七言絶句の達人と言われる杜牧の七言絶句を「捜韻」から抽出し、書き下しと語釈付けを行った。「捜韻」には全部で六十七首が採録されているが、一首は後人の作とされているので除外し、代わりに『唐詩選』にあって捜韻(全唐詩)にない「出塞行」を付け加えて、六十七首を対象とした。
参考文献は、各詩に記載するが、これらの文献に無いものの書き下しは『萬首唐人絶句』(書藝会)を参考にした。
王昌齢は、閨怨詩、辺塞詩に優れていると言われているが、送別に関する詩が多く、江寧(江蘇省南京市江寧区)、竜標(湖南省懐化市芷江トン族自治県)に左遷されていたときに、種々の友人等に別れることを詠ったものとして興味深い。
★ 出塞二首 其一 出塞二首 其一
秦時明月漢時關 秦時の明月
漢時の関
萬里長征人未還 万里
長征人未だ還らず
但使龍城飛將在 但だ竜城の飛将をして在らしめば
不教胡馬度陰山 胡馬をして陰山を度らしめず
【語釈】
○出塞…寨を出るときの歌。○竜城 … 匈奴の築いた砦。○飛将…前漢の武将、李広のこと。匈奴から飛将軍といって恐れられた。○胡馬…えびすの馬。○陰山…陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。漢族と匈奴との境界となっていた。
(参考文献) 『唐詩三百首』『唐詩選』(「従軍行其三」に作る)
★ 出塞二首 其二 出塞二首 其二
騮馬新跨白玉鞍 騮馬 新たに跨がる 白玉の鞍
戰罷沙場月色寒 戦
罷んで 沙場 月色寒し
城頭鐵鼓聲猶震 城頭の鉄鼓 声 猶お震い
匣裏金刀血未乾 匣裏の金刀 血 未だ乾かず
【語釈】
○騮馬…たてがみの黒い赤馬。○沙場…砂漠。○鐵鼓…戦鼓。○匣裏…箱の中。○金刀…刀の美称。
★ 從軍行七首 其一 従軍行七首
其一
烽火城西百尺樓 烽火城西 百尺の楼
黃昏獨坐海風秋 黄昏 独り坐す 海風の秋
更吹羌笛關山月 更に吹く
羌笛 関山月
無那金閨萬里愁 那ともする無し 金閨 万里の愁
【語釈】
○従軍行…楽府題。従軍の歌。○烽火城…のろしをあげる要塞。○黄昏…たそがれ時。○海風…青海(ココノール湖)から吹いてくる風。○羌笛…チベット系異民族の笛。○関山月…笛の曲名。ここではこの曲名と月明りのもとで笛を吹くことをかけている。○無那…どうしようも無い。○金閨…愛する女性の美しい部屋。
(参考文献) 『唐詩選』
總是關山離別情 総て是れ 関山 離別の情
撩亂邊愁聽不盡 辺愁を撩乱して
聴いて尽きず
高高秋月照長城 高々たる秋月 長城を照らす
【語釈】
○従軍行…楽府題。従軍の歌。○起舞…立ち上がって舞う。○新聲…新しく作った歌曲。○關山…関所のある山。別れの曲「関山月」とのかけことば。○邊愁…辺境に居ることの愁い。○撩亂…かき乱す。
★ 從軍行七首 其三 従軍行七首
其三
關城榆葉早疎黃 関城の榆葉 早くも 疎黄
日暮雲沙古戰場 日暮 雲沙 古戦場
表請回軍掩塵骨 表請 軍を回せば 塵骨を掩う
莫教兵士哭龍荒 兵士をして 竜荒に哭さしむる莫かれ
【語釈】
○關城…関所のある寨。○榆葉…ニレの葉。○疎黃…まばらで黄ばむ。○雲沙…雲と沙。○表請…撤退命令を要請する。○塵骨…塵にまみれた骨。○龍荒…荒れた北方の砂漠地帯。
★ 從軍行七首 其四 従軍行七首
其四
青海長雲暗雪山 青海の長雲
雪山暗し
孤城遙望玉門關 孤城
遥かに望む 玉門関
黃沙百戰穿金甲 黄沙
百戦 金甲を穿つも
不破樓蘭終不還 楼蘭を破らずんば
終に還らじ
【語釈】
○従軍行…楽府題。従軍の歌。○青海…ココノール湖。○雪山…祁連山。○黃沙…西北の砂漠。黄色を帯びているのでこう呼ぶ。○金甲…金属製のよろい。○樓蘭…新疆ウイグル自治区、ロプノール湖の西にあった小独立国。
(参考文献) 『唐詩選』
★ 從軍行七首 其五 従軍行七首
其五
紅旗半捲出轅門 紅旗 半ば捲いて 轅門を出ず
前軍夜戰洮河北 前軍 夜戦 洮河の北
【語釈】
○従軍行…楽府題。従軍の歌。○大漠…蒙古の大砂漠。○日色…日の光。○紅旗…赤い軍旗。○轅門…陣地の門。○洮河…4甘粛省の河川。○吐谷渾…東部鮮卑の首領。吐谷渾国を建国した。○生擒…生け捕り。
碎葉城西秋月團 砕葉城西 秋月団なり
明敕星馳封寶劒 明勅 星馳 宝劒を封ず
