明蕎麥花如雪　　　　月 明かにして 蕎麦(きょうばく) 花 雪の如し

 

【語釈】

○蒼蒼…青白い月明かりの形容。○切切…さびしい風や虫の形容。○蕎麥…そば。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集（三）』

　　　

 

★    宋氏林亭　　　　　　　宋氏の林亭　　　　　　　　　 　　　　唐　　薛　能

 

地濕莎青雨後天　　　　地は湿り 莎(はますげ)は青し 雨後の天

桃花紅近竹林邊　　　　桃花 紅(くれない)近し 竹林の辺(ほとり)

行人本是農桑客　　　　行人 本(もと)是れ 農桑の客(かく)

記得春深欲種田　　　　記し得たり 春 深くして 田を種えんと欲するを

 

【語釈】

○林亭…林の中にある亭。○行人…旅人。○農桑…農業と養蚕。　

 

 

★    蠶婦　　　　　　　　　蚕婦　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　來　鵬

 

曉夕採桑多苦辛　　　　暁夕桑を採り苦辛多し

好花時節不閑身　　　　好花の時節不閑身

若教解愛繁華事　　　　若教解愛繁華事

凍殺黃金屋裏人　　　　凍殺黄金屋裏人

 

 

★    再經胡城縣　　　　　　再び胡城県(ごじょうけん)を経(ふ)　　　　　　　　　　　  唐　　杜荀鶴

 

去歲曾經此縣城　　　　去歳 曽て経(ふ) 此の県城

縣民無口不冤聲　　　　県民 口に冤声(えんせい)せざるは無し

今來縣宰加朱紱　　　　今来 県(けん)宰(さい) 朱紱(しゅふつ)を加う

便是生靈血染成　　　　便ち是れ 生霊 血染 成る

 

【語釈】

○胡城縣…安徽省阜陽市潁州区。○去歳…去年。○冤聲…恨み言。○今來…今。○県宰…県令。○朱紱…朱色の糸で縫い合わせた官服。○生霊…人民。

 

 

★    田家　　　　　　　　　田家　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　歐陽修

 

綠桑高下映平川　　　　緑(りょく)桑(そう) 高下し 平川(へいせん)に映ず

賽罷田神笑語喧　　　　賽(さい)を罷(や)め 田(でん)神(しん) 笑語喧(かまびす)し

林外鳴鳩春雨歇　　　　林外の鳴(めい)鳩(きゅう) 春雨歇(や)み

屋頭初日杏花繁　　　　屋頭の初日(しょじつ) 杏(きょう)花(か)繁し

 

【語釈】

○賽…お祭り。○田神…農神。○屋頭…屋根の上。○初日…朝日。

 

 

★    出郊　　　　　　　　　郊に出(い)ず　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

川原一片綠交加　　　　川原(せんげん) 一片 緑 交(こう)加(か)す

深樹冥冥不見花　　　　深樹 冥々(めいめい) 花を見ず

風日有情無處著　　　　風日 情 有りて 著く処無し

初迴光景到桑麻　　　　初めて 光景を迴(めぐ)り 桑麻に到る

 

【語釈】

○川原…原野。○交加…入り交じる。○冥冥…奥深く遠いさま。○光景…景色。○桑麻…桑畑と麻畑。

 

 

★    田家　　　　　　　　　田家　　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　鄭　獬

 

田家汨汨流水渾　　　　田家 汨々(いついつ) 流水渾(にご)る

一樹高花明遠村　　　　一樹の高花 遠村に明らかなり

雲意不知残照好　　　　雲意は知らず 残照の好きを

却將微雨送黄昏　　　　却って 微雨を将(も)って 黄昏(こうこん)を送る

 

【語釈】

○汨汨…水が早く流れるさま。○雲意…陰雲。○残照…日が沈んだ後の夕焼け。○黄昏…たそがれ。

 

 

★    山村　　　　　　　　　山村　　　  　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

竹籬茅屋趁溪斜　　　　竹籬 茅屋 渓に趁(おもむ)いて斜なり

春入山村處處花　　　　春は山村に入る 処々の花

無象太平還有象　　　　無象(むしょう)の太平 還(ま)た象(しょう)有り

孤煙起處是人家　　　　孤煙 起こる処 是れ人家

 

【語釈】

○竹籬…竹で作った垣根。○茅屋…茅吹きの家。○無象…具体的な形象のないこと。○孤煙…一筋の炊事の煙。

 

　　　

★    禾熟　　　　　　　　　禾(か) 熟す　　　　　　　　　　　　　　  宋　　孔平仲

 

百里西風禾黍香　　　　百里の西風 禾(か)黍(しょ)香し

鳴泉落竇穀登場　　　　鳴泉 竇(あな)に落ちて 穀(こく) 場に登ず

老牛粗了耕耘債　　　　老牛 粗(ほ)ぼ了す 耕耘(こううん)の債(さい)

齧草坡頭臥夕陽　　　　草を齧(か)み 坡頭(はとう) 夕陽(せきよう)に臥(が)す

 

【語釈】

○禾…稲。○西風…秋風。○禾黍…稲とキビ。○場…脱穀場。○耕耘債…田を耕す仕事のノルマ。○坡頭…丘の上。

（参考文献）　『宋詩選注』（東洋文庫）

 

 

★    秋日田家　　　　　　　秋日の田家　　　　　　　　　　　　　　  宋　　文　同

 

淘漉溝源築野塘　　　　淘漉(とうろく) 溝源(こうげん) 野塘を築く

滿坡烟草卧牛羊　　　　満坡の煙草 牛羊卧(が)す

今年且喜輸官辦　　　　今年 且つ喜ぶ 官に輸(おさ)む辦(はん)

豆莢繁多粟穗長　　　　豆(とう)莢(きょう) 繁ること多く 粟(ぞく)穂(すい)長し

 

【語釈】

○淘漉…浚渫。○野塘…野原の池。○満坡…丘に満ちる。○煙草…靄に包まれた草。○輸官…政府に納める。○豆莢…豆のさや。

 

 

★    田家　　　　　　　　　田家　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

門外清流繫野船　　　　門外の清流 野船を繫(つな)ぐ

白楊紅槿短籬邊　　　　白(はく)楊(よう) 紅(こう)槿(きん) 短籬の辺(ほとり)

旱蝗千里秋田浄　　　　旱(かん)蝗(こう) 千里 秋田浄(きよ)し

野秫蕭蕭八月天　　　　野秫(やじゅつ) 蕭々(しょうしょう) 八月の天

 

【語釈】

○野船…郷村の小舟。○白楊…はこやなぎ。○紅槿…紅色のむくげ。○旱蝗…ひでりとイナゴ。○野秫…野原のもち米。○蕭蕭…物寂しいさま。

 

 

★    柯山雜詩　　　　　　　柯山雜(かざんざっ)詩(し)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

蕭蕭茅屋土山前　　　　蕭々(しょうしょう)たる茅屋(ぼうおく) 土山の前

翁媼關門去穫田　　　　翁媼(おうおん) 門を関(とざ)し 田を穫て去る

朝日滿簷雞犬靜　　　　朝日(ちょうじつ) 簷に満ち 雞犬静かなり

荻籬深處有炊烟　　　　荻籬 深き処 炊煙有り

 

【語釈】

○柯山…不確定。○蕭蕭…物寂しいさま。○茅屋…茅吹きの家。○荻籬…オギでできたまがき。

 

 

★    插秧　　　　　　　　　挿秧(そうびょう)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

種密移疎綠毯平　　　　種(ま)くこと密に 移すこと疎にして 緑毯(りょくたん) 平かなり

行間清淺縠紋生　　　　行間 清浅 縠(こく)紋(もん)生ず

誰知細細青青草　　　　誰か知らん 細々(さいさい)青(せい)々(せい)の草

中有豐年擊壤聲　　　　中(うち)に 豊年撃壌(げきじょう)の声 有るを

 

【語釈】

○插秧…田植え。○綠毯…緑の絨毯のような苗。○行間…苗の行間。○縠紋…縮緬のようなさざ波。○擊壤…太平を喜んで土を撃つ。鼓腹撃壌。

（参考文献）　『和漢名詞選類評釈』

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

柳花深巷午雞聲　　　　柳花の深(しん)巷(こう) 午雞(ごけい)の声

桑葉尖新綠未成　　　　桑(そう)葉(よう) 尖(せん)新(しん) 緑 未だ成らず

坐睡覺來無一事　　　　坐睡(ざすい) 覚め来れば一事無し

滿窗晴日看蠶生　　　　満窓の晴日 蚕(かいこ)の生るるを看る

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○柳花…柳と花。○深巷…奥深い道。○午雞…正午を告げる雞。○尖新…葉が尖って柔らかい。○坐睡…坐ってうたた寝をすること。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

步屧尋春有好懷　　　　歩(かち)の屧(くつ)もて 春を尋(たず)ぬれば 好懐(こうかい)有り

雨餘蹄道水如杯　　　　雨余の蹄道 水 杯の如し

隨人黄犬攙前去　　　　人に随う黄犬 攙(するど)く前に去り

走到溪橋忽自迴　　　　走りて 渓橋に到りて 忽ち 自(みずか)ら迴(かえ)る

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○雨餘…雨上がり。○蹄道…動物の蹄や鳥の足跡のある歩道。

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

海雨江風浪作堆　　　　海雨の江風 浪 堆(たい)を作(な)す

時新魚菜逐春回　　　　時(じ)新(しん)の魚菜 春を逐いて回(めぐ)る

荻芽抽筍河魨上　　　　荻(てき)芽(が) 筍(たけのこ)を抽き河魨(かとん)上る

楝子開花石首來　　　　楝子(れんし) 花を開いて 石首(せきしゅ)来(きた)る

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○時新…時に応じて新しい。○魚菜…魚と野菜。○河魨…フグ。○楝子…おうちの花。○石首…しゃくなげ。

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

種園得果廑償勞　　　　園に種え 果を得て 廑(わず)かに労を償(つぐな)う

不奈兒童鳥雀搔　　　　奈(いか)んともせず 児童 鳥雀の搔ぐを

已插棘針樊筍徑　　　　已に棘(けい)針(しん)を挿し 筍径(じゅんけい)に樊(はん)す

更鋪漁網蓋櫻桃　　　　更に鋪(し)く 漁網の桜桃を蓋(おお)うを

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○不奈…どうしようもない。○棘針…棘のとげ。○筍徑…タケノコの生えている道。○樊…垣根を築いて取り囲む。○鋪…広げる。

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

小婦連宵上絹機　　　　小婦 連宵 絹機に上る

大耆催稅急於飛　　　　大耆(たいき) 税を催(うなが)すこと 飛ぶよりも急なり

今年幸甚蠶桑熟　　　　今年 幸甚(こうじん)に 蚕(さん)桑(そう)熟し

留得黄絲織夏衣　　　　留め得たり 黄糸(こうし) 夏衣を織るを

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○小婦…若い女性。○連宵…毎晩。○絹機…機織り機。○大耆…長老。村長。○蠶桑…桑の葉とカイコ。○黄絲…黄色い糸。

　　　

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

晝出耘田夜績麻　　　　昼は出(いで)て田を耘(くさぎ)り 夜は麻を績(つむ)ぐ

村莊兒女各當家　　　　村(そん)荘(そう) 児女 各(おのおの)家に当たる

童孫未解供耕織　　　　童孫 未だ解せず 耕(こう)織(しょく)に供するを

也傍桑陰學種瓜　　　　也(ま)た 桑(そう)陰(いん)に傍(そ)いて 瓜を種うるを学ぶ

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○耘田…田の草を取ること。○村莊…村の若者。○當家…家計を助ける。○耕織…耕したり織物をしたりすること。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

黄塵行客汗如漿　　　　黄塵(こうじん)の行客(こうかく) 汗 漿(しょう)の如し

少住儂家潄井香　　　　少(しば)らく儂(わ)が家に住(とど)まって 井(せい)香(こう)に潄(くちすす)ぐ

借與門前磐石坐　　　　門前の磐石(ばんせき)を 借与(しゃくよ)して坐せしむ

柳陰亭午正風凉　　　　柳陰 亭(てい)午(ご) 正風涼し

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○行客…旅人。○漿…飲み物。汁。○儂…我。○井香…爽やかな井戸の水。○磐石…平たい大きな石。○借與…貸し与える。○亭午…正午。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

　　　

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

杞棘垂珠滴露紅　　　　杞(き)棘(きょく) 珠(しゅ)を垂れ 滴(てき)露(ろ)紅なり

兩蛩相應語莎叢　　　　両蛩(りょうきょう) 相応じて 莎(さ)叢(そう)に語る

蟲絲罥盡黄葵葉　　　　虫糸 罥(けん)尽(じん)す黄葵(こうき)の葉

寂歷高花側晚風　　　　寂歴(せきれき)たる高花 晩風に側(かたむ)く

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○杞棘…イバラ。○兩蛩…二つのコオロギ。○莎叢…ハマナスゲの草むら。○蟲絲…クモの糸。○罥盡…絡め取り尽くす。○寂歷…ひっそりとしてもの寂しいさま。○側…傾く。

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

靜看簷蛛結網低　　　　静かに看る 簷蛛(えんしゅ)の網を結びて低きを

無端妨礙小蟲飛　　　　端無(はしな)くも 小虫の飛ぶを妨礙(ぼうがい)す

蜻蜓倒挂蜂兒窘　　　　蜻蜓(せいてい)倒(さか)しまに挂(か)かり 蜂児(ほうじ)窘(くる)しむ

催喚山童爲解圍　　　　山童を催喚(さいかん)して 為に囲(い)を解かしむ

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○簷蛛…軒の蜘蛛。○無端…思いがけず。○妨礙…妨げる。○蜻蜓…とんぼ。○蜂兒…蜂の子。○窘…苦しむ。○催喚…呼ぶ。○山童…田舎で使っている子供の小使。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

　　　

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

朱門乞巧沸歡聲　　　　朱門(しゅもん) 乞巧(きっこう) 歓声沸く

田舍黄昏靜掩扃　　　　田舎(でんしゃ) 黄昏(こうこん) 静に扃(かんぬき)を掩(とざ)す

男解牽牛女能織　　　　男は牛を牽いて解(ひら)き 女は能く織る

不須邀福渡河星　　　　須(もちい)いず 福を河を渡る星に邀(もと)むるを　

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○朱門…高貴な人の門。○乞巧…七夕にあやかり手仕事の上達を祈願する習わし。○黄昏…たそがれ。○扃…門のかんぬき。○解…開墾する。○邀…求める。

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

垂成穡事苦艱難　　　　成るに垂(なんなん)とする穡事(しょうじ) 苦(はなは)だ艱難(かんなん)

忌雨嫌風更怯寒　　　　雨を忌(い)み 風を嫌(きら)い 更に寒に怯ゆ

牋訴天公休掠剩　　　　牋もて天公に訴う 掠剰(りゃくじょう)を休(や)めよと

半償私債半輸官　　　　半ばは私債を償(つぐな)い 半ばは官に輸(おさ)む

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○穡事…農事。農業。○牋…上奏文。文書。○天公…天帝と天子。掠剰…あまったものをかすめる。

 

　　　

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

斜日低山片月高　　　　斜日は山に低く 片月高し　

睡餘行藥繞江郊　　　　睡余(すいよ) 行(こう)薬(やく)に 江郊(こうこう)を繞(めぐ)る　

霜風掃盡千林葉　　　　霜風 掃(はら)い尽す 千林の葉　

閑倚筇枝數鸛巢　　　　閑かに 筇枝(きょうし)に倚り 鸛巣(かんそう)を数う

 

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○斜日…夕陽。○片月…片割れ月。○睡餘…眠った後。○行藥…薬を飲んだ後、作用を高める爲に散歩すること。○江郊…江に臨んだ村。○筇枝…筇竹を用いた杖。○鸛巢…コウノトリの巣。

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

屋上添高一把茅　　　　屋上 添(そろ)え高し 一(いち)把(わ)の茅(ちがや)

密泥房壁似僧寮　　　　密(みつ)泥(でい) 房壁(ぼうへき) 僧寮に似たり

從教屋外陰風吼　　　　従教(さもあらばあれ) 屋外 陰風吼(ほ)ゆるを

卧聽籬頭響玉簫　　　　卧して聴く 籬頭(りとう) 玉簫の響くを

 

【語釈】

○四時田園雑興…四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。○密泥…？○房壁…部屋の壁。○僧寮…僧舎。○從教…ままよ。○陰風…朔風。冬の冷たい風。○玉簫…縦笛の美称。

 

 

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

松節然膏當燭籠　　　　松(しょう)節(せつ) 膏(あぶら)を然して 燭(しょく)籠(ろう)に当つれば

凝煙如墨暗房櫳　　　　凝(ぎょう)煙(えん) 墨の如く 房(ぼう)櫳(ろう)暗し

晚來拭浄南窗紙　　　　晩来 拭(ふつ)浄(じょう)す 南窓の紙

便覺斜陽一倍紅　　　　便(すなわ)ち覚ゆ 斜陽 一倍(いちばい)紅なるを

 

【語釈】

○松節…松の節くれ立った頃。○燭籠…灯籠。○凝煙…煙のすす。○房櫳…れんじまど。○晚來…夕方。○拭浄…掃除して綺麗にする。○斜陽…夕陽。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

　　　

★    四時田園雜興　　　　　四時田園雑興(しいじでんえんざっきょう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

放船閑看雪山晴　　　　船を放ち 閑(しずか)に看る 雪山の晴るるを

風定奇寒晚更凝　　　　風 定まりて 奇(き)寒(かん) 晩に更に凝(こ)る

坐聽一篙珠玉碎　　　　坐して聴く 一篙(いっこう) 珠玉(しゅぎょく)砕くを

不知湖面已成冰　　　　知らず 湖面 已に氷を成すを

 

【語釈】

○奇寒…非常な寒さ。○一篙…竿一つの高さ。

 

 

★    顔橋道中　　　　　　　顔(がん)橋(きょう)道中(どうちゅう)　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

村村籬落總新修　　　　村々の籬落(りらく) 總て 新たに修す

處處田疇盡有秋　　　　處々(しょしょ)の田疇(でんちゅう) 尽く秋有り

一段農家好風景　　　　一段の農家 好風景

稻堆高出屋山頭　　　　稻堆(とうつい) 高く出ず 屋山(おくざん)頭(とう)

 

【語釈】

○顔橋道…不祥。○籬落…竹や葦、枝などで作った垣根。○田疇…田地。○稻堆…稲を積んだもの。○屋山頭…屋根の棟。

 

 

 

 

 

★    至後入城道中雜興　　　至りて後 城に入る 道中雑興　　　　　　  宋　　楊萬里

 

大熟仍教得大晴　　　　大(たい)熟(じゅく) 仍(すなわ)ち 大晴を得るを教ゆ

今年又是一昇平　　　　今年　又た是れ　一(いっ)昇(しょう)平かなり

昇平不在簫韶裏　　　　昇(しょう)平(へい)は 在らず 簫韶(しょうしょう)の裏(うち)に

只在諸村打稻聲　　　　只だ 諸村 稲を打つ声に在り

 

【語釈】

○大熟…大豊作。○一昇平…太平そのもの。○昇平…太平。○簫韶…舜帝の楽の名。

 

 

★    桑茶坑道中　　　　　　桑(そう)茶(ちゃ)坑道中(こうどうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

蠶麰今歲十分强　　　　蚕麰(さんぼう) 今歳 十分強し

催得農家日夜忙　　　　農家を催(うなが)し得て 日夜忙(ぼう)なり

已縛桁竿等新麥　　　　已に 桁(こう)竿(かん)を縛り 新麦に等し

更將了木撐欹桑　　　　更に 了(りょう)木(ぼく)を将(も)って 欹(き)桑(くわ)を撐(ささ)ぐ

 

【語釈】

○桑茶坑…不祥。○蠶麰…カイコと大麦。○今歳…今年。○桁竿…竿と桁でできた稲麦を干す道具。○新麥…新しく収穫された麦。○了木…上部が二股にでYの字型の木。○欹桑…傾いた桑の木。

 

 

 

 

★    桑茶坑道中　　　　　　桑(そう)茶(ちゃ)坑道中(こうどうちゅう)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

晴明風日雨乾時　　　　晴(せい)明(めい)の風日 雨 乾く時

草滿花隄水滿溪　　　　草は花隄に満ち 水は渓に満つ

童子柳陰眠正著　　　　童子 柳陰 眠 正に著(いちじる)し

一牛喫過柳陰西　　　　一牛 喫(くら)い過ぐ 柳陰の西

 

【語釈】

○桑茶坑…不祥。○淸明…淸明節。春分から十五日目。

 

 

★    憫農                 農を憫(あわ)れむ　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

稻雲不雨不多黄　　　　稲(とう)雲(うん) 雨ふらず 黄 多からず

蕎麥空花早著霜　　　　蕎麦(きょうばく)　空しく花さきて　早(つと)に霜を著(ちゃく)す

已分忍饑度殘歲　　　　已に分(ぶん)とす 饑(うえ)を忍び 残(ざん)歳(さい)を度るを

不堪歲裏閏添長　　　　堪えず 歳(さい)裏(り) 閏(うるう) 長を添うに

 

【語釈】

○稻雲…雲のような稲穂。○不多黄…黄色に実るのは多くない。○蕎麥…ソバ。○分…推測する。○殘歲…年末。○歲裏…一年の中。○閏添長…閏年で一年が長い。

 

 

 

 

 

★    暮行田間　　　　　　　　暮に田間(でんかん)を行く　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

布穀聲中日脚收　　　　布(ふ)穀声中(こくこえちゅう) 日脚(にっきゃく) 収まる

瘦藤扶我看西疇　　　　痩藤 我を扶(たす)け 西疇(せいちゅう)を看る

露珠走上青秧葉　　　　露(ろ)珠(じゅ) 走り上る 青秧(せいびょう)の葉

不到梢頭便肯休　　　　梢頭(せいとう)に到らずんば 便ち 肯えて休(や)まんや

 

【語釈】

○布穀…中国伝説上の鳥。「布穀」と啼くと言われる。○日脚…雲の間から漏れる夕陽の光。○瘦藤…細い藤。○西疇…西方の田地。○露珠…真珠のような露の玉。○梢頭…てっぺん。○青秧…緑色の苗。

 

　　　

★    農桑　　　　　　　　　農(のう)桑(そう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

采桑蠶婦念蠶饑　　　　桑を采る 蚕婦 蚕の饑(う)うるを念ず

陌上匆匆負籠歸　　　　陌上(はくじょう) 匆々(そうそう) 籠を負いて帰る

却羨鄰家下湖早　　　　却って羨(うらや)やむ 隣家 湖を下ること早きを

畫船青繖去如飛　　　　画船 青繖(せいさん) 去ること 飛ぶが如し

 

【語釈】

○農桑…農業と養蚕業。○蚕婦…カイコを養う女性。○陌上…道の上。○匆匆…慌ただしいさま。○畫船…絵で飾った船。○青繖…青い傘

 

 

 

　　　

★    農舍　　　　　　　　　農舎　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

三農雖隙亦匆忙　　　　三農は 隙(ひま)と雖も 亦(ま)た匆忙(そうぼう)

稼事何曾一夕忘　　　　稼事(かじ)は 何ぞ曽(かつ)って 一夕も忘れんや

欲曬胡麻愁屢雨　　　　胡麻を曬(さら)さんと欲すれば 屢(しばしば)の雨を愁う

未收蕎麥怯新霜　　　　未だ 蕎麦(きょうばく)を収めざれば 新霜に怯ゆ

 

【語釈】

○三農…農業。○匆忙…忙しい。○稼事…農作業。○曬…日光にさらす。○蕎麥…そば。

 

 

★    農舍　　　　　　　　　農舍　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

神農之學未爲非　　　　神農の学 未だ非為(な)らず

日夜勤勞備歲饑　　　　日夜の勤労　歳饑(さいき)に備う

雨畏禾頭蒸耳出　　　　雨に畏(おそ)る 禾頭(かとう) 耳を蒸して出(い)で

潤憂麥粒化蛾飛　　　　潤(うるお)いは憂う 麦粒 蛾に化して飛ぶを

 

【語釈】

○神農…伝説上の帝王。人間に農業を教えた。○歲饑…収穫が悪い歳の飢饉。○禾頭…稲穂。

 

 

　　　

 

 

★    鄰曲有未飯被追入郭者憫然有作　　　　　　　　　　　   　　　　　宋　　陸　游

隣曲(りんきょく)に未だ飯せずして 追(つい)せられて郭(かく)に入る者有り 憫(びん)然(ぜん)として作有り

 

舂得香秔摘緑葵　　　　香秔(こうこう)を舂(つ)き得て 緑(りょく)葵(き)を摘む

縣符急急不容炊　　　　県(けん)符(ぷ) 急々(きゅうきゅう)として 炊(かし)ぐを容れず

君王日御金華殿　　　　君王 日に金華(きんか)殿(でん)に御するも

誰誦周家七月詩　　　　誰か誦(しょう)せん 周家 七月の詩

 

【語釈】

○鄰曲…隣近所。○追…（税未納のため）逮捕される。○郭…外側の城壁。○憫然…哀れに思うさま。○香秔…江南地方に育成する稲の種類。○葵…セリに似た野菜。○縣符…県の役所から出た命令書。○金華殿…漢代の宮殿の名。成帝がここ論語の講義を聴いた故事。○周家…周の王朝。○七月詩…「詩経」豳風七月詩。

 

　　　　

★    秋懷　　　　　　　　　秋(しゅう)懐(かい)  　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

園丁傍架摘黄瓜　　　　園丁(えんてい) 架に傍いて 黄瓜(おうか)を摘み

村女沿籬采碧花　　　　村女 籬(かき)に沿いて 碧(へき)花(か)を采す

城市尚餘三伏熱　　　　城市 尚(な)お余す 三伏の熱

秋光先到野人家　　　　秋光 先に到る 野人の家

 

【語釈】

○秋懷…秋の思い。○園丁…畑をつくる人傍…そう。○架…苗を支える柱。○摘…つむ。○黄瓜…キュウリ。○村女…村娘。○籬…かきね。○碧花…アサガオ。○尚餘…なおも余している。○三伏…猛暑の候。○野人…庶民。

 

　　　

★    秋懷　　　　　　　　　秋(しゅう)懐(かい)  　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

桑竹成陰不見門　　　　桑竹 陰を成し 門を見ず

牛羊分路各歸村　　　　牛羊 路を分け 各(おの)ゝ(おの) 村に帰る

前山雨過雲無迹　　　　前山 雨 過ぎて 雲の迹(あと)無く

別浦潮回岸有痕　　　　別(べつ)浦(ほ) 潮 回(かえ)りて 岸に痕(あと)有り

 

【語釈】

○秋懷…秋の思い。○潮回…潮が引く。○別浦…川が海に入るところ。

 

　　　

★    旰江途中　　　　　　　旰(かん)江(こう)途中(とちゅう)　　　　　　　　　　　  宋　　劉仙倫

 

過雨青山鳴杜鵑　　　　過(か)雨(う) 青山 杜鵑(とけん)鳴く

池塘水滿柳飛綿　　　　池塘 水 満ちて 柳 綿を飛ばす

田家正是忙時節　　　　田家 正に是れ 忙しき時節

女采桑歸男下田　　　　女は桑を采(と)りて帰り 男は田に下る

 

【語釈】

○旰江…不祥。○過雨…通り雨の後。○杜鵑…ホトトギス。○池塘…池。○綿…柳絮。

 

 

　　　

 

 

★    新春喜雨　　　　　　　新春　雨を喜ぶ　　　　　　　　　　　   宋　　徐　璣

 

農家不厭一冬晴　　　　農家 厭わず 一冬の晴

歲事春來漸有形　　　　歳事(さいじ) 春 来りて 漸(ようや)く形有り

昨夜新雷催好雨　　　　昨夜 新雷 好雨を催(うなが)し

蔬畦麥壠最先青　　　　蔬(そ)畦(けい) 麦壠(ばくりゅう) 最も先に青し

 

【語釈】

○歲事…一年でやるべきこと。○漸…だんだんと。○蔬畦…野菜を植えた畦。○麥壠…麦畑。

 

 

★    村居即景　　　　　　　村居即景(そんきょそっけい)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

綠遍山原白滿川　　　　緑は山原に遍(あまね)く 白は川に満つ

子規聲裏雨如烟　　　　子規声(しきせい)裏(り) 雨 煙の如し

鄉村四月閑人少　　　　鄉村 四月 閑人(かんじん)少(まれ)なり

纔了蠶桑又插田　　　　纔(わずか)に 蚕(さん)桑(そう)を了(お)えて 又た田に挿(さ)す

 

【語釈】

○即景…見たままの風景を詠った詩。○子規…ホトトギス。○蠶桑…春の養蚕。○插田…田植え。

 

 

★    農桑　　　　　　　　　農桑　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱繼芳

 

裹飯驅兒候暖耕　　　　飯を裹(つつ)み 児を駆りて 暖を候(うかが)いて耕(たがや)す

塍泥滑滑不堪行　　　　塍泥(しょうでい) 滑々(かつかつ) 行(こう)に堪えず

如何說得農家苦　　　　如何(いかん)ぞ 説得す 農家の苦み

雨笠風蓑過一生　　　　雨笠(うりゅう) 風(ふう)蓑(さ) 一生を過ごす

 

【語釈】

○農桑…農業と養蚕業。○塍泥…畦の泥。○滑滑…すべすべしているさま。○如何…どのようにして。○說得…言って理解して貰う。

 

 

★    農桑　　　　　　　　　農桑　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱繼芳

 

婦饁夫耕日向長　　　　婦は饁(かれいい)し 夫は耕して 日 長きに向う

碓聲嗚咽宿春糧　　　　碓声(たいせい) 嗚咽(おえつ)し舂(しょう)糧(りょう)に宿す

尋思一飯何時飽　　　　尋(じん)思(し)す 一飯  何れの時にか飽く

秧種青青麥未黄　　　　秧(びょう)種(しゅ) 青々(せいせい) 麦 未だ黄ならず

 

【語釈】

○農桑…農業と養蚕業。○饁…弁当を作って送る。○碓聲…石うすの音。○春糧…粉にした食物。○尋思…思索、考慮する。○秧種…苗床にまいた種。

 

 

　　　

 

★    農謠　　　　　　　　　農(のう)謡(よう)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

春雨初晴水拍堤　　　　春雨 初めて晴れて 水 堤を拍(う)つ

村南村北鵓鴣啼　　　　村南村北 鵓鴣(ぼつこ)啼く

含風宿麥青相接　　　　風を含む宿麦 青(せい) 相接(あいせっ)し

刺水柔秧綠未齊　　　　水を刺す柔秧(じゅうびょう) 緑 未だ斉(ととの)わず

 

【語釈】

○鵓鴣…鳩の一種。○宿麥…秋に蒔いて春熟す麦。○柔秧…やわらな苗。

 

 

★    農謠　　　　　　　　　農謠(のうよう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

問舍求田計未成　　　　舎に問い 田を求めて 計 未だ成らず

一蓑鉏月每含情　　　　一蓑 月に鉏(す)き 毎(つね)に情を含む

春山樹暖鶯相覓　　　　春山 樹 暖にして 鶯 相覓(あいもと)め

曉隴雨晴人獨耕　　　　暁隴(ぎょうろう) 雨晴れて 人 独り耕す

 

【語釈】

○一蓑…蓑を着た独りの人。○鉏月…月明かりの下で農作業をする。○曉隴…曉の丘。

 

 

 

★    農謠　　　　　　　　　農謡　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

漠漠餘香著草花　　　　漠々(ばくばく)たる余香 草花(そうか)に著き

森森柔綠長桑麻　　　　森々(しんしん)たる柔緑(じゅうりょく) 桑麻(そうま)に長し

池塘水滿蛙成市　　　　池塘 水満ちて 蛙 市を成し

門巷春深燕作家　　　　門巷 春深くして 燕 家を作す

 

【語釈】

○漠漠…一面に続いているさま。○森森…樹木がさかんに茂るさま。○門巷…門と道。

 

　　　

★    春旱　　　　　　　　　　春(しゅん)旱(かん)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

清明未雨下秧難　　　　清明 未だ雨ふらず 秧(なえ)を下し難し

小麥低低似剪殘　　　　小麦(しょうばく) 低々(ていてい)として 剪残(せんざん)に似たり

窮巷蕭然惟飲水　　　　窮(きゅう)巷(こう) 蕭然(しょうぜん)として 惟(た)だ水を飲む

家童忽報井源乾　　　　家童 忽ち報ず 井源(せいげん)の乾(かわ)くを

 

【語釈】

○春旱…春のひでり。○清明…淸明節。春分から十五日目。○低低…低いさま。○剪殘…切り残し。○窮巷…窮まった小路。○蕭然…がらんとしたさま。○井源…井戸の水の源。

 

 

★    久旱　　　　　　　　　久(きゅう)旱(かん)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

暘鳥下飲百川空　　　　暘(よう)鳥(ちょう) 下り飲みて 百川空し

民自祠龍禱社公　　　　民 自(おのずか)ら龍を祠(まつ)り 社公に禱(いの)る

豈是長官渾忘却　　　　豈に是れ 長官 渾(すべ)て忘却し

水車聲不到城中　　　　水車の声 城中に到らざらんや

 

【語釈】

○久旱…長いひでり。○暘鳥…太陽。○百川空…多くの川が空になる。○龍…龍神。雨を呼ぶ神。○社公…土地の神。○豈…「あに～んや」と読み、「まさか～ではあるまい」の意。

 

 

★    蠶婦吟　　　　　　　　蚕婦吟(ようふぎん)　　　　　　　　　　　　　　宋　　　　謝枋得

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 

子規啼徹四更時　　　　子規 啼き徹(とお)す 四更の時

起視蠶稠怕葉稀　　　　起きて視て 蚕稠(さんちょう) 葉の稀なるを怕(おそ)る

不信樓頭楊柳月　　　　信ぜず 楼頭 楊柳の月

玉人歌舞未曾歸　　　　玉人の歌舞 未だ曽(かつ)て帰らず

 

【語釈】

○蠶婦…養蚕をする女性。○子規…ホトトギス。○四更…午前一時～三時。○蠶稠…カイコの多さ。○玉人…美貌の人。

 

 

★    田父吟　　　　　　　　田父吟　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　葉　茵

 

逢逢社鼓佐豐年　　　　逢々(ほうほう)たる社鼓 豊年を佐(さ)す

酒熟那逢釀雪天　　　　酒 熟して 那(な)んぞ逢わん 雪を醸(かも)す天

擘橘煮雞償一醉　　　　橘を擘(さ)き 雞を煮て 一酔を償(しょう)す

布衾烘暖抱孫眠　　　　布(ふ)衾(きん) 烘(ちゅう)暖(だん)にして 孫を抱いて眠る

 

【語釈】

○逢逢…太鼓の音の形容。○社鼓…村祭りの太鼓。○布衾…布のしとね。○烘暖…温かい。

 

 

★    何山白水田　　　　　　何山の白(はく)水田(すいでん)　　　　　　　　　　　宋　　 俞德鄰

 

離離遠樹接山低　　　　離々(りり)たる 遠樹 山に接して低し

白水田頭杜宇啼　　　　白水(はくすい)田頭(でんとう) 杜宇(とう)啼く

昨夜前村新雨過　　　　昨夜 前村 新雨過ぐ

桔槹閑在石橋西　　　　桔槹(けつこう)は 閑かに 石橋の西に在り

 

【語釈】

○何山…浙江省湖州市何山。○白水田…清らかな水の田。○離離…草木が盛んに生い茂っているさま。○杜宇…ホトトギス。○桔槹…跳ねつるべ。

 

 

★    勸農　　　　　　　　　農を勧む　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳自斎

 

清暁松間喝道聲　　　　清暁 松間 喝(かつ)道(どう)の声

勞煩父老出郊迎　　　　父老を労煩(ろうはん)して 郊に出(い)でて迎わしむ

卧廬應有高人笑　　　　廬に卧して 応(まさ)に 高人の笑 有るべし

自不歸耕却勧耕　　　　自(みずか)らは帰耕(きこう)せず 却って耕を勧む

 

【語釈】

○喝道…役人が通行するときに前払いする爲のかけ声。○父老…むらおさ。○勞煩…手間をかけ煩わずこと。○郊…郊外。○高人…志行高尚の人。○歸耕…官を辞して農業に就く。

 

 

★    寄題高大清東村　　　　高大清東村に寄題す　　　　　　　　　　 　宋　　僧道璨

 

浮花浪蕊易飄零　　　　浮(ふ)花(か)浪(ろう)蕊(しん) 飄零(ひょうれい)し易く

看著桑麻眼便青　　　　桑麻に看著(かんちゃく)して 眼 便ち青し

荷鍤歸來春晝永　　　　鍤(すき)を荷(にな)いて 帰来し 春昼 永し

案頭重讀相牛經　　　　案頭(あんとう) 重ねて読む 相牛経

 

【語釈】

○寄題…その地に行かないで思いを寄せて詩を作ること。○高大清東村…不祥。○浮花浪蕊…普通の草花。○飄零…空中に漂い落花する。○案頭…物入れや机の上。○相牛經…仏教の経典の一つ。

 

 

★    村行　　　　　　　　　村行　　　　　　　　　　　　　　　　  金　　郭邦彦

 

棗花初落路塵香　　　　棗(そう)花(か) 初めて落ち 路塵 香(かん)ばし

燕掠麻池乍頡頏　　　　燕は 麻(ま)池(ち)を掠(かす)め 乍(たちま)ち頡頏(けつこう)す

一片雲陰遮十頃　　　　一片の雲陰 十頃を遮(さえぎ)り

賣瓜棚下午風涼　　　　売(ばい)瓜(か) 棚下(ほうか) 午風涼し

 

【語釈】

○麻池…麻の生えた池。○頡頏…鳥が上下するさま。○一片…満天。ひとひら。○雲陰…雲影。

 

 

★    村居　　　　　　　　　村居(そんきょ)　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　周　權

 

疎竹人家短短牆　　　　疎(そ)竹(ちく) 人家 短々(たんたん)たる牆(かき)

綠陰深處水村涼　　　　緑陰 深き処 水村涼し

山風吹斷巖前雨　　　　山風 吹断(すいだん)す 巌前(がんぜん)の雨

高樹蟬聲正夕陽　　　　高樹の蟬声 正(まさ)に夕陽(せきよう)

 

【語釈】

○村居…郷村に寓居すること。○短短…短いさま。○緑陰…緑の木陰。○水村…水辺の村。○吹斷…吹きちぎる。○巖前…岩の前。

 

 

★涿南見蠶婦本汴梁貴家　　　　　　　　　　　　　　　　　　元　　楊　奐

　　　　　　　　涿(たく)南(なん)に蚕婦(さんぷ)を見る 本(もと) 汴(べん)梁(りょう)の貴家　　　　 　　

　　　

蠶月何曾出　　　　　　蚕(さん)月(げつ) 何ぞ曽て 後堂を出(い)ず

干戈流落客他郷　　　　干戈(かんか) 流(りゅう)落(らく)す 他郷に客(かく)たるを

羅衣著盡無人問　　　　羅(ら)衣(い) 著尽(きつく)して 人の問う無し

自把荊籃摘野桑　　　　自(みずか)ら 荊籃(けいらん)を把(と)り 野(や)桑(そう)を摘む

 

【語釈】

○涿南…不祥。○汴梁…河南省開封市。○蠶月…養蚕に忙しい月。○後堂…後面の堂屋。○干戈…戦乱。○流落…おちぶれさすらう。○羅衣…薄絹の衣。○荊籃…いばらの枝で編んだかご。

 

 

 

★    村園　　　　　　　　　村園　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　金　涓

 

半畝村園接水涯　　　　半畝の村園 水涯(すいがい)に接す

誅茅新搆小書齋　　　　誅茅(ちゅうぼう)し 新たに搆う 小書斎

窗前不用栽花栁　　　　窓前(そうぜん) 用いず 花栁(かりゅう)を栽うるを

只對青山景自佳　　　　只だ 青山に対せば 景 自(おのずか)ら佳(か)なり

 

【語釈】

○水涯…水辺。○誅茅…雑草を取り除く。○花栁…花と柳。

 

★    村居　　　　　　　　　村居　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

楓林草屋半蒼苔　　　　楓林 草屋 半ば蒼苔

寂寂柴扉映竹開　　　　寂々(せきせき)たる柴(さい)扉(ひ) 竹に映じて開く

啼鳥數聲春自好　　　　啼鳥 数声 春 自(おのずか)ら好し

五陵年少不曽來　　　　五陵の年少 曽(かつ)て来らず

 

【語釈】

○草屋…草葺きの家。○蒼苔…青い苔。○寂寂…さびしく閑かなさま。○柴扉…柴で作った粗末な門。○五陵…漢の高帝以下五帝の陵があったところで，富豪の人が住んでいた。李白｢少年行｣。○年少…若者。

 

 

★    村居                  村居  　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

草徑茆扉帶軟沙　　　　草径 茆(ぼう)扉(おく) 軟沙を帯ぶ

隔林雞犬幾人家　　　　林を隔つる 雞犬 幾人家(いくじんか)

青山盡日埀簾坐　　　　青山 尽日 簾(れん)を埀れて坐す

落盡棕櫚一樹花　　　　落ち尽す 棕櫚(しゅろ) 一樹の花

 

【語釈】

○草徑…草の生えている道。○茆扉…茅吹きの家。○盡日…一日中。○棕櫚…シュロ。ヤシ科の植物。

　　　

 

 

★    夏日田家雑興　　　　　夏日　田家　雑興　　　　　　　　　　　　  明　　王世懋

 

草席縄床夜不眠　　　　草席(そうせき) 縄(じょう)床(しょう) 夜 眠らず

晩涼新浴坐青天　　　　晩涼 新たに浴(あ)びて 青天に坐す

月明一片禾頭露　　　　月明 一片 禾頭(かとう)の露

看作長堤十里烟　　　　看れば 長堤十里の煙と作(な)る

 

【語釈】

○草席…草の茎で編まれた座具。○縄床…縄で編まれた床。○晩涼…夜の涼しさ。○禾頭…稲の頂部。○烟…霞靄。

 

 

★    秋日題田家壁　　　　　秋(しゅう)日(じつ) 田家の壁(へき)に題す　　　　　　　　　　  明　　鄭　渭

 

一水廻村小逕長　　　　一水 村を廻(めぐ)りて 小径長し

數家茅屋蔭柴桑　　　　数家の茅屋(ぼうおく) 柴(さい)桑(そう)を蔭(おお)う

野田刈盡秋郊霽　　　　野田 刈り尽して 秋郊霽(は)る

籬雀群飛滿夕陽　　　　籬雀(りじゃく) 群れ飛び 夕陽に満つ

 

【語釈】

○題…書き付ける。○茅屋…茅葺きの家。○柴桑…柴と桑。○秋郊…秋の郊外。○籬雀…垣根に巣を作っている雀。

 

 

★    過水下口　　　　　　　水(すい)下口(かこう)を過ぐ　　　　　　　　　　　  明　　劉　侃

 

山樹參差石徑斜　　　　山樹 参差(さんし)として 石径斜なり

雨餘飛瀑過桑痳　　　　雨余(うよ) 飛瀑(ひばく) 桑痳(そうま)を過ぐ

山翁放罷村前犢　　　　山翁 放ち罷(や)む 村前の犢(こうし)

倚杖溪頭護稻花　　　　杖に倚(よ)り 渓頭 稲花を護る

 

【語釈】

○水下口…不祥。○參差…不揃い。○雨餘…雨上がり。○桑痳…桑畑と麻畑。○渓頭…渓のほとり。

 

 

★    過村家　　　　　　　　村家を過ぐ　　　　　　　　　　　　  明　　樊　阜

 

細莎村路繞山斜　　　　細莎(さいさ) 村路 山を繞(めぐ)って斜なり

澗水西頭一兩家　　　　澗(かん)水(すい) 西頭 一両家

桑柘葉乾鳩雨歇　　　　桑(そう)柘(たく) 葉 乾き 鳩雨 歇(や)む

茅簷索索響繅車　　　　茅簷(ぼうえん) 索々(さくさく) 繅車(そうしゃ) 響く

 

【語釈】

○細莎…小さな草。○澗水…山中の渓水。○西頭…西側。○桑柘…桑とつげ。○鳩雨…雨の時節。○茅簷…茅吹きのひさし。○索索…音の形容。さらさら、サクサク。○繅車…糸車。

 

 

★    涼生豆花　　　　　　　 涼 豆花を生ず   　　　　　　　　　　　 明　　王伯稠

 

豆花初放晚涼淒　　　　豆花 初めて 放つ晩涼の淒(せい)

碧葉陰中絡緯啼　　　　碧(はく)葉陰中(よういんちゅう) 絡緯(らくい) 啼く

貪與鄰翁棚底語　　　　隣翁と 棚底(とうてい)に語るを貪(むさぼ)る

不知新月照清溪　　　　知らず 新月の清渓を照すを

 

【語釈】

○晩涼…夕方の涼しさ。○淒…寒さ。○絡緯…コオロギ。○新月…三日月。

 

 

★    春日田家　　　　　　　春日の田家　　　　　　　　　　　　　　明　　肅靖王      

 

屋後青山門外溪　　　　屋後の青山 門外の渓

小橋遙接稻秧畦　　　　小橋 遥(はるか)に接す 稲秧(とうびょう)の畦(あぜ)

人家遠近蒼煙裏　　　　人家 遠近 蒼煙の裏(うち)

桑柘陰陰戴勝啼　　　　桑(そう)柘(しゃ) 陰々(いんいん) 戴(たい)勝(しょう)啼く

 

【語釈】

○稻秧…稲の苗。○蒼煙…青色の靄。○桑柘…桑とつげ。○陰陰…木が茂って暗いさま。○戴勝…鳥の名。キクイタダキ。

 

 

★    青魚灘　　　　　　　　青魚灘(せいぎょたん)　　　　　　　　　　　　　　　　明　　王　鑛

 

青魚灘上野人家　　　　青魚灘上(せいぎょたんじょう) 野人の家

曲徑疎籬夕照斜　　　　曲径(きょくけい) 疎籬(そり) 夕照斜なり

漠漠午煙吹不散　　　　漠々(ばくばく)たる午煙 吹き散ぜず

鷓鴣飛出木棉花　　　　鷓鴣(しゃこ) 飛び出す 木棉(もめん)の花

 

【語釈】

○青魚灘…不祥。○野人…郊外に住む人。○漠漠…一面に続いているさま。○午煙…昼の霞。

 

 

★    田家　　　　　　　　　田家　　　　　　　　　　　　　　   清　　宋　琬

 

碧水平沙接草亭　　　　碧水 平沙(へいさ) 草亭に接す

槿籬疎密柳青青　　　　槿籬(きんり)は疎密 柳は青々(せいせい)

閑來散帙憑烏几　　　　閑来(かんらい) 帙(ちつ)を散じ 烏几(うき)に憑(よ)り

自寫龜蒙耒耜經　　　　自(みずか)ら写す 亀(き)蒙(もう)が 耒耜(らいし)経(けい)

 

【語釈】

○草亭…草葺きの亭。○平沙…砂浜。○槿籬…ムクゲの垣根。○閑來…引退して暇になってから。○散帙…本を読むこと。○烏几…烏の皮を張った机。○龜蒙…陸龜蒙。唐の詩人。○耒耜經…陸龜蒙が著した農業書。

 

 

★    灌漑　　　　　　　　　灌漑(かんがい)　　　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

抱甕終輸氣力微　　　　甕(かめ)を抱いて 終(つい)に輸(ま)け 気力微(び)なり

桔槹輪轉迅如飛　　　　桔槹(けつこう) 輪転(りんてん)して 迅(はや)こと飛ぶが如し

池塘水滿新禾潤　　　　池塘 水満ちて 新禾(しんか)潤(うるお)い

樹下乗涼待月歸　　　　樹下 涼に乗じて 月を待ちて帰る

 

【語釈】

○抱甕…不器用なことのたとえ。荘子・天地。力を入れること多くして功を見ること少なし。○輸…負ける。○桔槹…水をくみ上げる跳ねつるべ。○新禾…新しい稲。

 

 

★    田間　　　　　　　　　田間(でんかん)　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　汪　楫

 