辭君一夜取樓蘭 君を辞して 一夜 楼蘭を取る
【語釈】
○従軍行…楽府題。従軍の歌。○胡瓶…胡の地で作られた瓶。○落膊…腕から臂の間の部分。○紫薄汗…西域から来た名馬の一種で、汗をかくと薄い紫色の汗が出るとされている。○碎葉城…キルギス共和国楚河州トクマク市の南西約8キロメートルに位置していた街。○明勅…勅語。○星馳…流星のごとく早く走る。○樓蘭…新疆ウイグル自治区チャルクリクにかつて存在したオアシス都市国家。
★ 從軍行七首 其七 従軍行七首
其七
玉門山嶂幾千重 玉門山嶂 幾千重
山北山南總是烽 山北山南
総て是れ烽
人依遠戍須看火 人は遠戍に依って 須らく火を看るべし
馬踏深山不見蹤 馬は深山を踏んで
蹤を見ず
【語釈】
○従軍行…楽府題。従軍の歌。○玉門山嶂…玉門関の近くの険しい山。○遠戍…辺境の守り。○須…「すべからく〜すべし」と読み、「〜すべきである」「〜するのが良い」の意。
貴人妝梳殿前催 貴人の妝梳 殿前に催す
香風吹入殿後來 香風
吹いて 殿後に入り来る
白蓮花發照池臺 白蓮
花発いて 池台を照す
【語釈】
○妝梳…顔に化粧をし、髪をくしけずる。○香風…香りのある風。○仗引…儀仗が率いる。○笙歌…笛と歌の楽隊。○大宛馬…匈奴の地である大宛から来た駿馬。○池臺…池のそばの楼台。
胡部笙歌西殿頭 胡部の笙歌 西殿の頭
新聲一段高樓月 新声
一段 高楼の月
聖主千秋樂未休 聖主 千秋 楽 未だ休まず
【語釈】
○胡部…異民族の音楽を司る役所。○笙歌…笛と歌。○梨園…唐代の音楽家養成所。○涼州…凉州歌。甘肃省武威市付近の音楽。○新聲…新しく作られた音楽。○聖主…聖明なる皇帝。○千秋…千年。
★ 春宮曲 春宮曲
昨夜風開露井桃 昨夜
風は開く 露井の桃
未央前殿月輪高 未央前殿 月輪高し
平陽歌舞新承寵 平陽の歌舞
新たに寵を承け
簾外春寒賜錦袍 簾外の春寒
錦袍を賜う
【語釈】
○春宮曲…楽府題。春の宮殿での宴を詠ずる。○露井…屋根のない井戸。○未央…未央宮。漢の宮殿で長安にあった。○前殿…正殿の前にある小宮殿。平陽…平陽公主。武帝の姉。○歌舞…歌舞していた人。○錦袍…錦の上着。
(参考文献) 『唐詩選』
★ 西宮春怨 西宮春怨
西宮夜靜百花香 西宮
夜 静かにして 百花香し
欲捲珠簾春恨長 珠簾を捲かんと欲すれば
春恨長し
斜抱雲和深見月 斜めに雲和を抱きて 深く月を見る
朦朧樹色隱昭陽 朦朧たる樹色 昭陽を隠す
【語釈】
○西宮春怨…(失寵の女性の居所である)西宮での春の気配に感じて(女性が)もの思いにふけることを詠う詩。○西宮…長信宮。漢の成帝の妃・班婕、が、恩寵を趙飛燕とその妹に奪われたため、退いて過ごしたところ。○珠簾…真珠を綴った簾。○春恨…春怨。若い女性が春の気配に感じてもの思いにふけること。○雲和…琴。○朦朧…おぼろげなさま。○昭陽…未王宮の中の昭陽殿(寵愛されている皇后の趙飛燕の居所)。
(参考文献) 『唐詩選』
★ 西宮秋怨 西宮秋怨
芙蓉不及美人妝 芙蓉も及ばず
美人の妝い
水殿風來珠翠香 水殿
風来って 珠翠香し
却恨含情掩秋扇 却って恨む
情を含みて秋扇を掩い
空懸明月待君王 空しく
明月を懸けて 君王を待ちしを
【語釈】
○西宮春怨…(失寵の女性の居所である)西宮での春の気配に感じて(女性が)もの思いにふけることを詠う詩。○西宮…長信宮。漢の成帝の妃・班婕、が、恩寵を趙飛燕とその妹に奪われたため、退いて過ごしたところ。○美人…班婕、。○水殿…池のほとりに建てた宮殿。○珠翠…真珠や翡翠の髪飾り。○秋扇 … 秋の扇。扇は秋になれば用がなくなり棄てられるところから、寵を失った女性(班婕、)に喩える。○懸明月…夜空のかかる月にわが身を照らされること。
(参考文献) 『唐詩選』
★
長信秋詞五首 其一 長信秋詞五首 其一
金井梧桐秋葉黃 金井の梧桐 秋葉黄なり
珠簾不捲夜來霜 珠簾 捲かず 夜来の霜
熏籠玉枕無顏色 熏籠 玉枕 顔色無し
臥聽南宮清漏長 臥して聴く 南宮 清漏の長きを
【語釈】
○長信秋詞 … 楽府題。長信宮の秋の歌、長信宮に孤独な秋の夜を過ごす班婕、の嘆きを歌ったもの。○金井…枠が美しく装飾されている井戸。○梧桐…アオギリ。○珠簾…玉すだれ。○熏籠…宮中での暖を取る道具で、香炉を組み合わせた網目の覆いのあるもの。○玉枕…玉で飾った枕。○南宮…皇帝の居処。○清漏…清らかな音のする水時計。
高殿秋砧響夜闌 高殿の秋砧 夜闌に響く
霜深猶憶御衣寒 霜深くして
猶お憶ゆ 御衣の寒きを
銀燈青瑣裁縫歇 銀灯 青瑣 裁縫し歇んで
還向金城明主看 還た 金城に向って 明主を看る
【語釈】
○長信秋詞 … 楽府題。長信宮の秋の歌、長信宮に孤独な秋の夜を過ごす班婕、の嘆きを歌ったもの。○秋砧…秋の衣を打つ砧の音。○夜闌…夜更け。○御衣…皇帝の衣。○青瑣…美しい窓。○金城…極めて堅固な城。皇帝の住まい。○明主…賢明な君主。
★
長信秋詞五首 其三 長信秋詞五首 其三
奉帚平明金殿開 帚を平明に奉ずれば 金殿開く
暫將團扇共裴回 暫く
団扇を将って 共に裴回す
玉顏不及寒鵶色 玉顔は及ばず
寒鵶の色に
猶帶昭陽日影來 猶お 昭陽の 日影を帯びて来るがごとし
【語釈】
○長信秋詞 … 楽府題。長信宮の秋の歌、長信宮に孤独な秋の夜を過ごす班婕、の嘆きを歌ったもの。○帚…ほうきで宮殿をそうじする意。○平明…夜明け。○金殿…黄金で飾った立派な御殿。長信宮を指す。○團扇…円いうちわ。○玉顔…(昔)玉のように美しかった顔。○昭陽…漢の昭陽殿。武帝が建てて、趙飛燕姉妹が住んだ。○日影…日の光。
★
長信秋詞五首 其四 長信秋詞五首 其四
真成薄命久尋思 真成に薄命
久しく尋思す
夢見君王覺後疑 夢に
君王を見て 覚めて後 疑う
火照西宮知夜飲 火は西宮を照らして
夜飲を知る
分明複道奉恩時 分明なり
複道に恩を奉ぜし時
【語釈】
○長信秋詞…楽府題。長信宮の秋の歌。長信宮に孤独な秋の夜を過ごす班婕、の嘆きを歌ったもの。○真成…ほんとうに。○薄命…不幸せなこと。○尋思…次々と思いをめぐらすこと。○君王…皇帝。○西宮…長信宮。漢の成帝の妃・班婕、が、恩寵を趙飛燕とその妹に奪われたため、退いて過ごしたところ。○分明…はっきりとしていること。○複道…上下二層の渡り廊下。宮殿と宮殿とをつなぎ、上層は天子、下層は臣下が通った。
(参考文献) 『唐詩選』
★
長信秋詞五首 其五 長信秋詞五首 其五
長信宮中秋月明 長信宮中 秋月明かなり
白露堂中細草跡 白露堂中
細草の跡
紅羅帳裏不勝情 紅羅帳裏 情に勝えず
【語釈】
○長信秋詞…楽府題。長信宮の秋の歌。長信宮に孤独な秋の夜を過ごす班婕、の嘆きを歌ったもの。○昭陽殿…武帝が建てて、趙飛燕姉妹が住んだ宮殿。○擣衣…衣を打って艶を出し軟らかくすること。○白露堂…秋の露に濡れた堂。○紅羅帳…軟らかい紅色の絹織物で出来たとばり。
★ 青樓曲二首 其一 青楼曲二首 其一
白馬金鞍従武皇 白馬
金鞍 武皇に従い
旌旗十万宿長楊 旌旗
十万 長楊に宿す
楼頭小婦鳴箏坐 楼頭の小婦
箏を鳴らして坐し
遥見飛塵入建章 遥かに見る 飛塵の建章に入るを
【語釈】
○青樓曲…楽府題。高貴な女性の住む美しい高殿を詠った詩。○武皇…漢の武帝。○旌旗…旗さし物。○十万…十万の将士。○長楊…長楊宮。もと秦の離宮で、漢代に修理された。陝西省周至の東南にあった。○建章…建章宮。漢の宮殿。長安の西にあった。
(参考文献) 『唐詩選』
★ 青樓楼曲二首 其二 青楼曲二首 其二
金章紫綬千餘騎 金章紫綬 千余騎
夫壻朝回初拜侯 夫壻 朝より回りて 初めて侯に拝せらる
【語釈】
○青楼曲…楽府題。高貴な女性の住む美しい高殿を詠った詩。○馳道…天子が通る道。○楊花…柳絮。○御溝…宮城の堀。○紅妝…化粧した美人。○縵綰…髪を緩やかに結ぶ。○青楼…高貴な女性の住む美しい高殿。○金章紫綬…金印と紫色の綬。○夫壻…夫。○朝回…朝廷より退出する。
★ 青樓怨 青楼怨
香幃風動花入樓 香幃 風動かして 花 楼に入る
高調鳴箏緩夜愁 高調
箏を鳴して 夜愁を緩うす
腸斷關山不解說 腸 断えて 関山 説くを解せず
【語釈】
○青樓怨…美しい高殿に住む高貴な女性の怨みを詠った詩。○香幃…香り高く色鮮やかなとばり。○高調…格調の高いこと。○關山…関所のある山。国境の山。○依依…未練のあるさま。○簾鉤…すだれを捲き上げて懸ける鈎。
★ 浣紗女 浣紗の女
錢塘江邊是誰家 銭塘江辺 是れ誰が家ぞ
江上女兒全勝花 江上の女児