小婦扶犛大婦耕　　　　小婦は犛(からうし)を扶(たす)け 大婦は耕す

隴頭一樹有啼鶯　　　　隴頭(ろうとう) 一樹 啼(てい)鶯(おう)有り

兒童不解春何在　　　　児童は解せず 春 何(いずく)にか在るを

只向遊人多處行　　　　只だ 遊人 多処に向(むか)いて行く

 

【語釈】

○犛…カラ牛。○隴頭…丘の頂上。○遊人…旅人。

 

 

★    東湖曲　　　　　　　　東湖の曲　　　　　　　　　　　　　　　　清　　朱彞尊      

 

鱸郷蟹舍說豐年　　　　鱸(ろ)郷(ごう) 蟹舍(かいしゃ) 豐年を說く

秔稻東湖熟最先　　　　秔稻(こうとう) 東湖に 熟すること最も先なり

一雨新晴纔幾日　　　　一雨 新たに晴れ 纔(わずか)に幾日かして

家家門外送租船　　　　家々の門外 租(そ)船(せん)を送る

 

【語釈】

○東湖…湖北省武漢市武昌の東郊にある湖。○鱸郷蟹舍…漁師の家。○秔稻…もち米と米。○租船…租税を乗せた船。

              　　

 

★    田家樂　　　　　　　　 田家(でんか)楽(らく)　　　　　　　　　　　　　　  清　　汪　繹

 

短籬矮屋板橋西　　　　短籬(たんり) 矮屋(わいおく) 板(はん)橋(きょう)の西

十畝桑陰接稻畦　　　　十畝の桑(そう)陰(いん) 稲(とう)畦(けい)に接す

滿眼兒孫滿簷日　　　　満眼の児孫 満簷(まんえん)の日

飯香時節午雞啼　　　　飯(はん)香(こう)の時節 午雞(ごけい)啼く

 

【語釈】

○田家樂…農家の趣を詠った詩。○矮屋…小さくて低い家。○桑陰…桑の木の影。○稻畦…稲田の畦。○満眼…目一杯の。○滿簷…ノキ一杯の。○飯香…香しい飯。

 

 

★    即事　　　　　　　　　即事　　　　　　　　　　　　　　　　　   清　　高　珩

 

井欄緑滿蒲萄葉　　　　井欄(せいらん) 緑は満つ 蒲萄(ほどう)の葉

籬落紅垂扁豆花　　　　籬落(りらく) 紅垂 扁(へん)豆(とう)の花

窓下蔬畦騷客圃　　　　窓下の蔬(そ)畦(けい) 騒客(そうかく)の圃(ほ)

門前樵逕野人家　　　　門前の樵径(しょうけい) 野人の家

 

【語釈】

○即事…事に触れて、そのままを詠った詩。○井欄…井戸の枠。○蒲萄…葡萄。○籬落…垣根。○紅垂…紅色をして垂れている。○扁豆…インゲン豆。○蔬畦…野菜を植えた畦。○騷客…詩人。文人。○樵逕…樵の通う小路。○野人…野にあって仕官していない人。

 

 

★    田家樂　　　　　　　　田家楽(でんからく)　　　　　　　　　　　　　　  清　　陳授衣

 

兒童下學悩比鄰　　　　児童 学を下りて 比隣(ひりん)を悩ます

抛壻池塘日幾巡　　　　抛壻(ほうせい) 池塘(ちとう) 日に幾巡(いくじゅん)

折得松枝當旗纛　　　　松枝(しょうし)を折り得て 旗纛(きとう)に当て

又來阿殿學官人　　　　又た来て 阿殿(あでん)して 官人を学ぶ

 

【語釈】

○田家楽…農家の趣きを詠った詩。○下學…学校から帰る。○抛壻…？○比鄰…となり近所。○當…代わりとする。○旗纛…鳥の毛をあしらった大きな旗。○阿殿…宮中のまねごとをする。

 

 

 

絶句類選　巻之二十　　圖畫類

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳與義

分明樓閣是龍門　　　　分明なる楼閣 是れ竜門

亦有溪流曲抱村　　　　亦た 渓流の曲りて 村を抱く有り

萬里家山無路入　　　　万里の家山 路の入(い)る無く

十年心事與誰論　　　　十年の心事 誰と論ぜん

【語釈】

○分明…はっきりしたさま。○龍門…都の門。○家山…故郷。○心事…心情。

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　  元　　陳　旅

 

誰家林麓近溪灣　　　　誰が家の林(りん)麓(れい)か 渓(けい)湾(わん)に近く

高樹扶疏出石間　　　　高樹 扶疏 石間を出ず

落葉盡隨溪雨去　　　　落葉 尽きて 渓雨に随って去り

只留秋色滿空山　　　　只だ 秋色の 空山に満つるを留むるのみ

 

【語釈】

○林麓…山林。○溪灣…谷川の屈曲する処。○扶疏…木の枝や葉が生い茂っているさま。○秋色…秋景色。秋の気配。○空山…人気の無い山。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す  　　　　　　　　　　　　　　元　　貢性之

 

馬足車輪盡日忙　　　　馬足 車輪 尽日(じんじつ)忙し

夢魂不到水雲鄉　　　　夢魂 到らず 水雲鄉

閒人自識閒邊趣　　　　閑人(かんじん) 自(おのずか)ら識る 閑辺の趣

小簟疎簾坐晩涼　　　　小簟(しょうたん) 疎(そ)簾(れん) 晩涼に坐す

 

【語釈】

○盡日…一日中。○夢魂…夢。○水雲鄉…川と雲があり、風景がひっそりとしている地。隠者の好む所。○閒人…閑なひと。○閒邊…閑かな辺地。○小簟…小さな竹製の坐具。○疎簾…まばらなスダレ。

　　　

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　貢性之

 

山接天台路萬重　　　　山は天台に接し 路は万重

仙家樓閣杳難通　　　　仙家の楼閣 杳(よう)として通じ難し

不知昨夜溪頭雨　　　　知らず 昨夜 渓頭(けいとう)の雨

流出桃花幾許紅　　　　流出す 桃花 幾許(いくばく)の紅

 

【語釈】

○天台…天台山。浙江省東部の天台県の北方2kmにある霊山である。○仙家…仙人の住む家。○杳…暗い。遙かに遠い。○溪頭…渓のほとり。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　  　　　　　　　　　　　　元　　貢性之

 

滾滾長江入窅冥　　　　滾々(こんこん)たる長江 窅冥(ようめい)に入(い)る

越山無數隔江青　　　　越山 無数 江を隔てて青なり

一雙白鳥誰驚起　　　　一双の白鳥 誰か驚(きょう)起(き)す

衝破蒼煙下別汀　　　　蒼(そう)煙(えん)を衝破して 別(べっ)汀(てい)を下る

 

【語釈】

○滾滾…水のさかんに流れるさま。○窅冥…奥深いさま。○越山…越の地方の山。○一雙…一つがいの。○衝破…突き破る。○蒼煙…青い靄。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　  元　　鮑　恂

 

煙溼空林翠靄飄　　　　煙は溼(うるお)い 空林 翠靄(すいか)飄(ひるが)える

渚花汀草共蕭蕭　　　　渚(ちょ)花(か) 汀(てい)草(そう) 共に蕭々(しょうしょう)たり

仙家應在雲深處　　　　仙家 応に 雲深き処に在るべし

只許人閒到石橋　　　　只だ許す 人間(にんげん)の石橋(せききょう)に到るを

 

【語釈】

○煙…霞。○空林…人気のない林。○翠靄…緑色のもや。○渚花…岸辺の花。○汀草…岸辺の草。○蕭蕭…たくさんあるさま。○仙家…仙人の住む山。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～であるに違いない。」の意。

　　　

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　  明　　浦　源

 

青山欲轉綠溪迴　　　　青山 転ぜんと欲す 緑渓の迴(めぐ)るを

古木春雲掩復開　　　　古木 春雲 掩い復(ま)た開く

不識桃源在何處　　　　識らず 桃源(とうげん) 何れの処にか在る

但看流水落花來　　　　但だ看る 流水 落花の来(きた)るを

 

【語釈】

○青山…青々とした山。○桃源…桃源郷。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　  明　　倪　敬

 

溪雲靄靄樹團團　　　　渓雲 靄(あい)々(あい) 樹(じゅ) 団々(だんだん)

溪上幽亭六月寒　　　　渓上の幽亭　六月寒し

日暮看山人已去　　　　日暮 山を看れば 人 已に去り

水禽飛上石欄干　　　　水禽(すいきん) 飛び上る 石(せき)欄干(らんかん)

 

【語釈】

○靄靄…雲のたなびくさま。○團團…垂れ下がるさま。○幽亭…世間から離れてひっそりしている亭。○水禽…水鳥。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　沈　周

 

清暑茂林風日好　　　　清暑(せいしょ) 茂(も)林(りん) 風日好し

兩翁談屑落髙寒　　　　両翁の談屑(だんせつ) 高寒に落つ

白雲故故沒行徑　　　　白雲 故々 行径に没し

要絶世人來此山　　　　要(かなら)ず 世人の 此の山に来(きた)るを絶(た)つ

 

【語釈】

○清暑…避暑。○茂林…茂った林。○風日…風と日。風光。○談屑…話の絶えないこと。○高寒…高く寒い地形。○行径…通行用の小路。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　   明　　屠　滽

 

碧水丹山映杖藜　　　　碧(へき)水(すい) 丹山(たんざん) 杖(じょう)藜(れい)に映ず

夕陽猶在小橋西　　　　夕陽(せきよう) 猶お 小橋の西に在り

微吟不道驚溪鳥　　　　微吟 道(い)わず 驚渓(きょうけい)鳥(ちょう)

飛入亂雲深處啼　　　　飛んで 乱雲 深き処に 入りて啼く

 

【語釈】

○杖藜…アカザを杖にしたもの。隠者、老人が用いる。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　張　弼

 

江上新涼霽色開　　　　江上の新涼 霽(せい)色(しょく)開く

綠雲樹杪見樓臺　　　　緑雲 樹杪(じゅしょう) 楼台を見る

老漁未肯拋蓑笠　　　　老漁 未だ 肯えて 蓑(さ)笠(りゅう)を拋(なげう)たず

還恐輕雷送雨來　　　　還(かえ)って恐る 軽雷の雨を送りて来(きた)るを

 

【語釈】

○霽色…晴朗な空の色。○樹杪…木の梢。○軽雷…かすかな雷の音。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　明　　唐　寅

 

楊栁陰濃夏日遲　　　　楊栁 陰 濃(こま)やかにして 夏日(かじつ)遅し

村邉高館漫平池　　　　村(そん)辺(そんぺん)の高館 漫(あまね)く平(へい)池(ち)

鄰翁挈盒乗清早　　　　隣(となり)翁(おきな) 盒(ふたもの)を挈(ひっさ)げて 清(せい)早(そう)に乗じ

来決輸贏昨日棊　　　　来り決す 輸贏(ゆえい) 昨日の棊(き)

 

【語釈】

○盒…ふたと本体とを合わせて用をなす用具。○清早…清らかな夜明け。○輸贏…勝敗。○棊…碁。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　明　　唐　寅

 

雪滿梁園飛鳥稀　　　　雪満つ梁(りょう)園(えん) 飛鳥稀なり

煖煨榾柮閉柴扉　　　　煖煨(だんわい) 榾柮(こっこつ) 柴(さい)扉(ひ)を閉す

地爐温却松花酒　　　　地炉 温却す 松花の酒

剛是溪頭拾蟹歸　　　　剛(まさ)に是れ 渓頭(けいとう) 蟹(かに)を拾って帰るならん

 

【語釈】

○梁園…宮中の園。○煖煨…暖かい埋み火。○榾柮…木や柴の塊。○柴扉…柴で出来た粗末な扉。○地爐…地に掘られた暖炉。○温却…暖める。却は完了助字。○松花酒…松の花で作った酒。○溪頭…渓のほとり。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　　明　　唐　寅

 

鯉魚風急繫輕舟　　　　鯉魚(りぎょ) 風 急に 軽舟を繫ぐ

兩岸寒山宿雨收　　　　両岸の寒山 宿(しゅく)雨(う)収まる

一抹斜陽歸雁盡　　　　一抹の斜陽 帰雁尽き

白蘋紅蓼野塘秋　　　　白蘋(はくひん) 紅(こう)蓼(じん) 野塘(やとう)の秋

 

【語釈】

○鯉魚…鯉。○軽舟…軽い小舟。○宿雨…昨夜からの雨。○白蘋…白い浮き草。○紅蓼…紅色のタデ。○野塘…野原の丘。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　宗　周

 

孤松百尺掛垂藤　　　　孤松 百尺 垂(すい)藤(とう)に掛かる

雲際高峯十二層　　　　雲際(うんさい)の高峰 十二層

日暮鳥啼山寺遠　　　　日暮 鳥 啼いて 山寺遠し

野橋流水獨歸僧　　　　野橋 流水 独り帰る僧

 

【語釈】

○垂藤…垂れ下がった藤。○雲際…雲のそば。

 

 

★    題畫                  画に題す　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　直

 

綠樹青山帶晚霞　　　　緑樹 青山 晩(ばん)霞(か)を帯ぶ

樹間處處有人家　　　　樹間 処々 人家有り

孤舟最愛滄浪客　　　　孤舟 最も愛す 滄浪(そうろう)の客(かく)

得共眠鷗占淺沙　　　　眠(みん)鴎(おう)と共に　浅沙(せんさ)を占(し)むるを得たり

 

【語釈】

○晚霞…夕焼け。○滄浪客…隠棲してさまよう人。○眠鷗…眠っている鷗。「列子」の故事を踏まえる。

 

 

★    題畫　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　  明　　李日華

 

霜落蒹葭水國寒　　　　霜 落ちて 蒹葭(けんか) 水国寒し

浪花雲影上漁竿　　　　浪花(ろうか) 雲影 漁(ぎょ)竿(かん)に上る

畫成未擬將人去　　　　画 成りて 未だ擬せず 人の将(ひき)いて去るを

茶熟香温且自看　　　　茶 熟し 香 温かにして 且(しばら)く自(みずか)ら看る

 

【語釈】

○蒹葭…ヨギとオシ。○浪花…白い波頭。○漁竿…釣り竿。○未擬…まだ～だとは思わない。○將人去…（画を）人が持って行ってくれる。○転句…絵の出来が余り良くないこと。○看…自分で書いた画を看る。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　朱誠泳

 

翠壁丹厓淡夕曛　　　　翠壁(すいへき) 丹厓(たんがい) 夕(せき)曛(くん)淡し

往来麋鹿自成羣　　　　往来 麋(み)鹿(しか) 自(おのずか)ら群を成す

仙家住在空青外　　　　仙家 住して 空青の外に在り

只隔桃花一片雲　　　　只だ 桃花を隔つ 一片の雲

 

【語釈】

○夕曛…落日の餘暉。○麋鹿…トナカイと鹿。○仙家…仙人の家。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　雷　鯉

 

細路小橋人獨往　　　　細路 小橋 人 独り往(い)く

落花流水燕飛忙　　　　落花 流水 燕 飛ぶこと 忙がし

松陰匝地霑衣濕　　　　松陰　地を匝(めぐ)りて 衣 霑(うるお)いて湿(しめ)り

空翠滿身風露香　　　　空(くう)翠(すい) 満身 風露 香(かん)ばし

 

【語釈】

○空翠…緑がかった湿った霧。○風露…風と霧。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　  　　明　　雷　鯉

 

古塘秋曉淨煙沙　　　　古塘(ことう) 秋暁 煙沙(えんさ)を浄(きよ)む

籬落西風菊自花　　　　籬落(りらく) 西風 菊 自(おのずか)ら花さく

滿目紅塵無處著　　　　満目の紅塵 著(ちゃく)する処無し

半簾殘日隔溪斜　　　　半簾(はんれん)の残日 渓を隔てて 斜なり

 

【語釈】

○煙沙…曇空で霧のかかった砂浜。○籬落…垣根。○西風…秋風。○滿目…見渡す限り。

○紅塵…車馬の立てる埃。○半簾…簾半分を捲き上げると見えるような高さ。

 

　　　

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　   明　　陳　烓

 

老樹懸崖葉半秋　　　　老樹 崖に懸(か)かり 葉 半ば秋なり

草亭三面枕寒流　　　　草亭 三面 寒流に枕す

釣船歸去斜陽盡　　　　釣船(ちょうせん) 帰り去りて 斜陽(しゃよう)尽き

惟有青山對白鷗　　　　惟だ 青山の 白(はく)鴎(おう)に対する有るのみ

 

【語釈】

○草亭…草葺きの粗末な家。○枕…臨む。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　  元　　僧大圭

 

積雨平原煙樹重　　　　積雨 平原 煙樹 重なる

翠厓千丈削芙蓉　　　　翠厓 千丈 芙蓉を削る

招提更在秋雲外　　　　招提 更に 秋雲の外に在り

只許行人聴曉鐘　　　　只だ許す 行人 暁鐘を聴くを

 

【語釈】

○積雨…長雨。○煙樹…霧がかかった木。○翠厓…緑色の崖。○芙蓉…木蓮。○招提…寺院の別称。○行人…旅人。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す  　　　　　　　　　　　　　　清　　乾隆帝

 

高柳陰濃暑不生　　　　高柳 陰 濃(こま)やかにして 暑さ生ぜず

小亭終日有餘清　　　　小亭 終日 余清有り

筠簾捲處風吹到　　　　筠(きん)簾(れん) 捲く処 風吹き到り

送過涼蟬斷續聲　　　　送り過ぐ 涼蟬(りょうせん) 断続の声

 

【語釈】

○筠簾…竹のスダレ。○涼蟬…涼しい蝉の声

 

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

板橋幾曲接廻塘　　　　板橋(はんきょう) 幾曲 廻塘(かいとう)に接す

煙樹迷濛晩影蒼　　　　煙樹 迷濛(めいもう) 晩影蒼し

欸乃一聲人卧月　　　　欸乃(あいだい) 一声 人 月に卧(が)す

不知身在水雲郷　　　　知らず 身は 水雲郷に在るを

 

【語釈】

○廻塘…曲折した堤岸。○煙樹…靄のかかった木。○迷濛…薄暗いさま。○欸乃…舟歌。○水雲郷…風景清幽の地方。多くは隠者の居住地を指す。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　  清　　李澄中

 

楓林挟岸碧霞屯　　　　楓林 岸を挟みて 碧(へき)霞(か)屯(たむろ)す

石激江流風浪喧　　　　石 激しくして 江流 風浪(ふうろう) 喧(かまびす)し

一片孤帆雲際下　　　　一片の孤帆 雲際を下る

兩峯對起是天門　　　　両峰 対起す 是れ天門

 

【語釈】

○碧霞…緑色の霞。○風浪…水面の風と波。○雲際…雲の果て。遠い天空。○天門…天に通じる門。

 

 

★    題畫                  画に題す　　　　　　　　　　　　　　　   清　　黃　任

 

桃花灼灼水潺潺　　　　桃花 灼々(しゃくしゃく) 水 潺々(せんせん)

隔斷千山與萬山　　　　隔断(かくだん)す 千山と万山と

生怕漁郎漏消息　　　　生怕(せいはく)す 漁郎 消息を漏すを

不流一片到人間　　　　一片を流して 人間(じんかん)に到らしめず

 

【語釈】

○灼灼…花が盛んに開いているさま。○潺潺…浅い水の流れるさま。さらさら。○隔斷…分け隔てる。○生怕…恐れること。○漁郎…桃源郷に行った漁夫。○消息…事情。○一片…ここでは桃の花びら一片。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　  清　　馮　班

 

長板橋南舊酒樓　　　　長板橋(ちょうはんきょう)南(なん) 旧酒楼

昔年曽此記觥疇　　　　昔年 曽て此(ここ)に 觥疇(こうちゅう)を記す

主人莫訝容顔老　　　　主人 訝ること莫かれ 容顔の老ゆを

已到秦淮十度遊　　　　已に秦淮(しんわい)に到り 十度(とたび)遊ぶ

 

【語釈】

○長板橋…不祥。○觥疇…酒器。酒器を用いた宴会。○容顔…美しい顔。○秦淮…南京を流れる秦淮河。両岸は歓楽街であった。

 

 

★    題畫                  画に題す　　　　　　　　　　　　　　  清　　恵椿亭

 

誰家亭子碧山嶺　　　　誰が家の亭子(ていし)か 碧山の嶺(みね)

白板橋通屋畿椽　　　　白(はく)板橋(はんきょう)は通ず 屋(おく)畿椽(きえん)

遠樹層層山半角        遠樹 層々(そうそう) 山の半角

杖藜人立夕陽天　　　　杖(じょう)藜(れい)の人は立つ 夕陽(せきよう)の天

 

【語釈】

○亭子…亭。○白板橋…不祥。普通名詞？○屋畿椽…不祥。○層層…重なりあうさま。○杖藜…あかざ（軽いので老人、隠者が使う）を杖つく。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　  清　　僧超源

 

春浦風生柳岸斜　　　　春(しゅん)浦(ぽ) 風 生じて 柳岸斜なり

好山何處著人家　　　　好山 何れの処か 人家を著(ちゃく)せん

白雲遮斷橋西路　　　　白雲 遮断す 橋西の路

不許漁郎問落花　　　　許さず 漁郎の 落花を問うを

 

【語釈】

○柳岸…柳の植わっている岸。○漁郎…漁夫。

 

 

★    題畫雑詩　　　　　　　　　画に題す 雑詩　　　　　　　　　　 元　　馬　臻

 

採菱渡頭秋日晚　　　　採菱 渡頭 秋日晩れ

孤樓隔岸知誰家　　　　孤楼 岸を隔でて 知んぬ誰が家ぞ

參差遠樹雜雲氣　　　　参差(さんし)たる 遠樹 雲気を雑(まじ)う

滅沒漁舟浸浪花　　　　滅没す 漁舟 浪花に浸(ひた)る

 

【語釈】

○雑詩…物にあって言い、流例にこだわらない詩。○採菱…採菱歌。菱を採るときに歌う歌。○渡頭…渡し場。○參差…高さが不揃いであること。○雲氣…雲。○滅没…消えて無くなる。○浪花…白い波頭。

 

 

★    題米南宮畫　　　　　　米(べい)南宮(なんぐう)の画に題す　　　　　　　　　　　   元　　郯　韶

 

風流不見米南宮　　　　風流 見えず 米(べい)南宮(なんぐう)

依舊雲林遠樹重　　　　旧に依(よ)り 雲(うん)林(りん) 遠樹重なる

貌得匡廬舊游處　　　　貌(か)き得たり 匡廬(きょうろ) 旧游の処

半江秋色洗芙蓉　　　　半江の秋色 芙蓉を洗う

 

【語釈】

○米南宮…北宋の書画家である米芾。○依舊…昔の如く。○雲林…雲のかかっている林。○貌得…画くことが出来た。○匡廬…江西省の廬山。隠棲の地。○半江…江の半分。○秋色…秋景色、秋の気配。○芙蓉…蓮の花。

　　　

 

★    題曺雲西畫　　　　　　曺(ちょう)雲(うん)西(せい)の画に題す  　　　　　　　　　　元　　倪　瓚

 

吴松江水碧於藍　　　　吴(ご)松(しょう)の江水 碧(みどり)よりも藍(あい)なり

怪石喬柯在渚南　　　　怪石 喬柯(きょうか) 渚(ちょ)南(なん)に在り

鼓柁長吟採蘋去　　　　柁(かじ)を鼓し 長吟して 蘋(うきくさ)を採りて去る

新晴風日更清酣　　　　新晴 風日 更に清酣(せいかん)

 

【語釈】

○曺雲西…曹知白。元代の画家・書家でもありました。山水画を得意とし、江南三大名士の一人とされている。○吴松…上海市市轄区宝山区。○喬柯…高い枝。○鼓柁…舟を浮かべる。○新晴…晴れたばかりの天気。○清酣…清新で酔いしれるような気持ち。

 

 

★    題半山道人畫　　　　　半山(はんざん)道人(どうじん)の画に題す　　　　　　　　　 明　　方　文

 

一著袈裟絶萬緣　　　　一たび 袈裟(けさ)を著て 万縁を絶つ

猶餘破硯習難捐　　　　猶お 破(は)硯(けん)を余して習う　捐(す)つる難きを

江山本是無情物　　　　江山 本是れ 無情の物

寫到荒殘亦可憐　　　　写して 荒残(こうざん)に到る 亦た憐むべし

 

【語釈】

○半山道人…不祥。○破硯…硯を壊すこと。○荒殘…荒れて損なわれること。

 

 

★    題趙仲穆畫　　　　　　趙仲穆(ちょうちゅうぼく)の画に題す　　　　　　　　　　　明　　王汝玉

 

十二璚樓紫翠重　　　　十二の璚楼(けいろう) 紫(し)翠(すい)重し

萬年琪樹落秋風　　　　万年の琪樹(きじゅ) 秋風に落つ

南朝無限傷心事　　　　南朝 無限 傷心の事

都在殘山剩水中　　　　都(すべ)て 残山(ざんざん) 剰(じょう)水(すい)の中(うち)に在り

 

【語釈】

○趙仲穆…趙雍。元の湖州桂庵のひと、宦官の称号で海州総督の称号を与えられ、数年間仕えた。 書画の名人。○璚樓…美しい楼閣。○紫翠…紫と緑の混合色。○琪樹…玉のように美しい樹木。○南朝…南北著時代の六朝。○残山剩水…破壊されて残っている山河。

 

 

★    題王翬畫　　　　　　　王翬(おうき)の画に題す　　　　　　　　　　　   清　　朱彞尊

 

帝城日日足風霾　　　　帝城 日々 風霾(ふうばい)足る

眯眼黄塵漲六街　　　　眼に眯(くら)む黄塵 六街(りくがい)に漲(みなぎ)る

對此溪山最清絶　　　　此の渓山 最も清絶なるに対し

便思衝雨踏椶鞵　　　　便(すなわ)ち思う 雨を衝(つ)いて 棕鞵(しゅかい)を踏むを

 

【語釈】

○王翬…清代初期の画家。四王呉惲一人。山水画は清代第一と称された。○風霾…風で舞い上がった塵や曇り空の現象。○六街…帝都の大通り。○清絶…非常に美しい。○便…たちどころに。○椶鞵…布で作られた草履。

 

 

★    題王安節畫　　　　　　王安(おうあん)節(せつ)の画に題す　　　　　　　　  清　　李　漁

 

家住寒山過客稀　　　　家は 寒山に住(じゅう)し 客(かく)の過(よぎ)ること稀なり

一林風雨夢回初　　　　一林 風雨 夢 回(かえ)るの初(はじめ)

道人日課無餘事　　　　道人の日課 余事無し

了却彈琴便讀書　　　　弾(だん)琴(きん)を了却(りょうきゃく)して 便ち書を読む

 

【語釈】

○王安節…王安石。○寒山…冷落寂静な山。○夢回…夢が覚める。○道人…徳の高い人。○了却…完了。

 

 

★    僧巨然畫　　　　　　　僧巨(そうきょ)然(ぜん)の画　　　　　　　　　　　  元　　鮮于樞

 

秋鱸春鱖足杯羹　　　　秋(しゅう)鱸(ろ) 春鱖(しゅんけい) 杯(はい)羹(かん)に足る

萬頃煙波兩櫂橫　　　　万頃の煙波 両つながら 櫂(かじ) 横わる

就使直鈎隨分曲　　　　就使(よしや) 直(ちょく)鈎(こう) 分曲(ぶんきょく)に随いても

不將浮世釣浮名　　　　浮世(ふせい)を将(も)って 浮名(ふめい)を釣らず

 

【語釈】

○僧巨然…五代目宋の初期に活躍した僧侶。五代から宋代初期にかけて、南方の山水画の一大流派として「董卓」と呼ばれ、後世に大きな影響を与えた。○秋鱸…秋のスズキ（淡水魚）。○春鱖…春の鮭。○杯羹…酒の肴とあつもの。○萬頃…非常に広い範囲。○煙波…水面に立つ靄。○就使…たとい～であっても。○直鈎…真っ直ぐな釣り針。太公望が用いた。隠棲のたとえ。

 

★    方匡師畫             方(ほう)匡師(きょうし)の画　　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

畫圖忽見白雲峰　　　　画図(がと) 忽ち見る 白雲峰

茶屋香臺樹幾重　　　　茶屋 香台 樹(じゅ) 幾重(いくちょう)

身若在師行道處　　　　身は 師の行道の処に在るが若し

晚來唯訝不聞鐘　　　　晩来 唯か訝かる 鐘を聞かざるを

 

【語釈】

○方匡師…不祥。○香臺…仏殿の別称。○行道…修行で通る道。○晩来…晩になってから。

 

 

★    為瀋趣菴題畫　　　　　瀋趣菴(はんしゅあん)が為に画に題す　　　　　　　　　  明　　偶　桓

 

溪山深處野人居　　　　渓山 深き処 野人の居(きょ)

小小簾櫳草閣虛　　　　小々の簾櫳(れんろう) 草閣 虚なり

灑面松風吹夢醒　　　　面に灑(そそぐ)ぐ松風 夢を吹いて醒(さ)まし

凌霄花落半床書　　　　凌霄(りょうしょう)花(か)は落つ 半床(はんしょう)の書

 

【語釈】

○瀋趣菴…沈方。蘇州の昆山の人。名画や書を好んだ。○野人…野にあって使えぬ人。○簾櫳…窓とカーテン。○草閣…草葺きの家。○凌霄花…ノウゼンカズラ。○半床…床の半分くらいの大きさ。

 

 

★    爲愚山侍講題嚴蓀友畫為　　愚山(ぐざん)侍講(じこう)が爲に 厳蓀(げんそん)友(ゆう)の画に題す　　　清　　王士禛 

 

山氣化雲雲作烟　　　　山気 雲に化し 雲 煙と作る

幽人簑笠不知年　　　　幽人の簑(さ)笠(りゅう) 年に知せず

清谿曲逐楓林轉　　　　清谿(せいこく)は曲(くま)を逐(お)い 楓林は転ず

紅葉無風落滿船　　　　紅葉 風無く 落ちて船に満つ

 

【語釈】

○山氣…山中の空気。○烟…靄。○幽人…世俗から離れた人。

 

 

★    題畫卷　　　　　　　　画巻(がかん)に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　張　適

 

青山歴歴樹重重　　　　青山 歴々(れきれき) 樹 重々(ちょうちょう)

寺在雲深第幾峰　　　　寺は 雲深き 第幾(だいいく)峰(ほう)に在り

比屋人家西崦下　　　　比屋(ひおく)の人家 西崦の下

夕陽長聼講時鐘　　　　夕陽(せきよう)　長く聴く　講時の鐘

 

【語釈】

○畫卷…絵を書いた巻物。○歴歴…明らかなさま。はっきりしたさま。○重重…重なりあうさま。○第幾峰…多くの峰。○比屋…家が相い隣り合っているさま。○西崦…西山。○講時鐘…僧侶が説教する時を知らせる鐘。

 

 

★    題燕肅畫卷　　　　　　燕(えん)粛(しゅく)の画巻(がかん)に題す　　　　　　　　　　　  元　　仇　遠

 

溪路迢迢繞碧峰　　　　渓路 迢々(ちょうちょう)として 碧峰を繞(めぐ)る

白雲迷却舊行蹤　　　　白雲　迷却(めいきゃく)す　旧行(きゅうこう)蹤(せき)

買舟歸去山中住　　　　舟を買って 帰り去り 山中に住(じゅう)す

終日茆亭坐聽松　　　　終日 茆亭(ぼうてい)に 坐して 松を聴く

 

【語釈】

○顔蘇。青州（現山東省青州市）の人。 進士に挙げられ刑部侍郎となった。○迢迢…遙かに遠いさま。○迷却…失う。○舊行蹤…昔の人の通った道。○茆亭…茅吹きの亭。

 

 

★    曹雲西畫卷　　　　　　曹(そう)雲(うん)西(せい)の画巻(がかん)　　　　　　　　　　　   元　　黃公望

 

十載相逢正憶君　　　　十載 相逢(あいあ)いて 正に君を憶う

忽從紙上見寒雲　　　　忽ち 紙上に従(よ)りて 寒雲を見る

空江漠漠漁歌度　　　　空江 漠々(ばくばく)として 漁歌 度り

一片疏林帶夕曛　　　　一片の疏林 夕曛(せきくん)を帯ぶ

 

【語釈】

○曹雲西…宋江の華頂の人。昆山の教職に推薦されたが、辞職した。書物や名画のコレクションが多く、多くの文人画家が好んで彼を訪ねてきた。優れた画家であった。○畫卷…絵を書いた巻物。○空江…がらんとした江。○漠漠…広々として果てしないさま。○夕曛…夕陽の餘暉。

 

 

★    題山水圖　　　　　　　山水図に題す　　　　　　　　　　　　   元　　滁　頴

 

青山千仞聳高秋　　　　青山 千仞(せんじん) 高秋に聳え

山北山南水亂流　　　　山北 山南 水は乱流す

欲訪川源無路入　　　　川源(せんげん)を訪ねんと欲すれども 路の入(い)る無し

釣魚人在碧渓頭　　　　釣魚(ちょうぎょ)の人は 碧渓(へきけい)の頭(ほとり)に在り

 

【語釈】

○千仞…非常に高いさま。○高秋…高く爽快な秋空。○川源…川の源。

 

 

★    題畫山水　　　　　　　画山水に題す　　　　　　　　　　　   元　　倪　瓚

 

秋潮夜落空江渚　　　　秋(しゅう)潮(ちょう) 夜に落つ 空(くう)江(こう)の渚(なぎさ)

曉樹離離含宿雨　　　　暁樹(ぎょうじゅ) 離々として 宿(しゅく)雨(う)を含む

伊軋中流聞櫓聲　　　　伊軋(いあつ) 中流 櫓声を聞く

臥聽漁人隔煙語　　　　臥して聴く 漁人の煙を隔つる語

 

【語釈】

○落…潮が引く。○空江…がらんとした江。○離離…草木の繁茂しているさま。○伊軋…櫓のギシギシする音の形容。○煙…水上の靄。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　   明　　文徵明

 

矗矗青山帶白雲　　　　矗々(しゅくしゅく)たる青山 白雲を帯ぶ

石梁鷄犬數家村　　　　石(せき)梁(りょう) 鶏犬 数家の村

江空不遣漁郎到　　　　江 空しくして 漁郎をして到らしめず

落盡桃花自掩門　　　　落ち尽す桃花 自(おのずか)ら門を掩(おおう)う

 

【語釈】

○矗矗…高く聳えるさま。○石梁…石の橋。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　   明　　文徵明

 

寂寞平臯帶淺灘　　　　寂寞(せきばく)たる平臯(へいこう) 浅灘(せんたん)を帯ぶ

幽人時共夕陽還　　　　幽人 時に 夕陽(せきよう)と共に還る

水禽飛去疎煙滅　　　　水禽 飛び去りて 疎(そ)煙(えん)滅す

目送秋光入斷山　　　　秋光を目送し 断山(だんざん)に入る

 

【語釈】

○寂寞…ひっそりとして物寂しいさま。○平臯…水辺の平地。○淺灘…水中の浅いところ。○幽人…世間から離れて暮らしている人。○疎煙…疎らな靄。○目送…めで見送る。○斷山…そそり立つ山。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　   明　　文徵明

 

丹楓絶壁照空江　　　　丹楓 絶壁 空(くう)江(こう)を照らす

萬里青天在野航　　　　万里の青天 野(や)航(こう)に在り

卧展南華秋水讀　　　　卧(が)して 南華 秋水を展(てん)じて 読めば

不知嵐翠濕衣裳　　　　知らず 嵐(らん)翠(すい) 衣裳を湿らすを

 

【語釈】

○丹楓…紅葉した楓。○空江…広くて閑かな江。○野航…野中の渡し船。○南華…『庄子』の別名。○秋水…『庄子』の「秋水」の篇。○嵐翠…緑色の山霧。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　   明　　文徵明

 

過雨空林萬壑奔　　　　過雨 空林 万壑 奔(ほぼばし)る

夕陽野色小橋分　　　　夕陽(せきよう) 野色 小橋 分かる

春山何似秋山好　　　　春山 何ぞ似ん 秋山の好きに

紅葉青山鎖白雲　　　　紅葉 青山 白雲を鎖ざす

 

【語釈】

○過雨…通り雨。○空林…人気の無い林。○万壑…多くの山。○野色…野原の景色。

 

 

★    山水圖　　　　　　　　山水図　　　　　　　　　　　　　　　  明　　林　環

 

青山㡬里入煙霞　　　　青山 㡬里 煙霞(えんか)に入る

杖履尋春未覺賖　　　　杖(じょう)履(り) 春を尋ね 未だ賖(はるか)なるを覚えず

流水小橋村路晚　　　　流水 小橋 村路 晩る

隔林應有野人家　　　　林を隔てて 応(まさ)に 野人の家 有るべし

 

【語釈】

○煙霞…靄と霞。○杖履…杖をついて漫歩すること。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○野人…野にあって官職に就かない人。

 

 

★    山水圖　　　　　　　　山水図　　　　　　　　　　　　　　　　  明     陳 航

 

數里平沙接遠村　　　　数里の平沙 遠村に接す

千重喬木䕃柴門　　　　千重の喬木 柴門を䕃(おお)う

可人最是滄洲晩　　　　人に可なるは 最も是れ 滄洲の晩(くれ)

潮落依稀見水村　　　　潮 落ちて 依(い)稀(き)たり 水村を見る

 

【語釈】

○平沙…平らな砂浜。○喬木…高木。○柴門…柴で作った粗末な門。○滄洲…水辺に在る場所。隠者の住まいを意味する。○依稀…ぼんやりとしているさま。

 

 

★    山水圖　　　　　　　　山水図　　　　　　　　　　　　　　   明    釋宗泐

 

危峯削玉出雲端　　　　危(き)峰(ほう) 玉を削り 雲端(うんたん)に出ず

仙館霜清古木寒　　　　仙館 霜 清く 古木寒し

記得匡廬秋雨後　　　　記し得たり 匡廬(きょうろ) 秋雨の後

彭郎湖上倚篷看　　　　彭郎(ほうろう) 湖上 篷(とま)に倚(よ)りて 看るを

 

【語釈】

○危峯…高峻な山峰。○雲端…雲の上。○仙館…仙人が修行し遊ぶ館。○記得…絵に描くことが出来た。○匡廬…江西省廬山。陶淵明隠棲の地。○彭郎…陶淵明。○篷…舟の帆。

 

 

★    題山水　　　　　　　　山水に題す　　　　　　　　　　　　  明　　趙　廸

 

江上千峰紫翠浮　　　　江上 千峰 紫翠浮ぶ

松門苔逕映清流　　　　松門 苔径 清流に映ず

茅堂雨絶湘簾暝　　　　茅堂 雨絶えて 湘簾暝し

卧聴空山一夜秋　　　　卧(ふ)して聴く 空山 一夜の秋

 

【語釈】

○紫翠…紫幹翠葉。山の木がみずみずしく美しいさま。○茅堂…茅吹きの堂。○湘簾…細い竹やアシなどで編んだ簾。

 

 

★    題山水　　　　　　　　山水に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　趙　廸

 

流水人家洞裏幽　　　　流水 人家 洞裏(どうり)幽なり

清猿古木思悠悠　　　　清猿 古木 思 悠々

别家幾度藤蘿月　　　　家に别れて 幾度(いくたび)か藤蘿(とうら)の月

閑却瑶琴石上秋　　　　閑却(かんきゃく)す 瑶(よう)琴(きん) 石上の秋

 

【語釈】

○洞裏…洞窟の中。○清猿…清らかな猿の鳴き声。○藤蘿…藤のつた。○閑却…すておく。○瑶琴…玉で飾った琴。

 

 

★    題山水　　　　　　　　山水に題す　　　　　　　　　　　　  明　　趙　廸

 

幾家茅屋水邊村　　　　幾家の茅屋か 水辺の村

花落春潮夕到門　　　　花 落ち 春(しゅん)潮(ちょう) 夕(ゆうべ)に門に到る

溪上數峰青似染　　　　渓上の数峰 青きこと染むるに似て

居人説是武陵原　　　　居人 説く是れ 武陵原と

 

【語釈】

○武陵原…湖南省常德武陵の原。桃花源記における漁師の住んだところ。

 

 

★    題山水小画　　　　　　山水小画に題す　　　　　　　　　　  明　　程本立

 

太湖三萬六千頃　　　　太湖 三万六千頃

七十二峯湖上山　　　　七十二峰 湖上の山

草閣酒醒風雨過　　　　草閣(そうかく)に 酒 醒むれば 風雨過ぎ

棹歌聲在水雲間　　　　棹歌(とうか) 声は在り 水雲の間

 

【語釈】

○三萬六千頃…頃は一八二アール。広いことを言う。○七十二峯…多くの峰。○草閣…草葺きの閣。○棹歌…舟歌。

 

 

★    題山水卷　　　　　　　山(さん)水巻(すいかん)に題す　　　　　　　　　　　　　　  宋　　錢　選

 

煙雲出沒有無間　　　　煙雲 出没す 有無の間

半在空虛半在山　　　　半ばは空虚に在り 半ばは山に在り

我亦閑中消日月　　　　我も亦た 閑中 日月を消じ

幽林深處聽潺湲　　　　幽林深き処 潺湲を聴く

 

【語釈】

○山水卷…山水画の巻物。○煙雲…雲と霧。○有無…有体物と無体物。○空虚…空中。天空。○閑中…閑な中。○日月…月日。○幽林…奥深く閑かな林。○潺湲…浅い水の流れる音。

 

 

★    題稚川山水　　　　　　稚川の山水に題す　　　　　　　　　　　　  唐　　戴叔倫

 

松下茅亭五月凉　　　　松下(しょうか)の茅(ぼう)亭(てい) 五月の凉

汀沙雲樹晚蒼蒼　　　　汀沙(ていさ) 雲樹 晚に蒼々(そうそう)

行人無限秋風思　　　　行人 限り無し 秋風の思

隔水青山似故鄉　　　　水を隔つる青山 故鄉に似たり

 

【語釈】

○稚川…道教の伝説上の仙都。○茅亭…茅吹きの亭。○汀沙…渚の砂。○雲樹…高く聳える樹。○蒼蒼…青々としたさま。

 

 

★    題陸芙蓉山水        陸(りく)芙蓉(ふよう)の山水に題す　　　　　　　　　　  清　　王元勲

 

浪跡頻年賦遠遊　　　　浪(ろう)跡(せき) 頻(ひん)年(ねん) 遠遊を賦す

湖山佳處輙拘留　　　　湖山 佳(よ)き処 輙(すなわ)ち拘留(こうりゅう)す

披圖却憶辰州道　　　　図を披(ひら)いて 却って憶う 辰州の道

殘夜泉聲響竹樓　　　　残夜 泉声 竹楼に響く

 

【語釈】

○陸芙蓉…不祥。木蓮？○浪跡…到る処を漫遊すること。○頻年…他年。○輙…そのたびに。○拘留…引き留める。○辰州…湖南省懷化市沅陵県。○残夜…夜がまさに明けようとするとき。○竹樓…竹で作った楼房。

 

 

★    題鄧國材水墨寒林　　　鄧国材の水墨寒林に題す　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

人間那得箇山川　　　　人間(じんかん) 那(な)んぞ得ん 箇(こ)の山川

船上漁郎便是仙　　　　船上の漁郎 便ち是れ仙

遠嶺外頭江盡處　　　　遠嶺の外頭 江 尽くる処

問渠何許洞中天　　　　渠(なんじ)に問う 何ぞ許すか 洞中の天

 

【語釈】

○鄧國材…不祥。○漁郎…漁夫。○外頭…外面。○渠…あなた。○洞中天…洞窟の中にあるとされる仙界。

 

 

★    題燕肅山水菴        　燕(えん)粛(しゅく)の山水菴に題す　　　　　　　　　　  明　　冷　謙

 

依稀廬岳高僧舍　　　　依(い)稀(き)たる 廬(ろ)岳(がく) 高僧の舎

彷彿商山隱者家　　　　彷彿(ほうふつ)たる 商山 隠者の家

我亦抱琴來谷口　　　　我も亦た 琴を抱いて 谷口(こくこう)に来り

白雲深處拾松花　　　　白雲 深き処 松(しょう)花(か)を拾う

 

【語釈】

○燕肅…宋の益都の人。進士に挙げられ礼部侍郎に至った。山水画を得意とした。○依稀…ぼんやりとした。○廬岳…江西省の廬山。○高僧舍…東林寺。○彷彿…ぼんやりとして明らかでないさま。○商山…陕西省商洛市商山。○隱者…商山四皓。

 

 

★    題錢蕣擧山水小景　　　　　銭蕣挙の山水小景に題す　　　　　   明　　薛　瑄

 

琪樹秋風生早寒　　　　琪樹(きじゅ) 秋風 早寒を生ず

樓臺縹緲暮雲間　　　　楼台 縹緲(ひょうびょう) 暮雲の間

橋頭有客長無事　　　　橋頭(きょうとう) 客(かく) 有りて 長く 事無く

閑聴溪聲静看山　　　　閑に 渓声を聴いて 静かに山を看る

 

【語釈】

○錢蕣擧…不祥。○琪樹…玉のように美しい木。○縹緲…遠くかすかなさま。

 

 

★    臺中遇直晨覽蕭侍御壁畫山水　 　　　　　　　　　　　　唐    羊士諤

 　　　　　　　　　　台中の遇(ぐう)直(ちょく)の晨(あした)に蕭(そう)侍御(じぎょ)の壁画山水を覧る

  

蟲思庭莎白露天　　　　虫は思う 庭莎(ていさ) 白露の天

微風吹竹曉淒然　　　　微風 竹を吹いて 曉 淒(せい)然(ぜん)たり

今來始悟朝回客　　　　今来 始めて悟る 朝(ちょう)回(かい)の客(かく)

暗寫歸心向石泉　　　　暗に 帰心を写して 石泉に向うを

 

【語釈】

○臺中…禁中。○遇直…偶々宿直すること。○蕭侍御…不祥。○庭莎…庭のハマナスゲ。○白露…秋天の露水。○淒然…冷え冷えとして寂しいさま。○今來…ただいま。○朝回…朝に帰る。○歸心…故郷に帰ろうとする気持。

 

 

★    題蕭照江山圖　　　　　蕭(しょう)照(しょう)の江山図に題す　　　　　　　　　　  元　　柳　貫

 

萩浦楓林宿暮烟　　　　萩(しょう)浦(ほ) 楓林 暮煙に宿す

夕陽収盡月浮灣　　　　夕陽(せきよう) 収まり尽き 月 湾に浮ぶ

騷人一曲江南思　　　　騒人(そうじん) 一曲 江南を思う

彈徹箜篌送雁還　　　　弾じて 箜篌(くぐ)を徹し　雁の還るを送る

 

【語釈】

宋の澤州陽城の人。李唐に画法を学び、朝廷の絵師となった。山水画を得意とした。○萩浦…萩の生えた浦。○暮煙…夕もや。○騷人…詩人。文人。○江南…長江中下流の南岸地方。○箜篌引。楽府題の曲の一つ。

 

 

★    出都王山人畫山水送別　　　　　　　　   　　　　　　　　　　清    朱彞尊

都を出で　王(おう)山人(さんじん) 山水を画いて 別れを送る

 

王郎五載一相逢　　　　王郎 五載 一たび相逢う

寫出雲巒别思重　　　　雲巒(うんらん)を写し出して 别思(べっし)重なる

髣髴攝山風月夜　　　　髣髴(ほうふつ)たる 摂山(せつざん) 風月の夜

秋窓同聽六朝松　　　　秋窓 同じく聴く 六朝(りくちょう)の松

 

【語釈】

○王山人…不祥。○王郎…王山人。○雲巒…雲と山。○别思…別れを悲しむ思。○髣髴…ぼんやり見えるさま。○江蘇省南京市の攝山。○六朝…南北朝時代の六朝。

 

 

★    題小景　　　　　　　　小景に題す　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　泰

 

隔岸峰巒過雨新　　　　岸を隔つる 峰巒(ほうらん) 過雨新たなり

桃花水暖碧潾潾　　　　桃花 水 暖くして 碧 潾々(りんりん)たり

誰家艇子閑来往　　　　誰が家の艇子か 閑かに 来往す

只載春光不載人　　　　只だ 春光を載せ 人を載せず

 

【語釈】

○峰巒…山々。○過雨…通り雨。○潾潾…水の清いさま。○艇子…小舟。○春光…春の光。春景色。

 

 

★    題畫　　　　　　　　　画に題す　　　　　　　　　　　　　　　明　　聶大年

 

 

緩鞚青驄踏軟沙　　　　緩鞚(かんこう) 青驄(せいぞう) 軟沙(なんさ)を踏む

畫橋煙樹酒旗斜　　　  画橋 煙樹 酒旗斜なり

玉樓人醉東風晚　　　　玉楼 人は酔う 東風の晩(くれ)

高捲紅簾看杏花　　　　高く 紅(こう)簾(れん)を捲いて 杏花を看る

 

【語釈】

○緩鞚…緩いくつわ。○青驄…体毛が青みがかった灰色をしている馬。○画橋…画で飾った橋。○煙樹…霞がかかった樹。○酒旗…酒屋の目印の旗。○玉楼…玉で飾った楼閣。○東風…春風。

 

 

★    題小景　　　　　　　　小景に題す　　　　　　　　　　　　　　  明　　聶大年

 

水禽沙鳥自相呼　　　　水禽 沙鳥 自(おのずか)ら相呼ぶ

遠近雲山半有無　　　　遠近の雲山 半ば有無

一葉扁舟兩三客　　　　一葉の扁舟 両三の客(かく)

載將煙雨過西湖　　　　煙雨を載せ将(も)ちて 西湖を過ぐ

 

【語釈】

○水禽…水鳥。○沙鳥…砂浜の鳥。○兩三…二三人。○煙雨…霧雨。

 

 

★    題小景　　　　　　　　小景に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　陳　蒙

 

野籐刺水竹籬斜　　　　野(や)籐(とう) 水を刺し 竹籬(ちくり)斜めなり

落盡東風枳殼花　　　　落ち尽くす 東風 枳殻の花

日午不聞茶臼響　　　　日午 聞かず 茶臼の響き

春城買藥未還家　　　　春城 薬を買いて 未だ家に還らず

 

【語釈】

○野籐…野生のヤシ科トウ族の植物。○竹籬…竹で作った籬。○東風…春風。○枳殻…カラタチ。○春城…春の街。

 

 

★    題小景　　　　　　　　小景に題す　　　　　　　　　　　　　　  明　　程敏政

 

綠樹蕭然覆草亭　　　　緑樹 蕭然(しょうぜん)として 草亭を覆う

酒船安坐蓼花汀　　　　酒船 安坐す 蓼(りょう)花(か)の汀(なぎさ)

分明一夜溪頭雨　　　　分明 一夜 渓頭の雨

洗出春山數點青　　　　洗い出だす 春山 数点の青

 

【語釈】

○蕭然…物寂しいさま。○草亭…草葺きの亭。○蓼花汀…蓼の花が生えた岸。○分明…はっきりしていること。

 

 

★    題小景　　　　　　　　小景に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　呂　淵

 

綠樹橋頭路轉回　　　　緑樹 橋頭(きょうとう) 路 転回す

水光山色映樓臺　　　　水光山色 楼台に映ず

扁舟蕩入荷花裏　　　　扁舟 蕩(こぼ)ち入る 荷花の裏(うち)

知是遊人避雨來　　　　知る是れ 遊人 雨を避けて来(きた)るを

 

【語釈】

○橋頭…橋のほとり。○水光山色…山水の景色。○扁舟…小舟。○遊人…旅人。○蕩…壊す。

 

 

★    題大年畫　　　　　　　大年の画に題す　　　　　　　　　　  宋　　黄庭堅

 

水色煙光上下寒　　　　水色 煙光 上下して寒し

忘機鷗鳥恣飛還　　　　忘機の鴎(おう)鳥(ちょう) 恣(ほしいまま)に飛(ひ)還(かん)す

年來頻作江湖夢　　　　年来 頻りに 作(な)す 江湖の夢

對此身疑在故山　　　　此に対し 身 疑うらくは 故山に在るかと

 

【語釈】

○水色…水面の色。○煙光…水面に立つ靄の光。○忘機…世間の事柄を気にかけないさま。○年来…近年になってから。○江湖…隠棲の地。○故山…故郷の山。

 

 

★    雲山小景　　　　　　　雲山の小景　　　　　　　　　　　　　　　元　　黃鎮成      

 

飛瀑潺潺瀉碧岑　　　　飛瀑 潺々(せんせん)として 碧岑(へきしん)に瀉(そそ)ぐ

野橋分路入雲深　　　　野橋 路を分け 雲に入りて深し

三椽草屋長松下　　　　三椽(さんえん)の草屋 長松(ちょうしょう)の下

應有先生抱膝吟　　　　応に 先生 膝(ひざ)を抱いて吟ずる有るべし

 

【語釈】

○飛瀑…滝。○潺潺…水の流れるさま。さらさら。○碧岑…緑の峰。○三椽…三軒。○草屋…草葺きの粗末な家。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。

 

 

★    題米元暉山水小景贈陳原貞别　　　　　　　　　　　　　  明　　釋似杞

米元暉(べいげんき)の山水小景に題し　陳(ちん)原貞(げんてい)が别れに贈る

 

江頭雨足春水生　　　　江頭 雨足りて 春水生じ

江上青山煙樹暮　　　　江上の青山 煙樹(えんじゅ)暮(く)る

扁舟明發去如飛　　　　扁舟 明発(めいはつ)し 去りて 飛ぶが如し

目斷征帆入蒼霧　　　　目(もく)断(だん)す 征帆の 蒼(そう)霧(む)に入(い)るを

 

【語釈】

○米元暉…米友仁。北宋末・南宋初の書家・画家・官僚。米芾の子で水墨山水画が得意。○陳原貞…不祥。○江頭…江のほとり。○煙樹…霧に煙る樹。○扁舟…小舟。○明發…朝早く出発する。○目斷…目の届く限り眺めやる。○征帆…遙かに旅行く舟。

 

　　　

★    雲林畫山水竹石　　　　雲(うん)林(りん) 画山(がさん) 水(すい)竹石(ちくせき)　　　　　　　　　  　　元　　華幼武

 

秋雲無影樹無聲　　　　秋雲に影無く 樹に声無し

湛湛長江鏡面平　　　　湛々(たんたん)たる 長江 鏡面平かなり

遠岫煙銷明月上　　　　遠岫(えんしゅう) 煙 銷(き)え 明月上り

小亭危坐看潮生　　　　小亭に危坐して 潮(うしお)の生ずるを看る

 

【語釈】

○湛湛…水を深くたたえるさま。○遠岫…遠くに見える山々。○煙…靄霞。○危坐…体を前に傾け、背中を丸め、膝を抱えるようにして座ること。

 

 

★    題雪景　　　　　　　　雪景に題す　　　　　　　　　　　　　　  元　　李　祁

 

瓊林瑶樹擁樓臺　　　　瓊(けい)林(りん) 瑶樹(ようじゅ) 楼台を擁(よう)す

戸牗臨風晩自開　　　　戸牗(こゆう) 風に臨み 晩に自(おのずか)ら開く

一鳥不飛人跡斷　　　　一鳥飛ばず 人跡(じんせき)断え

扁舟何處獨歸來　　　　扁舟 何れの処か 独り帰り来る

 

【語釈】

○瓊林…雪を被って玉のように美しい林。○瑶樹…美しい樹。○戸牗…家の窓。

 

 

★    青山白雲圖　　　　　　青山白雲図　　　　　　　　　　　　    元　　黃　溍

 

十年失脚走紅塵　　　　十年 失脚し 紅(こう)塵(じん)に走る

忘卻山中有白雲　　　　忘却す 山中に 白雲有るを

忽見畫圖疑是夢　　　　忽ち 画図を見て 是れ夢かと疑う

冷花涼葉思紛紛　　　　冷花 涼葉 思 紛々(ふんぷん)

 

【語釈】

○失脚…地位を失う。○紅塵…俗世間の煩わしいことがら。○涼葉…秋天の樹葉。紅葉。○紛紛…まじり乱れるさま。

 

 

★    青山白雲圖　　　　　　青山白雲図　　　　　　　　　　　　  元　　虞　集

 

獨向山中訪隱君　　　　独り 山中に向いて 隠君を訪ぬ

行窮千澗水沄沄　　　　行窮まりて 千澗(せんかん) 水沄々(うんうん)

仙家更在空青外　　　　仙家 更に 空青の外(そと)に在り

只許人間禮白雲　　　　只だ許す 人間(じんかん) 白雲に礼するを

 

【語釈】

○隠君…隠者。○千澗…非常に長い距離。○沄沄…水が渦巻いて流れるさま。○仙家…仙人の住む家。○空青…青色の天空。

 

 

★    題米南宮雲山圖　　　　米(べい)南宮(なんぐう)の雲山の図に題す　　　　　　　  宋　　魏了翁

 

漠漠雲林畳畳山　　　　漠々(ばくばく)たる 雲林 畳(じょう)々(じょう)たる山

誰家茅屋隠松間　　　　誰が家の茅屋か 松間に隠る

石橋雨過天台遠　　　　石橋(せききょう) 雨 過ぎて 天台遠し

采藥仙人去未還　　　　薬を采る 仙人 去りて 未だ還らず

 

【語釈】

○米南宮…北宋の書画家米芾。花鳥画を得意とし、書道家としても知られており、その書風は「米体」と呼ばれる。○漠漠…一面に続いているさま。○畳畳…重なり合っているさま。○茅屋…茅吹きの家。○石橋…浙江省天台山の名勝である石梁。○天台…天台山。浙江省東部の天台県にある霊山。中国三大霊山のひとつ。

 

 

★    郭熙秋山平遠　　　　　郭熙(かくき)の秋山平遠　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

目盡孤鴻落照邊　　　　目(もく)尽(じん)す孤(こ)鴻(こう) 落照の辺(ほとり)

遙知風雨不同川　　　　遥かに知る 風雨の川を同じくせざるを

此間有句無人識　　　　此の間 句 有あり 人の識る無し

送與襄陽孟浩然　　　　送(そう)与(よ)す 襄(じょう)陽(よう)の孟浩然に

 

【語釈】

○郭熙…北宋の山水画家。○目盡…目力の尽きる処まで見渡す。○孤鴻…一羽の雁。○落照…夕陽の餘暉。○句…詩。○襄陽…湖北省襄陽市。

　　　

 

★    題秋江圖　　　　　　　秋江の図に題す　　　　　　　　　　　　   元　　倪　瓚

 

長江秋色渺無邊　　　　長江の秋色 渺(びょう)として 辺 無し

鴻雁來時水拍天　　　　鴻(こう)雁(がん) 来(きた)る時 水 天を拍つ

七十二灣明月夜　　　　七十二湾 明月の夜

荻花楓葉覆漁船　　　　荻花 楓葉 漁船を覆(おお)う

 

【語釈】

○秋江…秋の長江。○鴻雁…かり。○七十二湾…多くの湾。○荻花…オギの花。

　　　

★    寒村雪暮圖　　　　　　寒村雪暮の図　　　　　　　　　　　　　  宋　　五師道

 

木桫栖鴉景已殘　　　　木桫(もくさ)の栖(せい)鴉(あ) 景 已に残(ざん)す

沙邊落雁雪猶寒　　　　沙辺の落雁 雪 猶お寒し

江南江北曽行路　　　　江南江北 曽って 行(こう)の路(ろ)

今日山窓借畫看　　　　今日　山窓　画を借りて看る

 

【語釈】

○木桫…フタバ萩科の常緑高木。○栖鴉…住んでいる烏。○殘…損なわれる。

 

 

★    惠崇春江晚景　　　　　恵(けい)崇(そ)の春江 晩景　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

竹外桃花三兩枝　　　　竹外の桃花 三両枝

春江水暖鴨先知　　　　春江 水暖かにして 鴨 先ず知る

蔞蒿滿地蘆芽短　　　　蔞蒿(ろうこう)は地に満ち 蘆(ろ)芽(が)は短かし

正是河豚欲上時　　　　正に是れ 河豚(かとん)の上らんと欲する時

 

【語釈】

○恵崇 … 宋初の画僧。建陽（福建省）の人。北宋山水画の三大家の一人で、特に雁・鷺・鳥などの絵を得意とした、また、詩人でもあり、九僧の一人としても知られる。○竹外…竹の生えている向こう側。○桃花…桃の花。○三両枝…二，三の枝。○蔞蒿 …よもぎの一種、フグの毒を消すという。○満地…一面に生い茂る。○蘆芽… 蘆…あしの芽、フグの毒を消すという。正是…ちょうど今～である。河豚…フグ。欲上時…川をさかのぼってくる時期

（参考文献）　　『漢詩大系１７』　　　

 

★    書李世南所畫秋景　　　李(り)世(せい)南(なん)画く所の秋景に書す　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

野水參差落漲痕　　　　野水 参差(さんし)として 漲(ちょう)痕(こん)落ち

疏林攲倒出霜根　　　　疏(そ)林(りん) 攲倒(きとう)し 霜根を出す

扁舟一櫂歸何處　　　　扁舟 一(いっ)櫂(とう) 何れの処にか帰る

家在江南黃葉村　　　　家は江南 黄葉(こうよう)の村に在り

 

【語釈】

○李世南…北宋の画家、字は唐臣、山水画に巧み。○野水…野中の流れ。○參差…長短不揃いのさま。○落…減る。○漲痕…増水時、水が漲った時の痕かた。○疎林…樹木のまばらな林。○欹倒…かたむきたおれたさま。欹…かたむく。○霜根…霜の降りた。○扁舟…小舟。一櫂…一艘。○江南…長江下流の南側の地方。

（参考文献）　『中国詩人選集二―６』

　　　

 

★    為吳溥泉畫窠石平遠詩　　　呉溥泉が為に窠石平遠を画す詩　　　  元　　倪　瓉

 

地僻林深無過客　　　　地 僻に　林 深くして 過客(かかく)無し

松門元自不曽關　　　　松門(しょうもん) 元 自(おのずか)から 曽て関(とざ)さず

展將一幅谿藤滑　　　　一幅 谿(けい)藤(とう)の滑を展将(てんしょう)し

寫得谿隂數㸃山　　　　写し得たり 谿隂(けいいん) 数点の山

 

【語釈】

○吳溥…江西省崇仁の人。建文二年進士。國子司業となる。○過客…訪れる客。○松門…自然の松を門と為した物。○谿藤…剡溪紙。公文書等に用いられる紙で、浙江省剡溪が名産地である。○展將…展開する。

 

★    江山漁樂圖　　　　　　江山 漁(りょう)楽(らく)の図　　　　　　　　　　　  元　　謝應芳

 

數口妻兒網一張　　　　数口の妻児 網 一張

船為家舍水為郷　　　　船を家舎と為し 水を郷と為す

江南江北山如畫　　　　江南江北 山 画の如し

欸乃聲中送夕陽　　　　欸乃声中(あいだいせいちゅう) 夕陽(せきよう)を送る

 

【語釈】

○數口…数人。○欸乃…舟歌。

 

 

★    題溪村煙雨圖　　　　　渓村　煙雨の図に題す　　　　　　　　　　　元　　郯　韶

 

山雨朝來不作泥　　　　山雨 朝来(ちょうらい) 泥を作(な)さず

望中煙雨使人迷　　　　望中の煙雨 人をして迷わしむ

依稀絶似羌村路　　　　依(い)稀(き)として 絶えるに似たり 羌(きょう)村(そん)の路

無數春船逆上溪　　　　無数の春船 逆に渓を上る

 

【語釈】

○煙雨…霧雨。○朝來…明け方以来。○望中…視野の中。○依稀…ぼんやりとしているさま。○羌村…陝西省鄜県にある村。

 

 

★    清溪放棹圖　　　　　　清渓 放(ほう)棹(とう)の図　　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　泰

 

溶溶新水碧於苔　　　　溶々(ようよう)たる新水 苔よりも碧(みどり)なり

風靜菱花幾個開　　　　風 静かにして 菱(りょう)花(か) 幾個か開く

小艇不知何處客　　　　小艇 知らず 何れの処の客(かく)かを

載將秋色過溪來　　　　秋色を載将(さいしょう)して 渓を過ぎて来る

 

【語釈】

○放棹…乗船。○溶溶…水がさかんに流れるさま。○載將…載せもつ。○秋色…秋の気配。秋景色。

 

 

★    題許子厚扇　　　　　　許子(きょし)厚(こう)の扇に題す　　　　　　　　　　　　  明　　史　鑑

 

好山多在石湖西　　　　好山 多く 石湖の西に在り

草色新年綠未齊　　　　草色 新年 緑 未だ斉(ととの)わず

亭子半開修竹裏　　　　亭子 半ば開く 修竹の裏(うち)

一簾春雨鷓鴣啼　　　　一簾の春雨 鷓鴣(しゃこ)啼く

 

【語釈】

○許子厚…不祥。○石湖…江蘇省蘇州市西南にある湖。○亭子…あずまや。○修竹…高い竹。

 

 

★    隠因畫鷗波春雨亭　　　隠し因りて画す 鴎波 春雨の亭　　　　　   明　　張　寜

 

一櫂煙波載雨還　　　　一(いち)櫂(よう)の煙波 雨を載せて還る

白鷗相對主人閑　　　　白鴎 相対して 主人閑(かん)なり

如何誤落紅塵裏　　　　如何ぞ 誤って落つ 紅(こう)塵(じん)の裏

夜夜寒燈夢小山　　　　夜(や)々(や) 寒灯 小山を夢む

 

【語釈】

○鴎波…鷗鳥が生活する水面。悠閑自在の退隱生活の比喩。○一櫂…ひとしきり。○煙波…水面に立つ靄。○紅塵…車馬のたてる埃。

 

 

★    李遵道溪山春曉圖　　　李遵(りじゅん)道(どう)の渓山春暁の図　　　　　　　　　　  元　　張　雨

 

誰寫江南雨後岑　　　　誰か写す 江南 雨後の岑(みね)

清寒空濶撲雲林　　　　清寒 空は濶(ひろ)く 雲林を撲(ぼく)す

何當載我圖書去　　　　何(いつ)か 当に 我が図書を載せ去りて

共試野航春水深　　　　共に 野航 春水の深きを 試すべし

 

【語釈】

○李遵道…李士行。薊丘の人。黃巖知州に至る。山水画を善くす。○江南…長江中下流の南岸地方。○清寒…寒い清涼さ。○雲林…靄のかかった林。○何當…「いつかまさに～すべし」と読み、「いつ～であろうか」の意。○野航…農家の舟。

 

 

★    杜東原渓山讀書圖　　　杜(と)東原(とうげん)の渓山読書の図　　　　　　　　  元　　沈　周

 

桑柘村深日影斜　　　　桑(そう)柘(たく) 村深く 日影斜なり

白雲深處帯山家　　　　白雲 深き処 山家を帯ぶ

分明萬里橋西路　　　　分明 万里 橋西の路

只欠春風幾樹花　　　　只欠く 春風 幾樹の花

 

【語釈】

○杜東原…不祥。○桑柘…桑とツゲ。○分明…はっきりしているさま。

 

 

★    蘆汀夜笛圖　　　　　　蘆(ろ)汀(てい) 夜笛の図　　　　　　　　　　　　   元　　金㓜孜

 

上下天光接水光　　　　上下の天光 水光に接す

滿汀蘆葉晚蒼蒼　　　　満汀の蘆(ろ)葉(よう) 晩に蒼々(そうそう)たり

一聲長笛驚殘夢　　　　一声の長笛 残夢(ざんむ)を驚かし

明月滿船風露涼　　　　明月 満船 風露涼し

 

【語釈】

○蘆汀…アシの生えているなぎさ。○天光…空の光。○水光…水面に現れる光。○蒼蒼…青々としたさま。○殘夢…目覚めたあとの夢うつつの状態。○驚…夢から覚めさせる。

 

 

★    李昇林泉高隱圖　　　　李(り)昇(しょう)の林泉高隠の図　　　　　  　　　　元　　郭天錫

 

為厭繁華愛好山　　　　繁華(はんか)を厭い 好山を愛するが為に

幽棲贏得此身閑　　　　幽棲 贏(かち)得(え)たり 此の身の閑なるを

生平已足林泉興　　　　生平 已に足る 林泉の興

留取高名滿世間　　　　高名を留取(りゅうしゅ)して 世間に満たす

 

【語釈】

○李昇…元の濠梁の人。竹石画、山水画に巧みであった。○幽棲…隠棲。○生平…常日頃。○留取…留める。

 

 

★    漁舟夜歸圖　　　　　　漁(ぎょ)舟(しゅう)夜帰(やき)の図　　　　　　　　　　　  明　　陳　顥

 

罷釣歸來月未明　　　　釣を罷(や)め 帰り来れば 月 未だ明かならず

隔籬遥見一燈青　　　　籬(かき)を隔てて 遥かに見る 一灯青きを

不知潮落江風轉　　　　知らず 潮落ちて 江風転じ

流却扁舟過别汀　　　　扁舟を流却(りゅうきゃく)して 别(べつ)汀(てい)に過(よぎ)るを

 

【語釈】

○潮落…潮が引く。○江風…川風。○流却…流し去る。却は助字。○過…訪れる。

 

 

★    風雨維舟圖　　　　　風雨 舟を維(つな)ぐ図　　　　　　　　　　　  明　　李日華

 

江店酒香花正濃　　　江店 酒 香(かんば)しくして 花 正に濃(こまやか)なり

午潮初上碧連空　　　午潮 初めて上りて 碧(みどり) 空(くう)に連る

篷籠暫揜蕭蕭雨　　　篷(ほう)籠(ろう) 暫(しばら)く揜(おお)う 蕭々(しょうしょう)の雨

柳外晴霞一縷紅　　　柳外の晴(せい)霞(か) 一縷(いちる) 紅なり

 

【語釈】

○江店…江畔の店。○篷籠…舟。○蕭蕭…風雨の物寂しい音の形容。○晴霞…明るい霞。○一縷…一筋。

 

 

★    渓行看松圖小巻　　　　渓(けい)行(こう)松を看る図小巻　　　  　　　　　　　明　　李日華

 

閣外雲山隔岸峯　　　　閣外の雲山 岸を隔つ峯

去帆漠漠帯雲容　　　　去帆 漠々(ばくばく)として 雲容を帯ぶ

新涼喚起蘋花夢　　　　新涼 喚起す 蘋(ひん)花(か)の夢

緩歩來看拂水松　　　　緩歩 看(み)来(きた)る 水を払う松

 

【語釈】

○閣外…楼閣の外。○去帆…去って行く帆船。○漠漠…ぼおっとしているさま。○雲容…雲の形。○蘋花…浮き草の花。

 

 

★    寄石田先生　　　　　　石田先生に寄す　　　　　　　　　　　　  明　　無名氏

 

寄將一幅剡溪籐　　　　寄将す 一幅 剡渓(せんけい)籐(とう)

江面青山畫幾層　　　　江面の青山 画 幾層

筆到斷厓泉落處　　　　筆 断厓(だんがい) 泉の落つる処に到って

石邊添箇看雲僧　　　　石辺 箇(こ)れ 雲を看る僧を添えよ

 

【語釈】

○寄將…贈る。○剡溪籐…剡溪（浙江省杭州市にある地名）産の紙。

 

 

★    秀上人課經圖　　　　　秀(しゅう)上人(しょうにん) 課(か)経(きょう)の図　　　　　　　　　　　　  明　　劉　泰

 

山繞清溪樹繞亭　　　　山は清渓を繞(めぐ)り 樹は亭を繞(めぐ)る

隔雲金磬曉泠泠　　　　雲を隔つる 金磬(きんけい) 暁に泠々(すす)たり

道人不管花開落　　　　道人は管せず 花の開落

白乳香中讀觀經　　　　白乳(はくにゅう)香中(こうちゅう) 観(かん)経(きょう)を読む

 

【語釈】

○秀上人…不祥。○課經…教典を学ぶ。○金磬…金属でできたへの字型の打楽器。○泠泠…音響の清らかなさま。○道人…高い徳のある人。○白乳香…ムクロジ目カンラン科ボスウェリア属の樹木から分泌される樹脂から作った香。○觀經…仏教の経典のひとつ。

 

 

★    徽宗雪江獨棹圖　　　　徽宗の雪(ゆき)江(こう)独(どく)棹(とう)の図　　　　　　　　　   明　　釋宗泐

 

艮嶽秋深百卉腓　　　　艮(こん)岳(がく) 秋深くして 百卉(ひゃくき)腓(しお)れ

沙塵吹滿衮龍衣　　　　沙塵 吹き満つ 衮(こん)竜(りゅう)衣(い)

凄涼五國城邊路　　　　凄涼たる 五国 城辺の路

得似寒江獨棹歸　　　　寒江 独り棹(さお)さして帰るに 似たるを得んや

 

【語釈】

○徽宗…北宋第8代皇帝。書画の才に優れ、北宋最高の芸術家の一人と言われる。○雪江獨棹圖…雪の降っている江で一人釣っている人を画いた図。○艮嶽…河南省開封市城內東北隅にある山。○衮龍衣…黄色地に龍の模様が付けられた皇帝用の衣服。○凄涼…物寂しい。○五國…徽宗が金の兵に捕らえられ、ここで虜囚の身となった地。 黒龍江省宜蘭県。

 

 

★    過鶴汀書齋觀董文敏畫　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　李基和

 　　　　　　　　　　鶴(かく)汀(てい)の書(しょ)斎(さい)に過(よ)ぎり董(とう)文(ぶん)敏(びん)の画を観る

 

曉雨初晴煙未收　　　　暁(ぎょう)雨(う) 初めて晴れ 煙 未だ収まらず

江雲一帶引輕舟　　　　江雲 一帯 軽舟を引く

模糊認得南徐樹　　　　模糊(もこ) 認め得たり 南徐(なんじょ)の樹

不到家山十六秋　　　　家山に到らざること 十六秋

 

【語釈】

○鶴汀…不祥。○董文敏…董其昌。松江府華亭の人。明代の官僚で、文人画家、書家。○煙…霧。○模糊…ぼんやりとしてはっきりしないさま。○南徐…江蘇省南部にある地名。○家山…故郷。○十六秋…十六年。

 

★    題西荘課耕圖　　　　　西荘課(せいそうか)耕(こう)の図に題す　　　　　　　　　　  清　　王廷諤

 

宿霧全開卯色天　　　　宿(しゅく)霧(む) 全開す 卯(う)色(しょく)の天

遙山半碧澹生煙　　　　遥山(ようざん) 半ば碧(みどり)にして 澹(たん)として煙を生ず

連村雨足新秧長　　　　連村 雨足りて 新秧(しんびょう)長し

龍骨閑抛屋角田　　　　竜骨 閑(しずか)に抛つ 屋(おく)角(かく)の田

 

【語釈】

○課耕…耕作を課す。○宿霧…昨夜からの霧。○遙山…遙かな山。○煙…もや。○龍骨…龍骨車。水車のこと。

 

 

★    題玉蘭泉泖漁莊圖　　　玉(ぎょく)蘭(らん)泉(せん) 泖(ぼう)漁(ぎょ)荘(そう)の図に題す　　　　　　清　　徐薌坡      

 

晴光瀲灔碧迢迢　　　　晴光 瀲灔(れんえん) 碧(みどり) 迢々(ちょうちょう)

淡靄軽陰覆板橋　　　　淡(たん)靄(あい) 軽陰(けいいん) 板橋(はんきょう)を覆(おお)う

昨夜菰蒲疎雨過　　　　昨夜 菰(こ)蒲(ほ) 疎雨過ぐ

一渓春水長魚苗　　　　一渓の春水 魚(ぎょ)苗(びょう)に長ず

 

【語釈】

○玉蘭泉…不祥。○泖漁莊…不祥。○瀲灔…水の相連なるさま。○迢迢…遙かなさま。○軽陰…淡い雲。○菰蒲…マコモとガマ。○魚苗…繁殖のために卵から孵化させた小魚。

             


 

★    題玉蘭泉泖漁莊圖　　　玉(ぎょく)蘭(らん)泉(せん) 泖(ぼう)漁(ぎょ)荘(そう)の図に題す　　　　　　　　清　　徐薌坡      

             

桃花浅浪送春帆　　　　桃花 浅浪(せんろう) 春帆を送る

蠏簖魚罾夕照銜　　　　蠏簖(かいたん) 魚罾(ぎょそう) 夕(せき)照(しょう)を銜(くわ)う

坐對涼波吹笛罷　　　　坐して 涼波(りょうは)に対して 笛を吹くを罷(や)む

自縫䘨𧘈舊漁袗　　　　自ら縫う䘨𧘈(こうりょう) 旧漁袗(きゅうりょうしん)

 

【語釈】

○玉蘭泉…不祥。○泖漁莊…不祥。○蠏簖…竹の簾のような蟹取り器具。○魚罾…魚を捕る四つ手の網。○䘨𧘈…はかま。○漁袗…漁師の衣服。

 

　　　

★    為朱蘊泉題杏花春雨圖　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清　　舒　瞻

朱蘊(しゅうん)泉(せん)の為に杏花春雨の図に題す

 

淺深春色幾枝含　　　　浅深の春色 幾枝を含む

翠影紅香半欲酣　　　　翠(すい)影(えい) 紅香 半ば酣(たけなわ)ならんと欲す

簾外輕陰人未起　　　　簾外(れんがい)の軽陰(けいいん) 人 未だ起きず

買花聲裏夢江南　　　　買(ばい)花声(かせい)裏(うら) 江南を夢む

 

【語釈】

○朱蘊泉…不祥。○春色…春景色。○翠影…緑色の影。○紅香…紅色で香りのするもの。○輕陰…薄曇り。○江南…長江中下流の南岸地域。

 

 

★    題劉伯山蕃殖圖　　　　劉(りゅう)伯山(はくざん)の蕃殖図(ばんしょくず)に題す　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

老子平生只荷鋤　　　　老子 平生(へいぜい) 只だ 鋤(すき)を荷(か)す

誤携破硯到清都　　　　誤って 破(は)硯(けん)を携えて 清都に到る

歸來荒盡西疇却　　　　帰り来って 西疇(せいちゅう)を 荒尽し却す

媿見劉家蕃殖圖　　　　見るを媿(は)ず 劉家 蕃殖(ばんしょく)の図

 

【語釈】

○劉伯山…不祥。○蕃殖…繁殖。○老子…老人の自称。○平生…ふだん。○荷鋤…農業を行う。○清都…帝都。○西疇…田。

 

 

★    巫山枕障　　　　　　　巫山(ふざん)の枕障(ちんしょう)　　　　　　　　　　　　　　唐　　李　白

 

巫山枕障畫高丘　　　　巫山(ふざん)の枕障(ちんしょう) 高丘を画く

白帝城邊樹色秋　　　　白帝城辺 樹色秋なり

朝雲夜入無行處　　　　朝雲 夜に入って 行く処無く

巴水橫天更不流　　　　巴(は)水(すい) 天に横わりて 更に流れず

 

【語釈】

○巫山枕障…巫山（三峽の巫峡にある山）を描いた枕屏風。○巴水…重慶市の巴江。

　　　

 

★    題畫建溪圖　　　　　　建渓図(けんけいず)に題(だい)画(が)す　　　　　　　　　　　  唐　　方　干

 

六幅輕綃畫建溪　　　　六幅(りくふく)の軽綃(けいしょう) 建渓(けんけい)を画く

刺桐花下路高低　　　　刺(し)桐(とう)花下(かか) 路 高低

分明記得曾行處　　　　分明に記し得たり 曽て行く処

祗欠猿聲與鳥啼　　　　祗(まさ)に欠く 猿声と鳥啼と

 

【語釈】

○題畫…画に書き付ける。○建溪…福建省南平市建溪。○六幅…幅は二尺二寸。○輕綃…透明で柄のある絹織物。○刺桐…豆科刺桐属の落葉性の高木で、別名海桐。○分明…はっきりと。○記得…記憶している。

 

 

★    朱陳村圖　　　　　　　朱(しゅ)陳(ちん)村(そん)の図　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

我是朱陳舊使君　　　　我は是れ 朱(しゅ)陳(ちん)の旧使君

勸農曾入杏花村　　　　農を勧め 曽て入る 杏花の村

而今風物那堪畫　　　　而(じ)今(こん) 風物 那(な)んぞ画くに堪えん

縣吏催租夜打門　　　　県吏 租を催(うなが)し 夜 門を打つ

 

【語釈】

○朱陳村…陝西省漢中市陳村。○使君…刺史。○而今…現在。○風物…風光景物。○県吏…県の役人。

 

 

★    觀明州圖　　　　　　　明州図(めいしゅうず)を観る　　　　　　　　　　　　　　宋　　王安石

 

明州城郭畫中傳　　　　明州(めいしゅう)城郭(じょうかく) 画中に伝う

尚記西亭一艤船　　　　尚お記す 西亭 一たび船を艤(ぎ)す

投老心情非復昔　　　　老に投じて 心情 復(ま)た昔に非(あら)ず

當時山水故依然　　　　当時の山水 故(ことさら)に依然(いぜん)たり

 

【語釈】

○明州…浙江省宁波市。○艤船…船の準備をして岸に着ける。○投老…老年になって。○依然…昔のまま。

 

　　　

★    題范才元湘江喚舟圖　　范(はん)才元(さいげん)が湘(しょう)江(こう)にて舟を喚(よ)ぶ図に題す　　　  宋　　朱　松

 

天涯投老鬢驚秋　　　　天涯 老に投じて 鬢 秋なるに驚く

夢想長江碧玉流　　　　夢想す 長江に 碧玉(へきぎょく)の流るるを

忽對畫圖揩病眼　　　　忽ち 画図に対して 病眼を揩(ぬぐ)う

失聲便欲喚歸舟　　　　失声 便ち 帰舟を喚(よ)ばんと欲す

 

【語釈】

○范才元…不祥。○湘江…湖南省長沙市湘江。○天涯…空の果ての地。○投老…老年になって。

 

 

★    題苕溪漁隠圖　　　　　苕渓(ちょうけい) 漁隠(ぎょいん)の図に題す　　　　　　　　  宋　　胡　仔

 

溪邊短短長長柳　　　　渓辺 短々 長々の柳

波上來來去去船　　　　波上 来々 去々の船

鷗鳥近人渾不畏　　　　鴎(おう)鳥(ちょう) 人に近く 渾(すべ)て畏れず

一雙飛下鏡中天　　　　一双 飛び下る 鏡中の天

 

【語釈】

○苕溪…胡仔。宋の徽州績溪の人。奉議郎に至ったが湖州に住み、魚を釣る自適の生活を送った。詩論書「苕溪漁隱叢話」がある。○漁隠…隠棲して魚を釣って暮らすこと。○溪邊…渓のほとり。○鷗鳥…かもめ。○転句…『列子』黄帝篇を踏まえる。○一雙…ひとつがい。

 

 

★    題苕溪漁隠圖　　　　　苕渓(ちょうけい) 漁隠(ぎょいん)の図に題す　　　　　　  宋　　胡　仔

 

秋雲漠漠烟蒼蒼　　　　秋雲 漠々(ばくばく) 煙 蒼々(そうそう)

蘆花初白蓮葉黄　　　　蘆花 初めて白くして 蓮(れん)葉(よう)黄なり

釣船盡日來往處　　　　釣船(ちょうせん) 尽日(じんじつ) 来往する処

南村北村秔稻香　　　　南村北村 秔(こう)稻(とう)香(かんば)し

 

【語釈】

○苕溪…胡仔。宋の徽州績溪の人。奉議郎に至ったが湖州に住み、魚を釣る自適の生活を送った。詩論書「苕溪漁隱叢話」がある。○漁隠…隠棲して魚を釣って暮らすこと。○漠漠…一面に続いているさま。○烟…靄霞。○盡日…一日中。○蒼蒼…青々としたさま。○秔稻…うるち米。

　　　

 

★    題苕溪漁隠圖　　　　　苕渓(ちょうけい) 漁隠(ぎょいん)の図に題す　　　　　　　　　  宋　　胡　仔

 

卷起綸竿撇櫂歸　　　　綸(りん)竿(かん)を巻起(けんき)して 櫂(かい)を撇(へい)して帰る

短篷斜掩宿漁磯　　　　短篷(たんぽう) 斜めに掩いて 漁(ぎょ)磯(き)に宿す

日高春睡無人喚　　　　日高くして 春に睡り 人の喚(よ)ぶ無し

撩亂楊花繞夢飛　　　　撩(りょう)乱(らん)たる楊花 夢を繞(めぐ)りて飛ぶ

 

【語釈】

○苕溪…胡仔。宋の徽州績溪の人。奉議郎に至ったが湖州に住み、魚を釣る自適の生活を送った。詩論書「苕溪漁隱叢話」がある。○漁隠…隠棲して魚を釣って暮らすこと。○卷起…○綸竿…釣り竿。○撇…たたく。○短篷…小舟。○漁磯…魚を釣るのに都合の良い磯。○撩亂…乱れ飛ぶさま。○楊花…柳絮。

 

　　　

★    題三茅風雨圖　　　　　三(さん)茅(ぼう)風雨(ふうう)の図に題す　　　　　　　　  宋　　蔡　肇

 

筆間雲氣生毫末　　　　筆間(ひつかん)の雲気 毫(ごう)末(まつ)に生ず

紙上松聲聽有無　　　　紙上の松声 聴いて 有る無し

收得三茅風雨樣　　　　収め得たり 三(さん)茅(ぼう)風雨(ふうう)の様(さま)

高堂六月是冰壺　　　　高堂 六月 是れ氷(ひょう)壺(こ)

 

【語釈】

○三茅…江蘇省句容県の東南にある山。○雲氣…雲と霧。○毫末…筆の先。○冰壺…氷を入れた壺。

 

 

★    蜀山書舍圖　　　　　　蜀山書舎(しょくさんしょしゃ)の図　　　　　　　　　　　　　 明　　髙　啓

 

山月蒼蒼照烟樹　　　　山月 蒼々(そうそう) 煙樹を照し

碧浪湖頭放船去　　　　碧浪(へきろう)湖頭(ことう) 船を放ちて去る

隔林夜半見孤燈　　　　林を隔てて 夜半 孤灯を見る

知是幽人讀書處　　　　知る是れ 幽人 読書の処

 

【語釈】

○蜀山…浙江省呉興の山の名。高啓の友人である徐賁が隠棲したところ。○書舍…書斎。○蒼蒼…月光の青白いさま。○烟樹…靄の籠めた樹。○碧浪湖…浙江省湖州市碧浪湖。○幽人…俗世間を避けてひっそりと暮らしている人。

（参考文献）　『中国詩人撰集第二集　１０』

 

 

★    雲山樓閣圖　　　　　　雲山楼閣の図　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

碧樹香臺錦繡連　　　　碧樹(へきじゅ) 香台 錦繡(きんしゅう)連なる

畫師應見亂離前　　　　画師 応(まさ)に乱離(らんり)の前を見るなるべし

如今風景那堪寫　　　　如今 風景 那(な)んぞ 写すに堪んや

廢寺空山鎖暮烟　　　　廃寺 空山 暮煙に鎖(とざ)さる

 

【語釈】

○碧樹…緑色の樹木。○香臺…仏殿。○錦繡…錦の織物のような景色。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○亂離…政治の混乱。○空山…人気の無い山。○暮烟…夕靄。

 

 

★    題漢宫圖　　　　　　　漢宫の図に題す　　　　　　　　　　　　  明　　羅　倫

 

白蛇中斷赤旗開　　　　白蛇 中断し 赤旗開く

四百年中夢兩回　　　　四百年中 夢 両回す

惟有終南舊山色　　　　惟だ 終南 旧山色のみ有りて

雨餘猶自送青來　　　　雨余(うよ) 猶(いま)自(だ) 青(せい)を送って来る

 

【語釈】

○白蛇中斷…劉邦が白帝の子である白蛇を切ったこと。○赤旗…漢の赤旗。○兩回…巡り巡ること。○終南…陕西省西安市南方にある終南山。○雨餘…雨上がり。○猶自…未だ。今なお。

 

 

★    桃源圖　　　　　　　　桃源の図　　　　　　　　　　　　  明　　薛　惠

 

渓上春風笑語溫　　　　渓上の春風 笑語温かし

渓頭春水漲新痕　　　　渓頭の春水 新痕(しんこん)に漲(みなぎ)る

中原逐鹿人誰在　　　　中原に 鹿を逐(お)う 人 誰か在る

桃葉桃花自一村　　　　桃葉 桃花 自(おのずか)ら一村

 

【語釈】

○桃源圖…陶淵明の「桃花源記」を題材にした図。○渓頭…渓のほとり。○新痕…新月。○中原逐鹿…天下を争う。

 

 

★    題趙松雪苕渓圖　　　　趙(ちょう)松(しょう)雪(せつ)の苕(ちょう)渓(けい)図に題す　　　　　　　　　  明　　虞　堪

 

王孫今代玉堂仙　　　　王孫 今代(こんだい) 玉堂の仙

自畫苕渓似輞川　　　　自(みずか)ら苕(ちょう)渓(けい)を画して 輞(もう)川(せん)に似たり

如是青山紅樹底　　　　是の如く 青山 紅樹の底

可無十畒種瓜田　　　　無かるべし 十畒 瓜を種うる田

 

【語釈】

○趙松雪…元代の書画家の趙孟頫。画風において、文人画を復興した。○苕渓…中国の浙江省湖州市にある渓谷。○王孫…貴族の子弟。趙孟頫は宋の宗室であった。○今代…現在。今世。○玉堂仙…翰林学士の雅号。○輞川…輞川荘。長安の南にあった王維の別荘。○種瓜田…秦の東陵侯であった邵平が、秦が滅ぼされた後は、庶民に戻って、長安の東で瓜を栽培して生活をしたことになぞらえた。

 

 

★    題黄尊古上都秋色圖　　黄尊(こうそん)古(こ)の上都秋色の図に題す　　　　　　  清    湯右曽

 

落日牛羊下遠村　　　　落日 牛羊 遠村に下る

平沙萬馬别開屯　　　　平沙 万馬 别れて 屯を開く

君看鶻沒鵰盤處　　　　君 看ずや 鶻(こつ) 没し 鵰(ちょう)の盤する処

莽莽青山是塞垣　　　　莽々(もうもう)たる青山 是れ塞(さい)垣(がい)

 

【語釈】

○黄尊古…黃鼎。清代の画家であり、山水画を得意とした。○上都…內蒙古錫林郭勒盟上都鎮。○秋色…秋景色。○平沙…平らな砂原。○鶻…はやぶさ。○鵰…ワシ。○盤…旋回する。○莽莽…草深いさま。○塞垣…北方の辺塞地。

 

★    西湖雨浮泛圖　　　　　西湖 雨に泛(うか)ぶ図　　　　　　　　　　　   清　　朱彞尊

 

蓴絲蔆葉浸魚天　　　　蓴(しゅん)糸(し) 蔆(りょう)葉(よう) 魚天を浸す

十里湖山思悄然　　　　十里の湖山 思 悄然(しょうぜん)

疎雨夜眠聽亦好　　　　疎雨 夜に眠りて聴くも 亦た好し

莫因月黒便回船　　　　月の黒きに因(よ)りて 便ち 船を回(かえ)す莫れ

 

【語釈】

○池や沼に自生するスイレン科の多年草植物。○蔆葉…菱の葉。○悄然…しょんぼりするさま。物寂しいさま。

 

 

★    呉王夜宴圖　　　　　　呉王夜宴の図　　　　　　　　　　　　  宋　　真山民

 

銀漏迢迢夜未晨　　　　銀漏 迢迢(ちょうちょう)として 夜 未だ晨(あした)ならず

管絃聲裏綺羅春　　　　管絃声裏　綺羅(きら)の春

飲闌方擁名娃睡　　　　飲むこと闌(たけなわ)にして 方(まさ)に名娃(めいあ)を擁きて睡る

豈料稽山正卧薪　　　　豈に料らんや 稽山(けいざん) 正(まさ)に薪に卧(が)すを

 

【語釈】

○呉王…呉王夫差。○銀漏…銀製の水時計。○迢迢…夜の更けていくさま。○綺羅…きらびやかなさま。○名娃…絶世の美女。西施。○稽山…会稽山。○卧薪…越王勾踐が復讐を誓って薪の上に寝たこと。

 

 

★    子猷訪戴図　　　　　　　子猷(しゆう) 戴(たい)を訪ぬ野津　　　　　　　　  宋　　來　梓

 

四山如玉夜光浮　　　　四山 玉の如く 夜光浮ぶ

一舸玻璃凝不流　　　　一舸の玻璃(はり) 凝りて流れず

若使過門相見了　　　　若し 門を過ぎ 相見(あいけん)了(りょう)せしめば

千年風致一時休　　　　千年の風致 一時に休(や)まん

 

【語釈】

○子猷…王徽之、字は子猷。王羲之の子。黃門侍郎となる。『世説新語』任湛の故事で名高い。「嘗居山陰，夜雪初霽，忽憶戴逵，泛舟往訪，造門不入而返。人問則日：“乘興而來，興盡而返，何必見戴?”」○戴…南朝 宋の劉義慶 《世說新語·任誕》：“ 王子猷 居 山陰 ，夜大雪……忽憶 戴安道 。○玻璃…穏やかで澄んだ水面。○相見了…（王子猷と劉義慶）とが会うことが出来た。○（『世説新語』にあるような）おもむき。

 

 

★    題孫登長嘨圖題　　　　孫(そん)登(とう) 長嘨(ちょうしょう)する図に題す　　　　　　　　元　　趙孟頫      

 

在澗幽人樂考槃　　　　澗(たに)に在る幽人 楽考槃(らくこうはん)

南山白石夜漫漫　　　　南山の白石 夜に漫々(まんまん)

空林無風萬籟寂　　　　空林 風無く 万籟(ばんらい)寂し

長嘯一聲山月寒　　　　長嘯(ちょうしょう) 一声 山月寒し

 

【語釈】

○孫登…三國魏末～西晉の人。于郡の北山に隠棲し、司馬昭が阮籍を派遣して召し出そうとしたが応じなかった。○長嘨…（詩を吟じて）長くうそぶく。○幽人…隠者。○樂考槃…隠遁して自分の好きなように楽しむこと。○漫漫…広く遙かなさま。○萬籟…あらゆる物音。

 

 

★    題淵明小像　　　　　　淵(えん)明(めい)の小像に題す　　　　　　　　　　　　　元　　貢師泰   

 

烏帽青鞋白鹿裘　　　　烏帽(うぼう) 青鞋(せいあい) 白(はく)鹿(ろく)の裘(かわごろも)

山中甲子自春秋　　　　山中の甲子(かし) 自(おのずか)ら春秋

呼童檢點門前柳　　　　童を呼び 検点す 門前の柳

莫放飛花過石頭　　　　飛花を放ち 石頭を過ぎること莫かれ

 

【語釈】

○烏帽…隠者の用いる黒い帽子。○青鞋…わらじ。○甲子…暦。年月。○檢點…点検。○飛花…柳絮。

 

             

★    題淵明像　　　　　　　淵(えん)明(めい)の像に題す　　　　　　　　　　　明　　林景清      

 

南山秋色滿東籬　　　　南山の秋色 東籬に満つ

彭澤歸家鬢未絲　　　　彭沢(ほうたく) 家に帰りて 鬢(びん) 未だ糸をなさず

白酒黄花聊自足　　　　白酒 黄花(こうか) 聊(いささ)か自(おのずか)ら足り

扶笻絶勝折腰時　　　　笻に扶(たす)けらるれば 絶勝(ぜっしょう) 腰を折る時に

 

【語釈】

○淵明…陶淵明。○南山…江西省九江市南部にある廬山。○秋色…秋景色。○彭澤…陶淵明。○黄花…黄色の菊。○絶勝…遙かに勝る。○折腰時…「五斗米の為に腰を折らず」「晋書」陶潜伝。

 

 

★    松下淵明圖　　　　　　松下の淵(えん)明(めい)の図　　　　　　　　　　　　  宋　　僧良琦

 

謝安却為蒼生起　　　　謝安(しゃあん) 却って 蒼生(そうせい)の為に起つ

陶令可辭印綬廻　　　　陶令 印綬を辞して 廻えるべし

若使生逢聖明世　　　　若し 生をして 聖明の世に逢わしめば

青松老盡不歸来　　　　青松 老尽せぞども 帰り来たらざらん

 