全く 花に勝る
吳王在時不得出 呉王 在る時 出ずることを得ず
今日公然來浣紗 今日 公然と 浣紗に来る
【語釈】
○浣紗…西施が薄絹を洗っていた所。○錢塘江…浙江の杭州市より河流の部分。○江上…川のほとり。○呉王…呉王夫差。
★ 閨怨 閨怨
閨中少婦不知愁 閨中の少婦 愁を知らず
春日凝妝上翠樓 春日
妝を凝らして 翠楼に上る
忽見陌頭楊柳色 忽ち見る
陌頭 楊柳の色
悔教夫壻覓封侯 悔ゆらくは
夫壻をして 封侯を覓めしめしを
【語釈】
○閨怨…妻が夫と別れてることの怨みを述べた詩。○少婦…若い妻。○翠樓… 美しい楼。○忽…ふと。○陌頭…道のほとり。○夫壻…夫。○封侯…(手柄を立てて)諸侯に封じられること。
(参考文献) 『唐詩選』
★
甘泉歌 甘泉歌
乘輿執玉已登壇 乗輿
玉を執りて 已に登壇す
細草霑衣春殿寒 細草
衣を霑して 春殿寒し
昨夜雲生拜初月 昨夜
雲生じて 初月を拝す
萬年甘露水晶盤 万年の甘露
水晶盤
【語釈】
○甘泉歌…秦の時代の民謡に倣って作った歌。○乘輿…天子の車馬。○初月…三日月。○甘露…甘美な露。○水晶盤…精美な盤。
★ 蕭駙馬宅花燭 蕭駙馬宅の花燭
青鸞飛入合歡宮 青鸞 飛び入る 合歓宮
紫鳳銜花出禁中 紫鳳 花を銜えて 禁中を出ず
可憐今夜千門裏 憐われむべし
今夜 千門の裏
銀漢星回一道通 銀漢
星 回りて 一道通ず
【語釈】
○蕭駙馬…不詳。○青鸞…青いおおとり。○合歡宮…未央宮の別名。宮中の宮殿。○紫鳳…伝説中の神鳥。○禁中…宮城。○可憐…感嘆の言葉。ああ。○銀漢…銀河。
角鷹初下秋草稀 角鷹 初めて下り 秋草稀なり
鐵驄拋鞚去如飛 鉄驄 鞚を拋ちて 去ること飛ぶが如し
少年獵得平原兔 少年
猟り得たり 平原の兔
馬後捎意氣歸 馬後に横たえて
意気を捎って帰る
【語釈】
○角鷹…鷹の別名。○鐵驄…青黒ずんだ毛色の馬。
★ 寄穆侍御出幽州 穆侍御の幽州に出ずるに寄す
一從恩譴度瀟湘 一たび 恩譴に従って 瀟湘を度る
塞北江南萬里長 塞北
江南 万里長し
莫道薊門書信少 道う莫かれ 薊門 書信少なりと
鴈飛猶得到衡陽 鴈飛んで 猶お 衡陽に到るを得ん
【語釈】
○穆侍御…穆寧。懷州(湖南省の州)の人。明経科に合格し、塩鉄運転使等を経て秘書監に至った。○幽州…北京市市轄区房山区。○恩譴…恩と責め。○瀟湘…瀟水と湘水が流れる洞庭湖の南の地方。○薊門…河北省北平市コ勝門。○衡陽…湖南省衡陽市。南に回雁峰があり、雁はこれを越えることができないとされていた。
★ 寄陶副使 陶副使に寄す
聞道將軍破海門 聞道く 将軍 海門を破ると
如何遠謫渡湘沅 如何ぞ 遠謫 湘沅を渡らんや
春來明主封西嶽 春来 明主 西岳に封ず
自有還君紫綬恩 自ら 君に還す有らん 紫綬の恩
【語釈】
○陶副使…不詳。○聞道…聞くところによれば。○海門…不確定。○如何…どうして。反語。○遠謫…遠方に左遷されること。○湘沅…湖南省にある湘江と沅江。○春来…春になってから。○明主…賢明な君主。○西嶽…陝西省華陰市にある華山の別名。○封…封禅を行う。○紫綬…紫色の印綬の紐。高官用。
★ 至南陵答皇甫岳 南陵に至り皇甫岳に答う
與君同病復漂淪 君と病を同じくして 復た漂淪す
昨夜宣城別故人 昨夜 宣城 故人に別る
明主恩深非歲久 明主 恩深きこと 歳久しきに非ず
長江還共五谿濱 長江 還た共にす 五谿の浜
【語釈】
○南陵…安徽省繁昌県。○皇甫岳…不詳。○漂淪…衰え落ちぶれる。○宣城…安徽省宣城市。○故人…古くからの友人。○明主…賢明な君主。○五谿…安徽省池州市五溪。
★ 西江寄越弟
西江より越弟に寄す
南浦逢君嶺外還 南浦
君が 嶺外より還るに逢う
沅谿更遠洞庭山 沅谿 更に遠し 洞庭の山
堯時恩澤如春雨 尭時の恩沢 春雨の如し
夢裏相逢同入關 夢裏に 相逢いて 同に関に入る
【語釈】
○西江…地名。不確定。○南浦…湖北省武漢市南浦。○沅谿…川の名、沅水ともいう。○堯時…堯帝の時。○恩澤…天子の恵み。
★ 李四倉曹宅夜飲 李四倉曹宅にて夜飲す
銀燭金爐夜不寒 銀燭
金炉 夜 寒からず
欲問吳江別來意 問わんと欲す
呉江 別来の意
青山明月夢中看 青山 明月 夢中に看る
【語釈】