【語釈】

○淵明…陶淵明。東晋中期の名政治家。初め王羲之等と清談をしていたが、後に政治家となった。陶淵明より前の時代の人。○蒼生…人民。○陶令…陶淵明。○聖明…名君。この場合、謝安を指す。

 

 

★    題淵明歸去來圖　　　　淵(えん)明(めい) 帰去来(ききょらい)の図に題す　　　　　　　　　   金　　王若虛

 

抛却微官百自由　　　　微官を抛却(ほうきゃく)して 百の自由

應無一事挂心頭　　　　応(まさ)に 一事を 心頭に挂(か)く 無かるべし

銷憂更借琴書力　　　　憂(うれい)を銷(け)し 更に 琴書(きんしょ)の力を借る

借問先生有底憂　　　　借問(しゃもん)す 先生 底(てい)の憂(うれい)有りや

 

【語釈】

○淵明…陶淵明。○歸去來…「帰去来の辞」。○抛却…抛つ。却は助字。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない。」と言う意味。○借問…ちょっとお尋ねするが。○底…根源。

 

 

★    明皇打鞠圖　　　　　　明皇(めいこう) 打(だ)鞠(きゅう)の図　　　　　　　　　　　  宋　　晁説之

 

宮殿千門白晝開　　　　宮殿の千門 白昼に開く

三郎沈醉打毬回　　　　三郎 沈酔し 打毬(だきゅう)して回(かえ)る

九齢已老韓休死　　　　九齢は已に老い 韓休は死す

明日應無諫疏來　　　　明日 応(おう)に諫疏(かんそ)の来たる 無かるべし

 

【語釈】

○明皇…玄宗皇帝。○打鞠…馬に乗って球を打って争うポロに似た遊戯。○三郎…玄宗皇帝。睿宗の三男○九齢…張九齢。唐の玄宗の時代の名宰相。○韓休…玄宗の時代の名宰相。玄宗に諫言をした。○諫疏…諫言の上書。

 

　　　

★    明皇小車圖　　　　　　明皇(めいこう) 小車の図　　　　　　　　　　　　  元　　大　圭

 

宮門日出乳鴉啼　　　　宮門 日 出でて 乳(にゅう)鴉(あ)啼く

仙漏沈沈樹影低　　　　仙漏(せんろう) 沈々(ちんちん) 樹影低し

朝罷千官無一事　　　　朝(ちょう) 罷(や)んで 千官一事無く

車聲又過壽陽西　　　　車声 又た過ぐ 寿(じゅ)陽(よう)の西

 

【語釈】

○明皇…玄宗皇帝。○乳鴉…雛の烏。○仙漏…宮廷の水時計。○沈沈…奥深く静かなさま。○朝…朝廷での政治。○罷…行われなくなる。○壽陽…壽陽宮。楊貴妃が住んでいた宮殿の一つ。

 

 

★    題馬遠竹溪吟弈圖　　　馬遠の竹渓 吟弈の図に題す　　　　　　　　  元　　陶宗儀

 

好詩應向過橋成　　　　好詩 応(まさ)に橋を過ぎるに 向(お)いて成るべし

逸興還從對局爭　　　　逸(いつ)興(きょう) 還(ま)た 局に対するに従(よ)りて 争う

此日山林無一事　　　　此の日 山林 一事無く

竹香細細晚風清　　　　竹香 細々(さいさい) 晩風清し

 

【語釈】

○馬遠…南宋の画院画家。南宋後半期の院体山水画を代表する画家で、南宋四大家の一人。○吟弈…詩を吟じながら碁を打つ。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない。」と言う意味。○逸興…世俗を脱した優れたおもむき。

 

 

★    東坡赤壁圖　　　　　　東坡(とうは)赤壁(せきへき)の図　　　　　　　　　　　　　　元　　鄭允端

 

老瞞雄視欲吞呉　　　　老瞞(ろうまん) 雄視 呉を吞まんと欲す

百萬樓船一炬枯　　　　百万の楼船 一炬(いっきょ)に枯(か)る

留得清風明月在　　　　清風明月を 留め得て在り

網魚謀酒付髯蘇　　　　魚を網(あみ)し酒を謀(はか)り 髯蘇(びんそ)に付す

 

【語釈】

○東坡…蘇軾。○東坡赤壁…北省黃岡市東坡赤壁。蘇軾が「赤壁賦」を作ったところ。○老瞞…魏の曹操。○雄視…威勢を張って他を見下す。○呉…三国時代の呉。○百萬樓船…曹操の水軍。○一炬…ひとたび火を付ける。曹操の水軍が火攻めにあったこと。○髯蘇…蘇軾の別称。

 

 

★    東坡赤壁圖　　　　　　東坡(とうは)赤壁(せきへき)の図　　　　　　　　　　　　　　元　　鄭允端

 

焼天烈火萬艘空　　　　天を焼く 烈火 万(ばん)艘(そう)空し

横槊英雄智力窮　　　　槊(ほこ)を横(よこ)たう英雄 智力窮す

何以扁舟今夜客　　　　何以(なにゆえ) 扁舟 今夜の客(かく)

洞簫聲在月明中　　　　洞簫の声は 月明の中(うち)に在り

 

【語釈】

○萬艘…多くの船。○横槊英雄…曹操。「矛を横たえて詩を賦す」。○扁舟…小舟。○洞簫…縦笛。

 

 

★    二喬觀兵書圖　　　　　二(に)喬(きょう) 兵書を観る図　　　　　　　　　 明　　髙　啓

 

共憑花几倦新妝　　　　共に 花几(かき)に憑り 新妝を倦(ま)く

玄女隂符讀幾行　　　　玄女の隂符 読むこと幾行(いくこう)

銅雀那能鎖春色　　　　銅雀 那(な)んぞ能(よ)く 春色を鎖す

解將竒策教周郎　　　　竒策を将って 周郎に教え解く

 

【語釈】

○二喬…三国時代に、才色兼備の姉妹として知られた大喬・小喬をいう。大喬は呉の孫策の、小喬は周瑜の妻。○花几…花模様の脇息。○玄女…伝説中の神女。黄帝から兵法を授かったという。○隂符…兵法書。○銅雀…銅雀台。曹操が魏王に昇爵した時に鄴（河北省邯鄲市臨漳県）に造営した宮殿。○春色…二喬のこと。○周郎…赤壁の戦いで曹操を破った周瑜。

 

 

★    題楊妃上馬圖　　　　　楊(よう)妃(ひ) 馬に上(のぼ)る図に題す　　　　　　　　  宋　　韓　駒

 

翠華欲幸長生殿　　　　翠(すい)華(か) 幸せんと欲す 長生(ちょうせい)殿(でん)

立馬樓前待貴妃　　　　馬を立て 楼前 貴妃を待つ

尚覓君王一回顧　　　　尚お覓む 君(くん)王(のう) 一たび回顧すれば

金鞍欲上故遲遲　　　　金(きん)鞍(あん) 上(のぼ)らんと欲して 故(ことさら)に遅々(ちち)たり

 

【語釈】

○楊妃…楊貴妃。○翠華…皇帝の代称。ここでは玄宗皇帝。○長生殿…華清宮にあった宮殿。○貴妃…楊貴妃。○君王…玄宗皇帝。○金鞍…金製の鞍。

 

 

★    題楊妃上馬圖　　　　　楊(よう)妃(ひ) 馬に上(のぼ)る図に題す　　　　　　　  宋　　韓　駒

 

金鞍欲上故徐徐　　　　金(きん)鞍(あん) 上らんと欲して 故(ことさら)に徐々たり

想見華清被寵初　　　　想い見る 華(か)清(せい) 寵を被(こうむ)る初(はじめ)

後日延秋門下路　　　　後日 延秋(えんしゅう)門下(もんか)の路

不應有暇作踟躕　　　　応に 踟躕(ちちゅう)を作す暇 有らざるべし

 

【語釈】

○楊妃…楊貴妃。○金鞍…金の鞍。○華清…長安の東北、驪山の麓にある宮殿。○被寵初…「春寒賜浴華清池，温泉水滑洗凝脂。侍児扶起嬌無力，始是新承恩沢時（長恨歌）。○延秋門…長安宮の西門。安史の乱に際し，玄宗はここから蜀に向かって避難した。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない。」と言う意味。○踟躕…ためらいしりごみする。

 

 

★    明妃出獵圖　　　　　　　明妃(めいひ)出猟の図　　　　　　　　　　  明　　登　定

 

八月天山雪作花　　　　八月 天山(てんざん) 雪 花を作す

合圍千騎度龍沙　　　　合囲の千騎 竜沙(りゅうさ)を度(わた)る

傳呼莫射南飛雁　　　　伝呼(でんこ)す 南に飛ぶ雁を 射る莫れ

欲寄平安到漢家　　　　平安を寄せ 漢家に到らんと欲す

 

【語釈】

○明妃…王昭君。○天山…天山山脈。○合圍…取り囲む。○龍沙…白龍堆。天山南路方面の砂漠地帯。○傳呼…声をかけて伝える。

 

 

★    題梅鶴髙士圖　　　　　梅(ばい)鶴(かく)高士(こうし)の図に題す　　　　　　　　　  元　　陶宗儀

 

月明孤鶴唳前汀　　　　月 明らかにして 孤鶴 前汀に唳(な)く

一樹寒梅護石屏　　　　一樹の寒梅 石屏(せきへい)を護る

香篆已消童子倦　　　　香篆(こうでん) 已に消え 童子倦(う)む

道人猶對蕋珠經　　　　道人 猶お対す 蕋(ずい)珠(じゅ)経(きょう)

 

【語釈】

○梅鶴髙士…林逋。梅を妻、鶴を子として、西湖の孤山に隠棲した。○香篆…篆字を刻んだ器の刻みに香を詰めてくべる香炉。○道人…高徳の人。○蕋珠經…道教の教典の一つ。

 

 

★    題自畫小像　　　　　　自(みずか)らの画小像に題す　　　　　　　　  明　　顧　瑛

 

儒衣僧帽道人鞋　　　　儒(じゅ)衣(い) 僧帽(そうぼう) 道人の鞋(わらじ)

到處青山骨可埋　　　　到る処 青山 骨を埋むべし

還憶少年豪俠興　　　　還(ま)た憶う 少年 豪俠(ごうきょう)の興

五陵裘馬洛陽街　　　　五陵の裘(きゅう)馬(ば) 洛陽の街

 

【語釈】

○道人…道教の信者。○青山…墓地。○豪俠…豪强任侠の人。○長安の北郊にあった地名。漢の五帝の陵があり、近くには富豪の人が住んでいた。○裘馬…輕裘肥馬。豪華な生活の形容。

 

 

★    避暑圖　　　　　　　　避暑図　　　　　　　　　　　　　    元　　黃　溍

 

一丘一壑古遺民　　　　一丘 一壑 古遺(こい)民(みん)

十里清風不屬人　　　　十里の清風 人に属さず

閑對青山揮白扇　　　　閑(しずか)に 青山に対し 白扇を揮(ふる)う

世間何物是紅塵　　　　世間 何物ぞ 是れ紅塵

 

【語釈】

○遺民…前朝の人民で新朝に仕えない人。○紅塵…車馬の立てる土埃。繁栄の街。

 

 

★    俠客圖　　　　　　　　俠客(きょうかく)の図 　　　　　　　　　　　　　 宋　　陸　游

 

趙魏胡塵千丈黄　　　　趙(ちょう)魏(ぎ) 胡(こ)塵(じん) 千丈黄なり

遺民膏血飽豺狼　　　　遺(い)民(みん)の膏血(こうけつ) 豺(さい)狼(ろう)に飽く

功名不遣斯人了　　　　功名 斯人(しじん)を遣(つか)わして了せず

無奈和戎白面郎　　　　奈(いかん)ともする無し 戎(じゅう)に和す 白面の郎

 

【語釈】

○俠客…仁侠。○趙魏…春秋時代の晋の領域だった中原の地。北宋が手放し、既に金の領土になっていた。○胡塵…金の軍馬の立てる塵。○遺民…取り残された宋の民族。○膏血…血とあぶら。○豺狼…やまいぬと狼のような金軍。○斯人…画に描かれた侠客。○戎…金。○白面郎…年少で経験の乏しい者。紹興の和議を結んだ秦檜達。

 

 

★    題蠶婦圖　　　　　　　蚕婦(さんぷ)の図に題す　　　　　　　　　　  明　　趙雙硯

 

蠶未成絲葉已無　　　　蚕(さん) 未だ糸を成さざるに 葉 已に無し

髣雲橑亂粉痕枯　　　　髣(ほう)雲(うん) 橑乱(りょうらん)し粉痕枯(ふんこんか)る

宮中羅綺輕如布　　　　宮中の羅綺(らき) 軽きこと布の如し

争得王孫見此圖　　　　争(いかで)か 王孫 此の図を見るを得んや

 

【語釈】

○蠶婦…カイコを飼う女性。○羅綺…綺麗な女性の衣服。○○橑亂…まつわりもつれる。王孫…貴族の子弟。

 

 

★    漁父圖　　　　　　　　漁父図　　　　　　　　　　　　　　  清　　僧性休

 

東西南北任遨遊　　　　東西南北 遨遊(ごうゆう)に任す

萬里長江一葉舟　　　　万里の長江 一葉の舟

夢裏不知身是客　　　　夢(む)裏(り) 知らず　身は是れ客(かく)なるを

醒來大地忽新秋　　　　醒め来れば 大地 忽(たちま)ち新秋

 

【語釈】

○遨遊…漫遊。○客…旅人。

 

 

★    釣魚圖　　　　　　　　釣魚の図　　　　　　　　　　　　　　　  元　　貢性之

 

谿樹蒼茫帶晚煙　　　　谿樹(けいじゅ) 蒼茫(そうぼう)として 晩煙を帯ぶ

谿流逆上似登天　　　　谿流 逆上して 天に登るに似たり

歸來釣得鱸魚美　　　　帰り来りて 釣り得たり 鱸魚(ろぎょ)の美

只博西窓一覺眠　　　　只だ 博(はく)す 西窓 一覚の眠(ねむり)

 

【語釈】

○蒼茫…薄暗いさま。夕暮れの色のさま。○晩煙…夕靄。○鱸魚…ケツギョ（鱖魚）と呼ばれる淡水魚。○博…手に入れる。

 

★    題老嫗騎牛吹笛圖　　　老嫗(ろうう) 牛に騎(の)りて 笛を吹く図に題す　　  明　　范　氏

 

玉環賜死馬嵬坡　　　　玉環(ぎょくかん) 死を賜う 馬嵬坡(ばかいは)

出塞昭君怨更多　　　　塞を出て 昭君 怨(うらみ) 更に多し

争似阿婆牛背穩　　　　争(いかで)か似たる 阿婆(あば)の牛(ぎゅう)背(はい)の穏(いん)

笛中不吹太平歌　　　　笛中(てきちゅう) 吹かず 太平の歌

 

【語釈】

○玉環…楊貴妃。○馬嵬坡…陝西省興平市にある地名で、唐の楊貴妃の最期の地。○昭君…王昭君。

 

 

★    背面美人圖　　　　　　背面美人の図　　　　　　　　　　　　　  宋　　韓　駒

 

睡起昭陽暗淡粧　　　　睡(すい)起(き)す 昭(しょう)陽(よう) 暗淡たる粧(よそおい)

不知緣底背斜陽　　　　知らず 底(なに)に縁り 斜陽に背くを

若教轉盼一回首　　　　若し 転盻(てんけい)して 一たび首(こうべ)を回(めぐ)さらしめば

三十六宮無粉光　　　　三十六宮 粉光 無からん

 

【語釈】

○昭陽…昭陽宮。后妃の住むところ。○轉盼…振り返る。○三十六宮…多くの宮殿。○粉光…美しい光。

 

 

★    題耿氏所藏艷畫　　　　耿(しゅう)氏(し)所蔵の艶画に題す　　　　　　　 元　　陳　旅

 

五月風生水殿涼　　　　五月 風生じて 水殿涼し

綠楊深處奏鶯簧　　　　緑(りょく)楊(よう) 深き処 鶯簧(おうこう)を奏す

佳人偏愛臨池坐　　　　佳人 偏(ひとえ)に愛す 池に臨みて坐すを

欲與荷花鬥晚妝　　　　荷(か)花(か)と 晩妝(ばんしょう)を 鬥(あらそ)わんと欲す

 

【語釈】

○耿氏…不祥。○水殿…水に臨んだ殿堂。○鶯簧…黄鶯の鳴き声。○晚妝…夜の装い。

 

 

★    宮女圖　　　　　　　　宮女図　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　髙　啓

 

女奴扶醉踏蒼苔　　　　女(じょ)奴(ど) 酔(すい)を扶(たす)けて 蒼(そう)苔(たい)を踏み

明月西園侍宴回　　　　明月 西園 宴に侍(はべ)りて回(かえ)る

小犬隔花空吠影　　　　小犬 花を隔てて空しく 影に吠ゆ

夜深宮禁有誰來　　　　夜深くして 宮禁 誰 有りてか来(きた)る

 

【語釈】

○女奴…女性の召使い。○醉…酔った宮女。○影…人影。○宮禁…宮城の大奥。

（太宗洪武帝の好色を風刺したとして腰斬の刑に処せられたという逸話のある詩）

（参考文献）　『中国詩人撰集二―１０』

 

 

★    仕女春繡圖　　　　　　仕女(しじょ) 春繡(しゅんしゅう)の図　　　　　　　　　　  明　　楊　基

 

風送楊花滿繡床　　　　風は楊花を送り 繡(しゅう)床(しょう)に満つ

飛來紫燕亦雙雙　　　　飛び来(きた)る紫燕 亦た双々(そうそう)

閑情正在停針處　　　　閑(かん)情(じょう) 正に在り 針を停むる処

笑嚼殘絨唾碧窓　　　　笑って 残絨(ざんじゅう)を嚼(しゃく)し 碧窓に唾(だ)す

 

【語釈】

○仕女…美女。○紫燕…燕の一種。越燕ともいう。○繡床…裝飾された華麗な床。○雙雙…つがいをなすさま。○閑情…もの静かな心。○殘絨…残っている刺繍糸。

 

 

★    紅綠蕉二仕女圖　　　　紅緑蕉(こうりょくしょう) 二仕女の図　　　　　　　　　　　  明　　楊　基

 

兩樹紅蕉隔禁扉　　　　両樹の紅蕉(こうしょう) 禁(きん)扉(ぴ)を隔つ

曉涼攜伴試羅衣　　　　暁(ばん)涼(りょう) 伴(とも)を携えて 羅(ら)衣(い)を試む

金鈴小犬迎人吠　　　　金鈴 小犬(しょうけん) 人を迎えて吠ゆ

應怪秋來出院稀　　　　応(まさ)に 秋 来りて 院を出ること 稀なるを 怪しむべし

 

【語釈】

○紅綠蕉…紅色と緑色の美人蕉。○仕女…美女。○禁扉…宮内の門。○羅衣…軽くて柔らかい糸で織った衣服。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～に違いない」の意。

 

 

★    折花背立二美人圖　　　花を折る背立(はいりつ)二美人の図　　　　　　　  明　　徐　賁

 

綉罷春衫出閣遲　　　　春衫(しゅんさん)を綉(ぬ)い罷(や)みて 閣を出ずること遅し

辛夷花下立多時　　　　辛夷(しんい)花下(かか) 立つこと多時

内園自是無人到　　　　内園 自(おのずか)ら 是れ 人の到る無し

不省含羞怕見誰　　　　省(かえりみ)ず 羞(しゅう)を含みて 誰かを見んことを怕(おそ)るを

 

【語釈】

○春衫…春の衣。○辛夷花…こぶしの花。○内園…宮廷内の庭園。

 

 

★    題姮娥奔月圖　　　　　姮娥(こうが)月に奔(はし)る図に題す　　　　　　　　  明　　蘭廷瑞

 

竊藥私奔計已窮　　　　薬を窃(ぬす)み 私(ひそか)に奔(はし)り 計 已に窮す

藁砧應恨洞房空　　　　藁(こう)砧(ちん) 応(まさ)に恨むべし 洞房の空(くう)

當時射日弓猶在　　　　当時 日を射(い)し 弓 猶お在り

何事無能近月中　　　　何事ぞ 能(よ)く 月中に近づく無き

 

【語釈】

○姮娥…嫦娥ともいう。夫の后羿が西王母からもらい受けた不死の薬を盗んで飲み、月に逃げ、蟾蜍（ヒキガエル）なったと伝えられる（嫦娥奔月）。○藁砧…夫の隠語。后羿のこと。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるにちがいない」。○洞房…新婚の夫婦の寝室。○當時…昔時。○射日…后羿が十箇あった太陽の九つを射落として民を救ったという伝説。

 

 

★    瑤池春宴圖　　　　　　瑶(よう)池(ち)春(しゅん)宴(えん)の図　　　　　　　　　　　　    元　　黃　溍

 

西飛青雀幾時還　　　　西に飛びし青(せい)雀(じゃく) 幾時にか還る

貝闕琳宮縹緲間　　　　貝闕(ばいけつ) 琳宮(りんきゅう) 縹緲(ひょうびょう)の間

筆底春風殊未老　　　　筆底の春風 殊に未だ老いず

蟠桃積核已如山　　　　蟠(はん)桃(とう) 積核 已に山の如し

 

【語釈】

○瑤池…伝説中の崑崙山中の地名。西王母の居所。○青雀…西王母の使者の神鳥。○貝闕…紫の貝殻で作った宮殿で河伯のいるところ。竜宮城の類い。○琳宮…道教の寺。○縹緲…遠くかすかなさま。○蟠桃…三千年に一回開花するという伝説上の桃の木。

 

 

★    仙女醉歸圖　　　　　　仙女酔帰(すいき)の図　　　　　　　　　　　　　  明　　陳景融

 

碧桃花下宴初還　　　　碧(へき)桃(とう)花下(かか) 宴 初めて還る

雲御逍遥擁侍鬢　　　　雲御(うんぎょ) 逍遥 侍(じ)鬢(びん)を擁す

兩髩天風吹不醒　　　　両髩(りょうびん) 天風 吹いて醒めず

肯教清夢落人間　　　　肯えて 清夢をして 人間(じんかん)に落とさしむ

 

【語釈】

○雲御…仙女？○侍鬢…従者？

 

 

★    馬遠放鶴圖　　　　　　馬(ば)遠(えん)の鶴を放つ図　　　　　　　　　　   元　　吴　鎮

 

載鶴輕舟湖上歸　　　　鶴を載せ 軽舟 湖上より帰る

重重樓閣鎖煙霏　　　　重々たる 楼閣 煙霏(えんぴ)に鎖さる

仙家正在幽深處　　　　仙家 正に 幽(ゆう)深(しん)の処に在り

竹裏雞聲半掩扉　　　　竹(ちく)裏(り)の雞声 半ば扉を掩う

 

【語釈】

○馬遠…宋の臨安府銭塘の人。山水、樓閣、人物、花鳥画を得意とした。○輕舟…小舟。○重重…重なり合うさま。○煙霏…霞ともや。○仙家…仙人の住む家。○幽深…もの静かで奥深い。

 

 

★    題一雁圖　　　　　　　一雁の図に題す　　　　　　　　　　　　　  明　　僧徳祥

 

萬里江湖一葉身　　　　万里の江湖 一葉(いちよう)の身

來時逢雪又逢春　　　　来時 雪に逢い 又 春に逢う

天南地北年年客　　　　天南地北 年々の客(かく)

只有蘆花似故人　　　　只だ 蘆花の 故人に似たる 有るのみ

 

【語釈】

○一葉…孤独。一つの小舟。○客…旅人。○故人…昔なじみ。

 

 

★    棠梨雙鳩　　　　　　　棠(とう)梨(り)双鳩(そうきゅう)　　　　　　　　　　　　　   明　　陳　烓

 

淡月溶溶香未殘　　　　淡月 溶々(ようよう) 香 未だ残(ざん)せず

幽禽飛上玉欄干　　　　幽禽(ゆうきん) 飛び上ぐ 玉(ぎょく)欄干(らんかん)

相呼不失雌雄好　　　　相呼びて 失わず 雌雄の好きを

喚起春耕雨滿山　　　　春耕を喚起し 雨 山に満つ

 

【語釈】

○棠梨…からなし。○淡月…おぼろ月。○溶溶…ゆったりしたさま。○殘…損なわれる。○幽禽…鳴き声が優雅な鳥。○玉欄干…玉で飾った欄干。○春耕…春の耕作。

 

 

★    題秋鷺圖　　　　　　　秋(しゅう)鷺(ろ)の図に題す　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

昨夜新霜冷釣磯　　　　昨夜 新霜 釣磯を冷やす

綠荷消瘦碧蘆肥　　　　緑(りょく)荷(か)は消痩(しょうそう)し 碧蘆(へきろ)は肥ゆ

一江秋色無人問　　　　一江の秋色 人の問う無し

盡屬風標雨雪衣　　　　尽く 風標 雨雪の衣に属す

 

【語釈】

○釣磯…魚を釣るときに腰掛ける岩石。○綠荷…緑色の蓮の葉。○消瘦…やせ衰える。○碧蘆…緑色のアシ。○秋色…秋景色。秋の気配。○風標…外側に現れた風雅なおもむき。

 

 

★    題雙雀梅花扇　　　　　双雀(そうじゃく)梅花(ばいか)の扇に題す　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

東厨殘食競飢鴉　　　　東厨の残食 飢(き)鴉(あ)競(きそ)う

西舎飽蜂喧晩衙　　　　西舎の飽(ほう)蜂(ほう) 晩衙(ばんが)に喧(かまびす)し

豈是中庭無滯穂　　　　豈に是れ 中庭 滞(たい)穂(すい)無からん

皎然雙雀坐梅花　　　　皎(こう)然(ぜん)たる双雀 梅花に坐す

 

【語釈】

○晩衙…長官の夕方の勤務場所。○滯穂…落ち穂。○皎然…明らかなさま。

 

 

★    錢蕣擧禾鼠　　　　　　銭蕣挙禾鼠　　　　　　　　　　　  元　　袁　桷

 

七尺長身媿負多　　　　七尺の長身 媿(き)負(はい)多し

清時空食幾囷禾　　　　清時 空食す 幾囷禾(いくきんか)

営営倉鼠纔分寸　　　　営々たる倉(そう)鼠(そ) 纔(わずか)に分寸

不奈詩人総譴訶　　　　奈(いかん)ともせず 詩人の総譴訶(そうけんか)

 

【語釈】

○媿負…愧負。羞じること。○清時…太平の世。○空食…空しく職禄を食むこと。○囷禾…米倉の米。○営営…激しく動くこと。○倉鼠…米倉の鼠。○分寸…微少なことの喩え。○譴訶…呵ること。

 

 

★    和張規臣水墨梅　　　　張(ちょう)規(き)臣(しん)の水墨梅に和す　　　　　　　　  宋　　陳與義

 

自讀西湖處士詩　　　　自(みずか)ら読む 西湖処士の詩

年年臨水看幽姿　　　　年々 水に臨み 幽姿を看る

晴窗畫出橫斜影　　　　晴窓 画き出だす 横斜の影

絕勝前村夜雪時　　　　絶勝 前村 夜雪の時

 

【語釈】

○張規臣…不祥。○西湖處士…林逋。○幽姿…幽雅な姿態。○橫斜…斜めになっている梅の枝。林逋「山園小梅」。○絕勝…非常に良い眺め。

 

 

★    題梅月圖　　　　　　　梅月図に題す　　　　　　　　　　　　　　  明　　周　瑛

 

孤山處士舊時家　　　　孤山処士 旧時の家

門巷深深一徑斜　　　　門巷 深々として 一径斜なり

惆悵詩魂呼不醒　　　　惆悵(ちゅうちょう)す　詩魂　呼べども醒めず

只留明月照梅花　　　　只だ 明月を留め 梅花を照すを

 

【語釈】

○孤山処士…林逋。○門巷…家門と街巷。○惆悵…嘆き悲しむ。○詩魂…詩人の亡魂。

 

 

★    題梅月圖　　　　　　　梅月図に題す　　　　　　　　　　 　　 明　　秦　旭

 

孤山山上月明多　　　　孤山 山上 月明多し

長憶西湖瑪瑙坡　　　　長く憶う 西湖の瑪瑙坡(ばどうは)

安得扁舟吹短笛　　　　安(いず)くんぞ 扁舟を得て 短笛を吹き

梅花香裏一經過　　　　梅花(ばいか)香(こう)裏(り) 一たび経過せん

 

【語釈】

○孤山…浙江省西湖にある山。林逋隠棲の地。○瑪瑙坡…西湖の南岸に位置する堤。蘇軾が愛した場所。○安…「いずくんぞ～せん」と読み、「何とかして～したいものだ」の意。○扁舟…小舟。

 

　　　

★    宋徽宗畫半開梅　　　　宋の徽宗(きそう)の画 半開の梅　　　　　　　  明　　張　迪

 

上皇朝罷酒初酣　　　　上皇 朝(ちょう) 罷(や)みて 酒 初めて酣(たけなわ)なり

寫出梅花蕊半含　　　　写し出す 梅花 蕊(しん) 半(なか)ば含む

惆悵汴宮春去後　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 汴宮(べんきゅう) 春 去りて後

一枝流落到江南　　　　一枝 流落して 江南に到るを

 

【語釈】

○徽宗…宋の六代目皇帝。政治的には無能であったが書画の才に優れ、北宋最高の芸術家の一人と言われる。○上皇…徽宗。○朝…朝廷の政治。○惆悵…嘆き悲しむ。○汴宮…汴京（河南省開封市）北宋の首都の宮。○春去後…北宋の滅亡（靖康の変）。

 

 

★    墨菜　　　　　　　　　墨(ぼく)菜(さい)　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　顧蕣擧

 

朱門盡日多珍味　　　　朱門 尽日 珍味多し

貧士窮年秖采羹　　　　貧士 窮(きゅう)年(ねん) 秖(た)だ采(さい)羹(かん)

請語當朝肉食者　　　　請いて語る 当朝 肉食の者

由来此色在蒼生　　　　由来 此の色 蒼生(そうせい)に在りと

 

【語釈】

○墨菜…墨絵の野菜。○朱門…貴族の家。貴族。○采羹…野菜のあつもの。○当朝…元王朝。○由来…従来。○蒼生…人民。

 

 

★    畫松　　　　　　　　　画松　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　景　雲

 

畫松一似真松樹　　　　画松 一(いつ)に 真の松樹に似る

且待尋思記得無　　　　且(しばら)く待ち 尋思(じんし) 記得するや無(いな)や

曾在天台山上見　　　　曽って 天台山上に在りて 見る

石橋南畔第三株　　　　石橋(せききょう)南畔(なんぱん) 第三株

 

【語釈】

○一…真に。○尋思…物事を尋ね極めて考える。○記得…覚える。○天台山…浙江省東部の天台県の北方にある霊山。○石橋…天台山の「石梁飛瀑」と呼ばれる滝の上に架かる自然の石橋。

 

 

★    鄭克剛雙松圖　　　　　鄭(てい)克(かつ)剛(ごう)の双松の図　　　　　　　　　　   元　　黃鎮成

 

老榦懸霜紫翠分　　　　老榦(ろうかん) 霜を懸け 紫(し)翠(すい)分る

一山風雨半空聞　　　　一山の風雨 半空(はんくう)に聞く

携琴欲掃苔根石　　　　琴を携え 掃(はら)わんと欲す 苔(たい)根石(こんせき)

爲寫秋聲寄白雲　　　　為に 秋声を写し 白雲に寄す

 

【語釈】

○鄭克剛…鄭克。河南省開封の人。徽宗宣和六年の進士。○半空…空中。○苔根石…苔むした石。○秋聲…秋の気配を感じさせる風や葉の音。

 

 

★    題柯博士墨竹　　　　　柯(か)博士(はかせ)の墨竹に題す　　　　　　　　　  元　　陳　旅

 

京洛緇塵染素衣　　　　京洛(けいらく)の緇(し)塵(じん) 素衣を染む

故園清夢苦相思　　　　故園の清夢 苦(ねんごろ)に相思う

歸來無限江南意　　　　帰り来りて 限り無し 江南の意

寫作春風暮雨枝　　　　写し作(な)す 春風 暮雨の枝

 

【語釈】

○柯博士…不祥。○墨竹…墨絵の竹。○京洛…帝京。○緇塵…俗世間の汚れた塵。○素衣…白色の衣服。○故園…故郷。○清夢…美しい夢。○江南…長江中下流の南岸地方。

 

 

★    題趙松雪畫竹　　　　　趙松雪の画竹に題す　　　　　　　　　　  元　　林延模

 

滿湘寫出一枝春　　　　満湘(まんしょう) 写し出(いだ)す 一枝の春

宋代王孫茟意新　　　　宋代の王孫 茟(いつ)意(い) 新たなり

見説清風更千畝　　　　説(と)くを見る 清風 更に千畝

結茅還可避胡塵　　　　茅に結び 還(ま)た 胡塵を避くべし

 

【語釈】

○趙松雪…趙孟頫。南宋から元にかけての政治家・文人（書家、画家）。宋の皇族出身であるが、元のフビライ（世祖）に召され、以後5代の皇帝に仕えた。趙孟頫は書道史上最高峰とされる「六如居士帖」を残し、その書風は「趙体」と呼ばれる。○王孫…貴族の子弟。趙孟頫のこと。○茟意…画の雰囲気。○結茅…茅葺きの粗末な家に住む。○胡塵…異民族の塵。

 

 

★    畫竹　　　　　　　　　画竹　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　徐　渭

 

昨夜窓前風月時　　　　昨夜 窓前 風月の時

數竿疏影響書幃　　　　数(すう)竿(かん)の疏(そ)影(えい) 書幃(しょい)に響く

今朝榻向溪藤上　　　　今朝 榻(とう) 渓藤の上に向(お)いて

猶覺秋聲筆底飛　　　　猶お覚ゆ 秋声 筆底に飛ぶを

 

【語釈】

○數竿…数本の竹。○疏影…疎らな影。○書幃…書斎のとばり。○秋声…秋の気配を感じさせる風や葉などの物音。

 

 

★    海棠圖　　　　　　　　海棠の図　　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　基

 

沈香亭北繞欄裁　　　　沈香亭北 欄を繞(めぐ)りて裁(た)つ

曽藉花奴羯鼓催　　　　曽て 花奴 羯(かっ)鼓(こ) 催すに藉(か)る

今夜不須銀燭照　　　　今夜 須(もち)いず 銀燭の照すを

待他明月上枝來　　　　待(じ)他(た)の明月 枝に上りて来る

 

【語釈】

○沈香亭…長安にあった興慶宮内の宮殿。○花奴…唐の玄宗の時の汝南王李璡。羯鼓を打つのが得意であった。○羯鼓…打楽器の一種。

 

 

★    剪菊圖　　　　　　　　剪(せん)菊(きく)の図　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳　顥

 

西風三逕近秋期　　　　西風 三径 秋期に近し

閒看山童理菊枝　　　　閑かに 山童を看て 菊枝を理す

浪蘂浮花都剪却　　　　浪(ろう)蘂(しん)浮(ふ)花(か) 都(すべ)て剪却(せんきゃく)す

剛留幾朶傲霜姿　　　　剛留(ごうりゅう) 幾朶(いくだ) 霜に傲(おご)る姿

 

【語釈】

○西風…秋風。○三逕…隠者の庭園。○浪蘂浮花…尋常の花草。○剪却…剪りとる。却は助字。○剛留…強く留まる。○傲霜…寒霜に屈しない。

 

 

★    月下蒲萄圖　　　　　　月下蒲萄の図　　　　　　　　　　　　　　  明　　周　旋

 

驪龍飛出水精宮　　　　驪(り)竜(りゅう) 飛出す 水(すい)精宮(しょうきゅう)

嫋嫋長鬚翠拂風　　　　嫋々(じょうじょう)たる長鬚(ちょうひん) 翠風(すいふう)を払う

亂吐珊瑚千萬顆　　　　乱吐(らんと)す 珊瑚(さんご) 千万顆(せんまんか)

夜深高挂月明中　　　　夜深くして 高く挂(か)く 月明の中(うち)

 

【語釈】

○驪龍…龍の一種。○水精宮…伝説中の竜王の宮殿。○嫋嫋…しなやかで美しいさま。

 

　

 

絶句類選標本　十

絶句類選　巻之二十一　　詠物類           

 

★    曉日　　　　　　　　　暁(ぎょう)日(じつ)　　　　　　　　　　　　　　　　   唐     韓 偓

 

天際霞光入水中　　　　天際の霞光(かこう) 水中に入る

水中天際一時紅　　　　水中の天際 一時に紅なり

直須日觀三更後　　　　直ちに 日(にっ)観(かん) 三更の後を須(も)って

首送金烏上碧空　　　　首(はじ)めて 金烏を送りて 碧空に上る

 

【語釈】

○曉日…朝日。○天際…水平線、地平線。○霞光…朝焼け。○日觀…日觀峰。泰山の峰の一つで，朝日の美しい名所。○三更…真夜中。○金烏…太陽。

 

★    夕陽　　　　　　　　　夕陽(せきよう)　　　　　　　　　　　　　　　　   唐     韓 偓

 

花前灑淚臨寒食　　　　花前 涙を灑(そそ)ぎて 寒食に臨む

醉裏回頭問夕陽　　　　酔(すい)裏(り) 頭(こうべ)を回(めぐ)らして 夕陽(せきよう)に問う

不管相思人老盡　　　　管(かん)せず 相思の人 老尽くして

朝朝容易下西牆　　　　朝々(ちょうちょう) 容易に 西牆(せいしょう)を下る

 

【語釈】

○寒食…冬至から百五日目。この日の前後三日間は火を使わない習慣があった。○朝朝…毎日。

 

 

★    皓月　　　　　　　　　皓(こう)月(げつ)　　　　　　　　　　　　　　　  明    祝允明

 

玉田金界夜如年　　　　玉田(ぎょくでん)の金界 夜 年の如し

大地人間事幾千　　　　大地 人間(じんかん) 事 幾千

萬籟蕭蕭微不辨　　　　万籟(ばんらい) 蕭々(しょうしょう) 微(かす)かにして弁ぜず

露繁霜重月盈天　　　　露 繁くして 霜 重く 月 天に盈(み)つ

 

【語釈】

○皓月…明月。○玉田…田園の美称。○金界…仏寺。○年…年々。○人間…人間社会。○萬籟…いろいろな物音。○蕭蕭…物寂しい音の形容。

 

 

★    春月　　　　　　　　　春月　　　　　　　　　　　　　　　　  金    呂中孚

 

栁塘漠漠暗啼鴉　　　　栁塘(りゅうとう) 漠々(ばくばく) 啼鴉(ていあ)暗し

一鏡晴飛玉有華　　　　一鏡 晴に飛び 玉 華(か)有り

好是夜䦨人不寐　　　　好し是れ 夜(や)䦨(らん) 人 寐(いね)ず

半庭寒影在梨花　　　　半庭の寒影 梨花に在り

 

【語釈】

○栁塘…柳を植えた堤。○漠漠…広々として果てしないさま。○一鏡…月のこと。○夜䦨…夜が尽きようとしているとき。○半庭…庭の半分。

 

 

★    新月応制　　　　　　　新月 応制(おうせい)　　　　　  　　　　　　　　　　宋    盧多遜

 

太液池邊看月時　　　　太(ふとし)液(えき)池辺(ちへん) 看月の時

好風吹動萬年枝　　　　好風 吹き動かす 万年の枝

誰家玉匣開新鏡　　　　誰が家の玉匣(ぎょくこう)か 新鏡を開き

露出清光些子兒　　　　露出せん 清光 些子児(さしじ)

 

【語釈】

○応制…皇帝の命令で作った詩。○太液池…長安の大明宮にあった池の名。○玉匣…玉で飾った小箱。○些子兒…少しだけ。

（「些子兒」を用いて作れと命ぜられて作った詩）

 

 

★    新月　　　　　　　　　新月　　　　　　　　　　　　　　　　　  清    莊素磐

 

簾捲西風小院門　　　　簾は西風を捲く 小院の門

玉階涼動近黃昏　　　　玉階 涼は動き 黄昏(こうこん)に近し

蛾眉一曲橫天平　　　　蛾(が)眉(び) 一曲 天平(てんぺい)に横わる

疑是嫦娥指爪痕　　　　疑らくは 是れ 嫦娥(じょうが) 指(し)爪(か)の痕かと

 

【語釈】

○西風…秋風。○小院…小さな庭。○玉階…玉のきざはし。○黄昏…たそがれ時。○蛾眉…眉のような三日月。○一曲…三日月の曲がったさま。○天平…地平線上。○嫦娥…夫の后羿が西王母からもらい受けた不死の薬を盗んで飲み、月に逃げ、蟾蜍（ヒキガエル）なったと伝えられる（嫦娥奔月）。

 

★    八月十四夜　　　　　　八月十四夜　　　　　　　　　　　　　　  宋     孫 復

 

銀漢無聲露暗垂　　　　銀漢 声無く 露 暗く垂る

玉蟾初上欲圓時　　　　玉蟾(ぎょくたん) 初めて上り 円(まどか)ならんと欲する時

清樽素瑟宜先賞　　　　清(せい)樽(そん) 素瑟(そひつ) 宜しく 先に賞すべし

明夜陰晴不可知　　　　明夜 陰晴 知るべからず

 

【語釈】

○銀漢…銀河。○玉蟾…月。○清樽…清酒。○宜…「よろしく～すべし」と読み「～するのが良い」の意。○素瑟…大琴。○明夜…明日の夜。○陰晴…曇りか晴れか。

 

 

 

 

★    十五夜望月　　　　　　十五夜月を望む　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

中庭地白樹棲鴉　　　　中庭 地白くして 樹 鴉を棲ましめ

冷露無聲濕桂花　　　　冷露 声無く 桂花を湿す

今夜月明人盡望　　　　今夜 月明 人 尽く望む

不知秋思在誰家　　　　知らず 秋思 誰が家にか在る

 

【語釈】

○望月…月を眺めて楽しむこと。中庭…母屋の正面にある庭。棲…ねぐらにつく。冷露 …冷やかな露。桂花…木犀の花。秋思…秋の思いにふけっている人。

（参考文献）　『唐詩選』

 

 

★    中秋月　　　　　　　　中秋の月　　　　　　　　　　　　　  唐　　成彦雄

 

王母粧成鏡未收　　　　王母 粧(しょう)成りて 鏡 未だ収めず

倚欄人在水精樓　　　　欄に倚(よ)る人は 水(すい)精楼(しょうろう)に在り

笙歌莫占清光盡　　　　笙歌 清光を 占め尽くす莫かれ

留與溪翁一釣舟　　　　留与(りゅうよ)せよ 渓翁の 一釣舟に

 

【語釈】

○王母…西王母。○水精樓…水晶で飾った楼。○笙歌…吹笙唱歌。○留與…分け与えてやる。

 

 

★    中秋月　　　　　　　　中秋の月　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

暮雲收盡溢清寒　　　　暮雲 収まり尽くして 清寒(せいかん)溢(あふ)る

銀漢無聲轉玉盤　　　　銀漢(ぎんかん) 声無く 玉盤(ぎょくばん)転ず

此生此夜不長好　　　　此の生 此の夜 長(とこし)えに好からず

明月明年何處看　　　　明月 明年 何れの処にか看ん

 

【語釈】

○清寒…晴朗な寒気。○銀漢…銀河。○玉盤…月。

（参考文献）『漢詩大系　１７』

 

 

★    中秋月　　　　　　　　中秋の月　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　文　同

 

隔林灔灔生寒浪　　　　林を隔てて 灔々(えんえん) 寒浪生ず

倚漢岧岧數亂峰　　　　漢に倚(よ)り 岧々(ちょうちょう) 乱峰を数う

記得舊山曾此夕　　　　記し得たり 旧山 曽て此の夕

碧巖千尺坐高松　　　　碧巌 千尺 高松に坐すを

 

【語釈】

○灔灔…なみなみと満ちるさま。○漢…銀河。○岧岧…山の高いさま。○記得…はっきりと記憶している。

 

 

★    中秋月　　　　　　　　中秋の月　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　白玉蟾

 

千崖爽氣已平分　　　　千崖の爽(そう)気(き) 已に平分(へいぶん)

萬里青天輾玉輪　　　　万里の青天 玉輪を輾(てん)ず

好向錢塘江上望　　　　好し 銭塘(せんとう)江上(こうじょう)に向(お)いて 望まん

相逢都是廣寒人　　　　相逢うは 都(すべ)て是れ 広(こう)寒(かん)の人

 

【語釈】

○平分…平等に分ける。○玉輪…月。○錢塘江…浙江の下流域。○廣寒…伝説で月にあるとされる広寒宮。

 

 

★    中秋無月　　　　　　　中秋無月　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

撲地癡雲欲萬重　　　　地を撲つ痴雲 万重ならんと欲す

家家簾幙護房櫳　　　　家々(かか)の簾幙(れんばく) 房櫳(ぼうりゅう)を護る

世間第一無情物　　　　世間 第一 無情の物

誰似中秋雨與風　　　　誰か似たる 中秋の雨と風に

 

【語釈】

○中秋…旧暦八月十五日。○癡雲…停滞して動かない雲。○簾幙…簾と幕。○房櫳…部屋。

 

 

 

 

★    中秋無月　　　　　　　中秋無月　　　　　　　　　　　　　  金　　敏　之

 

佳辰無物慰相思　　　　佳辰(かしん) 物の相思(そうし)を 慰むる無く

先賞空吟昨夜詩　　　　先ず賞し 空吟す 昨夜の詩

莫怪更深仍坐待　　　　怪しむこと莫かれ 更に深くして 仍(すなわ)ち坐待(ざじ)するを

密雲或有暫開時　　　　密雲 或いは 暫(しばら)く開く時 有らん

 

【語釈】

○中秋…旧暦八月十五日。○佳辰…吉日、ここでは旧暦八月十五日。○相思…いろいろな物思い。○坐待…坐って待つ。

 

 

★    春風　　　　　　　　　春風 　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　李孝光

 

春風隨處作春晴　　　　春風 随処 春晴を作(な)す

楊柳依依綠未成　　　　楊柳 依々(いい)として 緑 未だ成らず

昨夜池塘新雨足　　　　昨夜 池塘 新雨足り

蛙聲剛亂讀書聲　　　　蛙声(けいせい) 剛(ごう)乱(らん)す 読書の声

 

【語釈】

○依依…細くなよなよしているさま。

 

 

★    秋風　　　　　　　　　秋風　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

黄葉蕭蕭忽滿街　　　　黄葉(こうよう) 蕭々(しょうしょう)として 忽(たちま)ち街に満つ

獨騎瘦馬豫章臺　　　　独り 痩(そう)馬(ば)に騎(の)る 予(よ)章(しょう)台(だい)

莫將宋玉心中事　　　　宋(そう)玉(ぎょく)を将(も)って 心中の事を

吹向潘郎鬢上來　　　　吹いて 潘郎(はんろう)鬢上(びんじょう)に 向って来たること莫かれ

 

【語釈】

○蕭蕭…風や木の葉などの物寂しいさま。○豫章臺…江西省南昌市南昌県。○宋玉…戦国時代末期の楚の文人で、屈原の弟子とも後輩ともいわれる。代表作に「九弁」「高唐賦」「神女賦」などがある。

 

 

★    秋風　　　　　　　　　秋風　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

青蘋江上響瀟瀟　　　　青蘋(せいひん) 江上 響(ひびき) 瀟々(しょうしょう)

吹得林間萬葉飄　　　　吹き得て 林間 万葉飄える

何處凄凉最闗别　　　　何れの処か 凄(せい)涼(りょう) 最も闗别(かんべつ)たる

數株殘栁灞陵橋　　　　数株の残栁 灞(は)陵(りょう)橋(きょう)

 

【語釈】

○青蘋…青いうきくさ。○瀟瀟…雨風の寂しい音のさま。○万葉…多くの葉。○凄凉…ものさびしい。いたましい。○殘栁…昔に植えられた柳の中でわずかに残っている物。○灞陵橋…長安から東に向かって流れる灞水に架かっており、唐代に建設されたもの。

 

 

★    秋風　　　　　　　　　秋風　　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　若　華

 

滿耳蕭騷夢不成　　　　満耳(まんじ)の蕭騒(しょうそう) 夢 成らず

殘雲涼月夜悽清　　　　残雲 涼月 夜に悽(せい)清(せい)