○李四倉曹…不詳。○霜天…厳寒の気候。○故情…旧情。○銀燭…明るい燭。○金爐…金の香炉。○吳江…呉淞江。太湖から海に出る最も大きな河川。○別來…別れて以来。
★ 宴春源 春源に宴す
源向春城花幾重 源は
春城に向って 花 幾重
江明深翠引諸峯 江
明かにして 深翠 諸峰を引く
與君醉失松溪路 君と
酔いて失う 松渓の路
山館寥寥傳暝鐘 山館 寥々 暝鐘を伝う
【語釈】
○春城…春の街。○深翠…深い青緑。○松渓…松が生えている渓。○寥寥…寂しく静かなさま。○暝鐘…日暮れの鐘。
★
龍標野宴 龍標野宴
沅溪夏晚足涼風 沅溪 夏晚 涼風足る
春酒相攜就竹叢 春酒 相携えて竹叢に就く
青山明月不曾空 青山 明月 曽て空しからず
【語釈】
○龍標…湖南省黔阳県。王昌齢が謫されたところ。○沅溪…川の名、沅水ともいう。○春酒…春に醸した酒。○竹叢…たけやぶ。○絃歌…音楽と歌。○遠謫…遠くに左遷されること。
★聽流人水調子 流人の水調子を聴く
孤舟微月對楓林 孤舟
微月 楓林に対す
分付鳴箏與客心 鳴箏を分付して 客心に与う
嶺色千重萬重雨 嶺色
千重 万重の雨
斷絃收與淚痕深 断絃
涙痕を収与して深し
【語釈】
○水調子…水調歌。楽曲の一種。○微月…新月。○分付…分け与える。○鳴箏…琴をかき鳴らす音。○斷絃…切れた琴の糸。○収与…収め与える。
★ 梁苑 梁苑
梁園秋竹古時烟 梁園の秋竹 古時の烟
城外風ゆめ悲欲暮天 城外
風は悲し 暮んと欲する天
萬乘旌旗何處在 万乗の旌旗
何れの処にか在る
平臺賓客有誰憐 平台の賓客
誰れ有ってか 憐まん
【語釈】
梁苑…梁園。漢の文帝の子、梁の孝王が遊宴のために築いた庭園。河南省開封市付近にあった。○烟…もや・かすみ。○万乗…天子の乗物。○旌旗…旗さしもの。○平台…梁の孝王が作った高台。○賓客…司馬相如・枚乗などの文士。
(参考文献) 『唐詩選』
★ 武陵龍興觀黃道士房問易因題
武陵の竜興観にて黄道士の房に易を問う
因りて題す
齋心問易太陽宮 心を斉えて易を問う 太陽宮
八卦真形一氣中 八卦の真形 一気の中
仙老言餘鶴飛去 仙老
余に言う 鶴 飛び去ると
玉清壇上雨濛濛 玉清壇上 雨 濛々
【語釈】
○武陵…湖南省常コ市内の地名。○龍興觀…不詳。○黃道士…不詳。○太陽宮…不詳。○八卦…易での八種の卦。○真形…真実の形象、形態。○玉清…道教の三境のうちの一つ。○濛濛…霧や小雨で煙っているさま。
★ 送魏二 魏二を送る
醉別江樓橘柚香 酔いて
江楼に別るれば 橘柚香し
江風引雨入舟涼 江風
雨を引いて 舟に入りて涼し
憶君遙在瀟湘月 憶う
君が遥かに 瀟湘の月に在りて
愁聽清猿夢裏長 愁い聴く清猿の
夢裏に長からんことを
【語釈】
○魏二…不詳。二は排行。○江樓…川辺の楼。○橘柚…タチバナとユズ。○瀟湘…瀟水と湘水が流れる洞庭湖の南側の地方。
★ 別李浦之京 李浦の京に之くに別る
故園今在灞陵西 故園
今 灞陵の西に在り
江畔逢君醉不迷 江畔
君に逢いて 酔いて迷わず
小弟鄰莊尚漁獵 小弟は
隣荘に 尚お漁猟す
一封書寄數行啼 一封の書は寄す
数行の啼
【語釈】
○李浦…右拾遺となったこと以外不明。○故園…故郷。○灞陵…長安の東方の地名。○小弟…自分のこと。へりくだった言葉。○啼…声に出して泣く。
★ 送薛大赴安陸 薛大の安陸に赴くを送る
津頭雲雨暗湘山 津頭の雲雨 湘山暗し
遷客離憂楚地顏 遷客 憂いに離る 楚地の顔
遙送扁舟安陸郡 遥かに送る
扁舟 安陸郡
天邊何處穆陵關 天辺
何れの処か 穆陵関
【語釈】
○薛大…薛は姓。大は排行第一番目。人物は不詳。○安陸…湖北省安陸県。○津頭…渡し場のほとり。○湘山…洞庭湖の中にある山。別名君山。○遷客…左遷されて流れてきた人。王昌齢自身。○離憂…憂いにあうこと。屈原の故事による。『楚辞』九歌、山鬼参照。○楚地…楚の国の人。○楚地顏…漁父の辞」に「顔色憔悴し、形容枯槁す」とあるのをふまえる。○扁舟…小舟。○穆陵関…関所の名。安陸県の東北にあった。
(参考文献) 『唐詩選』
★ 芙蓉樓送辛漸二首 其一 芙蓉楼にて辛漸を送る二首 其一
寒雨連江夜入呉 寒雨
江に連って 夜 呉に入る
平明送客楚山孤 平明 客を送れば 楚山孤なり
洛陽親友如相問 洛陽の親友
如し相問わば
一片冰心在玉壺 一片の氷心