等閑吹落長林葉　　　　等閑(とうかん)に吹き落とす 長林の葉

雜入千家擣練聲　　　　雑に入る 千家 練(れん)を擣(つ)く声

 

【語釈】

○蕭騷…風に吹かれる樹木の音の形容。○涼月…秋月。○悽清…もの悲しく寂しいさま。○等閑…なんとはなしに。○練…ねりぎぬ。

 

 

★    風止　　　　　　　　　風止む　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

收盡狂飆捲盡雲　　　　狂飆(きょうひょう)を収(しゅう)尽(じん)して 尽(じん)雲(うん)を捲く

一竿晴日曉光新　　　　一(いっ)竿(かん)の晴日 暁光新たなり　

柳魂花魄都無恙　　　　柳(りゅう)魂(こん) 花魄(かはく) 都(すべ)て恙(つつが)無(な)し　

依舊商量作好春　　　　旧に依(よ)る商量 好春を作(な)す

 

【語釈】

○狂飆…非常に強い暴風。○一竿…竿ひとつくらいの高さ。○柳魂…柳の魂。○花魄…花の魂。○依舊…もとのままの。○商量…考えはかること。

 

 

★    雲　　　　　　　　　　雲　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　來　鵬

 

千形萬象竟還空　　　　千形 万象 竟(つい)に空(くう)に還る

映水藏山片復重　　　　水に映じ 山を蔵し 片復た重(ちょう)

無限旱苗枯欲盡　　　　無限の旱(かん)苗(びょう) 枯れて尽きんと欲す

悠悠閑處作奇峰　　　　悠々(ゆうゆう)として 閑かなる処 奇峰を作す

 

【語釈】

○千形萬象…宇宙間一切の事物、景象。○旱苗…干ばつ中の苗。○悠悠…他と関わりなくゆったりしたさま。

 

 

★    雲　　　　　　　　　　雲　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　郭　震

 

聚散虛空去復還　　　　聚散(しゅうさん) 虚空(きょくう) 去りて復(ま)た還る

野人閑處倚筇看　　　　野人 閑(かん)処(しょ) 筇に倚りて看る

不知身是無根物　　　　知らず 身は是れ 無根の物

蔽月遮星作萬端　　　　月を蔽い 星を遮り 万端を作(な)す

 

【語釈】

○聚散…集まり散じること。○虛空…空中。○野人…郊外に住んで官職に就かない人。○閑處…家で閑かに暮らすこと。○無根…根がなくて行方が定まらないもの。○萬端…携帯がさまざまで定まらないさま。

 

 

★    曉雲次子端韻　　　　　暁(ぎょう)雲(うん) 子端(したん)の韻に次す　　　　　　　　　  金　　党懷英

 

灤溪經雨浪生花　　　　灤渓(らんけい) 雨を経て 浪 花を生ず

曉碧翻光漾曉霞　　　　暁(ぎょう)碧(へき) 光を翻えし 暁霞(ぎょうか)漾(ただよ)う

川上風煙無定態　　　　川上の風煙 定態(ていたい)無く

盡供新意與詩家　　　　尽(ことごと)く 新意を供して 詩家に与う

 

【語釈】　　

王庭筠。金代の文人。遼陽府蓋州熊岳県の人。詩文書画に通じ、書法は米芾に学んで金代第一と称される。また山水墨竹をよくした。○次…次韻して作った詩。○灤溪…渓の名。不祥。○曉碧…曉の緑色。○曉霞…朝焼け。○風煙…風と靄。○定態…定まった姿。

 

　　　

★    孤雲　　　　　　　　　孤雲　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　喬

 

舒卷因風何所之　　　　舒巻(じょけん) 風に因(よ)りて 何れの所か之なる

碧天孤影勢遲遲　　　　碧天の孤影 勢 遅々たり

莫言長是無心物　　　　言う莫かれ 長きは是れ 無心の物と

還有隨龍作雨時　　　　還(かえ)って 竜に随って 雨を作(な)す時 有り

 

【語釈】

○舒卷…展開したり巻いたりすること。

 

 

★    夏雲　　　　　　　　　夏雲　　　　　　　　　　　　　　  宋　　余　靖

 

如峯如火復如綿　　　　峯の如く 火の如く 復(ま)た綿の如し

飛過微陰落檻前　　　　飛び過ぐ微陰 檻前(かんぜん)に落つ

大地生靈枯欲盡　　　　大地の生霊 枯れて尽きんと欲す

不成霖雨漫遮天　　　　霖雨と成らず 漫(みだり)に天を遮る

 

【語釈】

○微陰…稀薄な雲の影。○檻前…欄干の前。○生霊…生命。○霖雨…恵みの長雨。

 

 

★    晚霞　　　　　　　　　晩霞　　　　　　　　　　　　　  　　　  宋　　朱　熹

 

日落西南第幾峰　　　　日は落つ 西南 第幾峰

斷霞千里抹殘紅　　　　断霞 千里 残紅抹す

上方傑閣憑欄處　　　　上方の傑閣 欄に憑る処　

欲盡餘暉怯晚風　　　　尽きんと欲する 余暉 晩風に怯ゆ

 

【語釈】

○第幾峰…多くの峰々。○斷霞…切れ切れの霞。○残紅…餘暉、夕焼け。○上方…寺院。

 

 

★    曉霧　　　　　　　　　暁(ぎょう)霧(む)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

不知香霧濕人鬚　　　　知らず 香霧の 人(じん)鬚(びん)を湿(うるお)すを

日照鬚端細有珠　　　　日は 鬚端(びんたん)を照らし 細く珠有り

政是春山眉樣翠　　　　政(まさ)に是れ 春山(しゅんざん) 眉(び)様(よう)の翠(すい)

被渠淡粉作糊塗　　　　渠に淡(たん)粉(ふん)せられて 糊塗(こと)と作(な)る

 

【語釈】

○香霧…香りを含んだ霧。○眉樣…画眉のようなさま。○淡粉…淡く分断される。○糊塗…模糊たるありさま。

 

 

★    水村霧　　　　　　　　水村の霧　　　　　　　　　　　　　　  宋　　白玉蟾

 

淡處還濃綠處青　　　　淡処 還って濃く 緑処は青なり

江風吹作雨毛腥　　　　江風 吹いて 雨毛 腥(せい)と作す

起從水面縈層嶂　　　　水面に従って起り 層嶂(そうしょう)を縈(めぐ)る

恍似簾中見畫屏　　　　恍として似たり 簾中 画屏(がへい)を見るに

 

【語釈】

○雨毛…細雨。○縈層…層状に重なりあう山峰。○恍…ぼんやりしてはっきりしない。○畫屏…画が書かれた屏風。

 

 

 

★    雨　　　　　　　　　　雨　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

連雲接塞添迢遞　　　　雲に連なり 塞(さい)に接して 迢逓(じょうてい)を添え

灑幕侵燈送寂寥　　　　幕に灑(そそ)ぎ 灯を侵して 寂寥(せきりょう)を送る

一夜不眠孤客耳　　　　一夜眠らず 孤客(こかく)の耳

主人窗外有芭蕉　　　　主人の窓外に 芭蕉有り

 

【語釈】

○迢遞…遠く遙かなさま。○寂寥…ひっそりとして寂しいさま。○孤客…独り旅の人。○主人…宿を貸してくれた人。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

 

★    春雨　　　　　　　　　春雨　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

却是春殘景更佳　　　　却って是れ 春残 景 更に佳(よ)し

詩人須記許生涯　　　　詩人 須(すべから)く記すべし 許(こ)の生涯

平田漲綠村村麥　　　　平田 緑を漲らす 村(そん)々(そん)の麦

嫩水浮紅岸岸花　　　　嫩(どん)水(すい) 紅を浮かぶ 岸(がん)々(がん)の花

 

【語釈】

○春殘…春が将に尽きようとしているとき。○嫩水…春の水。

 

 

★    春雨　　　　　　　　　春雨　　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　徐　璣

 

柳着輕黄欲染衣　　　　柳は軽黄(けいおう)を着し 衣を染めんと欲す

汀沙漠漠草菲菲　　　　汀沙(ていさ) 漠々(ばくばく) 草 菲々(ひひ)

曉風吹斷寒煙碧　　　　暁風 吹断(すいだん)して 寒煙 碧なり

無數鴛鴦溪上飛　　　　無数の鴛鴦(えんおう) 渓上に飛ぶ

 

【語釈】

○輕黄…淡黄。柳の芽。○汀沙…渚の砂。○漠漠…平らに連なっているさま。○菲菲…草木の茂るさま。○吹斷…吹きちぎる。○寒煙…寒冷な煙霧。

 

 

★    春雨　　　　　　　　　春雨　　　　　　　　　　　　　　　  清　　湯闊祖

 

一夜聲喧客夢搖　　　　一夜 声 喧(かまびす)しくして 客夢(かくむ)揺ぐ

春風送雨響瀟瀟　　　　春風 雨を送りて 響 瀟々(しょうしょう)たり

不知新水添多少　　　　知らず 新水 添うこと 多少なるを

漁艇都撐進板橋　　　　漁艇 都(すべ)て 撐(ささ)え 板橋(はんきょう)に進む

 

【語釈】

○客夢…旅中の夢。○瀟瀟…風雨の音の物寂しいさま。○多少…どのくらいか。

 

 

★    長安春雨　　　　　　　長安春雨　　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

兼風颯颯灑皇州　　　　風を兼ねて 颯々(さつさつ) 皇州に灑(そそ)ぐ

能滯輕寒阻勝遊　　　　能(よ)く軽寒を滞め 勝遊(しょうゆう)を阻む

半夜五侯池館裏　　　　半夜 五侯 池館の裏(うち)

美人驚起爲花愁　　　　美人驚起し 花の為に愁う

 

【語釈】

○颯颯…雨の降るさま。○皇州…帝都長安。○輕寒…微寒。○勝遊…遊覧しようとする決意。○半夜…真夜中。○五侯…公侯伯子男の貴族。

 

 

★    雷雨　　　　　　　　　雷雨　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

海激天飜電雹嗔　　　　海は激し 天は飜(ひるが)えり 電雹(でんぴょう) 嗔(いか)る

蒼松十丈劈爲薪　　　　蒼(そう)松(しょう) 十丈 劈(さ)けて薪と為る

須臾龍卷他山去　　　　須臾(しゅゆ)にして 竜巻 他山に去り

誤殺田頭望雨人　　　　誤って殺す 田頭(でんとう) 雨を望む人

 

【語釈】

○電雹…雷に伴うひょう。○須臾…またたくまに。○田頭…他のほとり。

 

 

★    甘雨應祈　　　　　　　甘雨 祈に応ず　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

晚稻成苞未肯肥　　　　晩稲 苞(ほう)を成し 未だ肯えて肥えず

鵓鳩啼曉雨來時　　　　鵓(ぼつ)鳩(きゅう) 暁に啼いて 雨来る時

黄紬被冷初眠覺　　　　黄紬(こうしゅう) 被冷にして 初めて 眠 覚め

先向芭蕉葉上知　　　　先ず 芭蕉に向(お)いて 葉上に知る

 

【語釈】

○晚稻…晩熟の稲。○鵓鳩…鳥の一種。雨の前に啼くと言われる。○黄紬…黄色い絹織物。

 

 

★    甘雨應祈　　　　　　　甘雨 祈に応ず　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

終日雖蒙霢霂沾　　　　終日 霢霂(ばくぼく)の沾(うるお)いを 蒙ると雖も

浥塵終恨太廉纖　　　　塵を浥(うるお)す終恨 太だ廉繊(れんせん)

今朝健起巡檐看　　　　今朝 健起し 檐(ひさし)を巡(めぐ)りて看れば

恰似廬山看水簾　　　　恰も似たり 廬山(ろざん) 水簾を看るに

 

【語釈】

○霢霂…小雨。○廉纖…微細。○廬山…江西省九江市にある名山。○水簾…瀑布。

　　　

 

★    初秋暮雨　　　　　　　初秋暮雨　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

禾穟輕黄尚淺青　　　　禾穟(かすい) 軽黄(けいおう)にして 尚お浅青

村舂已報隔林聲　　　　村舂 已に報ず 林を隔つる声

忽驚暮色翻成曉　　　　忽ち驚く 暮色 翻りて暁と成るを

仰見雙虹雨外明　　　　仰ぎ見れば 双虹(そうこう) 雨外に明らかなり

 

【語釈】

○禾穟…稲穂。○輕黄…淡黄。○村舂…村中で春米を搗く音。○暮色…夕方の薄暗い空の色。

 

 

★    秋雨　　　　　　　　　秋雨　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

濕侵團扇不能輕　　　　湿りて団扇(だんせん)を侵し 軽くする能わず

冷逼孤燈分外明　　　　冷は孤灯に逼(せ)まり 分外に明かなり

蕉葉半黄荷葉碧　　　　蕉(しょう)葉(よう)は半ば黄ばみ 荷(か)葉(よう)は碧(みどり)

兩家秋雨一家聲　　　　両家の秋雨 一家の声

 

【語釈】

○團扇…うちわ。○分外…特別。○蕉葉…芭蕉の葉。○荷葉…蓮の葉。

 

 

 

★    雨聲                 雨声　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　元　稹

 

風吹竹葉休還動　　　　風 竹葉を吹きて 休 還(ま)た 動

雨點荷心暗復明　　　　雨 荷(か)心(しん)に点じて 暗 復(ま)た 明

曾向西江船上宿　　　　曽って 西江に向(お)いて 船上に宿す

慣聞寒夜滴篷聲　　　　聞くに慣れたり 寒夜 篷(とま)に滴(した)たる声

 

【語釈】

○西江…不確定。○篷…船の窓。

 

 

★    聽雨　　　　　　　　　　雨を聴く　　　　　　　　　　　　　  唐　　司空圖

 

半夜思家睡裏愁　　　　半夜 家を思い 睡(すい)裏(り)に愁う

雨聲落落屋簷頭　　　　雨声 落々(らくらく) 屋簷(おくえん)の頭(ほとり)

照泥星出依前黑　　　　泥を照らす星 出でて 前に依りて黒し

淹爛庭花不肯休　　　　爛庭(らんてい)の花を淹い 肯(あ)えて休(や)まず

 

【語釈】

○半夜…真夜中。○睡裏…眠っているうち。○落落…まばらなさま。物寂しいさま。○屋簷…家ののき。

 

 

 

 

★    聽雨　　　　　　　　　聴雨　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　荘廷延

 

梅花風裏雨霏霏　　　　梅花風裏 雨 霏々(ひひ)たり

人卧空堂静掩扉　　　　人は 空堂に卧し 静かに扉を掩(おお)う

一夜滄浪亭畔水　　　　一夜 滄浪亭(そうろうてい)畔(はん)の水

料應陡没釣魚磯　　　　料るに 応に 陡(そばだ)ち 釣魚(ちょうぎょ)の磯を没すべし

 

【語釈】

○霏霏…雨のしきりに降るさま。○空堂…がらんとして物寂しい堂。○滄浪亭…江蘇省 蘇州市にある名園。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～であるに違いない」の意。

 

 

★    雨意　　　　　　　　　雨意　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　鄭淸之

 

雲頭點地黒如黟　　　　雲頭(うんとう) 地に点じ 黒きこと黟(こくたん)の如し

雨脚粘天未肎飛　　　　雨脚(うきゃく) 天に粘(ねん)じ 未だ 肎(あえ)て飛ばず

待得風師來判斷　　　　待ち得たり 風師 来りて判断し

一齊併作晩涼歸　　　　一斉に 併せて 晩涼と作りて 帰るを

 

【語釈】

○雲頭…雲。○黟…黒檀。○雨脚…雨の雫が長く糸のように続くさま。○肎…「あえて」とよみ「すすんで～する」の意。○風師…伝説中の風神。

 

 

★    雪　　　　　　　　　　雪　　　　　　　　　　　　　　　　  金　　呂中孚

 

隨風拂拂玉花飄　　　　風に随って 払々(ふつふつ) 玉花 飄(ひるがえ)える

入夜寒窗更寂寥　　　　夜に入って 寒窓 更に寂寥(せきりょう)

爐火已殘燈未燼　　　　炉火 已に残(ざん)し 灯 未だ燼(じん)せず

一簾疎竹白蕭蕭　　　　一簾の疎竹 白くして 蕭々(しょうしょう)

 

【語釈】

○拂拂…散布するさま。○玉花…白い花。ここでは雪。○寂寥…ひっそりとして物寂しいさま。○殘…損なわれる。○燼…燃え尽きる。○一簾…ひとかたまり。○蕭蕭…物寂しいさま。

 

 

★    春雪　　　　　　　　　春雪　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韓　愈

 

新年都未有芳華　　　　新年 都(すべ)て 未だ 芳(ほう)華(か)有らず

二月初驚見草芽　　　　二月 初めて驚き 草(そう)芽(が)を見る

白雪却嫌春色晚　　　　白雪 却って嫌(きら)う 春色の晩(くれ)

故穿庭樹作飛花　　　　故(ことさら)に 庭樹を穿ちて 飛花と作(な)る

 

【語釈】

○芳華…香花。○春色…春景色。

 

 

★    霽雪　　　　　　　　　霽雪　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　戎　昱

 

風卷寒雲暮雪晴　　　　風は 寒雲を巻いて 暮雪晴れ

江煙洗盡柳條輕　　　　江煙 洗い尽くして 柳条軽し

簷前數片無人掃　　　　簷(えん)前(ぜん) 数片 人の掃(はら)う無く

又得書窗一夜明　　　　又た 得たり 書窓 一夜の明(めい)

 

【語釈】

○江煙…水の上に立つ靄。○柳条…柳の枝。○簷前…軒の前。

 

 

★    雪詩　　　　　　　　　雪詩　  　　　　　　　　　　　　　　宋     蘇 　軾

 

石泉凍合竹無風　　　　石泉は凍合(とうごう)し 竹に風無く

夜色沈沈萬境空　　　　夜色 沈々(ちんちん) 万(ばん)境(きょう)空し

試向靜中閑側耳　　　　試みに 静中に向かって 閑かに耳を側(そばだ)つれば

隔窗撩亂撲飛蟲　　　　窓を隔てて 撩(りょう)乱(らん) 飛虫を撲(う)つ

 

【語釈】

○凍合…凍り付く。○夜色…夜の気配。○沈沈…夜が更けていくさま。○萬境…全ての空間。○撩亂…乱れあう。

 

 

 

★    夜雪　　　　　　　　　夜雪　　　　　　　　　　　　　　 清　　張實居

 

斗室香添小篆煙　　　　斗室 香は添う 小篆(しょうてん)煙(えん)

一燈靜對似枯禪　　　　一灯 静に対し 枯禅に似たり

忽驚夜半寒侵骨　　　　忽ち驚く 夜半 寒 骨を侵すに

流水無聲山皓然　　　　流水は声無く 山は皓(こう)然(ぜん)たり

 

【語釈】

○斗室…狭い部屋。○小篆煙…篆字のように曲がって細くたつ香煙。○枯禅…座禅。○皓然…色の白いさま。

 

　　　

★    雪意　　　　　　　　　雪意　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

向晚浮雲四面平　　　　晩に向って 浮雲 四面平かなり

北風號怒達天明　　　　北風 号怒し 天明に達す

寒窗一夜清無睡　　　　寒窓 一夜 清くして 睡る無し

擬聽杉篁葉上聲　　　　杉篁(さんこう) 葉上(ようじょう)の声を 聴くと 擬す

 

【語釈】

○北風…冬風。○號怒…怒号。○天明…夜明け。○杉篁…杉と竹。

 

 

 

★    雪中偶題　　　　　　　雪中偶題　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

亂飄僧舍茶煙濕　　　　乱れて 僧舎に飄(ひるがえ)り 茶煙湿(しめ)り

密灑歌樓酒力微　　　　密に 歌楼に灑(そそ)ぎて 酒力微(かすか)なり

江上晚來堪畫處　　　　江上 晩来(ばんらい) 画くに堪える処

漁翁披得一蓑歸　　　　漁翁 一(いっ)蓑(さ)を 披得(ひとく)して帰る

 

【語釈】

○歌樓…歌舞を行う楼。○晚來…夕方になってから。○披得…着得て。

 

　　　

★    秋山　　　　　　　　　秋山　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　籍

 

秋山無雲復無風　　　　秋山 雲無く 復(ま)た風無く

溪頭看月出深松　　　　渓頭 月を看て 深松(しんしょう)を出づ

草堂不閉石牀靜　　　　草堂 閉じず 石(せき)床(しょう)静なり

葉間墜露聲重重　　　　葉間の墜(つい)露(ろ) 声重々(ちょうちょう)

 

【語釈】

○溪頭…渓のほとり。○深松…深い松林。○草堂…草葺きの家。○重重…露が落ちる音のさま。はらはら。

 

 

★    春水生　　　　　　春水生　　　　　　 　　　　　　　　　　 唐　　杜　甫

 

二月六夜春水生　　　　二月六夜 春水生じ

門前小灘渾欲平　　　　門前の小灘 渾(すべ)て 平ならんと欲す

鸕鶿鸂鶒莫漫喜　　　　鸕鶿(ろじ) 鸂鶒(けいせき) 漫(みだり)りに喜ぶこと莫れ

吾與汝曹俱眼明　　　　吾と汝曹(なんじら)と俱(とも)に 眼 明かなり

 

【語釈】　

○春水…春の雪溶け水。○小灘…小さな早瀬。○鸕鶿…ウ。鸂鶒…オシドリ。○汝曹…おまえたち。

 

　　　　

★    觀潮　　　　　　　　　観潮　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳師道

 

潮頭初出海門山　　　　潮頭 初めて出ず 海門の山

千里平沙轉面間　　　　千里の平沙 転(てん)面(めん)の間

猶有江神怜北客　　　　猶お 江神の 北客(ほっかく)を怜(あわれ)む有り

欲將奇觀破衰顔　　　　将(まさ)に 奇観 衰顔を破らんと欲す

 

【語釈】

○觀潮…錢塘江の海嘯を見ること。○潮頭…波頭。○海門…海口。○平沙…平らな砂浜。○轉面…非常に短時間。○江神…伝説中の江水の神。○將…「まさに～せんとす」とよみ、「いまにも～しようとする」の意。○北客…北からきた旅人。

 

 

★    泉　　　　　　　　　泉　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　崔　塗

 

遠辭巖竇瀉潺湲　　　　遠く巌竇(がんとう)を辞し 瀉(そそぐこと) 潺湲(せんかん)

靜拂雲根別故山　　　　静かに 雲根を払い 故山に別る

可惜寒聲留不得　　　　惜しむべし 寒声 留む得ざるを

旋添波浪向人間　　　　旋(めぐ)りて 波浪を添え 人間(じんかん)に向う

 

【語釈】

○巌竇…岩穴。○潺湲…浅い水の流れるさま。さらさら。○雲根…山中の雲の生じるところ。○故山…故郷の山。○人間…人間社会。

 

 

★    野池　　　　　　　　　野池　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

野池水滿連秋隄　　　　野池 水 満ちて 秋隄(しゅうてい)に連なる

菱花結實蒲葉齊　　　　菱(りょう)花(か) 実を結びて 蒲(ほ)葉(よう)斉(ととの)う

川口雨晴風復止　　　　川口 雨 晴れて 風 復(ま)た止み

蜻蜓上下魚東西　　　　蜻蜓(せいてい) 上下し 魚は東西

 

【語釈】

○蜻蜓…トンボ。　　

 

 

★    盆池　　　　　　　　　盆池　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韓　愈

 

老翁真個似童兒　　　　老翁 真個(しんこ) 童児に似る

汲水埋盆作小池　　　　水を汲んで 盆に埋め 小池を作る

一夜青蛙鳴到曉　　　　一夜 青(せい)蛙(けい) 鳴いて暁に到る

恰如方口釣魚時　　　　恰(あたか)も 方(ほう)口(こう「)に 魚を釣る時の如し

 

【語釈】

○盆池…水を引いて作った小池。○真個…確実に。○方口…四角い口。

 

 

★    盆池　　　　　　　　　盆池　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韓　愈

 

莫道盆池作不成　　　　道(い)う莫かれ 盆池 作ること成らずと

藕稍初種已齊生　　　　藕稍(ごうしょう) 初めて種え 已に斉生(せいせい)

從今有雨君須記　　　　今(いま)従(よ)り 雨有り 君 須(すべから)く記すべし

來聽蕭蕭打葉聲　　　　来るに聴く 蕭々(しょうしょう) 葉を打つ声

 

【語釈】

○盆池…水を引いて作った小池。○藕稍…蓮。○齊生…整って生長する。○須…「すべからく～すべし」と読み「～するのがよい」の意。○蕭蕭…物寂しい音の形容。

 

 

 

★    盆池　　　　　　　　　盆池　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韓　愈

 

池光天影共青青　　　　池光(ちこう) 天影 共に青々(せいせい)

拍岸纔添水數缾　　　　岸を拍ち 纔(わずか)に添う 水数缾

且待夜深乘月去　　　　且く 夜深きを待ちて 月に乗じて去り

試看涵泳幾多星　　　　試に看よ 涵泳(かんえい)す 幾多の星

 

【語釈】

○盆池…水を引いて作った小池。○数缾…つるべ数杯分。○乘月…月明かりを利用して。○涵泳…遊泳。

 

 

★    盆池　　　　　　　　　盆池　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳與義

 

三尺清池窗外開　　　　三尺の清池 窓外に開く

茨菰葉底戲魚回　　　　茨菰(しこ)葉底(ようてい) 魚 戯れて回(めぐ)る

雨聲轉入浙江去　　　　雨声 転じて 浙江に入(い)りて去り

雲影還從震澤來　　　　雲影 還(ま)た 震沢(しんたく)に従(よ)りて来る

 

【語釈】

○盆池…水を引いて作った小池。○茨菰…バラ科の低木の総称。○浙江…錢塘江の下流域帯。○震澤…江蘇省太湖。

 

 

 

★    盆池　　　　　　　　　盆池　　　　　　　　　　　　　　　　  金　　施宜生

 

盆池瀲灧蔭芭蕉　　　　盆池 瀲灧(れんえん)として 芭蕉を蔭う

點水圓荷未出條　　　　水に点ずる円荷 未だ条を出さず

分得江湖好風景　　　　分ち得たり 江湖の好風景

斷雲飛去晚蕭蕭　　　　断雲 飛び去り 晩 蕭々(しょうしょう)

 

【語釈】○盆池…水を引いて作った小池。○瀲灧…水が浪立ち美しいさま。○円荷…蓮の葉。○江湖…川と湖。○蕭蕭…物寂しいさま。

 

 

★    小池　　　　　　　　　小池　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

泉眼無聲渋細流　　　　泉眼 声無く 細流渋(とどこお)る

樹陰照水愛晴柔　　　　樹陰 水を照し 晴(せい)柔(じゅう)を愛す

小荷纔露尖尖角　　　　小荷 纔かに露す 尖々(せんせん)たる角(つの)

早有蜻蜓立上頭　　　　早(つと)に 蜻蜓(せいてい)の 上頭(じょうとう)に立つ有り

 

【語釈】

○泉眼…泉の湧き出る孔。○小荷…若い蓮。○尖尖…尖ったさま。○蜻蜓…トンボ。

 

 

 

　　　

 

★    題韋家泉池　　　　　　韋家(いけ)の泉(せん)池(ち)に題す　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

泉落青山出白雲　　　　泉 青山より落ちて 白雲出ず

縈村繞郭幾家分　　　　村を縈(めぐ)り 郭を繞(めぐ)り 幾家にか分る

自從引作池中水　　　　引いて 池中の水と作(な)して 自従(よ)りは

深淺方圓一任君　　　　深浅 方円 一(いつ)に君に任す

 

【語釈】

○自從…～してより。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

 

 

★    和茅山高拾遺山泉　　　茅山(ちざん)の高拾遺(こうしゅうい)の山泉に和す　　　　　  唐　　儲嗣宗

 

香味清機仙府回　　　　香味(こうまい) 清機(せいき) 仙府より回(かえ)る

縈紆亂石便流盃　　　　乱石を縈紆(えいう)して 盃を流すに便なり

春風莫泛桃花去　　　　春風 桃花を泛べて 去る莫かれ

恐引漁人入洞來　　　　恐らくは 漁人を引いて 洞に入りて来(きた)らん

 

【語釈】

○茅山…江蘇省鎮江市茅山。○高拾遺…不祥。○香味…香気。○清機…清淨な心機。○仙府…仙人の住むところ。道教の寺。○縈紆…曲がり繞る。○便流盃…曲水の宴のような状態に適する。○結句…桃花源記。

 

★    漁村　　　　　　　　　　漁村　　　　　　　　　　　　　　  明    王汝玉

 

汀葦蒼蒼白露凝　　　　汀(てい)葦(い) 蒼々(そうそう) 白露凝(こ)る

一灘寒月未收罾　　　　一灘の寒月 未だ罾(あみ)に収まらず

西風吹醒江南夢　　　　西風 吹き醒ます 江南の夢

四壁蛩聲半夜燈　　　　四壁の蛩声(きょうせい) 半夜の灯

 

【語釈】

○蒼蒼…盛んに茂るさま。○罾…四つ手あみ。○西風…秋風。○江南…長江下流の南岸地方。○蛩聲…コオロギの声。

 

 

★    漁莊　　　　　　　　　漁荘　　　　　　　　　　　　　　   元　　李　瓚

 

纖纖新月上簾鈎　　　　繊々(せんせん)たる新月 簾(れん)鈎(こう)に上る

楓葉蘆花隔水秋　　　　楓(ふう)葉(よう) 蘆花(ろか) 水を隔つる秋

一曲清歌來送酒　　　　一曲の清歌 来(きた)りて酒を送る

雙鬟小妓木蘭舟　　　　双鬟(そうかん)の小妓(しょうぎ) 木蘭の舟

 

【語釈】

○纖纖…微細なさま。○新月…三日月。○簾鈎…簾をまいて掛ける鈎。○雙鬟…両側に束ねた髪。○小妓…若い妓女。

 

 

★    溪聲　　　　　　　　　渓声(けいせい)　　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　趙　兪

 

結廬何日住深山　　　　廬を結んで 何日 深山に住(じゅう)す

竹月松風相對閑　　　　竹月 松風 相対して閑(かん)なり

卻笑溪聲忙底事　　　　却って笑う 渓声 忙きこと 底事(なにごと)ぞ

奔流偏欲到人間　　　　奔流 偏(ひとえ)えに 人間(じんかん)に到らんと欲す

 

【語釈】

○人間…俗世間。

 

 

★    老將　　　　　　　　　老将　　　　　　　　　　　　　　  清　　黄宗臣

 

百戦曽騎汗血騧　　　　百戦 曽って騎(き)す 汗(かん)血(けつ)の騧(か)

専征萬里度龍沙　　　　専征 万里 竜沙(りゅうさ)を度(わた)る

玉關生入頭如雪　　　　玉関 生きて入る 頭(こうべ) 雪の如し

風雨悲歌劇孟家　　　　風雨 悲歌 劇(げき)孟(もう)が家

 

【語釈】

○汗血…血のような汗を出す駿馬。○騧…口先が黄色い黒色の馬。○龍沙…白龍堆。新疆ウイグル自治区のロブノール近くの砂漠。○玉關…玉門関。○劇孟…西漢の遊侠。政治、軍事に影響力が大きかったが、財産を残さなかった。

 

 

★    羽林騎　　　　　　　　羽林騎(うりんき)　　　　　　　　　　　　　  　 唐　　韓　翃

 

駿馬牽來御柳中　　　　駿馬 牽(ひ)き来る 御柳(ぎょりゅう)の中(うち)

鳴鞭欲向渭橋東　　　　鞭を鳴らし 向わんと欲す 渭(い)橋(きょう)の東

紅蹄亂蹋春城雪　　　　紅(こう)蹄(てい) 乱蹋(らんとう)す 春城の雪

花頷驕嘶上苑風　　　　花頷(かこう) 驕嘶(きょうせい) 上苑(じょうえん)の風

 

【語釈】

○羽林騎…近衛兵の馬。○御柳…宮城の柳。○渭橋…長安付近の渭水にかかっていた橋。○亂蹋…乱れ踏みつける。○花頷…衣服の首元に花を飾るために開けた部分。○驕嘶…驕ったいななき。○上苑…皇帝の庭園。

 

 

★    　獵騎　　　　　　　　猟騎(りょうき)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜　牧

 

已落雙鵰血尚新　　　　已に落つ 双鵰(そうしゅう) 血 尚お新たなり

鳴鞭走馬又翻身　　　　鞭を鳴らし 馬を走らせ 又た身を翻えす

憑君莫射南來鴈　　　　君に憑(たの)む 射ること莫かれ 南来の鴈(かり)

恐有家書寄遠人　　　　恐らくは 家書の遠人に寄する有らん

 

【語釈】

○獵騎…猟をする馬に乗った人。○雙鵰…つがいの鷲。○家書…家族からの手紙。

（参考文献）　　『杜樊川絶句詳解』

 

 

★    漁父　　　　　　　　　漁父　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐    陸龜蒙

 

雨後沙虛古岸崩　　　　雨後 沙 虚(むな)しくして 古岸崩る

魚梁移入亂雲層　　　　魚(ぎょ)梁(りょう) 移りて 乱雲の層に入る

歸時月墮汀洲暗　　　　帰時 月 堕(お)ちて 汀(てい)洲(しゅう)暗し

認得妻兒結網燈　　　　認め得たり 妻児 網を結ぶ灯

 

【語釈】

○魚梁…魚を捕るやな。○汀洲…中洲。

 

 

★    漁父　　　　　　　　　漁父　　　　　　　　　　　　　　  宋　　游次公

 

竹裏茅茨竹外溪　　　　竹(ちく)裏(り)の茅(ぼう)茨(し) 竹外の渓

粼粼白石護漁磯　　　　粼々(りんりん)たる 白石 漁(りょう)磯(き)を護る

想應日日來垂釣　　　　想うに 応(まさ)に 日々 来きたりて 釣(ちょう)を垂るるべし

石上蓑衣不带歸　　　　石上の蓑衣 带びて帰らず

 

【語釈】

○茅茨…草茅葺きの粗末な家。○粼粼…水石の鮮鋭なさま。○釣…釣り糸。○蓑衣…みの。

 

 

★    漁父　　　　　　　　　漁父　　　　　　　　　　　　　　  明　　黄　准

 

撤網移舟碧浪中　　　　網を撤し 舟を移す 碧浪(へきろう)の中(うち)

一蓑一笠任西風　　　　一(いっ)蓑一(さいち)笠(りゅう) 西風に任(まか)す

生年自得煙波與　　　　生年 自(おのずか)ら得たり 煙波の与(とも)

醉卧蘆花月滿舡　　　　酔いて 蘆花に卧(ふ)して 月 舡(ふね)に満つ

 

【語釈】

○西風…秋風。○煙波…水上に立つ靄。○與…仲間。

 

 

★    漁父詞　　　　　　　　漁父の詞　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

沽酒歸來雪滿船　　　　酒を沽(か)って 帰り来(きた)れば 雪 船に満つ

一蓑撐傍斷磯邊　　　　一(いっ)蓑(さ)の撐(とう)傍(ぼう) 断(だん)磯(き)の辺(ほとり)

誰家庭院無梅看　　　　誰が家の庭院か 梅の看(かん)無く

不似江村欲暮天　　　　似ず 江村 暮んと欲する天に

 

【語釈】

○斷磯…水辺に吐出した石の堆。○江村…江畔の村。

 

 

 

★    漁翁　　　　　　　　漁翁　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　柳宗元

 

漁翁夜傍西巖宿　　　　漁翁 夜 西巌に傍いて宿し

曉汲清湘燃楚竹　　　　暁に清湘(せいしょう)を汲んで 楚竹を燃やす

煙銷日出不見人　　　　煙 銷(き)え 日 出(いで)て 人を見ず

欸乃一聲山水綠　　　　欸乃(あいだい) 一声 山水 緑なり

 

【語釈】

○清湘…清らかな湘水。○楚竹…楚の地方の竹。○欸乃…舟歌。

（蘇軾の評に従って、六句の古詩の後二句を切りとった物。）

(参考文献)　　『唐詩三百首』『漢詩鑑賞辞典』

 

 

★    賦湖中漁翁　　　　　　湖中の漁翁を賦す　　　　　　　　　　　  宋　　蜀　僧

 

籃裏無魚欠酒錢　　　　籃(らん)裏(り) 魚無く 酒銭を欠く

酒家門外繫漁船　　　　酒家の門外 漁船を繫(つな)ぐ

幾回欲把蓑衣當　　　　幾回か 蓑(さ)衣(い)を把り当らんと欲す

又恐明朝是雨天　　　　又た恐る 明朝 是れ 雨天なるを

 

【語釈】

○籃裏…かごの中。○蓑衣…みの。

 

 

★    漁翁　　　　　　　　　漁翁　　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　周　權

 

轉櫂收緡日未西　　　　櫂(かい)を転じ 緡(いと)を収め 日 未だ西せず

短篷斜閣斷沙低　　　　短篷(たんぽう) 斜に閣(と)め 断沙(だんさ)低し

賣魚買酒歸來晚　　　　魚を売り 酒を買い 帰り来る晩(くれ)

風颭蘆花雪滿溪　　　　風は蘆花を颭(うごか)し 雪は渓に満つ

 

【語釈】

○緡…釣り糸。○短篷…小舟。

 

 

★    漁翁　　　　　　　　　漁翁　　　　　　　　　　　　　　　  　　 清　　孔毓璘

 

青蓑帯雨下長川　　　　青(せい)蓑(さ) 雨を帯び 長川(ちょうせん)を下る

網得金鱗換酒錢　　　　金(きん)鱗(りん)を網(あみ)得(え)て 酒銭に換う

醉卧蘆花人不見　　　　酔いて 蘆花に卧(ふ)し 人 見えず

鸕鷀飛上打魚船　　　　鸕鷀(ろじ) 飛び上がり 魚船を打つ

 

【語釈】

○青蓑…青い蓑。○網得…網で捕る。○金鱗…魚の美称。○鸕鷀…鵜。

 

 

 

★    淮上漁者　　　　　　　淮上の漁者　　　　　　  　　　　　　唐　　鄭　谷

 

白頭波上白頭翁　　　　白頭の波上 白頭の翁

家逐船移浦浦風　　　　家は 船を逐(お)いて移る 浦々の風

一尺鱸魚新釣得　　　　一尺の鱸魚(ろぎょ) 新たに釣り得て

兒孫吹火荻花中　　　　兒孫(じそん) 火を吹く 荻(てき)花(か)の中(うち)

 

【語釈】

○淮上…淮河（長江・黄河に次ぐ第三の大河）のほとり。○白頭…白い波頭。○鱸魚…ハゼに似た淡水魚。

 

 

★    秋江釣者　　　　　　　秋(しゅう)江(こう)の釣者(ちょうじゃ)　　　　　　　　　　　　　　　明　　潘德元

 

江湖最樂是漁翁　　　　江湖 最も楽しむは 是れ漁翁

何地無天著釣篷　　　　何れの地か 天の釣篷(ちょうほう)に著く無し　

見慣白鷗渾不避　　　　見慣れたる白(はく)鴎(おう) 渾(すべ)て避けず

一絲晴颺蓼花風　　　　一糸 晴颺(せいよう)す 蓼(りょう)花(か)の風

 

【語釈】

○江湖…江と湖。○釣篷…釣魚の舟。○転句…列子「黄帝編」の故事。○晴颺…晴れた空に昇る。○蓼花…たでの花。

 

 

★    牧童　　　　　　　　　牧童　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　盧　肇

 

誰人得似牧童心　　　　誰(た)れ人か 牧童の心に 似たるを得ん

牛背橫眠秋興深　　　　牛(ぎゅう)背(はい) 横わりて眠り 秋興深し

時復往來吹一曲　　　　時に 復(ま)た 往来し 吹くこと一曲

何愁南北不知音　　　　何ぞ愁う 南北 音を知らざるを

 

【語釈】

○秋興…秋のおもむき。

 

 

★    牧童　　　　　　　　　牧童　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　黄庭堅

 

騎牛遠遠過前村　　　　牛に騎(の)りて 遠々 前村を過ぐ

吹笛風斜隔壠聞　　　　吹笛 風斜めにして 壠(おか)を隔てて聞く

多少長安名利客　　　　多少 長安 名利の客(かく)

機關用盡不知君　　　　機関 用い尽くして 君を知らず

 

【語釈】

○名利…名声と利益。○機関…心中の計略。

 

 

 

 

★    牧童　　　　　　　　　牧童　　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　逸　名

 

草鋪橫野六七里　　　　草は横野に鋪(ほ)す 六七里

笛弄晚風三四聲　　　　笛は晩風を弄(ろう)す 三四声

歸來飽飯黃昏後　　　　帰り来りて 飯に飽く 黄昏(こうこん)の後

不脫蓑衣臥月明　　　　蓑(さ)衣(い)を脱せず 月明に臥す

 

【語釈】

○鋪…広げる。○黃昏…たそがれ。○蓑衣…みの。

 

　　　

★    牧童　　　　　　　　　牧童　　　　　　　　　　　　　  清　　薛龍光

 

藉草眠莎任自由　　　　草を藉(し)き 莎(さ)に眠り 自由に任す

煙蓑雨笠不關愁　　　　煙(えん)蓑(さ) 雨笠(うりゅう) 愁に関せず

日斜横笛穿林去　　　　日斜めにして 横笛 林を穿ちて去る

倒跨鳥犍過渡頭　　　　倒(さかしま)に 鳥犍(ちょうけん)に跨がりて 渡頭(ととう)を過ぐ

 

【語釈】

○莎…はまなすげ。○煙蓑…みの。

 

 

★    牧兒　　　　　　　　　牧児　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　駱文盛

 

東風吹雨過前渓　　　　東風 雨を吹いて 前渓を過ぐ

草長長原小犢肥　　　　草 長じて 長原 小犢(しょうとく)肥ゆ

短笛數聲歸去晩　　　　短笛 数声 帰り去る晩(くれ)

半山明月照蓑衣　　　　半山の明月 蓑(さ)衣(い)を照らす

 

【語釈】

○東風…春風。○小犢…子牛。○蓑衣…みの。

　

 

★    送棊客　　　　　　　　棊客(きかく)を送る　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸龜蒙

 

滿目山川奕似棊　　　　満目の山川 奕(ま)た棊(き)に似たり

況當秋雁正斜飛　　　　況んや 秋雁の 正に斜めに飛するに当るをや

金門若召羊玄保　　　　金門 若し 羊(よう)玄(げん)保(ほ)を召せば

賭取江東太守歸　　　　江東の太守を 賭取(としゅ)して帰らん

 

【語釈】

○棊客…碁を打ちに来た客。○満目…見渡す限り。○金門…富貴の人。皇帝。○羊玄保…南朝宋の官僚。囲碁を得意とし、文帝と太守の任を賭けて勝利し、宣城郡太守に任じられた。○江東太守…宣城郡(江蘇省揚州市)の太守。○賭取…賭けに勝って取る。

 

 

★    村女　　　　　　　　　村女　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　回

 

青荷葉傘茜裙紅　　　　青(せい)荷(か)葉(よう)傘(さん) 茜裙(せんくん) 紅なり

隨母歸寧省外翁　　　　母に随って 帰寧(きねい)し 外翁を省(しょう)す

莫笑梳裝未京樣　　　　笑う莫かれ 梳装(りゅうそう) 未だ京様なるを

兵餘猶見太平風　　　　兵余 猶お見る 太平の風

 

【語釈】

○青荷葉傘…蓮の花の傘。○茜裙…あかね色の袖。○歸寧…帰ってくる。○外翁…外祖父。○梳裝…髪形や装い。○京樣…華美。○兵餘…兵乱の後。

 

 

★    賣薪女　　　　　　　　薪(たきぎ)を売る女　　　　　　　　　　　　　 唐　　白居易

 

亂蓬爲鬢布爲巾　　　　乱(らん)蓬(ぽう)を鬢(びん)と為し 布を巾(きん)と為す

曉蹋寒山自負薪　　　　暁に寒山を蹋(ふ)みて 自(みずか)ら薪を負う

一種錢唐江畔女　　　　一種の銭(せん)唐(とう) 江畔の女

著紅騎馬是何人　　　　紅を著け 馬に騎(の)るは 是れ 何人ぞ

 

【語釈】

○諸妓…妓女。○亂蓬…ヨモギのように乱れたさま。○布…麻布。○巾…頭巾。○一種…一様に，同じく。当時の俗語。○錢唐…浙江省杭州市。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　　白氏文集　四』

 

 

★    貧女　　　　　　　　　貧女　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱繼芳

 

燈下穿針影伴身　　　　灯下 針を穿(うが)てば 影 身に伴う

嬾將心事訴諸親　　　　心事を将(も)って 諸親に訴うに 嬾(ものう)し

阿婆許嫁無消息　　　　阿婆(あば) 嫁(か)すを許し 消息無し

芍藥花開又一春　　　　芍薬(しゃくやく) 花開き 又た一春

 

【語釈】

○心事…心中の思い。○諸親…親族。○阿婆…おばあさん。○消息…便り。

 

 

★    貧女　　　　　　　　　貧女　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王　嵒

 

難把菱花照素顔　　　　菱(りょう)花(か)を把(と)り 素顔を照らすこと難く

試臨春水插花看　　　　試みに 春水に臨み 花を挿(さ)して看る

木蘭船上遊春子　　　　木(もく)蘭(らん)船上(せんじょう) 遊春の子(し)

笑指荆釵下遠灘　　　　笑って 荆釵(けいさ)を指さし 遠灘(えんたん)を下る

 

【語釈】

○木蘭船…木蘭で作った立派な船。○遊春…春の遊び。○荆釵…棘の枝で作った粗末なかんざし。

 

 

★    上竿伎　　　　　　　　上竿伎(じょうかんし)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　晏　殊

 

百尺竿頭褭褭身　　　　百尺の竿頭 褭々(じょうじょう)たる身

脚騰跟掛駭傍人　　　　脚騰(きゃくとう) 跟(こん)掛(かい) 傍人を駭(おどろ)かす

漢陰有叟君知否　　　　漢(かん)陰(いん) 叟(おきな) 有り君知るや否や

抱甕區區亦未貧　　　　甕(かめ)を抱き 区々(くく)として 亦た 未だ貧ならず

 

【語釈】

○上竿伎…垂直に立てられた竿を登る技。○竿頭…竿のてっぺん。○褭褭…しなやかなさま。○脚騰…脚を騰げる技。○跟掛…かかとを掛け技。○漢陰…陝西省南部の県名。○區區…満足しているさま。

 

 

★    傀儡　　　　　　　　　傀儡(かいらい)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　玄　宗

 

刻木牽絲作老翁　　　　木を刻み 糸を牽(ひ)き 老翁と作(な)す

雞皮鶴髮與真同　　　　雞皮(けいひ)鶴(かく)髪(はつ) 真と同じ

須臾弄罷寂無事　　　　須臾(しゅゆ)にして 弄(ろう)し罷(や)みて 寂(せき)として 事無し

還似人生一夢中　　　　還(かえ)って 人生に似たり 一夢の中(うち)

 

【語釈】

○雞皮鶴髮…皮膚の皺と白髪。垂老の形容。

 

 

★    傀儡　　　　　　　　　傀儡(かいらい)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊　億

 

鮑老當筵笑郭郎　　　　鮑(ほう)老(ろう) 筵(えん)に当りて 郭郎(かくろう)を笑う

笑他舞袖太郎當　　　　笑(しょう)他(た)の舞袖 太郎(たろう)当(とう)

若教鮑老當筵舞　　　　若し 鮑(ほう)老(ろう)をして 筵(えん)舞(ぶ)に当らしめば

轉更郎當舞袖長　　　　転じて 更に 郎当 舞袖長からん

 

【語釈】

○鮑老…戲劇の配役の名。○筵…宴席。○郭郎…道化師。○舞袖…舞妓が着る衣服。○太郎當…太くてダブダブしていること。

 

 

★    藏擫　　　　　　　　蔵擪(ぞうよう)　　　　　　　　　　　　　　　     宋　　夏　竦

 

舞拂跳珠復吐丸　　　　払うを舞い 珠を跳び 復た丸(がん)を吐く

遮蔵巧技百千般　　　　遮蔵(しゃぞう) 巧技 百千般

主公端坐無由見　　　　主公 端坐(たんざ)し 見るに由(よし)無(な)し

却披傍人冷眼看　　　　却って 傍人に 冷眼で看らる　　　

 

【語釈】

○藏擫…古代魔術の一種。変戯法。○遮蔵…隠して外に現さないこと。○端坐…正座。○主公…主人の尊称。

　　　

 

★    鶴　　　　　　　　　　鶴　　　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　褚　載

 

欲洗霜翎下澗邊　　　　霜翎を洗わんと欲して 澗辺に下る

却嫌菱刺汚香泉　　　　却って嫌(きら)う 菱(りょう)刺(し)の香泉を汚すを

沙鷗浦鴈應驚訝　　　　沙(さ)鴎(おう) 浦(ほ)鴈(がん) 応に驚訝(きょうが)すべし

一舉扶搖直上天　　　　一挙 扶揺 直ちに天に上る

 

【語釈】

○霜翎…白羽。○澗邊…渓のほとり。○菱刺…菱のとげ。○沙鷗…砂浜に住む鷗。○浦鴈…浦に住む雁。○應…「まさに～すべし」と読み｛きっと～であるにちがいない｝の意。○驚訝…驚き訝る。○扶搖…飛び上がる。

 

 

★    獨鶴　　　　　　　　　独(どく)鶴(かく)　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋　莊

 

夕陽灘上立裴回　　　　夕陽(せきよう) 灘上(たんじょう) 立ちて裴回す

紅蓼風前雪翅開　　　　紅(こう)蓼(りょう) 風前 雪翅(せつし)開く

應爲不知棲宿處　　　　応(まさ)に 棲(せい)宿(しゅく)の処を 知らざるが為に

幾回飛去又飛來　　　　幾回か 飛去り 又た飛び来(きた)るべし

 

【語釈】

○灘上…早瀬のほとり。○紅蓼…紅色の蓼。○雪翅…雪のように白い羽。○棲宿…ねぐら。

（参考文献）　『中国名詩集』

 

★    失鶴　　　　　　　　　失鶴　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸亀蒙

 

養汝由來歳月深　　　　汝を養いて由来(ゆらい) 歳月深し

籠開不見意沈沈　　　　籠を開きて 見えず 意 沈々

想應只在秋江上　　　　想う 応(まさ)に 只だ 秋江の上に在るべし

明月蘆花何處尋　　　　明月 蘆花 何れの処にか尋ねん

 

【語釈】

○由來…以来。○沈沈…心が憂鬱なさま。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるにちがいない」の意。

(参考文献)　　『和漢名詞選類評釈』

　

 

★    新鴈　　　　　　　　　新鴈(しんがん)　　　　　　　　　　　　　　　　　   唐    羅  鄴

 

暮天新鴈起汀洲　　　　暮天の新鴈(しんがん) 汀(てい)洲(しゅう)に起る

紅蓼花開水國秋　　　　紅(こう)蓼(りょう) 花 開いて 水国秋なり

想得故園今夜月　　　　想い得たり 故園 今夜の月

幾人相憶在江樓　　　　幾人か 相い憶いて 江楼に在る

 

【語釈】

○汀洲…中洲。○紅蓼…紅色の蓼。○故園…故郷。○江樓…江に臨んだ楼。

 

 

★    早雁　　　　　　　　　早雁　　　　　　　　　　　　　　　   明　　高　棅

 

涼霜八月塞天寒　　　　涼(りょう)霜(そう) 八月 塞(さい)天(てん)寒し

飛度衡陽楚水寬　　　　飛び度る 衡(こう)陽(よう) 楚水寛(ひろ)し

少婦樓頭初掩瑟　　　　少婦 楼頭 初めて瑟(ひつ)を掩い

一行先向夕陽看　　　　一行 先ず 夕陽(せきよう)に向かいて看る

 

【語釈】

○塞天…辺塞の地の空。○衡陽…衡山（湖南省衡陽市にある五岳の一つ）の南のこと。衡山の南にある回雁峰は険しい峰で、雁かりがやって来ても、これを越えて南下することはできないと言われる。「衡陽雁断」。○楚水…楚の地方の川。○瑟…大琴。○一行…雁の一つの行列。

 

 

★    秋雁　　　　　　　　　秋雁　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　任大椿

 

閑堂清冷畫屏開　　　　閑堂(かんどう) 清冷にして 画屏(がへい)開く

嘹嚦遙傳塞北哀　　　　嘹嚦(りょうれき) 遥かに伝う 塞(さい)北(ほく)の哀(あい)

無那秋江人去遠　　　　那(いかん)ともする無し 秋江 人 去ること遠きを

暁風殘月數聲來　　　　暁風 残月 数声来る

 

【語釈】

○畫屏…画で飾られた屏風。○嘹嚦…音の清涼さの形容。○塞北…北方の辺塞地。○無那…どうしようもない。

 

 

★    歸雁　　　　　　　　　帰雁　　　　　　　　　　　　　　  唐　　錢　起

 

瀟湘何事等閑回　　　　瀟湘(しょうしょう)より何事ぞ等閑(とうかん)に回(かえ)る

水碧沙明兩岸苔　　　　水は碧に 沙(いさご)は明かにして 両岸苔むす

二十五弦彈夜月　　　　二十五弦 夜月に弾ずれば

不勝清怨却飛來　　　　清怨(せいえん)に勝(た)えずして 却飛(きゃくひ)し来る

 

【語釈】

○瀟湘…瀟水と湘水が合流する洞庭湖南の地。○等閑…なおざりにすること。○二十五弦…瑟。大琴。○清怨…美しいもののあわれ。○却飛來…飛び戻る。來は助字で意味が無い。

 

 

★    鴛鴦　　　　　　　　　鴛鴦(えんおう)　　　　　　　　　　　　　　  唐    吉師老

 

江島濛濛煙靄微　　　　江島(こうとう) 濛々(もうもう) 煙(えん)靄(か) 微(かすか)なり

綠蕪深處刷毛衣　　　　緑(りょく)蕪(ぶ) 深き処 毛衣を刷(すす)ぐ

渡頭驚起一雙去　　　　渡頭 驚起(きょうき)し 一双去り

飛上文君舊錦機　　　　飛び上る 文君の旧錦機(きゅうきんき)

 

【語釈】

○鴛鴦…おしどり。○江島…江の中の島。○濛濛…煙るようにぼおっとしているさま。○煙靄…霞と靄。○綠蕪…青々と茂っている雑草。○毛衣…羽毛。○渡頭…渡し場。○一双…ひとつがい。○文君…卓文君。司馬相如の妻。ウィキペディア。○錦機…錦織機。

 

 

★    鷺　　　　　　　　　　鷺　　　　　　　　　　　　　　　　   宋　　趙希崱

 

漠漠江湖自在飛　　　　漠々(ばくばく)たる江湖 自在に飛ぶ

一身到處占漁磯　　　　一身 到る処 漁(りょう)磯(き)を占む

稻田水淺魚能幾　　　　稲田 水 浅くして 魚 能(よ)く幾(いくばく)

莫被泥沙汙雪衣　　　　泥沙(でいさ)を被(こうむ)りて 雪(せつ)衣(い)を汙(よご)す莫かれ

 

【語釈】

○漠漠…広々として果てしないさま。○江湖…江と湖。○漁磯…魚を捕る磯。○雪衣…白い羽毛。

 

 

★    鷺鷥　　　　　　　　鷺鷥(ろじ)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

閑立春塘煙澹澹　　　　閑かに 春塘(しゅんとう)に立ち 煙 澹々(たんたん)

靜眠寒葦雨颼颼　　　　静かに 寒(かん)葦(い)に眠り 雨 颼々(しゅうしゅう)

漁翁歸後汀沙晚　　　　漁翁 帰りて後 汀沙(ていさ)晩(く)れ

飛下灘頭更自由　　　　飛びて 灘頭(たんとう)に下りて 更に自由

 

【語釈】

○鷺鷥…サギ。○春塘…春の堤。○煙…霞。○澹澹…静かで淡いさま。○寒葦…寒い葦。○颼颼…風雨の音の形容。○汀沙…砂浜。○灘頭…早瀬のほとり。

 

 

 

★     

★    放鷺鷥　　　　　　　　鷺鷥(ろじ)を放つ　　　　　　　　　　　　  唐　　李　中

 

池塘多謝久淹留　　　　池塘 多謝 久しく淹留(えんりゅう)す

長得霜翎放自由　　　　長(とこし)に得たり 霜翎(そうれい) 放つに自由なるを

好去蒹葭深處去　　　　好し 蒹葭(けんか) 深き処に去りて

月明應認舊江秋　　　　月明 応に認むべし 旧江の秋を

 

【語釈】

○鷺鷥…サギ。○淹留…逗留。○霜翎…霜のように白い羽。○蒹葭…オギとヨシ。○應…「まさに～すべし」と読み｛～するのが適当である｝の意。

 

 

★    燕　　　　　　　　　　燕　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉克莊

 

野老柴門日日開　　　　野老の柴門(さいもん) 日々に開く

且無欄檻礙飛迴　　　　且く欄(らん)檻(かん)に飛び迴(かえ)りて 礙(さまた)ぐる無し

勸君莫入珠簾去　　　　君に勧む 珠(しゅ)簾(れん)に入りて 去ること莫かれ

羯鼓如雷打出來　　　　羯(かっ)鼓(こ) 雷の如く 打ち出でて来(きた)る

 

【語釈】

○野老…郊外に住む老人。○柴門…柴で作った粗末な門。○欄檻…欄干。○珠簾…玉すだれ。○羯鼓…両側から打つ太鼓。

 

 

★    燕　　　　　　　　　　燕　　　　　　　　 　　　　 　　 明　　李東陽

 

繡戸珠簾有路岐　　　　繡戸 珠簾 路岐有り

别時嫌早到嫌遲　　　　别時 早きを嫌い 到ること 遅きを嫌う

主家只解憐毛羽　　　　主家 只だ 毛羽を憐むを解す

涴盡雕梁不自知　　　　雕(ちょう)梁(りょう)を涴(えん)尽(じん)して自(みずか)ら知らず

 

【語釈】

○繡戸…彫刻や絵で飾られた美しい家。○珠簾…玉すだれ。○路岐…分かれ道。○毛羽…鳥の羽毛。○涴盡…汚し尽くす。

 

 

★    燕　　　　　　　　　　燕　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王世貞

 

曽逐東風入紫微　　　　曽て 東風を逐(お)いて 紫微(しび)に入る

晩抛江海滯烏衣　　　　晩に 江海を抛ち 烏衣を滞ぶ

空誇萬里封侯頷　　　　空しく誇る 万里 封侯の頷(あご)

還傍人家門戸飛　　　　還(ま)た 人家 門戸に傍いて飛ぶ

 

【語釈】

○東風…春風。○紫微…帝王の宮殿。○烏衣…貧賤者の衣。

 

 

★    新燕　　　　　　　　　新燕　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　張弘範

 

海棠開後月黄昏　　　　海棠(かいどう) 開いて後 月 黄昏(こうこん)

王謝樓臺寂寂春　　　　王謝(おうしゃ)の楼台 寂々(せきせき)の春

栁外東風花外雨　　　　栁外の東風 花外の雨

香泥髙壘畫堂新　　　　香(こう)泥(でい) 高塁(こうるい) 画堂に新なり

 

【語釈】

○黄昏…たそがれ。○王謝…東晋の王導・謝安らの大貴族。（「舊時王謝堂前燕」劉禹錫）。○寂寂…寂しく静かなさま。○東風…春風。○香泥…香りのある泥。○髙壘…ここでは燕の巣。○畫堂…画で飾られた堂。

 

 

★    新燕　　　　　　　　　新燕　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

海燕雙飛下栁塘　　　　海燕 双飛す 栁塘の下(もと)

主家臺榭已荒凉　　　　主家の台榭(だいしゃ) 已に荒涼

玉窗綉戸春雲外　　　　玉(ぎょく)窓(そう) 綉(しゅう)戸(こ) 春雲の外

不忍翻飛過别墻　　　　忍びず 翻飛(ほんぴ)して 别墻(べつしょう)を過ぐ

 

【語釈】

○双飛…つがいとなって飛ぶ。○栁塘…柳を植えた堤。○臺榭…楼閣などの建造物。○玉窗…玉で飾ったまど。○綉戸…彫刻や絵で飾った門戸。○翻飛…飜って飛ぶ。

 

 

★    歸燕下第後獻主司　　　「帰(き)燕(えん)」 下第(かだい)の後 主司に献ず　　　　　　　唐　　章孝標

 

舊壘危巢泥已落　　　　旧塁(きゅうるい) 危(き)巣(そう) 泥 已に落つ

今年故向社前歸　　　　今年故(ことさら)に社前に向って帰る

連雲大廈無棲處　　　　連雲 大廈(たいか) 棲む処無く

更繞誰家門戸飛　　　　更に 誰が家の 門戸を繞(めぐ)りて飛ぶ

 

【語釈】

○下第…科挙に落第する。○主司…科挙の試験官。○舊壘…昔の巣。○危巢…高い木のうえにある鳥の巣。○社前…故郷の社の前。○大廈…広大な部屋。

 

 

★    聞子規　　　　　　　　子規を聞く　　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

蜀魄千年尚怨誰　　　　蜀魄(しょくこん) 千年 尚お 誰をか怨む

聲聲啼血染花枝　　　　声々(せいせい) 血に啼き 花枝を染む

滿山明月東風夜　　　　満山 明月 東風の夜

正是愁人不寐時　　　　正に是れ 愁人 寐(ねむ)らざる時

 

【語釈】

○子規…ホトトギス。○蜀魄…ホトトギス。○東風…春風。

 

 

★    子規　　　　　　　　　子規　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　中

 

暮春滴血一聲聲　　　　暮春 血を滴(したたら)す 一声々

花落年年不忍聽　　　　花落ち 年々 聴くに忍びず

帶月莫啼江畔樹　　　　月を帯び 啼く莫かれ 江畔の樹

酒醒遊子在離亭　　　　酒 醒むれば 遊子 離亭に在り

 

【語釈】

○子規…ホトトギス。○遊子…旅人。

 

 

★    聞子規　　　　　　　　子規を聞く　　　　　　　　　　　　　　  唐　　杜荀鶴

 

楚天空闊月成輪　　　　楚天 空 闊(ひろ)く 月 輪(りん)を成す

蜀魄聲聲似告人　　　　蜀魄(しょくこん) 声々(せいせい) 人に告ぐるに似たり

啼得血流無用處　　　　啼き得て 血流 用いる処無し

不如緘口過殘春　　　　如(しか)ず 口を緘(と)じて 残春を過ぐるに

 

【語釈】

○子規…ホトトギス。○楚天…楚の地方の空。○蜀魄…ホトトギス。○不如…～にするには及ばない。

 

 

★    聞子規　　　　　　　　子規を聞く　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

花愁月恨只長啼　　　　花は愁い 月は恨む 只だ 長く啼くを

雨夕風晨不住飛　　　　雨夕(うせき) 風晨(ふうしん) 飛ぶを住(とど)めず

自出錦江歸未得　　　　自(みずか)ら 錦江(きんこう)を出で 帰るは未だ得ず

至今猶勸別人歸　　　　今に至りて 猶お勧む 別人の帰るを

 

【語釈】

○子規…ホトトギス。○錦江…蜀の成都を流れる川。

　　　

 

★    夜聞子規　　　　　　　夜 子規を聞く　　　　　　　　　　　　  宋　　朱　熹

 

空山初夜子規鳴　　　　空山 初夜 子規鳴く

靜對琴書百慮清　　　　静かに琴書(きんしょ)に対し 百慮清し

喚得形神兩超越　　　　喚(さけ)び得たり 形(けい)神(しん) 両つながら超越

不知底是斷腸聲　　　　知らず 底(こ)れは是れ 断腸の声

 

【語釈】

○子規…ホトトギス。○空山…人気の無い山。○初夜…初更のころ。○琴書…琴と書物。○形神…形骸と精神。○斷腸…非常な悲しさ。

 

 

★    畫眉鳥　　　　　　　　画(が)眉(び)鳥(ちょう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　歐陽修

 

百囀千聲任意移　　　　百囀(ひゃくてん) 千声 意に任せて移る

山花紅紫樹高低　　　　山花は紅紫 樹は高低

始知鎖向金籠聽　　　　始めて知る 鎖(とざ)して 金(きん)籠(ろう)に向(お)いて聴くは

不及林間自在啼　　　　及ばず 林間 自在に啼くに

 

【語釈】

○金籠…金の鳥かご。

 

 

★    畫眉鳥　　　　　　　　画眉鳥　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　文　同

 

盡日閑窗生好風　　　　尽日(じんじつ) 閑(かん)窓(そう) 好風生ず

一聲初聽下高籠　　　　一声 初めて聴く 高籠(こうろう)を下るを

公庭事簡人皆散　　　　公庭 事 簡(かん)にして 人 皆散じ

如在千岩萬壑中　　　　千岩万壑(せんがんばんがく)の中(うち)に 在る如し

 

【語釈】

○盡日…一日中。○閑窗…静かな窓。○高籠…高い所にある鳥かご。○公庭…朝廷。○簡…わずかなさま。○千岩萬壑…多くの岩や山。

 

 

 

★    凍鳧　　　　　　　　　凍鳧(とうふ)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　貢性之

 

江天歳晚景淒淒　　　　江天 歳晩(さいばん) 景 淒々(せいせい)

雲脚低垂望欲迷　　　　雲脚(うんきゃく) 低く垂れ 望(ぼう) 迷わんと欲す

水鳥畏寒飛不起　　　　水鳥 寒を畏(おそ)れ 飛び起きず

黃蘆枝上並頭棲　　　　黄蘆(こうろ)枝上(しじょう) 頭(こうべ)を並べて棲む

 

【語釈】

○凍鳧…凍えた小型の鴨。○江天…江と空。○歳晚…年の暮れ。○淒淒…冷え冷えとしたさま。○雲脚…雲足。○望…眺め。○黃蘆枝上…黄色い蘆の枝の上。

 

 

★    翠禽　　　　　　　　　翠禽(すいきん)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王復之

 

擺弄風前翠羽衣　　　　擺(はい)弄(ろう)す 風前 翠羽(すいう)の衣

小魚剽掠費心幾　　　　小魚 剽掠(ひょうりゃく)して 心幾(しんき)を費やす

平生不解窺江海　　　　平生(へいぜい) 解かず 江海を窺う

長向洿池來去飛　　　　長く 洿(お)池(ち)に向(お)いて 来去して飛ぶ

 

【語釈】

○翠禽…緑色の鳥。○擺弄…揺動。○剽掠…脅かしとる。○心幾…心の働き。○平生…常日頃。○洿池…汚れた池。

 

 

 

★    十二紅　　　　　　　　十二紅　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　基

 

何處飛來十二紅　　　　何れの処より 飛び来る 十二紅

萬年枝上立東風　　　　万年枝上 東風に立つ

楚王宮殿皆零落　　　　楚王の宮殿 皆 零(れい)落(らく)す

説盡春愁暮雨中　　　　説き尽す 春愁(しゅんしゅう) 暮雨の中(うち)

 

【語釈】

○十二紅…鳥の名。ひれんじゃく。○万年枝…木の名。モチノキ。○東風…春風。○楚王宮殿…楚の懐王（「朝雲暮雨」の故事。屈原の主。）の宮殿。○零落…落ちぶれること。○春愁…春のもの悲しい愁。

 

 

★    寒雀　　　　　　　　　寒雀 　　　　　　　　　　　　　　　　  宋    楊萬里

 

百千寒雀下空庭　　　　百千の寒(かん)雀(じゃく) 空庭(くうてい)に下り

小集梅梢話晚晴　　　　梅(ばい)梢(しょう)に小集して 晩(ばん)晴(せい)に話す

特地作團喧殺我　　　　特地(とくち) 団を作して 我を喧(けん)殺(さつ)す

忽然驚散寂無聲　　　　忽然(こつぜん) 驚き散じて 寂(せき)として声無し

 

【語釈】

○寒雀…冬の雀。○空庭…誰も居ない庭。○晚晴…晴れた夕空。○特地…ことさらに。○喧殺…非常にやかましい。○忽然…突然。

（参考文献）　『漢詩大系　１６』

 

 

★    詠馬　　　　　　　　　馬を詠ず　　　　　　　　　　　　　　  唐　　唐彦謙

 

崚嶒高聳骨如山　　　　崚嶒 高く聳え 骨 山の如し

遠放春郊苜蓿間　　　　遠く放つ 春郊 苜蓿(ぼくしゅく)の間

百戰沙場汗流血　　　　百戦 沙場 汗 血を流す

夢魂猶在玉門關　　　　夢魂 猶お 玉門関に在り

 

【語釈】

○崚嶒…骨節の顯露なさま。○春郊…春の郊外の野原。○苜蓿…うまごやし。○沙場…砂漠。

 

 

★    桃花馬　　　　　　　　桃(とう)花(か)馬(ば)　　　　　　　　　　　　　　　  元　　胡炳文

 

望夷宮裏失天真　　　　望(ぼう)夷宮(いきゅう)裏(り) 天真を失う

走入桃源避虐秦　　　　桃源に走り入り 虐(ぎゃく)秦(しん)を避く

背上落紅吹不起　　　　背上(はいじょう) 落紅 吹き起らず

至今猶帯武陵春　　　　今に至り 猶お帯ぶ 武(たけ)陵(ぶりょう)の春

 

【語釈】

○桃花馬…白色に紅点のある色をした名馬。○望夷宮…秦代の宮名。陝西省涇陽県東南にあった。○天真…本来の面目。○桃源…「桃花源記」の桃源郷。○虐秦…暴虐な秦。○落紅…落花。○武陵…湖南省常德市武陵。桃源郷のあったところ。

 

 

 

★    老馬　　　　　　　　　老馬　　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

百戰沙場老此身　　　　百戦 沙場(さじょう) 此の身老ゆ

長楸宮草幾回春　　　　長楸宮(ちょうしゅうきゅう)草(そう) 幾回の春

只今棄擲寒郊路　　　　只今 棄擲(きてき)さる 寒郊の路

猶自悲鳴戀主人　　　　猶(いま)自(だ) 悲しく鳴き 主人を恋う

 

【語釈】

○沙場…砂漠。○長楸…高い楸の木。○棄擲…投げ捨てる。○寒郊…寒い郊外の野原。○猶自…今なお。

 

 

★    老牛　　　　　　　　　老牛　　　　　　　　　　　　　　　  元　　宋　无

 

草繩穿鼻繫柴扉　　　　草(そう)縄(じょう) 鼻を穿(うが)ち 柴(さい)扉(ひ)に繫ぐ

殘喘無人問是非　　　　残喘(ざんぜん) 是非を問う人無し

春雨一犁鞭不動　　　　春雨 一犁(いちり) 鞭 動かず

夕陽空送牧兒歸　　　　夕陽(せきよう) 空しく送る 牧児の帰るを

 

【語釈】

○柴扉…柴で作った粗末な扉。○殘喘…衰老による喘息。

 

 

 

★    題犬　　　　　　　　　犬に題す　　　　　　　　　　　　　　  元　　貢性之

 

深宮飽食恣猙獰　　　　深宮に飽食し 猙獰(そうどう)を恣(ほしいまま)にす

臥毯眠氈慣不驚　　　　毯(たん)に臥(ふ)し 氈(せん)に眠り 慣れて驚かず

卻被卷簾人放出　　　　却って 簾を巻き 人に放出せられ

宜男花下吠新晴　　　　宜男(せんだん)花下(かか) 新晴に吠ゆ

 

【語釈】

○深宮…帝王の住居。○猙獰…荒々しく怖いさま。○毯…絨毯。○氈…毛氈。○宜男花…萱草の別名。○新晴…雨後の晴天。

 

 

★    貓兒　　　　　　　　　貓児(びょうじ)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　林　逋

 

纖鈎時得小溪魚　　　　繊(せん)鈎(こう) 時に 小渓魚(しょうけいぎょ)を得

飽卧花陰興有餘　　　　飽きて 花(か)陰(いん)に卧(ふ)し 興 余す有り

自是鼠嫌貧不到　　　　自(おのずか)ら是れ 鼠 貧を嫌い到らず

莫嫌尸素在吾廬　　　　嫌う莫かれ 尸素(しそ) 吾が廬(ろ)に在るを

 

【語釈】

○纖鈎…微細な釣り針。○尸素…位にいながらその責を尽くさない人。

 

 

 

★    蟬　　　　　　　　　　蟬　　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　許　渾

 

噪柳鳴槐晚未休　　　　柳に噪(さわ)ぎ 槐(かい)に鳴き 晩に未だ休せず

不知何事愛悲秋　　　　知らず 何事ぞ 悲秋を愛す

朱門大有長吟處　　　　朱門 大いに 長吟の処有り

剛傍愁人又送愁　　　　剛(まさ)に 愁人(しゅうじん)に傍いて 又た 愁を送る

 

【語釈】

○朱門…貴族富豪の家。　　

 

 

★    蟬　　　　　　　　　　蟬　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　寇　準

 

寂寂宮槐雨乍晴　　　　寂々(せきせき)たる宮槐 雨 乍(たちま)ち晴れ

高枝微带夕陽明　　　　高枝 微かに 夕陽(せきよう)を带びて 明かなり

臨風忽起悲秋思　　　　風に臨み 忽(たちま)ち起る 悲秋の思

獨聽新蟬第一聲　　　　独り聴く 新蟬の第一声

 

【語釈】

○寂寂…寂しく静かなさま。○宮槐…槐樹。

 

 

 

 

★    聽蟬 　　　　　　　　　蟬を聴く　　　　　　　　　　　　　   　唐　　趙　嘏

 

噪蟬聲亂日初曛　　　　噪蟬(そうせん) 声 乱れて 日 初めて曛(くん)ず

絃管樓中永不聞　　　　絃管 楼中 永く聞かず

獨奈愁人數莖髮　　　　独り奈(た)う 愁人 数茎の髪

故園秋隔五湖雲　　　　故園 秋は隔つ 五湖の雲

 

【語釈】

○噪蟬…うるさい蟬。○絃管…音楽。○奈…耐える。○数茎…数本。○故園…故郷。○五湖…太湖（江蘇省南部と浙江省北部の境界にある湖）を中心とする湖。

 

　　　

★    秋蝶　　　　　　　　　秋蝶　　　　　　　　　　　　　　　  明　　姚廣孝

 

粉態凋殘抱恨長　　　　粉態 凋残し 恨みを抱いて長し

此心應是怯凄凉　　　　此の心 応(まさ)に是れ 凄(せい)涼(りょう)に怯(おび)ゆべし

如何不管身憔悴　　　　如何(いかん)ぞ管せざらん 身の憔悴(しょうすい)

猶戀黄花雨後香　　　　猶お恋う 黄花(こうか) 雨後の香

 

【語釈】

○粉態…妍美な容姿。○凋殘…疲れ衰える。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○凄凉…つめたさ。○憔悴…やせ衰える。○黄花…黄色い花。菊。

 

 

★    秋日見蝶　　　　　　　秋日 蝶を見る　　　　　　　　　　　　  明　　朱静菴

 

江空月落雁聲悲　　　　江空 月落ちて 雁声悲し

霜染丹楓百草萎　　　　霜は丹(たん)楓(ふう)を染め 百草は萎(しぼ)む

胡蝶不知身是夢　　　　胡蝶(こちょう)は知らず 身は是れ夢なるを

又随秋色上寒枝　　　　又た 秋色に随って 寒枝に上る

 

【語釈】

○江空…江の上の空。○丹楓…赤くなった楓。○胡蝶…蝶。○秋色…秋景色。秋の気配。

 

 

★    螢　　　　　　　　　　蛍　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　郭　震

 

秋風凜凜月依依　　　　秋風 凜々(りんりん) 月 依々(いい)

飛過高梧影裏時　　　　飛びて 高梧(こうご)影(えい)裏(り)を過ぐる時

處暗若教同衆類　　　　暗きに処して 若(も)し 衆類(しゅうるい)と同じからしめば

世間爭得有人知　　　　世間 争(いかで)か 人の知る有ることを得ん

 

【語釈】

○凜凜…寒さの厳しいさま。○依依…遠くぼんやりとしているさま。○高梧…高い梧桐の木。○衆類…一般の（光を発しない）昆虫類。

 

 

 

★    螢　　　　　　　　　　蛍　　　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

水殿清風玉戸開　　　　水殿の清風 玉戸開く

飛光千點去還來　　　　飛光 千点 去りて還(ま)た来(きた)る

無風無月長門夜　　　　無風 無月 長門(ちょうもん)の夜

偏到階前點綠苔　　　　偏(ひとえ)に 階前に到り 緑(りょく)苔(たい)に点ず

 

【語釈】

○水殿…水に臨んだ殿堂。○玉戸…玉で飾った戸。○長門…長門宮。漢の武帝の寵愛を失った陳皇后が住んだ宮殿。○階前…きざはしの前。

 

 

★    流螢詞　　　　　　　　流蛍詞　　　　　　　　　　　　　　　  清　　安　期

 

熠熠流光漾水煙　　　　熠々(しゅうしゅう)たる 流光 水煙に漾(ただよ)う

池亭雨歇晚涼天　　　　池亭 雨 歇(や)んで 晩涼の天

西風吹墮紅蕖裏　　　　西風 吹き堕とす 紅蕖(こうきょ)の裏(うち)

照見鴛鴦自在眠　　　　照(しょう)見(けん)す 鴛鴦(えんおう)の自在に眠るを

 

【語釈】

○熠熠…鮮やかで明眸なさま。○水煙…水上の靄。○池亭…池に臨んだ亭。○西風…秋風。○紅蕖…紅色の蓮の花。○照見…光で照らして見る。○鴛鴦…オシドリ。

 

 

★    流螢詞　　　　　　　　流蛍詞　　　　　　　　　　　　　　   清　　硃受新

 

暗飛幾點隔簾櫳　　　　暗飛(あんぴ) 幾点 簾櫳(れんろう)を隔つ

影亂繁星度遠空　　　　影 乱れて 繁(はん)星(せい) 遠空を度(わた)る

莫入班姬金閣裏　　　　入(い)る莫かれ 班(はん)姫(き) 金閣の裏

恐隨團扇落秋風　　　　恐らくは 団扇(だんせん)に随って 秋風に落ちん

 

【語釈】

○簾櫳…簾のかかったれんじ窓。○繁星…多くの星（螢の光）。○班姬…班昭。東漢の学者。歴史家班彪(の娘、班固の妹。○團扇…うちわ。

 

 

★    蛩　　　　　　　　　　蛩(こおろぎ)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　郭　震

 

愁殺離家未達人　　　　愁殺す 離家 未達の人

一聲聲到枕前聞　　　　一声 声は到り 枕前に聞く

苦吟莫向朱門裏　　　　苦吟 向うこと莫れ 朱門の裏

滿耳笙歌不聽君　　　　満耳の笙歌 君を聴かず

 

【語釈】

○愁殺…ひどく愁えさせる。○苦吟…苦労して吟じること。ここでは鳴いているコオロギ。○朱門…貴族、富豪の家。○笙歌…音楽と歌。

 

 

★    聞蛩　　　　　　　　　蛩(こおろぎ)を聞く   　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

暗蟲喞喞夜緜緜　　　　暗虫 喞々(きょうきょう)として 夜 綿綿(めんめん)たり

況是秋陰欲雨天　　　　況(いわ)んや是(こ)れ 秋陰 雨ふらんと欲する天

猶恐愁人暫得睡　　　　猶お恐る 愁人 暫(しばら)く睡(すい)を得んとするに

聲聲移近臥牀前　　　　声々(せいせい) 臥床(がしょう)の前に 移り近ずくを

 

【語釈】

○喞喞…虫の声の形容、チーチー。○緜緜…長く続くさま。○況是…まして。○秋陰…雨の曇り空。○愁人…愁える人、作者。○暫…やっと。当時の俗語。

〔参考文献〕　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

 

　　

★    促織　　　　　　　　　促(そく)織(しょく)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　喬

 

念爾無機自有情　　　　念爾 機 無く 自(おのずか)ら情有り

迎寒辛苦弄梭聲　　　　寒を迎え 辛苦 梭(ひ)を弄(ろう)する声

椒房金屋何曾識　　　　椒房(しゅくぼう) 金屋 何ぞ 曽て識らん

偏向貧家壁下鳴　　　　偏(ひとえ)に 貧家に向(お)いて 壁下に鳴く

 

【語釈】

○促織…コオロギ。○念爾…爾を思う。○無機…自然に任す。○梭…機織り機のヒ。○椒房…后妃の住む部屋。○金屋…華美な部屋。

 

 

★    絡緯　　　　　　　　　絡緯(らくい)　　　　　　　　　　　　　　　　　   明　　邾　經

 

牽牛風露滿籬根　　　　牽牛(けんぎゅう)の風(ふう)露(ろ) 籬(り)根(こん)に満つ

淡月疎星夜未分　　　　淡月 疎星 夜 未だ分たず

燈下有人抛錦字　　　　灯下 人 有りて 錦字を抛ち

機絲零亂不成文　　　　機糸 零(れい)乱(らん) 文を成さず

 

【語釈】

○牽牛…牽牛花。アサガオ。○風露…風と露。○籬根…垣根。○錦字…蘇蕙の回文詩の故事。○機絲…機織り機の糸。○零亂…ゆらゆら動く。

 

 

★    蠅　　　　　　　　　　蠅(はえ)　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　郭　登

 

眇形纔脱糞中胎　　　　眇形(びょうけい) 纔(わずか)に脱す 糞中(ふんちゅう)の胎(たい)

鼓翅搖頭可惡哉　　　　翅(はね)を鼓し 頭(こうべ)を揺がし 悪なるべき哉(かな)

苦不自量何種類　　　　苦(ねんごろ)に 自(みずか)ら量らず 何の種類ぞ

玉階金殿也飛來　　　　玉階 金殿 也(ま)た 飛来す

 

【語釈】

○眇形…小さな形。○胎…ウジ虫。○玉階…玉で飾ったきざはし。○金殿…宮殿。

 

 

★    蛟　　　　　　　　　　蛟　　　　　　　　　　　　　　　　   清　　瀋紹姬

 

斗室何來豹脚蚊　　　　斗室 何ぞ来る 豹(ひょう)脚(きゃく)の蚊

殷如雷鼓聚如雲　　　　殷(いん)とすること 雷鼓の如く 聚(あつま)ること 雲の如し

無多一點英雄血　　　　多無く 一点 英雄の血

閑到衰年忍付君　　　　閑かに 衰(すい)年(ねん)に到り 君に付するに忍びんや

 

【語釈】

○斗室…狭い部屋。○豹脚蚊…脚に斑点のある蚊。○殷…盛んであるさま。○無多…すこしばかり。○衰年…衰老の年。○付…与える。

 

 

★    蛙聲　　　　　　　　　蛙声(あせい)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　呉　融

 

穉圭倫鑒未精通　　　　穉(ち)圭(けい) 倫鑒(りんかん) 未だ精通ならず

只把蛙聲鼓吹同　　　　只だ 蛙声(あせい)を把(と)り 鼓吹(こすい)を同じくす

君聽月明人靜夜　　　　君 聴く 月明 人 静なる夜

肯饒天籟與松風　　　　肯えて饒(くわ)えんや 天籟(てんらい)と松風と

 

【語釈】

○穉圭…南齊の孔稚珪。○倫鑒…人物のかがみ。○鼓吹…古代の合奏曲。○天籟…自然に鳴る風の音。

 

 

★    鯉魚　　　　　　　　　鯉魚(りぎょ)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　章孝標

 

眼似真珠鱗似金　　　　眼は真珠に似 鱗(うろこ)は金に似たり

時時動浪出還沈　　　　時々(じじ) 浪を動かし 出でて還(ま)た沈む

河中得上龍門去　　　　河中 竜門に上りて去り得(う)

不歎江湖歳月深　　　　歎ぜず 江湖 歳月の深きを

 

【語釈】

○時時…常々。○龍門…山西省河津市にある山峡名。「登竜門」という故事にちなむ「龍門の滝」がある。○江湖…江河湖海。隠棲の地。

 

 

★    點額魚　　　　　　　　点(てん)額魚(がくぎょ)　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

龍門點額意何如　　　　竜門(りょうもん)に額(ひたい)を点す 意 何如(いかん)

紅尾青鬐却返初　　　　紅(こう)尾(び) 青鬐(せいき) 却(かえ)って初めに返る

見說在天行雨苦　　　　見(きく)説(なら)く 天に在りては 雨を行(や)るの苦ありと

爲龍未必勝爲魚　　　　竜と為りて 未だ必ずしも 魚と為るに勝(まさ)らず

 

【語釈】

○點額魚…龍門を昇って龍になりえず、あたら額を打ち付けて引き返す魚。作者自身。○紅尾…赤い尾ひれ。○青鬐…青いヒゲ。○初…最初の場所。○見說…～と言われている。当時の俗語。

　

 

 

★    銀刀魚　　　　　　　　銀(ぎん)刀魚(とうぎょ)　　　　　　　　　　　　　　　   清　　宋　琬

 

銀花爛漫委筠筐　　　　銀花 爛漫 筠筐(いんきょう)に委(す)てられ

錦帶呉鉤總擅場　　　　錦帯(きんたい) 呉(ご)鉤(こう) 総て擅場(だんじょう)

千載專諸留俠骨　　　　千載 専(せん)諸(しょ) 俠(きょう)骨(こつ)を留め

至今匕箸尚飛霜　　　　今に至るまで 匕(ひ)箸(ちょ) 尚お霜を飛ばす

 

【語釈】

○銀花…光彩が四方を刺す形容。○爛漫…色彩の美しいさま。○筠筐…竹製の箱。○錦帶…錦の帯び。呉鉤…兵器の一種。（李白詩・結客少年場行「珠袍曳錦帶，匕首插吳鴻」によるか？吳鴻は宝剣の名。（呉越春秋）。○專諸…魚腸剣により王を殺害した刺客（史記・刺客列伝）。○俠骨…武勇の性格と気質。○匕箸…さじと箸。

  

 

★    放魚　　　　　　　　　魚を放つ　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　竇　鞏

 

金錢贖得免刀痕　　　　金銭 贖(あがな)い得て 刀痕(とうこん)を免れしむ

聞道禽魚亦感恩　　　　聞道(きくなら)く 禽魚(きんぎょ) 亦た 恩を感ずと

好去長江千萬里　　　　好し去れ 長江 千万里

不須辛苦上龍門　　　　須(もち)いず 辛苦して 竜門に上るを

 

【語釈】

○刀痕…刀キズ。ここでは、包丁で切られること。○聞道…聞くところによれば。○禽魚…鳥と魚。○龍門…山西省河津市にある山峡名。「登竜門」という故事にちなむ「龍門の滝」がある。

 

★    梅花　　　　　　　　　梅花　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸希聲

 

凍蘂凝香色豔新　　　　凍(とう)蘂(ずい) 香を凝(こ)らし 色豔(しきえん)新なり

小山深塢伴幽人　　　　小山 深塢(しんう) 幽人に伴う

知君有意凌寒色　　　　知る 君 意 有りて 寒色を凌(しの)ぎ

羞共千花一樣春　　　　羞ず 千花を共にす 一様の春

 

【語釈】

○凍蘂…凍ったしべ。○色豔…色の美しさ。○深塢…奥深い山の隈。○幽人…隠者。○寒色…寒気。

　　　

 

★    梅花　　　　　　　　　梅花　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王　淇

 

不受塵埃半點侵　　　　受けず 塵埃 半点の侵(しん)

竹籬茅舍自甘心　　　　竹籬(ちくり)の茅舎 自(おのずか)ら甘心(かんしん)

只因誤識林和靖　　　　只だ 誤って 林和(りんわ)靖(せい)を識るに因(よ)りて

惹得詩人説到今　　　　詩人を惹(ひ)き得て 説きて 今に到る

 

【語釈】

○半點…ごく僅かであることの形容。○竹籬…竹で作った垣。○茅舎…茅葺きの粗末な家。○甘心…快い気持。○林和靖…林逋。北宋の詩人。鶴を妻とし、梅を子として、西湖の孤山に隠棲して暮らした。

 

 

 

★    梅花　　　　　　　　　梅花　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

竹遶疎籬水遶村　　　　竹は疎籬を遶(めぐ)り 水は村を遶(めぐ)る

一枝相伴到黄昏　　　　一枝 相伴い 黄昏(こうこん)に到る

暗香似識騷人意　　　　暗香 識るに似たり 騒人(そうじん)の意

月淡無風自入門　　　　月 淡く 風 無く 自(おのずか)ら門に入る

 

【語釈】

○疎籬…まばらな垣。○黄昏…たそがれ。○暗香…清淡な香気。梅の縁語。○騒人…詩人。

 

 

★    梅花　　　　　　　　　梅花　　　　　　　　　　　　　　　   元　　黃鎮成

 

吟屋蕭疎霜後村　　　　吟屋 蕭(しょう)疎(そ)たり 霜後の村

江頭千樹欲黄昬　　　　江頭の千樹 黄昬(こうこん)ならんと欲す

等閒又被春風覺　　　　等間(とうかん)に 又た 春風に覚えられ

添得寒梢月一痕　　　　添え得たり 寒(かん)梢(しょう) 月 一(いっ)痕(こん)

 

【語釈】

○吟屋…詩人の家。○蕭疎…ひっそりとして物寂しいさま。○江頭…江のほとり。○黄昬…たそがれ。○等閒…何の意識もなく。○寒梢…寒々とした梢。○一痕…欠けた月の形容。

 

 

★    早梅                  早梅　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　張　謂

 

一樹寒梅白玉條　　　　一樹の寒梅 白(はく)玉条(ぎょくじょう)

迥臨村路傍溪橋　　　　迥(はる)かに 村路に臨む 渓橋の傍(そば)

不知近水花先發　　　　知らず 近水 花 先ず発(ひら)くを

疑是經春雪未銷　　　　疑うらくは 是れ 春を経(へ)し雪の 未だ銷(き)えざるかと

 

【語釈】

○白玉條…白い球をちりばめたような枝。

 

 

★    月梅　　　　　　　　　月梅　　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　釋明本

 

數枝姑射鬥嬋娟　　　　数枝の姑(こ)射(しゃ) 嬋娟(せんけん)を鬥(たたか)う

疏影分明不夜天　　　　疏(そ)影(えい) 分明 夜の天ならず

散卻廣寒宮裏桂　　　　散却(さんきゃく)す 広(こう)寒宮(かんきゅう)裏(り)の桂

春光長滿玉堂前　　　　春光 長く満つ 玉堂(ぎょくどう)の前

 

【語釈】

○姑射…仙人が住んでいるという伝説の姑射山。肌の白い仙人を梅の花に喩えた物。○嬋娟…あでやかで美しいさま。○疏影…疎らな（枝）の影。梅の縁語。○分明…はっきりしているさま。○散卻…散り尽くす。却は助字。○廣寒宮…月にあるとされる宮殿。○玉堂…玉で飾った殿堂。

 

 

★    梅月吟　　　　　　　　梅月(ばいげつぎん)吟(ぎん)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　姚宋佐

 

梅花得月太清生　　　　梅花 月を得て 太(はなは)だ清(せい)生(せい)

月到梅花越樣明　　　　月は梅花に到り　越様に明かなり

梅月蕭疏兩奇絶　　　　梅月 蕭疏(しょうそ)にして 両(ふた)つながら奇絶(きぜつ)

有人踏月繞花行　　　　人有りて 月を踏み 花を繞(まと)りて行く

 

【語釈】

○梅月…梅と月。○越樣…飛び抜けて。○蕭疏…しずかで物寂しいさま。○奇絶…非常に美しい。○踏月…月明かりを踏む。

 

 

★    雪梅　　　　　　　　　雪梅　　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

雪正飛時梅政開　　　　雪 正に飛ぶ時 梅 政(まさ)に開く

倩人和雪折庭梅　　　　人に倩(たの)み 雪に和し 庭梅を折る

莫教顫脫梢頭雪　　　　梢頭(しょうとう)の雪を 顫(せん)脱(だつ)しむる莫かれ

千萬輕輕折取來　　　　千万 軽々(けいけい)に 折り取りて来らん

 

【語釈】

○梢頭…梢のてっぺん。○顫脫…震えて落ちる。○千万…多くの人々。

 

 

 

★    雪梅　　　　　　　　　雪梅　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　方　岳

 

有梅無雪不精神　　　　梅有りて 雪無ければ 精神ならず

有雪無詩俗了人　　　　雪有りて 詩無ければ 人を俗(ぞく)了(りょう)す

薄暮詩成天又雪　　　　薄暮 詩 成りて 天 又た 雪ふる

與梅併作十分春　　　　梅と併せて 十分の春を作(な)す

 

【語釈】

○精神…生気、光彩があって美しいこと。○俗了…俗化してしまう、無学、無風流なものとしてしまう。○十分春…完全な春。

（参考文献）　　『漢詩鑑賞事典』

 

　　　

★    惜梅　　　　　　　　　梅を惜む　　　　　　　　　　　　　　　　　 元　　僧明本

 

香銷泥汙意徘回　　　　香 銷(き)え 泥 汙(よご)して 意 徘回す

掠地迴風玉作堆　　　　地を掠むる 迴(かい)風(ふう) 玉 堆(つい)を作す

愁絶黃昏無一語　　　　愁絶(しゅうぜつ) 黄昏(こうこん) 一語 無し

怕看孤月上窓來　　　　看るを怕(おそ)る 孤月の 窓に上りて来るを

 

【語釈】

○徘回…さまよう。○迴風…旋風。○愁絶…極端な憂愁。○黃昏…たそがれ。

 

 

★    探梅　　　　　　　　　梅を探す　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

江路雲低糝玉塵　　　　江路　雲 低く　玉塵を糝(まじ)う

暗香初探一枝新　　　　暗香 初めて探く 一枝新たなり

平生不喜凡桃李　　　　平生 喜ばず 凡(ぼん)桃(とう)李(り)

看了梅花睡過春　　　　梅花を看了(かんりょう)すれば 過(すご)す春を睡る

 

【語釈】

○江路…江と道。○玉塵…雪のこと。○暗香…どこからともなく漂って来る香り。梅の縁語。○平生…ふだんから。○凡桃李…平凡な桃やスモモ。○看了…見終わる。見尽くす。

 

 

★    探梅　　　　　　　　　梅を探す　　　　　　　　　　　　　　  清　　沈徳濳

 

才過野店便渓橋　　　　才(わずか)に 野店を過ぎれば 便ち渓橋

携却詩嚢又酒瓢　　　　携却(けいきゃく)す 詩嚢(しのう)又た酒(しゅ)瓢(ひょう)

但覔幽香最深處　　　　但だ覔(もと)む 幽(ゆう)香(こう) 最も深き処

不須前路問山樵　　　　須(もち)いず 前路に山(さん)樵(しょう)を問うを

 

【語釈】

○野店…野原にある茶店。○携却…携える。却は助字。○詩嚢…詩箋を入れる袋。○酒瓢…酒を入れる瓢箪。○幽香…どこからともなく漂って来る香。○山樵…きこり。隠者。

 

 

★    盆梅　　　　　　　　　盆梅　　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　宋樹穀

 

數枝也復影横斜　　　　数枝也(や) 復た 影 横斜

惹得覊人郷夢餘　　　　惹(ひ)き得たり 覊人(きじん) 郷夢余(はるか)なり

抛却西谿千樹雪　　　　抛却(ほうきゃく)す 西谿 千樹の雪

尾盆三尺看梅花　　　　尾(び)盆(ぼん) 三尺 梅花を看る

 

【語釈】

○盆梅…盆栽の梅。○覊人…旅人。○抛却…放っておく。却は助字。○郷夢…故郷の夢。

 

 

★    紅梅　　　　　　　　　紅梅　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　丁鶴年

 

姑射仙人鍊玉砂　　　　姑(こ)射(しゃ)の仙人 玉(ぎょく)砂(さ)を錬(ね)る

丹光晴貫洞中霞　　　　丹光 晴貫す 洞中の霞

無端半夜東風起　　　　端無(はしな)くも 半夜 東風起り

吹作江南第一花　　　　吹き作す 江南 第一の花

 

【語釈】

○姑射…仙人が住んでいるという伝説の姑射山。梅があるという伝説がある。○丹光…丹を練るときの火光。○無端…思いがけず。○半夜…真夜中。○東風…春風。○江南…長江下流南岸地方。○第一花…ここでは紅梅。