玉壺に在り
【語釈】
○芙蓉楼…現在の江蘇省鎮江の西北隅にあった高楼。○辛漸…王昌齢の友人。人物については不明。○連江…冷たい雨が揚子江の上に降りしきり、雨と揚子江の水面との境い目がはっきりしない様子。○呉…蘇州や鎮江あたりの地。江蘇省東南部の総称。○平明…夜明けがた。○客…旅人。辛漸を指す。○楚山…鎮江の北、揚子江対岸の山。○冰心…氷のように清く澄み切った心。○玉壺…白玉で作った美しい壺。
(参考文献) 『唐詩選』
丹陽城南秋海陰 丹陽城南 秋海陰く
丹陽城北楚雲深 丹陽城北 楚雲深し
高樓送客不能醉 高楼に
客を送りて 能く酔わず
寂寂寒江明月心 寂々たる寒江 明月の心
【語釈】
○丹陽城…湖北省宜昌市丹陽城。○秋海…秋の湖。○楚雲…楚(湖南省、湖北省)の地の雲。○寂寂…もの寂しく静かなさま。○寒江…寒々とした長江。
★ 重別李評事 重ねて李評事に別る
莫道秋江離別難 道う莫かれ 秋江 離別難しと
舟船明日是長安 舟船
明日 是れ長安
呉姬緩舞留君醉 呉姫 緩舞して 君を留めて酔わしむ
隨意青楓白露寒 随意なれ 青楓白露の寒
【語釈】
○李評事…不詳。○呉姫…呉(浙江省)の妓女。美人が多い。○随意…ままよ。放っておく。○白露…秋の初めに降りる霜。
(参考文献) 『唐詩選』
南越歸人夢海樓 南越の帰人 海楼を夢む
廣陵新月海亭秋 広陵の新月
海亭の秋
寶刀留贈長相憶 宝刀 留めて贈り 長に相憶う
當取戈船萬戸侯 当に 戈船 万戸侯を取るべし
【語釈】
○陶副使…不詳。○南海…広東省広州市南海。○南越…広東省、広西チワン族自治区、ベトナム地方。○海樓…蜃気楼。○廣陵…江蘇省揚州市広陵区。○海亭…海に臨んだ亭。○相憶…憶う。相は動作が相手に及ぶことを示す。○戈船…戦闘用の船。
★ 送人歸江夏 人の江夏に帰るを送る
寒江告楚雲深 寒江の緑水
楚雲深し
莫道離憂遷遠心 道う莫かれ 離憂 遷遠の心
曉夕雙帆歸鄂渚 暁夕 双帆 鄂渚に帰り
愁將孤月夢中尋 孤月を愁い将ちて 夢中に尋ぬ
【語釈】
○江夏…湖北省武漢市武昌区。○楚雲…湖北省、湖南省辺りの雲。○離憂…別離を憂う心。○遷遠…遠くに遷ること。○曉夕…朝な夕な。○鄂渚…湖北省武漢市武昌区の長江中にあった中洲。
★ 送李五 李五を送る
玉盌金罍傾送君 玉盌 金罍 傾けて君を送る
江西日入起黃雲 江西
日 入りて 黄雲起る
扁舟乘月暫來去 扁舟
月に乗じて 暫く来去す
誰道滄浪吳楚分 誰か道う 滄浪 呉楚分ると
【語釈】
○李五…不詳。五は排行。○玉盌…玉製の碗。○金罍…金製の酒樽。○江西…江西省。○扁舟…小舟。○滄浪…漢水。陝西省の漢中市寧強県の嶓冢山を水源とし、東に流れ湖北省に入り、武漢市で長江に合流する。○呉楚…呉の地方(江蘇省蘇州一帯)と楚の地方(湖北省、湖南省一帯)。
★ 留別郭八 郭八に留別す
長亭駐馬未能前 長亭
馬を駐め 未だ能く前まず
醉別何須更惆悵 酔別 何ぞ須いん 更に惆悵するを
回頭不語但垂鞭 頭を回らして 語らず 但だ鞭を垂る
【語釈】
○郭八…不詳。八は排行。○長亭…十里毎に置かれた宿場町。○井邑…郷村。○蒼茫…青々として広いさま。○暮煙…夕もや。○惆悵…嘆き悲しむ。○回頭…振り返る。
★ 送竇七 竇七を送る
清江月色傍林秋 清江の月色 傍林の秋
波上熒熒望一舟 波上 熒々 一舟を望む
江邊明月爲君留 江辺の明月
君が為に留まる
【語釈】
○竇七…不詳。七は排行。○傍林…林の側。○熒熒…光り輝くさま。○鄂渚…湖北省武漢市武昌区の長江中にあった中洲。○輕帆…小型の帆掛け船。○須…「すべからく〜すべし」と読み、「〜するのが良い」の意。
★
巴陵送李十二 巴陵にて李十二を送る
搖曳巴陵洲渚分 揺曳す 巴陵 洲渚の分れ
清江傳語便風聞 清江
伝語す 便ち風聞
山長不見秋城色 山長くして
見えず 秋城の色
日暮蒹葭空水雲 日暮 蒹葭 水雲に空し
【語釈】
○巴陵…湖南省岳暘市の地名。○李十二…不詳。十二は排行。○搖曳…遙かに遠く離れるさま。○洲渚…水上生活をする地方。○傳語…言葉を伝える。○風聞…風の便りに聞くうわさ。○秋城…秋の街。○蒹葭…オギとヨシ。○水雲…水と雲が接するところ。
★ 送裴圖南 裴図南を送る
盛唐 · 王昌齡
黃河渡頭歸問津 黄河 渡頭 帰って津を問う