 

 

★    桃花                  桃花 　　　　　　　　　　　　　  宋　　向敏中

 

千朵穠芳倚檻斜　　　　千朵(せんだ)の穠(じょう)芳(ほう) 檻(かん)に倚(よ)りて斜なり

一枝枝綴亂雲霞　　　　一枝 枝 綴(と)じて 雲霞を乱す

憑君莫厭臨風看　　　　君に憑(たのむ)む 厭(いと)う莫かれ 風に臨んで看るを

占斷春光是此花　　　　春光を占断するは 是れ 此の花

 

【語釈】

○千朵…多くの枝。○穠芳…馥郁とした芳香。○檻…欄干。○春光…春景色。○占斷…占め尽くす。

 

　　　 

★    慶全菴桃花　　　　　　慶全菴の桃花　　　　　　　　　　  宋　　謝枋得

 

尋得桃源好避秦　　　　尋ね得て 桃源 好く秦を避く

風光又見一年春　　　　風光 又た見る 一年の春

花飛莫遣隨流水　　　　花 飛びて 流水に随わしむる莫かれ

怕有漁郎來問津　　　　怕(おそ)らくは 漁郎の 津(しん)を問いて来る有り

 

【語釈】

○慶全菴…釋齊己。南宋の僧侶。邛州蒲江（四川省）の人。○桃源…桃花源記の桃源郷。○漁郎…漁夫。○津…渡し場。（「桃花源記」による。）

 

 

★    山舍南溪小桃花　　　　山舎の南渓の小桃花　　　　　　　　　　  唐　　李九齡

 

一樹繁英奪眼紅　　　　一樹 繁英 眼を奪う紅

開時先合占東風　　　　開時 先ず合(まさ)に 東風を占むべし

可憐地僻無人賞　　　　憐む可し 地 僻(へき)にして 人の賞する無きを

抛擲深山亂木中　　　　抛擲(ほうてき)す 深山 乱木の中(うち)

 

【語釈】

○繁英…盛んに咲いた花。合…「まさに～すべし」と読み、「～しなければならない」の意。○可憐…感嘆の言葉。○抛擲…ほおっておかれる。

 

 

★    院桃再花有感　　　　　院桃 再花 感有り　　　　　　　　　　　　   清　　蔣士銓

 

竹外重開一兩枝　　　　竹外 重く開く 一両枝

花神何事與秋期　　　　花神 何事ぞ 秋期を与う

風霜影裏誇顔色　　　　風霜(ふうそう)影(えい)裏(うら) 顔色を誇る

也是人生晩達時　　　　也(ま)た是れ 人生 晩(ばん)達(たつ)の時

 

【語釈】

○再花…（秋に）再び開花する。○花神…花を咲かせる神。○風霜…風と霜。○晩達…晩年に官職を得る。

 

 

★    白桃花　　　　　　　　白桃(はくとう)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　汪易堂

 

褪盡鉛華露一叢　　　　褪(あ)せ尽くす 鉛(えん)華(か) 露 一(いっ)叢(そう)

輕陰漠漠淡煙籠　　　　軽陰 漠々(ばくばく) 淡煙籠む

漁郎錯忍仙源路　　　　漁郎 錯(さく)忍(にん)す 仙源の路

洞口春深雪未融　　　　洞口 春 深くして 雪 未だ融けず

 

【語釈】

○鉛華…落花の比喩。○一叢…ひと叢がり。○軽陰…僅かに明るい空の色。○漠漠…広々として果てしないさま。○淡煙…淡い霞。○錯忍…見誤る。○仙源…桃源郷の入り口。○

春深…春の盛り。

 

 

★    梨花 　　　　　　　　　梨花(りか)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　黄庭堅

 

桃花人面各相紅　　　　桃花 人面 各(おの)ゝ(おの) 相(あい)紅(くれない)なり

不及天然玉作容　　　　及ばず 天然 玉(ぎょく) 容(かたち)を作(な)すに

總向風塵塵莫染　　　　総て 風塵(ふうじん)に向って 塵 染むる莫かれ

輕輕籠月倚牆東　　　　軽々に 月を籠めて 牆(しょう)東(とう)に倚(よ)らん

 

【語釈】

○玉作容…梨花が白い玉のような形をなすこと。○風塵…風によって起こる塵。○牆東…垣の東。

 

 

★    和孔密州 東欄梨花     孔(こう)密州(みつしゅう)に和す　東欄(とうらん)の梨花(りか)　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

梨花淡白柳深青　　　　梨花(りか)は淡白にして 柳は深青

柳絮飛時花滿城　　　　柳絮(りゅうじょ) 飛ぶ時 花 城に満つ

惆悵東欄二株雪　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 東欄(とうらん) 二株の雪

人生看得幾清明　　　　人生 看得(みう)るは 幾清明

 

【語釈】

○孔密州…蘇軾の後任としえ密州（山東省濰坊市密州）の刺史となった孔宗翰。○東欄…密州の官舎の東側の欄干。淡白…淡い白色。深青…深い緑色。柳絮… 柳の白い綿毛のついた種子。○城…城壁で囲まれた町。惆悵…嘆き悲しむこと。傷み悲しむこと。○株雪 …一本の梨の木の花を雪に喩えている。○清明…二十四節気の一つ。春分から十五日目。

○看得… 見ることができる。

（参考文献）　　『漢詩大系　１７』　　

 

 

★    杏花　　　　　　　　　杏花　　　　　　　　　　　　  　　唐　　羅　隱

 

暖氣潛催次第春　　　　暖気 潜催(せんさい) 次第の春

梅花已謝杏花新　　　　梅花 已に謝し 杏花 新たなり

半開半落閑園裏　　　　半ば開き 半ば落つ 閑(かん)園(えん)の裏(うち)

何異榮枯世上人　　　　何ぞ異らん 栄枯 世上の人に

 

【語釈】

○潛催…ひそかに催す。○次第…だんだん。○謝…去る。散る。○閑園…静かな園。○榮枯…栄枯盛衰。

 

★    北陂杏花　　　　　　　北陂(ほくひ)の杏花　　　　　　　　　　　　　  宋    王安石

 

一陂春水繞花身　　　　一陂(いちは)の春水 花身を繞(めぐ)り

花影妖嬈各占春　　　　花影 妖嬈(ようじょう) 各ゝ春を占む

縱被春風吹作雪　　　　縦(たと)い 春風に吹かれて 雪と作(な)るとも

絶勝南陌碾成塵　　　　絶えて勝る 南陌(なんぱく)に碾(ひ)かれて 塵と成るに

 

【語釈】

○北陂…北の堤。○花影…花と、その水に映った影。○妖嬈…あでやか。○雪…花吹雪。○南陌…南の道。

（参考文献）　　『中国名詞選』

 

　　　

★    唐昌觀玉蕋花　　　　　唐(とう)昌(しょう)観(かん)の玉蕋(ぎょうくしん)花(か)　　　　　　　　　　　  唐　　王　建

 

一樹瓏鬆玉刻成　　　　一樹 瓏鬆(れいそう)して 玉刻(ぎょくこく)成り

飄廊點地色輕輕　　　　廊に飄(ひるが)えって 地に点じ 色 軽々(けいけい)

女冠夜覓香來處　　　　女冠 夜 覓(もと)む 香の来る処

惟見階前碎月明　　　　惟だ見る 階前 砕(さい)月(げつ)の明かなるを

 

【語釈】

○唐昌觀…長安安業坊の南にあった道觀の名。○玉蕋花…ビロードモウズイカ。○瓏鬆…繁茂する。○玉刻…美しい携帯の形容。○點地…地に着く。○女冠…女道士。○階前…きざはしの前。○碎月…花によって砕かれてバラバラになった月光。

 

 

★    海棠　　　　　　　　　海棠　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　何希堯

 

著雨胭脂點點消　　　　雨に著(つ)き 胭(えん)脂(し) 点々(てんてん)として消ゆ

半開時節最妖嬈　　　　半開の時節 最も妖嬈(ようじょう)

誰家更有黃金屋　　　　誰が家か 更に 黄金の屋 有りて

深鎖東風貯阿嬌　　　　深く鎖して 東風 阿嬌(あきょう)を貯(ま)たん

 

【語釈】

○胭脂…綺麗で鮮やかな紅色。ここでは海棠の花の紅色。○妖嬈…美しくてなまめかしい。○東風…春風。○阿嬌…娘さん。

 

 

海棠　　　　　　　　　海棠(かいどう)　　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　蘇　軾

 

春風嫋嫋泛崇光　　　　春風 嫋々(じょうじょう)として 崇光(すうこう)泛(ゆら)ぐ

香霧空濛月轉廊　　　　香霧 空濛(くうもう)として 月 廊に転ず

只恐夜深花睡去　　　　只だ恐る　夜深くして 花の睡り去さらんことを

更燒高燭照紅妝　　　　更に高燭(こうしょく)を焼きて 紅妝(こうしょく)を照す

 

【語釈】

○嫋嫋…たおやかなさま。○崇光…かがり火の高く燃え上がるさま。○香霧…春の花の香りを籠めた霧。○高燭…花を照らすかがり火。○紅妝…紅の化粧。海棠。

（参考文献）　『漢詩大系　１７』

 

 

★    海棠　　　　　　　　　海棠　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳與義

 

海棠脈脈要詩催　　　　海棠 脈々(みゃくみゃく)として詩を要すを催(うなが)す　

日暮紫綿無數開　　　　日暮 紫(し)綿(めん) 無数開く

欲識此花奇絕處　　　　識らんと欲す 此の花 奇絶(きぜつ)の処

明朝有雨試重來　　　　明朝 雨 有れば 試(こころみ)に重来せん

 

【語釈】

○脈脈…感情が心の中に波打っているさま。○紫綿…ここでは海棠の花。○奇絕…非常に美しい。

 

 

★    海棠　　　　　　　　　海棠　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

蜀地名花擅古今　　　　蜀地の名花 古今を擅(ほしいまま)にす

一枝氣可壓千林　　　　一枝の気 千林を圧すべし

譏彈更到無香處　　　　譏弾(きだん) 更に到る 香無き処

常恨人言太刻深　　　　常に恨む 人言 太(はやは)だ刻(こく)深(しん)なるを

 

【語釈】

○蜀地…四川省。○譏彈…そしりただす。○無香處…海棠の花は香りが薄いとされる。○刻深…厳酷。

 

 

★    興教寺海棠　　　　　　興(こう)教寺(きょうじ)の　海棠　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

兩樹繁花占上春　　　　両樹の繁(はん)花(か) 上春を占む

多情誰是惜芳人　　　　多情なるは 誰か是れ 芳(はな)を惜しむ人

京華の一朶千金價　　　　京華 一朶(いちだ) 千金の価(あたい)

肯信空山委路塵　　　　肯えて信ぜんや 空山 路(ろ)塵(じん)に委(す)てらるるを

 

【語釈】

○興教寺…陝西省長安県杜曲鎮の南の少陵原上にある寺。○繁花…繁密な花。○上春…旧暦一月。○京華…京城の美称。○一朶…一枝。○空山…人気の無い山。

 

　　　

★    未開海棠　　　　　　　未開の海棠　　　　　　　　　　　　  金　　元好問

 

枝間新綠一重重　　　　枝間の新緑 一えに重々(ちょうちょう)

小蕾深藏數點紅　　　　小蕾(しょうらい) 深く蔵し 数点紅なり

愛惜芳心莫輕吐　　　　愛惜す 芳心 軽く吐(ひら)くこと莫れ

且教桃李鬧春風　　　　且(しばら)く 桃李をして 春風に鬧(さわが)がしめよ

 

【語釈】

○重重…非常に深いさま。○愛惜…愛し惜しむ。○芳心…花芯。

　　　

 

★    白秋海棠　　　　　　　白秋海棠(はくしゅうかいどう)　　　　　　　　　　　　　　　  清　　尤　怡

 

誰將清淚洒幽墀　　　　誰か 清涙を将(も)って 幽墀(ゆうち)に洒(そそ)ぐ

散作瑤華別有姿　　　　瑶(よう)華(か)を散作して 別に 姿有り

最是玉人腸斷後　　　　最も是れ 玉人 腸断の後

淡妝無語背人時　　　　淡妝(たんしょう) 語無く 人に背く時

 

【語釈】

○幽墀…奥深いきざはし。○瑤華…玉白色の花。○散作…散らす。○玉人…美人。○淡妝…薄化粧。○背…背を向ける。

 

 

★    白秋海棠　　　　　　　白秋海棠(はくしゅうかいどう)　　　　　　　　　　　　　　  清　　朱受新

 

清秋湛露浥瓊芳　　　　清秋 湛(たん)露(ろ) 瓊(けい)芳(ほう)を浥(うるお)し

素影風摇玉砌旁　　　　素影 風に摇れる 玉(ぎょく)砌(さい)の旁(かたわら)

夜静看花人独立　　　　夜静かにして 花を看て 人 独り立つ

水晶簾外月如霜　　　　水晶簾外 月 霜の如し

 

【語釈】

○湛露…繁くおく露。○瓊芳…玉のように美しい花。ここでは白秋海棠。○素影…月影。○玉砌…玉で飾ったみぎり。

 

 

★    楊花　　　　　　　　　楊(よう)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　吳　融

 

不闘穠華不占紅　　　　穠(のう)華(か)を闘わず 紅を占めず

自飛晴野雪濛濛　　　　自(おのずか)ら 晴野を飛び 雪 濛々(もうもう)

百花長恨風吹落　　　　百花 長く恨む 風の吹き落すを

唯有楊花獨愛風　　　　唯だ 楊花の 独り 風を愛する有り

 

【語釈】

○楊花…柳絮。○穠華…花枝の繁盛美麗さ。○濛濛…煙るようにボーとしているさま。

 

 

★    楊花　　　　　　　　　楊(よう)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　  金　　髙士談

 

來時官栁萬絲黄　　　　来時 官栁(かんりゅう) 万糸 黄なり

去日飛毬滿路傍　　　　去日 飛(ひ)毬(きゅう) 路傍に満つ

我比楊花更飄蕩　　　　我 楊花に比すれば 更に飄蕩(ひょうとう)

楊花只是一春忙　　　　楊花 只だ是れ 一春のみ忙し

 

【語釈】

○楊花…柳絮。○官栁…政府が路傍に植えた柳。○万糸…全ての枝。○飛毬…空中にある飛球。柳絮のこと。○飄蕩…流浪。

 

 

★    木犀　　　　　　　　　木犀　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　楊萬里

 

只道秋花艷未强　　　　只だ道う 秋花 艶 未だ強からずと

此花儘更有商量　　　　此の花 侭(まか)せ 更に商量(しょうりょう)有り

東風染得千紅紫　　　　東風 染め得たり 千(せん)紅(こう)紫(し)

曾有西風半點香　　　　曽て 有や西風 半点の香

 

【語釈】

○商量…考え計る。○西風…秋風。○半點…ごく僅かなこと。

 

 

★    凝露堂木犀　　　　　凝(ぎょう)露堂(ろどう)の木犀　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

夢騎白鳳上青空　　　夢は 白鳳に騎り 青空に上る

徑度銀河入月宮　　　径は 銀河を度り 月宮に入る

身在廣寒香世界　　　身は 広(ひろし)寒(かん)の香(かおり)の世界に在り

覺來簾外木犀風　　　覚め来れば 簾外(れんがい) 木犀の風

 

【語釈】

○凝露堂…不祥。○廣寒…月にあるとされる広寒宮。後の林には桂があるとされる。○簾外…簾の外。

 

 

★    紅木犀　　　　　　　　紅(べに)木犀(もくせい)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　曹　勛

 

秋入幽巖桂影圓　　　　秋は幽(ゆう)巌(がん)に入(い)りて 桂(けい)影(えい)円(まどか)なり

香心粟粟照林丹　　　　香心 粟(ぞく)々(ぞく) 林を照らして丹(たん)なり

應隨王母瑶池宴　　　　応(まさ)に 王母の瑶(よう)池(ち)の宴に随って

染得朝霞下廣寒　　　　朝霞(ちょうか)を染(ぞめ)得(え)て 広(こう)寒(かん)を下るべし

 

【語釈】

○幽巖…深く暗い岩の洞。○桂影…月影。○香心…花のつぼみを保護して覆う物。○應…「まさに～すべし」と読み、「～すべきである」の意。○王母…西王母。○瑶池…伝説で崑崙山にあるという西王母の居所。○朝霞…朝焼け。○廣寒…月にあるとされる広寒宮。後の林には桂があるとされる。

 

 

★    百日紅　　　　　　　　百日紅(ひゃくにちこう)　　　　　　　　　　　　　　　  明　　楊　慎

 

李徑桃蹊與杏樷　　　　李径(りけい) 桃蹊(とうけい) 杏樷(きょうそう)を与う

春來二十四番風　　　　春来 二十四番の風

朝開暮落渾堪惜　　　　朝開き暮に落つ 渾(すべ)て惜むに堪えたり

何似雕闌百日紅　　　　何んぞ似ん 雕闌(ちょうらん)の百日紅(ひゃくにちこう)に

 

【語釈】

○百日紅…サルスベリ。○李徑…杏のある径。○桃蹊…桃の木の豊富な地方。○杏樷…杏の豊富なくさむら。○春来…春になってから。○二十四番風…二十四番花信風。二十四節気中の小寒から穀雨に至る八節気を24に分け、各候に咲く花を知らせる風で、24候にそれぞれ新たな風が吹くとして、それに花を配したもの。○雕闌…欄干の美称。

 

　　　

★    　槐花　　　　　　　　　槐花　　　　　　　　　　　　　  唐　　翁承贊

 

雨中妝點望中黃　　　　雨中の妝点 望中 黄なり

勾引蟬聲送夕陽　　　　蟬声を勾引して 夕陽を送る

憶得當年隨計吏　　　　憶い得たり 当年 計吏に随い

馬蹄終日爲君忙　　　　馬蹄 終日 君の為に忙し

 

【語釈】

○妝點…飾りたてる。○望中…視野の中。○勾引…引き寄せる。○計吏…会計を司る官吏。○馬蹄…ここでは馬にのる身。

 

 

★    雨中看牡丹　　　　　　雨中 牡丹を看る　　　　　　　　　　　　  唐　　竇梁賓

 

東風未放曉泥乾　　　　東風 未だ放たず 暁(ぎょう)泥(でい)の乾くを

紅藥花開不奈寒　　　　紅(こう)薬(やく) 花開き 寒を奈(いかん)ともせず

待得天晴花已老　　　　天晴(てんせい)を待ち得たるは 花 已に老い

不如攜手雨中看　　　　如(に)ず 手を携え 雨中に看るに

 

【語釈】

○東風…春風。○紅藥…芍藥花。

 

 

★    惜牡丹花　　　　　　　牡丹花を惜しむ　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

惆悵階前紅牡丹　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 階前(かいぜん)の紅(こう)牡丹(ぼたん)

晚來唯有兩枝殘　　　　晩来(ばんらい) 唯だ 両枝の残れる有り

明朝風起應吹盡　　　　明朝 風 起りて 応(まさ)に吹き尽くすべし

夜惜衰紅把火看　　　　夜 衰(すい)紅(こう)を惜しみて 火を把(と)りて看る

 

【語釈】

○惆悵…嘆き悲しむ。○階前…庭に降りる階段の前。庭。○晚來…夜になってから。○兩枝…二輪。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～に違いない」の意。○衰紅…残っている紅い花。

（参考文献）　『新釈漢文大系　白氏文集　三』

　　　

 

★    裴給事宅白牡丹　　　　裴給事(ばいきゅうじ)宅の白牡丹　　　　　　　　　　  唐　　盧　綸

 

長安豪貴惜春殘　　　　長安の豪貴 春の残(ざん)するを惜しむ

爭賞新開紫牡丹　　　　争(いかで)か賞せん 新開の紫(し)牡丹(ぼたん)

別有玉盤承露冷　　　　別に 玉盤の承(しょう)露(ろ)の 冷かなる有り

無人起就月中看　　　　人の起きて 月中に就きて 看る無し

 

【語釈】

○裴給事…不祥。○春殘…春が去って行く。○玉盤…玉で作った盤。ここでは承露盤（飲むと不老長寿になるという天の露を受ける盤）。○承露…承露盤に溜まった露。　

 

 

★    白牡丹　　　　　　　　白牡丹　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋　莊

 

閨中莫妬新妝婦　　　　閨中(けいちゅう) 妬(ねた)む莫かれ 新妝(しんしょう)の婦

陌上須慚傅粉郎　　　　陌上(ばくじょう) 須(すべから)く慚(は)ずべし 伝粉郎(でんぷんろう)

昨夜月明渾似水　　　　昨夜 月明 渾(すべ)て水に似たり

入門唯覺一庭香　　　　門に入りて 唯だ覚ゆ 一庭の香(かんば)しきを

 

【語釈】

○閨中…女性の部屋。○陌上…道の上。○須…「すべからく～すべし」と読み、「必ず～しなければならない。」の意。○傅粉郎…伝粉何郎。美男子のこと。（『世説新語』）

 

 

★    綠牡丹　　　　　　　　緑牡丹　　　　　　　　　　　　　　　  清　　呉　巽

 

平臺冉冉黛初勻　　　　平台 冉々(ぜんぜん) 黛(まゆずみ) 初めて勻(ととの)う

不逐鄰園鬥麗春　　　　隣園を逐(お)いて　麗(れい)春(しゅん)と鬥(たたか)わず

金谷荒涼成往事　　　　金谷 荒涼 往事 成り

風前猶想墜樓人　　　　風前 猶お想う 墜楼(ついろう)の人

 

【語釈】

○平臺…休憩、眺望の為の屋根のない台。○冉冉…しなやかなさま。○麗春…ひなげし。○金谷…金谷園。晋の石崇所蔵の庭園（『蒙求』緑樹墜樓）。○往事…昔時。○墜樓人…緑樹。

 

 

★    芙蓉　　　　　　　　　芙蓉　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　高　蟾

 

天上碧桃和露種　　　　天上の碧(へき)桃(とう) 露に和して種え

日邊紅杏倚雲栽　　　　日(じっ)辺(ぺん)の紅(こう)杏(きょう) 雲に倚(よ)りて栽(う)ゆ

芙蓉生在秋江上　　　　芙蓉 生在り 秋江の上

不向東風怨後開　　　　東風に向って 後に開くを怨まず

 

【語釈】

○日邊…京城の付近。○東風…春風。

 

 

★木芙蓉　　　　　　　　木(もく)芙蓉(ふよう)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　王安石

 

水邊無數木芙蓉　　　　水辺 無数 木(もく)芙蓉(ふよう)

露滴燕脂色未濃　　　　露は燕(えん)脂(し)を滴(したた)らせ 色 未だ濃(こまやか)ならず

正似美人初醉著　　　　正に美人に似て 初めて酔著(すいちゃく)し

强抬清鏡照粧慵　　　　強いて清鏡を抬(もた)げて 粧(よそおい)を照らすこと慵(ものう)し

 

【語釈】

○燕脂…紅色。○醉著…酔う。

 

 

★    瓊花　　　　　　　　　瓊(けい)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　程敏政

 

貪看江都第一春　　　　貪り看る 江都 第一の春

龍舟元不為東廵　　　　竜舟 元 東廵の為ならず

閑花亦自能傾國　　　　閑(かん)花(か) 亦た 自(おのずか)ら 能く国を傾く

何况當時解語人　　　　何ぞ况んや 当時 解語(かいご)の人

 

【語釈】

○瓊花…アジサイに似た植物。○江都…江蘇省揚州市の別名。○竜舟…龍を飾った大船。ここで隋の煬帝の龍船。○東廵…皇帝の東方（ここでは揚州）への巡幸。○閑花…瓊花のこと。臣下から揚州の瓊花の話を聞いて、洛陽から揚州への船旅を思いついたという。〔『隋煬帝艶史』〕。○解語人…美女。

 

　　　

★    瑞香花　　　　　　　　瑞(ずい)香(こう)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　韓　琦

 

不管鶯聲向曉催　　　　管せず 鶯声(おうせい)の 暁に向って催(うなが)すを

錦衾春晚尚成堆　　　　錦衾 春晩 尚お堆(つい)を成す

香紅若解知人意　　　　香紅 若し 人の意を知(ち)解(かい)せば

睡取東君莫放回　　　　東君を睡取(すいしゅ)し 放回(ほうかい)すること莫かれ

 

【語釈】

○瑞香花…チンチョウゲ。○錦衾…錦で作ったしとね。○春晚…晩春。○香紅…花。○東君…春の神。○放回…解放。

 

 

★    茉莉花　　　　　　　　茉莉(まつり)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　江　奎

 

雖無艷態驚群目　　　　艶態(えんたい) 群目を驚かす無きと雖ども

幸有濃香壓九秋　　　　幸に 濃香の 九秋を圧する有り

應是仙娥宴歸去　　　　応(まさ)に是れ 仙娥(せんが) 宴より帰り去り

醉來掉下玉搔頭　　　　酔(よい)来(きた)りて 掉(とう)下(か)す 玉搔頭(ぎょくそうとう)

 

【語釈】

○茉莉花…アラビアンジャスミン。○艷態…艶美な容姿。○群目…群衆の目。○九秋…陰暦九月の天。秋天。○掉下…ふるい落とす。○仙娥…仙女。○玉搔頭…玉のかんざし。

 

 

★    月季花　　　　　　　　月(げつ)季(き)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　韓　琦

 

牡丹殊絶委春風　　　　牡丹 殊絶(しゅぜつ) 春風に委(みす)てられ

露菊蕭踈怨晚叢　　　　露(ろ)菊(ぎく) 蕭踈(しょうそ) 晩(ばん)叢(そう)を怨む

何似此花榮艷足　　　　何ぞ似たる 此の花 栄(えい)艶(えん)足り

四時長放淺深紅　　　　四時 長く放つ 浅深の紅

 

【語釈】

○月季花…コウシンバラ。○殊絶…超絶。○蕭踈…草木の葉がまばらで寂しいこと。○晚叢…秋の終わりに茂る。○榮艷…長く艶やかであること。○四時…四季。

 

 

★    菊花　　　　　　　　　菊花　　　　　　　　　　　　　　   唐　　元　稹

 

秋叢繞舍似陶家　　　　秋(しゅう)叢(そう) 舍を繞(めぐ)り 陶家に似たり

遍繞籬邊日漸斜　　　　遍(あまね)く 籬(り)辺(へん)を繞(めぐ)り 日 漸(ようや)く斜なり

不是花中偏愛菊　　　　是れ 花中 偏(あまね)く菊を愛するならず

此花開盡更無花　　　　此の花 開き尽くせば 更に花無し

 

【語釈】

○秋叢…ここでは菊のこと。○陶家…陶淵明の家。○籬邊…垣根のあたり。○漸…次第次第に。

 

 

★    菊花　　　　　　　　　菊花　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　白居易

 

一夜新霜著瓦輕　　　　一夜 新霜(しんそう) 瓦に著(つ)いて軽(かろ)し

芭蕉新折敗荷傾　　　　芭蕉は 新たに折れて 敗(はい)荷(か)は傾く

耐寒惟有東籬菊　　　　寒に耐うるは 惟だ 東籬(とうり)の菊のみ有りて

金粟花開曉更清　　　　金(きん)粟(ぞく)の花は開いて 暁 更に清し

 

【語釈】

○敗荷…枯れて破れた蓮の葉。○東籬菊…陶潜の「飲酒其の五」に基づく。○金粟…キンモクセイのことだが，ここでは菊の花の色。

（参考文献）　　『和漢名詞選類評釈』

 

　

 

★    十日菊　　　　　　　　十日の菊　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

節去蜂愁蝶不知　　　　節去り 蜂 愁うるに 蝶は知らず

曉庭還繞折殘枝　　　　暁庭 還(ま)た繞(めぐ)る 折残の枝

自緣今日人心別　　　　自(おのずか)ら 今日 人心の別なるに縁(よ)る

未必秋香一夜衰　　　　未だ必ずしも 秋香は一夜に衰えず

 

【語釈】

○十日菊…重陽の節句の翌日の菊をいう。○節去…重陽が過ぎたことをいう。曉庭…明け方の庭。還繞…蝶が菊の周りを飛ぶ。折殘枝…重陽が過ぎ、折れ損なわれた菊のこと。人心別…重陽が過ぎると誰も菊に見向きもしないのは、人の節に重きをおくがためなり。菊が変わるわけではない。秋香…菊の香り。重陽が過ぎても菊の香りに変わりはない、一日過ぎたとしても十分に賞するに値する。

 

 

★    重陽後菊花　　　　　　重陽後の菊花　　　　　　　　　　　　　  宋　　范成大

 

寂莫東籬濕露華　　　　寂莫たる東籬 露(ろ)華(か)に湿(うるお)う

依前金靨照泥沙　　　　依(い)前(ぜん)たる金靨(きんよう) 泥沙(でいさ)を照らす

世情兒女無高韻　　　　世情 児女 高韻(こういん)無く

只看重陽一日花　　　　只だ看る 重陽 一日の花

 

【語釈】

○重陽…旧暦九月九日。○寂莫…ひっそりとして物寂しいさま。○東籬…陶淵明「飲酒其の五」による。○露華…露水。○依前…以前のままである。○金靨…菊花の比喩。○世情…世俗の情。○高韻…高雅な詩文。

 

 

★    枯菊　　　　　　　　　枯菊　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　陸　游

 

翠羽金錢夢已闌　　　　翠羽(すいう) 金銭 夢 已に闌(たけなわ)なり

空餘殘蕊抱枝乾　　　　空しく余す残(ざん)蕊(しん) 枝を抱いて乾く

紛紛輕薄隨流水　　　　紛々(ふんぷん)たる軽薄 流水に随い

黄與姚花一樣看　　　　黄と姚(よう)花(か)と 一様に看る

 

【語釈】

○翠羽…ネギの葉の喩え。○金錢…金銭花。○殘蕊…損なわれたしべ。○紛紛…まじり乱れるさま。○黄…菊。○姚花…牡丹の名種。

 

 

★    葵 　　　　　　　　   葵　　　　　　　　　　　　　       宋　　劉　敞

 

白露清風催八月　　　　白露 清風 八月を催(うなが)す

紫蘭紅葉共凄涼　　　　紫蘭 紅葉 共に凄(せい)涼(りょう)

黄花冷落無人看　　　　黄花(こうか) 冷落(れいらく)して 人の看る無く

獨自傾心向太陽　　　　独り 自(みずか)ら 心を傾け 太陽に向う

 

【語釈】

○葵…向日葵。ヒマワリ。○白露…秋天の露水。○凄涼…もの寂しいさま。○冷落…さびれる。

 

 

★    黄葵　　　　　　　　　黄葵(こうき)　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

開時閑淡斂時愁　　　　開時 閑淡(かんたん) 斂(れん)時(じ)愁う

蘭菊應容預勝流　　　　蘭(らん)菊(きく) 応(まさ)に勝流に預(あず)かることを容すべし

剩欲持杯相領略　　　　剰(あまつさ)え 杯を持ちて 相(あい)領略(りょうりゃく)せんと欲し

一庭風露不禁秋　　　　一庭の風露 秋に禁ぜず

 

【語釈】

○黄葵…黄蜀葵。トロロアオイ○閑淡…閑静で淡泊なこと。○斂時…つぼむ時、散るとき。○應…「まさに～すべし」とよみ「～すべきである」の意。○勝流…優れた身分。○預…仲間に入る。○容…受容する。○領略…意義をさとる。

 

 

★    金錢花　　　　　　　　金銭(きんせん)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　皮日休

 

陰陽爲炭地爲爐　　　　陰陽 炭と為り 地 炉と為る

鑄出金錢不用模　　　　鋳出(ちゅうしゅつ)す 金銭 模(も)するを用いず

莫向人間逞顏色　　　　人間(じんかん)に向(お)いて 顔色を逞(てい)する莫かれ

不知還解濟人無　　　　知らず 還(ま)た 人の 済(せい)なることを解するや無(いな)や

 

【語釈】

○金錢花…キンポウゲ。○金錢…金銭花。○人間…人間社会。○濟…すっきりと整っているさま。

 

 

★    金錢花　　　　　　　　金銭花　　　　　　　　　　　　　　  清　　瀋鐘彦

 

鄧氏銅山虛設想　　　　鄧(とう)氏(し)の銅山 虚しく想(そう)を設く

瀋郎榆莢許為鄰　　　　瀋郎(しんろう)の榆(ゆ)莢(きょう) 隣の為に許す

清宵風露頻頻擲　　　　清宵 風露 頻々(ひんぴん)として擲(なげう)つ

似向空庭卜遠人　　　　空庭に向(お)いて　遠人を卜(ぼく)するに似たり

 

【語釈】

○金錢花…キンポウゲ。○鄧氏銅山…富の源泉や富を得るための資本。『史記』佞幸列伝による。○瀋郎…南朝の 梁の沈約。腰が細かった。○瀋郎榆莢…沈郎錢。榆莢のこと。○頻頻…度重なるさま。

 

 

★    虞美人草　　　　　　　虞美人草(ぐびじんそう)　　　　　　　　　　　　　　　　明　　孫七政      

 

薔薇開盡緑隂涼　　　　薔薇(しょうび) 開き尽し 緑隂涼し

西國名花此際芳　　　　西国の名花 此の際(さい)に芳し

夜月空懸漢宮鏡　　　　夜月 空に懸かる 漢宮の鏡

幽姿猶帶楚雲妝　　　　幽(ゆう)姿(し) 猶お帯ぶ 楚雲の妝(よそおい)

 

【語釈】

○西國…西域。虞美人草はヨーロッパからもたらされた。○此際…このとき。○幽姿…優雅な姿。○楚雲…女性の秀美な髪の比喩。

              　　

★    雞冠花　　　　　　　　　雞(けい)冠(かん)花(か)　　　　　　　　　　　　　  　 唐　　羅　鄴

 

一枝穠豔對秋光　　　　一枝 穠豔(じょうえん) 秋光に対す

露滴風搖倚傍　　　　　露滴 風に揺れて 砌(せつ)傍(ぼう)に倚(よ)る

曉景乍看何處似　　　　暁景 乍(たちま)ち看る 何ぞ似たる処

謝家新染紫羅裳　　　　謝家 新たに染む 紫(し)羅(ら)裳(しょう)

 

【語釈】

○雞冠花…鶏頭（ケイトウ）。○穠豔…非常に美しいさま。○秋光…秋景色。○砌傍…みぎりの傍ら。○謝家…晋の太傅謝安の家。転じて貴族の家柄の人の家。○紫羅裳…紫の衣の裾。

 

 

★    秋荷　　　　　　　　　秋(しゅう)荷(か)　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　宋　俶

 

露冷蓮陂半已空　　　　露 冷かにして 蓮陂(れんぱ) 半ば已に空(むな)し

芳叢零落泣西風　　　　芳(ほう)叢(そう) 零落して 西風に泣く

無人解道殘花好　　　　人の残(ざん)花(か)の好きを 解道(かいどう)する無く

獨立寒塘煙雨中　　　　独り立つ 寒塘 煙雨の中(うち)

 

【語釈】

○秋荷…秋のハス。○蓮陂…蓮の生えている隄。○芳叢…叢がっている花。○零落…草木が枯れ落ちること。○西風…秋風。○解道…理解する。○寒塘…寒い池塘。

 

 

★    敗荷　　　　　　　　　敗(はい)荷(か)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　黄　濟

 

紅錦機空水國窮　　　　紅(こう)錦(きん) 機 空しくして 水国窮まる

轉頭千盖偃秋風　　　　頭(こうべ)を転ずれば 千盖(せんがい) 秋風に偃(たお)る

鴛鴦一段榮枯事　　　　鴛鴦(えんおう) 一段 栄枯の事

都在沙鷗冷眼中　　　　都(すべ)て 沙(さ)鴎(おう)の冷眼中に在り

 

【語釈】

○敗荷…損なわれた蓮の葉。○紅錦…紅色の錦。○水国…水郷。○千盖…ここでは多くの蓮の葉。○鴛鴦…オシドリ。○沙鷗…砂浜の鷗。『列子』黄帝篇による？

 

　　　

★    題敗荷　　　　　　　　敗荷に題す　　　　　　　　　　　　　　  元　　王　翰

 

曽向西湖載酒歸　　　　曽て 西湖に向(お)いて 酒を載せて帰る

香風十里弄晴暉　　　　香風 十里 晴暉(せいき)を弄(ろう)す

芳菲今日凋零盡　　　　芳菲(ほうひ) 今日 凋零(ちょうれい)し尽し

却送秋聲到客衣　　　　却(かえ)って 秋声を送り 客(かく)衣(い)に到る

 

【語釈】

○敗荷…損なわれた蓮の葉。○西湖…浙江省杭州市の近くにある風光明媚な湖。○芳菲…香花芳草。○凋零…しぼみ落ちる。○秋声…秋の気配を感じさせるもの音。○客衣…旅衣。

 

 

★    盆荷　　　　　　　　　盆(ぼん)荷(か)　　　　　　　　　　　　　　　　　 宋　　僧居簡

 

萍粘老瓦水涵天　　　　萍(ひょう)は老瓦(ろうが)に粘り 水涵(すいかん)の天

數葉田田貼帖錢　　　　数葉 田々(でんでん) 帖(ちょう)銭(せん)を貼る

才大古來無用所　　　　才 大きなるは 古来 用いる所無し

不須十丈藕如船　　　　須(もち)いず 十丈 藕(ぐ) 船の如きなるを

 

【語釈】

○盆荷…水盆で生育された蓮。○老瓦…老瓦盆。古い陶製の酒器。○水涵天…水に映って見える空。○田田…蓮などの水草の広い葉が水に浮かんでいるさま。○藕…蓮の根。

 

 

★    詠盆中品字蓮　　　　　盆中の品(ひん)字(じ)蓮(れん)を詠ず　　　　　　　　　  明　　徐中行

 

笑看菡菖出盆池　　　　笑い看る 菡菖(かんしょう) 盆池に出ずるを

並蔕三花宛宛垂　　　　並(へい)蔕(てい) 三花 宛(えん)々(えん)として垂る

却似太真新浴罷　　　　却って似たり 太(たい)真(しん)の新浴を罷(や)むに

雙携秦虢鏡中窺　　　　秦虢(しんかく)を双携(そうけい)して 鏡中に窺(うかが)う

 

【語釈】

○菡菖…蓮花。○盆池…水を引いて作った池。○並蔕…同じ茎に咲く二つの花。○宛宛…しなやかなさま。○太真…楊貴妃。○秦虢…玄宗皇帝の秦國夫人と虢國夫人の併称。

 

 

★    牽牛花　　　　　　　　牽牛(けんぎゅう)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　秦　觀

 

銀漢初移漏欲殘　　　　銀漢(ぎんかん) 初めて移り 漏(ろう) 残(ざん)せんと欲す

步虛人倚玉闌干　　　　歩(ほ)虚(きょ)の人は倚る 玉闌(ぎょくらん)干(かん)

仙衣染得天邊碧　　　　仙衣 染め得たり 天辺の碧(へき)

乞與人間向曉看　　　　人間に乞与(きつよ)し 暁に向(お)いて看さしむ

 

【語釈】

○牽牛花…アサガオ。○銀漢…銀河。○漏…水時計。○殘…尽きる。○步虛人…道士。○玉闌干…玉で飾った欄干。○天邊…地平線近くの空。○乞與…給与。○人間…人間世界。

 

 

★    牽牛花　　　　　　　　牽牛(けんぎゅう)花(か)　　　　　　　　　　　　　  明　　朱茂曙

 

金風初動露華滋　　　　金風 初めて動きて 露(ろ)華(か)滋し

看得朝暉未上時　　　　看得(みえ)たり 朝暉(ちょうき) 未だ上らざる時

多少紅樓昏夢裏　　　　多少の紅楼 昏夢(こんむ)の裏(うら)

不知秋色到疎籬　　　　知らず 秋色の疎籬(そり)に到るを

 

【語釈】

○牽牛花…アサガオ。○金風…秋風。○露華…露水。○朝暉…朝日。○紅樓…華美な楼房。○秋色…秋の気配。○疎籬…疎らな垣根。

 

 

★    玉簪花　　　　　　　　玉(ぎょく)簪(しん)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　黄庭堅

 

宴罷瑶池阿母家　　　　宴は罷(や)む 瑶(よう)池(ち) 阿母(あぼ)の家

嫩瓊飛上紫雲車　　　　嫩瓊(どんけい) 飛び上る 紫雲車(しうんしゃ)

玉簪堕地無人拾　　　　玉(ぎょく)簪(しん) 地に堕ち 人の拾う無く

化作東南第一花　　　　化して 東南第一の花と作(な)る

 

【語釈】

○玉簪花…ユリ科の多年草。○瑶池…崑崙山にあるという伝説上の池。西王母の居所。○阿母…西王母。○紫雲車…天帝が乗る車。○玉簪…玉簪花。

 

 

★    霧中花　　　　　　　　霧中(むちゅう)花(か)　　　　　　　　　　　　　　  清　　汪應銓

 

名花籠霧認難真　　　　名花 霧を籠(こ)め 認むること真なり難し

道是還非夢裏身　　　　道(い)う 是れ 還(ま)た 夢(む)裏(り)の身に非ずと

彷彿漢家宮殿冷　　　　彷彿(ほうふつ) 漢家 宮殿冷やかなり

隔帷遙見李夫人　　　　帷を隔てて 遥かに見る 李夫人

 

【語釈】

○霧中花…霧の中で咲く花。○夢裏…夢の中。○彷彿…似ているさま。○漢家…漢の王朝。○李夫人…李夫人（西漢の李延年の妹。舞が上手く武帝の寵愛を受けた）のような容姿。

 

 

★    春來風雨無一日好晴因賦瓶花　　　　　　  　　　　　　　　　　宋　　范成大

春来 風雨 一日の好晴無し 因(よ)りて瓶(びん)花(か)を賦す

 

滿插瓶花罷出遊　　　　瓶(びん)花(か)を満挿(まんそう)して 出遊(しゅつゆう)を罷(や)む

莫將攀折爲花愁　　　　攀(はん)折(せつ)を将(も)って 花の為に愁う莫かれ

不知燭照香薰看　　　　知らず 燭(しょく)照(しょう) 香(こう)薫(くん)の看(かん)

何似風吹雨打休　　　　何ぞ似ん 風吹き雨打ちて休するに

 

【語釈】

○滿插…一杯に挿す。○出遊…外出して遊ぶこと。○攀折…折り取る。○燭照…燭台の光。○香薰…薫じた香。

 

 

★    殘花　　　　　　　　　残(ざん)花(か)　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韋　莊

 

江頭沈醉泥斜暉　　　　江頭に沈酔(ちんすい)して 斜暉(しゃき)に泥(なず)む

却向花前慟哭歸　　　　却って 花前に向(お)いて 慟哭して帰る

惆悵一年春又去　　　　惆悵(ちゅうちょう)す 一年 春又た去り

碧雲芳草兩依依　　　　碧雲 芳草 両つがら依々(いい)たるを

 

【語釈】

 ○殘花…今にも落ちようとして散り残っている花。○江頭…江のほとり。○沈醉…泥酔。○斜暉…夕陽。○惆悵…ひどく悲しむ。○依依…遠くぼんやりしているさま。

 

 

★    殘花　　　　　　　　　残(ざん)花(か)　　　　　　　　　　　　　　  明　　邱雲霄

 

昨日看花花滿枝　　　　昨日 花を看れば 花 枝に満つ

今朝爛漫點青池　　　　今朝(こんちょう) 爛漫(らんまん) 青池に点ず

無情莫抱東風恨　　　　無情 抱(いだ)くこと莫かれ 東風の恨

作意開時是謝時　　　　作意 開く時は 是れ 謝する時

 

【語釈】

○殘花…今にも落ちようとして散り残っている花。○東風…春風。○作意…心を用いる。○謝…散る。

 

 

★    落花　　　　　　　　　落花　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　僧贊寧

 

蝶醉蜂狂香正濃　　　　蝶は酔い蜂は狂う 香 正に濃(こまや)やかなり

晚來階下墜衰紅　　　　晩来(ばんらい) 階下 衰紅(すいこう)墜つ

開時費盡陽和力　　　　開時 費し尽す 陽和(ようわ)の力

落處難禁一陣風　　　　落つる処 禁じ難し 一陣の風

 

【語釈】

○晚來…夜になってから。○衰紅…凋んで衰えた花。○陽和…のどかな春候。

 

 

★    感花　　　　　　　　　花に感ず　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　崔　塗

 

繡軛香韉夜不歸　　　　繡軛(しゅうあく) 香韉(こうせん) 夜 帰らず

少年爭惜最高枝　　　　少年 争い惜しむ 最高の枝

東風一陣黃昏雨　　　　東風 一陣 黄昏(こうこん)の雨

又是繁華夢覺時　　　　又た是れ 繁華 夢覚むる時

 

【語釈】

○繡軛…刺繍を施したくびき。○香韉…華美な鞍。○東風…春風。○黃昏…たそがれ。○繁華…咲き乱れている花。若くて美しいこと。

 

 

★    種花　　　　　　　　　花を種う　　　　　　　　　　　　　　　 宋　　歐陽修

 

淺深紅白宜相間　　　　浅深 紅白 宜しく相間(あいまじ)ゆ

先後仍須次第栽　　　　先後 仍(かくのごと)く 須(すべから)く次第(しだい)に栽(う)ゆべし

我欲四時携酒去　　　　我 四時 酒を携えて 去らんと欲す

莫教一日不花開　　　　一日も 花を開かざらしむる莫れ

 

【語釈】

○仍…このように。○次第…順序よく。○四時…四季。○去…訪れる。

 

 

 

★    買花　　　　　　　　花を買う　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　王澤宏

 

賣花擔上露纔乾　　　　売花担上(ばいはなたんじょう) 露 纔(わずか)かに乾く

野老移來滿藥欄　　　　野老 移り来りて 薬欄に満つ

拋卻故山花事盛　　　　拋却す 故山 花事の盛なるを

翻來燕市買花看　　　　翻(かえ)って 燕市(えんし)に来りて 花を買うを看る

 

【語釈】

○賣花擔…売る花を担ぐ荷物。○野老…郊外に住む老人。○藥欄…薬草園。○拋卻…抛つ。却は助字。○故山…故郷の山。○燕市…今の北京。

 

 

★    惜花　　　　　　　　　花を惜しむ　　　　　　　　　　　  宋　　張　泌

 

蝶散鶯啼尚數枝　　　　蝶散じ 鶯啼いて 尚お数枝

日斜風定更離披　　　　日斜に 風定まりて 更に離披(りひ)

看多記得傷心事　　　　看ること多くして 記得す 傷心の事

金谷樓前委地時　　　　金谷楼前(きんこくろうぜん) 地に委(す)てらるる時

 

【語釈】

○離披…花が十分咲ききること。○記得…はっきりと覚える。○金谷樓…晉の石崇が持っていた金谷園の楼。『蒙求』緑樹墜楼。

 

 

★    惜花　　　　　　　　　花を惜む　　　　　　　　　　　　　  唐　　來　鵬

 

東風漸急夕陽斜　　　　東風 漸(ようや)く急に 夕陽(せきよう)斜なり

一樹夭桃數日花　　　　一樹の夭(よう)桃(とう) 数日の花

爲惜紅芳今夜裏　　　　為に惜む 紅(こう)芳(ほう) 今夜の裏(うち)

不知和月落誰家　　　　知らず 月に和して 誰が家にか落つる

 

【語釈】

○東風…春風。○漸…だんだんと。○夭桃…佳麗な桃の花。○紅芳…紅色の花。

 

 

★    松　　　　　　　　　　松　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　李師中

 

半依巖岫半雲端　　　　半ばは巌岫(がんしゅう)に依り 半ばは雲端(うんたん)

獨立亭亭耐歲寒　　　　独り立つ亭々(ていてい) 歳(さい)寒(かん)に耐ゆ

一事頗爲清節累　　　　一事 頗りに 清節の累(るい)を為し

秦時曾作大夫官　　　　秦時 曽(かつ)て 大夫の官を作(な)す

 

【語釈】

○巖岫…山々。○雲端…雲の端。○亭亭…高く聳えるさま。○歲寒…一年の厳寒の時節。○清節…高潔な節操。

 

 

★    松棚　　　　　　　　　松棚　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陳元信

 