離家幾日茱萸新 家を離れて
幾日か 茱萸新たなる
漫道閨中飛破鏡 漫に道う 閨中 破鏡飛ぶと
猶看陌上別行人 猶お看る
陌上 行人に別るるを
【語釈】
○裴図南…不詳。○渡頭…渡し場。○津…渡し口。○茱萸…重陽の節句に頭に挿して邪気を払う植物。○閨中…女性の寝室。○飛破鏡…夫婦仲が裂かれること。○陌上…大通りの上。○行人…旅人。
★ 留別司馬太守 司馬太守に留別す 盛唐 · 王昌齡
辰陽太守念王孫 辰陽の太守 王孫を念う
遠謫沅谿何可論 沅谿に遠謫され 何ぞ論ずべき
黃鶴青雲當一舉 黄鶴
青雲 当に一挙すべし
明珠吐著報君恩 明珠
吐著して 君が恩に報ぜん
【語釈】
○司馬太守…不詳。○辰陽…湖南省懷化市辰溪県。○王孫…貴族の子弟。○遠謫…遠い地方に左遷されること。○沅谿…湖南省懷化市辰溪県。○當…「まさに〜すべし」と読み「かならず〜べきである」の意。○明珠吐著…感謝の気持ちを持ち続け、恩を返すこと。傷ついたIを養って話したら、Iが恩返しに珠を持ってきてくれたという伝説(捜神記)に基づく。
★
盧溪別人 盧渓にて人に別る
武陵溪口駐扁舟 武陵渓口 扁舟 駐まる
溪水隨君向北流 渓水
君に随って 北に向って流る
行到荊門上三峽 行きて
荊門に到って 三峡を上らば
莫將孤月對猿愁 孤月を将って 猿愁に対する莫かれ
【語釈】
○盧渓 … 湖南省懷化市沅陵県にある渓。○武陵渓… 盧渓に同じ。○扁舟…小舟。○荊門…山名。湖北省宜都県の西北、揚子江の南岸にある。○三峡…長江上流にある三つの峡谷。孤月 … ものさびしく輝く月。○將…ともに。○猿愁…猿の悲しい鳴き声。
(参考文献) 『唐詩選』
★
送程六 程六を送る
冬夜傷離在五溪 冬夜 傷離 五渓に在り
青魚雪落鱠橙虀 青魚 雪落ちて 橙虀を鱠にす
武岡前路看斜月 武岡の前路
斜月を看る
片片舟中雲向西 片々として
舟中 雲 西に向う
【語釈】
○程六…不詳。六は排行。○傷離…別れを傷む。○五溪…湖南省懷化市五溪。○青魚…鯖類の魚。○橙虀…橙とニラ。○武岡…湖南省邵陽市武岡市。
★ 送朱越 朱越を送る
遠別舟中蔣山暮 遠く舟中に別る
蔣山の暮
君行舉首燕城路 君
行きて 首を挙ぐ 燕城の路
薊門秋月隱黃雲 薊門の秋月 黄雲に隠る
期向金陵醉江樹 期して
金陵に向って 江樹に酔う
【語釈】
○朱越…不詳。○蔣山…南京の玄武区にある紫金山。鐘山ともいう。○燕城…北京の街。○薊門…河北省北平市コ勝門外の地名。○金陵…南京。
★ 別辛漸 辛漸に別る
別館蕭條風雨寒 別館
蕭条として 風雨寒し
扁舟月色渡江看 扁舟 月色 江を渡って看る
酒酣不識關西道 酒 酣にして 識らず 関西の道
却望春江雲尚殘 却って
春江を望めば 雲 尚お残る
【語釈】
○辛漸…王昌齢の友人。人物については不明。○別館…送別の宴を催す館。○蕭條…もの寂しいさま。○扁舟…小舟。○關西…函谷関の西。陝西省。○却…振り返って。○春江…春の長江。
★ 送柴侍御 柴侍御を送る
流水通波接武岡 流水
波に通じて 武岡に接す
送君不覺有離傷 君を送りて 覚えず 離傷有るを
山一道同雲雨 青山
一道 雲雨を同じくす
明月何曾是兩鄉 明月 何ぞ曽て 是れ両鄉ならん
【語釈】
○柴侍御…不詳。○武岡…湖南省邵陽市武岡市。○離傷…別離の悲しみ。
★ 送萬大歸長沙 万大の長沙に帰るを送る
桂陽秋水長沙縣 桂陽の秋水 長沙の県
楚竹離聲爲君變 楚竹 離声 君の為に変ず
青山隱隱孤舟微 青山 隠々 孤舟微なり
白鶴雙飛忽相見 白鶴
双び飛んで 忽ち相見る
【語釈】
○萬大…不詳。大は排行。○長沙…湖南省長沙市。○桂陽…広東省清遠市連州市。○楚竹…瀟妃竹。斑竹。○隱隱…かすかで明らかでないさま。
沅江流水到辰陽 沅江の流水
辰陽に到る
谿口逢君驛路長 谿口
君に逢いて 駅路長し
遠謫誰知望雷雨 遠謫
誰か知らん 雷雨を望むを
明年春水共還郷 明年
春水 共に郷に還らん
【語釈】
○吳十九…不詳。十九は排行。○沅陵…湖南省懷化市沅陵鎮。○沅江…洞庭湖に注ぐ長江右岸の支流。○辰陽…湖南省懷化市辰溪県。○駅路…宿場街をつなぐ主道路。○遠謫…遠くに左遷されること。
★ 別皇甫五 皇甫五に別る
漵浦潭陽隔楚山 漵浦 潭陽 楚山を隔つ