旋斫松枝架作棚　　　　旋(めぐ)りて 松枝(しょうし)を斫(き)り 架して棚と作(な)す

蒼髯如戟畫崢嶸　　　　蒼(そう)髯(びん) 戟(げき)の如く 画 崢嶸(そうこう)

清陰堪愛還堪恨　　　　清陰 愛するに堪え 還(ま)た 恨むに堪えたり

遮却斜陽礙月明遮　　　斜陽を遮却(しゃきゃく)して 月明を礙(さまた)ぐ

 

【語釈】

○蒼髯…青いヒゲ。○崢嶸…高く険しいさま。○清陰…清らかな影。○遮却…遮る。却は助字。

 

 

★    柳                    柳                     　　　　　　　　 唐　　杜　牧

 

數樹新開翠影齊　　　　数樹 新たに開きて 翠(すい)影(えい)斉(ひと)し

倚風情態被春迷　　　　風に倚(よ)る情態 春に迷わさる

依依故國樊川恨　　　　依々(いい)たり 故国 樊(はん)川(せん)の恨み

半掩村橋半掩溪　　　　半ばは村橋を掩い 半ばは渓を掩う

 

【語釈】

○新開…枝を伸ばし始める。○翠影…緑色の姿。○依依…なよなよしているさま。遠くぼんやりしているさま。○樊川…長安南郊を流れる川。杜牧の祖先からの荘園があった。

（参考文献）　　『新釈漢文大系　詩人編　９』

 

 

★    柳　　　　　　　　　　柳　　　　　　　　　　　　　　  唐　　顧　雲

 

灞橋晴來送別頻　　　　灞(は)橋(きょう) 晴来(はれきた)りて 送別頻(しきり)なり

相偎相依不勝春　　　　相偎(よ)り 相依(よ)りて 春に勝えず

自家飛絮猶無定　　　　自家の飛絮 猶お定まる無く

爭把長條絆得人　　　　争(いかで)か 長条を把(と)り 得人(とくじん)を絆(つな)がん

 

【語釈】

○灞橋…長安の東の灞上にある橋。灞上は東に出発する人の送別の地。○飛絮…飛ぶ柳絮。○長條…柳の枝。○得人…才徳兼備の人。

 

 

★    柳　　　　　　　　　　柳　　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　中

 

春來無樹不青青　　　　春来 樹の青々ならざるは無く

似共東風別有情　　　　東風と共に 別(わかれ)に 情有るに似たり

閑憶舊居湓水畔　　　　閑に憶う 旧居 湓(ほん)水(すい)の畔(ほとり)

數枝煙雨屬啼鶯　　　　数枝の煙雨 啼(てい)鶯(おう)に属(しょく)す

 

【語釈】

○春来…春になってから。○東風…春風。○舊居…旧宅。○湓水…江西省を流れる河川。九江市を通り、鄱陽湖に注ぐ。○煙雨…こぬか雨。

 

 

★    柳　　　　　　　　　　柳  　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　唐彥謙

 

絆惹東風別有情　　　　東風を絆惹(はんじゃく)し 別に情有り

世間誰敢闘輕盈　　　　世間 誰か敢えて 軽盈(けいえい)を闘わん

楚王王宮三千女　　　　楚王の王宮 三千の女

餓損蠻腰學不成　　　　蛮(ばん)腰(よう)を餓(が)損(そん)し 学も成らず

 

【語釈】

○絆惹…引き繋ぐ。○東風…春風。○輕盈…女性の姿態の纖柔なさま。楚の霊王。腰の細い美人を好んだため、寵を争って絶食し餓死するものが多く出たという。『荀子』君道。○蠻腰…細腰。○餓損…餓えて損なうこと。

 

 

★    柳　　　　　　　　　　柳　　　　　　　　　　　　　　   　  宋　　張　耒

 

永豐坊裏舊腰股　　　　永(えい)豊坊(ほうぼう)裏(り) 旧腰(きゅうよう)股(し)

曾見青青初種時　　　　曽(かつ)て見る 青々(せいせい)初めて種えし時

看盡道傍離別恨　　　　看尽す 道(どう)傍(ぼう) 離別の恨(うらみ)

爭教風絮不狂飛　　　　争(いかで)か 風絮をして 狂飛せしめざらん

 

【語釈】

○永豐坊…洛陽にある地名。○腰股…腰。腰身。ここでは柳の枝。○道傍…道の脇。○風絮…風に飛ぶ柳絮。

 

 

★    栁　　　　　　　　　　栁　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　陳　煇

 

空塘流水浸長條　　　　空塘 流水 長条を浸(ひた)す

細雨疎煙拂㶚橋　　　　細雨 疎煙 㶚(は)橋(きょう)を払う

長笛數聲人不見　　　　長笛 数声 人見えず

春風斜繫木蘭橈　　　　春風 斜めに繫(つな)ぐ 木蘭の橈(かじ)

 

【語釈】

○長條…柳の長い枝。○細雨…こぬか雨。○疎煙…疎らな靄。○灞橋…長安の東の灞上にある橋。灞上は東に出発する人の送別の地。○橈…かい。

 

 

★    衰栁　　　　　　　　　衰栁　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　王　恭

 

西風昨夜灞陵秋　　　　西風 昨夜 灞(は)陵(りょう)の秋

千樹蕭條帶驛樓　　　　千樹 蕭(しょう)条(じょう)として 駅楼を帯ぶ

莫道離人空有恨　　　　道う莫かれ 離人(りじん) 空しく恨(うらみ)有りと

暮蟬寒雀也關愁　　　　暮蟬 寒雀 也(ま)た愁に關(かか)わる

 

【語釈】

○西風…秋風。○灞陵…長安の東にある古城。○蕭條…もの静かなさま。○驛樓…宿場街の楼房。○離人…旅だって行く人。

 

 

★    楊柳枝　　　　　　　　楊(よう)柳(りゅう)枝(し)　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　劉禹錫

 

城外春風吹酒旗　　　　城外 春風 酒旗を吹く

行人揮袂日西時　　　　行人(こうじん) 袂を揮(ふる)う 日 西する時

長安陌上無窮樹　　　　長安陌上(ちょうあんはくじょう) 無窮の樹

唯有垂楊管別離　　　　唯だ 垂楊の別離を 管する有り

 

【語釈】

○楊柳枝…楽府題。横笛の曲から派生。○酒旗…酒屋の目印の旗。○行人…旅人。○陌上…道の上。

 

 

★    楊柳枝　　　　　　　　楊(よう)柳(りゅう)枝(し)　　　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

紅板紅橋青酒旗　　　　紅板 紅橋 青き酒旗

館娃宮暖日斜時　　　　館娃宮(かんあいきゅう) 暖かなり 日 斜なる時

可憐雨歇東風定　　　　憐むべし 雨歇(や)んで東風定まり

萬樹千條各自垂　　　　万樹千条 各(おの)ゝ(おの)自(おのずか)ら垂るるを

 

【語釈】

○楊柳枝…楽府題。横笛の曲から派生。○館娃宮…呉王夫差が西施のために建てた宮殿。○東風…春風。

 

 

★    楊柳枝　　　　　　　　楊(よう)柳(りゅう)枝(し)　　　　　　　　　　    　　　唐　　溫庭筠

 

宜春苑外最長條　　　　宜春苑外 最長の条

閑裊春風伴舞腰　　　　閑かに 春風に裊(そよ)ぎ 舞(ぶ)腰(よう)に伴う

正是玉人腸斷處　　　　正に是れ 玉人 腸断の処

一渠春水赤闌橋　　　　一渠(いっきょ)の春水 赤闌(せきらん)の橋

 

【語釈】

○楊柳枝…楽府題。横笛の曲から派生。○宜春苑…庭園の名。秦の時長安の東。宋のとき開封の東にあった。○玉人…美人。○腸斷…非常な悲しみ。○赤闌橋…紅色の欄干の橋。

 

 

★    楊柳枝詞　　　　　　　楊(よう)柳(りゅう)枝(し)詞(し)　　　　　　　　　　　　　  明　　劉　基

 

多事垂楊管送迎　　　　多事 垂楊 送迎に管す

長條折盡短條生　　　　長条 折り尽して 短条生ず

不知幾許東風裏　　　　知らず 幾許(いくばく)か 東風の裏(うち)

猶帶輕烟冐晚晴　　　　猶お 軽煙を帯び 晩晴を冐(おか)すを

 

【語釈】

○楊柳枝詞…楽府題。横笛の曲から派生。○長条…長い柳の枝。○折盡…別れの時に追って環にして相手の首に掛ける。○東風…春風。○輕烟…軽淡な煙霧。

 

 

★    楊柳枝詞　　　　　　楊(よう)柳(りゅう)枝(し)詞(し)　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　胡　儼

 

罨畫樓前雨歇時　　　　罨画楼前(えんがろうぜん) 雨歇む時

千絲萬縷緑垂垂　　　　千糸 万縷 緑垂(すい)々(すい)

無端却被風吹起　　　　端無(はしな)くも 却って 風に吹起され

繚亂春心不自持　　　　繚乱 春心 自(みずか)ら持たず

 

【語釈】

○楊柳枝詞…楽府題。横笛の曲から派生。○罨畫樓…色彩鲜明な絵画で飾られた楼閣。○千絲萬縷…数え切れないほどの〔柳の枝〕。○垂垂…垂れ下がっているさま。○繚乱…散り乱れるさま。○無端…思いがけず。

 

 

★    楊柳枝詞　　　　　　　楊(よう)柳(りゅう)枝(し)詞(し)　　　　　　　　　　　　　   清　　虞黃昊

 

楊花如雪撲征衣　　　　楊花 雪の如く 征衣(せいい)を撲(う)つ

馬上征夫苦憶歸　　　　馬上の征夫 苦(はなは)だ帰るを憶う

曾向曲中迴首望　　　　曽(かつ)て 曲中に向(お)いて 首を迴(めぐ)らして望み

而今真在路徬飛　　　　而(じ)今(こん) 真に 路徬に在りて飛ぶ

 

【語釈】

○楊柳枝詞…楽府題。横笛の曲から派生。○楊花…柳絮。○征衣…旅衣。○征夫…旅人。○曲中…曲がりくねった道。○而今…今。

 

 

★    折楊柳　　　　　　　　折(せつ)楊(よう)柳(りゅう)　　　　　　　　　　　　　　  明　　晏　鐸

 

河橋楊柳半無枝　　　　河橋の楊柳 半ば枝無し

多為行人送別離　　　　多くは 行人(こうじん)の為に 別離を送る

羗虜不知蕭索盡　　　　羗(きょう)虜(りょ)は知らず 蕭索(しょうじょう)し尽くすを

月明猶向笛中吹　　　　月明(げつめい)に 猶お 笛中(てきちゅう)に向(お)いて吹く

 

【語釈】

○折楊柳…楽府題。横笛の曲から派生。別れに際し、柳の枝を折って環にし、相手の首に掛ける。○羗虜…えびすの軍隊。○蕭索…少ないさま。

 

 

★    折楊柳　　　　　　　　折(せつ)楊(よう)柳(りゅう)　　　　　　　　　　　　　　明　　魏時敏      

 

嫩葉柔條拂短簷　　　　嫩(どん)葉(よう) 柔(じゅう)条(じょう) 短簷(たんえん)を払う

鶯啼燕語曉風恬　　　　鶯啼 燕語 暁風に恬(やす)し

傷春無計留春住　　　　春を傷み 計無く春住(しゅんじゅう)するに留まる

怕見飛花不捲簾　　　　見るを怕(おそ)る 飛花 簾(れん)を捲かざるを

 

【語釈】

○折楊柳…楽府題。横笛の曲から派生。別れに際し、柳の枝を折って環にし、相手の首に掛ける。○嫩葉…若葉。○柔條…柔らかい枝。○短簷…短い軒。○飛花…柳絮のこと。

 

 

★    折楊柳　　　　　　　　折楊柳　　　　　　　　　　　　　　  唐　　楊巨源

 

水邊楊柳麴塵絲　　　　水辺の楊柳 麴(きく)塵(じん)の糸

立馬煩君折一枝　　　　馬を立(とど)め 君を煩わして 一枝を折る

惟有春風最相惜　　　　惟だ 春風の 最も相惜(あいおし)む有り

殷勤更向手中吹　　　　殷(いん)勤(ぎん)に 更に 手中に向(むか)って吹く

 

【語釈】

○折楊柳…楽府題。横笛の曲から派生。別れに際し、柳の枝を折って環にし、相手の首に掛ける。○麴塵糸 … 若芽を吹いた柳の細い枝が黄緑色の糸のように見えること。○向…於いて。

〔参考文献〕　『漢詩鑑賞辞典』

 

　　　

★    對竹　　　　　　　　　竹に対す　　　　　　　　　　　　　  唐　　李　中

 

懶穿幽徑衝鳴鳥　　　　幽径を穿(うが)ちて 鳴鳥を衝(つ)くに懶(ものう)し

忍踏清陰損翠苔　　　　清陰を踏みて 翠(すい)苔(たい)を損うに忍びんや

不似閑閑欹枕聽　　　　似ず 閑々(かんかん)として 枕を欹(そばだ)てて聴くに

秋聲如雨入軒來　　　　秋声 雨の如く 軒に入りて来る

 

【語釈】

○幽徑…静かな小路。○清陰…清涼な木陰。○翠苔…緑の苔。○閑閑…静かに落ち着いているさま。○秋声…秋の気配を感じさせるもの音。

 

 

★    題竹　　　　　　　　　竹に題す　　　　　　　　　　　　  元　　劉永之

 

讀易茅齋夏日長　　　　易を読み 茅(ぼう)斎(さい) 夏日長し

琅玕繞屋擬瀟湘　　　　琅玕(ろうかん) 屋を繞り 瀟湘(しょうしょう)に擬(ぎ)す

山風一夜吹疏雨　　　　山風 一夜 疏雨を吹き

共愛西窗五月涼　　　　共に愛す 西窓 五月の涼

 

【語釈】

○茅齋…茅吹きの書斎。○琅玕…竹の青緑の形容。竹。○瀟湘…瀟水と湘水の合流する洞庭湖南岸地方。○疏雨…疎らな雨。

 

 

★    新竹　　　　　　　　　新竹　　　　　　　　　　　　　　　  清　　除　緒

 

森森碧玉已成行　　　　森々たる碧玉 已に行(こう)を成す

一雨長梢盡過墻　　　　一雨 長梢 尽(ことごと)く墻(かき)を過ぐ

微露粉痕初解籜　　　　微かに粉(ふん)痕(こん)を露(あらわ)し 初めて籜(たく)を解く

疑君已帯九秋霜　　　　疑うらくは 君 已に九秋の霜を帯ぶかと

 

【語釈】

○森森…樹木が盛んに茂るさま。○碧玉…青緑の玉。竹のこと。○長梢…〔竹〕の長いこずえ。○籜…竹の皮。○九秋…陰暦九月。

 

 

★    新筍　　　　　　　　　新筍　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　朱　松

 

春風吹起籜龍兒　　　　春風 吹き起す 籜(たく)竜(りゅう)の児

戢戢滿山人未知　　　　戢々(しゅうしゅう)として 山に満ち 人 未だ知らず

急喚蒼頭斸烟雨　　　　急に 蒼頭(そうとう)を喚(よ)び 煙雨(えんう)を斸(き)る

明朝吹作碧參差　　　　明朝 吹き作す 碧 参(さん)差(し)たり

 

【語釈】

○籜龍…タケノコの異名。○戢戢…寄り集まるさま。○蒼頭…青い頭巾を被った兵卒。○烟雨…こぬか雨。○參差…不揃い。

 

 

★    初食笋呈座中　　　　　初めて笋(たけのこ)を食し 座中に呈す　　　　　　  唐　　李商隱

 

嫩籜香苞初出林　　　　嫩籜(どんたく) 苞(ほう)香(こう) 初めて林を出ず

五陵論價重如金　　　　五陵 論価(ろんか) 重きこと金の如し

皇都陸海應無數　　　　皇(こう)都(と)陸海(りくかい)に 応(まさ)に無数なるべし

忍剪凌雲一寸心　　　　忍剪す 凌雲 一寸の心

 

【語釈】

○嫩籜…若い竹の皮。○苞香…包んだもの〔皮〕の香。○五陵…漢の高帝以下五人の帝の墓があるところの付近、豪遊の人が多く住んでいる。○論價…議定價格。○皇都…長安。○陸海…物産の豊富な地。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○忍剪…残酷に剪る。○凌雲…直上の雲霄。志が崇高又は意氣高超のたとえ。○一寸心…一片の誠心。

 

 

★    河邊枯樹　　　　　　　河辺の枯樹(こじゅ)　　　　　　　　　　　　　  唐　長孫佐輔

 

數圍孤樹半心存　　　　数囲の孤樹 半心存す

野火燒枝水洗根　　　　野火(やか) 枝を焼き 水 根を洗う

應是無機承雨露　　　　応(まさ)に是れ 機の 雨露を承(うけたまわ)る無かるべし

却將春色寄苔痕　　　　却(かえ)って 春色を将(も)って 苔(たい)痕(こん)に寄す

 

【語釈】

○半心…少しの心。○機…ころあい。○應…「まさに～すべし」と読み、「きっと～であるに違いない」の意。○春色…春景色。春の気配。

 

 

★    落葉　　　　　　　　　落葉　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　陸　游

 

萬瓦清霜伴月明　　　　万(ばん)瓦(が)の清(せい)霜(そう) 月明に伴う

卧聽殘漏若爲情　　　　卧(ふ)して聴く残漏(ざんろう) 若(い)為(かん)んぞ情なる

無端木葉蕭蕭下　　　　端無(はしな)くも 木葉(もくよう) 蕭々(しょうしょう)として下り

更與愁人作雨聲　　　　更に 愁人の与(ため)に 雨声を作(な)す

 

【語釈】

○萬瓦…多くの瓦。○殘漏…夜明けに尽きようとしている水時計の音。○若爲…どれほど。○無端…思いがけず。○蕭蕭…主として馬・落葉・風雨などのもの寂しい形容。

 

 

★    夜聞落葉聲　　　　　　夜 落葉の声を聞く　　　　　　　　　　　  清　　乾隆帝

 

霜後疎林葉已乾　　　　霜後の疎林 葉 已に乾く

清霄風送打窓寒　　　　清霄(せいしょう) 風 送り 窓を打ちて寒し

飄冷今夜知多少　　　　飄(ひょう)冷(れい) 今夜 知んぬ多少ぞ

暁起憑欄仔細看　　　　暁起(ぎょうき)し 欄に憑(よ)りて 仔細に看る

 

【語釈】

○清霄…清静な夜晚。○飄冷…漂い落ちる。○暁起…暁に起きる。

 

 

★    春草　　　　　　　　　春草　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　劉　敞

 

春草綿綿不可名　　　　春草 綿々(めんめん) 名づくべからず

水邊原上亂抽榮　　　　水辺 原上 乱れて栄を抽(ぬきん)ず

似嫌車馬繁華處　　　　嫌(きら)うに似たり 車馬 繁華の処

纔入城門便不生　　　　纔(わずか)に 城門に入りて 便(すなわ)ち生ぜず

 

【語釈】

○綿綿…長く続いて絶えないさま。

 

 

 

★    春草　　　　　　　　　春草　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　楊萬里      

 

天欲遊人不踏塵　　　　天 遊人の 塵を踏まざるを欲す

一年一換翠茸茵　　　　一年一換 翠(すい)茸(じ)の茵(しとね)

東風猶自嫌蕭索　　　　東風 猶(いま)自(だ)だ 蕭索(しょうさく)を嫌(きら)い

更遣飛花繡好春　　　　更に 飛花をして 好春を繡(ぬ)わしむ

 

【語釈】

○遊人…旅人。○一年一換…年ごとに換わる。○翠茸…細密な若草。○東風…春風。○猶自…今なお。○蕭索…もの寂しいさま。

              　　

 

★    曲江春草　　　　　　　曲江の春草　　　　　　　　　　　　　　  唐　　鄭　谷

 

花落江堤蔟暖煙　　　　花落つ江堤 暖煙蔟がる

雨餘草色遠相連　　　　雨余 草色 遠く相連なる

香輪莫輾青青破　　　　香輪 青(せい)々(せい)を輾(てん)じて破る莫かれ

留與遊人一醉眠　　　　留与せよ 遊人の一酔眠に

 

【語釈】

○曲江…長安東南の慈恩寺の近くの地。曲江池があった。○暖煙…暖かい靄。○雨餘…雨上がり。○香輪…車の美称。○輾…車輪で轢く。○留与…残しておいて与える。○遊人…旅人。

 

 

★    芳草　　　　　　　　　芳草　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

芳草和煙暖更青　　　　芳草 煙に和し 暖 更に青し

閑門要路一時生　　　　閑門(かんもん) 要路に 一時に生ず

年年點檢人間事　　　　年々(ねんねん) 点検す 人間(じんかん)の事

唯有春風不世情　　　　唯だ 春風の 世情ならざる有り

 

【語釈】

○閑門…人の出入りの少ない静かな門。○要路…遮られた道。○点検…考察。○人間…人間社会のこと。○世情…世俗の情。

 

 

★    春蔬　　　　　　　　　春蔬(しゅんそ)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　張　耒

 

新春書劍滯江城　　　　新春 書剣 江城に滞(とどこお)る

又見南蔬入旅羹　　　　又た見る 南蔬(なんそ)の旅(りょ)羹(かん)に入るを

關心太昊祠前路　　　　心に関す 太昊(たいこう)祠前(しぜん)の路

小甲連畦带雪晴　　　　小甲 連(れん)畦(けい) 雪を带びて晴る

 

【語釈】

○春蔬…春の野菜。○書劍…文武両道に優れた者。○江城…長江のほとりにある街。○南蔬…南方の野菜。○旅羹…旅中で食べるあつもの。○太昊…伝説中の古帝 伏羲氏。兄妹または夫婦と目される女媧と共に、蛇身人首の姿で描かれることがある。○小甲…植物生長初期の若葉。

 

 

★    擷菜　　　　　　　　　菜(さい)を擷(けつ)す　　　　　　　　　　　　　　　宋　　蘇　軾

 

秋來霜露滿東園　　　　秋来(しゅうらい) 霜(そう)露(ろ) 東園に満つ

蘆菔生兒芥有孫　　　　蘆菔(ろふく)は児を生じ 芥(かい)には孫有り

我與何曾同一飽　　　　我 何曽(かそう)と同一に飽く

不知何苦食雞豚　　　　知らず 何の苦(く)か 雞(けい)豚(とん)を食わん

 

【語釈】

○秋來…秋になってから。○蘆菔…大根。○芥…からしな。○何曾…晉の人。非常な美食家であった。

 

　　　

★    雨蕉　　　　　　　　　雨蕉(うしょう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  明　　湯顯祖

 

東風吹展半廊青　　　　東風 吹き展ず 半廊の青

數葉芭蕉未擬聽　　　　数葉の芭蕉 未だ聴くを擬せず

記得楚江殘雨後　　　　記得す 楚江 残雨の後

背燈人語醉初醒　　　　灯に背く人語 酔 初めて醒むを

 

【語釈】

○雨蕉…雨に打たれる芭蕉の葉。○東風…春風。○擬…～しようとする。○記得…記憶している。○楚江…楚の地方の長江。

 

 

★    蕉雨　　　　　　　　　蕉(しょう)雨(う)　　　　　　　　　　　　　　   清　　高　珩

 

風動仙鸞尾滿庭　　　　風 動いて 仙鸞(せんらん) 尾 庭に満つ

幽人欹枕幾回聴　　　　幽人 枕を欹てて 幾回か聴く

雨聲昨夜添多少　　　　雨声 昨夜 添うこと多少

又展芭蕉一葉青　　　　又た展ず 芭蕉 一葉の青

 

【語釈】

○蕉雨…芭蕉の葉に降る雨。○仙鸞…鳳凰に似た伝説上の鳥。○仙鸞尾…ここでは雨のたとえ。○幽人…隠者。

 

 

★    雁來紅　　　　　　　　雁来(がんらい)紅(こう)　　　　　　　　　　　　　　　  元　　周　翼

 

朔雁南來塞草秋　　　　朔(さく)雁(がん) 南来す 塞(さい)草(そう)の秋

未霜紅葉已先愁　　　　未だ霜ふらざるに 紅葉 已に先に愁う

綠珠宴罷歸金谷　　　　緑(りょく)珠(じゅ) 宴 罷みて 金谷(きんこく)に帰る

七尺珊瑚夜未收　　　　七尺の珊瑚 夜 未だ収まらず

 

 【語釈】

○雁來紅…葉鶏頭。雁がやってくる秋になると花が紅色に染まるのでこの名がある。○朔雁…北地から南方に飛来する雁。○塞草…寨の草。○綠珠…晋の石崇の愛妾。『蒙求』綠珠墜楼。○金谷…金谷園。晋の石崇が持っていた庭園。

　　　

 

★    種蒲　　　　　　　　　蒲(かば)を種ゆ　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　陸龜蒙

 

杜若溪邊手自移　　　　杜若渓(とじゃくけい)辺(へん) 手自(みずか)ら移(あた)う

旋抽煙劒碧參差　　　　旋(めぐ)りて 煙劒(えんけん)を抽(ひ)きて 碧 参(さん)差(し)たり

何時織得孤帆去　　　　何れの時か 孤帆を織り得て去り

懸向秋風訪所思　　　　懸(はるか)に 秋風に向って 所思(しょし)を訪(たず)ねん

 

【語釈】

○杜若…カキツバタ。○參差…不揃い。○孤帆…孤独な舟の帆。○所思…思うところの事。

 

 

★    苔錢　　　　　　　　　苔(たい)銭(せん)　　　　　　　　　　　　　　  　　唐　　鄭　谷

 

春紅秋紫繞池臺　　　　春紅 秋紫 池台を繞(めぐ)る

箇箇圓如濟世財　　　　箇々 円(まどか)なること 世に済(さい)す財の如し

雨後無端滿窮巷　　　　雨後 端無(はしな)くも 窮(きゅう)巷(こう)に満ち

買花不得買愁來　　　　花を買い 愁いを買い得ずして来る

 

【語釈】

○苔錢…ゼニゴケ。○池臺…池苑の楼台。○濟世財…世人を救う財。円形の銭。○無端…思いもよらず。○窮巷…むさくるしい巷。

 

 

★    茶　　　　　　　　　　茶　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　林　逋

 

石輾輕飛瑟瑟塵　　　　石輾(せきてん) 軽飛す 瑟々の塵

乳香烹出建溪春　　　　乳香 烹(ほう)出(しゅつ)す 建渓(けんけい)の春

世間絕品人難識　　　　世間 絶品 人の識る難く

閑對茶經憶古人　　　　閑かに 茶(ちゃ)経(きょう)に対し 古人を憶う

 

【語釈】

○石輾…石製の茶臼。○瑟瑟…寂しい様子や色の形容。○塵…茶粉。○乳香…乳花（茶を似るときに出る乳白色の泡）の香。○建溪…福建省建溪。名茶の産地。○茶經…唐代の陸羽によって著された茶についての書物。

 

　　　

★    詠酒　　　　　　　　　酒を詠ず　　　　　　　　　　　　　　  唐　　汪　遵

 

萬事銷沈向一杯　　　　万事 銷沈(しょうちん)して 一杯に向う

竹門啞軋爲風開　　　　竹門 啞軋(あくあつ) 風の為に開く

秋宵睡足芭蕉雨　　　　秋宵 睡りは足る 芭蕉の雨

又是江湖入夢來　　　　又た是れ 江湖 夢に入りて来る

 

【語釈】

○銷沈…元気がなくなる。○啞軋…ギシギシと軋る音の形容。○江湖…江と湖。

 

 

★    糖霜　　　　　　　　　糖(とう)霜(そう)　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

亦非崖蜜亦非餳　　　　亦た崖(がい)蜜(みつ)に非ず 亦た餳(あめ)に非ず

青女吹霜凍作冰　　　　青女(せいじょ) 霜を吹き 凍(こお)りて氷と作る

透骨清寒輕著齒　　　　骨を透(とお)す清(せい)寒(かん) 軽く歯に著(つ)き

嚼成人迹板橋聲　　　　嚼(か)めば 人迹(じんせき) 板橋(きょうはん)の声と成る

 

【語釈】

○糖霜…綿白糖。シロップが加えられ純度の低い砂糖。○崖蜜…山崖間の野の蜂が作った蜂蜜。○青女…霜を降らす女神。○人迹板橋聲…人が板橋を渡るときに立てる音。

 

 

★    橘　　　　　　　　　　橘　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　錢錦城

 

丹實離離間碧林　　　　丹(たん)実(じつ) 離々(りり)として 碧(へき)林(りん)を間(まじ)う

千頭聲價重南金　　　　千頭の声価 南金を重んず

踰淮若改平生質　　　　淮(わい)を踰(こ)え 若(も)し平生の質を改むれば

孤負當年作頌心　　　　孤負(こふ)す 当年 頌(じゅ)を作(な)す心に

 

【語釈】

○丹實…赤い実。○離離…果実が良く実って垂れ下がるさま。○南金…南方出産の銅。○平生…往生。○孤負…そむく。○当年…昔年。○頌…褒め称える。

 

 

★    梅子                  梅子　　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　黄庭堅

 

带葉連枝摘未殘　　　　葉を带ぶ連枝 摘(つ)みて未だ残る

依依茶塢竹籬間　　　　依々(いい)たる茶塢(ちゃう) 竹籬(ちくり)の間

相如病渴應須此　　　　相如(そうじょ) 渇を病み 応(まさ)に此(これ)を須(もと)むべし

莫與文君慼遠山　　　　文君に与え 遠山を慼(うれ)える莫かれ

 

【語釈】

○依依…遠くぼんやりとしているさま。○茶塢…茶を楽しむための場所。○相如…司馬相如。喉の渇きの病気があった。○應…「まさに～すべし」と読み「～すべきである」の意。○文君…卓文君。司馬相如の妻。○遠山…卓文君の眉は遠山の如しと言われていた。『西京雑記』。○結句…卓文君に与えてしまうと、自分の渇きが直らなくて、卓文君の瞳が曇り，自分が愁えることになる。そうしてはならない。

 

　　　

★    楊梅　　　　　　　　　楊(よう)梅(ばい)　　　　　　　　　　　　　　  宋　　余萼舒

 

摘來鶴頂珠猶濕　　　　摘(つ)み来る鶴(かく)頂(ちょう) 珠 猶お湿(うるお)う

剜去龍睛淚未乾　　　　剜(けず)り去りて 竜(りゅう)晴(せい) 涙 未だ乾かず

若使太真知此味　　　　若し 太(たい)真(しん)をして 此の味を知らしめば

荔支應不到長安　　　　荔支(れいし) 応(まさ)に長安に到らざるべし

 

【語釈】

○楊梅…ヤマモモ。○鶴頂…鶴頂梅。楊梅のこと。○龍睛…楊梅のこと。○太真…楊貴妃。荔支を好んで蜀から早馬で取り寄せた。○應…「まさに～すべし」と読み「きっと～であるに違いない」の意。

 

★    茘枝　　　　　　　　　茘枝　　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

遐方不許貢珍奇　　　　遐方(かほう) 許さず 珍奇を貢(こう)するを

密詔唯教進茘枝　　　　密詔 唯か茘枝を進めしむ

漢武碧桃爭比得　　　　漢武の碧桃 争(いかで)か比べ得ん

枉令方朔號偸兒　　　　枉(ま)げて 方朔(ほうさく)をして偸児(ゆじ)と号せしむ

 

【語釈】

○遐方…遠方。○珍奇…珍しく素晴らしい物。ここでは茘枝。漢の時代に南方より早馬で献上されていたが、民を苦しめるという理由で廃止された。『後漢書』。○密詔…秘密の詔勅。○漢武…漢の武帝。○碧桃…漢の武帝が西王母から貰ったとされる仙桃。『博物志』。○方朔…東方朔。武帝に仕え太中大夫にまで上った。辞賦を以て武帝の豪奢ぶりを諫めた。○偸兒…盗人。武帝が西王母から仙桃を貰ったときに東方朔が覗いたので，西王母が「偸兒」と言った。

 

 

★    茘枝　　　　　　　　　茘枝　　　　　　　　　　　　　　　　   唐　　韓　偓

 

封開玉籠雞冠溼　　　　封 開けば 玉(ぎょく)籠(ろう) 雞冠(けいかん)溼(うるお)う　

葉襯金盤鶴頂鮮　　　　葉襯(ようき) 金盤 鶴(かく)頂(ちょう) 鮮かなり　

想得佳人微啓齒　　　　想い得たり 佳人 微かに歯を啓(ひら)き　

翠釵先取一雙懸　　　　翠釵(すいさ) 先ず 一双を取りて懸く

 

【語釈】

○玉籠…鳥かごの美称。○雞冠…庭鳥のとさか。○佳人…美人。楊貴妃。○翠釵…翡翠の簪。

 

　　　

★    蒲萄　　　　　　　　　蒲萄　　　　　　　　　　　　　　　　  唐　　韓　愈

 

新莖未徧半猶枯　　　　新茎 未だ徧(あまね)ねからず　半ば猶お枯る

高架支離巻復扶　　　　高架 支離 巻き復(ま)た扶(たす)く

若欲滿盤堆馬乳　　　　若し 満盤に 馬乳を堆(たい)せんと欲っすれば

莫辭添竹引龍鬚　　　　辞する莫かれ 竹を添え竜(りゅう)鬚(びん)を引くを

 

【語釈】

○高架…高く架かる。○支離…分裂する。○馬乳…葡萄の一種。○龍鬚…葡萄の一種。ここではその蔓。

 

 

★    食老菱有感　　　　　　老菱(ろうき)を食して感有り　　　　　　　　　  宋　　楊萬里

 

幸自江湖可避人　　　　幸(こう)自(じ) 江湖 人を避くべし

懷珠韞玉冷無塵　　　　珠を懐き 玉を韞(つつ)み 冷として塵無し

何須抵死露頭角　　　　何んぞ須(もち)いん 死に抵し 頭角を露すを

荇葉荷花老此身　　　　荇(こう)葉(よう) 荷(か)花(か) 此の身を老(ろう)す

 

【語釈】

○幸自…もとより。元来。○江湖…江と湖。隠棲の地。○何須…「なんぞもちいん」と読み「どうして～しようか〔反語〕」の意。○荇葉…アサザ。○荷花…蓮の花。

 

 

★    　史　　　　　　　　　史　　　　　　　　　　　　　　　　　  元　　劉　因

 

記錄紛紛已失真　　　　記録 紛々(ふんぷん)として 已に真を失う

語言輕重在詞臣　　　　語(ご)言(ごん)の軽重 詞(し)臣(しん)に在り

若將字字求心跡　　　　若し 字(じ)々(じ)を将(も)って 心跡を求むれば

恐有無邊受屈人　　　　恐らくは 無辺 屈を受く人有らん

 

【語釈】

○紛紛…混じり紛れるさま。○語言…言語。○詞臣…歴史書を書いた人。○心跡…思想と行為。○無邊…無数。

 

　　　

★    題印嚢　　　　　　　　印(いん)嚢(のう)に題す　　　　　　　　　　　　　　  唐　　皮日休

 

金篆方圓一寸餘　　　　金篆(きんてん) 方円 一寸余

可憐銀艾未思渠　　　　憐れむべし 銀(ぎん)艾(がい) 未だ思を渠(ひら)かざるを

不知夫子將心印　　　　知らず 夫子 心印を将って

印破人間萬卷書　　　　印破す 人間(じんかん) 万巻の書

 

【語釈】

○金篆…金で書いた篆書。○方圓…四角と円。○銀艾…銀印と綠綬。○心印…言葉で表さず心で伝えること。○夫子…男子の尊称。○印破…心印で伝え尽くす。○人間…人間世界。

 

 

★    硯　　　　　　　　　　硯　　　　　　　　　　　　　　　　   清　　顧陳垿

 

端溪誰割紫雲腴　　　　端渓 誰か割らん 紫雲の腴(ゆ)

萬古文心向此攄　　　　万古の文心 此(ここ)に向いて攄(の)ぶ

小心墨池成巨浪　　　　小心の墨池 巨浪を成し

就中飛出北溟魚　　　　中就(なかんずく) 飛び出す北溟(ほくめい)の魚

 

【語釈】

○端溪…広東省肇慶市端溪。硯石の産地。○紫雲…紫色の硯石。○腴…うまみ。○文心…文章。○攄…思いを述べる。○墨池…墨つぼ。○就中…とりわけ。○北溟…北方の最果てにあると言われる大海。

 

　　　

★    禿筆　　　　　　　　　禿筆(とくひつ)　　　　　　　　　　　　　　　　  宋　　林　逋

 

神鋒雖缺力能存　　　　神鋒　欠くと雖も　力能く存す

架琢珊瑚欠策勲　　　　架(か)琢(たく) 珊瑚(さんご)　策(さく)勲(くん)を欠く

日暮閑窓何所似　　　　日暮れて　閑(かん)窓(そう)　何ぞ似たる所ぞ

灞陵憔悴李將軍　　　　灞(は)陵(りょう)に憔悴(しょうすい)す 李将軍

 

【語釈】

○禿筆…先の毛が不揃いな毛筆。○神鋒…鋭く尖った毛先。○策勲…勲功と名誉を記すこと。○灞陵…陝西省西安市東にあった古城。○李將軍…西漢の武将李広。

 


 

★    謝靜遠惠紙　　　　　　静(せい)遠(えん)が紙を恵むに謝す　　　　　　　　　　　元　　顧　瑛

 

蜀郡金花新著樣　　　　蜀郡の金花 新たに様(さま)を著く

剡溪玉板舊齊名　　　　剡渓(せんけい)の玉板 旧名を斉(ととの)う

荷君寄我黟川雪　　　　荷(にな)う 君が我に寄す 黟(い)川(せん)の雪

猶帶漣漪瀉月聲　　　　猶お帯ぶ 漣漪(れんき) 月に瀉(そそ)ぐ声

 

【語釈】

○靜遠…陸德原。平江路長洲の人，徽州路岳教授となる。○蜀郡…四川省。○金花…金花箋。紙の一種。○樣…模様。○剡溪…浙江省紹興市剡溪。○玉板…光沢とハリのある宣紙（上質の紙の一種）。○漣漪…さざ波。○瀉月…泉水の月光の如くそそぐ形容。

 

 

★    倭扇　　　　　　　　　倭(わ)扇(せん) 　　　　　　　　　　　　　　　　　　元　　貢性之

 

外番巧藝奪天工　　　　外番の巧芸 天工を奪う

筆底丹青智莫窮　　　　筆底の丹青 智 窮まる莫(な)し

好似越裳供翡翠　　　　好(こう)似(じ) 越(えつ)裳(しょう) 翡翠(ひすい)を供(そな)え

也從中國被仁風　　　　也(ま)た 中国に従って 仁風を被(こうむ)る

 

【語釈】

○倭扇…日本の扇。○外番…異民族。日本。○天工…造物主のなせる技。○丹青…赤と青。○好似…良く似ている。～の如き。○越裳…南海にあるとされた国の名。○仁風…仁徳の風化。

 

 

★    漳州僧宗要見遺紙扇每扇各書一詩　　　　　 　　　　　　　宋　　蔡　襄

漳州(しょうしゅう)の僧宗(そうそう)要(よう)が紙扇を遺(おく)らる 毎扇に各(おの)ゝ(おの)一詩を書す　　　　　　　

 

老去將携只要輕　　　　老去りて 将(まさ)に携(たずさ)えんとし 只 軽きを要す

況臨炎暑遶風清　　　　況(いわん)や 炎暑に臨み 風を遶(めぐ)らして清きをや

兒童愛畫青鸞様　　　　児童 画を愛す 青鸞(せいらん)様(よう)

未識山翁質素情　　　　未だ識らず 山翁 質素の情

 

【語釈】

○漳州…福建省漳州市。○宗要見…不祥。○青鸞様…女性の模様。

　　　　 　　　　　　

　　　　　　

★    謝鄭閎中惠高麗畫扇　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　　黄庭堅

鄭閎中(ていこうちゅう)が高麗画(こうらいが)扇(せん)を恵むに謝す

 

會稽內史三韓扇　　　　会稽(かいけい)の內史 三韓の扇

分送黄門畫省中　　　　分かち送る 黄門 画省の中(うち)

海外人煙來眼界　　　　海外の人煙 眼界に来り

全勝博物注魚蟲　　　　全(すべ)て勝る 博物(はくぶつ) 魚虫に注するに

 

【語釈】

○鄭閎中…鄭穆。福州侯官の人。仁宗皇祐五年の進士。國子祭酒，寶文閣待制に除せらる。門弟数千人。○會稽…江蘇省東部と浙江省西部。○內史…官名。○三韓…朝鮮南部の馬韓 、 辰韓 、 弁辰。○黄門…門下省。○眼界…目に見える範囲。○博物…万物。

 

　　　

★    琵琶　　　　　　　　　琵琶(びわ)　　　　　　　　　　　　　　　　唐　　白居易

 

弦清撥剌語錚錚　　　　弦 清く 撥(ばち) 剌(するど)くして 語 錚々(そうそう)たり

背却殘燈就月明　　　　残灯に背却(はいきゃく)して 月明に就(つ)く

賴是心無惆悵事　　　　頼(さいわい)に 是れ 心に惆悵(ちゅうちょう)する事無し

不然爭奈子弦聲　　　　然らずんば 子が弦声(げんせい)を 争奈(いかん)せん

 

【語釈】

○錚錚…金属的な高く清んだ音。○背却…捨てる。○殘燈…消えかかった灯。○賴是…さいわいに、都合良く。○惆悵…嘆き悲しむ。○爭奈…どうしようもない。冬至の俗語。

〔参考文献〕　　『新釈漢文大系　白氏文集　四』

 

★    珊瑚　　　　　　　　　珊瑚(さんご)　　　　　　　　　　　　　　　　 　 清　　錢　鑾

 

石家擎出獨稱高　　　　石家 擎出(けいしゅつ)し独り高と称す

七尺冷瓏映綺寮　　　　七尺 冷瓏(れいろう)として 綺寮(きりょう)に映ず

不識瓊枝來海底　　　　識らず 瓊(けい)枝(し)の海底より来るを

却疑火樹燦元宵　　　　却って疑う 火樹の元宵(げんしょう)に燦(さん)たるかと

 

【語釈】

○擎出…そばだち出る。○冷瓏…玉や宝石などが美しく輝き、冴え冴えするような音を奏でる様子。○綺寮…彫刻や絵で飾られた佳麗な家。○瓊枝…伝説中の玉樹のような珊瑚。○火樹…樹形の灯火。○元宵…旧暦正月十五日（上元）の夜。松明や提灯を灯す夜祭りがあった。

 

 

★    風筝　　　　　　　　　風(ふう)筝(そう)　　　　　　　　　　　　  　　　　清　　除天球

 

誰向天邊認塞鴻　　　　誰か 天辺に向って 塞(さい)鴻(こう)を認む

但憑一紙可騰空　　　　但だ 一紙に憑(よ)り 空に騰(のぼ)るべし

任他風信東西轉　　　　任(さも)他(あらばあれ) 風信 東西に転ずる

百丈遊絲在掌中　　　　百丈の遊糸 掌中に在り

 

【語釈】

○風筝…凧。○天邊…空の果て。○塞鴻…辺境の地を飛ぶ大きな鳥。○任他…ままよ。○風信…ここでは凧のこと。○遊絲…ここでは凧糸。

 

 

★    江帆　　　　　　　　　江(こう)帆(はん)　　　　　　　　　　　　　　   唐　　羅　鄴

 

別離不獨恨蹄輪　　　　別離 独(ひと)り 蹄(てい)輪(りん)を恨まず

渡口風帆發更頻　　　　渡口の風(ふう)帆(はん) 発すること更に頻(しきり)なり

何處青樓方凭檻　　　　何れの処の青楼(せいろう)か 方(まさ)に檻(かん)に凭(よ)り

半江斜日認歸人　　　　半江の斜日 帰人を認む

 

【語釈】

○江帆…江上の舟。○蹄輪…車馬。○風帆…帆掛け船。○青樓…妓院。○檻…欄干。

 

　

 

★    花上金鈴　　　　　　　花上の金鈴　　　　　　　　　　　　　  宋　　蕭永崖

 

揺曳金錢日幾回　　　　揺曳(ようえい) 金銭 日に幾回(いくかい)

不教紅紫委蒼苔　　　　紅(こう)紫(し)をして 蒼(せい)苔(たい)に委(い)せしめず

誰知鳥雀驚飛去　　　　誰か知らん 鳥(ちょう)雀(じゃく)の驚いて飛び去さるを

別有衘花野鹿來　　　　別に 花を衘(くわ)えて 野(や)鹿(ろく)の来る有り

 

【語釈】

○揺曳…揺れ動く。○紅紫…紅色の花と紫色の花。○蒼苔…緑色の苔。○委…棄てる。○鳥雀…小鳥。

 

　　　

★    書舍寒燈　　　　　　　書舎の寒灯　　　　　　　　　　　　　　   元　　葉　顒

 

青燈黄巻伴更長　　　　青灯黄巻 更に長きに伴う

落照銀釭午夜香　　　　落照 銀釭 午夜香(かんば)し

異日長檠珠翠處　　　　異日 長檠(ちょうけい) 珠(しゅ)翠(すい)の処

苦心寒燄莫相忘　　　　苦心 寒燄(かんえん) 相い忘る莫れ

 

【語釈】

○寒燈…寒々とした灯。○青燈黄巻…清苦して讀書する生活。○落照…夕陽。○銀釭…銀白色の灯。○午夜…真夜中。○異日…将来の日。○長檠…長い灯火の台。○珠翠…珍珠と翡翠。○寒燄…寒々とした火炎。

 

 

★    漁燈　　　　　　　　　漁灯　　　　　　　　　　　　　　　　  清　　汪　衡

 

月落空江露氣浮　　　　月落ち 空江 露気浮ぶ

蘆花深處宿漁舟　　　　蘆花 深き処 漁舟を宿す

寒燈映水繁星亂　　　　寒灯 水に映じて 繁星乱れ

夜半潮回帶影流　　　　夜半 潮(うしお)回(かえ)りて 影を帯びて流る

 

【語釈】

○空江…静寂な江面。○寒灯…寒々とした灯。○繁星…多くの星。

 

 

★    代夫作白蠟燭詩贈人　　夫に代りて白蠟燭の詩を作り人に贈る　　  唐　　孫　氏

 

景勝銀釭香比蘭　　　　景勝 銀釭 香 蘭に比す

一條白玉偪人寒　　　　一条の白玉 人に偪(せま)りて寒し

他時紫禁春風夜　　　　他時 紫禁 春風の夜

醉草天書仔細看　　　　酔草 天書 仔細に看ん

 

【語釈】

○銀釭…銀白色の灯火。○一條白玉…白蠟燭。○他時…将来。○紫禁…宮城。○醉草…草書。

 

 

★    墩邊漁火　　　　　　　墩(とん)辺(へん)の漁火　　　　　　　　　　　　　　  明　　林　瀚

 

釣罷歸來月滿船　　　　釣罷(や)み 帰り来れば 月 船に満つ

江天人静夜如年　　　　江天 人 静かにして 夜 年の如し

推篷忽露孤燈火　　　　篷(とま)を推せば 忽(たちま)ち露(あらわ)る孤灯の火

驚起魚龍不敢眠　　　　魚竜を驚起(きょうき)し 敢えて眠らず

 

【語釈】

○江天…江と天。○篷…舟の窓。○驚起…驚かせて眼を醒まさせる。○魚龍…水中に住む生物。

 

 

★    燭淚　　　　　　　　　燭(しょく)涙(るい)　　　　　　　　　　　　　　　  元　　張弘範

 

惜別終宵話不休　　　　別(わかれ)を惜しみ 終宵(しゅうしょう) 話 休(や)まず

煌煌燈燭照離愁　　　　煌々(こうこう)たる灯燭 離愁(りしゅう)を照す

蠟花本是無情物　　　　蠟(ろう)花(か) 本(もと)是(こ)れ 無情の物

特向人前也淚流　　　　特に 人前に向(おい)いて 也(ま)た涙流る

 

【語釈】

○燭淚…蝋燭が燃えるときに滴る涙状の液体。○終宵…一晩中。○煌煌…光り耀くさま。○蠟花…蝋燭を燃やすときに中心に出来る花の形を為た物。

 

　　

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