離尊不用起愁顏 離尊 用いず
愁顔を起すを
天澤俱從此路還 天沢
俱に 此の路従り還らん
【語釈】
○皇甫五…不詳。五は排行。○漵浦…湖南漵浦県盧峰鎮。○潭陽…湖南芷江侗族自治県。○離尊…別れの宴席。○明祠…神を祭る祠。○靈響…神異の声の響き。○昭應…明らかに答える。○天澤…皇帝の恩沢。
★
送崔參軍往龍溪 崔参軍の竜渓に往くを送る
龍溪只在龍標上 竜渓 只だ 竜標の上に在り
秋月孤山兩相向 秋月
孤山 両ながら相向う
譴謫離心是丈夫 譴謫 離心 是れ丈夫
鴻恩共待春江漲 鴻恩 共に待たん
春江に漲るを
【語釈】
○送崔參…不詳。○龍溪…湖南省懷化市新晃県。○龍標…湖南省黔陽縣安城鎮西南黔陽鎮。○譴謫…地方に左遷されること。○離心…志に違うこと。○鴻恩…皇帝の恵み。
★ 送鄭判官 鄭判官を送る
東楚吳山驛樹微 東楚 呉山 駅樹微なり
軺車銜命奉恩輝 軺車 命を銜んで 恩輝を奉ず
英僚攜出新豐酒 英僚 携え出だす 新豊の酒
半道遙看驄馬歸 半道
遥かに看る 驄馬の帰るを
【語釈】
○鄭判官…不詳。○東楚…江蘇省淮安市。○吳山…呉(湖南省、湖北省地方)の山。○驛樹…宿場町の樹。○軺車…軽便な馬車。○恩輝…恵みの光。○英僚…賢能な僚友。○新豐酒…新豊県(広東省韶関市)産の美酒。(「「新豐美酒斗十千」王維」。○半道…中路。○驄馬…あおうま。あしげ。
★ 送姚司法歸呉 姚司法の呉に帰るを送る
呉掾留觴楚郡心 呉掾 觴を留む 楚郡の心
洞庭秋雨海門陰 洞庭の秋雨 海門陰る
但令意遠扁舟近 但だ
意遠く 扁舟をして近からしめば
不道滄江百丈深 道わず 滄江 百丈深しと
【語釈】
○姚司法…不詳。○呉…江蘇省蘇州市の下級役人。○觴…杯。○江蘇省徐州市。○洞庭…洞庭湖。○海門…江蘇省東部の県名。○滄江…深い緑色の長江。
★ 送高三之桂林 高三の桂林に之くを送る
留君夜飲對瀟湘 君を留めて
夜飲し 瀟湘に対す
從此歸舟客夢長 此従り 帰舟 客夢長し
嶺上梅花侵雪暗 嶺上の梅花
雪を侵して暗し
歸時還拂桂花香 帰時
還た払わん 桂花の香しきを
【語釈】
○高三…不詳。三は排行。○桂林…広西來賓市象州県。○瀟湘…瀟水と湘水が流れる洞庭湖南の地方。○客夢…旅先で見る夢。
★ 題朱鍊師山房 朱錬師の山房に題す
叩齒焚香出世塵 叩歯し
香を焚いて 世塵を出ず
齋壇鳴磬步虛人 斎壇に磬を鳴らす 歩虚の人
百花仙醞能留客 百花 仙醞 能く客を留む
一飯胡麻度幾春 一飯の胡麻
幾春を度る
【語釈】
○朱錬師…不詳。○叩歯…上下の歯を強くかみ合わせる。養生法の一つ。○世塵…俗世間。○齋壇…道士が経を唱え神を祭る壇。○磬…への字型の打楽器。○步虛人…仙人。○仙醞…仙人がかもした酒。
★ 春怨 春怨
音書杜絶白狼西 音書 杜絶す 白狼の西
桃李無顏黃鳥啼 桃李 顔無く 黄鳥啼く
寒雁春深歸去盡 寒雁
春深くして 帰り去りて尽き
出門腸斷草萋萋 門を出ずれば
腸断 草 萋々
【語釈】
○春怨…春の日の愁いの心。○音書…書信。○杜絶…絶える。○白狼…大凌河遼寧省の西部を流れる大きな河川。「白狼河北音書斷」沈佺期。○黃鳥…コウライウグイス。○萋萋…草木が盛んに生い茂っているさま。
○ 上馬當山神 馬当山に上る神
青驄一匹崑崙牽 青驄 一匹 崑崙に牽く
奏上大王不取錢 大王に奏上して
銭を取らず
直爲猛風波滾驟 直ちに猛風と為り 波滾 驟なり
莫怪昌齡不下船 怪しむ莫れ
昌齢 船を下らざるを
【語釈】
○馬當山…安徽省池州市馬當山。○青驄…あおうま。あしげ。○崑崙…中国古代の伝説上の山岳。中国の西方に位置し、西王母が住んでいるとされる。○大王…君主。○波滾…浪立ちさわぐこと。○昌齡…王昌齢。
★
出塞行 出塞行
白草原頭望京師 白草原頭 京師を望めば
黄河水流無盡時 黄河
水 流れて 尽くる時無し
秋天曠野行人絶 秋天 広野 行人絶ゆ
馬首東來知是誰 馬首 東来するは 知る是れ誰そ
【語釈】
○出塞行…楽府題。塞を出ていく時の歌。○白草原…白草の生い茂る原野。白草とは乾燥するとまっ白になり、牛馬のえさになるという草。○京師…みやこ。ここでは長安を指す。○行人…旅人。道行く人。○東来…東に向かってやってくる。○知…分からない。
(参考文献) 『唐詩選』